(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】組換えタンパク質の生産プロファイルを改変するための方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20220404BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2019512736
(86)(22)【出願日】2017-09-12
(86)【国際出願番号】 EP2017072936
(87)【国際公開番号】W WO2018046769
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-06-26
(32)【優先日】2016-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504104899
【氏名又は名称】アレス トレーディング ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マルク ビルセール
(72)【発明者】
【氏名】カロリーヌ デミュルジェ
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】Biotechnol. J.,2016年03月,Vol. 11,p. 487-496
【文献】Biotechnol. J.,2016年03月,Vol. 11,p. 487-496
【文献】J. Biosci. Bioeng.,2001年,Vol. 91,p. 71-75
【文献】Biotechnol. Lett.,2001年,Vol. 23,p. 1641-1645
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/00 - 21/08
C12N 5/00 - 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えタンパク質の生産を増加させるための方法であって、前記組換えタンパク質を発現する哺乳類宿主細胞を細胞培養培地中で培養することを含み、培養の開始後5日目に前記培地に有効量の吉草酸を含む少なくとも1つのフィードが補給され、前記培地中に補給された吉草酸の濃度が約1mM~2mMであ
り、
前記哺乳類宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、方法。
【請求項2】
前記組換えタンパク質が、抗体またはそれの抗原結合性断片、例えばヒト抗体またはそれの抗原結合性部分、ヒト化抗体またはそれの抗原結合性部分、キメラ抗体またはそれの抗原結合性部分、組換え融合タンパク質、増殖因子、ホルモン、およびサイトカインから成る群より選択される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記培地中に補給された吉草酸の濃度が約1.5mMである、請求項1
または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞培養の技術分野に属する。特に本発明は、有効量の吉草酸を含むフィードが補足された細胞培地中で組換えタンパク質を発現する宿主細胞を培養し、それにより宿主細胞の生存率と前記タンパク質の生産が、吉草酸を含まないフィードを用いて増殖させた細胞に比較して増加される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この20年間で、バイオ製薬会社は、細胞増殖を促進し組換えタンパク質の生産性を高めることができる化合物を発見することに多大な労力を投じてきた。多数の著者が比生産性に対する小分子添加剤のプラス効果を報告しており、その理由はそれらの剤がしばしば、最も重要な生産段階であるG0期で細胞培養を停止させる[1]からである。中でも、カルボン酸が培養挙動に対して大きな影響を持つ。それらはHDAC1抗体(ヒストンデスアセチラーゼ1)を阻害することが分かっている[2]。しかし、培養液に化学薬品を添加することは、たとえそれが力価を増加させることができても、しばしば品質を低下させることになる。そのような化学薬品は細胞毒性とアポトーシス活性も有する。従って多くのアプローチは、タンパク質に有害でないものを発見するために種々のカルボン酸を比較しそして力価と品質に対するそれらの効果を調査することを目指した。
【0003】
従って、宿主細胞を安全に培養することが可能であり組換えタンパク質の生産を増加させる培養条件と生産方法へのニーズがまだ依然として存在する。本発明は、組換えタンパク質の生産を増加させ、一方で宿主細胞の生存力も向上させる方法および組成物を提供することにより、このニーズに対処する。
【発明の概要】
【0004】
一態様では、本発明は組換えタンパク質の生産を増加させる方法であって、前記方法は、有効量の吉草酸を含む少なくとも1つのフィードが補足された細胞培養培地中で前記タンパク質を発現する宿主細胞を培養することを含む方法を提供する。
【0005】
更なる態様では、本発明は組換えタンパク質を発現する宿主細胞を培養する方法であって、有効量の吉草酸を含む少なくとも1つのフィードが補足された細胞培養培地中で前記宿主細胞を培養することを含む。
【0006】
