(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】キャビティ付きアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/38 20060101AFI20220404BHJP
H01Q 1/22 20060101ALI20220404BHJP
H01Q 13/10 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
H01Q1/38
H01Q1/22 Z
H01Q13/10
(21)【出願番号】P 2019503419
(86)(22)【出願日】2017-07-18
(86)【国際出願番号】 GB2017000112
(87)【国際公開番号】W WO2018015705
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-07-15
(32)【優先日】2016-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】390040604
【氏名又は名称】イギリス国
【氏名又は名称原語表記】THE SECRETARY OF STATE FOR DEFENCE IN HER BRITANNIC MAJESTY’S GOVERNMENT OF THE UNETED KINGDOM OF GREAT BRITAIN AND NORTHERN IRELAND
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】フセイン サルマン バリ
(72)【発明者】
【氏名】クロウ ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】ペティット ゲイリー アンソニー
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第1993/009576(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0006123(US,A1)
【文献】HO-YU LIN, MASAHARU TAKAHASHI, KAZUYUKI SAITO, KOICHI ITO,PERFORMANCE OF IMPLANTABLE FOLDED DIPOLE ANTENNA FOR IN-BODY WIRELESS COMMUNICATION,IEEE TRANSACTIONS ON ANTENNAS AND PROPAGATION,VOLUME 61, NO. 3,米国,IEEE,2013年,PP. 1363 - 1370,Electronic ISSN: 1558-2221,Print ISSN: 0018-926X
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00- 1/52
H01Q 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オフボディ通信のためのキャビティ付きアンテナであって、
a.アンテナ素子と、
b.キャビティフィラーと、
c.キャビティバックプレートと、
を備え、前記アンテナ素子は、前記キャビティバックプレートが下層の骨を含み、
前記アンテナ素子と前記下層の骨との間の体積が前記キャビティフィラーを形成する軟組織で満たされ、使用時に、前記キャビティ付きアンテナがユーザの身体から離れる方向を向いた全指向性利得をもたらすように
、前記アンテナ素子は前記満たされた体積が整合周波数で動作するように同調され、前記下層の骨の上の前記ユーザの身体に装着できるように構成された実質的に全方向性のアンテナ素子である、
ことを特徴とするキャビティ付きアンテナ。
【請求項2】
前記アンテナ素子は、導電材料の単層を含む、
請求項1に記載のキャビティ付きアンテナ。
【請求項3】
前記導電材料内に少なくとも1つの細長いスロットが設けられてスロットアンテナ素子を形成する、
請求項2に記載のキャビティ付きアンテナ。
【請求項4】
前記細長いスロットは、前記下層の骨の長さと垂直に整列する、
請求項3に記載のキャビティ付きアンテナ。
【請求項5】
前記キャビティ付きアンテナは、6GHzに等しい又はそれ未満の周波数で動作する、
請求項1から4のいずれかに記載のキャビティ付きアンテナ。
【請求項6】
前記キャビティ付きアンテナは、5GHzに等しい又はそれ未満の周波数で動作する、
請求項1から5のいずれかに記載のキャビティ付きアンテナ。
【請求項7】
前記キャビティ付きアンテナは、150MHz~1GHzの周波数範囲で動作する、
請求項1から6のいずれかに記載のキャビティ付きアンテナ。
【請求項8】
前記アンテナ素子は、テンポラリータトゥを含む、
請求項1から7のいずれかに記載のキャビティ付きアンテナ。
【請求項9】
前記アンテナ素子は、金属含浸インク又は塗料を含む、
請求項8に記載のキャビティ付きアンテナ。
【請求項10】
前記アンテナ素子は、マイクロストリップ給電線に接続される、
請求項1から9のいずれかに記載のキャビティ付きアンテナ。
【請求項11】
前記アンテナ素子は、同軸給電線に接続される、
請求項1から9のいずれかに記載のキャビティ付きアンテナ。
【請求項12】
実質的に全方向性のアンテナ素子と、キャビティフィラーと、キャビティバックプレートとを備えたキャビティ付きアンテナの製造方法であって、
a.下層の骨の上のユーザの身体上の位置を選択するステップと、
b.
