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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】塗料組成物及び塗装品
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20220404BHJP
   C09D 175/06 20060101ALI20220404BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20220404BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220404BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D175/06
B05D7/00 B
B05D7/24 301U
B05D1/36 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020174565
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2021-09-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年11月1日 ORIGIN TECHNICAL JOURNAL 第82号 IV-3~IV-6に公開
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】長野 知広
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-178214(JP,A)
【文献】特開2020-059777(JP,A)
【文献】特開2020-055900(JP,A)
【文献】特開2016-108347(JP,A)
【文献】特開2011-207953(JP,A)
【文献】特開2018-053122(JP,A)
【文献】特開2018-083898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B05D 7/00
B05D 7/24
B05D 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルポリオールとポリカーボネートジオールとを含有する主剤と、ポリイソシアネートを含有する硬化剤と、を含有する2液系の塗料組成物において、
前記アクリルポリオールの重量平均分子量が3000~7000であり、かつ、前記アクリルポリオールの水酸基価が70~170mgKOH/gであり、
前記アクリルポリオール及び前記ポリカーボネートジオールの合計質量に対する前記ポリカーボネートジオールの含有量は、1~19質量%であることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
前記ポリカーボネートジオールの数平均分子量が500~1000であり、かつ、前記ポリカーボネートジオールの水酸基価が100~230mgKOH/gであることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記塗料組成物の固形分濃度は、50~60質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
炭素繊維強化プラスチック製の基材と、該基材の表面上に設けられた塗膜と、を備える塗装品において、
前記塗膜は、前記基材の表面上又は前記基材の表面上に設けられたアンダーコート層の表面上に設けられた平滑層を有し、
該平滑層は、アクリルポリオールとポリカーボネートジオールとを含有する主剤と、ポリイソシアネートを含有する硬化剤と、を含有し、前記アクリルポリオールの重量平均分子量が3000~7000であり、かつ、前記アクリルポリオールの水酸基価が70~170mgKOH/gである2液系の塗料組成物の硬化物からなることを特徴とする塗装品。
【請求項5】
前記ポリカーボネートジオールの数平均分子量が500~1000であり、かつ、前記ポリカーボネートジオールの水酸基価が100~230mgKOH/gであることを特徴とする請求項4に記載の塗装品。
【請求項6】
前記塗料組成物の固形分濃度は、50~60質量%であることを特徴とする請求項4又は5に記載の塗装品。
【請求項7】
前記アクリルポリオール及び前記ポリカーボネートジオールの合計質量に対する前記ポリカーボネートジオールの含有量は、1~19質量%であることを特徴とする請求項4~6のいずれか一つに記載の塗装品。
【請求項8】
前記塗膜は、前記平滑層の表面上に設けられた意匠層を更に有することを特徴とする請求項4~7のいずれか一つに記載の塗装品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗料組成物及び塗装品に関する。
【背景技術】
【0002】
