(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】造形装置、造形方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 64/295 20170101AFI20220404BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20220404BHJP
B29C 64/194 20170101ALI20220404BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20220404BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220404BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220404BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20220404BHJP
【FI】
B29C64/295
B29C64/118
B29C64/194
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2018047351
(22)【出願日】2018-03-14
【審査請求日】2021-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】516262549
【氏名又は名称】エス.ラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋枝 智美
(72)【発明者】
【氏名】伊東 陽一
(72)【発明者】
【氏名】高井 篤
(72)【発明者】
【氏名】荒生 剛志
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-135597(JP,A)
【文献】特開2005-335380(JP,A)
【文献】特開2015-212042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C64/00-64/40,67/00
B33Y10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の造形材料を積層することにより、第1の造形材料の積層体である第1の造形領域と、第2の造形材料の積層体である第2の造形領域と、を含む造形物を造形可能な造形装置であって、
形成された造形材料層を加熱する加熱部と、
加熱された前記造形材料層上に溶融した造形材料を吐出し、複数の造形材料列を前記造形材料層の積層方向に交差する交差方向に配列
することにより前記造形材料層を積層させる吐出部と、
前記造形材料列における、次に吐出する前記造形材料が接する接触対象領域を加熱するように、前記加熱部を制御する加熱制御部と、
前記第1の造形領域と前記第2の造形領域との界面となる少なくとも1層の前記造形材料層の形成において、前記第1の造形材料による前記造形材料列と、前記
第2の造形材料による前記造形材料列
とが交互に配列
されるように、前記吐出部を制御する吐出制御部と、
を備える造形装置。
【請求項2】
前記吐出制御部は、
前記界面となる少なくとも1層の前記造形材料層が、前記積層方向および前記交差方向の少なくとも一方に沿っ
て形成され
るように、前記吐出部を制御する、
請求項1に記載の造形装置。
【請求項3】
前記加熱制御部は、
前記造形材料列の前記積層方向の端面、および前記造形材料列の前記交差方向の端面を含む前記接触対象領域を加熱するように、前記加熱部を制御する、
請求項1
または請求項
2に記載の造形装置。
【請求項4】
前記加熱部は、レーザ光の照射、加熱した空気の送風、および、前記接触対象領域の接触加熱、の少なくとも1つによって前記接触対象領域を加熱する、
請求項1~請求項
3の何れか1項に記載の造形装置。
【請求項5】
形成された造形材料層を加熱する
ステップと、
加熱された前記造形材料層上に溶融した造形材料を吐出し、複数の造形材料列を前記造形材料層の積層方向に交差する交差方向に配列
することにより前記造形材料層を積層させる
ステップと、
を含む造形方法であって、
前記加熱するステップは、
前記造形材料列における、次に吐出する前記造形材料が接する接触対象領域を加熱する
ことを含み、
前記積層させるステップは、
第1の造形材料を積層して第1の造形領域を形成することと、
第2の造形材料を積層して第2の造形領域を形成することと、
前記第1の造形領域と前記第2の造形領域との境界において、界面となる少なくとも1層の前記造形材料層を形成することと、
を含み、
前記界面となる少なくとも1層の前記造形材料層の形成において、前記第1の造形材料による前記造形材料列と、前記
第2の造形材料による前記造形材料列
とが交互に配列
されるように、前記
造形材料の吐出を制御す
る、
造形方法。
【請求項6】
前記積層させるステップにおいて、前記界面となる少なくとも1層の前記造形材料層は、前記積層方向および前記交差方向の少なくとも一方に沿って形成される、
請求項5に記載の造形方法。
【請求項7】
造形材料層を加熱する加熱部と、加熱された前記造形材料層上に溶融した造形材料を吐出し、複数の造形材料列を前記造形材料層の積層方向に交差する交差方向に配列
することにより前記造形材料層を積層させる吐出部と、を備えた造形装置に接続されたコンピュータに
造形装置の制御を実行させるプログラムであって、
前記造形材料列における、次に吐出する前記造形材料が接する接触対象領域を加熱するように、前記加熱部を制御するステップと、
前記吐出部を制御することにより、
第1の造形材料を積層して第1の造形領域を形成し、
第2の造形材料を積層して第2の造形領域を形成し、
前記第1の造形領域と前記第2の造形領域との境界において、界面となる少なくとも1層の前記造形材料層を形成し、
前記界面となる少なくとも1層の前記造形材料層の形成において、前記第1の造形材料による前記造形材料列と、前記
第2の造形材料による前記造形材料列
とを交互に配列
