(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 401/12 20060101AFI20220404BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20220404BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
C07D401/12
A61K31/517
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020068550
(22)【出願日】2020-04-06
(62)【分割の表示】P 2018241276の分割
【原出願日】2014-01-27
【審査請求日】2020-05-01
(31)【優先権主張番号】10-2013-0009282
(32)【優先日】2013-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515182071
【氏名又は名称】ハンミ ファーム.カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANMI PHARM.CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】バン,ケウク チャン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,ジャエ ヒュク
(72)【発明者】
【氏名】ムーン,ユン ホ
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-505068(JP,A)
【文献】特表2010-529115(JP,A)
【文献】特表2005-529092(JP,A)
【文献】特表2007-505875(JP,A)
【文献】特表2007-505878(JP,A)
【文献】特表2008-531536(JP,A)
【文献】特表2007-506725(JP,A)
【文献】国際公開第2013/051883(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 401/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物の塩酸塩製造方法であって、(a)塩基の存在下、不活性の非プロト
ン性極性溶媒中で、式(II)の化合物を式(III)の化合物と反応させるステップ:
【化1】
【化2】
【化3】
(式中、Xは、トシルオキシ基(OTs)であり;およびYは、エテニル基である。)および、
(b)有機溶媒中、10℃~40℃の範囲の温度で、式(I)の化合物を、塩酸と反応させるステップ、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)における前記不活性の非プロトン性極性溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリジン-2-オン、ジメチルスルホキシドおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1の方法。
【請求項3】
前記ステップ(a)における前記不活性の非プロトン性極性溶媒が、ジメチルアセトアミド(DMAc)を含む、請求項1の方法。
【請求項4】
前記ステップ(a)の温度が70℃である、請求項1の方法。
【請求項5】
前記塩基が、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムおよびこれらの混合物からなる群から選択されるアルカリ金属炭酸塩である、請求項1の方法。
【請求項6】
前記塩基が、炭酸カリウムである、請求項1の方法。
【請求項7】
前記ステップ(b)のおける前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、1,4-ジオキサンおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1の方法。
【請求項8】
前記式(III)の化合物が、塩基またはアミドカップリング剤の存在下、式(IX)の化合物またはその塩を、式(X)の化合物と反応させることにより製造される、請求項1の方法:
【化4】
【化5】
(式中、Xは、トシルオキシ基(OTs)であり、Yは、エテニル基またはハロゲノエチル基であり、Zは、ハロゲンまたはヒドロキシル基である)。
【請求項9】
前記式(III)の化合物が、4-メチルベンゼンスルホン酸エステル塩酸塩を、塩化アクリロイルと反応させることにより製造される、請求項8の方法。
【請求項10】
前記式(III)の化合物を製造する反応がテトラヒドロフラン中で行われる、請求項8の方法。
【請求項11】
前記式(III)の化合物を製造する反応が塩基として炭酸水素ナトリウム存在下で行われる、請求項8の方法。
【請求項12】
式(I)の化合物の塩酸塩製造方法であって、(a)塩基の存在下、不活性の非プロトン性極性溶媒中で、式(II)の化合物を式(III)の化合物と反応させるステップ:
【化6】
【化7】
【化8】
(式中、Xは、トシルオキシ基(OTs)、メシルオキシ基(OMs)、トリフルオロメタンスルホン酸エステル、フルオロスルホン酸エステルまたはハロゲンであり;およびYは、エテニル基またはハロゲノエチル基である。)および、
(b)有機溶媒中で、式(I)の化合物を、塩酸と反応させるステップ、
を含む、方法。
【請求項13】
