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特許7052061自動車のブレーキシステムの摩擦体の洗浄の管理
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】自動車のブレーキシステムの摩擦体の洗浄の管理
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20220404BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20220404BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20220404BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20220404BHJP
   B60W 20/14 20160101ALI20220404BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20220404BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20220404BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20220404BHJP
   F16D 65/00 20060101ALI20220404BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B60T7/12 B
B60W10/08 900
B60W10/18 900
B60W20/00 900
B60W20/14 ZHV
B60L50/60
B60L7/24 Z
B60L58/12
F16D65/00 C
B60T8/17 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020547094
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 IB2020052546
(87)【国際公開番号】W WO2020188520
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】19164119.0
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19177752.3
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516045001
【氏名又は名称】エフシーエイ イタリア エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボナコルソ ガブリエーレ
(72)【発明者】
【氏名】エンリコ ルカ
(72)【発明者】
【氏名】バディーノ レナート
(72)【発明者】
【氏名】イェルッツィ ミケーレ
(72)【発明者】
【氏名】ガルブセラ ミケーレ
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102016217680(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016217681(DE,A1)
【文献】特開2006-143104(JP,A)
【文献】特開2012-126287(JP,A)
【文献】特開2008-120147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K6/20-6/547
B60L1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60T7/12-8/1769
8/32-8/96
B60W10/00
10/02
10/06
10/08
10/10
10/18
10/26
10/28
10/30-20/50
F16D49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド車両又は完全電気車両(HV/EV)のための自動車電子制御システムであって、
ドライバーによる制動操作の要求に応じた摩擦体(BD)の相互作用により前記車両(HV/EV)を制動する摩擦式ブレーキシステム(BS)と、