させる、ステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形装置、造形方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金型などを用いずに造形物を作製する装置として、3Dプリンタが普及しつつある。熱溶解積層法(FFF(Fused Filament Fabrication))を用いた3Dプリンタは、コンシューマ向けにも浸透している。また、複数種類の造形材料を用いて造形された造形物の強度向上を図る技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、2種類の造形材料を交互に配列した層上に、2種類の造形材料を下層側の配列方向に対して交差する方向に交互に配列した層を積層する構成が開示されている。特許文献1の技術では、同じ種類の造形材料による接合力を利用して、積層方向の接着力の低下を抑制している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術では、造形物の形状を制限せずに、異なる種類の造形材料で構成された造形物の強度向上を図ることは困難であった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、造形物の形状を制限せずに、異なる種類の造形材料で構成された造形物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、造形装置は、複数の造形材料を積層することにより、第1の造形材料の積層体である第1の造形領域と、第2の造形材料の積層体である第2の造形領域と、を含む造形物を造形可能な造形装置であって、形成された造形材料層を加熱する加熱部と、加熱された前記造形材料層上に溶融した造形材料を吐出し、複数の造形材料列を前記造形材料層の積層方向に交差する交差方向に配列することにより前記造形材料層を積層させる吐出部と、前記造形材料列における、次に吐出する前記造形材料が接する接触対象領域を加熱するように、前記加熱部を制御する加熱制御部と、前記第1の造形領域と前記第2の造形領域との界面となる少なくとも1層の前記造形材料層の形成において、前記第1の造形材料による前記造形材料列と、前記第2の造形材料による前記造形材料列とが交互に配列されるように、前記吐出部を制御する吐出制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、造形物の形状を制限せずに、異なる種類の造形材料で構成された造形物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、造形装置の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、加熱部および回転ステージを拡大して示した模式図である。
【
図4】
図4は、造形装置のハードウェア構成図の一例である。
【
図5】
図5は、造形材料層の積層の一例を示す説明図である。
【
図6】
図6は、従来の比較造形物の一例を示す模式図である。
【
図7】
図7は、造形物の製造方法の一例の説明図である。
【
図8】
図8は、造形物の製造方法の一例の説明図である。
【
図9】
図9は、造形物の製造方法の一例の説明図である。
【
図15】
図15は、造形処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、制御部のハードウェア構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら、本実施の形態の造形装置、造形方法、およびプログラムの実施の形態を詳細に説明する。なお、本明細書において、同じ構成および機能を示す部分には、同じ符号を付与し、詳細な説明を省略する場合がある。
【0010】
なお、本実施の形態では、熱溶解積層法(FFF)により造形物を造形する造形装置を、一例として説明する。なお、造形装置は、三次元の造形物を造形する装置であればよく、造形方法は熱溶解積層法(FFF)に限定されない。
【0011】
図1は、本実施の形態の造形装置1の一例を示す模式図である。
【0012】
造形装置1の筐体2の内部には、造形テーブル3が設けられている。造形テーブル3は、造形物Mを保持する。すなわち、造形テーブル3上に、造形物Mが造形される。
【0013】
造形物Mの造形には、造形材料が用いられる。本実施の形態では、造形材料として、フィラメントFを用いる。フィラメントFは、造形材料を細長いワイヤー形状にした固体材料である。造形材料は、熱可塑性樹脂である。
【0014】
フィラメントFは、巻き回された状態で造形装置1における筐体2の外部のリール4にセットされている。リール4は、フィラメントFの駆動手段であるエクストルーダ11の回転に引っ張られることで、大きく抵抗力を働かせることなく自転する。
【0015】
また、筐体2内には、吐出部10が設けられている。吐出部10は、溶融した造形材料を吐出して造形材料層を積層させ、造形材料層の積層体である造形物Mを形成する。
【0016】
図2は、吐出部10による吐出の説明図である。
図2(A)は、吐出部10の断面模式図の一例である。吐出部10は、エクストルーダ11、冷却ブロック12、フィラメントガイド14、加熱ブロック15、吐出ノズル18、撮像モジュール101、ねじり回転機構102、およびその他の部品によってモジュール化されている。フィラメントFは、エクストルーダ11によって引き込まれることで、吐出部10へ供給される。
【0017】
撮像モジュール101は、吐出部10に引き込まれたフィラメントFの360°像、すなわち、フィラメントFにおけるある部分の全方位の画像を撮影する。
図2には、吐出部10が2つの撮像モジュール101を備えた構成を、一例として示した。なお、吐出部10に設けられる撮像モジュール101の数は、2つに限定されない。例えば、反射板を備えた構成とすることで、1つの撮像モジュール101により、フィラメントFの360°像を撮影してもよい。
【0018】
撮像モジュール101は、例えば、レンズなどの結像光学系と、CCD(Charge Coupled Device)センサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどの撮像素子と、を備えたカメラである。
【0019】
ねじり回転機構102は、フィラメントFを延伸方向に対して直交する方向に回転させることで、フィラメントFの方向を規制する。径測定部103は、撮像モジュール101によって撮影されたフィラメントFの画像から、X軸(矢印X方向)、Y軸(矢印Y方向)の2方向におけるフィラメントのエッジ間の幅を、それぞれ径として測定する。X軸およびY軸は、互いに直交する2軸である。また、X軸およびY軸は、Z軸に対して直交する。Z軸は、鉛直方向および造形材料層40の積層方向(矢印Z方向)に一致する。
【0020】
なお、以下では、積層方向(矢印Z方向)を、単に、積層方向Zと称して説明する場合がある。また、積層方向に交差する方向(XY平面に沿った方向)を、単に、交差方向XYと称して説明する場合がある。
【0021】
加熱ブロック15は、ヒータなどの熱源16と、ヒータの温度を制御するための熱電対17と、を有する。加熱ブロック15は、フィラメントFを加熱溶融し、溶融したフィラメントFである溶融フィラメントFMを、吐出ノズル18へ供給する。
【0022】
なお、溶融とは、加熱ブロック15による加熱前に比べて、固相に対する液相の比率が高くなった状態を意味する。すなわち、溶融には、フィラメントFの溶け始めから溶けて液状となるまでの状態が含まれ、半溶融状態および溶融状態の双方が含まれる。
