(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】感光性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
G03F 7/022 20060101AFI20220404BHJP
G03F 7/004 20060101ALI20220404BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20220404BHJP
H05B 33/12 20060101ALI20220404BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220404BHJP
H05B 33/22 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
G03F7/022 601
G03F7/004 505
G03F7/20 501
H05B33/12 B
H05B33/14 A
H05B33/22 Z
(21)【出願番号】P 2019511323
(86)(22)【出願日】2018-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2018014771
(87)【国際公開番号】W WO2018186494
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2019-05-27
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2017076592
(32)【優先日】2017-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】古江 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮石 由起
(72)【発明者】
【氏名】中村 梓友子
【合議体】
【審判長】榎本 吉孝
【審判官】里村 利光
【審判官】植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-533508(JP,A)
【文献】特表2011-514985(JP,A)
【文献】特開2008-185692(JP,A)
【文献】特開2007-206562(JP,A)
【文献】国際公開第98/01791(WO,A1)
【文献】特開平6-3818(JP,A)
【文献】特開2013-228685(JP,A)
【文献】特開平5-341530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F7/004-7/06
G03F7/075-7/115
G03F7/16-7/18
H05B33/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)バインダー樹脂、(B)フェノール性水酸基を3つ以上有するフェノール化合物(以下「3価以上のフェノール化合物」ということがある。)のキノンジアジド付加体、及び(C)黒色着色剤を含み、
(A)バインダー樹脂は、
(a1)アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体、及び(a2)エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂、からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有し、
(B)キノンジアジド付加体は、
(b1)3価以上のフェノール化合物が有するフェノール性水酸基のうちの1つの水酸基が式(I)又は(II)で示される構造で置換されているキノンジアジド付加体、及び
(b2)3価以上のフェノール化合物が有するフェノール性水酸基のうちの2つの水酸基が式(I)又は(II)で示される構造で置換されているキノンジアジド付加体を含み、
(b1)及び(b2)の合計が(B)全体の60モル%以上であり、
(B)キノンジアジド付加体の総量100質量部に対して、(A)バインダー樹脂の含有量が100~1000質量部、及び(C)黒色着色剤の含有量が15~750質量部である、
有機EL素子の絶縁膜又は隔壁用の感光性樹脂組成物。
【化1】
【化2】
(R
a~R
dはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基又は炭素原子数1~10のアルコキシ基を示し、*は3価以上のフェノール化合物の芳香環との結合部を示す。)
【請求項2】
3価以上のフェノール化合物が芳香環を3つ以上有する、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
3価以上のフェノール化合物が、下記式(III)~(VI)で示される化合物から選択される少なくとも1つである、請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項4】
(C)黒色着色剤が
(c1)ソルベントブラック27~47のカラーインデックスで規定される黒色染料、及び
(c2)チタンブラック
からなる群から選ばれた少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物からなる有機EL素子の絶縁膜。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物からなる有機EL素子の隔壁。
【請求項7】
請求項5に記載の絶縁膜、又は請求項6に記載の隔壁を備える、有機EL素子。
【請求項8】
(1)請求項1~4のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物を溶媒に溶かし、これを基材に塗布する塗布工程、
(2)塗布された感光性樹脂組成物中の溶媒を除去する乾燥工程、
(3)放射線をフォトマスク越しに照射する露光工程、
(4)アルカリ現像によりパターン形成する現像工程、及び
(5)100~350℃の温度で加熱する加熱処理工程
を含む
、有機EL素子の絶縁膜又は隔壁の形成に用いられる、放射線リソグラフィー構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂組成物に関する。特に、高感度の黒色ポジ型感光性樹脂組成物、それを用いた有機EL表示素子の隔壁又は絶縁膜に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、有機ELディスプレイ(OLED)等の表示装置においては、表示特性向上のために、表示領域内の着色パターンの間隔部や表示領域周辺部分の縁等に隔壁材が用いられている。有機EL表示装置の製造では、有機物質の画素が互いに接触しないようにするため、まず隔壁が形成され、その隔壁の間に有機物質の画素が形成される。この隔壁は一般に、感光性樹脂組成物を用いるフォトリソグラフィによって形成される。詳しくは、塗布装置を用いて感光性樹脂組成物を基板上に塗布し、揮発成分を加熱等の手段で除去したのち、マスクを介して露光し、次いでネガ型の場合は未露光部分を、ポジ型の場合は露光部分をアルカリ水溶液等の現像液で除去することによって現像し、得られたパターンを加熱処理して、隔壁を形成する。次いでインクジェット法等によって、赤、緑、青の3色の光を発する有機物質を隔壁の間に成膜して、有機EL表示装置の画素を形成する。
【0003】
該分野では近年、表示装置の小型化、及び表示するコンテンツが多様化したことにより、画素の高性能化、高精細化が要求されている。表示装置におけるコントラストを高め、視認性を向上させる目的で、着色剤を用いて隔壁材に遮光性を持たせる試みがなされている。低感度であると、露光時間が長くなり生産性が低下することから、隔壁材を構成する材料は高感度であることが重要となる。
【0004】
例えば、特許文献1では、顔料を含む感放射線性樹脂組成物を用いて隔壁材を着色する方法が提案されている。
【0005】
特許文献2では、高解像度であり、かつ露光後の加熱処理により遮光性を発現させる感放射線性樹脂組成物として、アルカリ可溶性樹脂とキノンジアジド化合物とを含むポジ型感放射線性樹脂組成物に感熱色素を添加した組成物が提案されている。係るポジ型感放射線性樹脂組成物においては、露光前は感熱色素が未反応であり着色された状態にはなっていないため、樹脂組成物自身として遮光性を有さず、放射線感度が悪化することはない。そのため、高精細なパターンが形成できるとともに、露光後の加熱処理により感熱色素が反応し遮光性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-116536号公報
【文献】特開2010-237310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載される感放射線性樹脂組成物では、硬化膜の遮光性を十分高めるために、着色剤を相当量使用する必要がある。このように多量の着色剤を用いた場合、露光された放射線が着色剤により吸収されるために、塗膜中の放射線の有効強度が低下し、パターン形成のための感度が低下する等の不都合がある。
