(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】計時器用ムーブメントのためのバランスばね及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 17/06 20060101AFI20220404BHJP
G04B 17/32 20060101ALI20220404BHJP
F16F 1/02 20060101ALI20220404BHJP
F16F 1/10 20060101ALI20220404BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20220404BHJP
C22C 27/02 20060101ALI20220404BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20220404BHJP
C22C 9/04 20060101ALI20220404BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
G04B17/32
F16F1/02 A
F16F1/02 B
F16F1/10
C22C14/00 Z
C22C27/02 102Z
C22F1/18 H
C22F1/18 F
C22C9/04
C22F1/00 613
C22F1/00 625
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 630Z
C22F1/00 630F
C22F1/00 630K
C22F1/00 673
C22F1/00 686Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020183437
(22)【出願日】2020-11-02
【審査請求日】2020-11-02
(32)【優先日】2019-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・シャルボン
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-113549(JP,A)
【文献】特開2019-113528(JP,A)
【文献】スイス国特許出願公開第00714493(CH,A3)
【文献】太刀川 恭治,金属系超電導線材 - 研究開発のあゆみ -,低温工学 基礎講座,44 巻 10 号,日本,2009年,DOI https://doi.org/10.2221/jcsj.44.456
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06,17/32
G04B 17/22
F16F 1/02, 1/10
C22F 1/00, 1/18
C22C 9/04
C22C 14/00
C22C 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器用ムーブメントのバランスを装着するように意図されたバランスばねの製造方法であって、
a)
100重量%までの残りの量のNbと、
5~95重量%のTiと、及び
O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu及びAlからなる群から選択される一又は複数の微量元素であって、前記元素のそれぞれの含有量が0~1600重量ppmであり、前記元素全体の総量が0~0.3重量%である、微量元素と
を含有する合金によって作られたNb-Tiによって作られたコアを備えるブランクを利用可能にするステップと、
b)前記Nb-Tiによって作られたコアを備えるブランクのまわりに第1の厚みを有する第1の材料の層を形成するステップと、
c)前記ステップb)によって得られたブランクのまわりに、第1の材料の層の厚みよりも大きい第2の厚みを有する第2の材料の層を形成するステップであって、前記第1の材料と前記第2の材料が、前記第1の材料を実質的に攻撃することなく、物理的又は化学的に選択的に除去することができるように選択される、ステップと、
d)
d1)前記ステップc)によって得られたブランクを較正直径である所定の直径にする一連の成形段階のステップと、及び
d2)前記ステップd1)によって得られた丸いブランクを平坦に圧延する一連の圧延ステップと
を備えるいくつかのシーケンスによってブランクを成形するステップと、
e)圧延されたワイヤ状のブランクを所定の長さを有するブレードに切断するステップと、
f)バランスばねを形成するように前記ブレードを巻くステップと、並びに
g)バランスばねの最終熱処理を行うステップと
を備え、
当該方法は、さらに、最初の前記圧延ステップd2)の前又は遅くとも前記ステップd2)の最終段階の前に、ブランクの伸長度が約10%でありつつ少なくとも1つのドロープレートを通過させることが依然として可能な直径にブランクが達したときに、前記ステップc)にて形成された前記第2の材料の層を除去するステップh)を備える
