(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】セラミック支持体、ゼオライト膜複合体、ゼオライト膜複合体の製造方法および分離方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/10 20060101AFI20220404BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220404BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20220404BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20220404BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20220404BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/02
B01D71/02 500
B01D69/00
C04B38/00 303Z
(21)【出願番号】P 2020509683
(86)(22)【出願日】2019-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2019000322
(87)【国際公開番号】W WO2019187479
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2018067398
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】宮原 誠
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158582(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169591(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/158583(WO,A1)
【文献】特開2005-262043(JP,A)
【文献】特開2011-000588(JP,A)
【文献】特表2016-523800(JP,A)
【文献】特開2010-089990(JP,A)
【文献】特開2012-110849(JP,A)
【文献】特開2008-074695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
B01D 53/22
C04B 39/48
C04B 38/00
C04B 41/86
B01J 20/20-20/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト膜支持用の多孔質のセラミック支持体であって、
透水係数は1.1×10
-3m/s以下であり、
表面に垂直な深さ方向において前記表面から30μm以内の表層部におけるアルカリ金属およびアルカリ土類金属の合計含有率は1重量%以下である。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミック支持体であって、
前記表層部の気孔率は50%以下である。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセラミック支持体であって、
前記表層部を含む中間層と、
前記中間層よりも平均粒径が大きく、前記中間層のゼオライト膜と接触する表面とは反対側から前記中間層を支持する支持層と、
を備える。
【請求項4】
ゼオライト膜複合体であって、
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のセラミック支持体と、
前記セラミック支持体の前記表面上に形成されたゼオライト膜と、
を備える。
【請求項5】
請求項4に記載のゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の表面における表面異常の割合は15%以下である。
【請求項6】
請求項4または5に記載のゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の厚さは0.1μm以上かつ30μm以下である。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜における酸化ケイ素の含有率は、酸化アルミニウムの含有率の10倍以上である。
【請求項8】
ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
a)請求項1ないし3のいずれか1つに記載のセラミック支持体を準備する工程と、
b)種結晶を準備する工程と、
c)前記セラミック支持体上に前記種結晶を付着させる工程と、
d)原料溶液に前記セラミック支持体を浸漬し、水熱合成により前記種結晶からゼオライトを成長させて前記セラミック支持体上にゼオライト膜を形成する工程と、
を備える。
【請求項9】
分離方法であって、
a)請求項4ないし7のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体を準備する工程と、
b)複数種類の気体または液体を含む混合物質を前記ゼオライト膜複合体に供給し、前記混合物質中の透過性が高い物質を、前記ゼオライト膜複合体を透過させることにより他の物質から分離する工程と、
を備える。
【請求項10】
請求項9に記載の分離方法であって、
前記混合物質は、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック支持体、ゼオライト膜複合体、ゼオライト膜複合体の製造方法、および、ゼオライト膜複合体を用いた混合物質の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、支持体上にゼオライト膜を形成してゼオライト膜複合体とすることにより、ゼオライトの分子篩作用を利用した特定の分子の分離や分子の吸着等の用途について、様々な研究や開発が行われている。
【0003】
ゼオライト膜複合体を製造する方法の1つとして、酸化アルミニウム等により形成された多孔質のセラミック支持体を原料溶液に浸漬し、水熱合成により支持体上にゼオライト膜を生成する方法が知られている。水熱合成は高温高圧下で行われるため、支持体を構成する成分が原料溶液中に溶出するおそれがある。支持体から溶出した物質は、ゼオライト膜の生成に好ましくない影響を与える場合がある。具体的には、所望の組成比と異なる組成比を有するゼオライト膜が生成されるおそれがある。また、ゼオライト膜中に異相が副生されることにより、ゼオライト膜の性能が低下するおそれもある。あるいは、ゼオライト膜の生成が阻害され、支持体表面の被覆不良(例えば、ゼオライト膜のピンホール等)が生じるおそれもある。
【0004】
