(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】樹脂製シリンジ、プレフィルドシリンジ、および樹脂製シリンジの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 5/31 20060101AFI20220404BHJP
A61J 1/05 20060101ALI20220404BHJP
A61M 5/24 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
A61M5/31 520
A61M5/31 530
A61J1/05 311
A61M5/24 500
(21)【出願番号】P 2019527742
(86)(22)【出願日】2018-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2018025353
(87)【国際公開番号】W WO2019009326
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2017131526
(32)【優先日】2017-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小山 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】榎本 加央里
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-520639(JP,A)
【文献】特開平02-017078(JP,A)
【文献】特開2007-276346(JP,A)
【文献】特開平09-314793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/31
A61J 1/05
A61M 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製シリンジの製造方法であって、
ポリオレフィン製のシリンジ本体を準備し、さらに、前記ポリオレフィンを溶解する溶解成分を含有する揮発性溶媒、塩素化率15~30%の塩素化ポリプロピレン、着色剤およびフィラーを含む成分を有するインクを準備する、準備工程と;
前記シリンジ本体の外表面の少なくとも一部に、前記インクを塗布する、塗布工程と;
塗布された前記インクを乾燥させて、前記外表面に、前記塩素化ポリプロピレン、前記着色剤および前記フィラーを含む成分を有する、印刷層を形成する、乾燥工程と;を有し、
前記塗布工程において、前記溶解成分で前記外表面の少なくとも一部を溶解することにより前記外表面に複数の凹部を形成するとともに、前記複数の凹部のそれぞれを前記インクの成分のうちの少なくとも1種で満たし、前記インクの乾燥により、前記複数の凹部のそれぞれを前記印刷層の成分のうちの少なくとも1種で満たすことを有する、樹脂製シリンジの製造方法。
【請求項2】
前記溶解成分が、ベンゼン環構造と炭化水素の側鎖とを有する芳香族炭化水素であって、前記炭化水素の側鎖の炭素数が2以上である、請求項1に記載の樹脂製シリンジの製造方法。
【請求項3】
前記インクが、トルエンを15~40質量%含む、請求項1または2に記載の樹脂製シリンジの製造方法。
【請求項4】
前記シリンジ本体をオートクレーブ滅菌する、滅菌工程を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂製シリンジの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製シリンジ、プレフィルドシリンジ、および樹脂製シリンジの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレフィラブルシリンジは、薬剤が充填されたプレフィルドシリンジを製造するためのシリンジであり、ガラス製のもの、樹脂製のものがある。樹脂製シリンジは、ガラス製シリンジと比べて軽く、落としても割れず、また寸法精度もよいため、プレフィラブルシリンジとして近年注目を浴びている。樹脂製シリンジは、透明性を確保すべく、環状オレフィン系ポリマー、ポリプロピレン等のポリオレフィンからなるが、これらの樹脂は極性基を持たないため、薬剤の容積を表示するための目盛り、薬剤名、使用期限、ロゴ、ロット番号などを直接印刷して表示することに適していない。また、プレフィラブルシリンジ表面に印刷された印刷層が剥がれてしまうと、薬剤を充填する際に異物として混入する虞も考えられる。それゆえ、樹脂製シリンジとしては、薬剤の容積を表示するための目盛り、薬剤名、使用期限、ロゴ、ロット番号を示すにはラベルを貼付することで対応されてきた(例えば、特許文献1)。一方、病棟等で薬剤などを吸引したり、調剤したりするために使用される使い捨て樹脂製シリンジは、内容量を表示するための目盛りがシリンジ本体の外表面に直接印刷されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、プレフィルドシリンジでは、充填された薬剤によっては、薬剤投与量を厳密に制御しなければならないものがあり、ラベルによる目盛りでは精度に欠けるとの問題があった。このため、シリンジ本体に目盛りなどが印刷された樹脂製のプレフィラブルシリンジが望まれていた。また、目盛りが直接印刷された使い捨て樹脂製シリンジでは、調剤時などにシリンジ本体の外表面を擦って目盛りが消えてしまうことがあった。
