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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】ホイールセンター割り出し用治具
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/00 20060101AFI20220404BHJP
   G01B 3/00 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
G01B5/00 F
G01B3/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018161927
(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2020034448
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-04-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 新製品・新技術開発支援助成金申請 審査会 資料の写し(平成30年5月30日提出) 2018年ホンダ四輪サービス技術コンクール南関東ブロック大会における説明資料の写し(平成30年7月30日開催)
(73)【特許権者】
【識別番号】517237746
【氏名又は名称】興和精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸夫
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-162598(JP,A)
【文献】米国特許第04157618(US,A)
【文献】実開昭57-084410(JP,U)
【文献】実開平9-284(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 3/00-3/08
3/11-3/56
5/00-5/30
21/00-21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の締結部材により車両に装着された車輪のホイールに装着されるホイールセンター割り出し用治具であって、
表面および裏面を有する板状のベース部材と、
前記ベース部材の前記裏面に設けられ、前記複数の締結部材のそれぞれに着脱可能に嵌合する複数の筒状部材と、
前記複数の筒状部材が前記複数の締結部材にそれぞれ嵌合した状態において前記ベース部材の前記表面に、前記ホイールと同軸状かつ前記表面から突出するように設けられた円柱状部材と、
前記円柱状部材に吊り下げられる錘部材と、を備えることを特徴とするホイールセンター割り出し用治具。
【請求項2】
前記複数の締結部材は、前記筒状部材が嵌合する部分のサイズが異なる複数の種類を備え、そのうちの1種により前記ホイールが前記車両に装着されており、
前記筒状部材は、前記締結部材の前記サイズに適合する複数の種類を備えており、
前記ベース部材は、前記複数の筒状部材がそれぞれ着脱可能に取り付けられる複数の取り付け部を有することを特徴とする請求項1に記載のホイールセンター割り出し用治具。
【請求項3】
前記複数の締結部材は、同心円状に配置されるとともに、その同心円の直径とその配置数の組み合わせが複数種類に設定されており、
前記ベース部材は、前記筒状部材がそれぞれ着脱可能に取り付けられる複数の取り付け部を有し、
前記複数の取り付け部は、前記同心円の直径、および前記締結部材の配置位置に対応した位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のホイールセンター割り出し用治具。
【請求項4】
前記ベース部材は円板状であって、その中心に前記円柱状部材が取り付けられているとともに、前記複数の筒状部材が前記円柱状部材を中心として同心円状に配置されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のホイールセンター割り出し用治具。
【請求項5】
前記錘部材は、前記円柱状部材に紐状部材を介して吊り下げられ、
前記円柱状部材には、前記紐状部材が掛けられる複数の溝が当該円柱状部材の軸方向に間隔をおいて形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のホイールセンター割り出し用治具。
【請求項6】
前記締結部材は磁性体であって、前記複数の筒状部材のうちの少なくとも一つに、前記締結部材に吸着する磁石が設けられていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のホイールセンター割り出し用治具。
【請求項7】