前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、1,4-ジオキサンおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項12の方法。
【請求項14】
前記ステップ(b)の反応が、0℃~60℃の範囲の温度で進行する、請求項12の方法。
【請求項15】
前記ステップ(b)の反応が、25℃の温度で進行する、請求項12の方法。
【請求項16】
前記不活性の極性溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリジン-2-オン、ジメチルスルホキシドおよびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項12の方法。
【請求項17】
前記塩基が、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムおよびこれらの混合物からなる群から選択されるアルカリ金属炭酸塩であることを特徴とする、請求項12の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オンの新規な製造方法に関する。1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オンは、がん細胞増殖およびチロシンキナーゼの変異によって誘発される薬剤耐性を選択的かつ効率的に抑制することができる特定の薬剤(塩酸塩形態)の遊離塩基の形態である。本発明の方法によれば、従来技術の方法と比較してより簡便な工程で、目標化合物を製造することができる。
【背景技術】
【0002】
下記式(IV)で表される1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン塩酸塩は、例えば抗がん作用などの抗増殖作用を有することが知られており、がん細胞増殖およびチロシンキナーゼの変異によって誘導される薬剤耐性を選択的かつ効率的に抑制することができる重要な薬剤であると考えられている。式(IV)の化合物の遊離塩基の形態、すなわち、下記式(I)で示される1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オンは、CAS登録番号1092364-38-9としても知られている。
【化1】
【化2】
【0003】
上記式(I)の化合物は、韓国特許第1013319号に開示されている方法により製造してよい。詳細な反応工程を下記の反応スキーム1に示す。下記の反応スキーム(I)により製造した式(I)の化合物を、その塩酸塩すなわち式(IV)の化合物を得るため、塩酸と反応させてよい。
【0004】
反応スキーム1
【化3】
反応スキーム1中、Rはハロゲンである。
【0005】
上記反応スキーム1に記載されているような製造方法によれば、化合物10を、高温で、例えば210℃で、ホルムアミジン塩酸塩との縮合反応に供し、化合物9を得る。その後、化合物9をメチルスルホン酸などの有機酸中でL-メチオニンと反応させ、化合物9のC6位のメチル基を除去し、化合物8を得る。
【0006】
続いて、無水酢酸およびピリジンなどの塩基中、化合物8を保護反応に供し、化合物7を得る。その後、化合物7を、触媒量のN,N-ジメチルホルムアミドの存在下、還流条件下で塩化チオニル、オキシ塩化リンなどの無機酸との反応に供し、塩酸塩の形態の化合物6を得る。
【0007】
このようにして得た化合物6を、アンモニア(例えば、7Nアンモニア メタノール溶液など)を含有するアルコール溶液中で撹拌することにより脱保護反応に供し、化合物5を製造する。化合物5を、tert-ブチル-4-ヒドロキシピペリジン-1-カルボン酸エステル化合物と共に光延反応に供し、化合物4を得る。その後、化合物4を、2-プロパノールまたはアセトニトリルなどの有機溶媒中でアニリンとの置換反応に供し、化合物3を得る。化合物3を、ジクロロメタンなどの有機溶媒中で、トリフルオロ酢酸などの有機酸または強塩酸などの無機酸との反応に供し、t-ブトキシカルボニル基を脱保護し、化合物2を得る。上記の光延反応において、アゾジカルボン酸ジイソプロピル、アゾジカルボン酸ジエチル、アゾジカルボン酸ジ-t-ブチル、およびトリフェニルホスフィンを使用してもよい。
【0008】
炭酸水素ナトリウムなどの無機塩基存在下またはピリジンもしくはトリエチルアミンなどの有機酸存在下、テトラヒドロフランなどの有機溶媒と水との混合溶液中で、または、ジクロロメタン中で、上記のようにして得られた化合物2を、塩化アクリルとのアシル化反応に供することにより、化合物1すなわち本発明の式(I)の化合物を製造する。あるいは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)または2-(1H-7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェイトメタンアミニウム(HATU)などのカップリング剤を用いて、化合物2をアクリル酸との縮合反応に供する。
【0009】
しかしながら上記方法に従うと、化合物9を製造するステップは、溶媒を用いずに高温下で実施され、またこの反応が均一には進行しないであろうことから、危険たり得る。さらに、化合物5を製造するステップで過剰量の塩化チオニルを使用することから、その後のステップに困難が生じる。したがって、この方法は商業化には適していない。
【0010】