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1の材料は、Nb、Au、Ta、V及びオーステナイト系ステンレス鋼(316Lグレード鋼)からなる群から選ばれ、
前記第2の材料は、Cu、Ag、CuとNiの合金、及びCuとZnの単相α型合金(Cu-Zn30)からなる群から選ばれる
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の材料はNbであり、
前記第2の材料はCuである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップh)においては、最初の前記圧延ステップd2)の前に、ブランクの伸長度が約10%でありつつ2つのドロープレートを通過させることが依然として可能な直径にブランクが達したときに、前記第2の材料の層を除去する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップd1)においては、打ち延ばし及び/又は引き出しによって前記ステップc)にて得られたブランクを冷間成形する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記
第2の材料がCuである場合の前記Cuの層を除去するステップh)は、シアン化物又は酸を含有する溶液内における化学的攻撃によって行われる
ことを特徴とする請求項
3に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも前記ステップd1)及び/又はd2)の前に、前記合金のTiが、実質的にβ相のNbを含有する固溶体の形態となるようにブランクをβ型硬化させるβ型硬化ステップを行う
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記β型硬化ステップは、真空下で5分~2時間、700~1000℃の温度で行う溶体化処理であり、その後に、気体中で冷却する
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップg)の最終熱処理は、1時間~80時間の持続時間、350~700℃の
温度で行うα相のTiを析出させる処理である
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記成形ステップd1)及び/又はd2)の各シーケンスの間又は特定のシーケンスの間に、
1時間~80時間の持続時間、350~700℃の温度でα相のTiを析出させる中間熱処理を行う
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップd2)の終わりにおける前記第1の材料の層の厚みは、
50nm~5μmであり、
前記Nb-Tiによって作られたコアの直径は、15~50μmである
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップc)によって形成される前記第2の材料の層は、Nb-Tiによって作られたワイヤ状のコアの直径が100μmであるときに、1μm~100μmの厚みを有する
ことを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
各シーケンス
での変形の変形度は、
式「2ln(d0/d);d0は最後のβ型硬化の直径であり、dは冷間加工されるワイヤの直径」)で示され、それによる変形度
は1~5で
表され、全シーケンスにわたっての
合計の変形度
は1~14
である
ことを特徴とする請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の材料の層を形成するステップb)は、前記Nb-Tiによって作られたコアのまわりに前記第1の材料の細長材を巻くことによって行う
ことを特徴とする請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の材料の層を形成するステップc)は、前記第2の材料によって作られた管内に前記ステップb)の終わりにて得られたブランクを挿入し、その後に、前記ステップb)の終わりにて得られた管とブランクのアセンブリーに対して引き出し及び/又は打ち延ばしをすることによって行う
ことを特徴とする請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
Nb-Tiによって作られたコアを備え、計時器用ムーブメントのバランスを装着することを意図されたバランスばねであって、
前記コアは、
100重量%までの残りの量のNbと、
5~95重量%のTiと、及び
O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu及びAlからなる群から選択される微量元素であって、前記元素のそれぞれの含有量が0~1600重量ppmであり、前記元素全体の総量が0~0.3重量%であるような、微量元素と
