(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】多孔質材料、セル構造体および多孔質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 38/06 20060101AFI20220404BHJP
C04B 35/577 20060101ALI20220404BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20220404BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C04B38/06 E
C04B35/577
B01J35/04 301P
B01J35/04 301N
B01D39/20 D
(21)【出願番号】P 2018057354
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】坪井 美香
(72)【発明者】
【氏名】泉 有仁枝
(72)【発明者】
【氏名】冨田 崇弘
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-178721(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146953(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/175552(WO,A1)
【文献】特開2017-137238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/06
C04B 35/577
B01J 35/04
B01D 39/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料であって、
炭化珪素粒子または窒化珪素粒子である粒子本体の表面に、クリストバライトを含む酸化膜が設けられた骨材粒子と、
コージェライトを含み、細孔を形成した状態で前記骨材粒子間を結合する結合材と、
を備え、
前記コージェライトの質量の比率が、前記多孔質材料の全体に対して10~40質量%であり、
前記結合材が、前記結合材の全体に対して、酸化マグネシウム成分を10~15質量%、酸化アルミニウム成分を45.7~55質量%、二酸化珪素成分を35~45質量%含み、
前記粒子本体と前記結合材との間に存在する前記酸化膜の厚さが、0.90μm以下であ
り、かつ、前記粒子本体と前記細孔との間に存在する前記酸化膜の厚さの0.8倍以下であることを特徴とする多孔質材料。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質材料であって、
前記粒子本体と前記細孔との間に存在する前記酸化膜の厚さが、0.50μm以上であることを特徴とする多孔質材料。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の多孔質材料であって、
40℃を基準としたときの250℃における熱膨張係数が、5.0ppm/K以下であることを特徴とする多孔質材料。
【請求項4】
請求項1ないし
3のいずれか1つに記載の多孔質材料であって、
曲げ強度が、5.0MPa以上であることを特徴とする多孔質材料。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか1つに記載の多孔質材料であって、
開気孔率が50%以上、かつ、70%以下であることを特徴とする多孔質材料。
【請求項6】
請求項1ないし
5のいずれか1つに記載の多孔質材料により形成され、内部が隔壁により複数のセルに仕切られたことを特徴とするセル構造体。
【請求項7】
多孔質材料の製造方法であって、
a)骨材原料、結合材原料および造孔材を混合した混合物を成形して成形体を得る工程と、
b)不活性雰囲気下において前記成形体を焼成することにより、焼成体を得る工程と、
c)前記焼成体に対して酸化性雰囲気下において酸化処理を施すことにより、多孔質材料を得る工程と、
を備え、
前記骨材原料が、炭化珪素粒子または窒化珪素粒子を含み、
前記結合材原料が、前記結合材原料の全体に対して、タルクを35~45質量%、酸化アルミニウムを45~60質量%、二酸化珪素を0~10質量%含むことを特徴とする多孔質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質材料、セル構造体および多孔質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素粒子等の骨材粒子を、コージェライトを含む結合材を用いて結合した多孔質材料は、耐熱衝撃性等の優れた特性を有している。例えば、特許文献1では、結合材が結晶質のコージェライトと、セリウム元素またはジルコニウム元素とを含有し、骨材と結合材の合計質量に対する、結合材の質量の比率が所定の範囲内となる多孔質材料が開示されている。このような多孔質材料は、内部が隔壁により複数のセルに仕切られたハニカム構造体に成形され、触媒担体やDPF(Diesel Particulate Filter)等に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ハニカム構造体は高温の排ガスに曝されるため、酸化処理により骨材粒子の表面に酸化膜を形成し、耐酸化性を向上することが好ましい。この場合に、骨材粒子が炭化珪素粒子または窒化珪素粒子であるときには、当該酸化膜がクリストバライトを含む。