そこで、特許第3316173号公報(文献1)では、支持体を酸化タンタルまたは酸化ニオブにより形成することにより、原料溶液中への溶出量を低減する技術が提案されている。
【0005】
一方、特許第4961322号公報(文献2)では、ゼオライト膜用の支持体として、アルカリ金属酸化物および/またはアルカリ土類金属酸化物を1重量%~4重量%含有したアルミナ質基体が提案されている。
【0006】
また、国際公開第2016/084845号(文献3)では、ゼオライト膜の一部が多孔質支持体内部に入り込んでいるゼオライト膜複合体が開示されている。当該ゼオライト膜複合体を製造する際には、支持体に無機粒子を直接擦り込む等して付着させた後に、ゼオライト膜が形成される。このように、無機粒子を支持体に付着させて、支持体の細孔内に当該無機粒子の層を形成することにより、ゼオライト膜が支持体の細孔内に過剰に入り込むことを抑制している。
【0007】
ところで、文献1の支持体は、酸化タンタルまたは酸化ニオブという高価な材料により形成されているため、ゼオライト膜複合体の製造コストが増大する。また、文献2の支持体では、支持体に含まれているアルカリ金属やアルカリ土類金属が比較的多いため、水熱合成の際にアルカリ金属やアルカリ土類金属が支持体から溶出し、ゼオライト膜に異常(例えば、ゼオライト膜の組成比のずれ、異相副生による性能低下、ピンホール等の欠陥)が生じるおそれがある。文献3の支持体においても、無機粒子を付着させた支持体の表面は、部分的に無機粒子から露出して原料溶液に接触しているため、焼結助剤または不純物として支持体に含まれているアルカリ金属やアルカリ土類金属が、水熱合成の際に支持体から溶出する。したがって、文献2の支持体と同様に、溶出したアルカリ金属やアルカリ土類金属により、ゼオライト膜に異常が生じるおそれがある。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、ゼオライト膜支持用の多孔質のセラミック支持体に向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るセラミック支持体は、透水係数は1.1×10-3m/s以下であり、表面に垂直な深さ方向において前記表面から30μm以内の表層部におけるアルカリ金属およびアルカリ土類金属の合計含有率は1重量%以下である。本発明によれば、ゼオライト膜における異常の発生を抑制することができる。
【0009】
好ましくは、前記表層部の気孔率は50%以下である。
【0010】
好ましくは、前記支持体は、前記表層部を含む中間層と、前記中間層よりも平均粒径が大きく、前記中間層のゼオライト膜と接触する表面とは反対側から前記中間層を支持する支持層と、を備える。
【0011】
本発明は、ゼオライト膜複合体にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体は、上述のセラミック支持体と、前記セラミック支持体上に形成されたゼオライト膜と、を備える。
【0012】
好ましくは、前記ゼオライト膜の表面における表面異常の割合は15%以下である。
【0013】
好ましくは、前記ゼオライト膜の厚さは0.1μm以上かつ30μm以下である。
【0014】
好ましくは、前記ゼオライト膜における酸化ケイ素の含有率は、酸化アルミニウムの含有率の10倍以上である。
【0015】
本発明は、ゼオライト膜複合体の製造方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体の製造方法は、a)上述のセラミック支持体を準備する工程と、b)種結晶を準備する工程と、c)前記セラミック支持体上に前記種結晶を付着させる工程と、d)原料溶液に前記支持体を浸漬し、水熱合成により前記種結晶からゼオライトを成長させて前記セラミック支持体上にゼオライト膜を形成する工程と、を備える。
【0016】
本発明は、分離方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る分離方法は、a)上述のゼオライト膜複合体を準備する工程と、b)複数種類のガスまたは液体を含む混合物質を前記ゼオライト膜複合体に供給し、前記混合物質中の透過性が高い物質を、前記ゼオライト膜複合体を透過させることにより他の物質から分離する工程と、を備える。
【0017】
好ましくは、前記混合物質は、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0018】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】ゼオライト膜複合体の製造の流れを示す図である。
【
図6】実施例のゼオライト膜のX線回折パターンである。
【
図7】比較例のゼオライト膜のX線回折パターンである。
【
図8】水熱合成時間と窒素透過量との関係を示す図である。
【
図9】実施例のゼオライト膜の表面を示す図である。
【
図10】比較例のゼオライト膜の表面を示す図である。
【
図11】実施例のゼオライト膜の表面を示す図である。
【
図12】実施例のゼオライト膜の表面を示す図である。
【
図13】比較例のゼオライト膜の表面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るゼオライト膜複合体1の断面図である。ゼオライト膜複合体1は、多孔質のセラミック支持体11と、セラミック支持体11の表面上に形成されたゼオライト膜12とを備える。セラミック支持体11は、ゼオライト膜支持用の支持体であり、以下の説明では、単に「支持体11」とも呼ぶ。
【0021】
図1に示す例では、支持体11は、長手方向(すなわち、図中の上下方向)にそれぞれ延びる複数の貫通孔111が設けられた略円柱状のモノリス型支持体である。各貫通孔111(すなわち、セル)の長手方向に垂直な断面は、例えば略円形である。
図1では、貫通孔111の径を実際よりも大きく、貫通孔111の数を実際よりも少なく描いている。ゼオライト膜12は、貫通孔111の内側面上に形成され、貫通孔111の内側面を略全面に亘って被覆する。
図1では、ゼオライト膜12を太線にて描いている。
【0022】
支持体11の長さ(すなわち、図中の上下方向の長さ)は、例えば10cm~200cmである。支持体11の外径は、例えば0.5cm~30cmである。隣接する貫通孔111の中心軸間の距離は、例えば0.3mm~10mmである。支持体11の表面粗さ(Ra)は、例えば0.1μm~2.0μmであり、好ましくは0.2μm~1.0μmである。なお、支持体11の形状は、例えば、ハニカム状、平板状、管状、円筒状、円柱状または多角柱状等であってもよい。支持体11の形状が管状である場合、支持体11の厚さは、例えば0.1mm~10mmである。
【0023】
