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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】バルブ及び緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/348 20060101AFI20220404BHJP
   F16F 9/508 20060101ALI20220404BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
F16F9/348
F16F9/508
F16F9/32 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018073597
(22)【出願日】2018-04-06
(65)【公開番号】P2019183919
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】君嶋 和之
(72)【発明者】
【氏名】安井 剛
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-113537(JP,U)
【文献】特開2006-132555(JP,A)
【文献】特開2014-015994(JP,A)
【文献】特開2000-179608(JP,A)
【文献】実開平01-152130(JP,U)
【文献】特開平03-000340(JP,A)
【文献】実開平02-030549(JP,U)
【文献】実開平02-051737(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00- 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブケースと、
外周端が前記バルブケースに対して軸方向の両側へ動ける自由端とされる環状の弁体と、
前記弁体の外周側に位置して前記自由端と隙間をあけて対向できる環状の対向面を含み、前記バルブケースに設けられる対向部と、
前記弁体の軸方向の片側又は両側に位置するバルブストッパと、
前記弁体と前記バルブストッパとの間に介装され、前記弁体の撓みの支点となる環状の間座と、
前記弁体が撓んで前記バルブストッパに当接したときに前記弁体と前記バルブストッパとで囲われる部屋を外部へ連通する通路とを備え、
前記通路は、前記バルブストッパに形成される溝により形成され、
前記溝における前記バルブストッパの内周側の末端が、前記間座の外周端よりも外周側に形成される
ことを特徴とするバルブ。
【請求項2】
バルブケースと、
内周端と外周端の一方が前記バルブケースに対して軸方向の両側へ動ける自由端とされる環状の弁体と、
前記弁体の内周側又は外周側に位置して前記自由端と隙間をあけて対向できる環状の対向面を含み、前記バルブケースに設けられる対向部と、
前記弁体の軸方向の片側又は両側に位置するバルブストッパと、
前記弁体が撓んで前記バルブストッパに当接したときに前記弁体と前記バルブストッパとで囲われる部屋を外部へ連通する通路とを備え、
前記弁体は、外径又は内径の異なる複数のリーフバルブを積層して構成されるとともに、複数の前記リーフバルブが径方向の異なる位置で前記バルブストッパに当接するようになっており、
複数の前記リーフバルブのうちの、最も自由端側で前記バルブストッパに当接するリーフバルブに積層されて前記バルブストッパに当接するリーフバルブの外周部に切欠きが形成されている
ことを特徴とするバルブ。
【請求項3】
ロッドに固定されるバルブケースと、
外周端が前記バルブケースに対して軸方向の両側へ動ける自由端とされる環状の弁体と、
前記弁体の外周側に位置して前記自由端と隙間をあけて対向できる環状の対向面を含み、前記バルブケースに設けられる対向部と、
前記弁体の軸方向の片側又は両側に位置するバルブストッパと、
前記弁体が撓んで前記バルブストッパに当接したときに前記弁体と前記バルブストッパとで囲われる部屋を前記弁体が当接した前記バルブストッパの外部へ連通する通路とを備え、
前記弁体の軸方向の片側に配置されるバルブストッパは、前記弁体を前記ロッドに固定するピストンナットである
ことを特徴とするバルブ。
【請求項4】
前記通路は、前記バルブストッパに形成される溝又は孔により形成されている
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のバルブ。
【請求項5】
前記通路は、前記弁体に形成される溝又は孔により形成されている
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のバルブ。
【請求項6】
シリンダと、
前記シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッドと、
請求項1から5の何れか一項に記載のバルブとを備え、
前記バルブは、前記シリンダと前記ロッドが軸方向へ相対移動する際に生じる液体の流れに対して抵抗を与える
ことを特徴とする緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブと、バルブを備えた緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バルブは、例えば、緩衝器の伸縮時に生じる液体の流れに抵抗を与えて減衰力を発生するのに利用されている。また、そのようなバルブの中には、内周と外周の一方をバルブケースに固定される固定端、他方を軸方向の両側へ動ける自由端とする環状の弁体を備え、その弁体の自由端の外周又は内周に液体の通過を許容する隙間を形成したものがある(例えば、特許文献1)。
【0003】