を含有する合金によって作られ、
前記Nb-Tiによって作られたコアは、
Nb、Ta、V及びオーステナイト系ステンレス鋼(316Lグレード鋼)からなる群から選択される第1の材料の層で被覆され、
前記第1の材料の層は、20nm~10μmの厚みを有する
ことを特徴とするバランスばね。
【請求項17】
前記第1の材料の層は、300nm~1.5μmの厚みを有する
ことを特徴とする請求項16に記載のバランスばね。
【請求項18】
前記第1の材料の層は、400nm~800nmの厚みを有する
ことを特徴とする請求項16又は17に記載のバランスばね。
【請求項19】
前記第1の材料はNbである
ことを特徴とする請求項16~18のいずれか一項に記載のバランスばね。
【請求項20】
Tiの含有量は、
40~65重量%である
ことを特徴とする請求項16~19のいずれか一項に記載のバランスばね。
【請求項21】
Nb-Tiによって作られたコアは、β相のNbとα相のTiを含有する二相の微細構造を備える
ことを特徴とする請求項16~20のいずれか一項に記載のバランスばね。
【請求項22】
500MPa以上の弾性限界値、及び
120GPa以下の弾性率を有する
ことを特徴とする請求項16~21のいずれか一項に記載のバランスばね。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器用ムーブメントのバランスを装着するように意図されたバランスばねを製造する方法と、本方法によって得られるバランスばねに関する。
【背景技術】
【0002】
計時器のためのバランスばねの製造においては、しばしば一見すると相容れない以下の制約に直面する。
- 高い弾性限界値を得る必要性
- 加工の容易さ、特に、引き出しと圧延の容易さ、
- 疲労強度が優れていること
- 長い期間にわたってのパフォーマンスの安定性
- 断面が小さいこと
【0003】
バランスばねの作成においては、さらに、規則的なクロノメーター的性能を確実にするように、熱補償の問題にも焦点を当てられている。このためには、ゼロに近い熱弾性係数を得なければならない。また、磁場に対する感受性が抑えられたバランスばねを作ることも求められている。
【0004】
NbとTiの合金に基づく新しいバランスばねが開発されている。しかし、これらの合金は、ドロープレートやローラーにくっついたり焼き付いたりするという問題を発生させ、このことによって、鋼などのために用いられる標準的な方法では微細なワイヤに変換することがほぼ不可能となってしまっている。
【0005】
この課題を解決するために、ドロープレートと圧延ミル内における成形の前に、Nb-Tiによって作られたブランク上に延性材料、特に、Cu、の層を堆積させることが提案されている。
【0006】
ワイヤ上のこのCu層には、成形ステップにおいて粘着防止剤としての役割を果たすために、厚い層(典型的には直径0.1mmのNb-Tiに対して10μm)として堆積されなければならないという課題がある。これは、ワイヤの較正及び圧延の間にワイヤの幾何学的構成を精密に制御することを可能にしない。このようなワイヤのNb-Tiによって作られたコアの寸法のばらつきは、バランスばねのトルクの顕著なばらつきを発生させてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明は、Cuの層に関連する課題を避けつつ成形することによって成形を容易にすることができるバランスばねを製造する方法を提案する。
【0008】
これに関連して、本発明は、計時器用ムーブメントのバランスを装着するように意図されたバランスばねの製造方法に関する。この方法は、
a)
100重量%までの残りの量のNbと、
5~95重量%のTiと、及び
O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu及びAlからなる群から選択される一又は複数の微量元素であって、前記元素のそれぞれの含有量が0~1600重量ppmであり、前記元素全体の総量が0~0.3重量%である、微量元素と
を含有する合金によって作られたNb-Tiによって作られたコアを備えるブランクを利用可能にするステップと、
b)前記Nb-Tiによって作られたコアを備えるブランクのまわりに第1の厚みを有する第1の材料の層を形成するステップと、
c)前記ステップb)によって得られたブランクのまわりに、第1の材料の層の厚みよりも大きい第2の厚みを有する第2の材料の層を形成するステップであって、前記第1の材料と前記第2の材料が、前記第1の材料を実質的に攻撃することなく、物理的又は化学的に選択的に除去することができるように選択される、ステップと、
d)
d1)前記ステップc)によって得られたブランクを較正直径と呼ばれる所定の直径を有する丸いブランクにする一連の成形段階のステップと、及び
d2)前記ステップd1)によって得られた丸いブランクを平坦に圧延する一連の圧延ステップと
