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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】異常検出装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20220404BHJP
   G08G 1/01 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
G08G1/00 J
G08G1/01 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017246819
(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2019114039
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】人見 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹中 一仁
(72)【発明者】
【氏名】森 真貴
(72)【発明者】
【氏名】池田 和司
(72)【発明者】
【氏名】久保 孝富
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博昭
【審査官】田中 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-118906(JP,A)
【文献】特開2017-151798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路状況の異常度を検出する異常検出装置(20)であって、
車両の運転情報に基づいたデータを運転データとして、前記運転データの所定の属性について、異常がないと判断された前記道路状況において取得された複数の車両の前記運転データから構成された基準データセットと、異常度合いが判断されていない道路状況である評価対象状況において取得された複数の車両の前記運転データから構成された評価用データセットとを比較し、前記評価対象状況の異常度を算出するように構成された異常度算出部(30)を備え、
前記異常度算出部は、前記基準データセットを構成する前記運転データの第1確率分布と、前記評価用データセットを構成する前記運転データの第2確率分布との分布間の非類似度を推定し、推定した前記非類似度を前記異常度とする、
異常検出装置。
【請求項2】
前記異常度算出部は、前記基準データセットを構成する前記運転データと、前記評価用データセットを構成する前記運転データとの標本間の距離を用いて、前記分布間の非類似度を推定する、
請求項に記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記異常度算出部は、Maximum Mean Discrepancy の二乗の定数倍の標本近似となるように設計したU-統計量を前記分布間の非類似度とする、
請求項に記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記異常度算出部は、コルモゴロフ・スミルノフ検定の検定統計量を前記分布間の非類似度とする、
請求項に記載の異常検出装置。
【請求項5】
前記異常度算出部は、前記第1確率分布の有限個のパラメータである第1パラメータ、及び前記第2確率分布の前記有限個のパラメータである第2パラメータを推定し、推定した前記第1パラメータ及び前記第2パラメータのそれぞれで定義される確率分布間の非類似度を、前記分布間の非類似度をとして推定する、
請求項に記載の異常検出装置。
【請求項6】
前記第1確率分布及び前記第2確率分布はヒストグラムとして表現される、
請求項に記載の異常検出装置。
【請求項7】
前記第1確率分布及び前記第2確率分布は混合ガウスモデルによって表現される、
請求項に記載の異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、道路状況の異常度を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の異常検出装置は、道路監視カメラなどのインフラセンサが設置されていない場所においても、道路の異常度を検出することが可能な装置である。上記異常検出装置は、異常ではない通常の運転が行われた時における多数の車両の走行パターンデータを通常運転モデルとして備え、走行中の車両から走行位置と走行パターンデータを収集し、車両ごとに、走行パターンデータと対応する走行位置の通常運転モデルとを比較する。