IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本カーバイド工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-積層体の製造方法及び積層体 図1
  • 特許-積層体の製造方法及び積層体 図2
  • 特許-積層体の製造方法及び積層体 図3
  • 特許-積層体の製造方法及び積層体 図4
  • 特許-積層体の製造方法及び積層体 図5
  • 特許-積層体の製造方法及び積層体 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】積層体の製造方法及び積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20220404BHJP
   B32B 37/26 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B37/26
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018160707
(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2020032612
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】中島 純一
(72)【発明者】
【氏名】高松 威夫
(72)【発明者】
【氏名】内藤 純也
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-157551(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079596(WO,A1)
【文献】特開平6-329817(JP,A)
【文献】特開昭62-001538(JP,A)
【文献】特開2017-164959(JP,A)
【文献】特開2015-027736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 7/00-7/50
H05H 1/00-1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離剤層を一方の面側に有する剥離シートの前記剥離剤層側の面と、一方の面が露出する基材層の他方の面とを粘着剤層を介して接着する接着工程と、
前記剥離シートの他方の面に付着する付着物が当該他方の面から剥離することが抑制されるように、前記付着物に改質処理を施す改質工程と、
を備える
ことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記改質工程において、前記付着物にエネルギを付与し、前記付着物を当該付着物の結合エネルギよりも高い結合エネルギを有する別の物質に変化させる
ことを特徴とする請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記改質工程において、前記剥離シートの前記他方の面にエネルギを付与する
ことを特徴とする請求項2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記改質処理はコロナ処理とされる
ことを特徴とする請求項3に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記改質処理はプラズマ処理とされる
ことを特徴とする請求項3に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記付着物はシリコーンとされ、
前記改質工程において前記付着物をシリカに変化させる
ことを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記接着工程及び前記改質工程の後に、前記基材層の前記一方の面側に印刷層を設ける印刷工程を更に備える
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
剥離剤層を一方の面側に有する剥離シートと、
一方の面が露出する基材層と、
前記剥離シートの前記剥離剤層側の面と前記基材層の他方の面とを接着する粘着剤層と、
を備え、
前記剥離シートの他方の面には、前記剥離剤層の剥離剤に由来し、前記剥離剤の結合エネルギよりも高いエネルギで結合している物質が付着している
ことを特徴とする積層体。
【請求項9】
前記剥離剤はシリコーンとされ、前記物質はシリカとされる
ことを特徴とする請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
前記基材層の前記一方の面側に印刷層を更に備える
ことを特徴とする請求項8または9に記載の積層体。
【請求項11】
ロール状に巻かれている