【0023】
冷却ブロック12は、加熱ブロック15とエクストルーダ11との間に設けられている。冷却ブロック12は、冷却源13を有し、フィラメントFを冷却する。冷却ブロック12は、加熱ブロック15からの溶融フィラメントFMの逆流、フィラメントFの押出抵抗の増大、および溶融フィラメントFMの固化による詰まり、などを防ぐ。エクストルーダ11によって冷却ブロック12側へ押し出されたフィラメントFは、フィラメントガイド14を介して加熱ブロック15へ供給される。
【0024】
加熱ブロック15における、造形材料層40の鉛直方向の下流側端面には、吐出ノズル18が設けられている。加熱ブロック15へ供給されたフィラメントFは、加熱ブロック15によって溶融される。そして、溶融されたフィラメントFである溶融フィラメントFMは、吐出ノズル18から吐出される。溶融フィラメントFMは、溶融された造形材料の一例である。
【0025】
本実施の形態では、吐出ノズル18は、造形テーブル3上に、溶融フィラメントFMを線状に押し出すようにして吐出する。このため、造形テーブル3には、溶融フィラメントFMによる造形材料列42が形成される。そして、この造形材料列42が交差方向XYに沿って複数配列されることで、1層の造形材料層40が形成される。そして、複数の造形材料層40が積層方向Zに積層されることで、造形物Mが造形される。
【0026】
本実施の形態では、吐出部10は、複数の吐出部10(第1吐出部10A、第2吐出部10B)を有する。
【0027】
本実施の形態では、吐出部10は、互いに異なる種類の造形材料の溶融フィラメントFMを吐出する、2つの吐出部10(第1吐出部10A、第2吐出部10B)を含む場合を一例として説明する。なお、これらの第1吐出部10Aおよび第2吐出部10Bを総称して説明する場合には、単に、吐出部10と称して説明する。
【0028】
なお、吐出部10は、互いに異なる複数種類の造形材料の溶融フィラメントFMを吐出する構成であればよく、3つ以上の吐出部10を含む構成であってもよい。すなわち、吐出部10は、3種類以上の造形材料の溶融フィラメントFMを吐出可能な構成であってもよい。
【0029】
第1吐出部10Aおよび第2吐出部10Bには、互いに異なる種類の造形材料からなるフィラメントFがセットされる。第1吐出部10Aおよび第2吐出部10Bの各々は、互いに異なる種類の造形材料からなるフィラメントFを溶融した溶融フィラメントFMを吐出する。複数種類の造形材料は、熱可塑性を有し、組成および組成比の少なくとも一方の異なる造形材料であればよい。
【0030】
図1に戻り説明を続ける。造形装置1には、加熱部20が設けられている。造形装置1は、1つの加熱部20を備えていてもよいし、複数の加熱部20を備えていてもよい。
【0031】
加熱部20は、接触対象領域Rを加熱する。加熱部20は、接触対象領域Rを加熱するための加熱源21を備える。加熱源21は、例えば、レーザ光を照射するレーザ光源、温風を接触対象領域Rに向かって送付する温風源、接触対象領域Rを接触加熱する接触加熱源、などである。このため、加熱部20は、レーザ光の照射、加熱した空気の送風、および、接触対象領域Rの接触加熱、の少なくとも1つによって接触対象領域Rを加熱する。
【0032】
接触対象領域Rは、加熱部20が加熱する対象の領域である。接触対象領域Rは、造形テーブル3上に形成された造形材料層40上の少なくとも一部の領域を含む。本実施の形態では、接触対象領域Rは、造形材料列42における、次に吐出する造形材料(溶融フィラメントFM)が接する対象の領域である。言い換えると、接触対象領域Rは、次に吐出する造形材料の溶融フィラメントFMが、吐出された後に接触する対象の領域である。
【0033】
具体的には、接触対象領域Rは、造形材料層40を構成する造形材料列42における、次に吐出する溶融フィラメントFM(造形材料)が接する対象の領域である。
【0034】
図2(B)を用いて説明する。例えば、1層目の造形材料層40
1上に、2層目の造形材料層40
2を造形する工程において、該造形材料層40
2を構成する複数の造形材料列42の内、2本の造形材料列42(造形材料列42
21、造形材料列42
22)を形成した状態であるとする。そして、該造形材料列42
22の隣に造形材料列42
23を造形するための溶融フィラメントFMを吐出する直前のタイミングを想定する。
【0035】
この場合、接触対象領域Rは、形成済の複数の造形材料列42(造形材料列4211~造形材料列4214、造形材料列4221~造形材料列4222)における、次に吐出する造形材料の溶融フィラメントFMが接する対象の接触対象領域Rである。具体的には、接触対象領域Rは、造形材料列4222の側面RBおよび造形材料列4213の積層方向Zの上面RA(端面)を、少なくとも含む領域である。
【0036】
このように、接触対象領域Rは、造形材料列42の積層方向Zの端面である上面RAと、造形材料列42の交差方向XYの端面である側面RBと、を含む。
【0037】
なお、加熱部20の加熱源21から出力される熱の熱量は、接触対象領域Rを溶融させるのに十分な熱量であればよい。
【0038】
なお、加熱部20は、特定の領域である接触対象領域Rを選択的に加熱可能に構成されている。本実施の形態では、加熱部20は、回転ステージ19によって支持されている。
【0039】
図3は、加熱部20および回転ステージ19を拡大して示した模式図である。回転ステージ19は、異なる複数の方向から接触対象領域Rを加熱するように、加熱部20を搬送する。本実施の形態では、加熱部20は、吐出ノズル18を中心に回転する。加熱部20は、回転ステージ19の回転に伴い回転移動する。
【0040】
これにより、加熱部20は、異なる複数の方向から接触対象領域Rを加熱することができる。
【0041】
また、加熱部20は、吐出ノズル18の移動方向に常に追従して、吐出ノズル18によって溶融フィラメントFMの吐出される直前の接触対象領域Rを加熱することができる。すなわち、加熱部20は、吐出ノズル18の移動方向が変わっても、吐出ノズル18による吐出に先回りして接触対象領域Rを加熱することができる。
【0042】
また、加熱部20を、接触対象領域Rを中心に回転させることで、接触対象領域Rを継続して加熱することができる。具体的には加熱部20を、吐出ノズル18を中心に回転させることで、吐出ノズル18による造形物Mの形成時には、溶融フィラメントFMを吐出される直前の接触対象領域Rを、継続して加熱することが可能となる。
【0043】
図1に戻り説明を続ける。吐出部10および加熱部20は、X軸駆動軸31によって、X軸方向(矢印X方向)にスライド移動可能に保持されている。X軸駆動軸31は、造形材料層40の積層方向Zに対して直交する平面(交差方向XYに沿った平面)における一方向(例えば矢印X軸方向)に長い駆動軸である。X軸駆動軸31には、X軸駆動モータ32が設けられている。吐出部10および加熱部20は、X軸駆動モータ32の駆動力により、X軸方向へ移動する。