化合物1を製造する該方法のもっとも顕著な欠点は、アクリル化反応の収率が非常に低く、例えば収率が13%であり、さらに、この反応は多くの副反応を伴うことから、カラムクロマトグラフィーを用いた精製工程が必要となることである。加えて、化合物3を光延反応によって製造する場合、さまざまな副生成物が形成され得るため、高価なシリカゲルおよび過剰量の移動相溶媒を必要とするカラムクロマトグラフィーを用いた精製ステップを余儀なくされる。したがって、この方法を商業化することは現実的ではない。
【0011】
そのため、本発明者らは、式(I)の化合物を高純度かつ高収率で製造するための、経済的かつ商業化可能な新規製造方法を開発するために鋭意努力した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の一つの目的は、1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オンの、新規かつ簡便な製造方法を提供することである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一つの態様によれば、式(I)の化合物の製造方法が提供される。該製造方法は、塩基の存在下に不活性の非プロトン性極性溶媒中で、式非日(II)の化合物を式(III)の化合物と反応させるステップを含む:
【化4】
【化5】
【化6】
式中、Xは、トシルオキシ基(OTs)、メシルオキシ基(OMs)、トリフルオロメタンスルホン酸エステル、フルオロスルホン酸エステルまたはハロゲンであり;および、Yは、エテニル基またはハロゲノエチル基である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の上記方法によれば、式(I)の化合物すなわち1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オンは、塩基の存在下に不活性の非プロトン性極性溶媒中で、式(II)の化合物すなわち4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-オールを式(III)の化合物と反応させることにより製造することができる。このメカニズムを、下記の反応スキーム2に示す:
【0015】
反応スキーム2
【化7】
反応スキーム2中、XおよびYは、上記と同義である。
【0016】
上記反応において使用される不活性の非プロトン性極性溶媒の具体例として、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリジン-2-オン、ジメチルスルホキシドおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0017】
上記反応において使用される塩基の具体例は、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムおよびこれらの混合物などのアルカリ金属炭酸塩である。好ましくは、該塩基は、式(II)の化合物1モル当量に対して、1~5モル当量で使用される。
【0018】
上記反応は、60℃~100℃の温度で実施されてよく、好ましくは70℃~90℃、より好ましくは70℃~80℃である。
【0019】
本発明において出発物質として使われる式(II)の化合物は、以下のステップ(下記反応スキーム3を参照のこと。)によって製造できる:
(i)有機塩基の存在下、式(VII)の化合物をハロゲン化剤との反応に供し、式(VI)の化合物を得る。その後、式(VI)の化合物を、式(VIII)の化合物との反応に供し、式(V)の化合物すなわち4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イル酢酸塩を得る;および
(ii)式(V)の化合物を、プロトン性極性溶媒中で、アンモニア溶液との反応に供する。
【0020】
【0021】
上記ステップ(i)において使われる有機塩基の具体例として、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエチルアミン、ピリジン、4-ジメチルピリジン、モルホリンおよびこれらの混合物が挙げられる。ハロゲン化剤の具体例として、塩化チオニル、オキシ塩化リンおよびこれらの混合物が挙げられる。上記反応は、50℃~150℃で実施されてよく、好ましくは60℃~90℃、より好ましくは約75℃である。このステップにおいて、式(VI)の化合物は、単離された形態よりも、有機溶媒に該化合物を含有した溶液の形態で製造される。続いて、有機溶媒中に含まれる式(VI)の化合物を、式(VIII)の化合物と反応させ、式(V)の化合物すなわち4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イル酢酸塩を得る。
【0022】
上記反応の出発物質として使用される式(VII)の化合物は、韓国特許第1013319号に開示されている方法によって製造することができる。
【0023】
続くステップ(ii)において、ステップ(i)で製造された式(V)の化合物を、プロトン性極性溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノールおよびこれらの混合物など)中、0℃~40℃の温度で、好ましくは10℃~30℃の温度で、より好ましくは約25℃の温度で、アンモニア溶液またはアンモニアガスと反応させ、式(II)の4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-オールを得る。
【0024】
また、本発明の出発物質として使用される式(III)の化合物は、塩基またはアミドカップリング剤の存在下、式(IX)の化合物またはその塩を式(X)の化合物と反応させることにより製造することができる(下記反応スキーム4を参照のこと。):
【0025】
