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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】自動車のバンパー補強材
(51)【国際特許分類】
   B60R 19/04 20060101AFI20220404BHJP
【FI】
B60R19/04 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018090253
(22)【出願日】2018-05-08
(65)【公開番号】P2019196063
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100100974
【弁理士】
【氏名又は名称】香本 薫
(72)【発明者】
【氏名】森田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 成一
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-177765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って溶着部を有する閉断面構造のアルミニウム合金押出形材からなる自動車のバンパー補強材であって、車体側及び衝突側に間隔を置いて位置する一対のフランジと、前記一対のフランジを接続し車体の上下方向に間隔を置いて位置する一対のウエブを備え、前記一対のフランジと一対のウエブはいずれも平板状で、互いに略垂直に形成され、前記溶着部が前記一対のフランジに設けられ、前記一対のウエブに設けられていないことを特徴とする自動車のバンパー補強材。
【請求項2】
前記一対のウエブの間に前記一対のフランジを接続する中リブが設けられていることを特徴とする請求項1に記載された自動車のバンパー補強材。
【請求項3】
長手方向の両端部が車体側に曲げ加工されていることを特徴とする請求項1又は2に記載された自動車のバンパー補強材。
【請求項4】
長手方向に沿って曲げ加工され車体外側に凸湾曲していることを特徴とする請求項1又は2に記載された自動車のバンパー補強材。
【請求項5】
長手方向の一部に一対のフランジの間隔が狭くなった潰し加工部を有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載された自動車のバンパー補強材。
【請求項6】
7000系アルミニウム合金押出材からなることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載された自動車のバンパー補強材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉断面構造のアルミニウム合金押出形材からなる自動車のバンパー補強材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金押出形材からなるバンパー補強材は、一般に、一対のフランジ(車体前後方向内側(車体側)に位置するインナーフランジと外側(衝突側)に位置するアウターフランジ)と、それらを連結する一対のウエブを備える。バンパー補強材は、これらの一対のフランジ及びウエブにより閉断面構造を有する。必要により、前記一対のウエブの間に前記一対のフランジを連結する1以上の中リブが形成されている。
【0003】
このような閉断面構造のアルミニウム合金押出形材は、ポートホールダイス、ブリッジダイス、スパイダーダイスなどのホローダイを用いて製造される。例えば、ポートホールダイスを用いた押出方法では、複数のポート孔を備えたマンドレルボディとダイスを組み合わせたポートホールダイスが使用される。ポートホールダイスに押し込まれたアルミニウムビレットは、前記ポート孔で分断された後、前記マンドレルを取り囲んで再び溶着して一体化し、内面を前記マンドレルで、外面を前記ダイスで成形されて閉断面構造の押出形材となる。このように、ホローダイを用いて製造された閉断面構造のアルミニウム合金押出形材には、必然的に溶着部が存在する。
【0004】
溶着部があるアルミニウム合金押出形材は、溶着部と溶着部以外(通常部)とで組織が異なり、前記溶着部の機械的性質、例えば破断限界が通常部に比べて低いことが問題となる。アルミニウム合金押出形材からなるバンパー補強材において、溶着部の破断限界が低いことは、バンパー補強材のエネルギー吸収部材としての強度及びエネルギー吸収量の低下を招く可能性がある。
