(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G09F 9/00 20060101AFI20220404BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20220404BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
G09F9/00 342
G02F1/13 101
G09F9/30 317
(21)【出願番号】P 2018001742
(22)【出願日】2018-01-10
【審査請求日】2020-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】川中子 寛
(72)【発明者】
【氏名】渡部 一史
【審査官】石本 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-130487(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136259(WO,A1)
【文献】特開2005-262529(JP,A)
【文献】特開2008-093930(JP,A)
【文献】特開昭62-104747(JP,A)
【文献】特開平11-160652(JP,A)
【文献】国際公開第2009/102079(WO,A1)
【文献】特開2000-147540(JP,A)
【文献】特開平09-277426(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0204183(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
G02F1/13
1/137-1/141
G09F9/00-9/46
H01L27/32
51/50
H05B33/00-33/28
45/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板の上に画素が形成された表示装置の製造方法であって、
ガラス基板上に、赤外線反射効果を有する透明導電膜からなる第1の層を形成し、
その上に、赤外線吸収効果を有する金属酸化物からなる第2の層を形成し、
その上に樹脂材料を塗布し、
前記樹脂材料側から、波長1.5ミクロン以上の赤外線を照射して、前記樹脂基板を形成し、
前記樹脂基板に前記画素を形成した後、前記ガラス基板を除去することを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂基板をポリイミドで形成することを特徴とする、請求項1に記載の表示装置
の製造方法。
【請求項3】
前記第2の層を、アルミニウム酸化膜で形成することを特徴とする、請求項1に記載の表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記第2の層の厚さを、10nm乃至100nmとすることを特徴する、請求項1に記載の表示装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1の層を、ITOで形成することを特徴とする、請求項1に記載の表示装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1の層の厚さを、50nm乃至150nmとすることを特徴する、請求項1に記載の表示装置の製造方法。
【請求項7】
第1の樹脂基板の上に第2の樹脂基板が積層され、前記第2の
樹脂基板に画素が形成された表示装置の製造方法であって、
ガラス基板上に、赤外線反射効果を有する第1の透明導電膜からなる第1の層を形成し、
その上に、赤外線吸収効果を有する第1の金属酸化物からなる第2の層を形成し、
その上に第1の樹脂材料を塗布し、
前記第1の樹脂材料側から、波長1.5ミクロン以上の第1の赤外線を照射して、前記第1の樹脂基板を形成し、
前記第1の樹脂基板の上に赤外線反射効果を有する第2の透明導電膜からなる第3の層を形成し、
その上に、赤外線吸収効果を有する第2の金属酸化物からなる第4の層を形成し、
その上に第2の樹脂材料を塗布し、
前記第2の樹脂材料側から、波長1.5ミクロン以上の第2の赤外線を照射して、前記第2の樹脂基板を形成し、
前記第2の樹脂基板に前記画素を形成した後、前記ガラス基板を除去することを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項8】
前記第1の樹脂基板と前記第2の樹脂基板をポリイミドで形成することを特徴とする請求項7に記載の表示装置
の製造方法。
【請求項9】
前記第2の層と前記第4の層を、アルミニウム酸化膜で形成することを特徴とする、請求項7に記載の表示装置の製造方法。
【請求項10】
前記第2の層と前記第4の層の厚さを、10nm乃至100nmとすることを特徴する、請求項7に記載の表示装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1の層と前記第3の層を、ITOで形成することを特徴とする、請求項7に記載の表示装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1の層と前記第3の層の厚さを、50nm乃至150nmとすることを特徴する、請求項7に記載の表示装置の製造方法。
【請求項13】
前記第1の樹脂基板の上にシリコン酸化膜を形成し、その後、前記第3の層を形成することを特徴とする、請求項7に記載の表示装置の製造方法。
【請求項14】
前記第2の樹脂基板の厚さは、前記第1の樹脂基板の厚さよりも小さいことを特徴とする、請求項7に記載の表示装置の製造方法。
【請求項15】
第1の樹脂基板の上に第2の樹脂基板が積層され、前記第2の
樹脂基板に画素が形成された表示装置の製造方法であって、
ガラス基板上に、赤外線反射効果を有する透明導電膜からなる第1の層を形成し、
その上に、赤外線吸収効果を有する金属酸化物からなる第2の層を形成し、
