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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】T細胞レセプター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20220404BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220404BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20220404BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220404BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220404BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20220404BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20220404BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220404BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220404BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20220404BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220404BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220404BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
A61K35/17 Z
A61K38/17
A61K47/68
A61K48/00
A61P31/18
C07K14/725 ZNA
C07K16/28
C07K19/00
C12N5/0783
C12N5/10
C12N15/13
C07K7/06
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018549900
(86)(22)【出願日】2017-03-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 GB2017050805
(87)【国際公開番号】W WO2017163064
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2020-03-17
(31)【優先権主張番号】1604953.8
(32)【優先日】2016-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510019129
【氏名又は名称】イムノコア リミテッド
【住所又は居所原語表記】92 Park Drive Milton Park,Abingdon Oxfordshire OX14 4RY,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】マホン,タラ
(72)【発明者】
【氏名】リー,イ
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-535826(JP,A)
【文献】NATURE MEDICINE, VOLUME 14, NUMBER 12, pp.1390-1395, & Supplementary Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C07K1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA-A*02と複合体化したSLYNTVATL(配列番号1)に対して結合性を有し、TCR α鎖可変ドメイン及びTCR β鎖可変ドメインを含んでなり、
(i)α鎖可変ドメインが、配列番号6又は7アミノ酸配列を含み、β鎖可変ドメインが、配列番号8アミノ酸配列を含み、
(ii)α鎖のCDR 1は配列番号26の配列を含み、
α鎖のCDR 2は配列番号27の配列、又は配列番号21の配列を含み、
α鎖のCDR 3は配列番号22配列を含み、
β鎖のCDR 1は配列番号23の配列を含み、
β鎖のCDR 2は配列番号28の配列を含み、
β鎖のCDR 3は配列番号25の配列をむ、
T細胞レセプター(TCR)。
【請求項2】
α-βヘテロダイマーであり、α鎖TRAC定常ドメイン配列及びβ鎖TRBC1又はTRBC2定常ドメイン配列を有する、請求項1に記載のTCR。
【請求項3】
α鎖及びβ鎖定常ドメイン配列が、TRACのエキソン2のCys4とTRBC1又はTRBC2のエキソン2のCys2との間の天然型ジスルフィド結合を欠失させるように、短縮化又は置換により改変されている、請求項に記載のTCR。
【請求項4】
α鎖及びβ鎖定常ドメイン配列がTRACのThr 48及びTRBC1又はTRBC2のSer 57からシステイン残基への置換により改変されており、前記システインがTCRのα定常ドメインとβ定常ドメインとの間でジスルフィド結合を形成している、請求項又はに記載のTCR。
【請求項5】
Va-L-Vb型、Vb-L-Va型、Va-Ca-L-Vb型、Va-L-Vb-Cb型、Va-Ca-L-Vb-Cb型又はVb-Cb-L-Va-Ca型(ここで、Va及びVbはそれぞれTCR α及びβ可変領域であり、Ca及びCbはそれぞれTCR α及びβ定常領域であり、Lはリンカー配列である)の単鎖形式である、請求項1~のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項6】
検出可能な標識、治療用薬剤又はPEG、PAS配列、アルブミン及び非構造化ポリペプチドからなる群より選択されるPK調整成分と組み合わされている、請求項1~のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項7】
TCRのα鎖又はβ鎖のC末端又はN末端に共有結合的に連結された抗CD3抗体と組み合わされている、請求項に記載のTCR。
【請求項8】
抗CD3抗体がTCRのβ鎖のC末端又はN末端にリンカー配列を介して共有結合的に連結されている、請求項に記載のTCR。
【請求項9】
リンカー配列がGGGGS (配列番号12)、GGGSG (配列番号13)、GGSGG (配列番号14)、GSGGG (配列番号15)、GSGGGP (配列番号16)、GGEPS (配列番号17)、GGEGGGP (配列番号18)及びGGEGGGSEGGGS (配列番号19)からなる群より選択される、請求項に記載のTCR。
【請求項10】
α鎖可変ドメインが配列番号6又は7から選択されるアミノ酸配列を含み、β鎖可変ドメインが配列番号8のアミノ酸配列を含み、抗CD3抗体が、TCR β鎖のN末端に、配列番号12~19から選択されるリンカー配列を介して共有結合的に連結されている、TCR-抗CD3融合分子。
【請求項11】
α鎖可変ドメインが配列番号6又は7から選択されるアミノ酸配列を含み、β鎖可変ドメインが配列番号8のアミノ酸配列を含み、抗CD3抗体が、TCR β鎖のC末端に、配列番号12~19から選択されるリンカー配列を介して共有結合的に連結されている、TCR-抗CD3融合分子。
【請求項12】
配列番号9若しくは10から選択されるα鎖アミノ酸配列と
配列番号11のβ鎖アミノ酸配列と
を含んでなる、TCR-抗CD3融合分子。
【請求項13】
請求項1~のいずれか1項に記載のTCR α鎖及び/若しくはTCR β鎖並びに/又は請求項1012のいずれか1項に記載のTCR-抗CD3融合分子をコードする核酸。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸を含んでなる発現ベクター。
【請求項15】
(a)単一のオープンリーディングフレーム若しくはα鎖及びβ鎖をそれぞれコードする2つの異なるオープンリーディングフレームに請求項13に記載の核酸を含んでなるTCR発現ベクター;又は
(b)請求項1~のいずれか1項に記載のTCRのα鎖をコードする核酸を含む第1の発現ベクターと、請求項1~のいずれか1項に記載のTCRのβ鎖をコードする核酸を含む第2の発現ベクターと
を有する細胞。
【請求項16】
請求項1~のいずれか1項に記載のTCRを提示する単離されたか又は天然に存在しない細胞、特にT細胞。
【請求項17】
請求項1~のいずれか1項に記載のTCR、請求項1012のいずれか1項に記載のTCR-抗CD3融合分子、請求項13に記載の核酸又は請求項15若しくは16に記載の細胞を、1又は2以上の医薬的に許容され得るキャリア又は賦形剤と共に含んでなる医薬組成物。
【請求項18】
ヒト対象において医薬に用いるための、請求項1~のいずれか1項に記載のTCR、請求項1012のいずれか1項に記載のTCR-抗CD3融合分子、請求項13に記載の核酸又は請求項15若しくは16に記載の細胞。
【請求項19】
