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特許7051678ケイ酸塩の新規な調製方法及び沈降シリカ調製のためのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】ケイ酸塩の新規な調製方法及び沈降シリカ調製のためのその使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/32 20060101AFI20220404BHJP
【FI】
C01B33/32
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018519371
(86)(22)【出願日】2016-09-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-10-18
(86)【国際出願番号】 EP2016073401
(87)【国際公開番号】W WO2017063901
(87)【国際公開日】2017-04-20
【審査請求日】2019-08-30
(31)【優先権主張番号】15306639.4
(32)【優先日】2015-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508079739
【氏名又は名称】ローディア オペレーションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジョスト, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ベドレ ドス サントス, レオ リカルド
(72)【発明者】
【氏名】デ ヴィルフォート グロッシ, ダニエラ
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-144397(JP,A)
【文献】特開2005-289702(JP,A)
【文献】特開昭51-147500(JP,A)
【文献】特表2003-529518(JP,A)
【文献】特開2011-016690(JP,A)
【文献】特開2003-171114(JP,A)
【文献】特表2006-517900(JP,A)
【文献】特表2007-510613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 39/54
CAplus/REGISTRY/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
もみ殻灰を少なくとも1種のケイ酸塩前駆体P1と反応させてSiO/MOモル比MRを有するアルカリ金属ケイ酸塩S2を得る工程を含む、アルカリ金属ケイ酸塩S2の調製方法であって、少なくとも1種のケイ酸塩前駆体P1が、MR>MRになるようなSiO/MOモル比MRを有し、砂をアルカリ水酸化物で直接攻撃させることによって調製されるアルカリ金属ケイ酸塩S1であるか、砂と少なくとも1種の金属水酸化物との混合物であり、
ケイ酸塩前駆体P1が前記アルカリ金属ケイ酸塩S1である場合、反応の温度は130~250℃であり、反応の圧力は3~25barであり、ケイ酸塩前駆体P1が砂と少なくとも1種の金属水酸化物との混合物である場合、反応の温度は130~250℃であり、反応の圧力は3~40barであり、
ケイ酸塩前駆体P1が前記アルカリ金属ケイ酸塩S1である場合、反応は、塩基が全く存在しない状態で行われる、方法。
【請求項2】
モル比MRが少なくとも2.30であり最大3.80である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1種のケイ酸塩前駆体P1が、MR>MRになるようなSiO/MOモル比MRを有し、砂をアルカリ水酸化物で直接攻撃させることによって調製される前記アルカリ金属ケイ酸塩S1である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
モル比MRが少なくとも1.80であり最大2.70である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
