(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】多段変換器の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220404BHJP
【FI】
H02M7/48 E
(21)【出願番号】P 2018111390
(22)【出願日】2018-06-11
【審査請求日】2021-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】玉田 俊介
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-063687(JP,A)
【文献】特開2006-320103(JP,A)
【文献】特開2002-233180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、前記直流電源と並列に接続した正レグおよび負レグと、をそれぞれ備えた複数の単位変換器を直列に接続した多段変換器を制御する制御装置であって、
前記多段変換器の出力電圧指令と、前記直流電源の電圧とを用いて変調率を演算する変調率演算部と、
前記変調率に基づいて、複数の前記単位変換器の前記正レグの上アームと前記負レグの上アームとを駆動するゲート信号の位相シフト量を生成する位相シフト量生成部と、
出力電圧基本波周波数で複数の前記単位変換器を駆動する信号であって、オンパルス幅とオフパルス幅とが同一であり、オンパルス幅の中心が前記出力電圧指令の位相に対して前記位相シフト量進んだ第1ゲート信号若しくは前記位相シフト量遅れた第3ゲート信号と、オフパルス幅の中心が前記出力電圧指令の位相に対して前記位相シフト量遅れた第2ゲート信号若しくは前記位相シフト量進んだ第4ゲート信号とを生成し、前記第1ゲート信号を複数の前記単位変換器の前記正レグの前記上アームの前記ゲート信号とし、前記第2ゲート信号を複数の前記単位変換器の前記負レグの前記上アームの前記ゲート信号とする、若しくは前記第3ゲート信号を複数の前記単位変換器の前記正レグの前記上アームの前記ゲート信号とし、前記第4ゲート信号を複数の前記単位変換器の前記負レグの前記ゲート信号とするゲート信号生成部と、を備え、
前記ゲート信号生成部は、前記変調率を変更する際に、変更前の前記変調率に対応する前記ゲート信号と、変更後の前記変調率に対応する前記ゲート信号とが異なる値であって、現時点から前記変更前の前記変調率に対応する前記ゲート信号のレベルが変わる前の期間に前記変更後の前記変調率に対応する前記ゲート信号のレベルが変わると判断したとき、前記変更後の前記変調率に対応する前記ゲート信号のレベルと前記変更前の前記変調率に対応する前記ゲート信号とが同じレベルになった後に前記変調率を変更する、多段変換器の制御装置。
【請求項2】
直流電源と、前記直流電源と並列に接続した正レグおよび負レグと、をそれぞれ備えた複数の単位変換器を直列に接続した多段変換器を制御する制御装置であって、
前記多段変換器の出力電圧指令と、前記直流電源の電圧とを用いて変調率を演算する変調率演算部と、
前記変調率に基づいて、複数の前記単位変換器の前記正レグの上アームと前記負レグの上アームとを駆動するゲート信号の位相シフト量を生成する位相シフト量生成部と、
出力電圧基本波周波数で複数の前記単位変換器を駆動する信号であって、オンパルス幅とオフパルス幅とが同一であり、オンパルス幅の中心が前記出力電圧指令の位相に対して前記位相シフト量進んだ第1ゲート信号若しくは前記位相シフト量遅れた第3ゲート信号と、オフパルス幅の中心が前記出力電圧指令の位相に対して前記位相シフト量遅れた第2ゲート信号若しくは前記位相シフト量進んだ第4ゲート信号とを生成し、前記第1ゲート信号を複数の前記単位変換器の前記正レグの前記上アームの前記ゲート信号とし、前記第2ゲート信号を複数の前記単位変換器の前記負レグの前記上アームの前記ゲート信号とする、若しくは前記第3ゲート信号を複数の前記単位変換器の前記正レグの前記上アームの前記ゲート信号とし、前記第4ゲート信号を複数の前記単位変換器の前記負レグの前記ゲート信号とするゲート信号生成部と、を備え、
前記ゲート信号生成部は、前記多段変換器の出力電流の検出値に基づいて、複数の前記単位変換器へ出力する前記ゲート信号の中で、前記出力電流が正のときに前記正レグの前記上アームをターンオンする前記ゲート信号、および、前記出力電流が負のときに前記負レグの前記上アームをターンオンする前記ゲート信号について、前記位相シフト量にデットタイム時間の角度相当量を加算若しくは減算して電圧補償後の位相シフト量を演算し、前記電圧補償後の位相シフト量だけ位相をシフトさせる、多段変換器の制御装置。
【請求項3】
複数の前記位相シフト量は、前記多段変換器の基本波振幅を制約条件として、所定次数の高調波の和が最小となる組み合わせである、請求項1又は請求項2記載の多段変換器の制御装置。
【請求項4】
N段の前記単位変換器を制御する制御装置であって、
複数の前記位相シフト量は、基本波振幅の方程式と、高調波振幅をゼロとするN-1の方程式との連立方程式を満たす組み合わせである、請求項1又は請求項2記載の多段変換器の制御装置。
【請求項5】