ヒト対象において、HIV感染又はAIDSの治療法に用いるための、請求項1~のいずれか1項に記載のTCR、請求項1012のいずれか1項に記載のTCR-抗CD3融合分子、請求項13に記載の核酸又は請求項15若しくは16に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HLA-A*02制限ペプチドSLYNTVATL(配列番号1)(該ペプチドはHIV Gag遺伝子産物p17に由来する)に結合するT細胞レセプター(TCR)に関する。前記TCRは、天然型HIV TCRと比較して、α及び/又はβ可変ドメイン内に、非天然変異を含んでなる。本発明のTCRは、配列番号1とHLA-A*02との複合体に関して予想外に高い親和性、特異性及び感度を有し、特に強力なT細胞応答を駆動する。このようなTCRは、HIV感染個体治療用の可溶性免疫治療剤の開発に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因因子である。このウイルスは、レンチウイルス群に属する、エンベロープを有するレトロウイルスである。現行の治療法は、組合せの抗レトロウイルス療法(ART)を用いてウイルス感染を抑制することに依拠する。しかし、この治療法は、ウイルス遺伝子の宿主細胞染色体への安定的な組込みに起因して、感染を根絶することができず、長寿命の潜伏感染CD4+ T細胞のリザーバの迅速な確立を導く(Silicianoら,2003 Nat Med, 9, 727)。したがって、ウイルスリザーバを根絶し、機能的治癒を達成する可能性を有する新たな治療法が必要とされる。免疫治療ストラテジ(特に、CD8+ T細胞の活性化を生じるもの)は、有望なアプローチである(Vanhamら,2012, Retrovirol 9, 72;Shanら,2012, Immunity 36, 491;Sloanら,2015, PLoS Pathog. 5;11(11);Varela-Rohenaら,2008, Nat Med, 14(12):1390-5)。このようなアプローチは、潜伏逆転剤(latency reversing agents)と組み合わせ得る。
【0003】
T細胞応答を刺激するよう設計されたワクチンが開発されており、ウイルス再活性化剤との組合せで用いられている;しかし、今日までに、これらは、おそらくは、活性化されたT細胞クローンがそもそもウイルスを抑制することができないものであるため、ほとんど効果がないことが証明されている(Autranら,2008, AIDS 22, 1313;Schooleyら,2012, J Infect Dis 202, 705;Casazzaら,2013, J. Infect Dis 207, 1829)。代替の免疫治療アプローチには、HIV感染細胞に対して強力な免疫応答を生じるように操作されたT細胞レセプター(TCR)の使用が含まれる。現実に、T細胞及びTCRは、典型的には、抗原に関して弱い親和性(低マイクロモル~ナノモルの範囲)を有する。抗原認識部位の変異によるTCRの操作は、抗原親和性の増大をもたらし得、このことがインビボで増強した免疫応答を導き得る。HIVに関して、増強した応答は、低レベルの抗原を提示する細胞からウイルスを根絶するに十分であるはずである。このような操作TCRは遺伝子改変T細胞を用いる細胞療法適用に用い得る(Vonderheide及びJune,2014,Immunol Rev,257,7-13)。或いは、操作TCRは、細胞毒性剤又は免疫刺激剤を感染細胞に送達するための可溶性薬剤として製造され得る(Lissinら(2013),「High-Affinity Monocloncal T-cell receptor (mTCR) Fusions. Fusion Protein Technologies for Biophamaceuticals: Applications and Challenges」. S. R. Schmidt, Wiley;Boulterら(2003),Protein Eng 16(9): 707-711;Liddyら(2012),Nat Med 8: 980-987;WO03/020763)。可溶性TCRを治療剤として用いるためには、抗原に関する親和性(KD)及び/又は結合半減期が特に高いこと、例えば、ピコモル範囲のKD及び/又は数時間の結合半減期が望ましい。低レベルの抗原を提示する標的細胞に対して強力な応答を駆動する高い親和性が必要である。親和性が操作されたTCRを含む全ての適用において、TCRは、抗原に関して、対応する野生型TCRより高い親和性を有するのみならず、高レベルの抗原特異性も保持することが必須である。この関連で、特異性の喪失は、そのようなTCRを患者に投与した場合、オフターゲット効果をもたらし得る。
【0004】
代表的には、親和性成熟のためには、当業者は、抗原認識の強度を増大させるためにWT TCR配列になし得る特定の変異及び/又は変異の組合せ(置換、挿入及び/又は欠失を含むがこれらに限定されない)を同定しなければならない。親和性増強を付与する所与のTCRの変異を同定する方法は当該分野において公知であり、例えば、ディスプレイライブラリの使用が挙げられる(Liら(2005) Nat Biotechnol. 23(3):34-354;Hollerら(2000). Proc Natl Acad Sci U S A;97(10):5387-5392)。しかし、所与の標的に対する所与のTCRの親和性を有意に増大させるためには、当業者が特定の変異及び/又は変異の組合せを、可能性のある選択肢の大きなプールから選択する必要がある。多くの場合、所望の親和性及び特異性を達成することは可能でないかもしれない。高い親和性及び高い特異性に必要な変異はまた、発現させ、リフォールディングし、妥当な収率で精製することが可能であり、かつ精製形態で高度に安定であるTCRを生じなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ペプチド配列SLYNTVATL(配列番号1)は、Gag遺伝子(HIVウイルスを形成する遺伝子であって、該遺伝子に対するT細胞応答がウイルス量の制御に特に有効であることが示されている9つの遺伝子の1つ)のp17遺伝子産物に由来する(Rollandら,2008, PLoS One, 3:e1424)。このペプチド(本明細書では「Gag」と呼ぶ)は、HIV感染細胞の表面にHLA-A*02によって提示される。したがって、Gag-HLA-A*02複合体は、HIV感染細胞のTCRベースの認識についての理想的な標的を提供する。
【0006】
Gag-HLA-A*02複合体を認識するWT TCRは単離されており、より高い親和性認識をもたらすWT TCR配列内の種々の変異が同定されている(WO06103429及びVarela-Rohenaら,2008, Nat Med, 14(12):1390-5)。前記親和性増強TCRで形質転換されたCD8+細胞傷害性T細胞は、インビトロにおいて、T細胞治療に適切なエフェクター標的比でHIV感染を抑制することが可能であった。このTCRは、最も一般的なウイルスエスケープペプチドの全てを認識することが可能であった(Varela-Rohenaら,2008, Nat Med, 14(12):1390-5)。このTCRは養子T細胞療法で有用である一方、治療用途の可溶性TCRは、典型的には、低いエピトープレベルを提示する感染細胞を認識することができるより高い親和性抗原認識を必要とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、予想外にも、可溶性TCRベースの治療における使用に特に適切な性質を有するTCRを生じる以前に同定された変異の1又は2以上と組み合わせ得る同じWT TCRの更なる変異体を見出した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の詳細な説明
第1の観点において、本発明は、
HLA-A*02と複合体化したSLYNTVATL(配列番号1)に対して結合性を有し、TCR α鎖可変ドメイン及びTCR β鎖可変ドメインを含んでなり、
α鎖可変ドメインは、配列番号2のアミノ酸残基1~112の配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、及び/又は
β鎖可変ドメインは、配列番号3のアミノ酸残基1~113の配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
α鎖可変ドメインは、配列番号2に示す番号付けを参照して、次の変異:
【表1】
(表1)
の少なくとも1つを有し、及び/又は
β鎖可変ドメインは、配列番号3に示す番号付けを参照して、次の変異:
【表2】
(表2)
の少なくとも1つを、場合により、次の変異:
【表3】
(表3)
の少なくとも1つとの組合せで有する、T細胞レセプター(TCR)を提供する。
【0009】
本発明は、予想外に良好な抗原結合特性(ピコモルの抗原親和性、長い結合半減期及び活性化成分と融合したとき、高レベルの特異性を維持しつつ極端に低いレベルの抗原を提示するHIV感染細胞に対して強力な免疫活性化を媒介する能力を含む)を有するTCRを開示する。本発明のTCRは、HIV感染個体の治療における可溶性ターゲティング剤としての使用に特に適切である。具体的には、本発明によるTCRは、予想外に、野生型Gag TCRに比して高い抗原親和性及び高い抗原特異性を有する。抗原に関して高い親和性を有するようなTCRの操作は、抗原特異性が低下したTCRを生じてしまうというのが当該分野における認識である。例えば、親和性の劇的な増大は、TCR遺伝子改変CD8 T細胞における特異性の喪失(これは、これらTCRトランスフェクトCD8細胞の非特異的活性化を生じ得る)に関連付けられている(Zhaoら(2007) J Immunol. 179: 5845-54;Robbinsら(2008) J Immunol. 180: 6116-31;及びWO2008/038002を参照)。更に、抗CD3に融合した可溶性高親和性TCRは、高濃度で用いると、抗原に関しての特異性を喪失することがあることが示されている(Liddyら(2012), Nat Med, 8: 180-187を参照)。特異性の問題は、このWT Gag TCRに由来する高親和性TCRに関して特に考慮すべき事項である。なぜならば、このWT TCRは幅広いエピトープ認識プロフィールを有し、Gagペプチドの任意の側鎖位置での単一アラニン置換を許容することができ、複数のアラニンが置換されたペプチドさえも認識することができるからである(Varela-Rohenaら,2008, Nat Med, 14(12):1390-5及びそこで引用された参考文献)。当該分野の認識に反し、本発明者らは、高親和性及び高特異性の両方を有し、したがって臨床適用に特に適切である変異体TCRを見出した。
【0010】