(i)水性媒体中でもみ殻灰を少なくとも1種の前記アルカリ金属ケイ酸塩S1と反応させてケイ酸塩と固体副生成物とを含む液体混合物を得る工程;及び
(ii)前記固体副生成物を液体混合物から分離して前記アルカリ金属ケイ酸塩S2の溶液を得る工程;
を含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
液体混合物中のもみ殻灰の量が、前記アルカリ金属ケイ酸塩S1及びもみ殻灰の総重量の少なくとも10重量%である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種のケイ酸塩前駆体P1が、砂と少なくとも1種の金属水酸化物との混合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
(i’)水性媒体中でもみ殻灰を砂及び少なくとも1種の金属水酸化物と反応させてケイ酸塩S2と固体副生成物とを含む液体混合物を得る工程;並びに
(ii’)前記固体副生成物を液体混合物から分離してケイ酸塩S2の溶液を得る工程;
を含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
液体混合物中のもみ殻灰の量が、砂及びもみ殻灰の総重量の少なくとも30重量%である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
金属水酸化物が水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選択される、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アルカリ金属ケイ酸塩S2を得るために前記アルカリ金属ケイ酸塩S2の溶液が乾燥される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
沈降シリカの調製のための、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法によって得られるケイ酸塩S2の使用。
【請求項13】
- 水性液体媒体中でケイ酸塩を少なくとも1種の酸性化剤と反応させて沈降シリカの懸濁液を得る工程;
- 水性液体媒体から沈降シリカを分離して濡れた状態の沈降シリカを得る工程;及び
- 前記濡れた状態の沈降シリカを乾燥させて沈降シリカを得る工程
を含む、沈降シリカの調製方法であって、ケイ酸塩の少なくとも一部が、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法によって得られるケイ酸塩S2である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、もみ殻灰からのケイ酸塩の新規な調製方法及びこのケイ酸塩からの沈降シリカの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ酸塩、特にケイ酸ナトリウムは、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムなどの強塩基で天然のケイ砂を熱処理することによって得られることが知られている。例えば、ケイ酸ナトリウムは、反応
nSiO+2NaOH・nSiO,NaO+H
に従って砂を水酸化ナトリウムで直接攻撃させることによって得ることができる。
【0003】
沈降シリカの調製のための原材料として、これらのケイ酸塩、特にはケイ酸ナトリウムを用いることは公知である。
【0004】
ケイ酸塩は、もみ殻灰から得ることもできる。もみ殻は、精米における産業廃棄物とみなされている。
【0005】
精米産業により大量の不要なもみ殻が発生し、これは収穫された米の総重量の約22重量%を占める。
【0006】
もみ殻は、多くの場合、パーボイル工程用の蒸気を発生させるための精米中の燃料として使用される。燃焼後、もみ殻の重量の約20%が、もみ殻灰として知られる灰へと変換される。もみ殻灰に関しては、これは、約80重量%~約90重量%の非常に低い結晶性を有する非晶質シリカ(主な結晶相は典型的にはクリストバライトである)を含み、それに加えて炭素不純物及び様々な微量の金属(マグネシウム、カリウム、鉄、アルミニウム、カルシウムなど)を含む。
【0007】