【0008】
特許文献2に記載される感放射線性樹脂組成物では、遮光性については全光線透過率のみ記載しているだけであり、色相については記載されていない。使用している感熱色素は加熱後の遮光性は得られるが、黒色にはなっておらず、実際のパネルにおいては周辺部材への色相の影響が大きく、画質の低下を招く可能性がある。
【0009】
例えば、有機EL表示素子におけるパターンの形成においては、生産性等を考慮し、パターンを形成する材料は高感度であることが重要である。しかしながら、黒色着色剤を含む黒色の感光性樹脂組成物などを使用する場合、通常使用している露光条件では露光不良をもたらすため、例えば、露光時間を長くする必要があり、生産性を低下させる要因となっていた。
【0010】
本発明は、上記のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、黒色の感光性樹脂組成物でありながら、例えば通常使用している露光条件下でも使用可能な高感度の感光性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、フェノール性水酸基を3つ以上有するフェノール化合物(以下「3価以上のフェノール化合物」ということがある。)のキノンジアジド付加体と、バインダー樹脂と、黒色着色剤とを含む黒色の感光性樹脂組成物において、特定のキノンジアジド付加体を採用すると、黒色の感光性樹脂組成物であっても高感度となり、例えば通常の露光条件を採用するフォトリソグラフィ法によるパターンの形成性を向上させ得ることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は次の態様を含む。
[項目1](A)バインダー樹脂、(B)フェノール性水酸基を3つ以上有するフェノール化合物(以下「3価以上のフェノール化合物」ということがある。)のキノンジアジド付加体、及び(C)黒色着色剤を含み、
(B)キノンジアジド付加体は、
(b1)3価以上のフェノール化合物が有するフェノール性水酸基のうちの1つの水酸基が式(I)又は(II)で示される構造で置換されているキノンジアジド付加体、及び
(b2)3価以上のフェノール化合物が有するフェノール性水酸基のうちの2つの水酸基が式(I)又は(II)で示される構造で置換されているキノンジアジド付加体を含み、
(b1)及び(b2)の合計が(B)全体の60モル%以上である、感光性樹脂組成物。
【化1】
【化2】
(R
a~R
dはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基又は炭素原子数1~10のアルコキシ基を示し、*は3価以上のフェノール化合物の芳香環との結合部を示す。)
【0013】
[項目2]3価以上のフェノール化合物が芳香環を3つ以上有する、項目1に記載の感光性樹脂組成物。
【0014】
[項目3]3価以上のフェノール化合物が、下記式(III)~(VI)で示される化合物から選択される少なくとも1つである、項目1又は2に記載の感光性樹脂組成物。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【0015】
[項目4](B)キノンジアジド付加体の総量100質量部に対して、(A)バインダー樹脂の含有量が100~1000質量部、及び(C)黒色着色剤の含有量が15~750質量部である、項目1~3のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【0016】
[項目5]バインダー樹脂(A)が、
(a1)アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体、及び(a2)エポキシ基とフェノール性水酸基とを有するアルカリ可溶性樹脂、からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有する、項目1~4のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【0017】
[項目6](C)黒色着色剤が(c1)ソルベントブラック27~47のカラーインデックスで規定される黒色染料、及び(c2)チタンブラックからなる群から選ばれた少なくとも1種を含む、項目1~5のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【0018】
[項目7]項目1~6のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物からなる有機EL素子の絶縁膜。
【0019】
[項目8]
項目1~6のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物からなる有機EL素子の隔壁。
【0020】
[項目9]
項目1~6のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物を含む有機EL素子。
【0021】
[項目10]
(1)項目1~6のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物を溶媒に溶かし、これを基材に塗布する塗布工程、
(2)塗布された感光性樹脂組成物中の溶媒を除去する乾燥工程、
(3)放射線をフォトマスク越しに照射する露光工程、
(4)アルカリ現像によりパターン形成する現像工程、及び
(5)100~350℃の温度で加熱する加熱処理工程
を含む放射線リソグラフィー構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、黒色を保ち高い遮光性を維持できる、高感度の感光性樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0024】
(A)バインダー樹脂
本発明の感光性樹脂組成物において使用する、バインダー樹脂(A)としては、特に限定されないが、アルカリ可溶性官能基を有し、アルカリ可溶性であることが好ましい。バインダー樹脂が有するアルカリ可溶性官能基としては、特に限定されないが、カルボキシル基、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基、スルホ基、リン酸基、酸無水物基等が挙げられ、2種以上のアルカリ可溶性官能基を併せ持つ樹脂を使用してもよい。バインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、アミド樹脂、フェノール樹脂、ポリアミック酸樹脂等が挙げられる。これらは単独で、又は2種類以上の樹脂を組み合わせて用いることができる。
【0025】
アルカリ可溶性の樹脂としては、下記のアルカリ可溶性基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(a1)、エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(a2)(「成分(a2)」ともいう)、その他のアルカリ可溶性樹脂(a3)(「成分(a3)」ともいう)を使用することができる。なお、本発明においてアルカリ可溶性とは、アルカリ溶液、例えば、2.38質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に溶解可能であることを意味する。
【0026】
(a1)アルカリ可溶性基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体
本発明のバインダー樹脂(A)としては、アルカリ可溶性基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(a1)を含むことが好ましい。該共重合体(a1)のアルカリ可溶性基としては、カルボキシル基、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基、スルホ基、リン酸基、酸無水物基等を挙げることができる。アルカリ可溶性基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体の共重合体は、例えば、アルカリ可溶性基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体を、重合開始剤及びRAFT剤(Reversible Addition Fragmentation Transfer;可逆的付加開裂型連鎖移動剤)等でラジカル重合させることにより製造することができる。あるいはラジカル重合にて共重合体を合成した後に、アルカリ可溶性基を付加したものであってもよい。重合性単量体が有する重合性官能基としては、ラジカル重合性官能基を挙げることができる。具体的には、CH2=CH-、CH2=C(CH3)-、CH2=CHCO-、CH2=C(CH3)CO-、-OC-CH=CH-CO-などを例示できる。アルカリ可溶性基を有する重合性単量体としては、例えば、4-ヒドロキシスチレン、(メタ)アクリル酸、α-ブロモ(メタ)アクリル酸、α-クロル(メタ)アクリル酸、β-フリル(メタ)アクリル酸、β-スチリル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノイソプロピル、フマル酸、ケイ皮酸、α-シアノケイ皮酸、イタコン酸、クロトン酸、プロピオール酸、4-ヒドロキシフェニルメタクリレート、3,5-ジメチル-4-ヒドロキシベンジルアクリルアミド、4-ヒドロキシフェニルアクリルアミド、4-ヒドロキシフェニルマレイミド、3-マレイミドプロピオン酸、4-マレイミド酪酸、6-マレイミドヘキサン酸等が挙げられる。