ことを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法及び積層体に関し、具体的には、印刷適正を有する積層体の製造方法及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、印刷適正を有する積層体が知られており、例えば、下記特許文献1には、印刷適正を有し、任意の対象物に貼付させ得る積層体が記載されている。下記特許文献1に記載の積層体では、支持体と、粘着剤層と、剥離シートとがこの順で積層されている。この積層体では、支持体の粘着剤層側と反対側の面が露出し、当該面が印刷適正を有している。このような積層体では、剥離シートを粘着剤層から剥離して粘着剤層と対象物とを接触させることで、支持体を対象物に貼付させることができる。また、下記特許文献1には、剥離シートの一方の面にシリコーン等の剥離剤を含む剥離剤層を設け、この剥離剤層が粘着剤層に接触するように、支持体と、粘着剤層と、剥離シートとがこの順で積層されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-348550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような積層体は、例えば、支持体に粘着剤層を積層し、剥離シートの剥離剤層を粘着剤層に接着させることによって製造され、芯材等に巻き取られる。このように積層体が芯材等に巻き取られると、積層体の一方の面が当該積層体の他方の面に接触する。つまり、剥離シートの剥離剤層側と反対側の面と、支持体の粘着剤層側と反対側の面とが接触する。ところで、剥離剤層が設けられた剥離シートは、ロール状に巻かれた状態で納入される場合がある。この場合、剥離剤層は剥離シートの剥離剤層と反対側の面に接触するため、剥離剤層の剥離剤の一部が剥離シートの剥離剤層と反対側の面に付着することがある。このように剥離剤層と反対側の面に剥離剤が付着している剥離シートを用いて積層体が製造され、上記のようにこの積層体が芯材等に巻き取られると、剥離シートの剥離剤が付着している面が支持体の粘着剤層側と反対側の面に接触する。このため、支持体における粘着剤層側と反対側の面に剥離剤の一部が付着する場合があり、この付着する剥離剤によって支持体における粘着剤層側と反対側の面における濡れ性等が変化する場合がある。このため、支持体における粘着剤層側と反対側の面に印刷をすると、色ムラやインクのハジキ等が発生する虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、印刷性能の低下を抑制し得る積層体の製造方法及び積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的の達成のため、本発明の積層体の製造方法は、剥離剤層を一方の面側に有する剥離シートの前記剥離剤層側の面と、一方の面が露出する基材層の他方の面とを粘着剤層を介して接着する接着工程と、前記剥離シートの他方の面に付着する付着物が当該他方の面から剥離することが抑制されるように、前記付着物に改質処理を施す改質工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この積層体の製造方法では、上記のように、剥離シートの他方の面に付着する付着物が当該他方の面から剥離することが抑制されるように、付着物に改質処理が施される。このため、例えば、上記のように剥離剤層を有する剥離シートがロール状に巻かれて、剥離シートの剥離剤層側と反対側の面に剥離剤の一部が付着していても、この付着している剥離剤が剥離することが抑制される。このため、上記のように、積層体が芯材等に巻き取られたり、重ね合わされたりして、積層体の一方の面と他方の面とが接触しても、剥離シートの他方の面に付着する付着物に改質処理を施さない場合と比べて、積層体の一方の面である基材層における露出する面に付着する剥離剤の量を低減できる。このため、この積層体の製造方法では、剥離シートの他方の面に付着する付着物に改質処理を施さない場合と比べて、基材層の露出する面の濡れ性の低下が抑制され、この面に印刷をする際の色ムラやインクのハジキ等が発生することを抑制し得る。従って、この積層体の製造方法によれば、印刷性能の低下を抑制し得る積層体を製造し得る。なお、接着工程と改質工程との順序は特に限定されない。
【0008】
前記改質工程において、前記付着物にエネルギを付与し、前記付着物を当該付着物の結合エネルギよりも高い結合エネルギを有する別の物質に変化させることとしても良い。
【0009】
本発明者は、付着物にエネルギを付与して付着物を当該付着物の結合エネルギよりも高い結合エネルギを有する別の物質に変化させることで、エネルギが付与される前の付着物よりこの別の物質が剥離シートの他方の面から剥離しにくい場合があることを見出した。このため、改質処理として上記の処理を付着物に施すことで、付着物が剥離シートの他方の面から剥離することが抑制される。
