IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特許7051575制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラム
<>
  • 特許-制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラム 図1
  • 特許-制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラム 図2
  • 特許-制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラム 図3
  • 特許-制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラム 図4
  • 特許-制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラム 図5
  • 特許-制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラム 図6
  • 特許-制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラム 図7
  • 特許-制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラム 図8
  • 特許-制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20220404BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/48 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018094072
(22)【出願日】2018-05-15
(65)【公開番号】P2019201474
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】直井 伸也
(72)【発明者】
【氏名】山岡 雪菜
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 尚隆
(72)【発明者】
【氏名】石黒 崇裕
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-200535(JP,A)
【文献】特開平10-234135(JP,A)
【文献】特開2010-115033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流系統の電圧検出値および電流検出値に基づく第1の電圧指令値と、前記交流系統の電圧を自律制御するための第2の電圧指令値とのいずれかを選択的に出力する電圧制御部と、
前記電圧制御部により出力された前記第1の電圧指令値または前記第2の電圧指令値に基づいて、前記交流系統と直流系統とに接続された自励式電力変換器に出力するゲート信号を生成する生成部と、
前記電圧検出値に基づいて導出した電圧の位相をホールドする第1のサンプルホールドから出力される前記位相と、所定の基準位相とを加算することで、前記ゲート信号の前記位相の要素を出力する位相導出部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記電圧制御部が前記第2の電圧指令値を出力する場合、前記電圧検出値に基づいて、前記交流系統の偏磁を抑制または解消する補正を行う偏磁解消制御部を更に備える、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記偏磁解消制御部は、
前記電圧検出値を積分して得られる磁束をホールドする第2のサンプルホールドから出力される前記磁束を、レートリミッタによって段階的に変動することを抑制することで、前記交流系統の偏磁を抑制または解消する補正を行う、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記第1の電圧指令値をローパスフィルタおよびレートリミッタを適用することで得られる第3の電圧指令値と、前記第2の電圧指令値とを切替える、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
1以上の自励式電力変換器を制御する制御装置が、
