(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】発電機内部故障検出方法、発電機内部故障検出装置
(51)【国際特許分類】
H02H 7/00 20060101AFI20220404BHJP
G01R 31/72 20200101ALI20220404BHJP
【FI】
H02H7/00 G
G01R31/72
(21)【出願番号】P 2020144511
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000195959
【氏名又は名称】西芝電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】黒田 弘人
(72)【発明者】
【氏名】久原 綾太
【審査官】寺谷 大亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-183034(JP,A)
【文献】特開2019-110710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 7/00
G01R 31/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電機が接続された電力系統に次数間高調波電流を注入し、電力系統の線間電圧波形と電流波形から注入した次数間高調波
電流と同じ周波数における電圧成分の電圧値と電流成分の電流値を検出し、前記電圧値と前記電流値から
発電機内部巻線インピーダンス値を計算し、計算された
発電機内部巻線インピーダンス値
が故障を判断する所定値を下回るかどうかにより、発電機内部巻線の短絡による発電機内部故障を検出する発電機内部故障検出方法であって、検出された電流値が一定の値となるように前記次数間高調波電流の注入量を可変にすることを特徴とする発電機内部故障検出方法。
【請求項2】
発電機が接続された電力系統に次数間高調波電流を注入し、電力系統の線間電圧波形と電流波形から注入した次数間高調波と同じ周波数における電圧成分の電圧値と電流成分の電流値を検出し、前記電圧値と前記電流値から
発電機内部巻線インピーダンス値を計算し、計算された
発電機内部巻線インピーダンス値
が故障を判断する所定値を下回るかどうかにより、発電機内部巻線の短絡による発電機内部故障を検出する発電機内部故障検出方法であって、前記電力系統に予め設定された量の次数間高調波電流を注入することを特徴とする発電機内部故障検出方法。
【請求項3】
前記
発電機内部巻線インピーダンス値の時間変化率が、予め設定されたしきい値を超えた場合に発電機内部故障と判定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発電機内部故障検出方法。
【請求項4】
次数間高調波の注入電流量に対する故障していないときの発電機内部
巻線インピーダンス値と、注入した次数間高調波と同じ周波数における電圧成分と電流成分を電力
系統の線間電圧波形と電流波形から抽出し、抽出された
電圧成分の電圧値と
電流成分の電流値から計算した
発電機内部巻線インピーダンス値とを比較することで発電機内部故障を検出することを特徴とする請求項2記載の発電機内部故障検出方法。
【請求項5】
三相以上の電力系統において、それぞれの相に注入する次数間高調波電流の周波数を異なる周波数に設定し、それぞれの相について発電機内部故障を検出することを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の発電機内部故障検出方法。
【請求項6】
発電機が接続された電力系統に次数間高調波電流を注入する次数間高調波注入装置と、
電力系統の線間電圧波形と電流波形から注入した次数間高調波と同じ周波数における電圧成分の電圧値と電流成分の電流値を検出する電圧・電流検出装置と、
前記電圧値と前記電流値から
発電機内部巻線インピーダンス値を計算するインピーダンス算出器と、
前記
発電機内部巻線インピーダンス値
が故障を判断する所定値を下回るかどうかにより、発電機内部巻線の短絡による発電機内部故障を判定する故障判定器と、
前記電圧・電流検出装置によって検出された前記電流成分の電流値が一定の値となるように前記次数間高調波注入装置を制御する注入電流制御装置と
