IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工マリンマシナリ株式会社の特許一覧

特許7051487同期電動機の制御装置及び同期発電機の制御装置
<>
  • 特許-同期電動機の制御装置及び同期発電機の制御装置 図1
  • 特許-同期電動機の制御装置及び同期発電機の制御装置 図2
  • 特許-同期電動機の制御装置及び同期発電機の制御装置 図3
  • 特許-同期電動機の制御装置及び同期発電機の制御装置 図4
  • 特許-同期電動機の制御装置及び同期発電機の制御装置 図5
  • 特許-同期電動機の制御装置及び同期発電機の制御装置 図6
  • 特許-同期電動機の制御装置及び同期発電機の制御装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】同期電動機の制御装置及び同期発電機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/62 20160101AFI20220404BHJP
【FI】
H02P29/62
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018031055
(22)【出願日】2018-02-23
(65)【公開番号】P2019146453
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】辻 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小野 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】山下 幸生
(72)【発明者】
【氏名】坂本 武蔵
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-108568(JP,A)
【文献】特開2007-104855(JP,A)
【文献】国際公開第2014/057558(WO,A1)
【文献】特開2007-259586(JP,A)
【文献】特開2012-139072(JP,A)
【文献】特開2016-180329(JP,A)
【文献】国際公開第2015/166580(WO,A1)
【文献】特開2005-12914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/62
H02P 29/024
F02B 37/00
F02B 37/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子に永久磁石を使用した同期電動機の制御装置であって、
前記同期電動機の相電圧を計測する電圧計測手段と、
前記永久磁石の温度を推定する温度推定手段と
を備え、
前記温度推定手段は、
前記同期電動機への電圧印加を所定期間停止させる停止手段と、
前記電圧印加が停止している停止期間中に前記電圧計測手段によって計測された電圧値を用いて、前記同期電動機の磁石温度を演算する温度演算手段と
前記停止期間の直前に設けられた速度調整期間において、前記同期電動機の回転数を上昇させる回転数制御手段と
を具備する同期電動機の制御装置。
【請求項2】
前記回転数制御手段は、予め設定された回転数上昇幅に基づいて前記同期電動機の回転数を上昇させ、
前記回転数上昇幅は、前記停止期間中に低下する前記同期電動機の回転数幅に応じて設定されている請求項に記載の同期電動機の制御装置。
【請求項3】
前記回転数制御手段は、予め設定された回転数上昇幅に基づいて前記同期電動機の回転数を上昇させ、
前記回転数上昇幅は、前記速度調整期間の開始時から前記停止期間の終了時までにおける前記同期電動機の回転数の変動幅が所定値未満となる値に設定されている請求項に記載の同期電動機の制御装置。
【請求項4】
回転子に永久磁石を使用した同期電動機の制御装置であって、
前記同期電動機の相電圧を計測する電圧計測手段と、
前記永久磁石の温度を推定する温度推定手段と
を備え、
前記温度推定手段は、
前記同期電動機への電圧印加を所定期間停止させる停止手段と、
前記電圧印加が停止している停止期間中に前記電圧計測手段によって計測された電圧値を用いて、前記同期電動機の磁石温度を演算する温度演算手段と
を具備し、
前記同期電動機への電圧印加を停止することによって低下した磁石温度が前記同期電動機への電圧印加を停止する前の前記磁石温度に回復するまでに要する期間を予測または予め計測し、予測または計測した前記期間よりも長めの時間間隔で、前記温度推定手段が前記同期電動機の磁石温度を推定する同期電動機の制御装置。
【請求項5】
前記温度推定手段は、前記同期電動機の負荷が予め設定された高負荷閾値以上である場合に、前記同期電動機の磁石温度を推定する請求項1に記載の同期電動機の制御装置。
【請求項6】
前記温度推定手段は、前記同期電動機の回転数が所定の安定条件を満たす場合に、前記同期電動機の磁石温度を推定する請求項1に記載の同期電動機の制御装置。
【請求項7】
前記温度推定手段による温度推定が開始される前に、温度推定を行うことを報知する請求項1に記載の同期電動機の制御装置。
【請求項8】
前記温度演算手段による前記同期電動機の磁石温度演算が行われた後に、前記同期電動機との同期を再開させる請求項1に記載の同期電動機の制御装置。
【請求項9】
タービンにより駆動されて内燃機関に外気を圧送する圧縮機と、
前記圧縮機の回転軸に連結される同期電動機と、
請求項1に記載の同期電動機の制御装置と
を備える過給機。
【請求項10】
回転子に永久磁石を使用した同期発電機の制御装置であって、
前記同期発電機によって発電された発電電力を負荷または系統に適した電力に変換して出力する電力変換手段と、
前記電力変換手段が備える直流バスに設けられた蓄電手段と、
前記同期発電機の相電圧を計測する電圧計測手段と、
前記永久磁石の温度を推定する温度推定手段と
を備え、
前記温度推定手段は、
前記同期発電機の発電を所定期間にわたって停止させる停止手段と、
前記同期発電機の発電が停止されている停止期間中に前記電圧計測手段によって計測された電圧値を用いて、前記同期発電機の磁石温度を演算する温度演算手段と
前記停止期間の直前に設けられた電圧調整期間において、前記直流バスの電圧を上昇させる電圧制御手段と
を具備する同期発電機の制御装置。
【請求項11】