その上に第1の樹脂材料を塗布し、
前記第1の樹脂材料側から、波長1.5ミクロン以上の赤外線を照射して、前記第1の樹脂基板を形成し、
その後、前記第2の樹脂基板を形成し、
前記第2の樹脂基板の上に前記画素を形成し、
その後、前記ガラス基板を除去することを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項16】
第1の樹脂基板の上に第2の樹脂基板が積層され、前記第2の
樹脂基板に画素が形成された表示装置の製造方法であって、
ガラス基板上に前記第1の樹脂基板を形成し、
前記第1の樹脂基板の上に、赤外線反射効果を有する透明導電膜からなる第1の層を形成し、
その上に、赤外線吸収効果を有する金属酸化物からなる第2の層を形成し、
その上に第2の樹脂材料を塗布し、
前記第2の樹脂材料側から、波長1.5ミクロン以上の赤外線を照射して、前記第2の樹脂基板を形成し、
前記第2の樹脂基板の上に前記画素を形成し、
その後、前記ガラス基板を除去することを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項17】
前記第1の
樹脂基板と前記第2の
樹脂基板をポリイミドで形成することを特徴とする請求項15または16に記載の表示装置の製造方法。
【請求項18】
前記第2の層を、アルミニウム酸化膜で形成することを特徴とする、請求項15または16に記載の表示装置の製造方法。
【請求項19】
前記第1の層を、ITOで形成することを特徴とする、請求項15または16に記載の表示装置の製造方法。
【請求項20】
前記第2の樹脂基板の厚さは、前記第1の樹脂基板の厚さよりも小さいことを特徴とする、請求項15または16に記載の表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示装置に係り、特に基板を湾曲させることができるフレキシブル表示装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置や液晶表示装置は表示装置を薄くすることによって、湾曲させて使用することができる。また、基板をポリイミド等の樹脂によって形成することによってフレキシブルな表示装置とすることができる。
【0003】
樹脂で形成された基板には、導電層、絶縁層、保護層、電極層等多くの膜が積層される。このように多数の膜を形成する場合、光の透過率が問題になる。特許文献1には、金属層と誘電体層を交互に重ねあわせた積層体によるNDF(Neutral Density Filter)が記載されている。
【0004】
ITO(Indium Tin Oxide)等の金属酸化物導電膜は可視光では透明であるが、赤外線等に対しては反射膜になり得る。ITOの透過率、あるいは、反射率の波長依存性について、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-54543号公報
【文献】特開平11-160652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フレキシブル表示装置に用いられる樹脂基板は10μm乃至20μmである。このような薄い基板は、例えば、ガラス基板上に液体状の樹脂を塗布し、焼成して、樹脂基板にする。そして、樹脂基板は、ガラス基板とともに製造工程を通り、表示パネルとして完成した後、ガラス基板が樹脂基板から剥離され、フレキシブル表示装置が完成する。
【0007】
このようなプロセスでは、次のような問題点がある。すなわち、樹脂基板は、液体状の前駆体をガラス基板上に塗布し、これを熱硬化させて形成する。この熱硬化に非常に長い時間を要する。また、マザー基板が大きくなると、場所ごとの熱硬化のむらが生じやすい。特に、樹脂基板を厚くすると、この問題が生じやすい。
【0008】
さらに、熱硬化するさい、熱硬化時の基板の温度分布によっては、ガラス基板と樹脂基板との熱膨張の差によって、ガラス基板と樹脂基板が組み合わさった状態においても基板が変形する。基板が変形すると、製造プロセスを通過させることが困難になる。
【0009】
本発明の課題は、以上のような問題点を克服し、品質が安定した表示装置を高いスループットで形成することを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を克服するものであり、代表的な手段は次のとおりである。
【0011】
(1)樹脂基板に画素が形成された表示装置であって、前記樹脂基板の前記画素とは逆側の面に金属酸化物からなる第1の層が形成され、前記第1の層の上に透明導電膜からなる第2の層が形成されていることを特徴とする表示装置。
【0012】
(2)樹脂で形成された第1の基板の上に樹脂で形成された第2の基板が積層された構成を有し、前記第2の基板に画素が形成された表示装置であって、前記第1の基板の前記第2の基板と逆側の面に金属酸化物からなる第1の層が形成され、前記第1の層の上に透明導電膜からなる第2の層が形成され、前記第2の基板の前記第1の基板側の面に金属酸化物からなる第3の層が形成され、前記第3の層の上に透明導電膜からなる第4の層が形成されていることを特徴とする表示装置。
【0013】
(3)樹脂で形成された第1の基板の上に樹脂で形成された第2の基板が積層された構成を有し、前記第2の基板に画素が形成された表示装置であって、前記第1の基板の前記第2の基板と逆側の面に金属酸化物からなる第1の層が形成され、前記第1の層の上に透明導電膜からなる第2の層が形成されているか、または、前記第2の基板の前記第1の基板側の面に金属酸化物からなる第1の層が形成され、前記第1の層の上に透明導電膜からなる第2の層が形成されていることを特徴とする表示装置。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】本発明において、TFT基板からガラス基板を分離している状態を示す断面図である。
【
図4】ガラス基板の上に赤外線反射層を形成した状態を示す断面図である。
【