前記位相シフト量生成部は、所望の前記変調率に対する前記位相シフト量の値を格納したテーブルを備える、請求項1乃至請求項4いずれか1項記載の多段変換器の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、多段変換器の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータに代表される半導体電力変換器の大容量手法として、複数台の電力変換器出力を直列接続し高電圧を得る手法がある。これは多段変換器やMMC(Modular Multilevel Converter)と呼ばれ系統連系変換器や電動機駆動用変換器等の主に大容量変換器に応用されている。
【0003】
多段変換器は、それぞれキャパシタや整流器等の直流電源を有した単位変換器の出力を多直列接続する回路構成により複数レベルの電圧出力が得られるという特徴を持つ。このような特徴から複数ステップの電圧出力が得られ正弦波に近い出力を直接得ることができる。変換器段数が増えるほどにそのステップ数は増加することから変換器段数が多い場合は各スイッチング素子をPWMのような高速スイッチングせずに出力電圧基本波周波数で駆動するワンパルス駆動で歪の少ない出力電圧が得られる。ワンパルス駆動ではPWMと比較しスイッチング周波数を抑制できるため毎スイッチング発生するスイッチング損失を低減でき、変換器損失の低減、冷却器の削減効果が期待することができる。
【0004】
多段変換器を動作させるには、単位電力変換器を単体の変換器と同じように三角波キャリア比較等でPWM変調を行い動作させることが可能だが、ワンパルス変調を行う場合は従来のキャリア比較で動作させることが困難である。そこで単位変換器としてHブリッジを用いた多直列変換器のワンパルス変調法が非特許文献1で提案されている。
【0005】
この方式では多段変換器の出力電圧指令と、正と負とに変換器段数と同一個数の電圧ステップを持つ閾値と比較し、指令と閾値が交差する点で各変換器をスイッチングすることでワンパルス変調を実現する方式である。指令と閾値とを比較するシンプルな構成のため容易にワンパルス制御が実装できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】児山 裕史, 長谷川 隆太, 新井 卓郎「デルタ結線モジュラー・マルチレベルSTATCOMの1パルス制御」,電学論D,Vol.137 No.3 pp.246-255(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、出力電圧指令の大きさに応じて電圧出力する変換器段数が変化するため、出力電圧が小さいときには電圧出力する変換器の段数が少なくなり、変換器利用率が低下する。また、電圧を出力しない変換器は、スイッチングを行わずバイパス状態となるため、出力電圧が小さい領域では出力段数低下に伴い低次高調波が増加し、電圧歪が増加することがあった。
【0008】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであって、高調波の発生を抑制し、電圧歪を低減するワンパルス駆動を実現可能な多段変換器の制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態による多段変換器の制御装置は、直流電源と、前記直流電源と並列に接続した正レグおよび負レグと、をそれぞれ備えた複数の単位変換器を直列に接続した多段変換器を制御する制御装置であって、前記多段変換器の出力電圧指令と、前記直流電源の電圧とを用いて変調率を演算する変調率演算部と、前記変調率に基づいて、複数の前記単位変換器の前記正レグの上アームと前記負レグの上アームとを駆動するゲート信号の位相シフト量を生成する位相シフト量生成部と、出力電圧基本波周波数で複数の前記単位変換器を駆動する信号であって、オンパルス幅とオフパルス幅とが同一であり、オンパルス幅の中心が前記出力電圧指令の位相に対して前記位相シフト量進んだ第1ゲート信号若しくは前記位相シフト量遅れた第3ゲート信号と、オフパルス幅の中心が前記出力電圧指令の位相に対して前記位相シフト量遅れた第2ゲート信号若しくは前記位相シフト量進んだ第4ゲート信号とを生成し、前記第1ゲート信号を複数の前記単位変換器の前記正レグの前記上アームの前記ゲート信号とし、前記第2ゲート信号を複数の前記単位変換器の前記負レグの前記上アームの前記ゲート信号とする、若しくは前記第3ゲート信号を複数の前記単位変換器の前記正レグの前記上アームの前記ゲート信号とし、前記第4ゲート信号を複数の前記単位変換器の前記負レグの前記ゲート信号とするゲート信号生成部と、を備え、前記ゲート信号生成部は、前記変調率を変更する際に、変更前の前記変調率に対応する前記ゲート信号と、変更後の前記変調率に対応する前記ゲート信号とが異なる値であって、現時点から前記変更前の前記変調率に対応する前記ゲート信号のレベルが変わる前の期間に前記変更後の前記変調率に対応する前記ゲート信号のレベルが変わると判断したとき、前記変更後の前記変調率に対応する前記ゲート信号のレベルと前記変更前の前記変調率に対応する前記ゲート信号とが同じレベルになった後に前記変調率を変更する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1実施形態の多段変換器の制御装置を概略的に示す図である。
【
図2】
図2は、変調率と位相シフト量との関係の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、変調率と位相シフト量との関係の他の例を示す図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す多段変換器を駆動するゲート信号と出力電圧との一例を示す図である。