そして、上記異常検出装置は、各車両の走行パターンデータの通常運転モデルからの逸脱度を道路状況の異常度として検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-118906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ドライバが道路状況の異常を早期に発見できれば、正常な行動の範囲で異常に対処する行動を取ることができる場合がある。例えば、複数の車線の一つに落下物が存在する場合に、ドライバが遠方から落下物を確認できれば、通常の車線変更を行うことで落下物を回避できる。このように、車両が正常な行動の範囲で対処行動を取ることができる場合でも、適切に道路状況の異常度を検出できることが望ましい。しかしながら、上記異常検出装置では、各車両の対処行動が正常な行動の範囲に収まっている場合に、通常運転モデルからの逸脱度が低くなり、道路状況の異常度を適切に検出できない。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、個々の車両の対処行動が正常な行動の範囲に収まっている場合でも、道路状況の異常度を適切に検出することができる異常検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、道路状況の異常度を検出する異常検出装置(20)であって、異常度算出部(30)を備える。異常度算出部は、車両の運転情報に基づいたデータを運転データとして、運転データの所定の属性について、異常がないと判断された道路状況において取得された複数の車両の運転データから構成された基準データセットと、異常度合いが判断されていない道路状況である評価対象状況において取得された複数の車両の運転データから構成された評価用データセットとを比較し、評価対象状況の異常度を算出する。
【0007】
本開示によれば、運転データの所定の属性について、異常がないと判断された道路状況において取得された基準データセットと、評価対象状況において取得された評価用データセットとが比較される。ここで、道路状況に異常がある場合には、個々の車両のドライバは、正常な運転行動の範囲内で対処行動を取ることができても、道路状況に異常がない場合と比べて選択可能な運転行動の範囲が限定される。評価用データセットは、評価対象状況において車両が取り得る運転行動の範囲を表し、基準データセットは、車両の正常な運転行動の範囲を表す。そのため、同じ属性の評価用データセットと基準用データセットとのデータセット間には、道路状況の異常度に応じた差が生じる。したがって、同じ属性の評価用データセットと基準データセットとを比較することによって、個々の車両の対処行動が正常な行動範囲に収まっている場合でも、道路状況の異常度を適切に検出することができる。
【0008】
なお、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る異常検出システムの全体構成を示す図である。
図2】異常度検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
図3】道路状況が正常な場合における、複数の車両の運転行動、運転行動の特徴量及び特徴量の確率密度分布を示す図である。
図4】道路状況が異常な場合における、複数の車両の運転行動、運転行動の特徴量及び特徴量の確率密度分布を示す図である。
図5】第2実施形態に係る異常度算出部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。
(第1実施形態)
<1.構成>
まず、本実施形態の異常検出システム100の構成について、図1を参照して説明する。異常検出システム100は、複数の収集部10と、検出部20と、を備える。
【0011】
複数の収集部10のそれぞれは、CPU、ROM、RAM及びI/O等を備えたコンピュータを主体とした車載装置であり、複数の車両のそれぞれに搭載されている。また、各収集部10は、図示しない無線通信装置を備え、後述する検出部20と無線通信する。各収集部10は、CPUがROM等の非遷移的実体的記憶媒体に格納されているプログラムを実行することにより、運転情報収集部11、属性情報収集部12、及び車両信号送信部13の機能を実現する。これらの機能の一部又は全部は、ハードウェアを用いて実現してもよい。
【0012】
運転情報収集部11は、車両に搭載された各種センサを介して、走行中の車両の運転情報を繰り返し収集する。運転情報は、運転操作データ、車両挙動データを含む。運転操作データとしては、例えば、アクセルペダルの操作量、ブレーキペダルの操作量、ステアリングの操舵角、トランスミッションのシフト位置、方向指示器の操作状態などを用いることができる。運転挙動データとしては、例えば、車両の速度や加速度、ヨーレートなどを用いることができる。