上記構成によれば、緩衝器の伸縮速度(ピストン速度)が低く、弁体が撓まない速度領域では、弁体の自由端の外周又は内周にできる隙間が狭い状態に維持される。しかし、緩衝器のピストン速度が上昇して弁体の自由端側の端部が撓むと、その自由端の外周又は内周にできる隙間が広くなる。このため、ピストン速度が上昇したときの緩衝器の減衰係数が小さくなり、緩衝器の減衰力特性が速度に依存した特性となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-76937号公報、第8図
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特開平2-76937号公報の第8図に記載のバルブでは、弁体の固定端側の端部を間座で押さえており、この間座と弁体とが当接する当接部の自由端側の縁を支点にして弁体が撓む。また、上記バルブは、バルブストッパを備え、弁体の撓み量を制限できるようになっている。
【0006】
しかしながら、上記した従来のバルブでは、図11に示すように、弁体800がバルブストッパ900に当接して開き切った状態で、弁体800とバルブストッパ900とで囲われる部屋r3に液体が閉じ込められるので、弁体800の開閉挙動が不安定になることがある。
【0007】
具体的には、弁体800が開き切るときに部屋r3の圧力が瞬間的に上昇し、部屋r3の液体が弁体800とバルブストッパ900との間から部屋r3外へ漏れ出て弁体800が開き切ることもあるが、弁体800が開き切らないこともある。反対に、開き切った状態の弁体800が閉じようとしたときに部屋r3の圧力が瞬間的に低下して、弁体800が閉じ遅れることもある。
【0008】
そこで、本発明は、そのような問題を解決するために創案されたものであり、弁体の開閉挙動を安定化できるバルブ、及びバルブを備えた緩衝器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するバルブは、バルブケースと、外周端が前記バルブケースに対して軸方向の両側へ動ける自由端とされる環状の弁体と、弁体の外周側に位置して自由端と隙間をあけて対向できる環状の対向面を含み、バルブケースに設けられる対向部と、弁体の軸方向の片側又は両側に位置するバルブストッパと、弁体とバルブストッパとの間に介装され、弁体の撓みの支点となる環状の間座と、弁体が撓んで前記バルブストッパに当接したときに弁体とバルブストッパとで囲われる部屋を外部へ連通する通路とを備え、通路がバルブストッパに形成される前記溝により形成され、溝におけるバルブストッパの内周側の末端が間座の外周端よりも外周側に形成されている。また、上記課題を解決する他のバルブは、バルブケースと、内周端と外周端の一方がバルブケースに対して軸方向の両側へ動ける自由端とされる環状の弁体と、弁体の内周側又は外周側に位置して自由端と隙間をあけて対向できる環状の対向面を含み、バルブケースに設けられる対向部と、弁体の軸方向の片側又は両側に位置するバルブストッパと、弁体が撓んでバルブストッパに当接したときに弁体とバルブストッパとで囲われる部屋を外部へ連通する通路とを備え、弁体が外径又は内径の異なる複数のリーフバルブを積層して構成されるとともに、複数のリーフバルブが径方向の異なる位置でバルブストッパに当接するようになっており、複数のリーフバルブのうちの、最も自由端側でバルブストッパに当接するリーフバルブに積層されてバルブストッパに当接するリーフバルブの外周部に切欠きが形成されている。そして、上記課題を解決するさらに他のバルブは、ロッドに固定されるバルブケースと、外周端がバルブケースに対して軸方向の両側へ動ける自由端とされる環状の弁体と、弁体の外周側に位置して自由端と隙間をあけて対向できる環状の対向面を含み、バルブケースに設けられる対向部と、弁体の軸方向の片側又は両側に位置するバルブストッパと、弁体が撓んでバルブストッパに当接したときに弁体とバルブストッパとで囲われる部屋を弁体が当接したバルブストッパの外部へ連通する通路とを備え、弁体の軸方向の片側に配置されるバルブストッパが弁体を固定するピストンナットである。当該構成によれば、部屋とその外部が通路で連通されるので、液体が部屋に閉じ込められて弁体が開き切れなかったり、開き切った状態から閉じ遅れたりすることがなく、弁体の開閉挙動を安定化できる。
【0010】
また、上記バルブでは、通路がバルブストッパに形成される溝又は孔により形成されているとよい。当該構成によれば、通路の流路面積を大きくし易く、部屋の内外の差圧を小さくできる。このため、弁体の円滑な開閉作動を可能にするとともに、弁体の振動を抑制して異音の発生を抑制できる。
【0011】
また、上記バルブでは、通路が弁体に形成される溝又は孔により形成されているとよい。当該構成によれば、バルブを緩衝器の減衰力発生用に利用する場合、溝又は孔を、その緩衝器に所望の減衰力を発生させるためのチューニング要素にできる。
【0013】
また、緩衝器がシリンダと、このシリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッドと、上記バルブとを備え、シリンダとロッドが軸方向へ相対移動する際に生じる液体の流れに対して上記バルブで抵抗を与えるとよい。当該構成によれば、緩衝器が伸縮してシリンダとロッドが軸方向へ相対移動するときに、バルブの抵抗に起因する減衰力を発揮できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバルブ、及びバルブを備えた緩衝器によれば、弁体の開閉挙動を安定化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態に係るバルブである減衰バルブを備えた緩衝器を示した縦断面図である。
図2図1の一部を拡大して示した部分拡大図である。
図3図2の一部をさらに拡大して示した部分拡大図である。
