(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】カフェオフランまたはその誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 495/04 20060101AFI20220404BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
C07D495/04 101
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018059369
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2020-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕介
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-265234(JP,A)
【文献】Tetrahedron Lett.,2006年,47,787-789
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 495/04
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式で示されるステップA~E:
ステップA:化合物(1)にヒドロキシアルキル基を導入する工程、
ステップB:ステップAで得られる化合物(2)の水酸基に保護基R
3を導入する工程、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)の水酸基を酸化する工程、
ステップD:ステップCで得られる化合物(4)の保護基R
3を脱保護する工程、ならびに、
ステップE:ステップDで得られる化合物(5)を、遷移金属触媒の存在下で、還元および環化する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその
塩もしくは水和物の製造方法:
【化1】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~
2のアルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。)。
【請求項2】
下式で示されるステップB~E:
ステップB:化合物(2)の水酸基に保護基R
3を導入する工程、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)の水酸基を酸化する工程、
ステップD:ステップCで得られる化合物(4)の保護基R
3を脱保護する工程、ならびに、
ステップE:ステップDで得られる化合物(5)を、遷移金属触媒の存在下で、還元および環化する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその
塩もしくは水和物の製造方法:
【化2】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~
2のアルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。)。
【請求項3】
下式で示されるステップC~E:
ステップC:化合物(3)の水酸基を酸化する工程、
ステップD:ステップCで得られる化合物(4)の保護基R
3を脱保護する工程、ならびに、
ステップE:ステップDで得られる化合物(5)を、遷移金属触媒の存在下で、還元および環化する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその
塩もしくは水和物の製造方法:
【化3】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~
2のアルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。)。
【請求項4】
下式で示されるステップB~D:
ステップB:化合物(2)の水酸基に保護基R
3を導入する工程、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)の水酸基を酸化する工程、および、
ステップD:ステップCで得られる化合物(4)の保護基R
3を脱保護する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその
塩もしくは水和物の製造方法:
【化4】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~
2のアルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。
また、化合物(6)は請求項1と同様である。)。
【請求項5】
下式で示されるステップB~C:
ステップB:化合物(2)の水酸基に保護基R
3を導入する工程、および、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)の水酸基を酸化する工程
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその
塩もしくは水和物の製造方法:
【化5】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~
2のアルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。
また、化合物(6)は請求項1と同様である。)。
【請求項6】
下式で示されるステップC~D:
ステップC:化合物(3)の水酸基を酸化する工程、および、
ステップD:ステップCで得られる化合物(4)の保護基R
3を脱保護する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその
塩もしくは水和物の製造方法:
【化6】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~
2のアルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。
また、化合物(6)は請求項1と同様である。)。
【請求項7】
下式で示されるステップB:
ステップB:化合物(2)の水酸基に保護基R
3を導入する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその
塩もしくは水和物の製造方法。
【化7】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~
2のアルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。
また、化合物(6)は請求項1と同様である。)。
【請求項8】
下式で示されるステップC:
ステップC:化合物(3)の水酸基を酸化する工程
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその
塩もしくは水和物の製造方法:
【化8】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~
2のアルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。
また、化合物(6)は請求項1と同様である。)。
【請求項9】
下式で示されるステップD:
R
3が、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリエチルシリル基、トリメチルシリル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、トリチル基、テトラヒドロピラニル基、
またはベンゾイル基である、請求項1から
8のいずれかに記載のカフェオフランまたはその
塩もしくは水和物の製造方法。
【請求項10】
R
3
が、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリエチルシリル基、トリメチルシリル基、テトラヒドロピラニル基、ベンジル基、またはp-メトキシベンジル基である、請求項1から8のいずれかに記載のカフェオフランまたはその塩もしくは水和物の製造方法。
【請求項11】
R
1が、水素またはメチル基である、請求項1から10のいずれかに記載のカフェオフランまたはその誘導体の製造方法。
【請求項12】
R
2が、水素またはメチル基である、請求項1から11のいずれかに記載のカフェオフランまたはその誘導体の製造方法。
【請求項13】
R
1が水素原子、かつ、R
2がメチル基である、請求項1から12のいずれかに記載のカフェオフランまたはその誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラン化合物、たとえば、それ自体が香気性を有するフラン化合物、なかでも特にカフェオフラン、およびそれらの誘導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カフェオフラン(化合物名:2,3-ジヒドロ-6-メチルチエノ[2,3-c]フラン)は、コーヒー中に存在する特徴的な香気成分物質として1963年、M.Stollらにより単離された化合物である(非特許文献1)。その構造決定は、G.Buchiらによって行われ、下式に示される構造を有することが明らかにされ、カフェオフランと命名された(非特許文献2)
【0003】
【0004】
従来のカフェオフランの合成法は、G.Buchiらによる方法(非特許文献2)、E.Brennaらによる方法(非特許文献3および4)、D.Rewickiらの方法(非特許文献5)が知られているが、いずれも効率的なものとは言い難い。具体的には、G.Buchiらの方法は、4,5-ジヒドロチオフェン-3(2H)-オンを原料として用いて3ステップでカフェオフランを合成する方法であるが、第一ステップのクライゼン反応の収率が低いという問題の他、第二ステップのグリニャール反応で2種類の生成物が出来るなどの難点がある。E.Brennaらの方法では、原料から10ステップもの多数の工程を必要とする。D.Rewickiらの方法では、トータルの収率が12%であるものの、原料物質となる3,4-ジブロモフランの入手が困難である。このように従来の合成方法はいずれも効率的とは言えず、工業的に量産する方法としては問題点がある。
【0005】
一方、本願出願人は、上記カフェオフランの合成に関する従来の問題を解決することを目的に、すでにカフェオフランまたはその誘導体(カフェオフラン類)の効率的な製造方法の提案を行っている(特許文献1参照)。しかしながら、当該製造方法では従来の製造方法に比して大幅に製造時間の削減が達成されていたものの、本願出願人の当該提案においても、いまだ各工程での反応準備工程や反応時間、反応終了後の精製工程等において作業内容や所要時間の負担がある箇所があり、さらなる作業時間や作業工程の改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Helv.Chim.Acta,50,628(1967)
【文献】J.Org.Chem.,36,199(1971)
【文献】J.Chem.Research(S),74(1998)
【文献】J.Chem.Research(M),551(1998)
【文献】Liebigs Ann.Chem.,625(1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に照らし、上記カフェオフランの合成に関する従来の問題をさらに解決することを目的になされたものである。具体的には、本発明は、カフェオフランまたはその誘導体(以下、カフェオフラン類と呼ぶ場合がある。)のより効率的な合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下に示すカフェオフランまたはその誘導体の、新規の製造方法の開発に成功し、上記製造方法により上記目的である、カフェオフランまたはその誘導体(カフェオフラン類)のより効率的な合成方法の提供を達成できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、次の各項に記載の態様を含む。
【0011】
項1.下式で示されるステップA~E:
ステップA:化合物(1)にヒドロキシアルキル基を導入する工程、
ステップB:ステップAで得られる化合物(2)の水酸基に保護基R
3を導入する工程、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)の水酸基を酸化する工程、
ステップD:ステップCで得られる化合物(4)の保護基R
3を脱保護する工程、ならびに、
ステップE:ステップDで得られる化合物(5)を、遷移金属触媒の存在下で、還元および環化する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその誘導体の製造方法:
【化2】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。)。
【0012】
項2.下式で示されるステップB~E:
ステップB:化合物(2)の水酸基に保護基R
3を導入する工程、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)の水酸基を酸化する工程、
ステップD:ステップCで得られる化合物(4)の保護基R
3を脱保護する工程、ならびに、
ステップE:ステップDで得られる化合物(5)を、遷移金属触媒の存在下で、還元および環化する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその誘導体の製造方法:
【化3】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。)。
【0013】
項3.下式で示されるステップC~E:
ステップC:化合物(3)の水酸基を酸化する工程、
ステップD:ステップCで得られる化合物(4)の保護基R
3を脱保護する工程、ならびに、
ステップE:ステップDで得られる化合物(5)を、遷移金属触媒の存在下で、還元および環化する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその誘導体の製造方法:
【化4】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。)。
【0014】
項4.下式で示されるステップB~D:
ステップB:化合物(2)の水酸基に保護基R
3を導入する工程、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)の水酸基を酸化する工程、および、
ステップD:ステップCで得られる化合物(4)の保護基R
3を脱保護する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその誘導体の製造方法:
【化5】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。
また、化合物(6)は項1と同様である。)。
【0015】
項5.下式で示されるステップB~C:
ステップB:化合物(2)の水酸基に保護基R
3を導入する工程、および、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)の水酸基を酸化する工程
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその誘導体の製造方法:
【化6】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。
また、化合物(6)は項1と同様である。)。
【0016】
項6.下式で示されるステップC~D:
ステップC:化合物(3)の水酸基を酸化する工程、および、
ステップD:ステップCで得られる化合物(4)の保護基R
3を脱保護する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその誘導体の製造方法:
【化7】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。
また、化合物(6)は項1と同様である。)。
【0017】
項7.下式で示されるステップB:
ステップB:化合物(2)の水酸基に保護基R
3を導入する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその誘導体の製造方法。
【化8】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。
また、化合物(6)は項1と同様である。)。
【0018】
項8.下式で示されるステップC:
ステップC:化合物(3)の水酸基を酸化する工程
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその誘導体の製造方法:
【化9】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。
また、化合物(6)は項1と同様である。)。
【0019】
項9.下式で示されるステップD:
ステップD:化合物(4)の保護基R
3を脱保護する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその誘導体の製造方法:
【化10】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。
また、化合物(6)は項1と同様である。)。
【0020】
項10.R3が、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリエチルシリル基、トリメチルシリル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、トリチル基、テトラヒドロピラニル基、ベンゾイル基である、項1から9のいずれかに記載のカフェオフランまたはその誘導体の製造方法。
【0021】
項11.R1が、水素またはメチル基である、項1から10のいずれかに記載のカフェオフランまたはその誘導体の製造方法。
【0022】
項12.R2が、水素またはメチル基である、項1から11のいずれかに記載のカフェオフランまたはその誘導体の製造方法。
【0023】
項13.R1が水素原子、かつ、R2がメチル基である、項1から12のいずれかに記載のカフェオフランまたはその誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明のカフェオフランまたはその誘導体の製造方法は、特定の合成ルートを経由することにより、従来法に比して、製造における作業時間を大幅に減少させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
すなわち、本発明の化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその誘導体の製造方法は、
下式で示されるステップA~E:
ステップA:化合物(1)にヒドロキシアルキル基を導入する工程、
ステップB:ステップAで得られる化合物(2)の水酸基に保護基R
3を導入する工程、
ステップC:ステップBで得られる化合物(3)の水酸基を酸化する工程、
ステップD:ステップCで得られる化合物(4)の保護基R
3を脱保護する工程、ならびに、
ステップE:ステップDで得られる化合物(5)を、遷移金属触媒の存在下で、還元および環化する工程、
を含む、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその誘導体の製造方法:
【化11】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。)
であることを特徴とする。
【0027】
本発明は、化合物(6)で示される、カフェオフランまたはその誘導体(カフェオフラン類)の新規な製造法を提供する。
【0028】
【化12】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基を示す。)
【0029】
また、本発明において、誘導体とは、分子内の小部分の化学変化によって生成する化合物をいい、簡易な構造置換体、付加体、塩、水和物などを含み、また類縁体とよばれるものも含む。
【0030】
ここで、R1またはR2で示される低級アルキル基としては、同一または異なって、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、およびt-ブチル基などの炭素数1乃至4の低級アルキル基を例示することができる。好ましくは、水素原子、または、メチル基もしくはエチル基といった炭素数1または2の低級アルキル基である。
【0031】
また、カフェオフラン〔化学名:6-メチル-2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン〕は、上記化合物(6)において、R1が水素原子、R2がメチル基である、2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン骨格を有する化合物(2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン化合物)である。
【0032】
上記カフェオフランの誘導体として、好ましくは、化合物(6)において、R
1が水素原子、R
