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  • 特許-摩擦調整剤担持体を有する湿式摩擦材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】摩擦調整剤担持体を有する湿式摩擦材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20220404BHJP
   F16D 13/62 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C09K3/14 520L
C09K3/14 520M
F16D13/62 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018556327
(86)(22)【出願日】2017-04-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 US2017026790
(87)【国際公開番号】W WO2017200661
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-03-27
(31)【優先権主張番号】15/157,904
(32)【優先日】2016-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestr. 1-3, 91074 Herzogenaurach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ムラート バカン
(72)【発明者】
【氏名】ラシッド ファラハティ
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0189460(US,A1)
【文献】特開平07-253122(JP,A)
【文献】特開2003-268352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 13/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維と、
フィラーの全質量を基準として少なくとも0.1質量%であり最大で100質量%の珪藻土粒子であるシリカリッチ担持粒子を含むフィラー材料であって、前記珪藻土粒子は、少なくとも1μmであり最大で3μmのメジアン細孔直径を有し、かつ前記珪藻土粒子は、前記メジアン細孔直径がメジアン粒径に対して少なくとも10%であり最大で40%であるようなメジアン粒径を有し、かつ前記細孔は摩擦調整剤を含む、フィラー材料と、
フェノール樹脂バインダと、を有し、
細孔内の前記摩擦調整剤の存在が前記フェノール樹脂バインダのフェノール樹脂が細孔内へ入り込むことを妨げる、クラッチパッド用の摩擦材料。
【請求項2】
前記シリカリッチ担持粒子は、さらに、
少なくとも1μmであり最大で20μmのメジアン粒径と、
少なくとも0.5μmであり最大で7μmのメジアン細孔直径と、
を有する、請求項1記載の摩擦材料。
【請求項3】
前記シリカリッチ担持粒子は、さらに、
少なくとも9μmであり最大で11μmのメジアン粒径と、
少なくとも1μmであり最大で3μmのメジアン細孔直径と、
を有する、請求項1記載の摩擦材料。
【請求項4】
前記シリカリッチ担持粒子は、さらに、
10μmのメジアン粒径と、
2μmのメジアン細孔直径と、
を有する、請求項1記載の摩擦材料。
【請求項5】
前記シリカリッチ担持粒子は、メジアン粒径に対して20%のメジアン細孔直径を有する、請求項1記載の摩擦材料。
【請求項6】
前記摩擦調整剤は、脂肪アミン、脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、パラフィンワックス、酸化ワックス、脂肪ホスファート、硫化脂肪、長鎖アルキルアミン、長鎖アルキルホスフィット、長鎖アルキルホスファート、ホウ酸化長鎖極性化合物、またはこれらの任意の組み合わせの群から選択される、請求項記載の摩擦材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、クラッチパッド用の湿式摩擦材料に関し、特に、高い摩擦係数を有する湿式摩擦材料に関する。
【背景技術】
【0002】
引用により本明細書に組み込まれる米国特許第6,121,168号明細書は、湿式紙摩擦材料中の多孔質の円柱状粒子の形状の珪藻土を記載している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