前記車両(HV/EV)の車輪(W)に動作可能に結合されるとともに、前記車両(HV/EV)を推進するべく機械的動力を生成するための電気エンジンとして及び前記車両(HV/EV)の運動エネルギーを電気エネルギーに変換するための発電機として選択的に動作するように電子的に制御可能な可逆的電気機械(EM)と、
前記車両(HV/EV)の前記運動エネルギーを電気エネルギーに変換するための発電機として前記可逆的電気機械が動作されるときにそれによって生成される前記電気エネルギーを蓄えるとともに、前記車両(HV/EV)を推進するための電気エンジンとして前記可逆的電気機械が動作されるときに前記可逆的電気機械(EM)を給電するために、前記可逆的電気機械(EM)に電気的に接続される電気エネルギーアキュムレータ(EB)と、
を備え、
前記自動車電子制御システムは、前記ドライバーによる前記制動操作の要求に応じて、前記摩擦式ブレーキシステム(BS)及び前記可逆的電気機械(EM)の動作を制御するように構成され、
前記自動車電子制御システムは、
回生制動(RB)を含む1つ又は異なる機能を選択的に果たすための前記可逆的電気機械(EM)であって、制動中に前記車両(HV/EV)の前記運動エネルギーを回収してそれを電気エネルギーに変換するための発電機として動作される、前記可逆的電気機械(EM)と、
前記摩擦式ブレーキシステム(BS)の前記摩擦体(BD)を洗浄するための摩擦体洗浄機能を果たすための前記摩擦式ブレーキシステム(BS)であって、この摩擦体洗浄機能は、
前記摩擦式ブレーキシステム(BS)の前記摩擦体(BD)を洗浄するか否かを判定することと、
前記摩擦式ブレーキシステム(BS)の動作を制御して、前記摩擦式ブレーキシステム(BS)の前記摩擦体(BD)を洗浄し、そのブレーキ性能を回復することと
を含む、前記摩擦式ブレーキシステム(BS)と、
の動作を制御するように更に構成され、
前記自動車電子制御システムは、所定の期間中にカウントされる又は所定の事象から始まってカウントされる、前記摩擦式ブレーキシステム(BS)により実行される制動の数に基づいて、前記摩擦式ブレーキシステム(BS)の前記摩擦体(BD)を洗浄するか否かを判定するように構成されることを特徴とする、
自動車電子制御システム。
【請求項2】
1つ又は異なる自動車のステータス情報を受信する(30)、
受信された自動車のステータス情報が関連する第1の動作条件を満たすかどうかをチェックする(40)、
全ての前記第1の動作条件が満たされていると決定されれば、前記車両(HV/EV)を制動するという要求の発生を検出する(60)、
前記車両(HV/EV)を制動するという要求が発生したと決定されれば、前記所定の期間中にカウントされる又は前記所定の事象から始まってカウントされる、前記摩擦式ブレーキシステム(BS)により実行される前記制動の数が第2の動作条件を満たすかどうかをチェックする(80)、
前記第2の動作条件が満たされていると決定されれば、
前記可逆的電気機械(EM)による回生制動を無効化する(90)、及び
前記摩擦式ブレーキシステム(BS)のみを使用して前記車両(HV/EV)を制動する(90)、
ように更に構成される、請求項1に記載の自動車電子制御システム。
【請求項3】
前記第2の動作条件は、前記所定の期間中にカウントされる又は前記所定の事象から始まってカウントされる、前記摩擦式ブレーキシステム(BS)により実行される前記制動の数が閾値以上であることによって規定される、請求項2に記載の自動車電子制御システム。
【請求項4】
前記1つ又は異なる自動車のステータス情報は、
前記電気エネルギーアキュムレータ(EB)の充電状態(SOC)、
前記車両(HV/EV)の運転モード、
前記摩擦式ブレーキシステム(BS)を洗浄するか否かを最後に判定してからの経過時間
前記車両(HV/EV)の停止持続時間、
前記所定の期間中又は前記所定の事象から始まる前記車両(HV/EV)により走行される距離、
前記所定の期間中又は前記所定の事象から始まる前記車両(HV/EV)のドアの開きの数、及び
ステアリングホイール角度
のうちの1つ以上を含み、
受信された自動車のステータス情報のうちの1つ以上が、1つ又は異なる第1の動作条件を満たすかどうかをチェックすることは、
前記電気エネルギーアキュムレータ(EB)の前記充電状態(SOC)が所定の範囲内にあるかどうか、
前記運転モードが、前記車両(HV/EV)の前記摩擦式ブレーキシステム(BS)の前記摩擦体(BD)の洗浄が実行可能であると見なされる運転モードのグループに属するかどうか、
前記車両(HV/EV)の停止持続時間が閾値を超えているかどうか、
前記車両(HV/EV)の前記摩擦式ブレーキシステム(BS)を洗浄するか否かを最後に判定してからの経過時間が閾値を超えているかどうか、
