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特許7051436溶接性及び加工部耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】溶接性及び加工部耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/02 20060101AFI20220404BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20220404BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20220404BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20220404BHJP
   C23C 2/20 20060101ALI20220404BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C23C2/02
C22C18/00
C22C18/04
C23C2/06
C23C2/20
C23C2/40
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017533974
(86)(22)【出願日】2015-12-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-03-08
(86)【国際出願番号】 KR2015014264
(87)【国際公開番号】W WO2016105163
(87)【国際公開日】2016-06-30
【審査請求日】2017-08-18
【審判番号】
【審判請求日】2020-05-27
(31)【優先権主張番号】10-2014-0188048
(32)【優先日】2014-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2014-0190124
(32)【優先日】2014-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2015-0186014
(32)【優先日】2015-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】オ、 ミン-ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム、 サン-ホン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 テ-チョル
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジョン-サン
(72)【発明者】
【氏名】ユン、 ヒョン-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ユ、 ボン-ファン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 イル-リュン
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-318157(JP,A)
【文献】特開平6-336662(JP,A)
【文献】特開2008-7842(JP,A)
【文献】特表2003-533595(JP,A)
【文献】国際公開第2010/082678号(WO,A1)
【文献】特開平11-50221(JP,A)
【文献】特開平7-216525(JP,A)
【文献】自動車用合金化溶融亜鉛めっき鋼板の開発,日本鉄鋼協会講演論文集 材料とプロセス,社団法人日本鉄鋼協会,1999年 3月 1日,第12巻第1号,CAMP-ISIJ Vol.18(2005)-580
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00- 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鉄及び亜鉛合金めっき層を含む亜鉛合金めっき鋼材であって、
前記亜鉛合金めっき層は、重量%で、Al:0.1~5.0%、Mg:0.1~5.0%、残部Zn及び不可避不純物を含み、
前記素地鉄と前記亜鉛合金めっき層の間には、前記素地鉄上に形成され、緻密な構造を有する下部界面層と、前記下部界面層上に形成され、ネットワーク型またはアイランド型構造を有し、厚さが50~1000nmである上部界面層と、を含み、
前記下部界面層に対する前記上部界面層の面積率は10~90%であり、