例示態様は、広くは、複数の繊維と、フィラーの全質量を基準として少なくとも0.1質量%であり最大で100質量%のシリカリッチ担持粒子を含むフィラー材料とを有し、このシリカリッチ担持粒子は、少なくとも0.1μmであり最大で50μmのメジアン粒径と、少なくとも0.1μmであり最大で10μmのメジアン細孔直径とを有する、クラッチパッド用の摩擦材料を有する。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、さらに、少なくとも1μmであり最大で20μmのメジアン粒径と、少なくとも0.5μmであり最大で7μmのメジアン細孔直径とを有する。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、さらに、少なくとも5μmであり最大で15μmのメジアン粒径と、少なくとも0.5μmであり最大で5μmのメジアン細孔直径とを有する。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、さらに、少なくとも9μmであり最大で11μmのメジアン粒径と、少なくとも1μmであり最大で3μmのメジアン細孔直径とを有する。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、さらに、約10μmのメジアン粒径、および約2μmのメジアン細孔直径を有する。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、珪藻土である。1つの例示態様では、珪藻土は、Celite(登録商標)281、DiaFil(登録商標)230、CelTiX(商標)、またはこれらの任意の組み合わせの群から選択される。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、メジアン粒径に対して少なくとも10%であり最大で40%のメジアン細孔直径を有する。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、メジアン粒径に対して少なくとも15%であり最大で25%のメジアン細孔直径を有する。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、メジアン粒径に対して約20%のメジアン細孔直径を有する。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、摩擦調整剤を担持するために準備された表面細孔を含む。1つの例示態様では、摩擦調整剤は、脂肪アミン、脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、パラフィンワックス、酸化ワックス、脂肪ホスファート、硫化脂肪、長鎖アルキルアミン、長鎖アルキルホスフィット、長鎖アルキルホスファート、ホウ酸化長鎖極性化合物、またはこれらの任意の組み合わせの群から選択される。
【0004】
他の例示態様は、広くは、複数の繊維と、フィラーの全質量を基準として少なくとも0.1質量%であり最大で100質量%のシリカリッチ担持粒子を含むフィラー材料とを有し、このシリカリッチ担持粒子は摩擦調整剤を担持するために準備されている、クラッチパッド用の摩擦材料を有する。1つの例示態様では、摩擦調整剤は、脂肪アミン、脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、パラフィンワックス、酸化ワックス、脂肪ホスファート、硫化脂肪、長鎖アルキルアミン、長鎖アルキルホスフィット、長鎖アルキルホスファート、ホウ酸化長鎖極性化合物、またはこれらの任意の組み合わせの群から選択される。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、少なくとも0.1μmであり最大で50μmのメジアン粒径と、少なくとも0.1μmであり最大で10μmのメジアン細孔直径とを有することを特徴とする。
【0005】
他の例示態様は、広くは、複数の繊維と、フィラーの全質量を基準として少なくとも0.1質量%であり最大で100質量%の珪藻土粒子を含むフィラー材料とを有し、この珪藻土粒子は、少なくとも1μmであり最大で3μmのメジアン細孔直径を有し、かつこの珪藻土粒子は、メジアン細孔直径がメジアン粒径に対して少なくとも10%であり最大で40%であるようなメジアン粒径を有し、かつ細孔は摩擦調整剤を含む、クラッチパッド用の摩擦材料を有する。1つの例示態様では、摩擦調整剤は、自動変速機流体と適合可能であり、かつ脂肪アミン、脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、パラフィンワックス、酸化ワックス、脂肪ホスファート、硫化脂肪、長鎖アルキルアミン、長鎖アルキルホスフィット、長鎖アルキルホスファート、ホウ酸化長鎖極性化合物、またはこれらの任意の組み合わせの群から選択される。1つの例示態様では、摩擦材料は、さらにフェノール樹脂バインダを含み、かつ細孔内の摩擦調整剤の存在はフェノール樹脂が細孔内へ入り込むことを妨げる。1つの例示態様では、珪藻土粒子は、メジアン粒径に対して約20%のメジアン細孔直径を有する。