もみ殻灰から得られる非晶質シリカについての複数の用途が述べられてきた。
【0008】
もみ殻灰からの沈降シリカの調製は、バイオマス燃焼灰の苛性温浸によって得られるケイ酸塩溶液に酸を添加することにより沈降シリカを調製するための方法を開示している国際公開第01/74712号パンフレット及び国際公開第2004/073600号パンフレットに記載されている。
【0009】
米国特許第5,833,940号明細書には、例えばもみ殻灰などの、生物由来のシリカをアルカリ溶液中に溶解させることによって形成される、可溶性シリカの調製が開示されている。
【0010】
砂から出発する沈降シリカの製造方法は、典型的には、砂を強塩基(水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムなど)に溶解させてケイ酸塩を得る工程を含む。この工程は、一般的には過剰の強塩基の存在下で行われる。その後の沈降反応では、シリカは、比例する量の例えば硫酸などの酸性化剤をケイ酸塩溶液に添加することによって形成される。そのため、ケイ酸塩の調製の際に使用される塩基の量を減らすことは、結果として沈降シリカの調製で使用される酸性化剤の量を減らすことになるため重要である。
【発明の概要】
【0011】
本発明の第1の目的は、沈降シリカの調製のための原材料として使用することができる、高いSiO/MOのモル比を有するケイ酸塩を調製するための新規な方法を提供することである。
【0012】
本発明の更なる目的は、使用する塩基の量を増やすことなく、SiO/MOモル比が増加したケイ酸塩の調製方法を提供することである。本発明の方法によって、先行技術と比べて削減された総量の塩基を使用しながらも、高いSiO/MOモル比を有するケイ酸塩を調製することができる。
【0013】
本発明の第1の目的は、もみ殻灰を少なくとも1種のケイ酸塩前駆体P1と反応させてSiO/MOモル比MRを有するケイ酸塩S2を得る工程を含む、ケイ酸塩S2の調製方法であって、前駆体P1が:
- MR>MRになるようなSiO/MOモル比MRを有するケイ酸塩S1であるか、
- 砂と少なくとも1種の金属水酸化物との混合物である;
方法である。
【0014】
本明細書において、「もみ殻灰」という表現は、もみ殻の燃焼によって得られるSiO含有材料を指すために使用され、これは非晶質状態のシリカ、未燃焼の炭素、及び無機物を含む。「非晶質状態のシリカ」という表現は、本明細書においては、非晶質シリカだけでなく、典型的にはクリストバライト相である低結晶化度を有するシリカも指すために使用される。
【0015】
本明細書において、用語「ケイ酸塩」は、アルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選択される化合物を指すために使用される。ケイ酸塩は、通常そのSiO/MOモル比(MR)によって、すなわち1つの金属酸化物分子と会合するシリカ分子の数によって、定義することができる。
【0016】
SiO/MOのモル比の表現においては、Mはアルカリ金属からなる群から選択される金属であり、xは2である。念のために明記すると、アルカリ金属はIUPAC命名法による第1族元素に対応する。
【0017】
ケイ酸塩は、有利にはケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウムからなる群から選択される。したがって、MはNa及びKから選択される。
【0018】
ケイ酸塩は、メタケイ酸塩又は二ケイ酸塩などの任意の公知の形態であってもよい。
【0019】
「ケイ酸塩前駆体」という表現は、本明細書においては、ケイ酸塩であるかケイ酸塩を得ることを可能にする化合物又は化合物の混合物を指すために使用される。
【0020】
用語「砂」は、本明細書においては天然のケイ砂を指すために使用される。「砂」及び「ケイ砂」という表現は、互換的に使用することができる。
【0021】
本発明の方法の第1の実施形態においては、少なくとも1種のケイ酸塩前駆体P1は、MR>MRなどのSiO/MOモル比MRを有するケイ酸塩S1である。
【0022】
ケイ酸塩S1は、メタケイ酸塩、二ケイ酸塩などの任意の公知の形態であってもよい。有利には、ケイ酸塩S1は、アルカリ金属ケイ酸塩、特にはケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムである。