前記締結部材は磁性体であって、全ての前記複数の筒状部材に、前記締結部材に吸着する磁石が設けられていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のホイールセンター割り出し用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪のホイールの中心を車両の接地面に割り出すためのホイールセンター割り出し用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、カメラやレーダー等の検知手段により走行環境を検知しながらドライバの運転操作を支援する装置が開発され、実用化が進んでいる。このような支援装置を正常に機能させるためには、カメラやレーダー等を適切な状態にセットするエーミング調整作業を行っている。例えば特許文献1には、車両にセットした左右一対のカメラで車両前方にセットしたターゲットを撮像しつつ、撮像された画像に基づいてそれらカメラの取り付け角度等を調整するエーミング調整作業の例が記載されている。
【0003】
ところでこのようなエーミング調整作業を行うにあたっては、車両の前方に設定される基準線に対し、車両を正対させて、つまり車幅方向と基準線とを平行にして車両に設定する基準点から基準線までの距離を測定することで、車両の中心を割り出す事前の工程が行われている。
【0004】
この工程を行うにあたって、車輪のホイールの中心を車両の基準点とする場合がある。その場合、従来では、図15に示すように、錘200を吊り下げた糸210が車輪110のホイール120の中心Oを通るように調整し、その糸210を車両100のフェンダーにテープ220で貼り付け、作業場の床面Fへの錘200の接地点を車輪110の中心の位置として割り出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-155428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の車輪の中心を割り出す方法では、作業者の目視により糸210がホイール120の中心Oを通るように調整するため、その調整作業が困難で時間がかかるものであり、熟練を要していた。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、熟練を必要とせず短時間で容易に車輪の中心を車両の接地面に割り出すことができるホイールセンター割り出し用治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、(1)複数の締結部材により車両に装着された車輪のホイールに装着されるホイールセンター割り出し用治具であって、表面および裏面を有する板状のベース部材と、前記ベース部材の前記裏面に設けられ、前記複数の締結部材のそれぞれに着脱可能に嵌合する複数の筒状部材と、前記複数の筒状部材が前記複数の締結部材にそれぞれ嵌合した状態において前記ベース部材の前記表面に、前記ホイールと同軸状かつ前記表面から突出するように設けられた円柱状部材と、前記円柱状部材に吊り下げられる錘部材と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成により、本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、複数の筒状部材を締結部材に嵌合することによりホイールに装着される。この装着状態で円柱状部材はホイールと同軸状であるため、円柱状部材から吊り下げられた錘部材はホイールの中心の鉛直直下に位置し、錘部材の位置でホイールの中心が割り出される。したがって、熟練を必要とせず、従来と比べて短時間で容易に車輪の中心を割り出すことができる。
【0010】
本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、(2)前記複数の締結部材は、前記筒状部材が嵌合する部分のサイズが異なる複数の種類を備え、そのうちの1種により前記ホイールが前記車両に装着されており、前記筒状部材は、前記締結部材の前記サイズに適合する複数の種類を備えており、前記ベース部材は、前記複数の筒状部材がそれぞれ着脱可能に取り付けられる複数の取り付け部を有することを特徴とする。
【0011】
この構成により、本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、締結部材のサイズに適合する筒状部材をベース部材に選択的に取り付けることができる。したがって、締結部材のサイズに対応して筒状部材を交換することにより、当該ホイールセンター割り出し用治具を締結部材のサイズに対応して使用することができる。
【0012】
