(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】三相不平衡抑制装置
(51)【国際特許分類】
H02J 3/26 20060101AFI20220404BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20220404BHJP
【FI】
H02J3/26
H02M7/48 R
H02M7/48 V
(21)【出願番号】P 2018238266
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000144393
【氏名又は名称】株式会社三社電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090310
【氏名又は名称】木村 正俊
(72)【発明者】
【氏名】山本 聡
(72)【発明者】
【氏名】末包 和男
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-101016(JP,A)
【文献】特開平10-178742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/26
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電源系統から線路を介して電力が供給されている負荷側に接続された三相インバータと、
前記三相交流電源系統の三相交流電圧を三相―二相変換する三相―二相変換手段と、
前記三相―二相変換手段の二相電圧の正相電圧と逆相電圧とを求める回転座標変換手段と、
前記逆相電圧が零となるように前記逆相電圧を基に二相制御信号を生成する不平衡制御手段と、
前記二相制御信号を三相制御信号に変換する二相―三相変換手段と、
前記三相制御信号に基づいて前記三相インバータを制御するインバータ制御手段と、
前記正相電圧と前記逆相電圧とに基づいて不平衡率を算出する不平衡率算出手段と、
任意の不平衡率を設定する不平衡率設定手段と、
算出された不平衡率と前記設定された不平衡率との偏差に基づいて前記二相制御信号を補正する補正手段とを、
有する三相不平衡抑制装置。
【請求項2】
請求項1記載の三相不平衡抑制装置において、前記補正手段は、前記逆相電圧の絶対値の最大値を決定する三相不平衡抑制装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の三相不平衡抑制装置において、前記逆相電圧の絶対値を予め定めた上限値内に制限する制限手段を有する三相不平衡抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相交流の不平衡を抑制する三相不平衡抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三相交流系統では、各相が担う負荷の大きさの相違等によって、その三相交流電圧が不平衡となることがある。この不平衡を補償するために、例えば特許文献1に開示されているような技術が提案されている。この技術では、配電線路に接続されたインバータが、各相に補償電流を供給する。このインバータの制御装置として、三相―二相変換回路、回転座標逆相変換回路、逆相電圧ゼロ制御回路、二相―三相変換回路を備えたものが使用される。この制御装置が、各相の逆相電圧がゼロとなるように、即ち不平衡率がゼロとなるように、インバータを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、常に不平衡率をゼロに補償している。しかし、三相交流の系統には様々な事情があり、常に不平衡率をゼロに制御することが望ましくないことがある。
【0005】
本発明は、不平衡率を任意に設定することが可能な電圧補償装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の三相不平衡抑制装置は、三相交流電源系統から線路を介して負荷に電力が供給されている。この負荷は、不平衡となることがある。この負荷側に三相インバータが接続されている。この三相インバータが三相交流電圧を平衡させる。前記三相交流電源系統の三相交流電圧を三相―二相変換手段が三相―二相変換する。回転座標変換手段が、前記三相―二相変換手段の二相電圧の正相電圧と逆相電圧とを求める。前記逆相電圧が零となるように前記逆相電圧を基に二相制御信号を不平衡制御手段が生成する。前記二相制御信号を二相―三相変換手段が三相制御信号に変換する。前記三相制御信号に基づいて前記三相インバータをインバータ制御手段が制御する。前記正相電圧と前記逆相電圧とに基づいて不平衡率を不平衡率算出手段が算出する。任意の不平衡率を不平衡率設定手段が設定する。算出された不平衡率と前記設定された不平衡率との偏差に基づいて前記二相制御信号を補正手段が補正する。
【0007】
このように構成された三相不平衡抑制装置では、三相―二相変換手段及び回転座標変換手段によって検出された逆相電圧がゼロとなるように不平衡制御手段が生成した二相制御信号が二相―三相変換手段によって三相制御信号に変換されてインバータ制御手段に供給される。これによって、インバータは逆相電圧がゼロになるように制御しようとするが、不平衡率設定手段が設定した不平衡率と不平衡率算出手段によって算出された不平衡率との偏差に基づいて二相制御信号が補正されるので、インバータによって補償された三相交流電源系統は、任意の不平衡率になる。不平衡率算出手段及び補正手段を設けずに、不平衡制御手段において所望の不平衡率となる逆相電圧の値を定め、この逆相電圧となるように二相制御信号を生成することも考えられる。この場合、所望の不平衡率から必要となる逆相電圧を決定しなければならないが、逆相電圧は負荷の変動に応じて変化しており、所望の不平衡率に対応した逆相電圧を決定することは困難である。
【0008】
前記補正手段は、前記逆相電圧の絶対値の最大値を決定するものとすることができる。例えば逆相電圧をゼロとするように生成された二相制御信号では、実際には逆相電圧の絶対値が大きくなるような場合があるが、補正手段を設けたことによって、逆相電圧の絶対値の最大値以下に制限される。
【0009】