【0023】
ケイ酸塩S1は、ケイ砂の熱処理により得ることができる。ケイ酸塩S1は、典型的には、反応:
nSiO+2MOH→nSiO,MO+H
(式中、MはNa又はKである)
に従って砂をアルカリ水酸化物、特には水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムで直接攻撃させることによって調製することができる。
【0024】
ケイ酸塩S1は残留砂を含み得る。残留砂の含有率は2重量%~8重量%であってもよい。
【0025】
通常、本発明の方法で使用されるケイ酸塩S1は、少なくとも1.80、特には少なくとも2.00、好ましくは少なくとも2.40の、SiO/MOのモル比MRを有する。モル比MRは通常は最大2.70である。
【0026】
ケイ酸塩S1がケイ酸ナトリウムである場合、MRは典型的には2.00~2.70、特には2.40~2.70である。
【0027】
ケイ酸塩S1がケイ酸カリウムである場合、MRは典型的には1.80~2.50、特には1.90~2.20である。
【0028】
この第1の実施形態によれば、もみ殻灰と少なくとも1種のケイ酸塩S1との間の反応は:
(i)水性媒体中でもみ殻灰を少なくとも1種のケイ酸塩S1と反応させてケイ酸塩と固体副生成物とを含む液体混合物を得る工程;
(ii)前記固体副生成物を液体混合物から分離してケイ酸塩S2の溶液を得る工程;
を含む。
【0029】
もみ殻灰とケイ酸塩S1との間の反応は、塩基が全く存在しない状態で行われる。念のために明記すると、本明細書において、用語「塩基」にはアルカリ金属ケイ酸塩は含まれない。
【0030】
方法は、典型的には、工程(i)の前に行われる、もみ殻灰と少なくとも1種のケイ酸塩S1と水とを含む混合物を形成する追加的な工程を含む。
【0031】
通常、少なくとも1種のケイ酸塩S1は、水溶液の形態である。ケイ酸塩S1が水溶液の形態である場合、任意選択的には追加的な水が反応混合物に添加されてもよい。
【0032】
好都合には、第1の実施形態による方法は:
(i-3)少なくとも1種のケイ酸塩S1の水性媒体溶液を準備する工程;
(i-2)もみ殻灰を準備する工程;
(i-1)前記溶液と前記もみ殻灰を混合して混合物を形成する工程;
(i)水性媒体中でもみ殻灰を少なくとも1種のケイ酸塩S1と反応させてケイ酸塩と固体副生成物とを含む液体混合物を得る工程;
(ii)液体混合物から前記固体副生成物を分離してケイ酸塩S2の溶液を得る工程;
を含み得る。
【0033】
好ましくは、工程(i)における混合物中のもみ殻灰の量は、ケイ酸塩S1(乾燥重量として計算)及びもみ殻灰の総重量の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%である。混合物中のもみ殻灰の量は、通常10~40重量%である。
【0034】
本発明の工程(i)は、通常制御された温度及び圧力で撹拌されている反応器の中で行われる。工程(i)はオートクレーブ中で行われてもよい。
【0035】
工程(i)における反応は、通常、130~250℃、特には160~220℃、好ましくは165~210℃の一定温度で行われる。
【0036】
反応の圧力は、通常、3~25bar、特には6~20bar、好ましくは7~20barである。
【0037】
反応工程(i)のタイミングは様々であってよく、30分~5時間、特には2~4時間の範囲であってもよい。反応工程(i)のためには3時間のタイミングが適切であることが見出された。
【0038】
この第1の実施形態の方法においては、工程(i)の完結後、MR>MRなどのSiO/MOのモル比MRを有するケイ酸塩S2と、固体副生成物とを含有する液体混合物が得られる。
【0039】
固体副生成物は、典型的にはもみ殻灰の中に存在する炭素、残留シリカ、及びもみ殻灰の中に元々存在する他の不溶性物質を含む。
【0040】
ケイ酸塩S2は、水性媒体中に溶解される。
【0041】
この第1の実施形態の工程(ii)においては、固体副生成物は、工程(i)の終わりに得られる液体混合物から分離される(液体/固体分離)。前記分離工程は、もみ殻灰の中に存在する不純物、特には炭素を除去するために行われる。
