(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物および積層体
(51)【国際特許分類】
C09J 175/04 20060101AFI20220404BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220404BHJP
C08G 18/06 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C09J175/04
B32B27/00 D
C08G18/06
(21)【出願番号】P 2020535759
(86)(22)【出願日】2019-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2019030735
(87)【国際公開番号】W WO2020031963
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2018151638
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】礒川 素朗
(72)【発明者】
【氏名】中田 一之
(72)【発明者】
【氏名】冨士野 葵
(72)【発明者】
【氏名】福山 佳那
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】五戸 久夫
(72)【発明者】
【氏名】本野 慶人
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123804(WO,A1)
【文献】特開2017-098369(JP,A)
【文献】国際公開第2020/032138(WO,A1)
【文献】特開平06-073365(JP,A)
【文献】特開2015-029717(JP,A)
【文献】特開平05-245998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
B29C45/00-45/24;45/46-45/63;45/70-45
/72;45/74-45/84
B29C48/00-48/96
B29C39/00-39/24;39/38-39/44;43/00-43
/34;43/44-43/48;43/52-43/58
B29C49/00-49/46;49/58-49/68;49/72-51
/28;51/42;51/46
B29C63/00-63/48;65/00-65/82
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)と、を含む
熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物であって、
前記熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物に含まれる前記熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)および前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)の合計量を100質量部としたとき、
前記熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の含有量が60質量部以上95質量部以下であり、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)の含有量が5質量部以上40質量部以下である、無機部材を接着するために用いられる熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)がエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを含む熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)における、不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有量が2質量%以上35質量%以下である熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
JIS K7210:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)のメルトマスフローレート(MFR)が1g/10分以上500g/10分以下である熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項5】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)と、を含む
熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物であって、
前記熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物に含まれる前記熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)および前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の合計量を100質量部としたとき、
前記熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の含有量が60質量部以上95質量部以下であり、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の含有量が5質量部以上40質量部以下である熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項6】
請求項
5に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)がエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体のアイオノマーを含む熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項7】
請求項
5または6に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)における、不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有量が2質量%以上35質量%以下である熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項8】
請求項
5乃至
7のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
JIS K7210:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)のメルトマスフローレート(MFR)が1g/10分以上50g/10分以下である熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項9】
請求項
5乃至
8のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
無機部材を接着するために用いられる熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項10】
請求項1乃至
9のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物により構成された熱可塑性ポリウレタンエラストマー層と、
前記熱可塑性ポリウレタンエラストマー層の少なくとも一方の面に設けられた基材層と、
を備える積層体。
【請求項11】
請求項
10に記載の積層体において、
前記基材層が無機部材である積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、透明性、機械的強度、耐傷付き性、耐磨耗性、柔軟性、伸び、復元性、耐油性等に優れている点から、キーボード輸送用緩衝材、自動車シートカバー等のフィルム・シート用途を初めとした様々な用途で使用されている。
