(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】標的型ネオエピトープベクター及びそのための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/861 20060101AFI20220404BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20220404BHJP
A61K 36/064 20060101ALI20220404BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220404BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20220404BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220404BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220404BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220404BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20220404BHJP
C12N 15/70 20060101ALI20220404BHJP
C12N 15/74 20060101ALI20220404BHJP
C12N 15/81 20060101ALI20220404BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220404BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220404BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220404BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C12N15/861 Z
A61K35/761 ZNA
A61K36/064
A61K39/00 H
A61K35/74 A
A61K48/00
A61P35/00
A61P37/04
A61K39/39
C12N15/70 Z
C12N15/74 Z
C12N15/81 Z
C12N15/62 Z
C12N1/19
C12N1/21
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2019557605
(86)(22)【出願日】2018-04-23
(86)【国際出願番号】 US2018028889
(87)【国際公開番号】W WO2018200389
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-01-09
(32)【優先日】2017-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518203696
【氏名又は名称】ナントセル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ニアジ,カイヴァン
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/066256(WO,A2)
【文献】国際公開第2016/191545(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N A61K A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え発現構築物を生成する方法であって、
ポリトープをコードする配列を有する第1の組換え核酸を生成するステップであって、
前記ポリトープは、複数のフィルタ処理されたネオエピトープ配列を含み、かつ、前記フィルタ処理されたネオエピトープ配列は、同じ患者の腫瘍と、適合する正常細胞とを比較することによってフィルタ処理され、かつ、200nM以下のMHC複合体に対する結合親和性を有するようにフィルタ処理され、
前記ポリトープは、リサイクリングエンドソーム、ソーティングエンドソーム及びリソソームからなる群から選択される細胞内位置に前記ポリトープを向ける輸送エレメントを更に含み、
前記第1の組換え核酸は、哺乳動物における前記ポリトープの発現を駆動するために、前記ポリトープをコードする前記配列に作動可能に連結されている第1のプロモーターを含む、
ステップと、
前記ポリトープをコードする前記配列を有する第2の組換え核酸を生成するステップであって、
前記第2の組換え核酸は、非哺乳動物細胞における前記ポリトープの発現を駆動するために、前記ポリトープをコードする前記配列に作動可能に連結されている第2のプロモーターを含む、
ステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記第1のプロモーターは、構成的プロモーターであるか、又は前記第1のプロモーターは、低酸素症状態、IFN-ガンマ若しくはIL-8によって誘導可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記輸送エレメントは、CD1bリーダー配列、CD1aテール、CD1cテール及びLAMP1-膜貫通配列からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記フィルタ処理されたネオエピトープ配列は、MHC-IIに結合し、且つ前記輸送エレメントは、前記ポリトープを前記リサイクリングエンドソーム、ソーティングエンドソーム又はリソソームに向ける、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の組換え核酸は、第2のポリトープをコードする追加の配列を更に含み、前記第2のポリトープは、前記第2のポリトープを異なる細胞内位置に向ける第2の輸送エレメントを含み、前記第2のポリトープは、第2の複数のフィルタ処理されたネオエピトープ配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記フィルタ処理されたネオエピトープ配列の少なくとも1つと、前記第2のフィルタ処理されたネオエピトープ配列の少なくとも1つとは同一である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の組換え核酸は、CD80、CD86、CD30、CD40、CD30L、CD40L、ICOS-L、B7-H3、B7-H4、CD70、OX40L、4-1BBL、GITR-L、TIM-3、TIM-4、CD48、CD58、TL1A、ICAM-1及びLFA3からなる群から選択される共刺激分子をコードする配列を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の組換え核酸は、IL-2、IL-12、IL-15、IL-15スーパーアゴニスト(ALT803)、IL-21、IPS1及びLMP1からなる群から選択される免疫刺激サイトカインをコードする配列を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の組換え核酸は、CTLA-4、PD-1、TIM1受容体、2B4又はCD160に対する抗体又はこれらのアンタゴニストからなる群から選択される、チェックポイント阻害に干渉するタンパク質をコードする配列を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の組換え核酸は、細菌細胞又は酵母細胞中で複製されるか、または組換えウイルスの生成のためのシャトルベクターである、
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記組換えウイルスは、欠失されたE1及びE2b遺伝子の少なくとも1つを有するアデノウイルスである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2のプロモーターは、(a)大腸菌(Escherichia coli)細胞における構成的細菌プロモーター又は(b)出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)細胞における酵母プロモーターである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の組換え核酸を細菌細胞又は酵母細胞にトランスフェクトするステップと、
前記ポリトープを前記細菌細胞又は前記酵母細胞中で発現させるステップと、
前記細菌細胞又は前記酵母細胞を注射のための医薬製剤に製剤化するステップと、
を更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の方法により製造される
組換え発現構築物を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年4月24日に出願された同時係属中の米国仮特許出願第62/489,102号明細書に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明の分野は、改善されたネオエピトープベースの免疫療法の組成物及び方法であり、特に、本発明の分野は、癌の治療における組換え核酸治療薬に関する。
【背景技術】
【0003】
背景に関する説明は、本発明を理解する上で有用であり得る情報を含む。本明細書で提供される情報のいずれかが先行技術であるか若しくはここで特許請求される本発明と関連していること、又は具体的若しくは暗示的に参照されるあらゆる刊行物が先行技術であることを認めるものではない。
【0004】
本明細書の全ての刊行物及び特許出願は、個々の刊行物又は特許出願がそれぞれあたかも具体的且つ個々に参照により組み込まれることを指示されているのと同程度に参照により組み込まれる。組み込まれた参考文献における用語の定義又は使用が矛盾しているか、又は本明細書に提供されているその用語の定義に一致しないか若しくはそれに反する場合、本明細書に提供される用語の定義が適用され、参考文献における用語の定義は適用されない。
【0005】
特定の癌に共通する特定の抗原を標的とする癌免疫療法は、一部の患者に注目すべき応答をもたらしている。残念ながら、同じ抗原が明らかに発現しているにもかかわらず、多くの患者は、こうした免疫療法に対して応答しなかった。このような応答しない理由の1つは、免疫系の様々なエフェクター細胞が十分な量で存在しないか又は枯渇している可能性があることが考えられる。更に、患者間の細胞内抗原処理及びHLAの可変性により、抗原の処理及び/又は抗原ディスプレイが不十分となり、治療的に無効となるか、又は応答が乏しい可能性がある。
【0006】
近年、免疫療法のための標的の選択肢を増加させるために、ランダム突然変異が考慮されており、なぜなら、腫瘍細胞中の一部のランダム突然変異は、特有の腫瘍特異的抗原(ネオエピトープ)を生じさせる可能性があるためである。したがって、少なくとも概念上、ネオエピトープは、免疫療法のために独特の正確な標的となり得る。更に、細胞溶解性T細胞応答は、非常に少量のペプチドによって引き起こされ得ることが示されている(例えば、Sykulev et al.,Immunity,Volume 4,Issue 6,p565-571,1 June 1996)。更に、多くの癌における比較的多数の突然変異のため、考えられる標的の数は、比較的多い。これらの知見を考慮して、治療標的としての癌ネオエピトープの同定は、多くの注目を集めている。残念ながら、現在のデータは、全ての又はほぼ全ての癌ネオエピトープが患者及び特定の腫瘍に固有のものであり、いずれのネオエピトープが治療的に有効な免疫療法剤に有用であり得るかなどのいかなる特定の指標を提供することに至っていないことを示唆しているように思われる。
【0007】
多数の可能性のある標的に関連する免疫療法の問題の少なくとも一部を克服するために、ネオエピトープは、突然変異の型について突然変異した遺伝子の転写を確認するため(例えば、ミスセンス又はナンセンス突然変異を解明するために)及びタンパク質発現を確認するために転写レベルについてフィルタ処理を行うことができる。更に、このようにフィルタ処理されたネオエピトープは、国際公開第2016/172722号パンフレットに記載されるように、患者のHLA系への特異的結合について更に解析され得る。このような系では、比較的多数の可能性のあるネオエピトープが有利に減らされるが、治療成果についてのこれらのネオエピトープの重要性は、不確かなままである。更に且つ複数のペプチドが抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)中で発現されることになる場合には特に、ネオエピトープを生成するための前駆体タンパク質の処理は、完全には理解されておらず、したがって治療の成功の予測可能性の欠如の一因となる。
【0008】
免疫療法は、少なくとも2つの概念的に別個のアプローチを用いて実施することができ、第1のアプローチは、DNAワクチン接種に基づくものであり、第2のアプローチは、ウイルスが感染した細胞中で発現される1つ以上の抗原をコードする組換えウイルスの使用に基づくものである。例えば、臨床試験は、プラスミドDNAワクチンが、筋肉内投与されるとき、HIV rev及びenvタンパク質をコードするプラスミドDNAの300mcgの用量でヒトにおいて安全且つ免疫学的に有効であることを示唆している。このようなDNAワクチン接種は、HIV血清陰性患者において、抗原特異的なIFNガンマ分泌性T細胞応答を誘発した(J.Infect.Dis.(2000)181:476-83)。加えて、プラスミドDNA及びアデノウイルスの皮内注射を用いた、前立腺癌を有する患者におけるPSMA(前立腺特異的膜抗原)を標的化する臨床試験の結果が報告されている(Eur.Urol.(2000),38:208 217)。ここでは、26人の患者が、PSMAを発現するアデノウイルスベクター、続いてPSMAをコードするプラスミドDNAによる免疫化を用いたプライム/ブースト法又はプラスミドDNA単独による免疫化のいずれかで免疫化され、有意な毒性は観察されなかった。しかしながら、このようなワクチン接種の特に癌の治療における治療有効性は、このようなアプローチを使用して証明されていない。更に他の例では、米国特許出願公開第2017/0312351号明細書に記載されるように、癌ネオエピトープのアデノウイルス発現が報告されている。このようなアプローチは、患者及び患者の腫瘍に対して高度に特異的であるが、十分な量の、1つ以上のネオエピトープをコードするウイルス粒子の生成は、多大な時間を必要とする。例えば、単回用量の1011のウイルス粒子を生成するためのウイルス産生は、多くの場合、6~8週間、場合により更に長い期間を必要とすることになり、複数回投与が治療効果を引き出すために必要であることが多い。癌の型及び増殖速度によっては、このような産生時間枠は、法外であり得る。加えて、ウイルス発現性タンパク質のみによる免疫刺激は、有効性が低いことが多く、サイトカインなどの追加の治療様式が所望の治療効果を引き出すために頻繁に必要とされる。
【0009】
したがって、ネオエピトープの同定及びネオエピトープの様々な細胞への送達の複数の方法が当該技術分野において既知であるのもかかわらず、それらの全て又はほぼ全ては、様々な不利益、特に有効性及び時間的な制約に関する不利益に直面している。その結果、免疫療法における治療反応の可能性を目的にかなった方法で増加させる、ネオエピトープの選択及び産生のための改善された系及び方法を有することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0010】
本発明の主題は、様々な免疫治療のための組成物及び方法、特に複数のネオエピトープが組み合わされて、抗原処理及び提示を増加させるために及びまた治療有効性を向上させるために、輸送シグナルを用いて合理的に設計されたポリペプチドを形成する組換え発現系を目的とする。更に、本明細書で企図される系及び方法は、著しく短縮された第1のワクチン接種までの期間及び免疫刺激の様々で補完的なモードの両方を提供すると思われる複数の別個のワクチン接種法を利用する。
【0011】
例えば、第1のワクチン接種法が、ポリトープ(典型的には、複数のネオエピトープ及び/又はTAAを含む)をコードするDNAワクチン接種を含む場合、このワクチンは、数日以内で調製することができ、TLR刺激(例えば、TLR9刺激)を提供することになる一方、第2のワクチン接種法は、ポリトープ(典型的には、第1のものと同じポリトープ)をコードする組換え細菌又は酵母ワクチンを含み得、そのため、異なるTRL刺激(例えば、TRL1、TLR2、TLR5など)を提供するであろう。更に別の例では、第1のワクチン接種法は、ポリトープをコードする細菌又は酵母ワクチンを含み得、第2のワクチン接種法は、このポリトープをコードする組換えウイルスを含み得、これが再び別個の(及び典型的には補完的な又は更に相乗的な)自然免疫刺激を提供するであろう。
【0012】
容易に明らかになるように、このような多様式治療法戦略は、DNA、細菌及び酵母ワクチンを、大部分のウイルスワクチンの場合のように数週間かかるのではなく、数日間以内に調製することができるため、第1のワクチン接種をもたらすまでの時間を実質的に短縮するであろう。更に、送達の別個の形態のために、企図されるワクチン組成物及び方法は、異なる様式によってもたらされる別個の免疫刺激効果を利用することになり、したがってプライム/ブーストレジメンでも特に有用であろう。更に、企図される系及び方法は、異なるワクチン様式にわたって実質的に同じポリトープを利用することを認識されたい。換言すれば、潜在的な治療効果を有する抗原が患者に対して決定されると、これらの抗原をコードする組換え核酸がポリトープカセットに組み立てることができ、次いでこれを複数のワクチンプラットフォームに対して使用することができる。
【0013】
本発明の主題の一態様では、本発明者らは、哺乳動物において免疫療法で使用するための組換え発現構築物を生成する方法を企図する。このような方法は、典型的には、ポリトープをコードする配列を有する第1の組換え核酸を生成する工程を含み、このポリトープは、複数のフィルタ処理されたネオエピトープ配列を含み、このポリトープは、リサイクリングエンドソーム、ソーティングエンドソーム及びリソソームからなる群から選択される細胞内位置にポリトープを向ける輸送エレメントを更に含み、第1の組換え核酸は、哺乳動物におけるポリトープの発現を駆動するために、ポリトープをコードする配列に作動可能に連結されている第1のプロモーターを含む。別の工程では、ポリトープをコードする同じ配列を有する第2の組換え核酸が生成され、第2の組換え核酸は、非哺乳動物細胞におけるポリトープの発現を駆動するために、ポリトープをコードする配列に作動可能に連結されている第2のプロモーターを含む。
【0014】