を有する発電機内部故障検出装置。
【請求項7】
発電機が接続された電力系統に次数間高調波電流を注入する次数間高調波注入装置と、
電力系統の線間電圧波形と電流波形から注入した次数間高調波と同じ周波数における電圧成分の電圧値と電流成分の電流値を検出する電圧・電流検出装置と、
前記電圧値と前記電流値から
発電機内部巻線インピーダンス値を計算するインピーダンス算出器と、
前記
発電機内部巻線インピーダンス値
が故障を判断する所定値を下回るかどうかにより、発電機内部巻線の短絡による発電機内部故障を判定する故障判定器と、
前記電力系統に予め設定された量の次数間高調波電流を注入するように前記次数間高調波注入装置を制御する注入電流制御装置と
を有する発電機内部故障検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機内部故障検出方法、発電機内部故障検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電機を運転する際には各種の規格や規則により発電機の内部故障を検出することが求められる。例えば、ロンドンに本部を置く、ロイド船級協会(Lloyd's Register of shipping)により定められた船級規格上のパート6チャプター2のセクション6に記述されている内容によると、1,500kVA以上の高圧の発電機には、発電機内部回路が短絡した場合に発電機の焼損や発電機漏電事故等を防ぐことを目的とした保護装置を設ける必要があると記されている。
【0003】
現在、発電機に設けられる保護装置としては比率差動継電器が使用されている。比率差動継電器とは、主に発電機やトランス等に使用される保護継電器の一種であり、発電機やトランスの異相間短絡や地絡をいち早く検出することで発電機内部故障時に、短絡電流や地絡電流が流れ続けることにより過熱し、火災等の事故に発展することを防止することを目的として使用されている。
【0004】
比率差動継電器の検出原理は、
図2に示すように、発電機内部巻線80の中性点と各相の外部接点部分にそれぞれ変流器CT1,CT2を設置し、その変流器CT1,CT2から得られる発電機内部巻線80への流入電流I1と発電機内部巻線80から発電機外部へ出ていく流出電流I2の差電流(I2-I1)とを比較し、異相間短絡S1を起こした際などに流入電流I1と差電流(I2-I1)の比が一定比率を超えた場合に発電機内部故障とみなしている。
【0005】
しかし、同相間短絡S2については、流入電流I1と流出電流I2の値が変化しないため、比率差動継電器では故障を検出することができない。また、比率差動継電器の場合、流入電流を検出する変流器が故障検出の対象である発電機に搭載されることがあり、発電機が、その駆動機である原動機の振動を受ける。この場合、原動機の振動によって変流器が破損してしまい、発電機の故障を検出することができなくなるおそれがあった。
【0006】
上述した比率差動継電器以外の発電機内部故障検出方法として、発電機が短絡故障を起こした際の発電機内部巻線インピーダンスの値の変化を検出する方法が考えられる。通電時の発電機内部巻線のインピーダンスの変化をとらえる必要があるが、ここで通電状態回路内の導電体や電力系統のインピーダンス値を監視、計測する方法として、次数間高調波を使用して計測する方法が知られている。例えば次数間高調波を使用しインピーダンスの変化を監視したものとして以下(従来例1~3)のようなものがある。
【0007】
(1)従来例1「分散電源の保護装置およびそれを備えたシステム」(特許文献1参照)
従来例1は、電力系統における停電時に、マイクログリッドの給電設備(分散型電源)により自立運転を行う場合の保護技術に関し、特に短絡電流を防止し、分散型電源を保護するための保護装置およびそれを備えたシステムに関するものである。電力を供給する対象の設備には、停電により一時停止した後にも速やかに電力を供給する必要がある。そのような重要設備に、停電時に電力を供給するためにも分散型電源が使用されているが、この時、停電が自然災害によるもの等であると重要設備側で短絡事故が発生していると考えられる。
【0008】
そのため分散電源が配電を行うよりも前にマイクログリッドに高調波電源によって高調波を注入し、マイクログリッドでの短絡状態の系統インピーダンスを計測して回路内の短絡を検出するようになっている。