【0013】
属性情報収集部12は、各種車載機器を介して、属性情報を繰り返し収集する。属性情報は、運転情報が属する属性を示す情報であり、時刻データや、位置データ、天候データ、車種データなどを含む。時刻データは、時間や曜日を含む。位置データは、GPS衛星からの信号に基づいた車両の現在地の緯度及び経度を含む。天候データは、センサによって検出された雨量や日射量や通信によって取得した天候を含む。車種データは、車両の車格や排気量を含む。各種車載機器としては、センサや通信装置が挙げられる。なお、属性情報収集部12は、必ずしも上述した全てのデータを収集する必要はなく、これらデータのうちの少なくとも一部を収集すればよい。
【0014】
車両信号送信部13は、運転情報収集部11によって収集された運転情報、及び属性情報収集部12によって収集された属性情報を車両信号として、無線通信により検出部20へ送信する。このとき、車両信号送信部13は、運転情報と属性情報とを対応づけて車両信号として送信する。
【0015】
検出部20は、CPU、ROM、RAM及びI/O等を備えたコンピュータを主体としたサーバであり、情報センタ等に設置されている。また、検出部20は、図示しない無線通信装置を備え、複数の収集部10のそれぞれと無線通信する。検出部20は、CPUがROM等の非遷移的実体的記憶媒体に格納されているプログラムを実行することにより、車両信号受信部21、特徴量算出部22、及び異常度算出部30の各機能を実現する。異常度算出部30は、標本間評価部31の機能を備える。これらの機能の一部又は全部は、ハードウェアを用いて実現してもよい。また、検出部20は、基準DB23及び評価用DB24を備える。DBは、データベースの略である。
【0016】
検出部20は、上記各機能を実現することにより、複数の車両の運転情報に基づいて道路状況の異常の度合いを表す異常度を検出する。本実施形態では、検出部20が異常検出装置に相当する。以下、検出部20が実行する異常度検出処理について、詳細を説明する。
【0017】
<2.異常度検出処理>
次に、検出部20が実行する異常度検出処理の処理手順について、図2のフローチャートを参照して説明する。検出部20は、本処理手順を所定周期で実行する。
【0018】
まず、S10では、車両信号受信部21が、収集部10から車両信号を受信する。
続いて、S20では、特徴量算出部22が、S10で受信した車両信号のうちの運転情報に基づいて、特徴量を算出する。特徴量としては、例えば、車両挙動データ、運転操作データ及びこれらを加工したデータ(例えば、微分データ)を用いることができる。すなわち、特徴量としては、例えば、速度、加速度、アクセルペダルの操作量、ブレーキペダルの操作量、ステアリングの操舵角、アプセルペダルの操作速度、ブレーキペダルの操作速度、及びステアリングの操舵速度を用いることができる。あるいは、特徴量として、車両挙動データ及び運転操作データだけを用いてもよい。本実施形態では、特徴量が運転データに相当する。
【0019】
続いて、S30では、特徴量算出部22は、S20で算出した特徴量を、特徴量の算出に用いた運転情報と対応する属性情報と対応づけて、評価用DB24に記憶する。評価用DB24には、異常度合いが判断されていない運転状況である評価対象状況において、複数の収集部10により収集された複数の車両の特徴量が、特徴量の属性情報と対応づけて記憶される。評価対象状況において1台の車両の車両情報から算出された特徴量を1つの評価用データとする。1台の車両の車両情報から複数の特徴量が算出される場合、1つの評価用データは複数の特徴量を含む多次元データとなる。
【0020】
一方、基準DB23には、異常がないと判断された道路状況において、複数の収集部10により収集された複数の車両の運転情報から、特徴量算出部22により算出された特徴量が、特徴量の属性と対応づけて記憶される。例えば、評価対象状況が異常のない道路状況と判断された場合に、評価用DB24に記憶されている特徴量が基準DB23へコピーされる。異常がないと判断された道路状況において1台の車両の車両情報から算出された特徴量を、1つの基準データとする。1台の車両の車両情報から複数の特徴量が算出される場合、評価用データと同様に、1つの基準データは複数の特徴量を含む多次元データとなる。基準データと評価用データの次元数は等しい。
【0021】
所定の属性において、その属性に対応する複数の基準データから構成される基準データセットは、その属性における正常な運転行動の範囲を示す。例えば、属性が位置の場合には、道路の所定の位置で取得された複数の基準データから構成される基準データセットは、道路の所定の位置での正常な運転行動を示す。
【0022】