クリアコートに適したコーティング組成物として、ヒドロキシ基含有フィルム形成性ポリマー、ポリイソシアネート化合物、およびジオールに基づくコーティング組成物が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2001-525883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)成形品に対し、繊維目を活かすためにクリア塗料を塗装するケースは存在する。しかし、CFRP成形品はその素材特性から繊維による凹凸が成形品の表面に存在するため、CFRP成形品への塗装では、成形品表面の凹凸が塗装後にピンホールと呼ばれる不具合として残り、外観異常と判断される問題があり、歩留まりが低くなっていた。外観異常と判断された塗装品はパテ埋め又は塗り重ねが必要となるため、そのための工程数の増加はCFRP塗装品の生産性を下げる要因となっていた。
【0005】
特許文献1では、コーティング組成物が施付され得る基体として、金属、プラスチック、木材、ガラス、セラミックが挙げられているが、CFRP成形品に対する塗装における上記問題を解決する手段について何ら開示されていない。
【0006】
本開示は、CFRP成形品に対する塗装において従来生じていた、低い歩留まり及び生産性の低下を改善することができる塗料組成物及び塗装品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る塗料組成物は、アクリルポリオールとポリカーボネートジオールとを含有する主剤と、ポリイソシアネートを含有する硬化剤と、を含有する2液系の塗料組成物において、前記アクリルポリオールの重量平均分子量が3000~7000であり、かつ、前記アクリルポリオールの水酸基価が70~170mgKOH/gであり、前記アクリルポリオール及び前記ポリカーボネートジオールの合計質量に対する前記ポリカーボネートジオールの含有量は、1~19質量%であることを特徴とする。ポリカーボネートジオールの含有量を1~19質量%とすることで、乾燥性により優れ、より効率的に塗装面が得られる。また、基材との密着性又は上塗りとの密着性により優れる。
【0008】
本発明に係る塗料組成物では、前記ポリカーボネートジオールの数平均分子量が500~1000であり、かつ、前記ポリカーボネートジオールの水酸基価が100~230mgKOH/gであることが好ましい。乾燥性に優れ、生産性をより向上することができる。
【0009】
本発明に係る塗料組成物では、前記塗料組成物の固形分濃度は、50~60質量%であることが好ましい。厚塗り塗装が可能となり、CFRP成形品の繊維による凹凸をより効率的に埋めて平滑な塗装面を得ることができる。
【0011】
本発明に係る塗装品は、炭素繊維強化プラスチック製の基材と、該基材の表面上に設けられた塗膜と、を備える塗装品において、前記塗膜は、前記基材の表面上又は前記基材の表面上に設けられたアンダーコート層の表面上に設けられた平滑層を有し、該平滑層は、アクリルポリオールとポリカーボネートジオールとを含有する主剤と、ポリイソシアネートを含有する硬化剤と、を含有し、前記アクリルポリオールの重量平均分子量が3000~7000であり、かつ、前記アクリルポリオールの水酸基価が70~170mgKOH/gである2液系の塗料組成物の硬化物からなることを特徴とする。本発明に係る塗装品では、前記ポリカーボネートジオールの数平均分子量が500~1000であり、かつ、前記ポリカーボネートジオールの水酸基価が100~230mgKOH/gであることが好ましい。本発明に係る塗装品では、前記塗料組成物の固形分濃度は、50~60質量%であることが好ましい。本発明に係る塗装品では、前記アクリルポリオール及び前記ポリカーボネートジオールの合計質量に対する前記ポリカーボネートジオールの含有量は、1~19質量%であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る塗装品では、前記塗膜は、前記平滑層の表面上に設けられた意匠層を更に有することが好ましい。CFRP成形品の有する繊維の意匠性を活かした用途だけでなく、CFRP成形品の有する強度などの物性を活かした自動車のボディーなどの多岐にわたる用途に適用できる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、CFRP成形品に対する塗装において従来生じていた、低い歩留まり及び生産性の低下を改善することができる塗料組成物及び塗装品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一態様を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。本発明の効果を奏する限り、種々の形態変更をしてもよい。
【0015】
本実施形態に係る塗料組成物は、アクリルポリオールとポリカーボネートジオールとを含有する主剤と、ポリイソシアネートを含有する硬化剤と、を含有する2液系の塗料組成物において、アクリルポリオールの重量平均分子量が3000~7000であり、かつ、アクリルポリオールの水酸基価が70~170mgKOH/gである。
【0016】