【0027】
その他の重合性単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン等の重合可能なスチレン誘導体、アクリルアミド、アクリロニトリル、ビニル-n-ブチルエーテル等のビニルアルコールのエーテル類、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル等の(メタ)アクリル酸エステル、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、マレイン酸無水物、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のN-置換マレイミドが挙げられる。ここで、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」を示す。中でも、耐熱性等の観点から、成分(a1)は、脂環式構造、芳香族構造、多環式構造、無機環式構造、複素環式構造等の1種又は複数種の環式構造を有することが好ましい。
【0028】
さらにアルカリ可溶性基を有する重合性単量体としては、下記式
【化7】
(式中、R
1は水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、rは1~5の整数を表す。)で表されるモノマー単位を形成し得るものが好ましい。該モノマー単位を形成し得るアルカリ可溶性基を有する重合性単量体としては、4-ヒドロキシフェニルメタクリレートが特に好ましい。
【0029】
その他の重合性単量体は、下記式
【化8】
(式中、R
2及びR
3は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~3のアルキル基、完全若しくは部分的にフッ素化された炭素原子数1~3のアルキル基、又はハロゲン原子を表し、R
4は、水素原子、炭素原子数1~6の直鎖若しくは環状アルキル基、フェニル基、又はヒドロキシ基、炭素原子数1~6のアルキル基及び炭素原子数1~6のアルコキシ基からなる群より選ばれた少なくとも一種で置換されたフェニル基を表す。)で表されるモノマー単位を形成し得るものが好ましい。該モノマー単位を形成し得るその他の重合性単量体としては、フェニルマレイミド及びシクロヘキシルマレイミドが特に好ましい。
【0030】
アルカリ可溶性基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体をラジカル重合によって製造する際の重合開始剤としては、次のものに限定されないが、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(AVN)などのアゾ重合開始剤、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の10時間半減期温度が100~170℃の過酸化物重合開始剤、或いは過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、1,1’-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、t-ブチルペルオキシピバレートなどの過酸化物重合開始剤を用いることができる。重合開始剤の使用量は、重合性単量体の混合物100質量部に対して、一般に0.01質量部以上、0.05質量部以上又は0.5質量部以上、40質量部以下、20質量部以下又は15質量部以下であることが好ましい。
【0031】
RAFT剤としては、次のものに限定されないが、ジチオエステル、ジチオカルバメート、トリチオカルボナート、キサンタートなどのチオカルボニルチオ化合物を使用することができる。RAFT剤は、重合性単量体の総量100質量部に対して、0.005~20質量部の範囲で使用することができ、0.01~10質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0032】
アルカリ可溶性基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(a1)の重量平均分子量(Mw)は、5,000~80,000であり、6,000~70,000であることが好ましく、7,000~60,000であることがより好ましい。数平均分子量(Mn)は1000~30000の範囲であり、3000~25,000範囲であることが好ましく、5,000~20,000であることがより好ましい。多分散度(Mw/Mn)は、1.0~3.0であり、1.1~2.8であることが好ましく、1.2~2.5であることがより好ましい。重量平均分子量、数平均分子量及び多分散度がこの範囲であると、アルカリ溶解性、現像性に優れる。
【0033】
これらの重合性単量体をラジカル重合させた重合体を用いることにより、形状維持性、現像性を向上させるとともにアウトガスの低減にも寄与することができる。
【0034】
アルカリ可溶性基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(a1)の製造における反応温度及び反応時間に特に制限は無いが、重合温度は50~150℃が好ましく、より好ましくは60~130℃であり、さらに好ましくは70~120℃である。重合時間は2~24時間が好ましく、より好ましくは3~12時間であり、さらに好ましくは4~8時間である。
【0035】
本発明のバインダー樹脂(A)は、上述した成分(a1)以外に、以下の(a2)エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(成分(a2)ともいう)及びその他のアルカリ可溶性樹脂(a3)(成分(a3)ともいう)を含むことができる。
【0036】
(a2)エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂
本発明のバインダー樹脂(A)として、エポキシ基とフェノール性水酸基とを有するアルカリ可溶性樹脂も挙げられる。該アルカリ可溶性樹脂は、例えば、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」と表記することがある。)のエポキシ基と、ヒドロキシ安息香酸類のカルボキシル基を反応させることで得ることができる。本発明の感光性樹脂組成物において、前記アルカリ可溶性樹脂(a2)がエポキシ基を有することで、加熱時にフェノール性水酸基と反応して架橋し耐薬品性、耐熱性などが向上するという利点があり、フェノール性水酸基を有することでアルカリ水溶液に可溶になるという利点がある。
【0037】
前記のエポキシ化合物が有するエポキシ基の1つと、ヒドロキシ安息香酸類のカルボキシル基とが反応し、フェノール性水酸基を有する化合物となる反応の例を次の反応式1に示す。
【0038】
【0039】
1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物としては、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらのエポキシ化合物は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有していればよく、1種類のみで用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、これらの化合物は熱硬化型であるため、当業者の常識として、エポキシ基の有無、官能基の種類、重合度などの違いから一義的に記載することができない。ノボラック型エポキシ樹脂の構造の一例を式(1)に示す。なお、式(1)におけるR5は水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表わし、qは0~50の整数を表わす。
【0040】
【0041】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、例えばEPICLON(登録商標)N-770(DIC株式会社製)、jER(登録商標)-152(三菱化学株式会社製)等が挙げられる。
【0042】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、例えばEPICLON(登録商標)N-695(DIC株式会社製)、EOCN(登録商標)-102S(日本化薬株式会社製)等があげられる。