前記上部界面層及び前記下部界面層は、FeAl系合金を含み、前記FeAl系合金は、FeAl、FeAl、及びFeAlからなる群より選択された1種または2種以上である、亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項2】
前記下部界面層に対する前記上部界面層の面積率は40~70%である、請求項1に記載の亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項3】
前記上部界面層は、重量%で、Al:15~80%、Fe:20~85%、及びZn:10%以下(0%を含む)を含む、請求項1又は2に記載の亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項4】
前記上部界面層の厚さは75~450nmである、請求項1から3のいずれか1項に記載の亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項5】
前記下部界面層の厚さは500nm以下(0nmを除く)である、請求項1から4のいずれか1項に記載の亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項6】
前記素地鉄は、重量%で、Si、Mn、及びNiからなる群より選択された1種または2種以上を合計0.1%以上含み、
前記上部界面層及び下部界面層は、重量%で、Si、Mn、及びNiからなる群より選択された1種または2種以上を0.001%以上さらに含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項7】
素地鉄を設ける段階と、
前記素地鉄の中心線平均粗さ(Ra)が0.8~1.2μmであり、10点平均粗さ(Rz)が7.5~15.5μmであり、最大高さ粗さ(Rmax)が8~16.5μmとなるように前記素地鉄の表面を不活性ガス雰囲気でRF電源150~200Wの条件下においてプラズマ処理を用いて活性化する段階と、
前記表面活性化した素地鉄を、重量%で、Al:0.1~5.0%、Mg:0.1~5.0%、残部Zn及び不可避不純物を含む亜鉛合金めっき浴に浸漬し、めっきを行って亜鉛合金めっき鋼材を得る段階と、
前記亜鉛合金めっき鋼材をガスワイピングしてから冷却する段階と、を含み、
前記冷却する段階後の前記亜鉛合金めっき鋼材は、前記素地鉄と前記亜鉛合金めっき層の間には、前記素地鉄上に形成され、緻密な構造を有する下部界面層と、前記下部界面層上に形成され、ネットワーク(network)型またはアイランド(island)型構造を有する上部界面層と、を含み、前記下部界面層の面積に対する前記上部界面層の面積率は、10~90%である、亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記不活性ガス雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気、及び窒素とアルゴンの混合ガス雰囲気のいずれかである、請求項に記載の亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記素地鉄は、重量%で、Si、Mn、及びNiからなる群より選択された1種または2種以上を合計0.1%以上含む、請求項7又は8に記載の亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記素地鉄を表面活性化する前に、前記素地鉄を熱処理して、表面酸化物層を形成する段階をさらに含む、請求項に記載の亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理時の熱処理温度は700~900℃である、請求項10に記載の亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接性及び加工部耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陰極防食を用いて鉄の腐食を抑制する亜鉛めっき法は、防食性能及び経済性に優れるため、高耐食特性を有する鋼材を製造するのに広く使用されている。特に、溶融された亜鉛に鋼材を浸漬してめっき層を形成する溶融亜鉛めっき鋼材は、電気亜鉛めっき鋼材に比べて製造工程が単純であり、製品の価格が安価であるため、自動車、家電製品、及び建材などの産業全般にわたってその需要が増加している。
【0003】