一方、ハニカム構造体にゼオライト等のSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒を担持させる場合、触媒を含むスラリーの乾燥工程において、ハニカム構造体が200~400℃に加熱される。このとき、酸化膜を形成した多孔質材料では、クリストバライトの相転移により熱膨張係数が高くなるため、触媒を適切に担持させるには、温度条件等の煩雑な制御が必要となる。したがって、耐酸化性を向上した多孔質材料において、熱膨張係数を低くすることが求められる。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、耐酸化性を向上した多孔質材料において、熱膨張係数を低くすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る多孔質材料は、炭化珪素粒子または窒化珪素粒子である粒子本体の表面に、クリストバライトを含む酸化膜が設けられた骨材粒子と、コージェライトを含み、細孔を形成した状態で前記骨材粒子間を結合する結合材とを備え、前記コージェライトの質量の比率が、前記多孔質材料の全体に対して10~40質量%であり、前記結合材が、前記結合材の全体に対して、酸化マグネシウム成分を10~15質量%、酸化アルミニウム成分を45.7~55質量%、二酸化珪素成分を35~45質量%含み、前記粒子本体と前記結合材との間に存在する前記酸化膜の厚さが、0.90μm以下であり、かつ、前記粒子本体と前記細孔との間に存在する前記酸化膜の厚さの0.8倍以下である。
【0007】
本発明の一の好ましい形態では、前記粒子本体と前記細孔との間に存在する前記酸化膜の厚さが、0.50μm以上である。
【0010】
好ましい多孔質材料では、40℃を基準としたときの250℃における熱膨張係数が、5.0ppm/K以下である。
【0011】
また、多孔質材料の曲げ強度が、5.0MPa以上であることが好ましい。
【0012】
例えば、多孔質材料の開気孔率が50%以上、かつ、70%以下である。
【0013】
本発明に係るセル構造体は、上記多孔質材料により形成され、内部が隔壁により複数のセルに仕切られる。
【0014】
本発明に係る多孔質材料の製造方法は、a)骨材原料、結合材原料および造孔材を混合した混合物を成形して成形体を得る工程と、b)不活性雰囲気下において前記成形体を焼成することにより、焼成体を得る工程と、c)前記焼成体に対して酸化性雰囲気下において酸化処理を施すことにより、多孔質材料を得る工程とを備え、前記骨材原料が、炭化珪素粒子または窒化珪素粒子を含み、前記結合材原料が、前記結合材原料の全体に対して、タルクを35~45質量%、酸化アルミニウムを45~60質量%、二酸化珪素を0~10質量%含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐酸化性を向上した多孔質材料において、熱膨張係数を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】多孔質材料における酸化膜を説明するための図である。
【
図5】酸化膜の厚さの測定を説明するための図である。
【
図6】比較例の多孔質材料における酸化膜を説明するための図である。
【
図7】多孔質材料を製造する処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<ハニカム構造体>
図1は、本発明の一の実施の形態に係るハニカム構造体1を簡略化して示す図である。ハニカム構造体1は、一方向に長い筒状部材であり、
図1では、ハニカム構造体1の長手方向における一方側の端面を示している。
図2は、ハニカム構造体1を示す断面図であり、
図2では、当該長手方向に沿う断面の一部を示している。ハニカム構造体1は、例えばDPF等のフィルタに用いられる。ハニカム構造体1は、フィルタ以外の他の用途に用いられてもよい。
【0018】
ハニカム構造体1は、筒状外壁11と、隔壁12とを備える。筒状外壁11および隔壁12は、後述の多孔質材料により形成される。筒状外壁11は、長手方向に延びる筒状である。長手方向に垂直な筒状外壁11の断面形状は、例えば円形であり、多角形等であってもよい。隔壁12は、筒状外壁11の内部に設けられ、当該内部を複数のセル13に仕切る。隔壁12の厚さは、例えば、30μm(マイクロメートル)以上であり、好ましくは50μm以上である。隔壁12の厚さは、例えば1000μm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは350μm以下である。
【0019】
各セル13は、長手方向に延びる空間である。長手方向に垂直なセル13の断面形状は、例えば多角形(三角形、四角形、五角形、六角形等)であり、円形等であってもよい。複数のセル13は、原則として同じ断面形状を有する。複数のセル13には、異なる断面形状のセル13が含まれてもよい。セル密度は、例えば10セル/cm2(平方センチメートル)以上であり、好ましくは20セル/cm2以上であり、より好ましくは50セル/cm2以上である。セル密度は、例えば200セル/cm2以下であり、好ましくは150セル/cm2以下である。ハニカム構造体1は、内部が隔壁12により複数のセル13に仕切られたセル構造体である。
【0020】
ハニカム構造体1がDPFとして用いられる場合には、長手方向におけるハニカム構造体1の一端側を入口とし、他端側を出口として所定のガスが流れる。また、所定数のセル13において、入口側の端部に封止部14が設けられ、残りのセル13において、出口側の端部に封止部14が設けられる。したがって、ハニカム構造体1内に流入するガスは、入口側が封止されないセル13から、隔壁12を通過して、出口側が封止されないセル13へと移動する(