【0043】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えばjER(登録商標)828、jER(登録商標)1001(三菱化学株式会社製)、YD-128(商品名、新日鉄住金化学株式会社製)等のビスフェノールA型エポキシ樹脂、jER(登録商標)806(三菱化学株式会社製)、YDF-170(商品名、新日鉄住金化学株式会社製)等のビスフェノールF型エポキシ樹脂等があげられる。
【0044】
ビフェノール型エポキシ樹脂としては、例えばjER(登録商標)YX-4000、jER(登録商標)YL-6121H(三菱化学株式会社製)等があげられる。
【0045】
ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂としては、例えばNC-7000(商品名、日本化薬株式会社製)、EXA-4750(商品名、DIC株式会社製)等があげられる。
【0046】
脂環式エポキシ樹脂としては、例えばEHPE(登録商標)-3150(ダイセル化学工業株式会社製)等があげられる。
【0047】
複素環式エポキシ樹脂としては、例えばTEPIC(登録商標),TEPIC-L,TEPIC-H、TEPIC-S(日産化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0048】
「ヒドロキシ安息香酸類」とは、安息香酸の2~6位の少なくとも1つが水酸基で置換された化合物のことをいい、例えばサリチル酸、4-ヒドロキシ安息香酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ-5-ニトロ安息香酸、3-ヒドロキシ-4-ニトロ安息香酸、4-ヒドロキシ-3-ニトロ安息香酸等が挙げられるが、アルカリ現像性を高める点でジヒドロキシ安息香酸類が好ましい。これらヒドロキシ安息香酸類は、1種類のみで用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
前記のエポキシ化合物とヒドロキシ安息香酸類からアルカリ可溶性のフェノール基を有する化合物を得る方法は、エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対して、ヒドロキシ安息香酸類を好ましくは0.20~0.90当量、より好ましくは0.25~0.85当量、さらに好ましくは0.30~0.80当量使用する。ヒドロキシ安息香酸類が0.2当量以上であれば十分なアルカリ溶解性が発現し、0.9当量以下であれば副反応による分子量増加が抑制できる。
【0050】
反応を促進させるために触媒を使用してもよい。触媒の使用量は、エポキシ化合物とヒドロキシ安息香酸類からなる反応原料混合物100質量部に対して0.1~10質量部が好ましい。反応温度は60~150℃、反応時間は3~30時間が好ましい。この反応で使用する触媒としては、例えばトリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムアイオダイド、トリフェニルフォスフィン、オクタン酸クロム、オクタン酸ジルコニウム等が挙げられる。
【0051】
前記のエポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(a2)の数平均分子量は、500~8000の範囲が好ましく、1000~6000の範囲であることがより好ましく、1500~4000の範囲であることがさらに好ましい。分子量が500以上であれば、アルカリ水溶液への溶解性が適切なため感光性材料の樹脂として良好であり、分子量が8000以下であれば、塗布性及び現像性が良好である。
【0052】
(a3)その他のアルカリ可溶性樹脂
その他のアルカリ可溶性樹脂(a3)としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキルフェノール樹脂、フェノール-ジシクロペンタジエン共重合体樹脂等の公知のフェノール樹脂が挙げられる。これらの水酸基をアルケニルエーテル化し、さらにアルケニルエーテル基をクライゼン転位することにより得られるポリアルケニルフェノール樹脂をバインダー樹脂(A)として用いてもよい。
【0053】
その他のアルカリ可溶性樹脂としては、例えば式(2)の構造を有するヒドロキシポリスチレン樹脂誘導体も挙げられる。このような樹脂を含有することにより、得られる感光性樹脂組成物の現像特性を向上させるとともに、アウトガスの低減にも寄与することができる。
【0054】
【0055】
(式(2)においてR6は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、mは1~4の整数、nは1~4の整数を表し、m+nは2~5の範囲内である。R7は水素原子、メチル基、エチル基及びプロピル基からなる群から選ばれた少なくとも1種を表す。)
【0056】
本発明の感光性樹脂組成物のバインダー樹脂(A)として、ヒドロキシポリスチレン樹脂誘導体を用いる場合、アルカリ現像性、アウトガスの点から式(2)で表されるモノマー単位及び式(3)で表されるモノマー単位を有する共重合体であることが好ましい。
【0057】
【0058】
(式(3)においてR8は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、pは1~5の整数を表す。)
【0059】
一般式(3)で表されるモノマー単位は、例えば、p-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、o-ヒドロキシスチレン、p-イソプロペニルフェノール、m-イソプロペニルフェノール、o-イソプロペニルフェノール等のフェノール性水酸基を有する芳香族ビニル化合物のうち、単独又は2種類以上を公知の方法で重合して得られた重合体又は共重合体の一部に、公知の方法でホルムアルデヒドを反応させたり、さらにアルコールと反応させることにより得られる。
【0060】
フェノール性水酸基を有する芳香族ビニル化合物は、p-ヒドロキシスチレン及びm-ヒドロキシスチレンが好ましく用いられる。
【0061】
本発明の感光性樹脂組成物のバインダー樹脂(A)として、前記ヒドロキシポリスチレン樹脂誘導体を用いる場合、好ましい数平均分子量は、1000~20000の範囲であって、3000~10000の範囲であることがより好ましい。分子量が1000以上の場合は、アルカリ溶解性が適度であるため感光性材料の樹脂として適しており、分子量が20000以下の場合は塗布性及び現像性が良好である。
【0062】
なお、成分(a1)がエポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(a2)にも該当する場合は、成分(a1)として扱うものとする。成分(a2)がその他のアルカリ可溶性樹脂(a3)にも該当する場合は、成分(a2)として扱うものとする。すなわち、エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(a2)及びその他のアルカリ可溶性樹脂(a3)は、成分(a1)に該当するものを除くものとする。
【0063】
バインダー樹脂(A)は、1種類の樹脂を単独で用いてもよいし、2種類以上の樹脂を併用してもよい。バインダー樹脂(A)が、成分(a1)以外に、成分(a2)及び成分(a3)で表わされる群から選択される少なくとも1種を含む場合には、バインダー樹脂(A)100質量部に対し、成分(a2)及び成分(a3)で表わされる群から選択される少なくとも1種の合計の成分量は、1~100質量部が好ましく、より好ましくは10~100質量部であり、さらに好ましくは30~100質量部である。この範囲で成分(a2)、成分(a3)が含まれている場合には、感光性樹脂組成物の耐熱性は良好である。
【0064】
(B)フェノール性水酸基を3つ以上有するフェノール化合物(3価以上のフェノール化合物)のキノンジアジド付加体
本発明の感光性樹脂組成物は、感放射線化合物として、3価以上のフェノール化合物のキノンジアジド付加体を含有する。このキノンジアジド付加体とは、例えば、式(III)で示される3価のフェノール化合物の場合、
【化13】
フェノール化合物の3つのフェノール性水酸基の少なくとも1つが、キノンジアジド構造を有する基で置換された、例えばナフトキノンジアジドスルホネート基で置換された(フェノール化合物の水酸基がキノンジアジドスルホン酸ハライドでエステル化(スルホネート化)された)下記化合物を意味する。
【0065】
【0066】
本発明のキノンジアジド付加体(B)(ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル)は、紫外光等が露光されると下記反応式(2)に示された反応を経てカルボキシル基を生成することが知られている。カルボキシル基が生成することにより、露光された部分(皮膜)がアルカリ性の水に対して溶解できるようになり、アルカリ現像性が発現する。
【0067】
【0068】
