IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ MUアイオニックソリューションズ株式会社の特許一覧

特許7051422非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイス
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20220404BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220404BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20220404BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01G11/64
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017246230
(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2019114391
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢三 勇介
(72)【発明者】
【氏名】島本 圭
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2012/029420(JP,A1)
【文献】特開2002-280061(JP,A)
【文献】特開2012-248311(JP,A)
【文献】国際公開第2012/161305(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/052
H01G 11/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、下記一般式(I)で表される化合物を含有する蓄電デバイス用非水電解液。
【化1】
(R~Rはそれぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記一般式(I)で示される化合物において、R~Rはそれぞれ独立に、メチル基又はエチル基であり、R及びRはそれぞれ独立に、メチル基又はエチル基であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
前記一般式(I)で示される化合物が、テトラメチル プロパン-2,2-ジイルビス(ホスホナート)、テトラメチル ペンタン-3,3-ジイルビス(ホスホナート)、テトラエチル プロパン-2,2-ジイルビス(ホスホナート)、及びテトラエチル ペンタン-3,3-ジイルビス(ホスホナート)からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液。
【請求項4】
正極、負極、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイスであって、該非水電解液が請求項1から3のいずれか1項に記載の非水電解液であることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学特性、特に高温連続充電時におけるガス発生と、高温放電保存時における電池電圧低下を、バランス良く抑制できる非水電解液及びそれを用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電デバイス、特にリチウム二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の小型電子機器、電気自動車や電力貯蔵用として広く使用されている。最近ではリチウム二次電池の中でも、質量や体積あたりの高容量化の観点から、ラミネートパウチ型電池の割合が増加傾向にある。そのため、非水電解液の分解によるガス膨れが問題となる場合が多く、ガス発生を抑制する非水電解液の開発が求められている。
尚、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0003】
特許文献1にはリン酸エステル、ビスホスホン酸エステル及び/又はホストン酸エステルを含有することを特徴とする非水電解液が難燃性(自己消火性)を有し、かつ充放電特性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-280061号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、前記従来技術の非水電解液の性能について詳細に検討した。その結果、ビスホスホン酸エステルを含有する非水電解液には、高温連続充電時のガス発生を抑制する効果がみられたが、従来開示されているビスホスホン酸エステルでは、放電状態の高温保存時において電池電圧の低下が起こるという課題の存在を確認した。電池電圧が極端に低下すると、負極集電体として一般的に用いられている銅箔が電解液中に溶出し、電池特性に悪影響を及ぼすことが知られている。
本発明は、蓄電デバイスを高温連続充電した場合のガス発生と、放電状態で高温保存した場合の電池電圧低下を共にバランスよく抑制した非水電解液及び、それを用いた蓄電デバイスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のビスホスホン酸エステルを含む非水電解液において、高温連続充電時のガス発生を抑制する効果を有しながらも、放電状態の高温保存時において電池電圧の低下が起こるという課題を克服できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の(1)及び(2)を提供するものである。
【0008】
(1)非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、非水電解液が下記一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種以上含有することを特徴とする非水電解液。
【0009】
【化1】
(R~Rはそれぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【0010】
(2)正極、負極、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイスにおいて、該非水電解液が前記(1)に記載の非水電解液であることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温連続充電時におけるガス発生と、高温放電保存時における電圧低下を、バランス良く抑制できる非水電解液及び、それを用いたリチウム電池等の蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、非水電解液及びそれを用いた蓄電デバイスに関する。
【0013】
〔非水電解液〕
本発明の非水電解液は、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、前記一般式(I)で表される化合物を非水電解液中に含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の非水電解液が高温連続充電時におけるガス発生と、放電状態の高温保存時における電圧低下を、バランス良く抑制できる理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