アクリルポリオールは、1分子中に2個以上の水酸基を有するアクリル樹脂であり、例えば、水酸基含有アクリルモノマーの重合体である。水酸基含有アクリルモノマーは、例えば、2‐ヒドロキシエチルアクリレート、2‐ヒドロキシプロピルアクリレート、4‐ヒドロキシブチルアクリレート、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート、2‐ヒドロキシプロピルメタクリレート、4‐ヒドロキシブチルメタクリレートなどの水酸基を有するモノマー類、2‐ヒドロキシエチルメタクリレートへのγ‐ブチロラクトンの開環付加物、2‐ヒドロキシエチルアクリレートへのε‐カプロラクトンの開環付加物である。水酸基含有アクリルモノマーは、任意の1種を単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。本実施形態は、モノマーの種類及び重合方法に制限されない。
【0017】
また、本実施形態において、アクリルポリオールは、水酸基含有アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体を包含する。水酸基含有アクリルモノマーは、前記に例示したものであり、それらは、任意の1種を単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。本実施形態は、モノマーの種類及び重合方法に制限されない。他のエチレン性不飽和モノマーは、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン誘導体、ビニルエステル、ハロゲン化ビニルモノマー、窒素含有ビニル系モノマーと同様のモノマーである。他のエチレン性不飽和モノマーは、任意の1種を単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。本実施形態は、モノマーの種類及び重合方法に制限されない。
【0018】
アクリルポリオールの重量平均分子量は3000~7000である。アクリルポリオールの重量平均分子量は3000~5000であることがより好ましい。塗料組成物においてアクリルポリオールは主樹脂としての役割をもつ。この主樹脂であるアクリルポリオールを前記の範囲のように低分子量とすることで、塗膜の平滑性を確保することができる。また、塗装時の固形分を高くしても粘度が高くなりすぎず、塗装性を確保することができる。アクリルポリオールの重量平均分子量が3000未満では、乾燥性が不足する。アクリルポリオールの重量平均分子量が7000を超えると、粘度が高くなり、塗装時の固形分を高くした状態でスプレー塗装ができない。
【0019】
アクリルポリオールの水酸基価は70~170mgKOH/gである。アクリルポリオールの水酸基価は130~150mgKOH/gであることがより好ましい。低分子量のアクリルポリオールは硬化性に劣る場合があるところ、アクリルポリオールを前記の範囲のように高水酸基価とすることで、架橋密度を高めて硬化性を確保することができる。アクリルポリオールの水酸基価が70mgKOH/g未満では、硬化性が劣る。アクリルポリオールの水酸基価が170mgKOH/gを超えると、密着性が劣る。本明細書において、アクリルポリオールの水酸基価は、アクリルポリオールの固形分100質量%を基準とした水酸基価をいう。
【0020】
ポリカーボネートジオールは、複数のポリカーボネート結合(‐OCOO‐)及び2つの水酸基をもつ化合物である。両末端が水酸基であることが好ましい。ポリカーボネートジオールを配合することによって、CFRPなどの基材に対する密着性を確保することができる。また、本実施形態に係る塗料組成物の硬化膜の上に、上塗りとして意匠層を塗装する場合、該意匠層に対する密着性も確保することができる。
【0021】
本実施形態に係る塗料組成物では、ポリカーボネートジオールの数平均分子量が500~1000であり、かつ、ポリカーボネートジオールの水酸基価が100~230mgKOH/gであることが好ましい。ポリカーボネートジオールの数平均分子量は、800~1000であることがより好ましい。また、ポリカーボネートジオールの水酸基価は100~120mgKOH/gであることがより好ましい。ポリカーボネートジオールの数平均分子量が500未満では、十分な密着性が得られない場合がある。ポリカーボネートジオールの数平均分子量が1000を超えると、塗装性が低下する場合がある。また、ポリカーボネートジオールの水酸基価が100mgKOH/g未満では、乾燥性が劣る場合がある。ポリカーボネートジオールの水酸基価が230mgKOH/gを超えると、密着性が低下する場合がある。本明細書において、ポリカーボネートジオールの水酸基価は、ポリカーボネートジオールの固形分100質量%を基準とした水酸基価をいう。
【0022】
本実施形態に係る塗料組成物では、アクリルポリオール及びポリカーボネートジオールの合計質量に対するポリカーボネートジオールの含有量は、1~19質量%であることが好ましく、2~15質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることがより更に好ましい。1質量%未満では、基材又は上塗りとの密着性に劣る場合がある。19質量%を超えると、乾燥性が劣る場合がある。