図5】赤外線反射層の上に赤外線吸収層を形成した状態を示す断面図である。
【
図6】赤外線吸収層の上にポリアミック酸を塗布した状態を示す断面図である。
【
図7】ポリアミック酸を加熱してポリイミドを形成するための温度プロファイルである。
【
図8】本発明により、ポリアミック酸を加熱するメカニズムを示す断面図である。
【
図9】TFT基板からガラス基板を分離するためにレーザを照射している状態を示す断面図である。
【
図10】TFT基板からガラス基板を除去した状態を示す断面図である。
【
図11】ガラス基板の上に剥離層を形成した状態を示す断面図である。
【
図12】剥離層の上に赤外線反射層、赤外線吸収層、ポリイミドを形成した状態を示す断面図である。
【
図13】剥離層にレーザを照射している状態を示す断面図である。
【
図14】剥離層からガラス基板を分離した状態を示す断面図である。
【
図16】実施例2において、ガラス基板をTFT基板から除去するために、レーザを照射している状態を示す断面図である。
【
図17】ガラス基板の上に第1TFT基板を形成し、その上に酸化シリコンの層を形成した状態の断面図である。
【
図18】酸化シリコン層の上に第2赤外線反射層及び第2赤外線吸収層を形成した状態の断面図である。
【
図19】第2赤外線吸収層の上に、第2TFT基板を形成するためのポリアミック酸を塗布した状態を示す断面図である。
【
図20】ポリアミック酸を加熱して、第2TFT基板を形成している状態を示す断面図である。
【
図25】実施例3における、赤外線吸収層の形成範囲の例を示す平面図である。
【
図28】実施例3における、赤外線吸収層と赤外線反射層の形成範囲の他の例を示す平面図である。
【
図30】実施例3における、赤外線吸収層と赤外線反射層の形成範囲のさらに他の例を示す平面図である。
【
図32】本発明による液晶表示装置の平面図である。
【
図34】本発明による液晶表示パネルの断面図である。
【
図35】ガラス基板を分離するために、レーザを照射している状態を示す断面図である。
【
図36】ITOの透過率、反射率、吸収率を示すグラフである。
【
図37】各種の金属酸化物における赤外線に対する吸収特性を示す表である。
【
図38】アルミニウム原子とポリイミドの結合を示す構造図である。
【
図39】ガラスの透過率の分光特性の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に実施例を用いて本発明の内容を詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明が適用される有機EL表示装置の平面図である。本発明の有機EL表示装置は、フレキシブルに湾曲させることが出来る表示装置である。したがって、TFT(Thin Film Transistor)、走査線、電源線、映像信号線、画素電極、有機EL発光層等が形成されているTFT基板100は樹脂で形成されている。
【0017】
図1において、表示領域90の両側には走査線駆動回路80が形成されている。表示領域90には、横方向(x方向)に走査線91が延在し、縦方向(y方向)に配列している。映像信号線92及び電源線93が縦方向に延在し、横方向に配列している。走査線91と、映像信号線92及び電源線93で囲まれた領域が画素95となっており、画素95内には、TFTで形成された駆動トランジスタ、スイッチングトランジスタ、光を発光する有機EL発光層等が形成されている。
【0018】
図2は
図1のA-A断面図である。
図2において、TFT基板100は樹脂で形成されている。樹脂の中でもポリイミドは、耐熱性、機械的強度等から、表示装置の基板としては優れた特性を有している。したがって、以後は、TFT基板100を構成する樹脂としては、ポリイミドを前提として説明するが、本発明は、ポリイミド以外の樹脂でTFT基板100を構成した場合にも適用することが出来る。TFT基板100の厚さは例えば10乃至20μmである。
【0019】
TFT基板100の上には、TFT回路層101が形成されている。TFT回路層101は、走査線、映像信号線、電源線、光を発光する有機EL層、画素電極としてのアノード、共通電極としてのカソード等を含む層である。TFT回路層101を覆って保護層102が形成されている。有機EL層は、水分等によって特性が変動するので、保護層102は、外部からの水分の侵入を防止し、また、有機EL層を機械的に保護する。
【0020】
保護層102の上には、円偏光板103が貼り付けられている。TFT回路層101には、反射電極が形成されているので、これが外光を反射する。円偏光板103は、外光の反射を防止して、視認性を向上させる。
【0021】
図2において、TFT基板100の下には、金属酸化物で形成される赤外線吸収層12が形成され、その下には透明導電膜による赤外線反射層11が形成されている。なお、透明導電膜といっても、例えばITO(Indium Tin Oxide)等は、
図36に示すように、波長1.5μm以上の赤外線に対しては、良好な反射体となる。また、金属酸化物は、
図37に示すように、赤外線に対しては、良好な吸収体となる。赤外線吸収層12と赤外線反射層11の存在が本発明の特徴になっている。ポリイミド基板は、ガラス基板の上に塗布されたポリイミドの材料としてのポリアミック酸を含む液体(以後単にポリアミック酸という)を加熱、焼成することによって形成される。ポリイミドは焼成に時間を要し、通常のオーブンで焼成すると、4乃至8時間を必要とする。本発明は、加熱時間の短縮と、加熱の均一性を確保するために、赤外線加熱を用いる。本発明において、赤外線吸収層12と赤外線反射層11は重要な役割を有している。
【0022】
ところで、ポリイミドによる基板は、10乃至20μmであり、フレキシブルであるために、単独では製造工程を通すことが出来ない。そこで、ガラス基板500の上に形成されたポリイミド基板100をガラス基板500とともに製造工程を通過させる。そして、
図3に示すように、表示装置が完成した後、TFT基板100とガラス基板500の境界にレーザ(LB)を照射して、分離する。本発明においては、
