(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】木構造の配電系統電圧分布計算装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20220404BHJP
【FI】
H02J3/00 170
(21)【出願番号】P 2018061141
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000164391
【氏名又は名称】九電テクノシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】▲鶴▼田 晃子
(72)【発明者】
【氏名】向江 武範
(72)【発明者】
【氏名】大谷 晃平
(72)【発明者】
【氏名】鳥飼 孝幸
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-082630(JP,A)
【文献】特開平11-262180(JP,A)
【文献】特開2008-278658(JP,A)
【文献】特開2005-033848(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0316620(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00 - 5/00
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流を潮流量とした木構造の配電系統電圧分布計算装置であって、
各ノードに対して与えられた電圧および負荷特性値から各ノードの負荷電流を計算する負荷電流計算手段と、
各ノードの負荷電流を当該ノードの親ノードとの枝電流として割り当てる割当手段と、
前記木構造の根ノードのノードレベルを最も低いノードレベルとし、根ノード以外の各ノードのノードレベルを、当該ノードから根ノードに至るまでに経る枝の数に応じて順に高いノードレベルとして、
ノードレベルの高い順のノードから、当該ノードの親ノード間の枝に割り当てられた枝電流を当該親ノードの枝電流に順次加算する枝電流計算手段と、
ノードレベルの低い順のノードから、当該ノードの親ノードの電圧と枝電流と枝に与えられた線路インピーダンスとから各ノードの電圧を順次計算する電圧計算手段と、
各ノードの電圧が収束したか否かを判定する収束判定手段を備え、
各ノードの電圧が収束していないと判定された場合には、前記電圧計算手段により計算された各電圧を各ノードに与えて前記負荷電流計算手段からの処理を繰り返し実行し、各ノードの電圧が収束したと判定された場合には、前記電圧計算手段により計算された各ノードの電圧を配電系統電圧分布として出力することを特徴とする木構造の配電系統電圧分布計算装置。
【請求項2】
さらに、木構造で構成される配電系統の根ノードに予め与える基準電圧や各ノードに予め与えられる負荷特性値や各枝に予め与えられる線路インピーダンスおよび前記収束判定手段での判定基準を入力する入力手段と、配電系統の接続形態と各ノードのノードレベル、各ノードの負荷特性値と線路インピーダンス、各ノードに与える初期電圧、前記収束判定手段での判定基準、前記各手段での計算および
判定の途中および最終の計算結果および判定結果を記憶する記憶手段と、配電系統電圧分布の結果を表示する表示部と、配電系統電圧分布計算装置全体を制御する制御手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の木構造の配電系統電圧分布計算装置。
【請求項3】
各ノードに対して与えられる負荷特性値は、複素電力値で与られる定電力特性、複素インピーダンス値で与えられる定インピーダンス特性、複素電流値で与えられる定電流特性、電源特性として複素電力値で与えられる定電力電源特性および複素電流値で与えられる定電流電源特性の5つの特性値のうちの少なくとも何れか
1つ、あるいは負荷特性なしであり、前記負荷電流計算手段は、複数の負荷特性値が
与えられたノードについての負荷電流を各負荷特性値から計算される各負荷電流の合計として当該ノードの負荷電流を計算することを特徴とする請求項1または2に記載の木構造の配電系統電圧分布計算装置。
【請求項4】
前記収束判定手段は、前記電圧計算手段により計算された各ノードの電圧とそれより前に計算された各ノードの電圧との変化幅、前記負荷電流計算手段により計算された各ノードの負荷電流とそれより前に計算された各ノードの負荷電流との変化幅または前記枝電流計算手段により計算された各ノードの枝電流とそれより前に計算された各ノードの枝電流との変化幅が所定の閾値より小さくなったとき、または、各ノードの電圧、各ノードの負荷電流または各ノードの枝電流と所定の設定値との誤差が所定の閾値より小さくなったとき、あるいは、予め与えられた負荷特性値と同じノードの電圧と負荷電流とから計算される負荷特性値との誤差が所定の閾値より小さくなったとき、各ノードの電圧が収束したと判定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の木構造の配電系統電圧分布計算装置。
【請求項5】
前記枝電流計算手段は、各ノードをレベルの高い順にソートし、最も高いレベルのノードからレベルの低いノードの順に各枝電流を計算することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の木構造の配電系統電圧分布計算装置。
【請求項6】
前記電圧計算手段は、各ノードをレベルの低い順にソートし、最も低いレベルのノードからレベル