本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、(3)前記複数の締結部材は、同心円状に配置されるとともに、その同心円の直径とその配置数の組み合わせが複数種類に設定されており、前記ベース部材は、前記筒状部材がそれぞれ着脱可能に取り付けられる複数の取り付け部を有し、前記複数の取り付け部は、前記同心円の直径、および前記締結部材の配置位置に対応した位置に配置されていることを特徴とする。
【0013】
この構成により、本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、複数の締結部材が配置された同心円の直径および締結部材の配置数の組み合わせに対応して筒状部材を交換することにより、ホイールに装着することができる。
【0014】
本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、(4)前記ベース部材は円板状であって、その中心に前記円柱状部材が取り付けられているとともに、前記複数の筒状部材が前記円柱状部材を中心として同心円状に配置されていることを特徴とする。
【0015】
この構成により、本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、当該治具をホイールと同心円状になるように装着することができるため、直感的に治具をホイールに装着することができ、良好な使い勝手を得ることができる。
【0016】
本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、(5)前記錘部材は、前記円柱状部材に紐状部材を介して吊り下げられ、前記円柱状部材には、前記紐状部材が掛けられる複数の溝が当該円柱状部材の軸方向に間隔をおいて形成されていることを特徴とする。
【0017】
この構成により、本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、いずれか1つの溝に紐状部材をはめて掛けることにより、錘部材が軸方向にずれることを防ぐことができる。車両の全ての車輪に本発明に係る治具を装着する場合、それぞれの治具において、軸方向で同一箇所の溝に紐状部材を掛けることにより、割り出された前後の車輪の中心を結ぶ左右の線が、車両の前後方向と平行になり、かつ、それら左右の線は、車両の中心からいずれも等距離となる。したがって、車両の中心を高い精度で割り出すことができる。
【0018】
また、キャンバーが付けられたホイールに本発明に係る治具を装着した場合、円柱状部材が傾斜するが、その場合、溝に紐状部材を掛けることで紐状部材のずれを防ぐことができる。また、車輪の上側が内側に傾くネガティブキャンバーの場合、軸方向外側の溝に紐状部材を掛けることで、キャンバーに伴って傾斜しているベース部材に紐状部材が当たることを防ぐことができる。
【0019】
本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、(6)前記締結部材は磁性体であって、前記複数の筒状部材のうちの少なくとも一つに、前記締結部材に吸着する磁石が設けられていることを特徴とする。
【0020】
この構成により、本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、磁石が設けられた筒状部材が締結部材に吸着された状態となる。このため、当該ホイールセンター割り出し用治具のホイールへの装着状態が動きにくくなり、車輪の中心の割り出しを高い精度で行うことができる。
【0021】
本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、(7)前記締結部材は磁性体であって、全ての前記複数の筒状部材に、前記締結部材に吸着する磁石が設けられていることを特徴とする。
【0022】
この構成により、本発明に係るホイールセンター割り出し用治具は、全ての筒状部材が締結部材に吸着された状態となるため、ホイールへの装着状態をより安定させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、熟練を必要とせず、従来と比べて短時間で容易に車輪の中心を割り出すことができるホイールセンター割り出し用治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具が車輪に装着された状態を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具が車輪に装着された状態を示す正面図である。
図3図2のIII-III断面図である。
図4】本発明の実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具の分解斜視図である。