図2中の矢印A1参照)。このとき、隔壁12においてガス中の粒子状物質が効率よく捕集される。ハニカム構造体1の入口側の端部、および、出口側の端部のそれぞれでは、セル13の配列方向に沿って1つ置きに封止部14が設けられることが好ましい。ハニカム構造体1では、触媒が必要に応じて担持される。
【0021】
<多孔質材料>
図3は、ハニカム構造体1を形成する多孔質材料2の構造を示す図である。多孔質材料2は、多孔質の焼結体であり、骨材粒子3と、結合材4とを備える。結合材4は、細孔21を形成した状態で骨材粒子3間を結合する。結合材4は、結晶質のコージェライトを含む。多孔質材料2において、骨材粒子3以外の物質は、原則として結合材4に含まれるものとする。
【0022】
骨材粒子3は、粒子本体31を含む。粒子本体31は、炭化珪素(SiC)または窒化珪素(Si
3N
4)の粒子である。多孔質材料2が、炭化珪素粒子および窒化珪素粒子の双方の粒子本体31を含んでもよい。本実施の形態では、粒子本体31は炭化珪素粒子である。典型的には、骨材粒子3の粒子本体31は、多孔質材料2を構成する物質において、最も量が多い物質の粒子である。骨材粒子3は、粒子本体31の表面に設けられる酸化膜32をさらに含む。
図3では、酸化膜32を太線にて示している。好ましくは、各骨材粒子3は、粒子本体31および酸化膜32から構成される。酸化膜32は、酸化性雰囲気における熱処理により、非酸化物である粒子本体31の表面に形成された酸化物層である。酸化膜32はクリストバライトを含む。多孔質材料2では、粒子本体31の周囲に酸化膜32が設けられることにより、優れた耐酸化性が得られる。
【0023】
図4は、多孔質材料2における酸化膜32a,32bを説明するための図である。
図4では、粒子本体31、酸化膜32a,32bおよび結合材4を模式的に示している。多孔質材料2では、粒子本体31と結合材4との間に存在する酸化膜32a(以下、「結合材4側の酸化膜32a」という。)の厚さが、粒子本体31と細孔21との間に存在する酸化膜32b(以下、「細孔21側の酸化膜32b」という。)の厚さと相違する。
【0024】
ここで、酸化膜32a,32bの厚さの測定手法について説明する。結合材4側の酸化膜32aの厚さの測定では、例えば多孔質材料2を鏡面研磨して得られる断面が、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて所定の倍率にて観察される。
図5は、結合材4側の酸化膜32aを模式的に示す図であり、SEMにより倍率10000倍の視野81で得られる画像を示している。
図5の画像では、粒子本体31の表面が横方向に沿って広がっており、上記視野81を横方向に5等分する4個の分割線82が設定される。
図5では、各分割線82を破線にて示している。4個の分割線82は、粒子本体31の表面にほぼ直交する。そして、粒子本体31の表面から結合材4側に向かって、各分割線82上の0.2μm毎の位置に対してEDS(エネルギー分散型X線分析)測定が行われる。
【0025】
このとき、結合材4において比較的多く含まれる所定の元素が検出されない位置は、酸化膜32aに含まれ、上記元素が検出される位置は、結合材4に含まれる(すなわち、酸化膜32aに含まれない)ものとして扱われる。したがって、分割線82上において、上記元素が検出されない位置のうち粒子本体31の表面から最も離れた位置までの当該表面からの長さ(
図5中に矢印A2にて示す長さであり、ここでは、0.2μmの整数倍となる。)が、当該分割線82上での酸化膜32aの厚さとされる。そして、複数の視野81における複数の分割線82上での酸化膜32aの厚さの平均値が、結合材4側の酸化膜32aの厚さとして求められる。上記元素は、例えば、マグネシウム(Mg)である。結合材4が、二酸化セリウム(CeO
2)を含む場合、上記元素として、セリウムが含められてもよい。
【0026】
細孔21側の酸化膜32bの厚さの測定も、結合材4側の酸化膜32aと同様の手法により行われる。具体的には、細孔21側の酸化膜32bと接する粒子本体31の表面が横方向に沿うように視野81が設定され、当該視野81において複数の分割線82が設定される。粒子本体31の表面から細孔21側に向かって、各分割線82上の0.2μm毎の位置に対してEDS測定が行われる。このとき、酸化膜32bに含まれる所定の元素が検出される位置は、酸化膜32bに含まれ、上記元素が検出されない位置は、細孔21に含まれる(酸化膜32bに含まれない)ものとして扱われる。したがって、分割線82上において、上記元素が検出される位置のうち粒子本体31の表面から最も離れた位置までの当該表面からの長さが、当該分割線82上での酸化膜32bの厚さとされる。そして、複数の視野81における複数の分割線82上での酸化膜32bの厚さの平均値が、細孔21側の酸化膜32bの厚さとして求められる。上記元素は、例えば、酸素(O)である。
【0027】
結合材4側の酸化膜32aの厚さは、細孔21側の酸化膜32bの厚さ以下である。例えば、結合材4の組成を後述のように調整することにより、結合材4側の酸化膜32aの厚さが、0.90μm以下とされる。結合材4側の酸化膜32aの厚さは、測定不能な程度に薄くてもよい。すなわち、結合材4側の酸化膜32aの厚さの下限値は0μmである。結合材4側の酸化膜32aは結合材4に覆われるため、結合材4側の酸化膜32aの厚さは、耐酸化性に影響を及ぼさないと考えられる。
【0028】
図6は、比較例の多孔質材料9における酸化膜92a,92bを説明するための図である。比較例の多孔質材料9では、結合材93の組成が、