を備えるいくつかのシーケンスによってブランクを成形するステップと、
e)圧延されたワイヤ状のブランクを所定の長さを有するブレードに切断するステップと、
f)バランスばねを形成するように前記ブレードを巻くステップと、並びに
g)バランスばねの最終熱処理を行うステップと
を備え、
当該方法は、さらに、最初の前記圧延ステップd2)の前又は遅くとも前記ステップd2)の最終段階の前に、各ドロープレートにてブランクの伸長度(degree of elongation)が約10%でありつつ少なくとも1つのドロープレート、好ましくは、2つのドロープレート、を通過させることが依然として可能な直径にブランクが達したときに、前記ステップc)にて形成された前記第2の材料の層を除去するステップh)を備える。
【0009】
ブランクを所定の寸法及び幾何学的構成にするためにブランクが多くの成形段階を経るので、これらの一連の成形段階の間に劣化しないような十分厚い層でブランクを被覆して、一連のドロープレート内にて付着することを防がなければならない。これを行うために、本発明によると、Cuのような延性材料の層でブランクを被覆する。計時器用のバランスばねを作るためのCu層の厚みは、約10μmである。それにもかかわらず、出願人は、Cu層で覆われたブランクの外側寸法が一連のブランクの成形段階の間に良好に制御される一方で、Nb-Tiによって作られたコアの寸法が制御されないことを認識した。このようにして、出願人は、好ましくはNb-Tiによって作られたコアの熱弾性係数(TEC)に適合する、第1の粘着防止材料の微細層(ブランクが15~50μmの直径に達した場合に、典型的には800nm~1.2μmで選択される)で、Nb-Tiによって作られたブランクを被覆し、その後に、第1の材料の層よりも厚い第2の延性材料の層でブランクを被覆して、第1の材料の「微細な」層を保持しつつ、最終ステップの前に、第2の材料の「厚い」層をまず成形して、次いで除去する一連のステップを実行するという創造性のあるアイデアを得るに至った。この「微細な」層によって、Nb-Tiによって作られたコアの寸法構成を完全に制御しつつ、ドロープレートにくっつかずにワイヤを形成する最終ステップを実行することが可能になる。
【0010】
第1の材料は、好ましくは、Nb、Au、Ta、V、オーステナイト系ステンレス鋼、及び316Lグレード鋼からなる群から選択され、第2の材料は、Cu、Ag、CuとNiの合金、及びCuとZnの単相α型合金(例えば、CuZn30)からなる群から選択される。
【0011】
好ましいことに、第1の材料はNbであり、第2の材料はCu(例えば、ETP(電解タフピッチ)、OF(無酸素)又はOFE(無酸素電子)のグレード)である。
【0012】
このような状況で、本発明に係るバランスばねを製造する方法の好ましい実施形態は、Nb-Tiによって作られたコアを被覆するNbの微細層を形成し、そして、厚いCu層を形成し、被覆されたコアを部分的に形成し、残りのCu層を除去し、そして、Nbで単純に被覆されたNb-Tiによって作られたコアの形成を完成させるステップを備える。したがって、このNb層は、ドロープレートとニップロールと接触する外層を形成する。このNb層は、化学的に不活性であり延性であり、容易にバランスばねワイヤを引き出して圧延することを可能にする。このNb層には、巻くステップの後の固定するステップの後に、バランスばねの間の分離を容易にするという別の利点もある。
【0013】
Nbの層は、製造方法の終わりにてバランスばね上に保持される。バランスばねの熱弾性係数(TEC)を著しく変化させないように、厚みが50nm~5μm、好ましくは200nm~1.5μm、より好ましくは800nm~1.2μmであり、十分に微細である。また、Nbの熱弾性係数は、Nb-Tiの熱弾性係数と同様であり、このことによって、補償を行うバランスばねを得ることを容易にする。
【0014】
また、Nbは、Nb-Tiによって作られたコアに完全に接着する。このようなNb層の厚みは、典型的には、直径15~100μmのNb-Tiによって作られたコアに適合する。
【0015】
好ましいことに、本発明に係る方法のステップd1)においては、打ち延ばし及び/又は引き出しによって、ステップc)において得られたブランクを冷間成形する。
【0016】
本発明に係る方法の好ましい実施形態において、少なくともステップd1)及び/又はd2)の前に、前記ブランクのβ型の硬化ステップが行われ、これは、前記合金のTiが実質的に固溶体の形態であり、Nbがβ相であり、好ましくは、このβ型硬化ステップは溶体化処理であり、真空下で5分~2時間の継続時間、700~1000℃の温度で処理され、その後に、気体中で冷却される。
【0017】
好ましくは、第2の材料がCuである場合、第2の材料の層を除去するステップは、シアン化物又は酸、例えば、硝酸、を含有する溶液における化学的攻撃によって行われる。
【0018】