【0005】
そこで、本発明はシリンジ本体の外表面に印刷された目盛りなどの印刷層が剥がれ難い樹脂製シリンジの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、ポリオレフィン製のシリンジ本体を準備し、さらに、前記ポリオレフィンを溶解する溶解成分を含有する揮発性溶媒、塩素化率15~30%の塩素化ポリプロピレン、着色剤およびフィラーを含む成分を有するインクを準備する、準備工程と;前記シリンジ本体の外表面の少なくとも一部に、前記インクを塗布する、塗布工程と;塗布された前記インクを乾燥させて、前記外表面に、前記塩素化ポリプロピレン、前記着色剤および前記フィラーを含む成分を有する、印刷層を形成する、乾燥工程と;を有し、前記塗布工程において、前記溶解成分で前記外表面の少なくとも一部を溶解することにより前記外表面に複数の凹部を形成するとともに、前記複数の凹部のそれぞれを前記インクの成分のうちの少なくとも1種で満たし、前記インクの乾燥により、前記複数の凹部のそれぞれを前記印刷層の成分のうちの少なくとも1種で満たすことを有する、樹脂製シリンジの製造方法を提供することによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シリンジ本体に印刷された印刷層が剥離し難い樹脂製シリンジの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るプレフィルドシリンジを示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る樹脂製シリンジ(プレフィラブルシリンジ)を示す図である。
【
図3】
図2の樹脂製シリンジを軸方向に沿って中心で切断した状態を示す断面図である。
【
図4】樹脂製シリンジの拡大図であって、樹脂製シリンジを構成する印刷層の付近を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る樹脂製シリンジの製造方法について示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実験例を構成する実施例1のTEM画像(倍率5000倍)である。
【
図7】実施例1のTEM画像(倍率10000倍)である。
【
図8】比較例1のTEM画像(倍率5000倍)である。
【
図9】比較例1のTEM画像(倍率10000倍)である。
【
図10】実施例1のTEM画像(倍率2000倍)である。
【
図11】比較例1のTEM画像(倍率2000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0010】
[樹脂製シリンジ]
図1~4は、本発明の一実施形態に係るプレフィルドシリンジ1又は樹脂製シリンジ10の説明に供する図である。本発明の実施形態に係るプレフィルドシリンジ1は、
図1を参照して概説すれば、シリンジ本体11を備える樹脂製シリンジ10と、シリンジ本体11の収容空間16に充填された薬剤と、シリンジ本体11の先端開口を封止するキャップ20(封止部材に相当)と、シリンジ本体11の収容空間16に摺動可能に配置されたガスケット30と、プランジャ40と、を備える。なお、プレフィルドシリンジは、シリンジ本体に充填された薬剤を投与するための投与具に組み込まれて使用される場合、カートリッジと呼ばれることもある。
【0011】
本発明の実施形態に係る樹脂製シリンジ10は、
図2を参照して概説すれば、ポリオレフィン製のシリンジ本体11と、シリンジ本体11の外表面17の少なくとも一部に印刷された印刷層18と、を備えた、樹脂製シリンジ10である。印刷層18は、
図4に示すように塩素化率15~30%の塩素化ポリプロピレン、着色剤およびフィラーを含む成分を有し、印刷層18が印刷されている外表面17は、複数の凹部19を有する。複数の凹部19はそれぞれ、50nm以上、1μm未満の深さd1と、50nm以上、1μm未満の幅d2とを有する。複数の凹部19はそれぞれ、印刷層18の成分のうちの少なくとも1種で満たされている。かかる構成であることによって、シリンジ本体に印刷された印刷層18が剥離し難い樹脂製シリンジ10を提供することができる。
【0012】
樹脂製シリンジ10は、