特に、熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、原料の種類や重合比率等を適宜選択することにより、幅広い品質設計が可能である点に魅力がある。
また、熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、金属部材やガラス部材等の無機部材に接着または接合することによって複合部品を形成し、自動車部品や機械部品等に使用される場合もある。
【0003】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーの金属部材への接着に関する技術としては、例えば、特許文献1(特開平6-129420号公報)および特許文献2(特開2005-262870号公報)に記載のものが挙げられる。
特許文献1には、金属製回転軸あるいはベアリング等の芯金外周にウレタンエラストマーを外装してなるウレタンローラにおいて、ウレタンエラストマーが、熱可塑性エラストマーと、イソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物よりなることを特徴とするウレタンローラが記載されている。
特許文献2には、金属材料からなる部材を成形型にセットして、この金属部材の一部が臨んでいるキャビティに、加熱溶融されたウレタン系熱可塑性エラストマ-を射出充填して、上記金属部材の一部にウレタン系熱可塑性エラストマ-よりなる弾性樹脂部を射出成形して一体化する金属部材とウレタン系熱可塑性エラストマー部材との接合方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-129420号公報
【文献】特開2005-262870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、溶融粘度の温度依存性が大きく、一般的な熱可塑性樹脂に比較して加工性が劣っている場合がある。例えば押出成形加工時において、成形加工機から出た直後に樹脂組成物の垂れや変形が発生し、ロールへの巻き付きが起きやすく、狭い温度範囲で加工する必要があった。
また、熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、フィルムやシートに成形した場合にブロッキングが発生しやすく、ハンドリング性が悪い場合があった。
また、2液系の熱硬化ポリウレタンの場合、モノマーのイソシアネートまたはポリオールが金属部材の表面と反応するため、2液系の熱硬化ポリウレタンは金属部材に対して接着が良好である傾向にある。しかし、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの場合、接着に寄与する官能基が重合反応によってすでに失われており、さらに無機部材とは異なる表面特性を有することから、これらの接合にはプライマー層や接着剤層を付与する必要がある。そのため、熱可塑性ポリウレタンエラストマーには金属部材やガラス部材等の無機部材に対する接着性の向上が求められている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、加工性が良好であるとともに、耐ブロッキング性および接着性のバランスに優れた熱可塑性ポリウレタンエラストマー層を実現できる熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、熱可塑性ポリウレタンエラストマーに対して、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマーを組みわせて用いることにより、加工性が向上するとともに耐ブロッキング性および接着性のバランスに優れた熱可塑性ポリウレタンエラストマー層を実現できる樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物および積層体が提供される。
【0009】
[1]
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)と、を含む、無機部材を接着するために用いられる熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
[2]
上記[1]に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物に含まれる上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)および上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)の合計量を100質量部としたとき、
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の含有量が60質量部以上95質量部以下であり、
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)の含有量が5質量部以上40質量部以下である熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
[3]
上記[1]または[2]に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)がエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを含む熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
[4]
上記[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)における、不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有量が2質量%以上35質量%以下である熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
JIS K7210:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)のメルトマスフローレート(MFR)が1g/10分以上500g/10分以下である熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
[6]
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)と、を含む熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
[7]
上記[6]に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物に含まれる上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)および上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の合計量を100質量部としたとき、
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の含有量が60質量部以上95質量部以下であり、
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の含有量が5質量部以上40質量部以下である熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
[8]
上記[6]または[7]に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)がエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体のアイオノマーを含む熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
[9]
上記[6]乃至[8]のいずれか一つに記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)における、不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有量が2質量%以上35質量%以下である熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