図4図3の弁体の外周部が図中上側へ撓んだときの状態を示した部分拡大図である。
図5図3の弁体の外周部が図中下側へ撓んだときの状態を示した部分拡大図である。
図6】本発明の一実施の形態に係るバルブである減衰バルブの第一、第二のバルブストッパを弁体側から見た底面図又は平面図である。
図7】本発明の一実施の形態に係るバルブである減衰バルブの第一の変形例を示し、その変更部を拡大して示した部分拡大断面図である。
図8】本発明の一実施の形態に係るバルブである減衰バルブの第二の変形例を示し、その変更部を拡大して示した部分拡大断面図である。
図9】本発明の一実施の形態に係るバルブである減衰バルブの第三の変形例を示し、その変更部を拡大して示した部分拡大断面図である。
図10】本発明の一実施の形態に係るバルブである減衰バルブの第四の変形例を示し、その変更部を拡大して示した部分拡大断面図である。
図11】従来のバルブの弁体の外周部が図中上側へ撓んだときの状態を示した部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0017】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るバルブは、緩衝器Dのピストン部に具現化された減衰バルブVである。そして、緩衝器Dは、自動車等の車両の車体と車軸との間に介装されている。以下の説明では、説明の便宜上、特別な説明がない限り図1に示す緩衝器Dの上下を、単に「上」「下」という。
【0018】
なお、本発明に係るバルブを備えた緩衝器の取付対象は、車両に限らず適宜変更できる。また、取付状態での緩衝器の上下を取付対象に応じて適宜変更できるのは勿論である。具体的には、本実施の形態の緩衝器Dを図1と同じ向きで車両に取り付けても、上下逆向きにして車両に取り付けてもよい。
【0019】
つづいて、上記緩衝器Dの具体的な構造について説明する。図1に示すように、緩衝器Dは、有底筒状のシリンダ1と、このシリンダ1内に摺動自在に挿入されるピストン2と、下端がピストン2に連結されて上端がシリンダ1外へと突出するピストンロッド3とを備える。
【0020】
そして、ピストンロッド3の上端には、ブラケット(図示せず)が設けられており、ピストンロッド3がそのブラケットを介して車体と車軸の一方に連結される。その一方、シリンダ1の底部1aにもブラケット(図示せず)が設けられており、シリンダ1がそのブラケットを介して車体と車軸の他方に連結される。
【0021】
このようにして緩衝器Dは車体と車軸との間に介装される。そして、車両が凹凸のある路面を走行する等して車輪が車体に対して上下に振動すると、ピストンロッド3がシリンダ1に出入りして緩衝器Dが伸縮するとともに、ピストン2がシリンダ1内を上下(軸方向)に移動する。
【0022】
また、緩衝器Dは、シリンダ1の上端を塞ぐとともに、ピストンロッド3を摺動自在に支える環状のシリンダヘッド10を備える。その一方、シリンダ1の下端は底部1aで塞がれている。このように、シリンダ1内は、密閉空間とされている。そして、そのシリンダ1内のピストン2から見てピストンロッド3とは反対側に、フリーピストン11が摺動自在に挿入されている。
【0023】
シリンダ1内におけるフリーピストン11の上側には液室Lが形成され、下側にはガス室Gが形成されている。さらに、液室Lは、ピストン2でピストンロッド3側の伸側室L1とピストン2側の圧側室L2とに区画されており、伸側室L1と圧側室L2には、それぞれ作動油等の液体が充填されている。その一方、ガス室Gには、エア、又は窒素ガス等の気体が圧縮された状態で封入されている。
【0024】
そして、緩衝器Dの伸長時にピストンロッド3がシリンダ1から退出し、その退出したピストンロッド3の体積分シリンダ内容積が増加すると、フリーピストン11がシリンダ1内を上側へ移動してガス室Gを拡大させる。反対に、緩衝器Dの収縮時にピストンロッド3がシリンダ1内へ侵入し、その侵入したピストンロッド3の体積分シリンダ内容積が減少すると、フリーピストン11がシリンダ1内を下側へ移動してガス室Gを縮小させる。
【0025】
なお、フリーピストン11に替えて、ブラダ、又はベローズ等を利用して液室Lとガス室Gとを仕切っていてもよく、この仕切となる可動隔壁の構成は適宜変更できる。
【0026】
さらに、本実施の形態では、緩衝器Dが片ロッド、単筒型であり、緩衝器Dの伸縮時にフリーピストン(可動隔壁)11でガス室Gを拡大又は縮小させて、シリンダ1に出入りするピストンロッド3の体積補償をする。しかし、この体積補償のための構成も適宜変更できる。
【0027】
例えば、フリーピストン(可動隔壁)11とガス室Gとを廃し、シリンダ1の外周にアウターシェルを設けて緩衝器を複筒型にする。そして、シリンダ1とアウターシェルとの間に液体を貯留するリザーバ室を形成し、このリザーバ室で体積補償をしてもよい。さらに、そのリザーバ室は、シリンダ1とは別置き型のタンク内に形成されていてもよい。
【0028】
また、ピストンの両側にピストンロッドを設けて緩衝器を両ロッド型にしてもよい。このような場合には、ピストンロッドの体積補償自体を不要にできる。
【0029】
つづいて、ピストン2は、ピストンロッド3の外周にナット30で保持される二つのバルブケースを有して構成されている。以下、二つのバルブケースを区別するため、後述する主弁体6,7が積層されるバルブケースをメインバルブケース4、後述する弁体8が取り付けられるもう一方のバルブケースを単にバルブケース5とする。
【0030】
このように、本実施の形態のピストン2は、主弁体6,7又は弁体8等の弁体を取り付けるためのバルブケースとして機能しており、弁体等とともに減衰バルブVを構成している。以下、その減衰バルブVの構成について説明する。
【0031】