前記所定の期間中又は前記所定の事象から始まる前記車両(HV/EV)により走行される距離が閾値距離を下回っているかどうか、及び
前記所定の期間中又は前記所定の事象から始まる前記車両(HV/EV)の前記ドアの開きの数が閾値を超えているかどうか
をチェックすることを含む、請求項2又は3に記載の自動車電子制御システム。
【請求項5】
前記車両(HV/EV)を制動するという要求が発生したと決定されれば、前記摩擦式ブレーキシステム(BS)によって実行される制動の数に対して、付加的な自動車のステータス情報が関連する第2の動作条件を満たすかどうかをチェックする、及び
全ての前記第2の動作条件が満たされていると決定されれば、前記可逆的電気機械(EM)による回生制動を無効化して(90)、前記摩擦式ブレーキシステム(BS)のみを使用して前記車両(HV/EV)を制動する(90)
ように更に構成される、請求項に記載の自動車電子制御システム。
【請求項6】
前記付加的な自動車のステータス情報に関連する前記第2の動作条件は、
前記運転モードが、前記車両(HV/EV)の前記摩擦式ブレーキシステム(BS)の前記摩擦体の洗浄が実行可能であると見なされる運転モードのグループに属する、及び
前記ステアリングホイール角度が閾値以下である
ことによって規定される、請求項5に記載の自動車電子制御システム。
【請求項7】
キーオフ状態からキーオン状態への移行の発生を検出する(10)、及び
キーオフ状態からキーオン状態への移行の発生の検出時に1つ又は異なる自動車のステータス情報を取得する(30)
ように更に構成される、請求項1から6のいずれか一項に記載の自動車電子制御システム。
【請求項8】
前記摩擦式ブレーキシステム(BS)を使用して実行される前記車両(HV/EV)の前記制動の終了時に又は前記第1の動作条件のうちの少なくとも1つが満たされない場合に、前記可逆的電気機械(EM)による前記回生制動を可能にする(50)
ように更に構成される、請求項2または4に記載の自動車電子制御システム。
【請求項9】
ドライバーによる制動操作の要求に応じた摩擦体(BD)の相互作用により車両(HV/EV)を制動する摩擦式ブレーキシステム(BS)と、
前記車両(HV/EV)の車輪(W)に動作可能に結合されるとともに、前記車両(HV/EV)を推進するべく機械的動力を生成するための電気エンジンとして及び前記車両(HV/EV)の運動エネルギーを電気エネルギーに変換するための発電機として選択的に動作するように電子的に制御可能な可逆的電気機械(EM)と、
前記車両(HV/EV)の前記運動エネルギーを電気エネルギーに変換するための発電機として前記可逆的電気機械が動作されるときにそれによって生成される前記電気エネルギーを蓄えるとともに、前記車両(HV/EV)を推進するための電気エンジンとして前記可逆的電気機械が動作されるときに前記可逆的電気機械(EM)を給電するために、前記可逆的電気機械(EM)に電気的に接続される電気エネルギーアキュムレータ(EB)と、
請求項1から8のいずれか一項に記載の自動車電子制御システムと、
を備えるハイブリッド車両又は完全電気車両(HV/EV)。
【請求項10】
自動車電子制御システムの電子制御ユニット(ECU)にロードできるとともに前記電子制御ユニット(ECU)によって実行可能なコンピュータプログラムであって、実行されると、請求項1から8のいずれか一項に記載されている前記自動車電子制御システムとしてコンピュータを機能させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
この出願は、2019年3月20日に出願された欧州特許出願第19164119.0号及び2019年5月31日に出願された欧州特許出願第19177752.3号による優先権を主張し、その開示内容は参照により組み入れられる。
【0002】
本発明は、一般に、バッテリ電気自動車(BEV)としても知られる、(完全に)電気的な推進力を伴う自動車両、すなわち、電気バッテリによって給電される電気エンジンのみを伴う自動車両の分野に関し、更に、内燃機関の助けにより電気バッテリが電気的に充電可能な従来のタイプの、及び、有線又は無線接続を介して電気バッテリに電気的に接続可能な外部電気エネルギー源を使用することにより、内燃機関の助けを伴わない場合でさえ電気バッテリが電気的に充電可能な、いわゆるプラグイン(PHEV-プラグインハイブリッド電気自動車)タイプの、ハイブリッド推力車両、すなわち、内燃機関と電気エンジンとを伴う車両の分野に関する。
【0003】