本発明で使用する3価以上のフェノール化合物のキノンジアジド付加体(B)は、3価以上のフェノール化合物が有するフェノール性水酸基のうちの1つの水酸基が式(I)又は(II)で示される構造で置換されているキノンジアジド付加体を(b1)、3価以上のフェノール化合物が有するフェノール性水酸基のうちの2つの水酸基が式(I)又は(II)で示される構造で置換されているキノンジアジド付加体を(b2)とした場合に、(b1)及び(b2)の合計が(B)全体の60モル%以上、好ましくは65モル%以上、より好ましくは70モル%以上含まれていればよく、100モル%以下、好ましくは99モル%以下、より好ましくは98モル%以下含むことができる。
【化16】
【化17】
(R
a~R
dはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基又は炭素原子数1~10のアルコキシ基を示し、*は3価以上のフェノール化合物の芳香環との結合部を示す。)
【0069】
本発明者らは、感放射線化合物として、(b1)及び(b2)のキノンジアジド付加体が上記の特定割合で含まれるキノンジアジド付加体(B)を採用することによって、黒色でありながら高感度の黒色感光性樹脂組成物、特に、黒色のポジ型感光性樹脂組成物が得られることを見いだした。ここで、高感度とは、感光性樹脂組成物を使用して形成したレジストパターンを、150mJ/cm2で露光した場合において、該レジストパターンに不具合が生じていない場合を意味する。
【0070】
感光性樹脂組成物の感度を上げる場合、光感受性のナフトキノンジアジド基の割合を極力高めたキノンジアジド付加体を使用するのが一般的である。例えば、上記のキノンジアジド付加体では、フェノール化合物の3つの水酸基の内の全てがナフトキノンジアジドスルホン酸エステルであるキノンジアジド付加体の割合が高い感放射線材料を使用するのが一般的である。しかしながら、黒色の感光性樹脂組成物を使用した場合、このような感放射線材料を使用しても感度は向上しなかった。これは、黒色の感光性樹脂層の場合、露光させる光が表層から最下層へ透過しにくいことに加え、表層付近に存在する上述したような光感受性の高い感放射線材料によって、露光させる光の大部分が吸収(消費)されてしまい、露光に必要な有効強度を有する光が黒色の感光性樹脂層の内部まで到達しないためであると考えられる。一方、本発明で使用するキノンジアジド付加体(B)は、3価以上のフェノール化合物の1つ又は2つのフェノール性水酸基が、光感受性のナフトキノンジアジドスルホン酸エステルであるキノンジアジド付加体、即ち、上述した光感受性の高い感放射線材料に比べて光感受性の低いものを60モル%以上含んでいる。このため、本発明のキノンジアジド付加体(B)を含む黒色の感光性樹脂層の場合には、光感受性の比較的低い感放射線材料が層内に均一に分布しているので、露光させる光は、該感光性樹脂層の表層付近で完全に吸収されることなく層の内部まで届き、黒色の感光性樹脂層全体を効率的に露光させることができると考えられる。
【0071】
3価以上のフェノール化合物としては、分子量が250以上のものが好ましく、又は300以上のものがより好ましく、分子量の上限としては特に限定するものではないが、1000以下、800以下又は600以下とすることができる。係るフェノール化合物としては、特に限定されないが、フェノール化合物が芳香環を3つ以上有するものが好ましい。具体的には下記式(III)~(VI)で示される化合物が挙げられる。
【化18】
(以下「TS」と表記する場合がある。)、
【化19】
(以下「CNB」と表記する場合がある。)、
【化20】
(以下「TEKP」と表記する場合がある。)、
【化21】
(以下「HP」と表記する場合がある。)
等が挙げられる。
【0072】
3価以上のフェノール化合物のキノンジアジド付加体(b1)又は(b2)は、例えば3価以上のフェノール化合物の水酸基と式(Ia)又は(IIa)に示す化合物とをエステル反応させることにより得られる。
【化22】
【化23】
(R
a~R
dはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基又は炭素原子数1~10のアルコキシ基を示し、Xはハロゲン原子又はOHを示す。)
【0073】
Ra~Rdはそれぞれ独立に好ましくは水素原子、炭素原子数1~3のアルキル基又はアルコキシ基であり、より好ましくは水素原子、メチル基、メトキシ基であり、さらに好ましくは水素原子である。Xは好ましくは塩素原子である。具体的には、1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライド、1,2-ナフトキノンジアジド-4-スルホン酸クロライド等が挙げられる。中でも、1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライドが好ましい。
【0074】
本発明における感光性樹脂組成物は、(B)キノンジアジド付加体の総量100質量部に対して、(A)バインダー樹脂の含有量が100~1000質量部、好ましくは150~1000質量部、より好ましくは170~500質量部又はさらに好ましくは200~400質量部、及び(C)黒色着色剤の含有量が15~750質量部、好ましくは30~350質量部又はより好ましくは60~260質量部の範囲で含まれてもよい。(A)バインダー樹脂と(B)キノンジアジド付加体の比率(A/B)としては、好ましくは1.7~5.0又はより好ましくは2.0~4.0であり、(C)黒色着色剤と(B)キノンジアジド付加体の比率(C/B)としては、好ましくは0.3~3.5又はより好ましくは0.6~2.6である。このような範囲であると、アルカリ現像性、感度をより向上させることができる。
【0075】
(C)黒色着色剤
本発明の黒色着色剤としては、例えば、ソルベントブラック27~47のカラーインデックス(C.I.)で規定される黒色染料(c1)を使用することができる。黒色染料は、好ましくは、ソルベントブラック27、29又は34のC.I.で規定されるものである。ソルベントブラック27~47のC.I.で規定される染料のうち少なくとも1種類を黒色染料として用いた場合、焼成後の感光性樹脂組成物の膜の厚さ1μm当たりの光学濃度(OD値)を0.1~3.0にすることができ、より黒色に近い色を保つことができる。膜の厚さ1μm当たりの光学濃度(OD値)は、透過濃度計及び膜厚測定装置を用いて測定可能である。この利点から本発明の感光性樹脂組成物を有機ELディスプレイ等の表示装置の隔壁材として使用した場合、表示装置の視認性を向上させることができる。
【0076】
本発明における感光性樹脂組成物中の黒色染料(c1)の含有量は、(A)バインダー樹脂、(B)キノンジアジド化合物、(C)黒色染料、その他の固形分(黒色染料を除く。)の合計量100質量%として、0.1~50質量%が好ましく、より好ましくは5~40質量%である。0.1質量%以上であると、焼成後の硬化膜の厚さ1μm当たりのOD値を0.1~3.0の範囲にすることができ、加熱しても黒色を保持することができる。50質量%以下であると、残膜率、耐熱性、感度等が良好である。
【0077】
本発明の黒色着色剤として、黒色顔料(c2)を使用することもできる。黒色顔料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、黒鉛、鉄黒、アニリンブラック、チタンブラック等の黒色顔料を挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせても構わない。黒色顔料は分散液の形態で使用することができる。黒色顔料として好ましくは、チタンブラック、カーボンブラック等であり、より好ましくはチタンブラックである。
【0078】
本発明に使用するチタンブラックとしては、特に限定されないが、二酸化チタンと金属チタンの混合体を還元雰囲気で加熱し還元する方法(特開昭49-5432号公報)、四塩化チタンの高温加水分解で得られた超微細二酸化チタンを水素を含む還元雰囲気中で還元する方法(特開昭57-205322号公報)、二酸化チタン又は水酸化チタンをアンモニア存在下で高温還元する方法(特開昭60-65069号公報、特開昭61-201610号公報)、二酸化チタン又は水酸化チタンにバナジウム化合物を付着させ、アンモニア存在下で高温還元する方法(特開昭61-201610号公報)等で製造されたものを使用できる。チタンブラックの市販品の例としては、三菱マテリアル株式会社製のチタンブラック10S、12S、13R、13M、13M-C、13-MT、16M、UF-8、赤穂化成株式会社製のTilack Dなどが挙げられる。これらのチタンブラックは1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0079】
チタンブラックは、バインダー樹脂(A)100質量部を基準として、3~30質量部が好ましく、より好ましくは5~20質量部であり、さらに好ましくは8~15質量部である。チタンブラックの含有量がバインダー樹脂(A)100質量部を基準として3~30質量部であれば、目的のOD値(光学濃度)が得られる。
【0080】
分散液中のチタンブラックの平均粒子径D50(体積基準)は、5~100nmが好ましい。平均粒子径D50が5~100nmであれば、高い遮光性が得られる。平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置Microtrac wave(日機装株式会社)を用いて測定できる。