の高いノードの順に各電圧を計算することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の木構造の配電系統電圧分布計算装置。
【請求項7】
電圧調整装置を、一対のノード間に挿入された対親ノード、対子ノードおよび前記対親ノードと前記対子ノードの間の枝で表し、前記対子ノードに電圧調整の変圧比αを設定し、前記枝に線路インピーダンスの代わりに前記電圧調整装置の配電線に直列に挿入される直列インピーダンスを設定し、対親ノードに負荷特性値の代わりに前記電圧調整装置の線間に挿入される並列インピーダンスを設定し、前記負荷電流計算手段は、前記対子ノードの負荷電流を零とし、前記対親ノードの負荷電流を前記並列インピーダンスで計算し、前記割当手段は、前記対親ノードの親ノードの枝電流として前記並列インピーダンスにより計算された負荷電流を割り当て、前記枝電流計算手段は、前記対親ノードの枝電流を、前記対子ノードの枝電流と変圧比αから、(対親ノードの枝電流)=α・(対子ノードの枝電流)で計算し、また、前記親ノードの枝電流を、対親ノードの負荷電流と枝電流から、(親ノードの枝電流)=(対親ノードの負荷電流)+(対親ノードの枝電流)で計算し、前記電圧計算手段は、前記対子ノードの電圧を、前記直列インピーダンスと前記対親ノードの枝電流と前記対親ノードの電圧と変圧比αから、(対子ノードの電圧)=α・{(対親ノードの電圧)-(前記直列インピーダンス)・(対親ノードの枝電流)}で計算することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の木構造の配電系統電圧分布計算装置。
【請求項8】
電流を潮流量とした木構造の配電系統電圧分布計算方法であって、
負荷電流計算手段が、各ノードに対して与えられた電圧および負荷特性値から各ノードの負荷電流を計算する第1のステップと、
割当手段が、各ノードの負荷電流を当該ノードの親ノード間の枝の枝電流として割り当てる第2のステップと、
前記木構造の根ノードのノードレベルを最も低いノードレベルとし、根ノード以外の各ノードのノードレベルを、当該ノードから根ノードに至るまでに経る枝の数に応じて順に高いノードレベルとして、
枝電流計算手段が、ノードレベルの高い順のノードから、当該ノードの親ノード間に割り当てられた枝電流を当該親ノードの親ノード間の枝電流に順次加算する第3のステップと、
電圧計算手段が、ノードレベルの低い順のノードから、当該ノードの親ノードの電圧と枝電流と線路インピーダンスとから各ノードの電圧を順次計算する第4のステップと、
収束判定手段が、各ノードの電圧が収束したか否かを判定する第5のステップを有し、
各ノードの電圧が収束していないと判定された場合には、前記第4のステップで計算された各電圧を各ノードに与えて前記第1のステップからの処理を繰り返し実行し、各ノードの電圧が収束したと判定された場合には、前記第
4のステップにより計算された各ノードの電圧を配電系統電圧分布として出力することを特徴とする木構造の配電系統電圧分布計算方法。
【請求項9】
電流を潮流量とした木構造の配電系統電圧分布計算用のプログラムであって、コンピュータを、
各ノードに対して与えられた電圧および負荷特性値から各ノードの負荷電流を計算する負荷電流計算手段、
各ノードの負荷電流を当該ノードの親ノードの枝電流として割り当てる割当手段、
前記木構造の根ノードのノードレベルを最も低いノードレベルとし、根ノード以外の各ノードのノードレベルを、当該ノードから根ノードに至るまでに経る枝の数に応じて順に高いノードレベルとして、
ノードレベルの高い順のノードから、当該ノードの親ノード間に割り当てられた枝電流を当該親ノードの親ノード間の枝電流に順次加算する枝電流計算手段、
ノードレベルの低い順のノードから、当該ノードの親ノードの電圧と枝電流と線路インピーダンスとから各ノードの電圧を順次計算する電圧計算手段、
各ノードの電圧が収束したか否かを判定する収束判定手段として機能させ、
各ノードの電圧が収束していないと判定された場合には、前記電圧計算手段により計算された各電圧を各ノードに与えて前記負荷電流計算手段からの処理を繰り返し実行させ、各ノードの電圧が収束したと判定された場合には、前記電圧計算手段により計算された各ノードの電圧を配電系統電圧分布として出力させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木構造(放射状)の配電系統電圧分布計算装置、方法およびプログラムに関し、特に、現状の電圧計算法の技術的資産やプログラム資産を活用でき、また、需要家が使用する分散電源を含む異なる負荷特性値を取り扱うことができ、さらに、電圧管理のための電圧制御を行うSVR(Step Voltage Regulator)などの電圧調整装置を取り扱うことができるようにした木構造の配電系統電圧分布装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、配電系統において、木構造(放射状)の構造を活用した短時間で実行可能な潮流計算装置が記載されている。この潮流計算装置では、流出有効電力と無効電力などを上流の先頭ノードから下流の末端ノードまで計算(前進計算)し、末端ノードでの流出電力はないという前提で、末端から上流側へ流出有効電力と無効電力の誤差量を修正(後進計算)するようにして、木構造の配電系統を対象にして潮流計算を行う。この手法は、電力を潮流とする方式であり、N-R法を配電系統用に発展させたDist Flow法を基礎としている。Dist Flow法については、非特許文献1に記載されている。
【0003】