【0044】
X軸駆動モータ32は、Y軸駆動軸33Aに沿ってスライド移動可能に保持されている。Y軸駆動軸33Aは、造形材料層40の積層方向Zに対して直交する平面における、X軸方向に直交する方向(矢印Y方向)に長い駆動軸である。Y軸駆動軸33Aには、Y軸駆動モータ33が設けられている。吐出部10、加熱部20、およびX軸駆動モータ32は、Y軸駆動モータ33の駆動力により、Y軸方向へ移動する。
【0045】
造形テーブル3は、造形材料層40の積層方向Zに長いZ軸駆動軸34、および、ガイド軸35に通され、造形材料層40の積層方向に沿って移動可能に保持されている。Z軸駆動軸34には、Z軸駆動モータ36が設けられている。造形テーブル3は、Z軸駆動モータ36の駆動力により、造形材料層40の積層方向Zへ移動する。造形テーブル3には、積載された造形物Mを加熱するための加熱機構が設けられていてもよい。
【0046】
このため、造形装置1は、造形テーブル3上に形成された造形材料層40上の任意の領域である接触対象領域Rを、加熱部20によって選択的に加熱可能な構成となっている。また、造形装置1は、造形テーブル3上の任意の領域に、複数種類の造形材料からなる溶融フィラメントFMを吐出可能な構成となっている。
【0047】
また、造形装置1は、クリーニングブラシ37およびダストボックス38を備える。クリーニングブラシ37は、吐出ノズル18の先端周辺をクリーニングする。例えば、クリーニングブラシ37は、吐出ノズル18の周辺に飛散した造形材料などによる粉塵を、ダストボックス38へ集積させる。
【0048】
図4は、造形装置1のハードウェア構成図の一例である。造形装置1は、制御部100を有する。制御部100は、CPUあるいは回路などによって構築されている。制御部100は、造形装置1に設けられた各部と電気的に接続されている。
【0049】
制御部100は、加熱制御部100Aと、吐出制御部100Bと、を含む。加熱制御部100Aは、加熱部20を制御する(詳細後述)。吐出制御部100Bは、吐出部10を制御する(詳細後述)。
【0050】
造形装置1は、X軸座標検知機構105Aと、Y軸座標検知機構105Bと、Z軸座標検知機構K105Cと、を備える。
【0051】
X軸座標検知機構105Aは、吐出部10および加熱部20のX軸方向位置を検知する。X軸座標検知機構105Aは、X軸方向検知結果を制御部100へ送信する。制御部100は、X軸方向検知結果に基づいてX軸駆動モータ32の駆動を制御することで、吐出部10および加熱部20を目標のX軸方向位置へ移動させる。
【0052】
Y軸座標検知機構105Bは、吐出部10および加熱部20のY軸方向位置を検知する。Y軸座標検知機構105Bは、Y軸方向検知結果を、制御部100へ送信する。制御部100は、Y軸方向検知結果に基づいてY軸駆動モータ33の駆動を制御することで、吐出部10および加熱部20を目標のY軸方向位置へ移動させる。
【0053】
Z軸座標検知機構105Cは、造形テーブル3のZ軸方向位置を検知する。Z軸座標検知機構105Cは、Z軸方向検知結果を、制御部100へ送信する。制御部100は、Z軸方向検知結果に基づいてZ軸駆動モータ36の駆動を制御することで、造形テーブル3を目標のZ軸方向位置へ移動させる。
【0054】
このように、制御部100は、吐出部10、加熱部20、および造形テーブル3の移動を制御することにより、吐出部10、加熱部20、および造形テーブル3の相対的な三次元位置を、目標の三次元位置に移動させる。
【0055】
さらに、制御部100は、エクストルーダ11、冷却ブロック12、加熱ブロック15、吐出ノズル18、レーザ光源21A、クリーニングブラシ37、回転ステージRS、撮像モジュール101、ねじり回転機構102、径測定部103、温度センサ104、および切削部7の駆動部7Cに制御信号を送信することで、これらの駆動を制御する。
【0056】
温度センサ104は、接触対象領域Rの温度を測定する。温度センサ104は、温度測定結果を、制御部100へ出力する。制御部100は、温度測定結果に基づいて加熱源21の出力を制御することで、接触対象領域Rに加える熱の温度を調整する。
【0057】
次に、造形装置1による造形材料層40の積層の概要を説明する。
図5は、造形材料層40の積層の一例を示す説明図である。
【0058】
本実施の形態では、加熱部20は、加熱源21から照射される熱(例えば、レーザ光L)を用いて、造形材料層40における接触対象領域Rを加熱する。吐出部10は、加熱された接触対象領域R上に溶融フィラメントFMを吐出する。
【0059】
詳細には、加熱部20は、形成された造形材料層40における、次に吐出する溶融フィラメントFMが接する接触対象領域Rを加熱する。この加熱により、加熱部20は、造形材料層40上における接触対象領域Rを、再加熱する。再加熱とは、溶融フィラメントFMが冷却されて固化した後に、再度加熱することを表す。再加熱の温度は特に限定されないが、形成済の造形材料層40の融点以上の温度であることが好ましい。
【0060】
接触対象領域Rの温度は、温度センサ104によって測定される(
図4参照)。温度センサ104は、測定部の一例である。本実施形態では、温度センサ104は、加熱源21の近傍に配置されている。温度センサ104は、温度測定結果を、制御部100へ出力する。制御部100は、温度測定結果に基づいて加熱部20の出力を制御することで、接触対象領域Rに加える熱の温度を調整する。
【0061】
形成済の造形材料層40の表面を再加熱することで、造形材料層40における、再加熱された接触対象領域Rと、該接触対象領域Rに次に吐出された溶融フィラメントFMと、の温度差が小さくなり、これらの構成材料が混ざり合うことで、これらの層間の接着性が向上する。すなわち、複数の造形材料層40の、積層方向Zの強度が向上する。
【0062】
ここで、複数種類の造形材料を用いて造形物Mを造形する場合がある。従来では、このような複数種類の造形材料を用いて造形物を造形する場合、造形物の形状を制限せずに、強度低下の抑制された造形物Mを提供することは困難であった。
【0063】
図6は、従来の比較造形物M’の一例を示す模式図である。2種類の造形材料として、第1の造形材料と、第2の造形材料を用いる場合を説明する。
【0064】
従来では、第1の造形材料と第2の造形材料を用いて比較造形物M’を造形する場合、第1の造形材料による第1の造形材料層40AをN層まで積層し、N+1層から第2の造形材料による第2の造形材料層40Bを積層していた。また、従来では、N+1層の形成時に、N層の第1の造形材料層40Aの加熱を行わず、N+1層の第2の造形材料層40Bを積層していた。
【0065】