例えば、例示的な実施形態では、第1のプロモーターは、構成的プロモーター又は低酸素症状態、IFN-ガンマ若しくはIL-8によって誘導可能なプロモーターであり得る。更に、輸送エレメントは、CD1bリーダー配列、CD1aテール、CD1cテール又はLAMP1-膜貫通配列であり得る。最も典型的には、フィルタ処理されたネオエピトープ配列は、腫瘍を同じ患者の適合する正常細胞に対して比較することによってフィルタ処理され、且つ/又は200nM以下のMHC複合体に対する結合親和性を有するようにフィルタ処理される。いくつかの態様では、フィルタ処理されたネオエピトープ配列は、MHC-Iに結合すると計算され、輸送エレメントは、ポリトープをリサイクリングエンドソーム、ソーティングエンドソーム又はリソソームに向けるが、他の態様では、フィルタ処理されたネオエピトープ配列は、MHC-IIに結合すると計算され、輸送エレメントは、ポリトープをリサイクリングエンドソーム、ソーティングエンドソーム又はリソソームに向ける。
【0015】
必要に応じて、第1の組換え核酸は、第2のポリトープをコードする追加の配列を更に含み得、この第2のポリトープは、第2のポリトープを異なる細胞内位置に向ける第2の輸送エレメントを含み、第2のポリトープは、第2の複数のフィルタ処理されたネオエピトープ配列を含む。いくつかの実施形態では、フィルタ処理されたネオエピトープ配列の少なくとも1つと、第2のフィルタ処理されたネオエピトープ配列の少なくとも1つとは、同じであり得る。
【0016】
第1の組換え核酸は、共刺激分子、免疫刺激サイトカイン及びチェックポイント阻害に干渉するか若しくはそれをダウンレギュレートするタンパク質の少なくとも1つをコードする配列を更に含むことが更に企図される。例えば、好適な共刺激分子としては、CD80、CD86、CD30、CD40、CD30L、CD40L、ICOS-L、B7-H3、B7-H4、CD70、OX40L、4-1BBL、GITR-L、TIM-3、TIM-4、CD48、CD58、TL1A、ICAM-1及び/又はLFA3が挙げられる一方、好適な免疫刺激サイトカインとしては、IL-2、IL-12、IL-15、IL-15スーパーアゴニスト(ALT803)、IL-21、IPS1及び/又はLMP1が挙げられ、且つ/又は干渉する好適なタンパク質としては、CTLA-4、PD-1、TIM1受容体、2B4及び/若しくはCD160に対する抗体又はこれらのアンタゴニストが挙げられる。
【0017】
本発明の主題に限定するものではないが、第1の組換え核酸は、細菌細胞若しくは酵母細胞中で複製され得、且つ/又は第1の組換え核酸は、組換えウイルス(例えば、任意選択的に、欠失されたE1及びE2b遺伝子の少なくとも1つを有するアデノウイルス)の生成のための発現ベクター又はシャトルベクターであり得る。このような方法は、第1の組換え核酸を注射のための医薬製剤に製剤化する工程も含み得ることも企図される。
【0018】
最も典型的には、第2のプロモーターは、構成的細菌又は酵母プロモーターである。したがって、好適な非哺乳動物細胞としては、大腸菌(E.coli)細胞及び出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)が挙げられる。このような場合、方法は、第2の組換え核酸を細菌細胞又は酵母細胞中にトランスフェクトする追加の工程と、ポリトープを細菌細胞又は酵母細胞中で発現させる追加の工程と、細菌細胞又は酵母細胞を注射のための医薬製剤に製剤化する追加の工程とを含み得る。
【0019】
その結果、本発明者らは、哺乳動物の免疫療法のための組換え細菌又は酵母発現ベクターも企図する。最も好ましくは、このようなベクターは、ポリトープの発現を駆動するために、細菌又は酵母プロモーターに作動可能に連結されているポリトープをコードする配列を有する組換え核酸を含み、このポリトープは、リサイクリングエンドソーム、ソーティングエンドソーム及びリソソームからなる群から選択される哺乳動物免疫コンピテント細胞の細胞内位置にポリトープを向ける輸送エレメントを含み、ポリトープは、複数のフィルタ処理されたネオエピトープ配列を含む。
【0020】
好ましくは、必ずしもそうではないが、プロモーターは、構成的プロモーターである一方、輸送エレメントは、CD1bリーダー配列、CD1aテール、CD1cテール及びLAMP1-膜貫通配列からなる群から選択される。前述したように、フィルタ処理されたネオエピトープ配列は、腫瘍を同じ患者の適合する正常細胞に対して比較することによってフィルタ処理され得、フィルタ処理されたネオエピトープ配列は、MHC-I及び/又はMHC-IIに結合し、輸送エレメントは、ポリトープをリサイクリングエンドソーム、ソーティングエンドソーム又はリソソームに向ける。組換え核酸は、第2のポリトープをコードする追加の配列も含み得ることが更に企図され、この第2のポリトープは、第2のポリトープを異なる細胞内位置に向ける第2の輸送エレメントを含み、第2のポリトープは、第2の複数のフィルタ処理されたネオエピトープ配列を含む。前述したように、フィルタ処理されたネオエピトープ配列の少なくとも1つと、第2のフィルタ処理されたネオエピトープ配列の少なくとも1つとは、同一であり得る。
【0021】
更に企図される態様では、発現ベクターは、細菌発現ベクター又は酵母発現ベクターである。したがって、上で企図されたベクターでトランスフェクトされた組換え酵母細胞及び細菌細胞が特に企図される。これらの細胞は、その後、組換え酵母細胞又は細菌細胞を含む医薬組成物に製剤化され得る。
【0022】
本発明の主題に関する更なる態様では、本発明者らは、腫瘍を有する個体のための第1及び第2の治療用組成物を調製する方法も企図する。このような方法は、典型的には、複数の発現されたネオエピトープ配列を腫瘍のオミックスデータから識別する工程であって、発現されたネオエピトープ配列のそれぞれは、個体のMHC-I及びMHC-IIの少なくとも1つに対する500nM以下の計算された結合親和性を有する、工程と、ポリトープをコードする配列を有する第1の組換え核酸を生成する更なる工程であって、ポリトープは、複数の発現されたネオエピトープ配列を含む、更なる工程とを含むであろう。好ましくは、このポリトープは、リサイクリングエンドソーム、ソーティングエンドソーム及びリソソームからなる群から選択される細胞内位置にポリトープを向ける輸送エレメントを更に含み、第1の組換え核酸は、個体の細胞におけるポリトープの発現を駆動するために、ポリトープをコードする配列に作動可能に連結されている第1のプロモーターを含む。別の工程では、第1の組換え核酸は、DNAワクチン製剤に製剤化されて、それにより第1の治療用組成物を得る。更に別の工程では、ポリトープをコードする配列を含む第2の組換え核酸が生成され、この第2の組換え核酸は、細菌細胞又は酵母細胞におけるポリトープの発現を駆動するために、ポリトープをコードする配列に作動可能に連結されている第2のプロモーターを含み、更なる工程では、細菌細胞又は酵母細胞が第2の組換え核酸でトランスフェクトされ、且つポリトープを細菌細胞又は酵母細胞中で発現させる。更なる工程では、トランスフェクトされた細菌細胞又は酵母細胞は、細胞ベースのワクチン製剤に製剤化されて、それにより第2の治療用組成物を得る。
【0023】
最も典型的には、発現されたネオエピトープ配列は、同じ個体の腫瘍からのオミックスデータ及び非腫瘍試料からのオミックスデータのインクリメンタル同期式アライメントを用いて識別される。第1の組換え核酸が発現ベクターであること、且つ/又は輸送エレメントがCD1bリーダー配列、CD1aテール、CD1cテール又はLAMP1-膜貫通配列であることが更に一般的に好ましい。第2のプロモーターは、好ましくは、構成的細菌又は酵母プロモーターであり、細菌細胞又は酵母細胞は、好ましくは、大腸菌(E.coli)細胞又は出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)である。最も典型的には、細胞ベースのワクチン製剤は、注射のために製剤化される。更に、必要に応じて、このような方法は、ポリトープをコードする配列を含むウイルス発現ベクターである第3の組換え核酸を生成する工程を更に含み得、第3の組換え核酸は、個体の細胞におけるポリトープの発現を駆動するために、ポリトープをコードする配列に作動可能に連結されている第3のプロモーターを含む。
【0024】
本発明の主題に関する更に別の態様では、本発明者らは、腫瘍を有する個体のための第1及び第2の治療用組成物を調製する方法も企図し、本方法は、複数の発現されたネオエピトープ配列を腫瘍のオミックスデータから識別する工程であって、発現されたネオエピトープ配列は、個体のMHC-I及びMHC-IIの少なくとも1つに対する500nM以下の計算された結合親和性を有する、工程と、ポリトープをコードする配列を有する第1の組換え核酸を生成する更なる工程であって、ポリトープは、複数の発現されたネオエピトープ配列を含み、第1の組換え核酸は、ウイルス発現ベクターである、更なる工程とを含む。好ましくは、ポリトープは、リサイクリングエンドソーム、ソーティングエンドソーム及びリソソームからなる群から選択される細胞内位置にポリトープを向ける輸送エレメントを更に含み、第1の組換え核酸は、個体の細胞におけるポリトープの発現を駆動するために、ポリトープをコードする配列に作動可能に連結されている第1のプロモーターを含む。更なる工程では、ウイルス粒子がウイルス発現ベクターから生成され、このウイルス粒子がウイルスワクチン剤に製剤化されて、それにより第1の治療用組成物を得る。このような方法はまた、ポリトープをコードする配列を有する第2の組換え核酸を生成する工程であって、第2の組換え核酸は、非哺乳動物細胞におけるポリトープの発現を駆動するために、ポリトープをコードする配列に作動可能に連結されている第2のプロモーターを含む、工程と、細菌細胞又は酵母細胞を第2の組換え核酸でトランスフェクトし、且つ細菌細胞又は酵母細胞中でポリトープを発現させる更なる工程とを含むであろう。このようにトランスフェクトされた細菌細胞又は酵母細胞は、その後、細胞ベースのワクチン製剤に製剤化されて、それにより第2の治療用組成物を得る。
【0025】
最も典型的には、複数の発現されたネオエピトープ配列は、同じ個体の腫瘍からのオミックスデータ及び非腫瘍試料からのオミックスデータのインクリメンタル同期式アライメントを用いて識別され、且つ/又は輸送エレメントは、CD1bリーダー配列、CD1aテール、CD1cテール又はLAMP1-膜貫通配列である。同様に、第1のプロモーターが構成的プロモーターであること、又は第1のプロモーターが低酸素症状態、IFN-ガンマ若しくはIL-8によって誘導可能なプロモーターであり、且つ/又は第2のプロモーターが構成的細菌若しくは酵素プロモーターであることが好ましい。更に企図される実施形態では、ウイルス発現ベクターは、任意選択的に、欠失されたE1及びE2b遺伝子を有するアデノウイルス発現ベクターである。本発明の主題に限定するものではないが、非哺乳動物細胞又は酵母細胞が大腸菌(E.coli)細胞又は出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)細胞であること、及び/又はウイルスワクチン製剤及び細胞ベースのワクチン製剤の両方が注射のために製剤化されることが一般的に好ましい。
【0026】
本発明の主題の様々な目的、特徴及び利点は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明と共に、同様の数字が同様の構成要素を表す添付の図面からより一層明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、様々なネオエピトープ配置の概略図である。
【
図2】
図2は、ネオエピトープの好ましい配置を選択するための例示的且つ部分的概略図である。
【
図3】先行技術である
図3は、細胞質における抗原処理及びMHC-Iの提示の概略図である。
【
図4】先行技術である
図4は、リソソーム区画及びエンドソーム区画における抗原処理並びにMHC-IIの提示の概略図である。
【
図5】
図5A~5Cは、細胞質におけるクラスI抗原処理及びMHC-Iの提示のための例示的な配列配置である。
【
図6】
図6A~6Cは、細胞質におけるクラスI抗原処理及びMHC-IIの提示のための例示的な配列配置である。
【
図7】
図7A~7Cは、細胞質におけるクラスII抗原処理及びMHC-IIの提示のための例示的な配列配置である。
【
図8】
図8は、B16-F10メラノーマについての例示的な予防ワクチン接種スケジュールである。
【
図9】
図9A~9Cは、ワクチンの皮下注射を用いる抗腫瘍ワクチン接種についての例示的な結果を表示するグラフである。
【
図10】
図10A~10Cは、ワクチンの静脈内注射を用いた抗腫瘍ワクチン接種についての例示的な結果を表示するグラフである。
【
図11-1】
図11A~11Eは、選択されたDNA及びウイルスワクチン組成物並びに選択された投与経路についての例示的な結果を表示するグラフである。
【
図12】
図12は、様々な組成物及び経路によるDNA及びウイルスワクチンを用いた抗腫瘍効果についての例示的な結果を表示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者らは、ここで、腫瘍抗原ベースの免疫療法及び/又はネオエピトープベースの免疫療法における様々な態様が、抗原又はネオエピトープを特異的な処理及び細胞表面提示経路に向かって標的化することによってだけでなく、異なる免疫刺激経路を引き起こすことが好ましい異なるワクチン様式を使用することによっても更に改善され得ることを発見した。
【0029】
したがって、宿主細胞中で腫瘍関連抗原又は腫瘍特異的抗原の発現を引き起こす組換えウイルスに基づくウイルス癌ワクチンに加えて、同じ(及び/又は追加の)抗原がDNAワクチンから発現され得、且つ/又はこれらの抗原を発現するように遺伝子操作を受けている酵母並びに/若しくは細菌細胞中に提供され得る。例えば、プラスミドがDNAワクチン中で使用される場合、遊離DNAに対する自然免疫応答機構(例えば、TLR9-又はSTING-ベースの)は、遊離DNAのインビボ発現に基づく適応免疫応答と共に誘発され得る。別の例では、ウイルス発現ベクターが、ウイルスが患者の細胞に感染するウイルスワクチンの一部として使用される場合、このような感染は、典型的には、異なる自然免疫応答機構(典型的には、TLR2、TLR4、TLR7、TLR8、TLR9)を誘発するであろう。更に別の例では、細菌又は酵母が抗原をその中で発現している細菌又は酵母ワクチンが使用される場合、このようなワクチンのワクチン接種は、別個の自然免疫応答機構(典型的には、細菌ではTLR1-3、酵母ではTLR1-4)をもう一度誘発するであろう。容易に理解されるように、様々な異なる自然免疫応答機構の誘発は、ワクチン組成物の補完的又は更に相乗的な増強を提供し得る。
【0030】
したがって、本明細書に提示される組成物及び方法は、好ましくは、少なくとも2つの異なるワクチン様式を含むことを理解されたい。例えば、第1の様式は、DNAワクチン、タンパク質ワクチン、細菌ワクチン、酵母ワクチン及びウイルスワクチンからなる群から選択される様式であり得る一方、第2の/後続の様式は、同一の群から選択される別の異なる様式であり得る。最も好ましくは、様式のいずれかに存在する抗原は、繰り返された抗原チャレンジ時のプライム/ブースト効果を活用するために重複するか又は同一であろう。
【0031】
加えて、複数の別個の自然免疫応答経路を誘発させる利点を超えて、企図された組成物及び方法は、患者の腫瘍関連抗原が特定された時点に関して患者が同定された場合、治療の迅速な開始も可能にすることを認識されたい。実際には、DNAワクチンは、関連抗原に基づいて数日以内、典型的には1週間未満、更に4日間未満又は更に48時間未満で調製され得ることを認識されたい。更に、細菌又は酵母ワクチンも、(同一の)抗原を使用して、数日以内、典型的には2週間未満、より典型的には1週間未満で調製され得る。同時に、ウイルスワクチンは、患者が既に第1のワクチン(例えば、DNAワクチン、細菌ワクチン及び/又は酵母ワクチン)を受けた時点で調製することができる。
【0032】
別の観点から見ると、本明細書に提示された組成物及び方法は、標的治療を可能にするために、患者及び患者の腫瘍に特異的である1つ以上の腫瘍関連抗原、腫瘍特異的抗原及び/又はネオエピトープを含むことを理解されたい。更に、このような治療は、自然免疫応答、CD4+偏向免疫応答、CD8+偏向免疫応答、抗体偏向免疫応答及び/又は刺激型免疫応答(例えば、チェックポイント阻害を低減すること及び/又はサイトカインを用いて免疫コンピテント細胞の活性化による)を含む、1つ以上の特異的免疫応答を達成するように好都合に調整することができる。最も典型的には、このような効果は、1つ以上の別個の様式で(例えば、組換えプラスミドとして及び組換えウイルスとして)、1つ以上の経路を介して投与され得る組換え核酸に由来するネオエピトープにおいて達成される。
【0033】
抗原
好適な治療用抗原に関して、様々な抗原が本明細書での使用に好適であると考えられることが企図される。しかしながら、特に好ましい抗原としては、腫瘍関連抗原(例えば、CEA、MUC1、ブラキウリ)、腫瘍特異的抗原(例えば、HER2、PSA、PSMAなど)及び特に腫瘍及び患者特異的抗原(すなわちネオエピトープ)が挙げられる。ネオエピトープは、固有の腫瘍特異的抗原が作り出している腫瘍細胞において発現したランダム突然変異として特徴付けることができる。したがって、異なる観点から見ると、ネオエピトープは、突然変異の型(例えば、欠失、挿入、塩基転換、塩基転位、転座)及び突然変異の影響(例えば、ナンセンス、ミスセンス、フレームシフトなど)を考慮することによって特定され得、そのため、これらは、サイレント突然変異及び他の無関係な(例えば、非発現)突然変異が排除されるコンテンツフィルタとして機能することができる。ネオエピトープ配列が比較的短い長さの(例えば、8~12mer又は14~20mer)の配列ストレッチとして定義することができ、このようなストレッチがアミノ酸配列中に変化を含むであろうことも理解されたい。最も典型的には、必ずしもそうではないが、変化したアミノ酸は、中央のアミノ酸位置に又はその近くにあるであろう。例えば、典型的なネオエピトープは、A4-N―A4、又はA3-N―A5、又はA2-N―A7、又はA5-N―A3、又はA7-N―A2の構造を有し得、式中、Aは、タンパク質を構成する野生型アミノ酸又は正常な(すなわち同じ患者の対応する健康な組織に由来する)アミノ酸であり、Nは、変化したアミノ酸(野生型に対して又は適合した正常型に対して)である。したがって、本明細書で企図されるネオエピトープ配列は、比較的短い長さ(例えば、5~30mer、より典型的には8~12mer又は14~20mer)を有する配列ストレッチを含み、このような伸長物は、アミノ酸配列中の変化を含む。必要に応じて、例えば細胞の様々な区画における追加の抗原処理(例えば、細胞質ゾルにおけるプロテアソーム処理又はエンドソーム区画及び/若しくはリソソーム区画における特異的プロテアーゼ処理)を可能にするために、追加のアミノ酸は、変化したアミノ酸の上流又は下流に配置され得る。
【0034】