本実施の形態では、支持体11はガスや液体(すなわち、流体)を透過可能な多孔質であり、ゼオライト膜12は、複数種類の物質が混合した混合流体から、分子篩作用を利用して特定の物質を分離する分子分離膜である。例えば、ゼオライト膜12は、複数種類のガスを含む混合ガスから特定のガスを分離するガス分離膜として利用されてもよい。また、ゼオライト膜12は、複数種類の液体を含む混合液から特定の液体を分離する液体分離膜として利用されてもよい。ゼオライト膜12は、ガスと液体とが混合された混合流体から特定の物質を分離する分離膜として利用されてもよい。あるいは、ゼオライト膜12は、浸透気化膜としても利用可能である。ゼオライト膜複合体1は、さらに他の用途に利用されてもよい。
【0024】
支持体11の材料は、表面にゼオライト膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々なセラミックが採用可能である。支持体11の材料として選択されるセラミック焼結体としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。本実施の形態では、支持体11は、アルミナ、シリカおよびムライトのうち、少なくとも1種類を含む。支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも1つを用いることができる。また、支持体11は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む。当該アルカリ金属およびアルカリ土類金属は、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)等である。
【0025】
支持体11の透水係数は、1.1×10-3m/s以下であり、好ましくは5.8×10-4m/s以下であり、より好ましくは2.3×10-4m/s以下である。支持体11の透水係数の下限は、0m/sよりも大きければ特に限定されないが、典型的には、当該透水係数は1.1×10-5m/s以上であり、より典型的には1.2×10-4m/s以上である。
【0026】
支持体11の透水係数は、以下のように測定した。まず、支持体11の長手方向の一方の端部をシールすることにより、支持体11の貫通孔111(すなわち、セル)の一方側を目封じした状態とした。続いて、支持体11の長手方向の他方の端部から、貫通孔111内に蒸留水を供給した。このとき、供給される蒸留水の流量、圧力および水温を測定した。次に、支持体11を透過して支持体11の外側面から導出される蒸留水の流量を測定した。そして、測定結果を、水温25℃、0.1MPa加圧条件下に換算し、当該換算値に基づいて、支持体11を単位時間に透過した単位面積あたりの水量である透水係数を求めた。
【0027】
図2は、ゼオライト膜複合体1の一部を拡大して示す断面図である。支持体11は、中間層112と、支持層113とを備える積層構造体である。中間層112および支持層113の材料は、上記のものを用いることができる。中間層112の材料と、支持層113の材料とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。中間層112は、ゼオライト膜12に直接的に接触し、ゼオライト膜12を支持する。中間層112のゼオライト膜12と接触する表面114は、支持体11の貫通孔111の内側面である。支持層113は、ゼオライト膜12とは反対側から中間層112を支持する。換言すれば、支持層113は、中間層112のゼオライト膜12と接触する表面114とは反対側から、中間層112を支持する。
図2では、支持体11のうち、中間層112近傍の部位を図示している。
【0028】
中間層112は、比較的平均粒径が小さい粒子により形成される。支持層113は、中間層112よりも平均粒径が大きい粒子により形成される。中間層112を構成する粒子(すなわち、骨格粒子)の平均粒径は、好ましくは0.001μm~100μmであり、より好ましくは0.01μm~80μmであり、さらに好ましくは0.1μm~50μmである。支持層113を構成する粒子(すなわち、骨格粒子)の平均粒径は、好ましくは5μm~200μmであり、より好ましくは25μm~170μmであり、さらに好ましくは50μm~150μmである。中間層112の平均粒径は、中間層112を研磨して形成された研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により観察し、任意の20個の骨格粒子の粒径を平均して求められる。各骨格粒子の粒径は、当該骨格粒子の最大径と最小径との平均として求められる。支持層113の平均粒径についても同様である。
【0029】
中間層112の平均細孔径は、支持層113の平均細孔径よりも小さい。中間層112の平均細孔径は、好ましくは0.001μm~1μmであり、より好ましくは0.01μm~1μmであり、さらに好ましくは0.05μm~0.5μmである。支持層113の平均細孔径は、好ましくは0.5μm~50μmであり、より好ましくは1μm~30μmであり、さらに好ましくは10μm~25μmである。中間層112および支持層113の平均細孔径は、水銀ポロシメータ、パームポロメータ、ナノパームポロメータ等によって測定することができる。
【0030】
中間層112の気孔率は、好ましくは50%以下であり、より好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは30%以下である。中間層112の気孔率の下限は、0%よりも大きければ特に限定されないが、典型的には5%以上であり、より典型的には10%以上である。支持層113の気孔率は、好ましくは5%~50%であり、より好ましくは10%~45%であり、さらに好ましくは15%~40%である。支持層113の気孔率は、支持層113のみを対象として水銀圧入法によって測定した。また、中間層112は、中間層112の断面を電子顕微鏡により撮像し、撮像結果を二値化して画像解析することにより算出した。
【0031】
中間層112の厚さは、例えば5μm~500μmであり、好ましくは10μm~400μmであり、より好ましくは15μm~300μmである。中間層112の厚さとは、中間層112の表面114に略垂直な深さ方向(すなわち、支持体11の貫通孔111の径方向)における、中間層112の表面114と支持層113の表面115との間の距離である。中間層112の表面114の位置、および、支持層113の表面115の位置は、例えば、支持体11の断面のSEM画像を観察することにより求めることができる。
【0032】
以下の説明では、上記深さ方向において、支持体11の表面114から30μm以内の部位を「表層部116」と呼ぶ。換言すれば、表層部116は、支持体11のうち、表面114から30μmの深さの位置と、支持体11の表面114との間の部位全体を指す。中間層112の厚さが30μmよりも大きい場合、
図2に示すように、表層部116全体が中間層112に含まれ、表層部116と支持層113との間に、中間層112の一部が存在する。中間層112の厚さが30μmである場合、表層部116は中間層112と一致する。いずれの場合であっても、中間層112は表層部116全体を含む。
【0033】