図5】本発明の実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具の斜視図であって、(a)は表面側から見た場合の斜視図、(b)は裏面側から見た場合の斜視図である。
図6】(a)は本発明の実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具であって筒状部材が5つの場合の正面図であり、(b)は図6(a)のVIB-VIB断面図である。
図7】(a)は本発明の実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具を構成するベース部材の正面図であり、(b)は図7(a)のVIIB-VIIB断面図である。
図8】本発明の実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具の筒状部材がホイールナットに嵌合した状態を示す図であって、筒状部材を断面とした正面図である。
図9】本発明の実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具であって筒状部材が4つの場合の正面図である。
図10】本発明の実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具が車輪に装着された状態を示す正面図であって、筒状部材が4つの場合を示す図である。
図11】本発明の実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具を用いて車両の中心を割り出す方法を説明する図である。
図12】本発明の実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具が、キャンバーが付いている車輪のホイールに装着された場合を示す側面図である。
図13】本発明の実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具が車輪に装着された状態を示す断面図であって、当該治具がボルトに装着された場合を示す図である。
図14】本発明の実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具において、磁石が設けられた変形例に係る筒状部材を示す断面図である。
図15】従来の車輪の中心を割り出す方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
(実施形態)
まず、構成について説明する。
【0027】
図1図3は、本実施形態に係るホイールセンター割り出し用治具(以下、治具と略称する)1を、ホイール120とタイヤ121とを備えた車輪122のホイール120に装着した状態を示している。
【0028】
図3に示すように、ホイール120は、複数のハブボルト141を有するハブ140に固定されている。ホイール120にはハブボルト141に対応した複数の孔120aが形成されており、これら孔120aに各ハブボルト141をそれぞれ通し、各ハブボルト141にホイールナット131をそれぞれねじ込むことでホイール120がハブ140に固定されている。ホイールナット131は、本発明の締結部材を構成する。
【0029】
図4図6に示すように、本実施形態に係る治具1は、表面10aおよび裏面10bを有する円板状のベース部材10と、ベース部材10の裏面10bに設けられ、複数のホイールナット131のそれぞれに着脱可能に嵌合する複数の筒状部材20と、複数の筒状部材20が複数のホイールナット131にそれぞれ嵌合した状態においてベース部材10の表面10aに、ホイール120と同軸状かつ表面10aから突出するように設けられた円柱状部材30と、を備えている。また、本実施形態に係る治具1は、図1および図2に示すように、円柱状部材30に、糸50により吊り下げられる錘部材60を備えている。糸50は、本発明の紐状部材を構成する。
【0030】
本実施形態に係るベース部材10は、所定の直径および厚さを有する樹脂製の円板で構成されている。当該樹脂としては、例えばPOM(ポリアセタール)等が好適とされる。ベース部材10の中心には円柱状部材30が取り付けられているとともに、ベース部材10には、複数の筒状部材20が円柱状部材30を中心として同心円状に配置されている。
【0031】
図7に示すように、ベース部材10の中心には、ベース部材10の軸方向に貫通するねじ孔12が形成されている。
【0032】
また、図7に示すように、ベース部材10には、ベース部材10と同心の直径Aの円Ca上に、5つのねじ孔11aが周方向に等間隔をおいて形成されている。また、ベース部材10には、ベース部材10と同心の直径Bの円Cb上に、4つのねじ孔11bが周方向に等間隔をおいて形成されている。各ねじ孔11a、11bは、ベース部材10の軸方向に貫通している。ここで、円Ca上の5つのねじ孔11aを第1のねじ孔群11Aといい、直径B上の4つのねじ孔11bを第2のねじ孔群11Bという。各ねじ孔11a、11bは、それぞれ本発明の取り付け部を構成する。