したがって、単一のアミノ酸変化は、変化したアミノ酸の位置に応じて、変化したアミノ酸を含む多数のネオエピトープ配列中に存在し得ることを理解されたい。有利には、このような配列変動は、ネオエピトープの複数の選択肢を可能にし、したがって1つ以上の所望の形質(例えば、患者のHLA型に対する最高の親和性、最高の構造安定性など)に基づいてその後選択することができる潜在的に有用な標的の数を増加させる。最も典型的には、ネオエピトープは、変化したアミノ酸が好ましくは中央に位置するか、又はそのMHCに対する結合を改善する別の方法で位置している状態で2~50個のアミノ酸、より典型的には5~30個のアミノ酸、最も典型的には8~12個のアミノ酸又は14~20個のアミノ酸の長さを有すると計算されるであろう。例えば、エピトープがMHC-I複合体によって提示される場合、典型的なネオエピトープの長さは、約8~12個のアミノ酸であろうが、MHC-II複合体を介しての提示のための典型的なネオエピトープの長さは、約14~20個のアミノ酸の長さを有するであろう。容易に理解されるように、ネオエピトープにおける変化したアミノ酸の位置が中央以外であり得るため、実際のペプチド配列及びそれに伴うネオエピトープの実際のトポロジーは、かなり変化することがあり、MHC-I若しくはMHC-II提示及び/又は所望のプロテアーゼ処理に対する所望の結合親和性を有するネオエピトープ配列は、典型的には、特定の配列を必要とするであろう。
【0035】
当然のことながら、ネオエピトープの同定又は発見は、新鮮な生検、凍結した又は別の方法で保存した組織又は細胞試料、血中循環腫瘍細胞、エクソソーム、様々な体液(及び特に血液)などを含む様々な生体材料で開始できることを理解されたい。したがって、オミックス解析の好適な方法としては、核酸シーケンシング及び特にDNAに対して操作するNGS法(例えば、Illuminaシーケンシング、イオントレント(ion torrent)シーケンシング、454パイロシーケンシング(pyrosequencing)、ナノポアシーケンシングなど)RNAシーケンシング(例えば、RNAseq、逆転写ベースのシーケンシングなど)及び場合によりタンパク質シーケンシング又は質量分析ベースのシーケンシング(例えば、SRM、MRM、CRMなど)が挙げられる。
【0036】
したがって、特に核酸ベースのシーケンシングについて、腫瘍組織のハイスループットゲノムシーケンシングがネオエピトープの迅速な同定を可能にすることを特に認識されたい。しかしながら、このように得られた配列情報が標準物質に対して比較される場合、通常患者内に生じる変異(例えば、SNP、短いインデル(indel)、異なるリピート数などに起因する)並びにヘテロ接合性が比較的多数の潜在的な擬陽性ネオエピトープをもたらすことを理解されたい。とりわけ、このような不正確さは、患者の腫瘍試料が同じ患者の適合する正常な(すなわち非腫瘍)試料に対して比較される場合に排除され得る。
【0037】
本発明の主題の特に好ましい一態様では、DNA解析は、腫瘍及び適合した正常な試料の両方の全ゲノムシーケンシング及び/又はエクソームシーケンシング(典型的には、少なくとも10倍、より典型的には少なくとも20倍のカバレッジ深度での)によって実施される。或いは、DNAデータは、同じ患者の以前の配列決定からの既に確立された配列記録(例えば、SAM、BAM、FASTA、FASTQ又はVCFファイル)からも提供され得る。したがって、本明細書で使用するのに好適なデータセットは、未処理の又は処理されたデータセットを含み、例示的な好ましいデータセットとしては、BAMフォーマット、SAMフォーマット、GARフォーマット、FASTQフォーマット又はFASTAフォーマットを有するもの並びにBAMBAM、SAMBAM及びVCFデータセットが挙げられる。しかしながら、米国特許出願公開第2012/0059670A1号明細書及び米国特許出願公開第2012/0066001A1号明細書に記載されるように、データセットがBAMフォーマットで又はBAMBAM diffオブジェクトとして提供されることが特に好ましい。更に、データセットは、同じ患者の腫瘍及び適合する正常な試料を反映していることに留意されたい。したがって、腫瘍を引き起こさない遺伝的生殖系列の改変(例えば、サイレント突然変異、SNPなど)は、除外され得る。当然のことながら、腫瘍試料は、初期腫瘍、治療の開始時の腫瘍、再発性腫瘍及び/又は転移部位などに由来し得ることを認識されたい。ほとんどの場合、患者の適合した正常な試料は、血液であるか、又は腫瘍と同じ組織型からの非罹患組織である。
【0038】
同様に、配列データのコンピュータ解析を多くの方法で実施し得る。しかしながら、最も好ましい方法では、解析は、例えば、BAMファイル及びBAMサーバを使用して、米国特許出願公開第2012/0059670号明細書及び米国特許出願公開第2012/0066001号明細書に記載されるように、腫瘍及び正常試料のインクリメンタル位置ガイド型同期式アライメントにより、インシリコ(in silico)で実施される。このような解析は、擬陽性ネオエピトープを有利に低減し、メモリ及び計算リソースに対する要求を大幅に削減する。
【0039】
いかなるコンピュータ向け言語も、サーバ、インターフェース、系、データベース、エージェント、ピア、エンジン、コントローラ又は個別若しくは集合的に動作する他の種類のコンピューティングデバイスを含むコンピューティングデバイスの任意の好適な組み合わせを含めるために読み取られるべきであることを留意されたい。コンピューティングデバイスは、有形の一時的でないコンピュータ可読記録媒体(例えば、ハードドライブ、ソリッドステートドライブ、RAM、フラッシュ、ROMなど)に格納されたソフトウェア命令を実行するように構成されたプロセッサを含むことを理解されたい。ソフトウェア命令は、好ましくは、コンピューティングデバイスが、開示された装置に関して以下に論じる役割、責任又は他の機能を提供するように構成される。更に、開示された技術は、プロセッサに、コンピュータベースのアルゴリズム、プロセス、方法又は他の命令の実施に関連する開示された工程を実行させる、ソフトウェア命令を格納する非一時的コンピュータ可読媒体を含むコンピュータプログラム製品として具体化することができる。特に好ましい実施形態では、様々なサーバ、系、データベース又はインターフェースは、可能な場合、HTTP、HTTPS、AES、公開鍵と秘密鍵との交換、ウェブサービスAPI、既知の金融取引プロトコル又は他の電子情報交換法に基づいて、標準化されたプロトコル又はアルゴリズムを用いてデータを交換する。デバイス間のデータ交換は、パケット交換ネットワーク、インターネット、LAN、WAN、VPN又は他の種類のパケット交換ネットワーク、回路交換網、セル交換網又は他の種類のネットワーク上で実行することができる。
【0040】
異なる観点から見ると、所定の長さ、例えば5~25個のアミノ酸を有し、且つ少なくとも1つの変化したアミノ酸を含むネオエピトープをコードする配列の患者特異的及び癌特異的インシリココレクションを確立することができる。このようなコレクションは、典型的には、それぞれの変化したアミノ酸に対して、変化したアミノ酸の位置が同一ではない少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は少なくとも6つのメンバーを含む。このようなコレクションは、免疫療法に好適な有力な候補分子を有利に増加させ、次いで以下により詳細に記載されるように更なるフィルタ処理(例えば、細胞内位置、転写/発現レベル、MHC-I及び/又はII親和性などによる)に使用することができる。当然のことながら、これらのネオエピトープ配列は、ネオエピトープをコードする核酸配列を生成するために、対応する核酸配列中に容易に逆翻訳できることを理解されたい。最も典型的には、必ずしもそうではないが、このような逆翻訳は、この核酸が発現されている生物の適切なコドン使用頻度を考慮に入れるであろう。
【0041】
一例として且つ腫瘍及び適合した正常配列データに対する同期式位置ガイド型解析を用いて、本発明者らは、以前に、次の癌の種類:BLCA、BRCA、CESC、COAD、DLBC、GBM、HNSC、KICH、KIRC、KIRP、LAML、LGG、LIHC、LUAD、LUSC、OV、PRAD、READ、SARC、SKCM、STAD、THCA及びUCECを含む様々な癌及び患者から様々な癌ネオエピトープを同定した。これらの癌に関する例示的なネオエピトープデータは、参照により本明細書に組み込まれる国際出願第2016/172722号パンフレットに見出すことができる。
【0042】
癌の種類及び病期並びに患者の免疫状態に応じて、同定されたネオエピトープの全てが患者における治療的に等しい有効な反応に必ずしもつながるわけではないことを認識されたい。実際に、ネオエピトープのごく一部のみが免疫応答を生じさせることが当該技術分野において既知である。治療的に望ましい応答の可能性を増加させるために、初めに同定されたネオエピトープを更にフィルタ処理することができる。当然のことながら、下流解析は、本明細書に提示される方法の目的のために、サイレント突然変異を考慮に入れる必要がないことを理解されたい。しかしながら、好ましい突然変異解析はまた、特定の種類の突然変異(例えば、欠失、挿入、塩基転換、塩基転位、転座)に加えて、突然変異の影響(例えば、ナンセンス、ミスセンスなど)の情報をもたらし、したがってサイレント突然変異が排除される第1のコンテンツフィルタとして機能することができる。例えば、ネオエピトープは、突然変異がフレームシフト、ナンセンス及び/又はミスセンス突然変異である場合の更なる考慮について選択することができる。
【0043】
更なるフィルタ処理アプローチにおいて、ネオエピトープは、細胞内位置パラメータについての詳細な解析の対象にもされ得る。例えば、ネオエピトープ配列は、ネオエピトープが膜結合位置を有する(例えば、細胞の細胞膜の外側に位置している)ものとして同定され、且つ/又はインシリコ構造計算が、ネオエピトープが溶媒に曝される可能性が高いこと、又は構造的に安定なエピトープを提示すること(例えば、J Exp Med 2014)などを確認するかの更なる考慮について選択され得る。
【0044】
ネオエピトープのフィルタ処理に関して、オミックス(又は他の)解析はが、ネオエピトープが実際に発現されることを明らかにする本明細書での使用にネオエピトープが特に好適であることを一般的に企図する。ネオエピトープの発現及び発現レベルの同定は、当該技術分野において既知の全ての方法で実施することができ、好ましい方法としては、定量的RNA(hnRNA又はmRNA)解析及び/又は定量的プロテオミクス解析が挙げられる。最も典型的には、ネオエピトープの組み入れの閾値レベルは、対応する適合した正常配列の発現レベルの少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%又は少なくとも50%の発現レベルであり、したがって(ネオ)エピトープが少なくとも免疫系にとって「認識できる」可能性があることを確実にしている。その結果、オミックス解析は、突然変異を有する遺伝子についての発現レベルを特定することを促進するために遺伝子発現の解析(トランスクリプトーム解析)も含むことが一般的に好ましい。
【0045】
当該技術分野において既知のトランスクリプトーム解析の多くの方法があり、既知の方法の全てが本明細書で使用するのに好適であると考えられる。例えば、好ましい材料としては、mRNA及び一次転写物(hnRNA)が挙げられ、RNA配列情報は、同じ患者の腫瘍試料及び適合した正常(健康な)試料から順番に得られる、逆転写されたポリA+-RNAから得ることができる。同様に、ポリA+-RNAは、トランスクリプトームの代表として典型的に好ましいが、RNAの他の形態(hn-RNA、非ポリアデニル化RNA、siRNA、miRNAなど)も本明細書で使用するのに好適と考えられることに留意されたい。好ましい方法としては、定量的RNA(hnRNA又はmRNA)解析及び/又は定量的プロテオミクス解析が挙げられ、特にRNAseqが挙げられる。他の態様では、RNAの定量化及びシーケンシングは、RNAseq、qPCR及び/又はrtPCRベースの方法を用いて実施されるが、様々な代替法(例えば、固相ハイブリダイゼーションベースの方法)も好適と見なされる。別の観点から見ると、トランスクリプトーム解析は、癌特異的及び患者特異的突然変異を有する遺伝子を同定及び定量化するために(単独で又はゲノム解析と組み合わせて)好適であり得る。
【0046】
同様に、プロテオミクス解析は、ネオエピトープのRNAの実際の翻訳を確認するために多数の方法で実施することができ、プロテオミクス解析の全ての既知の方法が本明細書において企図される。しかしながら、特に好ましいプロテオミクス法としては、抗体ベースの方法及び質量分析法が挙げられる。更に、プロテオミクス解析は、タンパク質自体についての定性的又は定量的情報を提供し得るのみならず、タンパク質が触媒又は他の機能活性を有する場合のタンパク質活性も含み得ることに留意されたい。タンパク質アッセイを実行するための1つの例示的な技術は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7473532号明細書に記載されている。タンパク質発現の同定及び更に定量化の更に好適な方法としては、様々な質量分析(例えば、選択反応モニタリング(SRM)、多重反応モニタリング(MRM)及び連続反応モニタリング(CRM))が挙げられる。結果として、上記方法は、患者及び腫瘍に特異的なネオエピトープを提供し、これらがネオエピトープを含有するタンパク質の細胞内位置(例えば、膜の位置)、発現強度(例えば、同じ患者の適合する正常細胞と比較して過剰発現された)などによって更にフィルタ処理され得ることを理解されたい。
【0047】
フィルタ処理の更に別の態様では、ネオエピトープは、既知のヒト配列(例えば、患者又は患者のコレクションの)を含有するデータベースに対して比較し、それによりヒトと同一の配列の使用を回避することができる。更に、フィルタ処理は、SNPが腫瘍及び適合した正常配列の両方に存在する場合の患者におけるSNPに起因するネオエピトープ配列の除去も含み得る。例えば、dbSNP(一塩基多型データベース)は、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)と共同で開発及び運営している、様々な生物種内の遺伝的多様体についての無料の公開アーカイブである。データベースの名称は、多型の1つのクラス(一塩基多型(SNP))のみのコレクションを意味するが、これは、実際には、(1)SNP、(2)短い欠失及び挿入多型(インデル/DIP)、(3)マイクロサテライトマーカー又は短いタンデムリピート(STR)、(4)多塩基多型(MNP)、(5)ヘテロ接合配列、及び(6)名前が付けられた多様体の広い範囲の分子多様体を含む。dbSNPは、実際には、中性の多型、既知の表現型に対応する多型及び突然変異のない領域を受け入れる。このようなデータベース及び上述した他のフィルタ処理選択肢を用いて、患者及び腫瘍に特異的なネオエピトープをフィルタ処理して、それらの既知の配列のものを除去し、実質的に低減された擬陽性を有する複数のネオエピトープ配列を備えた配列セットを得ることができる。
【0048】
ネオエピトープに対する所望のレベルのフィルタ処理を達成すると(例えば、腫瘍対正常、及び/又は発現レベル、及び/又は細胞内位置、及び/又は患者に特異的なHLA-適合、及び/又は既知の多様体によりフィルタ処理されたネオエピトープ)、ネオエピトープにより影響を受ける遺伝子型を考慮に入れる更なるフィルタ処理工程が企図される。例えば、好適な遺伝子型としては、癌ドライバー遺伝子、細胞分裂の調節に関連する遺伝子、アポトーシスに関連する遺伝子及びシグナル伝達に関連する遺伝子が挙げられる。しかしながら、特に好ましい態様では、癌ドライバー遺伝子が特に好ましい(これは、受容体遺伝子、シグナル伝達遺伝子、転写調節遺伝子などを含む様々な遺伝子型の機能まで及び得る)。更に企図される態様では、好適な遺伝子型は、既知のパッセンジャー遺伝子及び代謝に関与する遺伝子であり得る。
【0049】
遺伝子が癌ドライバー遺伝子であることの同定又は他の決定(例えば、予測)に関して、様々な方法及び予測アルゴリズムが当該技術分野において既知であり、本明細書で使用するために好適であると考えられる。例えば、好適なアルゴリズムとしては、MutsigCV(Nature 2014,505(7484):495‐501)、ActiveDriver(Mol Syst Biol 2013,9:637)、MuSiC(Genome Res 2012,22(8):1589‐1598)、OncodriveClust(Bioinformatics 2013,29(18):2238‐2244)、OncodriveFM(Nucleic Acids Res 2012,40(21):e169)、OncodriveFML(Genome Biol 2016,17(1):128)、Tumor Suppressor and Oncogenes(TUSON)(Cell 2013,155(4):948-962)、20/20+(https://github.com/KarchinLab/2020plus)及びoncodriveROLE(Bioinformatics(2014)30(17):i549-i555)が挙げられる。代替的に又は追加的に、癌ドライバー遺伝子の同定は、既知の癌ドライバー遺伝子と特定の癌とのそれらの関連についての様々なソースも使用し得る。例えば、ドライバー突然変異のIntogenカタログ(2016.5;URL:www.intogen.org)は、28種の腫瘍型の汎癌コホートの6,792個のエクソームに対してCancer Genome Interpreterによって実施されたドライバー解析の結果を含む。
【0050】
それでも、フィルタ処理にもかかわらず、全てのネオエピトープがネオエピトープとして免疫系にとって認識できるわけではなく、より大きい枠組み内に存在する場合(例えば、ポリトープ内において)及び患者のMHC複合体上で存在する場合に処理される必要があることを認識されたい。そのような状況では、全てのネオエピトープのごく一部のみが提示に対して十分な親和性を有することを理解されたい。その結果、特に免疫療法の面において、ネオエピトープが適切に処理され、MHC複合体に結合され、MHC複合体によって提示される場合、ネオエピトープは、より効果的である可能性が高いことが明らかなはずである。別の観点から見ると、治療の成功は、MHC複合体を介して提示され得るネオエピトープの数が増加するにつれて増加することになり、このようなエピトープは、患者のHLA型に最小の親和性を有する。その結果、効果的な結合及び提示は、ネオエピトープの配列と患者の特定のHLA型との結合機能であることを理解されたい。したがって、患者の組織のHLA型の決定が典型的に必要とされる。最も典型的には、HLA型の決定は、少なくとも3つのMHC-Iサブタイプ(例えば、HLA-A、HLA-B、HLA-C)及び少なくとも3つのMHC-IIサブタイプ(例えば、HLA-DP、HLA-DQ、HLA-DR)を含み、好ましくは、各サブタイプは、少なくとも2桁又は少なくとも4桁の深度まで決定される。しかしながら、より大きい深度(例えば、6桁、8桁)も企図される。