亜鉛めっきされた溶融亜鉛めっき鋼材は、腐食環境にさらされたとき、鉄よりも酸化還元電位が低い亜鉛が先に腐食して、鋼材の腐食が抑制される犠牲防食の特性を有する。さらに、めっき層の亜鉛が酸化して鋼材表面に緻密な腐食生成物を形成させ、酸化雰囲気から鋼材を遮断することで、鋼材の耐腐食性を向上させる。
【0004】
しかし、産業高度化に伴い、大気汚染が増加し、腐食環境が悪化しており、資源及びエネルギーの節約に対する厳格な規制により、従来の亜鉛めっき鋼材に比べてさらに優れた耐食性を有する鋼材開発に対する必要性が高まっている。
【0005】
その一環として、亜鉛めっき浴にアルミニウム(Al)及びマグネシウム(Mg)などの元素を添加して鋼材の耐食性を向上させる亜鉛合金系めっき鋼材の製造技術に対する研究が多様に行われている。代表的な亜鉛合金系めっき材としては、Zn-Alめっき材にMgをさらに添加したZn-Al-Mg系亜鉛合金めっき鋼材の製造技術に関する研究が盛んに行われている。
【0006】
ところで、かかるZn-Al-Mg系亜鉛合金めっき鋼材は、以下のような短所を有する。
【0007】
第1に、Zn-Al-Mg系亜鉛合金めっき鋼材には、溶接時に液体金属脆化(LME)割れが発生しやすく、その結果、溶接性が弱いという短所がある。すなわち、かかる亜鉛合金めっき鋼材で溶接する場合、融点の低いZn-Al-Mg系金属間化合物が溶解して素地鉄の結晶粒界などに沿って浸透して、液体金属脆化をもたらすようになる。
【0008】
第2に、Zn-Al-Mg系亜鉛合金めっき鋼材には、加工部耐食性が弱いという短所がある。すなわち、上記亜鉛合金めっき鋼材は、めっき層内のZn、Al、及びMgの熱力学的相互反応によって形成されたZn-Al-Mg系金属間化合物を多量含んでいるが、かかる金属間化合物は硬度が高いため曲げ加工時にめっき層内にクラックをもたらし、その結果、加工部耐食性が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明のいくつかの目的の一つは、溶接性及び加工部耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、素地鉄及び亜鉛合金めっき層を含む亜鉛合金めっき鋼材であって、上記亜鉛合金めっき層は、重量%で、Al:0.1~5.0%、Mg:0.1~5.0%、残部Zn及び不可避不純物を含み、上記素地鉄と上記亜鉛合金めっき層の間には、上記素地鉄上に形成され、緻密な構造を有する下部界面層と、上記下部界面層上に形成され、ネットワーク型またはアイランド型構造を有する上部界面層と、を含む亜鉛合金めっき鋼材を提供する。
【0011】
本発明の他の一側面は、素地鉄を設ける段階と、上記素地鉄を表面活性化する段階と、上記表面活性化した素地鉄を、重量%で、Al:0.1~5.0%、Mg:0.1~5.0%、残部Zn及び不可避不純物を含む亜鉛合金めっき浴に浸漬し、めっきを行って亜鉛合金めっき鋼材を得る段階と、上記亜鉛合金めっき鋼材をガスワイピングしてから冷却する段階と、を含む亜鉛合金めっき鋼材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による亜鉛合金めっき鋼材には、溶接性に非常に優れるだけでなく、加工部耐食性に非常に優れるという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の発明例1による亜鉛合金めっき鋼板の界面層を観察したSEM画像である。
図2】実施例1の比較例1による亜鉛合金めっき鋼板の界面層を観察したSEM画像である。
図3】実施例2の試験片番号1による亜鉛合金めっき鋼板の界面層を観察したSEM画像である。
図4】実施例2の試験片番号2による亜鉛合金めっき鋼板の界面層を観察したSEM画像である。
図5】実施例2の試験片番号3による亜鉛合金めっき鋼板の界面層を観察したSEM画像である。
図6】実施例2の試験片番号4による亜鉛合金めっき鋼板の界面層を観察したSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一側面による溶接性及び加工部耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材について詳細に説明する。
【0015】
本発明の一側面による亜鉛合金めっき鋼材は、素地鉄及び亜鉛合金めっき層を含む。本発明では、上記素地鉄の種類については特に限定されず、例えば、鋼板または鋼線材であってもよい。一方、亜鉛合金めっき層は、素地鉄の一面または両面に形成されることができる。
【0016】