【0042】
本発明の方法の分離工程(ii)は、通常ろ過を含む。ろ過は、任意の好適な方法によって、例えばフィルタープレス、ベルトフィルター又は真空フィルターを用いて実施される。もみ殻灰の中に存在する例えばアルミニウム、カリウム、又は鉄を除去するための炭素床を使用することもできる。
【0043】
好ましくは、このろ過は真空フィルターを用いて行われる。
【0044】
方法の工程(ii)の終わりに得られるケイ酸塩S2は、ケイ酸塩S1のSiO/MOモル比MRより大きいSiO/MOモル比MRによって特徴付けられる。
【0045】
本発明の方法の第2の実施形態においては、少なくとも1種の前駆体ケイ酸塩P1は、砂と少なくとも1種の金属水酸化物との混合物である。
【0046】
この第2の実施形態で使用される少なくとも1種の金属水酸化物は、典型的にはアルカリ水酸化物である。好ましくは、少なくとも1種の金属水酸化物は水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであり、より好ましくはこれは水酸化ナトリウムである。砂は天然のケイ砂である。
【0047】
この第2の実施形態によれば、本発明の方法は:
(i’)水性媒体中でもみ殻灰を砂及び少なくとも1種の金属水酸化物と反応させてケイ酸塩S2及び固体副生成物を含有する液体混合物を得る工程;
(ii’)前記固体副生成物を液体混合物から分離してケイ酸塩S2を含有する溶液を得る工程;
を含む。
【0048】
方法は、典型的には、工程(i’)の前に行われる、もみ殻灰と砂と少なくとも1種の金属水酸化物と水とを含む混合物を形成する追加的な工程を含む。
【0049】
好都合には、第2の実施形態による方法は:
(i’-4)砂を準備する工程;
(i’-3)もみ殻灰を準備する工程;
(i’-2)少なくとも1種の金属水酸化物を水溶液として準備する工程;
(i’-1)前記砂、前記もみ殻灰、及び前記金属水酸化物を混合して水性混合物を形成する工程;
(i’)水性媒体中でもみ殻灰を砂及び少なくとも1種の金属水酸化物と反応させてケイ酸塩S2と固体副生成物とを含む液体混合物を得る工程;
(ii’)前記固体副生成物を液体混合物から分離してケイ酸塩S2を含む溶液を得る工程;
を含み得る。
【0050】
好ましくは、液体混合物中のもみ殻灰の量は、砂及びもみ殻灰の総重量の少なくとも40重量%、特には50重量%である。液体混合物中のもみ殻灰の量は、典型的には砂及びもみ殻灰の総重量の80重量%を超えない。
【0051】
本発明の工程(i’)は、通常制御された温度及び圧力で撹拌されている反応器の中で行われる。工程(i’)はオートクレーブ中で行われてもよい。
【0052】
工程(i’)における反応は、通常、130~250℃、特には160~240℃、好ましくは180~235℃、例えば190~230℃の一定温度で行われる。
【0053】
反応の圧力は、通常、3~40bar、特には6~25bar、好ましくは18~25barである。
【0054】
反応工程(i’)のタイミングは様々であってよく、30分~5時間、特には2~4時間の範囲であってもよい。反応工程(i’)のためには3時間のタイミングが適切であることが見出された。
【0055】
この第2の実施形態の方法においては、工程(i’)の完結後、ケイ酸塩S2と固体副生成物とを含有する液体混合物が得られる。
【0056】
固体副生成物は、典型的にはもみ殻灰の中に存在する非晶質炭素、残留シリカ、残留砂及びもみ殻灰の中に元々存在する他の不溶性物質を含む。
【0057】
ケイ酸塩S2は、水性媒体中に溶解される。
【0058】
この第2の実施形態の工程(ii’)においては、固体副生成物は、工程(i’)の終わりに得られる液体混合物から分離される(液体/固体分離)。
【0059】
前記分離工程は、もみ殻灰及び残留砂の中に存在する特には非晶質炭素を除去するために行われる。
【0060】
分離は、第1の実施形態について上で記載した方法を使用して行うことができる。
【0061】
本発明の方法の第1及び第2の実施形態における分離工程の後に、結晶形態のケイ酸塩S2を得るためにケイ酸塩S2溶液を乾燥させることが望ましい場合がある。乾燥は任意の公知の手段を使用して行うことができる。好ましくは、乾燥操作は、噴霧化によって実施される。この目的のために、任意のタイプの好適な噴霧器、特に回転、ノズル、液体圧力又は二流体噴霧器が用いられてもよい。