前記停止手段は、前記同期発電機と前記電力変換手段との接続を前記所定期間にわたって非接続状態とすることで、前記同期発電機の発電を停止させる請求項10に記載の同期発電機の制御装置。
【請求項12】
前記電圧制御手段は、予め設定された電圧上昇幅に基づいて前記直流バスの電圧を上昇させ、
前記電圧上昇幅は、前記電圧調整期間の開始時において前記電力変換手段から出力される電力と、前記停止期間において前記電力変換手段から出力される電力との差分が予め設定されている許容範囲内となるように設定されている請求項10に記載の同期発電機の制御装置。
【請求項13】
前記電圧調整期間の開始時から所定期間前に、温度推定を行うことを報知する請求項10に記載の同期発電機の制御装置。
【請求項14】
前記温度演算手段による前記同期発電機の磁石温度演算が行われた後に、前記同期発電機との同期を再開させる請求項10に記載の同期発電機の制御装置。
【請求項15】
タービンにより駆動されて内燃機関に外気を圧送する圧縮機と、
前記圧縮機の回転軸に連結される同期発電機と、
請求項10に記載の同期発電機の制御装置と
を備える過給機。
【請求項16】
請求項または請求項15に記載の過給機と、
前記過給機によって外気が圧送される内燃機関と
を備える船舶。
【請求項17】
回転子に永久磁石を使用した同期電動機の磁石温度推定方法であって、
前記同期電動機への電圧印加を所定期間停止させる工程と、
前記電圧印加が停止している停止期間中に前記同期電動機の逆起電力を計測する工程と、
計測した前記逆起電力を用いて、前記同期電動機の磁石温度を演算する工程と
前記停止期間の直前に設けられた速度調整期間において、前記同期電動機の回転数を上昇させる工程と
を有する同期電動機の磁石温度推定方法。
【請求項18】
回転子に永久磁石を使用した同期発電機の磁石温度推定方法であって、
前記同期発電機の発電を所定期間にわたって一時的に停止させる工程と、
前記同期発電機の発電が停止されている停止期間中に前記同期発電機の逆起電力を計測する工程と、
計測した前記逆起電力を用いて、前記同期発電機の磁石温度を演算する工程と
前記停止期間の直前に設けられた電圧調整期間において、前記同期発電機によって発電された発電電力を負荷または系統に適した電力に変換して出力する電力変換手段における蓄電手段が設けられた直流バスの電圧を上昇させる工程と
を有する同期発電機の磁石温度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期電動機の制御装置及び同期発電機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石同期モータでは、逆起電力を計測することにより、ロータの永久磁石部の温度を推定することが一般的に行われている。磁石温度が高くなると、減磁や熱膨張による磁石保持スリーブのバースト等の故障が起きるおそれがある。したがって、安定したモータ駆動を実現する上で磁石温度は重要な監視事項となる。
【0003】
磁石温度は、同期モータに電圧が印加されている状態で高くなるため、可能な限り同期モータが駆動している期間に推定することが好ましい。しかしながら、同期モータに電圧が印加されている状態では、逆起電力を正確に計測することができないため、温度の推定精度が低下してしまう。そこで、例えば、同期モータの電流から逆起電力を演算によって推定し、推定逆起電力から温度を推定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、同期モータに電圧が印加されている状態であっても、一定の精度で逆起電力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-10677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法は、同期モータの電流から逆起電力を演算によって算出する必要があるため、演算処理が煩雑化する。また、このような問題は、同期発電機についても同様に生じ得る問題である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、温度監視のためのセンサを用いることなく、磁石温度を容易に推定することのできる同期電動機の制御装置及び同期発電機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一態様は、回転子に永久磁石を使用した同期電動機の制御装置であって、前記同期電動機の相電圧を計測する電圧計測手段と、前記永久磁石の温度を推定する温度推定手段とを備え、前記温度推定手段は、前記同期電動機への電圧印加を所定期間停止させる停止手段と、前記電圧印加が停止している停止期間中に前記電圧計測手段によって計測された電圧値を用いて、前記同期電動機の磁石温度を演算する温度演算手段と、前記停止期間の直前に設けられた速度調整期間において、前記同期電動機の回転数を上昇させる回転数制御手段とを具備する同期電動機の制御装置である。
【0008】
上記同期電動機の制御装置によれば、同期電動機が駆動している状態で一時的に同期電動機への電圧印加を停止し、無負荷で回転するフリースピン状態とする。このフリースピン期間において同期電動機の相電圧、すなわち、逆起電力を計測するので、逆起電力の計測精度を向上させることができる。これにより、磁石温度の推定を行うことが可能となる。
【0009】
上記同期電動機の制御装置は、前記停止期間の直前に設けられた速度調整期間において、前記同期電動機の回転数を上昇させる回転数制御手段を更に備えていてもよい。
【0010】
上記同期電動機の制御装置によれば、停止期間の直前に設定された速度調整期間において、同期電動機の回転数を上昇させるので、速度調整期間前の同期電動機の回転数に対する停止期間終了時における同期電動機の回転数の低下を小さくすることができる。これにより、温度推定による同期電動機の回転数の落ち込みを抑制することができる。
【0011】
上記同期電動機の制御装置において、前記回転数制御手段は、予め設定された回転数上昇幅に基づいて前記同期電動機の回転数を上昇させ、前記回転数上昇幅は、前記停止期間中に低下する前記同期電動機の回転数幅に応じて設定されていてもよい。
【0012】
上記同期電動機の制御装置によれば、停止期間終了時における同期電動機の回転数を所望の値とするような回転数上昇幅を設定することが可能となる。