2がエチル基であるエチルカフェオフラン〔化学名:6-エチル-2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン〕(化合物(7)):R
1とR
2のいずれもがメチル基であるジメチルカフェオフラン〔化学名:4,6-ジメチル-2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン〕(化合物(8)):R
1がメチル基、R
2がエチル基である4-メチル-6-エチル-2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン(化合物(9)):R
1がエチル基、R
2がメチル基である4-エチル-6-メチル-2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン(化合物(10)):R
1とR
2がいずれもエチル基である4,6-ジエチル-2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン(化合物(11))などをあげることができる。
【化13】
【化14】
【0033】
本発明のカフェオフラン類(6)の製造方法には、下式で示される方法が含まれる。
【化15】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。)。
【0034】
当該方法は、下記の工程(ステップ)A~Eによって実施することができる。
【0035】
(工程A)
【化16】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基を示す。)。
【0036】
工程A(ステップA)は、化合物(1)にヒドロキシアルキル基を導入する工程である。
【0037】
工程Aは、化合物(1)で示される化合物〔たとえば、チオフェン-3-メタノール(R1が水素原子の場合)または3-(1-ヒドロキシアルキル)チオフェン(R1が低級アルキル基の場合)〕のチオフェニル環の2位に、たとえば、1-ヒドロキシアルキル基である-CH2(R2)-OH基を導入する工程である。
【0038】
本発明においては、工程Aを用いることにより、化合物(1)のチオフェニル環の2位に、ヒドロキシアルキル基をより選択的に導入することが可能であり、特に複生成物の発生を低減させ、反応処理や精製工程において非常に作業効率良く変換していくことが可能となることを見出したものである。
【0039】
工程Aは、より具体的には、化合物(1)に、アルキル金属試薬を反応させた後に、ヒドロキシアルキル化試薬を反応させることによって実施することができる。上記反応は、テトラヒドロフラン、ジクロロメタンまたはトルエン等の溶媒を使用して、通常-100℃~20℃の条件で行うことができる。
【0040】
ここでアルキル金属試薬としては、制限されないが、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウムをあげることができる。好ましくはn-ブチルリチウムである。アルキル金属試薬の使用割合は、特に制限されないが、化合物(1)1molに対して、通常2~5mol、好ましくは2~3molをあげることができる。
【0041】
またヒドロキシアルキル化試薬としては、制限されないが、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、2-メチルブチルアルデヒド、2,2-ジメチルプロピオンアルデヒド、ホルムアルデヒドをあげることができる。好ましくはアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ホルムアルデヒドである。ヒドロキシアルキル化試薬の使用割合は、特に制限されないが、化合物(1)1molに対して、通常1~5mol、好ましくは1~3molをあげることができる。このようにして、化学式(2)で示される化合物(化合物(2))を得ることができる。
【0042】
(工程B)
【化17】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。)。
【0043】
工程B(ステップB)は、化合物(2)(工程Aを含む場合には、工程Aで得られる化合物(2)を用いることができるが、他の方法で得られた化合物(2)を、適宜、併用してもよい。)の水酸基に保護基R3を導入する工程である。
【0044】
工程Bは、工程Aで得られる化合物(2)の水酸基を保護する工程である。なお、工程Bで主として保護する水酸基は、チオフェニル環の3位のヒドロキシアルキル基における水酸基である。本発明において、上記水酸基のみに保護基を導入することにより、次工程において、もう一方の2位のヒドロキシアルキル基における水酸基をより選択的に酸化して、-(C=O)-基に非常に作業効率良く変換していくことが可能となることを見出したものである。
【0045】
工程Bでは、より具体的には、たとえば、当該化合物(2)を酸性触媒の存在下、もしくは中性または塩基性条件下で、アルコール保護剤と反応することによって実施することができる。アルコール保護剤としては、結合させるアルコール保護基に応じて、たとえば、t-ブチルジメチルシリルクロリド、t-ブチルジメチルシリルブロミド、ブチルt-ブチルジフェニルシリルクロリド、ブチルt-ブチルジフェニルシリルブロミド、トリイソプロピルシリルクロリド、トリイソプロピルシリルブロミド、トリエチルシリルクロリド、トリエチルシリルブロミド、トリメチルシリルクロリド、トリメチルシリルブロミド、ベンジルクロリド、ベンジルブロミド、p-メトキシベンジルクロリド、p-メトキシベンジルブロミド、トリチルクロリド、トリチルブロミド、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン、ベンゾイルクロリド、ベンゾイルブロミド、クロロメチルメチルエーテル、無水酢酸、クロロメチルエチルエーテル、クロロメチルベンジルエーテルをあげることができる。より好ましいものとして、t-ブチルジメチルシリルクロリド、t-ブチルジメチルシリルブロミド等があげられる。
【0046】
上記反応は、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、エーテル、トルエン、アセトニトリルまたはピリジン等、使用するアルコール保護剤の種類に応じた溶媒を使用して、通常-10℃~80℃の条件で行うことができる。なお、この反応は、必要に応じて、硫酸、塩酸、p-トルエンスルホン酸、ピリジウムなどの酸性触媒を添加し、酸性触媒の存在下で行うことができる。
【0047】
本発明において、上記R3が、たとえば、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリエチルシリル基、トリメチルシリル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、トリチル基、テトラヒドロピラニル基、ベンゾイル基であることが好ましい。本発明においては、上述のように、立体的にかさ高い保護基を導入する手法を用いることにより、その保護基導入試薬のかさ高さによって、チオフェニル環の2位のヒドロキシアルキル基の水酸基ではなく、3位のヒドロキシアルキル基における水酸基をより選択的に保護を導入でき、特に複生成物の発生を低減させ、反応処理や精製工程において非常に作業効率良く変換していくことが可能となることを見出したものである。このようにして、化学式(3)で示される化合物(化合物(3))を得ることができる。