表層部116の気孔率は、中間層112と同じである。具体的には、表層部116の気孔率は、好ましくは50%以下であり、より好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは30%以下である。表層部116の気孔率の下限は、0%よりも大きければ特に限定されないが、典型的には5%以上であり、より典型的には10%以上である。表層部116の骨格粒子の平均粒径、および、平均細孔径も、中間層112と同じである。
【0034】
上述のように、支持体11は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を含むが、必要に応じて含まなくてもよい。ただし、アルカリ金属およびアルカリ土類金属が含まれていない場合、支持体11の焼結温度が高くなる傾向がある。表層部116におけるアルカリ金属およびアルカリ土類金属の合計含有率は、1重量%以下であり、好ましくは0.5重量%以下であり、より好ましくは0.1重量%以下である。当該合計含有率の下限は特に限定されないが、典型的には、0.0001重量%以上であり、より典型的には0.001重量%以上である。アルカリ金属およびアルカリ土類金属の合計含有率は、X線光電子分光分析法によって測定することができる。
【0035】
中間層112の作製は、例えば、次のように行われる。まず、中間層112の骨材、有機バインダ、pH調整剤および界面活性剤を水に添加し、ボールミルで12時間以上混合する。当該混合の目的は、中間層骨材の粉砕ではなく解膠(ほぐすこと)であるため、ボールミルにおいて、中間層骨材よりも硬度が小さいボールを使用した。例えば、中間層骨材がアルミナである場合、ボールミルではジルコニアボールが使用される。ボールミル混合時のスラリーの濃度(すなわち、中間骨材の濃度)は、好ましくは50%以下である。スラリー濃度を50%以下とすることにより、中間層骨材に有機バインダ、pH調整剤および界面活性剤が機能しやすくなると考えられる。その後、上記スラリーを所定量の水で希釈する。当該水の中には、消泡剤を添加しておくことが好ましい。さらに、当該水には、pH調整剤が添加され、消泡剤およびpH調整剤が添加された水のpHが、当該水による希釈前のスラリーのpHと略同じとされることが好ましい。これにより、消泡剤の影響によってスラリーのpHが変化して再凝集が生じることを抑制することができる。次に、水により希釈されたスラリーを攪拌しながら真空中で脱気することにより、中間層112用のスラリーを調製する。これにより、中間層112用のスラリーの分散性を高めることができるため、焼成温度が比較的低い場合であっても、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の含有率を低減させつつ高強度な中間層112を得ることができる。なお、中間層112用のスラリーには、必要に応じて、無機結合材(例えば、酸化チタン等)が焼結助剤として添加されていてもよい。
【0036】
ゼオライト膜12の厚さは、例えば0.1μm~30μmであり、好ましくは0.5μm~20μmであり、さらに好ましくは1μm~10μmである。ゼオライト膜12を厚くすると分離性能が向上する。ゼオライト膜12を薄くすると透過速度が増大する。ゼオライト膜12の表面粗さ(Ra)は、例えば5μm以下であり、好ましくは2μm以下である。
【0037】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトの種類は特に限定されないが、ゼオライト膜12が分離膜として使用される場合、透過物質の透過量および分離性能の観点から、当該ゼオライトの最大員環数は、6または8であることが好ましい。より好ましくは、ゼオライト膜12の最大員環数は8である。
【0038】
ゼオライト膜12は、例えば、AFX型のゼオライトである。換言すれば、ゼオライト膜12は、国際ゼオライト学会が定める構造コードが「AFX」であるゼオライトである。この場合、ゼオライト膜12を構成するゼオライトの固有細孔径は、0.34nm×0.36nmである。ゼオライト膜12の固有細孔径は、支持体11の平均細孔径よりも小さい。
【0039】
ゼオライト膜12は、AFX型のゼオライトには限定されず、他の構造を有するゼオライトであってもよい。ゼオライト膜12は、例えば、AEI型、AEN型、AFN型、AFV型、CHA型、DDR型、ERI型、ETL型、GIS型、LEV型、LTA型、RHO型、SAT型等のゼオライトであってもよい。
【0040】
ゼオライト膜12は、例えば、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)およびリン(P)のうちいずれか1つ以上を含有する。本実施の形態では、ゼオライト膜12は、少なくともAl、SiおよびO(酸素)を含有するアルミノケイ酸塩系ゼオライトである。本実施の形態では、ゼオライト膜12は、酸化アルミニウム(Al2O3)および二酸化ケイ素(SiO2)を含む。
【0041】
ゼオライト膜12におけるSiO2の含有率は、Al2O3の含有率の10倍以上であることが好ましい。換言すれば、ゼオライト膜12におけるシリカ/アルミナ比は、10以上であることが好ましい。当該シリカ/アルミナ比は、より好ましくは12以上であり、さらに好ましくは20以上である。ゼオライト膜12におけるシリカ/アルミナ比の上限は特に限定されないが、典型的には、当該シリカ/アルミナ比は10000以下であり、より典型的には1000以下である。
【0042】
次に、
図3を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1の製造の流れについて説明する。まず、ゼオライト膜複合体1の製造に使用される支持体11が準備される(ステップS11)。また、ゼオライト膜12の製造に利用される種結晶が準備される(ステップS12)。種結晶は、例えば、水熱合成にてAFX型のゼオライトの粉末が生成され、当該ゼオライトの粉末から取得される。当該ゼオライトの粉末はそのまま種結晶として用いられてもよく、当該粉末を粉砕等によって加工することにより種結晶が取得されてもよい。ステップS11とステップS12とは、並行して行われてもよく、ステップS12がステップS11よりも前に行われてもよい。
【0043】
続いて、種結晶を分散させた溶液に多孔質の支持体11を浸漬し、種結晶を支持体11に付着させる(ステップS13)。あるいは、種結晶を分散させた溶液を、支持体11上のゼオライト膜12を形成させたい部分に接触させることにより、種結晶を支持体11に付着させる。これにより、種結晶付着支持体が作製される。種結晶は、他の手法により支持体11に付着されてもよい。
【0044】
種結晶が付着された支持体11は、原料溶液に浸漬される。原料溶液は、例えば、Si源、Al源および構造規定剤(Structure-Directing Agent、以下「SDA」とも呼ぶ。)等を、水等の溶媒に溶解させることにより作製する。原料溶液の組成は、例えば、1Al2O3:23SiO2:10Na2O:2.8SDA:1000H2Oである。原料溶液に含まれるSDAとしては、ゼオライトがAFX型の場合、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-C4-ジクアットジブロミドを用いることができる。