前記キャビティバックプレートが下層の骨を含み、前記下層の骨と前記アンテナ素子との間の体積が前記キャビティフィラーを形成する軟組織で満たされ、
前記方法は更に、
c.前記選択された位置における前記ユーザの身体の機械的特性及び電気的特性を決定するステップと、
d.使用時に、前記キャビティ付きアンテナがユーザの身体から離れる方向を向いた全指向性利得をもたらすように、前記実質的に全方向性のアンテナ素子を
、前記アンテナ素子と前記下層の骨との間の前記体積が、整合周波数で動作するように同調させるステップと、
を含
むことを特徴とする方法。
【請求項13】
前記実質的に全方向性のアンテナ素子を適用するステップにおいて、前記実質的に全方向性のアンテナ素子は、前記軟組織に直接適用される、
請求項12に記載のキャビティ付きアンテナの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体装着用アンテナの分野に関する。具体的には、本発明は、身体近接がアンテナ性能に及ぼす悪影響を軽減することによってオフボディ通信の役割に特定の適合性を有するようにしたキャビティ付き(cavity backed)アンテナ及びその製造方法について説明する。
【背景技術】
【0002】
ユーザが基本的に「ハンズフリー」のままで高度な移動自由度を維持しながら無線信号を送受信することが必要な様々な用途では、身体装着型アンテナが定着してきた。このような用途の例としては、民間及び軍事通信、捜索救助、並びに医療診断が挙げられる。限定するわけではないが、快適性及び離散性を含むユーザ需要が増してきた結果、身体に近接して着用される薄いアンテナ構造の要件が高まっている。身体装着用アンテナのサイズ、重量、外形及び位置は、ユーザがアンテナを長期にわたって着用しようと思う気持ちに影響を与え得る。さらに、動物の生物学的感知、バイオテレメトリ及び無線追跡などの用途も、さらに薄いアンテナ構造の要件を推進している。
【0003】
特定の用途では、身体が身体装着用アンテナに固有の恩恵をもたらすことができる。例えば、欧州特許第2680366号(GN ReSound A/S)には、特に補聴器の一部を形成する無線ボディエリアネットワークのためのアンテナシステムが開示されている。このアンテナは、使用時に身体表面と平行に延びるように導電材料(スロットアンテナ)内に設けられたスロットを含むことができる。スロットは、励起時に電磁放射線を放出し、この放射線が身体表面に沿って伝播して第2の装置によって受け取られるように構成される。米国特許出願公開第20160058364号には、皮膚に直接固定されることによって、皮膚から後方散乱された外部ソースからのRF放射線を測定するのに有益な誘導インピーダンスの変化を受けるアンテナ素子が開示されている。この後方散乱された放射線を用いてユーザのローカルモニタリングを行い、具体的にはユーザの水和レベルを決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】欧州特許第2680366号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0058364号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】R.M.Makinen及びT.Kellomaki著、「薄い単層スロット、自己補完及び線状アンテナに対する身体の影響(Body Effects on Thin Single-layer Slot, Self-Complementary, and Wire Antennas)」 IEEE Trans. Antennas Propagat.、第62巻、第1号、385-392ページ、2014年1月