【0081】
黒色着色剤として、ソルベントブラック27~47のカラーインデックス(C.I.)で規定される黒色染料、チタンブラックを採用した場合には特に耐熱性に優れるため、200℃以上の高温処理後でも、該黒色着色剤を含む感光性樹脂組成物は黒色を保ち高い遮光性を維持できる。
【0082】
(任意成分)
本発明の感光性樹脂組成物は、任意成分として、分散剤、その他の着色剤、熱硬化剤、界面活性剤、溶媒等を添加することができる。なお、任意成分は(A)~(C)のいずれにも当てはまらないものと定義する。
【0083】
(D)分散剤
チタンブラック等の顔料を分散させるために、分散剤を使用することも可能である。分散剤としては、公知のものが使用でき、例えば、商品名DISPERBYK-110、DISPERBYK-111(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等、商品名ディスパロン(登録商標)PW-36、ディスパロン(登録商標)DA-375(楠本化成株式会社製)等のリン酸エステル類、ポリリン酸エステル類、リン酸ポリエステル類、ポリエーテルリン酸エステル類等のリン酸分散剤、商品名フローレンG-700、フローレンG-900、フローレンGW-1500(共栄社化学株式会社製)等のカルボキシル基含有ポリマー分散剤、商品名アジスパー(登録商標)PN411、アジスパー(登録商標)PA111(味の素ファインテクノ株式会社製)等の高級脂肪酸エステル分散剤が挙げられる。中でも骨格にグラフト鎖を有しない分散剤、例えば商品名DISPERBYK-110、DISPERBYK-111(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が好ましく用いられる。
【0084】
分散剤は黒色顔料(c2)100質量部に対して1~40質量部含むことが好ましく、より好ましくは2~30質量部、さらに好ましくは3~20質量部である。分散剤が黒色顔料(c2)100質量部に対して1~40質量部であれば、粒子を良好に分散することができる。
【0085】
(E)その他の着色剤
本発明の感光性樹脂組成物は、さらに任意成分として、その他の着色剤を含有することができる。このような着色剤は、染料、有機顔料、無機顔料が挙げられるが、目的に合わせて用いることができる。
【0086】
染料の具体例としてはアゾ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、シアニン染料、スクアリリウム染料、クロコニウム染料、メロシアニン染料、スチルベン染料、ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、フルオラン染料、スピロピラン染料、フタロシアニン染料、インジゴ染料、フルギド染料、ニッケル錯体染料、及びアズレン染料等が挙げられる。
【0087】
顔料としては、C.I.ピグメントイエロー20,24,86,93,109,110,117,125,137,138,147,148,153,154,166、C.I.ピグメントオレンジ36,43,51,55,59,61、C.I.ピグメントレッド9,97,122,123,149,168,177,180,192,215,216,217,220,223,224,226,227,228,240、C.I.ピグメントバイオレット19,23,29,30,37,40,50、C.I.ピグメントブルー15,15:1,15:4,22,60,64、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブラウン23,25,26等を挙げることができる。
【0088】
(F)熱硬化剤
本発明の感光性樹脂組成物に熱硬化剤を含有することが、加熱により組成物を硬化させることができるため好ましい。熱硬化剤としては、熱ラジカル発生剤を使用することができる。好ましい熱ラジカル発生剤としては、有機過酸化物を挙げることができ、具体的にはジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の10時間半減期温度が100~170℃の有機過酸化物等を挙げることができる。
【0089】
熱硬化剤の好ましい含有量は、バインダー樹脂(A)、キノンジアジド化合物(B)、黒色着色剤(C)、及びその他の固形分(熱硬化剤を除く。)の合計量100質量部を基準として、0.1~5質量部が好ましく、より好ましくは0.5~3質量部である。
【0090】
(G)界面活性剤
本発明の感光性樹脂組成物は、さらに任意成分として、例えば塗布性を向上させるため、あるいは塗膜の現像性を向上させるために、界面活性剤を含有することができる。このような界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアリールエーテル類;ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンジステアレート等のポリオキシエチレンジアルキルエステル類等のノニオン界面活性剤;メガファック(登録商標)F-251、同F-281、同F-430、同F-444、同R-40、同F-553、同F-554、同F-555、同F-556、同F-557、同F-558、同F-559(以上、商品名、DIC株式会社製)、サーフロン(登録商標)S-242、同S-243、同S-420、同S-611(以上、商品名、ACGセイミケミカル株式会社製)等のフッ素系界面活性剤;オルガノシロキサンポリマーKP323、KP326、KP341(以上、商品名、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上用いることもできる。
【0091】
このような界面活性剤は、バインダー樹脂(A)、キノンジアジド化合物(B)、黒色着色剤(C)、及びその他の固形分(界面活性剤を除く。)の合計量100質量部を基準として、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下の量で配合される。
【0092】
(H)溶媒
本発明の感光性樹脂組成物は、溶媒に溶解されて溶液状態で用いられることが、基材への塗布性の面で好ましい。例えば、バインダー樹脂を溶媒に溶解し、この溶液に、キノンジアジド化合物、黒色着色剤、必要に応じて熱硬化剤、界面活性剤等の添加剤を一定の割合で混合することにより、溶液状態の感光性樹脂組成物を調製することができる。使用目的により、適宜の固形分濃度を採用することができるが、例えば、固形分濃度1~60質量%、好ましくは3~50質量%、さらに好ましくは5~40質量%とすることができる。
【0093】
溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート等のエチレングリコールアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコール類、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルブタン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類を使用することができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせても構わない。
【0094】
[感光性樹脂組成物の調製方法]
本発明の感光性樹脂組成物は、前記のバインダー樹脂(A)、キノンジアジド化合物(B)、黒色着色剤(C)、及び必要に応じてその他の成分を前記の溶媒に溶解又は分散して混合することにより調製することができる。使用目的により、適宜の固形分濃度を採用することができるが、例えば、固形分濃度10~60質量%とすることができる。調製された組成物の溶液は、通常、使用前にろ過される。ろ過の手段としては、例えば孔径0.05~1.0μmのメンブレンフィルター等が挙げられる。このように調製された本発明の感光性樹脂組成物は、長期間の貯蔵安定性にも優れている。
【0095】
[顔料分散液の製造方法]
顔料を混合する際は、前記のバインダー樹脂(A)及びキノンジアジド化合物(B)と混合する前に顔料を溶媒に分散させておくことが好ましい。顔料分散液は、顔料、溶媒、及び必要に応じて分散剤を混合することで製造できる。顔料を解砕・分散する際の分散機としては特に限定されるものではなく、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、ロッキングミルなどのボール型、ニーダー、パドルミキサー、プラネタリミキサー、ヘンシェルミキサーなどのブレード型、3本ロールミキサーなどのロール型、その他として擂潰(ライカイ)機、コロイドミル、超音波、ホモジナイザー、自転・公転ミキサーなどが挙げられる。この中でも、安定して短時間で微分散が可能なボール型が好ましい。このボール型に使用するボールの材質としては、ガラス、窒化珪素、アルミナ、ジルコン、ジルコニア、スチールなどが挙げられる。ビーズ径としては、直径0.03~25mmの一般的な形状のものが使用できるが、微細化の観点からは直径5mm以下の小径が好ましい。