前記特許文献1に記載されているメチレンジホスホン酸テトラエチル等のメチレンジホスホン酸エステルは、リン原子との二重結合を形成する酸素原子が1分子中に2つ存在する。これら2つの酸素原子が蓄電デバイス内部において、正極表面上の金属原子に配位することにより六員環を形成でき、比較的安定となるため、蓄電デバイスの溶媒として一般的に用いられる環状カーボネートや鎖状カーボネートが正極表面上の活性点に接触し難くなる。その結果、環状カーボネートや鎖状カーボネートが正極で酸化分解されるのを抑制でき、カーボネート溶媒分解由来のガス発生が抑えられると考えられる。
しかし、本発明者らは、前記特許文献1に記載のメチレンを有するジホスホン酸エステルを含む非水電解液では、蓄電デバイスを放電状態で高温保存すると、電池電圧の低下が生じることを確認した。
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、この問題が、電子吸引性であるリン酸エステルと隣り合ったメチレン部分にある水素原子の活性の高さに由来する可能性が高いことを見出した。
そこで、従来のメチレンジホスホン酸エステル化合物の代わりに、メチレン部分の水素原子をアルキル基で置換した前記一般式(I)で表される化合物を含む非水電解液を用いることでこの問題を解決し、連続充電時におけるガス発生と、放電状態の高温保存時における電池電圧低下を、バランス良く抑制できる非水電解液を発明するに至った。
【0015】
本発明の非水電解液に含まれる化合物は、下記一般式(I)で表される。
【0016】
【化2】

(R~Rはそれぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【0017】
前記一般式(I)中のR~R及びR及びRがこれらのアルキル基である場合はいずれも、本発明の非水電解液が、本発明の効果である高温連続充電時におけるガス発生抑制と、放電状態の高温保存時における電池電圧低下抑制の両立を達成し得る。
【0018】
前記R~Rはそれぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基を示し、中でも炭素数1~3のアルキル基が好ましく、炭素数1~2のアルキル基がより好ましい。
【0019】
前記R~Rは全て同じアルキル基がさらに好ましい。
【0020】
前記R~Rの具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、又はtert-ブチル基が挙げられ、中でも好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、又はiso-プロピル基、特に好ましくはメチル基又はエチル基が挙げられる。
【0021】
前記R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基を示し、中でも炭素数1~3のアルキル基が好ましく、炭素数1~2のアルキル基がより好ましい。
【0022】
前記R及びRは同じアルキル基がさらに好ましい。
【0023】
前記R及びRの具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、又はtert-ブチル基が挙げられ、中でも好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、又はiso-プロピル基、特に好ましくはメチル基又はエチル基が挙げられる。
【0024】
一般式(I)としては、具体的に以下の化合物が好適に挙げられる。
【0025】
【化3】
【0026】
上記化合物の中でも、テトラメチル プロパン-2,2-ジイルビス(ホスホナート)(化合物A1)、テトラメチル ペンタン-3,3-ジイルビス(ホスホナート)(化合物A2)、テトラエチル プロパン-2,2-ジイルビス(ホスホナート)(化合物A3)、テトラエチル ペンタン-3,3-ジイルビス(ホスホナート)(化合物A4)、テトラプロピル プロパン-2,2-ジイルビス(ホスホナート)(化合物A5)、テトラプロピル ペンタン-3,3-ジイルビス(ホスホナート)(化合物A6)、テトライソプロピル プロパン-2,2-ジイルビス(ホスホナート)(化合物A7)、又はテトライソプロピル ペンタン-3,3-ジイルビス(ホスホナート)(化合物A8)が特に好ましい。さらに好ましくは、テトラメチル プロパン-2,2-ジイルビス(ホスホナート)(化合物A1)、テトラメチル ペンタン-3,3-ジイルビス(ホスホナート)(化合物A2)、テトラエチル プロパン-2,2-ジイルビス(ホスホナート)(化合物A3)、又はテトラエチル ペンタン-3,3-ジイルビス(ホスホナート)(化合物A4)が挙げられ、これら化合物であれば、アルキル基の立体障害が軽減され、電極表面で作用するのに好適である。
【0027】
以上前記一般式(I)で表されるジホスホン酸エステルの置換基の範囲について記述したが、前記一般式(I)中のR~Rはそれぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、かつR及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基であれば、本発明の非水電解液が、連続充電時におけるガス発生と、放電状態の高温保存時における電池電圧低下を、バランス良く抑制できると考えられる。
【0028】
本発明の非水電解液において、前記一般式(I)で表される化合物の含有量は、非水電解液中に0.001~10質量%が好ましい。該含有量は、非水電解液中に0.05質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。また、その上限は、8質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が特に好ましい。
【0029】
本発明の非水電解液において、前記一般式(I)で表される化合物を以下に述べる非水溶媒、電解質塩、更にその他の添加剤を組み合わせることにより、サイクル特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できる効果が相乗的に向上するという特異な効果を発現する。
【0030】
〔非水溶媒〕
まず本明細書において、「溶媒」とは溶質を溶解するための物質を示す。
本発明の非水電解液に使用される非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状エステル、ラクトン、エーテル、及びアミドから選ばれる1種又は2種以上が好適に挙げられる。高温での電気化学特性が相乗的に向上するため、鎖状エステルが含まれることが好ましく、鎖状カーボネートが含まれることが更に好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートの両方が含まれることがもっとも好ましい。
【0031】
なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
さらに、「鎖状カーボネート」とは炭酸直鎖アルキル化合物であるものと定義する。