【文献】Gabriel他著、1996年、Phys.Med.Biol.41 2231、「生物組織の電気的特性:I.文献検索(The dielectric properties of biological tissues: I.Literature survey)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特にオフボディ通信(すなわち、身体上のアンテナ又は装置と、身体から離れた別の標的又は装置との間で放射線を送信又は受信すること)に当てはまることであるが、人体の近接はアンテナの性能に悪影響を与え得ることが周知である。具体的には、身体による放射電力の吸収及び散逸によってアンテナの効率が低下し、放射パターンが歪んで離調が引き起こされるようになる。身体近接による損失を克服するために電力入力を増加させることは、結果的にユーザを放射線の危険に曝し、必然的に電源のサイズ及び重量も増加するため選択肢になり得ない。身体がアンテナ性能に及ぼす影響は、R.M.Makinen及びT.Kellomaki著、「薄い単層スロット、自己補完及び線状アンテナに対する身体の影響(Body Effects on Thin Single-layer Slot, Self-Complementary, and Wire Antennas)」 IEEE Trans. Antennas Propagat.、第62巻、第1号、385-392ページ、2014年1月、においてさらに考察されている。
【0007】
従って、本発明の目的は、身体近接がアンテナ性能に及ぼす悪影響を軽減することによってオフボディ通信の役割に特定の適合性を有するようにしたキャビティ付きアンテナ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、オフボディ通信のためのキャビティ付きアンテナであって、
a.アンテナ素子と、
b.キャビティフィラーと、
c.キャビティバックプレートと、
を含み、アンテナ素子が、キャビティバックプレートが下層の骨を含み、キャビティフィラーがアンテナ素子と下層の骨との間の軟組織を含み、使用時に、キャビティ付きアンテナがユーザの身体から離れる方向を向いた全指向性利得をもたらすように下層の骨の上のユーザの身体に装着できるように構成された実質的に全方向性のアンテナ素子である、キャビティ付きアンテナが提供される。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、実質的に全方向性のアンテナ素子と、キャビティフィラーと、キャビティバックプレートとを備えたキャビティ付きアンテナの製造方法であって、
a.下層の骨の上のユーザの身体上の位置を選択するステップと、
b.選択された位置におけるユーザの身体の機械的特性及び電気的特性を決定するステップと、
c.決定された特性に従って、選択された位置のために構成された実質的に全方向性のアンテナ素子を提供するステップと、
d.選択された位置において、実質的に全方向性のアンテナ素子を適用するステップと、
を含み、これによって実質的に全方向性のアンテナ素子が、キャビティ付きアンテナの前面と、下層の骨を含むキャビティバックプレートと、実質的に全方向性のアンテナ素子と下層の骨との間の軟組織を含むキャビティフィラーとを形成するようにする、方法が提供される。
【0010】
当業者であれば、全方向性のアンテナ素子は、全方向においてエネルギーの放射又は受信を行うことができるアンテナ素子であると理解するであろう。本明細書で説明する発明に関して言えば、実質的に全方向性のアンテナ素子は、アンテナ素子自体の平面に対して実質的に順方向及び実質的に逆方向の両方(アンテナの平面に対して実質的に垂直な逆方向である両方向)においてエネルギーの放射又は受信を行うことができるアンテナ素子を意味するように意図される。実質的に全方向性のアンテナ素子の例としては、スロット、折り返しダイポール及び螺旋アンテナが挙げられる。通信用途では、実質的に順方向のみに(すなわち、ユーザの身体から離れて標的又は受け手に向けて)エネルギーを放射することが望ましいことがある。これを達成するために、実質的に全方向性のアンテナは、「キャビティ付き」構成で提供することができる。
【0011】