【0023】
ポリイソシアネートは、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であり、例えば、2,4‐トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン‐4,4’‐ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、n‐ペンタン‐1,4‐ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートである。これらは、任意の1種を単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0024】
主剤と硬化剤との配合割合は、アクリルポリオールとポリカーボネートジオールとの水酸基に対して、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基が0.5~1.5モル当量となるようにすることが好ましく、0.7~1.2モル当量とすることがより好ましい。0.5モル当量未満では、耐候性が劣る場合がある。1.5モル当量を超えると、密着性が劣る場合がある。
【0025】
主剤又は硬化剤は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、反応溶媒若しくは希釈溶媒などの溶媒、耐候剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、つや消し剤、スリップ剤、顔料、無機フィラー、光輝材、可塑剤、分散剤、乳化剤、流動調整剤、紫外線吸収剤若しくは光安定剤などの各種助剤を含有してもよい。
【0026】
本実施形態に係る塗料組成物では、塗料組成物の固形分濃度は、50~60質量%であることが好ましく、53~58質量%であることがより好ましい。ここで、塗料組成物の固形分濃度は、塗装時における塗料組成物の固形分濃度である。このように、塗料組成物を高めることで、1回の塗装での塗膜の厚さが40~60μmとなるような厚塗り塗装が可能となり、例えば2~3回の重ね塗りで良好な外観が得られるようになる。固形分が高くなると一般的に高粘度となり、塗料の流動性を確保しにくくなるが、本実施形態では、主樹脂として低分子量のアクリルポリオールを用いているため、塗料の流動性を確保することができる。塗料組成物の固形分濃度が50質量%未満では、垂直面におけるタレなどの外観異常が発生する場合がある。また、塗料組成物の固形分濃度が60質量%を超えると、塗装性が劣る場合がある。
【0027】
本実施形態に係る塗装品は、炭素繊維強化プラスチック製の基材と、基材の表面上に設けられた塗膜と、を備える塗装品において、塗膜は、基材の表面上又は基材の表面上に設けられたアンダーコート層の表面上に設けられた平滑層を有し、平滑層は、本実施形態に係る塗料組成物の硬化物からなる。
【0028】
基材は、CFRP製の部材である。基材の種類は特に限定されないが、例えば、自動車の外装などの自動車部品を構成する部材、又はラケット若しくは釣り竿などのレジャー用品を構成する部材である。
【0029】
平滑層は、本実施形態に係る塗料組成物の硬化物であり、膜状をなす。この硬化物は、主剤のアクリルポリオールと硬化剤のポリイソシアネートとが反応・硬化することによって形成されたアクリルウレタン系樹脂からなる。平滑層は、着色剤を含有しないクリア層であるか、又は着色剤を含有するカラー層であってもよい。平滑層は、基材の表面上に直接設けられてもよいし、基材の表面上に設けられたアンダーコート層などの下塗りの表面上に設けられてもよい。
【0030】
平滑層の形成では、主剤と硬化剤とを所定の割合で混合し、必要に応じて希釈溶媒で適度な固形分濃度に調整した本実施形態に係る塗料組成物を、基材の表面上又はアンダーコート層の表面上に塗布・乾燥して硬化膜を形成する。塗布方法は、公知の塗布方法を採用でき、例えば、ロールコート法、スプレー法、ディップ法、又ははけ塗り法である。希釈溶媒は、特に限定されず、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ノルマルブチルなどのエステル系溶媒、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒である。
【0031】
平滑層の厚さは、特に限定されないが、30~250μmであることが好ましく、40~150μmであることがより好ましい。このような範囲とすることで、基材の表面の繊維による凹凸を埋めて、平滑な表面を得ることができる。平滑層を所望の厚さとするために、複数回の塗装を行ってもよい。塗装の回数は2~3回であることが好ましい。
【0032】