【0032】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)からなる群より選ばれる1種又は2種以上が好適に挙げられ、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、ビニレンカーボネート、及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)からなる群より選ばれる1種又は2種以上がより好適である。
【0033】
また、前記炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合又はフッ素原子を有する環状カーボネートのうち少なくとも1種を使用するとサイクル特性を向上させることができ、ガス発生をより抑制できるので好ましく、炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を含む環状カーボネートとフッ素原子を有する環状カーボネートを両方含むことがより好ましい。炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートとしては、VC、VEC、又はEECが更に好ましく、フッ素原子を有する環状カーボネートとしては、FEC又はDFECが更に好ましい。
【0034】
炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートの含有量は、非水溶媒の総体積に対して、好ましくは0.07体積%以上、より好ましくは0.2体積%以上、更に好ましくは0.7体積%以上であり、また、その上限としては、好ましくは7体積%以下、より好ましくは4体積%以下、更に好ましくは2.5体積%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなく一段とサイクル特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できるので好ましい。
【0035】
フッ素原子を有する環状カーボネートの含有量は、非水溶媒の総体積に対して好ましくは0.07体積%以上、より好ましくは4体積%以上、更に好ましくは6体積%以上であり、また、その上限としては、好ましくは35体積%以下、より好ましくは25体積%以下、更に15体積%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなく一段とサイクル特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できるので好ましい。
【0036】
非水溶媒が炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートとフッ素原子を有する環状カーボネートの両方を含む場合、フッ素原子を有する環状カーボネートの含有量に対する炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートの含有量は、好ましくは0.2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、更に好ましくは7体積%以上であり、その上限としては、好ましくは40体積%以下、より好ましくは30体積%以下、更に15体積%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなくサイクル特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できるので特に好ましい。
【0037】
また、非水溶媒がエチレンカーボネートと炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートの両方を含むとサイクル特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できるので好ましく、エチレンカーボネート及び炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートの含有量は、非水溶媒の総体積に対し、好ましくは3体積%以上、より好ましくは5体積%以上、更に好ましくは7体積%以上であり、また、その上限としては、好ましくは45体積%以下、より好ましくは35体積%以下、更に好ましくは25体積%以下である。
【0038】
これらの溶媒は1種類で使用してもよく、また2種類以上を組み合わせて使用した場合は、サイクル特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できるので好ましく、3種類以上を組み合わせて使用することが特に好ましい。これらの環状カーボネートの好適な組合せとしては、ECとPC、ECとVC、PCとVC、VCとFEC、ECとFEC、PCとFEC、FECとDFEC、ECとDFEC、PCとDFEC、VCとDFEC、VECとDFEC、VCとEEC、ECとEEC、ECとPCとVC、ECとPCとFEC、ECとVCとFEC、ECとVCとVEC、ECとVCとEEC、ECとEECとFEC、PCとVCとFEC、ECとVCとDFEC、PCとVCとDFEC、ECとPCとVCとFEC、又はECとPCとVCとDFEC等が好ましい。前記の組合せのうち、ECとVC、ECとFEC、PCとFEC、ECとPCとVC、ECとPCとFEC、ECとVCとFEC、ECとVCとEEC、ECとEECとFEC、PCとVCとFEC、又はECとPCとVCとFEC等の組合せがより好ましい。
【0039】
鎖状エステルとしては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルブチルカーボネート、及びエチルプロピルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、及びジブチルカーボネートからなる群より選ばれる1種又は2種以上の対称鎖状カーボネート、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、ピバリン酸プロピル等のピバリン酸エステル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸メチル、及び酢酸エチル(EA)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の鎖状カルボン酸エステルが好適に挙げられる。
【0040】
前記鎖状エステルの中でも、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、プロピオン酸メチル、酢酸メチル、及び酢酸エチル(EA)からなる群より選ばれるメチル基を有する鎖状エステルが好ましく、特にメチル基を有する鎖状カーボネートが好ましい。
【0041】
本発明の非水電解液に用いる非水溶媒における鎖状エステルの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積に対して、60~90体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60体積%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、90体積%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下してサイクル特性が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