キャビティ付きアンテナは、特定の方向にエネルギーを放射するように設計され、実質的に全方向性のアンテナ素子とキャビティバックプレートとを含む。実質的に全方向性のアンテナ素子は、キャビティの前面を形成する。バックプレートは、アンテナ素子から実質的に後方に放射されたエネルギーを実質的に順方向に向けて反射するように構成される(バックプレートはキャビティの後面を形成する)。キャビティの特性は、アンテナの挙動に影響を与えることができ、例えば、通常、キャビティの容積はアンテナ帯域幅に影響を与える。キャビティは、フィラー(任意に空気又はその他の材料又は混合物)で完全に又は部分的に満たすことができる。当業者であれば、キャビティフィラーの特性は、特定の動作モードでは(真空充填キャビティ又は空気充填キャビティに対して)キャビティの高さを減少させることができると理解するであろう。
【0012】
軟組織は、腱、靭帯、筋膜、皮膚、繊維組織、脂肪、筋肉、神経、血管、又はこれらのいずれかの組み合わせを含むと理解される。当業者には、他の結合組織又は非結合組織も明らかであると考えられる。異なるタイプの軟組織は、異なる電気的特性(例えば、誘電率及び伝導率)及び異なる機械的特性(例えば、深さ)を有することができる。軟組織は、単層における組織タイプの混合、又は異なる組織タイプの多層を含むことができる。本発明によれば、キャビティバックプレートが骨を含むことができ、ユーザの体内の単一の骨、複数の骨又は骨の一部とすることができる。
【0013】
実質的に全方向性のアンテナ素子は、本発明の利益を達成するようにユーザの身体に適用される。「ユーザの身体」という用語は、アンテナ素子が配置される個体を暗示し、その個体上のいずれかの身体部分又は複数の身体部分を意味することができ、通常、身体部分は、頭、腕、手、脚、足又は胴体を意味する。「ユーザの身体」は、動物体を意味することもできる。実質的に全方向性のアンテナ素子は、下層の骨を提供する身体部分のあらゆる位置に配置することができ、これによってアンテナ素子と下層の1又は複数の骨の少なくとも一部との間に効果的なキャビティが形成される。
【0014】
本発明によれば、例えば腕又は脚などの下層の骨を用いて入射エネルギーを反射して(身体から離れて)実質的に順方向に高い実現される指向性利得を提供する。骨と実質的に全方向性のアンテナ素子との間の空間は、充填キャビティのように機能する。キャビティ内の軟組織は、誘電率及び伝導率が異なる複数の領域を含む。これらの領域の境界において、実質的に全方向性のアンテナ素子からのエネルギーが反射される。従って、軟組織は、放射線を含んでこれをユーザの身体から離れる方向に向けて反射する従来のキャビティ付きアンテナの壁部と同様の効果を達成する。キャビティが軟組織(すなわち、皮膚、脂肪及び筋肉)で満たされる結果、空気充填キャビティと比べてキャビティ高さを減少させることができる。これにより、キャビティ付きアンテナは、ユーザの身体から離れる方向を向いた全体的指向性利得をもたらし、すなわちキャビティ付きアンテナの利得は、実質的に全方向性のアンテナ素子が装着されたユーザから離れる方向に集中する。このような指向性利得は、より大きな電力が身体から離れて特定の方向に放射されることを可能にする。或いは、このような指向性利得は、ユーザに向かって放射を行っているオフボディソースから受け取られる電力を高めることもできる。具体的には、送信時に、実質的に全方向性のアンテナ素子によって身体に向けて放出された放射線がキャビティバックプレートによって反射されることによって全体的なオフボディ効果に寄与する。
【0015】
本発明の実施形態では、実質的に全方向性のアンテナ素子が軟組織と直接接触して配置される。「直接接触」という用語は、アンテナ素子が中間接着層又はスペーサを伴わずに直接軟組織に適用されることを意味するために使用するものである。或いは、アンテナ素子は、接着層、空隙又はその他の適切なスペーサ材料の使用を通じて、軟組織に近接してはいるが直接接触していない形で配置することもできる。本発明は、アンテナ素子を軟組織に近接して又は直接接触させて配置した場合には全てのアンテナ素子の効率が大幅に低下するという従来の教示に反して、軟組織の特性を有益な効果に利用するものである。
【0016】