【0009】
従来例1においては、電力系統内の停電によって一度系統から分散電源が切り離された回路内において次数間高調波を注入し、また短絡している箇所を検出しており、注入する回路に分散電源が含まれていないことが読み取れる。発電機内部インピーダンスの値を測定するための工夫がされていなく発電機内部インピーダンスの値を計測することはできなかった。
【0010】
(2)従来例2「分散電源の単独運転検出装置」(特許文献2参照)
従来例2は、配電系統の変更や他の単独運転検出装置の存否に拘らず、分散電源の単独運転を確実に、しかも配電系統に悪影響を及ぼすこともなく検出することのできる単独運転検出装置を提供することを主たる目的としている。従来例2では、次数間高調波注入による配電系統への悪影響を抑えるため、注入する次数間高調波電流値の自動調整を行うことで、同一系統内で、複数の監視対象がある場合においても、系統を乱さずに正確に分散電源の単独運転を検出することができる。しかし、後述するように発電機の故障を検出するためには、次数間高調波の発電機内部巻線に流入する電流値を一定に調整する、または、発電機の特性によって決まる電流値以上の電流を注入する必要があるため、従来例2を使って発電機内部故障を検出することはできない。
【0011】
(3)従来例3「き電回路の保護装置」(特許文献3参照)
従来例3では、次数間高調波を交流き電回路の系統に重畳注入し、その次数間高調波電流の注入によって交流き電回路に生じた電圧電流歪みにより、交流き電回路の電気的特性値、例えば計測ライン間の次数間高調波のインピーダンス(またはその逆数のアドミタンス)を算出して監視する。次数間高調波を注入することによって、き電回路内の電圧波形の歪みから電気的特性やインピーダンスを検出し、き電回路内に短絡故障が発生した場合に回路の遮断を行い重大な事故かを事前に防ぐことを目的としている。しかし、後述するように発電機への注入電流の量によって発電機インピーダンスが変化するため、発電機部内巻線インピーダンスが変化することになり、従来例3の測定方法では発電機内部巻線の故障検出を行うことは出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2019-110710号公報
【文献】特開2001-251768号公報
【文献】特開2004-074924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、従来の次数間高調波を利用したインピーダンス測定方法では、発電機内部巻線インピーダンスの正確な計測および、発電機内部故障の検出を行うことができない。
【0014】
以下、発電機内部巻線インピーダンスの特性について説明する。発電機内部巻線で発生した磁束は、発電機の回転子の鉄心や界磁巻線、ダンパー巻線等と鎖交している。発電機内部巻線のインダクタンスの量は、回転子の鉄心や界磁巻線、ダンパー巻線等へ鎖交する磁束の量によって変化するが、鎖交する磁束の量は発電機内部巻線に流入する電流量によっても変化する。そのため、発電機内部巻線インピーダンスの値を正確に計測するには、発電機内部巻線に流入する電流値を調整し、一定にすることによって、計測される発電機内部巻線のインダクタンスの大きさを一定化させる必要がある。
【0015】
しかしながら、従来の次数間高調波によるインピーダンス測定法では、このような発電機内部巻線インピーダンスの特性を考慮していない。
【0016】
以下、発電機内部巻線インピーダンスと次数間高調波の注入量の実測結果について説明する。
図3は、試験回路の概略を示す図である。
【0017】
図3に示す試験回路では、巻線を持つ発電機10を使用し、次数間高調波注入装置100より、一定の次数間高調波電流を発電機内部巻線のU-W間に注入し、注入電流を変えながら発電機内部巻線インピーダンス変化を測定した。発電機内部巻線に注入する次数間高調波電流の周波数は、試験に使用した発電機10の定格周波数60Hzの2.6倍の156Hzとしている。
【0018】
発電機10を実際に回転させ、次数間高調波注入装置100から次数間高調波電流を注入し、次数間高調波注入時のU-W間電圧を電圧検出器102により検出し、UからWへ流れる電流の次数間高調波成分を電流検出器101により検出し、周波数156Hzにおける発電機巻線内部インピーダンスを測定する。この測定結果を