本発明は、特に、従来の自動車ブレーキシステムのいわゆる再生に関し、該再生は、従来の自動車ブレーキシステムの摩擦体の汚れ及び錆に起因するブレーキ性能若しくは効率に対する悪影響及び従来の自動車ブレーキシステムの耐用年数に対する悪影響を取り除く又は軽減することを目的として従来の自動車ブレーキシステムの摩擦体を洗浄することにある。
【0004】
本発明は、それが車、バス、キャンピングカーなどの人々を輸送するために使用されるか、或いは産業車両(大型トラック、貨物自動車、連結車両など)又は軽量若しくは中型の商用車(バン、トラック、キャビンクルーザなど)などの物品を輸送するために使用されるかどうかにかかわらず、任意のタイプの道路自動車両において用途を見出す。
【背景技術】
【0005】
周知のように、内燃自動車両は、ブレーキパッド、ブレーキディスク、ブレーキドラムの形態を成す摩擦体によって自動車の運動エネルギーを熱に変換する従来の自動車ブレーキシステムによってもたらされるブレーキ機構を備えている。
【0006】
特に、従来の自動車ブレーキシステムは常用ブレーキを備え、該常用ブレーキは、従来から油圧式であるとともに、ブレーキペダルの踏み操作に応じて4つの全ての自動車両車輪に作用する。
【0007】
常用ブレーキは、本質的に、それぞれが対応する自動車両車輪と関連付けられる4つのブレーキアセンブリと、ブレーキアセンブリを動作させるべくブレーキアセンブリに圧油を供給するための油圧回路又はそれぞれが前部及び後部ブレーキアセンブリと関連付けられる2つの別個の油圧回路とを備える。
【0008】
ブレーキアセンブリは、ドラムタイプで、より単純且つ安価となり得るものであり、このため、主に、経済的な理由により、及び、自動車両の軽量化のため、後輪と関連して小型の自動車両でのみ使用でき、したがって、高性能ブレーキアセンブリを使用する必要がなく、又は、長年にわたってドラムブレーキアセンブリに取って代わってきたディスクタイプとなり得る。
【0009】
ドラムブレーキアセンブリでは、ブレーキが、ブレーキシューと呼ばれる1つ以上の摩擦部材の1つのドラムに対する作用に起因するのに対し、ディスクブレーキアセンブリでは、ブレーキが、ブレーキディスクの両側に配置されてフローティングブレーキキャリパによって支持されるブレーキパッドと呼ばれる2つの摩擦部材のブレーキディスクに対する作用に起因する。
【0010】
特に、ディスクブレーキにおいて、ブレーキディスクは、自動車両サスペンションに結合するように設計された直立体によって回転可能に支持されるとともに、相対車輪に対して固定されて同軸であり、一方、ブレーキキャリパは、2つのブレーキパッドのうちの1つがブレーキキャリパの一部である油圧作動シリンダの推力を受けるときに車輪軸に対して平行に浮くように、2つのスタッド又はピンに対してスライド可能に結合される。
【0011】
また、従来の自動車ブレーキシステムはパーキングブレーキも備え、該パーキングブレーキは、伝統的に機械式であり、又は、中-高カテゴリーの最近の自動車両では通常、電気式であり、機械式パーキングブレーキではブレーキレバーの手動操作に応じて又は電気式パーキングブレーキでは通常はブレーキペダルの踏み操作と組み合わせた電気スイッチの手動操作に応じて、自動車両車輪のうちの2つにのみ、特に後輪にのみ作用する。
【0012】
ハイブリッド車両及び完全電気車両は、代わりに、2つの異なるブレーキ機構を備え、これらの車両は、従来の自動車ブレーキシステムによってもたらされるブレーキ機構に加えて、実際には、可逆的電気機械によってもたらされる付加的なブレーキ機構を備え、可逆的電気機械は、自動車両車輪に機械的に結合されるとともに、
自動車両を推進するべく自動車両の車輪に伝えられるとともに、ハイブリッド車では電力が多いか又は少ないか(マイルドハイブリッド対クラシックハイブリッド)に応じて内燃機関により生成される動力に対して付加的又は代替的となり得る、機械的な動力を生成するための電気エンジン、及び、
いわゆる回生制動又はエネルギー回収を行なうための発電機であって、それを行なう間にわたって、制動中の自動車両の運動エネルギーが電気エネルギーに変換され、この電気エネルギーが、その後、後に自動車両に推進力を与えるために電気エンジンとして動作する際に電気機械によって利用されるべく自動車両の電気エネルギーアキュムレータ(バッテリ)に蓄えられる、発電機、
として動作可能である。
【0013】
例えば、マイルドハイブリッド車両において、可逆的電気機械は、ベルト駆動スタータジェネレータ(BSG)としてより一般的に知られている可逆的オルタネータを備え、該オルタネータは、ベルトによって自動車両の内燃機関のモータシャフトに結合されるとともに、内燃機関によって生成される機械的トルクに対して付加的な機械的トルクを生成するための電気エンジンとして及び電気エネルギーを生成するための従来のオルタネータとして選択的に動作するように電子的に制御可能なモータジェネレータである。
