(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】内装用衝撃吸収構造
(51)【国際特許分類】
B61D 17/18 20060101AFI20220404BHJP
B61D 33/00 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B61D17/18
B61D33/00 Z
(21)【出願番号】P 2017226494
(22)【出願日】2017-11-27
【審査請求日】2020-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594002439
【氏名又は名称】小田急電鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 直茂
(72)【発明者】
【氏名】松下 陽士
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-153666(JP,U)
【文献】特開2015-215249(JP,A)
【文献】特開2010-221729(JP,A)
【文献】特開2015-063269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/18
B61D 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行方向前面に展望構造を有した鉄道車両に備えられる内装用衝撃吸収構造において、
前記鉄道車両の座席の前面に設けられる構造材と、
前記構造材の外表面を覆う衝撃吸収板部材と、
を備え、
前記構造材は、縦骨と横骨よりなり、
前記
縦骨が、前記座席に着席する乗客の正面を避けて配置され、
前記衝撃吸収板部材は、前記乗客の正面に対面して前記乗客の膝部分の前に配置される立面部分と、該立面部分と曲面部を介して接続される平面部分を備えること、
を特徴とする内装用衝撃吸収構造。
【請求項2】
請求項1に記載の内装用衝撃吸収構造において、
前記構造材のうち前記横骨は
、前記縦骨より乗客側から見て奥に配置されること、
を特徴とする内装用衝撃吸収構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の展望車両における内装パネルに関し、具体的には衝突時に緩衝機能を発揮する内装用衝撃吸収構造の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行中に線路上の障害物と衝突をすると、車体に衝撃加速度が生じる。乗客は、車体に生じた衝撃によって客室内で車両進行方向へ移動し、車内装備又は他の乗客と衝突する2次衝突と呼ばれる現象により被害を受ける可能性が指摘されている。しかしながら、鉄道車両の運行の特殊性から、座席に座る乗客にシートベルトのような安全設備を備える事に馴染まず、別の対策が求められている。
【0003】
特許文献1には、鉄道車両の衝突安全評価方法に関する技術が開示されている。特許文献2には、袖仕切り板の取り付け方法についての技術が開示されている。特許文献1に示される様に2次衝突による乗客の被害軽減についての技術は求められているが、特許文献2に示すように、ロングシートのサイドに設ける袖仕切り板を工夫するような技術は検討されているものの、クロスシートに対する技術はあまり検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-215249号公報
【文献】特開2012-180029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、クロスシートに座る乗客に対しても、2次衝突による乗客被害の低減が求められる。特に、鉄道車両の先頭に配置されて乗客が景色を楽しむためのガラス面を前方に備えた展望車両のような構成の場合、進行方向最前列のクロスシートでは。前面に乗客を保護する機構を配置する事が難しい。例えば、2次衝突の対策としては、ゴム等発泡素材を用いた緩衝材を乗客の前面にある構造物の表面に施すことも考えられる。ただ、発泡素材は経年劣化により比較的早期に交換が必要になる点と、デザイン上の制約が生じる事もある点を考えると、利用しにくい側面がある。
【0006】
そこで、本発明はこの様な課題を解決する為に、2次衝突時に発生するダメージを抑える事ができる内装用衝撃吸収構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による内装用衝撃吸収構造は、以下のような特徴を有する。
【0008】
(1)進行方向前面に展望構造を有した鉄道車両に備えられる内装用衝撃吸収構造において、前記鉄道車両の座席の前面に設けられる構造材と、前記構造材の外表面を覆う衝撃吸収板部材と、を備え、前記構造材は、前記座席に着席する乗客の正面を避けて配置され、前記衝撃吸収板部材は、前記乗客の正面に対面して前記乗客の膝部分の前に配置される立面部分と、該立面部分と曲面部を介して接続される平面部分を備えること、を特徴とする。
【0009】
上記(1)に記載の態様によって、鉄道車両内における2次衝突によって乗客に生じる被害を低減することが可能となる。これは、座席に座っている乗客が衝撃吸収板部材にぶつかった際に、衝撃吸収板部材を支える構造材が乗客の正面を避けて配置され、衝撃吸収板部材が曲げ加工によって、衝突時の衝撃を和らげる構造となっている事から、2次衝突が生じた時の乗客への被害を抑える事が可能となる。
【0010】
具体的には、衝突吸収板部材が曲面部を有する構造、例えば曲げ構造とされ、立面と平面が設けられている。2次衝突時の乗客の挙動をシミュレーションすると、立面部分には乗客の膝部分が当接し、平面部分には乗客の頭部が当接することになる。衝撃吸収板部材は、曲面部を有することで衝撃吸収板部材の剛性を上げる一方で、乗客がぶつかる部分は面で構成されており、更にこの衝撃吸収板部材を支える構造材の位置を乗客の正面を避けて配置する事で、乗客に生じるダメージを軽減することが期待できる。
【0011】
(2)(1)に記載の内装用衝撃吸収構造において、前記構造材は、縦骨と横骨よりなり、前記縦骨が、前記乗客の正面を避けて配置され、前記横骨は前記縦骨より乗客側から見て奥に配置されること、が好ましい。
【0012】