本明細書に記載するTCR配列は、TCRの分野の当業者に広く知られアクセス可能であるIMGT命名法を参照して記載される。例えば、LeFranc及びLeFranc(2001),「T cell Receptor Factsbook」, Academic Press;Lefranc(2011),Cold Spring Harb Protoc 2011(6): 595-603;Lefranc(2001),Curr Protoc Immunol Appendix 1: Appendix 10O;及びLefranc(2003),Leukemia 17(1): 260-266を参照。簡潔には、αβTCRは2つのジスルフィド連結鎖からなる。各鎖(α及びβ)は、一般に、2つのドメイン、すなわち、可変ドメイン及び定常ドメインを有すると考えられる。短い連結領域が可変ドメインと定常ドメインとを連結し、この連結領域は、代表的には、α可変領域の一部とみなされている。加えて、β鎖は、通常、連結領域の次に短い多様性領域を含有する。この連結領域も、代表的には、β可変領域の一部とみなされている。
【0011】
各鎖の可変ドメインはN末端側に位置し、フレームワーク配列に埋め込まれた3つの相補性決定領域(CDR)を含んでなる。CDRはペプチド-MHC結合のための認識部位を含む。α鎖可変(Vα)領域をコードする幾つかの遺伝子及びβ鎖可変(Vβ)領域をコードする幾つかの遺伝子が存在する。これら遺伝子は、フレームワーク配列、CDR1配列及びCDR2配列並びに部分的に規定されるCDR3配列により区別される。Vα及びVβ遺伝子は、IMGT命名法では、それぞれ接頭語「TRAV」及び「TRBV」を用いて称呼される(Folch及びLefranc(2000),Exp Clin Immunogenet 17(1): 42-54;Scaviner及びLefranc(2000),Exp Clin Immunogenet 17(2): 83-96;LeFranc及びLeFranc(2001),「T cell Receptor Factsbook」,Academic Press)。同様に、α鎖及びβ鎖について、それぞれ「TRAJ」又は「TRBJ」と呼ばれる幾つかの連結又はJ遺伝子が存在し、β鎖については「TRBD」と呼ばれる多様性又はD遺伝子が存在する(Folch及びLefranc(2000),Exp Clin Immunogenet 17(2): 107-114;Scaviner及びLefranc(2000),Exp Clin Immunogenet 17(2): 97-106;LeFranc及びLeFranc(2001),「T cell Receptor Factsbook」,Academic Press)。T細胞レセプター鎖の非常に大きな多様性は、種々のV、J及びD遺伝子(対立遺伝子バリアントを含む)の間での再配置の組合せ、更には連結多様性に起因する(Arstilaら(1999),Science 286(5441): 958-961;Robinsら(2009), Blood 114(19): 4099-4107)。TCR α鎖及びβ鎖の定常又はC領域は、それぞれ「TRAC」及び「TRBC」と呼ばれる(Lefranc(2001),Curr Protoc Immunol Appendix 1: Appendix 1O)。
【0012】
用語「天然型TCR」は、本明細書においては、正準のTRAV12-2配列に比して次の変異:V73I、Q81K及びP82L(配列番号2の番号付けに基く)を有するTRAV12-2*01及びCDR3アミノ酸配列AVRTNSGYALN(配列番号22)を含むα鎖可変ドメインと、TRBV5-6*01及びCDR3アミノ酸配列ASSDTVSYEQY(配列番号25)を含むβ鎖可変ドメインとを有するTCRを意味する用語「野生型TCR」又は「WT TCR」又は「非変異TCR」と同義に用いられる。天然型α及びβ可変ドメインのアミノ酸配列は、図1に示すとおり、配列番号2の残基1~112及び配列番号3の残基1~113により提供される[注記:以前に公表された配列(WO06103429及びVarela-Rohenaら(2008),Nat Med, 14(12):1390-5を参照)と比較すると、TRBVの開始メチオニンの後の残基は、グルタミン酸(E)ではなくアスパラギン酸(D)と記載されている。TRBV5-6*01に関して、この位置はアスパラギン酸が正準残基であり、操作の間に再導入された。同様の理由で、TRAVの開始メチオニン後の残基は、以前に公表された配列に記載されるとおりのAではなくQである]。本発明のTCRにおいて、α鎖及びβ鎖可変ドメインのそれぞれのN末端の開始メチオニン残基は任意選択事項である。加えて又は或いは、α鎖可変ドメインの開始メチオニンの後の残基はアラニン(A)又はグルタミン(Q)であってもよい。
【0013】
WT TCRの定常ドメインは、完全長であってもよく、又は可溶性TCRを生じるように短縮及び/若しくは変異されていてもよい。いずれの場合でも、非天然型鎖間ジスルフィド結合を形成し得るように、TRAC領域及びTRBC領域にシステイン置換が導入されてもよい。前記システイン置換の適切な位置は、WO03020763に記載されている。図2は、可溶性形式での野生型TCR α鎖及びβ鎖のそれぞれの細胞外配列を示す。配列番号4は、定常ドメインの48位システインがスレオニンで置換されていることを除き、天然型α鎖細胞外配列(配列番号2)と同一である。α鎖定常ドメインは、C末端の8アミノ酸(FFPSPESS)を除去し得る。同様に、配列番号5は、定常ドメインの57位システインがセリンで置換され、定常ドメインの75位システインがアラニンで置換され、定常ドメインの89位アスパラギンがアスパラギン酸で置換されていることを除き、天然型β鎖細胞外配列(配列番号3)と同一である。可溶性野生型TCRは、本発明の変異TCRの結合プロフィールと比較し得る参照を提供するために用いてもよい。この配列は、SLYNTVATL-HLA-A*02複合体を提示するガンの標的化免疫療法のための治療用TCRとしての使用に特に適切である。
【0014】
特定の実施形態において、本発明のTCRのα鎖可変ドメインは4~8つの変異を有してもよく、及び/又はβ鎖は5つの変異を有してもよい。特定の好適な実施形態において、α鎖可変ドメインは次の変異群:
群1:D27S、R28W、G29E、S30G
群2:I50L、S52A、N53D、G54P
群3:D27S、R28W、G29E、S30G、I50L、S52A、N53D、G54P
の少なくとも1つを有し、及び/又は
β鎖可変ドメインは次の変異群:
群1:Y49A、E50V、E51R、E52G、E53V
を有する。
【0015】
特定の好適な実施形態において、α鎖及び/又はβ鎖のCDR1、CDR2及びCDR3の配列は、それぞれ配列番号2及び3の番号付けを参照して、次の表から選択してもよい。
【表4】
(表4)
【表5】
(表5)
【0016】
本発明はまた、HLA-A*02と複合体化したSLYNTVATL(配列番号1)に結合するTCRを提供し、ここで:α鎖CDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ配列番号26、27及び22若しくは配列番号26、21及び22を含み、及び/又は、β鎖CDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ配列番号23、28及び25を含み;及び/又は、CDRの少なくとも1つは、配列番号21~23及び25~28と比較して1若しくは2以上の保存的置換を含有し;及び/又は、CDRの少なくとも1つは、配列番号21~23及び25~28と比較して3つまでの許容される置換を含有する。好ましくは、前記置換は、非置換TCRと比較して、結合親和性及び/又は結合半減期(T1/2)を、±50%を超えて、より好ましくは±20%を超えて変化させない。
【0017】
幾つかの実施形態において、本発明のTCRのα鎖可変ドメインは、上記の本発明の変異又は変異群の少なくとも1つを有するという条件で、配列番号2のアミノ酸残基1~112又は2~112(N末端の開始メチオニン残基は任意選択事項であるため)の配列に対して、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよい。加えて、α鎖可変ドメインの開始メチオニンの後の残基は、グルタミン(Q)ではなくアラニン(A)であってもよい。幾つかの実施形態において、本発明のTCRのβ鎖可変ドメインは、上記の本発明の変異又は変異群の少なくとも1つを有するという条件で、配列番号3のアミノ酸残基1~113又は2~113(N末端の開始メチオニン残基は任意選択事項であるため)の配列に対して、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0018】
α鎖可変ドメインのCDR3アミノ酸配列は、野生型TCRのα鎖のCDR3配列と同一であってもよい。加えて又は或いは、β鎖可変ドメインのCDR3アミノ酸配列は、野生型TCRのβ鎖のCDR3配列と同一であってもよい。
本発明の特定の好適なTCRにおいて、α鎖可変ドメインは配列番号6又は7のアミノ酸配列を含んでいてもよく、及び/又は、β鎖可変ドメインは配列番号8のアミノ酸配列を含んでいてもよい。記載されるように、本発明のTCRにおいて、α鎖及びβ鎖可変ドメインのそれぞれのN末端開始メチオニン残基は、任意選択事項である。加えて又は或いは、α鎖可変ドメインの開始メチオニンの後の残基(配列番号6及び7の1位)はアラニン(A)又はグルタミン(Q)であり得る。
【0019】
本明細書に開示するいずれの本発明のTCRの表現型上サイレントなバリアントも、本発明の範囲内である。本明細書で用いる場合、用語「表現型上サイレントなバリアント」は、上記の変異に加えて、1又は2以上の更なるアミノ酸変化(置換、挿入及び欠失を含む)が組み込まれたTCRであって、前記変化のない対応するものに類似する表現型を有するTCRをいうと理解される。本願の目的のためには、TCR表現型は、抗原結合親和性(KD及び/又は結合半減期)及び抗原特異性を含む。表現型上サイレントなバリアントは、同一条件下(例えば25℃にて同じSPRチップ上)で測定したとき、SLYNTVATL(配列番号1)-HLA-A*02複合体に関して、前記変化を有しない対応するTCRで測定されたKD及び/又は結合半減期の50%以内、より好ましくは20%以内のKD及び/又は結合半減期を有していてもよい。適切な条件は実施例3で更に説明する。抗原特異性は下記で更に説明する。当業者に公知であるように、SLYNTVATL(配列番号1)-HLA-A*02複合体との相互作用の親和性を変更することなく、可変ドメインに、上記のものからの変化が組み込まれたTCRを作製することは可能であり得る。具体的には、このようなサイレント変異は、抗原結合に直接関与しないことが知られている配列の部分(例えば、フレームワーク領域、又はCDRのペプチド抗原と接触しない部分)に組み込まれてもよい。このような特段の意味のないバリアントも本発明の範囲に含まれる。当該分野において公知であるように、例えば安定性及び/又は製造可能性を向上させるというような理由で更なるアミノ酸変化が組み込まれていてもよい。インビボにおける免疫原性の可能性を低減させるための追加の又は代替の更なるアミノ酸変化がなされてもよい。このような変異も、表現型上サイレントであれば、本発明の範囲に含まれる。