【
図5】
図5は、多段変換器の変調率を変更したときのゲート信号波形の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、変更前の変調率に対応するゲート信号と、変更後の変調率に対応するゲート信号と、所定のタイミングで変調率を変更したときのゲート信号との一例を示す図である。
【
図7】
図7は、変更前の変調率に対応するゲート信号と、変更後の変調率に対応するゲート信号と、所定のタイミングで変調率を変更したときのゲート信号との他の例を示す図である。
【
図8】
図8は、本実施形態の多段変換器の制御装置にて、変調率を変更するタイミングを決定する動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図9】
図9は、本実施形態の多段変換器の制御装置の動作の一例を説明する図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態の多段変換器の制御装置の動作の一例を説明するための図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態の多段変換器の制御装置において、誤差電圧を補償する動作の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の多段変換器の制御装置について、図面を参照して説明する。
図1は、第1実施形態の多段変換器の制御装置を概略的に示す図である。
【0012】
本実施形態の制御装置は、例えば4つのアームから構成されるHブリッジを単位変換器とした多段変換器1の動作を制御する制御装置である。
多段変換器1は、2つの出力端子を備えている。以下の説明において、多段変換器1の一方の出力端子を正側出力端子TPとし、他方の出力端子を負側出力端子TNとする。
【0013】
多段変換器1は、複数の単位変換器11~14を備える。単位変換器11~14のそれぞれは、上アームS1と下アームS2とを備えた正レグLPと、上アームS3と下アームS4とを備えた負レグLNと、を並列に接続したHブリッジ回路である。
【0014】
多段変換器1は、単位変換器11~14の正レグLPの上アームS1と下アームS2との間に位置する出力端子と、負レグLNの上アームS3と下アームS4との間に位置する出力端子とを、単位変換器11~14間で直列接続した構成を備える。なお、多段変換器1は、少なくとも2段の単位変換器を直列接続した構成であればよく、段数の上限を特に設ける必要はない。
【0015】
以下の説明おいて、N個の単位変換器を直列接続した多段変換器において、正側出力端子と接続した単位変換器を1段目の単位変換器とし、負側出力端子と接続した単位変換器をN段目の単位変換器とし、直列に接続したN個の単位変換器が並んだ順に1段目、2段目、…N段目と称する。
図1に示す例では、多段変換器は4つの単位変換器11~14を備え、正側出力端子TPと接続した単位変換器11が1段目であり、負側出力端子TNと接続した単位変換器14が4段目であり、直列に接続した4つの単位変換器11~14が並んだ順に単位変換器12が2段目であり、単位変換器13が3段目である。
【0016】
単位変換器11~14は同じ構成である。単位変換器11~14のそれぞれは、正レグLPと、負レグLNと、直流電源PSと、電圧センサSVと、電流センサ(図示せず)と、を備えている。
【0017】
電圧センサSVは、直流電源PSの電圧を検出し、検出値を制御装置2へ出力する。
電流センサは、多段変換器1の出力電流の検出値(もしくは、複数の単位変換器11~14いずれかの出力電流の検出値)を、制御装置2へ出力する。
【0018】
複数の単位変換器11~14それぞれにおいて、多段変換器1の正側出力端子TP若しくは自身よりも正側の単位変換器と接続したレグを正レグLPとし、負側出力端子TN若しくは自身よりも負側の単位変換器と接続したレグを負レグLNとする。正レグLPと負レグLNとは直流電源PSであるキャパシタと並列に接続している。
【0019】
複数の単位変換器11~14それぞれにおいて、4つのアーム(2つの上アームS1、S3および2つの下アームS2、S4)それぞれは、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ:Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(半導体電界効果トランジスタ:metal-oxide semiconductor field-effect transistor)などの半導体素子にダイオードを逆並列接続した半導体スイッチング素子、若しくは、MOSFET(半導体電界効果トランジスタ:metal-oxide semiconductor field-effect transistor)を備える。
【0020】
単位変換器11~14それぞれの正レグLPおよび負レグLNのそれぞれにおいて、上アームS1、S3と下アームS2、S4との半導体スイッチング素子はそれぞれ反転動作をし、上アームS1、S3の半導体スイッチング素子がオンしているときに下アームS2、S4の半導体スイッチング素子はオフ動作となる。ただし、上アームS1、S3と下アームS2、S4との短絡を防止するため、上アームS1、S3と下アームS2、S4との両方の半導体スイッチング素子をオフにするデットタイム期間を設けるときには、上アームS1、S3と下アームS2、S4との半導体スイッチング素子を同時にオフとなるようにデットタイム期間が設けられる。