別の観点では、本発明は有効量の吉草酸を含むフィード組成物を提供する。
【0007】
別の観点では、本発明は、組換えタンパク質の生産を増加させるための細胞培養におけるフィード用サプリメントとしての吉草酸の使用を提供する。
【0008】
更なる観点では、本発明は細胞培養における誘導因子としての吉草酸の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、異なる濃度の吉草酸と異なる培地供給タイミングを用いて培養されたタンパク質P1を発現する宿主細胞についての生存細胞密度(A);生存率(B);および力価(C)を示す。
図1A、1Bおよび1Cの全ての凡例は
図1Dに報告される。
【
図2】
図2は、異なるタイミングで添加される1.5 mM吉草酸を用いて培養された抗体P2を発現する宿主細胞についての生存細胞密度(A);生存率(B);および力価(C)を示す。
図2A、2Bおよび2Cの全ての凡例は
図2Dに報告される。両図面において、VA=吉草酸、WD=作業日(すなわち、その日に細胞培養物に吉草酸が供給される、培養の日)
【0010】
本明細書中に言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全内容が参考として援用される。
【0011】
特に断らない限り、本明細書中で用いる全ての技術用語と科学用語は、本発明の主題が属する技術分野の当業者により普通に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中で用いる場合、本発明の理解を促進するために次の定義が与えられる。用語「含む」とは一般に、包含するという意味で用いられ、すなわち1つ以上の特徴または成分(要素)の存在を許容することを意味する。明細書と請求の範囲で用いる場合も、用語「含む」は、「から成る」および/または「本質的に~から成る」という用語で記載された類似の態様も含みうる。
【0012】
明細書と請求の範囲で用いる場合、単数形「1つの(a,an)」および「その(the)」は、文脈が明らかに異なって指定しない限り、複数の意味も包含する。「Aおよび/またはB」といった表現で用いられる用語「および/または」は、「AおよびB」、「AまたはB」、「A」、および「B」を包含するものである。
【0013】
用語「細胞培養」または「培養」は、生体外(インビトロ)、すなわち生体もしくは組織の外側での細胞の増殖と繁殖を意味する。哺乳類細胞のための適当な培養条件は当業者に既知であり、例えばCell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies (2005) [3]中に教示されている。哺乳類細胞は懸濁培養してもよく、または固相担持体に付着させた状態で培養してもよい。
【0014】
用語「細胞培養培地」「培養培地」、「培地」およびそれらの複数形は、任意のタイプの細胞を培養することができる任意の培地を指す。「基本培地」とは、細胞の代謝に有用である必須成分の全てを含有する細胞培地を指す。これは例えばアミノ酸、脂質、炭素源、ビタミン類、および無機塩類を含む。DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)、RPMI(Roswell Park Memorial Institute Medium)またはF12培地(Ham’s F12培地)が市販の基本培地の例である。あるいは、前記基本培地は、完全に研究室内で開発された適当な培地、これは「規定培地」または「既知組成培地」とも呼ばれる、であることができ、この場合の全ての成分は化学式の形で記載することができ、かつ既知の濃度で存在する。培地はタンパク質不含および/または無血清であることができ、そして培養中の細胞の要求に応じて、任意の追加の化合物(1または複数)、例えばアミノ酸、塩類、糖類、ビタミン類、ホルモン、成長因子等を補足することができる。
【0015】
用語「フィード培地」または「フィード」(およびそれの複数形)は、消費される栄養素を補充するためおよび/または細胞培養中に必要な追加の栄養素および/または追加の化合物を補給するために(例えば細胞増殖や組換えタンパク質生産を増強または改善するため)、培養中に補給する物として用いられる培地(または組成物)を指す。フィード培地は市販のフィード培地または独自のフィード培地であることができる(本明細書中では代わりに既知組成培地ともいう)。特定の追加の化合物、例えば吉草酸を培地に補給しなければならない場合、フィードはこの化合物のみを含むことができ、好ましくは液体形態であることができる。
【0016】
用語「バイオリアクター」または「培養システム」とは、細胞をかん流方式、バッチ方式または流加(フェドバッチ)方式で培養することができる任意のシステムを指す。この用語は、限定されないが、フラスコ、静置フラスコ、スピナーフラスコ、チューブ、振盪チューブ、WAVEバック、バイオリアクター、ファイバーバイオリアクター、流動床バイオリアクター、およびマイクロキャリアー付または無しの攪拌樽型バイオリアクターを包含する。あるいは、用語「培養システム」はマイクロタイタープレート、キャピラリーまたはマルチウェルプレートも含む。任意のサイズのバイオリアクターを使用でき、例えば0.1ミリリットル(0.1 mL、極小スケール)~20000リットル(20000 Lまたは20 KL、大スケール)、例えば0.1 mL、0.5 mL、1 mL、5 mL、0.01 L、0.1 L、1 L、2 L、5 L、10 L、50 L、100 L、500 L、1000 L(1 KL)、2000 L(2 KL)、5000 L(5 KL)、10000 L(10 KL)、15000 L(15 KL)または20000 L(20 KL)を使用できる。