図3に示すように、レーザ(LB)をガラス基板500と赤外線反射層11の境界に照射して、赤外線反射層11をガラス基板500から剥離することによって、TFT基板100とガラス基板500を分離する。
【0023】
図3は、
図2の構成を形成するプロセスを示す断面図である。
図3において、ガラス基板500の上にポリイミドによってTFT基板100を形成するが、本発明は、TFT基板100を形成する前に、ガラス基板500上に赤外線反射層11としての透明導電膜を形成し、その上に赤外線吸収層12としての金属酸化物を形成する。
【0024】
図3において、赤外線吸収層12の上にポリイミド基板100が形成されている。ポリイミド基板100は、前駆体であるポリアミック酸をスリットコータ等で塗布し、焼成したものである。ポリイミド基板100の上に、有機EL表示装置の本質部分を構成するTFT回路層101が形成されている。TFT回路層101の構成は
図2で説明したとおりである。その後、保護層102を形成し、円偏光板103を貼り付ける。
【0025】
図3に示すように、フレキシブル表示装置の製造工程では、ガラス基板500の上に種々の要素が形成される。ガラス基板500は、市場で容易に調達可能な0.5mm、あるいは、0.7mmの厚さのものが使用される。しかし、フレキシブル表示装置が形成された後は、ガラス基板500を除去する必要がある。
図3において、レーザ(LB)を透明導電膜で形成される赤外線吸収層11とガラス基板500の境界に照射し、いわゆるレーザアブレーションによってガラス基板500と赤外線反射層11を剥離し、TFT基板100とガラス基板500を分離する。
【0026】
図4乃至
図10は、ポリイミドによるTFT基板100の形成からガラス基板500を分離するまでの工程を示す断面図である。なお、有機EL表示装置、あるいは、液晶表示装置は、個々の表示装置を単独で形成したのでは、効率が悪いので、マザー基板に多くの表示パネルを形成し、その後分離することが行われる。以後の説明は、個々の表示領域の場合について行うが、マザー基板の場合も同様である。
【0027】
図4は、ガラス基板500の上に赤外線反射層としての透明導電膜11を形成した状態を示す断面図である。本発明では、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を焼成するために、加熱効率及び制御のしやすさから赤外線加熱を行う。ポリアミック酸は赤外線の吸収率は低い。一方、ガラスの赤外線吸収率は、可視光に対する吸収率よりも高いものの、依然として低い。
図39は厚さ1/8インチ(3.17mm)のソーダのガラスの透過率である。波長2.0μmの赤外線に対しては透過率は約90%であるが、2.7μmを超えると、透過率は急激に低下して30%程度になる。これを、表示装置形成のプロセスで使用される厚さ0.5mmのガラスに換算すると、透過率は85%であり、波長2.7μm以上の赤外線を用いても殆ど透過してしまう。つまり、加熱効果は低い。
【0028】
そこで、本発明では、ガラス基板500の上に赤外線反射層11を形成する。赤外線反射層11の厚さは50nm乃至100nmであるが、典型的には75μmである。赤外線反射層11は透明導電膜である、ITO、IZO(Indium Zink Oxide)、AZO(Anitimony Zinc Oxide)等が使用されるが、一般的には、ITOが使用される。以後赤外線反射層としてITOを例にとって説明する。
【0029】
ITOは可視光に対しては透明であるが、波長1.5μm以上の赤外線に対しては、高い反射率を有している。
図36は、ITOの赤外線に対する反射率を示すグラフである。
図36に示すように、ITOは1.5μmの波長赤外線に対しては75%以上の反射率を、また、2.0μmの波長の赤外線に対しては85%以上の反射率を有している。ITOはスパッタリングによって、50nm乃至150nmの厚さに形成される。典型的な厚さは75nmである。
【0030】
図5は、赤外線反射層の上に赤外線吸収層としての金属酸化物12が形成されている。金属も酸化物になると、赤外線に対して良好な吸収体となる。なお、金属の表面を酸化物とすることによって、同様に赤外線に対する良好な吸収体となることは同様である。
図37は、表示装置で使用される種々の金属において、表面を酸化させた場合の吸収率を示す表である。いずれも高い赤外線吸収率を示す。
【0031】
本発明では、赤外線吸収層12としては、金属をスパッタリングによって形成し、その後、酸化雰囲気中で酸化させてもよいし、金属酸化物自体をスパッタリングするか、あるいは、反応性スパッタリングによって形成してもよい。いずれの場合も、赤外線吸収層の厚さは10nm乃至100nmであり、典型的には50nmである。
【0032】
赤外線吸収層12の上には、ポリイミドが形成されるために、赤外線吸収層12の他の重要な特性は、ポリイミドとの接着性が高いことである。この面からは、後で説明するように、アルミニウム酸化膜が優れている。ポリイミドとAl原子を有する膜との強い接着力の原因として、
図38に示す反応が提唱されている。すなわち、ポリアミック酸からポリイミドにイミド結合する過程において、本来分子内反応で高分子化すべきアミド基とカルボシキル基がそれぞれ、別個にAlOOHのOH基と脱水和反応によって結合した構造である。メカニズムは若干異なるが、CrやTi等を赤外線吸収層12として用いても、ポリイミドとの接着力を向上させることが出来る。
【0033】
ここで、波長が2μmの赤外線を用いた場合、赤外線吸収層12としてアルミニウム酸化膜を用いた場合には、吸収率は0.4であるのに対し、ITOを赤外線反射層11として用いた場合の吸収率は0.15である。すなわち、ITOを下層に配置し、アルミニウム酸化膜を上層に配置すると、ポリイミドに対し、ITOは赤外線反射層11として働き、アルミニウム酸化膜(以後アルミニウム酸化膜をAlOと記載する場合もある)は赤外線吸収層12として働くことになる。