【0010】
改質工程において付着物にエネルギを付与する場合、前記改質工程において、前記剥離シートの前記他方の面にエネルギを付与することとしても良い。
【0011】
この場合、前記改質処理はコロナ処理とされることとしても良く、或いは前記改質処理はプラズマ処理とされることとしても良い。
【0012】
改質工程において付着物にエネルギを付与する場合、前記付着物はシリコーンとされ、前記改質工程において前記付着物をシリカに変化させることとしても良い。
【0013】
上記の積層体の製造方法は、前記接着工程及び前記改質工程の後に、前記基材層の前記一方の面側に印刷層を設ける印刷工程を更に備えることとしても良い。
【0014】
また、本発明の積層体は、剥離剤層を一方の面側に有する剥離シートと、一方の面が露出する基材層と、前記剥離シートの前記剥離剤層側の面と前記基材層の他方の面とを接着する粘着剤層と、を備え、前記剥離シートの他方の面には、前記剥離剤層の剥離剤に由来し、前記剥離剤の結合エネルギよりも高いエネルギで結合している物質が付着していることを特徴とする。
【0015】
前記剥離剤はシリコーンとされ、前記物質はシリカとされることとしても良い。
【0016】
上記積層体は、前記基材層の前記一方の面側に印刷層を更に備えることとしても良い。
【0017】
上記積層体は、ロール状に巻かれていることとしても良い。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、印刷性能の低下を抑制し得る積層体の製造方法及び積層体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る積層体の厚さ方向断面の一部を概略的に示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る積層体の第1の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施形態に係る積層体の第1の製造方法を実施する製造装置を概略的に示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る積層体の第2の製造方法を実施する製造装置を概略的に示す図である。
図5】本発明の変形例に係る積層体の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図6】本発明の変形例に係る積層体の厚さ方向断面の一部を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る積層体を実施するための形態が添付図面とともに例示される。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、以下の実施形態から変更、改良することができる。また、以下に示す図のそれぞれにおいて、理解のし易さのため、各構成要素は大きさを誇張して示される場合がある。また、以下に示す図のそれぞれにおいて、同様の構成のものについては参照符号が一つだけ付され、繰り返しとなる参照符号は省略されている場合がある。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る積層体の厚さ方向断面の一部を概略的に示す図である。本実施形態の積層体10は可撓性を有し、図1に示すように、基材層1と、剥離シート2と、粘着剤層5と、を備える。以下、積層体10が備えるこれらの構成要素についてより詳細に説明する。
【0022】
基材層1は、積層体10の使用時に観察者側となる面F1が外部に露出し、この面F1に印刷を行うことができる層である。基材層1として、シート状の部材、例えば、再帰反射シート、樹脂フィルム、紙、紙の両面または一方の面が樹脂で被覆された積層体等が挙げられる。基材層1を構成する樹脂フィルムは、多層構造の樹脂フィルムであっても良く、単層構造の樹脂フィルムであっても良い。
【0023】
剥離シート2は、基材層1を基準として、当該基材層1の面F1側とは反対側に設けられ、可撓性を有するシート状の部材である。本実施形態では、剥離シート2は、剥離基材層3と、剥離基材層3における基材層1側に設けられる剥離剤層4とを有する。剥離基材層3として、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム等の樹脂フィルム、紙の両面または一方の面が樹脂で被覆された積層体等が挙げられる。剥離剤層4は、剥離剤を含む層であり、この剥離剤の一部が外部に露出している。剥離剤層4に含まれる剥離剤として、例えばシリコーン、フッ素系樹脂等が挙げられる。なお、剥離シート2は、一方の面側に剥離剤層4を有していれば良く、剥離基材層3及び剥離剤層4以外の層を有していても良い。例えば、剥離シート2は、剥離基材層3における剥離剤層4側とは反対側に印刷層を有していても良い。また、剥離シート2は、剥離剤層4のみから構成されても良い。