【0017】
用語「流加(フェドバッチ)培養」は、細胞を増殖させる方法であって、消費される栄養素を補充するためのボーラスもしくは連続フィード培地があり、そして/または細胞培養中に要求される追加の栄養素および/または追加の化合物の補給が行われる(例えば細胞増殖および/または組換えタンパク質生産を増強または改善するために)方法を指す。この細胞培養技術は、培地組成、細胞系(セルライン)および他の細胞培養条件に依存して、10×106~30×106細胞/mLより大きいオーダーの高細胞密度を達成する可能性を有する。様々なフィード計画と培地処方により、二段階培養条件を構築でき維持することができる。
【0018】
あるいは、かん流培養を利用することができる。かん流培養は、細胞培養物が新鮮なかん流フィード培地を受け取りながら同時に使用済み培地を除去する培養方式である。かん流は連続型、段階型、断続型またはそれらのいずれか一部または全部の組み合わせであることができる。かん流速度は、一日当たり1処理容量未満から複数の処理容量までであることができる。好ましくは、細胞が培養液中に保持され、取り除かれる使用済み培地が実質的に無細胞であるか、または培養液よりも有意に少ない細胞を有する。かん流は、多数の細胞保持技術、例えば遠心分離、沈降、またはろ過により達成することができる[4]。
【0019】
本発明の方法および/または細胞培養技術を用いる場合、一般に組換えタンパク質は培地中に直接分泌される。前記タンパク質が培地中に分泌されれば、市販のタンパク質濃縮フィルターを用いて、そのような発現系からの上清をすぐに濃縮することができる。
【0020】
本明細書中で用いる時、「細胞密度」とは、一定容積の培地中の細胞の数を指す。「生存細胞密度」は、標準生存率アッセイにより決定されるような、一定容積の培地中の生存細胞の数を指す。細胞密度は、それが対照培養条件(すなわち、吉草酸または他の誘導因子を含まないフィードを用いて培養された細胞)に比較して約-10%~+10%の範囲内であるならば、維持されていると見なされるだろう。
【0021】
用語「生存率」または「細胞生存率」は、培養液中の生存細胞の総数と全細胞の総数との比を指す。生存率は、培養の開始時点に比較して60%未満でない限り許容される(しかしながら、許容される閾値はケースバイケースで決めることができる)。生存率はしばしば採取の時期を決定するために用いられる。例えば、流加培養では、採取は、生存率が60%に達した時または培養14日後に実施することができる。
【0022】
用語「力価」は、溶液中の或る1つの物質、ここでは着目の組換えタンパク質の量または濃度を指す。それは、まだ着目の分子の検出可能量を含有しているように溶液を希釈することができる倍数を示す。それは着目のタンパク質を含むサンプルを連続希釈し(1:2、1:4、1:8、1:16等)、次いで適当な検出法(比色法、クロマトグラフィー法等)を使うことにより、日常的に計算される。ここで各希釈液が検出可能レベルの着目のタンパク質の存在についてアッセイされる。力価は、実施例の項目に用いられるようなforteBIO Octet(登録商標)またはBiacore C(登録商標)による等の手段により、あるいは当業者に記載の他の任意の手段により測定することもできる。
【0023】
用語「より高い力価」または「増加された生産」およびそれと同義の語は、力価が対照培養条件に比較した時に少なくとも10%増加されることを意味する。力価は、対照培養条件に比較して-10%~10%の範囲内であるならば維持されていると見なされるだろう。「低力価」およびそれと同意義の語は、力価が対照培養条件(すなわち、吉草酸または他の任意の誘導因子を含まないフィードを用いて培養された細胞)に比較して少なくとも10%減少されることを意味する。
【0024】
本明細書中で用いられる「タンパク質」という語はペプチドとポリペプチドを包含し、2以上のアミノ酸残基を含む化合物を指す。本発明にかかるタンパクとして質は、限定されないが、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、融合タンパク質、抗体またはその断片が挙げられる。「治療用タンパク質」は、治療法に用いることができるまたは用いられるタンパク質を指す。
【0025】
用語「組換えタンパク質」は、組換え技術により生産されるタンパク質を意味する。組換え技術は当業者の知識の十分範囲内である[5]。
【0026】
用語「抗体」およびその複数形は、特に、ポリクローナル抗体、アフィニティー精製ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、および抗原結合性断片、例えばF(ab’)2、Fabタンパク質分解断片および一本鎖可変性領域断片(scFv)を含む。遺伝子操作された完全抗体またはその断片、例えばキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒトまたは完全にヒトの抗体、scFvおよびFab断片、並びに合成の抗原結合性ペプチドおよびポリペプチドも含まれる。