【0020】
表現型上サイレントなバリアントは、1若しくは2以上の保存的置換及び/又は1若しくは2以上の寛容される置換が組み込まれることにより作製されてもよい。許容される置換は、下記の「保存的」の定義に該当しないにもかかわらず表現型上サイレントである置換を意味する。「保存的置換」は、1又は2以上のアミノ酸の、類似の特性を有する代替アミノ酸での置換を意味する。当業者は、種々のアミノ酸が類似する特性を有し、よって「保存的」であることを理解する。タンパク質、ポリペプチド又はペプチドのそのような1又は2以上のアミノ酸は、該タンパク質、ポリペプチド又はペプチドの所望の活性を消失させないで1又は2以上の他のそのようなアミノ酸で置換し得る場合が多い。よって、アミノ酸 グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン(脂肪族側鎖を有するアミノ酸)は、互いに置換し得る場合が多い。これら可能な置換のうち、(相対的に短い側鎖を有するので)グリシン及びアラニンを互いの置換に用い、(疎水性である、より長い脂肪族側鎖を有するので)バリン、ロイシン及びイソロイシンを互いの置換に用いることが好ましい。互いに置換し得る場合が多い他のアミノ酸として:フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン(芳香族側鎖を有するアミノ酸);リジン、アルギニン及びヒスチジン(塩基性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギン酸及びグルタミン酸(酸性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギン及びグルタミン(アミド側鎖を有するアミノ酸);並びにシステイン及びメチオニン(イオウ含有側鎖を有するアミノ酸)が挙げられる。本発明の範囲内のアミノ酸置換は、天然に存在するアミノ酸又は天然に存在しないアミノ酸を用いて行い得ることを理解すべきである。例えば、本明細書では、アラニンのメチル基はエチル基で置換されてもよく及び/又は軽微な変化がペプチド骨格になされてもよい。天然又は合成のアミノ酸が用いられているか否かにかかわらず、L-アミノ酸のみが存在することが好ましい。
【0021】
したがって、本発明は、α可変ドメインが配列番号6及び7のアミノ酸配列を含み、及び/又はβ可変ドメインが配列番号8のアミノ酸配列を含むTCRに対して少なくとも90%の同一性、例えば90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるTCRの使用にまで拡張される。
「同一性」は、当該分野において公知のように、2若しくは3以上のポリペプチド配列間又は2若しくは3以上のポリヌクレオチド配列間での配列比較により決定される両配列間の関係性である。当該分野において、同一性はまた、妥当な場合、ポリペプチド配列間又はポリヌクレオチド配列間の、配列の並びの一致性によって決定される配列関連性の程度を意味する。2つのポリペプチド配列間又は2つのポリヌクレオチド配列間の同一性を測定する方法は幾つか存在するが、同一性の決定に一般に用いられる方法は、コンピュータプログラム化されている。2つの配列間の同一性を決定する好ましいコンピュータプログラムとしては、GCGプログラムパッケージ(Devereuxら,Nucleic acid Research, 12, 387 (1984)、BLASTP、BLASTN及びFASTA(Atschulら,J. Molec. Biol. 215, 403(1990))が挙げられるが、これに限定されない。
【0022】
CLUSTALプログラムのようなプログラムを用いてアミノ酸配列を比較することができる。このプログラムはアミノ酸配列を比較し、必要な場合にはいずれかの配列にスペースを挿入して最適な整列を見出す。最適な整列についてアミノ酸の同一性又は類似性(同一性+アミノ酸タイプの保存)を算出することができる。BLASTxのようなプログラムは、類似する配列を最も長く整列させ、そのフィッティングに対して値を割り当てる。よって、各々が異なるスコアを有する幾つかの類似領域を見出せる比較を行うことができる。いずれのタイプの同一性分析も本発明において企図されている。
2つのアミノ酸配列又は2つの核酸配列のパーセント同一性は、最適比較を目的として配列を整列させ(例えば、最良整列のために第1の配列にギャップを導入することができる)、対応する位置でアミノ酸残基又はヌクレオチドを比較することにより決定する。「最良整列」は、最も高いパーセント同一性をもたらす2つの配列の整列である。パーセント同一性は、比較する配列中の同一アミノ酸残基又はヌクレオチドの数により決定する(すなわち、%同一性 = 同一位置の数/位置の総数×100)。
【0023】
2つの配列間のパーセント同一性の決定は、当業者に公知の数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。2つの配列を比較する数学的アルゴリズムの例は、Karlin及びAltschul(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877に記載されるように改変されたKarlin及びAltschul(1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268のアルゴリズムである。Altschulら(1990),J. Mol. Biol. 215:403-410のNBLAST及びXBLASTプログラムには、そのようなアルゴリズムが組み込まれている。BLASTヌクレオチドサーチは、核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得るため、NBLASTプログラム、スコア = 100、ワード長 = 12を用いて行うことができる。BLASTタンパク質サーチは、本発明に用いるタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得るため、XBLASTプログラム、スコア = 50、ワード長 = 3を用いて行うことができる。比較目的でギャップを有する整列を得るためには、Altschulら(1997),Nucleic acid Res. 25:3389-3402に記載されるようにGapped BLASTを利用することができる。或いは、PSI-Blastを用いて、分子間の遠い関連性を検出する累次サーチを行うことができる(前出)。BLAST、Gapped BLAST及びPSI-Blastプログラムを用いる場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータを用いることができる(例えば、XBLAST及びNBLAST)。http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照。配列比較に利用される数学的アルゴリズム別の例は、Myers及びMiller,CABIOS (1989)のアルゴリズムである。CGC配列整列ソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)には、そのようなアルゴリズムが組み込まれている。当該分野において公知の他の配列分析アルゴリズムとしては、Torellis及びRobotti(1994),Comput. Appl. Biosci., 10 :3-5に記載されるADVANCE及びADAM;並びにPearson及びLipman(1988),Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444-8に記載されるFASTAが挙げられる。FASTAにおいて、ktupは、サーチの感度及び速度を設定するコントロールオプションである。
【0024】
任意の適切な方法を用いることを条件に、変異(保存的及び寛容される置換、挿入及び欠失を含む)を配列に導入し得る。このような方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)をベースにする方法、制限酵素ベースのクローニング又はライゲーション非依存性クローニング(LIC)手順が挙げられるが、これらに限定されない。これら方法は、多くの標準的な分子生物学の教科書に詳述されている。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び制限酵素ベースのクローニングに関する更なる詳細については、Sambrook及びRussell(2001),Molecular Cloning - A Laboratory Manual(第3版) CSHL Pressを参照。ライゲーション非依存性クローニング(LIC)手順についての更なる情報は、Rashtchian(1995),Curr Opin Biotechnol 6(1): 30-6に見出すことができる。本発明により提供されるTCR配列は、固相合成又は当該分野において公知の任意の他の適切な方法から得てもよい。
【0025】
本発明のTCRは、SLYNTVATL(配列番号1)-HLA-A*02複合体に結合する特性を有する。本発明のTCRは、このエピトープに関して、他の無関係なエピトープと比較して、高度に特異的であることが見出されており、よってこのエピトープをディスプレイする細胞及び組織への治療用薬剤又は検出可能な標識の送達用ターゲッティングベクターとして特に適切である。特異性は、本発明のTCRに関して、抗原ポジティブであるHLA-A*02標的細胞を認識できる一方で、抗原ネガティブであるHLA-A*02標的細胞を認識する能力が極めて小さいことに関する。
【0026】