反応スキーム4
【化9】
反応スキーム4中、XおよびYは上記と同義であり;および、Zはハロゲンまたはヒドロキシル基である。
【0026】
上記反応は、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、1,4-ジオキサン、アセトニトリル、ジクロロメタン、四塩化炭素、クロロホルム、N,N-ジメチルホルムアミドもしくはジメチルスルホキシドなどの有機溶媒中で実施することができ、または、有機溶媒と水との混合溶媒中で実施することができる。
【0027】
該塩基の具体例として、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび炭酸セシウムなどの無機塩基、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンおよびジエチルアミンなどの有機塩基、および、これらの混合物が挙げられる。該アミドカップリング剤の具体例として、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾール、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェイト、N,N’-ジシクロヘキシルカルボイミド、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール、N-N’-ジイソプロピルカルボイミド、(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェイトおよびこれらの混合物が挙げられる。該塩基またはアミドカップリング剤は、式(IX)の化合物またはその塩1モル当量に対して、3~5モル当量で使用してよい。
【0028】
上記の式(IX)の化合物の塩は、好ましくは塩酸塩(2HCl塩)または臭化水素酸塩(2HBr塩)である。上記反応は、-30℃~30℃の温度で、好ましくは約0℃~室温で、好適な時間で撹拌することにより実施してよい。
【0029】
本発明の該方法によれば、式(I)の目標化合物である1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オンを、簡便な方法によって、高純度かつ高収率で製造することができる。
【0030】
さらに、がん細胞増殖またはチロシンキナーゼの変異により誘発される薬剤耐性を選択的かつ効率的に抑制することができる1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン塩酸塩を、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、1,4-ジオキサンおよびこれらの混合物など)中、0℃~60℃の温度で、好ましくは10℃~40℃の温度で、より好ましくは約25℃の温度で、式(I)の化合物と塩酸とを反応させることにより製造することができる。
【0031】
以下、本発明を下記の実施例によってより具体的に記載するが、これらの実施例は、説明のみを目的としており、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0032】
製造実施例1:式(II)の化合物である4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-オールの製造
【0033】
ステップ(i):式(V)の化合物である4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イル酢酸塩の製造
【化10】
7-メトキシ-4-オキソ-3,4-ジヒドロキナゾリン-6-イル酢酸塩(100g)を、トルエン(850mL)およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(82.5mL)に添加した。75℃でオキシ塩化リン(100mL)を20分かけてそこへ加えたのち、3時間撹拌した。得られた混合物に、トルエン(450mL)および3,4-ジクロロ-2-フルオロアニリン(84.6g)を添加したのち、2時間撹拌した。反応が完了したら、得られた混合物を25℃まで冷却して、これにより得られた固形物を減圧濾過し、トルエン(400mL)で洗浄した。この固形物にイソプロパノール(1,000mL)を加え、得られた混合物を2時間撹拌した。これにより得られた固形物をろ過し、イソプロパノール(400mL)で洗浄したのち、オーブン中40℃で乾燥させ、目標化合物を得た(143g、収率:83%)。
1H-NMR(DMSO-d
6、300MHz、ppm)δ8.92(s、1H)、8.76(s、1H)、7.69-7.57(m、3H)、4.01(s、3H)、2.38(s、3H)。
【0034】
ステップ(ii):式(II)の化合物である4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-オールの製造
【化11】
ステップ(i)において製造した4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イル酢酸塩(100g)を、メタノール(1,000mL)と混合した。該混合物を10~15℃に冷却し、アンモニア溶液(460g)を加えて、25℃で3時間撹拌した。このようにして得られた固形物を、ろ過して、メタノール(200mL)と水(200mL)の混合溶媒で洗浄した。得られた固形物を、オーブン中40℃で乾燥させ、目標化合物を得た(74g、収率:83%)。
1H-NMR(DMSO-d