【0027】
用語「ヒト化」免疫グロブリン(または「ヒト化抗体」)は、ヒトフレームワーク領域と、非ヒト(通常はマウスまたはラット)免疫グロブリンからの1以上のCDRとを含む免疫グロブリンを指す。CDRを提供する非ヒト免疫グロブリンは「ドナー」と呼ばれ、フレームワークを提供するヒト免疫グロブリンは「アクセプター」と呼ばれる(非ヒトCDRsをヒトフレームワークと定常領域上に移植することによる、または完全非ヒト可変領域をヒト定常領域上に組み込むことによるヒト化(キメラ化))。定常領域は存在する必要がないが、もし存在するなら、それらはヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一でなければならず、すなわち少なくとも約85~90%、好ましくは約95%以上同一でなければならない。よって、エフェクター機能の変更が必要な場合には、できる限りCDRsと重鎖定常領域中の少数の残基を除いて、ヒト化免疫グロブリンの全ての部分が天然のヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。抗体をヒト化することにより、生物学的半減期を増加させることができ、ヒトへの投与の際の不利な免疫反応の可能性を減らすことができる。用語「完全にヒト」(または「完全にヒト」の抗体)は、ヒトフレームワーク領域とヒトCDRsの双方を含む免疫グロブリンを指す。定常領域は存在する必要はないが、存在するならば、それらはヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一、すなわち少なくとも約85~90%、好ましくは約95%以上同一でなければならない。よって、エフェクター機能または薬物動態的特性の変更が必要な場合には、重鎖定常領域中のできる限り少数の残基を除いて、完全にヒトの免疫グロブリンの全ての部分が天然のヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。ある場合には、抗体の結合親和性を向上させるためおよび/または免疫原性を低減させるためおよび/または生化学/生物物理学的特性を改善するために、CDRs、フレームワーク領域または定常領域中にアミノ酸変異が導入されてもよい。
【0028】
用語「組換え抗体」(または「組換え免疫グロブリン」)は、組換え技術により生産される抗体を意味する。抗体の発生には組換えDNA技術が関係するため、天然抗体中に見つかるアミノ酸配列に限定して考える必要はない;抗体は所望の性質を獲得するように再編することができる。可能なバリエーションが多数あり、だた1つまたは数個のアミノ酸の変更から、例えば可変ドメインもしくは定常領域の完全な再編にまで及ぶ。定常領域中の変更は、一般に、補体結合(例えば補体依存性細胞障害性、CDC)、Fcレセプターとの相互作用、および他のエフェクター機能(例えば抗体依存性細胞障害性、ADCC)、薬物動態特性(例えば新生児Fcレセプターへの結合;FcRn)といった性質を改善、低減または改変するために行われるだろう。可変ドメイン中の変更は、抗原結合特性を改善するために行われるだろう。抗体に加えて、免疫グロブリンは、様々な他の形態、例えば一本鎖またはFv、Fabおよび(Fab’)2、並びにダイアボディ、直鎖抗体、多価抗体または多特異性ハイブリッド抗体いった形態で存在してもよい。
【0029】
用語「抗体部分」とは、無傷のまたは全長鎖の抗体の断片、通常は結合領域または可変領域を指す。前記部分または断片は、完全鎖/抗体の少なくとも1つの活性を保持するべきであり、すなわち、それらが「機能性部分」または「機能性断片」である。それらは少なくとも1つの活性を維持するとしたら、好ましくは標的結合特性を維持する。抗体部分(または抗体断片)の例としては、非限定的に、「一本鎖Fv」、「一本鎖抗体」、「Fv」または「scFv 」が挙げられる。それらの用語は、重鎖と軽鎖の両鎖からの可変ドメインを含むが、定常領域を欠いており、全てが単一のポリペプチド鎖の中にある抗体断片を指す。一般に、一本鎖抗体は、VHドメインとVLドメインの間にポリペプチドリンカーを更に含み、該リンカーは抗体が抗原結合を可能にするような望ましい構造を形成できるようにする。特定の態様では、一本鎖抗体は二特異性および/またはヒト化抗体であることもできる。
【0030】
「Fab」断片は、1本の軽鎖と、1本の重鎖の可変ドメインおよびCH1ドメインとから構成される。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することはできない。1本の軽鎖と1本の重鎖とを含み、かつ、2本の重鎖の間に鎖間ジスルフィド結合が形成できるようにCH1ドメインとCH2ドメインの間に定常領域の大部分を含む「Fab’断片」は、F(ab’)2分子と呼ばれる。「F(ab’)2」は、2本の軽鎖と、2本の重鎖の間に鎖間ジスルフィド結合が形成されるようにCH1ドメインとCH2ドメインの間に定常領域の一部分を含む2本の重鎖とを含む。幾つかの重要な用語を定義してきたので、本発明の特定の態様に着目することが可能であろう。
【0031】
本発明に従って生産することができる既知の抗体の例としては、限定されないが、以下のものが挙げられる:
アダリムマブ、アレムツズマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、カナキヌマブ、セルトリズマブペゴール、セツキシマブ、デノスマブ、エクリズマブ、ゴリムマブ、インフリキシマブ、ナタリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、ペルツズマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、シルツキシマブ、トリシズマブ、トラスツズマブ、ウステキシヌマブまたはベドリゾマブ。
【0032】
用語「誘導物質」、「誘導因子」または「生産性エンハンサー」は、細胞培養物に添加するとタンパク質生産を増加させる化合物を指す。例えば、E.コリ生産のための既知の誘導因子の1つはIPTG(イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド)であり、CHO生産のための誘導因子は特に酪酸ナトリウム、デオキシシクリンまたはデキサメタゾンがある。
【0033】
用語「被験体」は、哺乳類、例えばヒト、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギまたはラットを含む(がそれに限定されない)ものである。より好ましくは、被験体がヒトである。
【0034】
本発明は、生産期間に渡って細胞生存率の減少を回避しながら組換えタンパク質の生産を増加させる方法と組成物を提供する。本発明は、タンパク質生産、例えば抗体または抗原結合性断片の生産のための細胞培養条件の最適化に基づいており、生産期間に渡って細胞生存率の減少を回避しながら組換えタンパク質の生産の増加をもたらす。
【0035】
本発明者らは、驚くべきことに、培養プロセスの間に吉草酸が補足される培養条件下で、組換えタンパク質の生産が増加され(すなわち力価が増加され)、生産期間にわたり細胞生存率の実質的なもしくは有意な減少が回避されることを発見した。よって、細胞培養生産を実施中に、生産すべき組換えタンパク質の力価を増加させることが望ましい場合、細胞培養液に、吉草酸を含むまたは吉草酸から成る少なくとも1つのフィードを補給することができる。実際、少なくとも1つのフィードにおいて異なる濃度とタイミングで吉草酸が補足される細胞培養は、吉草酸が補足されない同様な細胞培養に比較して、(1)有意に増加した割合のG0/G1期細胞、および(2) 増加した力価を提供した。
【0036】
吉草酸またはペンタン酸は、化学式C5H10O2を有する直鎖アルキルカルボン酸である:
【0037】
【0038】
一態様では、本発明は、組換えタンパク質生産を増加させる方法であって、有効量の吉草酸を含むまたはから成る少なくとも1つのフィードが補足される細胞培養培地中で前記組換えタンパク質を発現する宿主細胞を培養することを含む方法を提供する。ある好ましい態様では、細胞培地には有効量の吉草酸を含む1、2、3または4つのフィードが補給される。別の好ましい態様では、吉草酸を含むまたは吉草酸から成る補足用フィードは、培養の3日もしくは4日目にまたはその辺りに、あるいはそれより1日もしくは2日早くもしくは遅く始めることができる。更に好ましい態様では、吉草酸を含むまたはから成る補足用フィードは、3日および/または4日、および/または5日、および/または6日、および/または7日、まらはそれ以降の日またはその辺りに供給することができる。
【0039】
あるいは、本発明は、組換えタンパク質生産を発現する宿主細胞を培養する方法であって、前記宿主細胞を、有効量の吉草酸を含むまたはから成る少なくとも1つのフィードが補足される細胞培養培地中で培養することを含む方法を提供する。更なる面では、本発明は有効量の吉草酸を含むまたはから成るフィード組成物を提供する。ある好ましい態様では、細胞培地には有効量の吉草酸を含むまたはから成る1、2、3または4つのフィードが補給される。別の好ましい態様では、吉草酸を含むまたは吉草酸から成る補足用フィードは、培養の3日もしくは4日目にまたはその辺りに、あるいはそれより1日もしくは2日早くもしくは遅く始めることができる。更に好ましい態様では、吉草酸を含むまたはから成る補足用フィードは、3日および/または4日、および/または5日、および/または6日、および/または7日、まらはそれ以降の日またはその辺りに供給することができる。
【0040】
更なる態様では、本発明は、組換えタンパク質生産を増加させるための細胞培養におけるフィード用サプリメントとしてのまたはフィード成分としての吉草酸の使用を提供する。
【0041】
別の観点では、本発明は、細胞培養におけるタンパク質産生の誘導因子としての吉草酸の使用を提供する。
【0042】