【0013】
上記同期電動機の制御装置において、前記回転数制御手段は、予め設定された回転数上昇幅に基づいて前記同期電動機の回転数を上昇させ、前記回転数上昇幅は、前記速度調整期間の開始時から前記停止期間の終了時までにおける前記同期電動機の回転数の変動幅が所定値未満となる値に設定されていてもよい。
【0014】
上記同期電動機の制御装置によれば、温度測定による同期電動機の回転数の変動幅を所定値未満に抑制することが可能となる。
【0015】
上記同期電動機の制御装置において、前記同期電動機への電圧印加を停止することによって低下した磁石温度が前記同期電動機への電圧印加を停止する前の前記磁石温度に回復するまでに要する期間を予測または予め計測し、予測または計測した前記期間よりも長めの時間間隔で、前記温度推定手段が前記同期電動機の磁石温度を推定することとしてもよい。
【0016】
上記同期電動機の制御装置によれば、磁石温度の推定を行うことにより低下した磁石温度が磁石温度の推定前の温度まで回復する回復期間における温度推定を回避することが可能となる。
【0017】
上記同期電動機の制御装置において、前記温度推定手段は、前記同期電動機の負荷が予め設定された高負荷閾値以上である場合に、前記同期電動機の磁石温度を推定することとしてもよい。
【0018】
上記同期電動機の制御装置によれば、磁石温度が高いと想定される高負荷領域において磁石温度の推定を行うことが可能となる。これにより、磁石温度の高温域の温度を把握することができる。
【0019】
上記同期電動機の制御装置において、前記温度推定手段は、前記同期電動機の回転数が所定の安定条件を満たす場合に、前記同期電動機の磁石温度を推定することとしてもよい。
【0020】
上記同期電動機の制御装置によれば、同期電動機の回転が安定しているときに磁石温度を推定することが可能となる。これにより、磁石温度の推定精度を安定させることができる。
【0021】
上記同期電動機の制御装置において、前記温度推定手段による温度推定が開始される前に、温度推定を行うことを報知することとしてもよい。
【0022】
上記同期電動機の制御装置によれば、温度推定が行われることをユーザに知らせることが可能となる。
【0023】
上記同期電動機の制御装置において、前記温度演算手段による前記同期電動機の磁石温度演算が行われた後に、前記同期電動機との同期を再開させることとしてもよい。
【0024】
上記同期電動機の制御装置によれば、磁石温度が演算された後に自動的に同期電動機との同期を再開させることが可能となる。
【0025】
本発明の第二態様は、タービンにより駆動されて内燃機関に外気を圧送する圧縮機と、前記圧縮機の回転軸に連結される同期電動機と、上記同期電動機の制御装置とを備える過給機である。
【0026】
本発明の第三態様は、回転子に永久磁石を使用した同期発電機の制御装置であって、前記同期発電機によって発電された発電電力を負荷または系統に適した電力に変換して出力する電力変換手段と、前記電力変換手段が備える直流バスに設けられた蓄電手段と、前記同期発電機の相電圧を計測する電圧計測手段と、前記永久磁石の温度を推定する温度推定手段とを備え、前記温度推定手段は、前記同期発電機の発電を所定期間にわたって停止させる停止手段と、前記同期発電機の発電が停止されている停止期間中に前記電圧計測手段によって計測された電圧値を用いて、前記同期発電機の磁石温度を演算する温度演算手段とを具備する同期発電機の制御装置である。
【0027】
上記同期発電機の制御装置によれば、同期発電機が発電している状態で一時的に同期発電機の発電を停止し、無負荷で回転するフリースピン状態とする。このフリースピン状態において同期発電機の相電圧を計測するので、逆起電力の計測精度を向上させることができる。これにより、磁石温度の推定精度を向上させることが可能となる。
【0028】
上記同期発電機の制御装置において、前記停止手段は、前記同期発電機と前記電力変換手段との接続を前記所定期間にわたって非接続状態とすることで、前記同期発電機の発電を停止させることとしてもよい。
【0029】
上記同期発電機の制御装置によれば、容易に同期発電機の発電を停止させることが可能となる。
【0030】
上記同期発電機の制御装置は、前記停止期間の直前に設けられた電圧調整期間において、前記直流バスの電圧を上昇させる電圧制御手段を更に備えることとしてもよい。
【0031】
上記同期発電機の制御装置によれば、停止期間の直前に設定された電圧調整期間において、直流バスの電圧を上昇させるので、直流バスに設けられた蓄電手段に蓄えられるエネルギーを上昇させることが可能となる。これにより、発電が停止している停止期間において、蓄電手段に蓄えられた余剰のエネルギーが出力されることとなるので、停止期間における出力電力の落ち込みを抑制することが可能となる。
【0032】
上記同期発電機の制御装置において、前記電圧制御手段は、予め設定された電圧上昇幅に基づいて前記直流バスの電圧を上昇させ、前記電圧上昇幅は、前記電圧調整期間の開始時において前記電力変換手段から出力される電力と、前記停止期間において前記電力変換手段から出力される電力との差分が予め設定されている許容範囲内となるように設定されていてもよい。
【0033】
上記同期発電機の制御装置によれば、電圧調整期間前に出力していた電力と停止期間中に出力する電力との差分を許容範囲内に抑えることが可能となる。これにより、温度推定による出力電力の落ち込みを抑制することができる。
【0034】
上記同期発電機の制御装置において、前記電圧調整期間の開始時から所定期間前に、温度推定を行うことを報知することとしてもよい。
【0035】
上記同期発電機の制御装置によれば、温度推定が行われることをユーザに知らせることができる。
【0036】
上記同期発電機の制御装置において、前記温度演算手段による前記同期発電機の磁石温度演算が行われた後に、前記同期発電機との同期を再開させることとしてもよい。
【0037】
上記同期発電機の制御装置によれば、磁石温度が演算された後に自動的に同期発電機との同期を再開させることが可能となる。
【0038】
本発明の第四態様は、タービンにより駆動されて内燃機関に外気を圧送する圧縮機と、前記圧縮機の回転軸に連結される同期発電機と、上記同期発電機の制御装置とを備える過給機である。
【0039】
本発明の第五態様は、上記過給機と、前記過給機によって外気が圧送される内燃機関とを備える船舶である。