[10]
上記[6]乃至[9]のいずれか一つに記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
JIS K7210:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)のメルトマスフローレート(MFR)が1g/10分以上50g/10分以下である熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
[11]
上記[6]乃至[10]のいずれか一つに記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、
無機部材を接着するために用いられる熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物。
[12]
上記[1]乃至[11]のいずれか一つに記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物により構成された熱可塑性ポリウレタンエラストマー層と、
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー層の少なくとも一方の面に設けられた基材層と、
を備える積層体。
[13]
上記[12]に記載の積層体において、
上記基材層が無機部材である積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加工性が良好であるとともに、耐ブロッキング性および接着性のバランスに優れた熱可塑性ポリウレタンエラストマー層を実現できる熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る実施形態の積層体の構造の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、数値範囲の「X~Y」は特に断りがなければ、X以上Y以下を表す。また、本実施形態において、「(メタ)アクリル」とは」アクリル、メタクリルまたはアクリルとメタクリルの両方を意味する。
【0013】
1.熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物について
本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)と、を含む。この場合、本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は、無機部材を接着するために用いられる。ここで、「エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)」とは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体および上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから選択される少なくとも一種を意味する。
また、本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)と、を含む態様であってもよい。この態様の場合、無機部材を接着する用途以外の用途にも用いることができる。
本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物によれば、加工性、耐ブロッキング性および接着性に劣る熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)に対して、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)を組み合わせることによって、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の加工性を改善できるとともに、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の耐ブロッキング性および接着性を向上させることができる。
【0014】
より具体的には、本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物によれば、例えば押出成形加工時において、成形加工機から出た直後の樹脂組成物の垂れや変形を抑制することができ、ロールへの巻き付きを抑制することができる。その結果、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の加工性を向上させることができる。
さらに、本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物によれば、フィルムやシートに成形した際の耐ブロッキング性も向上させることができる。
また、本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物によれば、金属部材やガラス部材等の無機部材に対する接着性も向上させることができる。
すなわち、本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は、無機部材を接着するために好適に用いることができる。
ここで、無機部材とは、無機材料により形成された部材を意味し、無機部材としては、例えば、ガラス材料により形成されたガラス部材、金属材料(合金材料を含む)により形成された金属部材、セラミックス材料により形成されたセラミックス部材等が挙げられる。これらの中でも、本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は金属部材またはガラス部材に対する接着性に特に優れている。
【0015】
本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の含有量は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物に含まれる熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)およびエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)の合計量を100質量部としたとき、60質量部以上95質量部以下が好ましく、65質量部以上92質量部以下がより好ましく、70質量部以上90質量部以下がさらに好ましく、75質量部以上90質量部以下が特に好ましい。
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の含有量が上記範囲内であると、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の優れた特性、例えば伸縮性の低下をより一層抑制しながら、熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物の接着性や柔軟性、機械的特性、耐熱性、取扱い性、加工性等のバランスをより一層良好なものとすることができる。
【0016】
本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)の含有量は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物に含まれる熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)およびエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)の合計量を100質量部としたとき、5質量部以上40質量部以下が好ましく、8質量部以上35質量部以下がより好ましく、10質量部以上30質量部以下がさらに好ましく、10質量部以上25質量部以下が特に好ましい。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)の含有量が上記範囲内であると、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の優れた特性、例えば伸縮性の低下をより一層抑制しながら、熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物の接着性や柔軟性、機械的特性、耐熱性、取扱い性、加工性等のバランスをより一層良好なものとすることができる。