図2、3に示すように、薬剤等の液体を外部に放出するノズル部13を備えたシリンジ本体11と、シリンジ本体11の外表面に設けられた印刷層18と、を有している。本実施形態では、印刷層18が、シリンジ本体11の内容量を示す目盛線となっている。上記のように、充填された薬剤によっては、薬剤投与量を厳密に制御しなければならないものがある。しかし、ラベルで目盛線を表示する場合、ラベルを貼ること自体で目盛線が狙った位置から±1mm程度ずれてしまい、薬剤投与量を厳密に制御できなかった。これに対して、本発明の実施形態によれば、印刷層18がシリンジ本体11の外表面17に直接形成されているため、目盛線が狙った位置からのずれが±0.1mm以内とずれを極めて低減することができる。このため、薬剤投与量を厳密に制御しなければならない注射器に好適である。無論、印刷層18は、薬剤名、使用期限、ロゴ、ロット番号、ガスケット30の停止目標位置や後退許容位置等を表示するものであってもよい。
【0013】
シリンジ本体11は、
図3に示すように、シリンジ本体11の基端に設けられたフランジ12と、シリンジ本体11の先端に設けられたノズル部13と、シリンジ本体11の内部に形成された収容空間16と、を備える。シリンジ本体11は、一例として中空の円筒状に形成している。フランジ12は、シリンジ本体11の基端部の外表面から径方向の外方に突出して形成している。
【0014】
ノズル部13は、先端方向に突出するように設けられている。ノズル部13は、薬剤等の液体を吐出する吐出部14と、吐出部14の外周面を囲むように設けられた取り付け部15と、を備える。ノズル部13は、
図3に示すように二重の筒状として形成され、内側の筒状部が吐出部14、外側の筒状部が取り付け部15にあたる。吐出部14の先端は、開口し、シリンジ本体11の先端開口を構成している。
【0015】
取り付け部15は、図示しない注射針などの他の医療器具を取り付ける部位であり、本実施形態では、シリンジ本体11と一体に構成されている。
図3に示すように取り付け部15の内壁面には、注射針などの他の医療器具の装着部の雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が設けられている。なお、取り付け部15は、シリンジ本体11におけるその他の部位と別部品で構成することもできる。また、取り付け部15は、省略されていてもよい。
【0016】
収容空間16は、シリンジ本体11の円筒形状の径方向内方に設けられた空洞の部分にあたる。この収容空間16に薬剤等を充填し、さらにガスケットを挿入することで、プレフィルドシリンジ1とすることができる。収容空間16は、シリンジ本体11の軸方向に沿ってシリンジ本体11のほぼ全体にわたって形成されている。
【0017】
キャップ20は、
図3に示すように略円柱状の把持部21と、シリンジ本体11の先端開口を封止する封止部22と、を備える。本実施形態では、封止部22が、シリンジ本体11のノズル部13の外周面に嵌合することにより、キャップ20がシリンジ本体11に取り付けられる。また、把持部21は、ノズル部13の取り付け部15よりも先端側に配置され、キャップ20をシリンジ本体11から取り外す際に使用者によって把持される部位である。
【0018】
なお、シリンジ本体および封止部材は、
図1から3に示す構成と異る構成としてもよい。具体的にはシリンジ本体11のノズル部13の代わりに、シリンジ本体11の先端に固定された中空の穿刺針を設ける。そして、ノズル部13に取り付けられたキャップ20の代わりに、シリンジ本体の先端部に装着され、穿刺針を覆うとともに、穿刺針の先端開口部を封止する封止部材を用いてもよい。この場合、穿刺針の先端開口部が、シリンジ本体の先端開口を構成し、穿刺針の先端部が封止部材に刺し込まれることで、穿刺針の先端開口部が封止される。また、キャップ20の代わりに、シリンジ本体のノズル部に取り外し不可に固定された封止部材を用いてもよい。この場合、封止部材が針の付いた医療器具によって穿刺されることにより、収容空間と外部とが連通するようになる。
【0019】
(ポリオレフィン製のシリンジ本体)
本発明のシリンジ本体11は、ポリオレフィン製である。ゆえに、ガラス製シリンジと比べて、軽く、落としても割れず、また寸法精度もよい技術的効果を有する。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、シリンジ本体11を構成するポリオレフィンは、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)またはポリプロピレン(PP)である。これらのポリオレフィンは、透明性、蒸気滅菌性、薬剤非吸着性の点でシリンジ本体11を形成する材料として望ましいが、極性が小さいために印刷された印刷層18との接着力は弱い傾向にある。しかし、シリンジ本体11の凹部19が印刷層18の成分のうちの少なくとも1種で満たされているため、シリンジ本体11に印刷された印刷層18は剥離し難くなっている。
【0021】
シクロオレフィンポリマー(COP)としては、ノルボルネン類あるいはシクロテトラドデセン類等の開環重合可能なシクロオレフィン系のモノマーを開環重合し水素添加した重合体が好適に用いられる。また、シクロオレフィンコポリマー(COC)としては、ノルボルネン類とエチレン等のオレフィン類を原料とする共重合体(ノルボルネン系モノマーとα-オレフィンとの付加共重合体)、テトラシクロドデセン類とエチレン等のオレフィン類を原料とする共重合体が好適に用いられる。