このような従来方法では、第1の造形材料層40Aの積層体である第1の造形領域440Aと、第2の造形材料層40Bの積層体である第2の造形領域440Bと、の層間の接着強度が低かった。このため、異なる種類の造形材料層40が隣接するN層とN+1層との境界で積層体が剥がれ、比較造形物M’が分離してしまっていた。
【0066】
従来方法における接着強度が弱い要因は、造形材料が既に冷えて固化が始まった状態のN層上に、N+1層を吐出するため、上下の層間に隙間が空いて接着面積が少なくなり、接着力が弱まるためと考えられる。
【0067】
また、2種類の造形材料を用いた造形の従来方法として、2種類の造形材料を交互に配列した層上に、2種類の造形材料を下層側の配列方向に対して交差する方向に交互に配列した層を積層する構成が開示されている。しかし、この従来技術では、造形物の形状が限定されてしまっていた。このため、従来では、造形物の形状を制限せずに、異なる種類の造形材料で構成された造形物の強度向上を図ることは困難であった。
【0068】
すなわち、従来では、異なる種類の造形材料を用いて造形物を造形する場合、造形物の形状を制限せずに、強度低下を抑制することは困難であった。
【0069】
そこで、本実施の形態の造形装置1では、制御部100の加熱制御部100Aが、造形材料列42における、次に吐出する造形材料が接する接触対象領域Rを加熱するように、加熱部20を制御する。また、制御部100の吐出制御部100Bが、互いに異なる種類の造形材料による造形材料列42を交互に配列するように、吐出部10を制御する。
【0070】
図7~
図11を用いて説明する。
図7~
図11は、本実施の形態の造形物Mの製造方法の一例の説明図である。複数種類のフィラメントF(造形材料)として、第1の造形材料と、第2の造形材料を用いる場合を説明する。また、第1の造形材料による第1の造形材料層40Aと第2の造形材料による第2の造形材料層40Bを、N層において隣接させる場合を想定する。すなわち、N層は、第1の造形材料層40Aと第2の造形材料層40Bの境界を含む層である。なお、上述したように、造形装置1が造形する造形物Mを構成する造形材料の種類は、2種類に限定されず、3種類以上であってもよい。
【0071】
まず、吐出制御部100Bは、吐出部10を矢印Y方向に移動させながら第1の造形材料の溶融フィラメントFMを吐出することで、矢印Y方向に長い第1の造形材料列42Aを形成するように、吐出部10を制御する。吐出制御部100Bは、この処理を、矢印X方向に沿って繰返し行うことで、1層(例えば、N-3層)の第1の造形材料層40Aを形成する。
【0072】
なお、このとき、加熱制御部100Aは、1列の第1の造形材料列42Aが形成されるごとに、形成済の第1の造形材料列42Aの側面RB(
図7では図示省略、
図2(B)参照)を接触対象領域Rとして加熱し、吐出制御部100Bは、加熱された接触対象領域Rに接するように次の第1の造形材料列42Aを吐出する。
【0073】
この処理によって、矢印X方向に沿って複数の第1の造形材料列42Aを配列してなる、最下層の第1の造形材料層40Aが形成される。最下層(N-3層)の第1の造形材料層40Aを形成すると、加熱制御部100Aが、第1の造形材料層40Aを構成する第1の造形材料列42Aにおける接触対象領域Rを加熱するように加熱部20を制御する。そして、加熱により溶融された接触対象領域Rに、吐出制御部100Bが第1の造形材料の溶融フィラメントFMを吐出することで、第1の造形材料列42Aを形成する。この処理を繰返すことで、N-2層~N-1層の第1の造形材料層40Aを積層方向Zに積層する。
【0074】
加熱溶融された接触対象領域Rに接するように、次の溶融フィラメントFMが吐出されることで、ミクロ的アンカー効果(詳細後述)と分子鎖の絡み合いの効果(詳細後述)により、複数の第1の造形材料列42Aおよび複数の第1の造形材料層40Aからなる第1の造形領域44Aの、積層方向Zおよび交差方向XYの接着強度の向上を図ることができる。
【0075】
次に、
図8に示すように、N層目において、加熱制御部100Aは、N-1層目の第1の造形材料層40Aにおける第1の造形材料列42A上の接触対象領域Rを加熱するように、加熱部20を制御する。このとき、加熱制御部100Aは、矢印X方向に向かって1列ごとに、N-1層目の第1の造形材料列42A上の領域を、接触対象領域Rとして加熱するように加熱部20を制御する。詳細には、加熱制御部100Aは、1列の第1の造形材料列42A分の間隔を隔てた領域を、接触対象領域Rとして加熱するように制御する。そして、吐出制御部100Bは、加熱部20によって加熱された接触対象領域R上に、第1の造形材料による溶融フィラメントFMを吐出し、第1の造形材料列42Aを形成する。
【0076】
上述したように、N層は、第1の造形材料層40Aと第2の造形材料層40Bとが隣接する層である。すなわち、N層は、第1の造形材料層40Aによる第1の造形領域44Aと、第2の造形材料層40Bによる第2の造形領域と、の境界を含む層である。
【0077】
本実施の形態の制御部100は、この境界を含む層であるN層について、1つ下層のN-1層の第1の造形材料列42Aの表面を加熱しながら、1列ずつ間隔を隔てて第1の造形材料列42Aを形成するように、加熱部20および吐出部10を制御する。
【0078】
なお、制御部100は、境界を含む層であるN層について、複数列ずつ隔てて第1の造形材料列42Aを吐出するように加熱部20および吐出部10を制御すれよく、1列に限定されない。
【0079】
次に、
図9に示すように、吐出制御部100Bは、N-1層上に1列ごと間隔を隔てて形成された第1の造形材料列42Aの間を埋めるように、第2の造形材料による第2の造形材料列42Bの溶融フィラメントFMを順次吐出するよう、吐出部10を制御する。このとき、加熱制御部100Aは、吐出部10による溶融フィラメントFMの吐出前に、N-1層の第1の造形材料列42Aの上面RAと、N層の形成済の第1の造形材料列42Aの側面RBと、を含む接触対象領域Rを加熱するように加熱部20を制御する。
【0080】
このため、吐出制御部100Bは、N層において、第1の造形材料列42Aと第2の造形材料列42Bが矢印X方向に沿って交互に配列されるように、吐出部10を制御する。すなわち、吐出制御部100Bは、複数種類の造形材料によって形成される複数種類の造形領域(第1の造形材料列42A、第2の造形材料列42B)の境界が、互いに異なる種類の造形材料列42(第1の造形材料列42A、第2の造形材料列42B)を交互に配列することによって形成される境界となるように、吐出部10を制御する。
【0081】
また、加熱制御部100Aは、吐出部10による造形材料の吐出前に、造形材料列42における、次に吐出する造形材料が接する接触対象領域Rを加熱するように、加熱部20を制御する。
【0082】
このため、第1の造形材料層40Aによる第1の造形領域44Aと、第2の造形材料層40Bによる第2の造形領域と、の境界の接着強度が、ミクロ的アンカー効果およびマクロ的アンカー効果(詳細後述)によって高くなる。