【0033】
前述の複数のハブボルト141は、同心円状、かつ周方向に等間隔に設けられており、したがってこれらハブボルト141に装着されるホイールナット131は、同心円状、かつ周方向に等間隔に配置されている。
【0034】
ホイールナット131が装着される複数のハブボルト141は、車両に応じて、その同心円の直径(ピッチ円直径)とその数の組み合わせが複数種類に設定されている。本実施形態の治具1においては、第1のねじ孔群11Aおよび第2のねじ孔群11Bにより、2種類の組み合わせに対応している。5つのねじ孔11aからなる第1のねじ孔群11Aの直径Aは、例えば114.3mmとされ、4つのねじ孔11bからなる第2のねじ孔群11Bの直径Bは、例えば100mmとされる。
【0035】
本実施形態に係る筒状部材20は、円筒状の形状を有している。図6(b)に示すように、筒状部材20は、軸方向の一端側に円筒状の嵌合部21を有し、他端側に固定部22を有する。筒状部材20は樹脂製であって、例えばベース部材10と同様にPOM等の樹脂で構成されている。
【0036】
図6(b)に示すように、嵌合部21の内側には、一端側に開口する凹所21aが形成されている。嵌合部21は、凹所21a内にホイールナット131が筒状部材20と同軸状に嵌合するように構成されている。そのためには、図8に示すように、嵌合部21は、その内周面にホイールナット131の6つの角部の全てが接触するように構成されている。
【0037】
図6(b)に示すように、固定部22には、他端側に開口するねじ挿通孔22aが形成されているとともに、ねじ挿通孔22aと凹所21aとを連通する座ぐり22bが形成されている。凹所21a、座ぐり22bおよびねじ挿通孔22aは、互いに同軸状になるように筒状部材20に形成されている。
【0038】
図6に示すように、筒状部材20は、六角穴付きのボルト40のねじ部40aをねじ挿通孔22aに挿通して裏面10b側からベース部材10のねじ孔11a、11bにねじ込むことにより、ベース部材10の裏面10bに着脱可能に取り付けられるようになっている。ボルト40は、その頭部40bが座ぐり22b内に入って座ぐり22bの底面に当接するようになっている。
【0039】
本実施形態に係る治具1においては、ホイールナット131の径に適合する筒状部材20を、複数種類備えている。ホイールナット131の径は、二面幅が例えば19mm、21mmといった種類がある。治具1は、それらホイールナット131が嵌合部21内に同軸状に嵌合する筒状部材20を、複数種類備えている。
【0040】
本実施形態に係る治具1を使用するにあたっては、ベース部材10の第1のねじ孔群11Aの5つのねじ孔11aに筒状部材20をそれぞれ取り付ける場合と、ベース部材10の第2のねじ孔群11Bの4つのねじ孔11bに筒状部材20をそれぞれ取り付けて使用する場合がある。
【0041】
図6(b)に示すように、本実施形態に係る円柱状部材30は、糸掛け部31と、糸掛け部31の軸方向一端側に一体に形成されたねじ部32とを有する。糸掛け部31は、円柱部31aと、円柱部31aの両端にそれぞれ形成された鍔部31bとを有する。円柱部31aには、周溝状の3つの溝31dが軸方向に間隔をおいて形成されている。
【0042】
円柱状部材30は、糸掛け部31の鍔部31b間の円柱部31aに、糸50が掛けられるようになっている。円柱部31aに形成された各溝31dは、糸50がはまり、かつ、その糸50が軸方向にずれにくいような幅を有している。ねじ部32は、円柱部31aと同軸状に形成されている。円柱状部材30は樹脂製であって、例えばベース部材10および筒状部材20と同様にPOM等の樹脂で構成されている。
【0043】
なお、円柱状部材30の円柱部31a形成される溝31dは、1つでもよく、また、4つ以上形成されていてもよい。
【0044】
円柱状部材30は、ねじ部32をベース部材10の中心に形成されたねじ部12に表面10a側からねじ込むことにより、ベース部材10の表面10aに着脱可能に取り付けられるようになっている。
【0045】
図3に示すように、本実施形態に係る錘部材60は、円形状の底面部60aと頂点部60bとを有する円錐状の形状を有する。錘部材60は、底面部60aの中心に、輪にされた糸50が通されるリング状のフック61を有する。錘部材60は、糸50が円柱状部材30の糸掛け部31の円柱部31aに掛けられることにより、頂点部60bが下方に向いた状態に円柱状部材30に吊り下げられるようになっている。錘部材60は、糸50が鉛直にまっすぐ下方に延在した状態で吊り下げられる重量を有する。
【0046】
次に、本実施形態に係る治具1の使用方法について説明する。
【0047】