【0022】
シクロオレフィンポリマー(COP)としては、例えば、日本ゼオン株式会社製のゼオネックス(ZEONEX)樹脂を用いることができる。また、シクロオレフィンコポリマー(COC)としては、例えば、三井化学株式会社製のアペル(APEL)樹脂を用いることができる。
【0023】
(印刷層および印刷層が印刷されている外表面)
本発明の実施形態の樹脂製シリンジ10は、
図2に示すようにポリオレフィン製のシリンジ本体11と、シリンジ本体11の外表面17の少なくとも一部に印刷された印刷層18と、を備える。印刷層18は、
図4に示すように塩素化率15~30%の塩素化ポリプロピレン、着色剤およびフィラーを含む成分を有し、印刷層18が印刷されている外表面17は、複数の凹部19を有する。複数の凹部19はそれぞれ、50nm以上、1μm未満の深さd1と、50nm以上、1μm未満の幅d2とを有する。複数の凹部19はそれぞれ、印刷層18の成分のうちの少なくとも1種で満たされている。かかる構成を有することによって、印刷層18と、外表面17との間にアンカー効果が生じ、接着強度が向上する。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、印刷層18が印刷されている外表面17における複数の凹部19は、
図4に示すように深さd1および幅d2が50nm以上、1μm未満のもののみからなる。また、本発明の一実施形態によれば、複数の凹部19がそれぞれ、50~200nmの深さd1と、100~500nmの幅d2とを有する。かかる実施形態であることによって、シリンジ本体11の機械的強度を高めながら、印刷層18と、外表面17との間のアンカー効果を高めることができる。
【0025】
また、シリンジ本体11自体の外表面17は通常、凹部19とみなされる部分を有さず平滑である。よって、本発明の一実施形態によれば、印刷層18が印刷されている外表面17は、当該外表面17に隣接した近傍領域の外表面17よりも深い凹部19を有する。なお、近傍領域とは、印刷層18に隣接している、印刷層18が印刷されていないシリンジ本体11の外表面17における任意の領域である。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、複数の凹部19のそれぞれを満たしている印刷層18の成分のうちの少なくとも1種は、塩素化ポリオレフィンである。シリンジ本体11(基材)であるポリオレフィンとの接着性がよい塩素化ポリオレフィンが凹部19に入り込むことによって、アンカー効果がより高くなる。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、印刷層18は、シリンジ本体11の外表面17に隣接した塩素化ポリプロピレンの隣接ラメラ構造を有している。そして、シリンジ本体11の軸に沿った断面において、塩素化ポリプロピレンの隣接ラメラ構造の軸方向長の合計は、
図4に示す印刷層18の軸方向長d5の10%以下となっている。かかる実施形態によれば、シリンジ本体11の外表面17と印刷層18との接着強度を弱める塩素化ポリプロピレンのラメラ構造が、ごく限られた範囲にのみ存在するため、シリンジ本体11の外表面17と印刷層18との接着強度を高めることができる。なお、印刷層18は、隣接ラメラ構造とは別に、シリンジ本体11の外表面17から離間した位置に、塩素化ポリプロピレンのラメラ構造を有していてもよい。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、印刷層18は、シリンジ本体11の外表面17に沿う方向における印刷層18の外縁から3μm(
図4の長さd3参照)以上離間した本体領域を有し、この本体領域における印刷層18の厚みd4は、1~10μmである。かような範囲であることによって、インクが狙った位置に印刷されていると言え、表示としての精度が良くなる。なお、本体領域における印刷層18の厚みは、2~8μmであることがより好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、印刷層18が印刷されている外表面17と、印刷層18とは、相溶していない。印刷層18が印刷されている外表面17と、印刷層18とが相溶していないことによって、シリンジ本体11の材料の性状・物性が変化していないことになる。このため、相溶によって変化したシリンジ本体11の材料に由来する物質が、シリンジ本体11内の薬剤中に溶け出したり、シリンジ本体11の強度が下がって、シリンジ本体11が割れやすくなったり、高圧蒸気滅菌に耐えられなくなったりすることが抑制される。よって、本発明の一実施形態によれば、印刷層18が印刷されている外表面17と、印刷層18とは明確な界面を有している。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、印刷層18は、ポリオレフィン製のシリンジ本体11の外表面17に、インクが塗布されることにより形成される。そして、当該インクが、ポリオレフィンを溶解する溶解成分を含有する揮発性溶媒、塩素化率15~30%の塩素化ポリプロピレン、着色剤およびフィラーを含む成分を有する。かようなインクを、本明細書では、本発明のインク(あるいは単に「インク」)とも称する。