図4の多孔質材料2と相違しており、細孔91側の酸化膜92bと同様に、結合材93側の酸化膜92aの厚さが大きい。具体的には、結合材93側の酸化膜92aの厚さは、0.90μmよりも大きい。また、結合材93側の酸化膜92aの厚さは、細孔91側の酸化膜92bの厚さよりも大きい。酸化膜92a,92bは、多孔質材料2の酸化膜32a,32bと同様に、クリストバライトを含む。クリストバライトでは、200℃近傍におけるα相からβ相への相転移に伴って急激な体積変化が生じる。したがって、比較例の多孔質材料9では、200℃近傍を含む温度範囲において熱膨張係数が高くなる。
【0029】
これに対し、
図4の多孔質材料2では、結合材4側の酸化膜32aの厚さが0.90μm以下である。これにより、耐酸化性を向上した多孔質材料2において、クリストバライトの量を少なくして、熱膨張係数を低くすることが実現される。後述するように、多孔質材料2では、一定の機械的強度(ここでは、曲げ強度)も確保されるため、熱膨張係数の低下と相俟って、耐熱衝撃性を向上することが可能となる。熱膨張係数をさらに低くするには、結合材4側の酸化膜32aの厚さは、好ましくは0.75μm以下であり、より好ましくは0.60μm以下である。
【0030】
細孔21側の酸化膜32bの厚さは、例えば0.50μm以上であり、好ましくは0.60μm以上であり、より好ましくは0.70μm以上である。細孔21側の酸化膜32bの厚さが大きいほど、多孔質材料2の耐酸化性が向上する。一方、熱膨張係数をより低くするという観点では、細孔21側の酸化膜32bの厚さは、例えば5.0μm以下であり、好ましくは3.5μm以下であり、より好ましくは2.0μm以下である。
【0031】
既述のように、結合材4側の酸化膜32aの厚さは、細孔21側の酸化膜32bの厚さ以下であり、これにより、多孔質材料2の熱膨張係数をより確実に低くすることが可能となる。多孔質材料2の熱膨張係数をさらに低くするには、結合材4側の酸化膜32aの厚さは、細孔21側の酸化膜32bの厚さの0.8倍以下であることが好ましく、0.65倍以下であることがより好ましい。例えば、結合材4側の酸化膜32aの厚さは、細孔21側の酸化膜32bの厚さの0.2倍以上である。
【0032】
好ましい多孔質材料2では、40℃から250℃に加熱した際に長さが膨張する割合、すなわち、40℃を基準としたときの250℃における熱膨張係数(以下、「40-250℃の熱膨張係数」という。)が、5.0ppm/K(すなわち、5.0×10-6/K)以下である。より好ましい多孔質材料2では、当該熱膨張係数が、4.8ppm/K以下となる。当該熱膨張係数は低いほど好ましいが、例えば、当該熱膨張係数の下限値は、1.0ppm/Kである。熱膨張係数は、例えば、ハニカム構造体1から縦3セル×横3セル×長さ20mmの試験片を切り出し、JIS R1618に準拠する方法で、ハニカム構造体1の流路に対して平行な方向における40-250℃での平均線熱膨張係数を測定した値である。
【0033】
ハニカム構造体1にゼオライト等のSCR触媒を担持させる場合、触媒を含むスラリーの乾燥工程において、ハニカム構造体1が200℃前後に加熱される。40-250℃の熱膨張係数が低いハニカム構造体1(多孔質材料2)では、SCR触媒の担持を適切に行うことが可能となる。
【0034】
多孔質材料2では、骨材粒子3の質量の比率は、多孔質材料2の全体に対して50質量%よりも大きい。すなわち、結合材4の質量の比率は、多孔質材料2の全体に対して50質量%未満である。また、結合材4は、結合材4の全体に対して、コージェライトを50質量%以上含む、すなわち、結合材4が、コージェライトを主成分とすることが好ましい。
【0035】
コージェライトの質量の比率は、多孔質材料2の全体に対して、例えば10質量%以上であり、好ましくは12質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上である。これにより、多孔質材料2において一定の機械的強度が確保される。後述するように、多孔質材料2では、高気孔率が求められるが、結合材4が過度に多くなると、多孔質材料2において高気孔率を実現するための困難性が増大する。多孔質材料2において高気孔率を容易に実現するには、結合材4の主成分であるコージェライトの質量比率は、多孔質材料2の全体に対して、例えば40質量%以下であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下である。
【0036】
多孔質材料2の構成結晶相(SiC、クリストバライト、コージェライト等)の質量比率は、例えば、以下のようにして求められる。まず、X線回折装置を用いて多孔質材料2のX線回折パターンが得られる。X線回折装置としては、多機能粉末X線回折装置(Bruker社製、D8Advance)が用いられる。X線回折測定の条件は、CuKα線源、10kV、20mA、2θ=5~100°とする。そして、解析ソフトTOPAS(BrukerAXS社製)を用いてリートベルト法により、得られたX線回折データを解析し、各結晶相が定量される。検出できた全ての結晶相の質量の和を100質量%として、各構成結晶相の質量比率が算出される。
【0037】
上記コージェライトは、酸化マグネシウム(MgO)成分、酸化アルミニウム(Al2O3)成分および二酸化珪素(SiO2)成分により形成される。好ましい多孔質材料2では、結合材4が、結合材4の全体に対して、酸化マグネシウム成分を10~15質量%、酸化アルミニウム成分を40~55質量%、二酸化珪素成分を35~45質量%含む。これにより、既述のように、厚さが0.90μm以下となる結合材4側の酸化膜32aが容易に得られる。酸化マグネシウム成分の下限値は11質量%であることがより好ましい。酸化アルミニウム成分の下限値は45質量%であることがより好ましい。二酸化珪素成分の上限値は44質量%であることがより好ましい。多孔質材料2では、高価な原料を用いることなく、結合材4における組成比の調整により、低コストで熱膨張係数を低くすることが可能である。