特異性は、インビトロで、例えば細胞アッセイ(例えば実施例5に記載されるもの)において測定することができる。特異性を試験するため、TCRは可溶形態であってもよく及び/又はT細胞表面に発現されていてもよい。認識は、本発明のTCR及び標的細胞の存在下でのT細胞活性化レベルを測定することによって決定してもよい。抗原ネガティブ標的細胞の極めて小さい認識は、同一条件下でかつ治療上妥当なTCR濃度にて測定したとき、抗原ポジティブ標的細胞の存在下で生じるT細胞活性化レベルの20%未満、好ましくは10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満のレベルとして規定される。本発明の可溶性TCRについて、治療上妥当な濃度は、10-9M以下のTCR濃度及び/又は上限が対応するEC50値より100倍、好ましくは1000倍大きい濃度と規定されてもよい。抗原ポジティブ細胞は、低レベルの抗原提示(例えば、Bossiら(2013),Oncoimmunol. 1;2 (11) :e26840に記載されているように10-9Mペプチド)を得るために適切なペプチド濃度を用いるペプチド-パルスにより得られてもよく、又は当該ペプチドを天然に提示するものであってもよい。好ましくは、抗原ポジティブ細胞はヒト細胞である。
【0027】
加えて又は或いは、特異性は、SLYNTVATL(配列番号1)-HLA-A*02複合体に結合し、代替ペプチド-HLA複合体のパネルには結合しないTCRの能力に関してもよい。好ましくは、代替ペプチド-HLA複合体はHLA-A*02を含む。これは、例えば、実施例3のBiacore法により決定されてもよい。代替ペプチドは、配列番号1と低レベルの配列同一性を有していてもよく、天然に提示されてもよい。好ましくは、代替ペプチドは、正常ヒト組織に由来する細胞(すなわち、HIVに感染していない細胞)の表面に提示されるものである。SLYNTVATL-HLA-A*02複合体に対する結合は、他の天然に提示されるペプチド-HLA複合体に対する結合より少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも10倍又は少なくとも50倍又は少なくとも100倍、なおより好ましくは少なくとも400倍大きくてもよい。
TCRの特異性を決定する代替又は追加のアプローチは、シーケンシャル変異誘発(例えば、アラニンスキャニング)を用いてTCRのペプチド認識モチーフを同定することであり得る。このようなアプローチはCameronら(2013), Sci Transl Med. 2013 Aug 7;5 (197): 197ra103及びWO2014096803に更に記載されている。
【0028】
本発明のTCRは、更に、HLA-A*02により提示される、配列番号1の天然エスケープバリアントを含む複合体に結合してもよい。ペプチドSLYNTVATLのエスケープバリアントは、AIDS患者から単離されており、次のものを含む(Sewellら(1997),Eur J Immunol. 27: 2323-2329):
SLFNTVATL (配列番号20)
SLFNTVAVL (配列番号21)
SLSNTVATL (配列番号22)
SSFNTVATL (配列番号23)
SLLNTVATL (配列番号24)
SLYNTIATL (配列番号25)
SLYNTIAVL (配列番号26)
SLFNTIATL (配列番号27)
SLFNTIAVL (配列番号28)
SLFNFVATL (配列番号29)
【0029】
本発明の特定のTCRは、治療用薬剤としての使用に関して理想的な安全性プロフィールを有し得る。この場合、TCRは可溶性形態であってもよく、好ましくは免疫エフェクターに融合されていてもよい。理想的な安全性プロフィールは、本発明のTCRが、良好な特異性を証明されることに加えて、前臨床安全性試験に合格し得ることを意味する。このような試験の例としては、全血存在下でサイトカイン遊離が少ないこと(よって、インビボでサイトカイン遊離症候群を引き起こし得るリスクが低いこと)を確証する全血アッセイ、及び代替のHLAタイプを認識する可能性が低いことを確証するアロ反応性試験が挙げられる。
本発明の特定の可溶性TCRは、高収率精製が可能であり得る。高収率は、1%以上、より好ましくは10%以上、又はより高い収率を意味する。
【0030】
本発明のTCRは、当該複合体に関して100nM未満、例えば約50nM~約1pMのKD及び/又は該複合体に関して約1分~約50時間若しくはそれ以上の範囲の結合半減期(T1/2)を有していてもよい。本発明の特定のTCRは、該複合体に関して約1pM~約1nM、約1pM~約500pM、約1pM~約300pMのKDを有してもよい。本発明の特定のTCRは、該複合体に関して約50pM~約200pMのKDを有してもよい。本発明のTCRは、該複合体に関して約1分~約50時間若しくはそれ以上(例えば100時間)、約30分~約50時間若しくはそれ以上(例えば100時間)、又は約6時間~約50時間若しくはそれ以上(例えば100時間)の範囲の結合半減期(T1/2)を有してもよい。全てのこのようなTCRは、検出可能な標識又は治療用薬剤と組み合わせた場合、治療剤及び/又は診断剤としての使用に高度に適切である。本発明の特定のTCRは、養子治療適用に適切であり得る。このようなTCRは、当該複合体に関して約50nM~約100nMのKD及び/又は該複合体に関して約30秒~約12分の結合半減期を有し得る。
【0031】
特定の好適なTCRは、抗原ポジティブ細胞、具体的には、HIV感染CD4細胞に典型的な抗原を低レベルで提示する細胞に対して、インビトロで高度に強力なT細胞応答を生じることができる。このようなTCRは、可溶性形態であってもよく、免疫エフェクター(例えば、抗CD3抗体)に連結されていてもよい。測定されるT細胞応答は、T細胞活性化マーカー(例えば、インターフェロンγ又はグランザイムB)の放出若しくは細胞殺傷又は当業者に公知である他のT細胞活性化の尺度であってもよい。好ましくは、高度に強力な応答は、pM範囲、例えば100pM以下、好ましくは50pM以下、例えば50pM~1pMのEC50値を有するものである。
【0032】
本発明の特定の好適なTCRは、SLYNTVATL-HLA-A*02複合体に関して、天然型TCRのものより実質的に高い結合親和性及び/又は結合半減期を有する。天然型TCRの結合親和性を増大させると、そのペプチド-MHCリガンドに関するTCRの特異性は低下することが多く、このことは、Zhaoら(2007),J.Immunol, 179:9, 5845-5854において証明されている。しかし、本発明のTCRは、天然型TCRより実質的に高い結合親和性を有するにもかかわらず、SLYNTVATL-HLA-A*02複合体に特異的なままである。
結合親和性(平衡定数KDに反比例する)及び結合半減期(T1/2と表す)は、本願実施例3の表面プラズモン共鳴(BIAcore)及び/又はOctet法を用いて決定することができる。TCRの親和性が二倍になればKDは1/2になると理解される。T1/2はln2/解離速度(koff)として算出される。したがって、T1/2が二倍になればkoffは1/2になる。TCRのKD値及びkoff値は、通常、可溶形態のTCR(すなわち、細胞質ドメイン及び膜貫通ドメインの残基を除去するように短縮された形態のもの)について測定する。好ましくは、所与のTCRの結合親和性又は結合半減期は、同じアッセイプロトコルを用いて数回、例えば3回又は4回以上測定し、その結果の平均をとる。
【0033】
抗原提示細胞への治療用薬剤の送達用ターゲティング剤としての使用のためには、TCRは可溶形態(すなわち、膜貫通ドメインも細胞質ドメインも有しない形態)であってもよい。安定性のために、本発明のTCR、好ましくは可溶性αβヘテロダイマーTCRは、例えばWO 03/020763に記載されるように、それぞれの定常ドメインの残基同士間に導入されたジスルフィド結合を有していてもよい。本発明のαβヘテロダイマーに存在する細胞外定常ドメインの一方又は両方は、一方又は両方のC末端で、例えば15まで又は10まで又は8まで又は7以下のアミノ酸が欠失されていてもよい(短縮化)。養子療法での使用のためには、αβヘテロダイマーTCRは、例えば、細胞質ドメイン及び膜貫通ドメインの両方を有する完全長鎖としてトランスフェクトされてもよい。養子療法に用いるTCRは、α定常ドメインとβ定常ドメインとの間に天然に見出されるものに相当するジスルフィド結合を含有していてもよく、追加的に又は代替的に、非天然型ジスルフィド結合が存在してもよい。
【0034】
本発明のTCRはαβヘテロダイマーであってもよい。本発明のTCRは単鎖形式であってもよい。単鎖形式としては、Vα-L-Vβ、Vβ-L-Vα、Vα-Cα-L-Vβ、Vα-L-Vβ-Cβ、Vα-Cα-L-Vβ-Cβ又はVβ-Cβ-L-Vα-Cαタイプ(ここで、Vα及びVβはそれぞれTCR α及びβ可変領域であり、Cα及びCβはそれぞれTCR α及びβ定常領域であり、Lはリンカー配列である)のαβ TCRポリペプチドが挙げられるがこれらに限定されない(Weidanzら(1998),J Immunol Methods. 1;221(1-2):59-76;Epelら(2002),Cancer Immunol Immunother. 51(10):565-73;WO 2004/033685;WO9918129)。定常ドメインの一方又は両方は、完全長であっても、短縮型であってもよく、及び/又は変異を含有していてもよい。特定の実施形態において、本発明の単鎖TCRは、WO 2004/033685に記載されるように、それぞれの定常ドメインの残基間に導入されたジスルフィド結合を有してもよい。単鎖TCRは、WO2004/033685;WO98/39482;WO01/62908;Weidanzら(1998),J Immunol Methods 221(1-2): 59-76;Hooら(1992),Proc Natl Acad Sci U S A 89(10): 4759-4763;Schodin(1996),Mol Immunol 33(9): 819-829)に更に記載されている。
当業者に自明なように、提供される配列は、TCRの結合特性に実質的に影響を及ぼすことなく、そのC末端及び/又はN末端で1、2、3、4、5又は6以上の残基を欠失させることも可能である。このような特段の意味のないバリアントも全て本発明に包含される。
【0035】