【0051】
患者のHLA型が確認されると(既知の化学作用又はインシリコ決定を用いて)、HLA型についての構造解が算出され、且つ/又はデータベースから得られ、これは、次いで、インシリコのドッキングモデルで使用されて、(典型的には、フィルタ処理された)ネオエピトープのHLA構造解に対する結合親和性を決定する。以下に更に論じるように、結合親和性の決定のための好適な系としては、NetMHCプラットフォームが挙げられる(例えば、Nucleic Acids Res.2008 Jul 1;36(Web Server issue):W509-W512を参照されたい)。以前に決定されたHLA型に対して高親和性(例えば、100nM未満、75nM未満、50nM未満)を有するネオエピトープは、次いで、患者のMHC-I/IIサブタイプの知識と共に療法の創出のために選択される。
【0052】
HLAの決定は、当該技術分野において既知である湿式化学における様々な方法を用いて実施することができ、これらの方法の全てが本明細書で使用するために好適であると考えられる。しかしながら、特に好ましい方法では、HLA型は、既知の及び/又は一般的なHLA型の大部分若しくは全てを含有する参照配列を用いて、インシリコのオミックスデータから予測することもできる。例えば、本発明の主題による1つの好ましい方法では、染色体6p21.3(又はHLA対立遺伝子が近くに見出される/そこに見出される任意の他の位置)に対する比較的多数の患者配列のリードマッピングが、データベース又はシーケンシング機によって提供される。最も典型的には、配列のリードは、約100~300個の塩基の長さを有し、読み品質、アライメント情報、配向、位置などを含むメタデータを含むであろう。例えば、好適なフォーマットとしては、SAM、BAM、FASTA、GARなどが挙げられる。本発明の主題に限定するものではないが、患者の配列のリードは、少なくとも5倍、より典型的には少なくとも10倍、更により典型的には少なくとも20倍及び最も典型的には少なくとも30倍のカバレッジ深度を提供することが一般的に好ましい。
【0053】
患者配列のリードに加えて、企図される方法は、既知の別個のHLA対立遺伝子の複数の配列を含む1つ以上の参照配列を更に使用する。例えば、典型的な参照配列は、少なくとも1つのHLA型の配列セグメントをそのHLA型の複数のHLA対立遺伝子と共に含む合成(対応するヒト又は他の哺乳動物の対応物を有さない)配列であり得る。例えば、好適な参照配列は、HLA-Aの少なくとも50個の異なる対立遺伝子についての既知のゲノム配列のコレクションを含む。代替的に又は追加的に、参照配列は、HLA-Aの少なくとも50個の対立遺伝子についての既知のRNA配列のコレクションも含み得る。当然のことながら、以下により詳細に更に論じるように、参照配列は、HLA-Aの50個の対立遺伝子に限定されるものではなく、HLA型及び対立遺伝子の数/組成に関して代替組成を有し得る。最も典型的には、参照配列は、コンピュータ可読形式であり、データベース又は他のデータ記憶デバイスから提供されるであろう。例えば、好適な参照配列フォーマットとしては、FASTA、FASTQ、EMBL、GCG又はGenBankフォーマットが挙げられ、公開データリポジトリ(例えば、IMGT、国際免疫遺伝学的情報系(International ImMunoGeneTics information system)又はThe Allele Frequency Net Database、EUROSTAM、URL:www.allelefrequencies.net)のデータから直接取得されるか又は構築され得る。或いは、参照配列は、例えば、対立遺伝子頻度、民族的対立遺伝子分布、一般的な若しくは稀な対立遺伝子型などの1つ以上の所定の基準に基づいて個々の既知のHLA-対立遺伝子からも構築され得る。
【0054】
参照配列を使用して、患者配列のリードは、ここで、ド・ブラン(de Bruijn)グラフを通してスレディングされ、最良適合を有する対立遺伝子を同定し得る。これに関連して、各個人が各HLA型について2つの対立遺伝子を保有していること、及びこれらの対立遺伝子が非常に類似し得るか又は場合により更に同一であることに留意されたい。このような高度の類似性は、従来のアライメントスキームに重大な問題をもたらす。本発明者らは、ここで、HLA対立遺伝子及び密接に関係する対立遺伝子さえも、配列のリードを比較的小さいk-mer(典型的には、10~20個の塩基の長さを有する)に分解することにより、及び各患者の配列のリードが、対立遺伝子の配列に適合するその配列のリードのk-merに基づいて、対立遺伝子のそれぞれについての投票(「定量的読み支援」)を提供する重み付き投票法を実施することによってド・ブラングラフが構築されるアプローチを使用して解決できることを発見した。その場合、対立遺伝子についての累積的に最高の投票は、最も可能性が高いHLA対立遺伝子を示す。加えて、対立遺伝子に適合する各フラグメントも使用して、その対立遺伝子についての全体のカバレッジ及びカバレッジの深度を計算することが一般的に好ましい。
【0055】
採点法は、特に、トップヒットの多くが類似している場合(例えば、それらのスコアのかなりの部分が、k-merの高度に共有されたセットからのものである場合)、必要に応じて更に改善されるか又は洗練され得る。例えば、スコアの洗練は、現在のトップヒットに実質的に類似する(例えば、>99%又は他の所定の値)対立遺伝子が今後の検討から除去される重み付きスキームを含み得る。現在のトップヒットで使用されるk-merに値するものは、次いで、係数(例えば、0.5)で再重み付けされ、各HLA対立遺伝子についてのスコアは、これらの重み付けカウントを合計することによって再計算される。これらの選択プロセスは、繰り返され、新たなトップヒットを見つけ出す。この方法の精度は、ときにDNA中に存在する2つの対立遺伝子のまさに1つであり得る、腫瘍によって発現された対立遺伝子の同定を可能にするRNA配列データを用いてなお更に改善することができる。企図された系及び方法の更なる有利な態様では、DNA若しくはRNA又はDNA及びRNAの両方の組み合わせを処理して、高精度であり、腫瘍又は血液のDNA若しくはRNAに由来し得るHLA予測を行うことができる。高精度のインシリコのHLAタイピングに関する更なる態様、好適な方法及び検討は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2017/035392号パンフレットに記載されている。
【0056】
患者及び腫瘍に特異的なネオエピトープ及びHLA型が特定されたら、例えばNetMHCを用いて、ネオエピトープをHLAにインシリコでドッキングさせ、最良のバインダー(例えば、最低のKD、例えば500nM未満、又は250nM未満、又は150nM未満、又は50nM未満)を決定することにより、更なるコンピュータ解析を実施することができる。このようなアプローチは、患者及び腫瘍に対して本物である特異的ネオエピトープを特定するのみならず、細胞上で提示される可能性が高く、したがって治療効果のある免疫応答を惹起するこれらのネオエピトープも特定することを理解されたい。当然のことながら、このように特定されたHLAに適合したネオエピトープは、以下に更に論じるように、ウイルス中へのペイロードとしてのエピトープをコードする核酸の封入前にインビトロで生化学的に検証できることも理解されたい。
【0057】
当然のことながら、患者のHLA型の患者に特異的な且つ癌に特異的なネオエピトープへのマッチングを、NetMHC以外の系を使用して行い得ることを理解されたく、好適な系としては、NetMHCII、NetMHCpan、IEDB Analysis Resource(URL immuneepitope.org)、RankPep、PREDEP、SVMHC、Epipredict、HLABinding及び他のもの(例えば、J Immunol Methods 2011;374:1-4を参照されたい)が挙げられる。最高の親和性の計算において、変化したアミノ酸の位置が移動しているネオエピトープ配列のコレクション(上記)を使用できることに留意されたい。代替的に又は追加的に、発現されたネオエピトープの患者のHLA型への結合を更に増加させるために、ネオエピトープに対する修飾は、N末端及び/又はC末端修飾を付加することによって実行され得る。したがって、ネオエピトープは、同定時にネイティブであるか、又は特定のHLA型に良好に適合するように更に修飾され得る。更に、必要に応じて、対応する野生型配列(すなわちアミノ酸変化を有さないネオエピトープ配列)の結合は、高い差次的親和性を確実にするように計算され得る。例えば、ネオエピトープとその対応する野生型配列との間のMHC結合における特に好ましい高い差次的親和性は、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍などである。
【0058】
結合親和性及び特に差次的結合親和性は、様々な系及び方法を用いてインビトロでも決定され得る。例えば、患者の抗原提示細胞又は適合したHLA型を有する細胞を核酸(例えば、ウイルス、プラスミド、直線状DNA、RNAなど)でトランスフェクトし、以下により詳細に記載されるような構築物を用いて1つ以上のネオエピトープを発現することができる。発現及び抗原処理時、ネオエピトープに対する特異的なバインダーを用いるか、又はT細胞活性化若しくは細胞傷害性NK細胞の活性がインビトロで観察することができる細胞ベースの系(例えば、患者のPBMC)を用いるかのいずれかで、このとき、ネオエピトープを細胞の外側にあるMHC複合体中で同定することができる。差次的な活性(対応する野生型エピトープと比べてより強力なシグナル又は免疫応答を惹起する)を有するネオエピトープを次いで療法創出のために選択するであろう。
【0059】
組換え核酸/ポリトープ
フィルタ処理されたネオエピトープ(又は腫瘍関連抗原若しくは腫瘍特異的抗原)の適切な選択時、全ての下流ワクチン組成の基礎を作り上げる組換え核酸を構築することができる。最も典型的には、所望の核酸配列(ウイルス感染細胞からの発現のための)は、当該技術分野において既知の適切な調節エレメントの制御下にある。容易に理解されるように、調節エレメントの選択は、組換え核酸が発現されるようになる系によって決定付けられるであろう。したがって、好適な調節エレメントとしては、構成的活性型若しくは誘導性の細菌及び酵母プロモーター(並びに必要に応じて関連するインデューサー及び/又はレプレッサー配列)並びに真核生物(及び好ましくは哺乳動物/ヒト)プロモーター配列が挙げられる。例えば、組換え核酸がDNAワクチンで使用される場合、好適なプロモーターエレメントは、構成的強力プロモーター(例えば、SV40、CMV、UBC、EF1A、PGK、CAGGプロモーター)を含む。他方では、組換え核酸がウイルス発現ベクターの一部である場合、特に誘導条件が腫瘍微小環境にとって典型的である場合、企図されるプロモーターは、誘導性プロモーターも含む。例えば、誘導性プロモーターとしては、低酸素症状態に感受性のもの、TGF-β又はIL-8に感受性である(例えば、TRAF、JNK、Erk又は他の反応性エレメントプロモーターを介して)プロモーターが挙げられる。他の例では、好適な誘導性プロモーターとしては、テトラサイクリン誘導性プロモーター、ミクソウイルス耐性1(Mx1)プロモーターなどが挙げられる。
【0060】
同様に、組換え核酸を用いて、細菌又は酵母がネオエピトープ又は他の治療用抗原を発現する細菌及び/又は酵母ワクチンを生成する場合、好適なプロモーターは、強力な構成的又は誘導性細菌及び酵母プロモーターを含む。例えば、抗原/ポリトープの発現に好適な細菌プロモーターとしては、T7プロモーター、Tacプロモーター、BADプロモーター、Trcプロモーターなどが挙げられる。同じように、酵母で企図される酵母プロモーターとしては、AOX1プロモーター、GALプロモーター、GDSプロモーター、ADHプロモーターなどが挙げられる。
【0061】
この状況において、本発明者らは、ネオエピトープの配置様式であり、且つネオエピトープの合理的に設計された輸送が、以下により詳細に更に記載されるように、様々な免疫治療用組成物の有効性に及ぼす実質的な影響を有し得ることを発見したことを理解されたい。例えば、単一のネオエピトープは、単一のプラスミド、ウイルス発現構築物などとして送達されるそれぞれの組換え構築物から個々に発現され得る。或いは、複数のネオエピトープは、個々のプロモーターから別々に発現され、その後、それぞれのネオエピトープに個々に翻訳される個々のmRNAを形成することができるか、又はそれぞれのネオエピトープ配列についての個々の翻訳開始部位を含む単一のmRNAから発現され得る(例えば、2A又はIRESシグナルを用いて)。とりわけ、このような配置は、適切なネオエピトープペプチドの制御された送達を可能にすると一般的に考えられるが、このような発現系の有効性は、それほど望ましくなかった(データは示さず)。
【0062】
対照的に、単一のポリトープ(すなわち任意選択的に介在するリンカー配列を含む、一連の連状的に連結しているネオエピトープを有するポリペプチド)中に翻訳される単一の転写物を次いで形成するために、複数のネオエピトープが単一の転写物から発現された場合、発現、処理及び抗原提示が有効であることが見出された。とりわけ、ポリトープの発現は、ネオエピトープ配列をもたらすために、細胞中での適切なプロテアーゼ(例えば、プロテアソーム、エンドソームプロテアーゼ、リソソームプロテアーゼ)による処理を必要とし、ポリトープは、特に、個々のネオエピトープが比較的短い長さ(例えば、25個未満のアミノ酸、結果は示さず)を有した場合、個々のネオエピトープの発現と比べて、大部分のネオエピトープに対して改善された抗原処理及び提示をもたらした。更に、このようなアプローチは、ネオエピトープペプチド配列間のプロテアーゼ感受性配列モチーフの合理的設計も可能にするため、プロテアソーム、エンドソームプロテアーゼ及びリソソームプロテアーゼが別個の切断優先性を有するために特異的なプロテアーゼによる処理を保証又は回避する。したがって、ポリトープは、ネオエピトープを空間的に分離するためのリンカー配列を含むだけでなく、特異的プロテアーゼによって優先的に切断される配列部分(例えば、3~15個のアミノ酸)も含むように設計され得る。
【0063】
したがって、本発明者らは、組換え核酸及びポリトープをコードする核酸セグメントを含む発現ベクター(例えば、ウイルス発現ベクター)を企図し、このポリトープは、所望のプロモーターエレメントに作動可能に連結されており、個々のネオエピトープは、リンカー及び/又はプロテアーゼ切断若しくは認識配列によって任意選択的に分離されている。例えば、
図1は、アデノウイルス発現系(ここでは、AdV5と表示し、E1及びE2b遺伝子の欠失を含む)からの発現のためのネオエピトープについての様々な企図される配置を例示的に例解している。ここで、構築物1は、介在するリンカー配列を含まないコンカテマー系列中に合計で15個のアミノ酸を含む、8個のネオエピトープを含むネオエピトープ配置(「ミニ遺伝子」)を例示的に示す一方、構築物2は、構築物1の配置を示すが、9個のアミノ酸リンカーが各ネオエピトープ配列間に封入されている配置を示す。当然のことながら、また既に上述したように、ネオエピトープ配列の実際の長さが15個のアミノ酸に限定されないこと、及び実際の長さがかなり変化し得ることを認識されたい。しかしながら、8~12個のアミノ酸の間のネオエピトープ配列が、追加のアミノ酸と隣接しているほとんどの場合、全長は、典型的には、25個のアミノ酸、又は30個のアミノ酸、又は50個のアミノ酸を超えることはないであろう。同様に、
図1は、G-Sリンカーを表示しているが、様々な他のリンカー配列も本明細書で使用するのに好適であることに留意されたい。このような比較的短いネオエピトープは、ネオエピトープの提示が、MHC-I複合体を介して意図される場合に特に有益である。
【0064】
この状況において、好適なリンカー配列が、2つの隣接するネオエピトープの立体的な柔軟性及び分離を提供することを理解されたい。しかしながら、免疫原性であり得る/患者に既に存在するエピトープを形成し得るリンカーにアミノ酸を選択しないように注意する必要がある。その結果、ポリトープ構築物が、患者に見出され得る(例えば、正常配列の一部として又はSNP若しくは他の配列変動に起因する)エピトープの存在について、もう一度フィルタ処理されることが一般的に好ましい。このようなフィルタ処理は、上記で既に論じられたものと同一の技術及び基準を適用するであろう。
【0065】
同様に、構築物3は、介在するリンカー配列を含まないコンカテマー系列中に8個のネオエピトープを含むネオエピトープ配置を例示的に示し、構築物4は、各ネオエピトープ配列間に9個のアミノ酸リンカーを封入した構築物3の配置を示す。上述したように、このようなネオエピトープ配列の実際の長さが、25個のアミノ酸に限定されないこと、及び実際の長さがかなり変化し得ることを認識されたい。しかしながら、14~20個のアミノ酸間のネオエピトープ配列が追加のアミノ酸と隣接しているほとんどの場合、全長は、典型的には、30個のアミノ酸、又は45個のアミノ酸、又は60個のアミノ酸を超えることはないであろう。同じように、
図1は、これらの構築物についてのG-Sリンカーを表示しているが、様々な他のリンカー配列も本明細書で使用するのに好適であることに留意されたい。このような比較的長いネオエピトープは、ネオエピトープの提示がMHC-II複合体を介して意図される場合に特に有益である。
【0066】
この例では、15-aaのミニ遺伝子は、両側にネイティブ配列の7個のアミノ酸を有する選択されたMHCクラスI標的腫瘍突然変異であること、及び25-aaミニ遺伝子は、両側にネイティブ配列の12個のアミノ酸を有する選択されたMHCクラスII標的腫瘍突然変異であることを理解されたい。例示的な9個のアミノ酸のリンカーは、「非天然」MHCクラスIエピトープが、隣接するミニ遺伝子間に形成しないように十分な長さを有するように思われる。ポリトープ配列は、単一のネオエピトープよりも効率的に処理され、提示される傾向にあり(データを示さず)、MHC-I提示のための12個を超えるアミノ酸の付加及びMHC-I提示のための20個を超えるアミノ酸の付加は、いくらか改善されたプロテアーゼ処理を可能にすると思われる。
【0067】
カスタマイズされたタンパク質配列が、HLA複合体による処理及び提示のために細胞内に留まる可能性を最大化するために、ネオエピトープ配列は、細胞膜又は細胞外空間への輸送に向けることができる疎水性配列を最小化する方法で配置され得る。最も好ましくは、疎水性配列又はシグナルペプチドの検出は、配列を重み行列と比較することによる(例えば、Nucleic Acids Res.1986 Jun 11;14(11):4683‐4690を参照されたい)か、又はシグナル配列を含有するペプチドに関して訓練されたニューラルネットワークを用いることによる(例えば、Journal of Molecular Biology 2004,Volume 338,Issue 5,1027-1036を参照されたい)かのいずれかで行われる。