【0048】
(工程C)
【化18】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。)。
【0049】
工程C(ステップC)は、化合物(3)(工程Bを含む場合には、工程Bで得られる化合物(3)を用いることができるが、他の方法で得られた化合物(3)を、適宜、併用してもよい。)の水酸基を酸化する工程である。
【0050】
工程Cは、工程Bで得られる化合物(3)の水酸基を酸化する工程である。なお、工程Cで酸化する対象の水酸基は、チオフェニル環の2位のヒドロキシアルキル基における水酸基である。本発明において、チオフェニル環の3位のヒドロキシアルキル基における水酸基のみを保護した化合物(3)を用いて上記酸化処理を行うことにより、チオフェニル環の2位のヒドロキシアルキル基におけう水酸基のみを選択的に酸化して、-(C=O)-基に非常に作業効率良く変換していくことが可能となることを見出したものである。
【0051】
工程Cは、具体的には、化合物(3)を、酸化作用のある金属試薬等の酸化試薬と反応させることによって、実施することができる。かかる反応は、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、ジメチルフォルムアミド(DMF)、アセトン等の溶媒を使用して、通常-30℃~50℃の条件で行うことができる。
【0052】
酸化試薬としては、制限されないが、二酸化マンガン、過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウム、クロム酸、クロロクロム酸ピリジニウム(PCC)、ニクロム酸ピリジニウム(PDC)、ジメチルスルフォキシドと塩化オキザリル、酸化マグネシウム、等をあげることができる。好ましくは、たとえば、二酸化マンガン、PCC、PDCである。上記酸化試薬の使用割合は、特に制限されないが、化合物(3)1molに対して、通常1~300mol、好ましくは1~100molをあげることができる。このようにして、化学式(4)で示される化合物(化合物(4))を得ることができる。
【0053】
(工程D)
【化19】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基、R
3は、アルコール保護基を示す。)。
【0054】
工程D(ステップD)は、化合物(4)(工程Cを含む場合には、工程Cで得られる化合物(4)を用いることができるが、他の方法で得られた化合物(4)を、適宜、併用してもよい。)の保護基R3を脱保護する工程である。
【0055】
工程Dは、たとえば、化合物(4)を、有機金属試薬等と反応することによって、または酸性触媒の存在下、アルコールと反応することによって実施することができる。上記反応は、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、プロパノール、またはトルエン等の溶媒を使用して、通常-30℃~80℃の条件で行われる。
【0056】
ここで有機金属試薬としては、制限されないが、ジメチルアルミニウムクロライド、またはジエチルアルミニウムクロライドなどをあげることができる。好ましくはジメチルアルミニウムクロライドである。有機金属試薬の使用割合は、特に制限されないが、チオフェン化合物(4)1molに対して、通常1~3mol、好ましくは2~2.5molをあげることができる。
【0057】
また、酸性触媒としては硫酸、塩酸、p-トルエンスルホン酸、ピリジニウムなどを例示することができる。さらにアルコールとしてはエタノール、メタノールを例示することができる。
【0058】
また、R3基として、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリエチルシリル基、トリメチルシリル基等のシリルエーテル基を用いている場合には、フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAF)等を用いて脱保護することもできうる。本発明においては、特に工程Dにおいて、これらの保護基と脱保護処理を組み合わせることにより脱保護を非常に作業効率良く変換していくことが可能となることを見出したものである。このようにして、化学式(5)で示される化合物(化合物(5))を得ることができる。
【0059】
(工程E)
【化20】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の低級アルキル基を示す。)。
【0060】
工程E(ステップE)は、化合物(5)(工程Dを含む場合には、工程Dで得られる化合物(5)を用いることができるが、他の方法で得られた化合物(5)を、適宜、併用してもよい。)を、遷移金属触媒の存在下で、還元および環化する工程である。上記カフェオフラン類(6)は、上記工程Eにより、合成することができる。
【0061】
より具体的には、カフェオフラン類(6)は、上記化合物(5)を、たとえば、水素雰囲気下、遷移金属触媒を用いて反応させることによって合成することができる。
【0062】
遷移金属触媒としては、特に制限はされないが、たとえば、ロジウム触媒、パラジウム触媒などをあげることができる。たとえば、好ましくはロジウム触媒であり、より好ましくはトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロライドをあげることができる。遷移金属触媒の使用量も特に制限されないが、化合物(5)1molに対して、通常0.001~0.5mol、好ましくは0.01~0.1molの割合で用いることができる。また、上記遷移金属触媒は、適宜、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0063】
水素雰囲気としては、特に制限はされないが、好ましくはガス圧力が0.1Mpa~5Mpaの範囲にある水素ガス雰囲気下、より好ましくはガス圧力が0.5Mpa~2Mpaにある水素ガス雰囲気下を例示することができる。
【0064】
反応条件に特別な限定はないが、通常、反応容器に上記遷移金属触媒および溶媒を加え、チオフェン化合物(5)を溶媒に溶解して加えて、50~150℃程度、好ましくは80℃~120℃の温度下で、0.5~48時間、好ましくは2~24時間程度加熱攪拌することにより行われる。
【0065】
ここで反応に用いる溶媒としては、制限されないが、好ましくはベンゼン、トルエン、キシレンなどベンゼン系溶媒、または塩化メチレンなどの塩素系溶媒をあげることができる。
【0066】
上記の反応終了後、必要に応じて、得られた反応液を減圧濃縮し、次いでシリカゲルを利用したクロマトグラフィー(たとえば、シリカゲル分集薄層クロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等)、蒸留、再結晶等の任意の精製操作に供してもよく、このようにして本発明の目的化合物であるカフェオフラン類(6)を得ることができる。なお、本発明の方法で使用する遷移金属触媒は、公知の方法により回収して、再利用することができる。このようにして、化学式(6)で示される化合物(化合物(6))を得ることができる。