塗膜は、基材と平滑層との間に、アンダーコート層を更に有していてもよい。アンダーコート層の材質は特に限定されず、例えば、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂又はポリエステル系樹脂である。アンダーコート層の形成は、適度な固形分濃度に調整したアンダーコート層形成用塗料組成物を、平滑層の形成と同様の方法で形成することができる。アンダーコート層の厚さは、特に限定されず、例えば、5~30μmであることが好ましく、10~20μmであることがより好ましい。
【0033】
本実施形態に係る塗装品では、塗膜は、平滑層の表面上に設けられた意匠層を更に有することが好ましい。
【0034】
意匠層の材質は特に限定されず、例えば、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂又はアクリルシリコン系樹脂である。意匠層は、着色剤を含有しないクリア層であるか、又は着色剤を含有するカラー層であってもよい。意匠層がクリア層であることで、CFRP成形品の有する繊維の素材感を活かした用途に好適である。また、意匠層がカラー層であることで、CFRPの有する強度などの物性を活かした自動車のボディーなどの多岐にわたる用途に適用できる。
【0035】
意匠層の形成は、適度な固形分濃度に調整した意匠層形成用塗料組成物を、平滑層の形成と同様の方法で形成することができる。意匠層の厚さは、特に限定されず、例えば、10~40μmであることが好ましく、20~30μmであることがより好ましい。
【実施例
【0036】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
(主剤の調製)
主剤として、アクリルポリオール(アクリディックA-859B、DIC社製;重量平均分子量3000、水酸基価138mgKOH/g、固形分濃度75質量%)を75質量部と、ポリカーボネートジオール(デュラノールT5651、旭化成社製;数平均分子量1000、水酸基価110mgKOH/g、固形分濃度100質量%)を5質量部と、紫外線吸収剤(チヌビン400、BASF社製)を2.4質量部と、光安定剤(チヌビン292、BASF社製)を1.2質量部と、消泡剤(BYK-392、BYK社製)を0.4質量部と、レベリング剤(BYK-302、BYK社製)を0.1質量部と、酢酸ブチルを7質量部と、プロピオン酸3-エトキシエタノール(ユーカエステルEEP、DOW CHEMICAL社製)を6.9質量部と、硬化触媒(ジラウリン酸ジブチルスズ、東京化成工業製、固形分濃度100質量%)を0.02質量部と、を配合した。主剤において、アクリルポリオール及びポリカーボネートジオールの合計質量に対するポリカーボネートジオールの含有量(表中、ポリカーボネートジオール 含有率と示す。)は、8.16質量%であった。
(塗料組成物の調製)
得られた主剤100質量部に対して、硬化剤としてポリイソシアネート(ポリハードZP-100、オリジン社製)を25質量部と、希釈溶媒(オリジンシンナー#210NO.2、オリジン社製)を30質量部とを配合して、塗料組成物とした。この塗料組成物の固形分濃度は55.6質量%であった。
(塗装品の形成)
得られた塗料組成物を、CFRP製基材(チャレンヂ社製、縦200mm、横200mm、厚さ1mm)の表面上にスプレー塗装し、80℃で30分間乾燥させた。1回のスプレー塗装で得られた塗膜の厚さは、45μmであった。スプレー塗装及び乾燥を3回繰り返し、合計で厚さ135μmの塗膜(平滑層)を形成し、塗装品を得た。
【0038】
(実施例2)
主剤の調製において、アクリルポリオール(アクリディックA-859B、DIC社製;重量平均分子量3000、水酸基価138mgKOH/g、固形分濃度75質量%)を、アクリルポリオール(アクリディックWNU-533、DIC社製;重量平均分子量7000、水酸基価70mgKOH/g、固形分濃度65質量%)に変更し、塗料組成物の調製において、主剤に、ポリイソシアネート(ポリハードZP-100、オリジン社製)を12質量部と希釈溶媒(オリジンシンナー#210NO.2、オリジン社製)を10部とを配合して、塗料組成物の固形分濃度を53.9質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして塗装品を得た。主剤において、アクリルポリオール及びポリカーボネートジオールの合計質量に対するポリカーボネートジオールの含有量(表中、ポリカーボネートジオール 含有率と示す。)は、9.30質量%であった。
【0039】
(実施例3)
主剤の調製において、アクリルポリオール(アクリディックA-859B、DIC社製;重量平均分子量3000、水酸基価138mgKOH/g、固形分濃度75質量%)を、アクリルポリオール(アクリディックWGU-337、DIC社製;重量平均分子量3000、水酸基価167mgKOH/g、固形分濃度69質量%)に変更し、塗料組成物の調製において、主剤に、ポリイソシアネート(ポリハードZP-100、オリジン社製)を30質量部と希釈溶媒(オリジンシンナー#210NO.2、オリジン社製)を30部とを配合して、塗料組成物の固形分濃度を54.2質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして塗装品を得た。アクリルポリオール及びポリカーボネートジオールの合計質量に対するポリカーボネートジオールの含有量(表中、ポリカーボネートジオール 含有率と示す。)は、8.81質量%であった。