【0038】
結合材4に含まれる各成分の質量比率は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光法により測定される質量比率を用いて、以下のように求められる。まず、JIS-Z2615(金属材料の炭素定量方法)、2616(金属材料の硫黄定量方法)に基づく、酸素気流中燃焼-赤外線吸収方式を用いて、炭素(C)成分が定量される。当該炭素成分が全て粒子本体31の炭化珪素(SiC)に由来するものとして、炭化珪素の質量比率が算出される。また、ICP発光分光法により測定した珪素(Si)成分の質量比率から、上記の炭化珪素の質量比率を除いた残りの質量比率が、二酸化珪素(SiO2)に由来するものとして、多孔質材料2の全体に含まれる二酸化珪素の質量比率が得られる。当該二酸化珪素の質量比率から、上記X線回折解析により求めたクリストバライトの質量比率を除いた残りの質量比率が、結合材4に含まれる二酸化珪素成分の質量比率とされる。そして、結合材4に含まれる二酸化珪素成分の質量比率、並びに、ICP発光分光法により測定した酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウムの質量比率の合計を100質量%とした場合に得られる各成分の割合が、結合材4の全体に対する当該成分の質量比率となる。
【0039】
多孔質材料2(ハニカム構造体1)に、ゼオライト等のSCR触媒を担持させて使用する場合に、多孔質材料2がナトリウム等のアルカリ金属成分を含むときには、高温でのエージング(熱処理)によりNOx浄化性能が低下することが知られている。したがって、上記エージングによるNOx浄化性能の低下を抑制する場合には、多孔質材料2の全体に対するアルカリ金属成分の質量比率を0.1質量%未満とすることが好ましく、0.03質量%以下とすることがより好ましい。アルカリ金属成分の質量比率は、ICP発光分光法により測定可能である。
【0040】
ハニカム構造体1に用いられる多孔質材料2では、高い気孔率(ここでは、開気孔率)が求められる。多孔質材料2において高気孔率を容易に実現するには、骨材粒子3の平均粒径は、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。多孔質材料2において過度に大きい細孔21が多く存在することを避けるには、骨材粒子3の平均粒径は、100μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。
【0041】
多孔質材料2の気孔率は、例えば40%以上であり、これにより、DPFとして用いられるハニカム構造体1において圧力損失が過度に高くなることが抑制される。また、多くの触媒を担持することが可能となる。圧力損失をさらに低減するとともに、さらに多くの触媒を担持するには、気孔率が50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましい。また、気孔率は、例えば80%以下であり、これによりハニカム構造体1においてある程度の機械的強度が確保される。機械的強度をさらに高くするには、気孔率が75%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましい。開気孔率は、例えば、純水を媒体としてアルキメデス法により測定可能である。なお、気孔率は、例えば、多孔質材料を製造する際に用いる造孔材の量や、焼結助剤の量、焼成雰囲気等により調整することができる。また、気孔率は、後述の骨材原料と結合材原料の比率によっても調整することができる。
【0042】
多孔質材料2では、平均細孔径が10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。また、平均細孔径が、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。平均細孔径が10μm未満である場合、圧力損失が大きくなることがある。平均細孔径が40μmを超える場合、多孔質材料2をDPF等として用いたときに、排ガス中の粒子状物質の一部が捕集されずにDPF等を通過することがある。平均細孔径は、水銀圧入法(JIS R1655準拠)により測定される。
【0043】
また、細孔径が10μm未満の細孔が細孔全体の20%以下であり、細孔径が40μmを超える細孔が細孔全体の10%以下であることが好ましい。細孔径が10μm未満の細孔は触媒を担持する際に詰まりやすいため、細孔径が10μm未満の細孔が細孔全体の20%を超える場合、圧力損失が大きくなることがある。細孔径が40μmを超える細孔は粒子状物質を通過させ易いため、細孔径40μmを超える細孔が細孔全体の10%を超える場合、フィルタ機能が低下することがある。
【0044】
多孔質材料2の曲げ強度は、例えば5.0MPa(メガパスカル)以上である。これにより、多孔質材料2の耐熱衝撃性をさらに向上することができる。多孔質材料2の曲げ強度は、6.5MPa以上であることが好ましく、7.5MPa以上であることがより好ましい。多孔質材料2における曲げ強度の上限は、40MPa程度と想定される。曲げ強度は、JIS R1601に準拠した曲げ試験により測定可能である。
【0045】
<多孔質材料の製造方法>
図7は、多孔質材料2を製造する処理の流れを示す図である。ここでは、多孔質材料2の製造により、ハニカム構造体1が製造される。すなわち、多孔質材料2が、ハニカム構造体1として製造される。
【0046】