【0045】
そして、水熱合成により当該種結晶を核としてAFX型のゼオライトを成長させることにより、支持体11上にAFX型のゼオライト膜12が形成される(ステップS14)。水熱合成時の温度は、好ましくは110~200℃であり、例えば160℃である。水熱合成時間は、好ましくは10~100時間であり、例えば30時間である。このとき、原料溶液中のSi源とAl源との配合割合等を調整することにより、AFX型のゼオライト膜12の組成を調整することができる。
【0046】
水熱合成が終了すると、支持体11およびゼオライト膜12を純水で洗浄する。洗浄後の支持体11およびゼオライト膜12は、例えば80℃にて乾燥される。支持体11およびゼオライト膜12が乾燥すると、ゼオライト膜12を加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ゼオライト膜12内の微細孔を貫通させる(ステップS15)。ゼオライト膜12の加熱温度および加熱時間は、例えば、450℃および50時間である。これにより、上述のゼオライト膜複合体1が得られる。なお、ゼオライト膜12の製造においてSDAを使用しない場合、ステップS15におけるSDAの燃焼除去は省略される。
【0047】
次に、
図4および
図5を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1を利用した混合物質の分離について説明する。
図4は、分離装置2を示す図である。
図5は、分離装置2による混合物質の分離の流れを示す図である。
【0048】
分離装置2では、複数種類の流体(すなわち、ガスまたは液体)を含む混合物質をゼオライト膜複合体1に供給し、混合物質中の透過性が高い物質を、ゼオライト膜複合体1を透過させることにより他の物質から分離させる。分離装置2における分離は、例えば、透過性が高い物質を混合物質から抽出する目的で行われてもよく、透過性が低い物質を濃縮する目的で行われてもよい。
【0049】
当該混合物質(すなわち、混合流体)は、上述のように、複数種類のガスを含む混合ガスであってもよく、複数種類の液体を含む混合液であってもよく、ガスおよび液体の双方を含む気液二相流体であってもよい。
【0050】
分離装置2では、20℃~400℃におけるゼオライト膜複合体1のCO2の透過量(パーミエンス)は、例えば100nmol/m2・s・Pa以上である。また、20℃~400℃におけるゼオライト膜複合体1のCO2の透過量/CH4漏れ量比(パーミエンス比)は、例えば100以上である。当該パーミエンスおよびパーミエンス比は、ゼオライト膜複合体1の供給側と透過側とのCO2の分圧差が1.5MPaである場合のものである。
【0051】
混合物質は、例えば、水素(H2)、ヘリウム(He)、窒素(N2)、酸素(O2)、水(H2O)、水蒸気(H2O)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物、アンモニア(NH3)、硫黄酸化物、硫化水素(H2S)、フッ化硫黄、水銀(Hg)、アルシン(AsH3)、シアン化水素(HCN)、硫化カルボニル(COS)、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0052】
窒素酸化物とは、窒素と酸素の化合物である。上述の窒素酸化物は、例えば、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、亜酸化窒素(一酸化二窒素ともいう。)(N2O)、三酸化二窒素(N2O3)、四酸化二窒素(N2O4)、五酸化二窒素(N2O5)等のNOX(ノックス)と呼ばれるガスである。
【0053】
硫黄酸化物とは、硫黄と酸素の化合物である。上述の硫黄酸化物は、例えば、二酸化硫黄(SO2)、三酸化硫黄(SO3)等のSOX(ソックス)と呼ばれるガスである。
【0054】
フッ化硫黄とは、フッ素と硫黄の化合物である。上述のフッ化硫黄は、例えば、二フッ化二硫黄(F-S-S-F,S=SF2)、二フッ化硫黄(SF2)、四フッ化硫黄(SF4)、六フッ化硫黄(SF6)または十フッ化二硫黄(S2F10)等である。
【0055】
C1~C8の炭化水素とは、炭素が1個以上かつ8個以下の炭化水素である。C3~C8の炭化水素は、直鎖化合物、側鎖化合物および環式化合物のうちいずれであってもよい。また、C3~C8の炭化水素は、飽和炭化水素(すなわち、2重結合および3重結合が分子中に存在しないもの)、不飽和炭化水素(すなわち、2重結合および/または3重結合が分子中に存在するもの)のどちらであってもよい。C1~C4の炭化水素は、例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、プロパン(C3H8)、プロピレン(C3H6)、ノルマルブタン(CH3(CH2)2CH3)、イソブタン(CH(CH3)3)、1-ブテン(CH2=CHCH2CH3)、2-ブテン(CH3CH=CHCH3)またはイソブテン(CH2=C(CH3)2)である。
【0056】
上述の有機酸は、カルボン酸またはスルホン酸等である。カルボン酸は、例えば、ギ酸(CH2O2)、酢酸(C2H4O2)、シュウ酸(C2H2O4)、アクリル酸(C3H4O2)または安息香酸(C6H5COOH)等である。スルホン酸は、例えばエタンスルホン酸(C2H6O3S)等である。当該有機酸は、鎖式化合物であってもよく、環式化合物であってもよい。
【0057】
上述のアルコールは、例えば、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、イソプロパノール(2-プロパノール)(CH3CH(OH)CH3)、エチレングリコール(CH2(OH)CH2(OH))またはブタノール(C4H9OH)等である。
【0058】
メルカプタン類とは、水素化された硫黄(SH)を末端に持つ有機化合物であり、チオール、または、チオアルコールとも呼ばれる物質である。上述のメルカプタン類は、例えば、メチルメルカプタン(CH3SH)、エチルメルカプタン(C2H5SH)または1-プロパンチオール(C3H7SH)等である。
【0059】
上述のエステルは、例えば、ギ酸エステルまたは酢酸エステル等である。
【0060】
上述のエーテルは、例えば、ジメチルエーテル((CH3)2O)、メチルエチルエーテル(C2H5OCH3)またはジエチルエーテル((C2H5)2O)等である。
【0061】
上述のケトンは、例えば、アセトン((CH3)2CO)、メチルエチルケトン(C2H5COCH3)またはジエチルケトン((C2H5)2CO)等である。
【0062】
上述のアルデヒドは、例えば、アセトアルデヒド(CH3CHO)、プロピオンアルデヒド(C2H5CHO)またはブタナール(ブチルアルデヒド)(C3H7CHO)等である。
【0063】
以下の説明では、分離装置2により分離される混合物質は、複数種類のガスを含む混合ガスであるものとして説明する。