図4に示す。
【0019】
図4では、注入電流と発電機巻線内部インピーダンスの関係を示す図であり、縦軸が発電機巻線内部インピーダンス[Ω]、横軸が注入電流の電流値[A]を示している。
図4に示す通り、注入電流量が1Aまでは、注入電流量の増加とともに計測される発電機内部巻線インピーダンス値も増加する。さらに注入電流量を増加させるとインピーダンス値は低下し、ある一定の値へ近づいていく。
図4では、注入電流量が一定量以上になるとインピーダンス値は40.0Ωの一定値になることがわかる。
【0020】
ここで、従来の次数間高調波の課題として、以下のことがあげられる。
【0021】
図5は、発電機105が接続された電力系統に次数間高調波注入装置104から次数間高調波電流を注入している様子を示している。
図5において、次数間高調波注入装置104より出力する電流量をIp1とすると、電力系統との接続点で注入電流量Ip1は、発電機105の方向に分流する発電機側分流量Ip2と、電力系統の系統負荷103の方へと流れる系統側分流量Ip3に分流する。分流する発電機側分流量Ip2と系統側分流量Ip3の分流する割合は、Z2とZ3の逆比によって決まる。
【0022】
電力系統1に次数間高調波電流を注入している場合、発電機側分流量Ip2は、電力系統側インピーダンスZ3によって変化するが、電力系統側インピーダンスZ3は、電力系統に接続されている系統負荷103のインピーダンスの影響を受ける。電力系統側インピーダンスZ3は、系統負荷103の負荷量によって変化するため、発電機側注入電流Ip2が例えば
図4に示すX,Yの幅で変化してしまう。
【0023】
一方、発電機側分流量Ip2によって発電機内部巻線のインピーダンスの値が変化するため、発電機内部故障によるインピーダンス変化なのか、系統負荷量の変化によるインピーダンス変化なのか区別がつけられないため、発電機故障の発生をインピーダンス値をもとに検出することができない。
【0024】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、次数間高調波電流を注入することで発電機内部巻線インピーダンスの値を算出し、確実に発電機内部故障を検出することができる発電機内部故障検出方法、発電機内部故障検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するために、請求項1に対応する発明による発電機内部故障検出方法は、発電機が接続された電力系統に次数間高調波電流を注入し、電力系統の線間電圧波形と発電機の電流波形から注入した次数間高調波電流と同じ周波数における電圧成分の電圧値と電流成分の電流値を検出し、前記電圧値と前記電流値から発電機内部巻線インピーダンス値を計算し、計算された発電機内部巻線インピーダンス値が故障を判断する所定値を下回るかどうかにより、発電機内部巻線の短絡による発電機内部故障を検出する発電機内部故障検出方法であって、検出された電流値が一定の値となるように前記次数間高調波電流の注入量を可変にする。
【0026】
請求項2に対応する発明による発電機内部故障検出方法は、発電機が接続された電力系統に次数間高調波電流を注入し、電力系統の線間電圧波形と発電機の電流波形から注入した次数間高調波と同じ周波数における電圧成分の電圧値と電流成分の電流値を検出し、前記電圧値と前記電流値から発電機内部巻線インピーダンス値を計算し、計算された発電機内部巻線インピーダンス値が故障を判断する所定値を下回るかどうかにより、発電機内部巻線の短絡による発電機内部故障を検出する発電機内部故障検出方法であって、前記電力系統に予め設定された量の次数間高調波電流を注入する。
【0027】
請求項3に対応する発明による発電機内部故障検出方法は、請求項1または請求項2において、前記発電機内部巻線インピーダンス値の時間変化率が、予め設定されたしきい値を超えた場合に発電機内部故障と判定する。
【0028】
請求項4に対応する発明による発電機内部故障検出方法は、請求項2において、次数間高調波の注入電流量に対する故障していないときの発電機内部巻線インピーダンス値と、注入した次数間高調波と同じ周波数における電圧成分と電流成分を電力系統の線間電圧波形と電流波形から抽出し、抽出された電圧成分の電圧値と電流成分の電流値から計算した発電機内部巻線インピーダンス値とを比較することで発電機内部故障を検出する。