【0040】
本発明の第六態様は、回転子に永久磁石を使用した同期電動機の磁石温度推定方法であって、前記同期電動機への電圧印加を所定期間停止させる工程と、前記電圧印加が停止している停止期間中に前記同期電動機の逆起電力を計測する工程と、計測した前記逆起電力を用いて、前記同期電動機の磁石温度を演算する工程とを有する同期電動機の磁石温度推定方法である。
【0041】
本発明の第七態様は、回転子に永久磁石を使用した同期発電機の磁石温度推定方法であって、前記同期発電機の発電を所定期間にわたって一時的に停止させる工程と、前記同期発電機の発電が停止されている停止期間中に前記同期発電機の逆起電力を計測する工程と、計測した前記逆起電力を用いて、前記同期発電機の磁石温度を演算する工程とを有する同期発電機の磁石温度推定方法である。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、温度監視のためのセンサを用いることなく、磁石温度を容易に推定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の一実施形態に係る過給機システムの概略構成を示した図である。
図2】本発明の一実施形態に係る演算処理装置が備える種々の機能のうち、発電電動機の永久磁石温度を推定する磁石温度推定機能について主に記載した概略機能ブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係る力行時の磁石温度推定処理の処理手順を示したフローチャートである。
図4図3に示した磁石温度推定処理の実行中における回転数の変移の一例を示した図である。
図5】本発明の一実施形態に係る発電時の磁石温度推定処理の処理手順を示したフローチャートである。
図6図5に示した磁石温度推定処理の実行中における発電電動機の回転数、直流電圧、供給電力の変移の一例を示した図である。
図7図3に示した磁石温度推定処理の実行中における回転数の変移の他の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の同期電動機の制御装置及び同期発電機の制御装置の一実施形態について図面を参照して説明する。以下の実施形態では、本発明を船舶に搭載されるハイブリッド過給機に適用した場合を例示して説明する。
【0045】
図1は、本発明の一実施形態に係る過給機システムの概略構成を示した図である。図1に示すように、過給機システムは、船舶に搭載されて使用されるシステムであり、過給機10と、発電電動機30と、発電電動機30の制御装置50とを主な構成として備えている。
過給機10は、舶用ディーゼルエンジン(内燃機関)から排出された排ガスによって駆動される排気タービン21と、排気タービン21により駆動されて内燃機関に外気を圧送する圧縮機23とを備えている。過給機10は、舶用ディーゼルエンジンから排出されるエンジン排ガスを過給機の圧縮機駆動力として利用するだけでなく、発電電動機30を駆動する動力としても利用して、発電電力を得るものである。
【0046】
発電電動機30は、排気タービン21および圧縮機23の回転軸に連結され、力行時において同期電動機として機能し、圧縮機23の駆動をアシストする。また、回生時において同期発電機として機能し、発電電力を出力する。発電電動機30として、例えば、回転子に永久磁石を使用した永久磁石同期モータが採用される。
【0047】
制御装置50は、過給機10と船内系統16との間に設けられた電力変換装置20と、電力変換装置20を制御する演算処理装置40とを備える。電力変換装置20は、第1電力変換部12と、第2電力変換部14と、平滑コンデンサ(蓄電手段)22とを主な構成として備えている。第1電力変換部12と第2電力変換部14とは直流バス15を介して接続され、平滑コンデンサ22は、直流バス15間に設けられて、直流電圧変動を低減する。
【0048】
第1電力変換部12は、発電電動機30の力行時においては、直流電力を交流電力に変換して発電電動機30に出力するインバータとして機能し、回生時においては、発電電動機30の発電電力を直流電力に変換して直流バス15に出力する能動整流器として機能する。
第2電力変換部14は、発電電動機30の力行時においては、船内系統16からの三相交流電力を直流電力に変換して直流バス15に出力する能動整流器として機能し、回生時においては、第1電力変換部12からの直流電力を系統に適した三相交流電力に変換して船内系統16に出力するインバータとして機能する。
【0049】
上記第1電力変換部12及び第2電力変換部14の各々は、例えば、6つのスイッチング素子をブリッジ接続してなる回路で構成されている。ここで、第1電力変換部12及び第2電力変換部14の構成については、上記例に限定されず、他の構成を採用することも可能である。
【0050】
過給機システムにおいて、電力変換装置20と発電電動機30とを接続する三相電線には、電力変換装置20と発電電動機30との接続/切断を切り替えるコンタクタ(接続切替手段)45が設けられている。なお、電力変換装置20と発電電動機30との接続/切断を切り替える機構は、上記コンタクタ45に限定されず、電力変換装置20と発電電動機30との接続/切断を切り替え可能な機構を適宜採用することが可能である。
【0051】
電力変換装置20の直流バス15間には、直流電圧Vdc、換言すると、平滑コンデンサ22の端子間電圧を計測するための電圧センサ17(図2参照)が設けられている。また、電力変換装置20と発電電動機30とを接続する三相電線の少なくとも一相には、相電圧(逆起電力)Veを計測するための電圧センサ(電圧計測手段)18(図2参照)が設けられている。また、過給機システムには、上記電圧センサ17、18の他、力行時及び発電時における発電電動機30の制御を実現するために必要とされる電流や回転数等を計測するための各種センサ(図示略)が設けられている。
これら各種センサによる計測値は、図2に示すように演算処理装置40に出力される。
【0052】
演算処理装置40は、マイクロプロセッサであり、例えば、CPU、CPUが実行するプログラム等を記憶するためのROM(Read Only Memory)、各プログラム実行時のワーク領域として機能するRAM(Random Access Memory)、他の装置とデータの授受を行うための通信部等を備えている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0053】