非特許文献1には、FD2法として電流を潮流とする配電系統の潮流計算の手法が記載されている。この手法では、偏微分行列を用いるニュートン・ラフソン法で上位の変電所からの電流と線路インピーダンスにより末端から順に電圧を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-214458号公報(特許第3312522号)
【非特許文献】
【0005】
【文献】大吉亘 森啓之:「放射状配電系統における新しい電力潮流計算」,電学論B,126巻3号 pp290-296,2006年
【文献】田中将 上村敏 小林広武:「センサー開閉器情報に基づく配電系統の電圧推定法」,電中研研究報告R04011,pp1-20,平成17年10月 (財)電力中央研究所
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2に記載されている現状の電圧管理の手法では、この手法は、変電所や系統に設置されているセンサー機能付開閉器で計測された送出電圧と電流を活用し、電流を主体とした線路インピーダンスによる電圧降下量を計算し、その積み上げで各地点の電圧を算定するものであり、電流が順潮流方向にのみ流れることを前提とするものであるので、非特許文献2,pp1-2に記載されているように、分散電源などが導入された逆潮流には適用できない。
特許文献1に記載されている潮流計算装置は、潮流を電力量として処理するものであり、負荷特性値も電力量として取り扱われる。配電線に近年多く接続されている分散電源も電力量として取り扱われるため、ここでは、配電線においても電力を潮流として潮流計算を行う。
【0007】
非特許文献1pp292-293に記載されているFD2法の潮流計算の手法では、偏微分行列を用いるニュートン・ラフソン法で末端から順に電圧を算出するので、収束の行列計算が複雑になるという
課題がある。
【0008】
運用上、現状の配電系統の電圧計算法を活かした逆潮流に適用できる手法があれば、現状の電圧計算法の技術的資産およびプログラム資産を活用できるので、非常に有効である。
【0009】
また、配電系統は直接需要家と直結しており、その需要家が使用する負荷の負荷特性は、負荷の種類により異なるので、それらの異なる負荷特性への対応が望まれる。
【0010】
図9は、負荷の種類により負荷特性が異なることを示す。
図9に示すように、配電線により電力が供給されている需要家で使用されている負荷の負荷特性は、例えば、電熱器、電球照明、進相コンデンサなどの定インピーダンス特性、アーク灯、電気メッキ装置、蛍光灯、水銀灯などの定電流特性、誘導電動機、インバータエアコン、TV、分散電源などの定電力特性などと、異なる3種類の負荷特性があり、さらに、充放電を行う蓄電池を含む分散電源を電力量として取り扱うことや電流源としての電源を取り扱う必要があるかも知れない。つまり、負荷特性値としては5つの特性を取り扱う必要がある。
【0011】
また、潮流計算を行うノードや配電線の所定区間などの電圧管理を行う箇所においては、1つの負荷特性だけでなく、上記5つの負荷特性のうちの複数の負荷特性を持つ場合もある。したがって、1つのノードで1つの負荷特性を取り扱うだけでは十分でなく、1つのノードで上記の5つの異なった複数の負荷特性を取り扱えるようにすることが望まれる。
【0012】
さらに、配電線での命題である電圧管理のための電圧制御を行うSVR(Step Voltage Regulator)などの電圧調整装置や、充電や放電といった複数の機能を有する蓄電池装置なども考慮して潮流計算を行うことができるようにすることが望ましい。
【0013】
本発明の目的は、上記課題を解決し、現状の電圧計算法の技術的資産やプログラム資産を活用でき、また、需要家が使用する分散電源を含む異なる負荷特性、さらに電圧管理のための電圧制御を行うSVR(Step Voltage Regulator)などの電圧調整装置を取り扱うことができるようにした木構造の配電系統電圧分布装置、方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の木構造の配電系統電圧分布計算装置は、各ノードに対して与えられた電圧および負荷特性値から各ノードの負荷電流を計算する負荷電流計算手段と、各ノードの負荷電流を当該ノードの親ノードとの枝電流として割り当てる割当手段と、前記木構造の根ノードのノードレベルを最も低いノードレベルとし、根ノード以外の各ノードのノードレベルを、当該ノードから根ノードに至るまでに経る枝の数に応じて順に高いノードレベルとして、ノードレベルの高い順のノードから、当該ノードの親ノード間の枝に割り当てられた枝電流を当該親ノードの枝電流に順次加算する枝電流計算手段と、ノードレベルの低い順のノードから、当該ノードの親ノードの電圧と枝電流と枝に与えられた線路インピーダンスとから各ノードの電圧を順次計算する電圧計算手段と、各ノードの電圧が収束したか否かを判定する収束判定手段を備え、各ノードの電圧が収束していないと判定された場合には、前記電圧計算手段により計算された各電圧を各ノードに与えて前記負荷電流計算手段からの処理を繰り返し実行し、各ノードの電圧が収束したと判定された場合には、前記電圧計算手段により計算された各ノードの電圧を配電系統電圧分布として出力することを特徴としている。
【0015】