前記自励式電力変換器が接続される交流系統の電圧検出値および電流検出値に基づく第1の電圧指令値と、前記交流系統の電圧を自律制御するための第2の電圧指令値とのいずれかを選択し、
前記選択した第1の電圧指令値または前記第2の電圧指令値に基づいて、前記交流系統と直流系統とに接続された前記自励式電力変換器に出力するゲート信号を生成し、
前記電圧検出値に基づいて導出した電圧の位相をホールドする第1のサンプルホールドから出力される前記位相と、所定の基準位相とを加算することで、前記ゲート信号の前記位相の要素を出力する、
自励式電力変換器の制御方法。
【請求項6】
1以上の自励式電力変換器を制御する制御装置に、
前記自励式電力変換器が接続される交流系統の電圧検出値および電流検出値に基づく第1の電圧指令値と、前記交流系統の電圧を自律制御するための第2の電圧指令値とのいずれかを選択させ、
前記選択された第1の電圧指令値または前記第2の電圧指令値に基づいて、前記交流系統と直流系統とに接続された自励式の前記自励式電力変換器に出力するゲート信号を生成させ、
前記電圧検出値に基づいて導出した電圧の位相をホールドする第1のサンプルホールドから出力される前記位相と、所定の基準位相とを加算することで、前記ゲート信号の前記位相の要素を出力させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、連系強化や再生可能エネルギー導入促進などを目的として、直流送電システムや周波数変換システムの技術開発が行われている。これらのシステムにおいて使用される、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の自己消弧型の半導体素子を利用した自励式電力変換器は、自励式電力変換器自身が交流電圧源となって電気機器へ電力を供給することができる。この特徴を生かし、自励式電力変換器は、平常時には指定した有効電力や無効電力を出力させるが、系統事故により交流電源が喪失した場合には、交流電力供給源となり、交流電圧の振幅や位相を維持し、電気機器が必要とする必要な有効電力、無効電力を供給するという用い方が可能である。自励式電力変換器が、指定された有効電力と無効電力を出力する場合と、交流電力供給源として運転する場合とでは運転モードが異なるが、電気の供給信頼度を高めるために連続的に、且つ、安定に運転モードを切り替えられることが望ましい。
【0003】
しかしながら、交流電力供給源として給電する範囲が広くなり、その範囲内に大きな変圧器がある場合には、変圧器の飽和特性に起因する励磁突入電流により、給電範囲内の電圧に振動が長時間重畳するという課題があった。また、近年では、自励式電力変換器にモジュラーマルチレベル変換器(Modular Multilevel Converter;MMC)の適用が進んでいるが、MMCで上述の切替手法を適用した場合に、安定的な運転モードへの切替えをスムーズに行うことができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8‐242539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、交流系統において電力が低下した所定状態への切替を安定的に行うことができる制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の制御装置は、電圧制御部と、生成部と、位相導出部とを持つ。電圧制御部は、交流系統の電圧検出値および電流検出値に基づく第1の電圧指令値と、前記交流系統の電圧を自律制御するための第2の電圧指令値とのいずれかを選択的に出力する。生成部は、前記電圧制御部により出力された前記第1の電圧指令値または前記第2の電圧指令値に基づいて、前記交流系統に接続された自励式の前記電力変換器に出力するゲート信号を生成する。位相導出部は、前記電圧検出値に基づいて導出した電圧の位相をホールドする第1のサンプルホールドから出力される前記位相と、所定の基準位相とを加算することで、前記ゲート信号の前記位相の要素を出力する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態に係る制御装置100の使用環境を示す図。
図2】第1の実施形態の制御装置100の構成例を示すブロック図。
図3】交流電圧制御部130、位相導出部140、dq逆変換部160および3相電圧補正部170の構成例を示すブロック図。
図4】偏磁解消制御部150の構成例を示すブロック図。
図5】偏磁解消制御部150の出力する電圧の解析波形の出力例を示す図。
図6】第1の実施形態の制御装置100による切替制御処理の流れの一例を示すフローチャート。