【0064】
分離装置2は、ゼオライト膜複合体1と、封止部21と、外筒22と、シール部材23と、供給部26と、第1回収部27と、第2回収部28とを備える。ゼオライト膜複合体1、封止部21およびシール部材23は、外筒22内に収容される。供給部26、第1回収部27および第2回収部28は、外筒22の外部に配置されて外筒22に接続される。
【0065】
封止部21は、ゼオライト膜複合体1の支持体11の長手方向両端部に取り付けられ、支持体11の長手方向両端面を被覆して封止する部材である。封止部21は、支持体11の当該両端面からのガスの流入および流出を防止する。封止部21は、例えば、ガラスにより形成された板状部材である。封止部21の材料および形状は、適宜変更されてよい。なお、支持体11の貫通孔111の長手方向両端は、封止部21により被覆されていない。したがって、当該両端から貫通孔111への混合ガスの流入および流出は可能である。
【0066】
外筒22は、略円筒状の筒状部材である。ゼオライト膜複合体1の長手方向(すなわち、図中の左右方向)は、外筒22の長手方向に略平行である。外筒22の長手方向の一方の端部(すなわち、図中の左側の端部)には供給ポート221が設けられ、他方の端部には第1排出ポート222が設けられる。外筒22の側面には、第2排出ポート223が設けられる。外筒22の内部空間は、外筒22の周囲の空間から隔離された密閉空間である。
【0067】
供給ポート221には、供給部26が接続される。供給部26は、混合ガスを、供給ポート221を介して外筒22の内部空間に供給する。供給部26は、例えば、外筒22に向けて混合ガスを圧送するブロワーである。当該ブロワーは、外筒22に供給する混合ガスの圧力を調節する圧力調節部を備える。第1排出ポート222には、第1回収部27が接続される。第2排出ポート223には、第2回収部28が接続される。第1回収部27および第2回収部28は、例えば、外筒22から導出されたガスを貯留する貯留容器である。
【0068】
シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の長手方向両端部近傍において、ゼオライト膜複合体1の外側面(すなわち、支持体11の外側面)と外筒22の内側面との間に、全周に亘って配置される。シール部材23は、ガスが透過不能な材料により形成された略円環状の部材である。シール部材23は、例えば、可撓性を有する樹脂により形成されたOリングである。シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の外側面および外筒22の内側面に全周に亘って密着する。シール部材23とゼオライト膜複合体1の外側面との間、および、シール部材23と外筒22の内側面との間は、シールされており、ガスの通過は不能である。
【0069】
混合ガスの分離が行われる際には、上述の分離装置2が用意されることにより、ゼオライト膜複合体1が準備される(ステップS21)。続いて、供給部26により、ゼオライト膜12に対する透過性が異なる複数種類のガスを含む混合ガスが、外筒22の内部空間に供給される。例えば、混合ガスの主成分は、CH4、CO2およびN2である。混合ガスには、CH4、CO2およびN2以外のガスが含まれていてもよい。供給部26から外筒22の内部空間に供給される混合ガスの圧力(すなわち、導入圧)は、例えば、0.1MPa~10MPaである。
【0070】
供給部26から外筒22に供給された混合ガスは、矢印251にて示すように、ゼオライト膜複合体1の図中の左端から、支持体11の各貫通孔111内に導入される。混合ガス中の透過性が高いガス(例えば、CO2およびN2であり、以下、「高透過性物質」と呼ぶ。)は、各貫通孔111の内側面上に設けられたゼオライト膜12、および、支持体11を透過して支持体11の外側面から導出される。これにより、高透過性物質が、混合ガス中の透過性が低いガス(例えば、CH4であり、以下、「低透過性物質」と呼ぶ。)から分離される(ステップS22)。支持体11の外側面から導出されたガス(すなわち、高透過性物質)は、矢印253にて示すように、第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収される。
【0071】
また、混合ガスのうち、ゼオライト膜12および支持体11を透過したガスを除くガス(以下、「不透過物質」と呼ぶ。)は、支持体11の各貫通孔111を図中の左側から右側へと通過し、矢印252にて示すように、第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収される。不透過物質には、上述の低透過性物質以外に、ゼオライト膜12を透過しなかった高透過性物質が含まれていてもよい。
【0072】
次に、表1および表2、
図6~
図13を参照しつつ、支持体11の特性と、ゼオライト膜12の分離性能との関係を示す実施例1~8および比較例1~4について説明する。表1中の透水係数は、支持体11の透水係数である。表1中の合計含有率は、表層部116におけるアルカリ金属およびアルカリ土類金属の合計含有率である。表1中の気孔率は、表層部116の気孔率である。
【0073】
実施例1~8では、支持体11の透水係数は1.1×10-3m/s以下であり、表層部116におけるアルカリ金属およびアルカリ土類金属の合計含有率は1重量%以下であった。一方、比較例1~4では、支持体の透水係数は1.1×10-3m/sよりも大きく、表層部におけるアルカリ金属およびアルカリ土類金属の合計含有率は1重量%よりも大きかった。
【0074】
【0075】
【0076】
図6は、実施例1のゼオライト膜12をX線回折(XRD:X-ray diffraction)装置により測定した際のX線回折パターンを示す図である。
図7は、比較例1のゼオライト膜を当該X線回折装置により測定した際のX線回折パターンを示す図である。
図6および
図7では、各ゼオライト膜のX線回折パターンを実線にて示し、AFX型ゼオライト結晶のX線回折パターンを破線にて示す。X線回折パターンの測定には、株式会社リガク製MiniFlex600を使用した。
【0077】
X線回折に用いるX線は、CuKα線である。また、X線の出力は、600Wである。管電圧40kV、管電流15mA、走査速度5°/min、走査ステップ0.02°とした。検出器は、シンチレーションカウンターを使用した。発散スリット1.25°、散乱スリット1.25°、受光スリット0.3mm、入射ソーラースリット5.0°、受光ソーラースリット5.0°とした。モノクロメーターは使用せず、CuKβ線フィルターとして0.015mm厚ニッケル箔を使用した。
【0078】
図6および
図7から、実施例1では、ゼオライト膜12がほぼ単相のAFX型ゼオライトであるのに対し、比較例1では、AFX型のゼオライト膜に、AFX型ゼオライトとは異なる組成を有する異相が含まれていることが分かる。