【0024】
このような剥離シート2の剥離剤層4側と反対側の面F2には、剥離剤層4の剥離剤に由来し、この剥離剤の結合エネルギよりも高いエネルギで結合している物質6が付着している。物質6は、例えば、剥離剤がシリコーンとされる場合にはシリカとされる。
【0025】
粘着剤層5は、基材層1と剥離シート2との間に設けられ、基材層1と剥離シート2とを接着する層である。具体的には、粘着剤層5は、剥離シート2の剥離剤層4側の面と基材層1の面F1と反対側の面とを接着する。
【0026】
粘着剤層5を構成する材料として、例えば、感圧粘着剤、感熱型粘着剤、架橋型粘着剤などから適宜選択することができる。感圧粘着剤として、例えば、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ノニルアクリレートなどのアクリル酸エステルをアクリル酸、酢酸ビニルなどと共重合して得られるポリアクリル酸エステル感圧粘着剤、シリコーン系樹脂感圧粘着剤、ゴム系感圧粘着剤等が挙げられる。感熱型粘着剤として、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。粘着剤層5に優れた耐候性及び粘着性を備えさせる観点からは、アクリル系樹脂またはシリコーン系樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
このようにして、剥離シート2は、粘着剤層5を介して基材層1に接着されている。積層体10が使用されるときには、剥離シート2は粘着剤層5から剥離され、外部に露出される粘着剤層5が被着体に貼り付けられる。一方、積層体10の使用前において、粘着剤層5の基材層1側と反対側は剥離シート2によって覆われるため、粘着剤層5にゴミ等が付着したり、粘着剤層5が意図しない場所に付着したりすることが抑制される。このような積層体10の一方の面は基材層1の印刷を行うことができる面F1であり、この積層体10の他方の面は剥離シート2の剥離剤層4側と反対側の面F2である。
【0028】
(第1の製造方法)
次に、積層体10の第1の製造方法について図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
図2は、本発明の実施形態に係る積層体の第1の製造方法の工程を示すフローチャートである。図2に示すように、本実施形態の積層体10の第1の製造方法は、準備工程P1、接着工程P2、改質工程P3を備える。また、図3は、本実施形態に係る積層体の第1の製造方法を実施する製造装置を概略的に示す図である。
【0030】
(準備工程P1)
本工程は、基材層1を構成するシート状の部材及び剥離剤層4を有する剥離シート2を準備する工程である。具体的には、基材層1を構成するシート状の部材が巻かれてなるシートロール101と、剥離シート2が巻かれてなるシートロール102とを用意する。本製造方法のシートロール101では、基材層1の面F1となる面が他方の面よりも内側に位置するように基材層1を構成するシート状の部材が巻かれている。また、本製造方法のシートロール102では、剥離剤層4が剥離基材層3よりも内側に位置するように剥離シート2が巻かれている。
【0031】
(接着工程P2)
本工程は、剥離シート2の剥離剤層4側の面と、基材層1の面F1と反対側の面とを粘着剤層5を介して接着する工程である。剥離シート2がシートロール102から巻き出される。シートロール102から巻き出されたこの剥離シート2は、ローラー111,112に架けられることによってテンションを加えられながら塗工装置120の下まで搬送される。塗工装置120の下まで搬送されたこの剥離シート2の剥離剤層4側の面には、塗工装置120によって粘着剤層5となる樹脂組成物が塗工される。すなわち、剥離シート2の剥離剤層4側の面に粘着剤層5となる樹脂組成物が塗工され、剥離シート2の剥離剤層4側の面に粘着剤層5が積層される。なお、粘着剤層5となる樹脂組成物を剥離シート2の剥離剤層4側の面に塗工する方法は特に限定されない。塗工装置120による塗工方法として、例えば、コンマコート、リップコート、ダイコート、ロールコート、グラビアコート等が挙げられる。
【0032】
基材層1を構成するシート状の部材がシートロール101から巻き出され、このシート状の部材である基材層1と上記のように粘着剤層5が積層された剥離シート2とが重ね合わされる。具体的には、基材層1の面F1と反対側の面が粘着剤層5に接触するように、粘着剤層5が積層された剥離シート2と基材層1とが重ね合わされる。また、押圧ロール113によって基材層1が剥離シート2側に押圧されることによって、剥離シート2の剥離剤層4側の面と基材層1の面F1と反対側の面とが粘着剤層5を介して接着され、中間積層体10Aが形成される。なお、剥離シート2と基材層1とを粘着剤層5を介して接着させる際、剥離シート2が基材層1側に押圧されても良く、基材層1の剥離シート2側への押圧と剥離シート2の基材層1側への押圧との両方が行われても良い。また、剥離シート2の剥離剤層4側の面に塗工された粘着剤層5となる樹脂組成物が硬い場合、剥離シート2の剥離剤層4側の面や基材層1の面F1と反対側の面に凹凸がある場合などでは、基材層1と剥離シート2とが重ね合わされる前に塗工された樹脂組成物を加熱する工程があっても良い。