【0014】
エネルギーを回収して自動車両のエネルギーバランスを最適化するために、回生制動中に可逆的電気機械によってもたらされるブレーキ機構は、例えば都会地区又は郊外地区において、自動車両の動作状態により許容されるときにはいつでも利用され、その結果、従来の自動車ブレーキシステムによりもたらされるブレーキ機構よりも頻繁に使用される。
【0015】
結果として、ハイブリッド車両又は完全電気車両の従来の自動車ブレーキシステムの摩擦体は、従来の自動車ブレーキシステムのブレーキ機構が、利用できる唯一のものであり、その結果、任意の制動を実行するために使用される唯一のものである、内燃機関を伴う自動車両の摩擦体よりも大きい度合いまで汚れや錆に晒される。
【0016】
従来のブレーキシステムの、一般に摩擦体、特にブレーキディスクの汚れ及び錆の発生率が高いと、従来のブレーキシステムのブレーキ性能又は効率及び耐用年数の両方に悪影響を及ぼす。
【0017】
欧州特許第2718157号明細書及び独国特許出願公開第102015220567号明細書は、この欠点を克服することを目的とした2つの解決策を開示している。
【0018】
特に、欧州特許第2718157号明細書は、自動車両のブレーキシステムの状態を決定し、自動車両のブレーキペダルの操作の程度を検出し、及び、ブレーキシステムの状態とブレーキペダルの操作の程度とに応じてブレーキシステムの制動圧と電気機械によって実行されるエネルギー回収とを調整することを開示している。ブレーキシステムの状態は、ブレーキシステムの摩擦体の汚れ又は錆によって引き起こされるブレーキシステムの制動効果の低下として決定される。ブレーキシステムの制動圧及び電気機械によって実行されるエネルギー回収は、ブレーキシステムの制動効果の低下が増大するにつれて制動圧とエネルギー回収との間の比率を高めることによって調整される。
【0019】
独国特許出願公開第102015220567号明細書は、回生制動を実行するように設計される自動車両のブレーキディスクを洗浄する方法を開示し、この方法では、一連の周辺条件の存在下で、自動車両のブレーキパッドがブレーキディスクに僅かに適用されるが、これは自動車両を減速させるために必要ない。特に、ブレーキディスクに対するブレーキパッドの適用は、ブレーキディスクに対するブレーキパッドの適用に起因する減速率とエネルギー回収に起因する適切に設定された減速率との和から自動車両の所望の減速が得られるような程度まで、自動車両の制動又は減速からのエネルギー回収の共有が減少される自動車両の減速要求の存在下でのみ実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】欧州特許第2718157号明細書
【文献】独国特許出願公開第102015220567号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
出願人は、前述の従来技術の解決策が、それらが改善しようとする欠点を克服できるようにするか否かに関わらず、少なくともブレーキ機構の動作を管理する論理の観点から、ある程度の複雑さを有することを見出し、その実施は、結果として、車載コンピュータ又は自動車両の電子制御ユニットのいずれかの計算リソースの大幅な活用を伴う。
【0022】
したがって、本発明の目的は、ブレーキシステムの摩擦体を洗浄するための予防的な方策を提供することある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
このため、本発明は、基本的に、従来の自動車ブレーキシステムにより実行されて自動車両の始動からカウントされる制動の数に基づいて、従来の自動車ブレーキシステムの摩擦体の洗浄を行なうことを提供する。これらの動作条件は、自動車両のキーオフからキーオンへの移行に基づいて又は同じ情報を提供できる任意の他の利用可能な方法で、都合良く決定され得る。
【0025】
したがって、本発明は、複雑な推定モデルを使用しないが、この推定モデルは、ブレーキディスクの温度又は外部湿度など、測定又は推定される自動車又は環境の量に基づくとともに、それらが多くの場合に外部温度又は局所湿度或いは塩水への近さなどの外部環境に関する実際のデータを考慮に入れないという事実に主に起因して、かなりの制限を示す。
【0026】