演算処理装置40は、電圧センサ17、18によって計測された電圧値等に基づいて第1電力変換部12及び第2電力変換部14を制御する。例えば、発電電動機30の力行時においては、演算処理装置40は、上位制御装置(図示略)から与えられる回転数指令に発電電動機30の回転数を一致させるための制御信号(例えば、PWM信号)を生成し、制御信号を第1電力変換部12に与える。これにより、制御信号に基づいて、第1電力変換部12の各スイッチング素子が開閉することにより、直流バス15から供給された直流電力が三相交流電力に変換され、発電電動機30に供給されることとなる。なお、同期電動機の駆動制御については多くの公知技術が存在することから、これら公知技術を適宜採用すればよい。なお、センサレスの場合には、実回転数は推定値を用いればよい。
【0054】
また、発電電動機30の発電時(回生時)においては、演算処理装置40は、直流バス15から供給された直流電力を船内系統16と同一の周波数の交流電力に変換するように、第2電力変換部14を制御する。この制御についても同期発電機の制御方法に関する公知技術を適宜採用すればよい。
【0055】
このような過給機システムにおいて、発電電動機30の力行時には、船内系統16からの三相交流電力が第2電力変換部14によって直流電力に変換され、直流バス15を通じて第1電力変換部12に供給される。第1電力変換部12は、演算処理装置40からの制御信号に基づいて駆動されることにより、直流電力を交流電力に変換する。交流電力は、発電電動機30に供給され、発電電動機30が回転する。
【0056】
また、発電電動機30の発電時には、発電電動機30の発電電力が第1電力変換部12によって直流電力に変換され、直流バス15を通じて第2電力変換部14に供給される。第2電力変換部14は、演算処理装置40からの制御信号(例えば、PWM信号)に基づいて駆動されることにより、第1電力変換部12からの直流電力を船内系統16に適した三相交流電力に変換して船内系統16に出力する。
【0057】
次に、本実施形態に係る制御装置50が備える磁石温度推定機能について、図面を参照して詳しく説明する。
図2は、演算処理装置40が備える種々の機能のうち、発電電動機30の永久磁石温度を推定する磁石温度推定機能について主に記載した概略機能ブロック図である。
【0058】
図2に示すように、演算処理装置40は、力行時温度推定部41と、発電時温度推定部42とを備えている。
力行時温度推定部41は、発電電動機30の力行時において、所定のタイミングまたは所定の時間間隔で、発電電動機30の永久磁石の温度(以下「磁石温度」という。)を推定する。
具体的には、力行時温度推定部41は、停止部51と、温度演算部52と、回転数制御部53と、異常判定部54とを備える。
【0059】
停止部51は、発電電動機30の駆動中において、発電電動機30への電圧印加を所定期間停止させる。例えば、停止部51は、第1電力変換部12への制御信号を停止させることにより、第1電力変換部12が備えるスイッチング素子を全て開状態とすることで、発電電動機30への電圧印加を停止させる。あるいは、コンタクタ45を開状態とすることで、電圧印加を停止させてもよい。
【0060】
温度演算部52は、停止部51によって電圧印加が停止されている停止期間中に、すなわち、発電電動機30が無負荷状態で回転しているフリースピン状態において、電圧センサ18によって計測された電圧値、すなわち逆起電力(誘起電圧)Veを用いて発電電動機30の磁石温度を演算する。例えば、温度演算部52は、逆起電力または逆起電力に相関を持つパラメータ(例えば、磁束変化率等)と発電電動機30の磁石温度とを関連付けた磁石温度特性を有しており、この磁石温度特性を用いて、電圧センサ18によって計測された逆起電力Veに対応する磁石温度を取得する。なお、逆起電力Veから磁石温度を推定する方法については公知の技術であり、これら公知の技術を適宜採用することが可能である。例えば、一例として、特開2002-10677号公報に開示されている方法を採用することができる。また、磁石温度特性は回転数に応じて変化するため、回転数毎に磁石温度特性を用意してもよい。
【0061】
回転数制御部53は、停止部51によって電圧印加が停止される停止期間の直前に設けられた速度調整期間において、発電電動機30の回転数を上昇させる。これは、例えば、第1電力変換部12に対して回転数を上昇させる制御信号を出力することで実現可能である。例えば、回転数制御部53は、予め設定された回転数上昇幅Δω(図4参照)に基づいて発電電動機30の回転数を上昇させる。
【0062】
速度調整期間における回転数上昇幅Δωは、例えば、停止期間中に低下する発電電動機30の回転数幅に応じて設定されている。本実施形態では、一例として、回転数上昇幅Δωは、停止期間中に低下する発電電動機30の回転数幅に相当する回転数幅に設定されている。
【0063】
異常判定部54は、温度演算部52によって演算された磁石温度と予め設定されている許容温度とを比較し、磁石温度が許容温度以上である場合に異常と判定する。異常判定部54によって異常と判定された場合には、例えば、演算処理装置40は、発電電動機30を停止させるとともに、アラームを発生させて、異常発生を報知する。
【0064】
次に、上記力行時温度推定部41によって実行される磁石温度推定処理について図3及び図4を参照して説明する。図3は、力行時に実行される磁石温度推定処理の処理手順の一例を示したフローチャート、図4は、図3に示した磁石温度推定処理の実行中における回転数の変移の一例を示した図である。図4において、横軸は時間、縦軸は発電電動機30の回転数を示している。
【0065】
図3に示した磁石温度推定処理は、例えば、「所定の時間間隔」または「所定のタイミング」で実行される処理である。
ここで、「所定のタイミング」として、例えば、以下のようなタイミングが挙げられる。
【0066】
i)発電電動機30の負荷が予め設定された高負荷閾値以上である場合。より具体的には、発電電動機30の負荷が予め設定されている高負荷範囲にある状態が所定期間継続したときに、磁石温度の推定を行う。磁石温度は、発電電動機30の負荷と相関があり、負荷が高いときに磁石温度も高くなる。したがって、可能な限り高負荷の状態で磁石温度を推定することで、高温域での磁石温度を把握することができる。なお、高負荷範囲の上限値は、回転数上昇の余裕度が確保された負荷に設定するとよい。このような負荷範囲に設定しなければ、回転数制御部による回転数上昇制御が不十分となってしまうからである。