【0067】
このようにして得られるカフェオフラン類(6)(2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン化合物)は、化合物の種類に応じて固有の香気を有しており、香気成分物質として有用である。たとえば、カフェオフランは、0.000005重量%の希釈水溶液とした場合、焙煎したナッツ様香気、または野菜様のグリーン香、またはカラメル様の甘い香りを奏する。またエチルカフェオフランは、0.000005重量%の希釈水溶液とした場合、甘味のあるロースト感のある香りを奏し、またジメチルカフェオフランは、0.000005重量%の希釈水溶液とした場合、青みのある生豆様の香り、または野菜のグリーン香、またはみずみずしさのある香りを奏する。
【0068】
また、本発明の製造方法により得られるカフェオフラン類(6)として、たとえば、R1がメチル基、R2がエチル基である4-メチル-6-エチル-2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン(化合物(9)):R1がエチル基、R2がメチル基である4-エチル-6-メチル-2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン(化合物(10))は、それぞれ、化合物(9)はナッツ様の香り、化合物(10)はスパイシーな香りを有している。また、R1とR2がいずれもエチル基である4,6-ジエチル-2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン(化合物(11))は乾いたナッツ様の香りを有している。
【0069】
本発明の製造方法を用いて得られたカフェオフラン類(6)は、飲食品の香料組成物として用いることができうる。飲食品に配合するカフェオフラン類(6)の割合は、使用するカフェオフラン類(6)の種類や飲食品の種類によって異なるが、飲食品組成物100重量%中に、10-12~10-4重量%(10-3~109ppb)、好ましくは10-6~10-1重量%(1~105ppb)の割合を例示することができる。
【0070】
カフェオフラン類(6)を香料成分として含むことのできる飲食品としては、制限はされないが、たとえば、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、氷菓等の冷菓類;乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料(果汁入りを含む)、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、スポーツ飲料、粉末飲料等の飲料類;リキュールなどのアルコール飲料;コーヒー飲料、紅茶飲料等の茶飲料類;コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;カスタードプリン、ミルクプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロアおよびヨーグルト等のデザート類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレートおよびメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、タフィ等のキャラメル類;ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類;セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソースなどのソース類;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、リンゴジャム、プレザーブ等のジャム類;ハム、ソーセージ、焼き豚等の畜肉加工品;魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾等の水産練り製品;チーズ等の酪農製品類をあげることができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0072】
<1H-NMRスペクトルの測定>
1H-NMR、13C NMRスペクトルの測定は、核磁気共鳴装置(日本電子社製、製品名:ECA-600)を用いて行った。より詳細には、各1H-NMR、13C NMRスペクトルの測定は、溶媒としてCDCl3を用い、内部標準としてテトラメチルシランを用いて行った。
【0073】
<MSスペクトルの測定>
MSスペクトルの測定は、質量分析装置(アジレントテクノロジー社製、製品名:5973MSD)を用いて行った。より詳細には、…(記載すべき事項があれば)。
【0074】
〔実施例1〕
(カフェオフランの合成)
下式に従って、チオフェン-3-メタノール(化合物(1))からカフェオフラン(化合物(6))を製造した。なお、式中、TBSはt-ブチルジメチルシリル基を意味する。
【0075】
【0076】
(1)工程A:チオフェン-3-メタノールへのヒドロキシアルキル基の導入
(1-[3-(ヒドロキシメチル)-2-チエニル]-1-エタノール(化合物(2))の合成)
チオフェン-3-メタノール(化合物(1)11.2g(98mmol)をテトラヒドロフラン(THF)溶液970mlに溶解した。これに、窒素雰囲気下、-5℃冷却条件下で、n-ブチルリチウム189ml(1.55Mヘキサン溶液、293mmol)を滴下し、滴下終了後30分同温にて攪拌した。該溶液にアセトアルデヒド14.2g(323mmol)を加えて-5℃でさらに30分間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を終了させた。分層後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧下で留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)することにより、無色油状物質として、1-[3-(ヒドロキシメチル)-2-チエニル]-1-エタノール(化合物(2)、12.0g、収率77%)を得た。1-[3-(ヒドロキシメチル)-2-チエニル]-1-エタノールの物性を下記に示す。
【0077】
1H NMR(CDCl3,600MHz,d ppm):7.15(d,J=4.8Hz,1H),6.96(d,J=5.5Hz,1H),5.19(qd,J=6.2Hz,3.6Hz,1H),4.65(dd,J=12.6Hz,J=4.8,1H),4.60(dd,J=12.6Hz,4.80Hz,1H),3.54(brd,J=3.6Hz,1H),3.10(brd,J=4.8Hz,1H),1.60(d,J=6.2Hz,3H);
13C NMR(CDCl3,125MHz,d ppm)146.07,137.74,129.09,123.13,64.01,58.48,24.10;
MS(m/e) 156(M+)。
【0078】
(2)工程B:化合物(2)の一方の水酸基の保護
((1-{3-[(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)メチル]-2-チエニル}-1-エタノール(化合物(3))の合成)