図2に示すように、メインバルブケース4は、環状の本体部4aと、この本体部4aの下端外周部から下方へ突出する筒状のスカート部4bとを含む。そして、本体部4aには、スカート部4bの内周側に開口して本体部4aを軸方向に貫通する伸側と圧側の通路4c,4dが形成されている。さらに、その本体部4aの下側(圧側室L2側)には、伸側の通路4cの出口を開閉する伸側の主弁体6が積層されるとともに、本体部4aの上側(伸側室L1側)には、圧側の通路4dの出口を開閉する圧側の主弁体7が積層されている。
【0032】
伸側と圧側の主弁体6,7は、それぞれ、複数の弾性変形可能なリーフバルブが積層された積層リーフバルブである。そして、伸側の主弁体6は、緩衝器Dの伸長時であってピストン速度が中高速域にある場合に開いて、伸側の通路4cを伸側室L1から圧側室L2へ向かう液体の流れに抵抗を与える。その一方、圧側の主弁体7は、緩衝器Dの収縮時であってピストン速度が中高速域にある場合に開いて、圧側の通路4dを圧側室L2から伸側室L1へ向かう液体の流れに抵抗を与える。
【0033】
また、伸側と圧側の主弁体6,7を構成する複数のリーフバルブのうちの、最もメインバルブケース4側に位置する一枚目のリーフバルブの外周部には、それぞれ切欠き6a,7aが形成されている。そして、ピストン速度が低速域にあり、伸側と圧側の主弁体6,7が閉弁している場合、液体が切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスを通って伸側室L1と圧側室L2との間を行き来する。当該液体の流れに対しては、オリフィス(切欠き6a,7a)により抵抗が付与される。
【0034】
上記切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスは、液体の双方向流れを許容する。そこで、伸側と圧側の主弁体6,7に形成される切欠き6a,7aのうちの一方を省略してもよい。また、オリフィスの形成方法は、適宜変更できる。例えば、伸側又は圧側の主弁体6,7が離着座する弁座に打刻を形成し、この打刻によりオリフィスを形成してもよい。また、オリフィスをチョークに替えてもよい。さらに、メインバルブケース4に取り付けられて緩衝器Dに中高速域の減衰力を発生させるための主弁体6,7は、積層リーフバルブ以外でもよく、例えば、ポペットバルブ等であってもよい。
【0035】
つづいて、バルブケース5は、メインバルブケース4のスカート部4bの内周に嵌合する環状の嵌合部5aと、この嵌合部5aの下端外周部から下方へ突出する筒状のケース部5bとを含む。そして、嵌合部5aとスカート部4bとの間がシール50で塞がれており、嵌合部5aには、ケース部5bの内周側に開口して嵌合部5aを軸方向に貫通する連通路5cが形成されている。その一方、ケース部5bには、第一のバルブストッパ9が収容されるとともに、この第一のバルブストッパ9の下側に弁体8が積層されている。
【0036】
本実施の形態の弁体8は、図3に示すように、積層された三枚のリーフバルブ8a,8b,8cを有して構成されていて、弾性変形できる。これら三枚のリーフバルブ8a,8b,8cのうちの中央のリーフバルブ8bの外径は、上下両端に位置するリーフバルブ8a,8cの外径よりも大きい。そして、弁体8と第一のバルブストッパ9との間、及び弁体8とナット30との間には、それぞれ間座80,81が介装されている。
【0037】
本実施の形態において、各間座80,81は、外径が弁体8を構成する各リーフバルブ8a,8b,8cの外径よりも小さい環状板であり、弁体8はその内周部を間座80,81で挟まれた状態でバルブケース5に固定されている。その一方、弁体8の間座80,81よりも外周側は、間座80,81と弁体8との当接部の外周縁を支点に上下(軸方向)へ移動できる。
【0038】
このように、本実施の形態では、バルブケース5に装着された弁体8の内周側の端(内周端)がバルブケース5に対して動かない固定端8dとなっている。さらに、弁体8の外周側の端(外周端)に位置する中央のリーフバルブ8bの外周面が、バルブケース5に対して上下(軸方向の両側)へ動ける自由端8eとなっている。
【0039】
また、バルブケース5におけるケース部5bの先端には、ケース部5bの内周から径方向内側(緩衝器Dの中心軸側)へ突出する環状の対向部5dが設けられており、その対向部5dの内周側に弁体8が収容される。そして、緩衝器Dの動き出しのような、ピストン速度が0(ゼロ)に近い極低速域では、弁体8が撓まず、取付初期の状態に保たれる(図3)。
【0040】
このように、弁体8が撓んでいない状態では、その弁体8の自由端8eが対向部5dの内周に形成される対向面5eと所定の隙間Pをあけて対向する(図3)。そして、本実施の形態では、相対向する対向面5eと弁体8の自由端8eとの間にできる隙間Pは非常に狭く、その隙間Pの開口面積は、前述の主弁体6,7に形成された切欠き6a,7aにより形成される全オリフィスの開口面積よりも小さい。
【0041】
その一方、緩衝器Dの伸長時であってピストン速度が低速域、又は中高速域にある場合には、図4,5に示すように、弁体8の外周部が上側又は下側へと撓み、自由端8eが対向面5eから上下にずれる。そして、上下にずれた弁体8の自由端8eと対向面5eとの間にできる隙間の開口面積が、切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスの開口面積よりも大きくなる。
【0042】
さらに、ピストン速度が低速域又は高速域にある場合において、弁体8が撓んでその自由端8eが上側へ移動していくと、弁体8の外周部が第一のバルブストッパ9に突き当たり、自由端8eのそれ以上の上側への移動が阻止される(図4)。また、弁体8が逆側へ撓んでその自由端8eが下側へ移動していくと、弁体8の外周部がナット30に突き当たり、自由端8eのそれ以上の下側への移動が阻止される(図5)。
【0043】