【0067】
ii)発電電動機30の回転数が所定の安定条件を満たす場合。「所定の安定条件」とは、例えば、回転数が予め設定された回転数範囲内にある状態が所定時間継続したとき等が挙げられる。例えば、力行時温度推定部41は、上述したように、発電電動機30への電圧印加を停止した状態で温度推定を行う。回転数が変動している過渡期において発電電動機30への電圧印加を停止すると、その期間においては、回転数を変更することができないため、制御に支障をきたす可能性がある。したがって、このような過渡期を除外し、回転数が安定している期間に温度推定を行うことで、発電電動機30の制御を安定させることができる。また、上記「回転数範囲」の上限は、発電電動機30の回転数上限値に対して所定の余裕度を持って設定されるとよい。これにより、回転数制御部による回転数上昇制御が可能となる。
【0068】
また、上記種々の条件を満たす期間において、温度推定のタイミングの条件は、同じ負荷及び同じ回転数に設定されているとよい。このようにすることで、毎回、同じ運転条件下で温度推定を行うことができ、磁石温度の変移を把握することができる。
【0069】
また、磁石温度推定処理を実行する「所定の時間間隔」は、発電電動機30への電圧印加を停止することによって低下した磁石温度が発電電動機30への電圧印加を停止する前の磁石温度に回復するまでに要する期間を予測または予め計測し、予測または計測した期間よりも長めの時間間隔に設定される。このような時間間隔に設定することで、磁石温度の推定を行うことにより低下した磁石温度が磁石温度の推定前の温度まで回復する回復期間における温度推定を回避することが可能となる。
なお、上記のように「所定のタイミング」で温度推定を行う場合にも、少なくとも磁石温度が温度推定前の温度まで回復するまでの期間は温度推定を行わないようにするとよい。
【0070】
以下、図3及び図4を参照して、本実施形態における力行時の磁石温度推定処理について説明する。
まず、速度調整期間にわたって、発電電動機30の回転数を所定の回転数幅上昇させる回転数上昇制御が行われる(SA1)。これにより、例えば、図4に示す時刻t1からt2の速度調整期間において、発電電動機30の回転数は所定の回転数上昇幅Δω上昇することとなる。
【0071】
次に、速度調整期間が終了、換言すると、所定の回転数幅の上昇が完了すると(SA2:YES)、停止部51によって発電電動機30への電圧印加が停止される(SA3)。この電圧印加の停止は、例えば、所定の停止期間が終了するまで維持される。この停止期間中(図4に示す時刻t2からt3の間)は、発電電動機30への電圧印加が停止された状態なので、発電電動機30は無負荷状態で回転するフリースピン状態となる。発電電動機30が回転することにより発生した逆起電力Veは、電圧センサ18によって計測される(SA4)。電圧センサ18によって計測された逆起電力Veは、演算処理装置40に出力される。
【0072】
次に、温度演算部52により、電圧センサ18によって計測された逆起電力Veを用いて、発電電動機30の磁石温度が演算される(SA5)。次に、異常判定部54によって、演算された磁石温度と予め設定されている許容温度とが比較される(SA6)。この結果、磁石温度が許容温度未満である場合には(SA6:YES)、停止期間が終了するまで待機する(SA7)。そして、停止期間が終了すると(SA7:YES)、第1電力変換部12への電圧印加を再開し、コンタクタ45を閉状態とすることで、発電電動機30との同期を再開させ(SA8)、磁石温度推定処理を終了する。これにより、通常の力行制御が再開される(図4の時刻t3以降)。
一方、ステップSA6において、磁石温度が許容温度以上である場合には(SA6:NO)、アラームを発生させて異常発生を報知し(SA9)、演算処理装置40による発電電動機30の制御を停止させる(SA10)。
【0073】
なお、図3では、所定の停止期間が終了した場合に(ステップSA7参照)、通常の力行制御を再開していたが、発電電動機30との同期を再開するまでには時間を要する。したがって、発電電動機30との同期に要する時間を加味して、上記停止期間の終了を待たずに第1電力変換部12への電圧印加を開始させることとしてもよい。この場合、例えば、発電電動機30の回転数が回転数上昇制御を行う前の回転数(図4の時刻t1の回転数)よりも所定回転数α高い値に設定された所定の閾値となった場合に、電圧印加を再開させることにより、発電電動機30との同期処理を開始することとしてもよい。
【0074】
次に、発電時温度推定部42について説明する。
図2に示すように、発電時温度推定部42は、発電電動機30の発電時において、所定のタイミングまたは所定の時間間隔で、発電電動機30の磁石温度を推定する。
具体的には、発電時温度推定部42は、停止部61と、温度演算部62と、電圧制御部63と、異常判定部64とを備えている。
【0075】
停止部61は、発電電動機30の発電を所定期間停止させる。例えば、停止部61は、第1電力変換部12の制御信号を停止させることにより、第1電力変換部12が備えるスイッチング素子を全て開状態とすることで、発電電動機30と第1電力変換部12、ひいては第2電力変換部14との接続を非接続状態とし、発電を停止させる。あるいは、コンタクタ45を開状態とすることにより、発電電動機30と電力変換装置20との接続を機械的に非接続状態とし、発電を停止させてもよい。
【0076】
温度演算部62は、停止部51によって発電が停止されている停止期間中に、電圧センサ18によって計測された電圧値、すなわち、逆起電力(誘起電圧)Veを用いて発電電動機30の磁石温度を演算する。この温度演算部62による演算処理は、上述した温度演算部52と同様であるため、詳細な説明は省略する。また、温度演算部62と温度演算部52とで同一の温度演算部を共有してもよい。
【0077】
電圧制御部63は、停止期間の直前に設けられた電圧調整期間において、発電電動機30の直流バス15の直流電圧Vdcを上昇させる。例えば、電圧制御部63は、予め設定された電圧上昇幅ΔVに基づいて、第1電力変換部12を制御することにより、直流バス15の直流電圧Vdcを電圧上昇幅ΔV上昇させる。