本発明の状況下では、概して、有効量の吉草酸は、サプリメント(液体形の吉草酸のみから成るフィード)としてまたはフィード成分として(すなわち細胞培養に要求される栄養素と一緒に)細胞培養物(または細胞培養培地)に添加される吉草酸の量であり、これはフィード中に吉草酸を含めずに培養した同様な宿主細胞に比較して検出可能な量の分だけ、宿主細胞中での組換えタンパク質の発現を増加させ、更におそらく細胞生存率も増加させるかまたは少なくとも維持するだろう。吉草酸は培養の開始時点では細胞培養培地中に存在せずかつ添加されない。吉草酸は好ましくは、約0.1 mM~10.0 mM、好ましくは0.5 mM~3.0 mM、より好ましくは約1 mM~2 mM(端点を含む)、例えば1.5 mMの濃度で、サプリメントとしてまたはフィード成分として細胞培養物に添加される。ある態様では、吉草酸の濃度は、例えば約0.5 mM、0.9 mM、1 mM、1.2 mM、1.3 mM、1.4 mM、1.5 mM、1.6 mM、1.7 mM、1.8 mM、1.9 mM、2.0 mM、2.5 mMまたは3.0 mMであることができる(培養システム中の培地中の1回分の吉草酸の濃度)。例えば、限定的でなく、吉草酸の濃度を調整することにより、分泌される組換えタンパク質の生産を改変する(すなわち増加させる)ことができる。
【0043】
本発明の状況下で、概して、吉草酸がサプリメントとしてまたはフィード成分として細胞培養物(または細胞培養培地)に添加されると、吉草酸なしで培養した同様な細胞に比較して、細胞生存率は実質的にまたは有意に減少せず、かつ組換えタンパク質の生産が増加する。
【0044】
本明細書中で用いる時、吉草酸または他の任意の誘導因子なしで培養した細胞に比較して「細胞生存率が実質的にまたは有意に減少しない」という表現は、細胞生存率が対照培養物(すなわち吉草酸または他の誘導因子を含まないフィードを用いて培養された細胞)に比較して約15%より多く減少しないことを意味する。
【0045】
本発明の目的上、細胞培養培地は動物細胞、例えば哺乳類細胞のインビトロ細胞培養法での増殖に適当な培地である。細胞培養培地製剤は当業界で周知である。細胞培養培地には、培養細胞の要求に応じて、追加の成分、例えばアミノ酸、塩類、糖類、ビタミン類、ホルモン、および増殖因子等を補給することができる。好ましくは、細胞培養培地は動物成分不含である;それらは無血清および/またはタンパク不含であることができる。
【0046】
本発明の目的上、概して、細胞培養培地には、流加(フェドバッチ)方式または連続方式で、好ましくは流加方式で、吉草酸が補充される。吉草酸サプリメントの添加は、測定された中間力価に基づくだろう。
【0047】
本発明の一態様では、概して、宿主細胞は好ましくは哺乳類宿主細胞(ここでは哺乳類細胞とも称される)であり、例えば限定されないが、HeLa、Cos、3T3、黒色腫細胞系(例えばNS20、SP2/0)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、例えばCHO-S細胞とCHO-k1細胞を含む。好ましい態様では、宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、例えばCHO-S細胞とCHO-k1細胞である。
【0048】
本発明の状況では一般に、組換え細胞、好ましくは哺乳類細胞は、バイオリアクターのような培養システム中で培養される。バイオリアクターには培地中の生存可能細胞が接種される。培養開始後に、好ましくは細胞が静止期に到達した時に、前記培地に吉草酸が補足される。好ましくは、培地は無血清および/または無タンパクである。生産バイオリアクター中に接種されると、組換え細胞は指数増殖期に入る。静止期(すなわち増殖期)は、吉草酸が補足されたフィード培地または液体形の吉草酸のみから成るフィードのボーラスフィードを使った流加法を用いて維持することができる。補足用ボーラスフィードは、典型的には、細胞がバイオリアクターに接種された後すぐに、細胞培養物が培地供給を必要とすると予測または決定された時点で、開始する。例えば、吉草酸を含むまたはから成る補足用ボーラスフィードは、培養の3,4,5,6または7日目もしくはその辺り、または1日か2日早くもしくは遅く始めることができる。培養物は、増殖段階の間に吉草酸を含むまたはから成る1,2,3またはそれ以上のボーラスフィードを受けてよい。吉草酸による補充は、流加方式および/または連続方式で行うことができる。培地はグルコースのような糖を含むことができ、またはグルコースのような糖により補給されてもよい。前記糖の補給は培養の開始時点に、流加方式でおよび/または連続方式で実施することができる。
【0049】
本発明に係る方法、組成物および使用は、多段階培養法での組換えタンパク質の生産を改善するために用いることができる。多段階法では、細胞は2以上の異なる段階で培養される。例えば、細胞をまず、細胞増殖および生存率を改善する条件下で、1以上の増殖段階において培養し、ついでそれをタンパク質生産を改善する条件下で生産段階(1または複数)に移行させる。多段階培養法では、いくつかの条件:培地組成、pHのシフト、温度のシフト等、を1工程(または1段階)から別の工程にかけて変更してよい。増殖段階は、生産段階におけるよりも高い温度で実施することができる。例えば、増殖段階は生産段階より高い温度にて実施できる。例えば、増殖段階が約35℃~約38℃の第一の温度にて実施され、次に生産段階に向けて約29℃~約37℃、好ましくは約34℃~約36.5℃の第二の温度に温度がシフトされる。細胞培養は、採取前に数日または数週間でも生産段階で維持することが可能である。
【0050】