【0006】
他の例示態様は、広くは、クラッチと、プレートと、このクラッチとこのプレートとの間に配置された上述の段落のいずれかの摩擦材料とを有するトルクコンバータを含む。
【0007】
ここで、本発明の性質および作動モードを、添付の図面に関連する本発明の以下の詳細な説明においてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】1つの例示態様によるシリカリッチ担持フィラー粒子を含む摩擦材料の概略的な断面図を示す。
【0009】
図2】1つの例示態様による摩擦材料を有するトルクコンバータの断面図を示す。
【0010】
図3A】1つの例示態様による摩擦調整剤を含むかまたは含まないフィラーAを有する摩擦材料について、速度に対する摩擦係数をそれぞれプロットしたグラフである。
【0011】
図3B】1つの例示態様による摩擦調整剤を含むかまたは含まないフィラーBを有する摩擦材料について、速度に対する摩擦係数をそれぞれプロットしたグラフである。
【0012】
図3C】1つの例示態様による摩擦調整剤を含むかまたは含まないフィラーCを有する摩擦材料について、速度に対する摩擦係数をそれぞれプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
最初に、異なる図面に現れる同じ参照番号は、同じまたは機能的に類似の構造要素を識別していることが認識されるべきである。さらに、本発明は、本明細書に記載された特定の実施形態、方法、材料および変更に限定されるのではなく、したがって、もちろん変更されてよいことが理解される。本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明する目的のためだけのものであり、添付の請求項のみによって限定される本発明の範囲を限定することが意図されたものではないことも理解される。
【0014】
別段の定めがない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および学術用語は、本発明が属する技術分野における当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に説明されたものと類似または均等の任意の方法、装置または材料を、本発明の実施または試験において使用することができるが、ここでは、以下の例示の方法、装置および材料が説明される。
【0015】
以下の説明は、図1図3Cを参照して行われる。
【0016】
当技術分野において公知の湿式摩擦材料は、例えばクラッチのために有用である。1つの例示態様では、クラッチ用の摩擦材料は、複数の繊維と、担持フィラー材料、換言すると、複数の担持フィラー粒子を含むフィラー材料とを有する。図1は、繊維102と、摩擦調整剤を担持するために準備された複数の粒子を含むフィラー材料104とを有する摩擦材料100の概略的な断面図である。本明細書に記載された摩擦調整剤を担持するために準備されたフィラー材料またはフィラー粒子は、(i)摩擦調整剤と表面相互作用を有するか、または(ii)摩擦調整剤の担持の助けになる粒子形状を有するか、または(iii)摩擦調整剤の担持の助けになる粒径を有するか、または(iv)摩擦調整剤を担持するための細孔を含むか、または(v)これらの任意の組み合わせを有することができることを特徴としてよい複数の担持フィラー粒子を意味する。摩擦調整剤は、本明細書では、例えば湿式クラッチまたはトルクコンバータにおいて使用される自動変速機流体(AFT)中の添加物、構成要素、または成分に関する。1つの例示態様では、担持体は、シリカ含有粒子からなり、また本明細書では互換的に「シリカリッチ担持フィラー粒子」または単に「シリカリッチ担持粒子」ともいわれる。1つの例示態様では、シリカ含有粒子は、摩擦調整剤を担持するために有用であり、摩擦調整剤を誘引するため、またはカプセル化するために利用できる。1つの例示態様では、シリカ含有粒子は、約10μmのオーダーのメジアン粒径を有することを特徴とする。1つの例示態様では、シリカ含有粒子は、約10μm未満の細孔を有することを特徴とする。理論に拘束されるものではないが、これらの細孔は摩擦調整剤を担持するために有効である。
【0017】