また、本発明の木構造の配電系統電圧分布計算装置は、さらに、木構造で構成される配電系統の根ノードに予め与える基準電圧や各ノードに予め与えられる負荷特性値や各枝に予め与えられる線路インピーダンスおよび前記収束判定手段での判定基準を入力する入力手段と、配電系統の接続形態と各ノードのノードレベル、各ノードの負荷特性値と線路インピーダンス、各ノードに与える初期電圧、前記収束判定手段での判定基準、前記各手段での計算および判定の途中および最終の計算結果および判定結果を記憶する記憶手段と、配電系統電圧分布の結果を表示する表示部と、配電系統電圧分布計算装置全体を制御する制御手段を備えることを特徴としている。
【0016】
また、本発明の木構造の配電系統電圧分布計算装置は、各ノードに対して与えられる負荷特性値が、複素電力値で与られる定電力特性、複素インピーダンス値で与えられる定インピーダンス特性、複素電流値で与えられる定電流特性、電源特性として複素電力値で与えられる定電力電源特性および複素電流値で与えられる定電流電源特性の5つの負荷特性値のうちの少なくとも何れか1つ、あるいは負荷特性値なしであり、前記負荷電流計算手段は、複数の負荷特性値が与えられたノードについての負荷電流を各負荷特性値から計算される各負荷電流の合計として当該ノードの負荷電流を計算することを特徴としている。
【0017】
また、本発明の木構造の配電系統電圧分布計算装置は、前記収束判定手段が、前記電圧計算手段により計算された各ノードの電圧とそれより前に計算された各ノードの電圧との変化幅、前記負荷電流計算手段により計算された各ノードの負荷電流とそれより前に計算された各ノードの負荷電流との変化幅または前記枝電流計算手段により計算された各ノードの枝電流とそれより前に計算された各ノードの枝電流との変化幅が所定の閾値より小さくなったとき、または、各ノードの電圧、各ノードの負荷電流または各ノードの枝電流と所定の設定値との誤差が所定の閾値より小さくなったとき、あるいは、予め与えられた負荷特性値と同じノードの電圧と負荷電流とから計算される負荷特性値との誤差が所定の閾値より小さくなったとき、各ノードの電圧が収束したと判定することを特徴としている。
【0018】
また、本発明の木構造の配電系統電圧分布計算装置は、前記枝電流計算手段が、各ノードをレベルの高い順にソートし、最も高いレベルのノードからレベルの低いノードの順に各枝電流を計算することを特徴としている。
【0019】
また、本発明の木構造の配電系統電圧分布計算装置は、前記電圧計算手段が、各ノードをレベルの低い順にソートし、最も低いレベルのノードからレベルの高いノードの順に各電圧を計算することを特徴としている。
【0020】
さらに、本発明の木構造の配電系統電圧分布計算装置は、電圧調整装置を、一対のノード間に挿入された対親ノード、対子ノードおよび前記対親ノードと前記対子ノードの間の枝で表し、前記対子ノードに電圧調整の変圧比αを設定し、前記枝に線路インピーダンスの代わりに前記電圧調整装置の配電線に直列に挿入される直列インピーダンスを設定し、対親ノードに負荷特性値の代わりに前記電圧調整装置の線間に挿入される並列インピーダンスを設定し、前記負荷電流計算手段は、前記対子ノードの負荷電流を零とし、前記対親ノードの負荷電流を前記並列インピーダンスで計算し、前記割当手段は、前記対親ノードの親ノードの枝電流として前記並列インピーダンスにより計算された負荷電流を割り当て、前記枝電流計算手段は、前記対親ノードの枝電流を、前記対子ノードの枝電流と変圧比αから、(対親ノードの枝電流)=α・(対子ノードの枝電流)で計算し、また、前記親ノードの枝電流を、対親ノードの負荷電流と枝電流から、(親ノードの枝電流)=(対親ノードの負荷電流)+(対親ノードの枝電流)で計算し、前記電圧計算手段は、前記対子ノードの電圧を、前記直列インピーダンスと前記対親ノードの枝電流と前記対親ノードの電圧と変圧比αから、(対子ノードの電圧)=α・{(対親ノードの電圧)-(前記直列インピーダンス)・(対親ノードの枝電流)}で計算することを特徴としている。
【0021】
なお、本発明は、木構造の配電系統電圧分布計算装置としてだけでなく、木構造の配電系統電圧分布計算方法、コンピュータ・プログラムとしても実現することができるものである。
【発明の効果】
【0022】
従来技術の潮流計算では、電力を潮流として処理し、負荷特性や線路損失も電力として取り扱うので、その切り分けが困難であるが、本発明では,木構造の配電系統の潮流計算の潮流を電力でなく電流とすることにより、負荷特性を電流で示すことができ、線路損失を線路インピーダンスと電流による電圧の増減として分離して示すことができる。また、現状の電圧計算法の技術的およびプログラム資産を活用できる。
【0023】
さらに、本発明によれば、需要家が使用する分散電源を含む異なる負荷特性を取り扱うことができ、また、電圧管理制御に必要なSVR(Step Voltage Regulator)や充電や放電といった複数の機能を有する蓄電池装置などを負荷特性として取り扱うことができるので、これらを含めて、木構造の配電系統の電圧分布計算を行うことができる。なお、無効電力を制御する静止型無効電力補償装置(SVC:Static Var Compensator)などのSVR以外の装置は配電線の線間に設置されるので、負荷特性として表現できる。
【0024】
また、各ノードに与えられる負荷特性を、例えば、定電力特性や定電流特性、定インピーダンス特性などの異なる負荷特性を1つの負荷特性に統一して均一化する必要はなく、各ノードでは異なる負荷特性を任意に選定することができ、また、1つのノードに複数の負荷特性を与えたり、負荷特性を与えなかったりすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明を適用できる木構造の配電系統の構成を概略的に示す図である。
【
図2】
図1の木構造の配電系統の各ノード(母線)のレベルを示す図である。
【