ここで、所定の属性における基準データセットと評価用データとを比較して、評価用データが基準データセットの示す運転行動の範囲から逸脱している場合には、比較的高い異常度を検出することができる。しかしながら、道路状況に異常がある場合に、所定の属性における基準データセットと個々の評価用データとを比較しても、評価用データが基準データセットの示す運転行動の範囲に収まり、比較的低い異常度が検出されることがある。
【0023】
図3に道路状況に異常がない場合における運転行動を示す。また、図4に、左車線に落石があり道路状況に異常がある場合における運転行動を示す。図3及び図4において、1つの○は1台の車両の車両情報から算出された特徴量を示す。図3に示す運転行動は、左車線直進aと車線変更bと右車線直進cである。一方、図4に示す運転行動は、車線変更bと右車線直進cである。図4に示すように、左車線を直進しているドライバが早期に前方に落石に気付いた場合には、車線変更bして異常に対処することができる。すなわち、ドライバが早期に異常に気付いた場合には、急なブレーキ操作や急なハンドル操作といった正常な運転行動の範囲を逸脱した運転行動を取ることなく、正常な運転行動の範囲で異常に対処することができる。このような場合には、個々の評価用データは、基準データセットの示す運転行動の範囲内に収まるため、基準データセットと個々の評価用データとを比較しても、比較的低い異常度が検出される。
【0024】
しかしながら、図4において左車線直進aの行動を取れないように、道路状況に異常がある場合には、道路状況に異常がない場合と比べて、ドライバが選択できる運転行動の範囲が限定される。評価用データセットは、評価対象状況において車両が取り得る運転行動の範囲を表す。そのため、図3及び図4に示すように、基準データセットと、基準データセットと同じ属性に対応する複数の評価用データから構成される評価用データセットとを比較すると、運転行動の範囲に差が生じる。例えば、属性が位置の場合には、道路の所定の位置において、基準データセットの示す運転行動の範囲と評価用データセットの示す運転行動の範囲に差が生じる。
【0025】
そこで、本実施形態では、基準データセットと個々の評価用データとではなく、基準データセットと評価用データセットとを比較する。標本間評価部31は、評価用データセットを、予め決められた所定数の評価用データから構成する。本実施形態における基準データセットは、予め評価用データセットよりも多数(例えば、数百倍)の基準データから構成されている。
【0026】
S40では、標本間評価部31は、評価用DB24に蓄積された所定の属性の評価用データの個数が所定数以上になったか否か判定する。
S40において、所定の属性の評価用データの個数が所定数未満と判定した場合は、S10の処理へ戻る。一方、S40において、所定の属性の評価用データの個数が所定数以上と判定した場合は、S50の処理へ進む。
【0027】
S50では、標本間評価部31は、所定の属性において、基準データセットに含まれる基準データの確率分布(以下、第1確率分布)Pと、評価用データセットに含まれる評価用データの確率分布(以下、第2確率分布)Qとの分布間の非類似度を算出する。図3及び図4に示すように、評価対象状況が異常のある道路状況の場合、第2確率分布Qは第1確率分布Pから変化しており、第1確率分布Pと第2確率分布Qは非類似度が高くなる。
【0028】
ここで、基準データ及び評価用データが多次元データの場合、第1確率分布P及び第2確率分布Qは多次元空間の分布としてもよいし、多次元データを1つの尺度のデータに変換して、第1確率分布P及び第2確率分布Qを1次元空間の分布としてもよい。
【0029】
本実施形態では、基準データセットに含まれる基準データのそれぞれと評価用データセットに含まれる評価用データのそれぞれとの標本間の距離を用いて、非類似度を算出する。ここでは、分布間の非類似度を表す、Maximum Mean Discrepancy(以下、MMD)を、正定値カーネルを用いた2標本U-統計量で推定する。2標本U-統計量の詳細は、”A Kernel Two-Sample Test”A.Gretton, et al.; Journal of Machine Learning Research, 13(Mar): 72-773, 2012.を参照されたい。
【0030】
具体的には、MMDの二乗の定数倍の標本近似として設計したU-統計量Tn,mを非類似度として算出する。U-統計量Tn,mは、次の式(1)により算出される。
【0031】
【数1】
式(1)において、標本セットX={X,…,X}は、基準データセットを表し、標本セットY={Y,…,Y}は、評価用データセットを表す。nは標本セットXのサイズすなわち標本数を表し、mは標本セットYのサイズすなわち標本数を表す。2変数関数kは、任意のカーネル関数を表す。