【0017】
本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物において、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)とエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)との合計含有量は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)とエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)との合計含有量が上記範囲内であると、熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物の接着性や柔軟性、機械的特性、耐熱性、取扱い性、加工性等のバランスをより一層良好なものとすることができる。
【0018】
以下、本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物を構成する各成分について説明する。
【0019】
<熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)>
本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)を含有する。
【0020】
本実施形態で用いられる熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)は、例えば、ポリイソシアネート、高分子ポリオールおよび鎖伸長剤の共重合により得ることができる。
ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族、脂環族または芳香族のジイソシアネートであり、芳香族のジイソシアネートが好ましい。より具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートのような脂肪族ジイソシアネート;1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートのような脂環族ジイソシアネート;p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族ジイソシアネート等を例示することができる。
これらの中でも、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0021】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の原料となる高分子ポリオールとしては、分子量が好ましくは500~8000、より好ましくは600~4000程度のポリエーテルポリオールあるいはポリエステルポリオールが好ましい。
【0022】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシヘキサメチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシテトラメチレングリコールが好ましい。
【0023】
ポリエステルポリオールとしては、好ましくは脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとから誘導される脂肪族ポリエステルポリオールである。より具体的には両末端がジオール成分であるポリエチレンアジぺート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)、ポリ(ヘキサメチレングリコール-1,6-カーボネート)、ポリカプロラクトン等を例示することができる。
【0024】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の製造に用いられる鎖伸長剤としては、例えば、分子量が好ましくは400以下、より好ましくは300以下のジオール類等が挙げられる。具体的にはエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールA、p-キシリレングリコール等を例示することができる。
【0025】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の製造に際しては、上記成分に加え、触媒、分子量調節剤等が必要に応じ使用される。本実施形態においては、ポリイソシアネート、高分子ポリオール及び鎖伸長剤の共重合によって得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、190℃、2160g荷重におけるメルトマスフローレートが好ましくは0.1~50g/10分、より好ましくは0.5~40g/10分程度のものを使用するのが好ましい。
また熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、ショアA硬度が75~97程度のものを使用するのが好ましく、75~90程度のものを使用するのがより好ましい。
具体的には、ミラクトラン(東ソー株式会社製)、パンデックス(ディーアイシーコベストロポリマー株式会社製)、エラストラン(BASFジャパン株式会社製)、レザミンP(大日精化株式会社製)、ペレセン(ルブリゾール社製)等の商品名で市場に供されているものを使用することができる。
【0026】
<エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)>
本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)を含有する。
【0027】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)において、エチレンから導かれる構成単位は、好ましくは65質量%以上98質量%以下、より好ましくは70質量%以上95質量%以下、さらに好ましくは75質量%以上92質量%以下である。
エチレンから導かれる構成単位が上記下限値以上であると、熱可塑性ポリウレタンエラストマー層の耐熱性や機械的強度等をより良好なものとすることができる。また、エチレンから導かれる構成単位が上記上限値以下であると、熱可塑性ポリウレタンエラストマー層の透明性や柔軟性、接着性等をより良好なものとすることができる。
【0028】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)において、不飽和カルボン酸から導かれる構成単位は、好ましくは2質量%以上35質量%以下、より好ましくは5質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは8質量%以上25質量%以下である。
不飽和カルボン酸から導かれる構成単位が上記下限値以上であると、熱可塑性ポリウレタンエラストマー層の透明性や柔軟性、接着性等をより良好なものとすることができる。また、不飽和カルボン酸から導かれる構成単位が上記上限値以下であると、熱可塑性ポリウレタンエラストマー層の加工性をより良好なものとすることができる。
【0029】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)における不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等が挙げられる。これらの中でも、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の生産性、衛生性等の観点から、アクリル酸およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。すなわち、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)は、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーが好ましい。