図2は、複数のポリトープ配列が解析される配置選択の例示的なスキームを表示している。ここで、全てのネオエピトープの全ての位置順列が計算されて、配置のコレクションを生成する。このコレクションは、次いで、重み行列及び/又はニューラルネットワーク予測を通して処理されて、疎水性配列又はシグナルペプチドの存在及び/若しくは強度の可能性を表すスコアを生成する。全ての位置順列は、次いで、スコアによってランク付けされ、所定の閾値を下回るスコア又は疎水性配列若しくはシグナルペプチドの存在の可能性及び/又は強度についての最低スコアを有する順列を用いて、カスタマイズされたネオエピトープ発現カセットを構築する。
【0068】
ポリトープ中のネオエピトープ配列の総数に関して、ポリトープは、少なくとも2個、又は少なくとも3個、又は少なくとも5個、又は少なくとも8個、又は少なくとも10個のネオエピトープ配列を含むことが一般的に好ましい。実際には、組換えDNAの宿主生物のペイロードの能力は、一般に、フィルタ処理された適切なネオエピトープの利用可能性に加えて制限因子であると考えられる。例えば、アデノウイルス発現ベクター、特にAdv5は、このようなベクターが組み換えペイロードに最大で14kbを収容することができるために特に好ましい。同じように、細菌及び酵母系は、更に大きいペイロード、典型的には50kbを超えるものを収容することができる。他方では、組換えDNAがDNAワクチンで使用される場合、好適なサイズは、5kb~20kbの範囲であろう。
【0069】
本発明の主題の更に企図される態様では、ネオエピトープ/ポリトープは、特異的な細胞内区画(例えば、細胞質ゾル、エンドソーム、リソソーム)に対して向けられ得、これと共に特定のMHC提示型に向けられ得ることに留意されたい。このようにして向けられた発現、処理及び提示は、企図された組成物が、CD8+型応答(ポリトープが細胞質空間に向けられている)、CD4+型応答(ポリトープがエンドソーム/リソソーム区画に向けられている)に対して免疫応答を向けるように企図された組成物を調製することができるために特に有利である。更に、通常、MHC-I経路を介して提示されるポリトープは、MHC-II経路を介しても提示され得る(したがってネオエピトープの交差提示を模倣する)ことを認識されたい。したがって、ネオエピトープ及びポリトープ配列は、好適な配列エレメントを用いて設計され、一方又は両方のMHC提示経路に向けられ得ることを理解されたい。こうして発現されたネオエピトープの所望のMHC系までの経路に関して、MHC-I提示ペプチドは、典型的には、プロテアソーム処理及び小胞体を介する送達により細胞質に由来することに留意されたい。したがって、MHC-I提示を企図したエピトープの発現は、以下により詳細に更に論じるように、概して細胞質に向けられるであろう。他方では、MHC-II提示ペプチドは、典型的には、細胞膜へ送達される前に酸性プロテアーゼ(例えば、レグマイン、カテプシンL及びカテプシンS)による分解及び処理によってエンドソーム及びリソソーム区画から生じる。
【0070】
更に、ポリトープのタンパク質分解も様々な方法を用いて増強され得ることが企図され、特に企図される方法としては、提示がMHC-Iに向けられている場合、切断可能若しくは切断不能なユビキチン部分のN末端への付加及び/又は1つ以上の不安定化するアミノ酸(例えば、N、K、C、F、E、R、Q)のポリトープのN末端への配置が挙げられる。他方では、提示がMHC-IIに向けられている場合、特定のエンドソーム又はリソソームプロテアーゼについての切断部位は、抗原処理の促進を容易にするようにポリトープ中に操作され得る。
【0071】
したがって、本発明の主題の企図された態様では、シグナル及び/又はリーダーペプチドは、ネオエピトープ及び/又はポリトープのエンドソーム並びにリソソーム区画への輸送のために使用され得るか、又は細胞質空間内での保持のために使用され得る。例えば、ポリトープがエンドソーム及びリソソーム区画に搬出される場合、CD1bリーダーペプチドなどのリーダーペプチドを使用して、(新生)タンパク質を細胞質から隔離し得る。更に又は代替的に、標的化プレ配列及び/又は標的化ペプチドを使用することができる。標的化ペプチドのプレ配列をN末端及び/又はC末端に付加して、典型的には、6~136個の塩基性及び疎水性アミノ酸を構成することができる。ペルオキシソーム標的化の場合、標的化配列は、C末端にあり得る。他のシグナル(例えば、シグナルパッチ)を使用し得、これらには、ペプチド配列において切り離されており、適切なペプチドフォールディング時に機能するようになる配列エレメントが挙げられる。加えて、グリコシル化のようなタンパク質修飾は、標的化を誘導することができる。本発明者らは、他の好適な標的化シグナルの中でも、ペルオキシソーム標的化シグナル1(PTS1)、C末端トリペプチド及びN末端の近くに位置するノナペプチドであるペルオキシソーム標的化シグナル2(PTS2)を企図している。
【0072】
加えて、エンドソーム及びリソソームへのタンパク質のソーティングは、タンパク質の細胞質ゾルドメイン内のシグナルによっても媒介され得、典型的には短い線状配列を含む。いくつかのシグナルは、チロシンベースのソーティングシグナルと呼ばれ、NPXY又はYXXφコンセンサスモチーフに適合する。ジロイシンベースのシグナルとして知られる他のシグナルは、[DE]XXXL[LI]又はDXXLLコンセンサスモチーフに適合する。これらのシグナルは、全て膜の細胞質面と周辺に関連するタンパク質コートの成分によって認識される。YXXφ及び[DE]XXXL[LI]シグナルは、アダプタータンパク質(AP)複合体AP-1、AP-2、AP-3及びAP-4によって特徴的な微細特異性で認識されるが、DXXLLシグナルは、GGAとして知られているアダプターの別のファミリーによって認識される。また、空胞タンパク質のソーティング及びエンドソーム機能に関連するFYVEドメインを加えることができる。更なる態様において、エンドソーム区画は、ヒトCD1テール配列を用いて標的化することもできる(例えば、Immunology,122,522-531を参照されたい)。例えば、リソソームの標的化は、LAMP1-TM(膜貫通)配列を使用して達成され得るが、リサイクリングエンドソームは、CD1aテール標的配列を介して標的化され得、ソーティングエンドソームは、CD1cテール標的配列を介して標的化され得、これらを以下に詳細に示す。
【0073】
細胞質ゾル区画への輸送又は細胞質ゾル区画内での保持は、必ずしも1つ以上の特定の配列エレメントを必要とするものではない。しかしながら、少なくともいくつかの態様では、膜固着タンパク質又は膜固着タンパク質の膜固着ドメインなどのN-又はC-末端細胞質保持シグナルを加えて、タンパク質が細胞質ゾルに面している細胞内に保持されるようにし得る。例えば、膜固着タンパク質としては、SNAP-25、シンタキシン、シナプトプレビン(synaptoprevin)、シナプトタグミン、小胞関連膜タンパク質(VAMP)、シナプス小胞糖タンパク質(SV2)、高親和性コリン輸送体、ニューレキシン、電位依存性カルシウムチャネル、アセチルコリンエステラーゼ及びNOTCHが挙げられる。
【0074】
本発明の主題の更なる企図された態様では、ポリトープは、処理後にネオエピトープを細胞膜の外側に向け、免疫コンピテント細胞にとって認識できるようにする1つ以上の膜貫通セグメントを含むこともできる。当技術分野で公知の多数の膜貫通ドメインが存在し、それらの全ては、単一のアルファヘリックス、複数のアルファヘリックス、アルファ/ベータバレルなどを有するものを含む本明細書での使用に適していると考えられる。例えば、企図される膜貫通ドメインは、T細胞受容体、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8(例えば、CD8アルファ、CD8ベータ)、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、KIRDS2、OX40、CD2、CD27、LFA-1(CD11a、CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD40、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD160、CD19、IL2Rベータ、IL2Rガンマ、IL7Rα、ITGA1、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR又はPAG/Cbpのアルファ、ベータ又はゼータ鎖の膜貫通領域を含み得る。融合タンパク質が必要とされる場合、組換えキメラ遺伝子は、膜貫通領域をコードする第1の部分を有し、第1の部分は、阻害タンパク質をコードする第2の部分とインフレームでクローニングされることが企図される。このような提示では、MHC複合体の提示となることはなく、したがってMHC/T細胞受容体の相互作用とは独立してネオエピトープ提示をもたらすことに留意されたい。これにより、免疫認識の更なる道が開かれ、ネオエピトープに対する抗体産生を誘発し得る。
【0075】
更に又は代替的に、ポリトープは、1つ以上のネオエピトープのタンパク質搬出のためのシグナル配列を含むようにも設計され得、それによりトランスフェクトされた細胞に1つ以上のネオエピトープを産生及び分泌させる。例えば、SPARCリーダー配列をネオエピトープ又はポリトープ配列に付加して、インビボでネオエピトープ又はポリトープ配列を細胞外空間に分泌させ得る。好都合なことに、次いで、このように分泌させたネオエピトープ又はポリトープは、免疫コンピテント細胞、特に抗原提示細胞及び樹状細胞によって取り込まれ、次いで典型的にはMHC-II経路を介してネオエピトープを処理して表示する。
【0076】
更に企図された態様では、ポリトープは、腫瘍関連抗原(例えば、CEA、PSMA、PSA、MUC1、AFP、MAGE、HER2、HCC1、p62、p90など)の少なくとも一部及び腫瘍関連抗原の全体を含むキメラポリトープとして設計され得る。最も注目すべきことに、腫瘍関連抗原は、一般的に、MHC-II経路を介して処理され、提示される。したがって、区画特異的シグナル配列及び/又はリーダー配列を使用する代わりに、腫瘍関連抗原についてのプロセシング機構をMHC-II標的化に使用することができる。
【0077】
したがって、免疫治療組成物は、1つ以上のネオエピトープを様々な細胞内位置に送達し、それにより異なる免疫応答を生成することができるように調製され得ることを理解されたい。例えば、先行技術の
図3は、ポリトープが細胞質のプロテアソームにおいて主に処理され、MHC-I複合体を介して提示され、これがCD8
+T細胞のT細胞レセプターによって認識されるシナリオを概略的に例解している。結果的に、細胞質ゾル区画に対してポリトープ処理を標的化するには、CD8
+型応答に対する免疫応答を歪めることになる。その一方で、先行技術の
図4では、ポリトープがエンドソーム区画において主に処理され、且つMHC-II複合体を介して提示され、これがCD4
+T細胞のT細胞レセプターによって認識されるシナリオを概略的に例解している。結果的に、エンドソーム又はリソソーム区画に対してポリトープ処理を標的化すると、CD4
+型応答に対する免疫応答が歪められる。更に、このような標的化方法では、たとえペプチドがMHCサブタイプによって提示されなくても、そのペプチドとの最も高い親和性を有するMHCサブタイプへポリトープ又はネオエピトープペプチドを特異的に送達できることを理解されたい。したがって、先に述べたように、MHC-I提示のためのペプチドは、一般に8~12個のアミノ酸(加えて、プロテアーゼ処理における柔軟性のための追加のアミノ酸)を有するように設計され、MHC-II提示のためのペプチドは、14~20個のアミノ酸(加えて、プロテアーゼ処理における柔軟性のための追加のアミノ酸)を有するように設計される。以下の実施例では、更なるアミノ酸を加えて、細胞質区画、プロテアソーム区画又はエンドソーム区画における処理の柔軟性を可能にした。
【0078】
本発明の主題の更に企図された態様では、ネオエピトープ又はポリトープの輸送モードは、1つ以上の特定の目的に適応するように組み合わされ得ることに留意されたい。例えば、異なる標的を有する同じネオエピトープ又はポリトープの逐次投与は、プライムブーストレジメンにおいて特に有益であり得る。プライムブーストレジメンでは、最初の投与で患者に組換えウイルスを接種させ、患者の細胞を感染させ、細胞内から発生する第1の免疫応答となる抗原発現、処理又は提示(例えば、主にMHC-I提示)を導くものである。次いで、アルブミンに結合させた同じネオエピトープの第2の投与は、このように送達されたタンパク質が抗原提示細胞によって取り込まれ、ほとんどの場合、別個の抗原提示(例えば、主にMHC-II提示)をもたらすため、ブーストとして使用され得る。同じネオエピトープ又はポリトープが細胞表面結合MHC非依存性提示のために細胞表面に輸送される場合、ADCC応答又はNK媒介細胞死が促進され得る。更なる企図される態様において且つ以下の実施例に例解されるように、ネオエピトープの免疫原性は、交差提示又はMHC-IIに向けた提示によって増強され得る。注目すべきことに、癌細胞ネオエピトープは、典型的には内部で生成され再循環され、これによりMHC-I系を介して優先的に提示されるため、ここで企図される系及び方法は、MHC-IIを介した、以下に詳細に示すとおり免疫原性が高い可能性があるこのようなネオエピトープの提示を可能にする。更に、同じネオエピトープ又はポリトープの複数の別々の輸送は、細胞性及び体液性免疫系の種々の異なる成分の刺激により、免疫応答を有利に増加又は補足し得る。
【0079】
当然のことながら、同じネオエピトープ又はポリトープの複数の別々の輸送は、多数の方法で達成され得ることを理解されたい。例えば、別々に輸送されるネオエピトープ又はポリトープは、同じ(例えば、ウイルス発現ベクター)又は異なる(例えば、ウイルス発現ベクター及び結合されたアルブミン)様式を用いて別々に投与され得る。同様に、特に治療剤が発現系(例えば、ウイルス又は細菌)である場合、組換え核酸は、別々に輸送されるネオエピトープ又はポリトープであるにもかかわらず、それをコードする2つの異なる部分を含み得る(例えば、第1の位置(例えば、細胞質ゾル、又はエンドソーム、又はリソソーム)に輸送される第1の部分、第2の別の位置(例えば、細胞質ゾル又はエンドソーム又はリソソームであるか、分泌された、膜結合された位置)に輸送される第2の部分)。同様に、第1の投与には、細胞質標的化ネオエピトープ又はポリトープのウイルス送達を用いることができ、第2の投与は、典型的には、最初の投与から少なくとも1日、2日、4日、1週間又は2週間後であり、エンドソーム又はリソソームで標的化又は分泌させたネオエピトープ又はポリトープのウイルス送達を用い得る。
【0080】
加えて、組換え核酸がDNA、細菌又は酵母ワクチン中で使用される場合、これらの様式の取込みの方法は、細胞内輸送を少なくとも部分的に指令することを理解されたい。最も典型的には、DNA、細菌又は酵母ワクチンは、エンドサイトーシス又は関連するプロセスによって取り込まれ、したがってエンドソーム又はリソソーム区画に優先的に経路付けされる。このような経路付けは、既に上述したような適切な輸送シグナルを用いて更に増強され得るか(少なくともDNAワクチンの場合)又は細胞質保持配列の使用によって打ち消され得る。しかしながら、他の実施形態では、DNA、細菌又は酵母ワクチンを介して送達されたポリトープは、輸送シグナルを全く有する必要がない。このようなポリトープは、次いで、MHC-II系を介して優先的に処理/提示されるであろう。
【0081】
更に、発現構築物、特に組換えウイルス発現ベクター若しくはプラスミド)又はDNAワクチンのためのDNAプラスミドは、少なくとも1種、より典型的には少なくとも2種、更により典型的には少なくとも3種及び最も典型的には少なくとも4種の共刺激分子を更にコードして、感染細胞(例えば、抗原提示細胞)とT細胞との間の相互作用を増強し得ることが企図される。例えば、好適な共刺激分子としては、CD80、CD86、CD30、CD40、CD30L、CD40L、ICOS-L、B7-H3、B7-H4、CD70、OX40L、4-1BBLが挙げられ、あまり定義されていない(又は理解されていない)作用機序を有する他の刺激分子としては、GITR-L、TIM-3、TIM-4、CD48、CD58、TL1A、ICAM-1、LFA3及びSLAMファミリーのメンバーが挙げられる。しかし、癌関連配列との協調発現のために特に好ましい分子としては、CD80(B7-1)、CD86(B7-2)、CD54(ICAM-1)及びCD11(LFA-1)が挙げられる。本発明者らは、共刺激分子に加えて、1つ以上のサイトカイン又はサイトカイン類似体を組換え核酸から発現させ得ることも企図しており、特に好ましいサイトカイン及びサイトカイン類似体としては、IL-2、IL-15及びIL-a5スーパーアゴニスト(ALT-803)が挙げられる。更に、共刺激分子及び/又はサイトカインの発現を好ましくは協調させて、これによりネオエピトープ又はポリトープを1つ以上の共刺激分子及び/又はサイトカインと同時に発現させるようにすることを理解されたい。したがって、典型的には、共刺激分子及び/又はサイトカインは、例えば、内部リボソーム進入部位又は2A配列を用いて単一の転写物(ポリトープをコードする配列部分を含んでも又は含まなくてもよい)又は複数の転写物から産生されることが企図される。
【0082】
同様に、ウイルスベクターは、チェックポイント受容体に結合する1つ以上のペプチドリガンドをコードする配列部分も含み得ることが企図される。最も典型的には、結合は、受容体を介するシグナル伝達を阻害するか又は少なくとも減少させ、特に企図される受容体としては、CTLA-4(特にCD8+細胞)、PD-1(特にCD4+細胞)、TIM1受容体、2B4及びCD160が挙げられる。例えば、好適なペプチド結合剤は、抗体断片及び特にscFvを含むことができるが、受容体に特異的に結合する低分子ペプチドリガンド(例えば、RNAディスプレイ又はファージパニングによって単離される)も含み得る。再度、ペプチド分子の発現を好ましくは協調させて、これによりネオエピトープ又はポリトープを1つ以上のペプチドリガンドと同時に発現させるようにすることを理解されたい。したがって、典型的には、ペプチドリガンドは、例えば、内部リボソーム進入部位又は2A配列を用いて単一の転写物(ポリトープをコードする配列部分を含んでも又は含まなくてもよい)又は複数の転写物から産生されることが企図される。
【0083】
上記の共刺激遺伝子及びチェックポイント阻害に干渉する/これらをダウンレギュレートする阻害タンパク質をコードする遺伝子の全てが当技術分野で周知であり、NCBI、EMBL、GenBank、RefSeqなどでアクセス可能な配列データベースなど、様々な公的リソースからこれらの遺伝子、アイソフォーム及び多様体の配列情報を検索できることを理解されたい。更に、上記の例示的な刺激分子は、好ましくは、ヒトで発現されるとき、全長形態で発現されるが、修飾型及び非ヒト型も、これらの形態がT細胞の刺激又は活性化を促進する限り好適であることが企図される。したがって、突然変異タンパク質、切断型及びキメラ型が本明細書において明白に企図される。