【0096】
分散液を調製する際の添加順序は特に限定されるものではないが、良好な分散液を得るためには以下の順番が望ましい。
【0097】
まず、溶媒と分散剤を均一に分散させる。溶媒と分散剤を予め均一に分散させることで、部分的に分散剤濃度の高いエリアが生じて粒子が凝集するなどの不具合を抑制できる。次いで必要量の顔料を先に調製した溶液に入れて、最後にビーズを入れる。顔料に凝集が見られる場合には、予備的な分散を行ってもよい。樹脂との相溶性、顔料の再凝集抑制を目的にバインダー樹脂又はその他の樹脂成分を用いてもよい。
【0098】
顔料分散液とバインダー樹脂、キノンジアジド化合物、及び任意成分を混合する際の順序に特に制限は無いが、例えば、バインダー樹脂を溶媒に溶解し、この溶液に、キノンジアジド化合物、顔料分散液、必要に応じて熱硬化剤、界面活性剤等の添加剤を所定の割合で混合することにより、溶液状態の感光性樹脂組成物を調製することができる。
【0099】
顔料分散液とバインダー樹脂、キノンジアジド化合物、及び任意成分を混合する際の撹拌機としては特に限定されるものではなく、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、ロッキングミルなどのボール型、ニーダー、パドルミキサー、プラネタリミキサー、ヘンシェルミキサーなどのブレード型、3本ロールミキサーなどのロール型、その他として擂潰(ライカイ)機、コロイドミル、超音波、ホモジナイザー、自転・公転ミキサー、メカニカルスターラーなどが挙げられる。ラボレベルで用いる場合は、メカニカルスターラーが安定して短時間で混合可能なため好ましい。撹拌時に使用する撹拌翼は、ファン、プロペラ、十字、タービン、トンボ型などから適宜選択できる。顔料分散液やバインダー樹脂溶液などを混合し、室温で1~10分間、回転数10~1000rpmで撹拌することによって樹脂組成物を得ることができる。調製された組成物液は、使用前にろ過することが好ましい。ろ過の手段としては、例えば孔径0.05~1.0μmのメンブレンフィルター等が挙げられる。このように調製された本発明の感光性樹脂組成物は、長期間の貯蔵安定性にも優れている。
【0100】
[パターン形成・硬化方法]
本発明の感光性樹脂組成物を、例えば、ポジ型の放射線リソグラフィー用に使用する場合、まず、溶媒に溶かした本発明の感光性樹脂組成物を基板表面に塗布し、加熱等の手段により溶媒を除去して、塗膜を形成することができる。基板表面への感光性樹脂組成物の塗布方法は特に限定されず、例えばスプレー法、ロールコート法、スリット法、回転塗布法等の各種の方法を採用することができる。
【0101】
溶媒に溶かした本発明の感光性樹脂組成物を基板表面に塗布した後、通常、加熱(プリベーク)により溶媒を乾燥して塗膜とする。加熱条件は各成分の種類、配合割合等によっても異なるが、通常70~130℃で、所定時間、例えばホットプレート上なら1~20分間、オーブン中では3~60分間加熱処理をすることによって塗膜を得ることができる。
【0102】
次にプリベークされた塗膜に所定パターンのマスクを介して放射線(例えば、可視光線、紫外線、遠紫外線等)等を照射(露光工程)した後、現像液により現像し、不要な部分を除去して所定パターン状塗膜を形成する(現像工程)。ナフトキノンジアジドスルホン酸エステルを感光性化合物として使用する場合、好ましい放射線は、250~450nmの波長を有する紫外線~可視光線である。
【0103】
現像液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水等の無機アルカリ類;エチルアミン、n-プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、コリン等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピペリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノナン等の環状アミン類等のアルカリ類の水溶液を用いることができる。濃度に特に制限は無いが、0.5~5.0質量%が好ましい。上記アルカリ水溶液に、メタノール、エタノール等の水溶性有機溶媒、界面活性剤等を適当量添加した水溶液を現像液として使用することもできる。現像時間は通常30~180秒間であり、現像の方法は液盛り法、シャワー法、ディッピング法等のいずれでもよい。現像後、流水洗浄を30~90秒間行い、不要な部分を除去し、圧縮空気や圧縮窒素で風乾させることによって、パターンが形成される。その後このパターンを、ホットプレート、オーブン等の加熱装置により、所定温度例えば120~350℃で、20~200分間加熱処理をすることによって塗膜を得ることができるが、温度を段階的に上げてもよい(加熱処理工程)。
【0104】
本発明は、(1)前記の感光性樹脂組成物を溶媒に溶かし、これを基材に塗布する塗布工程、(2)塗布された感光性樹脂組成物中の溶媒を除去する乾燥工程、(3)放射線をフォトマスク越しに照射する露光工程、(4)アルカリ現像によりパターン形成する現像工程、及び(5)100~350℃の温度で加熱する加熱処理工程を含む放射線リソグラフィー構造物の製造方法を採用することができる。この方法は、例えば、有機EL素子の隔壁及び絶縁膜の形成に用いることができる。
【0105】
本発明は、前記感光性樹脂組成物の硬化物からなる有機EL素子の隔壁を得ることができる。
【0106】
本発明は、前記感光性樹脂組成物の硬化物からなる有機EL素子の絶縁膜を得ることができる。
【0107】
本発明は、前記感光性樹脂組成物の硬化物を含む有機EL素子を得ることができる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
【0109】
(1)バインダー樹脂の合成
[製造例1]アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(成分a1-1)の製造
4-ヒドロキシフェニルメタクリレート(昭和電工株式会社製「PQMA」)76.8g、N-シクロヘキシルマレイミド(株式会社日本触媒製)28.8g、重合開始剤としてV-601(和光純薬工業株式会社製)1.80g、RAFT剤としてS-ドデシル-S’-(α,α’-ジメチル-α”-酢酸)トリチオカルボナート(シグマアルドリッチ製「723010」)1.92gを、1-メトキシ-2-プロピルアセテート(株式会社ダイセル製)180gに完全に溶解させた。得られた溶液を、500mLの3つ口型フラスコ中、窒素ガス雰囲気下で85℃に加熱した1-メトキシ-2-プロピルアセテート(株式会社ダイセル製)180gに2時間かけて滴下し、その後85℃で3時間反応させた。室温まで冷却した反応溶液を1200gのトルエン中に滴下し、重合体を沈殿させた。沈殿した重合体をろ過により回収し、80℃で15時間真空乾燥し薄黄色の粉体を104.4g回収した。これをγ-ブチロラクトンに溶解し、固形分20質量%の樹脂液を得た(樹脂液a1-1)。得られた反応物の数平均分子量は12400、重量平均分子量は21100であった。
【0110】
[製造例2]アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(成分a1-2)の製造
4-ヒドロキシフェニルメタクリレート(昭和電工株式会社製「PQMA」)102.4g、N-シクロヘキシルマレイミド(株式会社日本触媒製)38.4g、重合開始剤としてV-601(和光純薬工業株式会社製)3.54g、RAFT剤としてS-ドデシル-S’-(α,α’-ジメチル-α”-酢酸)トリチオカルボナート(シグマアルドリッチ製「723010」)7.58gを、1-メトキシ-2-プロピルアセテート(株式会社ダイセル製)240gに完全に溶解させた。得られた溶液を、500mLの3つ口型フラスコ中、窒素ガス雰囲気下で85℃に加熱した1-メトキシ-2-プロピルアセテート(株式会社ダイセル製)240gに2時間かけて滴下し、その後85℃で3時間反応させた。室温まで冷却した反応溶液を1800gのトルエン中に滴下し、重合体を沈殿させた。沈殿した重合体をろ過により回収し、80℃で15時間真空乾燥し薄黄色の粉体を129.7g回収した。これをγ-ブチロラクトンに溶解し、固形分20質量%の樹脂液を得た(樹脂液a1-2)。得られた反応物の数平均分子量は7500、重量平均分子量は11300であった。
【0111】
[製造例3]アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(成分a1-3)の製造