【0033】
(改質工程P3)
本工程は、剥離シート2の剥離剤層4側と反対側の面F2に付着する付着物に改質処理を施す工程である。本製造方法における改質処理はコロナ処理とされ、剥離シート2の面F2と当該面F2に付着する付着物とにコロナ処理が施される。
【0034】
具体的には、基材層1と剥離シート2とが粘着剤層5を介して互いに接着された中間積層体10Aは、改質処理装置130の上まで搬送される。改質処理装置130の上まで搬送された中間積層体10Aにおける剥離シート2の剥離剤層4側と反対側の面F2に改質処理装置130によってコロナ放電が照射される。このため、剥離シート2の面F2に付着する付着物にもコロナ放電が照射される。このようにして、改質処理装置130によって剥離シート2の面F2と当該面F2に付着する付着物とにコロナ処理が施される。
【0035】
本製造方法では、上記のように、剥離シート2はシートロール102から巻き出される。シートロール102では、剥離シート2の剥離剤層4は、剥離シート2の剥離剤層4側と反対側の面F2に接触する。このため、剥離剤層4を構成する物質の一部、例えば剥離剤の一部が剥離して剥離シート2の剥離剤層4側と反対側の面F2に付着する場合がある。このため、改質処理装置130によって剥離シート2の面F2と当該面F2に付着する剥離剤等の剥離剤層4を構成する物質と同じ物質からなる付着物とにコロナ処理が施され、剥離シート2の面F2とこの剥離剤とにエネルギが付与される。また、例えば、剥離剤層4の剥離剤がシリコーンとされ、剥離シート2の面F2に剥離剤層4から剥離したシリコーンが付着している状態において、改質処理装置130によってコロナ処理が施されると、この付着物であるシリコーンが当該シリコーンの結合エネルギよりも高い結合エネルギを有するシリカに変化される。このように変化したシリカは、シリコーンよりも強固に剥離シート2の面F2に付着され、面F2から剥離することが抑制される。つまり、改質処理としてのコロナ処理は、剥離シート2の面F2と当該面F2に付着する付着物とにエネルギを付与し、付着物が当該付着物の結合エネルギよりも高い結合エネルギを有する別の物質に変化させる処理であり、剥離シート2の面F2に付着する付着物が当該面F2から剥離することが抑制される処理である。
【0036】
なお、改質処理は、コロナ処理に限定されるものではなく、剥離シート2の面F2に付着する付着物が当該面F2から剥離することが抑制されるように、付着物に施される改質処理であれば良い。例えば、改質処理は、プラズマ処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、イオン注入処理、加熱処理等とされても良い。これら処理が剥離シート2の面F2に施されることで、当該面F2に付着する付着物にも当該処理が施され、剥離シート2の面F2とこの付着物とにエネルギが付与される。なお、改質処理がプラズマ処理とされる場合、コロナ処理と比べて穏やかに剥離シート2の面F2と当該面F2に付着する付着物とにエネルギを付与し得る。また、改質処理は、剥離シート2の面F2全体に施されていなくても良いものの、剥離シート2の面F2全体に改質処理が施されることが好ましい。また、付着物にのみ改質処理が施されている部分が形成されていても良い。
【0037】
上記のように、改質処理装置130によって中間積層体10Aにおける剥離シート2の面F2側及び当該面F2に付着する付着物に改質処理としてのコロナ処理が施されることで、当該中間積層体10Aが積層体10となる。このようにして得られた積層体10は、ローラー114,115に架けられることによってテンションを加えられながら巻き取りロール116によって巻き取られ、積層体ロール160が得られる。積層体10がロール状に巻かれたこの積層体ロール160では、積層体10の一方の面である基材層1の印刷を行うことができる面F1が、積層体10の他方の面である剥離シート2の剥離剤層4側と反対側の面F2に接している。なお、積層体10は、巻き取りロール116に巻き取られることなく、所定の大きさに裁断されても良く、このように裁断された複数の積層体10は、例えば、積み重ねてまとめられる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の積層体10の第1の製造方法は、接着工程P2と、改質工程P3とを備える。接着工程P2は、剥離剤層4を一方の面側に有する剥離シート2の剥離剤層4側の面と、一方の面F1が露出する基材層1の他方の面とを粘着剤層5を介して接着する工程である。