本発明に使用される細胞系(「組み換え細胞」または「宿主細胞」とも呼ばれる)は、商業的又は科学的に着目されるタンパク質を発現するように遺伝子操作される。着目のポリペプチドを発現するように細胞および/または細胞系を遺伝子操作する方法及びそのためのベクターは、当業者に周知である;例えば、様々な技術がAusubel他(1988および改訂版;[6])またはSambrook他(1989および改訂版;[5])に例示されている。本発明の方法は、着目の組み換えタンパク質を発現する細胞を培養するのに使用できる。通常、組み換えタンパク質は培地中に分泌され、その培地から回収することができる。次いで回収されたタンパク質を、既知の方法と供給業者から入手可能な製品を使用して精製または部分精製することができる。次いで、精製されたタンパク質は医薬組成物として処方することができる。適当な医薬組成物の処方はRemington's Pharmaceutical Sciences(1995および改訂;[7])に記載のものを含む。本発明の状況下では概して、組換えタンパク質が抗体またはその抗原結合性断片、例えばヒト(または完全にヒト)抗体またはその抗原結合性部分、ヒト化抗体またはその抗原結合性部分、融合タンパク質、増殖因子、ホルモン、およびサイトカインからなる群より選択される。
【0051】
当業者は、本願明細書に記載の発明が、具体的に記載されたもの以外の変更と改良を受け入れられることを十分認識するだろう。本発明が、その趣旨または必須の特徴から逸脱することなくそのような変更と改良の全てを包含することを理解すべきである。本発明は、本明細書中に個別にまたは纏めて言及または指摘される工程、特徴、組成物および化合物、並びに前記工程または特徴の任意のもしくは全ての組み合わせまたはいずれか2つ以上の組み合わせの全てを包含する。
【0052】
従って、本開示は、例示される全ての態様において限定するものでないと見なすべきであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲により示され、同等の意味と範囲の中に入る全ての変更がその中に包含されるものである。
【0053】
下記の記載は次の実施例を参照してより十分に理解されるだろう。そのような実施例は、しかしながら、本発明を実施する方法の典型例であり、本発明の範囲を限定するつもりではない。
【実施例】
【0054】
材料と方法
I.細胞、細胞培養および細胞増殖
1) 細胞
【0055】
アッセイを次の2種のCHO細胞系を使って実施した:
・融合タンパク質P1を発現するCHO-S細胞;ここでは「細胞P1」または「P1細胞」と称する。「P1」は、膜タンパク質に対して向けられた第一部分(IgG部分)とそれに連結された可溶性免疫タンパク質を標的とする第二部分とを含む、IgG1融合タンパク質である。それの等電点(pI)は約6.3-7.0である。
・モノクローナル抗体P2を発現するCHO-K1細胞;ここでは「細胞P2」または「P2細胞」と称する。「P2」は、細胞膜上に見つかるレセプターに対して向けられたヒト化モノクローナル抗体である。それの等電点(pI)は約9.20-9.40である。
【0056】
2) 細胞培養
細胞培養は細胞培養に適当な培地中でチューブ内で実施した。流加方式でのアッセイは少なくとも1週間培養後に開始した。
【0057】
3) 接種
P1とP2の両方を発現する細胞を、1ミリリットル(mL)あたり0.2×106個の生存細胞の密度で接種した。
【0058】
4) 流加培養条件
全てのアッセイは流加培養で実施した。宿主細胞をマイクロプレート(「深型ウェルプレート」、「DWP」)またはSpin tube(登録商標)中のいずれかで流加方式で培養し、36.5℃、相対湿度90%、5%CO2および320 rpmで振盪しながら14日間にわたりインキュベートした。
【0059】
吉草酸の原液を標準的な製法有標培地中に調製した。この原液の吉草酸濃度は195 mMであった。原液は、様々な吉草酸濃度を試験するために、培養の開始時から培地に補給するために使用した(0日目;試験濃度:1 mM、1.5 mMおよび2 mM)。その原液はまた、流加培養中の異なる時点で(3日、4日、5日または7日目)培養物に吉草酸を補給するためのフィードのように使用した。該溶液をフィードのように使用する場合、培養物中の標的濃度は常に1.5 mMであった。
【0060】
II.分析方法
生存細胞密度と生存率をGuava easyCyte(登録商標)フローサイトメーターを用いてまたはViCellを用いて測定した。抗体力価はforteBIO Octet(登録商標)またはBiacore C(登録商標)を用いて測定した。
【0061】
結果
a. P1細胞を用いた実験
流加培養のための吉草酸の能力を十分に解明するために、培地中への補給(0時に)または個別にフィード中への補給(異なる時点、すなわち3,4,5または7日目に)を試験した。細胞増殖が有意に影響を受けた。
【0062】
0日目に異なる濃度を使用した。濃度が高くなるほど、最大生存細胞密度が低かった(
図1A)。生存率は対照実験の場合よりも長期間維持されたが、低い細胞密度のために最終力価が改善されなかった(
図1Bおよび1C)。
【0063】
吉草酸を異なるフィード供給日に添加した時、すでに翌日には明確な影響が観測された。対照に比較して、吉草酸を3日目に添加した時は細胞増殖速度が遅くなったが、吉草酸を5日または7日目に添加した時には全体的に維持された(
図1A)。しかしながら
図1Bに示されるように、11日目まで細胞生存率には全く影響を与えなかった。12日目には、培養物の生存能力が対照実験に比較して延長された。