【0032】
続いて、S60では、標本間評価部31は、S50で算出した非類似度を、評価対象状況の異常度として出力する。この異常度は、個々の車両のドライバが、道路状況の異常に対処するために、正常な運転行動の範囲から逸脱した運転行動を取った場合だけでなく、正常な運転行動の範囲で運転行動をした場合にも、データセット全体としての分布が変化していれば高くなる。
【0033】
標本間評価部31は、異常度をディスプレイやスピーカなどの出力装置へ出力してもよい。出力装置は、異常度に応じた濃淡で異常の程度をディスプレイに表示したり、異常度を音声でスピーカから出力したりしてもよい。
【0034】
また、検出部20は、算出された異常度が所定の閾値よりも低い場合に、評価対象状況が異常のない道路状況と判断することができる。この場合、検出部20は、評価用DB24に記憶されている評価用データセットを基準DBにコピーしてもよい。
【0035】
なお、S50の処理に置いて、標本間評価部31は、U-統計量Tn,mの代わりに、コルモゴロフ・スミルノフ検定の検定統計量を、第1確率分布Pと第2確率分布Qとの分布間の非類似度として算出してもよい。
【0036】
また、所定数の評価用データを用いて異常度が出力された後は、評価用DB24から所定の属性における所定数の評価用データを削除して、新たな所定数の評価用データを蓄積してもよい。あるいは、評価用データが算出される都度、評価用DB24から古い評価用データを順次削除して新しい評価用データを評価用DB24に蓄積してもよい。
【0037】
<3.効果>
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)同じ属性における評価用データセットと基準用データセットとのデータセット間には、道路状況の異常度に応じた差が生じる。したがって、同じ属性の評価用データセットと基準データセットとを比較することによって、個々の車両の対処行動が正常な行動範囲に収まっている場合でも、道路状況の異常度を評価することができる。
【0038】
(2)基準データの分布である第1確率分布Pと、評価用データの分布である第2確率分布Qとを比較することによって、道路状況に異常が発生している場合には、個々の車両の対処行動が正常な行動範囲に収まっていても、2つの分布に差が生じる。よって、2つの分布間の非類似度を用いて、道路状況の異常度を適切に検出することができる。
【0039】
(3)基準データセットと評価用データセットとの標本間の距離を用いて、2つの分布間の非類似度が推定される。よって、第1確率分布P及び第2確率分布Qの形状が不明な場合でも、ロバストに異常度を算出することができる。
【0040】
(4)MMDの二乗の標本近似となるように設計されたU-統計量Tn,mが、分布間の非類似度として算出される。U-統計量Tn,mの算出式は簡易なため、実装が容易である。
【0041】
(第2実施形態)
<1.第1実施形態との相違点>
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0042】
前述した第1実施形態では、標本間評価部31の機能を有する異常度算出部30を備えていた。これに対し、第2実施形態では、図5に示すように、異常度算出部30の代わりにパラメータ推定部32とモデル間評価部33の機能を有する異常度算出部30Aを備える点で、第1実施形態と相違する。すなわち、第2実施形態は、図2のS50の処理において、非類似度を算出する方法が第1実施形態と異なる。
【0043】
第1実施形態では、第1確率分布P及び第2確率分布Qの形状を推定することなく、第1確率分布Pと第2確率分布Qの標本間の距離を用いて、非類似度を算出した。これに対して、第2実施形態では、パラメータ推定部32は、第1確率分布Pと第2確率分布Qの形状をモデルによって表現し、第1確率分布Pを表すモデルの有限個のパラメータである第1パラメータと、第2確率分布Qを表すモデルの有限個のパラメータである第2パラメータとを推定する。第1パラメータ及び第2パラメータは、同じ種類のパラメータによって構成されている。
【0044】
パラメータ推定部32は、予め基準データセットから第1パラメータを推定し、推定した第1パラメータを基準DB23に記憶する。すなわち、第1実施形態では、基準DB23には基準データセットが記憶されていたが、本実施形態では、基準DB23には第1パラメータが記憶されている。
【0045】
そして、モデル間評価部33は、推定された第1パラメータ及び第2パラメータのそれぞれによって定義される確率分布間の非類似度を、第1確率分布Pと第2確率分布Qの分布間の非類似度として算出する。ここでは、パラメータ推定部32は、第1確率分布P及び第2確率分布Qを離散確率分布のモデルで表現する。