【0042】
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、高温下での電気化学特性向上の観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(体積比)が10:90~45:55が好ましく、15:85~40:60がより好ましく、20:80~35:65が特に好ましい。
【0043】
その他の非水溶媒としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン等の鎖状エーテル、ジメチルホルムアミド等のアミド、スルホラン等のスルホン、及びγ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン、α-アンゲリカラクトン等のラクトンから選ばれる1種又は2種以上が好適に挙げられる。
【0044】
上記その他の非水溶媒は通常、適切な物性を達成するために、混合して使用される。その組合せは、例えば、環状カーボネートと鎖状エステルとラクトンとの組合せ又は環状カーボネートと鎖状エステルとエーテルとの組合せ等が好適に挙げられ、環状カーボネートと鎖状エステルとラクトンとの組合せがより好ましく、ラクトンの中でもγ-ブチロラクトン(GBL)を用いると更に好ましい。
【0045】
その他の非水溶媒の含有量は、非水溶媒の総体積に対して、通常1%以上、好ましくは2%以上であり、また通常40%以下、好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下である。
【0046】
一段とサイクル特性を向上させる目的で、非水電解液中にさらにその他の添加剤を加えることが好ましい。
その他の添加剤の具体例としては、以下の(A)~(I)の化合物が挙げられる。
【0047】
(A)アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、及びセバコニトリルから選ばれる1種又は2種以上のニトリル。
【0048】
(B)シクロヘキシルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、tert-アミルベンゼン、又は1-フルオロ-4-tert-ブチルベンゼン等の分枝アルキル基を有する芳香族化合物や、ビフェニル、ターフェニル(o-、m-、p-体)、フルオロベンゼン、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、又はジフェニルカーボネート等の芳香族化合物。
【0049】
(C)メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2-イソシアナトエチル アクリレート、及び2-イソシアナトエチル メタクリレートから選ばれる1種又は2種以上のイソシアネート化合物。
【0050】
(D)2-プロピニル メチル カーボネート、酢酸 2-プロピニル、ギ酸 2-プロピニル、メタクリル酸 2-プロピニル、メタンスルホン酸 2-プロピニル、ビニルスルホン酸 2-プロピニル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オギザレート、2-ブチン-1,4-ジイル ジメタンスルホネート、及び2-ブチン-1,4-ジイル ジホルメートから選ばれる1種又は2種以上の三重結合含有化合物。
【0051】
(E)1,3-プロパンスルトン、1,3-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,3-プロペンスルトン、もしくは2,2-ジオキシド-1,2-オキサチオラン-4-イル アセテート等のスルトン、エチレンサルファイト等の環状サルファイト、エチレンサルフェート等の環状サルフェート、ブタン-2,3-ジイル ジメタンスルホネート、ブタン-1,4-ジイル ジメタンスルホネート、もしくはメチレンメタンジスルホネート等のスルホン酸エステル、及びジビニルスルホン、1,2-ビス(ビニルスルホニル)エタン、もしくはビス(2-ビニルスルホニルエチル)エーテル等のビニルスルホン化合物から選ばれる1種又は2種以上のS=O基含有化合物。
【0052】
(F)環状アセタール化合物としては、分子内に「アセタール基」を有する化合物であれば、その種類は特に限定されない。その具体的としては、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、又は1,3,5-トリオキサン等の環状アセタール化合物。
【0053】
(G)エチル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテート、及び2-プロピニル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートから選ばれる1種又は2種のリン含有化合物。
【0054】
(H)カルボン酸無水物としては、分子内に「C(=O)-O-C(=O)基」を有する化合物であれば特にその種類は限定されない。その具体的としては、無水酢酸、無水プロピオン酸等の鎖状のカルボン酸無水物、無水コハク酸、無水マレイン酸、3-アリル無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、又は3-スルホ-プロピオン酸無水物等の環状酸無水物。
【0055】
(I)ホスファゼン化合物としては、分子内に「N=P-N基」を有する化合物であれば、その種類は特に限定されない。その具体的としては、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、フェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、又はエトキシヘプタフルオロシクロテトラホスファゼン等の環状ホスファゼン化合物。
【0056】
上記の中でも、(A)ニトリル、(B)芳香族化合物、及び(C)イソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種以上を含むと一段と高温での電気化学特性が向上するので好ましい。
【0057】
(A)ニトリルの中では、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、及びピメロニトリルから選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
【0058】
(B)芳香族化合物の中では、ビフェニル、ターフェニル(o-、m-、p-体)、フルオロベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、及びtert-アミルベンゼンから選ばれる1種又は2種以上がより好ましく、ビフェニル、o-ターフェニル、フルオロベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、及びtert-アミルベンゼンから選ばれる1種又は2種以上が特に好ましい。
【0059】
(C)イソシアネート化合物の中では、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2-イソシアナトエチル アクリレート、及び2-イソシアナトエチル メタクリレートから選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