【0031】
(塩素化ポリプロピレン)
本発明のインクは、塩素化ポリプロピレンを含む。そして、塩素化ポリプロピレンの塩素化率は15~30%である。本発明の一実施形態において、塩素化率は20~29%であることが好ましく、23~28%であることがより好ましく、25~27%であることが好ましい。かような範囲であることによって、本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。また、本発明の一実施形態において、塩素化ポリプロピレンにおけるプロピレンユニット[-CH(CH3)-CH2-]中のHに対して8.3~3.6%の塩素化率である。かような範囲であることによって、より剥離し難い印刷層18を形成することができる。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、塩素化ポリプロピレンは、前記インク中に、好ましくは10~35質量%、より好ましくは13~30質量%、さらに好ましくは16~30質量%含まれる。かような範囲であることによって、より剥離し難い印刷層18を形成することができる。
【0033】
本発明で使用されうる塩素化ポリプロピレンは、従来公知の方法を参照して合成してもよいし、市販品があるならばそれを購入して準備してもよい。
【0034】
(着色剤)
本発明のインクは、着色剤を含む。着色剤の色には特に制限はないが、印刷層には、黒色のインクが用いられることが多い。本発明のインクに用いられうる黒色の着色剤としては、たとえば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、更にマグネタイト、フェライト等の磁性粉等が好適である。その他の色の着色剤は、当該分野で使用可能な公知の着色剤が適用可能である。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、着色剤は、前記インク中に、好ましくは3~15質量%、より好ましくは5~10質量%含まれる。かような範囲であることによって、剥離し難く、かつ、視認し易い印刷層18を形成することできる。
【0036】
(フィラー)
本発明のインクは、フィラーを含む。フィラーを含むことによってインクの分散性が向上し、光沢性を制御することができる。フィラーの種類も特に制限はないが、例えば、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、炭素繊維等の無機フィラーや澱粉、セルロース微粒子、木粉等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等の有機フィラーを含有させてもよい。特に硫酸バリウムは、体質顔料として機能し得、また、塩素化ポリプロピレンの脱塩化水素化反応を防止するための安定剤としても機能し得る。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、フィラーは、前記インク中に、好ましくは15~60質量%、より好ましくは25~45質量%、さらに好ましくは25~35質量%含まれる。かような範囲であることによって、剥離し難く、かつ、色むらの少ない印刷層18を形成することできる。
【0038】
(揮発性溶媒)
本発明のインクは、前記ポリオレフィンを溶解する溶解成分を含有する揮発性溶媒を含む。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、揮発性溶媒として、例えば、トルエン、トリメチルベンゼン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン等が好適である。かかる実施形態によって、揮発性溶媒に塩素化ポリプロピレンを効率よく溶解させることができる。また、トルエンと、トリメチルベンゼンとを組み合わせることで塩素化ポリプロピレンの溶解性をより高めることができる。なお、トリメチルベンゼンは、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,2,3-トリメチルベンゼンおよび1,3,5-トリメチルベンゼンの少なくとも1種である。
【0040】
前記揮発性溶媒は、前記ポリオレフィンを溶解する溶解成分を含む。本発明の一実施形態によれば、前記溶解成分が、ベンゼン環構造と炭化水素の側鎖とを有する芳香族炭化水素であって、前記炭化水素の側鎖の炭素数が2以上である。本発明の一実施形態によれば、当該炭素数は、2~10であることが好ましく、2~5であることがより好ましい。かような範囲であることによって、シリンジ本体11の外表面17にインクを塗布した際に、シリンジ本体11の外表面17に効率よく凹部19を形成することができる。本発明の一実施形態によれば、前記溶解成分としては、p-シメン、エチルベンゼン、クメンが好適であり、特に、p-シメンが好ましい。
【0041】