図37に示すように、赤外線吸収層12としての特性については、Crあるいは、Tiはさらに優れている。
【0034】
図6は赤外線吸収層12の上にポリイミドの前駆体としてのポリアミック酸13をスリットコータ等で塗布した状態を示す断面図である。このポリアミック酸13を300℃乃至500℃で焼成することによってポリイミド基板100を形成する。ポリアミック酸13は、焼成後のポリイミド基板100の状態で、10μm乃至20μm程度の厚さになるように塗布される。本発明では、ポリアミック酸13の加熱を正確に制御するために、また、効率的に加熱するために、赤外線加熱を用いる。
【0035】
図7は焼成時の基板の温度プロファイルである。温度は基板の温度である。この温度プロファイルは、大きく4段階に分けられる。領域Aは常温であり、この期間に、炉内の雰囲気を酸素が10ppm以下になるように窒素で置換する。領域Bでは、4℃/分の温度勾配によって、基板を加熱する。領域Bにおいて、ポリアミック酸をイミド化する反応が進行する。その後、領域Cにおいて、高温で30分程度保持することによって、ポリイミド分子を配向させる。その後、領域Dにおいて窒素雰囲気中において自然冷却する。
【0036】
ところで、赤外線はポリアミック酸を透過するために、加熱の効率が問題になる。ガラス基板500上にポリアミック酸13を塗布した場合、ポリアミック酸を透過した赤外線はガラスも透過する。
図39を用いて先に説明したように、ガラスが吸収しやすい、波長2.5μm以上の赤外線を用いた場合でも、ガラスの厚さが0.5mm程度であると、透過率は約85%であり、加熱効率は低い。すなわち、ガラスを加熱することによってポリアミック酸を加熱する方法は効率的ではない。
【0037】
図8は本発明によるポリアミック酸13の加熱の原理を示す断面図である。
図8においてガラス基板500の上に赤外線反射層11としてのITOが例えば75nmの厚さで形成され、その上に赤外線吸収層12としての金属酸化物が例えば50nmの厚さで形成されている。本実施例では赤外線吸収層12としてAlOを用いている。そして、AlOの上にポリアミック酸13が、ポリイミド基板において厚さが10μm乃至20μm程度になるように塗布されている。
【0038】
図8において、ポリアミック酸13に赤外線IRを照射すると、一部はポリアミック酸に吸収されるが、多くは、透過して、下層のAlO層12に到達する。AlOの吸収率は30%程度であるので、70%は反射して再びポリアミド酸13に入射しポリアミック酸13を加熱する。一方、AlOに入射した赤外線はAlO層12を加熱する。しかし、AlO層12は50nm程度と薄いので、かなりの赤外線は透過する。
【0039】
本発明では、AlO層12の下にITO層11が形成されている。赤外線IRの波長として、1.5μm以上のものを用いれば、
図36に示すように、ITOによる反射率は75%以上となり、波長が2μm以上のものを用いれば、85%以上の反射率となる。この反射した赤外線は、再び、AlO層12を加熱し、また、AlO層を通過した光は再びポリアミック酸13を加熱する。
【0040】
ここで、AlOは赤外線吸収層12として作用し、温度が上昇する。AlO層12の熱は、
図8の太い矢印で示すように、伝導によってポリアミック酸13を加熱する。このように、本発明を使用しなければ、透過して加熱に用いられない赤外線の大部分を、本発明においては、ポリアミック酸13の加熱に用いることが出来るので、熱効率を極めて大きくすることが出来、ポリアミック酸13の焼成時間を大幅に低減することが出来る。
【0041】
このようにして、ポリイミドによってTFT基板100を形成した後、TFT基板100上に、TFT回路層、保護層等を形成し、
図9に示すように、赤外線反射層11であるITO層とガラス基板500の界面にレーザを照射して、アブレーションによってITO層11とガラス基板500を分離する。
図10はガラス基板500が除去された状態を示す断面図である。
図10に示すように、赤外線反射層11と赤外線吸収層12はTFT基板100側に付着している状態である。
【0042】
図11乃至
図15は、本実施例のバリエーションを示す例である。
図9に示すように、レーザをガラス基板500とITO層11との界面に照射しただけでは、条件によっては、ガラス基板500の剥離が出来ない場合がある。このような場合、ガラス基板500を確実に除去するために、ITO層11とガラス基板500の間に剥離層14を形成する。
図11乃至
図15はこのプロセスを説明する断面図である。
【0043】
図11はガラス基板500上に剥離層14を形成した状態を示す断面図である。剥離層14は、金属層の場合もあるし、絶縁層と金属層の多層膜の場合もあり得る。その後、
図12に示すように、赤外線反射層11、赤外線吸収層12、ポリイミド基板100を順に形成する。そして、さらに、TFT回路層、保護層等を形成した後、
図13に示すように、剥離層14、あるいは剥離層14とガラス基板500の界面にレーザを照射し、
図14に示すように、ガラス基板500をTFT基板100から分離する。
図14では、剥離層14はTFT基板100側に付着しているが、ガラス基板500側に付着する場合もある。
【0044】
以上説明したように、本発明を用いれば、赤外線加熱を用いてポリイミド基板を効率よく、かつ、短時間で形成することが出来る。
【実施例2】
【0045】
フレキシブル表示装置でも、基板はある程度の機械的強度は必要である。ポリイミドは、樹脂のなかでは、機械的な強度は優れているが、硬化に長時間を要する。これを対策するために、ポリイミド基板を2層構成とすることが出来る。すなわち、薄い層を1層ずつ形成したほうが、厚い層を1層形成するよりも有利な場合がある。このような構成をタンデム構造とよんでいる。本発明は、タンデム構造の場合にも大きな効果を有する。
【0046】
図15は本発明によるタンデム構造の断面図である。