一方、溶着部がある閉断面構造のアルミニウム合金押出形材について、例えば特許文献1~4に記載されているように、材料組成や製造条件を改良することにより、溶着部の機械的性質を向上させることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-306338号公報
【文献】特開2003-154407号公報
【文献】特開2007-231408号公報
【文献】特開2009-45672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような材料組成や製造条件の改良によっても、アルミニウム合金押出形材の溶着部と通常部の機械的性質を同等にすることは難しい。
本発明は、このような溶着部を有する閉断面構造のアルミニウム合金押出形材からなるバンパー補強材において、衝突時の破断を生じにくくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るバンパー補強材の一形態は、 長手方向に沿って溶着部を有する閉断面構造のアルミニウム合金押出形材からなり、車体側及び衝突側に間隔を置いて位置する一対のフランジと、前記一対のフランジを接続し車体の上下方向に間隔を置いて位置する一対のウエブを備え、前記溶着部が前記一対のフランジに設けられ、前記一対のウエブに設けられていない。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るバンパー補強材の一形態において、溶着部を一対のフランジに設け、一対のウエブに設けないことにより、衝突時のウエブの座屈変形において前記溶着部が変形の起点になることを回避でき、それにより衝突時にウエブの破断が生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係るバンパー補強材の一形態を示すもので、初期断面構造(図1A)、及び衝突により曲げ変形した断面構造(図1B)である。
図2】バンパー補強材の別の形態を示すもので、初期断面構造(図2A)、及び衝突により曲げ変形した断面構造(図2B)である。
図3】衝突前半の段階でのバンパー補強材の形状(図3A)、及び衝突後半の段階でのバンパー補強材の形状(図3B)である。
図4】本発明に係るバンパー補強材の別の形態の初期断面構造である。
図5】大R曲げされたバンパー補強材の断面における残留応力分布を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
始めに、図1を参照して、本発明に係るバンパー補強材の一形態について説明する。
図1Aに示すバンパー補強材1は、長手方向(押出方向)に沿って溶着部を有する閉断面構造のアルミニウム合金押出形材からなる。前記閉断面構造は、車体側及び衝突側に間隔を置いて位置する一対のフランジ(車体側フランジ2,衝突側フランジ3)と、車体上下方向に間隔を置いて位置し、前記一対のフランジ2,3を接続する一対のウエブ4,5からなる。図1Aに示す断面において、一対のフランジ2,3と一対のウエブ4,5はいずれも平板状で、互いに略垂直に形成されている。
なお、図1Aに示すバンパー補強材1では、一対のフランジ2,3の両端に突出フランジが設けられていないが、一方又は両方のフランジに突出フランジが設けられた断面形状であっても良い(例えば特開2003-127808号公報参照)。
【0011】
このバンパー補強材1では、溶着部6,7が一対のフランジ2,3に形成されている。溶着部6,7は、バンパー補強材1の長手方向(アルミニウム合金押出形材の押出方向)に沿って形成されている。
なお、一対のフランジ2,3の幅方向における溶着部6,7の位置は、特に限定されない。しかし、衝突時において溶着部6,7が割れ発生の起点となるのを防止するとの観点より、溶着部6,7の位置は、フランジ2,3とウエブ4,5の接合部を避けて、ウエブ4とウエブ5の間とすることが好ましく、図1Aに示すように、ウエブ4とウエブ5の間の中央部(ウエブ4からの距離とウエブ5からの距離がほぼ同じ位置)がより好ましい。
【0012】
ドアビーム1の素材である閉断面構造のアルミニウム合金押出形材は、ポートホールダイス、ブリッジダイス、スパイダーダイスなどのホローダイを用いて製造される。上記溶着部6,7は、メタルフローがホローダイの中で一度分断され、その後一体化されることにより形成されたもので、アルミニウム合金押出形材の長手方向(押出方向)に沿って存在し、溶着部以外の部分(通常部)とはミクロ組織が異なる。なお、このアルミニウム押出形材は、全体が単一のアルミニウム合金組成を有する。
【0013】