図1Cに示されるように、3日目に吉草酸を添加した時は細胞増殖速度は対照よりも遅く、力価は吉草酸の添加によりプラス効果があった(
図1C)。吉草酸を添加した日がいつであれ、このプラス効果が観察された。例えば、対照に比較して、12日目には、力価の増加が3日目または7日目の吉草酸について約20%であり、そして5日目の吉草酸について約30%であった。細胞の直径も影響を受けるように見え(データは示していない)、それは比生産性と関連していた。細胞がG0/G1状態のまま留まる方を好む場合、それらはエネルギー消費をより多くタンパク質生産の方に向かわせると推定される。
【0064】
本実験では、0日目の培地への吉草酸の添加が、培養工程の生産性を改善しなかったことが明らかに分かる。それに反して、この時点での吉草酸の添加は、細胞密度と力価の両者に対して非常にネガティブな影響を与えた。フィードとしての添加に関して、添加の時期(タイミング)が重要な役割を果たすと思われたので、更に研究を重ねた。
【0065】
b. P2細胞を用いた実験
本実験では、03、04または05日目の培養物への1.5 mM吉草酸の添加を試験した。本実験では、CHO-k1細胞系(P2細胞)を使って、吉草酸がCHO-S細胞(a.に記載のようなP1細胞)に対するのと同様な効果を持つことを確認した。
【0066】
吉草酸を培養中のより早期に添加した時、対照に比較して最大生存細胞密度が減少した(
図2A)。しかしながら、これは対照に比較して細胞生存率に対しては影響が全くなかった(
図2B)。P1細胞を用いた前の実験の場合と同様、生存能力は12日目まで対照に比較して維持され、次いで13日目から対照培養に比較して延長された。この観察結果は、吉草酸添加のタイミングに無関係(非依存)であった。加えて、力価は12日目まで対照と同等であり、次いで13日目から力価は対照に比較して増加し続けた(
図2C)。例えば、17日目には、対照に比較して、力価は3日目または7日目の吉草酸添加の場合約25%増加し、5日目の吉草酸添加の場合約35%増加した。その結果は、細胞がより長期間生産できること、そして培養作業を更に延長できる可能性があること(20日目まで)を示した。この実験では、生産性の向上が17日後に有意になり、吉草酸を使用しない対照培養の場合の0.9 g/Lに対比して、最適条件下でほぼ5 g/Lが得られた(データは示していない)。
【0067】
結論
本発明者らは、0日目の培地への吉草酸の添加が培養プロセスの生産性を向上させなかったことを示した。それに対比して、この時点での吉草酸の添加は細胞密度と力価の両者に対しては非常にネガティブな影響を与えた。しかしながら、驚くべきことに、吉草酸を3日目またはそれ以降にフィードとして添加すると、細胞系や生産すべき分子の如何に関係なく、力価が増加されることが分かった。生存能力が延長されるので、細胞は長期間生産することができ、抗体などのタンパク質の生産レベルを更に大きく増加させることができる。細胞培養培地中への添加すべき吉草酸の正確な濃度は、ケースバイケースで決定されなければならないだろうが、1.5 mMが非常に有望である。この決定は、任意の創意工夫を伴うことなく、本発明の教示に基づいて実施することができる。当業者は、抗体や融合タンパク質といった任意のタンパク質を生産する任意方法において吉草酸を使用することができると理解するだろう。
【0068】
参考文献
[1] M. Butler, “Animal cell cultures : recent achievements and perspectives in the production of biopharmaceuticals,” pp. 283-291, 2005.
[2] G. Bora-tatar, D. Dayangac-erden, A. S. Demir, S. Dalkara, & K. Yelekci, “Bioorganic & Medicinal Chemistry Molecular modifications on carboxylic acid derivatives as potent histone deacetylase inhibitors : Activity and docking studies,” Bioorg. Med. Chem., vol. 17, no. 14, pp. 5219-5228, 2009.
[3] Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies, Sadettin Ozturk, Wei-Shou Hu編, CRC Press (2005)
[4] Voisard他、2003, Biotechnol. Bioeng. 82:751-765
[5] Sambrook他、1989および改訂版, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Laboratory Press
[6] Ausubel他、1988および改訂版, Current Protocols in Molecular Biology, Wiley & Sons編, New York
[7] Remington's Pharmaceutical Sciences, 1995, 18th版, Mack Publishing Company, Easton, PA.