【0060】
前記(A)~(C)の化合物の含有量は、非水電解液中に0.01~7質量%が好ましい。この範囲では、被膜が厚くなり過ぎずに十分に形成され、サイクル特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できる。該含有量は、非水電解液中に0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、その上限は、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。
【0061】
また、(D)三重結合含有化合物、(E)スルトン、環状サルファイト、スルホン酸エステル、ビニルスルホンから選ばれる環状又は鎖状のS=O基含有化合物、(F)環状アセタール化合物、(G)リン含有化合物、(H)環状酸無水物、及び(I)環状ホスファゼン化合物を含むとサイクル特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できるので好ましい。
【0062】
(D)三重結合含有化合物としては、2-プロピニル メチル カーボネート、メタクリル酸 2-プロピニル、メタンスルホン酸 2-プロピニル、ビニルスルホン酸 2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オギザレート、及び2-ブチン-1,4-ジイル ジメタンスルホネートから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、メタンスルホン酸 2-プロピニル、ビニルスルホン酸 2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オギザレート、及び2-ブチン-1,4-ジイル ジメタンスルホネートから選ばれる1種又は2種以上が更に好ましい。
【0063】
(E)スルトン、環状サルファイト、環状サルフェート、スルホン酸エステル、及びビニルスルホンから選ばれる環状又は鎖状のS=O基含有化合物(但し、三重結合含有化合物、及び前記一般式のいずれかで表される特定の化合物は含まない)を用いることが好ましい。
【0064】
前記環状のS=O基含有化合物としては、1,3-プロパンスルトン、1,3-ブタンスルトン、1,4-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、1,3-プロペンスルトン、2,2-ジオキシド-1,2-オキサチオラン-4-イル アセテート、メチレン メタンジスルホネート、エチレンサルファイト、及びエチレンサルフェートから選ばれる1種又は2種以上が好適に挙げられる。
【0065】
また、鎖状のS=O基含有化合物としては、ブタン-2,3-ジイル ジメタンスルホネート、ブタン-1,4-ジイル ジメタンスルホネート、ジメチル メタンジスルホネート、ペンタフルオロフェニル メタンスルホネート、ジビニルスルホン、及びビス(2-ビニルスルホニルエチル)エーテルから選ばれる1種又は2種以上が好適に挙げられる。
【0066】
前記環状又は鎖状のS=O基含有化合物の中でも、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、2,2-ジオキシド-1,2-オキサチオラン-4-イル アセテート、エチレンサルフェート、ペンタフルオロフェニル メタンスルホネート、及びジビニルスルホンから選ばれる1種又は2種以上が更に好ましい。
【0067】
(F)環状アセタール化合物としては、1,3-ジオキソラン、又は1,3-ジオキサンが好ましく、1,3-ジオキサンが更に好ましい。
【0068】
(G)リン含有化合物としては、エチル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテート、又は2-プロピニル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートが好ましく、2-プロピニル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートが更に好ましい。
【0069】
(H)環状酸無水物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、又は3-アリル無水コハク酸が好ましく、無水コハク酸又は3-アリル無水コハク酸が更に好ましい。
【0070】
(I)環状ホスファゼン化合物としては、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、又はフェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン等の環状ホスファゼン化合物が好ましく、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、又はエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンが更に好ましい。
【0071】
前記(D)~(I)の化合物の含有量は、非水電解液中に0.001~5質量%が好ましい。この範囲では、被膜が厚くなり過ぎずに十分に形成され、一段とサイクル特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できる。該含有量は、非水電解液中に0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、その上限は、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
【0072】
また、一段と高温での電気化学特性を向上させる目的で、非水電解液中にさらに、シュウ酸骨格を有するリチウム塩、リン酸骨格を有するリチウム塩及びS=O基を有するリチウム塩の中から選ばれる1種以上のリチウム塩を含むことが好ましい。
リチウム塩の具体例としては、リチウム ビス(オキサラト)ボレート〔LiBOB〕、リチウム ジフルオロ(オキサラト)ボレート〔LiDFOB〕、リチウム テトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート〔LiTFOP〕、及びリチウム ジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート〔LiDFOP〕から選ばれる少なくとも1種のシュウ酸骨格を有するリチウム塩、LiPOやLiPOF等のリン酸骨格を有するリチウム塩、リチウム トリフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ボレート〔LiTFMSB〕、リチウム ペンタフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ホスフェート〔LiPFMSP〕、リチウム メチルサルフェート〔LMS〕、リチウムエチルサルフェート〔LES〕、リチウム 2,2,2-トリフルオロエチルサルフェート〔LFES〕、及びFSOLiから選ばれる1種以上のS=O基を有するリチウム塩が好適に挙げられ、LiBOB、LiDFOB、LiTFOP、LiDFOP、LiPO、LiTFMSB、LMS、LES、LFES、及びFSOLiから選ばれるリチウム塩を含むことがより好ましい。