図2Aに、本開示に係るバンパー補強材1(図1A)とは異なる形態のバンパー補強材11の断面図を示す。図2Aのバンパー補強材11において、図1Aのバンパー補強材1と実質的に同じ部位には同じ番号を付与している。
バンパー補強材11は、長手方向(押出方向)に沿って溶着部を有する閉断面構造のアルミニウム合金押出形材からなり、バンパー補強材1と基本的に同じ閉断面構造を有する。
ただし、このバンパー補強材11では、バンパー補強材1とは異なり、溶着部16,17が一対のウエブ4,5に形成されている。溶着部16,17は、バンパー補強材1の溶着部6,7と同様に、バンパー補強材11の長手方向(アルミニウム合金押出形材の押出方向)に沿って形成されている。
【0014】
バンパー補強材1,11に衝突荷重Pが負荷されると、バンパー補強材1,11には車体上下方向を回転軸とした曲げ変形が生じ、衝突前半の段階では(図3A参照)、車体側フランジ2に引張歪みが発生し、衝突側フランジ3に圧縮歪みが発生する。続いて衝突後半の段階では(図3B参照)、ウエブ4,5が座屈し、車体前後方向中間領域を中心として曲げ変形する。
バンパー補強材は、衝突荷重を受け止めるため、エネルギー吸収量を高くすることが要求されている。高いエネルギー吸収量を確保するためには、特に衝突後半段階において、車体側(衝突背面側)のフランジが破断しないようにウエブを座屈させ、車体側のフランジに発生する引張歪みを緩和することが必要である。ウエブが座屈する際、ウエブは、その車体前後方向中間領域を中心に曲げ変形し、この領域に局部的な歪み集中が生じる。そして、ウエブに破断限界が低い溶着部が設けられていると、衝突後半段階において、溶着部が起点となってウエブが早期に座屈変形し、あるいは溶着部が容易に破断しやすく、それ以降のエネルギー吸収性能が低下するという問題が生じ得る。
【0015】
バンパー補強材11の場合、歪み集中が生じやすい一対のウエブ4,5に溶着部16,17が形成されている。このため、衝突後半の段階において(図2B参照)、溶着部16,17が起点となって一対のウエブ4,5が早期に座屈変形し、あるいは溶着部16,17においてウエブ4,5が容易に破断しやすく、それ以降のエネルギー吸収性能が低下する。
【0016】
一方、バンパー補強材1の場合、一対のウエブ4,5に溶着部6,7が形成されていない。このため、衝突後半の段階において(図1B参照)、溶着部6,7が一対のウエブ4,5の座屈変形の起点となることが回避され、一対のウエブ4,5の破断も生じにくくなることで、エネルギー吸収性能の低下が防止できる。
なお、バンパー補強材1では、溶着部6,7がフランジ部に形成されたことにより、衝突前半の車体上下方向を回転軸とした一対のフランジ2,3の曲げ変形において、溶着部6,7にも高い歪みが発生する。しかし、この曲げ変形は、一対のウエブ4,5の座屈による曲げ変形と異なり、一対のフランジ2,3全体で長手方向に引張又は圧縮荷重を受けるような変形形態であり、また、一対のフランジ2,3全体に占める溶着部6,7の割合が比較的小さい。このため、溶着部6,7に起因するフランジ2,3の強度低下は無視できるほどに小さく、また、溶着部6,7の変形が溶着部6,7周辺の材料(通常部)により抑制され、溶着部6,7の破断が生じにくい。
【0017】
図4に、本発明に関わるバンパー補強材の他の形態の断面図を示す。図4に示すバンパー補強材21において、図1Aのバンパー補強材1と実質的に同じ部位には同じ番号を付与している。
バンパー補強材21は、一対のフランジ2,3と一対のウエブ4,5を備える点でバンパー補強材1と一致するが、一対のウエブ4,5の中間位置に一対のフランジ2,3を垂直に連結する中リブ8が形成されている点でバンパー補強材1と異なる。中リブ8が形成されたことに伴い、バンパー補強材21のフランジ2には、中リブ8と各ウエブ4,5の間の位置に溶着部6,6が形成され、フランジ3には、中リブ8と各ウエブ4,5の間の位置に溶着部7,7が形成され、さらに中リブ8に溶着部9が形成されている。
【0018】
バンパー補強材21は、衝突時に座屈変形の起点となる溶着部が一対のウエブ4,5に形成されていないため、バンパー1と同様に、衝突時に一対のウエブ4,5の早期座屈及び破断が生じにくく、溶着部によるエネルギー吸収性能の低下が防止できる。なお、バンパー補強材21は中リブ8に溶着部9が形成されている。しかし、衝突時にバンパー補強材21が曲げ変形するとき、外リブ(ウエブ4,5)と異なり、中リブ8には偶力が掛かりにくく、倒れにくいため、中リブ8は面内変形が支配的となる。このため、中リブ8では、溶着部9を起点とした座屈変形又は溶着部9の破断の発生が、ウエブ4,5に溶着部16,17がある場合(図2A参照)に比べて遅れる。従って、中リブ8に形成された溶着部9の影響(エネルギー吸収性能に対する影響)は、ウエブ4,5に形成された溶着部16,17に比べて小さい。