図7に示す比較例1では、矢印81,82にて示す位置に、異相に対応するピーク(およびハロー)が生じている。比較例1の当該異相は、支持体の表層部に含まれるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属が、水熱合成時に溶出したことにより生成されたものと考えられる。
【0079】
実施例2~8、および、比較例2~4についても、実施例1および比較例1と同様に、XRDにより異相の有無を確認した。実施例2~5では、実施例1と同様に、ゼオライト膜12はほぼ単相のAFX型ゼオライトであり、異相はほとんど含まれていなかった。一方、比較例2では、比較例1と同様に、AFX型のゼオライト膜に、AFX型ゼオライトとは異なる組成を有する異相が含まれていた。実施例6~7では、ゼオライト膜12はほぼ単相のDDR型ゼオライトであり、異相はほとんど含まれていなかった。一方、比較例3では、DDR型のゼオライト膜に、DDR型ゼオライトとは異なる組成を有する異相が含まれていた。実施例8では、ゼオライト膜12はほぼ単相のCHA型ゼオライトであり、異相はほとんど含まれていなかった。一方、比較例4では、CHA型のゼオライト膜に、CHA型ゼオライトとは異なる組成を有する異相が含まれていた。
【0080】
図8は、実施例1について、ゼオライト膜12生成時の水熱合成時間と、当該水熱合成により生成されたゼオライト膜12のN
2透過量(nmol/m
2・s・Pa)との関係を示す図である。
図8では、比較例1のゼオライト膜についても当該関係を併せて示す。実施例1では、水熱合成時間が長くなるに従って、ゼオライト膜12が緻密になり、N
2透過量が実用レベルまで速やかに低減した。一方、比較例1では、上述のように、ゼオライト膜中に異相が副生されているため、水熱合成時間を長くしても、ゼオライト膜は十分には緻密にならなかった。
【0081】
実施例2~8、および、比較例2~4についても、実施例1および比較例1と同様に、ゼオライト膜のN2透過量を確認した。実施例2~8では、実施例1と同様に、水熱合成時間が長くなるに従って、ゼオライト膜12が緻密になり、N2透過量が実用レベルまで速やかに低減した。一方、比較例2~4では、比較例1と同様に、水熱合成時間を長くしても、ゼオライト膜は十分には緻密にならなかった。
【0082】
上述の異相は、ゼオライト膜の成長と共に成長し、ゼオライト膜の表面に現れるものもあれば、ゼオライト膜中に留まって表面には現れないものもある。
図9は、実施例1のAFX型のゼオライト膜12の表面を示すSEM画像である。
図10は、比較例1のAFX型のゼオライト膜の表面を示すSEM画像である。
図10に示す比較例1のゼオライト膜では、符号84を付した円にて囲むように、ゼオライト膜の表面に表面異常が複数発生している。当該表面異常は、例えば、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属に起因して生成された異相結晶、非晶質またはピンホール等である。一方、
図9に示す実施例1のゼオライト膜12では、ゼオライト膜12の表面には、表面異常はほとんど見られない。
【0083】
図11および
図12はそれぞれ、実施例6,7のDDR型のゼオライト膜12の表面を示すSEM画像である。
図13は、比較例3のDDR型のゼオライト膜の表面を示すSEM画像である。
図11に示す実施例6のゼオライト膜12では、ゼオライト膜12の表面異常(すなわち、図中の白っぽい粒状の部分)が僅かに見られ、
図12に示す実施例6のゼオライト膜12では、ゼオライト膜12の表面異常はほとんど見られない。一方、
図13に示す比較例3のゼオライト膜では、ゼオライト膜12の表面に、多数の表面異常(すなわち、図中の白っぽい粒状のものが連続または融合している部分)が発生している。
【0084】
本発明に係るゼオライト膜複合体1では、ゼオライト膜12の表面における表面異常の割合(以下、「表面異常率」と呼ぶ。)は、好ましくは15%以下である。表面異常率は、ゼオライト膜12の表面の全面積に対する、ゼオライト膜12の表面に存在する表面異常の合計面積の割合である。ゼオライト膜12の表面異常率は、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。当該表面異常率の下限は特に限定されないが、典型的には、当該表面異常率は0.01%以上であり、より典型的には0.1%以上である。
【0085】
上記表面異常率は、以下のように求める。まず、ゼオライト膜12の表面のSEM画像において、所定の大きさの領域を選択し、当該領域に存在する表面異常の合計面積を、当該領域の全面積にて除算することにより、当該領域の表面異常率を算出する。そして、SEM画像上の10個の領域についてそれぞれ求めた表面異常率の平均を、ゼオライト膜12の表面の表面異常率とする。
【0086】
実施例1~5,7のゼオライト膜12の表面異常率は1%以下であり、実施例6のゼオライト膜12の表面異常率は6%であった。実施例8のCHA型のゼオライト膜12では、ゼオライト膜12表面のSEM画像において、異相結晶等の表面異常は観察されなかったため、表2中では「検出限界以下」としている。一方、比較例1のゼオライト膜の表面異常率は15%よりも大きく、比較例2のゼオライト膜の表面異常率は20%よりも大きかった。比較例3のゼオライト膜の表面異常率は80%よりも大きかった。比較例4のゼオライト膜については、実施例8と同様に、SEM画像において表面異常は観察されなかった。ただし、比較例4では、ゼオライト膜の緻密性が上述のように低いことを考慮すると、ゼオライト膜中に留まって表面には現れない異相が存在する可能性が高いと考えられる。
【0087】
以上に説明したように、支持体11は、ゼオライト膜支持用の多孔質のセラミック支持体である。支持体11の透水係数は、1.1×10-3m/s以下である。支持体11の表面114に垂直な深さ方向において、表面114から30μm以内の表層部116におけるアルカリ金属およびアルカリ土類金属の合計含有率は、1重量%以下である。
【0088】
このように、表層部116におけるアルカリ金属およびアルカリ土類金属の合計含有率を1重量%以下と小さくすることにより、ゼオライト膜12を生成する水熱合成の際に、表層部116からアルカリ金属およびアルカリ土類金属が溶出することを抑制することができる。また、支持体11の透水係数を1.1×10-3m/s以下と小さくすることにより、表層部116においてアルカリ金属およびアルカリ土類金属が溶出した場合であっても、溶出したアルカリ金属およびアルカリ土類金属が、支持体11の表面114から原料溶液中、および、生成途上のゼオライト膜12中に流出することを抑制することができる。その結果、ゼオライト膜12における、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属に起因する異常の発生を抑制することができる。
【0089】
支持体11により発生が抑制される当該異常とは、上述のように、所望の組成比とは異なる組成比を有するゼオライト膜の生成であり、ゼオライト膜中に副生された異相によるゼオライト膜の性能低下であり、また、ゼオライト膜の生成阻害による欠陥(例えば、ピンホール)等である。