【0040】
(実施例4)
主剤の調製において、ポリカーボネートジオール(デュラノールT5651、旭化成社製;数平均分子量1000、水酸基価110mgKOH/g、固形分濃度100質量%)5質量部を、ポリカーボネートジオール(ETERNACOLL UH‐50、宇部興産社製;数平均分子量500、水酸基価224mgKOH/g、固形分濃度100質量%)に変更した以外は、実施例1と同様にして塗装品を得た。アクリルポリオール及びポリカーボネートジオールの合計質量に対するポリカーボネートジオールの含有量(表中、ポリカーボネートジオール 含有率と示す。)は、8.16質量%であった。
【0041】
(実施例5)
塗料組成物の調製において、希釈溶媒の配合量を22質量部に変更し、固形分濃度を58.7質量%とした以外は、実施例1と同様にして塗装品を得た。
【0042】
(実施例6)
主剤の調製において、アクリルポリオール(アクリディックA-859B、DIC社製;重量平均分子量3000、水酸基価138mgKOH/g、固形分濃度75質量%)の配合量を80質量部に変更し、ポリカーボネートジオール(デュラノールT5651、旭化成社製;数平均分子量1000、水酸基価110mgKOH/g、固形分濃度100質量%)を1質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして塗装品を得た。主剤において、アクリルポリオール及びポリカーボネートジオールの合計質量に対するポリカーボネートジオールの含有量(表中、ポリカーボネートジオール含有率と示す。)は、1.64質量%であった。
【0043】
(実施例7)
主剤の調製において、アクリルポリオール(アクリディックA-859B、DIC社製;重量平均分子量3000、水酸基価138mgKOH/g、固形分濃度75質量%)の配合量を76質量部に変更し、ポリカーボネートジオール(デュラノールT5651、旭化成社製;数平均分子量1000、水酸基価110mgKOH/g、固形分濃度100質量%)を13質量部に変更し、塗料組成物の調製において、希釈溶媒(オリジンシンナー#210NO.2、オリジン社製)を40部として塗料組成物の固形分濃度を58.8質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして塗装品を得た。主剤において、アクリルポリオール及びポリカーボネートジオールの合計質量に対するポリカーボネートジオールの含有量は、18.57質量%であった。
【0044】
(実施例8)
塗装品の形成において、基材の表面上に厚さ10μmのアンダーコート層を設け、アンダーコート層の表面上に厚さ45μmの平滑層を設けた以外は、実施例1と同様にして塗装品を得た。アンダーコート層用形成用塗料は、2液型ポリエステル系塗料(製品名:オリジンプライマーU-03)を使用した。
【0045】
(実施例9)
塗装品の形成において、平滑層の表面上に厚さ25μmの意匠層を設けた以外は、実施例8と同様にして塗装品を得た。意匠層用形成塗料は、2液型アクリルウレタン系塗料(製品名:オリジプレートZ)を使用した。
【0046】
(比較例1)
ポリカーボネートジオールを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして塗装品を得た。
【0047】
(比較例2)
主剤の調製において、アクリルポリオール(アクリディックA-859B、DIC社製;重量平均分子量3000、水酸基価138mgKOH/g、固形分濃度75質量%)を、アクリルポリオール(ARUFON UH-2032、東亜合成社製;重量平均分子量2000、水酸基価110mgKOH/g、固形分濃度98質量%)に変更し、塗料組成物の調製において、希釈溶媒(オリジンシンナー#210NO.2、オリジン社製)を50部として塗料組成物の固形分濃度を59.1質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして塗装品を得た。アクリルポリオール及びポリカーボネートジオールの合計質量に対するポリカーボネートジオールの含有量(表中、ポリカーボネートジオール 含有率と示す。)は、6.37質量%であった。
【0048】
(比較例3)
主剤の調製において、アクリルポリオール(アクリディックA-859B、DIC社製;重量平均分子量3000、水酸基価138mgKOH/g、固形分濃度75質量%)を、アクリルポリオール(アクリディックA-827、DIC社製;重量平均分子量10000、水酸基価68mgKOH/g、固形分濃度65質量%)に変更し、塗料組成物の調製において、ポリイソシアネート(ポリハードZP-100、オリジン社製)を12質量部と希釈溶媒(オリジンシンナー#210NO.2、オリジン社製)を18部配合して、塗料組成物の固形分濃度を50.6質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして塗装品を得た。アクリルポリオール及びポリカーボネートジオールの合計質量に対するポリカーボネートジオールの含有量(表中、ポリカーボネートジオール 含有率と示す。)は、9.30質量%であった。