【0046】
具体的には、パラメータ推定部32は、第1確率分布P及び第2確率分布Qを、ヒストグラムを用いて表現する。この場合、パラメータ推定部32は、第1パラメータ及び第2パラメータとして、それぞれ第1確率分布P及び第2確率分布Qをヒストグラムで表現した場合における正規化したビンの高さを推定する。そして、モデル間評価部33は、分布間の非類似度を、例えば、Kullback-Leibler divergence(以下、KL情報量)として算出する。第1確率分布P及び第2確率分布Qをヒストグラムで表現した場合、KL情報量は次の式(2)により算出される。
【0047】
【数2】
式(2)において、iは確率変数が取り得る離散値のインデックスを表し、Pi,Qiは、第1確率分布P及び第2確率分布Qにおいて、確率変数の値がインデックスiに対応する値を取る確率の値である。すなわち、離散確率分布のモデルをヒストグラムとした場合は、iは、ヒストグラムのビンのインデックスを表し、Pi,Qiは正規化したビンの高さすなわち確率を表す。
【0048】
また、パラメータ推定部32は、第1確率分布P及び第2確率分布Qを連続確率分布のモデルで表現してもよい。具体的には、パラメータ推定部32は、第1確率分布P及び第2確率分布Qを、混合ガウスモデル(以下、GMM)を用いて表現してもよい。この場合、パラメータ推定部32は、第1パラメータ及び第2パラメータとして、第1確率分布P及び第2確率分布QをGMMで表現した場合におけるパラメータを推定する。そして、モデル間評価部33は、第1パラメータと第2パラメータの類似度を、例えば、KL情報量として算出する。第1確率分布P及び第2確率分布Qをヒストグラムで表現した場合、KL情報量は次の式(3)により算出される。
【0049】
【数3】
式(3)において、q(x)は、第1パラメータによって定義される確率分布における変数xの確率を表し、p(x)は、第2パラメータによって定義される確率分布における変数xの確率を表す。
【0050】
<2.効果>
以上説明した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)~(2)に加え、以下の効果が得られる。
【0051】
(5)第1確率分布P及び第2確率分布Qの形状が判明している場合、すなわち、確率分布の特性を示すパラメータの種類が判明している場合は、高精度に異常度を算出することができる。
【0052】
(6)第1確率分布P及び第2確率分布Qをヒストグラムで表現する場合は、大量の運転情報が次々と取得され、特徴量が次々と算出される場合に、高速に処理することができる。
【0053】
(7)第1確率分布P及び第2確率分布Qをヒストグラムで表現する場合、基準データ及び評価用データの次元数が多くなると、高精度に異常度を算出するために必要な標本数が指数的に増加する。これに対して、第1確率分布P及び第2確率分布Qを混合ガウスモデルで表現する場合、基準データ及び評価用データの次元数が多くなっても、ヒストグラムで表現する場合と比べて、比較的少ない標本数で比較的高精度に異常度を算出することができる。
【0054】
(他の実施形態)
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0055】
(a)上記各実施形態では、所定数の評価用データから評価用データセットを構成していたが、これに限定されるものではない。例えば、所定期間に収集された評価用データから評価用データセットを構成してもよい。評価用データを収集する所定期間は例えば20分とし、基準データを収集する期間は例えば一週間とする。
【0056】
(b)上記各実施形態において、各車両の収集部10から検出部20へ、運転情報を車両信号として送信していたが、運転情報の代わりに特徴量を車両信号として送信してもよい。すなわち、特徴量算出部22は、収集部10が備えていてもよい。また、基準DB23及び評価用DB24に運転情報を記憶し、異常度算出部30,30Aが特徴量算出部22の機能を有していてもよい。
【0057】
(c)上記各実施形態において、特徴量として、特許6026959号公報に開示されている運転トピック割合を用いてもよい。
(d)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0058】
(c)上述した異常検出装置の他、当該異常検出装置を構成要素とするシステム、当該異常検出装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、異常検出方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0059】
20…検出部、30…異常度算出部。
図1
図2
図3
図4
図5