また、本発明は、ブレーキディスク酸化の推定モデルも使用しないが、これらのモデルはかなりの制限を有し、その使用は、予防方策ではなく修正方策につながる可能性が高い。この場合、実際には、ドライバーは、エネルギー節約に関する利点又は操作の頻度及び強度に関する煩わしさの制限を何ら伴うことなく、最適化されない回生制動システムを使用して運転する。
【0027】
本発明によれば、添付の特許請求の範囲に記載されるように、ハイブリッド車両又は完全電気車両のための自動車電子制御システム、そのような自動車電子制御システムを備えたハイブリッド車両又は完全電気車両、及び、そのような自動車電子制御システム用のソフトウェアが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る自動車電子制御システムを備えるハイブリッド車両又は完全電気車両の原理ブロック図である。
図2】自動車電子制御システムの自動車電子制御ユニットによって実行される動作のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ここで、当業者がそれを複製して使用できるようにするべく、添付の図を参照して本発明を詳細に説明する。記載された実施形態に対する様々な修正は、当業者に直ちに明らかとなるであろう。説明される一般的な原理は、添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の保護の範囲から逸脱することなく、他の実施形態及び用途に適用され得る。
【0030】
したがって、本発明は、説明及び図示された実施形態に限定されると見なされるべきではなく、本発明には、説明されて特許請求の範囲に記載された特徴にしたがって最も広い保護範囲が与えられなければならない。
【0031】
別段に定義されない場合、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明に関連する当業者によって一般的に使用されるのと同じ意味を有する。競合が発生した場合、与えられた定義を含むこの説明には拘束力がある。更に、これらの例は、単なる例示目的で与えられ、したがって、限定するものと見なされるべきでない。
【0032】
特に、添付の図に含まれて以下で説明されるブロック図は、構造的特徴又は構成上の制限の表示としては意図されていないが、機能的特徴、すなわち、得られる効果によって規定されるデバイスの固有の特性、つまり、ブロック図の機能性(作業能力)を保護するために様々な方法で実装され得る機能制限として見なされなければならない。
【0033】
本明細書中に記載される実施形態の理解を容易にするために、幾つかの特定の実施形態を参照し、また、特定の言語を使用して実施形態を説明する。本説明で使用される言語は、特定の実施形態のみを説明することを目的としており、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【0034】
図1は、
ブレーキペダルBP又は別の操作上同等の制御部材、例えば障害のあるドライバーのための車両HV/EVにおけるステアリングホイールの制御部材の操作に応じた摩擦体の相互作用に起因して、車両HV/EVを制動するための摩擦体に基づく従来のブレーキシステムBSであって、それによってドライバーが車両HV/EVの減速若しくは低速化を制御できる又は例えば車両HV/EVが加速するようになる下り坂の道路で加速を制限できる、従来のブレーキシステムBSと、
車両HV/EVの車輪Wに動作可能に結合されるとともに、車両HV/EVを推進するための電気エンジンとして及び回生制動中に車両HV/EVの運動エネルギーを電気エネルギーに変換するための発電機として選択的に動作するように電子的に制御可能な可逆的電気機械EMと、
電気バッテリパックEBの形態を成すとともに、回生制動中に発電機として電気機械EMが動作するときにそれによって生成される電気エネルギーを蓄えるため、及び車両HV/EVを推進するための電気エンジンとして動作するときに電気機械EMを給電するために、電気機械EMに電気的に接続される電気エネルギーアキュムレータと、
電子制御システムであって、
とりわけ、本発明を実装するために必要であって以下で更に詳しく説明される自動車の量を測定するための感知システムSSと、
一般に車両HV/EVの車載通信ネットワーク、例えばCAN、FlexRAy又は他のものを介して、従来のブレーキシステムBSの電子制御ユニット、電気機械EM、ブレーキペダルBP、及び感知システムSSに電気的に接続されるとともに、以下で詳しく説明されるように、ブレーキペダルBP又は任意の他の操作上同等の制御部材の操作に応じて従来のブレーキシステムBS及び電気機械EMの動作を制御するようにプログラムされる電子制御ユニットECUと