図15において、ポリイミドで形成された第1TFT基板100と第2TFT基板400が積層されて形成されている。第1TFT基板100が下側で第2TFT基板400が上側であり、第1TFT基板100と第2TFT基板400の各々の下面には、AlO等の金属酸化物で形成された赤外線吸収層12、17、ITO等の透明導電膜で形成された赤外線反射層11、16が形成されている。赤外線吸収層12、17、赤外線反射層11、16の構成および作用は実施例1で説明したとおりである。
【0047】
図15では、第1TFT基板100と第2TFT基板400に形成された赤外線反射層16を構成するITO層との間に酸化シリコン(以後SiOの代表させる)層15が形成されている。ITO層16とTFT基板100との接着力を向上させるためである。下側のポリイミド基板100と上側の赤外線反射層16との接着が良ければSiO層15は省略することが出来る。第2TFT基板400の上にTFT回路層101、保護層102、円偏光板103が形成されている。各要素については実施例1で説明したとおりである。
【0048】
図15に示すタンデム構造の場合も、種々の素子をガラス基板500の上に形成し、完成後、
図16に示すように、レーザアブレーションによってガラス基板500を除去することは実施例1で説明したのと同様である。タンデム構造の場合は、ポリイミドによるTFT基板が2枚構成となっているので、TFT基板の厚さを、実施例1の場合よりも薄くできるので、個々のTFT基板の焼成時間を短縮することが出来る。
【0049】
図17は、実施例1で説明したプロセスにしたがってガラス基板500上に、第1赤外線反射層11、第1赤外線吸収層12を形成し、その上にポリイミドで形成される第1TFT基板100を形成し、その後、第1ポリイミド基板100の上にSiO層15を形成したものである。SiO層15は例えば100nm乃至200nmである。
【0050】
図18は、SiO層15の上に、順に第2赤外線反射層16、第2赤外線吸収層17を形成した状態を示す断面図である。第2赤外線反射層16、第2赤外線吸収層17の構成及び製造方法は、第1赤外線反射層11、第1赤外線吸収層12の構成、及び製造方法と同じである。
【0051】
図19は、第2赤外線吸収層17の上にポリイミドによる第2TFT基板を形成するため、ポリアミック酸13を塗布した状態を示す断面図である。ポリアミック酸13は、焼成後の第2ポリイミド基板400の厚さが、例えば、10μm乃至20μm程度になるように塗布される。
【0052】
その後、
図20に示すように赤外線によってポリアミック酸13を加熱、焼成する。この場合のポリアミック酸13の焼成条件は、実施例1の
図7で説明したのと同様である。また、
図20に示すポリアミック酸13の加熱メカニズムも実施例1の
図8で説明したものと同様である。すなわち、ポリアミック酸13は、上方から赤外線IRによって加熱される他、第2赤外線反射層16から反射された赤外線に加え、赤外線吸収層17からの熱伝導によって加熱される。したがって、効率良くポリアミック酸13を焼成することが出来る。
【0053】
その後、
図16に示すように、TFT回路層、保護層、円偏光板等を形成する。このようにして、有機EL表示パネルが完成した後、
図16に示すように、第1赤外線反射層11とガラス基板500との界面にレーザを照射し、アブレーションによってガラス基板500を剥離すると、
図15に示すような有機EL表示パネルが形成される。
【0054】
図15の構成は、第1TFT基板100、第2TFT基板400の双方に、本発明による赤外線吸収層12,17および赤外線反射層11、16を形成した場合である。しかし、タンデム構造においては、本発明による赤外線吸収層および赤外線反射層を一方のポリイミド基板にのみ形成することも出来る。
【0055】
図21は、本発明におけるタンデム構造の第2の例を示す断面図である。
図21では、第1のTFT基板100とガラス基板500の間には、本発明による赤外線吸収層および赤外線反射層は形成されておらず、第1TFT基板100と第2TFT基板400の間に本発明による赤外線吸収層17および赤外線反射層16が形成されている。
【0056】
一般には、上層に形成されるポリアミック酸13の方が熱を吸収しづらく、したがって、焼成に時間がかかる。
図21の例は、加熱しにくい、上側のポリイミド基板400を形成する時に本発明を適用することによって、特に、上側の層を効率良く加熱する。
【0057】
ポリイミドは、加熱されすぎると、変質する。上側の第2TFT基板400を形成する時は、下側の第1TFT基板100は焼成を終わっている。したがって、上側のポリイミド基板400を形成する前に、赤外線反射層16及び赤外線吸収層17を形成すれば、下側の第1ポリイミド基板100が不必要に加熱されて変質することを防止することが出来る。
【0058】
このように、
図21の構成は、上側の第2TFT基板400を効率よく形成するとともに、下側の第1TFT基板100が不必要に加熱されて、下側のポリイミド基板100が変質することを防止することが出来る。なお、
図21の構成においても、ポリイミドとガラス基板との接着力の向上のため、あるいは、レーザアブレーションによるガラス基板の剥離のために、ガラス基板と第1TFT基板との間に、金属層、あるいは、絶縁層で形成された層を形成する場合が多い。
【0059】
図22は、本発明におけるタンデム構造の第3の例を示す断面図である。
図22では、第1のTFT基板100と第2のTFT基板400との間には、本発明による赤外線吸収層および赤外線反射層は形成されておらず、第1TFT基板100とガラス基板500の間に本発明による赤外線吸収層12および赤外線反射層11が形成されている。
【0060】
本発明では、透明導電膜を赤外線反射層11として用いている。ポリイミドで形成されたTFT基板が薄い場合、透明導電膜とTFT基板の上に形成される走査線、映像信号線等との間において浮遊容量が発生する恐れがある。このような浮遊容量は、信号電圧を低下させたり、信号の書き込み速度を低下させたりする。
【0061】