【0062】
工程(ii)又は工程(ii’)の終わりに、及び場合によっては乾燥操作の終了後に、得られるケイ酸塩S2は、SiO/MOのモル比MRを有する。
【0063】
ケイ酸塩S2は、典型的には少なくとも2.30、及び最大で3.80のモル比MRを有する。
【0064】
工程(ii)及び工程(ii’)の終わりに得られるケイ酸塩S2がケイ酸ナトリウムである場合、モル比MRは、少なくとも2.50、特には少なくとも2.80、典型的には少なくとも3.00、好ましくは少なくとも3.20である。モル比MRは、通常2.50~3.80、好ましくは2.80~3.80、より好ましくは2.80~3.70である。
【0065】
工程(ii)及び工程(ii’)の終わりに得られるケイ酸塩S2がケイ酸カリウムである場合、モル比MRは、少なくとも2.30、特には少なくとも2.50、好ましくは少なくとも2.80である。モル比MRは、通常2.30~3.80、好ましくは2.80~3.70である。
【0066】
本発明の別の目的は、シリカ、特には沈降シリカの調製のためのケイ酸塩S2の使用である。
【0067】
そのため、本発明の追加的な目的は:
- 水性液体媒体中でケイ酸塩を少なくとも1種の酸性化剤と反応させて沈降シリカの懸濁液を得る工程;
- 水性液体媒体から沈降シリカを分離して濡れた状態の沈降シリカを得る工程;及び
- 前記濡れた状態の沈降シリカを乾燥させて沈降シリカを得る工程;
を含む、沈降シリカの調製方法であって、ケイ酸塩の少なくとも一部が、本発明の第1の目的である方法によってもみ殻灰から得られるケイ酸塩S2である、方法である。
【0068】
ケイ酸塩は好ましくはケイ酸ナトリウムである。
【0069】
沈降シリカの調製方法において使用されるケイ酸塩は、ケイ酸塩S2から構成されていてもよい。あるいは、ケイ酸塩S2は沈降シリカの調製のために使用されるケイ酸塩の少なくとも一部のみを占めていてもよい。ケイ酸塩の他の部分は、例えば砂の熱処理により得られるアルカリ金属ケイ酸塩であってもよい。
【0070】
酸性化剤の選択は、当技術分野で周知の方法で行われる。一般に、酸性化剤として、硫酸、硝酸、又は塩酸などの強い無機酸が使用され、あるいは酢酸、ギ酸、又は炭酸などの有機酸も使用される。
【0071】
酸性化剤は低濃度であっても高濃度であってもよく;その規定度は、0.4~36N、例えば0.6~2.5Nであってもよい。
【0072】
特に、酸性化剤が硫酸である場合には、その濃度は、40~180g/l、例えば60~130g/lであってもよい。
【0073】
沈降シリカの調製方法は、当該技術分野で周知の条件に従って行うことができる。沈降シリカの調製方法の非限定的な例は、例えば欧州特許第520862号明細書、欧州特許第670813号明細書、欧州特許第670814号明細書、欧州特許第917519号明細書、国際公開第95/09127号パンフレット、国際公開第95/09128号パンフレット、国際公開第98/54090号パンフレット、国際公開第03/016215号パンフレット、国際公開第2009/112458号パンフレット、又は国際公開第2012/010712号パンフレットの中に開示されている。
【0074】
そのため、ケイ酸塩の、特にはケイ酸ナトリウムの酸性化剤との反応による沈降シリカの調製は、任意の調製方法に従って、特にはケイ酸塩(特にはケイ酸ナトリウム)の原料への酸性化剤の添加によって、あるいは、水の、又はケイ酸塩の、又は酸性化剤の原料への、酸性化剤及びケイ酸塩(特にはケイ酸ナトリウム)の全部又は一部の同時添加によって、行うことができる。
【0075】
本発明の方法においては、ケイ酸塩と酸性化剤との間の沈降反応の工程の完結後に、沈降シリカの懸濁液が得られる。沈降シリカは引き続き分離される(液体/固体分離)。
【0076】
本発明による調製方法で行われる分離は、通常、ろ過、及び必要に応じてこれに続く洗浄操作を含む。ろ過は、任意の好適な方法によって、例えばフィルタープレス、ベルトフィルター、又は真空フィルターを用いて行われる。
【0077】
このように回収されたシリカ懸濁液(ろ過ケーキ)は次に乾燥させられる。