実質的に全方向性のアンテナ素子は、導電材料の単層とすることができる。導電材料は、スロットアンテナ素子を形成するように少なくとも1つの細長いスロットを含むことができる。基本スロットアンテナは、矩形スロットが切り抜かれた薄い金属性の導電シート(接地)を含む。接地のサイズ及びスロットの形状は、アンテナを所望の動作周波数に同調させるために極めて重要である。身体上の基本スロットアンテナを用いて、人体などのプラットホーム上に表面波を結合して狭域通信、すなわちRFIDソリューションをもたらすことができる。本発明による、スロットアンテナとすることができる実質的に全方向性のアンテナを構成することにより、オフボディ通信などの用途での使用時に範囲に関する性能の改善を達成することができる。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態では、スロットアンテナ素子を、スロットが下層の骨の長さと垂直に整列するように配向することができる。下層の骨の長さは、下層の骨の最も長い寸法を意味するように意図されており、本発明者は、このような構成が指向性利得性能を改善することを明らかにした。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、キャビティ付きアンテナが、6GHz以下の、又は5GHz以下の周波数で動作することができる。1GHzを上回る損失効果の向上により、本発明の好ましい実施形態は150MHz~1GHzの周波数範囲内で動作する。
【0019】
各実質的に全方向性のアンテナ素子は、テンポラリータトゥの形で適用して短時間送信/受信能力をもたらすことができる。テンポラリータトゥは、ユーザの皮膚又はその他の軟組織に直接適用することができる。テンポラリータトゥは、特に皮膚などの軟組織が撓みがちな箇所では時間と共に消失又は退化することがある。テンポラリータトゥは、もはや不要になった時に容易に除去することができる。各テンポラリータトゥは、フリーハンドで、或いは準備したステンシル又はエンボススタンプを用いて導電性色素、塗料又はインクの形で適用することができる。例えば、金属含浸インク又は塗料を使用することができる。或いは、箔転写又はデカールなどの予備形成された形状として適用することもできる。この場合は、可撓性基板シート上に支持される予備形成された単層スロットアンテナ素子が、本発明の利益をもたらすようにウォータースライド転写などの既知の技術を用いて基板シートからユーザの身体の皮膚上の位置に容易に転写可能である。
【0020】
実質的に全方向性の1又は複数のアンテナ素子は、衣類に一体化された、或いは身体又は衣類に薄い基板シートとして適用されたマイクロストリップ給電線に個別に接続することができる。或いは、各アンテナ素子を同軸給電線に接続することもできる。
【0021】
アンテナ素子と身体の特定の部位における1又は複数の骨との間の距離、又は軟組織層の深さを含む、ユーザの身体の必要な機械的特性を決定することが必要となり得る。これらの特性を用いて、例えばそれ自体がアンテナ素子の利得及び効率を決定する上で重要なキャビティの高さを定めることができる。アンテナ素子と骨との間の、必要な動作周波数に合わせてキャビティ高さを効果的に減少させるために利用できるキャビティフィラーとしての役割を果たす軟組織(皮膚、脂肪及び筋肉)の誘電率及び伝導率を含むユーザの身体の電気的特性を決定することも必要となり得る。
【0022】
一般的には、ユーザの身体の異なる部分は異なる機械的及び電気的特性を有すると理解されている。さらに、異なるユーザは、同一の身体位置に異なる機械的及び電気的特性を有することができると理解されている。本発明のいくつかの実施形態では、ユーザの身体上の位置を選択した後に、その身体位置の機械的及び電気的特性を直接決定する。その後、決定された特性に基づいて、そのユーザの身体上に配置するユーザ固有のアンテナ素子を設計することができる。本発明の実用的な実施形態では、ユーザの身体部分を選択し、その身体部分の、必ずしもそのユーザに固有のものではない平均的な機械的及び電気的特性を用いて、事前に選択したアンテナ素子の位置に影響を与え、その動作を最適化する。例えば、既に動作周波数が選択されていて変更できない用途では、特定のスロットアンテナ素子が、身体部分上の特定の位置又は配向において最適利得で動作することができる。身体部分上のスロットアンテナの位置が既に選択されていて変更できない用途では、特定の動作周波数が、所与の位置における特定の配向のための最適利得をもたらすことができ、従ってそのような動作周波数を選択することができる。