また、前記逆相電圧の絶対値を予め定めた上限値内に制限する制限手段を設けることもできる。制限手段を設けると、不平衡率設定手段によって設定された不平衡率では、逆相電圧の絶対値が大きくなりすぎる場合に、逆相電圧の絶対値を上限値に制限することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、任意に設定された不平衡率に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の1実施形態の三相不平衡抑制装置のブロック図である。
【
図2】
図1の電圧調整装置での不平衡率の制限状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の1実施形態の三相不平衡抑制装置1は、
図1に示す三相系統の電圧の不平衡を抑制するためのものである。発電所のような三相系統電源2から、リアクタンスと抵抗とを含むインピーダンスを有する線路3を介して複数の負荷4に電力が供給される。このとき、線路3を流れる電流によって、線路3では電圧降下VINVが発生し、三相系統電源2の電圧Vsから電圧降下VINVだけ低下した電圧が各負荷4に供給される。このとき、三相交流電源系統2の電圧Vsは、三相インバータ5の出力電圧をVSVGとすると、VSVG+VINVによって表される。各負荷4の不平衡に起因して三相系統電源2から不平衡電流が線路3を介して各負荷4に流れる。これによって三相系統電源2の電圧Vsから遠方に配置された三相不平衡装置1の検出電圧Vdetが不平衡電圧となる。これを抑制するために三相不平衡抑制装置1が使用される。
【0013】
この三相不平衡抑制装置1は、複数の負荷4と並列に接続されたインバータ手段、例えば三相インバータ5を有している。この三相インバータ5が線路3に電力を供給することによって三相不平衡を抑制する。その抑制は、三相系統電源2の各電圧から正相及び逆相電圧を求め、その逆相電圧を抑制するように三相インバータ5を制御する。この制御には回転座標変換を使用している。
【0014】
そのために、三相系統電源2の電圧Vsから遠方に配置された三相不平衡装置1の検出電圧Vdetは三相―二相変換器8に供給され、二相電圧Vα、Vβに変換される。これらVα、Vβは、回転座標変換部10に供給され、回転座標変換され、正相電圧V1d、V1qと逆相電圧V2d、V2qとが算出される。
【0015】
逆相電圧V2d、V2qは、それぞれ加算器12q、12dに供給され、不平衡率電圧目標値であるゼロとの差分がそれぞれ算出され、それぞれの差分は逆相電圧ゼロ制御部14に供給される。逆相電圧ゼロ制御部14は、逆相電圧をゼロとするように、供給された2つの差分に対してそれぞれ例えばPI制御して、二相の制御信号、例えばゼロ制御d成分及びq成分を生成する。このゼロ制御d成分及びq成分は、逆相指令リミッタ16に供給され、d成分及びq成分の合成値の絶対値が、後述するリミッタ34が指示する大きさを超えることが無いように、ゼロ制御d成分及びq成分がそれぞれ制御される。
【0016】
この逆相指令リミッタ16からの制御されたゼロ制御d成分及びq成分は、二相―三相変換部18に供給され、U、V、Wの三相の制御信号、例えばゼロ制御U、V、W信号に変換される。これらゼロ制御U、V、W信号のうちの二相、例えばゼロ制御V、W信号は、対応する三相インバータ5のV、W電流とそれぞれ加算器20W、20Vで差分が算出され、即ち、フィードフォワード補正され、これら補正された差分とゼロ制御U信号とが瞬時電流波形制御部22に供給され、ここで例えばPD制御され、その制御信号がPWM制御部24に供給される。PWM制御部24は、瞬時波形制御部22からの制御信号に基づいてインバータ5の各スイッチング素子を制御する。逆相指令リミッタ16を設けているので、d成分及びq成分の合成値の絶対値が、逆相指令リミッタ16が指示する大きさを超えないと逆相電圧を零にできない場合には、逆相電圧は零とならず、三相系統電源の電圧VSは不平衡であるが、その大きさは逆相指令リミッタ16によって決定される。
【0017】
逆相指令リミッタ16が指示する大きさを決定するために、逆相指令リミッタ回転座標変換部10において得られた正相電圧V1d、V1qと逆相電圧V2d、V2qとは、不平衡率算出部26に供給されて、正相電圧の絶対値に対する逆相電圧の絶対値の比である不平衡率が算出される。この不平衡率は、三相インバータ5によって制御されている実際の三相系統電源2の電圧Vsの不平衡率である。算出された不平衡率は加算器28に供給され、この加算器28に不平衡率設定器30から供給された不平衡率との差が、加算器28によって算出される。
【0018】
不平衡率設定器30には、この電圧調整装置の使用者が三相系統電圧の事情等に応じて設定した不平衡率が設定されている。加算器28の出力は不平衡率一定制御部32に供給され、例えば比例制御される。この制御信号は、逆相指令リミッタ16に供給されて、リミッタレベルとして作用する。例えば
図2に示すように、本来であれば破線で示す大きさに逆相電圧の大きさがなるのを、不平衡率一定制御部32の制御信号によって実線で示す大きさに制限する。但し、不平衡率一定制御部32の制御信号は、リミッタ34に供給されており、リミッタ34にはリミッタレベル上限設定値が設定されており、不平衡率一定制御部32からの制御信号によって逆相電圧を制御しても、その逆相電圧の大きさが、
図2に二点鎖線で示すリミッタ上限レベルを超える一点鎖線で示す大きさの場合には、リミッタ上限レベルが支持する逆相電圧の大きさに逆相電圧の大きさを制限するように、リミッタ34が不平衡率一定制御部32の制御信号を制限して、逆相指令リミッタ16に供給する。従って、三相不平衡率は、不平衡率設定値によって設定された値に抑圧され、その不平衡率設定値によって設定された三相不平衡率ではリミッタレベル上限設定値によって設定された不平衡率を超える場合には、リミッタレベル上限設定値によって設定された不平衡率とされる。
【0019】
このように不平衡率算出部26、加算器28、不平衡率設定器30、不平衡率一定制御部及びリミッタ34は、逆相電圧ゼロ制御部14による制御を補正する補正手段として機能する。
【0020】
上記の実施形態では、本発明の電圧補償装置は、三相系統電源に使用したが、これに限らず、例えばパワーコンディショナーに使用することもできる。
【符号の説明】
【0021】
5 三相インバータ
8 三相―二相変換部
10 回転座標変換部
14 逆相電圧ゼロ制御部(不平衡制御手段)
18 二相―三相変換部
24 PWM制御部(インバータ制御手段)
26 不平衡率算出部
30 不平衡率設定部
32 不平衡率一定制御部(補正手段)