【0021】
多段変換器1の構成は
図1に示したものに限定されるものではない。例えば、単位変換器の直流部には、キャパシタに替えて蓄電池等のエネルギー蓄積要素を接続してもよい。また単位変換器11~14の直流部を、整流器を介して交流電源および変圧器と接続してもよい。また、三組の多段変換器出力をスター結線、デルタ結線、又は、V結線とすることで三相出力とすることも可能である。
【0022】
制御装置2は、変調率演算部21と、位相シフト量生成部22と、ゲート信号生成部23と、を備えている。
【0023】
本実施形態では、制御装置2は多段変換器1をワンパルス駆動にて動作させる。ワンパルス駆動では、単位変換器11~14の半導体スイッチング素子を出力電圧基本波周波数にて駆動する。ワンパルス駆動ではPWM駆動と比較しスイッチング周波数を抑制できるためスイッチングするときに発生する損失を低減することができ、変換器損失の低減、冷却器の削減効果が期待できる。
【0024】
制御装置2は、単位変換器11~14のレグLP、LNを、オンとオフとの時間幅が同一(Duty50%)であるスイッチングパルス(ゲート信号)で駆動し、そのゲート信号の位相を各レグで調整することにより出力電圧を調整する。このとき位相調整量(位相シフト量)は、それぞれ、正側レグLPの上アームS1のゲート信号のオンパルス幅の中心と、負側レグLNの上アームS3のゲート信号のオフパルス幅の中心とが、出力電圧に対して進み遅れ同一位相量になるよう位相操作を行う。
【0025】
変調率演算部21は、単位変換器11~14の直流電源PSの電圧VDCと、電圧指令値V*とを用いて、変調率Mを演算する。変調率演算部21にて演算された変調率Mは、位相シフト量生成部22に入力される。変調率演算部21は、例えば後述の(4)式を用いて変調率Mを演算する。
【0026】
位相シフト量生成部22は、入力された変調率Mに対応する、単位変換器11~14の各レグLP、LNの位相シフト量を出力する。正レグLP、負レグLNは単位変換器11~14の段数分存在するため、進み遅れ位相操作量(位相シフト量)は変換器段数分必要となる。
図1に示す例では単位変換器の段数が4段であるため、位相シフト量生成部22は4つの位相シフト量α
1~α
4を出力する。
【0027】
進み遅れ均等シフトした場合の位相シフト量α
nと多段変換器の出力電圧の基本波振幅の関係を次式に示す。ただし、V
DCは単位変換器11~14それぞれの直流電源PSの電圧値とし、本実施形態では複数の直流電源電圧V
DCは等しいと仮定する。なお、Nは多段変換器を構成する単位変換器の段数である。
【数1】
【0028】
また基本波v
1は次式により定義される。下記(2)式において、ωは出力電圧角周波数である。
v
1=V
1cosωt (2)
上記(1)式から、
図1に示す4段構成の場合の基本波振幅量は下記(3)式で表される。
【数2】
【0029】
ここで、各段の直流電源電圧V
DCの和と出力基本波振幅V
1との比を変調率Mとして下記(4)式の通り定義する。
【数3】
k次の高調波電圧は以下式で求められる。
【数4】
【0030】
位相シフト量生成部22は、上記(5)式で得られるk次の高調波電圧を用いて、制約条件とする所望の出力基本波振幅V1を満たす位相シフト量α1~α4の組み合わせの中から、所定の評価関数を用いて位相シフト量α1~α4を選択することができる。ここで用いる評価関数には、例えば、高調波電圧の総和もしくは特定次高調波電圧を最小とする評価関数、電圧から算出した電流に基づく高調波電流の総和もしくは特定次高調波電流を最小とする評価関数等を採用することができる。
【0031】
図2は、変調率と位相シフト量との関係の一例を示す図である。なお、ここでは、位相シフト量α
1~α
4はα
1<α
2<α
3<α
4であるものとしている。
上記(3)式乃至(5)式より、所望の変調率M(又は出力電圧)を得るための位相シフト量α
1~α
4の組み合わせは無数にあることが分かる。例えば、
図2の変調率Mと位相シフト量α
1~α
4との関係は、変調率Mを制約条件として、それを満たす位相シフト量α
1~α
4の複数の組み合わせの中から高調波電流の総和(例えば3次~39次高調波の和)が最小となる位相シフト量α
1~α
4を演算した例である。また、非線形連立方程式の解から位相シフト量α
1~α
4を算出することも可能である。なお、本実施形態では、位相シフト量α
1~α
4はゼロより大きく180°未満の範囲とする。
【0032】
また、位相シフト量生成部22は、生成する位相シフト量の数(多段変換器の段数)の方程式を用いた連立方程式により、単位変換器の段数の位相シフト量を生成することができる。
【0033】
本実施形態では、位相シフト量生成部22は、例えば、基本波振幅の方程式と、他の3つ(=多段変換器の段数-1)の高調波振幅の方程式との連立方程式により、位相シフト量α1~α4を算出することができる。
【0034】
図3は、変調率と位相シフト量との関係の他の例を示す図である。なお、ここでは、位相シフト量α
1~α
4はα
1<α
2<α
3<α
4であるものとしている。
ここでは、例えば下記式のように、基本波振幅と、3次高調波振幅と、5次高調波振幅と、7次高調波振幅とをそれぞれゼロとする方程式を用いた下記連立方程式により算出した4つの位相シフト量α