【0023】
学術論文(Gabriel他著、1996年、Phys.Med.Biol.41 2231、「生物組織の電気的特性:I.文献検索(The dielectric properties of biological tissues: I.Literature survey)」)には、10kHz~10GHzのサンプル周波数における様々な生物組織の電気的特性の値が示されている。本発明者は、様々な身体部分に配置した時に150MHz~1GHzの好ましい周波数範囲の領域内で動作するスロットアンテナの性能をシミュレートした。シミュレーションにおいて使用した特定の軟組織タイプの誘電率及び伝導率の平均値を表1に示す。シミュレーションにおいて使用した前腕、上腕及び下腿の平均組織厚及び総キャビティ高さを表2に示す。本発明のさらなる応用では、これらの値をユーザの身体の機械的及び電気的特性の平均値として使用することができる。
【表1】
表1:軟組織の平均誘電率及び伝導率値
【表2】
表2:特定の身体部分の平均軟組織厚
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態をほんの一例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1a】本発明の実施形態による、身体部分に適用されるスロットアンテナ素子の3D正方形モデルを示す図である。
【
図1b】本発明によるキャビティ付きアンテナの実施形態の3Dモデルを示す図である。
【
図2a】2本の骨を備えた身体部分にアンテナ素子を適用した概略的断面図である。
【
図2b】1本の骨を備えた身体部分にアンテナ素子を適用した概略的断面図である。
【
図3】異なる配向で適用されたスロットアンテナを有する身体部分の概略図である。
【
図4a】本発明の実施形態をシミュレートする際に使用されるスロットアンテナ素子の2Dビューである。
【
図4b】前腕に配置されたスロットアンテナの650~850MHzの周波数帯域内のサンプリングポイントの実現利得に対するキャビティ高さの影響を示すグラフである。
【
図4c】上腕に配置されたスロットアンテナの560~620MHzの周波数帯域内のサンプリングポイントの実現利得に対するキャビティ高さの効果を示すグラフである。
【
図4d】太股に配置されたスロットアンテナの300~500MHzの周波数帯域内のサンプリングポイントの実現利得に対するキャビティ高さの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図面は例示にすぎず、正確な縮尺ではない。同一又は同様の参照符号は同一又は同様の特徴を示す。
【0027】
図1aに、軟組織(皮膚、脂肪及び筋肉)13によって取り囲まれた細長い骨12を含む身体部分に適用されるスロットアンテナ素子11の3D正方形モデル10を示す。スロットアンテナ素子11の形状は、標準的な矩形スロットに基づくものであるが、当業者であれば、他のスロット形状を使用することもできると理解するであろう。
【0028】
特定の波長(λ)で動作するように設計された従来のキャビティ付きスロットアンテナは、キャビティが空気で満たされている場合に波長の実質的に半分(λ/2)のキャビティ高さを必要とする。しかしながら、このアンテナは、波長が増すにつれて身体装着用途の実用性が低くなる。キャビティ高さ「h」は、空気よりも高い比誘電率(εr)を有する充填材料の存在によって低減することができる。この場合、キャビティは、共同的に非常に高いεrの値を有する軟組織(皮膚、脂肪及び筋肉)13で満たされる。この軟組織は、アンテナを効果的に装填して必要なキャビティの高さ「h」を低減する。身体部分の誘電率と伝導率との組み合わせは、ユーザ間で異なり得る。この結果、各アンテナ素子は、所与のユーザへの同調を必要とし得る。キャビティ高さ「h」は、効果的なキャビティ付きアンテナの整合周波数、帯域幅及び実現利得を決定する。