なお、これら不飽和カルボン酸は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)には、エチレンおよび不飽和カルボン酸の合計100質量%に対し、好ましくは0質量%以上30質量%以下、より好ましくは0質量%以上25質量%以下のその他の共重合性モノマーから導かれる構成単位が含まれていてもよい。その他の共重合性モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸エステル等が挙げられる。その他の共重合性モノマーから導かれる構成単位が上記範囲で含まれていると、熱可塑性ポリウレタンエラストマー層の柔軟性が向上する点で好ましい。
【0031】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)におけるイオン源としては、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属;カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム等の多価金属等が挙げられる。これらのイオン源の中でも、工業化製品の入手容易性からマグネシウムイオン、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンが好ましく、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンがより好ましい。
イオン源は一種を単独で用いてもよく、又は、二種以上を併用してもよい。
【0032】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)としては、例えば、中和度が80%以下のものが用いられる。中和度が上記範囲であると、透明性や高温における貯蔵安定性に優れた熱可塑性ポリウレタンエラストマー層を得ることができる。透明性、接着性および加工性の観点からは中和度は好ましくは60%以下、より好ましくは40%以下である。中和度の下限は特に限定されないが、例えば1%以上であり、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が更に好ましい。
なお、アイオノマーの中和度とは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体に含まれる全カルボキシル基のモル数に対する、金属イオンによって中和されているカルボキシル基の割合(モル%)である。
【0033】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、各重合成分を高温、高圧下にラジカル共重合することによって得ることができる。また、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーは、このようなエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体と金属化合物を反応させることによって得ることができる。
【0034】
本実施形態において、加工安定性をより向上させる観点から、JIS K7210:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)のメルトマスフローレート(MFR)の下限は、1g/10分以上であることが好ましく、2g/10分以上であることがより好ましく、上限は、500g/10分以下であることが好ましく、300g/10分以下であることがより好ましく、100g/10分以下であることがさらに好ましく、50g/10分以下であることが特に好ましい。
【0035】
<その他の成分>
本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)およびエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)以外の樹脂や添加剤を含有してもよい。
その他の樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ABS型樹脂、ポリオレフィン、ポリアセタール、ポリアミド、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、グリシジル基含有エチレン系共重合体、不飽和カルボン酸又はその無水物で変性されたポリオレフィン等が挙げられる。
添加剤としては特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カーボンブラック等の無機充填剤、耐候安定剤、滑剤、帯電防止剤、顔料、染料、可塑剤、抗菌剤、発泡剤、架橋剤、架橋助剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤、光拡散剤、難燃剤等を挙げることができる。その他の成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
グリシジル基含有エチレン系共重合体としては、例えば、エチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル・酢酸ビニル共重合体、およびエチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル・(メタ)アクリル酸エステル共重合体等から選択される一種または二種以上が挙げられる。
なお、「(メタ)アクリル酸グリシジル」とは、メタクリル酸グリシジルおよびアクリル酸グリシジルの少なくとも一方または両方を表す。
【0037】
シランカップリング剤としては、ビニル基、アミノ基またはエポキシ基と、アルコキシ基のような加水分解基とを有するシランカップリング剤等を挙げられる。なかでも、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプピルトリメトキシシランおよびN-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
シランカップリング剤は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)100質量部に対し、通常5質量部以下、好ましくは0.02~3質量部の量で含有させることができる。シランカップリング剤が上記範囲で含まれていると、熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物と、無機部材との接着性をより一層向上させることができる。
【0038】
紫外線吸収剤としては、例えば、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ペンチルフェノール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジt-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;フェニルサリチレート、p-オクチルフェニルサリチレート等のサリチル酸エステル系紫外線吸収剤等が用いられる。
【0039】
光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤等が用いられる。
酸化防止剤として各種ヒンダードフェノール系酸化防止剤やホスファイト系酸化防止剤等が用いられる。
酸化防止剤、光安定剤および紫外線吸収剤は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)100質量部に対し、各々通常5質量部以下、好ましくは0.01~3質量部の量で含有させることができる。
【0040】
着色剤としては、顔料、無機化合物、染料等が挙げられ、特に白色の着色剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムが挙げられる。
光拡散剤としては、無機系の球状物質としてはガラスビーズ、シリカビーズ、シリコンアルコキシドビーズ、中空ガラスビーズ等が挙げられる。有機系の球状物質としてはアクリル系やビニルベンゼン系等のプラスチックビーズ等が挙げられる。