このように、本実施の形態のナット30は、減衰バルブVをピストンロッド3に固定するピストンナットとしての機能の他にも、弁体8の撓み量を制限するバルブストッパとしての機能も有している。以下、ナット30において弁体8の下側への撓み量を制限する部分を第二のバルブストッパ90とする。
【0044】
そして、弁体8が第一のバルブストッパ9又は第二のバルブストッパ90に当接し、弁体8がそれ以上撓むのを阻止された状態を、弁体8が開き切った状態という。また、このような状態から、弁体8が撓まずにその自由端8eを対向面5eに対向させた状態へ戻る行程を弁体8が閉じるという。
【0045】
なお、本実施の形態のように、一つのナット30にピストンナットとしての機能と、バルブストッパとしての機能を担わせた場合、緩衝器Dの部品数を削減できる。しかし、ピストンナットと第二のバルブストッパを個別に形成してもよいのは勿論である。
【0046】
つづいて、図6に示すように、第一、第二のバルブストッパ9,90は、それぞれ環状であり、各バルブストッパ9,90における弁体8側の端部に径方向に沿って溝9a,90aが形成されている。その溝9a,90aの数及び配置は任意ではあるが、本実施の形態では放射状に延びる八本の溝9a,90aが第一、第二のバルブストッパ9,90の周方向に等間隔でそれぞれ配置されている。
【0047】
第一のバルブストッパ9の各溝9aは、その第一のバルブストッパ9の径方向の途中から第一のバルブストッパ9の外周縁にかけて形成されている。そして、図4に示すように、弁体8が上側へ撓んで第一のバルブストッパ9に当接したときに、その当接部の内周側と外周側との間を液体が各溝9aを通って行き来できるようになっている。
【0048】
換言すると、第一のバルブストッパ9の各溝9aは、弁体8が撓んで第一のバルブストッパ9に当接したときに、弁体8と第一のバルブストッパ9で囲われる部屋r1をその外部へ連通する通路t1を構成する。
【0049】
上記構成によれば、弁体8が撓んで第一のバルブストッパ9に当接する際に、部屋r1内の液体が通路t1を通って部屋r1の外へ排出される。反対に、弁体8が第一のバルブストッパ9から離れる際には、部屋r1の外の液体が通路t1を通って部屋r1内へ供給される。このように、部屋r1とその外部が通路t1で連通されるので、液体が部屋r1に閉じ込められて、弁体8が上側へ開き切れなかったり、弁体8が上側へ開き切った状態から閉じ遅れたりすることがない。
【0050】
同様に、第二のバルブストッパ90の各溝90aは、その第二のバルブストッパ90の径方向の途中から第二のバルブストッパ90の外周縁にかけて形成されている。そして、図5に示すように、弁体8が下側へ撓んで第二のバルブストッパ90に当接したとき、その当接部の内周側と外周側との間を液体が各溝90aを通って行き来できるようになっている。
【0051】
換言すると、第二のバルブストッパ90の各溝90aは、弁体8が撓んで第二のバルブストッパ90に当接したときに、弁体8と第二のバルブストッパ90で囲われる部屋r2をその外部へ連通する通路t2を構成する。
【0052】
上記構成によれば、弁体8が撓んで第二のバルブストッパ90に当接する際に、部屋r2内の液体が通路t2を通って部屋r2の外へ排出される。反対に、弁体8が第二のバルブストッパ90から離れる際には、部屋r2の外の液体が通路t2を通って部屋r2内へ供給される。このように、部屋r2とその外部が通路t2で連通されるので、液体が部屋r2に閉じ込められて、弁体8が下側へ開き切れなかったり、弁体8が下側へ開き切った状態から閉じ遅れたりすることもない。
【0053】
なお、本実施の形態では、弁体8が撓んだときに、中央のリーフバルブ8bの外周部が第一又は第二のバルブストッパ9,90の外周縁に当接する。そして、溝9a,90aは、第一、第二のバルブストッパ9,90の外周縁から弁体8と第一又は第二のバルブストッパ9,90との当接部より内周側にかけて形成されている。このため、弁体8が第一又は第二のバルブストッパ9,90に当接したときに、溝9a,90aにより形成される通路t1,t2により部屋r1,r2とその外部とを連通できる。
【0054】
しかし、弁体8と第一、第二のバルブストッパ9,90との当接位置に応じて、溝9a,90aの位置を変更できるのは勿論である。例えば、溝9a,90aにおいて、第一、第二のバルブストッパ9,90の外周側の端を先端、内周側の端を末端とすると、弁体8が第一、第二のバルブストッパ9,90の外周縁より内周側に当接する場合には、その当接部よりも外周側に溝9a,90aの先端があれば、その先端は、第一、第二のバルブストッパ9,90の外周縁より内周側にあってもよい。
【0055】
また、中央のリーフバルブ8bと、その上側又は下側に重なるリーフバルブ8a,8cが第一又は第二のバルブストッパ9,90に当接する等、弁体8と第一、第二のバルブストッパ9,90が複数位置で当接する可能性がある場合には、両端に位置するリーフバルブ8a,8cの外周端よりも内周側に溝9a,90aの末端があればよい。なお、弁体8は、少なくとも一枚のリーフバルブを有して構成されていればよい。
【0056】
また、第一、第二のバルブストッパ9,90の構成についても適宜変更できる。例えば、第一、第二のバルブストッパ9,90の弁体8側に段差を形成したり、第一、第二のバルブストッパ9,90を外径の異なる複数の環状部材を組み合わせて形成したりして、弁体8の径方向に異なる位置を異なる高さで支えるようにしてもよい。そして、このような場合には、第一、第二のバルブストッパ9,90の弁体が当接する部分のそれぞれに溝が形成されていればよい。
【0057】
また、本実施の形態では、弁体8が撓んでいない取付初期の状態での自由端8eの径が、第一、第二のバルブストッパ9,90の外周縁の径より大きい。このため、弁体8が第一(第二)のバルブストッパ9(90)に当接したとき、弁体8の自由端8eと対向面5eとの間にできる隙間よりも、第一(第二)のバルブストッパ9(90)と対向面5eとの間にできる隙間が小さくなって、その隙間で液体の流れを絞るのを抑制できる。