本発明の一実施形態によれば、揮発性溶媒は、前記インク中に、好ましくは15~40質量%、より好ましくは20~35質量%、さらに好ましくは20~30質量%含まれる(2種類以上の揮発性溶媒が含まれる場合、その合計量である)。また、本発明の一実施形態によれば、前記インクが、トルエンを15~40質量%含むことが好ましく、20~30質量%含むことがより好ましい。トルエンをかような範囲で含むことによって、シリンジ本体11の外表面17にインクを塗布した際の溶媒の揮発速度が適切となり、その結果、印刷層中に塩素化ポリプロピレンのラメラ構造が過剰に形成されることを抑制できる。また、トルエンによってシリンジ本体11を実質的に溶解することなく、印刷層18を形成できるとの技術的効果がある。
【0042】
また、本発明の一実施形態によれば、印刷層18は、14~50質量%の塩素化率15~30%の塩素化ポリプロピレンを含むことが好ましく、18~43質量%の塩素化率15~30%の塩素化ポリプロピレンを含むことがより好ましい。また、本発明の一実施形態によれば、印刷層18は、4~22質量%の着色剤を含むことが好ましく、7~14質量%の着色剤を含むことがより好ましい。また、本発明の一実施形態によれば、印刷層18は、21~86質量%のフィラーを含むことが好ましく、35~64質量%のフィラーを含むことがより好ましい。
【0043】
本発明の一実施形態によれば、シリンジ本体11の外表面17はオートクレーブによる滅菌処理を施している。本発明によれば、シリンジ本体11の凹部19が印刷層18の成分のうちの少なくとも1種で満たされているため、オートクレーブ滅菌されても、印刷層18の剥がれが抑制されるとの技術的効果がある。なお、オートクレーブの方法については後述する。
【0044】
樹脂製シリンジ10は、薬剤が充填される前のシリンジである。薬剤が充填された後は、シリンジ本体11の先端開口を封止するキャップ20と、シリンジ本体11の収容空間16内に摺動可能に配置されたガスケット30とを備えることでプレフィルドシリンジ1となる。よって、プレフィルドシリンジ1は、樹脂製シリンジ10と、樹脂製シリンジ10のシリンジ本体11内に充填された薬剤と、シリンジ本体11の先端開口を封止するキャップ20と、シリンジ本体11内に摺動可能に配置されたガスケット30と、を備える。かようなプレフィルドシリンジ1であれば、ラベルを使用しないのでラベルが剥がれるということは起きず、また薬剤投与量を厳密に制御することができる。
【0045】
また、本発明の実施形態において、前記薬剤は、シリンジ本体11内に投与量よりも多く充填されており、印刷層18は、シリンジ本体11の内容量が前記薬剤の前記投与量と一致する位置に印刷された目盛線である。印刷層18がシリンジ本体11の外表面17に直接形成されているため、目盛線の狙った位置からのずれが非常に小さくなっている。このため、シリンジ本体11内の薬剤量を投与量に合わせるために目盛線までガスケットを前進させた際に、シリンジ本体11内の薬剤量を、確実に投与量に合わせることができる。特に、投与量が0.5mL以下の少量投与の薬剤の場合、目盛線までガスケットを前進させた際のシリンジ本体11内の薬剤量を、より確実に投与量に合わせるため、目盛線の位置の正確さは極めて重要である。
【0046】
[樹脂製シリンジの製造方法]
次に本実施形態に係る樹脂製シリンジ10の製造方法について説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る樹脂製シリンジの製造方法について示すフローチャートである。当該方法では、
図5に示すようにポリオレフィン製のシリンジ本体11を準備する。さらに、前記ポリオレフィンを溶解する溶解成分を含有する揮発性溶媒、塩素化率15~30%の塩素化ポリプロピレン、着色剤およびフィラーを含む成分を有するインクを準備する(準備工程(ST1))。次に、シリンジ本体11の外表面17の少なくとも一部に、前記インクを塗布する(塗布工程(ST2))。次に、塗布されたインクを乾燥させて、外表面17に、前記塩素化ポリプロピレン、前記着色剤および前記フィラーを含む成分を有する、印刷層18を形成する(乾燥工程(ST3))。塗布工程では、前記溶解成分で外表面17の少なくとも一部を溶解することにより外表面17に複数の凹部19を形成するとともに、複数の凹部19のそれぞれを前記インクの成分のうちの少なくとも1種で満たす。そして、前記インクの乾燥により、複数の凹部19のそれぞれを印刷層18の成分のうちの少なくとも1種で満たす。
【0047】
<準備工程>
本発明の樹脂製シリンジ10の製造方法では、ポリオレフィン製のシリンジ本体11を準備する。さらに、前記ポリオレフィンを溶解する溶解成分を含有する揮発性溶媒、塩素化率15~30%の塩素化ポリプロピレン、着色剤およびフィラーを含む成分を有するインクを準備する、準備工程を有する(
図5のST1参照)。
【0048】
ポリオレフィン製のシリンジ本体11は、上記のように市販のものを購入して準備することができる。インクは、上記で説明したインクを構成する成分を適宜混合することによって準備することができる。
【0049】