改質工程P3は、剥離シート2の剥離剤層4側と反対側の面F2に付着する付着物が当該他方の面F2から剥離することが抑制されるように、この付着物に改質処理を施す工程である。このため、例えば、上記のように剥離剤層4を有する剥離シート2がロール状に巻かれて、剥離シート2の剥離剤層4側と反対側の面に剥離剤の一部が付着していても、この付着している剥離剤が剥離することが抑制される。このため、上記のように、積層体10が巻き取りロール116に巻き取られたり、重ね合わされたりして、積層体10の一方の面と他方の面とが接触しても、剥離シート2の面F2に付着する付着物に改質処理を施さない場合と比べて、基材層1における露出する面F1に付着する剥離剤の量を低減できる。このため、本製造方法では、剥離シート2の面F2に付着する付着物に改質処理を施さない場合と比べて、基材層1の露出する面F1の濡れ性の低下が抑制され、この面F1に印刷をする際の色ムラやインクのハジキ等が発生することを抑制し得る。従って、本実施形態の積層体10の第1の製造方法によれば、印刷性能の低下を抑制し得る積層体10を製造し得る。
【0039】
(第2の製造方法)
次に、積層体10の第2の製造方法について図面を参照して詳細に説明する。なお、第1の製造方法と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0040】
積層体10の第2の製造方法は、改質工程P3が接着工程P2の前に行われる点で、上記第1の製造方法と異なる。
【0041】
図4は、本発明の実施形態に係る積層体の第2の製造方法を実施する製造装置を概略的に示す図である。図4に示すように、この製造装置100は、改質処理装置130が塗工装置120よりもシートロール102側に配置される点で、上記第1の製造方法を実施する製造装置100と主に異なる。
【0042】
このような製造装置100によって実施される積層体10の第2の製造方法では、シートロール102から剥離シート2が巻き出される。シートロール102から巻き出されたこの剥離シート2は、ローラー117,118に架けられることによってテンションを加えられながら改質処理装置130の上まで搬送される。改質処理装置130の上まで搬送されたこの剥離シート2の剥離剤層4側と反対側の面F2に改質処理装置130によってコロナ放電が照射される。このため、剥離シート2の面F2に付着する付着物にもコロナ放電が照射される。このようにして、剥離シート2の面F2と当該面F2に付着する付着物とにコロナ処理が施される。つまり、本製造方法では、改質工程P3が接着工程P2の前に行われる。コロナ処理が施された剥離シート2に粘着剤層5が積層され、粘着剤層5が積層された剥離シート2と基材層1とが重ね合わされる。剥離シート2の剥離剤層4側の面と基材層1の面F1と反対側の面とが粘着剤層5を介して接着されて、積層体10が得られる。このようにして得られた積層体10は、上記第1の製造方法と同様に、巻き取りロール116によって巻き取られ、積層体ロール160が得られる。このような本製造方法は、上記第1の製造方法と同様に、印刷性能の低下を抑制し得る積層体10を製造し得る。
【0043】
以上、本発明について、積層体10とその製造方法とが一例として説明されたが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
例えば、上記第1の製造方法では、接着工程P2の後に改質工程P3が行われていた。また、上記第2の製造方法では、接着工程P2の前に改質工程P3が行われていた。しかし、接着工程P2と改質工程P3との順序は特に限定されるものではなく、改質工程P3は接着工程P2の最中に行われても良い。
【0045】
また、上記第1の製造方法及び第2の製造方法では、接着工程P2において粘着剤層5となる樹脂組成物が剥離シート2の剥離剤層4側の面に塗工される例を挙げて説明した。しかし、粘着剤層5となる樹脂組成物は、基材層1の面F1と反対側の面に塗工されても良い。
【0046】
また、本発明の積層体の製造方法は、上記実施形態で例示された層以外の層を設ける工程を更に備えていても良い。図5は、このような本発明の変形例に係る積層体の製造方法の工程を示すフローチャートであり、図6は、このような本発明の変形例に係る積層体の厚さ方向断面の一部を概略的に示す図である。なお、上記第1の製造方法と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0047】