本発明のα-βヘテロダイマーTCRは、通常、α鎖TRAC定常ドメイン配列及び/又はβ鎖TRBC1若しくはTRBC2定常ドメイン配列を含んでなる。α鎖及びβ鎖の定常ドメイン配列は、TRACのエキソン2のCys4とTRBC1又はTRBC2のエキソン2のCys2との間の天然型ジスルフィド結合が欠失するように短縮化又は置換により改変されていてもよい。α鎖及び/又はβ鎖の定常ドメイン配列はまた、TRACのThr 48及びTRBC1又はTRBC2のSer 57からシステイン残基への置換により改変され、該システインがTCRのα定常ドメインとβ定常ドメインと間のジスルフィド結合を形成していてもよい。TRBC1又はTRBC2は、追加的に、定常ドメインの75位でのシステインからアラニンへの変異及び定常ドメインの89位でのアスパラギンからアスパラギン酸への変異を含んでいてもよい。定常ドメインは、追加的又は代替的に、天然型TRAC及び/又はTRBC1/2配列と比較して更なる変異、置換又は欠失を含有してもよい。用語 TRAC及びTRBC1/2は、天然の多形バリアント、例えばTRACの4位でのN→Kを包含する(Bragadoら,Int Immunol. 1994 Feb;6(2):223-30)。
本発明により提供されるTCRのバリアント、フラグメント及び誘導体もまた本発明の範囲に含まれる。
【0036】
本発明はまた、本発明のTCRをディスプレイする粒子を含み、該粒子は粒子ライブラリに含まれていてもよい。このような粒子は、ファージ、酵母、リボソーム又は哺乳動物細胞を含むがこれらに限定されない。このような粒子及びライブラリを作製する方法は当該分野において公知である(例えば、WO2004/044004;WO01/48145;Chervinら(2008),J. Immuno. Methods 339.2: 175-184を参照)。
【0037】
更なる1つの観点において、本発明は、本発明のTCR及び/又は本発明のTCR-抗CD3融合分子をコードする核酸を提供する。幾つかの実施形態において、核酸はcDNAである。幾つかの実施形態において、本発明は、本発明のTCRのα鎖可変ドメインをコードする配列を含んでなる核酸を提供する。幾つかの実施形態において、本発明は、本発明のTCRのβ鎖可変ドメインをコードする配列を含んでなる核酸を提供する。核酸は、天然に存在せず及び/又は精製され及び/又は工学的に操作されていてもよい。例えば、核酸は特定の発現系に関してコドン最適化されていてもよい。
別の1つの観点において、本発明は、本発明の核酸を含んでなるベクターを提供する。好ましくは、ベクターはTCR発現ベクターである。
【0038】
本発明はまた、本発明のベクター、好ましくはTCR発現ベクターを有する細胞を提供する。ベクターは、単一オープンリーディングフレームにα鎖及びβ鎖をコードする本発明の核酸を含んでなってもよいし、2つの別個のオープンリーディングフレームにそれぞれα鎖及びβ鎖をコードする本発明の核酸を含んでなってもよい。別の1つの観点は、本発明のTCRのα鎖をコードする核酸を含んでなる第1の発現ベクター及び本発明のTCRのβ鎖をコードする核酸を含んでなる第2の発現ベクターを有する細胞を提供する。このような細胞は養子療法に特に有用である。本発明の細胞は、単離されたもの及び/又は組換えのもの及び/又は天然に存在しないもの及び/又は工学的に操作されたものであってもよい。
【0039】
本発明のTCRは養子療法に有用であるので、本発明は、本発明のTCRを提示する、天然に存在しない及び/又は精製された及び/又は工学的に操作された細胞、特にT細胞を包含する。本発明はまた、本発明のTCRを提示するT細胞の拡大された集団を提供する。本発明のTCRをコードする核酸(例えば、DNA、cDNA又はRNA)でのT細胞のトランスフェクションに適切な幾つかの方法が存在する(例えば、Robbinsら(2008) J Immunol. 180: 6116-6131を参照)。本発明のTCRを発現するT細胞は、養子療法ベースのHIV感染治療における使用に適切である。当業者に公知であるように、養子療法の実施を可能にする適切な幾つかの方法が存在する(例えば、Rosenbergら(2008),Nat Rev Cancer 8(4): 299-308を参照)。
本発明の可溶性TCRは、抗原提示細胞及び抗原提示細胞を含有する組織への検出可能な標識又は治療用薬剤の送達に有用である。したがって、これらは、(TCRを用いてSLYNTVATL-HLA-A2複合体を提示する細胞の存在を検出する診断目的のための)検出可能な標識;治療用薬剤;又はPK調整成分と(共有結合又はその他の様式で)結合していてもよい。
【0040】
PK調整成分の例としては、PEG(Dozierら(2015),Int J Mol Sci. Oct 28;16(10):25831-64及びJevsevarら(2010),Biotechnol J.Jan;5(1):113-28)、PAS(Schlapschyら(2013),Protein Eng Des Sel. Aug;26(8):489-501)、アルブミン(Dennisら(2002),J Biol Chem. Sep 20;277(38):35035-43)及び/又は非構造化ポリペプチド(Schellenbergerら(2009),Nat Biotechnol. Dec;27(12):1186-90)が挙げられるが、これらに限定されない。
診断目的の検出可能な標識としては、例えば、蛍光標識、放射性標識、酵素、核酸プローブ及び造影剤が挙げられる。
本発明のTCRと結合され得る治療用薬剤としては、免疫調整剤、放射性化合物、酵素(例えば、パーフォリン)又は化学療法剤(例えば、シスプラチン)が挙げられる。毒性効果が確実に所望の位置で発揮されるために、毒物は、緩徐に放出されるようにTCRに連結されたリポソームの内部に存在し得る。このことにより、人体における輸送の間の損傷効果が防止され、該当する抗原提示細胞へのTCRの結合後に、毒物が最大効果を有することが保証される。
【0041】
他の適切な治療用薬剤として、次のものが挙げられる:
・小分子細胞傷害性物質、すなわち、哺乳動物細胞を殺傷する能力を有する分子量700ダルトン未満の化合物。このような化合物はまた、細胞傷害性効果を有することができる毒性金属を含有し得る。更に、これら小分子細胞傷害性物質にはまた、プロドラッグ、すなわち、生理学的条件下で崩壊又は変換して細胞傷害性物質を放出する化合物が含まれると理解される。このような物質の例として、シスプラチン、メイタンシン(maytansine)誘導体、ラケルマイシン(rachelmycin)、カリケアマイシン(calicheamicin)、ドセタキセル、エトポシド、ゲムシタビン、イホスファミド、イリノテカン、メルファラン、ミトキサントロン、ソルフィマーソディウムホトフィリンII(sorfimer sodiumphotofrin II)、テモゾロマイド(temozolmide)、トポテカン、トリメトレキサート(trimetreate)、グルクロナート、オーリスタチンE(auristatin E)、ビンクリスチン及びドキソルビシンが挙げられる;
・ペプチド細胞毒素、すなわち、哺乳動物細胞を殺傷する能力を有するタンパク質又はそのフラグメント。例えば、リシン、ジフテリア毒素、シュードモナス細菌外毒素A、DNAアーゼ及びRNAアーゼ;
・放射性核種、すなわち、1又は2以上のα粒子若しくはβ粒子又はγ線の同時放射を伴って崩壊する元素の不安定同位体。例えば、ヨウ素131、レニウム186、インジウム111、イットリウム90、ビスマス210及び213、アクチニウム225及びアスタチン213;高親和性TCR又はその多量体へのこれら放射性核種の結合を容易にするために、キレート化剤が使用されてもよい;
・免疫刺激物質、すなわち、免疫応答を刺激する免疫エフェクター分子。例えば、サイトカイン(例えばIL-2及びIFN-γ)、
・スーパー抗原及びその変異体;
・TCR-HLA融合体、例えば、ペプチドが一般的なヒト病原体、例えばエプスタインバーウイルス(EBV)に由来するペプチド-HLA複合体との融合体;
・ケモカイン、例えばIL-8、血小板第4因子、メラノーマ増殖刺激タンパク質など;
・抗体又はそのフラグメント。抗T細胞又はNK細胞決定基抗体(例えば、抗CD3、抗CD28又は抗CD16)が挙げられる;
・抗体様結合特性を有するオルターナティブタンパク質足場
・補体活性化物質;
・異種タンパク質ドメイン、同種タンパク質ドメイン、ウイルス性/細菌性タンパク質ドメイン、ウイルス性/細菌性ペプチド。
【0042】
1つの好適な実施形態は、抗CD3抗体又は該抗CD3抗体の機能的フラグメント若しくはバリアントと(通常、α鎖又はβ鎖のN末端又はC末端への融合により)結合した本発明のTCRにより提供される。本明細書で用いる場合、用語「抗体」は前記のようなフラグメント及びバリアント(ヒト化バリアントを含む)を包含する。抗CD3抗体の例としては、OKT3、UCHT-1、BMA-031及び12F6が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の組成物及び方法における使用に適切な抗体フラグメント及びバリアント/アナログとしては、数例挙げるとすれば、ミニボディ、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメント、dsFv及びscFvフラグメント、ナノボディTM(Ablynx(ベルギー)から市販され、ラクダ科動物(例えば、ラクダ又はラマ)抗体に由来する合成の単鎖免疫グロブリン可変重鎖ドメインを含む構築物)及びドメイン抗体(Domantis(ベルギー);これは、親和性成熟単鎖免疫グロブリン可変重鎖ドメイン又は免疫グロブリン可変軽鎖ドメインを含む)又は抗体様結合特性を示す代替のタンパク質足場、例えばアフィボディ(Affibody(スウェーデン);工学的に操作されたプロテインA足場を含む)若しくはアンチカリン(Anticalins)(Pieris(ドイツ));工学的に操作されたアンチカリンを含む)が挙げられる。
【0043】