まず、骨材粒子3となる骨材原料と、焼成により結合材4が生成する結合材原料と、造孔材とを混合し、必要に応じて、バインダ、界面活性剤、水等を添加することにより、成形原料が準備される。骨材原料は、炭化珪素粒子または窒化珪素粒子を含む。骨材原料の平均粒径は、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。骨材原料の平均粒径は、100μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。
【0047】
成形原料において、骨材原料を100質量%とした場合、結合材原料の比率は、例えば9.0質量%以上であり、67.0質量%以下である。結合材原料は、コージェライト化原料を含む。コージェライト化原料とは、焼成によりコージェライト結晶が生成する原料を意味する。コージェライト化原料は、酸化マグネシウム成分と、酸化アルミニウム成分と、二酸化珪素成分とを含む。酸化マグネシウム成分は、酸化マグネシウムのみならず、水酸化マグネシウム、タルク等のマグネシウムおよび酸素を含有する原料中の、酸化マグネシウムの組成比となるマグネシウムおよび酸素を含む。酸化アルミニウム成分は、酸化アルミニウムのみならず、水酸化アルミニウム、カオリン、ベーマイト、長石等のアルミニウムおよび酸素を含有する原料中の、酸化アルミニウムの組成比となるアルミニウムおよび酸素を含む。二酸化珪素成分は、二酸化珪素のみならず、タルク、カオリン、長石等の珪素および酸素を含有する原料中の、二酸化珪素の組成比となる珪素および酸素を含む。
【0048】
好ましい結合材原料は、結合材原料の全体に対して、タルクを35~45質量%、酸化アルミニウム(アルミナ)を45~60質量%含む。結合材原料は、二酸化珪素(シリカ)を含んでもよく(すなわち、二酸化珪素は任意の原料である。)、この場合、二酸化珪素は10質量%以下である。換言すると、結合材原料は、結合材原料の全体に対して、タルクを35~45質量%、酸化アルミニウムを45~60質量%、二酸化珪素を0~10質量%含む。結合材原料は、二酸化セリウム(CeO2)等、他の成分をさらに含んでもよい。タルクの下限値は40質量%であることがより好ましい。酸化アルミニウムの下限値は50質量%であることがより好ましい。二酸化珪素成分の上限値は15質量%であることがより好ましい。
【0049】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の有機バインダを挙げることができる。バインダの含有量は、成形原料全体に対して2~10質量%であることが好ましい。
【0050】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、成形原料全体に対して2質量%以下であることが好ましい。
【0051】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、デンプン、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、成形原料全体に対して40質量%以下であることが好ましい。造孔材の平均粒径は10μm以上であることが好ましい。また、造孔材の平均粒径は70μm以下であることが好ましい。造孔材の平均粒径が10μmより小さい場合、気孔を十分に形成できないことがある。造孔材の平均粒径が70μmより大きい場合、例えば、本実施形態の多孔質材料をDPF等として用いたときに、排ガス中の粒子状物質の一部が捕集されずにDPF等を通過することがある。なお、造孔材が吸水性樹脂の場合、平均粒径は、吸水後の値である。水の含有量は、成形し易い坏土硬度となるように適宜調整されるが、成形原料全体に対して20~80質量%であることが好ましい。
【0052】
続いて、成形原料を混練することにより坏土が形成される。成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。その後、坏土を押出成形することにより、ハニカム成形体(成形体)が形成される。なお、坏土も成形原料の概念に含まれる。押出成形には、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚さ、セル密度等を有する口金を用いることが好ましい。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。ハニカム成形体は、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁と、最外周に位置する筒状外壁とを有する構造である。ハニカム成形体の隔壁厚さ、セル密度、筒状外壁の厚さ等は、乾燥、焼成における収縮を考慮し、作製しようとするハニカム構造体の構造に合わせて適宜決定される。以上のように、骨材原料、結合材原料および造孔材を混合した混合物(成形原料)を成形することにより、成形体が得られる(ステップS11)。
【0053】
ハニカム成形体は、後述の焼成前に乾燥を行うことが好ましい。乾燥の方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥することができる点で、電磁波加熱方式で一定量の水分を乾燥させた後、残りの水分を外部加熱方式により乾燥させることが好ましい。この場合、ハニカム成形体において、例えば電磁波加熱方式により、乾燥前の水分量に対して、30~99質量%の水分を除いた後、外部加熱方式により、3質量%以下の水分にされる。電磁波加熱方式としては、誘電加熱乾燥が好ましく、外部加熱方式としては、熱風乾燥が好ましい。
【0054】
また、ハニカム成形体のセルの延びる方向における長さが、所望の長さではない場合は、切断により所望の長さとすることが好ましい。切断方法は特に限定されないが、丸鋸切断機等を用いる方法を挙げることができる。