【0058】
以下、本実施の形態に係る減衰バルブ(バルブ)Vを備えた緩衝器Dの作動について説明する。
【0059】
緩衝器Dの伸長時には、ピストン2がシリンダ1内を上方へ移動して伸側室L1を圧縮し、この伸側室L1の液体が伸側の主弁体6と弁体8を通過して圧側室L2へと移動する。当該液体の流れに対しては、伸側の主弁体6、各主弁体6,7の切欠き6a,7aにより形成されたオリフィス、又は弁体8により抵抗が付与されるので、伸側室L1の圧力が上昇し、緩衝器Dが伸長作動を妨げる伸側減衰力を発揮する。
【0060】
反対に、緩衝器Dの収縮時には、ピストン2がシリンダ1内を下方へ移動して圧側室L2を圧縮し、この圧側室L2の液体が弁体8と圧側の主弁体7を通過して伸側室L1へと移動する。当該液体の流れに対しては、圧側の主弁体7、各主弁体6,7の切欠き6a,7aにより形成されたオリフィス、又は弁体8により抵抗が付与されるので、圧側室L2の圧力が上昇し、緩衝器Dが収縮作動を妨げる圧側減衰力を発揮する。
【0061】
そして、本実施の形態では、ピストン速度に応じて伸側と圧側の主弁体6,7が開弁したり、弁体8の外周部(自由端8e側の端部)が上下に撓んだりして、緩衝器Dがピストン速度に依存した速度依存の減衰力を発生できる。
【0062】
より詳しくは、ピストン速度が0に近い極低速域にある場合、伸側と圧側の主弁体6,7が閉じるとともに、弁体8が撓まずにその自由端8eを対向面5eに対向させている。
【0063】
そして、緩衝器Dの伸長時にピストン速度が極低速域にある場合、液体が伸側と圧側の主弁体6,7の切欠き6a,7aを通って伸側室L1からスカート部4b内へと流入し、連通路5c、第一のバルブストッパ9とケース部5bとの間を図2中下向きに流れて、相対向する弁体8の自由端8eと対向面5eとの間にできる隙間P(図3)から圧側室L2へと流出する。
【0064】
反対に、緩衝器Dの収縮時にピストン速度が極低速域にある場合、液体が圧側室L2から相対向する弁体8の自由端8eと対向面5eとの間にできる隙間Pからケース部5b内へ流入し、第一のバルブストッパ9とケース部5bとの間、連通路5cを図2中上向きに流れて、伸側と圧側の主弁体6,7の切欠き6a,7aから伸側室L1へと流出する。
【0065】
前述のように、相対向する弁体8の自由端8eと対向面5eとの間にできる隙間Pの開口面積は非常に小さいので、ピストン速度が極低速域にある場合、緩衝器Dは、その隙間Pを液体が流れる際の抵抗に起因する極低速域の減衰力を発揮する。
【0066】
また、ピストン速度が高くなり、極低速域から脱して低速域にある場合、伸側と圧側の主弁体6,7は閉じているが、弁体8の外周部(自由端8e側の端部)が伸長時には下側へ、収縮時には上側へと撓み、弁体8の自由端8eと対向面5eとが上下にずれる。そして、これらの間にできる隙間の開口面積が、切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスの開口面積よりも大きくなる。
【0067】
このため、ピストン速度が低速域にある場合、緩衝器Dは、伸側と圧側の主弁体6,7の切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスの抵抗に起因する低速域の減衰力を発揮するようになる。そして、ピストン速度が極低速域からこのような低速域へ移行すると、緩衝器Dの減衰係数が小さくなる。
【0068】
また、ピストン速度がさらに高くなり、低速域から脱して中高速域にある場合、弁体8の外周部が上側又は下側へ撓んでいるのは勿論、伸長時には伸側の主弁体6が開き、収縮時には圧側の主弁体7が開く。
【0069】
本実施の形態では、伸側の主弁体6が開くと、その主弁体6の外周部が下側へ撓み、その外周部とメインバルブケース4との間にできる隙間を液体が通過できるようになる。同様に、圧側の主弁体7が開くと、その主弁体7の外周部が上側へ撓み、その外周部とメインバルブケース4との間にできる隙間を液体が通過できるようになる。
【0070】
このため、ピストン速度が中高速域にある場合、緩衝器Dは、伸側又は圧側の主弁体6,7の開弁によってできる隙間の抵抗に起因する中高速域の減衰力を発揮する。そして、ピストン速度が低速域からこのような中高速域へ移行すると、緩衝器Dの減衰係数が小さくなる。
【0071】
なお、中高速域の途中で、伸側と圧側の主弁体6,7の撓み量を規制してもよい。このような場合には、伸側と圧側の主弁体6,7の撓み量が最大となった速度を境に減衰係数が再び大きくなる。
【0072】
以下、本実施の形態に係る減衰バルブ(バルブ)V、及びその減衰バルブVを備えた緩衝器Dの作用効果について説明する。
【0073】
本実施の形態に係る減衰バルブ(バルブ)Vは、バルブケース5と、外周端がバルブケース5に対して軸方向の両側へ動ける自由端8eとされる環状の弁体8と、この弁体8の外周側に位置して自由端8eと隙間Pをあけて対向できる環状の対向面5eを含んでバルブケース5に設けられる対向部5dと、弁体8の軸方向の両側にそれぞれ位置する第一、第二のバルブストッパ(バルブストッパ)9,90とを備える。
【0074】
さらに、本実施の形態に係る減衰バルブ(バルブ)Vは、弁体8が撓んで第一のバルブストッパ9に当接したときに弁体8と第一のバルブストッパ9とで囲われる部屋r1を外部へ連通する通路t1と、弁体8が撓んで第二のバルブストッパ90に当接したときに弁体8と第二のバルブストッパ90とで囲われる部屋r2を外部へ連通する通路t2を備える。
【0075】
上記構成によれば、部屋r1,r2とその外部が通路t1,t2で連通されるので、液体が部屋r1,r2に閉じ込められて、弁体8が開き切れなかったり、弁体8が開き切った状態から閉じ遅れたりすることがなく、弁体8の開閉挙動を安定化できる。