【0049】
得られた実施例及び比較例の塗装品について次の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
(密着性)
JIS K5600-5-6:1999「クロスカット法」に準じて、2mm×2mmの碁盤目状の切込みを100個入れ、粘着テープによる剥離試験を行った。評価基準についても同規格に準じて評価を行った。
○:剥離なし(実用レベル)。
×:1升以上の剥離(実用不適)。
【0052】
(耐候性)
耐光試験機(型式 スーパーキセノンウェザーメーター SX-75、スガ試験機社製)を用いて、部材を5cm×10cmに切断した試験板の塗膜表面を、光源としてキセノンアークランプを用いて1000MJ/cm照射した。試験機から取り出したのちL値、a値、b値および光沢値を測定し、初期値からのΔE値が3.0以下でなおかつ光沢保持率が80%以上となるものを実用レベルとした。
【0053】
(乾燥性)
トップコート層の形成後(乾燥後)、雰囲気温度24℃及び雰囲気湿度50%RHで10分放置し、摩擦感テスター(型式 KES‐SE FRICTION TESTER、カトーテック社製)を用いて計測した。評価基準は、計測値(MIU:平均摩擦係数)が1以下である場合を実用レベルとし、計測値が1を超える場合を実用不適とした。
【0054】
(上塗り性)
塗膜を形成した部材に対し、2液型アクリルウレタン系塗料(製品名:オリジプレートZ)を塗装し、80℃30分で乾燥させた後、塗膜の付着性を評価した。評価基準は次のとおりである。
○:剥離なし(実用レベル)。
△:剥離はしないが外観異常あり(実用不適)。
×:剥離する(実用不適)
【0055】
(耐湿性)
塗膜を形成した部材を50℃95%RHの耐湿試験機に240時間放置した後、試験機から取り出して、塗膜の付着性を評価した。評価基準は次のとおりである。
○:剥離なし(実用レベル)。
△:剥離はしないが外観異常あり(実用不適)。
×:剥離する(実用不適)
【0056】
(耐水性)
塗膜を形成した部材を40℃の温水に360時間浸漬させた後、温水から取り出して、表面の温水をふき取り、塗膜の付着性を評価した。評価基準は次のとおりである。
○:剥離なし(実用レベル)。
△:剥離はしないが外観異常あり(実用不適)。
×:剥離する(実用不適)。
【0057】
(耐熱性)
塗膜を形成した部材を80℃の恒温槽に500時間放置した後、試験機から取り出して、外観について評価した。評価基準は次のとおりである。
○:外観異常なし(実用レベル)。
×:外観異常あり(実用不適)。
【0058】
(耐酸性)
塗膜を形成した部材に0.1N硫酸水溶液を0.2ml滴下し、25℃で24h放置したのちに表面の試験液をふき取り、外観を評価した。評価基準は次のとおりである。
○:外観異常なし(実用レベル)。
×:外観異常あり(実用不適)。
【0059】
(耐アルカリ性)
塗膜を形成した部材に0.1N水酸化ナトリウム水溶液を0.2ml滴下し、25℃で24h放置したのちに表面の試験液をふき取り、外観を評価した。評価基準は次のとおりである。
○:外観異常なし(実用レベル)。
×:外観異常あり(実用不適)。
【0060】
(耐ガソリン性)
塗膜を形成した部材にクロスカットを入れ、レギュラーガソリンに0.5h浸漬したのち、レギュラーガソリンから取り出して、表面のレギュラーガソリンをふき取り、塗膜の付着性を評価した。評価基準は次のとおりである。
○:剥離なし(実用レベル)。
△:剥離はしないが外観異常あり(実用不適)。
×:剥離する(実用不適)。
【0061】
(外観)
10cm×10cmのCFRP板に塗装し、発生する外観不具合(ピンホール)の数をカウントして単位面積当たりの発生数を算出した。評価基準は以下の通りである。
〇:25個/100cm未満(実用レベル)
×:25個/100cm以上(実用不適)
【0062】
各実施例は、いずれの評価も実用レベルであった。比較例1は、ポリカーボネートジオールを配合しなかったため、基材との密着性が実用不適レベルであり、耐湿性及び耐水性も実用不適レベルであった。比較例2は、アクリルポリオールの重量平均分子量が2000と低かったため、乾燥性が実用不適レベルであった。比較例3は、アクリルポリオールの重量平均分子量が10000と高かったため、塗装性が実用不適レベルであり、外観も実用不適レベルとなった。
【要約】
【課題】本開示は、CFRP成形品に対する塗装において従来生じていた、低い歩留まり及び生産性の低下を改善することができる塗料組成物及び塗装品を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る塗料組成物は、アクリルポリオールとポリカーボネートジオールとを含有する主剤と、ポリイソシアネートを含有する硬化剤と、を含有する2液系の塗料組成物において、アクリルポリオールの重量平均分子量が3000~7000であり、かつ、アクリルポリオールの水酸基価が70~170mgKOH/gである。
【選択図】なし