電圧上昇幅ΔVは、例えば、電圧調整期間の開始時において電力変換装置20から船内系統16へ出力される供給電力と、停止期間において電力変換装置20から船内系統16へ出力される供給電力との差分が、予め設定されている許容範囲内となるように設定されている。
【0078】
例えば、定常時において、発電電動機30から電力変換装置20を介して船内系統16に出力される供給電力をW[kW]、停止期間をT[s]とし、停止期間中においても定常時と同じ供給電力を維持する場合には、船内系統16に供給する電力量Jは、J=W[kW]・T[s]で表される。
【0079】
このエネルギーJを電圧調整期間において平滑コンデンサ22に余剰分として蓄えれば、発電電動機30の発電が停止する停止期間において、発電電動機30に代えて平滑コンデンサ22から電力を供給することができ、船内系統16に供給される電力を一定に維持することが可能となる。
【0080】
ここで、定常時における直流バス15の電圧をV、電圧調整期間における電圧上昇幅をΔVとした場合、電圧調整期間の終了時(停止期間の開始時)において平滑コンデンサ22に保持されるエネルギー余剰分J_conは、以下の(1)式で表される。
【0081】
【数1】
【0082】
上記エネルギー余剰分J_conが、上述したエネルギーJ=W・T以上であれば、停止期間Tにおいて船内系統16に出力する供給電力を一定とすることができる。すなわち、電圧調整期間における電圧上昇幅ΔVは以下の(2)式を満たす電圧値に設定されるとよい。
【0083】
【数2】
【0084】
なお、上述した記例では、停止期間Tにおいて平滑コンデンサ22に蓄えられた電力を船内系統16に供給することとしたが、例えば、平滑コンデンサ22を用いず、平滑コンデンサ22とは別置きの二次電池から電力を船内系統16に供給することとしてもよい。例えば、停止期間Tにおいて、二次電池と船内系統16とを接続し、二次電池から電力を供給する。二次電池を用いる場合、停止期間の直前に設けられた電圧調整期間に限らず、任意のタイミングで二次電池に電力を蓄積することが可能である。二次電池の一例としては、船舶に搭載される予備電源としての無停電電源装置が挙げられる。
【0085】
異常判定部64は、温度演算部62によって演算された磁石温度と予め設定されている許容温度とを比較し、磁石温度が許容温度以上である場合に異常と判定する。異常判定部64によって異常と判定された場合には、例えば、演算処理装置40は、発電電動機30を停止させるとともに、アラームを発生させて、異常発生を報知する。
【0086】
次に、上記発電時温度推定部42によって実行される磁石温度推定処理について図5及び図6を参照して説明する。図5は、発電時における磁石温度推定処理の処理手順の一例を示したフローチャート、図6は、発電時の磁石温度推定処理の実行中における発電電動機30の回転数変移、直流バス15の電圧変移、及び船内系統16へ供給される供給電力の変移の一例を示した図である。図6において、横軸は時間、縦軸はそれぞれ上から発電電動機回転数、直流電圧、及び供給電力を示している。
【0087】
なお、図5に示した発電時における磁石温度推定処理は、発電電動機30による発電が所定の安定条件を満たしている場合に行われるとよい。ここで、安定条件とは、例えば、発電電力の変動が所定範囲内である状態が所定時間維持されている場合等である。
【0088】
発電時の磁石温度推定処理では、まず、電圧調整期間にわたって、直流バス15の電圧を所定の電圧上昇幅ΔV上昇させる電圧上昇制御が電圧制御部63によって行われる(SB1)。これにより、例えば、図6に示す時刻t1からt2の電圧調整期間において、直流電圧Vdcは所定の電圧上昇幅ΔV上昇することとなる。
【0089】
次に、電圧調整期間が終了すると(SB2:YES)、停止部61によって発電電動機30と電力変換装置20との接続が切断され、発電電動機30の発電が停止する(SB3)。発電電動機30の発電が停止されると、発電電動機30はフリースピン状態となる。発電電動機30が回転することにより発生した逆起電力Veは、電圧センサ18によって計測される(SB4)。電圧センサ18によって計測された逆起電力Veは、演算処理装置40に出力される。
【0090】
次に、温度演算部62により、電圧センサ18によって計測された逆起電力Veを用いて、発電電動機30の磁石温度が演算される(SB5)。次に、異常判定部64によって、演算された磁石温度と予め設定されている許容温度とが比較される(SB6)。この結果、磁石温度が許容温度未満である場合には(SB6:YES)、停止期間が終了したか否かを判定する(SB7)。この結果、停止期間が終了した場合には(SB7:YES)、コンタクタ45を閉状態とすることで、発電電動機30と電力変換装置20とを再び接続させ、発電電動機30との同期が再開され(SB8)、磁石温度推定処理を終了する。これにより、演算処理装置40による通常の発電制御が再開される(図6の時刻t3以降)。なお、発電を再開する際には、発電量を制御して直流電圧Vdcが上がりすぎないようにする。
一方、ステップSB6において、磁石温度が許容温度以上である場合には(SA6:NO)、アラームを発生させて異常発生を報知し(SB9)、演算処理装置40による発電電動機30の制御を停止させる(SB10)。
【0091】
なお、図5では、所定の停止期間が終了した場合に(ステップSB7参照)、通常の発電制御を再開していたが、これに代えて、磁石温度が所定温度となった場合に、発電電動機30との同期を再開することとしても良い。所定温度は、例えば、上記許容温度以下の値に設定されている。この場合、所定の停止期間の終了を待たずに、磁石温度が所定温度となったときに発電電動機30との同期を再開することができる。なお、発電を再開する際には、発電量を制御して直流電圧Vdcが上がりすぎないようにする。
【0092】
以上説明したように、本実施形態に係る発電電動機30の制御装置50によれば、発電電動機30の力行時において、発電電動機30が駆動している状態で一時的に発電電動機30への電圧印加を停止し、この停止期間において発電電動機30の相電圧を計測するので、逆起電力の計測制度を向上させることができる。これにより、磁石温度の推定が可能となる。
更に、停止期間の直前に設定された速度調整期間において、同期電動機の回転数を上昇させるので、速度調整期間前の同期電動機の回転数に対する停止期間終了時における同期電動機の回転数の低下を小さくすることができる。これにより、温度推定による同期電動機の回転数の落ち込みを抑制することができる。