また、本発明では、素地鉄の合金組成についても特に限定しない。但し、素地鉄がSi、Mn、及びNiからなる群より選択された1種または2種以上の表面濃化元素を合計0.1重量%以上含む場合、上記素地鉄内の表面濃化元素のうち一部が素地鉄とめっき層の間に形成される上部界面層及び下部界面層に固溶(合計0.001重量%以上)するため、本発明の効果をより高めることができる。
【0017】
亜鉛合金めっき層は、重量%で、Al:0.1~5.0%、Mg:0.1~5.0%、残部Zn及び不可避不純物を含むことが好ましい。
【0018】
亜鉛合金めっき層内のMgは、めっき鋼材の耐食性を向上させる役割を果たす元素である。Mgの含有量が低すぎる場合、耐食性の向上効果がわずかであるという問題がある。したがって、亜鉛合金めっき層内のMgの含有量の下限は、0.1重量%であることが好ましく、0.5重量%であることがより好ましく、0.8重量%であることがさらに好ましい。但し、Mgの含有量が高すぎる場合は、めっき浴内にMg酸化によるドロスが発生するという問題がある。したがって、亜鉛合金めっき層内のMgの含有量の上限は、5.0重量%であることが好ましく、3.0重量%であることがより好ましく、2.0重量%であることがさらに好ましい。
【0019】
亜鉛合金めっき層内のAlは、Mg酸化物によるドロスを抑える役割を果たす元素である。Alの含有量が低すぎる場合、めっき浴内のMg酸化を防止する効果がわずかである。したがって、亜鉛合金めっき層内のAlの含有量の下限は、0.1重量%であることが好ましく、0.5重量%であることがより好ましく、0.8重量%であることがさらに好ましい。但し、Alの含有量が高すぎる場合、めっき浴の温度を高めなければならないという問題がある。しかし、めっき浴の温度が高いと、めっき設備に浸食などをもたらすようになる。したがって、亜鉛合金めっき層内のAlの含有量の上限は、5.0重量%であることが好ましく、3.0重量%であることがより好ましく、2.0重量%であることがさらに好ましい。
【0020】
素地鉄と亜鉛合金めっき層の間には、上記素地鉄上に形成され、緻密な構造を有する下部界面層と、上記下部界面層上に形成され、ネットワーク型またはアイランド型構造を有する上部界面層と、を含むことが好ましい。
【0021】
上記のように二重構造の界面層を形成させることにより、亜鉛合金めっき鋼材の点溶接時に主に問題となるLME(液体金属脆化)割れの発生を効果的に抑制することができ、曲げ加工により亜鉛合金めっき層の表面にクラックが発生しても、素地鉄自体が外部に露出することを効果的に防止することにより、曲げ加工性を向上させることができる。
【0022】
一例によると、下部界面層に対する上部界面層の面積率は、10~90%であることができ、好ましくは20~80%であることができ、より好ましくは40~70%であることができ、最も好ましくは、45~65%であることができる。ここで、面積率とは、鋼材を厚さ方向に上部から投影して見たとき、3次元的な屈曲などを考慮することなく平面を想定する場合における下部界面層の面積に対する上部界面層の面積の比のことである。上部界面層の面積率が10%未満の場合は、上部界面層の面積が小さすぎるため、亜鉛合金めっき鋼材の溶接性及び加工部耐食性が劣化するおそれがある。一方、90%を超えると、加工時の脆性が原因でクラックが発生するおそれがある。
【0023】
ここで、上記のような二重構造の界面層が形成されているかどうかは、次のような方法により確認することができる。すなわち、上記二重構造の界面層は、上述のとおり、素地鉄と亜鉛合金めっき層の界面に存在するため、亜鉛合金めっき層を除去しなければ、その構造などを確認することが難しくなる。したがって、上記二重構造の界面層を損傷させることなく、その上部の亜鉛合金めっき層だけを化学的に溶解させることができるクロム酸溶液に亜鉛合金めっき鋼材を30秒間浸漬して亜鉛合金めっき層のすべてを溶解させた後、このように残った界面層に対して走査型電子顕微鏡(SEM)で写真撮影し、写真を分析して二重構造の界面層が形成されているかどうかを確認し、各界面層の厚さを測定することができる。この際、上記クロム酸溶液を製造するための一例として、蒸留水1リットルにCrO 200g、ZnSO 80g、及びHNO 50gを混合して製造することができる。一方、後述の各界面層の組成は、EDS(エネルギー分散分光法)を用いて分析することができ、上部界面層の面積率は、画像解析器を用いて測定することができる。
【0024】
一例によると、上部界面層及び下部界面層は、FeAl系合金を含み、上記FeAl系合金は、FeAl、FeAl、及びFeAlからなる群より選択された1種または2種以上であってもよい。ここで、上部界面層及び下部界面層がFe-Al系合金を含むとは、主成分(約80重量%以上)としてFe-Al系合金を含むことを意味し、その他の有効な成分及び不可避不純物を含有することを排除するものではない。