図7図1に示す使用環境の変形例を示す図。
図8】第2の実施形態に係る制御装置100Aの構成要素である交流電圧制御部130A、位相導出部140、dq逆変換部160および3相電圧補正部170の構成例を示すブロック図。
図9】第2の実施形態の制御装置100Aによる切替制御処理の流れの一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の制御装置、自励式電力変換器の制御方法、およびプログラムを、図面を参照して説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る制御装置100の使用環境を示す図である。この使用環境では、電力変換器50-1および50-2が直流母線1(直流系統)を介して接続され、それぞれの動作を行う。電力変換器50-1と50-2のそれぞれは、例えば、交流と直流を相互に変換する自励式の電力変換器である。なお、図1の説明において、符号におけるハイフンおよびこれに続く数字は、いずれの交流電圧源に対応しているかを示すものとする。また、適宜、符号におけるハイフンおよびこれに続く数字を省略して説明を行う。
【0010】
電力変換器50-1には、直流端子側に直流母線1が、交流端子側に交流母線2(交流系統)が、それぞれ接続される。交流母線2は、交流送電線3および遮断部4を介して第1の交流電圧源AC-1と接続される。また、電力変換器50-2には、交流端子側に交流母線6(交流系統)が、直流端子側に直流母線1が、それぞれ接続される。すなわち、電力変換器50-1は、直流母線1を介して電力変換器50-2に接続される。
【0011】
制御装置100-1は、電力変換器50-1の出力する3相ごとの交流電流を検出する電流検出器7-1を用いて検出される検出結果(電流検出値)、および電力変換器50-1の出力側における3相ごとの交流電圧を検出する電圧検出器8-1を用いて検出される検出結果(電圧検出値)に基づいてゲート信号を生成し、電力変換器50-1に出力する。電力変換器50-1は、制御装置100-1の生成したゲート信号に基づいて、交直変換を行う。なお、電圧検出器8-1は、図1に示した設置位置に限らず、電力変換器50-1の交流側の電圧を検出できる任意の位置に設置されてよい。
【0012】
同様に、制御装置100-2は、電力変換器50-2の出力する3相ごとの交流電流を検出する電流検出器7-2、および電力変換器50-2の出力側における3相ごとの交流電圧を検出する電圧検出器8-2の検出結果に基づいてゲート信号を生成し、制御装置100-2に出力する。電力変換器50-2は、制御装置100-2の生成したゲート信号に基づいて、交直変換を行う。
【0013】
電力変換器50-1は、少なくとも、PQ制御モードと、単独運転制御モード(CVCF制御モード)とを切り替えて制御される。PQ制御モードとは、外部電源側(例えば、交流電圧源AC-1)の電力事情に合わせた指令値に基づいて計算した有効電力と無効電力を出力するモードである。一方、単独運転制御モードとは、電力変換器50自身が交流系統への電力供給源となり、出力する有効電力、無効電力を自律制御するモードである。
【0014】
例えば、図1の例において、電力変換器50-1がPQ制御モードで運転中に遮断部4よりも第1の交流電圧源AC-1側(例えば、第1の交流電圧源AC-1や、交流送電線3)で系統事故が発生して遮断部4が開放されると、交流母線2が電力供給源を失う。電力変換器50-1は、このような場合に、CVCF制御モードでの運転を開始する。電力変換器50-1は、第1の交流電圧源AC-1の代替として、交流電力供給源として単独運転することで、交流母線2の電圧を確立し、交流母線2に接続される変圧器5およびその先の需要家(不図示)に電力の供給を続けることができる。
【0015】
ただし、特に電力変換器50-1の単独運転の開始直後には、偏磁が発生する可能性がある。偏磁とは、変圧器5の内包するコイルに直流等の一方向の電流が流れることで偏った一方向に磁化されたままになる状態である。偏磁が発生すると、偏磁に起因する励磁突入電流が流れ、この励磁突入電流が流れると電力変換器50-1の備える半導体素子が損傷される可能性がある。したがって、電力変換器50-1の単独運転への切替を制御する制御装置100は、電力変換器50-1の偏磁が抑制または解消されるよう制御する。以下、これらについて制御装置100の構成と共に説明する。
【0016】