【0076】
なお、本実施の形態では、弁体8の内周端が固定端8d、外周端が自由端8eとなっていて、弁体8の外周側に対向部5dが位置しているが、反対に、弁体の内周端を自由端、外周端を固定端として、弁体の内周側に対向部を設けてもよい。
【0077】
さらに、本実施の形態では、バルブケース5自体に対向面5eが形成されていて、この対向面5eを含む対向部5dと弁体8が積層される嵌合部5aが一体成形されている。このため、減衰バルブVの部品数を少なくして組立作業を容易にできる。しかし、対向面5eを含む対向部5dと、嵌合部5aを含むバルブケースを個別に形成してから、これらを組み立てて一体化してもよい。
【0078】
また、本実施の形態では、弁体8の軸方向の両側にそれぞれバルブストッパ9,90を設け、両方のバルブストパ9,90それぞれに通路t1,t2を形成しているが、弁体8の軸方向の片側にのみ通路t1(t2)を有するバルブストッパ9(90)を設けてもよい。さらには、弁体8の軸方向の両側にバルブストッパ9,90を設けた場合であって、一方のバルブストッパ9(90)にのみ通路t1(t2)を設けることで弁体8の開閉挙動が安定するのであれば、他方のバルブストッパ90(9)の通路t2(t1)を省略してもよい。
【0079】
また、本実施の形態では、弁体8と第一のバルブストッパ9とで囲われる部屋r1を外部へ連通する通路t1が、第一のバルブストッパ9に形成される溝9aにより形成されている。同様に、弁体8と第二のバルブストッパ90とで囲われる部屋r2を外部へ連通する通路t2が、第二のバルブストッパ90に形成される溝90aにより形成されている。
【0080】
本実施の形態のように、弁体8が極低速域の減衰力発生用に利用される場合、弁体8を構成するリーフバルブは、一般的に極めて薄い。このため、通路t1,t2を形成するための溝9a,90aを弁体8に設ける場合と比較して、本実施の形態のように第一、第二のバルブストッパ9,90に設けた方が深い溝9a,90aを形成しやすく、通路t1,t2の流路面積を大きくできる。
【0081】
ここで、通路t1,t2がない場合、又は通路t1,t2の流路面積が非常に狭い場合には、弁体8が開き切る際に部屋r1,r2の圧力が上昇し、部屋r1,r2の内外に圧力差が生じる。すると、弁体8に閉弁方向の力が作用し、開弁動作と逆行する。反対に弁体8が開き切った状態から閉じ方向へ動く際、部屋r1,r2の圧力が低下して部屋r1,r2の内外に圧力差が生じる。すると、弁体8に開弁方向の力が作用し、閉弁動作と逆行する。
【0082】
このため、部屋r1,r2の内外に圧力差が生じると、弁体8の円滑な開閉動作が妨げられる。さらには、部屋r1,r2の内外の圧力差によっては弁体8が振動して異音を生じることがある。
【0083】
これに対して、上記したように、第一、第二のバルブストッパ9,90に溝9a,90aを形成すると、通路t1,t2の流路面積を大きくできるので、部屋r1,r2の内外に生じる圧力差を小さくできる。このため、上記構成によれば、弁体8の円滑な開閉作動を可能にするとともに、弁体8の振動を抑制して異音の発生を抑制できる。
【0084】
なお、このような効果は、第一、第二のバルブストッパ9,90に通路t1,t2を形成するようにすれば得られる。そこで、例えば、図7に示すように、第一のバルブストッパ9Aに孔9bを形成し、通路t1がその孔9bにより形成されるとしてもよい。また、このような場合において、弁体8が複数のリーフバルブを有して構成される場合には、対向面5eとの間に極低速域の減衰力発生用の隙間Pを形成する中央(メイン)のリーフバルブにおける他のリーフバルブから露出する部分に孔9bの開口を対向させると、少なくとも中央のリーフバルブの閉じ遅れを防いで極低速域の減衰力の発生が遅れるのを防止できる。そして、このような構成は、第二のバルブストッパ90に適用してもよいのは勿論である。
【0085】
また、図8に示すように、弁体8Aの上側に溝8fを形成し、通路t1がその溝8fにより形成されるとしてもよい。当該構成によれば、その溝8fに対向する第一のバルブストッパ9Bに通路t1を形成するための溝及び孔を設ける必要がない。
【0086】
さらには、溝8fの位置、数、形状に応じて弁体8Aの剛性が変化するので、上記溝8fを設けると、その溝8fは緩衝器に所望の減衰力を発揮させるためのチューニング要素にもなる。なお、弁体8Aの下側に溝8fを形成し、第二のバルブストッパ90の溝90aを廃するとしてもよいのは勿論である。
【0087】
さらに、図9に示すように、弁体8Bにその弁体8Bを軸方向へ貫通する孔8gを形成し、通路t1,t2がその孔8gにより形成されるとしてもよい。当該構成によれば、その弁体8Bの上下両側に位置する第一、第二のバルブストッパ9B,90Aの両方に通路t1,t2を形成するための溝及び孔を設ける必要がない。
【0088】
さらには、弁体8Bがその自由端8eを対向面5eに対向させた状態で、これらの間にできる隙間の他にも通路t1,t2を液体が通過できるようになる。このため、孔8gの大きさに応じて極低速域での減衰力が変化する。よって、上記孔8gを設けると、その孔8gは緩衝器に所望の減衰力を発揮させるためのチューニング要素にもなる。
【0089】
また、弁体8Bを貫通する孔8gにより通路t1,t2を形成する場合であって、弁体8Bが複数のリーフバルブを有して構成される場合には、対向面5eとの間に極低速域の減衰力発生用の隙間Pを形成する中央(メイン)のリーフバルブにおける他のリーフバルブから露出する部分に孔8gを形成すると、少なくとも中央のリーフバルブの閉じ遅れを防いで極低速域の減衰力の発生が遅れるのを防止できる。
【0090】