【0073】
前記リチウム塩が非水溶媒中に占める割合は、0.001M以上0.5M以下である場合が好ましい。この範囲にあると一段とサイクル特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できる。好ましくは0.01M以上、更に好ましくは0.03M以上、特に好ましくは0.04M以上である。その上限は、更に好ましくは0.4M以下、特に好ましくは0.2M以下である。(ただし、Mはmol/Lを示す。)
【0074】
(電解質塩)
本発明に使用される電解質塩としては、下記のリチウム塩が好適に挙げられる。
リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO等の無機リチウム塩、LiN(SOF)〔LiFSI〕、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(iso-C7、LiPF(iso-C7)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩や、(CF(SONLi、(CF(SONLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を有するリチウム塩等が好適に挙げられ、これらの中から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が好適に挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用することができる。
これらの中でも、LiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SO、及びLiN(SOF)〔LiFSI〕から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、LiPFを用いることがもっとも好ましい。電解質塩の濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.7M以上がより好ましく、1.1M以上が更に好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.6M以下が更に好ましい。
また、これらの電解質塩の好適な組み合わせとしては、LiPFを含み、更にLiBF、LiN(SOCF、及びLiN(SOF)〔LiFSI〕から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が非水電解液中に含まれている場合が好ましく、LiPF以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合は、0.001M以上であると、サイクル特性を向上させると共に、ガス発生の抑制効果も高まる。1.0M以下であるとサイクル特性が低下する懸念が少ないので好ましい。好ましくは0.01M以上、特に好ましくは0.03M以上、最も好ましくは0.04M以上である。その上限は、好ましくは0.8M以下、さらに好ましくは0.6M以下、特に好ましくは0.4M以下である。
【0075】
〔非水電解液の製造〕
本発明の非水電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質塩及び該非水電解液に対して前記一般式(I)で表される化合物を添加することにより得ることができる。
この際、用いる非水溶媒及び非水電解液に加える化合物は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0076】
本発明の非水電解液は、下記の第1~第4の蓄電デバイスに使用することができ、非水電解質として、液体状のものだけでなくゲル化されているものも使用し得る。更に本発明の非水電解液は固体高分子電解質用としても使用できる。中でも電解質塩にリチウム塩を使用する第1の蓄電デバイス用(即ち、リチウム電池用)または第4の蓄電デバイス用(即ち、リチウムイオンキャパシタ用)として用いることが好ましく、リチウム電池用として用いることが更に好ましく、リチウム二次電池用として用いることが最も適している。
【0077】
〔第1の蓄電デバイス(リチウム電池)〕
本発明の第1の蓄電デバイスであるリチウム二次電池は、正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている前記非水電解液からなる。非水電解液以外の正極、負極等の構成部材は特に制限なく使用できる。
例えば、リチウム二次電池用正極活物質としては、コバルト、マンガン、及びニッケルからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、1種単独で用いるか又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiCo1-x(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、及びCuから選ばれる1種又は2種以上の元素、0.001≦x≦0.05)、LiMn、LiNiO、LiCo1-xNi(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.3Co0.2Mn0.3、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiMnOとLiMO(Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体、及びLiNi1/2Mn3/2から選ばれる1種以上が好適に挙げられ、2種以上がより好適である。また、LiCoOとLiMn、LiCoOとLiNiO、LiMnとLiNiOのように併用してもよい。
【0078】
高充電電圧で動作するリチウム複合金属酸化物を使用すると、充電時における電解液との反応によりサイクル特性が低下しやすいが、本発明に係るリチウム二次電池ではこれらの電気化学特性の低下を抑制することができる。
特にNiを含む正極活物質の場合にNiの触媒作用により正極表面での非水溶媒の分解が起き、電池の抵抗が増加しやすい傾向にある。特に高温環境下での電気化学特性が低下しやすい傾向にあるが、本発明に係るリチウム二次電池ではこれらの電気化学特性の低下を抑制することができるので好ましい。特に、正極活物質中の全遷移金属元素の原子濃度に対するNiの原子濃度の割合が、30atomic%を超える正極活物質を用いた場合に上記効果が顕著になるので好ましく、50atomic%以上が更に好ましく、75%以上が特に好ましい。具体的には、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05等が好適に挙げられる。
【0079】
更に、正極活物質として、リチウム含有オリビン型リン酸塩を用いることもできる。特に鉄、コバルト、ニッケルおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種以上含むリチウム含有オリビン型リン酸塩が好ましい。その具体例としては、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO等が挙げられる。