図3】本発明に係る木構造の配電系統電圧分布計算装置の一実施形態を示すブロック図である。
【
図4】
図1の木構造の配電系統に対して予め与えられる各種値を示す図である。
【
図5】
図3の木構造の配電系統電圧分布計算装置の動作を示すフローチャートである。
【
図6】電圧調整装置(SVR)を考慮した場合の配電系統の構成を示す図である。
【
図7】本発明の配電系統電圧分布計算手法の適用事例を示す図である。
【
図8】本発明の配電系統電圧分布計算手法と一般的な電力潮流計算手法との比較結果を示す図である。
【
図9】負荷の種類による異なる負荷特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、木構造の配電系統について説明する。
図1は、本発明を適用できる木構造の配電系統の構成を概略的に示す図である。
【0027】
図1に示すように、木構造の配電系統は、始点となる配電変電所(ノード)1をノード(番号)0とし、配電線の柱上開閉器や分岐(ノード)2などをノード(番号)1~10とし、各ノード1~10で区切られた各区間の線路を枝3とする木構造(放射状)で表現される。つまり、木構造の配電系統は、各ノード間の各区間の線路に対する枝とその区間の電圧とその区間の負荷を代表するノードとで表現することができる。なお、
図1では、説明の便宜のためにノード番号を付しているが、ノード番号は任意でよい。
【0028】
ここで、木構造の配電系統における各要素は、以下のように定義される。木構造の配電系統の最も上流のノードであり、1つの木に1つ存在するノードは根ノードである。また、当該ノードの上位(根ノード方向)に枝で接続されたノードは当該ノードの親ノードであり、当該ノードの下位に枝で接続されたノードは当該ノードの子ノードである。また、根ノードから下位の当該ノードへ至るまでに介する枝の数は当該ノードのレベルであり、子ノードを持たないノードは葉ノードである。また、当該ノードから根ノード方向は上位であり、当該ノードから葉ノード方向は下位である。
【0029】
図1の配電系統の構成例では、ノード0は根ノードであり、根ノード0に枝3で接続されているノード1,2,3の親ノードは根ノードであり、ノード4,5,6の親ノードはノード1であり、ノード7の親ノードはノード2であり、ノード8,9の親ノードはノード5であり、ノード10の親ノードはノード7である。また、ノード1の子ノードはノード4,5,6であり、ノード2の子ノードはノード7であり、ノード5の子ノードはノード8,9であり、ノード7の子ノードはノード10である。
【0030】
また、ノード1は1つだけの枝3を経て根ノード0に接続されているので、レベル1のノードであり、ノード4は2つの枝3を経て根ノード0に接続されているので、レベル2のノードである。また、ノード3,4,6,8,9,10は子ノードを持たないので、葉ノードである。なお、ノードは、その母線と同意であるので、以下では、ノード(母線)と記載する。また、以下では、必要に応じてノード(母線)に符号1または2を付し、さらに()付きでノード番号を付して説明する。
【0031】
図2は、
図1の木構造の配電系統の各ノード(母線)のレベルを示す図である。なお、
図2において
図1と同一あるいは同等部分には同じ符号を付している。
【0032】
ここで、根ノード(根母線)1であるノード(母線)のレベルは0である。また、ノード(母線)2(1)~(3)は、1つだけの枝3を介して根ノード(根母線)1に接続されているので、それらのレベルは1であり、ノード(母線)2(4)~(7)は、2つの枝3を介して根ノード(根母線)1に接続されているので、それらのレベルは2であり、ノード(母線)2(8)~(9)は、3つの枝3を介して根ノード(根母線)1に接続されているので、それらのレベルは3である。
【0033】
以上の点を踏まえて、以下、本発明を説明する。
【0034】
図3は、本発明に係る木構造の配電系統電圧分布計算装置の一実施形態を示すブロック図である。
【0035】
本実施形態の木構造の配電系統電圧分布計算装置は、入力部4、記憶部5、演算・判定部6、表示(出力)部7および制御部8を備える。なお、演算・判定部6は、1つあるいはそれより多い数のプロセッサで構成することができる。また、演算・判定部6は、ハードウエアで構成されてもソフトウエアで構成されてもよい。
【0036】
入力部4は、配電系統の接続形態、各ノード(母線)2のノードレベル、根ノード(根母線)1で基準となる電圧(基準電圧)、各ノード(母線)2の負荷を表す負荷特性値、各枝の線路インピーダンス、収束判定のための閾値などを入力する。
【0037】
記憶部5は、各ノード(母線)2対応のノード番号の記憶領域や各枝対応の枝番号の記憶領域などを有し、入力部13から入力される配電系統の接続形態、各ノード(母線)2のノードレベル、根ノード(根母線)1で基準となる電圧(基準電圧)、各ノード(母線)2の負荷特性値、各枝の線路インピーダンス、収束判定のための閾値などを記憶する。また、記憶部5は、演算・判定部6での途中および最終の演算結果や判定結果などを記憶する。さらに、記憶部5は、制御部8の指示に従って初期化を行い、根ノード(根母線)1での基準電圧と同一の電圧あるいは他の任意の値の電圧を根ノード(根母線)1以外の全てのノード(母線)2対応のノード番号の電圧記憶領域に初期電圧値として記憶する。
【0038】
図4は、
図1の木構造の配電系統に対して予め与えられる各種値を示す図である。なお、
図4において
図1と同一あるいは同等部分には同時符号を付している。
【0039】