TCRと抗CD3抗体との連結は、直接的であっても、リンカー配列を介して間接的であってもよい。リンカー配列は、通常、可撓性を制限する蓋然性が大きい嵩高い側鎖を有しないアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン及びセリン)から主に作製されるという点で可撓性である。リンカー配列の使用に適した又は最適な長さは容易に決定される。リンカー配列は約12アミノ酸長以下、例えば10アミノ酸長以下、又は2~10アミノ酸長であることが多い。本発明のTCRに使用し得る適切なリンカーとしては、(WO2010/133828に記載されるような)GGGGS(配列番号12)、GGGSG(配列番号13)、GGSGG(配列番号14)、GSGGG(配列番号15)、GSGGGP(配列番号16)、GGEPS(配列番号17)、GGEGGGP(配列番号18)及びGGEGGGSEGGGS(配列番号19)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の抗CD3-TCR融合構築物の具体的実施形態としては、配列番号6又は配列番号7から選択されるα鎖可変ドメイン及び抗CD3に相当するアミノ酸配列に融合した配列番号8であるTCR β鎖を有するものが挙げられる。前記α鎖及びβ鎖は、非天然型ジスルフィド結合を有する短縮型可変領域を更に含んでいてもよい。α鎖及び/又はβ鎖のN又はC末端は、抗CD3 scFv 抗体フラグメントに、配列番号12~19から選択されるリンカーを介して融合されていてもよい。このような抗CD3-TCR融合構築物の特定の好適な実施形態は下記に提供される:
【表6】
(表6)
【0045】
幾つかの目的のために、本発明のTCRは、幾つかのTCRを含んでなる複合体に凝集して、多価TCR複合体を形成していてもよい。多価TCR複合体の製造に使用し得る多量体化ドメインを含むヒトタンパク質が存在する。例えば、p53の四量体化ドメインは、単量体scFvフラグメントと比較して増大した血清残留性及び顕著に低下した解離速度を示す四量体のscFv抗体フラグメントを作製するために利用されている(Willudaら(2001),J. Biol. Chem. 276 (17) 14385-14392)。ヘモグロビンもまた、この種の適用に使用することができる四量体化ドメインを有する。本発明の多価TCR複合体は、非多量体野生型T細胞レセプター又は本発明のT細胞レセプターヘテロダイマーと比較して、SLYNTVATL-HLA-A2複合体に関する結合能力が増強されていてもよい。よって、本発明のTCRの多価複合体もまた本発明に含まれる。本発明に従うこのような多価TCR複合体は、インビトロ又はインビボにおける、特定の抗原を提示する細胞の追跡又は標的化に特に有用であり、また、そのような用途を有する更なる多価TCR複合体の製造用の中間体としても有用である。
【0046】
当該分野において周知であるように、TCRは翻訳後修飾に付されていてもよい。グリコシル化はそのような修飾の1つであり、TCR鎖中の規定されたアミノ酸へのオリゴ糖部分の共有結合的付加を含む。例えば、アスパラギン残基又はセリン/スレオニン残基は、周知のオリゴ糖付加位置である。特定のタンパク質のグリコシル化状況は、タンパク質配列、タンパク質コンホメーション及び特定の酵素の利用可能性を含む幾つかの因子に依存する。更に、グリコシル化状況(すなわち、オリゴ糖タイプ、共有結合及び付加の総数)は、タンパク質の機能に影響することがある。したがって、組換えタンパク質を製造するときには、グリコシル化の制御が望ましい場合が多い。制御されたグリコシル化は、抗体ベースの治療薬を改善するために使用されている(Jefferis R.,Nat Rev Drug Discov. 2009 Mar;8(3):226-34)。本発明の可溶性TCRについて、グリコシル化は、例えば特定の細胞株を用いることにより、インビボで制御されてもよく、又は化学的修飾によりインビトロで制御されてもよい。このような修飾は、グリコシル化が薬物動態を改善し、免疫原性を低減させ及び天然型ヒトタンパク質をより厳密に模擬することができるので、望ましい(Sinclair AM及びElliott S.,Pharm Sci. 2005 Aug;94(8):1626-35)。
【0047】
患者への投与のために、本発明のTCR(好ましくは、検出可能な標識若しくは治療用薬剤と結合しているか、又はトランスフェクトされたT細胞に発現しているもの)又は本発明の細胞は、医薬組成物中で、医薬的に許容可能な1又は2以上の担体又は賦形剤と共に提供されてもよい。本発明に従う治療用若しくは造影用のTCR又は細胞は、通常、医薬的に許容可能な担体を通常含む滅菌医薬組成物の一部として供給される。この医薬組成物は、(患者への望ましい投与方法に依存して)任意の適切な形態であり得る。医薬組成物は、単位剤形で提供されてもよく、一般には密封された容器中で提供され、キットの一部として提供されてもよい。このようなキットは、(必須ではないが)通常、使用指示書を含む。キットは複数の単位剤形を含んでいてもよい。
【0048】
医薬組成物は、任意の適切な経路、例えば非経口経路(皮下、筋内又は静脈内経路を含む)、経腸(経口又は直腸経路を含む)、吸入又は鼻内経路による投与に適合されていてもよい。このような組成物は、薬学分野において公知の任意の方法により、例えば活性成分を担体又は賦形剤と滅菌条件下で混合することにより、製造されてもよい。
本発明の物質の投薬量は、治療すべき疾患又は異常、治療すべき個体の年齢及び状態などに依存して広範囲に変化し得る。抗CD3抗体に結合した本発明の可溶性TCRに適切な用量範囲は、25ng/kg~50μg/kgであり得る。最終的には医師が使用すべき適切な投薬量を決定する。
本発明のTCR、医薬組成物、ベクター、核酸及び細胞は、実質的に純粋な形態、例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%純粋で提供されてもよい。
【0049】
本発明はまた、次のものを提供する:
・医薬における使用のため、好ましくはHIV感染又はAIDSの治療法における使用のための、本発明のTCR、核酸又は細胞
・HIV感染又はAIDSの治療用医薬の製造における、本発明のTCR、核酸又は細胞の使用;
・本発明のTCR、核酸又は細胞を患者に投与することを含んでなる、患者におけるHIV感染の治療法。
本発明の各々の観点の好適な特徴は、他の観点の各々についても同様である(ただし、必要な変更は加える)。本明細書において言及した先行技術文献は、法が許容する最大範囲まで組み込まれる。

図面の説明
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】野生型Gag TCRのα鎖及びβ鎖の細胞外部分のアミノ酸配列を提供する。
図2】可溶バージョンの野生型Gag TCR α鎖及びβ鎖のアミノ酸配列を提供する。
図3】変異TCR α鎖可変ドメインのアミノ酸配列を提供する。
図4】変異TCR β鎖可変ドメインのアミノ酸配列を提供する。
図5】TCR-抗CD3融合分子のα鎖アミノ酸配列を提供する。
図6】TCR-抗CD3融合分子のβ鎖アミノ酸配列を提供する。
図7】TCR-抗CD3融合分子の効力を証明する細胞データを提供する。
図8】TCR-抗CD3融合分子の特異性を証明する細胞データを提供する。
図9】TCR-抗CD3融合分子の感度を証明する細胞データを提供する。
【実施例
【0051】
本発明を以下の非限定的な実施例において説明する。

実施例
実施例1-可溶性TCRの発現、リフォールディング及び精製
方法
本発明の可溶性TCRのα及びβ細胞外領域をコードするDNA配列を、(Sambrookら,Molecular cloning. Vol. 2. (1989) New York: Cold spring harbour laboratory pressに記載のような)標準的方法を用いて、別々にpGMT7ベースの発現プラスミドにクローニングした。この発現プラスミドを別々にE. coli株Rosetta(BL21pLysS)に形質転換し、単一アンピシリン抵抗性コロニーを、TYP(+アンピシリン100μg/ml)培地中で37℃にて、約0.6~0.8のOD600まで増殖させた後、0.5mM IPTGでタンパク質発現を誘導した。誘導の3時間後に細胞を遠心分離により採集した。BugBusterタンパク質抽出試薬(Merck Millipore)を製造業者の指示に従って用いて細胞ペレットを溶解させた。封入体ペレットを遠心分離により回収した。ペレットをTriton緩衝液(50mM Tris-HCl pH8.1、0.5% Triton-X100、100mM NaCl、10mM NaEDTA)中で2回洗浄し、最後に界面活性剤フリーの緩衝液(50mM Tris-HCl pH8.1、100mM NaCl、10mM NaEDTA)中に再懸濁した。6Mグアニジン-HClで可溶化し、OD280を測定することによって、封入体タンパク質の収量を定量した。次いで、消光係数を用いてタンパク質濃度を算出した。8M尿素で可溶化し、約2μgを還元条件下の4~20% SDS-PAGEにロードして封入体の純度を測定した。次いで、デンシトメトリーソフトウェア(Chemidoc, Biorad)を用いて純度を推定又は算出した。封入体を、短期保存については+4℃にて、長期保存については-20℃又は-70℃にて保存した。
【0052】
可溶性TCRのリフォールディングについては、α鎖含有封入体及びβ鎖含有封入体を先ず混合し、10mlの可溶化/変性緩衝液(6Mグアニジン-塩酸、50mM Tris HCl pH8.1、100mM NaCl、10mM EDTA、20mM DTT)中に希釈し、続いて30分間37℃にてインキュベートした。次いで、1Lのリフォールド緩衝液(100mM Tris pH8.1、400mM L-アルギニンHCL、2mM EDTA、4M尿素、10mMシステアミン塩酸及び2.5mMシスタミン二塩酸)中に更に希釈し、溶液を十分に混合することによりリフォールディングを開始した。リフォールドした混合物を10LのH2Oに対して18~20時間5℃±3℃にて透析した。その後、透析緩衝液を10mM Tris pH8.1(10L)と2回交換し、透析を更に15時間継続した。次いで、リフォールド混合物を0.45μmセルロースフィルターで濾過した。
【0053】
透析したリフォールド物をPOROS(登録商標) 50HQアニオン交換カラムに適用し、Akta(登録商標)精製装置(GE Healthcare)を用いて50カラム容量にわたり20mM Tris pH8.1中0~500mM NaClのグラジエントで結合タンパク質を溶出させることにより可溶性TCRの精製を開始した。ピークTCR画分をSDS PAGEにより同定した後、プールし、濃縮した。次いで、濃縮サンプルを、ダルベッコPBS緩衝液で予め平衡化させたSuperdex(登録商標) 75HRゲル濾過カラム(GE Healthcare)に適用した。ピークTCR画分をプールし、濃縮し、精製物質の最終収量を計算した。