1~α
4の一例を示している。
【数5】
【0035】
位相シフト量生成部22は、上記のように予め演算された位相シフト量α1~α4を利用して、例えば、変調率Mに対応する位相シフト量α1~α4のテーブルを備えていてもよい。
【0036】
図4は、
図1に示す多段変換器を駆動するゲート信号と出力電圧との一例を示す図である。
ゲート信号生成部23は、位相シフト量生成部22から位相シフト量α
1~α
4を受信し、4つの単位変換器11~14に供給される、正レグLPの上アームS1のゲート信号(第1ゲート信号)S
pα1~S
pα4と、負レグLNの上アームS3のゲート信号(第2ゲート信号)S
nα1~S
nα4とを生成する。本実施形態では、ゲート信号のオン時間とオフ時間とは等しく(Duty50%であり)、それぞれ位相が180°の期間とする。
【0037】
ゲート信号生成部23は、例えば負レグLNの上アームS3のゲート信号(第2ゲート信号)Snα1~Snα4の時間軸方向におけるオフパルス幅の中心を電圧指令の位相(0°の位置)よりも位相シフト量α1~α4の位相を遅らせて、正レグLPの上アームS1のゲート信号(第1ゲート信号)Spα1~Spα4の時間軸方向におけるオンパルス幅の中心を電圧指令の位相(0°の位置)よりも位相シフト量α1~α4の位相を進ませる。
【0038】
上記のように、ゲート信号生成部23は、電圧指令の位相を基準として位相シフト量α1~α4の位相を調整して、正レグLPの上アームS1のゲート信号を4つ、負レグLNの上アームS3のゲート信号を4つ生成する。ゲート信号生成部23は、正レグLPの上アームS1のゲート信号を反転して下アームS2のゲート信号を生成し、負レグLNの上アームS3のゲート信号を反転して下アームS4のゲート信号を生成する。
【0039】
なお、本実施形態では、ゲート信号Spα1は、ゲート信号のオンパルス幅の中心を位相シフト量α1シフトした(進ませた)信号であり、ゲート信号Spα2は、ゲート信号のオンパルス幅の中心を位相シフト量α2シフトした(進ませた)信号であり、ゲート信号Spα3は、ゲート信号のオンパルス幅の中心を位相シフト量α3シフトした(進ませた)信号であり、ゲート信号Spα4は、ゲート信号のオンパルス幅の中心を位相シフト量α4シフトした(進ませた)信号である。
【0040】
また、ゲート信号Snα1は、ゲート信号のオフパルス幅の中心を位相シフト量α1シフトした(遅らせた)信号であり、ゲート信号Snα2は、ゲート信号のオフパルス幅の中心を位相シフト量α2シフトした(遅らせた)信号であり、ゲート信号Snα3は、ゲート信号のオフパルス幅の中心を位相シフト量α3シフトした(遅らせた)信号であり、ゲート信号Snα4は、ゲート信号のオフパルス幅の中心を位相シフト量α4シフトした(遅らせた)信号である。
【0041】
ゲート信号生成部23は、正レグLPと負レグLNとのそれぞれにおいて、上アームS1、S3と下アームS2、S4とに互いに反転した関係のゲート信号が供給されるように、複数の単位変換器11~14へ生成したゲート信号を出力する。
【0042】
なお、本実施形態では、ゲート信号生成部23は、ゲート信号Spα1~Spα4を、単位変換器11~14のいずれの正レグLPに割り当ててもよく、負レグLNの上アームS3のゲート信号Snα1~Snα4を、単位変換器11~14のいずれの負レグLNに割り当ててもよい。
【0043】
本実施形態の多段変換器の制御装置によれば、多段変換器1の変調率が低いときにも全ての単位変換器11~14のレグLP、LNがスイッチングする。また各段の単位変換器11~14をワンパルス駆動にて動作させても、多段変換器1の出力電圧の総和は疑似的にPWM変調のような波形となり、低次高調波の発生が抑制できる。
【0044】
また、ゲート信号の位相シフト量を上記のように規定することで、
図3に示すように、出力電圧ゼロのタイミングおよびその前後の時間領域にて、すべての単位変換器11~14のレグLP、LNの上アームS1、S3がオン、もしくは、すべての上アームS1、S3がオフ状態となる。
【0045】
例えば、ワンパルス駆動を行う際に、デューティ比50%のゲート信号のオフパルス幅中心およびオンパルス幅中心が電圧指令から遅れも進みもない場合(位相シフト量がゼロの場合)には、ゲート信号は電圧指令の位相が90°および-90°のタイミングにて切り替わることとなる。
【0046】
これに対し、本実施形態では、負レグLNの上アームS3のゲート信号のオフパルス幅の中心を電圧指令より遅らせ、正レグLPの上アームS1のゲート信号のオンパルス幅の中心を電圧指令より進ませている。これにより、負レグLNの上アームS3のゲート信号の消弧タイミングは、オフ幅中心より-90°の地点となり、電圧指令の位相が-90°に至る前にすべての負レグLNの上アームS3はターンオフする。また、負レグLNの上アームS3のゲート信号の点弧タイミングは、オフパルス幅中心より+90°の地点となり、電圧指令の位相が90°に至る前にすべての負レグLNの上アームS3はターンオンする。
【0047】
一方、位相シフト量がゼロの場合には、正レグLPの上アームS1のゲート信号の点弧タイミングは、オンパルス幅の中心より-90°地点となる。これに対し、本実施形態では、正レグLPの上アームS1のゲート信号のオンパルス幅中心を電圧指令の0°の位置よりも進めるため、正レグLPの上アームS1のゲート信号は、電圧指令の位相が-90°以降の地点ですべての正レグLPの上アームS1がターンオンする。また、正レグLPの上アームS1のゲート信号の消弧タイミングは、オンパルス幅中心より+90°の地点となり、電圧指令の位相が90°以降の地点ですべての正レグLPの上アームS1がターンオフする。