図4において、木構造の配電系統の根ノード(根母線)1は、スラック(スィング)ノード(母線)であり、これに対しては配電線の始点電圧として基準電圧が与えられる。この基準電圧は、振幅情報と位相情報を含む複素数であるが、一般的には、位相を零として、振幅情報だけが与えられる。なお、以下で算出される電流や電圧は、一般的には、振幅情報と位相情報を含む複素数である。
【0040】
各ノード(母線)2は、枝3で子ノード(母線)2に接続される親ノード(母線)または子ノード(母線)2を持たない葉ノード(母線)2であり、これらの各ノード(母線)2にはその負荷を表す負荷特性値が与えられる。また、各枝3には線路インピーダンスが与えられる。以上の各ノード(母線)2の負荷特性値や枝3の線路インピーダンスは、木構造の配電系統の電圧分布計算に先立って、配電系統の接続形態と共に記憶部5に記憶される。
【0041】
演算・判定部6は、後述するフローチャートに従って、木構造の配電系統電圧分布の演算や収束判定を行う。
【0042】
具体的には、演算・判定部6は、まず、各ノード(母線)2対応のノード番号の電圧記憶領域に記憶されている電圧と入力部4から入力されて各ノード(母線)2対応のノード番号の負荷特性値記憶領域に記憶されている負荷特性値とから各ノード(母線)2の負荷電流を計算し、これにより計算された負荷電流を各ノード(母線)2対応のノード番号の負荷電流記憶領域に記憶させる。
【0043】
また、演算・判定部6は、各ノード(母線)2の負荷電流を、当該ノード(母線)と当該ノード(母線)の親ノード(母線)との間の枝3の枝電流として割り当て、さらに、各ノード番号のレベル記憶領域に記憶されているレベル値の高い順のノード(母線)から、当該ノード(母線)と当該ノード(母線)の親ノード(母線)との間の枝3に割り当てられた枝電流を、当該ノード(母線)の親ノード(母線)対応の親ノード番号の枝電流記憶領域に記憶されている枝電流に加算する。
【0044】
さらに、演算・判定部6は、各ノード番号のレベル記憶領域に記憶されているレベル値の低い順のノード(母線)から、当該ノード(母線)の親ノード(母線)対応の親ノード番号の電圧記憶領域に記憶されている電圧と当該ノード(母線)と当該ノード(母線)の親ノード(母線)との間の枝電流である当該ノード(母線)番号の枝電流記憶領域に記憶されている枝電流と線路インピーダンス記憶領域に記憶されている線路インピーダンスとから、当該ノード(母線)の電圧を計算し、これにより計算された電圧の値を当該ノード(母線)対応のノード番号の電圧記憶領域に記憶させる。
【0045】
演算・判定部6は、以上の計算を、全てあるいは特定のノード(母線)対応のノード番号の電圧記憶領域に記憶された電圧とそれより前に記憶された電圧との変化幅が所定の閾値より小さくなるまで、つまり、電圧が収束するまで繰り返し実行する。
【0046】
表示(出力)部7は、演算・判定部8での演算結果を表示(出力)する。また、制御部8は、木構造の配電系統電圧分布計算装置全体を制御する。
【0047】
図5は、
図3の木構造の配電系統電圧分布計算装置の動作を示すフローチャートである。
【0048】
図5のフローチャートに従って演算を実行することにより各ノード(母線)2の電圧分布を計算することができ、さらに、各枝3の枝電流を計算することができる。
【0049】
図5において、まず、S101(電圧初期化)で、予め基準電圧が与えられているスラックノード(母線)1以外のノード(母線)2に初期電圧を与える。この初期電圧は、スラックノード(母線)に与えられた基準電圧でよく、他の任意の値の電圧でもよい。この初期電圧は、振幅情報と位相情報を含む複素数でよいが、上述したように、一般的には、振幅情報だけを与える。
【0050】
次のS102(負荷電流の計算)では、根ノード(母線)1を親ノード(母線)とするノード(母線)2から葉ノード(母線)2まで、各ノード(母線)2における初期電圧と負荷特性値とから各ノード(母線)2における負荷電流を計算する。この負荷電流の計算の手法については後で詳細に説明する。
【0051】
次のS103(枝電流への負荷電流の割当)では、S102で計算された各ノード(母線)2の負荷電流を、当該ノード(母線)2と当該ノード(母線)2の親ノード(母線)との間の枝3の枝電流として割り当てる。
【0052】
次のS104(枝電流の計算)では、各枝3の枝電流を計算する。この枝電流は、当該ノード(母線)2と当該ノード(母線)2の親ノード(母線)との間の枝3に割り当てられた枝電流を、当該ノード(母線)2と当該親ノード(母線)2の親ノード(母線)との間の枝3の枝電流に加算するという処理を、葉ノード(母線)であるノード(母線)2から上位方向に根ノード(母線)1まで順次実行することで計算することができる。
【0053】
S104(枝電流の計算)では、葉ノード(葉母線)2から根ノード(根母線)1方向に順に計算を行う。このように、S104(枝電流の計算)では計算する順序が決まっているが、その計算の順序は、木構造のレベルの制約さえ満たせばよい。
【0054】
ここで、下位に接続するノード(母線)の枝3の枝電流を上位に接続するノード(母線)の枝3の枝電流に加算する場合、
図2の最も高いレベル3のノード(母線)2(8),(9),(10)に接続する枝3の枝電流からレベル2のノード(母線)2(4),(5),(6),(7)に接続する枝3の枝電流を計算し、さらに、レベル1のノード(母線)2(1),(2),(3)に接続する枝3の枝電流を計算するというように、各ノード(母線)をレベルの高い順にソートして枝電流を計算するようにすれば、木構造を有効に利用して効率的に枝電流を計算することができる。
【0055】