【0090】
なお、支持体11の表層部116よりも深い位置に位置する部位(例えば、支持層113)においてアルカリ金属およびアルカリ土類金属の溶出が生じたとしても、当該アルカリ金属およびアルカリ土類金属は、支持体11の表面114にはほぼ到達しないため、ゼオライト膜12の生成に悪影響を及ぼすことはないと考えられる。したがって、支持層113におけるアルカリ金属およびアルカリ土類金属の合計含有率は、1重量%よりも大きくてもよい。
【0091】
上述のように、支持体11では、表層部116の気孔率は50%以下であることが好ましい。このように、気孔率を小さくすることにより、水熱合成の際に、表層部116からアルカリ金属およびアルカリ土類金属が溶出することを、さらに抑制することができる。また、表層部116においてアルカリ金属およびアルカリ土類金属が溶出した場合であっても、溶出したアルカリ金属およびアルカリ土類金属が、支持体11の表面114から原料溶液中、および、生成途上のゼオライト膜12中に流出することを、さらに抑制することができる。その結果、ゼオライト膜12における異常の発生を、より一層抑制することができる。
【0092】
上述のように、支持体11は、表層部116を含む中間層112と、中間層112よりも平均粒径が大きい支持層113とを備えることが好ましい。支持層113は、中間層112のゼオライト膜12と接触する表面114とは反対側から中間層112を支持する。このため、支持層113の材料選択等の際に、表層部116におけるアルカリ金属およびアルカリ土類金属の合計含有率、および、表層部116の気孔率を考慮する必要がない。したがって、支持層113の材料選択の自由度を向上することができ、支持体11の製造を容易とすることができる。
【0093】
ゼオライト膜複合体1は、上述の支持体11と、支持体11の表面114上に形成されたゼオライト膜12とを備える。これにより、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属に起因する異常が少ない緻密なゼオライト膜12を有するゼオライト膜複合体1を提供することができる。
【0094】
上述のように、ゼオライト膜12の表面における表面異常の割合は15%以下であることが好ましい。これにより、さらに緻密なゼオライト膜12を有するゼオライト膜複合体1を提供することができる。
【0095】
ゼオライト膜複合体1では、ゼオライト膜12の厚さは、0.1μm以上かつ30μm以下であることが好ましい。これにより、ゼオライト膜12の分離性能と透過速度とを好適に両立させることができる。
【0096】
上述のように、ゼオライト膜複合体1では、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属に起因するゼオライト膜12の異常発生を抑制することができる。したがって、当該ゼオライト膜複合体1の構造は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属による悪影響を比較的受けやすい、シリカ/アルミナ比が10以上であるゼオライト膜12(すなわち、SiO2の含有率がAl2O3の含有率の10倍以上であるゼオライト膜12)を有するゼオライト膜複合体に特に適している。
【0097】
上述のように、ゼオライト膜複合体1の製造方法は、上述の支持体11を準備する工程(ステップS11)と、種結晶を準備する工程(ステップS12)と、多孔質の支持体11上に種結晶を付着させる工程(ステップS13)と、原料溶液に支持体11を浸漬し、水熱合成により種結晶からゼオライトを成長させて支持体11上にゼオライト膜12を形成する工程(ステップS14)とを備える。これにより、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属に起因する異常が少ない緻密なゼオライト膜12を有するゼオライト膜複合体1を容易に製造することができる。
【0098】
上述の分離方法は、ゼオライト膜複合体1を準備する工程(ステップS21)と、複数種類のガスまたは液体を含む混合物質をゼオライト膜複合体1に供給し、当該混合物質中の透過性が高い物質を、ゼオライト膜複合体1を透過させることにより他の物質から分離する工程(ステップS22)とを備える。
【0099】
上述のように、ゼオライト膜複合体1は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属に起因する異常が少ない緻密なゼオライト膜12を有しているため、当該分離方法により、混合物質を効率良く分離することができる。また、当該分離方法は、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む混合物質の分離に特に適している。
【0100】
上述の支持体11、ゼオライト膜複合体1、ゼオライト膜複合体1の製造方法、および、分離方法では、様々な変更が可能である。
【0101】
例えば、支持体11では、表層部116の気孔率は50%よりも大きくてもよい。
【0102】
支持体11は、必ずしも、中間層112および支持層113により構成される2層構造である必要はなく、例えば、平均粒径等が互いに異なる3以上の層が積層された積層構造体であってもよい。あるいは、支持体11は、単一の層により構成される単層構造体であってもよい。この場合、当該単一の層の表面から30μm以内の部位が、上述の表層部116となる。
【0103】
ゼオライト膜複合体1では、ゼオライト膜12の表面における表面異常の割合は、15%よりも大きくてもよい。
【0104】
ゼオライト膜複合体1では、ゼオライト膜12の厚さは、0.1μm未満であってもよく、30μmよりも大きくてもよい。
【0105】
ゼオライト膜複合体1では、ゼオライト膜12の組成は様々に変更されてよい。例えば、ゼオライト膜12におけるSiO2の含有率は、Al2O3の含有率の10倍未満であってもよい。また、ゼオライト膜12におけるAl2O3の含有率は、実質的に0重量%であってもよい。
【0106】
分離装置2および分離方法では、上記説明にて例示した物質以外の物質が、混合物質から分離されてもよい。
【0107】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0108】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のセラミック支持体は、例えば、ガス分離膜として利用可能なゼオライト膜の支持用として利用可能である。また、本発明のゼオライト膜複合体は、ガス分離膜、ガス以外の分離膜、および、様々な物質の吸着膜等として、ゼオライトが利用される様々な分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 ゼオライト膜複合体
11 支持体
12 ゼオライト膜
112 中間層
113 支持層
114 (支持体の)表面
116 表層部
S11~S15,S21,S22 ステップ