本実施形態に係る治具1は、図1図3に示すように、ベース部材10の裏面10bをホイール120に対向させ、ベース部材10を、複数の筒状部材20の嵌合部21内に各ホイールナット131が嵌合するようにホイール120側に押し付けることにより、ホイール120に装着される。そして円柱状部材30の糸掛け部31の1つの溝31dに糸50を掛けて錘部材60を吊り下げ、錘部材60の頂点部60bが車両100の接地面にちょうど接触するように、糸50の長さを調整する。これにより、錘部材60の頂点部60bが接地面に接触する点が、ホイール120の中心すなわち車輪122の中心として割り出される。
【0048】
本実施形態に係る治具1においては、筒状部材20はホイールナット131の径に応じたものがベース部材10に取り付けられる。また、筒状部材20は、ホイール120を固定するホイールナット131のピッチ円直径および数に応じて、第1のねじ孔群11Aの5つのねじ孔11aもしくは第2のねじ孔群11Bの4つのねじ孔11bのいずれかを用いてベース部材10に取り付けられる。
【0049】
図5および図6は、第1のねじ孔群11Aの5つのねじ孔11aを用いて5つの筒状部材20がベース部材10に取り付けられた場合の治具1を示し、図2はその場合の治具1がホイール120に装着された状態を示している。
【0050】
また、図9は、第2のねじ孔群11Bの4つのねじ孔11bを用いて4つの筒状部材20がベース部材10に取り付けられた場合の治具1を示し、図10はその場合の治具1がホイール120に装着された状態を示している。
【0051】
次に、本実施形態に係る治具1を用いて、前述したエーミング調整作業を実施する際に必要な車両の中心を割り出す方法を以下に説明する。
【0052】
図11に示すように、基準線STに対して前向きに停車させた車両100の4つの車輪(右前輪R1、右後輪R2、左前輪L1、左後輪L2)のホイールに、上述のようにして治具1を装着する。そして、車両100の接地面に対して錘部材60の頂点部60bが接触する点を、各車輪の中心R1X、R2X、L1X、L2Xとして割り出す。
【0053】
次いで、右前輪R1の中心R1Xと右後輪R2の中心R2Xとを結ぶ線を基準線STまで延長し、その線と基準線STとの交点を右基準点RSとして割り出す。また、左前輪L1の中心L1Xと左後輪L2の中心L2Xとを結ぶ線を基準線STまで延長し、その線と基準線STとの交点を左基準点LSとして割り出す。
【0054】
次いで、右前輪R1の中心R1Xと右基準点RSとの間の距離「R1X-RS」と、左前輪L1の中心L1Xと左基準点LSとの間の距離「L1X-LS」とを測定する。これらの距離「R1X-RS」と距離「L1X-LS」とが等しい場合に、車両100はその幅方向が基準線STと平行であると判定される。このように車両100の幅方向が基準線STと平行であると判定されたら、基準線ST上の右基準点RSと左基準点LSとの中間点Cが、車両100の中心として割り出される。
【0055】
次に、本実施形態に係る治具1の作用について説明する。
【0056】
上述のように使用される本実施形態の治具1は、複数の筒状部材20をホイールナット131に嵌合することによりホイール120に装着される。この装着状態で、筒状部材20はホイール120と同心円状に配置されたことになるので、ベース部材10の中心の円柱状部材30は、ホイール120と同軸状に延在している。したがって円柱状部材30から吊り下げられた錘部材60はホイール120の中心の鉛直直下に位置する。このため、錘部材60の頂点60bが接地面に接触する位置が、ホイール120の中心として割り出される。
【0057】
このように、本実施形態の治具1は、筒状部材20をホイールナット131に嵌合し、円柱状部材30に糸50を掛けて錘部材60を吊り下げることにより、車輪122の中心を割り出すことができる。したがって、従来と比べて熟練を必要とせず短時間で容易に車輪122の中心を割り出すことができる。
【0058】
また、本実施形態に係る治具1は、ホイールナット131の径に適合する筒状部材20をベース部材10に選択的に取り付けることができる。したがって、ホイールナット131の径に対応して筒状部材20を交換することにより、治具1をホイールナット131の径に対応して使用することができる。
【0059】
また、本実施形態に係る治具1は、第1のねじ孔群11Aと第2のねじ孔群11Bを有する。このため、これらねじ孔群11A、11Bに対応したホイールナット131のピッチ円直径および配置数の組み合わせに対応して筒状部材20を交換することにより、治具1をそれら組み合わせのホイールナット131に対応して使用することができる。
【0060】
また、本実施形態に係る治具1は、ベース部材10が円板状であって、その中心に円柱状部材30が取り付けられているとともに、複数の筒状部材20が円柱状部材30を中心に同心円状に配置される。この構成により、治具1をホイール120と同心円状になるように装着することができるため、直感的に治具1をホイール120に装着することができ、良好な使い勝手を得ることができる。