【0025】
一例によると、上部界面層は、重量%で、Al:15~80%、Fe:20~85%、及びZn:10%以下(0%を含む)を含むことができ、より好ましくはAl:15~60%、Fe:40~80%、及びZn:10%以下(0%を含む)を含むことができ、さらに好ましくはAl:20~40%、Fe:60~80%、及びZn:10%以下(0%を含む)を含むことができる。
【0026】
通常、亜鉛系めっき層と素地鉄の界面に形成される界面層内のAlの含有量は、約10重量%前後の値を示すが、本発明による亜鉛合金めっき鋼材は、上部界面層内に含まれるAlの含有量がやや高いことを特徴とする。上記上部界面層内のAlの含有量が15%未満の場合は、LME割れを低減させる効果が不十分となるおそれがある。これに対し、80%を超えると、脆性が原因で加工時にクラックが発生するおそれがある。
【0027】
一例によると、上記上部界面層の厚さは、50~1000nmであることができ、好ましくは70~800nmであることができ、より好ましくは75~450nmであることができ、さらに好ましくは90~420nmであることができる。上部界面層の厚さが50nm未満の場合は、溶接時にLME割れを低減させる効果が不十分となるおそれがある。これに対し、1000nmを超えると、加工時に逆にクラックの面積が広くなるおそれがある。
【0028】
一例によると、上記下部界面層の厚さは、500nm以下(0nmは除く)であることができ、より好ましくは300nm以下(0nmは除く)であることができ、さらに好ましくは100nm以下(0nmは除く)であることができる。上記下部界面層は、上記上部界面層とは異なり、素地鉄の前面の表面を均一に覆う必要があるが、下部界面層の厚さが500nmを超えると、下部界面層が素地鉄の表面を均一に覆わない可能性が大きくなる。一方、下部界面層が素地鉄の表面を均一に覆っていることを前提とすると、その厚さが薄いほど一般的に均一性は増加するため、その下限については特に限定しない。
【0029】
上述のとおり、本発明による亜鉛合金めっき鋼材は、様々な方法で製造されることができ、その製造方法は特に制限されない。但し、その一具現例として、次のような方法により製造することができる。
【0030】
以下、本発明の他の一側面による溶接性及び加工部耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材の製造方法について詳細に説明する。
【0031】
「表面活性化段階」
素地鉄を設けた後、上記素地鉄の表面活性化を行う。本段階は、素地鉄と亜鉛合金めっき層の間に二重構造のFe-Al系合金層をより容易に形成するために行う段階である。
【0032】
一例によると、表面活性化した素地鉄の中心線平均粗さ(Ra)は、0.8~1.2μmであることができ、より好ましくは0.9~1.15μmであることができ、さらに好ましくは1.0~1.1μmであることができる。ここで、中心線平均粗さ(arithmetical average roughness、Ra)は、中心線(centerline、arithmetical meanline of profile)から断面曲線までの平均高さを意味する。
【0033】
また、一例によると、表面活性化した素地鉄の10点平均粗さ(Rz)は、7.5~15.5μmであることができる。ここで、10点平均粗さ(tenpoint median height、Rz)は、基準長さだけを切り取った(cut-off)部分の粗さ曲線(roughness profile)において、最も高いところから3番目の峰と最も低いところから3番目の谷をそれぞれ通過し、中心線に平行する平行線の間の距離のことである。
【0034】
また、一例によると、表面活性化した素地鉄の最大高さ粗さ(Rmax)は、8~16.5μmであることができる。ここで、最大高さ粗さ(maximum height roughness、Rmax)は、基準長さだけを切り取った(cut-off)部分の粗さ曲線(roughness profile)において、中心線(centerline、arithmetical mean line of profile)に平行し、かかる曲線の最高点と最低点を通過する二つの平行線の間の上下距離のことである。
【0035】
素地鉄の表面粗さ(Ra、Rz、Rmax)を、上記のような範囲に制御する場合、素地鉄とめっき液の間の反応がより活発に起こるため、二重構造の界面層をより容易に形成させることができる。
【0036】