【0083】
次に、
図10に示すように、加熱制御部100Aが、N層を構成する造形材料列42における接触対象領域Rを加熱するように、加熱部20を制御する。そして、加熱により溶融された接触対象領域Rに、吐出制御部100Bが第2の造形材料の溶融フィラメントFMを吐出することで、第2の造形材料列42Bを形成する。この処理を繰返すことで、N+1層の第2の造形材料層40Bを積層方向Zに積層する。
【0084】
次に、
図11に示すように、N+1層と同様の処理を、順次繰り返すことで、第2の造形材料層40Bを順次積層し、造形物Mを造形する。
【0085】
加熱溶融された接触対象領域Rに接するように、次の溶融フィラメントFMが吐出されることで、ミクロ的アンカー効果(詳細後述)と分子鎖の絡み合いの効果(詳細後述)により、複数の造形材料列42からなる造形材料層40の、積層方向Zおよび交差方向XYの接着強度の向上を図ることができる。
【0086】
次に、ミクロ的アンカー効果、分子鎖の絡み合いの効果、およびマクロ的アンカー効果について説明する。
【0087】
図12は、ミクロ的アンカー効果の説明図である。
図12(A)に示すように、吐出されて冷え固まった造形材料層40の表面は、微視的に凸凹した状態にある。
【0088】
従来方法では、
図12(B)に示すように、下層(N―1層)の造形材料層40が冷え固まった状態で、上層(N層)の造形材料層40のための造形材料を吐出していた。この場合、N層用に吐出された溶融状態の造形材料は、下層側に隣接するN-1層が冷えているため、N-1層の造形材料層40の表面の微視的な凹凸に入り込む前に固まってしまい、この凹凸に入り込むことができない。
【0089】
一方、本実施の形態の造形装置1では、
図12(C)に示すように、造形材料の溶融フィラメントFMを吐出する直前にN-1層の接触対象領域Rを加熱する。このため、溶融して滑らかとなったN-1層の造形材料層40の表面に、造形材料による溶融フィラメントFMが吐出されてN層が形成される(
図12(D)参照)。
【0090】
このため、N層用に吐出された溶融状態の造形材料は、下層側に隣接するN-1層の造形材料層40の表面の微視的な凹凸に入り込む。このため、N-1層とN層との間の微視的な接着面積が大きくなる。
【0091】
また、上述したように、接触対象領域Rには、造形材料列42の積層方向Zの端面である上面RAと、造形材料列42の交差方向XYの端面である側面RBと、が含まれる。
【0092】
このため、本実施の形態では、交差方向XYに隣接する造形材料列42間の微視的な接着面積も、上記と同様に大きくなる。
【0093】
このような微視的な凹凸のよる接着面積の増大を、ミクロ的アンカー効果と称する。
【0094】
このように、本実施の形態の造形装置1では、造形物Mを構成する複数の造形材料層40の、積層方向Zに隣接する層間、および、交差方向XYに隣接する造形材料列42間の接着力を高めることができる。
【0095】
また、隣接して吐出された複数種類の造形材料間で、含まれる分子差の絡み合いが誘起される場合がある。この場合、異なる種類の造形材料による造形材料列42(例えば、第1の造形材料列42A、第2の造形材料列42B)間の接着強度が更に高くなる。この効果を、分子鎖の絡み合いの効果と称する。
【0096】
分子鎖の絡み合いの効果では、ミクロ的アンカー効果による隣接する造形材料列42間の接着面積の増大に付随して、隣接する造形材料列42間の造形材料が溶融状態である期間に、これらの界面にある分子鎖が造形材料層40や造形材料列42の境界を跨いで拡散し、分子鎖が絡み合った状態で樹脂が固化することで、接着強度が強くなる。
【0097】
次に、マクロ的アンカー効果について説明する。
図13は、マクロ的アンカー効果の説明図である。
【0098】
上述したように、本実施の形態では、吐出制御部100Bは、第1の造形材料層40Aと第2の造形材料層40Bとの境界を含むN層において、第1の造形材料列42Aと第2の造形材料列42Bが交差方向XY(例えば、Y方向)に交互に配列されるように、吐出部10を制御する。また、加熱制御部100Aは、吐出部10による造形材料の吐出前に、造形材料列42における、次に吐出する造形材料が接する接触対象領域Rを加熱するように、加熱部20を制御する。
【0099】
このような、異なる種類の造形材料列42を交互に配列することによる接着強度の増加を、マクロ的アンカー効果と称する。
【0100】
すなわち、本実施の形態では、異なる種類の造形材料による、第1の造形領域44Aと第2の造形領域44Bとの境界において、異なる種類の造形領域44間の接着面積を大きくし、マクロ的アンカー効果によってこれらの造形領域44間の接着強度を高めることができる。
【0101】
詳細には、
図13(A)に示すように、第1の造形材料による第1の造形領域44Aと、第2の造形材料による第2の造形領域44Bと、の境界50が、第1の造形材料列42Aと第2の造形材料列42Bとを交互に配列することで形成される。このため、第1の造形領域44Aと第2の造形領域44Bとの間の接着面積を大きくし、マクロ的アンカー効果によって第1の造形領域44Aと第2の造形領域44Bとの間の接着強度を高めることができる。
【0102】
また、
図13(A)の領域Aに示すように、分子鎖の絡み合いの効果によって、隣接する造形材料列42間の造形材料が溶融状態である期間に、これらの造形材料列42に含まれる造形材料の分子鎖が造形材料層40や造形材料列42を跨いで拡散し、分子鎖が絡み合った状態で樹脂が固化する。このため、隣接する造形材料列42間の接着強度を高めることができる。
【0103】
また、造形材料列42の積層方向Zの端面である上面RAと、造形材料列42の交差方向XYの端面である側面RBと、を含む接触対象領域Rが加熱部20によって加熱された後に、吐出部10から造形材料の溶融フィラメントFMが吐出される。このため、
図13(B)に示すように、隣接する造形材料列42間(例えば、第1の造形材料列42Aと第2の造形材料列42B間、第1の造形材料列42A間、第2の造形材料列42B間)の接着面積を大きくすることができる(ミクロ的アンカー効果)。なお、
図13(B)は、
図13(A)における領域Bを拡大した模式図である。
【0104】
なお、上記実施の形態では、吐出制御部100Bは、N層において、第1の造形材料列42Aと第2の造形材料列42Bが矢印Y方向に交互に配列されるように、吐出部10を制御する場合を説明した。しかし、吐出制御部100Bは、積層方向Zおよび交差方向XYの少なくとも一方に沿って、互いに異なる種類の造形材料列42を交互に配列することによって形成される境界50となるように、吐出部10を制御すればよい。
【0105】
図14は、造形物Mの一例の説明図である。詳細には、上記では、
図14(A)に示すように、第1の造形領域44Aと第2の造形領域44Bとの境界50が、積層方向Zに対して交差する交差方向XY(ここでは矢印Y方向)に長い境界である場合を示した。しかし、