図2は、制御装置100の構成例を示すブロック図である。制御装置100は、例えば、dq変換部110および112と、交流電流制御部120と、交流電圧制御部130と、位相導出部140と、偏磁解消制御部150と、dq逆変換部160と、3相電圧補正部170と、パルス生成部180とを備える。これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0017】
[PQ制御モードの動作]
以下、図2図4を参照しながら、PQ制御モードにおける各構成要素の動作について説明し、後に単独運転モード実行時における各構成要素の動作について説明する。dq変換部110は、位相導出部140により導出された位相情報を用いて電圧検出器8より出力された電圧検出値Vを3相から2相へ変換し、変換した結果である有効分電圧Vdと無効分電圧Vq(を示す値;以下、各部の計算結果について同様)を交流電流制御部120に出力する。また、dq変換部112は、位相導出部140により導出された位相情報を用いて電流検出器7より出力された電流検出値Iを3相から2相へ変換し、変換した結果である有効分電流Idと無効分電流Iqを交流電流制御部120に出力する。以降導出部140については後述する。
【0018】
交流電流制御部120には、有効電力指令値Pd*、無効電力指令値Pq*が入力される。交流電流制御部120は、dq変換部112により出力された有効分電流Idと、dq変換部110により出力された有効分電圧指令値Vdと、有効電力指令値Pd*とに基づいて、移行前有効分電圧指令値Vd*を導出する。例えば、交流電流制御部120は、有効電力指令値Pd*から有効分電流指令値Idrefを導出し、有効分電流Idを有効分電流指令値Idrefに近づけるように、移行前有効分電圧指令値Vd*を導出する。また、交流電流制御部120は、dq変換部112により出力された無効分電流Iqと、dq変換部110により出力された無効分電圧指令値Vqと、無効電力指令値Pq*とに基づいて、移行前有効分電圧指令値Vq*を導出する。例えば、交流電流制御部120は、無効電力指令値Pq*から無効分電流指令値Iqrefを導出し、無効分電流Iqを無効分電流指令値Iqrefに近づけるように、移行前無効分電圧指令値Vq*を導出する。交流電流制御部120は、導出した移行前有効分電圧指令値Vd*および移行前無効分電圧指令値Vq*を交流電圧制御部130に出力する。なお、移行前有効分電圧指令値Vd*および移行前無効分電圧指令値Vq*は「第1の電圧指令値」の一例である。
【0019】
交流電圧制御部130には、更に、移行後有効分電圧指令値Vd*#と、移行後無効分電圧指令値Vq*#とが入力される。交流電圧制御部130は、例えば他装置から発信される単独運転移行信号Sを受信していない場合(すなわちPQ制御モードで運転を行う場合)、移行前有効分電圧指令値Vd*と移行前無効分電圧指令値Vq*をdq逆変換部160に出力する。なお、制御装置100は、電圧検出値Vや電流検出値Iの変化に基づいて自ら単独運転移行信号Sを生成してもよいし、他装置から入力された事故発生信号などに基づいて単独運転移行信号Sを生成してもよい。交流電圧制御部130は、「電圧制御部」の一例である。
【0020】
図3は、交流電圧制御部130、位相導出部140、dq逆変換部160および3相電圧補正部170の構成例を示すブロック図である。交流電圧制御部130は、例えば、選択部131および132を備える。交流電圧制御部130は、単独運転移行信号Sを受信していない場合、図3に示すように、移行前有効分電圧指令値Vd*をdq逆変換部160に出力するよう選択部131を制御し、移行前無効分電圧指令値Vq*をdq逆変換部160に出力するよう選択部132を制御する。
【0021】
位相導出部140は、例えば、PLL(Phase Locked Loop;位相同期回路)141と、サンプルホールド142と、積分部143と、加算部144と、選択部145とを備える。
【0022】
PLL141は、電圧検出器8より出力された電圧検出値Vに基づいて、交流母線2の3相ごとの電圧の位相を導出し、選択部145に出力する。選択部145は、単独運転移行信号Sに基づいて、PLL141の出力値と加算部144の出力値のうち、どちらをdq逆変換部160に出力するかを切替える。選択部145は、例えば、単独運転移行信号Sを受信していない場合、PLL141の出力値をdq逆変換部160に出力し、単独運転移行信号Sを受信した場合、加算部144の出力値をdq逆変換部160に出力するように自身の状態を切り替える。単独運転移行信号Sを受信した場合については、単独運転モード実行時の動作のところで説明する。
【0023】