<塗布工程、乾燥工程>
本発明の樹脂製シリンジの製造方法は、シリンジ本体11の外表面17の少なくとも一部に、前記インクを塗布する、塗布工程を有する(
図5のST2参照)。また、本発明の樹脂製シリンジの製造方法は、前記着色剤および前記フィラーを含む成分を有する、印刷層18を形成する、乾燥工程を有する(
図5のST3参照)。
【0050】
前記塗布工程は、印刷層18を印刷するために十分な量を塗布できればよく、塗布量は、印刷層18の印刷面積に応じて適宜設定可能である。印刷層18が、シリンジ本体11の内容量を示す目盛りである場合、シリンジ本体11の周方向に沿った線状の目盛線となるようにインクを塗布することが好ましい。この目盛線の太さは、0.1~1.0mmが好ましく、0.3~0.6mmがより好ましい。なお、目盛線は、薬剤の投与量を示す標線としてシリンジ本体11の外表面17に1つだけ設けてもよい。また、目盛線は、シリンジ本体11の複数の内容量を示すように間欠的に複数設けてもよい。また、塗布工程における具体的な塗布の方法にも特に制限はなく、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷等を用いることが好適である。
【0051】
また、乾燥工程における乾燥条件にも特に制限はなく、インク中の揮発性溶媒が実質的に揮発する条件であればよいが、例えば、60℃で30分行うことが好ましい。また、ハロゲンランプ等を用いて、より高温で短時間に乾燥させてもよい。
【0052】
本発明の樹脂製シリンジ10の製造方法では、塗布工程において、前記溶解成分で外表面17の少なくとも一部を溶解することにより外表面17に複数の凹部19を形成するとともに、複数の凹部19のそれぞれを前記インクの成分のうちの少なくとも1種で満たす。そして、前記インクの乾燥により、複数の凹部19のそれぞれを印刷層18の成分のうちの少なくとも1種で満たすこととなる。このようにして、
図2~4に示すようにポリオレフィン製のシリンジ本体11の外表面17の少なくとも一部に、印刷層18が印刷された樹脂製シリンジ10を作製することができる。樹脂製シリンジ10において印刷層18は、塩素化率15~30%の塩素化ポリプロピレン、着色剤およびフィラーを含む成分を含む。印刷層18が印刷された外表面17は、複数の凹部19を有する。複数の凹部19はそれぞれ、50nm以上、1μm未満の深さd1と、50nm以上、1μm未満の幅d2とを有する。複数の凹部19はそれぞれ、印刷層18の成分のうちの少なくとも1種で満たされている。
【0053】
また、本発明の一実施形態においては、樹脂製シリンジ10の製造方法が提供される。当該方法では、ポリオレフィン製のシリンジ本体11を準備し、ポリオレフィンを溶解する溶解成分を含有する揮発性溶媒、塩素化率15~30%の塩素化ポリプロピレン、着色剤およびフィラーを含む成分を有するインクを準備する。そして、シリンジ本体11の外表面17に、インクを塗布する。そして、塗布されたインクを乾燥させて外表面17に塩素化ポリプロピレン、着色剤およびフィラーを含む成分を有する印刷層18を形成する。塗布工程では、溶解成分で外表面17の少なくとも一部を溶解することにより、外表面17に複数の凹部19を形成する。そして、複数の凹部19のそれぞれをインクの成分のうち、少なくとも1種で満たす。また、インクの乾燥では、インク成分中の揮発性溶媒を揮発させることにより、複数の凹部19のそれぞれを印刷層18の成分のうち、少なくとも1種で満たす。
【0054】
<オートクレーブ滅菌工程>
本発明の一実施形態において、プレフィラブルシリンジのような薬剤充填用の空のシリンジは、薬剤充填時まで清浄な無菌状態にしておかねばならないため、予め包材内に収納した状態で滅菌処理が施されうる。よって、本発明の一実施形態によれば、シリンジ本体11をオートクレーブ滅菌する、滅菌工程(
図5のST4参照)を有する。
【0055】
本発明の一実施形態によれば、オートクレーブ滅菌は、好ましくは121~125℃、より好ましくは121~123℃で施される。また、本発明の一実施形態によれば、オートクレーブ滅菌は、好ましくは20~120分、より好ましくは20~90分、さらに好ましくは20~60分行われる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の代表的な実施形態を示し、本発明につきさらに説明するが、無論、本発明がこれらの実施形態に限定されるものではない。なお、実施例中において特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定した。
【0057】
<実施例1>
シクロオレフィンポリマー(ゼオネックス(登録商標) 日本ゼオン株式会社製)のシリンジ本体11の外表面17の一カ所に、シリンジ本体11の周方向に環状に連続した線状の目盛線となるようにインクを塗布した。具体的には、シリンジ本体11を軸周りに回転させながら、以下の方法で調製したインクを新栄工業社製の曲面用スクリーン印刷機(SK-250-S型)を用いて塗布した。その後、60℃、30分で乾燥することによって、薬剤の投与量を示す標線を有する樹脂製シリンジ10を作製した。