図14(B)に示すように、第1の造形領域44Aと第2の造形領域44Bとの境界50は、積層方向Zに長い境界であってもよい。
【0106】
この場合、吐出制御部100Bは、第1の造形材料列42Aと第2の造形材料列42Bが積層方向Zに交互に配列されるように、吐出部10を制御すればよい(
図14(B)参照)。なお、この場合においても、加熱制御部100Aは、上記と同様に、吐出部10による造形材料の吐出前に、造形材料列42における、次に吐出する造形材料が接する接触対象領域Rを加熱するように、加熱部20を制御すればよい。
【0107】
また、本実施の形態では、第1の造形材料層40Aと第2の造形材料層40Bの境界を含む層であるN層が、1層である場合を一例として示した。しかし、この境界を含む層であるN層は、複数の造形材料層40から構成される層であってもよい。
【0108】
次に、本実施の形態の造形装置1が実行する造形処理の手順の一例を説明する。
図15は、造形処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0109】
まず、加熱制御部100Aおよび吐出制御部100Bが、造形物Mを造形するための造形データを用いて、最下層の造形材料層40を形成する(ステップS200)。造形データは、各層の造形材料層40を形成るためのレイヤーデータを複数含む。レイヤーデータの構成は、公知のデータと同様である。
【0110】
例えば、吐出制御部100Bは、造形材料の溶融フィラメントFMを吐出することで、矢印Y方向に長い第1の造形材料列42Aを形成するように、吐出部10を制御する。吐出制御部100Bは、1列の第1の造形材料列42Aを形成するごとに、この処理を矢印X方向に沿って繰返し行うことで、1層(例えば、N-3層)の第1の造形材料層40Aを形成する。また、このとき、加熱制御部100Aは、1列の第1の造形材料列42Aが形成されるごとに、形成済の第1の造形材料列42Aの側面RBを接触対象領域Rとして加熱し、吐出制御部100Bは、加熱された接触対象領域Rに接するように次の第1の造形材料列42Aを吐出する。
【0111】
次に、制御部100は、造形データに基づいて、最下層の造形材料層40上に積層する造形材料層40から上層側の造形材料層40に向かって順に、ステップS202~ステップS224の処理を繰返す。
【0112】
ステップS202では、制御部100は、次に形成する対象の造形材料層40が、複数の造形材料による造形領域44間の境界50を含む層(すなわち、N層)であるか否かを判断する。ステップS202の判断は、例えば、次に形成する対象の造形材料層40に対応するレイヤーデータを解析することで行う。
【0113】
ステップS202で肯定判断すると(ステップS202:Yes)、ステップS204へ進む。ステップS204では、加熱制御部100Aが、1列の造形材料列42分の接触対象領域Rを加熱するように加熱部20を制御する(ステップS204)。ステップS204では、加熱制御部100Aは、下層(N-1層)の第1の造形材料列42A上における、前回加熱した接触対象領域Rから、交差方向XY(例えば、矢印X方向)に沿って1列の第1の造形材料列42A分の間隔を隔てた接触対象領域Rを加熱するように制御する。
【0114】
次に、吐出制御部100Bは、ステップS204で加熱された接触対象領域R上に、第1の造形材料による溶融フィラメントFMを吐出し、第1の造形材料列42Aを1列形成する(ステップS206)。
【0115】
次に、制御部100は、1層分の第1の造形材料列42Aを形成したか否かを判断する(ステップS208)。ステップS208で否定判断すると(ステップS208:No)、加熱対象の接触対象領域Rおよび第1の造形材料列42Aの吐出対象領域を、矢印X方向に1列の造形材料列42分隔てた(空けた)位置にずらし、上記ステップS204へ戻る。一方、ステップS208で肯定判断すると(ステップS208:Yes)、ステップS210へ進む。
【0116】
ステップS210では、制御部100は、造形材料を第1の造形材料から第2の造形材料に切替える(ステップS210)。例えば、制御部100Gは、第1の造形材料の溶融フィラメントFMを吐出する第1吐出部10Aの制御から、第2の造形材料の溶融フィラメントFMを吐出する第2吐出部10Bの制御に、制御対象の吐出部10を切替える。
【0117】
次に、加熱制御部100Aが、接触対象領域Rを加熱するように加熱部20を制御する(ステップS212)。
【0118】
ステップS212では、形成対象の造形材料列42の下層側に隣接する造形材料層40(例えば、第1の造形材料層40A)を構成する第1の造形材料列42Aにおける、次に第2の造形材料列42Bを吐出する対象の第1の造形材料列42Aの上面RAと、上記ステップS204~ステップS208の処理によって形成された第1の造形材料列42Aの側面RBと、を含む接触対象領域Rを加熱する。
【0119】
すなわち、加熱制御部100Aは、形成対象の造形材料列42の下層側に隣接する第1の造形材料層40Aを構成する第1の造形材料列42Aにおける、ステップS204~ステップS208の処理によって1列ごとに矢印X方向に間隔を隔てて配列された第1の造形材料列42Aから露出した領域であって、且つ、次に、第2の造形材料列42Bを形成する対象の領域である上面RAを加熱する。また、加熱制御部100Aは、次に形成する第2の造形材料列42Bが接する、1または複数の第1の造形材料列42Aの側面RBを加熱する。
【0120】
次に、吐出制御部100Bは、ステップS212で加熱された接触対象領域Rに、第2の造形材料による溶融フィラメントFMを吐出することで、第2の造形材料列42Bを1列形成する(ステップS214)。
【0121】
次に、制御部100は、1層分の第2の造形材料列42Bを形成したか否かを判断する(ステップS216)。ステップS216で否定判断すると(ステップS216:No)、加熱対象の接触対象領域Rおよび第2の造形材料列42Bの吐出対象領域を、矢印X方向に1列移動した位置にずらし、上記ステップS212へ戻る。一方、ステップS216で肯定判断すると(ステップS216:Yes)、繰返し処理を終了する。
【0122】
一方、ステップS202で否定判断すると(ステップS202:No)、ステップS218へ進む。ステップS218では、加熱制御部100Aが、1列の造形材料列42分の接触対象領域Rを加熱するように加熱部20を制御する(ステップS218)。
【0123】
次に、吐出制御部100Bは、ステップS218で加熱された接触対象領域R上に、溶融フィラメントFMを吐出し、造形材料列42を1列形成する(ステップS220)。
【0124】
次に、制御部100は、1層分の造形材料列42を形成したか否かを判断する(ステップS222)。ステップS222で否定判断すると(ステップS222:No)、上記ステップS218へ戻る。一方、ステップS222で肯定判断すると(ステップS222:Yes)、繰返し処理を終了する。