【0078】
乾燥は、当該技術分野で公知の任意の手段に従って行うことができる。
【0079】
好ましくは、乾燥操作は、噴霧化によって実施される。この目的のために、任意のタイプの好適な噴霧器、特に回転、ノズル、液体圧力又は二流体噴霧器が用いられてもよい。
【0080】
濡れた状態の沈降シリカは、特にその高い粘度のために、必ずしも噴霧化が可能な状態にあるわけではないことに留意すべきである。それ自体公知の方法においては、その後、通常はアルミニウム化合物の存在下で、任意選択的には上述のような酸性化剤の存在下で、濡れた状態の沈降シリカに対して崩壊操作が行われる。この操作は、ケーキをコロイド又はビーズ型のミルに通すことによって、機械的に実施することができる。崩壊操作は、その後乾燥させられるべき懸濁液の粘度を低くすることを特に可能にする。
【0081】
乾燥操作がノズル噴霧器を用いて実施される場合、そのとき得られる沈降シリカは、通常、実質的に球形のビーズの形態で存在する。
【0082】
乾燥操作の終わりに、回収された生成物は次に、ミリング工程にかけることができる。得られる沈降シリカは、通常は粉末形態で存在する。
【0083】
乾燥が回転噴霧器を用いて実施される場合、その際に得られる沈降シリカは、粉末の形態で存在することができる。
【0084】
最後に、上に示されたように乾燥させられ又はミルにかけられた沈降シリカは、任意選択的には、例えば、直接圧縮、湿式造粒(すなわち、水、シリカ懸濁液等などの、バインダーを使用しての)、押出、又は好ましくは、乾式圧縮を含む集塊化工程にかけることができる。
【0085】
この集塊化工程によってその際得られる沈降シリカは、通常は顆粒の形態で存在する。
【0086】
本発明の沈降シリカの調製方法によって、同じ量の沈降シリカを与える砂からケイ酸塩のみを使用する方法と比較して、方法で使用される金属水酸化物(特には水酸化ナトリウム)の量及び/又は酸性化剤(特には硫酸)の量を削減することが可能になる。
【0087】
追加的な利点として、酸性化剤が硫酸である場合、沈降工程時の副生成物として形成される硫酸ナトリウムの量の減少が観察される。
【0088】
本発明による方法によって調製される沈降シリカは、多くの用途に使用されてもよい。
【0089】
これは、例えば、触媒担体として、ポリマー、とりわけエラストマー、又はシリコーン組成物中での活性物質用の吸収剤(具体的には、特にはビタミン(ビタミンE)、塩化コリンなどの食品中に使用される、液体用の担体)として、粘度向上剤、テクスチャライザー、又は凝固防止剤として、電池セパレーター要素として、及び練り歯磨き、コンクリート、又は紙用の添加剤として使用されてもよい。
【0090】
しかし、天然又は合成ポリマーの強化において特に有利な用途が見出される。
【0091】
特にこれを硬化充填剤として中で使用することができるポリマー組成物は、一般的に、-150℃~+300℃、例えば-150℃~+20℃の少なくとも1つのガラス転移温度を好ましくは有する、1種以上のポリマーもしくはコポリマー、特には1種以上のエラストマーを主体とする。
【0092】
可能なポリマーとしては、ジエンポリマー、特にはジエンエラストマーを挙げることができる。
【0093】
前記ポリマー組成物を主成分とする完成品の非限定的な例としては、靴底、タイヤ、床仕上げ材、ガスバリア、難燃性材料を挙げることができ、またケーブルカーローラー、家庭電化製品用のシール、液体もしくはガスパイプ用のシール、ブレーキシステム・シール、(可撓性)パイプ、被覆材料(とりわけケーブル被覆材料)、ケーブル、エンジンサポート、コンベヤーベルト、及び伝動ベルトなどの技術的構成部品も挙げることができる。参照により本明細書に組み込まれる特許、特許出願、及び刊行物のいずれかの開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0094】
以下の実施例は、本発明を例示するものであるが、その範囲を限定するものではない。
【実施例
【0095】
実施例1
撹拌のための装置並びに温度及び圧力の制御装置を備えたParr型反応器の中に次の材料を入れた:
・283gの水、
・387gの砂、
・402gのもみ殻灰、
・484gの水酸化ナトリウム水溶液(50重量%)。