【0048】
以上のことから電圧指令の位相が-90°であるタイミングではすべての上アームS1、S3がターンオフした状態であり、電圧指令の位相が+90°であるタイミングではすべての上アームS、S3がターンオンした状態であり、多段変換器1の出力電圧がゼロとなるタイミングでは、すべての単位変換器11~14の出力電圧もゼロとなる。
【0049】
出力電圧がゼロになるタイミングは、出力電圧の毎周期において-90°と+90°との2回存在する。このタイミングにて、すべての単位変換器11~14のすべてのレグLP、LNのスイッチング状態が同一となるため、例えば、複数の単位変換器11~14間の正レグLP内又は負レグLN内でゲート信号を入れ替えたりすることが可能となる。すなわち、出力電圧がゼロとなるタイミングでは、全てのレグにてスイッチング状態が同一のため、ゲート信号が切り替わったとしても、前後でスイッチング状態が変化せず、出力電圧に影響なくゲート信号の入れ替えが可能となる。また、毎周期2回の入れ替えが可能となる。
【0050】
次に、上記多段変換器1の制御装置2において、例えば多段変換器1の出力電圧指令V*の変化に応じて、ゲート信号の位相を変更するときの制御装置2の動作の一例について説明する。
【0051】
本実施形態では、制御装置2は、多段変換器1の出力電圧指令が変わったとき、すなわち変調率が変わったときに、現在単位変換器11~14を駆動しているゲート信号と、変化後の変調率により求められたゲート信号とを比較して、比較結果に基づいて多段変換器1の変調率を変更するタイミングを決定する。
【0052】
図5は、多段変換器の変調率を変更したときのゲート信号波形の一例を示す図である。
例えば、
図5に示す例の1段目の単位変換器11を駆動するゲート信号に着目すると、変調率を変更したことにより、負レグLNの上アームS3を駆動するゲート信号の一周期に2つのパルスが生じている。
【0053】
また、
図5に示す例の2段目の単位変換器12を駆動するゲート信号に着目すると、変調率を変更したことにより、正レグLPの上アームS1を駆動するゲート信号の一周期に2つのパルスが生じている。
【0054】
この例のように、一周期に2つのパルスが生じると、一周期におけるスイッチング回数が多くなり、短期間に複数のスイッチングを行わなければならなくなり、一時的にスイッチング周波数が高くなる可能性があった。また、一周期におけるスイッチング回数が多くなると、単位変換器でのスイッチング損失が大きくなる原因となる。
【0055】
図6は、変更前の変調率に対応するゲート信号と、変更後の変調率に対応するゲート信号と、所定のタイミングで変調率を変更したときのゲート信号との一例を示す図である。
ここでは、変更前の変調率に対応するゲート信号Aと、変更後の変調率に対応するゲート信号Bと、を示している。
【0056】
所定の変更タイミングにおいて、ゲート信号Aはハイレベルであり、ゲート信号Bはローレベルであって、変調率変更後のゲート信号がハイレベルからローレベルへ変化する。変調率変更後のゲート信号は、次に、ゲート信号Bがハイレベルとなるタイミングでハイレベルとなり、その後はゲート信号Bと同じ波形となる。
【0057】
この例では、所定の変更タイミング後、ゲート信号Aのレベルが変わる前にゲート信号Bのレベルが変わっている。これにより、変調率変更後のゲート信号には一周期に2つのパルスが生じることとなる。
【0058】
図7は、変更前の変調率に対応するゲート信号と、変更後の変調率に対応するゲート信号と、所定のタイミングで変調率を変更したときのゲート信号との他の例を示す図である。
ここでは、変更前の変調率に対応するゲート信号Aと、変更後の変調率に対応するゲート信号Bと、を示している。
【0059】
この例では、所定の変更タイミングにおいて、ゲート信号Aはローレベルであり、ゲート信号Bはハイレベルであって、変調率変更後のゲート信号がローレベルからハイレベルへ変化する。変調率変更後のゲート信号は、次に、ゲート信号Bがローレベルとなるタイミングでローレベルとなり、その後はゲート信号Bと同じ波形となる。
【0060】
この例でも、所定の変更タイミング後、ゲート信号Aのレベルが変わる前にゲート信号Bのレベルが変わっている。これにより、変調率変更後のゲート信号には一周期に2つのパルスが生じることとなる。
【0061】
上記
図6および
図7に示すように、変調率を変更するタイミングにて、ゲート信号Aとゲート信号Bとのレベルが異なり、かつ、変調率を変更するタイミングから次にゲート信号Aのレベルが変わるまでの期間にゲート信号Bのレベルが変わっているときに、変調率変更後のゲートパルスの一周期に2つのパルスが生じることとなる。
そこで、本実施形態では、制御装置2は、ゲートパルスの一周期に2つのパルスが生じることがないように、変調率を変更するタイミングを決定している。
【0062】
図8は、本実施形態の多段変換器の制御装置にて、変調率を変更するタイミングを決定する動作の一例を説明するためのフローチャートである。
制御装置2のゲート信号生成部23は、例えば電圧指令V
*の値に基づいて変調率が変化したか否かを判断する(ステップS1)。変調率が変化していないときには、上記ステップS1を繰り返す。
【0063】