以上に述べたように、通路t1,t2を形成するための構成は適宜変更できる。そして、これらの変更は、弁体8の内周端と外周端のどちらを自由端にするかによらず可能であるのは勿論、対向部5dをバルブケース5と一体成形するか否かによらず可能である。
【0091】
また、図10に示すように、弁体8Cが外径の異なる複数のリーフバルブ8a,8b,8cを有して構成されていて、複数のリーフバルブ8a,8bが径方向の異なる位置で第一のバルブストッパ9Bに当接する場合、最も外周側で第一のバルブストッパ9Bに当接するリーフバルブ8bに積層されてそれよりも内周側で第一のバルブストッパ9Bに当接するリーフバルブ8aの外周部に切欠き8hを形成するとよい。
【0092】
上記構成によれば、複数のリーフバルブ8a,8bが径方向の異なる位置で第一のバルブストッパ9Bに当接する場合にも、部屋r1がリーフバルブ8aで仕切られるのを防止できる。
【0093】
なお、複数のリーフバルブ8b,8cが径方向の異なる位置で第二のバルブストッパ90に当接する場合、最も外周側で第二のバルブストッパ90に当接するリーフバルブ8bに積層されてそれよりも内周側で第二のバルブストッパ90に当接するリーフバルブ8cの外周部に切欠きを形成してもよい。
【0094】
さらには、弁体の内周端が自由端とされる場合であって、弁体が内径の異なる複数のリーフバルブを有して構成されていて、複数のリーフバルブが径方向の異なる位置でバルブストッパに当接する場合、最も内周側でバルブストッパに当接するリーフバルブに積層されてそれよりも外周側でバルブストッパに当接するリーフバルブの外周部に切欠きが形成されていてもよい。
【0095】
このように、最も自由端側でバルブストッパに当接するリーフバルブに積層されてバルブストッパに当接するリーフバルブの外周部に切欠きを形成すれば、弁体がその内周端を自由端とする場合であっても、外周端を自由端とする場合であっても部屋がリーフバルブで仕切られるのを防止できる。なお、切欠きに替えて、溝又は孔を設けて部屋が仕切られるのを防いでもよい。
【0096】
そして、このような変更は、対向部5dをバルブケース5と一体成形するか否かによらず可能であるのは勿論、部屋r1,r2とその外部を連通する通路t1,t2の構成によらず可能である。具体的には、図10では、通路t1が弁体8に形成される溝8fにより形成されているが、その通路t1は、バルブストッパに形成される溝又は孔、或いは、弁体を軸方向に貫通する孔により形成されていてもよい。
【0097】
また、本実施の形態の緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に軸方向へ移動可能に挿入されるピストンロッド3と、減衰バルブ(バルブ)Vとを備える。そして、減衰バルブ(バルブ)Vは、シリンダ1とピストンロッド3が軸方向へ相対移動する際に生じる液体の流れに対して抵抗を与える。このため、緩衝器Dが伸縮してシリンダ1とピストンロッド3が軸方向へ相対移動するときに、減衰バルブ(バルブ)Vの抵抗に起因する減衰力を発揮できる。
【0098】
また、本実施の形態の減衰バルブ(バルブ)Vは、通路4c,4dが形成されるメインバルブケース4と、メインバルブケース4に積層されて通路4c,4dを開閉する主弁体6,7とを備える。そして、メインバルブケース4の通路4c,4dは、弁体8の自由端8eと対向面5eとの間にできる隙間Pと直列に接続されている。
【0099】
上記したように、主弁体6,7と弁体8を有して減衰バルブVが構成されている場合、弁体8を撓ませるピストン速度の領域と、主弁体6,7を開くピストン速度の領域をそれぞれ設定できるので、緩衝器Dの減衰力特性を細かく設定できる。
【0100】
しかし、必ずしも弁体8を主弁体6,7と組み合わせて利用しなくてもよい。そして、上記説明では、ピストン速度の領域を、弁体8が撓まず、主弁体6,7が閉じた状態に維持される領域である極低速域、弁体8は撓むが主弁体6,7は閉じている領域である低速域、及び弁体8が撓むとともに主弁体6,7が開弁する領域である中高速域に区画している。しかし、どのようにピストン速度の領域を区分けしてもよく、各領域の閾値もそれぞれ任意に設定できる。
【0101】
また、本実施の形態に係る減衰バルブ(バルブ)Vは、緩衝器Dのピストンロッド3に装着されたピストン部分に具現化されている。しかし、シリンダに出入りするロッドは、必ずしもピストンが取り付けられたピストンロッドでなくてもよく、減衰バルブVを設ける位置はピストン部に限らない。例えば、前述のように、緩衝器がリザーバ室を備え、このリザーバ室でシリンダに出入りするピストンロッドの体積補償をする場合には、シリンダ内とリザーバ室とを連通する通路の途中に減衰バルブVを設けてもよい。
【0102】
そして、これらの変更は、弁体8の内周端と外周端のどちらを自由端にするか、対向部5dをバルブケース5と一体成形するか否かによらず可能であるのは勿論、弁体8と第一、第二のバルブストッパとで囲われる部屋r1,r2をその外部へ連通する通路t1,t2の構成によらず可能である。
【0103】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0104】
D・・・緩衝器、P・・・隙間、r1,r2・・・部屋、t1,t2・・・通路、V・・・減衰バルブ(バルブ)、1・・・シリンダ、3・・・ロッド(ピストンロッド)、5・・・バルブケース、5d・・・対向部、5e・・・対向面、8,8A,8B,8C・・・弁体、8a,8b,8c・・・リーフバルブ、8e・・・自由端、8f・・・溝、8g・・・孔、8h・・・切欠き、9,9A,9B・・・第一のバルブストッパ(バルブストッパ)、9a・・・溝、9b・・・孔、90,90A・・・第二のバルブストッパ(バルブストッパ)、90a・・・溝
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11