本発明では、素地鉄の表面を活性化する方法については、特に限定しないが、例えば、プラズマ処理またはエキシマレーザー処理を用いることができる。プラズマ処理またはエキシマレーザー処理時の具体的な工程条件については特に限定せず、素地鉄の表面を上記のような範囲で活性化させることができる程度であれば、いかなる装置及び/または条件も適用することができる。
【0037】
但し、素地鉄の表面を活性化するためのより好ましい例としては、次のような方法を用いることができる。
【0038】
素地鉄の表面活性化は、RF電源150~200Wの条件下においてプラズマ処理することができる。RF電源を上記のような範囲に制御する場合、下部界面層に対する上部界面層の面積率を最適化することができ、これにより、非常に優れた溶接性及び加工部耐食性を確保することができる。
【0039】
また、素地鉄の表面活性化は、不活性ガス雰囲気において行うことができる。この場合、不活性ガス雰囲気は、窒素ガス雰囲気またはアルゴンガス雰囲気のいずれか一方であることができる。このように不活性ガス雰囲気下において表面活性化を行う場合、素地鉄の表面に存在する酸化膜が除去されて、めっき液と素地鉄の反応性がより向上し、素地鉄と亜鉛合金めっき層の間に二重構造のFe-Al系合金層をより容易に形成することができる。
【0040】
「表面酸化物層を形成する段階」
素地鉄を熱処理してその表面に表面酸化物層を形成する。但し、本段階は、素地鉄が、重量%で、Si、Mn、及びNiからなる群より選択された1種または2種以上を合計0.1%以上含む場合、上記Si、Mn、及びNiの表面濃化を誘導して、後工程により形成される界面層内に上記Si、Mn、及びNiが十分に固溶されるようにするためのものである。但し、本段階は必須ではない。
【0041】
一方、本段階は、めっき鋼材を得る段階の前に行われるのであれば、工程の順序は特に制限されない。例えば、素地鉄を表面活性化した後、表面活性化した素地鉄に表面酸化物層を形成してもよく、表面酸化物層を形成した後、表面酸化物層が形成された素地鉄を表面活性化してもよい。
【0042】
一例によると、上記熱処理時の熱処理温度は、700~900℃であることができ、より好ましくは750~850℃であることができる。熱処理温度が700℃未満の場合は、その効果が十分でなくなるおそれがある。これに対し、900℃を超えると、工程の効率が低下するおそれがある。
【0043】
「亜鉛合金めっき鋼材を得る段階」
表面活性化した素地鉄、または表面が活性化し、表面酸化物層が形成された素地鉄を、重量%で、Al:0.1~5.0%、Mg:0.1~5.0%、残部Zn及び不可避不純物を含む亜鉛合金めっき浴に浸漬し、めっきを行って亜鉛合金めっき鋼材を得る。
【0044】
この際、めっき浴の温度は、通常のめっき浴の温度を適用することができる。一般に、めっき浴内の成分のうちAlの含有量が高くなると、融点が高くなるため、めっき浴の内部設備が浸食して装備の寿命短縮を招くだけでなく、めっき浴内のFe合金ドロースが増加してめっき材の表面を不良とする可能性がある。ところで、本発明では、Alの含有量を0.5~3.0重量%と比較的低く制御するため、めっき浴の温度を高く設定する必要がなく、通常のめっき浴の温度を適用することが好ましい。例えば、430~480℃であることができる。
【0045】
次に、亜鉛合金めっき鋼材をガスワイピング処理してめっき付着量を調節する。上記ガスワイピング処理は、めっき付着量を調節するためのものであり、その方法については特に限定されるものではない。この際、用いられるガスとしては、空気または窒素を用いることができ、このうち窒素を用いることがより好ましい。これは、空気を用いると、めっき層の表面にMgが優先的に酸化して、めっき層の表面欠陥をもたらす原因となりかねないためである。
【0046】
その後、上記めっき付着量を調節した亜鉛合金めっき鋼材を冷却する。本発明では、上記冷却時の冷却速度及び冷却終了温度は特に限定せず、通常の冷却条件を用いることができる。一方、上記冷却時に、冷却方法についても特に限定せず、例えば、エアジェットクーラーを用いるか、またはNワイピングまたは水霧などを噴霧することにより冷却を行うことができる。
【0047】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して具体化するためのものであるだけであり、本発明の範囲を制限するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載された事項とそこから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【実施例