6、300MHz、ppm)δ9.57(br、2H)、8.35(s、1H)、7.68(s、1H)、7.61-7.52(m、2H)、7.21(s、1H)、3.97(s、3H)。
【0035】
実施例1:式(I)の化合物である1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オンの製造
【0036】
ステップ(1-1):式(III)の化合物である1-アクリロイルピペリジン-4-イル 4-メチルベンゼンスルホン酸エステルの製造
【化12】
ピペリジン-4-イル 4-メチルベンゼンスルホン酸エステル塩酸塩(200g、685mmol)、テトラヒドロフラン(THF、1.6L)およびNaHCO
3(172g、2047mmol)を水(2L)に加え、該混合物を0℃まで冷却した。塩化アクリロイル(56mL、519mmol)をTHF(0.4L)へ添加することにより調製した溶液を、上記混合物へ30分かけて添加し、その後1時間撹拌した。反応が完了したら、クエンチングのためにMeOH(0.4L)をそこへ加えた。この溶液を、エチルエステル(2L)で抽出し、水(2L)で洗浄した。この有機相を分離して減圧下で蒸留し、得られた残渣をジクロロメタン-へキサンで再結晶し、目標化合物を得た(174g、収率:82%)。
1H-NMR(300MHz、DMSO-d
6)δ7.82(d、2H)、7.48(d、2H)、6.80-6.71(m、1H)、6.10-6.03(m、1H)、5.67-5.62(m、1H)、4.76-4.71(m、1H)、3.70-3.68(m、2H)、3.43-3.31(m、2H)、2.42(s、3H)1.73(m、2H)、1.52(m、2H)。
【0037】
ステップ(1-2):式(I)の化合物である1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1オンの製造
【化13】
製造実施例1で製造した4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-オール(12g、34mmol)、ステップ(1-1)で製造した1-アクリロイルピペリジン-4-イル 4-メチルベンゼンスルホン酸エステル(16g、51mmol)、K
2CO
3(9.4g、68mmol)およびジメチルアセトアミド(DMAc、300mL)を混合した。反応温度を70℃まで上昇させて、該混合物を24時間撹拌した。反応が完了したら、該混合物を室温まで冷却して、エチルエステル(300mL)で抽出し、その後、水(300mL)で洗浄した。この有機相を分離し、減圧下で蒸留した。得られた残渣を、エチルエステルを加えることにより固化させて、ろ過し、乾燥させて目標化合物を得た(12.8g、収率:77%)。
1H-NMR(300MHz、DMSO-d
6)δ9.65(bs、1H)、8.40(s、1H)、7.88(s、1H)、7.64-7.56(m、2H)、7.24(s、1H)、6.89-6.80(m、1H)、6.15-6.08(m、1H)、5.70-5.66(m、1H)、4.78(m、1H)、3.94(s、3H)、3.87(m、2H)、3.48(m、2H)、2.03(m、2H)、1.70(m、1H)。
【0038】
実施例2:式(I)の化合物である1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オンの製造
【0039】
ステップ(2-1):式(III)の化合物である1-(3-クロロプロパノイル)ピペリジン-4-イル 4-メチルベンゼンスルホン酸エステルの製造
【化14】
ピペリジン-4-イル 4-メチルベンゼンスルホン酸エステル塩酸塩(20g、68mmol)およびジクロロメタン(200mL)を混合し、該混合物を0℃まで冷却した。トリエチルアミン(29mL、205mmol)および3-クロロプロピオニルクロリド(7.9mL、82mmol)を該混合物へ加え、室温で16時間撹拌した。反応が完了したら、該反応混合物を、エチルエステル(200mL)で抽出し、水(200mL)で洗浄した。この有機相を分離して減圧下で蒸留し、得られた残渣を精製し、目標化合物を得た(18g、収率:76%)。
1H-NMR(300MHz、CDCl
3)δ7.80(d、2H)、4.76-4.72(m、1H)、3.80(t、2H)、3.64-3.57(m、3H)、3.40(m、1H)、2.77(t、2H)、2.46(s、3H)、1.85-1.70(m、4H)。
【0040】
ステップ(2-2):式(I)の化合物である1-(4-(4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イルオキシ)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オンの製造
【化15】
ステップ(1-1)で製造した1-アクリロイルピペリジン-4-イル 4-メチルベンゼンスルホン酸エステル(16g、51mmol)の代わりに、上記ステップ(2-1)で製造した1-(3-クロロプロパノイル)ピペリジン-4-イル 4-メチルベンゼンスルホン酸エステル(13g、35mmol)を用いた以外は、実施例1のステップ(1-2)の手順を繰り返し、目標化合物を得た(7.4g、収率:58%)。
1H-NMR(300MHz、DMSO-d
6)δ9.65(bs、1H)、8.40(s、1H)、7.88(s、1H)、7.64-7.56(m、2H)、7.24(s、1H)、6.89-6.80(m、1H)、6.15-6.08(m、1H)、5.70-5.66(m、1H)、4.78(m、1H)、3.94(s、3H)、3.87(m、2H)、3.48(m、2H)、2.03(m、2H)、1.70(m、1H)。