【0093】
また、速度調整期間における回転数上昇幅Δωは、停止期間中に低下する発電電動機30の回転数幅に応じて設定される。例えば、速度調整期間の開始時(例えば、図4における時刻t1)から停止期間の終了時(例えば、図4における時刻t3)までの発電電動機30の回転数の変動幅が所定値未満となる値に回転数上昇幅Δωを設定することで、速度調整期間前の発電電動機30の回転数(例えば、図4における時刻t1以前の回転数)と、停止期間終了時における発電電動機30の回転数(例えば、図4における時刻t3の回転数)との差分を所定値未満に抑制することができる。
【0094】
また、発電電動機30の発電時においては、発電電動機30が発電している状態で一時的に発電電動機30の発電を停止し、この停止期間において発電電動機30の相電圧を計測するので、逆起電力の計測精度を向上させることができる。これにより、発電時においても、磁石温度の推定が可能となる。
【0095】
また、停止期間の直前に設けられた電圧調整期間において、直流バス15の電圧を上昇させるので、直流バス15に設けられた平滑コンデンサ22に蓄えられるエネルギーを上昇させることが可能となる。これにより、発電が停止している停止期間において、平滑コンデンサ22に蓄えられた余剰のエネルギーを船内系統16に出力することができ、停止期間における供給電力の落ち込みを抑制することが可能となる。この際、電圧調整期間の開始時において電力変換装置20から船内系統16に出力される電力と、停止期間において電力変換装置20から船内系統16に出力される電力との差分が予め設定されている許容範囲内(例えば、同じ値)となるように、電圧上昇幅ΔVを設定することで、停止期間中における供給電力の落ち込みを許容範囲内に抑制することができる。
【0096】
また、従来は、発電電動機30の力行中または発電中において逆起電力を精度よく計測できなかったため、磁石温度の推定ができず、テレメータ温度計などを設ける必要があった。これに対し、本実施形態に係る発電電動機30の制御装置50によれば、上述したように、磁石温度の推定が可能となるので、磁石温度の推定精度によっては、テレメータ温度計などを不要とすることが可能となる。
【0097】
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0098】
例えば、本実施形態では、図4に示すように、停止期間中に低下する発電電動機30の回転数幅に回転数上昇幅Δωを設定したが、回転数上昇幅Δωの設定値はこの例に限定されない。例えば、図7に示すように、速度調整期間の開始時(時刻t1)から停止期間の終了時(時刻t3)までにおける発電電動機30の回転数の変動幅(|ω1-ω2|)が所定値未満となる値に、回転数上昇幅Δωが設定されていてもよい。図7では、変動幅(|ω1-ω2|)が最小となるΔωに設定した例を示している。
【0099】
また、力行時においては停止期間の直前に速度調整期間を設け、この速度調整期間において発電電動機30の回転数を上昇させたが、この速度調整期間を設けずに、換言すると、発電電動機30の回転数上昇制御を行わずに、停止期間に入ることとしてもよい。この場合、例えば、図3に示したステップSA1、SA2の処理を省略することができる。
また、同様に、発電時においても、停止期間の直前に設けられていた電圧調整期間を省略し、直流バス15の電圧上昇を行うことなく、停止期間に入ることとしても良い。この場合、例えば、図5に示したステップSB1、SB2の処理を省略することができる。
【0100】
また、上述した実施形態において、温度演算部52、62によって温度推定が行われる場合に、その温度推定の開始時から所定時間前に温度推定が開始されることを報知することとしてもよい。この報知は、温度推定が終了するまで維持されてもよい。このように、温度推定が行われることを報知することで、ユーザに温度推定が行われることを事前に通知することができる。
【0101】
また、温度推定を報知する方法に代えて、または、加えて、温度推定開始時の所定時間前から温度推定終了時まで回転数を変更する操作や制御を強制的に禁止することとしてもよい(回転数変更禁止手段)。例えば、手動による入力操作が行われないようにガイダンスすることとしてもよい。例えば、「手動による入力操作は行わないでください」等のメッセージを表示部(図示略)に表示させることで視覚的に報知したり、音声等により聴覚的に報知したりしてもよい。
【0102】
また、上記実施形態で説明した磁石温度推定処理は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりすることが可能である。
【0103】
なお、本実施形態では、船舶に搭載されるハイブリッド過給機に本発明の同期電動機の制御装置及び同期発電機の制御装置を適用した場合を例示して説明したが、本発明の適用先はハイブリッド過給機に限定されない。例えば、本発明の同期電動機の制御装置は、空気調和機等のように、電動機を備える装置に対して広く適用することが可能である。同様に、本発明の同期発電機の制御装置は、発電機を備える装置に対して広く適用することができる。
【0104】
なお、上述したハイブリッド過給機のように、力行機能と発電機能とを併せ持つ装置に本発明を適用する場合には、力行時と発電時とで磁石温度が高温になると想定される方で優先的に磁石温度推定処理を実行することとしてもよい。例えば、上述したハイブリッド過給機においては、発電時の方が磁石温度が高温になるので、主に発電時に磁石温度推定処理を実行することが好ましい。
【符号の説明】
【0105】
10 :過給機
12 :第1電力変換部
14 :第2電力変換部
15 :直流バス
16 :船内系統
17 :電圧センサ
18 :電圧センサ
20 :電力変換装置
21 :排気タービン
22 :平滑コンデンサ
23 :圧縮機
30 :発電電動機
40 :演算処理装置
41 :力行時温度推定部
42 :発電時温度推定部
45 :コンタクタ
50 :制御装置
51 :停止部
52 :温度演算部
53 :回転数制御部
54 :異常判定部
61 :停止部
62 :温度演算部
63 :電圧制御部
64 :異常判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7