図5に示すように、本変形例の積層体10の製造方法は、接着工程P2及び改質工程P3の後に、更に印刷工程P4を備える点において、上記第1の製造方法と異なる。本変形例の印刷工程P4は、基材層1の印刷をすることができる面F1に印刷層を設ける工程である。具体的には、本変形例の印刷工程P4では、積層体ロール160から積層体10が巻き出され、不図示の印刷装置によって積層体10における基材層1の粘着剤層5側と反対側の面F1に印刷層が設けられる。印刷装置による印刷方法として、例えば、オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、熱転写印刷等が挙げられる。また、この印刷層を構成するインクは特に限定されるものではない。このようにして、図6に示すように、基材層1の粘着剤層5側と反対側の面F1に印刷層7が設けられた積層体20が得られる。ここで、剥離シート2の剥離剤層4側と反対側の面F2には、上記の改質処理が施されているため、改質処理が施されない場合と比べて、印刷層7を設ける際に、色ムラやインクのハジキ等が発生することが抑制され得る。なお、本変形例における印刷工程P4は、基材層1の面F1に印刷層を設ける工程とされた。しかし、印刷工程P4は、基材層1の印刷をすることができる面F1側に印刷層を設ける工程であれば良い。例えば、印刷工程P4は、基材層1のこの面F1側から基材層1にインクを染み込ませ、基材層1の内部におけるこの面F1側に印刷層を設ける工程とされも良い。この場合、基材層1の粘着剤層5側と反対側の面F1側に印刷層が設けられた積層体が得られる。
【0048】
また、上記実施形態では、積層体10は可撓性を有していた。しかし、積層体10は可撓性を有していなくても良い。このような構成として、例えば、基材層1が可撓性を有していない部材とされる構成が挙げられる。
【0049】
ところで、印刷性能の低下を抑制する観点では、積層体の製造方法は、上記の改質工程P3に替わって、剥離シート2の剥離剤層4側と反対側の面F2に付着している付着物の少なくとも一部を除去する除去工程を備えていても良い。このような積層体の製造方法では、例えば、剥離シート2の剥離剤層4側と反対側の面F2に剥離剤の一部が付着していても、この付着している剥離剤の一部が除去される。このため、基材層1の印刷層を設けることができる面F1に、剥離シート2の面F2が接触しても、この除去工程を備えない場合と比べて、基材層1の面F1に剥離剤が付着することを抑制できる。このため、基材層1における面F1に印刷をする際の色ムラやインクのハジキ等が発生することを抑制し得る。従って、この積層体の製造方法によれば、印刷性能の低下を抑制し得る積層体を製造し得る。
【0050】
この場合、除去工程において、剥離シート2の面F2に水等の液体を塗布したり、この面F2に空気等の気体を吹きつけたり、この面F2をブラッシングしたりして、この面F2に付着している付着物の少なくとも一部を除去しても良い。また、この面F2に付着している付着物の少なくとも一部を吸引して除去しても良く、この面F2を研磨して剥離シート2の一部とともにこの面F2に付着している付着物の少なくとも一部を除去しても良い。また、粘着剤層を有する除去部材におけるこの粘着剤層に、剥離シート2の面F2を接触させ、この面F2に付着している付着物の少なくとも一部を除去部材の粘着剤層に付着されて除去しても良い。このような除去部材として、例えば、外周面に粘着剤層が設けられたローラーを用いることができ、粘着剤層を構成する材料として、例えば、上記積層体10における粘着剤層5を構成する材料と同様の材料を挙げることができる。なお、接着工程と除去工程との順序は特に限定されない。例えば、除去工程は接着工程P2の後に行われても良く、接着工程P2の前に行われても良く、接着工程P2の最中に行われても良い。
【0051】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
上記第1の製造方法によって、積層体を製造した。
【0053】
まず、準備工程P1として、印刷層を設けることができる面側にアクリル樹脂から成る層(厚さ50μm)が設けられた基材層である再帰反射シート(厚さ300μm)が巻かれてなるシートロールと、無延伸ポリエチレンフィルムからなる剥離基材層(厚さ80μm)と剥離剤であるシリコーンを含む剥離剤層(厚さ0.1μm)とを有する剥離シートが巻かれてなるシートロールとを準備した。次に、接着工程P2として、剥離シートの剥離剤層側の面にポリアクリル酸エステル感圧粘着剤を塗工してこの面に粘着剤層(厚さ50μm)を積層した。また、この粘着剤層が積層された剥離シートと、シートロールから巻き出される差再帰反射シートとを重ね合わさせ、剥離シートと再帰反射シートとをこの粘着剤層を介して接着させた。次に、改質工程P3として、剥離シートの剥離剤層側と反対側の面と当該面に付着する付着物とにコロナ処理を施して実施例1に係る積層体を製造し、この積層体を巻き取りロールによって巻き取って積層体ロールを製造した。
【0054】
(比較例1)
コロナ処理を施さなかった以外は実施例1と同様にして、積層体を製造し、この積層体を巻き取りロールによって巻き取って積層体ロールを製造した。
【0055】
(表面分析)