難燃剤としては、臭素化物等のハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水和物等が挙げられる。
【0041】
<熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物の調製方法>
熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物の調製方法としては特に限定されないが、例えば、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)と、必要に応じてその他の樹脂や添加剤と、をドライブレンドして混合することにより調製する方法;単軸押出機、二軸押出機、バンバリ- ミキサー、ロール、ニーダー等を用いて、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)と、必要に応じてその他の樹脂や添加剤とを溶融混練することにより調製する方法;等を適用することができる。
【0042】
このようにして得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は、透明性、機械強度、耐磨耗性、耐油性、伸縮性、耐屈曲性等が優れ、また加工性、耐ブロッキング性に優れており、押出成形、射出成形、インサート成形、中空成形、プレス成形、真空成形等の各種成形方法によって、糸状物、フィルム、テープ、シート、チューブ、棒状物、管状物等の単純な形状の成形品から複雑な形状の成形品まで種々の形状の成形品を製造することができる。
また各種成形品の被覆材として使用することができる。例えば、衣料材料、産業資材、結束材料、医療材料、車両内装材、建築・土木資材、農業資材等の用途に好適に使用できる。とくに従来、加工性や耐ブロッキング性等の不具合が顕在化していたフィルムやシートの用途、例えば医療・食品用コンベアベルト、各種キーボードシート、エアマット、ダイアフラム、ガスケット、シール材、ラミネート品、耐磨耗性コーティング、静電防止ベルト、ホットメルトフィルム、オーバーフロータンク、ターポリン、合成皮革、各種包装材料、衣料等に好適に使用することができる。
さらに、本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は、金属部材やガラス部材等の無機部材に対する接着性や接合性に優れることから、車両用部品、自動車用部品、機械用部品、電子機器用部品、家電機器用部品等にも好適に用いることができる。
【0043】
2.積層体
本実施形態に係る積層体10は、
図1に示すとおり、本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物により構成された熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15と、熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15の少なくとも一方の面に設けられた基材層20と、を少なくとも備える。
【0044】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15の厚さは、例えば、10μm以上1000μm以下である。
基材層20の厚さは、例えば0.01mm以上10mm以下である。
【0045】
基材層20は特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15以外の有機部材、無機部材、有機無機複合部材等が挙げられる。
本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15は、無機部材に対する接着性に特に優れるため、基材層20として無機部材を用いるのが好ましい。
無機部材としては、例えば、ガラス材料により形成されたガラス部材、金属材料(合金材料を含む)により形成された金属部材、セラミックス材料により形成されたセラミックス部材等が挙げられる。これらの中でも、本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15は金属部材またはガラス部材に対する接着性に特に優れているため、基材層20としては金属部材またはガラス部材が好ましく、金属部材が特に好ましい。
金属材料としては、特に限定されず、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ベリリウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、亜鉛、モリブデン、ニオブ、マンガン及びそれらを成分とする合金が挙げられる。これらの合金には炭素を含む炭素鋼や合金鋼も含まれる。また、銅メッキ、ニッケルメッキ、クロムメッキなどメッキによって形成された金属の表面を持つ成形品であってもよい。
無機部材の表面は接着性向上やその他の目的のための処理を行っていてもよく、例えば洗浄処理、研磨処理、レーザー処理、クロメート処理などの化学薬品処理、電気化学的処理、プラズマ処理などの活性ガス処理などを行うことができる。
【0046】
また、本実施形態に係る積層体10は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15と基材層20のみで構成されていてもよいし、積層体10に様々な機能を付与する観点から、熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15と基材層20以外の層(以下、その他の層とも呼ぶ。)を熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15および/または基材層20の表層側に有していてもよい。その他の層としては、例えば、無機物層、ガスバリア層、帯電防止層、ハードコート層、接着層、反射防止層、防汚層、シーラント層、アンダーコート層、プライマー層等を挙げることができる。その他の層は1層単独で有してもよいし、2層以上を組み合わせて有してもよい。
上記各層は熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15と基材層20との間に有していてもよいが、本実施形態に係る積層体10は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15と基材層20との接着性に優れているところに特徴があるため、熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15と基材層20とは直接接していることが好ましい。
【0047】
本実施形態に係る積層体10は特に限定されないが、例えば、衣料材料、産業資材、結束材料、医療材料、車両内装材、建築・土木資材、農業資材等の用途に好適に使用できる。とくに従来、加工性や耐ブロッキング性等の不具合が顕在化していたフィルムやシートの用途、例えば医療・食品用コンベアベルト、各種キーボードシート、エアマット、ダイアフラム、ガスケット、シール材、ラミネート品、耐磨耗性コーティング、静電防止ベルト、ホットメルトフィルム、オーバーフロータンク、ターポリン、合成皮革、各種包装材料、衣料等に好適に使用することができる。
さらに、本実施形態に係る積層体10は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15が金属部材やガラス部材等の無機部材に対する接着性や接合性に優れることから、車両用部品、自動車用部品、機械用部品、電子機器用部品、家電機器用部品等にも好適に用いることができる。
【0048】
3.積層体の製造方法
本実施形態に係る積層体10の製造方法は特に限定されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法を適用することができる。例えば、押出成形法、プレス成形法、射出成形法、圧縮成形法、トランスファー成形法等を用いて、基材層20上に熱可塑性ポリウレタンエラストマー層15を形成することによって、積層体10を得ることができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物の調製に用いた成分の詳細は以下の通りである。
【0052】