【0029】
請求項5に対応する発明による発電機内部故障検出方法は、請求項1~4の何れかにおいて、三相以上の電力系統において、それぞれの相に注入する次数間高調波電流の周波数を異なる周波数に設定し、それぞれの相について発電機内部故障を検出する。
【0030】
請求項6に対応する発明による発電機内部故障検出装置は、発電機が接続された電力系統に次数間高調波電流を注入する次数間高調波注入装置と、電力系統の線間電圧波形と電流波形から注入した次数間高調波と同じ周波数における電圧成分の電圧値と電流成分の電流値を検出する電圧・電流検出装置と、前記電圧値と前記電流値から発電機内部巻線インピーダンス値を計算するインピーダンス算出器と、前記発電機内部巻線インピーダンス値が故障を判断する所定値を下回るかどうかにより、発電機内部巻線の短絡による発電機内部故障を判定する故障判定器と、前記電圧・電流検出装置によって検出された前記電流成分の電流値が一定の値となるように前記次数間高調波注入装置を制御する注入電流制御装置とを有する。
【0031】
請求項7に対応する発明による発電機内部故障検出装置は、発電機が接続された電力系統に次数間高調波電流を注入する次数間高調波注入装置と、電力系統の線間電圧波形と電流波形から注入した次数間高調波と同じ周波数における電圧成分の電圧値と電流成分の電流値を検出する電圧・電流検出装置と、前記電圧値と前記電流値から発電機内部巻線インピーダンス値を計算するインピーダンス算出器と、前記発電機内部巻線インピーダンス値が故障を判断する所定値を下回るかどうかにより、発電機内部巻線の短絡による発電機内部故障を判定する故障判定器と、前記電力系統に予め設定された量の次数間高調波電流を注入するように前記次数間高調波注入装置を制御する注入電流制御装置とを有する。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、次数間高調波電流を注入することで発電機内部巻線インピーダンスの値を算出し、確実に発電機内部故障を検出することができる発電機内部故障検出方法、発電機内部故障検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本実施形態における発電機内部故障検出装置の構成を示す図。
【
図2】比率差動継電器の検出原理を説明するための図。
【
図3】発電機内部巻線インピーダンスと次数間高調波の注入量の実測に用いた試験回路の概略を示す図。
【
図4】注入電流と発電機巻線内部インピーダンスの関係を示す図。
【
図5】発電機が接続された電力系統に次数間高調波注入装置から次数間高調波電流を注入している様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0035】
図1は、本実施形態における発電機内部故障検出装置3の構成を示す図である。
図1に示すように、発電機内部故障検出装置3は、電力系統1に接続され、電力系統1に発電機2が接続されている。発電機内部故障検出装置3は、電圧・電流検出装置6、注入電流制御装置7、次数間高調波注入装置8、インピーダンス算出器9、故障判定器10を有している。
【0036】
[次数間高調波電流の注入]
次数間高調波注入装置8は、電力系統1の基本周波数の非整数倍の次数間高調波電流を電力系統1に注入する装置である。電圧・電流検出装置6は、次数間高調波注入装置8よりも発電機側で電力系統1と接続され、電力系統1の電流値及び線間電圧値を計測し、その次数間高調波成分を検出する装置である。電力系統1に次数間高調波電流を注入した際、電力系統1及び監視対象である発電機2の線間電圧には次数間高調波成分が加算されることになる。
【0037】
電圧・電流検出装置6は、計器用変流器4を介して電力系統1から電流を取り込み、また計器用変圧器5を介して電力系統1から電圧を取り込んでいる。
【0038】
ここで、電力系統1に注入された次数間高調波電流の分流について説明する。次数間高調波注入装置8から電力系統1に注入した次数間高調波電流の電流量を注入電流量Ip1とすると、注入電流量Ip1は、電力系統1との接続点で、発電機2の方向に分流する発電機側分流量Ip2と、電力系統1の系統側負荷11の方へと流れる系統側分流量Ip3に分流する。
【0039】
[電流・電圧検出、周波数分析]