【0084】
結果として、企図される発現構築物は、好ましくは、1つ以上のポリトープをコードする配列部分を含み、ポリトープの少なくとも1つ、より典型的には少なくとも2つ又はポリトープの全てが、少なくとも1つ、より典型的には少なくとも2つの異なる細胞内の位置へのポリトープの優先的な輸送をもたらす輸送シグナルを含む。例えば、第1のポリトープは、細胞質に向けられ得(追加の切断可能又は切断不能なユビキチンを含み得る)、第2のポリトープは、エンドソーム又はリソソーム区画に向けられ得る。又は第1のポリトープは、エンドソーム若しくはリソソーム区画に向けられ得、第2のポリトープは、細胞膜に向けられるか又は分泌され得る。前述のように、コードされたポリトープは、任意選択的にリンカーによって分離されている少なくとも2つのネオエピトープを含む。更に、このように企図された発現構築物は、1つ以上の共刺激分子及び/又はサイトカインをコードする配列部分も含み、またチェックポイント阻害に干渉する/それをダウンレギュレートする1つ以上の阻害タンパク質を含み得る。最も典型的には、発現構築物は、ポリトープ及び共刺激分子、サイトカイン及び/又は阻害タンパク質の同時発現を引き起こすために、上記配列部分に作動可能に連結された調節配列も含む。好適なプロモーターエレメントは、当該技術分野で公知であり、特に好ましいプロモーターとしては、上で論じた構成的プロモーター及び誘導性プロモーターが挙げられる。
【0085】
ワクチン組成物
所望のネオエピトープの同定時、ネオエピトープの配列情報を用いて、1つ以上の免疫治療剤を調製することができ、好ましくは上述のようなポリトープとして構成される。好ましくは、免疫治療剤は、腫瘍に存在する少なくとも1つの抗原(及びより典型的には少なくとも2つ、3つ、4つ又はそれを超える抗原)をコードする組換え核酸を含むDNAワクチン、細菌が腫瘍に存在する少なくとも1つの抗原(及びより典型的には少なくとも2つ、3つ、4つ又はそれを超える抗原)をその中で発現する細菌ワクチン、細菌が腫瘍に存在する少なくとも1つの抗原(及びより典型的には少なくとも2つ、3つ、4つ又はそれを超える抗原)をその中で発現する酵母ワクチン及び腫瘍に存在する少なくとも1つの抗原(及びより典型的には少なくとも2つ、3つ、4つ又はそれを超える抗原)をコードする組換え核酸を含むウイルス発現ベクターを含むウイルスワクチンの少なくとも2つを含む。
【0086】
発現及びDNAワクチン接種系のための組換え核酸に関して、組換え核酸は、RNA又はDNAであり得ることが企図される。腫瘍抗原及び/又はネオエピトープの発現をもたらすRNA、DNA又は他の組換えベクターの使用に関して、特に企図される核酸は、スーパーコイル状、コイル状、リラックス型又は更に線状であり得るプラスミドベクターを含む。例えば、他の好適な選択肢の中でも、企図されるベクターは、ウイルス発現ベクターの調製に使用される1つ以上の配列部分のクローニングで使用されるベクターを含む。したがって、特に企図されるベクターとしては、トランスファー又はシャトルベクター及び様々な一般的なクローニングベクター(例えば、細菌の複製起点、選択マーカー(例えば、抗生物質耐性又は蛍光タンパク質)及び多回クローニング部位を有する)が挙げられる。好適なベクターは、当該技術分野において周知であり、典型的には、クローニング及び相当量の産生のために細菌中での複製能力を備えたプラスミドに基づいている。適切なベクター選択は、その特定の使用(例えば、アデノウイルス、レンチウイルス又はバキュロウイルスなどに対してのシャトルベクター)、誘導性又は構成的プロモーターの選択(例えば、CMV、UbC)、永続的発現又は一過性発現の選択、トランスフェクションのやり方(例えば、リポフェクション、エレクトロポレーションなど)、組換え体ペイロードに関する収容力などによって更に決定され得る。
【0087】
プラスミドはメチル化されても又はメチル化されなくてもよく、これは、インビトロでの指向性酵素反応により、又はより簡単にメチル化コンピテント又はメチル化欠損宿主におけるプラスミドのインビボでの複製により制御され得ることを更に留意されたい。なお更に、プラスミドは、自然免疫応答を誘発することが知られている1つ以上の核酸部分(例えば、TLR3、TLR7、TLR8、TLR9などのToll様受容体、RIG-I様受容体、STING及び/又はNLRP3/CIAS1などの細胞内DNAセンサと相互作用するCpGアイランド又は他の配列モチーフ)を更に有し得ることを理解されたい。
【0088】
最も典型的には、既に上で述べたように、企図されるプラスミド及び他の核酸は、好ましくは、患者特異的及び腫瘍特異的ネオエピトープ又はポリトープをコードし、最も好ましくは真核細胞及び特に哺乳動物細胞(例えば、ヒト)におけるネオエピトープ又はポリトープの発現を許容若しくは駆動する調節エレメントに作動可能に連結されている1つ以上の配列エレメントを含むであろう。更に、ネオエピトープ又はポリトープは、同様に本明細書で論じるように、ペプチドを所望の細胞内位置に経路付けするための輸送シグナルを含み得ることを留意されたい。したがって、特に好ましいプラスミドは、ウイルス発現ベクターの産生で使用されるプラスミド、したがってポリトープの哺乳動物細胞における発現及び/又は輸送に必要とされる全ての調節エレメントを既に含むプラスドを含むであろう。したがって、クローニングベクター及びシャトルベクターが特に好ましい。
【0089】
理解されるように、本明細書で企図されるプラスミドは、当該技術分野において既知の多数の方式で投与され得、好適な送達モードとしては、注射(筋肉内、静脈内、皮内)、遺伝子ガン若しくは他の弾道転送を介した送達又はリポソーム媒介転送が挙げられる。したがって、企図される組成物は、特に核酸リポプレックス及び他のDNA-脂質又はDNAリポタンパク質複合体を含む注射可能な製剤を含むであろう。有利には、送達の選択は、本明細書の他の箇所で記載されるように、免疫応答を、Th1(生理食塩水を用いた注射を介して)又はTh2(遺伝子ガン送達を介して)応答のいずれかに偏向させるために使用され得る(例えば、J Immunol March 1,1997,158(5)2278-2284を参照されたい)。特に好ましい態様では、DNAによるワクチン接種は、以下により詳細に論じるように静脈内注射によって実施されるであろうが、他の経路(筋肉内、皮内、皮下、動脈内を含む)も本明細書で使用するのに好適と見なされる一方、ウイルス発現ベクター(典型的には、組換えウイルスを用いる)の投与は、皮下注射によって実施されるのが好ましいであろう。
【0090】
いかなる特定の理論又は仮説にも束縛されることを望むものではないが、プラスミド及び他の「裸の」核酸(例えば、直線状DNA、RNA)の使用は、患者のネオエピトープに対して特異的及び非特異的の両方の免疫応答を生じさせるための最初の機会を提供すると考えられる。非特異的反応は、外来核酸に対する自然免疫応答の区画から生じると見なされ、例えば、ここで、核酸は、メチル化されていない(例えば、TLR-9を介して)。加えて、プラスミドでトランスフェクトされた細胞におけるネオエピトープ又はポリトープの発現も適応免疫応答を促進するであろう。
【0091】
DNAワクチン接種の使用に加えて、企図されるプラスミドは、患者への後続の投与のために、組換えウイルス(例えば、レンチウイルス、アデノウイルス)又は酵母の産生に使用することができるウイルス又は酵母発現ベクターの産生にも使用され得る。プラスミドが酵母又はウイルス発現系の産生に使用される場合、全ての既知の発現系が本明細書で使用するのに好適であると考えられる。例えば、好適な材料及びプロトコルは、非営利的なプラスミドレポジトリのAddgeneにおいて又はAdEasyアデノウイルスベクター系(Agilentから市販されている)において見出すことができる。同様に、当該技術分野において既知の多数の酵母発現系があり、これらの全ては、本明細書で使用するのに好適であると考えられる。このような第2の投与は、哺乳動物がプラスミドベクターによって既に初回刺激を受けているため、DNAワクチン接種に対するブーストレジメントと考えることができる。当然のことながら、プライムワクチン接種が、上述したプラスミドによるDNAワクチン接種であった場合、ブーストは、より慣習的なワクチン製剤を用いたネオエピトープペプチド又はポリトープによるワクチン接種を含む様々な代替形式を使用し得ることを認識されたい。更に好適なDNAワクチンは、例えば、米国特許出願公開第2014/0178438号明細書に記載されている。
【0092】
細菌の発現及びワクチン接種系に関して、全ての細菌株が好適であると考えられることが企図され、特にサルモネラ属(Salmonella)、クロストリジウム属(Clostridium)、バチルス属(Bacillus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)などからの種が挙げられ、特に、このような株は、非病原性であり、低減した毒性を有するように遺伝子操作を受けており、且つ/又は投与前に放射線照射を受けている。歴史的に見て、ほとんどの細菌株は、血流中に導入するか、又は臓器若しくは組織中に移植するには不適切であると考えられ、これは、ほとんどの細菌が患者に致命的な敗血症(例えば、CD-14媒介敗血症)をもたらす可能性が高くなり得、患者の免疫応答を誘発させるリポ多糖を発現し、エンドトキシン反応を引き起こすためである。したがって、1つの特に好ましい細菌株は、ヒトの体内に導入されるとき、エンドトキシン反応を引き起こすには不十分であり且つ/又はヒトの体内に導入されるときにCD-14媒介性敗血症を誘起させるには不足する低いレベルでエンドトキシンを発現する、遺伝子改変された細菌に基づいている。
【0093】
1つの好ましい細菌株は、その急速な増殖(例えば、20分の1つの完全な細胞周期)及び誘導時に(例えば、IPTGによるlacプロモーター誘導など)タンパク質過剰発現のために最適化された多くの株の入手可能性のため、遺伝子改変された大腸菌(Escherichia coli)(E.coli)株である。最も典型的には、遺伝子改変は、エンドトキシン反応につながる大部分のリポ多糖の産生を低減又は除去するであろう。例えば、改変されたリポ多糖合成を有する1つの例示的な細菌株には、ClearColi(登録商標)BL21(DE3)エレクトロコンピテント細胞が挙げられる。この細菌株は、遺伝子型F-ompT hsdSB(rB-mB-)gal dcm lon λ(DE3[lacI lacUV5-T7遺伝子1 ind1 sam7 nin5])msbA148 ΔgutQ ΔkdsD ΔlpxLΔlpxMΔpagPΔlpxPΔeptAを有するBL21である。この状況において、いくつかの特異的欠失突然変異(ΔgutQ ΔkdsD ΔlpxLΔlpxMΔpagPΔlpxPΔeptA)は、LPSのLipid IVAへの改変をコードする一方、1つの追加の補償突然変異(msbA148)は、細胞がLPS前駆体脂質IVAの存在下で生存能力を維持することを可能にすることを理解されたい。これらの突然変異は、LPSからのオリゴ糖鎖の欠失をもたらす。より具体的には、6本のアシル鎖の2本が欠失される。LPSの6本のアシル鎖は、骨髄細胞系分化因子2(MD2)と結合したToll様受容体4(TLR4)トリガであり、NF-κBの活性化及び炎症性サイトカインの産生を引き起こす。4本のアシル鎖のみを含有するLipid IVAは、TLR4によって認識されず、したがってエンドトキシン反応を誘発しない。エレクトロコンピテントBL21細菌が一例として提供されているが、本発明者らは、遺伝子改変された細菌が化学的にコンピテント細菌でもあり得ることを企図する。
【0094】
或いは、本発明者らは、患者自身の共生細菌をビヒクルとして用いて、ヒトの疾患関連抗原をインビボで発現して、免疫応答を少なくとも局在的に引き起こすことも企図する。本明細書で使用される場合、患者の共生細菌とは、いかなる実質的な免疫応答も引き起こすことなく、患者の健康状態とは無関係に患者の体内に常在する細菌を指す。したがって、患者の共生細菌が、患者の正常細菌叢であることが企図される。例えば、患者の共生細菌は、ヒトの腸又は胃に一般的に見られる大腸菌(E.coli)又はストレプトコッカス属(Streptococcus)を含み得る。これらの実施形態では、患者自身の共生細菌は、腸、胃、口腔粘膜若しくは結膜の一部からの生検試料又は糞便試料から得ることができる。患者自身の共生細菌は、次いで、インビトロで培養され、ヒト疾患関連抗原をコードするヌクレオチドでトランスフェクトされる。
【0095】
したがって、本明細書に提示される方法で使用される細菌は、LPSを産生する株又はTLR、特にTLR4によって認識されるLPSの形成をもたらす1つ以上の酵素の低減若しくは無効にされた発現を有するように遺伝子操作を受けた株に由来し得ることを理解されたい。最も典型的には、このような細菌は、免疫療法のための少なくとも1つのヒト疾患関連抗原を誘導可能な方式で発現するように遺伝子改変されるであろう。他の選択肢の中でもとりわけ、発現の誘導は、哺乳動物では通常みられない合成化合物で(例えば、IPTG、置換ベンゼン、シクロヘキサノン関連化合物)又は哺乳動物において自然に発生する化合物(例えば、糖(l-アラビノース、l-ラムノース、キシロース及びスクロースを含む)、ε-カプロラクタム、プロピオン酸塩又はペプチド)で行われ得るか、又は誘導は、1つ以上の環境因子(例えば、温度又は酸素感受性プロモーター)の制御下にあり得る。
【0096】
腫瘍抗原又はポリトープをコードする企図される組換え核酸は、細菌における抗原又はポリトープの発現を駆動するために、特異的プロモーター(例えば、誘導性プロモーターなど)を有する発現ベクター中に挿入することができる。次いで、ベクターが、従来の方法に従って細菌(例えば、ClearColi(登録商標)BL21(DE3)エレクトロコンピテント細胞)中にトランスフェクトされるか、又はヒトの体内に導入されるとき、CD-14媒介敗血症を引き起こすには不十分である低いエンドトキシンレベル発現する任意の他のタイプのコンピテント細菌にトランスフェクトされるか、又は上述のように形質転換前に任意選択的にインビトロで培養されている患者自身の共生細菌にトランスフェクトされる。
【0097】
酵母発現及びワクチン接種系に関して、全ての既知の酵母株が本明細書で使用するのに好適であると考えられることが企図される。しかしながら、酵母が腫瘍抗原の少なくとも1つの発現をもたらし、それにより腫瘍に対する免疫応答を開始させる、上で論じた核酸構築物で遺伝的に改変されている組換えサッカロマイセス(Saccharomyces)株であることが好ましい。それにもかかわらず、任意の酵母株を使用して、本発明の酵母ビヒクルを産生できることが留意される。酵母は、3つの部類:子嚢菌類(Ascomycetes)、担子菌類(Basidiomycetes)及び不完全菌類(Fungi Imperfecti)の1つに属する単細胞微生物である。免疫調節薬として使用するための酵母の型の選択についての一考慮事項は、酵母の病原性である。好ましい実施形態では、酵母は、出芽酵母(Saccharomyce cerevisiae)などの非病原性株であり、なぜなら、非病原性酵母は、酵素ビヒクルが投与される固体に対するいかなる有害作用も最小化するためである。しかしながら、酵母の病原性が薬学的介入を用いて打ち消されている場合、酵母の病原性が使用され得る。
【0098】
例えば、酵母株の好適な属としては、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、カンジダ属(Candida)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、ピチア属(Pichia)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)及びヤロウイア属(Yarrowia)が挙げられる。一態様では、酵母の属は、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、カンジダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)又はシゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)から選択され、好ましい態様ではサッカロマイセス属(Saccharomyces)が使用される。本発明で使用され得る酵母株の種は、出芽酵母(Saccharomyce cerevisiae)、サッカロマイセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyce carlesbergensis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・ケフィール(Candida kefyr)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、クリプトコッカス・ラウレンティー(Cryptococcus laurentii)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、ハンゼヌラ・アノマラ(Hansenula anomala)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クルイベロマイセス・フラジリス(Kluyveromyces fragilis)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・マルシアヌス変種ラクティス(Kluyveromyces marxianus var.lactis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)及びヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)が挙げられる。
【0099】
これらの種の多くは、前述した種の範囲内に含まれるように意図される様々な亜種、型、亜型などを含むことを更に理解されたい。一態様では、本発明で使用される酵母種としては、出芽酵母(S.cerevisiae)、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(H.polymorpha)、ピキア・パストリス(P.pastoris)及び分裂酵母(S.pombe)が挙げられる。出芽酵母(S.cerevisiae)は、これが取り扱うのに比較的容易であり、食品添加物として使用するために「一般に安全と認められている」又は「GRAS」であるために有用である(GRASは、1997年4月17日に米国食品医薬品局(FDA)が提案した規則62FR18938である)。したがって、本発明者らは、出芽酵母(S.cerevisiae)cir株など、プラスミドを特に高いコピー数まで複製することができる酵母株を特に企図する。この出芽酵母(S.cerevisiae)株は、1つ以上の標的抗原、及び/又は抗原融合タンパク質、及び/又は他のタンパク質を高レベルで発現させる発現ベクターを支援することができるような株の1つである。加えて、任意の変異体酵母株を本発明で使用することができ、これらには、N結合型グリコシル化を延長させる酵素中の突然変異など、標的抗原又は他のタンパク質の翻訳後修飾の低減を呈するものが含まれる。