【0029】
図1bに、本発明の実施形態によるキャビティ付きアンテナの3Dモデルを示す。このキャビティ付きスロットアンテナは、スロットアンテナ素子11と、骨17を含むキャビティバックプレートと、皮膚14、脂肪15及び筋肉16を含むキャビティフィラーとを備える。
【0030】
本発明の実用的応用では、実質的に全方向性のアンテナ素子を、(
図1a及び
図1bのような)矩形ではなく長円形の身体部分に配置することができる。これに加えて、身体部分は、キャビティバックプレートとしての役割を果たす1又は複数の骨の一部を備えることもできる。従って、実質的に現実的な長円形の物体をシミュレーションにおいて使用して、本発明を正方形の身体部分表現から転写可能であることを確認し、複数の骨が本発明の性能に影響を与えるかどうかを判断した。
図2aは、2本の細長い骨22と軟組織23とを有する、外面にスロットアンテナ素子21が適用された身体部分20の断面の概略図である。本発明者が行ったシミュレーションでは、この構成では大きい方の骨が支配的であり、アンテナ性能特性への影響が最も高いことが示された。
図2bは、1本の細長い骨22と軟組織23とを有する、外面にスロットアンテナ素子21が適用された身体部分25の断面の概略図である。2本の骨のシミュレーションと1本の骨のシミュレーションとの間では、アンテナ特性又は性能に有意な違いは観察されなかった。
【0031】
本発明者は、本発明の実施形態では骨の長さに対して異なる配向でアンテナを配置することによってスロットアンテナを使用すると性能に影響が及ぶと判断した。これは、主に電場(E)及び磁場(H)の配向によるものであった。スロットアンテナでは、電場成分がスロットの長さに垂直であり、磁場がスロットに隣接する。シミュレーションでは、利得の改善を達成するには電場の配向が極めて重要であることが示された。
図3aに、スロットを身体部分の長さに沿って整列させてスロットアンテナ31を適用した身体部分34を示す。この配向では、電場が骨の一部しか見ないためキャビティのバックプレートの有効サイズが減少し、従ってより多くのエネルギーが吸収される。
図3bには、スロットを身体部分の長さと垂直に整列させてスロットアンテナ31を適用した身体部分34を示す。この配向では、電場がさらに多くの骨を見るためキャビティバックプレートの有効サイズが増大し、これによって順方向に反映される入射エネルギーの量が増加する。改善された性能を達成するには、電場を骨の長さと一致させるべきである。
【0032】
図4aは、本発明のシミュレーションにおいて使用されるスロットアンテナ素子の2Dビューである。このアンテナ素子は、80mmの全長と40mmの幅とを有する。スロット40は、70mmの長さ「L」と1.75mmの幅「W」とを有する。シミュレーションでは、皮膚、脂肪及び筋肉を含む軟組織でキャビティが満たされたキャビティ付きアンテナを形成するように、下にある少なくとも1本の骨の上の前腕、上腕及び太股の身体部分にスロットアンテナ素子を配置した。身体部分は、代表的な長円形断面を有するようにモデル化した。スロットアンテナのスロットは、
図3bに従って下層の骨の長さと垂直に整列させた。これらの身体部分の平均的な機械的及び電気的特性を決定し、シミュレーションにおいて使用した。各事例において、異なる周波数について実現されるアンテナ利得を求めた。
図4b~
図4dにシミュレーションの結果を示す。
【0033】
図4bには、本発明による、前腕に適用したスロットアンテナ素子の実現アンテナ利得41と周波数42とを対比させたグラフを示す。前腕は、長さ300mm、幅80mm及び全体的深さ65mmを有するようにモデル化した。前腕は、いずれも前腕の全長に延びてキャビティバックプレートを形成する尺骨と橈骨の2本の骨を有するようにモデル化した。尺骨及び橈骨の深さ/幅は、それぞれ10mm/15mm及び20mm/35mmとした。キャビティフィラーは、厚み20mmの筋肉上の厚み5mmの脂肪上に厚み5mmの皮膚を含むように基線としてモデル化した。皮膚、脂肪、筋肉、骨の誘電率は、それぞれ45.240、5.514、58.605、12.440になるようにモデル化した。