1-[3-(ヒドロキシメチル)-2-チエニル]-1-エタノール(化合物(2)12.0g、76mmol)、イミダゾール(10.3g、151mmol)をTHF120mLに溶解させた。これに0℃冷却条件下で、THF60mLに溶解したTBSCl(12.0g、80mmoL)を滴下した。同温にて40分攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を終了させた。分層後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧下で留去した。得られた粗精製1-{3-[(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)メチル]-2-チエニル}-1-エタノール(化合物(3)、20.0g)はこれ以上の精製は行わず、次の反応へ供した。1-{3-[(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)メチル]-2-チエニル}-1-エタノールの物性を下記に示す。
【0079】
1H NMR(CDCl3,600MHz,d ppm):7.12(d,J=5.5Hz,1H),6.91(d,J=4.8Hz,1H),5.22(qd,J=6.9Hz,2.8Hz,1H),4.77(d,J=12.4Hz、1H),4.70(d,J=12.4Hz,1H),0.91(s、9H),0.10(s,6H)。
【0080】
(3)工程C:化合物(3)の一方の水酸基酸化
(1-{3-[(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)メチル]-2-チエニル}-1-エタノン(化合物(4))の合成)
工程Bで得られた粗1-{3-[(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)メチル]-2-チエニル}-1-エタノール(化合物(3)、20.0g)をジクロロメタン250mLに溶解し、そこへ室温攪拌下にて酸化マンガン(954g、11mol)を投入した。3時間同温にて攪拌を行なった後、セライトろ過にて酸化マンガンのろ別を行った。得られたろ液に対し、減圧下にて溶媒留去を行った。得られた粗1-{3-[(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)メチル]-2-チエニル}-1-エタノン(化合物(4)、18.6g)はこれ以上の精製は行わず、次の反応へ供した。1-{3-[(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)メチル]-2-チエニル}-1-エタノンの物性を以下に示す。
【0081】
1H NMR(CDCl3,600MHz,d ppm):7.46(d,J=5.5Hz,1H),7.39(d,J=4.8Hz,1H),5.05(s,2H),2.52(s,3H),0.95(s,9H),0.11(s,6H)。
【0082】
(4)工程D:脱保護
(1-[3-(ヒドロキシメチル)-2-チエニル]-1-エタノン(化合物(5))の合成)
工程Cで得られた粗1-{3-[(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)メチル]-2-チエニル}-1-エタノン(化合物(4)、18.6g)をTHFに溶解し、0℃冷却条件下で、TBAF75.8mL(1M THF溶液,75.8mmol)を投入した。同温にて1時間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え反応を終了させた。分層後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧下で留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(ヘキサン:酢酸エチル=5:1~1:1)することにより、無色油状物質として、1-[3-(ヒドロキシメチル)-2-チエニル]-1-エタノン(化合物(5)、9.86g、3段階収率77%)を得た。1-[3-(ヒドロキシメチル)-2-チエニル]-1-エタノンの物性を以下に示す。
【0083】
1H NMR(CDCl3,600MHz,d ppm):7.51(d,J=4.8Hz,1H),7.14(d,J=4.8Hz,1H),4.76(d,J=5.5Hz、2H),4.26(t、J=6.9Hz、1H),2.61(s,3H);
13C NMR(CDCl3,125MHz,d ppm)192.49,150.00,136.68,131.06,130.66,60.13,29.24;
MS(m/e) 156(M+)。
【0084】
(5)工程E:還元を伴う環化反応
(カフェオフラン(化合物(6))の合成)
工程Dで得られた1-[3-(ヒドロキシメチル)-2-チエニル]-1-エタノン(化合物(5)9.86g、63mmol)をトルエン溶液250mlに溶解し、次いでこれに13.8g(15mmol)のトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロライドを加えた。該溶液を3Mpaの水素雰囲気下、100℃で40時間加熱しながら攪拌を行った。該溶液を濃縮し得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)、無色油状物質として6-メチル-2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン3.0g(カフェオフラン、化合物(6)、収率34%)を得た。6-メチル-2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フランを下記に示す。
【0085】
1H NMR(CDCl3,600MHz,d ppm):6.98(t,J=1.6Hz,1H),3.62(t,J=6.9Hz,2H),2.87(td,J=6.9、1.6Hz,2H),2.20(s,3H);
13C NMR(CDCl3,125MHz,d ppm)140.37,131.77,128.43,122.27,42.15,26.86,12.69;
MS(m/e) 140(M)。
【0086】
〔比較例1〕
(カフェオフランの合成)
下式に従って、チオフェン-3-メタノール(化合物(a))からカフェオフラン(化合物(e))を製造した。なお、式中、THPはテトラヒドロピラニル基を意味する。
【0087】
【0088】
(1)工程1:チオフェン-3-メタノールの水酸基の保護
(2-(3-チエニルメチルオキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン(化合物(b))の合成)