電圧・電流検出装置6は、計器用変圧器5を介して電力系統1から電圧を取り込んで発電機線間電圧波形を検出し、検出された電圧波形の周波数分析を行う。また、電圧・電流検出装置6は、電力系統1の基本波や電力系統1に接続された負荷等および発電機2が発生する高調波と、次数間高調波注入装置8によって注入された次数間高調波が組み合わされた合成波から、注入した次数間高調波と同じ周波数の電圧成分を抽出して電圧値を検出する。
【0040】
同様にして、電圧・電流検出装置6は、次数間高調波注入装置8によって注入された次数間高調波と同じ周波数の電流成分を抽出するために、計器用変流器4を介して電力系統1から電流を取り込んで電流波形を検出し、検出された電流波形について周波数分析を行う。電圧・電流検出装置6は、注入された次数間高調波と同じ周波数の電流成分を抽出することによって、発電機側分流量Ip2の電流値を検出する。
【0041】
なお、前述した説明では、計器用変圧器5及び計器用変流器4を介して、電圧・電流検出器6が電力系統1より電圧・電流を取り込むとしているが、電圧・電流検出器6が電力系統1より電圧・電流を取り込める構成を有していれば、必要に応じて計器用変圧器5及び計器用変流器4を省略する、または何れか一方を省略しても良い。
【0042】
[注入電流制御]
発電機内部巻線に流入する次数間高調波電流の量は系統インピーダンスZ3の大きさによって変化し、従来例の課題で述べたように、発電機内部故障だけではなく、系統インピーダンスによっても発電機内部
巻線インピーダンスの計測値は変動する。
図4において、Xは、系統インピーダンスZ3の変動に起因する発電機側分流量Ip2の変動幅の一例を示している。そのため、発電機内部巻線に流入する電流値を一定に保つ必要がある。
【0043】
注入電流制御装置7は、発電機内部巻線に流入する電流値が一定となるように、次数間高調波注入装置8が出力する注入電流量Ip1を可変にするための制御をする。
【0044】
電圧・電流検出装置6は、発電機側分流量Ip2の値を注入電流制御装置7に与える。一定に保つべき発電機側分流量を発電機側分流量基準値Ip2’とすると、注入電流制御装置7は、発電機側分流量基準値Ip2’と、算出された発電機側分流量Ip2の差をもとに次数間高調波の注入電流量Ip1を決定し、決定した注入量を指令値として次数間高調波注入装置8に与える。次数間高調波注入装置8は、注入電流制御装置7から与えられた指令値に基づいて注入電流量Ip1を出力する。
【0045】
[インピーダンス算出]
一方、インピーダンス算出器9は、電圧・電流検出装置6によって抽出された次数間高調波注入装置8の注入電流と同じ周波数の電圧成分と電流成分を用いて、発電機内部巻線インピーダンスを算出する。
【0046】
[第1の故障判定方法]
故障判定器10は、インピーダンス算出器9で算出された発電機内部巻線インピーダンスの値が、発電機2が故障と判断される発電機内部巻線インピーダンスのしきい値を下回った場合、発電機内部故障状態であると判断し、故障信号を発報する。
【0047】
[第2の故障判定方法]
第1の故障判定方法では、注入電流制御装置7によって注入電流量Ip1を調整することで、発電機側分流量Ip2の値を発電機側分流量基準値Ip2’となるように保ちつつ発電機内部巻線インピーダンスの値を算出していたが、第2の故障判定方法では、注入電流量Ip1の値を以下に述べるように予め設定された量に一定に保つことでも、発電機内部故障を監視する。
【0048】
図4に示した通り、注入電流量の値を大きくした場合、一定の発電機
内部巻線インピーダンスの値へ収束していく特性がある。この時、収束した
発電機内部巻線インピーダンス値をとる最小の注入電流をIp2minとする。電力系統1の負荷側インピーダンスZ3の変動によって発電機側分流量Ip2が変動しても、その最小値が注入電流Ip2minよりも大きければ、発電機
内部巻線インピーダンスは発電機側分流量Ip2の変動によらず一定の値が計測される。
【0049】
このように、第2の故障判定方法では、発電機側分流量Ip2が電力系統1の負荷側インピーダンスZ3が変動しても発電機内部巻線インピーダンスが一定の値で計測出来る予め設定された量、すなわち最小の注入電流Ip2minよりも大きい値となるように、次数間高調波注入装置8の注入電流量Ip1を設定する。これにより、故障していない発電機2の発電機内部巻線インピーダンスが正確に計測できるので、発電機内部故障を検出することができる。