このような危険がある場合は、第1TFT基板100を形成する時に、本発明の構成、すなわち、赤外線吸収層12と赤外線反射層11を構成し、第2TFT基板400を形成するときは、第1TFT基板100と第2TFT基板400の間にはSiO層15のみを形成することが出来る。このような構成においては、第1TFT基板100の方が、赤外線による加熱効率が高いので、第1TFT基板100を第2TFT基板400よりも厚くしておけば、全体としての、ポリイミド基板の加熱効率を上げることが出来る。
【0062】
図23は、本発明におけるタンデム構造の第4の例を示す断面図である。
図23では、第1のTFT基板100と第2のTFT基板400との間には、本発明による赤外線吸収層17のみが形成され、透明導電膜で形成された赤外線反射層は形成されていない。第1TFT基板100とガラス基板500の間には本発明による赤外線吸収層12および赤外線反射層11が形成されている。
【0063】
図23においては、第2TFT基板400の下には透明導電膜による赤外線反射層は形成されていないので、浮遊容量を増加させることは無い。一方、赤外線吸収層17は形成されているので、
図22の例よりも、上側のポリイミド基板400の加熱効率を上げることが出来る。その他の構成は、
図22で説明したのと同様である。例えば、
図23においても、第1TFT基板100の厚さを第2TFT基板400の厚さよりも大きくすることによって、全体としての加熱効率を上げることが出来る。
図23においては、ガラス基板500をTFT基板100から分離するために、ガラス基板500と赤外線反射層11の界面にレーザビームLBを照射していることを示している。
【実施例3】
【0064】
有機EL表示パネルや液晶表示パネルは、個々に製造したのでは効率が悪いので、マザー基板に多数の表示パネルを形成し、完成後、マザー基板から個々の表示パネルに分離される。マザー基板を構成するマザーガラス基板のサイズは非常に大きく、例えば、1.5m×1.8m程度にもなる。一方、ガラス基板の厚さは0.5mmあるいは0.7mmなので、マザーガラス基板は非常に反りやすい。ポリイミドはガラスとは熱膨張係数が大きく異なるので、ポリイミドの焼成条件によっては、マザー基板が反り、製造工程を通せなくなる。
【0065】
本実施例は、ポリイミド基板の下に形成する赤外線吸収層12および赤外線反射層11の形成範囲を制御することによって、ポリイミドの焼成条件を制御し、マザー基板の反りを緩和するものである。すなわち、ポリイミドの硬化時期をマザー基板の場所毎に変化させることによって、マザー基板のそりを制御することが出来る。
図24は、マザー基板1000に表示セル20が形成された状態を示す平面図である。
図24は、説明をわかり易くするための模式図であり、携帯電話やタブレットに使用されるような小型の表示セルは、マザー基板1000中に、
図24に示すよりは、はるかに多く形成されている。
【0066】
最も単純な構成は、マザーガラス基板1000全面に赤外線反射層11および赤外線吸収層12を形成し、その上にTFT基板100となるポリイミドを形成する方法である。このような構成でマザー基板に反りが発生した場合、本発明によれば、赤外線反射層11及び赤外線吸収層12の形成範囲を規定することによって、マザー基板1000の反りを制御することが出来る。
【0067】
ところで、ガラスの赤外線吸収率は、赤外線の波長によって大きく変化する。
図39に示すように、赤外線の波長が2.7μm以下であると、赤外線を殆ど透過してしまうが、波長が2.8μm以上になると、透過率が急減に低下する。すなわち、ガラスも赤外線を吸収し、加熱される。しかし、ガラス基板500は0.5mmあるいは0.7mm程度なので、赤外線は85%程度透過してしまい、したがって、ガラスの加熱効率は低い。
【0068】
一方、本発明の構成のように、赤外線反射層11と赤外線吸収層12が積層された領域では、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸は効率よく加熱される。したがって、ガラス基板500上に直接ポリイミドが形成される領域におけるポリイミドが硬化する時期と、赤外線反射層11と赤外線吸収層12が積層された領域におけるポリイミドが硬化する時期とでは異なる。この硬化時期の差はマザー基板の反りに対して影響を与える。
【0069】
図25は、
図24において、表示セル20が形成されている領域に金属酸化物による赤外線吸収層12を形成した例である。透明導電膜による赤外線反射層11の形成領域は場合によって異なる。
図26は、
図25のB-B断面図であり、赤外線吸収層12と赤外線反射層11を同じ領域に形成した例である。
【0070】
図26の場合、赤外線反射層11と赤外線吸収層12が形成された領域のポリイミドは早く焼成するのに対して、ガラス基板500に直接形成されたポリイミドは遅れて焼成する。したがって、マザー基板1000での応力は
図24のように、全面に均一に赤外線吸収層12を形成した場合とは異なってくる。
【0071】
図27も
図25のB-B断面であるが、
図26の場合と異なり、ITOで形成された赤外線反射層11はマザーガラス基板全面に形成されている。赤外線反射層11のみが形成された領域においては、赤外線吸収層12と赤外線反射層11の両方が形成された領域と比べて、ポリイミドは遅く硬化する。
【0072】
図26の場合と
図27の場合とでは、マザー基板1000における残留ストレスは異なる。すなわち、
図39に示すように、使用する赤外線の波長によってガラスの吸収率、すなわち、ガラスが加熱される効率が異なってくる。例えば、ガラスが加熱されやすい、2.8μm以上の波長の赤外線を使用する場合、ガラス基板500が加熱されて、熱伝導によってポリイミドが加熱される効果と、赤外線反射層11から赤外線が反射されることによるポリイミドの加熱の効果との差によって、
図26の構成あるいは
図27のいずれかの構成を採用することが出来る。
【0073】
図28は、本実施例におけるさらに他の例を示す平面図である。