好ましくは、ステップg)の最終熱処理は、温度が350~700℃、持続時間が1時間~80時間、好ましくは温度が400~600℃、持続時間が5時間~30時間である、α相のTiを析出させる処理である。
【0019】
好ましくは、ステップg)は、温度が350~700℃、持続時間が1時間~80時間、好ましくは温度が400~600℃、持続時間が5時間~30時間である、α相のTiを析出させる熱処理を行う。代替形態の1つにおいて、成形ステップd1)及び/又はd2)の各シーケンス又は特定のシーケンスの後に、さらに、温度が350~700℃、1時間~80時間、好ましくは400~600℃、5時間~30時間の、α相のTiを析出させる中間熱処理を行うことができる。
【0020】
本方法の一実施形態において、ステップc)において形成される第2の材料、典型的にはCu、の層は、Nb-Tiによって形成されるワイヤのコアの直径が100μmであるときに、1μm~100μmの厚みを有する。
【0021】
好ましくは、ステップd1)及び/又はd2)の各シーケンスは、変形度が1~5であり、全シーケンスにわたる成形ステップの全体の合計が1~14の全変形度を与える。各シーケンスg)の変形度は、伝統的な式2ln(d0/d)に対応する。ここで、d0は、最後のβ型硬化の直径であり、dは、冷間加工されるワイヤの直径である。
【0022】
好ましいことに、第1の材料の層、典型的にはNbの層、を形成するステップb)は、第1の材料、例えば、Nb、の細長材をNb-Tiによって作られたコアのまわりに巻くことによって行われ、第2の材料の層、典型的にはCu層、を形成するステップc)は、ステップb)の終わりに得られたブランクを第2の材料、例えば、Cu、の管に挿入し、その後に、管及びステップb)の終わりに得られたブランクのアセンブリーに対して引き出し及び/又は打ち延ばしをすることによって行う。
【0023】
本発明は、さらに、計時器用ムーブメントのバランスを装着するように意図されたバランスばねに関し、これは、
- 100重量%までの残りの量のNbと、
- 5~95重量%のTiと、及び
- O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu及びAlからなる群から選択される微量元素であって、前記元素のそれぞれの含有量が0~1600重量ppmであり、前記元素全体の総量が0~0.3重量%である、微量元素と
を含有する合金によって作られたNb-Tiによって作られたコアを備え、Nb-Tiによって作られたコアは、Nb、Au、Ta、V及びオーステナイト系ステンレス鋼(316Lグレード鋼)から選択される第1の材料の層で被覆され、この第1の材料の層は、20nm~10μmの厚みを有する。
【0024】
好ましいことに、第1の材料の層は、300nm~1.5μm、好ましくは400nm~800nmの厚みを有する。
【0025】
好ましい実施形態によると、第1の材料はNbである。
【0026】
好ましいことに、Tiの含有量は40~65重量%、好ましくは40~49重量%、より好ましくは46~48重量%、である。
【0027】
好ましいことに、Nb-Tiによって作られたコアは、β相のNb及びα相のTiを含む二相の微細構造を有する。
【0028】
好ましくは、ばねは、500MPa以上、好ましくは600MPa以上、の弾性限界と、120GPa以下、好ましくは100GPa以下、の弾性率を有する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、計時器用ムーブメントのバランスを装着するように意図されたバランスばねを製造する方法に関する。このバランスばねは、NbとTiを含有する二元タイプの合金によって作られている。本発明は、さらに、本方法によって得られたバランスばねに関する。
【0030】
以下において第1の材料としてNb、第2の材料としてCuを用いて、本方法について詳細に説明する
【0031】
本発明によると、本製造方法は、以下のステップを備える。
a)
- 100重量%までの残りの量のNbと、
- 5~95重量%のTiと、及び
- O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu及びAlからなる群から選択される一又は複数の微量元素であって、前記元素のそれぞれの含有量が0~1600重量ppmであり、前記元素全体の総量が0~0.3重量%である、微量元素と
を含有する合金によって作られたNb-Tiによって作られたコアを備えるブランクを利用可能にするステップ
b)Nb-Tiによって作られたコアを備えるブランクのまわりにNbの層を形成するステップ
c)ステップb)によって得られたブランクのまわりにCuの層を形成するステップ
d)
d1)前記ステップc)によって得られたブランクを較正直径と呼ばれる所定の直径にする一連の成形段階のステップ
d2)前記ステップd1)によって得られた丸いブランクを一連の平坦に圧延するステップ
を含むいくつかのシーケンスにてブランクを成形するステップ