【0058】
(インクの調製)
トルエン 26部と、
トリメチルベンゼン 6.5部と、
ナフタレン2部と、
カーボンブラック 8部と、
塩素化率26%の塩素化ポリプロピレン 20部(東洋紡社製のハードレン(登録商標)(13-LLP))と、
p-シメン0.5部と、
硫酸バリウム 37部と、
を含む成分を有するインクを、各成分を混合することによって調製した。
【0059】
<比較例1>
インクの調製を以下のようにした以外は、実施例1と同様にして樹脂製シリンジ10を作製した。
【0060】
(インクの調製)
トルエン 29部と、
トリメチルベンゼン 6.5部と、
ナフタレン1.5部と、
メタノール 2部と、
イソブタノール 0.5部と、
カーボンブラック 8部と、
塩素化率22~25%の塩素化ポリエチレン(昭和電工社製のエラスレン(登録商標)(グレード:252B)) 20部と、
硫酸バリウム 32.5部と、
を含む成分を有するインクを、各成分を混合することによって調製した。
【0061】
<評価>
(界面の観察)
実施例1および比較例1で作製された、印刷層18が印刷されている、樹脂製シリンジ10をそれぞれ、白金コートした後、Luft法で樹脂包埋した。その後、シリンジ本体11の軸に沿って超薄切片(シリンジ切片)を作製した。
【0062】
シリンジ切片の外表面を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、明視野で観察した(倍率5000倍、10000倍)。観察したTEM画像を、
図6(実施例1:5000倍)、
図7(実施例1:10000倍)、
図8(比較例1:5000倍)および
図9(比較例1:10000倍)に示す。
図6、7において、印刷層18と、シリンジ本体11の外表面17との界面に、シリンジ本体11に入り込むように複数の凹部19が観察される。また、
図7に示すようにインク成分の少なくとも1種(特に薄い黒色で示されている塩素化ポリオレフィン)が凹部19を満たしていることが分かる。これに対し、
図8、9に示されるように、比較例1では、印刷層18と、シリンジ本体11の外表面17との界面に、凹部19と認識できる箇所がなかった。それは、比較例1で使用したインクには、ポリオレフィンを溶解する溶解成分が含有されていないからと考察される。
【0063】
なお、印刷層18に観測される数百nm程度や微小な白色粒子は、硫酸バリウムであり、また、印刷層18に観測される30~50nm程度の灰色粒子の凝集体は、カーボンブラックである。
【0064】
(元素分布観察)
実施例1のシリンジ切片の元素分布を、エネルギー分散型X線分光法を用いて、観察した。その結果、塩素はシリンジ本体に観察されなかった。塩素は塩素化ポリプロピレン由来のものであるため、つまり、印刷層18が印刷されている外表面17と、印刷層18とは、相溶していないことが示唆される。換言すれば、印刷層18が印刷されている外表面17と、印刷層18とには明瞭な界面が形成されていることが言える。
【0065】
(凹部のサイズの測定)
実施例1のシリンジ切片において無作為に選択した10個の箇所で撮影して得られた画像中で明確に凹部19と認識できたもの全てについて、その最大幅と最大深度とをスケールバーを参照して測定した。その結果、実施例1における凹部19の深さd1と、幅d2(
図4参照)とは、それぞれ、50~150nm、50~200nmの範囲にあった。
【0066】
(印刷層の厚み)
図10および
図11は、それぞれ実施例1および比較例1の、上記と同様に撮影した倍率2000倍のTEM画像である。
図4、10において、実施例1では、印刷層18の外縁18aから3μm(
図4の長さd3参照)離間した部分の印刷層18の厚みd4が、1.5μmであった。また、
図11において、比較例1では、印刷層18の端部(
図11では、端部がさらに左下の方に存在する)から3μm離間した部分でも、印刷層18の厚みd4は、1μm未満であった。
【0067】
(剥離試験)
JIS K5600-5-6:1999(I2409:1992)を参考に剥離試験を行った。具体的には、セロテープ(登録商標)CT-18をシリンジ本体の軸に沿って印刷部分を跨ぐようにして強く圧着させ、テープの端を60°の角度で一気に引き剥がした。その結果、実施例1では、明確な剥離は視認されず、比較例1では、一部剥離したことが視認された。
【0068】
本出願は、2017年7月4日に出願された日本国特許出願第2017-131526号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
【符号の説明】
【0069】
1 プレフィルドシリンジ、
10 樹脂製シリンジ、
11 シリンジ本体、
17 外表面、
18 印刷層、
20 キャップ(封止部材)、
30 ガスケット、
40 プランジャ、
d1 (凹部の)深さ、
d2 (凹部の)幅、
d3 (印刷層の軸方向における外縁からの)長さ、
d4 (印刷層の外縁から長さd3離間した位置での)厚み、
d5 (印刷層の)軸方向長。