【0096】
液体混合物を加熱し、約220℃の温度及び23barの圧力で3時間超保持した。
【0097】
反応の完結後、液体混合物を真空下でろ過して未反応材料を除去した。3.50のSiO/NaOモル比を示すケイ酸ナトリウム溶液が得られた。
【0098】
実施例2
撹拌のための装置並びに温度及び圧力の制御装置を備えたParr型反応器の中に次の材料を入れた:
・583gの水、
・386gの砂、
・844gのもみ殻灰、
・479gの水酸化ナトリウム水溶液(50重量%)。
【0099】
液体混合物を加熱し、約207℃の温度及び18barの圧力で3時間保持した。
【0100】
反応の完結後、液体混合物を真空下でろ過して未反応材料を除去した。3.50のSiO/NaOモル比を示すケイ酸ナトリウム溶液が得られた。
【0101】
実施例1及び2で得られたケイ酸塩は、沈降シリカの調製のための出発ケイ酸塩溶液として使用することができる。同じ量の沈降シリカを与える、砂からのケイ酸塩のみを使用する沈降シリカの調製方法と比較して、本発明の方法によって得たケイ酸塩を沈降シリカの調製方法で使用する場合、次のことが観察される:
・水酸化ナトリウム消費量の29%の節約
・硫酸消費量の29%の節約。
【0102】
実施例3
撹拌のための装置並びに温度及び圧力の制御装置を備えたParr型反応器の中に次の材料を入れた:
・24%(mSiO2/msolution)のケイ酸塩を含み、2.50のSiO/NaOモル比(MR)を示す砂から得た1300gのケイ酸ナトリウム溶液、
・158gのもみ殻灰。
【0103】
液体混合物を加熱し、約170℃の温度及び7barの圧力で3時間保持した。
【0104】
反応の完結後、液体混合物を真空下でろ過して未反応材料を除去した。3.50のSiO/NaOモル比(MR)を示すケイ酸ナトリウム溶液が得られた。
【0105】
本発明の方法によって、同じ量の水酸化ナトリウムを使用しながらも、砂から得られるケイ酸ナトリウムのSiO/NaOのモル比を2.50から3.50の値まで大幅に増加させることができる。
【0106】
シリカの沈降方法で使用する水酸化ナトリウム及び硫酸の削減された量を考慮すると、沈降シリカに関しての生産性の増加(製造した沈降シリカの1kg当たりの出発物質の量として計算)は、例えば15%~40%であると推定することができる。全体の製造コストの付随した削減も達成することができる。
【0107】
実施例4
撹拌のための装置並びに温度及び圧力の制御装置を備えたParr型反応器の中に次の材料を入れた:
・671gの水、
・250gの砂、
・81gのもみ殻灰、
・430gの水酸化カリウム水溶液(50重量%)。
【0108】
液体混合物を加熱し、約210℃の温度及び18barの圧力で3時間保持した。
【0109】
反応の完結後、液体混合物を真空下でろ過して未反応材料を除去した。2.30のSiO/KOモル比を示すケイ酸カリウム溶液が得られた。
【0110】
実施例5
撹拌のための装置並びに温度及び圧力の制御装置を備えたParr型反応器の中に次のものを入れた:
・583gの水、
・307gの砂、
・242gのもみ殻灰、
・479gの水酸化カリウム水溶液(50重量%)。
【0111】
液体混合物を加熱し、約207℃の温度及び18barの圧力で3時間保持した。
【0112】
反応の完結後、液体混合物を真空下でろ過して未反応材料を除去した。3.40のSiO/KOモル比を示すケイ酸カリウム溶液。
【0113】
実施例5
撹拌のための装置並びに温度及び圧力の制御装置を備えたParr型反応器の中に次のものを入れた:
・2.15のSiO/KOモル比(28.12重量%のSiO、13.51重量%のKO、及び58.34重量%の水)を示す890gのケイ酸カリウム溶液、
・126gのもみ殻灰。
【0114】
液体混合物を加熱し、約170℃の温度及び7barの圧力で3時間保持した。
【0115】
反応の完結後、液体混合物を真空下でろ過して未反応材料を除去し、3.40のSiO/KOモル比を示すケイ酸カリウム溶液を得た。
【0116】
本発明の方法によって、追加的な量の水酸化カリウムを添加する必要なしに、砂から得られるケイ酸ナトリウムのSiO/KOモル比を2.15から3.40の値まで大幅に増加させることができる。