変調率が変化したと判断したとき、ゲート信号生成部23は、複数の単位変換器11~14全てのゲート信号について、変更前の変調率に対応するゲート信号と、変更後の変調率に対応するゲート信号とのレベルが異なるか否かを判断する(ステップS2)。
【0064】
複数の単位変換器11~14全てのゲート信号について、変更前と変更後とのゲート信号のレベルが同じであれば、ゲート信号生成部23は、変調率を変更して、変更後の変調率に対応するゲート信号を複数の単位変換器11~14へ出力する(ステップS4)。
【0065】
複数の単位変換器11~14全てのゲート信号について、変更前と変更後とのゲート信号のレベルが異なるものがあれば、ゲート信号生成部23は、現時点から変更前の変調率に対応するゲート信号のレベルが変わるまでの期間に、変更後の変調率に対応するゲート信号のレベルが変わるか否かを判断する(ステップS3)。
【0066】
ステップS3にて、変更前の変調率に対応するゲート信号のレベルが変わる前に、変更後の変調率に対応するゲート信号のレベルが変わらないときには、ゲート信号生成部23は、変調率を変更して、変更後の変調率に対応するゲート信号を複数の単位変換器11~14へ出力する(ステップS4)。
【0067】
ステップS3にて、変更前の変調率に対応するゲート信号のレベルが変わる前に、変更後の変調率に対応するゲート信号のレベルが変わるときには、ゲート信号生成部23は上記ステップS2に戻る。この場合には、ゲート信号生成部23は、変更前の変調率に対応するゲート信号のレベルがかわり、変調率の変更前と変更後とで、全てのゲート信号がステップS2、S3のいずれかでN判定となった後に、変調率を変更して変更後の変調率に対応するゲート信号を複数の単位変換器11~14へ出力することとなる(ステップS4)。
【0068】
図9は、本実施形態の多段変換器の制御装置の動作の一例を説明する図である。ここで示したゲート信号の波形は、変調率を変更するタイミング以外は
図5に示したものと同じ条件のものである。
この例では、ゲート信号生成部23は、例えば電圧指令に基づいて変調率が変化したと判断したときに、直ちに変更後の変調率に対応するゲート信号へ切り替えずに、
図8に示す手順にて変更前の変調率に対応したゲート信号と変更後の変調率に対応したゲート信号とを比較した結果に基づいて、変調率を変更するタイミングを決定している。
【0069】
例えば、
図5に示す例では、1段目の単位変換器11を駆動するゲート信号に着目すると、変調率を変更したことにより、負レグLNの上アームS3を駆動するゲート信号の一周期に2つのパルスが生じているが、
図9に示すように変調率を変更するタイミングを遅らせると、一周期に2つのパルスが生じることがなくなる。
【0070】
また、
図5に示す例の2段目の単位変換器12を駆動するゲート信号に着目すると、変調率を変更したことにより、正レグLPの上アームS1を駆動するゲート信号の一周期に2つのパルスが生じていが、
図9に示すように変調率を変更するタイミングを遅らせると、一周期に2つのパルスが生じることがなくなる。
上記のように、本実施形態によれば、高調波の発生を抑制し、電圧歪を低減するワンパルス駆動を実現可能な多段変換器の制御装置を提供することができる。
【0071】
次に、第2実施形態の多段変換器の制御装置について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、上述の第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0072】
本実施形態では、制御装置2は、複数の単位変換器11~14の正レグLPと負レグLNとのそれぞれにおいて、上アームと下アームとが同時に導通することを回避するために、上アームと下アームとの両方がオフとなるデッドタイムを設けている。
【0073】
図10は、第2実施形態の多段変換器の制御装置の動作の一例を説明するための図である。ここでは、任意の単位変換器において、ゲート信号の点弧タイミングを遅らせることにより、デッドタイムを設けたときの、単位変換器の出力電流と出力電圧との一例を示している。
なお、ここでは、単位変換器から負荷へ向かって流れる電流の向きを正とし、負荷から単位変換器へ向かって流れる電流の向きを負とする。
【0074】
図10に示すように、電流が正のときに、単位変換器の正レグLPの上アームS1がターンオンするとき(ゲート信号が点弧するとき)に、デッドタイム分の誤差電圧ΔVが生じる。
また、電流が負のときに、単位変換器の負レグLNの上アームS3がターンオンするとき(ゲート信号が点弧するとき)にも、デッドタイム分の誤差電圧ΔVが生じる。
【0075】
一方で、電流が負のときに、正レグLPの上アームS1がターンオンするとき(ゲート信号が点弧するとき)には、誤差電圧が生じなかった。また、電流が正のときに、負レグLNの上アームS3がターンオンするとき(ゲート信号が点弧するとき)には、誤差電圧が生じなかった。
【0076】
そこで、本実施形態では、制御装置2のゲート信号生成部23は、出力電流方向が正のときに、正レグLPの上アームをターンオンするゲート信号について、所望の変調率を得るための位相シフト量からデッドタイム時間の角度相当量分だけシフト量を加算もしくは減算する。
【0077】