【0050】
なお、注入電流量Ip1を最小の注入電流Ip2minよりも大きい値に一定に保つだけでなく、最小の注入電流Ip2minよりも大きい値に設定されるのであれば注入電流量Ip1が変動しても良い。
【0051】
[第1の変形例]
前述した第1の故障判定方法及び第2の故障判定方法では、故障判定器10は、インピーダンス算出器9によって算出された発電機内部巻線インピーダンス値がしきい値を下回った場合に、発電機内部故障状態であると判断して故障信号を発報しているが、別の故障状態の判定方法を用いることも可能である。
【0052】
例えば、故障判定器10は、インピーダンス算出器9によって算出された発電機内部巻線インピーダンス値の時間変化率が、時間変化率に対する予め設定されたしきい値を超えた場合に、発電機内部故障とみなすように構成することも可能である。
【0053】
発電機内部巻線インピーダンスの値は、熱等による影響によって変化するが、発電機内部短絡状態における発電機内部巻線インピーダンス値の変化速度は熱等によるものよりも早いので、このように発電機内部巻線インピーダンスの時間変化率により故障を判定することで、熱等によるインピーダンス変化を故障として誤判断することを防止できる。
【0054】
[第2の変形列]
前述した第2の故障判定方法では、注入電流量Ip1を調整して、発電機側分流量Ip2を最小の注入電流Ip2minよりも大きい値に設定するとしているが、発電機側分流量Ip2が最小の注入電流Ip2minを下回っても発電機内部故障を検出できるようにする。
【0055】
例えば、故障判定器10は、予め、故障していない発電機2における次数間高調波の注入電流量と発電機内部巻線インピーダンス値との関係を計測し、その結果を発電機内部巻線インピーダンスデータとして保管しておく。故障判定器10は、電圧・電流検出器6で検出された電流値Ip2のときの発電機内部巻線インピーダンス値を、発電機内部巻線インピーダンスデータから読み出す。
【0056】
このように構成した発電機内部故障検出装置3では、発電機側分流量Ip2が最小の注入電流Ip2minを下回っても、故障していない場合の発電機2の発電機内部巻線インピーダンスが、発電機内部巻線インピーダンスデータから発電機側抽入量Ip2に応じて把握することができる。故障判定器10は、発電機側分流量Ip2に応じた発電機内部巻線インピーダンスデータが示す値と、インピーダンス算出器9で算出された発電機内部巻線インピーダンスの値とを比較し、値が相違していれば発電機内部故障状態であると判断することができる。
【0057】
[第3の変形例]
三相以上の電力系統1に本実施形態における発電機内部故障検出装置3を適用する場合には、前述した発電機内部故障検出方法を各相それぞれに適用する。その際には、次数間高調波注入装置8から各相に注入する次数間高調波電流の周波数を、それぞれ異なる周波数に設定する。これにより、相毎に前述した故障判定を実施することで、それぞれの相の発電機内部故障を個別に検出することができる。
【0058】
[まとめ]
このようにして、本実施形態における発電機内部故障検出装置3(発電機内部故障検出方法)によれば、発電機内部巻線に次数間高調波電流を注入することで発電機内部巻線インピーダンスの値を算出し、確実に発電機内部故障を検出することができる。これにより、異相間短絡だけでなく、同相間短絡状態が起こることによる故障を検出することができる。
【0059】
また、本実施形態における発電機内部故障検出装置3によれば、発電機内部巻線に注入する次数間高調波の電流量を一定にする(第1の故障判定方法)、あるいは発電機内部巻線インピーダンスの算出値が次数間高調波の注入量の変動によらず一定となる注入量以上にすることで(第2の故障判定方法)、発電機内部巻線インピーダンスを正確に測定できるようにして、発電機内部巻線の故障を検出することができる。
【0060】
なお、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…電力系統、2…発電機、3…発電機内部故障検出装置、4…計器用変流器、5…計器用変圧器、6…電圧・電流検出装置、7…注入電流制御装置、8…次数間高調波注入装置、9…インピーダンス算出器、10…故障判定器、11…系統側負荷。