上記(2)に記載の態様により、縦骨を乗客の正面から避けて左右に配置し、横骨は乗客側から見て奥に配置される構造になっている。このことで、衝撃吸収板部材の立面部分及び平面部分の裏側には空間が確保されることとなる。この結果、反力値のピークを下げることができ、乗客に生じるダメージを軽減することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】本実施形態の、外板についての斜視図である。
【
図4】本実施形態の、乗客とシート及び前部構造体との関係を示した斜視図である。
【
図5】本実施形態の、乗客が外部からの衝撃により前部構造体側に移動した様子を示した斜視図である。
【
図6】本実施形態の、乗客の頭部が前部構造体と接触した様子を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の第1の実施形態について、図面を用いて説明を行う。
図1に、本実施形態の、車両10の側面断面図を示す。
図2に前部構造体の斜視図を示す。車両10は展望車両であり、進行方向の前方には展望部分13が、上方には屋根構体11、後方には妻構体12が設けられている。車両10の床板21の上には複数の座席22が配置されており、この座席22は鉄道車両の進行方向と交差する方向に並んで着席する、いわゆるクロスシートと呼ばれるものである。
【0015】
展望部分13に設けられる座席22のうち、先頭座席22aの前には、
図2に示すような内装パネルの貼られた前部構造体100が設けられている。前部構造体100は、構造材であるフレーム部110と衝撃吸収板部材である外板150を備えている。フレーム部110は複数の縦骨111と、縦骨111の上端を繋ぐ上骨112と、中央辺りを繋ぐ横骨114よりなる。横骨114は縦骨111の後ろ側、つまり乗客より遠い側に配置されている。
【0016】
図3に外板についての斜視図を示す。外板150は、平面部分151と立面部分152よりなり、金属製の板材を曲げ加工することによって形成されている。外板150は
図3に示すように、外周部分を取付ビス155によって固定されている。よって、平面部分151と立面部分152の裏側には空間が設けられている。なお、
図3では立面部分152は床板21に対して垂直に、平面部分151は床板21に対して平行に設けられているよう描かれているが、必要に応じて多少の角度を付ける事を妨げない。
【0017】
本実施形態の内装用衝撃吸収構造は上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0018】
まず、本実施形態の内装用衝撃吸収構造である前部構造体100を用いる事で、鉄道車両に乗車している乗客200の2次衝突による被害を低減することが可能となる。これは、進行方向前面に展望構造を有した車両10に備えられる内装用衝撃吸収構造において、車両10の座席の前面に設けられる構造材であるフレーム部110と、フレーム部110の外表面を覆う衝撃吸収板部材である外板150と、を備え、フレーム部110は、座席22に着席する乗客200の正面を避けて配置され、外板150は、乗客200の正面に対面して乗客200の膝部分の前に配置される立面部分152と、立面部分152から曲げ加工部を介して接続される平面部分151を備えること、を特徴とするからである。
【0019】
図4に、乗客とシート及び前部構造体との関係を斜視図として示す。
図5に、乗客が外部からの衝撃により前部構造体側に移動した様子を斜視図として示す。
図6に、乗客の頭部が前部構造体と接触した様子を斜視図として示す。なお、説明の都合上、座席22には乗客200が一人で腰掛けている様子を示している。
図4乃至
図6に示される様に、乗客200に対して縦骨111は左右に避ける様に配置されている。このため、
図5に示すように乗客200が、車両10が1次衝突をした衝撃で外板150の立面部分152に衝突した場合、乗客200の膝部分が立面部分152に当接した際に、外板150が弾性変形又は塑性変形した場合でもフレーム部110が乗客200に干渉しない位置に配置されるように配慮される。
【0020】
立面部分152の後ろ側は空間が確保されているため、2次衝突が生じた場合でも、反力値のピークは抑えることが可能な構造となる。このため、乗客200に対するダメージを軽減出来る。また、
図6に示される様に、乗客200の頭部が前部構造体100に干渉する場合、乗客200の頭部は平面部分151が当接する様に設計され、やはり縦骨111が避けられていることで、反力値のピークが抑えられる。この際に、横骨114は縦骨111より奥に配置される構造であることから、前部構造体100の強度を保ちつつ、乗客200への2次衝突によって生じるダメージの低減を図ることができる。
【0021】
そして、平面部分151と立面部分152が曲げ部153を介している構造、つまり外板150が板材を曲げ加工して作られる構造であり、その周囲を取付ビス155によって保持される形になっていることで、外板150に厚みの薄い鋼材またはアルミニウム合金などの金属部材を使った場合にも、前部構造体100の平面部分151にカバンなどの荷物を載せられるだけの剛性を確保することができる。取付ビス155の取り付けピッチ、或いは、配置などによっても反力値のピークを低減できるため、工夫の余地がある。本実施例では、1枚の外板150に対して、縦骨111は3箇所で支え、取付ビス155は外板150の外周にて保持する構造となっている。つまり真ん中に配置される縦骨111には取付ビス155を配置していない。こうすることで、より反力値のピークを下げることが可能となる。
【0022】
以上、本発明に係る内装用衝撃吸収構造を説明したが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、本実施形態ではフレーム部110の形状を明示しているが、基本的には乗客200の正面を避けて配置されれば良く、他の形状を採用することを妨げない。また、外板150は板材を曲げ加工したものに限定されず、金属の押出材や、樹脂成形品を採用することも可能である。構造的に曲面部を有することで剛性を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0023】
10 車両
11 屋根構体
12 妻構体
21 床板
22 座席
100 前部構造体
110 フレーム部
111 縦骨
112 上骨
114 横骨
150 外板
151 平面部分
152 立面部分
155 取付ビス