摩擦調整剤は、例えば、自動変速機流体(ATF)中の添加物である。潤滑のために当技術分野において公知の多くの摩擦調整剤が適切であり、1つの例示態様では、金属クラッチ、すなわちスチールプレート、およびクラッチまたはトルクコンバータ用のATFとの提供された適合性が維持されている。摩擦調整剤は、この摩擦調整剤の極性頭部により金属面と相互作用してクラッチ金属面に結合し、かつ分子の尾部からの斥力が例えば金属面からの離脱を補助する。
【0018】
摩擦材料100は、当技術分野において公知の任意のクラッチ板106に使用することができる。1つの例示実施態様の場合に、摩擦材料はプレート106に固定的に取り付けられている。摩擦材料100は、繊維材料102と、シリカ含有担持フィラー粒子を含むフィラー材料104とを含む。摩擦材料100は、さらに、フェノール樹脂、ラテックス、シランまたはこれらの混合物のようなバインダBを含む。繊維材料102は、これらに限定されるものではないが、例えば、セルロース繊維、綿繊維、アラミド繊維、炭素繊維またはこれらの任意の組み合わせを含む、当技術分野において公知の任意の有機繊維または無機繊維であってよい。
【0019】
一般に、シリカ含有珪藻土粒子を使用してよいが、珪藻土とは別のシリカ含有担持粒子もまた有用である。珪藻土(DE)は、珪藻といわれる単細胞水生生物の堆積により形成された天然のシリカ源である。DEは、海洋または淡水環境で形成することができ、かつその独特な形状および構造に関連する特性を示す。これらの特性は、異なる化学物質、形状因子、および細孔構造をそれぞれ有する各堆積物中に見られる珪藻種に応じて変化する。シリカ含有担持粒子のいくつかの例は、Celite(登録商標)281、DiaFil(登録商標)230、およびCelTiX(商標)を含む。Celite(登録商標)281は、プランクトン系の海洋珪藻岩をフラックスか焼した(flux-calcined)珪藻土であり、DiaFil(登録商標)230は、天然珪藻土であり、CelTiX(商標)は、ほとんどのタイプのエラストマー中で優れた強化能力を有する微細な天然の淡水珪藻土製品である。シリカは、二酸化ケイ素またはSiO2ともいわれる。珪藻土は、一般に、シリカとは別の酸化物を約10パーセント含み、かつ実質的に結晶質シリカを含んでいない。一般的に、珪藻土は非晶質である。
【0020】
1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、少なくとも0.1μmであり最大で50μmのメジアン粒径を有し、他の例示態様では、少なくとも1μmであり最大で20μmのメジアン粒径を有し、他の例示態様では、少なくとも5μmであり最大で15μmのメジアン粒径を有し、他の例示態様では、少なくとも9μmであり最大で11μmのメジアン粒径を有し、他の例では、約10μmのメジアン粒径を有する。
【0021】
1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、少なくとも0.1μmであり最大で10μmのメジアン細孔直径を有し、他の例示態様では、少なくとも0.5μmであり最大で7μmのメジアン細孔直径を有し、他の例示態様では、少なくとも0.5μmであり最大で5μmのメジアン細孔直径を有し、他の例示態様では、少なくとも1μmであり最大で3μmのメジアン細孔直径を有し、他の例示態様では、約2μmのメジアン細孔直径を有する。
【0022】
理論に拘束されるものではないが、シリカリッチ担持粒子は、ATFに適合可能な摩擦調整剤との相互作用の改善および向上を提供し、より良好な性能を提供する、つまり高速でかつ広範囲の圧力および温度レベルにおいての摩擦係数について正の傾きを提供すると考えられる。理論に拘束されるものではないが、上述のメジアン粒径および/または上述のメジアン細孔径を有するシリカリッチ担持粒子は、ATFがフィラーを通過して容易に流動し、したがって性能の改善のために潤滑剤を均一に分配させると考えられる。ATF中で摩擦調整剤の誘引を有する上記の気孔率は、バインダBが最終的な摩擦材料複合材料内へ浸透する際に樹脂が細孔内へ進入することを妨げるという摩擦調整剤の付加的な利点を生じさせる。
【0023】
本発明において有用なシリカ含有担持粒子は、例えば、フィラーA、BおよびCを含み、これらの特性は以下の表1に示されている。例示するフィラーA、BおよびCは、非晶質である。
【0024】
【表1】
【0025】
表1は、フィラーAが、フィラーBおよびCよりも小さい表面積を有するが、図3A~3Cのように有意な改善が示されているので、Brunauer-Emmett-Teller(BET)法によって測定される表面積はそれほどの要因でないかもしれないことを示している。
【0026】