X線光電子分光装置として、アルバック・ファイ株式会社製「X線光電子分光分析装置(XPS) Quantum2000」を用い、上記のようにして作製した各積層体ロールにおける剥離シートの剥離剤層側と反対側の面の表面分析を行った。具体的には、元素Siの2p軌道における結合エネルギの測定を行った。比較例1の積層体ロールでは、測定された光電子スペクトルは、結合エネルギが約101eVであるときにピークを示し、結合エネルギが約103eVのときにはピークを示さなかった。一方、実施例1の積層体ロールでは、測定された光電子スペクトルは、結合エネルギが約103eVであるときにピークを示し、結合エネルギが約101eVのときにはピークを示さなかった。このため、比較例1の積層体ロールでは、剥離シートの剥離剤層側と反対側の面に、剥離剤層の剥離剤の一部が剥離してこの剥離した剥離剤であるシリコーンが付着していると考えられ得る。また、実施例1の積層体ロールでは、コロナ処理によって、剥離シートの剥離剤層側と反対側の面と、比較例1と同様にしてこの面に付着していたシリコーンとにエネルギが付与され、シリコーンがシリコーンの結合エネルギよりも高い結合エネルギを有するシリカに変化したと考えられ得る。
【0056】
また、上記のようにして作製した各積層体ロールについて、再帰反射シートの粘着剤層側と反対側の面におけるシリコーンの量をアルバック・ファイ株式会社製「X線光電子分光分析装置(XPS) Quantum2000」で測定した。具体的には、炭素Cの1s軌道、酸素Oの1s軌道、窒素Nの1s軌道、及びケイ素Siの2p軌道のそれぞれにおける結合エネルギの測定値に基づいて得られるシリコーンの存在率を測定した。比較例1の積層体ロールにおける再帰反射シートの粘着剤層側と反対側の面に存在するシリコーンの存在率は4.6%であった。一方、実施例1の積層体ロールにおける再帰反射シートの粘着剤層側と反対側の面に存在するシリコーンの存在率は0.4%であり、比較例1の積層体ロールのシリコーンの存在率よりも少なかった。このため、比較例1の積層体ロールでは、剥離シートの剥離剤層側と反対側の面に付着しているシリコーンが当該面から剥離して、再帰反射シートの粘着剤層側と反対側の面に付着していると考えられ得る。また、実施例1の積層体ロールでは、剥離シートの剥離剤層側と反対側の面にコロナ処理が施されることによって、この面に付着しているシリコーンが再帰反射シートにおける粘着剤層側と反対側の面に付着することが抑制されていると考えられ得る。また、実施例1の積層体ロールでは、コロナ処理によって剥離シートの剥離剤層側と反対側の面に付着しているシリコーンがシリカに変化してこのシリカがこの面から剥離することが抑制され、このシリカが再帰反射シートの粘着剤層側と反対側の面に付着することが抑制されていると考え得る。つまり、剥離シートの剥離剤層側と反対側の面と当該面に付着しているシリコーンとにエネルギを付与してシリコーンをシリコーンの結合エネルギよりも高い結合エネルギを有するシリカに変化させることで、シリコーンよりもシリカが剥離シートの剥離剤層側と反対側の面から剥離しにくくなっていると考えられ得る。
【0057】
(濡れ性[dyn/cm])
上記のようにして作製した各積層体ロールについて、基材層である再帰反射シートにおける粘着剤層側と反対側の面の濡れ性をJIS K6768に準じて測定を行った。この際、試験用混合液として、富士フィルム和光純薬株式会社製ぬれ張力試験用混合液を用いた。比較例1の積層体ロールの濡れ性は約37dyn/cmであった。一方、実施例1の積層体ロールの濡れ性は約44dyn/cmであり、比較例1の積層体ロールの濡れ性よりも高かった。これは、実施例1の積層体ロールでは、上記のように、剥離シートの剥離剤層側と反対側の面にコロナ処理が施されることによって、この面に付着しているシリコーンが再帰反射シートの粘着剤層側と反対側の面に付着することが抑制されているためと考えられ得る。従って、実施例1の積層体ロールでは、剥離シートの剥離剤層側と反対側の面とこの面に付着しているシリコーンにコロナ処理が施さない場合と比べて、再帰反射シートにおける粘着剤層側と反対側の面の濡れ性の低下が抑制され、この面に印刷をする際の色ムラやインクのハジキ等が発生することが抑制される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明によれば、印刷性能の低下を抑制し得る積層体の製造方法及び積層体が提供され、シール、ラベル、案内標識、広告看板等の分野においての利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1・・・基材層
2・・・剥離シート
3・・・剥離基材層
4・・・剥離剤層
5・・・粘着剤層
6・・・物質(付着物)
7・・・印刷層
10,20・・・積層体
100・・・製造装置
120・・・塗工装置
130・・・改質処理装置
160・・・積層体ロール
P1・・・準備工程
P2・・・接着工程
P3・・・改質工程
P4・・・印刷工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6