dq逆変換部160は、電圧指令値と位相に基づいてdq逆変換を行う。dq逆変換部160は、交流電圧制御部130により出力された移行前有効分電圧指令値Vd*と移行前無効分電圧指令値Vq*に対して、PLL141の出力値に従って2相から3相へ変換するdq逆変換を行い、3相の電圧指令値V*を導出する。単独運転移行信号Sを受信した場合については、単独運転モード実行時の動作のところで説明する。
【0024】
3相電圧補正部170は、dq逆変換部160により出力された3相の電圧指令値V*に、交流母線2に接続されている変圧器5の偏磁を解消するための3相の電圧補正値ΔVを加算して補正し、電力変換器50が最終的に出力すべき電圧指令値Vf*を導出する。3相電圧補正部170は、電圧指令値Vf*をパルス生成部180に出力する。
【0025】
パルス生成部180は、3相電圧補正部170により出力された電圧指令値Vf*に基づいて、電力変換器50のスイッチング素子に与えるゲート信号を生成する。以上のようにして、制御装置100はPQ制御モードにおける制御を行う。パルス生成部180は、「生成部」の一例である。
【0026】
図4を用いて偏磁解消制御部150について説明する。図4は、偏磁解消制御部150の構成例を示すブロック図である。偏磁解消制御部150は、例えば、積分部151と、サンプルホールド152と、選択部153と、レートリミッタ154と、加算部155とを備える。単独運転移行信号Sを受信した場合については、単独運転モード実行時の動作のところで説明する。
【0027】
[単独運転モード実行時の動作]
以下、単独運転実行時の制御装置100の各構成要素の動作について説明する。
【0028】
図2に戻り、交流電圧制御部130は、単独運転移行信号Sを受信した場合、移行後有効分電圧指令値Vd*#と移行後無効分電圧指令値Vq*#をdq逆変換部160に出力する。移行後有効分電圧指令値Vd*#および移行後無効分電圧指令値Vq*#は、制御装置100の運営者によって予め設定された固定の値であってもよいし、他装置からネットワーク等を介して取得した値であってもよい。なお、移行後有効分電圧指令値Vd*#および移行後無効分電圧指令値Vq*#は「第2の電圧指令値」の一例である。
【0029】
位相導出部140は、電圧検出器8より出力された電圧検出値Vに基づいて電圧の位相を導出する。また、位相導出部140は、電力変換器50が単独運転して電圧源として動作する場合の出力周波数f(例えば、東日本であれば50[Hz]、西日本であれば60[Hz])を設定することで、電力変換器50が出力すべき電圧の位相を導出する。位相導出部140は、導出した電圧の位相を、dq逆変換部160に出力する。位相導出部140による位相の導出方法については後述する。
【0030】
偏磁解消制御部150は、電圧検出器8より出力された電圧検出値Vに基づいて、交流母線2に接続されている変圧器5の偏磁を解消するための3相の電圧補正値ΔVを導出し、3相電圧補正部170に出力する。
【0031】
dq逆変換部160は、PQ制御モードでの運転時と同様に、交流電圧制御部130により出力された移行後有効分電圧指令値Vd*#および移行後無効分電圧指令値Vq*#に対して、2相から3相へ変換するdq逆変換を行い、3相の電圧指令値V*を導出し、3相電圧補正部170に出力する。
【0032】
3相電圧補正部170およびパルス生成部180の機能については、PQ制御モードの場合と同様であるため説明を省略する。
【0033】
以下、再度図3を用いて、交流電圧制御部130および位相導出部140の動作について説明する。
【0034】
交流電圧制御部130は、単独運転移行信号Sを受信した場合、移行後有効分電圧指令値Vd*#をdq逆変換部160に出力するよう選択部131を制御し、移行後無効分電圧指令値Vq*#をdq逆変換部160に出力するよう選択部132を制御する。
【0035】
PLL141は、電圧検出器8より出力された電圧検出値Vに基づいて、交流母線2の電圧の位相を導出し、サンプルホールド142に出力する。サンプルホールド142は、単独運転移行信号Sを受信した時点の交流母線2の電圧の位相を保持する。サンプルホールド142は「第1のサンプルホールド」の一例である。
【0036】
積分部143は、所定の出力周波数(例えば、東日本であれば50[Hz]、西日本であれば60[Hz])の疑似信号の信号値を積分することで、基準位相を導出し、加算部144に出力する。
【0037】