【0048】
(実施例1)
めっき用試験片として厚さ0.8mm、幅100mm、及び長さ200mmの低炭素冷延鋼板を設けた後、その表面をプラズマ処理して表面活性化した。ここで、表面活性化した素地鉄のRa、Rz、及びRmaxは下記表1に示した。その後、上記表面活性化した素地鉄を下記表1の組成を有する亜鉛合金めっき浴に浸漬して亜鉛合金めっき鋼材を製造した。続いて、上記亜鉛合金めっき鋼材をガスワイピングしてめっき付着量を片面当たり70g/mに調節し、10℃/secの平均冷却速度で常温(約25℃)まで冷却した。
【0049】
次に、製造されたそれぞれの亜鉛合金めっき鋼材の界面層の組成、厚さ、及び面積率などを測定し、その結果を下記表1にすべて示した。その測定方法は、上述のとおりである。
【0050】
その後、製造されたそれぞれの亜鉛合金めっき鋼材の溶接性及び加工部耐食性を評価し、その結果を下記表2に示した。
【0051】
溶接性は、次のような方法により評価した。
先端径6mmであるCu-Cr電極を用いて溶接電流7kAを流し、加圧力2.1kNで11 Cycles(ここで、1 Cycleとは1/60秒を意味する、下同)の通電時間及び11 Cyclesの保持時間の条件で溶接を行った。それぞれの実施例において、合計5つの試験片を製作し、5つの試験片で発生したすべてのLME割れの長さを測定し、平均LME割れの長さ及び最高LME割れの長さを導出した。その結果、平均LME割れの長さが20μm以下の場合を「合格」、20μmを超えた場合を「不合格」と評価した。また、最高LME割れの長さが100μm以下の場合を「合格」、100μmを超えた場合を「不合格」と評価した。
【0052】
加工部耐食性は、次のような方法により評価した。
それぞれのめっき鋼材を180℃曲げ加工(0T曲げ)した後、曲げ加した個々のめっき鋼板を塩水噴霧試験機に装入し、国際規格(ASTM B117-11)により赤の発生時間を測定した。この際、塩水5%(温度35℃、pH 6.8)を用いており、1時間当たり2ml/80cmの塩水を噴霧した。赤の発生時間が500時間以上の場合を「合格」、500時間未満の場合を「不合格」と評価した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1及び表2を参照すると、本発明の条件をすべて満たす発明例1の場合は、平均LME割れの長さが20μm以下であり、最高のLME割れの長さが100μm以下であることから、溶接性に優れるだけでなく、赤の発生時間が500時間以上であることから、加工部耐食性に非常に優れることが確認できる。これに対し、比較例1及び2は、二重構造の界面層が形成されないため、溶接性及び加工部耐食性が弱いことが確認できる。
【0056】
一方、図1は、実施例1の発明例1による亜鉛合金めっき鋼板の界面層を観察したSEM画像であり、図2は、実施例1の比較例1による亜鉛合金めっき鋼板の界面層を観察したSEM画像である。
【0057】
(実施例2)
プラズマ処理条件による上部界面層の面積率などの変化、及びそれに伴う亜鉛合金めっき鋼材の溶接性及び加工部耐食性を評価するために、他の条件は実施例1と同一にし、めっき浴の組成(Al:1.4重量%、Mg:1.4重量%、及び残部Zn)及びプラズマ処理条件だけを異ならせて亜鉛合金めっき鋼材を製造した。それぞれの例におけるプラズマ処理条件は表3に示した。
【0058】
次に、製造されたそれぞれの亜鉛合金めっき鋼材の界面層の組成、厚さ、及び面積率などを測定し、その結果を下記表3にすべて示した。その測定方法は、上述のとおりである。
【0059】
その後、製造されたそれぞれの亜鉛合金めっき鋼材の溶接性及び加工部耐食性を評価し、その結果を下記表4に示した。その評価方法は、上述のとおりである。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
表3及び表4を参照すると、上部界面層の面積率を40~70%で制御した試験片3及び4の場合は、他の試験片と比較すると、溶接性及び加工部耐食性が格段に優れることが確認できる。
【0063】
一方、図3は、実施例2の試験片番号1による亜鉛合金めっき鋼板の界面層を観察したSEM画像であり、図4は、実施例2の試験片番号2による亜鉛合金めっき鋼板の界面層を観察したSEM画像であり、図5は、実施例2の試験片番号3による亜鉛合金めっき鋼板の界面層を観察したSEM画像であり、図6は、実施例2の試験片番号4による亜鉛合金めっき鋼板の界面層を観察したSEM画像である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6