理論に拘束されるものではないが、比較的小さな、つまり50μm未満、好ましくは約10μmのメジアン粒径を有し、かつこのメジアン粒径の少なくとも10%のメジアン細孔直径を有するシリカリッチ担持粒子は、ATFの表面活性摩擦調整成分との相互作用を増大させることに寄与すると考えられる。換言すると、細孔の直径は、メジアン粒径またはメジアン粒子直径の少なくとも10%である。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、メジアン粒径の少なくとも10%であり最大で60%のメジアン細孔直径を有する。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、メジアン粒径の少なくとも10%であり最大で40%のメジアン細孔直径を有する。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、メジアン粒径の少なくとも15%であり最大で25%のメジアン細孔直径を有する。1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、メジアン粒径の約20%のメジアン細孔直径を有する。
【0027】
これとは別にまたはこれに加えて、シリカリッチ担持粒子は、粒子の表面または外径に細孔を有しており、これらの細孔は、所望の場合に、ATFと適合可能な少なくとも1つの摩擦調整剤と相互作用するため、この摩擦調整剤を担持するためかつ/またはカプセル化するための媒体を提供すると考えられる。クラッチ用途の湿式摩擦材料にとって、当技術分野で公知の任意の摩擦調整剤を使用してよい。摩擦調整剤は、典型的には、ATF配合物中の添加物パッケージの一部として含まれる。1つの例示態様では、摩擦調整剤は、ATF用の添加物パッケージの総量より少ない量で、つまり約3~20体積%の量で存在する。別の例示態様では、摩擦調整剤は、ATF用の添加剤パッケージの総量より少ない量で、つまり約6~12体積%の量で存在する。
【0028】
典型的な摩擦調整剤は、脂肪アミン、脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、パラフィンワックス、酸化ワックス、脂肪ホスファート、硫化脂肪、長鎖アルキルアミン、長鎖アルキルホスフィット、長鎖アルキルホスファート、ホウ酸化長鎖極性化合物、または当技術分野において公知のその他を含む。1つの例示態様では、摩擦調整剤は、一般に、10~24個の炭素(10~24C)を含む直線状の親油性尾部と、活性な極性頭部基とを有する。別の例示態様では、尾部は、18~24個の炭素(18~24C)を含む。頭部は、表面吸着により摩擦面で層を形成する。摩擦調整剤は、摩擦材料のみならず、一般的に鋼から形成されたクラッチ板と適合可能でなくてはならず、これは、腐食しないかまたは劣化を引き起こさないことを意味する。1つの例示態様において有用な摩擦調整剤の非制限的な例は、ステアリン酸である。好ましくは、ATFと適合可能な少なくとも1つの摩擦調整剤は、1つの例示態様において有用である。
【0029】
1つの例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、溶媒を使用するような方法または溶融により摩擦調整剤が予め担持されている。これは、特に、メジアン粒径の少なくとも10%のメジアン細孔直径および/または表面多孔率を有するシリカリッチ担持粒子によって有用である。1つの例示態様では、多孔質のシリカリッチ担持粒子は、メジアン粒径の約20%の細孔直径を有する。典型的に、ATFが、クラッチまたはトルクコンバータ用の摩擦材料部分以外の領域と適合可能であるように添加物パッケージプロフィールを含むように仕上げられていて、例えば、代替的に、多孔質のシリカリッチ担持粒子は、脂肪アミン、脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、パラフィンワックス、酸化ワックス、脂肪ホスファート、硫化脂肪、長鎖アルキルアミン、長鎖アルキルホスフィット、長鎖アルキルホスファート、ホウ酸化長鎖極性化合物、またはこれらの任意の組み合わせの群から選択される摩擦調整剤が予め担持またはカプセル化されていてよい。1つの例示態様では、ATFと適合可能な少なくとも1つの摩擦調整剤は、多孔質のシリカリッチ担持粒子の表面細孔内に予め担持されている。第1の例示態様では、ATFと適合可能な摩擦調整剤は、アセトンに溶解されて、溶液を形成している。シリカリッチ担持粒子は、次いでこの溶液中で24時間撹拌され、引き続きこの溶液はデカントされる。次いで、シリカリッチ担持粒子は、当技術分野において公知の繊維を含む製紙プロセスにおいてフィラー材料として使用される。有利には、摩擦調整剤が充填された細孔を有する担持粒子は、摩擦材料中でランダムに分配される。適用または使用の間に、油がこれらの担持粒子を通って流動する際に、摩擦調整剤が脱着し、摩擦材料表面に移動し、そこで所望の摩擦特性を提供する。第2の例示態様では、シリカリッチ担持粒子は、溶融した摩擦調整剤と混合され、これにより溶媒の必要性が排除される。