加算部144は、サンプルホールド142の保持する位相と、積分部143により出力された基準位相とを加算し、加算した値を出力する。これにより、加算部144が出力する位相は、単独運転移行時に電力変換器50が出力すべき電圧の位相となる。
【0038】
選択部145は、単独運転移行信号Sを受信した場合、加算部144の出力値をdq逆変換部160に出力するように自身の状態を切り替える。なお、交流電圧制御部130の選択部131、132および位相導出部140の選択部145は、単独運転移行信号Sを受信したタイミングで同時に状態が切り替わる。
【0039】
単独運転モードの開始直後は、PLL141の導出した移行前の位相のみに基づいて出力位相を導出すると、出力位相が欠損してしまう可能性がある。そのような可能性を踏まえ、位相導出部140は、積分部143の導出する位相およびサンプルホールド142の保持する位相を基準として、出力位相を制御する。
【0040】
上述の構成によって、位相導出部140は、単独運転移行後に適切な電圧振幅・位相の電圧を出力できるようになり、且つ、モード切替による電圧の振幅、位相の変化量を小さくすることができることから、安定的かつ連続的なモード切替を行うことができる。
【0041】
以下、再度図4を用いて、単独運転モード実行時の偏磁解消制御部150の行う偏磁解消処理を説明する。積分部151は、電圧検出器8より出力された電圧検出値Vを所定の期間について積分することで、交流母線2に接続されている変圧器5の各相の磁束を推定する。積分部151は、各相の推定磁束をサンプルホールド152に出力する。サンプルホールド152は、単独運転移行信号Sを受信すると、その時点で積分部151により出力された、各相の推定磁束をホールドし、以降、その値を出力する。これによって、151は、偏磁解消制御を有効にする。サンプルホールド152は「第2のサンプルホールド」の一例である。
【0042】
選択部153は、例えば、所定の条件を満たす場合に出力を切り替える。例えば、選択部153は、単独運転移行信号Sを受信した場合、図4に示すようにサンプルホールド152により出力された、各相の推定磁束をレートリミッタ154および加算部155に選択的に出力する。なお、選択部153は、単独運転移行信号Sを受信し、各相の推定磁束をレートリミッタ154および加算部155に出力してから、偏磁が解消する程度に十分な時間経過した場合には、ゼロ値をレートリミッタ154に出力するようにしてもよい。
【0043】
レートリミッタ154は、選択部153により出力された推定磁束に所定の処理を行って加算部155に出力する。所定の処理とは、例えば、選択部153によりサンプルホールド152により出力された、各相の推定磁束が出力された場合、その値をそのまま加算部155に出力するのではなく、徐々にサンプルホールド152により出力された各相の推定磁束の値に近づける処理のことである。加算部155は、選択部153の出力とレートリミッタ154との出力を加算して出力することで各相の電圧補正量を出力することができる。
【0044】
なお、図4の例では、レートリミッタ154を用いる例を示したが、例えば、レートリミッタ154を、ローパスフィルタに置き換えてもよい。電圧の積算が磁束となるため、系統事故などによって一時的に電圧が低下すると磁束が大きい状態が維持され、その後単独運転で電圧が正常値に戻るような場合には変圧器5が偏磁してしまう。図4の偏磁解消制御部150は、そのような偏磁を相殺するように作用する。
【0045】
以下、図5を用いて、偏磁解消制御部150の出力する電圧値の遷移の例を示す。図5の上図は、偏磁解消制御部150による偏磁解消制御が行われなかった場合の電圧の解析波形の出力例であり、図5の下図は、偏磁解消制御部150による偏磁解消制御が行われた場合の電圧の解析波形の出力例である。偏磁解消制御部150は、系統事故などによって一時的(例えば、図5の上図および下図のTc1~Tc2)に電圧が低下し、その後単独運転で電圧が正常値に戻るような場合に変圧器5が偏磁してしまうが、それを相殺するように作用する。なお、単独運転への切替は、例えば図5のTc2のタイミングで行われる。
【0046】
図5に示すように、図5の上図と比較して、図5の下図の方が、交流母線2の電圧変動が早く解消され、偏磁解消制御部150により、変圧器5の偏磁に起因して流れる励磁突入電流を抑制でき、励磁突入電流に起因する電圧変動の解消を早めることができる。
【0047】
図6は、第1の実施形態の制御装置100による切替制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0048】