【0054】
実施例2-可溶性TCR-抗CD3融合分子の発現、リフォールディング及び精製
可溶性TCR-抗CD3融合体の調製は、TCR β鎖を抗CD3単鎖抗体にリンカーを介して融合させたことを除き、実施例1に記載のとおり行った。加えて、カチオン交換工程を、アニオン交換後の精製の間に行った。この場合、アニオン交換からのピーク画分を20mM MES(pH6.5)中で20倍希釈し、POROS(登録商標) 50HSカチオン交換カラムに適用した。結合タンパク質を、20mM MES中0~500mM NaClのグラジエントを用いて溶出させた。ピーク画分をプールし、50mM Tris pH8.1に調整した後、濃縮し、実施例1に記載のようにゲル濾過マトリクスに直接適用した。
【0055】
実施例3-可溶性TCR-抗CD3融合分子の抗原結合特性決定
結合分析を、BIAcore 3000若しくはBIAcore T200装置を用いる表面プラズモン共鳴により行った。当業者に公知の方法を用いて、ビオチン化クラスI HLA-A*02分子を目的のペプチドと共にリフォールドさせて精製した(O'Callaghanら(1999),Anal Biochem 266(1): 9-15;Garbocziら(1992),Proc Natl Acad Sci USA 89(8): 3429-3433)。ビオチン化ペプチド-HLAモノマーをストレプトアビジン接合CM-5センサチップに固定した。全ての測定は、0.005% P20を補充したダルベッコPBS緩衝液中で25℃にて行った。
【0056】
平衡結合定数は、約200応答単位(RU)のペプチド-HLA-A*02複合体を被覆したフローセル上に30μl/分の定流速で注入した可溶性TCR/TCR-抗CD3融合体の系列希釈物を用いて決定した。平衡応答は、各TCR濃度について、無関係のペプチド-HLAを含有するコントロールフローセルでのバルク緩衝液応答を減算することにより規格化した。KD値は、Prismソフトウェア及びLangmuir結合等温式 結合 = C×Max/(C+KD) (式中、「結合」は注入したTCR/TCR-抗CD3の濃度Cでの平衡結合(RU)であり、Maxは最大結合である)を用いる非線形曲線フィッティングにより得た。
【0057】
高親和性相互作用については、結合パラメータは、単一サイクル速度論分析により決定した。5つの異なる濃度のTCR-抗CD3融合体を、約100~200RUのペプチド-HLA複合体を被覆したフローセル上に、50~60μl/分の流速で注入した。代表的には、60~200μlのTCR-抗CD3融合体を100~300nMの最高濃度で注入し、他の4つの注入については2倍系列希釈物を用いた。最低濃度を先ず注入した。その後、解離相を測定するため、≧10%の解離が生じるまで、典型的には1~3時間後に、緩衝液を注入した。速度論パラメータはBIAevaluation(登録商標)ソフトウェアを用いて算出した。半減期の算出を可能とするため、解離相を一次指数関数的減衰式にフィッティングした。平衡定数KDはkoff/konから算出した。
【0058】
結果
抗CD3に融合した2つの本発明の変異体TCRの結合パラメータ(解離定数(Kd)及び半減期(T1/2))を下記の表に示す。可溶性形態の非変異TCR(抗CD3を有しない)のKd値は、以前に85nMと決定された(WO2006103429及びVarela-Rohenaら,2008, Nat Med, 14(12):1390-5)。
【表7】
【0059】
比較例
WT TCRの既知の親和性が最も高い変異体(a11b6と呼ばれる(Varela-Rohenaら,2008, Nat Med, 14(12):1390-5))を抗CD3との融合体として調製し、結合に関して上記のm121及びm134と同一条件下で評価した。この場合、結合親和性(Kd)は360pMと算出され、半減期は3.5時間であった。
この結果は、本発明の変異体TCRが、SLYNTVATL-HLA-A*02複合体に関して、WT TCR及び以前に開示された他の高親和性バリアントと比較して予想外に高い親和性及び長い結合半減期を有することを証明するものである。このことから、本発明の変異体TCRは、低レベルのSLYNTVATL-HLA-A*02複合体を提示するHIV感染細胞に対してT細胞応答を再指向化させるための可溶性治療用薬剤としての使用に特に適切とされる。
【0060】
実施例4-TCR-抗CD3融合分子による、T細胞の、SLYNTVATL-HLA-A*02複合体提示細胞に対する強力な再指向化
SLYNTVATL-HLA-A*02複合体を提示する細胞の存在下で本発明のTCR-抗CD3融合体が強力なT細胞応答を駆動する能力を、T細胞活性化の指標としてIFNγ分泌を利用するELISPOTアッセイを用いて調べた。
アッセイは、IFNγ ELISPOTアッセイキット(BD Biosciences,cat no 551849)を製造者の指示とおりに用いて行った。1nM SLYNTVATLペプチドでパルスしたT2細胞(American Type Culture Collection)を標的細胞として用い、50μl中に5×104細胞/ウェルにてプレートした。次いで、滴定濃度のTCR-抗CD3融合体を、50μl中10、1、0.1、0.01、0.001、0.0001nMの最終濃度で加えた。ドナーPBMCからエフェクター細胞(CD8+ T細胞)を、Lymphoprep(Axis-Shields, cat no NYC-1114547)及びLeucosepチューブ(Greiner, cat no 227290)を用いるFicoll-Hypaque密度勾配分離(Lymphoprep, Nycomed Pharma AS)により単離した。CD8+ T細胞をPBMCから、磁気ビーズ免疫涸渇を製造業者(MACS, Miltenyi Biotec)の指示に従って用いるネガティブ選択により富化した。エフェクター細胞を8×104細胞/ウェルで50μl中にプレートした。各ウェルの最終容量をアッセイ緩衝液(10% FCS、88% RPMI、1%グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン)で200μlとした。
【0061】
プレートを18~20時間37℃、5%CO2にてインキュベートし、発色後、自動ELISpotリーダー(Immunospot Series 5 Analyzer, Cellular Technology Ltd)を用いて定量した。
無関係のペプチドを提示する標的細胞を、ネガティブコントロールとして、エフェクター及び1nM TCR-抗CD3融合体の存在下に加えた。追加のコントロールサンプルを、エフェクター細胞+標的細胞及びエフェクター単独で調製した。Prism 5.0ソフトウェア(GraphPad, Software)を用いてデータを分析してEC50値を算出した。
【0062】
結果
図7はm121及びm134により生じた応答曲線を示す。応答曲線から導出したEC50値を下記表に示す。
【表8】
【0063】
比較例
WT TCRの既知の親和性が最も高い変異体(a11b6と呼ばれる(Varela-Rohenaら,2008, Nat Med, 14(12):1390-5))を抗CD3との融合体として調製し、EC50値を上記のm121及びm134と同時に同一条件下で決定した。a11b6のEC50値は135pMと算出された。
このデータは、本発明のTCR-抗CD3融合体が、SLYNTVATL-HLA-A*02複合体を提示する細胞に対するT細胞の再指向化の点で予想外に高度に強力であり、したがって低レベルのSLYNTVATL-HLA-A*02複合体を提示するHIV感染細胞を標的する治療剤として理想的であることを証明するものである。
【0064】
実施例5-TCR-抗CD3融合体によるT細胞の特異的再指向化
標的細胞として抗原ネガティブ、HLA-A*02ポジティブなヒトガン細胞株(メラノーマ細胞Mel526(Thymed)及び膀胱ガン細胞J82(American Type Culture Collection))を用いるIFNγ ELISPOTアッセイにより、TCR-抗CD3融合体の特異性を評価した。このアッセイは、実施例4に記載するものと同じ手順を用いて行った。図8に示す種々の濃度のTCR-抗CD3融合体を用いた。
【0065】
結果
図8に示すデータは、高濃度(すなわち、EC50値より少なくとも1000倍大きく、予想される治療剤範囲(10-9M)の外側)のTCR-抗CD3融合体によってのみ、低レベルの非特異的T細胞活性化が検出され得ることを示す。したがって、本発明のTCRは予想外に高いレベルの標的特異性を有する。
【0066】
実施例6-TCR-抗CD3融合体によるT細胞再指向化は、低ペプチド濃度でさえ生じる
ペプチド-HLA複合体に対する本発明のTCR-抗CD3融合体の感度を決定するため、種々の濃度のペプチドでパルスしたT2細胞を用いるペプチド力価決定実験を行った。T細胞活性化は、実施例4に記載したものと同じIFNγ ELISPOT手順を用いて決定した。TCR-抗CD3融合体は濃度1nMで用いた。ペプチド濃度は図9に示す。
【0067】
結果
図9に示すデータは、TCR-抗CD3融合体が、低ナノモル濃度で外因性に負荷されたペプチドに対して感受性であることを証明するものである。T2細胞を10-9Mのペプチド濃度でパルスすると、細胞あたり少数のエピトープ(>50)を生じ、これはガン細胞の表面に提示されるエピトープ数に相当することが当該分野において示されている(Bossiら,Oncoimmunology, 2013, 2(11): e26840);したがって、本発明のTCRは、非常に少数のエピトープを提示する細胞に対して予想外に高度に感受性である。このような高レベルの感度は、インビボにおけるウイルス感染細胞のレザバー(貯蔵庫)の浄化を容易にし得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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