【0030】
図2は、図1に示した摩擦材料100を含む例示のトルクコンバータ200の部分断面図である。トルクコンバータ200は、カバー202と、カバーに接続されたインペラ204と、インペラと流体連通したタービン206と、ステータ208と、トランスミッション用の入力軸(図示せず)に相対回転不能に接続するように配置された出力ハブ210と、トルクコンバータクラッチ212と、振動ダンパ214とを有する。クラッチ212は、摩擦材料100およびピストン216を含む。当技術分野において公知のように、ピストン216は、摩擦材料100をピストン216およびカバー202に係合させて、摩擦材料100およびピストン216を介してトルクをカバー202から出力ハブ210へ伝達するように移動可能である。流体218は、クラッチ212を作動させるために使用される。
【0031】
トルクコンバータ200の特定の例示的構造が図2に示されているが、トルクコンバータにおける摩擦材料100の使用は、図2に構成されているようなトルクコンバータに限定されないことが理解される。すなわち、材料100は、当技術分野において公知の任意のトルクコンバータ構成のために摩擦材料を使用する、任意のクラッチ装置において有用である。
【0032】
配合例:摩擦材料は、フィラー45%、繊維55%、およびラテックスバインダを含む。パーセンテージは質量に関する。使用されたフィラーは、フィラーA、フィラーB、およびフィラーC、またはCelite(登録商標)281、DiaFil(登録商標)230、およびCelTiX(商標)をそれぞれ含む。データプロットは、2960kPaの表面圧でかつ90℃の流体温度で取得されたデータである。摩擦調整剤が担持されたおよび担持されていないフィラー材料についてデータを収集した。摩擦調整剤としてステアリン酸を使用した。一般に、クラッチ用の摩擦材料にとって、低い静摩擦係数を有し、かつ動摩擦係数が最大化されることが望ましい。
【0033】
図3Aは、摩擦調整剤が担持されたおよび担持されていない状態で収集したデータを有する、フィラーAが配合された摩擦材料100について摩擦係数を速度に対してそれぞれプロットしたグラフである。同様に、図3Bおよび図3Cは、摩擦調整剤が担持されたおよび担持されていない状態で収集したデータを有する、それぞれフィラーBおよびフィラーCが配合された摩擦材料100について摩擦係数を速度に対してそれぞれプロットしたグラフである。グラフのx方向で示される速度は、摩擦材料が接触するプレートに対する摩擦材料の速度である。例えば、速度は、摩擦材料とプレートとの間のスリップ速度である。
【0034】
摩擦調整剤が担持された状態で試験された静摩擦係数は、3つの全てのフィラー材料についてより低くなり、これは、ステアリン酸摩擦調整剤の添加が、クラッチの係合中により良好な表面保護を提供し、したがって静摩擦係数を低下させることを説明できる。
【0035】
有利には、動摩擦係数との関連で図3A~3Cに示したように、フィラーA、B、およびCが配合された摩擦材料は、フィラー材料のシリカリッチ担持粒子に担持された摩擦調整剤によって、より正の傾斜を示す。換言すると、図3A~3Cでのプロットについての摩擦係数は、例えば摩擦調整剤を用いて、スリップ速度16r/minから235r/minまで増大し続けている。すなわち、フィラーAは、摩擦調整剤なしでは0.141から0.143までであるのに比べて、摩擦調整剤ありでは0.136から0.144まで増大し、フィラーBは、摩擦調整剤なしでは0.139から0.146までであるのに比べて、摩擦調整剤ありでは0.137から0.145まで増大し、フィラーCは、摩擦調整剤なしでは0.138から0.150までであるのに比べて、摩擦調整剤ありでは0.138から0.155まで増大する。フィラー材料の挙動における変化は、少なくとも部分的に粒子形態に起因すると考えられる。
【0036】
もちろん、本発明の上記の例に対する変更および修正が、請求された本発明の思想または範囲から逸脱することなしに、当業者には容易に明らかとなるであろう。本発明は特定の好ましいかつ/または例示的な実施形態を参照することによって説明されているが、請求された本発明の範囲または思想から逸脱することなく変更をなし得ることは明らかである。
図1
図2
図3A
図3B
図3C