dq変換部110および112は、電流検出値Iおよび電圧検出値Vをdq変換する(ステップS100)。次に、交流電流制御部120は、移行前有効分電圧指令値Vd*と移行前無効分電圧指令値Vq*を導出する(ステップS102)。次に、交流電圧制御部130は、単独運転移行信号Sの受信状態を確認する(ステップS104)。単独運転移行信号Sを受信した場合、交流電圧制御部130は、移行後有効分電圧指令値Vd*#と移行後無効分電圧指令値Vq*#を出力し(ステップS106)、位相導出部140は、移行後電圧位相を導出する(ステップS108)。単独運転移行信号Sを受信しなかった場合、交流電圧制御部130は、交流電流制御部120により導出された移行前有効分電圧指令値Vd*と移行前無効分電圧指令値Vq*を出力し(ステップS110)、位相導出部140は、移行前電圧位相を導出する(ステップS112)。
【0049】
ステップS108またはS112の処理の後、dq逆変換部160は、dq逆変換を行い、3相の電圧指令値V*を導出する(ステップS114)。次に、3相電圧補正部170は、電圧指令値V*を偏磁解消制御部150の導出したΔVで補正して電圧指令値Vf*を導出する(ステップS116)。次に、パルス生成部180は、電圧指令値Vf*に基づいて、電力変換器50に出力するゲート信号を生成する(ステップS118)。以上、本フローチャートの処理を終了する。
【0050】
なお、図1で示した第1の実施形態の使用環境では、直流母線1の双方に直流電圧源ACが接続される例を示したが、一方の電力変換器50を二次電池や燃料電池といった直流電圧源DCに置き換える構成であってもよい。図7は、図1に示す使用環境の変形例を示す図である。図7に示す使用環境は、交流電圧源AC-2および交流電圧源AC-2に対応付けられた構成要素の代替として、直流電圧源DCを備える。
【0051】
上述したように第1の実施形態の制御装置100によれば、dq逆変換部160が3相の電圧指令値V*を導出し、dq逆変換部160が導出した電圧指令値V*を偏磁解消制御部150および3相電圧補正部170によって補正されて導出された電圧指令値Vf*に基づいて、パルス生成部180が電力変換器50に出力するためのゲート信号を生成することで、電力変換器50がPQ制御モードからCVCF制御モードへの切替をシームレスに行うことができる。また偏磁解消制御部150により、変圧器5の偏磁に起因して流れる励磁突入電流を早期に抑制でき、励磁突入電流に起因する電圧変動の解消タイミングを早めることができる。
【0052】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る制御装置100Aについて説明する。以下の説明において、第1の実施形態で説明した内容と同様の機能を有する部分については、同様の名称および符号を付するものとし、その機能に関する具体的な説明は省略する。
【0053】
図8は、制御装置100Aの構成要素である交流電圧制御部130A、位相導出部140、dq逆変換部160および3相電圧補正部170の構成例を示すブロック図である。図7の交流電圧制御部130Aは、図3の交流電圧制御部130と比較して、ローパスフィルタ133および136と、選択部134および137と、レートリミッタ135および138とを備える点が異なる。したがって、以下では図3図8の差異を中心に説明する。
【0054】
[PQ制御モードの動作2]
以下、図8を用いて、第1の実施形態のPQ制御モードにおける各構成要素の動作と差異がある部分について説明し、後に第1の実施形態の単独運転モード実行時における各構成要素の動作と差異がある部分について説明する。
【0055】
ローパスフィルタ133は、交流電流制御部120により出力された移行前有効分電圧指令値Vd*をフィルタリングし、フィルタ済移行前有効分電圧指令値Vd*!を導出する。ローパスフィルタ133は、例えば、1サイクルの移行前有効分電圧指令値Vd*の移動平均値を取得することで、系統事故に由来する電圧の歪みを除去する。ローパスフィルタ133は、フィルタ済移行前有効分電圧指令値Vd*!を選択部134に出力する。
【0056】
選択部134は、単独運転移行信号Sを受信しなかった場合、ローパスフィルタ133により出力されたフィルタ済移行前有効分電圧指令値Vd*!を出力すると選択する。選択部134は、選択した電圧指令値をレートリミッタ135へ出力する。
【0057】
レートリミッタ135は、選択部134により出力された電圧指令値に所定の処理を行って導出した値を出力する。所定の処理とは、例えば、一定期間の電圧指令値を平均化して出力することである。また、レートリミッタ135は、一次遅れに置き換える等の処理を行ってもよい。