これらのリチウム含有オリビン型リン酸塩の一部は他元素で置換してもよく、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの一部をCo、Mn、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W及びZr等から選ばれる1種以上の元素で置換したり、またはこれらの他元素を含有する化合物や炭素材料で被覆することもできる。これらの中では、LiFePOまたはLiMnPOが好ましい。
また、リチウム含有オリビン型リン酸塩は、例えば前記の正極活物質と混合して用いることもできる。
【0080】
また、リチウム一次電池用正極としては、CuO、CuO、AgO、AgCrO、CuS、CuSO、TiO、TiS、SiO、SnO、V、V12、VO、Nb、Bi、BiPb,Sb、CrO、Cr、MoO、WO、SeO、MnO、Mn、Fe、FeO、Fe、Ni、NiO、CoO、CoOなどの、1種もしくは2種以上の金属元素の酸化物あるいはカルコゲン化合物、SO、SOClなどの硫黄化合物、一般式(CFnで表されるフッ化炭素(フッ化黒鉛)などが挙げられる。中でも、MnO、V、フッ化黒鉛などが好ましい。
【0081】
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック等が挙げられる。また、グラファイトとカーボンブラックを適宜混合して用いてもよい。導電剤の正極合剤への添加量は、1~10質量%が好ましく、特に2~5質量%が好ましい。
【0082】
正極は、前記の正極活物質をアセチレンブラック、カーボンブラック等の導電剤、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレンプロピレンジエンターポリマー等の結着剤と混合し、これに1-メチル-2-ピロリドン等の高沸点溶剤を加えて混練して正極合剤とした後、この正極合剤を集電体のアルミニウム箔やステンレス製のラス板等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃~250℃程度の温度で、2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
正極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.5g/cm以上であり、電池の容量をさらに高めるため、好ましくは2g/cm以上であり、より好ましくは、3g/cm以上であり、更に好ましくは、3.6g/cm以上である。なお、上限としては、4g/cm以下が好ましい。
【0083】
リチウム二次電池用負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、及びリチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料〔易黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛など〕、スズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、ケイ素化合物、LiTi12などのチタン酸リチウム化合物等を1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、リチウムイオンの吸蔵及び放出能力において、人造黒鉛や天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料を使用することが更に好ましく、格子面(002)の面間隔(d002)が0.340nm(ナノメータ)以下、特に0.335~0.337nmである黒鉛型結晶構造を有する炭素材料を使用することが特に好ましい。
複数の扁平状の黒鉛質微粒子が互いに非平行に集合或いは結合した塊状構造を有する人造黒鉛粒子や、例えば鱗片状天然黒鉛粒子に圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を繰り返し与え、球形化処理を施した黒鉛粒子を用いることにより、負極の集電体を除く部分の密度を1.5g/cm以上の密度に加圧成形したときの負極シートのX線回折測定から得られる黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I(110)と(004)面のピーク強度I(004)の比I(110)/I(004)が0.01以上となると一段と正極活物質からの金属溶出量の改善と、充電保存特性が向上するので好ましく、0.05以上となることがより好ましく、0.1以上となることが更に好ましい。また、過度に処理し過ぎて結晶性が低下し電池の放電容量が低下する場合があるので、上限は0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。
また、高結晶性の炭素材料(コア材)はコア材よりも低結晶性の炭素材料によって被膜されていると、サイクル特性が一段と良好となるので好ましい。被覆の炭素材料の結晶性は、TEMにより確認することができる。
高結晶性の炭素材料を使用すると、充電時において非水電解液と反応し、界面抵抗の増加によってサイクル特性を低下させる傾向があるが、本発明に係るリチウム二次電池ではサイクル特性が良好となる。
【0084】
また、負極活物質としてのリチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物としては、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、Al、Ga、In、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Mg、Sr、Ba等の金属元素を少なくとも1種含有する化合物が挙げられる。これらの金属化合物は単体、合金、酸化物、窒化物、硫化物、硼化物、リチウムとの合金等、何れの形態で用いてもよいが、単体、合金、酸化物、リチウムとの合金の何れかが高容量化できるので好ましい。中でも、Si、Ge及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するものが好ましく、Si及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素を含むものが電池を高容量化できるので特に好ましい。
【0085】
負極は、上記の正極の作製と同様な導電剤、結着剤、高沸点溶剤を用いて混練して負極合剤とした後、この負極合剤を集電体の銅箔等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃~250℃程度の温度で2時間程度真空下加熱処理することにより作製することができる。
負極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.1g/cm以上であり、電池の容量をさらに高めるため、好ましくは1.5g/cm以上であり、特に好ましくは1.7g/cm以上である。なお、上限としては、2g/cm以下が好ましい。
【0086】
また、リチウム一次電池用の負極活物質としては、リチウム金属又はリチウム合金が挙げられる。
【0087】
リチウム電池の構造には特に限定はなく、単層または複層のセパレータを有するコイン型電池、円筒型電池、角型電池、ラミネート電池等を適用できる。