【0061】
また、本実施形態に係る治具1は、糸50が掛けられる円柱状部材30に、糸50をはめる3つの溝31dが軸方向に間隔をおいて形成されている。この構成により、治具1においては、いずれか1つの溝31dに糸50をはめて掛けることにより、錘部材60が軸方向にずれることを防ぐことができる。
【0062】
また、図11に示したように、車両の全ての車輪に治具1を装着する場合、それぞれの治具1の、軸方向で同一箇所の溝31dに糸50をはめて掛けることにより、割り出される前後の車輪の中心を結ぶ左右の線(図11で、「R1X-R2X」、「L1X-L2X」)が、車両の前後方向と平行になり、かつ、それら左右の線は、車両の中心からいずれも等距離となる。したがって、車両の中心を高い精度で割り出すことができる。
【0063】
また、車輪においては、キャンバーが付けられる場合がある。そのような車輪のホイールに治具1が装着されると、円柱状部材30が傾斜するが、その場合、溝31dに糸50をはめて掛けることで糸50のずれを防ぐことができる。また、特に車輪の上側が内側に傾くネガティブキャンバーの場合、図12に示すように、軸方向の外側の溝31dに糸50をはめて掛けることで、糸50がベース部材10に当たることを防ぐことができる。
【0064】
なお、上記実施形態では、本発明に係る締結部材がホイールナット131であったが、図13に示すように締結部材がボルト132で構成されていても、そのボルト132に本実施形態に係る治具1を同様に装着することができる。なお、図13は、図2のIII-III断面に対応する断面を示している。
【0065】
すなわち図13においては、車両100のハブ140にホイール120が複数のボルト132により固定され、複数のボルト132を介して本実施形態に係る治具1がホイール120に装着されている。
【0066】
ハブ140には複数のボルト132がねじ込まれるねじ孔140aが形成されており、ホイール120の孔120aに通したボルト132をねじ孔140aにねじ込むことにより、ホイール120がハブ140に固定されている。
【0067】
この場合、本実施形態に係る治具1は、複数の筒状部材20をボルト132の断面六角形の頭部132aにそれぞれ嵌合し、円柱状部材30に糸50を掛け、錘部材60を吊り下げて使用される。
【0068】
(変形例)
次に、上述した実施形態の変形例について説明する。
【0069】
図14は、上述した筒状部材20に磁石70を設けた変形例を示している。磁石70は環状に形成されており、筒状部材20の凹所21aの底面に、例えば接着等の手段で固定されている。上述した実施形態において、ホイールナット131またはボルト132が磁性体の場合、ホイールナット131またはボルト132に嵌合された筒状部材20においては、磁石70がホイールナット131またはボルト132に吸着するようになっている。
【0070】
上述した実施形態では、ホイールナット131またはボルト132が磁性体であって、複数の筒状部材20のうちの少なくとも一つに、図14に示す磁石70が設けられた筒状部材20を用いることができる。
【0071】
この場合、治具1は、磁石70が設けられた筒状部材20がホイールナット131またはボルト132に吸着された状態となる。このため、治具1のホイール120への装着状態が動きにくくなり、車輪122の中心の割り出しを高い精度で行うことができる。
【0072】
また、上述した実施形態では、ホイールナット131またはボルト132は磁性体であって、全ての筒状部材20を、図14に示す磁石70が設けられた筒状部材20とすることができる。
【0073】
この場合、治具1は、全ての筒状部材20がホイールナット131またはボルト132に吸着された状態となり、ホイールへの装着状態をより安定させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、熟練を必要とせず、従来と比べて短時間で容易に車輪の中心を割り出すことができるホイールセンター割り出し用治具として有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 ホイールセンター割り出し用治具
10 ベース部材
10a 表面
10b 裏面
11a、11b ねじ孔(取り付け部)
20 筒状部材
30 円柱状部材
31d 溝
50 糸(紐状部材)
60 錘部材
70 磁石
100 車両
120 ホイール
122 車輪
131 ホイールナット(締結部材)
132 ボルト(締結部材)
図1
図2
図3
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