【0019】
アルミニウム合金押出形材には必要に応じて塑性加工が施され、その結果、本発明に係るバンパー補強材は、平面視で種々の形態を取り得る。公知の平面視形態として、全長に曲げ加工(いわゆる大R曲げ)が施され、それにより車体前後方向外側に凸湾曲した形状(例えば特開2010-046685号公報参照)、長手方向両端部が車体側に曲げ加工された形状(例えば特開2003-285703号公報参照)、長手方向の一部が潰し加工された形状(例えば特開2015-168299号公報参照)を挙げることができる。
【0020】
曲げ加工が単純曲げ(長手方向に引張力を付加しない曲げ加工)で、バンパー補強材が車体前後方向外側に凸湾曲した形状である場合、バンパー補強材内の残留応力分布は、概略、図5に実線で示すようなものとなる。ここで、Xcは曲げの中立軸であり、軸Yの右側が引張応力、左側が圧縮応力である。残留引張応力は、中立軸Xcよりやや衝突側フランジ3に寄った位置で最大となる。また、曲げ加工が引張曲げの場合、バンパー補強材内の残留応力分布は、概略、図5に破線で示すようなものとなる。引張力により曲げの中立軸Xcが車体側フランジ2側に移動することにより、残留引張応力は、単純曲げの場合に比べて、内側フランジ2側に寄った位置で最大となる。いずれにしても、曲げ加工したバンパー補強材内には、ウエブ4,5の車幅方向略中央領域において、大きい引張応力が残留する。
【0021】
閉断面構造のアルミニウム合金押出形材において、溶着部はそれ以外の部位(通常部)に比べて応力腐食割れが発生しやすく、このような溶着部が、大きい引張応力が残留するウエブ4,5の前記車幅方向略中央領域に存在すると、当該領域に応力腐食割れが発生しやすい。一方、本発明に係るバンパー補強材の前記形態(図1A)において、応力腐食割れが発生しやすい溶着部6,7が、曲げ加工によって高い引張応力が残留するウエブ4,5に形成されていない。従って、溶着部16,17がウエブ4,5に形成されているバンパー補強材(図2A参照)に比べ、ウエブ4,5に応力腐食割れが生じにくく、このためより厳しい曲げ加工を施すことも可能である。また、本発明に係るバンパー補強材の前記形態(図4)では、中リブ8に溶着部9が形成されているが、溶着部を有しない一対のウエブ4,5が中リブ8の両側に位置しているため、仮に中リブ8に応力腐食割れが発生したとしても、その影響は限定的である。
【0022】
バンパー補強材の長手方向の少なくとも一部にプレス加工(潰し加工)を施した場合、潰し加工を受けた箇所(潰し加工部)では、一対のウエブ4,5が曲げ変形し、一対のフランジ2,3の間隔が狭くなる。この潰し加工により、一対のウエブ4,5の潰し加工部と非潰し加工部の境界領域に高い引張応力が残留する(特開2014-145119号公報参照)。しかし、本発明に係るバンパー補強材の前記形態(図1A参照)において、一対のウエブ4,5に溶着部6,7が形成されていないので、一対のウエブ4,5に溶着部16,17が形成されたバンパー補強材(図2A参照)に比べ、ウエブ4,5に応力腐食割れが生じにくく、このため、より厳しい潰し加工を施すことも可能である。一対のウエブ4,5に溶着部6,7が形成されていないことで、潰し加工時の破断限界が向上するという利点もある。また、本発明に係るバンパー補強材の前記形態(図4)では、中リブ8に溶着部9が形成されているが、溶着部を有しない一対のウエブ4,5が中リブ8の両側に位置しているため、仮に中リブ8に応力腐食割れが発生したとしても、その影響は限定的である。
【0023】
バンパー補強材の素材であるアルミニウム合金押出形材として、特に限定しないが、6000系アルミニウム合金押出形材に比べて破断限界が低く、応力腐食割れの問題が生じやすい高強度の7000系アルミニウム合金押出形材を好適に採用できる。7000系アルミニウム合金の組成としては、JIS又はAA規格で規定される組成が適用できる。好ましい組成として、Zn:3~8質量%、Mg:0.4~2.5質量%、Cu:0.05~2.0質量%、Ti:0.005~0.2質量%を含有し、さらにMn:0.01~0.3質量%、Cr:0.01~0.3質量%、Zr:0.01~0.3質量%の1種以上を含有し、残部Al及び不純物からなる組成を挙げることができる。
【符号の説明】
【0024】
1,11,21 バンパー補強材
2 車体側フランジ
3 衝突側フランジ
4,5 ウエブ
6,7,9,16,17 溶着部
8 中リブ
図1
図2
図3
図4
図5