4-ヒドロキシフェニルメタクリレート(昭和電工株式会社製「PQMA」)33.0g、N-シクロヘキシルマレイミド(株式会社日本触媒製)9.29g、重合開始剤としてV-601(和光純薬工業株式会社製)4.31gを、1-メトキシ-2-プロピルアセテート(株式会社ダイセル製)108gに完全に溶解させた。得られた溶液を、500mLの3つ口型フラスコ中、窒素ガス雰囲気下で85℃に加熱した1-メトキシ-2-プロピルアセテート(株式会社ダイセル製)72.0gに2時間かけて滴下し、その後85℃で5時間反応させた。室温まで冷却した反応溶液を960gのトルエン中に滴下し、重合体を沈殿させた。沈殿した重合体をろ過により回収し、90℃で9時間真空乾燥し白色の粉体を37.8g回収した。これをγ-ブチロラクトンに溶解し、固形分20質量%の樹脂液を得た(樹脂液a1-3)。得られた反応物の数平均分子量は7400、重量平均分子量は14100であった。
【0112】
[製造例4]エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(成分a2-1)の製造
300mLの3つ口型フラスコに溶剤としてγ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)60g、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物としてEPICLON(登録商標)N-695(DIC株式会社製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量210)を42g仕込み、窒素ガス雰囲気下、60℃で溶解させた。そこへヒドロキシ安息香酸類として3,5-ジヒドロキシ安息香酸(和光純薬工業株式会社製)を15.5g(0.10mol、エポキシ1当量に対して0.5当量)、反応触媒としてトリフェニルホスフィン(北興化学工業株式会社製)を0.2g(0.76mmol)追加し、110℃で12時間反応させた。反応溶液を室温に戻し、γ-ブチロラクトンで固形分20質量%に希釈し、溶液をろ過して260g回収した(樹脂液a2-1)。得られた反応物の数平均分子量は2400、重量平均分子量は5600であった。
【0113】
[製造例5]エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(成分a2-2)の製造
3,5-ジヒドロキシ安息香酸(和光純薬工業株式会社製)を21.7g(0.14mol、エポキシ1当量に対して0.7当量)使用し、110℃で24時間反応させた以外は製造例4と同様の方法で樹脂液a2-2を得た。得られた反応物の数平均分子量は3200、重量平均分子量は9000であった。
【0114】
[製造例6]エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(成分a2-3)の製造
1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物としてEPICLON(登録商標)N-770(DIC株式会社製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量188)を37.6g、3,5-ジヒドロキシ安息香酸(ハイケム株式会社製)を20.1g(0.13mol、エポキシ1当量に対して0.65当量)使用し、110℃で24時間反応させた以外は製造例4と同様の方法で樹脂液a2-3を得た。得られた反応物の数平均分子量は2400、重量平均分子量は8300であった。
【0115】
なお、重量平均分子量及び数平均分子量に関しては、以下の測定条件で、ポリスチレンの標準物質を使用して作成した検量線を用いて算出した。
装置名:Shodex(登録商標)GPC-101
カラム:Shodex(登録商標)LF-804
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/min
検出器:Shodex(登録商標)RI-71
温度:40℃
【0116】
(2)原料
(A)バインダー樹脂
(A)バインダー樹脂として、製造例1~6により合成した樹脂液a1-1~a1-3、a2-1~a2-3、及びノボラックフェノール樹脂BRG-558(アイカSDKフェノール株式会社製)をγ-ブチロラクトンで固形分20質量%に調整した樹脂液x1を使用した。
【0117】
(A)バインダー樹脂以外の材料を表1に示す。使用する(B)キノンジアジド付加体において、3価以上のフェノール化合物のフェノール性水酸基と置換したナフトキノンジアジドスルホンスルホネート基(DNQ)の割合を表2に示す。ここで、表1及び表2において、フェノール化合物のフェノール性水酸基の内の1つがDNQで置換されたものを「B1」、2つがDNQで置換されたものを「B2」、3つがDNQで置換されたものを「B3」、無置換のものを「B0」と表記する。
【0118】
【0119】
【0120】
(3)ポジ型感光性樹脂組成物の調製及び評価
[実施例1]
樹脂液a2-2を20g(固形分4g)、樹脂液a1-1を5.0g(固形分1.0g)、樹脂液a1-2を9.0g(固形分1.8g)及び樹脂液x1を1.0g(固形分0.2g)混合、溶解し、キノンジアジド化合物としてTS-100Gを15g、黒色着色剤としてVALIFAST(登録商標) BLACK 3804を4.3g、及び界面活性剤としてサーフロン(登録商標)S-386を0.022g加え、さらに混合を行った。溶解を目視で確認した後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターで濾過し、固形分濃度12質量%のポジ型感光性樹脂組成物を調製した。
【0121】
[実施例2~8、比較例1~4]
表3に記載の組成にした以外は、実施例1と同様の方法によりポジ型感光性樹脂組成物を調製した。なお、表3中に記載の実施例の各成分の数字の単位は「g」であり、()内は固形分の量(g)である。
【0122】
各実施例及び各比較例で調製したポジ型感光性樹脂組成物について、アルカリ現像性、パターン形成性、OD値(光学濃度)の評価を行った。結果を表3に示す。評価方法は下記の通りである。
【0123】
[アルカリ現像性、パターン形成性]
ガラス基板(大きさ100mm×100mm×0.7mm)に、実施例1~8及び比較例1~4のポジ型感光性樹脂組成物を乾燥膜厚が1.8~2μmになるように各々バーコートし、120℃で80秒溶剤を乾燥した。さらに超高圧水銀ランプを組み込んだ露光装置(商品名マルチライトML-251A/B、ウシオ電機株式会社製)で石英製のフォトマスクを介して100mJ/cm2露光した。露光量は紫外線積算光量計(商品名UIT-150 受光部 UVD-S365、ウシオ電機株式会社製)を用いて測定した。露光した塗膜は、スピン現像装置(AD-1200、滝沢産業株式会社製)を用い2.38質量%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液で60秒間アルカリ現像を行ない、アルカリ現像性の評価を行った。光学顕微鏡(VH-Z250、株式会社キーエンス製)を用いた観察で、アルカリ現像後の残渣がない場合を「良好」、残渣があった場合を「不可」として判定した。
【0124】
パターン形成性の評価はアルカリ現像後のパターンの線幅測定により行った。光学顕微鏡(VH-Z250、株式会社キーエンス製)を用い、フォトマスクのライン&スペースのパターンの線幅がそれぞれ10μmである箇所を確認することにより行った。アルカリ現像後のパターンのラインとスペースのパターンの線幅が1:1となっていれば「良好」、ライン部の線幅が±10%以内で「良好」以外のものを「可」、それ以外を「不可」としてパターン形成性の評価を行った。なお、アルカリ現像性の評価で「不可」となったものは、パターン形成性の項目において「判定不可」とした。
【0125】
[OD値]
ガラス基板(大きさ100mm×100mm×0.7mm)に、実施例1~8及び比較例1~4のポジ型感光性樹脂組成物を約1.3μmになるように各々塗布し、ホットプレート上120℃で80秒加熱し溶媒を乾燥した。その後、窒素ガス雰囲気下250℃で60分硬化させることにより塗膜を得た。硬化後の塗膜を透過濃度計(BMT-1、サカタインクスエンジニアリング株式会社製)で測定し、1μm当たりのOD値に換算した。なお、塗膜の厚みは光学式膜厚測定装置(F-20NIR、フィルメトリクス株式会社製)を用いて測定した。
【0126】
【0127】
表3に示された結果から、調製された感光性樹脂組成物を用いた実施例1~8においては、アルカリ現像性、パターン形成性及びOD値の全ての点がバランスよく優れていることが分かった。全ての実施例において、良好な遮光性(OD値)が達成されると同時に、感度の指標であるアルカリ現像性及びパターン形成性も良好な結果が得られていた。一方、B1及びB2の合計割合が60モル%未満であるキノンジアジド付加体を含む感光性樹脂組成物を用いた比較例1~4では、遮光性には優れるものの、100mJ/cm2の光量では塗膜を十分に露光させることができなかったため、アルカリ現像性及びパターン形成性において良好な結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の黒色感光性樹脂組成物は高感度であるため、例えば、ポジ型の放射線リソグラフィーに好適に利用することができる。本発明の黒色感光性樹脂組成物から形成された隔壁及び絶縁膜を備えた有機EL素子は、良好なコントラストを示す表示装置の電子部品として好適に使用される。