【0125】
以上説明したように、本実施の形態の造形装置1は、加熱部20と、吐出部10と、加熱制御部100Aと、吐出制御部100Bと、を備える。加熱部20は、造形材料層40を加熱する。吐出部10は、加熱された造形材料層40上に溶融した造形材料(溶融フィラメントFM)を吐出し、複数の造形材料列42を造形材料層40の積層方向Zに交差する交差方向XYに配列してなる造形材料層40を積層させる。加熱制御部100Aは、造形材料列42における、次に吐出する造形材料(溶融フィラメントFM)が接する接触対象領域Rを加熱するように、加熱部20を制御する。吐出制御部100Bは、互いに異なる種類の造形材料による造形材料列42を交互に配列するように、吐出部10を制御する。
【0126】
このため、本実施の形態の造形装置1は、ミクロ的アンカー効果、分子鎖の絡み合いの効果、およびマクロ的アンカー効果により、積層方向Zおよび交差方向XYの各々に隣接する造形材料列42間における接着力を増大させることができる。
【0127】
従って、本実施の形態の造形装置1は、複数種類の造形材料を用いて造形物Mを造形する場合であっても、造形物Mの形状を制限せずに、異なる種類の造形材料で構成された造形物Mを提供することができる。
【0128】
また、吐出制御部100Bは、複数種類の造形材料によって形成される複数種類の造形領域44(第1の造形領域44A、第2の造形領域44B)の境界50が、互いに異なる種類の造形材料列42(第1の造形材料列42A、第2の造形材料列42B)を交互に配列することによって形成される境界50となるように、吐出部10を制御する。
【0129】
また、吐出制御部100Bは、積層方向Zおよび交差方向XYの少なくとも一方に沿って、互いに異なる種類の造形材料列42(第1の造形材料列42A、第2の造形材料列42B)を交互に配列することによって形成される境界50となるように、吐出部10を制御する。
【0130】
また、加熱制御部100Aは、造形材料列42の積層方向Zの端面RA、および造形材料列42の交差方向XYの端面RBを含む接触対象領域Rを加熱するように、加熱部20を制御する。
【0131】
また、加熱部20は、レーザ光の照射、加熱した空気の送風、および、接触対象領域Rの接触加熱、の少なくとも1つによって接触対象領域Rを加熱する。
【0132】
また、本実施の形態の造形方法は、造形材料層40を加熱する加熱部20と、加熱された造形材料層40上に溶融した造形材料(溶融フィラメントFM)を吐出し、複数の造形材料列42を造形材料層40の積層方向Zに交差する交差方向XYに配列してなる造形材料層40を積層させる吐出部10と、を備えた造形装置1で実行する造形方法である。造形方法は、造形材料列42における、次に吐出する造形材料(溶融フィラメントFM)が接する接触対象領域Rを加熱するように、加熱部20を制御するステップと、互いに異なる種類の造形材料(溶融フィラメントFM)による造形材料列42(第1の造形材料列42A、第2の造形材料列42B)を交互に配列するように、吐出部10を制御するステップと、を含む。
【0133】
また、本実施の形態のプログラムは、造形材料層40を加熱する加熱部20と、加熱された造形材料層40上に溶融した造形材料(溶融フィラメントFM)を吐出し、複数の造形材料列42を造形材料層40の積層方向Zに交差する交差方向XYに配列してなる造形材料層40を積層させる吐出部10と、を備えた造形装置1に接続されたコンピュータに実行させるためのプログラムである。このプログラムは、造形材料列42における、次に吐出する造形材料(溶融フィラメントFM)が接する接触対象領域Rを加熱するように、加熱部20を制御するステップと、互いに異なる種類の造形材料(溶融フィラメントFM)による造形材料列42(第1の造形材料列42A、第2の造形材料列42B)を交互に配列するように、吐出部10を制御するステップと、を含む。
【0134】
―ハードウェア構成―
図16は、造形装置1に設けられた制御部100の、ハードウェア構成の一例を示す模式図である。
【0135】
造形装置1は、CPU350と、ROM(Read Only Memory)360と、RAM(Random Access Memory)370と、HDD(Hard Disk Drive)380と、通信I/F(インターフェース)340と、を備え、バス310を介して相互に接続されている。
【0136】
CPU350は、造形装置1の動作を統括的に制御する。CPU350は、RAM370をワークエリアとし、ROM360またはHDD380などに格納されたプログラムを実行することで、造形装置1の動作を制御する。
【0137】
HDD380は、プログラムやデータなどを格納する。通信I/F340は、ネットワーク300を介して他の装置や機器と通信するためのインターフェースである。
【0138】
なお、上述した実施の形態および変形例における、造形装置1の各々で実行する上記処理を実行するためのプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)、USB(Universal Serial Bus)メモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよいし、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。また、各種プログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0139】
また、上述した実施の形態における、造形装置1で実行されるプログラムは、上記各機能部を含むモジュール構成となっており、実際のハードウェアとしては、例えば、CPU350(プロセッサ回路)がROM360またはHDD380からプログラムを読み出して実行することにより、上述した各機能部がRAM370(主記憶)上にロードされ、上述した各機能部がRAM370(主記憶)上に生成されるようになっている。なお、造形装置1の一部または全部の機能を、ASIC(Application SpecI/Fic Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)などの専用のハードウェアを用いて実現することも可能である。
【0140】
なお、上記には、実施の形態を説明したが、上記実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施の形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0141】
1 造形装置
10 吐出部
20 加熱部
100A 加熱制御部
100B 吐出制御部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0142】