【0055】
続いて、成形体を焼成することにより、焼成体が得られる(ステップS12)。ここでは、焼成の前に、バインダ等を除去するため、仮焼を行うことが好ましい。仮焼は、大気雰囲気において、例えば200~600℃で、0.5~20時間行われる。焼成は、窒素、アルゴン等の不活性ガスが充填された不活性雰囲気下(酸素分圧は10-4気圧以下)で行われる。焼成温度は、例えば1300℃以上である。成形体の焼成により、コージェライトを主成分とする結合材が生成され、細孔を形成した状態で結合材により骨材粒子間が結合される。焼成温度は、1330℃以上であることが好ましく、1350℃以上であることがより好ましい。焼成温度は、例えば1600℃以下であり、好ましくは1500℃以下である。焼成時の圧力は常圧であることが好ましい。焼成時間は、例えば1時間以上であり、20時間以下である。
【0056】
焼成工程の後、焼成体に対して酸化性雰囲気下での熱処理(酸化処理)が施されることにより、ハニカム構造体である多孔質材料が得られる(ステップS13)。酸化性雰囲気は、例えば大気雰囲気(水蒸気を含んでいてもよい。)である。既述のように、骨材原料は、非酸化物である炭化珪素粒子または窒化珪素粒子を含んでおり、酸化処理を行うことにより、当該粒子の表面に酸化膜が形成される。これにより、多孔質材料において、優れた耐酸化性が得られる。
【0057】
酸化膜を適切に形成するには、酸化処理の温度は、1100℃以上であることが好ましく、1150℃以上であることがより好ましい。酸化処理の温度は、1300℃以下であることが好ましく、1270℃以下であることがより好ましい。酸化処理の時間は、例えば1時間以上であり、20時間以下である。酸化処理の条件を変更することにより、酸化膜の厚さをある程度調整することが可能である。仮焼、焼成および酸化処理は、例えば、電気炉、ガス炉等を用いて行うことができる。上記処理により製造される多孔質材料では、焼成前後における寸法変化が小さいため、寸法精度を向上することができ、ハニカム構造体の生産性を向上することができる。
【0058】
<実施例>
次に、実施例について述べる。ここでは、実施例1~5、並びに、比較例1~3として、表1中に示す条件にて多孔質材料(ハニカム構造体)を作製した。
【0059】
【0060】
(実施例1~5)
まず、骨材原料である粉末状の炭化珪素(SiC)と、粉末状の結合材原料とを混合して、ベース粉末を準備した。結合材原料は、タルク、酸化アルミニウム(Al2O3)および二酸化珪素(SiO2)を含み、結合材原料の全体に対する各材料の質量比率は、表1中の「結合材原料の組成」に示す通りである。実施例1~5では、結合材原料が、結合材原料の全体に対して、タルクを35~45質量%、酸化アルミニウムを45~60質量%、二酸化珪素を0~10質量%含むという条件を満たしている。なお、実施例5では、結合材原料が、二酸化珪素を含まない。続いて、上記ベース粉末に、造孔材、バインダおよび水を添加して成形原料を得た。その後、ニーダーを用いて混練し、可塑性の坏土(成形原料)を得た。
【0061】
次に、得られた坏土を真空土練機を用いて円柱状(シリンダー状)に成形加工し、得られた円柱状の坏土を押出成形機に投入し、ハニカム状のハニカム成形体を押出成形によって得た。ハニカム成形体をマイクロ波乾燥し、続いて、熱風乾燥機を用いて乾燥する二段階の乾燥を実施した。ハニカム成形体の両端部を切断して所定の長さに整えた後、大気雰囲気下で所定温度で脱脂する脱脂処理(仮焼処理)を行った。その後、不活性ガス雰囲気下(アルゴンガス雰囲気下)でハニカム成形体を焼成し、続いて、大気中で酸化処理を行った。焼成時における温度(焼成温度)、および、酸化処理における温度(酸化温度)は、表1に示す通りである。これにより、実施例1~5のハニカム構造の多孔質材料(ハニカム構造体)を得た。
【0062】
(比較例1~3)
比較例1~3の多孔質材料の作製は、結合材原料が、結合材原料の全体に対して、タルクを35~45質量%、酸化アルミニウムを45~60質量%、二酸化珪素を0~10質量%含むという条件を満たさない点を除き、実施例1~5とほぼ同じである。
【0063】
(多孔質材料の各種測定)
作製した多孔質材料に対して、多孔質材料の全体における各結晶相の質量比率、並びに、結合材の全体における各成分の質量比率を測定した。実施例1~5、並びに、比較例1~3の多孔質材料に対する測定結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
多孔質材料における各結晶相の質量比率は、以下のようにして求めた。X線回折装置を用いて多孔質材料のX線回折パターンを得る。X線回折装置としては、多機能粉末X線回折装置(Bruker社製、D8Advance)を用いる。X線回折測定の条件は、CuKα線源、10kV、20mA、2θ=5~100°とする。そして、解析ソフトTOPAS(BrukerAXS社製)を用いてリートベルト法により、得られたX線回折データを解析して各結晶相を定量する。検出できた全ての結晶相の質量の和を100質量%として、各構成結晶相の質量比率を算出する。実施例1~5、並びに、比較例1~3の多孔質材料では、コージェライトの質量の比率が、多孔質材料の全体に対して15~20質量%であった。
【0066】