e)圧延されたワイヤを所定の長さのブレードに切断するステップ
f)バランスばねを形成するように巻くステップ
g)バランスばねの最終熱処理を行うステップ
【0032】
本発明に係る方法は、さらに、前記ステップc)によって形成された前記Cu層を除去するステップh)を備え、前記ステップc)の時点において、第1の圧延ステップd2)の前に又は遅くとも前記ステップd2)の最終段階の前に、ブランクを少なくとも1つのドロープレートに通過させることができ、好ましくは、2つのドロープレートに通過させることができ、ブランクの伸長度が各ドロープレートにおいて約10%であるような直径に達する。
【0033】
以下、本方法について詳細に説明する。
【0034】
ステップa)では、コアは、Tiを5~95重量%含有するNb-Ti合金によって作られている。好ましいことに、本発明で用いられる合金は、Tiを40~60重量%含有する。好ましくは、Tiを40~49重量%、より好ましくは46~48重量%、含有する。Tiの割合は、実装の際に合金の脆性の問題を発生させるマルテンサイト相の形成を避けつつ、α相の形態のTiの析出物の最大割合を得るのに十分である。
【0035】
特に有利な形態において、本発明で用いられるNb-Ti合金は、可能性がある避けられない微量元素を除いて、他の元素を含有しない。これによって、脆弱相の形成を避けることができる。
【0036】
特に、酸素の含有量は、全量の0.10重量%以下、さらには全量の0.085重量%以下である。
【0037】
特に、Taの含有量は、全量の0.10重量%以下である。
【0038】
特に、炭素の含有量は、全量の0.04重量%以下、さらには全量の0.020重量%以下、さらには全量の0.0175重量%以下である。
【0039】
特に、Feの含有量は、全量の0.03重量%以下、さらには全量の0.025重量%以下、さらには全量の0.020重量%以下である。
【0040】
特に、窒素の含有量は、全量の0.02重量%以下、さらには全量の0.015重量%以下、さらには全量の0.0075重量%以下である。
【0041】
特に、水素の含有量は、全量の0.01重量%以下、さらには全量の0.0035重量%以下、さらには全量の0.0005重量%以下である。
【0042】
特に、Siの含有量は、全量の0.01重量%以下である。
【0043】
特に、Niの含有量は全量の0.01重量%以下、さらには全量の0.16重量%以下である。
【0044】
特に、合金におけるCuのような延性材料の含有量は、全量の0.01重量%以下、さらには全量の0.005重量%以下である。
【0045】
特に、アルミニウムの含有量は、全量の0.01重量%以下である。
【0046】
ステップb)では、ステップa)におけるブランクのNb-Tiによって作られたコアをNb層で被覆する。コアのまわりのNb層の付加は、電気的に、PVDやCVDによって、又は機械的に行うことができる。機械的に行う場合、Nbの管をNb-Tiによって作られた合金の棒体に嵌める。打ち延ばし及び/又は引き出しによってアセンブリーを形成して、棒体を細くし、ステップa)で利用可能にされるブランクを形成する。Nb層の厚みは、所定のワイヤ断面における、[Nbの面]/[Nb-Tiによって作られたコアの面]の比が1未満、好ましくは0.5未満、より好ましくは0.01~0.4であるように選択される。例えば、直径全体が0.2~1mmのワイヤの場合、厚みは、好ましくは1~500μmである。
【0047】
代わりに、Nbの層は、Nb-Tiによって作られたコアのまわりにてNbの細長材を巻くことによって作ることができ、Nbの細長材/Nb-Tiによって作られたコアのアセンブリーは、打ち延ばし及び/又は引き出しによって成形されて、棒体が細くされ、ステップa)の終わりにて利用可能にされるブランクを形成する。
【0048】
ステップb)にて得られたブランクのNb-Tiによって作られたコアをステップc)にてCu層で被覆する。このようなコアまわりのCu層の付加は、電気的に、PVDやCVDによって、又は機械的に行うことができる。機械的に行う場合、Nb層で被覆されたNb-Ti合金の棒体にCu管を嵌める。そのアセンブリーを打ち延ばし及び/又は引き出しによって成形して、棒体を細くし、ステップb)の終わりにて利用可能にされるブランクを形成する。Cu層の厚みは、所定のワイヤ断面において、[Cuの面]/[Nb層で被覆されたNb-Tiによって作られたコアの面]の比が、1未満、好ましくは0.5未満、より好ましくは0.01~0.4であるように選択される。例えば、直径全体が0.2~1mmのワイヤの場合、厚みは、好ましくは1~500μmである。
【0049】
代わりに、Cuの層は、Nbの層で被覆されたNb-Tiによって作られたコアのまわりにCuの細長材を巻き、そして、このNbの細長材/Nb-Tiによって作られたコアのアセンブリーを打ち延ばし及び/又は引き出しによって成形して、棒体を細くして、ステップb)の終わりにて利用可能にされるブランクを形成することによって作ることができる。