次のS105(電圧の計算)では、各ノード(母線)2の電圧を計算する。各ノード(母線)2の電圧は、当該ノード(母線)とその親ノード(母線)との間の枝3に予め与えられた線路インピーダンスと枝電流と親ノード(母線)の電圧とから当該ノード(母線)の電圧を計算するという処理を、基準電圧が与えられている根ノード(母線)1を親ノード(母線)とするノード(母線)から葉ノード(母線)まで実行することで計算することができる。
【0056】
S105(電圧の計算)では、根ノード(根母線)から葉ノード(葉母線)方向に順に計算を行う。このように、S105(電圧の計算)では計算する順序が決まっているが、その計算の順序は、木構造のレベルの制約さえ満たせばよい。ここで、レベルの低いレベル1のノード(母線)2(1),(2),(3)からレベル2のノード(母線)2(4),(5),(6),(7)へ、さらに、レベル2のノード(母線)2(4),(5),(6),(7)からレベル3のノード(母線)2(8),(9),(10)へと計算を行うというように、各ノード(母線)をレベルの低い順にソートして電圧を計算するようにすれば、木構造を有効に利用して効率的に電圧を計算することができる。
【0057】
次に、S106(電圧収束の判定)では、S105(電圧の計算)で計算された電圧が収束しているかどうかを判定する。例えば、S105(電圧の計算)で計算された電圧と以前に計算された電圧の変化幅を計算し、その変化幅を閾値と比較することで、これを判定することができる。そして、その変化幅が閾値より小さければ、S105(電圧の計算)で計算された電圧が収束していると判定する。S105(電圧の計算)で計算された電圧が収束していると判定された場合には、その演算結果を出力して処理を終了するが、そうでなければ、S105(電圧の計算)で計算された電圧を各ノード(母線)に与えてS102からの処理を繰り返す。
【0058】
以上により、各ノード(母線)2の電圧分布を計算することができ、また、各枝3の枝電流を計算することができる。なお、S102(負荷電流の計算)~S105(電圧の計算)での計算およびS106(電圧収束の判定)での判定は、演算・判定部6で実行することができる。したがって、演算・判定部6は、負荷電流計算手段、枝電流へ負荷電流を割り当てる割当手段、枝電流計算手段、電圧計算手段および収束判定手段として機能する。
【0059】
次に、S102(負荷電流の計算)での負荷電流の計算の手法について説明する。
【0060】
S102(負荷電流の計算)では、S101(電圧初期化)で与えられた初期電圧またはS105(電圧の計算)で計算された各ノード(母線)2の電圧と各ノード(母線)2に予め与えられた負荷特性値とから各ノード(母線)2の負荷電流を計算する。
【0061】
各ノード(母線)2に予め与えられた負荷特性値は、複素電力値で与えられる定電力特性値P+jQと、複素インピーダンス値で与えられる定インピーダンス特性値R+jXと、複素電流値で与えられる定電流特性値Ir+jImと、電源特性として複素電力値で与えられる定電力電源特性値-P-jQと、複素電流で与えられる定電流電源特性値-Ir-jIm、の5つの特性値を含み、ノード(母線)2の電圧をVとすると、負荷電流Ilは、式(1)で計算することができる。
【0062】
ここで、V*は、Vの共役を表している。なお、定電力電源特性値および定電流電源特性値は、定電力特性値および定電流特性値と符号が逆になっているだけである。
式(1)・・・
【0063】
Il=(P+jQ)/V*
Il=V/(R+jX)
Il=Ir+jIm
Il=(-P-jQ)/V*
Il=-Ir-jIm
【0064】
ノード(母線)2の負荷特性は、1つのノード(母線)に対して5つの負荷特性の何れか1つ、複数または全てであるか、あるいは負荷特性がない場合がある。すなわち、1つのノード(母線)2は、5つの負荷特性のうちの少なくとも何れか1つの負荷特性を持つか、何れの負荷特性も持たない場合がある。S102(負荷電流の計算)で計算される負荷電流は、ノード(母線)2の電圧とそこに与えられた負荷特性値から計算された負荷電流の合計となる。これにより、
図9に示す各負荷特性や各種分散電源を表現することができ、また、線間に挿入されて無効電力を制御する静止型無効電力補償装置(SVC:Static Var Compensator)なども表現することができる。
【0065】
以上では電圧調整装置(SVR)を考慮していないが、以下では、電圧調整装置(SVR)を考慮した場合の木構造の配電系統電圧分布計算の手法について説明する。この手法は、基本的に、
図5に従う手法と同じであるので、
図5を参照して説明する。
【0066】
図6は、電圧調整装置(SVR)を考慮した場合の配電系統の構成を示す。ここでは、電圧調整装置(SVR)9を考慮したノード(母線)2間の枝部分だけの構成を示している。
【0067】
電圧調整装置(SVR)9は、対子ノード(母線)2a、対親ノード(母線)2bおよび対子ノード(母線)2aと対親ノード(母線)2bとの間の枝3bとで表すことができ、枝3a,3cによりノード(母線)2,2の間に挿入される。
【0068】
対子ノード(母線)2aは負荷特性値が零であり、その代わりに、ここには電圧調整のための変圧比αを設定する。また、枝3bには線路インピーダンスの代わりに電圧調整装置(SVR)9の配電線に直列に挿入される直列インピーダンスを設定し、対親ノード(母線)2bには負荷特性値の代わりに電圧調整装置(SVR)9の線間に挿入される並列インピーダンスを設定する。
【0069】
この構成において、S102(負荷電流の計算)では、対子ノード(母線)2aの負荷特性値が零であるので、その負荷電流を零とする。また、対親ノード(母線)2bでは、負荷特性値の代わりに設定された並列インピーダンスにより負荷電流を計算する。