【0100】
企図される抗原/ネオエピトープの酵母における発現は、当業者に既知の技術を用いて達成することができる。最も典型的には、少なくともネオエピトープ又は他のタンパク質をコードする核酸分子は、この核酸分子が、宿主酵母細胞を形質転換するとき、核酸分子の構成的又は調節的発現のいずれかをもたらすことができる転写制御配列に作動可能に連結されているような方式で発現ベクター中に挿入される。容易に理解されるように、1つ以上の抗原及び/又は他のタンパク質をコードする核酸分子は、1つ以上の発現制御配列に作動可能に連結されている1つ以上の発現ベクター上にあり得る。特に重要な発現制御配列は、プロモーター及び上流活性化配列などの転写開始を制御するものである。
【0101】
任意の好適な酵母プロモーターを本発明において使用することができ、様々なこのようなプロモーターは、当業者に既知であり、概ね上で論じている。出芽酵母(Saccharomyce cerevisiae)における発現のためのプロモーターとしては、以下の酵母タンパク質:アルコールデヒドロゲナーゼI(ADH1)又はII(ADH2)、CUP1、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、翻訳延長因子EF-1アルファ(TEF2)、グリセルアルデヒド-3-リンデヒドロゲナーゼ(GAPDH;トリオースリン酸デヒドロゲナーゼについてTDH3とも称される)、ガラクトキナーゼ(GAL1)、ガラクトース-1-リン酸ウリジル-トランスフェラーゼ(GAL7)、UDP-ガラクトースエピメラーゼ(GAL10)、シトクロムc1(CYC1)、Sec7タンパク質(SEC7)及び酸性ホスファターゼ(PHO5)をコードする遺伝子のプロモーターが挙げられ、ハイブリッドプロモーター、例えばADH2/GAPDH及びCYC1/GAL10プロモーターが含まれ、細胞中のグルコース濃度が低いときに(例えば、約0.1~約0.2%)誘導されるADH2/GAPDHプロモーター並びにCUP1プロモーター及びTEF2プロモーターが含まれる。同様に、エンハンサーとも称される多くの上流活性化配列(UAS)も知られている。出芽酵母(Saccharomyce cerevisiae)における発現のための上流活性化配列としては、以下のタンパク質:PCK1、TPI、TDH3、CYC1、ADH1、ADH2、SUC2、GAL1、GAL7及びGAL10をコードする遺伝子のUAS並びにGAL4遺伝子産物によって活性化される他のUASが挙げられ、ADH2 UASが一態様において使用される。ADH2 UASがADR1遺伝子産物によって活性化されるため、異種遺伝子がADH2 UASに作動可能に連結される場合、ADR1遺伝子を過剰発現させることが好ましい。出芽酵母(Saccharomyce cerevisiae)における発現のための転写終結配列としては、アルファ因子、GAPDH及びCYC1遺伝子の終結配列が挙げられる。メチロトローフ酵母中で遺伝子を発現させるための転写制御配列としては、アルコールオキシダーゼ及びギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の転写制御領域が挙げられる。
【0102】
同様に、本発明による核酸分子の酵母細胞中へのトランスフェクションは、核酸分子が細胞に投与される任意の方法によって達成することができ、これらの方法には、拡散、能動輸送、浴超音波処理、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクチン、吸着及び原形質体融合が挙げられる。トランスフェクトされた核酸分子は、酵母染色体中に組み入れられるか、又は当業者に既知の方法を用いて染色体外ベクター上に維持され得る。上で論じたように、酵母細胞質体、酵母ゴースト及び酵母膜粒子又は細胞壁調製物も、インタクトな酵母微生物又は酵母スフェロプラストを所望の核酸分子でトランスフェクトし、その中に抗原を産生して、次いで当業者に既知の技術を用いて微生物又はスフェロプラストを更に操作して、所望の抗原又は他のタンパク質を含有する細胞質体、ゴースト若しくは細胞内酵母膜抽出物又はその分画を産生することによって組換え的に産生することができる。更なる例示的な酵母発現系、方法及び本明細書で使用するのに好適な条件は、米国特許出願公開第20100196411A1号明細書、米国特許出願公開第2017/0246276号明細書又は米国特許出願公開第2017/0224794号明細書及び米国特許出願公開第2012/0107347号明細書に記載されている。
【0103】
ウイルス発現及びワクチン接種系に関して、このようなウイルスが感染細胞中の組換えペイロードの発現をもたらすことができる限りにおいて、全ての治療用組換えウイルス発現系が本明細書で使用するのに好適であると考えられることが企図される。例えば、好適なウイルスとしては、遺伝子改変されたアルファウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルスなどが挙げられる。しかしながら、アデノウイルスが特に好ましい。例えば、典型的には、免疫原性を低減するためにE2b遺伝子及び後期タンパク質の欠失によって達成される遺伝子改変されたアデノウイルスは、複数回のワクチン接種に好適なだけではなく、アデノウイルスに対する既存の免疫を有する個体におけるワクチン接種にも好適であるために好ましい(例えば、国際公開第2009/006479号パンフレット及び国際公開第2014/031178号パンフレットを参照されたい)。更に、これらの特異的な欠失のために、これらの遺伝子改変されたウイルスは、複製欠損性であり、比較的大きい組換えカーゴを可能にする。例えば、国際公開第2014/031178号パンフレットは、結腸癌に対する免疫反応を提供するための、このような遺伝子改変されたウイルスのCEA(結腸直腸胎児性抗原)の発現のための使用を記載している。更に、報告されているように(例えば、J Virol.1998Feb:72(2):926-933)、組換えウイルスの比較的高い力価は、遺伝子改変されたヒト293細胞を用いて達成することができる。
【0104】
組換えウイルスの型とは無関係に、ウイルスを用いてエクスビボ又はインビボで患者の(又は患者ではない)細胞に感染させ得ることが企図される。例えば、患者細胞、特に抗原提示細胞に感染させるために、ウイルスは、皮下若しくは静脈内注射され得るか、又は鼻腔内で若しくは吸入を介して投与され得る。或いは、患者の(又は同種異系源からの)免疫コンピテント細胞(例えば、NK細胞、T細胞、マクロファージ、樹状細胞など)は、インビトロで感染され、その後、患者に輸血され得る。或いは、免疫療法は、ウイルスに依存する必要はないが、所望の細胞、特に免疫コンピテント細胞において、RNA又はDNAを用いる核酸トランスフェクション若しくはワクチン接種又はネオエピトープ(例えば、単一ペプチド、タンデムミニ遺伝子などとして)の発現をもたらす他の組換えベクターによって影響を受ける可能性がある。
【0105】
上述のように、所望の核酸配列(ウイルス感染細胞からの発現のための)は、当該技術分野において既知の適切な調節エレメントの制御下にある。例えば、好適なプロモーターエレメントとしては、構成的な強力プロモーター(例えば、SV40、CMV、UBC、EF1A、PGK、CAGGプロモーター)が挙げられるが、誘導性プロモーターも、特に誘導条件が腫瘍微小環境に対して典型的である場合、本明細書での使用に好適であると考えられる。例えば、誘導性プロモーターとしては、低酸素症に感受性のもの及びTGF-β又はIL-8に感受性である(例えば、TRAF、JNK、Erk又は他の応答性エレメントプロモーターを介して)プロモーターが挙げられる。他の例では、好適な誘導性プロモーターとしては、テトラサイクリン誘導性プロモーター、ミクソウイルス耐性1(Mx1)プロモーターなどが挙げられる。
【0106】
代替的に又は追加的に、抗原/ネオエピトープ又はポリトープも、ペプチドワクチンとして作用するため、任意選択的に担体タンパク質に結合されたペプチドとして投与され得ることを認識されたい。他の好適な担体タンパク質の中でも、ヒトアルブミン又はラクトフェリンが特に好ましい。このような担体タンパク質は、天然の立体配座にあり得るか、又はネオエピトープ又はポリトープが結合することができる露出した疎水性ドメインを有するナノ粒子を形成するように前処理され得る(例えば、Adv Protein Chem Struct Biol.2015;98:121-43を参照されたい)。最も典型的には、ネオエピトープ又はポリトープの担体タンパク質への結合は、非共有結合であろう。分泌されたネオエピトープ又はポリトープと同様に、担体タンパク質に結合したネオエピトープ又はポリトープは、免疫コンピテント細胞、特に抗原提示細胞及び樹状細胞によって取り込まれ、次に典型的にはMHC-II経路を介してネオエピトープを処理及び提示するであろう。
【0107】
製剤
ワクチンがウイルスワクチン(例えば、アデノウイルス、特にE1及びE2bが欠失した状態のAdV)である場合、このとき、組換えウイルスは、個々に又は組み合わされて、典型的には投与単位当たり106~1013個のウイルス粒子、より典型的には投与単位当たり109~1012個のウイルス粒子のウイルス力価を有する滅菌注射のための組成物として製剤化された医薬組成物中の治療用ワクチンとして使用され得ることが企図される。或いは、ウイルスは、患者(又は他のHLA適合)細胞にエクスビボで感染するために使用することができ、次いでそのように感染した細胞を患者に注入する。更なる例では、患者のウイルスによる処置は、裸の形態の又は1つのネオエピトープ若しくは複数のネオエピトープ、腫瘍関連抗原若しくはウイルスと同じペイロードを標的化する抗体を発現するキメラ抗原受容体を保有する形態の同種移植若しくは自家のナチュラルキラー細胞又はT細胞によって達成することができる。患者由来のNK-92細胞株を含むナチュラルキラー細胞もCD16を発現し得、抗体と結合し得る。
【0108】
同様に、ワクチンが細菌又は酵母ワクチンである場合、細菌又は酵母細胞は、更なる繁殖を防止するために投与前に放射線照射されることが好ましい。最も典型的には、投与は、典型的には、投与単位当たり106~109個の細胞、より典型的には投与単位当たり108~1011個の細胞の細胞力価を有する滅菌注射のための組成物として製剤化された医薬組成物中の治療用ワクチンとして行われる。最も好ましくは、ワクチン製剤は、筋肉内、皮下又は腫瘍内で投与される。DNAワクチンは、典型的には、当該技術分野において周知であるように、好ましくは医薬組成物として緩衝液中のDNAの静脈内注射によって投与されるであろう。本発明の主題に限定するものではないが、投与当たりのDNAの総用量は、典型的には、0.1mcg~数十mg又は10mcg~数千mcgの範囲であろう。
【0109】
必要に応じて、単独で又は自家若しくは同種異系NK細胞、特にhaNK細胞又はtaNK細胞(例えば、両方ともNantKwest(9920 Jefferson Blvd.Culver City,CA90232)から市販されている)と組み合わせて、ネオエピトープベース(例えば、国際公開第2016/172722号パンフレットに記載されているネオエピトープに対する合成抗体)であり得る追加の治療様式を用い得る。haNK又はtaNK細胞が使用される場合、haNK細胞は、処置された患者のネオエピトープに結合するCD16多様体上に組換え抗体を保有していることが特に好ましく、taNK細胞が使用される場合、taNK細胞のキメラ抗原受容体は、処置された患者のネオエピトープに結合していることが好ましい。追加の治療様式は、ネオエピトープとは独立でもあり得、特に好ましい様式としては、活性化NK細胞(例えば、NantKwest(9920 Jefferson Blvd.Culver City,CA 90232)から市販されているaNK細胞)などの細胞ベースの治療法並びに化学療法及び/又は放射線などの非細胞ベースの治療法が挙げられる。更に別の企図される態様では、免疫刺激性サイトカイン、特にIL-2、IL15及びIL-21は、単独で又は1種以上のチェックポイント阻害剤(例えば、イピリムマブ、ニボルマブなど)と組み合わせて投与され得る。同様に、追加の薬学的介入は、免疫抑制細胞、特にMDSC Treg及びM2マクロファージを阻害する1種以上の薬物の投与を含み得ることが更に企図される。したがって、好適な薬物としては、IL-8、又はインターフェロン-γ阻害剤、又はIL-8若しくはインターフェロンγに結合する抗体並びにMDSCを不活性化し、MDSC(例えば、IL-12、VEGFインヒビター、ビスホスホネート)に対する細胞の発達若しくは分化をブロックする薬物(例えば、NO阻害剤、アルギナーゼ阻害剤、ROS阻害剤)又はMDSCに対して毒性のある剤(例えば、ゲムシタビン、シスプラチン、5-FU)が挙げられる。同様に、シクロホスファミド、ダクリズマブ及び抗GITR又は抗OX40抗体などの薬物は、Tregを阻害するために使用され得る。
【0110】
プロトコル
したがって、本発明者らは、本明細書で企図される組成物による治療のための様々な例示的な戦略を企図する。最も典型的には、治療は、逐次的な方法で投与される少なくとも2つ又は少なくとも3つの別個のワクチン様式を含むであろう。例えば、いくつかの実施形態では、初回投与はDNAワクチンであり、その後細菌ワクチンの投与に続く。細菌ワクチンは、任意選択的に、酵母ワクチンに続き得る。細菌又は酵母ワクチンの投与後、ウイルスワクチンの投与が続き得る。別の例では、初回投与は、細菌ワクチンであり、その後、任意選択的に酵母ワクチンの投与に続く。細菌又は酵母ワクチンの投与後、次いでウイルスワクチンの投与に続き得る。更に別の例では、初回投与は、DNAワクチンであり、その後、ウイルスワクチン投与に続く。容易に理解されるように、様式のそれぞれは、1回施すことができるか、必要に応じて繰り返して施すことができる。例えば、DNAワクチンは、1回与えられ得る一方、後続の細菌及び/又は酵母ワクチンは、ウイルスワクチンの投与が開始する前に2回、3回又はそれを超えて投与され得る。同様に、複数の細菌又は酵母ワクチン組成物は、ウイルスワクチン組成物の前に投与され得る。同様に、DNA、細菌及び/又は酵母ワクチンが1回与えられ得、ウイルスワクチンが複数回与えられ得る。したがって、プライム/ブーストレジメンでは、プライムワクチン接種は、ブーストワクチン接種と異なる様式を使用することができる(例えば、プライムとして、DNA、細菌又は酵母ワクチン接種、ブーストとしてウイルスワクチン接種)ことに留意されたい。
【0111】
特定の様式の投与は、免疫応答を発揮させるために、数日間の間隔を空けて行われることを更に認識されたい。最も典型的には、第1の投与は、第2の投与から少なくとも2日間、より典型的には少なくとも4日間、更により典型的には少なくとも1週間及び最も典型的には2週間又は更に長く間隔を空けて行われるであろう。更に、患者の免疫系は、免疫刺激性サイトカイン(例えば、IL-2、IL-15、IL-21)若しくはサイトカインアナログ(例えば、ALT-803)を用いて、免疫抑制を低減するためにチェックポイント阻害剤又はTreg若しくはM2マクロファージ阻害剤を用いて又は免疫応答及び免疫記憶(例えば、IL-12)の生成を支援するサイトカインを用いても事前調整され得ることに留意されたい。
【0112】
本明細書で使用される場合、医薬組成物又は薬物の「投与」という用語は、医薬組成物又は薬物の直接投与及び間接投与の両方を指し、医薬組成物又は薬物の直接投与は、典型的には医療従事者(例えば、医師、看護師など)によって行われ、間接投与は、直接投与(例えば、注射、注入、経口送達、局所送達などによる)のために医療従事者に医薬組成物又は薬物を提供するか又は使用できるようにする工程を含む。最も好ましくは、組換えウイルスは、皮下注射又は真皮下注射によって投与される。しかしながら、他の企図されている態様では、投与は、静脈内注射であり得る。代替的に又は追加的に、抗原提示細胞を患者の細胞から単離又は増殖させ、インビトロで感染させ、次いで患者に輸血し得る。したがって、企図された系及び方法は、高度個別化癌治療のための完全な薬物送達系(例えば、薬物送達、治療プロトコル、バリデーションなど)と考え得ることを理解されたい。また理解されるように、企図された治療は、特に新しいネオエピトープが開発された場合(例えば、クローン増殖の結果として)、経時的に繰り返され得る。
【0113】
更に、企図された方法及び組成物を促進するために追加の治療レジメンが実行され得ることに留意されたい。このような追加の治療レジメンは、好ましくは、腫瘍の免疫系に対する「認識性」を増加させるために実施されるであろう。例えば、ストレスシグナルの過剰発現又は転写を引き起こすために、化学療法及び/又は放射線を、低用量レジメンを用いて、好ましくはメトロノーム様式で行うことも企図されている。例えば、このような治療では、タンパク質発現、細胞分裂及び細胞周期の少なくとも1つに影響を及ぼすために、好ましくはアポトーシスを誘導するために、又はストレス関連遺伝子(特にNKG2Dリガンド)の発現を少なくとも誘導又は増加させるために有効な用量を使用することが一般に好ましい。したがって、更に企図される態様では、このような治療は、1つ以上の化学療法剤を用いる低用量治療を含む。最も典型的には、低用量治療は、曝露時に化学療法剤のLD50又はIC50が70%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下又は5%以下である。更に、有利な場合、このような低用量レジメンは、例えば、米国特許第7758891号明細書、米国特許第7771751号明細書、米国特許第7780984号明細書、米国特許第7981445号明細書及び米国特許第8034375号明細書に記載されているメトロノーム様式で行うことができる。
【0114】
このような低用量レジメンで使用される特定の薬物に関して、全ての化学療法剤が適切であると考えられることが企図されている。他の好適な薬物の中でも、キナーゼ阻害剤、受容体作動薬及び拮抗薬、抗代謝薬、細胞分裂抑制薬及び細胞傷害薬が全て本明細書において企図されている。しかし、特に好ましい剤としては、腫瘍の成長又は発達を促す経路の成分に干渉するか又はそれを阻害するように同定された剤が挙げられる。好適な薬物は、例えば、国際公開第2011/139345号パンフレット及び国際公開第2013/062505号パンフレットに記載されているオミックスデータの経路解析を使用して同定することができる。最も注目すべきことに、腫瘍細胞におけるストレス関連遺伝子のこのように達成された発現は、NKG2D、NKP30、NKP44及び/又はNKP46リガンドの表面提示をもたらし、次にNK細胞を活性化して、腫瘍細胞を特異的に破壊する。したがって、低用量化学療法は、腫瘍細胞においてストレス関連タンパク質を発現させ、提示し、次いでNK細胞の活性化及び/又はNK細胞媒介の腫瘍細胞の死滅を引き起こすトリガとして使用され得ることを理解されたい。更に、NK細胞媒介死滅は、細胞内腫瘍特異的抗原の放出に関連しており、これが免疫応答を更に増強すると考えられる。