(1)熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)
・TPU1:大日精化工業社製レザミンP-2288(エーテルタイプ、比重1.12、ショアA硬度88、ガラス転移点-35℃)
・TPU2:大日精化工業社製レザミンP-2275(エーテルタイプ、比重1.18、ショアA硬度77、ガラス転移点-42℃)
・TPU3:大日精化工業社製レザミンP-1288(アジペートタイプ、比重1.22、ショアA硬度87、ガラス転移点-28℃)
・TPU4:日本ミラクトラン社製ミラクトランE595MNAT(カプロラクトンタイプ、比重1.18、ショアA硬度95)
(2)エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体またはそのアイオノマー(B)
・IO1:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(メタクリル酸から導かれる構成単位の含有量:15質量%、21%亜鉛中和、メルトマスフローレート(190℃、2160g荷重):16g/10分)
・EMAA1:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸から導かれる構成単位の含量:15質量%、メルトフローマスフローレート(190℃、2160g荷重)25g/10分)
・EMAA2:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸から導かれる構成単位の含量:9質量%、メルトフローマスフローレート(190℃、2160g荷重)8g/10分)
・EMAA3:エチレン・メタクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体(メタクリル酸から導かれる構成単位の含量:10質量%、アクリル酸イソブチルから構成される単位の含量:10質量%、メルトフローマスフローレート(190℃、2160g荷重)35g/10分)
【0053】
[実施例1]
(1)メルトブレンド
単軸押出機(40mmφ、先端ダルメージスクリュー、L/D=28)を用いて、加工温度200℃、スクリュー回転数40rpmの条件で、80℃で12時間乾燥したTPU1とIO1とを表1に示す配合でメルトブレンドした。
(2)プレスシート作製
上記メルトブレンドにより得られた熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物を、200℃×5分×ガス抜き5回→200℃×5分×9.8MPa(100kg/cm2)→20℃×3分×14.7MPa(150kg/cm2)の条件でプレス成形し、0.5mm厚みのプレスシートを作製した。
【0054】
(3)金属板への接着性評価
得られた0.5mm厚みのプレスシートを金属板(アルミニウム板(厚み:500μm)または溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板(日新製鋼社製、ZAM(登録商標)、厚み:500μm))上に積層し、真空加熱貼合機(NPC社製二重真空槽貼合機、LM-50×50S)を用いて、温度180℃、圧力0MPa(ゲージ圧力)、シール時間2分、そして温度180℃、圧力0.5MPa(ゲージ圧力)、シール時間6分の条件で、0.5mm厚みのプレスシートと金属板とを貼り合わせた。得られた積層体を大気中に静置し、自然冷却によって徐冷した。完成した積層体のプレスシート部分に15mm幅のスリットを入れて試験片とし、引張試験機に設置した。引張速度100mm/分で積層体のプレスシートを引き離し、接着強度(N/15mm)の平均値を求めた。金属板は、それぞれ処理を行わずに製品をそのまま用いた。
【0055】
(4)シート成形性評価
80℃で12時間乾燥したTPU1とIO1とを押出機に投入し、以下の条件で溶融混練しながらTダイを用いてシート状に押出成形することにより、厚み200μmの押出シートを作製した。
押出機:40mm異型押出機(L/D=26mmφ、ナカタニ社製)
混練条件:温度:180℃、回転数:60min-1
得られた押出シートの成形時において、以下の評価をおこなった。得られた結果を表3に示す。
【0056】
(4.1)ロール巻き付き性評価
シート成型時のニップロール(ゴムロール)への巻き付きの有無を目視で評価した。
〇:巻き付きなし
×:巻き付きあり
【0057】
(4.2)耐ブロッキング性評価
巻き取ったシートについて、隣接するシートを手で剥離してブロッキングの有無を評価した。
〇:ブロッキングなし
×:ブロッキングあり
【0058】
[実施例2]
表1に示す配合とした以外は実施例1と同様にして積層体および押出シートをそれぞれ作製し、実施例1と同様の評価をそれぞれおこなった。得られた結果を表2および表3にそれぞれ示す。
【0059】
[比較例1]
表1に示す配合とした以外は実施例1と同様にして積層体および押出シートをそれぞれ作製し、実施例1と同様の評価をそれぞれおこなった。得られた結果を表2および表3にそれぞれ示す。
【0060】
[実施例3~実施例9]
表4に示す配合とした以外は実施例1と同様にして積層体および押出シートをそれぞれ作製し、金属板としてアルミニウム板(スタンダードテストピース社製 A1050P-H24、厚み:1.0mm)、銅板(スタンダードテストピース社製 C1020P(1/2H)、厚み:1.0mm)、チタン板(スタンダードテストピース社製 TP340、厚み:1.0mm)、ステンレス板(スタンダードテストピース社製 SUS304(2B)、厚み:1.0mm)または溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板(日新製鋼社製、ZAM(登録商標) MSM-CC-ZC90、厚み:1.0mm)を用いた以外は実施例1と同様にして評価をそれぞれおこなった。ただし、金属板については、サンドブラスト処理(表面を荒らす処理)をそれぞれ実施してから使用した。得られた結果を表5に示す。
【0061】
[比較例2~比較例5]
表4に示す配合とした以外は実施例1と同様にして積層体および押出シートをそれぞれ作製し、金属板としてアルミニウム板(スタンダードテストピース社製 A1050P-H24、厚み:1.0mm)、銅板(スタンダードテストピース社製 C1020P(1/2H)、厚み:1.0mm)、チタン板(スタンダードテストピース社製 TP340、厚み:1.0mm)、ステンレス板(スタンダードテストピース社製 SUS304(2B)、厚み:1.0mm)または溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板(日新製鋼社製、ZAM(登録商標) MSM-CC-ZC90、厚み:1.0mm)を用いた以外は実施例1と同様にして評価をそれぞれおこなった。ただし、金属板については、サンドブラスト処理(表面を荒らす処理)をそれぞれ実施してから使用した。得られた結果を表5に示す。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
実施例1~実施例9の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は金属板に対する接着性に優れていた。また、押出成形時にロールへの巻き付きが無く、加工性に優れていた。さらに得られた押出シートは耐ブロッキング性に優れていた。
これに対し、比較例1~比較例5の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は金属板に対する接着性に劣っていた。また、押出成形時にロールへの巻き付きがあり、成形性に劣っていた。さらに得られた押出シートは耐ブロッキング性に劣っていた。
以上から、本実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は加工性が良好であるとともに、耐ブロッキング性および接着性のバランスに優れた熱可塑性ポリウレタンエラストマー層を実現できることが確認できた。
【0068】
この出願は、2018年8月10日に出願された日本出願特願2018-151638号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0069】
10 積層体
15 熱可塑性ポリウレタンエラストマー層
20 基材層