また、制御装置2のゲート信号生成部23は、出力電流が負のときに、負レグLNの上アームS3をターンオンするゲート信号について、デッドタイム時間の角度相当量分のシフト量を、所望の変調率をえるための位相シフト量から加算もしくは減算する。このことにより、デッドタイムを設けたことにより発生する誤差電圧ΔVを補償することができる。
【0078】
なお、デッドタイム時間の角度相当量は、例えば、出力電圧周波数が50[Hz]で、3[μs]のデッドタイムを設けるとき、50[Hz]の1周期は20[ms]であり、20[ms]を360[°]とすると、3[μs]の角度相当量は、360[°]×3[us]/20[ms]=0.054[°]となる。
【0079】
図11は、第2実施形態の多段変換器の制御装置において、誤差電圧を補償する動作の一例を説明するための図である。
すなわち、ゲート信号生成部23は、受信した位相シフト量α
1~α
4を用いてゲート信号を生成した後、電流センサから受信した多段変換器1の出力電流の検出値に基づいて、単位変換器11~14へ出力するゲート信号の中で、出力電流が正のときに、正レグLPの上アームS1をターンオンするゲート信号があるか否か判断する。
【0080】
また、ゲート信号生成部23は、電流センサから受信した多段変換器1の出力電流の検出値に基づいて、単位変換器11~14へ出力するゲート信号の中で、出力電流が負の時に、負レグLNの上アームS3をターンオンするゲート信号があるか否か判断する。
【0081】
ゲート信号生成部23は、該当するゲート信号があったときに、該当するゲート信号の位相シフト量にデットタイム時間の角度相当量を加算若しくは減算して電圧補償後の位相シフト量を演算し、電圧補償後の位相シフト量だけ位相をシフトさせたゲート信号を生成して、複数の単位変換器11~14へゲート信号を出力する。
なお、デットタイム時間の角度相当量は相対量であるため、位相の進みと遅れとに対する符号の定義に応じて、位相シフト量に加算若しくは減算するものとすればよい。例えば、
図11に示す例における極性の場合には、位相シフト量に対してデットタイムの角度相当量を減算するか、もしくは減算しないかのみの選択となり、位相シフト量に対してデットタイムの角度相当量を加算することは行わない。
【0082】
図11に示した例では、正レグLPの上アームS1を駆動する4つのゲート信号の2つが、多段変換器1の出力電流が正のときにターンオンするものであり、ゲート信号生成部23は、これらのゲート信号の位相シフト量からデットタイム時間の角度相当量を減算して、電圧補償後の位相シフト量だけ位相をシフトさせたゲート信号を生成して、複数の単位変換器11~14へゲート信号を出力する。
【0083】
上記のように、本実施形態によれば、デッドタイムを設けたことによる出力電圧の誤差を補償することが可能であり、高調波の発生を抑制し、電圧歪を低減するワンパルス駆動を実現可能な多段変換器の制御装置を提供することができる。
【0084】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0085】
例えば、上述の実施形態では、ゲート信号生成部23は、負レグLNの上アームS3のゲート信号Snα1~Snα4の時間軸方向におけるオフパルス幅の中心を電圧指令の位相(0°の位置)よりも位相シフト量α1~α4の位相を遅らせて、正レグLPの上アームS1のゲート信号Spα1~Spα4の時間軸方向におけるオンパルス幅の中心を電圧指令の位相(0°の位置)よりも位相シフト量α1~α4の位相を進ませたものとしている。
【0086】
例えば、ゲート信号生成部23は、例えば負レグLNの上アームS3のゲート信号(第4ゲート信号)の時間軸方向におけるオフパルス幅の中心を電圧指令の位相(0°の位置)よりも位相シフト量α1~α4の位相を進ませて、正レグLPの上アームS1のゲート信号(第3ゲート信号)の時間軸方向におけるオンパルス幅の中心を電圧指令の位相(0°の位置)よりも位相シフト量α1~α4の位相を遅らせて、ゲート信号を生成してもよい。
【0087】
この場合も、ゲート信号生成部23は、上記のように電圧指令V*の位相を基準として位相シフト量α1~α4の位相を調整して、4つの正レグLPの上アームS1のそれぞれのゲート信号Spα1~Spα4、および、4つの負レグLNの上アームS3それぞれのゲート信号Snα1~Snα4を生成する。ゲート信号生成部23は、正レグLPの上アームS1のゲート信号を反転して下アームS2のゲート信号を生成し、負レグLNの上アームS3のゲート信号を反転して下アームS4のゲート信号を生成する。
【0088】
ゲート信号生成部23は、正レグLPと負レグLNとのそれぞれにおいて、上アームS1、S3と下アームS2、S4とに互いに反転した関係のゲート信号が供給されるように、複数の単位変換器11~14へ生成したゲート信号を出力する。なお、位相シフト量α
1~α
4が共通している場合には、
図3に示す場合と
図4に示す場合とにおける多段変換器1の出力は同じになる。
上記の場合にも上述の第1実施形態および第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0089】
1…多段変換器、2…制御装置、11~14…単位変換器、21…変調率演算部、22…位相シフト量生成部、23…ゲート信号生成部、100…変圧器、200…整流器、LP…正レグ、LN…負レグ、S1、S3…上アーム、S2、S4…下アーム、Snα1~Snα4、Spα1~Spα4…ゲート信号、α1~α4…位相シフト量、PS…直流電源、SV…電圧センサ、TP…正側出力端子、TN…負側出力端子、ΔV…電圧誤差。