皮膚、脂肪、筋肉、骨の伝導率は、それぞれ0.699、0.052、1.054、0.152になるようにモデル化した。異なる線は、脂肪と筋肉の境界から23mm(43)、脂肪と筋肉の境界から24mm(49)、脂肪と筋肉の境界から25mm(50)、脂肪と筋肉の境界から26mm(51)という異なるキャビティ高さの結果を表す。キャビティ高さが変化すると、3mm範囲のキャビティ高さにわたって利得が約1dB変化することが認められた。このグラフは、本発明のこの実施形態におけるモデル化したキャビティ深さでは650~850MHzの周波数範囲にわたって実現利得が~-14dBiの領域に存在したことを示す。このグラフは、ピーク実現利得について、この実施形態の好ましい動作周波数が~750MHzであることも示す。
【0034】
図4cには、本発明による、上腕に適用したスロットアンテナ素子の実現アンテナ利得41と周波数42とを対比させたグラフを示す。上腕は、長さ330mm及び直径90mmを有するようにモデル化した。上腕は、上腕の全長に延びてキャビティバックプレートを形成する1本の骨である上腕骨を有するようにモデル化した。上腕骨の骨直径は30mmとしてモデル化した。キャビティフィラーは、厚み40mmの筋肉上の厚み5mmの脂肪上に厚み5mmの皮膚を含むように基線としてモデル化した。皮膚、脂肪、筋肉、骨の誘電率は、それぞれ45.240、5.514、58.605、12.440になるようにモデル化した。皮膚、脂肪、筋肉、骨の伝導率は、それぞれ0.699、0.052、1.054.0.152になるようにモデル化した。異なる線は、脂肪と筋肉の境界から10mm(44)、脂肪と筋肉の境界から15mm(46)、脂肪と筋肉の境界から20mm(47)という異なるキャビティ高さの結果を表す。このグラフは、本発明のこの実施形態におけるモデル化したキャビティ深さでは560~620MHzの周波数範囲にわたって実現利得が~-18dBiの領域に存在したことを示す。このグラフは、ピーク実現利得について、この実施形態の好ましい動作周波数が少なくとも~620MHzであることも示す。
【0035】
図4dには、本発明による、太股に適用したスロットアンテナ素子の実現アンテナ利得41と周波数42とを対比させたグラフを示す。太股は、長さ500mm、幅280mm、厚み280mmを有するようにモデル化した。太股は、太股の全長に延びてキャビティバックプレートを形成する1本の骨である大腿骨を有するようにモデル化した。大腿骨の骨直径は80mmとしてモデル化した。キャビティフィラーは、厚み130mmの筋肉上の厚み5mmの脂肪上に厚み5mmの皮膚を含むように基線としてモデル化した。皮膚、脂肪、筋肉、骨の誘電率は、それぞれ45.240、5.514、58.605、12.440になるようにモデル化した。皮膚、脂肪、筋肉、骨の伝導率は、それぞれ0.699、0.052、1.054.0.152になるようにモデル化した。異なる線は、脂肪と筋肉の境界から100mm(45)、脂肪と筋肉の境界から115mm(48)という異なるキャビティ高さの結果を表す。このグラフは、本発明のこの実施形態におけるモデル化したキャビティ深さでは300~500MHzの周波数範囲にわたって~-15dBiの領域において実現利得がピーク実現利得と共に大幅に変化したことを示す。このグラフは、ピーク実現利得について、この実施形態の好ましい動作周波数が~450MHzの領域に存在することも示す。
【0036】
図4b~
図4dによれば、本発明によるキャビティ付きアンテナの一部を形成する実質的に全方向性の固定アンテナ素子のために、異なる身体部分が異なる周波数でより良好に動作することができる。身体に装着された典型的な線状アンテナは、-19dBiの領域における実現利得をもたらすことができる。本発明者は、本発明がこれよりも優れた性能をもたらして、実施形態によっては-14dBiの実現利得を達成できることを示した。この方法を使用すれば、身体にごく近接して配置された従来の全方向性アンテナよりもオフボディ通信の性能が改善される。
【符号の説明】
【0037】
11 スロットアンテナ素子
14 皮膚
15 脂肪
16 筋肉
17 骨