【0058】
同様に、ローパスフィルタ136は、フィルタ済移行前無効分電圧指令値Vq*!を導出し、選択部137に出力する。選択部137は、単独運転移行信号Sを受信しなかった場合、ローパスフィルタ136により出力されたフィルタ済移行前無効分電圧指令値Vq*!を出力すると選択する。選択部137は、選択した電圧指令値をレートリミッタ138へ出力する。レートリミッタ138は、選択部137により出力された電圧指令値に所定の処理を行って導出した値を出力する。レートリミッタ138は、レートリミッタ135と同様に、一次遅れに置き換える等の処理を行ってもよい。なお、交流電圧制御部130Aによって導出される電圧指令値は「第3の電圧指令値」の一例である。
【0059】
[単独運転モード実行時の動作2]
以下、単独運転モード実行時の制御装置100の各構成要素の動作の差異について説明する。
【0060】
選択部134は、単独運転移行信号Sを受信した場合、移行後有効分電圧指令値Vd*#を出力すると選択する。選択部134は、選択した電圧指令値をレートリミッタ135へ出力する。レートリミッタ135は、PQ制御モード時と同様に、選択部134により出力された電圧指令値に所定の処理を行って導出した値を出力する。同様に、選択部137は、単独運転移行信号Sを受信した場合、移行後無効分電圧指令値Vq*#を出力する。選択部137は、選択した電圧指令値をレートリミッタ138へ出力する。レートリミッタ138は、選択部137により出力された電圧指令値に所定の処理を行って導出した値を出力する。
【0061】
図9は、第2の実施形態の制御装置100Aによる切替制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。図9に示すフローチャートは、図6のフローチャートと比較してステップS110がステップS118に置換されている点が異なる。したがって、以下ではステップS118について説明する。
【0062】
ステップS104において単独運転移行信号Sを受信しなかった場合、交流電圧制御部130は、フィルタ済移行前有効分電圧指令値Vd#!およびフィルタ済移行前無効分電圧指令値Vq#!を出力する(ステップS118)。以上、本フローチャートの説明を終了する。
【0063】
上述したように第2の実施形態の制御装置100Aによれば、第1の実施形態と同様の効果を奏する他、ローパスフィルタ133および136によって系統事故に起因する電圧歪みの影響を小さくすることができ、電力変換器50の運転継続性を高めることができる。
【0064】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、単独運転移行信号Sに基づいて第1の電圧指令値である移行前有効分電圧指令値Vd*と移行前無効分電圧指令値Vq*、または第2の電圧指令値である移行後有効分電圧指令値Vd*#と移行後無効分電圧指令値Vq*#を選択的に出力するよう制御する交流電圧制御部130と、電力変換器50に出力するゲート信号を生成するパルス生成部180とを持つことにより、交流系統において電力が低下した所定状態への切替を安定的に行うことができる。また、位相導出部140によれば、制御装置100の制御対象である電力変換器50がPQ制御モードからCVCF制御モードへモード変更する際の切替をシームレスに行わせることができる。また、偏磁解消制御部150によれば、励磁突入電流に起因する電圧変動の解消を早めることができ、CVCF制御モードへの切り替え後の電圧を安定化させることができる。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0066】
1…直流母線、2、6…交流母線、3…交流送電線、4…遮断部、5…変圧器、7、7-1、7-2…電流検出器、8、8-1、8-2…電圧検出器、50-1、50-2…電力変換器、100、100-1、100-2…制御装置、110、112…dq変換部、120…交流電流制御部、130、130A…交流電圧制御部、131、132、145、153…選択部、133、136…ローパスフィルタ、135、138、154…レートリミッタ、140…位相導出部、141…PLL、142、152…サンプルホールド、143、151…積分部、144、155…加算部、150…偏磁解消制御部、160…dq逆変換部、170…3相電圧補正部、180…パルス生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9