【0070】
また、S103(枝電流への負荷電流の割当)では、対親ノード(母線)2bに設定された並列インピーダンスにより計算された負荷電流を枝3cに割り当てる。
【0071】
S104(枝電流の計算)では、枝3bの電流は、枝3aの電流と変圧比αから(枝3bの電流)=α・(枝3aの電流)で計算する。また、枝3cの電流は、対親ノード(母線)2bの負荷電流と枝3bの電流から(枝3cの電流)=(対親ノード(母線)2bの負荷電流)+(枝3bの電流)で計算する。
【0072】
S105(電圧の計算)では、対子ノード(母線)2aの電圧は、枝3bの直列インピーダンスと枝3bの電流と対親ノード(母線)の電圧と変圧比αから(対子ノード(母線)2の電圧)=α・{(対親ノード(母線)2の電圧)-(枝3bの直列インピーダンス)・(枝3bの電流)}で計算する。
【0073】
図7は、本発明の配電系統電圧分布計算手法の適用事例を示し、同図(a)は、本適用事例での配電系統を示し、同図(b)は、ノード(母線)2(3),(5),(7),(9)の負荷特性の設定値と演算値を示す。ここで、両者の値は同じになっているが、設定値は、各ノードに予め設定した負荷特性値であり,演算値は、本手法で繰返し計算し収束した結果の値である。
【0074】
ここでは、ノード(母線)2(3)は、定インピーダンス特性の負荷特性を持ち、ノード(母線)2(5)は、定電力特性の負荷特性を持ち、ノード(母線)2(7)は、定電流特性と定電力特性の2つの負荷特性を持ち、ノード(母線)2(9)は、定電力特性の負荷特性を持つ。
【0075】
図8は、本発明の配電系統電圧分布計算手法と一般的な電力潮流計算手法とで得られた電圧分布の比較結果を示し、同図(a),(b)はそれぞれ、
図6の電圧調整装置(SVR)を考慮しない場合と電圧調整装置(SVR)を考慮した場合である。ここでは、ノード(母線)2(4)を電圧調整装置(SVR)に置き換えて対親ノード2(ノード4SVR前)と対子ノード2(ノード4SVR後)としている。なお、一般的な潮流計算とは電力量を潮流とする潮流計算の手法を指し、この手法には、特許文献1における手法も含まれるが、この一般的な潮流計算の手法では、定電力負荷以外の負荷特性を扱うことができないので、ここでは、定電力負荷に換算している。また、ここでは、電圧を相電圧で計算している。
【0076】
すなわち、一般的な潮流計算では定電力負荷以外の負荷の計算ができないので、
図7に示されるように、本発明の手法により収束した負荷特性(
図7(b)の演算値)が
図7(b)の設定値と同じとなることを利用し、本発明の手法により収束した各ノードの電圧を使用し各ノードの負荷を定電力負荷として割り戻し、この定電力負荷を各ノードに再設定(各ノードの電圧は不明として)してから、一般的な潮流計算を適用して各ノード電圧を算出した。
これにより算出された各ノード電圧は、
図8に示されるように、本発明の手法により計算された電圧と一致するので、本発明の手法は、種々の負荷特性を与えても定電力負荷として与えるのと同様に潮流計算が可能であることが分かる。SVRを考慮しても同様である。
このように、本発明の手法によれば、従来の潮流計算と同等の電圧分布(同じ値となる)を導出することができ、また、従来の潮流計算では取り扱うことができない負荷特性を混合しても電圧分布を算出することができる。
【0077】
以上、実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものでなく、種々に変更されたものを含む。
【0078】
例えば、上記実施形態では、本発明を木構造の配電系統電圧分布計算装置として実現しているが、本発明は、木構造の配電系統電圧分布計算装置における処理のステップを順次実行する木構造の配電系統電圧分布計算方法として実現することができ、また、コンピュータを木構造の配電系統電圧分布計算装置における各手段として機能させるプログラムとしても実現することができる。
【0079】
また、上記実施形態の
図5の動作では、S103(枝電流への負荷電流の割当)を個別の処理としているが、(枝電流への負荷電流の割当)の処理は、S102(負荷電流の計算)の処理の中に含ませることができるし、S104(枝電流の計算)処理の中に含ませることもできる。また、S106(電圧収束の判定)では、以前に計算された電圧からの電圧変化幅が閾値より小さくなったとき、各ノード(母線)の電圧が収束したと判定するようにしているが、ここでは、各ノード(母線)の枝電流とそれより前に計算された各ノード(母線)の枝電流との変化幅が所定の閾値より小さくなったとき、あるいは各ノード(母線)の電圧、各ノード(母線)の負荷電流または各ノード(母線)の枝電流と所定の設定値との誤差が所定の閾値より小さくなったとき、各ノード(母線)の電圧が収束したと判定するようにすることもできる。また、予め与えられた負荷特性値と同じノード(母線)の電圧と負荷電流とから計算される負荷特性値とを比較し、その誤差が所定の閾値より小さくなったとき、各ノード(母線)の電圧が収束したと判定するようにすることもできる。これらの場合において、全てのノード(母線)についての比較が閾値より小さくなったことを判定するようにしてもよいし、特定のノード(母線)についての比較が閾値より小さくなったことを判定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1,2・・・ノード(母線)
3・・・枝
4・・・入力部
5・・・記憶部
6・・・演算・判定部
7・・・表示(出力)部
8・・・制御部