図28は、赤外線吸収層12を表示セル20が形成されている領域と同じ領域に形成し、赤外線反射層11は表示セル20が形成されている領域よりも広い範囲に形成されているが、マザーガラス基板全面には形成されていない例である。
図29は
図28のC-C断面図である。この場合、マザー基板におけるポリイミドの硬化時期を意図的に3段階に分けることによって、マザー基板におけるストレスを制御してマザー基板の反りを抑える例である。
【0074】
図30は本実施例のさらに他の例である。
図30は、個々の表示セル20内において、赤外線吸収層12と赤外線反射層11の形成範囲を異ならせている場合である。
図30において点線が個々の表示セル20の境界である。
図31は、
図30のD-D断面図である。
図31において、点線で示す境界が個々の表示セル20の境界である。
【0075】
図31において、赤外線反射層11は表示セル20が形成されている領域全面に形成されているが、赤外線吸収層12が形成されている領域は、個々の表示セル20の面積よりも小さい。このような構成によって、マザー基板1000における反りを制御するのみでなく、マザー基板1000から表示セル20が分離された後の個々の表示セル20におけるストレスを制御し、個々の表示セル20における反りを制御することが出来る。
【実施例4】
【0076】
以上は、本発明を有機EL表示装置について説明した。しかし、本発明は、液晶表示装置についても適用することが出来る。液晶表示装置についても、フレキシブル表示装置としたいという要求がある。
図32は液晶表示装置の平面図である。
図32において、TFT基板100と対向基板200がシール材150によって接着し、シール材150の内側で、TFT基板100と対向基板200の間に液晶が挟持されている。
【0077】
TFT基板100と対向基板200が重なった部分に表示領域90が形成されている。表示領域90には、走査線91が横方向(x方向)に延在し、縦方向(y方向)に配列している。また、映像信号線92が縦方向に延在し、横方向に配列している。走査線91と映像信号線92で囲まれた領域に画素95が形成されている。TFT基板100は対向基板200よりも大きく形成され、TFT基板100と対向基板200が重なっていない部分は端子領域となっている。端子領域には、液晶表示装置に電源や信号を供給するためのフレキシブル配線基板700が接続している。
【0078】
図33は、
図32のE-E断面図である。
図33において、ポリイミドで形成されたTFT基板100には、TFT回路層101が形成され、ポリイミド形成された対向基板200には、カラーフィルタ層201が形成されている。TFT基板100と対向基板200はシール材150によって接着し、シール材150の内側に液晶300が封止されている。
【0079】
図33において、TFT基板100および対向基板200の外側には、実施例1で説明した赤外線反射層11および赤外線吸収層12が形成されている。対向基板200側の赤外線反射層11および赤外線吸収層12の外側には上偏光板220が貼り付けられ、TFT基板100側の赤外線反射層11および赤外線吸収層12の外側には下偏光板120が貼り付けられている。
【0080】
図33において、下偏光板120の背面にバックライト600が形成されている。バックライト600は有機EL等で形成されたシート状の光源を使用することにより、液晶表示装置全体としてもフレキシビリティを維持することが出来る。
【0081】
図34は、上偏光板220および下偏光板120を取り除いた状態における液晶表示パネルの断面図である。
図34において、TFT基板100の下側には、金属酸化物で形成された赤外線吸収層12、その下には、ITOで形成された赤外線反射層11が形成されている。このような液晶表示パネルを形成するには、
図35に示すように、ガラス基板500に形成されたTFT基板100の上にTFT回路層を形成し、ガラス基板500に形成された対向基板200にカラーフィルタ層201等を形成し、この状態で、液晶300を充填し、シール材150によってTFT基板100と対向基板200を接着して液晶300を封止する。
【0082】
この状態においては、TFT基板100とガラス基板500の間、及び、対向基板200とガラス基板500の間には赤外線反射層11および赤外線吸収層12が形成されている。その後、
図35に示すように、ガラス基板と赤外線反射層との界面にレーザ(LB)を照射し、レーザアブレーションによって、ガラス基板500とTFT基板100あるいは、ガラス基板500と対向基板200を分離する。
【0083】
つまり、液晶の場合においても、実施例1で説明した問題は同じである。液晶表示装置の場合は、バックライトを用いているので、赤外線吸収層12および赤外線反射層11は可視光に対しては透明である必要がある。本発明では、赤外線反射層11としてITO等の透明導電膜を用いているので、可視光の透過には問題はない。また、赤外線吸収層12としては、AlO等の金属酸化物を用いている。特にAlOは、可視光に対しては透明であるので、バックライトが存在しても、問題なく用いることが出来る。また、他の金属酸化物も可視光に対しては、透過率が高いものが多い。したがって、実施例1乃至3で説明した本発明の内容は、液晶表示装置についても適用することが出来る。
【符号の説明】
【0084】
11…赤外線反射層、 12…赤外線吸収層、 13…ポリアミック酸、 14…剥離層、15…SiO層、16…第2赤外線反射層、17…第2赤外線吸収層、 20…表示セル、 80…走査線駆動回路、 90…表示領域、 91…走査線、 92…映像信号線、 93…電源線、 95…画素、 100…TFT基板、 101…TFT回路層、 102…保護層、 103…円偏光板、 120…下偏光板、 150…シール材、 200…対向基板、 201…カラーフィルタ層、 220…上偏光板、 300…液晶、 400…第2TFT基板、 500…ガラス基板、 600…バックライト、700…フレキシブル配線基板、1000…マザー基板、 IR…赤外線、 LB…レーザビーム