【実施例】
【0115】
例示的な配列の配置
ネオエピトープ配列は、BAMファイル及びBAMサーバを用いて、例えば米国特許出願公開第2012/0059670号明細書及び米国特許出願公開第2012/0066001号明細書に開示されているように、腫瘍及び正常サンプルの位置誘導同期アライメントによってインシリコで決定された。具体的には、腫瘍のDNA分析は、B16-F10マウスメラノーマ系統由来であり、適合する正常は、C57bl/6親マウスDNA由来の血液であった。結果は、この腫瘍細胞株のRNAシーケンシングにより、発現のためにフィルタ処理された。発見され、発現されたネオエピトープをマウスMHC-I(ここではKb)及びMHC-II(ここではI-Ab)に対する結合親和性について更に分析した。選択された結合剤(200nM以下の親和性を有する)は、dbSNPフィルタ処理の更なる工程後、全てのネオエピトープの位置順列を用いて更に分析し、その後、ウェイトマトリックス及びニューラルネットワーク予測によって処理して、疎水性配列又はシグナルペプチドの存在の可能性及び/又は強度を表すスコアを生成した。ポリトープについて、最良のスコアとなる(疎水性配列又はシグナルペプチドの可能性が最も低い)配置(図示せず)を更なる実験に使用した。ネオエピトープは、ネオエピトープ突然変異を有する特定の遺伝子の発現強度を生じさせるRNAseq又は他の定量系における検出によって優先順位を付けた。
【0116】
表1は、RNAseqによって決定されたときに発現させた例示的ネオエピトープを遺伝子名及び突然変異アミノ酸並びに突然変異アミノ酸の位置と共に示す。*付きの列挙したネオエピトープは、そのネオエピトープが集団の28%において多様体Rs71257443として生じたため、dbSNPフィルタ処理後に廃棄した。
【0117】
【0118】
表2は、突然変異アミノ酸の位置が変化したネオエピトープの更なる例を示し、MHC-I提示(9-mer)及びMHC-II提示(15-mer)の更なる代替配列を示す。MHC-II提示のためのネオエピトープ配列を対応する核酸配列に逆翻訳し、これも表2に示す。
【0119】
【0120】
配列輸送
モデル癌:マウスB16-F10メラノーマ(C57/Bl6マウス由来)を使用し、腫瘍を上記の腫瘍対正常の様式でスクリーニングし、発現させた突然変異エピトープをB16F10メラノーマ細胞株で同定した。シーケンシングデータ分析及びマウスMHCI(H2-Kb、H2-Dd)及びMHCII(I-Ab)に対する結合分析を使用して、上記のように候補ネオエピトープを更にフィルタ処理した。次いで、様々な輸送スキームを試験するために9つの異なるポリトープ構築物を調製し、CMVプロモーターの制御下で対応する組換え核酸として各構築物を調製した。各構築物は、E1及びE2b遺伝子の欠失を有するAdV5発現ベクターにクローニングし、次いで得られた組換えウイルスを以下に更に論じるようにマウスのトランスフェクションに使用した。
【0121】
より具体的には、3つのポリトープ構築物は、MHC-I提示のためのMHCI結合ネオエピトープを含み、したがって細胞質区画を標的とした。1つの構築物は、未修飾N末端を有するが、別の構築物は、N末端切断不能なユビキチンを有し、更に別の構築物は、N末端切断可能ユビキチンを有するものとした。ユビキチン化は、細胞質ゾル中のプロテアソームを標的化するために使用した。3つの更なるポリトープ構築物は、MHC-II提示のためのMHCI結合ネオエピトープを含み、したがってリソソーム/エンドソーム区画を標的とした。1つの構築物は、リソソーム標的配列を有し、別の構築物は、リサイクリングエンドソーム標的配列を有し、更に別の構築物は、ソーティングエンドソーム標的配列を有するものとした。3つの追加のポリトープ構築物は、MHC-II提示のためのMHCII結合ネオエピトープを含み、またリソソーム/エンドソーム区画を標的とした。ここでも、1つの構築物は、リソソーム標的配列を有し、別の構築物は、リサイクリングエンドソーム標的配列を有し、更に別の構築物は、ソーティングエンドソーム標的配列を有するものとした。これらの9つの構築物は、以下の配列の配置を有していた。
【0122】
以下の例示的な配列では、MHC-I提示の場合、プロテアソーム標的化のためにユビキチン(切断可能及び切断不能)を使用し、CD1bリーダーペプチドは、全てのMHC-IIに向けた配列に対して、細胞質ゾルからポリペプチドを輸送するために搬出リーダーペプチドとして使用した。LAMP1-TM/細胞質テールは、リソソーム標的配列として使用し、LAMP1-TM/CD1aテールは、リサイクリングエンドソーム標的配列として使用し、LAMP1-TM/CD1cテールは、ソーティングエンドソーム標的ドメインとして使用した。
【0123】
更に、発現及び提示を説明するために、上記のポリペプチドにおいて種々の内部対照も使用されたことに留意されたい。より具体的には、SIINFEKLペプチドは、MHCI拘束(Kb)ペプチドエピトープの内部対照として使用し、Esat6ペプチドは、MHCII提示のための分泌タンパク質の内部対照として使用した。発現を検出するための内部対照エピトープとしてFLAGタグを使用し、単純なタンパク質検出のための内部対照タグとしてcMYCを使用した。
【0124】
MHC-I提示(プロテアソーム、細胞質標的化による輸送)に向けられたMHC-Iエピトープのための例示的構築物:
ポリエピトープのみ:12aa-A
m-12aa-AAAA-12aa-B
m-12aa―AAAA-(12aa-X
m-12aa―AAAA)
n-SIINFEKL―AAAA-Esat6-cMYC。
図5Aは、SIINFEKLモチーフを下線で示し、Esat6モチーフをイタリックで示し、cMYモチーフを太字フォントで示す配置のポリペプチド構造を例示的に示す。
図5Aのヌクレオチド配列は、配列番号1であり、
図5Aのポリペプチド配列は、配列番号4である。
【0125】
ポリエピトープ及び切断可能なユビキチンGGR N末端:ユビキチン-GGR-12aa―A
m-12aa-AAAA-12aa-B
m-12aa―AAAA-(12aa-X
m-12aa―AAAA)
n-SIINFEKL―AAAA-Esat6-cMYC。
図5Bは、切断可能ユビキチン部分をイタリック及び下線で示し、SIINFEKLモチーフを下線で示し、Esat6モチーフをイタリックで示し、cMYモチーフを太字フォントで示す配置のポリペプチド構造を例示的に示す。
図5Bのヌクレオチド配列は、配列番号2であり、
図5Bのポリペプチド配列は、配列番号5である。
【0126】
ポリエピトープ及び切断不能ユビキチンG N末端:ユビキチン-G-12aa-A
m-12aa―AAAA-12aa-B
m-12aa―AAAA-(12aa-X
m-12aa―AAAA)
n-SIINFEKL―AAAA-Esat6-cMYC。
図5Cは、切断可能ユビキチン部分をイタリック及び下線で示し、SIINFEKLモチーフを下線で示し、Esat6モチーフをイタリックで示し、cMYモチーフを太字フォントで示す配置のポリペプチド構造を例示的に示す。
図5Cのヌクレオチド配列は、配列番号3であり、
図5Cのポリペプチド配列は、配列番号6である。
【0127】
MHC-II提示(細胞質からの搬出、エンド/リソソームによる輸送)に向けられたMHC-Iエピトープのための例示的構築物:
Kbエピトープペプチドのリソソーム標的化:(CD1bリーダーペプチド)-20aa―A
m-20aa-GPGPG-20aaB
m-20aa-GPGPG-(20aa-X
m-20aa-GPGPG-)
n-Esat6-FlagTag-LAMP1TM/細胞質テール。
図6Aは、CD1bリーダーペプチド部分を太字で示し、Esat6モチーフを下線で示し、Flagタグモチーフをイタリックで示し、LAMP1TM/細胞質テールを太字/下線のフォントで示す配置のポリペプチド構造を例示的に示す。
図6Aのヌクレオチド配列は、配列番号7であり、
図6Aのポリペプチド配列は、配列番号10である。
【0128】
Kbエピトープペプチドのリサイクリングリソソームの標的化:(CD1bリーダーペプチド)-20aa―A
m-20aa-GPGPG-20aaB
m-20aa-GPGPG-(20aa-X
m-20aa-GPGPG-)
n-Esat6-FlagTag-LAMP1TM/CD1aテール。
図6Bは、CD1bリーダーペプチド部分を太字で示し、Esat6モチーフを下線で示し、Flagタグモチーフをイタリックで示し、LAMP1TMモチーフを太字/下線タイプのフォントで示し、CD1a標的化モチーフを下線/斜体で示す配置のペプチド構造を例示的に示す。
図6Bのヌクレオチド配列は、配列番号8であり、
図6Bのポリペプチド配列は、配列番号11である。
【0129】
Kbエピトープペプチドのソーティングエンドソームの標的化:(CD1bリーダーペプチド)-20aa―A
m-20aa-GPGPG-20aaB
m-20aa-GPGPG-(20aa-X
m-20aa-GPGPG-)
n-Esat6-FlagTag-LAMP1TM/CD1cテール。
図6Cは、CD1bリーダーペプチド部分を太字で示し、Esat6モチーフを下線で示し、Flagタグモチーフをイタリックで示し、LAMP1TMモチーフを太字/下線タイプのフォントで示し、CD1c標的化モチーフを下線/斜体で示す配置のペプチド構造を例示的に示す。
図6Cのヌクレオチド配列は、配列番号9であり、
図6Cのポリペプチド配列は、配列番号12である。
【0130】
MHC-II提示(細胞質からの搬出、エンド/リソソームによる輸送)に向けられたMHC-IIエピトープのための例示的構築物:
IAbエピトープペプチドのリソソーム標的化:(CD1bリーダーペプチド)-20aa―A
m-20aa-GPGPG-20aaB
m-20aa-GPGPG-(20aa-X
m-20aa-GPGPG-)
n-Esat6-FlagTag-LAMP1TM/細胞質テール。
図7Aは、CD1bリーダーペプチド部分を太字で示し、SIINFEKL及びEsat6モチーフを下線で示し、Flagタグモチーフをイタリックで示し、LAMP1TM/細胞質テールを太字/下線のフォントで示す配置のポリペプチド構造を例示的に示す。
図7Aのヌクレオチド配列は、配列番号13であり、
図7Aのポリペプチド配列は、配列番号16である。
【0131】
IAbエピトープペプチドのリサイクリングリソソームの標的化:(CD1bリーダーペプチド)-20aa―A
m-20aa-GPGPG-20aaB
m-20aa-GPGPG-(20aa-X
m-20aa-GPGPG-)
n-Esat6-FlagTag-LAMP1TM/CD1aテール。
図7Bは、CD1bリーダーペプチド部分を太字で示し、SIINFEKL及びEsat6モチーフを下線で示し、Flagタグモチーフをイタリックで示し、LAMP1TMモチーフを太字/下線タイプのフォントで示し、CD1aテールは太字/イタリックで示す配置のポリペプチド構造を例示的に示す。
図7Bのヌクレオチド配列は、配列番号14であり、
図7Bのポリペプチド配列は、配列番号17である。
【0132】
IAbエピトープペプチドのソーティングエンドソームの標的化:(CD1bリーダーペプチド)-20aa―A
m-20aa-GPGPG-20aaB
m-20aa-GPGPG-(20aa-X
m-20aa-GPGPG-)
n-Esat6-FlagTag-LAMP1TM/CD1cテール。
図7Cは、CD1bリーダーペプチド部分を太字で示し、SIINFEKL及びEsat6モチーフを下線で示し、Flagタグモチーフをイタリックで示し、LAMP1TMモチーフを太字/下線タイプのフォントで示し、CD1cテールは太字/イタリックで示す配置のポリペプチド構造を例示的に示す。
図7Cのヌクレオチド配列は、配列番号15であり、
図7Cのポリペプチド配列は、配列番号18である。
【0133】
インビボワクチン接種
図8は、9つの群のC57bl/6マウスを、実質的に上記の配列配置を含む9つの異なる組換えAd5ウイルスで免疫化した例示的なインビボワクチン接種実験を描写する。免疫化は、
図8に概略的に示される、別々の動物群の異なる経路(皮下及び静脈内)による隔週の投与スケジュールに従って行った。B16-F10メラノーマ細胞による腫瘍チャレンジは、42日目に行い、続いてM2マクロファージ抑制薬(RP182)及びIL-15スーパーアゴニスト(Alt-803)を投与した。
図9A~9Cは、皮下投与の例示的結果を描写し、
図10A~10Cは、静脈内投与の例示的結果を描写する。
【0134】
とりわけ、細胞質及びMHC-I提示に向けられたクラスIポリトープをコードするアデノウイルスの皮下注射は、ユビキチン化の有無にかかわらず(
図9Aから取り除くことができる)、有意な免疫保護をもたらすことはなかった。その一方で、クラスIポリトープがMHC-IIによる処理及び提示のために、エンドソーム及びリソソーム区画に向けられた場合、
図9Bから明らかなように、リサイクリングエンドソーム区画及びリソソーム区画への方向に向かっていくらかの防御免疫が観察された。MHC-IIによる処理及び提示のために、クラスIIポリトープがエンドソーム及びリソソーム区画に向けられた場合、更に強力な免疫保護が観察された。ここで、
図9Cに示すように、リソソーム及びソーティングエンドソーム区画について最も強い保護が観察された。
【0135】
静脈注射を介してではあるが、同じウイルス構築物により免疫化を行った場合、
図10Aから分かるように、ポリトープが切断可能なユビキチンを含む細胞質に向けられたクラスIネオエピトープについてネオエピトープワクチン接種の保護効果が観察され、ポリトープが切断不能ユビキチンを含む場合、若干の保護効果が観察された。注目すべきことに、クラスIポリトープがエンドソーム及びリソソーム区画に向けられた場合、
図10Bに示すように、全てのワクチン接種においてより強い保護効果が観察された。更に、MHC-IIによる処理及び提示のために、クラスIIポリトープがエンドソーム及びリソソーム区画に向けられた場合、強力な保護効果が観察された。ここで、
図10Cのグラフに示すように、リサイクリング及びソーティングエンドソーム区画では最も強い保護が観察された。
【0136】
経路及びベクターの比較
更なる実験では、本発明者らは、投与の実際の経路及び発現ベクターの種類が治療有効性に影響を及ぼすかを更に検討した。その目的で、上述した実質的に同一のマウスモデルを使用し、ポリトープをB16F10メラノーマ細胞由来のネオエピトープから構築した。
図11A及び11Bは、発現ベクターがアデノウイルスであった実験についての例示的な結果を示す。容易に分かるように、MHCII標的型ポリトープをコードするアデノウイルス発現系の皮下投与は、全ての細胞内位置に対して著しい免疫保護効果を付与したが、ヌルベクターは、
図11Aから見られるように、免疫保護効果を提供することができなかった。とりわけ、静脈内投与を用いて同じベクター構築物で試験した場合、免疫保護効果は、
図11Bに見られるようにあまり明白ではなかった。
【0137】
逆に、発現ベクターが、上記のようにMHCII提示を標的とするプラスミド(ここではアデノウイルス発現ベクターを生成するためのシャトルベクター)であった場合、プラスミドの皮下投与は、
図11Cに示されるように、ヌルベクターと対比して注目に値する免疫保護効果を付与した。更に且つ予想外にも、同じプラスミドを静脈内注射によって投与した場合、
図11Dから分かるように、実質的な免疫保護効果がヌルベクターについても観察された。いかなる特定の理論又は仮説にも束縛されることを望むものではないが、したがって、本発明者らは、免疫保護効果が自然免疫応答及び適応免疫応答に少なくとも部分的に起因し得ることを企図する。
【0138】
図11Eは、空プラスミド(「ヌル」)の使用と空ウイルス(「ヌル」)発現ベクターの使用とを対比しての異なる経路の使用間の比較を例解している。結果から容易に分かるように、皮下投与は、免疫保護効果を付与しなかったが、最も強い免疫保護効果がヌルプラスミドの静脈内投与で観察された。
【0139】
図12は、以下の表3に示したデータを表示しており、発現ベクターの型は、「型」として示され、投与の経路は、「経路」として表示されている。特定のMHC標的化及び細胞内位置の標的化は、「核酸」で示される一方、腫瘍体積は、B16-F10メラノーマ細胞の移植後に測定された日付について表示されている。
【0140】
【0141】
ここに提示されたデータから容易に分かるように、ポリトープのMHC-II適合ネオエピトープを標的化すること、並びにCD1c、LAMP1及びCD1aを介してポリトープをMHC-II提示に対して標的化することは、プラスミド形態で静脈内投与され、アデノウイルス形態で皮下投与される場合に著しく有効であった。とりわけ、データで反映されているように、MHC-Iを標的化することは、免疫保護を提供するには著しく効果が低かった。
【0142】
本明細書における値の範囲の列挙は、範囲内に入る個々の値ごとに個々に言及する簡略な方法として役立つことを意図するに過ぎない。本明細書中で他に示されない限り、個々の各値は、本明細書中に個別に列挙されているかのように明細書に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書中で他に指示されない限り又は文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実施され得る。本明細書の特定の実施形態に関して提供される任意の及び全ての実施例又は例示的言語(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図するものであり、他に特許請求される本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中のいかなる言語も、本発明の実施に不可欠な任意の特許請求されていない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0143】
本明細書の発明概念から逸脱することなく、既に記述した以外の多くの更なる変更形態が可能であることは、当業者に明らかであるはずである。したがって、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲を除いて限定されるものではない。更に、明細書及び特許請求の範囲の両方を解釈するにあたり、全ての用語は、文脈と一致する最も広い可能な様式で解釈されるべきである。特に、用語「含む」及び「含んでいる」は、要素、構成成分又は工程を非排他的な様式で参照するものと解釈され、参照された要素、構成成分又は工程が存在するか、利用されているか、又は明示的に参照されていない他の要素、構成成分又は工程と組み合わせたものであり得ることを示す。明細書の請求項が、A、B、C...及びNからなる群から選択されたものの少なくとも1つを指す場合、A+N、B+Nなどではなく、その群の要素を1つのみ必要としていると解釈されるべきである。
【配列表】