【0050】
さらなる別の代替形態においては、Nbで被覆されたNb-Tiによって作られたコアの細長材をCuの管内に挿入して、このアセンブリーは、ドロープレートを通して約600~900度の温度で熱間共押し出しされる。
【0051】
少なくとも後の成形ステップの前に、溶体化処理を伴うβ型の硬化を行う。この処理は、合金のTiが、実質的にNbがβ相となっている固溶体の形態であるように行われる。この処理は、好ましくは、真空下で700~1000℃の温度で5分~2時間の継続時間行い、その後に、気体中で冷却する。特に、このβ型硬化は、真空下で5分~1時間800℃で行われる溶体化処理であり、その後に、気体中で冷却する。
【0052】
成形ステップd)は、いくつかのシーケンスで行われる。成形とは、引き出し及び/又は圧延による成形を意味する。
【0053】
好ましいことに、成形ステップは、好ましくは冷間にて、ステップd1)で指定される打ち延ばし及び/又は引き出し及び/又は較正引き出しによって行われる、少なくとも順次的な成形シーケンスを含む。ステップd1)は、ステップc)の終わりにて得られたブランクを、ワイヤの較正直径と呼ばれる所定の直径にすることを可能にする。
【0054】
本発明によると、本方法は、さらに、ステップd1)の間に、後の第1の圧延ステップd2)の前に、ブランクの伸長度が約10%でありつつ少なくとも1つのドロープレートを通過させることが依然として可能であるような直径にブランクが達したときに、ステップc)において形成されたCuの層を除去するステップh)を備える。Cuの層を除去するこのステップは、シアン化物又は酸を含有する溶液内にて、例えば、水における53重量%の濃度の硝酸の槽内にて、化学的攻撃によって行われる。
【0055】
そして、好ましくは、巻きスピンドルの入力断面に適合する矩形プロファイルを用いる、一連の巻き操作を行い、このシーケンスはステップd2)を形成する。
【0056】
ステップd1)及びd2)の各シーケンスは、1~5の所定の成形度で行われ、この成形度は、伝統的な式2ln(d0/d)に対応する。ここで、d0は、最後のβ型硬化の直径であり、dは、冷間加工されるワイヤの直径である。この一連のシーケンス全体にわたっての成形ステップ全体の全成形度(total degree of forming)は、1~14となる。
【0057】
ステップd2)の終わりにて、Nb-Tiによって作られたコアを被覆するNb層の厚みは、20nm~10μm、好ましくは300nm~1.5μm、より好ましくは400~800nmである。
【0058】
そして、ステップd2)の終わりにて得られたブレードに圧延されたワイヤは、ステップe)にて所定の長さに切断される。
【0059】
バランスばねを形成するように巻くステップf)の後に、バランスばねの最終熱処理のステップg)を行う。この最終熱処理は、1~80時間、好ましくは5~30時間、の継続時間、350~700℃、好ましくは400~600℃、の温度での、α相のTiを析出させる処理である。
【0060】
有利な代替形態の1つにおいて、本方法は、さらに、成形ステップd1)及び/又はd2)の各シーケンスの間又は特定のシーケンスの間にて、350~700℃、好ましくは400~600℃の5時間~30時間の温度、1時間~80時間の持続時間の、α相のTiを析出させる中間熱処理を含むことができる。好ましいことに、この中間処理は、第1の引き出しシーケンスと第2の較正-引き出しシーケンスの間のステップd1)において行われる。
【0061】
本方法によって製造されるバランスばねの弾性限界は、500MPa以上であり、好ましくは600MPaよりも大きく、より正確には500~1000MPaである。好ましいことに、このバランスばねの弾性率は、120GPa以下、好ましくは100GPa以下である。
【0062】
バランスばねは、Nb層で被覆されたNb-Tiによって作られたコアを備え、前記Nb層の厚みは、50nm~5μm、好ましくは200nm~1.5μm、より好ましくは800nm~1.2μm、である。
【0063】
バランスばねのコアは、β相のNb及びα相のTiを含有する二相の微細構造を有する。
【0064】
また、本発明によって製造されるバランスばねは、このようなバランスばねを採用する携行型時計(例、腕時計、懐中時計)の使用温度の変動にもかかわらず、クロノメーター的性能を保持することを確実にすることができるような、TECとも呼ばれる熱弾性係数を有する。
【0065】
本発明に係る方法は、Tiを40~60重量%、典型的には47重量%、含有するNb-Tiタイプの合金によって作られるバランスのためのバランスばねを作ること、より詳細には、成形すること、を可能にする。この合金においては、600MPaよりも大きい非常に高い弾性限界と、約60GPa~80GPaの非常に低い弾性率を組み合わせることによって、機械的特性が向上している。この特性の組み合わせは、バランスばねに良好に適合する。また、このような合金は常磁性である。