チオフェン-3-メタノール(化合物(a))4.56g(40mmol)に、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン3.36g(40mmol)、およびジクロロメタン溶液80mlを添加し、次いでピリジニウムp-トルエンスルホン酸0.25g(1mmol)を加えた。得られた混合液を室温で30分間攪拌した後、溶液を減圧下留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製して、無色の油状物質として、チオフェン-3-メタノールの水酸基が保護された、2-(3-チエニルメチルオキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン(化合物(b),7.92g,収率100%)を得た。2-(3-チエニルメチルオキシ)テトラヒドロ-2H-ピランの物性を下記に示す。
【0089】
1H NMR(CDCl3,400MHz,d ppm):7.30(dd,J=3.2,4.8Hz,1H),7.25(dd,J=3.2,1.2Hz,1H),7.09(dd,J=1.2,4.8Hz,1H),4.77(d,J=12.4Hz,2H),4.70(t,J=4Hz,1H),4.54(d,J=12.4Hz,2H),3.91(m,1H),1.88-1.51(m,6H);
13C NMR(CDCl3,100MHz,d ppm)139.25,127.35,125.74,122.67,97.43,66.99,62.02,30.44,25.42,19.25;
MS(m/e) 198(M+);
IR(neat) nmax 2945,2872,2247,1466,1454,1440,1120,1030,908,736cm-1。
【0090】
(2)工程2:アシル化
(1-{3-[(テトラヒドロ-2H-2-ピラニルオキシ)メチル]-2-チエニル}-1-エタノン(化合物(c))の合成)
上記で得られた2-(3-チエニルメチルオキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン(化合物(b))0.792g(4mmol)をテトラヒドロフラン(THF)溶液80mlに溶解した。これに、アルゴン雰囲気下、-78℃冷却条件下で、n-ブチルリチウム2.5ml(1.6Mヘキサン溶液、4mmol)を滴下した。30分後、該溶液に無水酢酸0.408g(4mmol)を加えて30分間攪拌したのち、室温に戻して更に30分間攪拌を続けた。次いで、上記溶液を飽和食塩水で洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧下で留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)することにより、無色油状物質として、1-{3-[(テトラヒドロ-2H-2-ピラニルオキシ)メチル]-2-チエニル}-1-エタノン(化合物(c)、0.653g、収率68%)を得た。1-{3-[(テトラヒドロ-2H-2-ピラニルオキシ)メチル]-2-チエニル}-1-エタノンの物性を下記に示す。
【0091】
1H NMR(CDCl3,400MHz,d ppm):7.47(d,J=5.2Hz,1H),7.34(d,J=5.2Hz,1H),5.07(d,J=15.2Hz,2H),4.91(d,J=15.2Hz,2H),4.74(t,J=4Hz,1H),3.89(m,1H),3.54(m,1H),2.52(s,3H),1.90-1.52(m,6H);
13C NMR(CDCl3,100MHz,d ppm)190.68,147.40,129.99,129.53,98.52,65.29,62.21,30.50,29.17,25.23,22.88,19.41;
MS(m/e) 240(M+);
IR(neat) nmax 2943,2870,2249,16601525,1415,1122,1068,910,731cm-1。
【0092】
(3)工程3:脱保護
(1-[3-(ヒドロキシメチル)-2-チエニル]-1-エタノン(化合物(d))の合成)
工程2で調製した1-{3-[(テトラヒドロ-2H-2-ピラニルオキシ)メチル]-2-チエニル}-1-エタノン(化合物(c)、1.44g(6mmol))をジクロロメタンに溶解し、この溶液60mlに、-25℃で攪拌下、ジメチルアルミニウムクロライドの1Mヘキサン溶液12ml(12mmol)を滴下した。滴下終了後、該溶液を室温に戻しさらに1時間攪拌を行った。次いで、該溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を終了し、セライトろ過を行った。分離した有機層を飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムを加えて乾燥し、溶媒を減圧下で留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)、無色油状物質として1-[3-(ヒドロキシメチル)-2-チエニル]-1-エタノン(化合物(d)、0.767g、収率82%)を得た。1-[3-(ヒドロキシメチル)-2-チエニル]-1-エタノンの物性を下記に示す。
【0093】
1H NMR(CDCl3,400MHz,d ppm):7.49(d,J=4.8Hz,1H),7.13(d,J=4.8Hz,1H),4.74(d,J=5.6Hz,2H),4.24(t,J=5.6Hz,OH,1H),2.58(s,3H);
13C NMR(CDCl3,100MHz,d ppm)192.43,149.98,136.57,130.91,130.51,59.98,29.09;
MS(m/e) 156(M+);
IR(neat) nmax 3441,2253,1651,1518,1413,1263,1032,908,733cm-1。
【0094】
(4)工程4:還元を伴う環化反応
(カフェオフラン(化合物(e))の合成)
工程3で調製した化合物(d)(312mg(2mmol))をベンゼン溶液10mlに溶解し、次いでこれに92mg(0.1mmol)のトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロライドを加えた。該溶液を1Mpaの水素雰囲気下、100℃で24時間加熱しながら攪拌を行った。該溶液を濃縮し得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより(ペンタン:エーテル=100:1)、無色油状物質として6-メチル-2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フラン142mg(カフェオフラン、化合物(e)、収率51%)を得た。6-メチル-2,3-ジヒドロチエノ[2,3c]フランを下記に示す。
【0095】
1H NMR(CDCl3,400MHz,d ppm):6.98(t,J=1.6Hz,1H),3.62(t,J=7.2Hz,2H),2.87(dt,J=1.67.2Hz,2H),2.20(s,3H);
13C NMR(CDCl3,100MHz,d ppm)140.22,131.61,128.27,122.11,41.99,26.70,12.53;
MS(m/e) 140(M);
IR(neat) nmax 2982,2916,1631,1577,1433,1265,1103,920,733cm-1。
【0096】
<作業時間の比較>
実施例、比較例における各工程での作業時間について、下記表1に示す。
【0097】
【0098】
上記表1から分かるように、比較例1に対して、実施例1において、各工程、複数連続工程、ならびに全行程の合計、それぞれでの作業時間の大幅な減少が認められた。