電池用セパレータとしては、特に制限はされないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンの単層または積層の微多孔性フィルム、織布、不織布等を使用できる。
【0088】
本発明におけるリチウム二次電池は、充電終止電圧が4.2V以上、特に4.3V以上の場合にもサイクル特性に優れ、更に、4.4V以上においても特性は良好である。放電終止電圧は、通常2.8V以上、更には2.5V以上とすることができるが、本願発明におけるリチウム二次電池は、2.0V以上とすることができる。電流値については特に限定されないが、通常0.1~30Cの範囲で使用される。また、本発明におけるリチウム電池は、-40~100℃、好ましくは-10~80℃で充放電することができる。
【0089】
本発明においては、リチウム電池の内圧上昇の対策として、電池蓋に安全弁を設けたり、電池缶やガスケット等の部材に切り込みを入れる方法も採用することができる。また、過充電防止の安全対策として、電池の内圧を感知して電流を遮断する電流遮断機構を電池蓋に設けることができる。
【0090】
〔第2の蓄電デバイス(電気二重層キャパシタ)〕
第2の蓄電デバイスは、電解液と電極界面の電気二重層容量を利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスである。本発明の一例は、電気二重層キャパシタである。この蓄電デバイスに用いられる最も典型的な電極活物質は、活性炭である。二重層容量は概ね表面積に比例して増加する。
【0091】
〔第3の蓄電デバイス〕
第3の蓄電デバイスは、電極のドープ/脱ドープ反応を利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスである。この蓄電デバイスに用いられる電極活物質として、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化銅等の金属酸化物や、ポリアセン、ポリチオフェン誘導体等のπ共役高分子が挙げられる。これらの電極活物質を用いたキャパシタは、電極のドープ/脱ドープ反応にともなうエネルギー貯蔵が可能である。
【0092】
〔第4の蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ)〕
第4の蓄電デバイスは、負極であるグラファイト等の炭素材料へのリチウムイオンのインターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスである。リチウムイオンキャパシタ(LIC)と呼ばれる。正極は、例えば活性炭電極と電解液との間の電気ニ重層を利用したものや、π共役高分子電極のドープ/脱ドープ反応を利用したもの等が挙げられる。電解液には少なくともLiPF6などのリチウム塩が含まれる。
【実施例
【0093】
実施例1~2及び比較例1~2
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
LiNi0.5Mn0.3Co0.2;90質量%、アセチレンブラック(導電剤);3質量%、KS-4(導電剤);3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);4質量%を1-メチル-2-ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の両面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、矩形の正極シートを作製した。正極の集電体を除く部分の密度は2.5g/cmであった。また、黒鉛(負極活物質);98質量%と、カルボキシメチルセルロース(増粘剤);1質量%と、ブタジエンの共重合体(結着剤);1質量%を水に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の両面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、負極シートを作製した。負極の集電体を除く部分の密度は1.4g/cmであった。そして、正極シート、ポリオレフィンの積層の微多孔性フィルム製セパレータ、負極シートの順に積層し、表1及び表2に記載の組成の非水電解液をそれぞれ加えて、ラミネート型電池を作製した。
【0094】
〔高温連続充電のガス発生量の評価〕
上記の方法で作製した電池を用いて60℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で終止電圧4.4Vまで3時間充電し、4.4Vに保持した状態で4日間保存を行った。その後、連続充電後25℃の恒温槽に入れ、一旦1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電した。連続充電のガス発生量はアルキメデス法により測定した。ガス発生量は、比較例1のガス発生量を100%としたときを基準とし、相対的なガス発生量を調べた。
また、連続充電後の電池を用いて45℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で終止電圧4.2Vまで2時間充電し、1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電することにより連続充電後の容量を測定した。
電池特性を表1に示す。
〔高温放電保存特性の評価〕
上記の方法で作製した電池を用いて、60℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で、終止電圧3.5Vまで1時間充電し、1日間保存を行った。高温放電保存特性を下記の電圧変化の割合により求めた。
電圧変化の割合(%)=(高温放電保存後の電圧/高温放電保存前の電圧)×100
本明細書において、3.5Vの状態を放電状態と定義する。
電池特性を表2に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
上記表1において、本発明の非水電解液を用いた実施例1では、比較例1に比べ高温連続充電の発生ガス量が大きく減少している。また、表2において、本発明の非水電解液を用いた実施例2では、メチレンジホスホン酸テトラエチルを含有した比較例2の非水電解液と比べ、高温放電保存時の電圧変化が小さい。これらの結果から本発明の非水電解液は高温連続充電時におけるガス発生と、放電状態の高温保存時における電池電圧低下を、バランス良く抑制できているといえる。
実施例2と比較例2の結果から、高温放電保存時の電圧変化はビスホスホン酸エステルのメチレン部分の水素原子の有無に由来することが強く示唆され、前記一般式(I)中のR及びRが炭素数1~4のアルキル基である場合はいずれも、本発明の非水電解液が、ガス発生抑制と放電状態の高温保存時における電池電圧低下抑制の両立を、達成し得ると考えられる。また、実施例1で使用した非水電解液に、非水電解液に対して1質量%に相当するVCを加え、実施例1と同じ条件で作成したリチウムイオン二次電池の高温連続充電後の容量は、実施例1の容量よりも10%改善しており、VCと組み合わせることでさらに電池特性が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の非水電解液を用いた蓄電デバイスは、電池を高電圧で使用した場合の電気化学特性に優れたリチウム二次電池等の蓄電デバイスとして有用である。