結合材における各成分(MgO、Al2O3、SiO2)の質量比率は、ICP発光分光法により測定した質量比率を用いて、以下のように求めた。まず、JIS-Z2615(金属材料の炭素定量方法)、2616(金属材料の硫黄定量方法)に基づく、酸素気流中燃焼-赤外線吸収方式を用いて、炭素(C)成分を定量した。当該炭素成分が全て粒子本体の炭化珪素(SiC)に由来するものとして、炭化珪素の質量比率を算出した。また、ICP発光分光法により測定した珪素(Si)成分の質量比率から、上記の炭化珪素の質量比率を除いた残りの質量比率が、二酸化珪素(SiO2)に由来するものとして、多孔質材料の全体に含まれる二酸化珪素の質量比率を得た。当該二酸化珪素の質量比率から、上記X線回折解析により求めたクリストバライトの質量比率を除いた残りの質量比率を、結合材に含まれる二酸化珪素成分の質量比率とした。そして、結合材に含まれる二酸化珪素成分の質量比率、並びに、ICP発光分光法により測定した酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウムの質量比率の合計を100質量%とした場合に得られる各成分の割合を、結合材の全体に対する当該成分の質量比率とした。
【0067】
さらに、多孔質材料に対して、酸化増量、結合材側の酸化膜の厚さ、細孔側の酸化膜の厚さ、酸化膜の厚さの比(結合材側/細孔側)、開気孔率、曲げ強度、並びに、熱膨張係数を測定した。実施例1~5、並びに、比較例1~3の多孔質材料に対する測定結果を表3に示す。
【0068】
【0069】
酸化増量については、酸化処理前の多孔質材料(焼成体)の質量に対する、酸化処理後の多孔質材料の質量の増加率を求めた。結合材側の酸化膜の厚さの測定では、多孔質材料を鏡面研磨して得られる断面を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率10000倍にて観察した。結合材側の酸化膜と接する粒子本体の表面が横方向に沿うように設定された視野において、
図5を参照して説明したように、当該視野を横方向に5等分する4個の分割線を設定し、粒子本体の表面から結合材側に向かって、各分割線上の0.2μm毎の位置に対してEDS測定を行った。分割線上において、結合材に含まれるマグネシウム(Mg)等が検出されない位置のうち、粒子本体の表面から最も離れた位置までの当該表面からの長さを、当該分割線上での酸化膜の厚さとした。そして、3個の視野における計12個の分割線上での酸化膜の厚さの平均値を、結合材側の酸化膜の厚さとして求めた。
【0070】
細孔側の酸化膜の厚さの測定では、細孔側の酸化膜と接する粒子本体の表面が横方向に沿うように設定された視野において、4個の分割線を設定した。上記と同様に、各分割線上においてEDS測定を行い、酸化膜に含まれる酸素(O)等が検出される位置のうち、粒子本体の表面から最も離れた位置までの当該表面からの長さを、当該分割線上での酸化膜の厚さとした。そして、3個の視野における計12個の分割線上での酸化膜の厚さの平均値を、細孔側の酸化膜の厚さとして求めた。酸化膜の厚さの比(結合材側/細孔側)は、結合材側の酸化膜の厚さを、細孔側の酸化膜の厚さで割って得た。
【0071】
開気孔率は、多孔質材料から20mm×20mm×0.3mmの大きさに切り出した板片を用いて、純水を媒体としてアルキメデス法により測定した。実施例1~5、並びに、比較例1~3の多孔質材料では、ほぼ同じ開気孔率が得られた。曲げ強度の測定では、ハニカム構造体(多孔質材料)を、セルが貫通する方向を長手方向として縦0.3mm×横4mm×長さ40mmの試験片に加工し、JIS R1601に準拠した曲げ試験を行った。実施例1~5の多孔質材料では、いずれも6.0MPa以上の高い曲げ強度が得られた。熱膨張係数の測定では、ハニカム構造体から縦3セル×横3セル×長さ20mmの試験片を切り出し、JIS R1618に準拠する方法で、ハニカム構造体の流路に対して平行な方向における40-250℃での平均線熱膨張係数(熱膨張係数)を測定した。
【0072】
表3では、「耐熱衝撃性」の項目も設けている。耐熱衝撃性の評価については、熱膨張係数が5.0ppm/Kよりも大きい多孔質材料に「×」を付している。また、熱膨張係数が5.0ppm/K以下である多孔質材料のうち、曲げ強度が7.5MPa以上であるものに「◎」を付し、曲げ強度が7.5MPa未満であるものに「〇」を付している。
【0073】
表3のように、比較例1~3の多孔質材料では、結合材側の酸化膜の厚さがいずれも0.90μmよりも大きくなり、熱膨張係数が5.0ppm/Kよりも大きくなった。これに対し、実施例1~5の多孔質材料では、結合材側の酸化膜の厚さがいずれも0.90μm以下となり、熱膨張係数が5.0ppm/K以下となった。したがって、実施例1~5の多孔質材料では、酸化膜の形成により耐酸化性を向上しつつ、熱膨張係数の低減により耐熱衝撃性を向上することができる。実施例1~3の多孔質材料では、7.5MPa以上の曲げ強度が得られた。したがって、実施例1~3の多孔質材料では、耐熱衝撃性をさらに向上することが可能となる。なお、実施例1~3の多孔質材料において、実施例4,5の多孔質材料よりも曲げ強度が向上する理由は明確ではないが、コージェライトの質量比率の相違や、スピネルやサフィリン等の微量結晶相の存在等による総合的な影響が考えられる。
【0074】
<変形例>
上記多孔質材料2、ハニカム構造体1および多孔質材料の製造方法では様々な変形が可能である。
【0075】
多孔質材料2は、ハニカム構造体1以外の形態に形成されてよく、フィルタ以外の様々な用途に用いられてよい。多孔質材料2の用途によっては、骨材粒子3は、複数種類の物質の粒子を含んでもよい。
【0076】
多孔質材料2およびハニカム構造体1の製造方法は、上述のものには限定されず、様々に変更されてよい。
【0077】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0078】
1 ハニカム構造体
2 多孔質材料
3 骨材粒子
4 結合材
12 隔壁
13 セル
21 細孔
31 粒子本体
32,32a,32b 酸化膜
S11~S13 ステップ