を備える電子制御システムと、
を備えるハイブリッド車両又は完全電気車両HV/EVを概略的に示す。
【0035】
一例として、図1は、従来のディスクブレーキシステムBS、すなわち、各ディスクブレーキアセンブリBAが、ブレーキディスクBDと、ブレーキディスクBDの両側に配置されてフローティングブレーキキャリパBCによって支持される2つのブレーキパッドBPとを備える、ディスクブレーキシステムBSを示す。
【0036】
言うまでもなく、ディスクブレーキアセンブリBAについて述べたことは、ドラムブレーキアセンブリにも当てはまる。
【0037】
ハイブリッド車両HV、特に電気機械EMがベルト駆動スタータジェネレータBSGの形態を成すハイブリッド車両において、電子制御ユニットECUは、電気機械EMの動作を制御して、以下の機能、すなわち、
電子制御ユニットECUの制御下で又は車両HVの特定の走行状態下で別の電子制御ユニットにより内燃機関が停止された後に、電気機械EMが必要に応じて内燃機関(ICE)を再始動するための電気エンジンとして動作される、自動内燃機関停止及び始動(S&S)、
制動中に車両HVの運動エネルギーを回収してそれを電気エネルギーに変換するために電気機械EMが必要に応じて発電機として動作される、回生制動(RB)、
必要に応じて機械的な動力を生成して内燃機関(ICE)により生成される動力を補うための電気エンジンとして電気機械EMが動作される、電力アシストトルクブースト(又はモータ動作)(EPA)、及び、
電気機械EMが電気エネルギーを生成するための発電機として動作される、オルタネータ(A)、
のうちの1つ以上を選択的に果たすようにプログラムされる。
【0038】
本発明によれば、電子制御ユニットECUは、従来のブレーキシステムBSの摩擦体を洗浄するための摩擦体洗浄機能を果たすように更にプログラムされる。摩擦体洗浄機能は、従来のブレーキシステムBSの摩擦体を洗浄することの妥当性を最初に評価するステップと、この評価が肯定的な結果を有する場合に、その結果として従来のブレーキシステムBSの動作を制御して、ブレーキディスクBDの形態で考慮される例では、従来のブレーキシステムBSの摩擦体を洗浄し、あらゆる汚れ及び錆を除去して、図2に示されるフローチャートに関連して以下で詳しく説明される態様で、従来のブレーキシステムBSのブレーキ性能、したがって、耐用年数を回復させるステップとを含む。
【0039】
図2に示されるように、電子制御ユニットECUは、いわゆるキーオフ状態と、いわゆるキーオン状態との間の移行の発生を最初に検出するようにプログラムされ(ブロック10)、キーオフ状態及びキーオン状態は、車両HV/EVの電子キーのタイプに依存し、実質的に、車両HV/EVの電気エンジン又は内燃機関のオフ状態及びオン状態にそれぞれ対応する。
【0040】
特に、メカニカルキーを備えた電子キーにおいて、キーオン状態は、コード化された電子キーが車両HV/EVの車載コンピュータによって認識されることによって表わされ、メカニカルキーがイグニッションブロックに及びオン位置に機械的に挿入されており、一方、キーオフ状態は、イグニッションブロックがオフ位置にあることによって表わされる。
【0041】
エンジンを始動できるようにしないメカニカルキーを伴わない又はメカニカルキーを伴う電子キーでは、エンジンがエンジンスタートボタンを用いて始動されてもよいため、キーオン状態は、単に、エンジンが始動されるときにコード化された電子キーが車両HV/EVの車載コンピュータによって認識されることによって、場合により、キーフォブが始動許可領域に当接する又はキーフォブの端部が対応する始動許可シートに機械的に挿入されることによって表わされる。キーオフ状態は、代わりに、電子キーの認識が行なわれなかった状況に対応する。
【0042】
キーオフ状態からキーオン状態への移行の発生が検出されると、電子制御ユニットECUは、
ブレーキカウンタを所定の値、好都合にはゼロに初期化する(ブロック20)、及び、
ここで以下に詳しく記載されるように、車両HV/EVの従来のブレーキシステムBSの摩擦体BDのいずれの洗浄が制御されるかに基づき、車両HV/EVの車載通信ネットワークから自動車の量を受信する(ブロック30)、特に、
車両HV/EVの電気バッテリパックEPの充電状態(SOC)、
一例として「電気駆動モード」、「エネルギー節約モード」、「スポーツモード」、「都市モード」などを含む利用可能な運転モードのグループ内でセレクタ(マネッティノダイヤル)を介してドライバーにより手動で選択され得る運転モード、HV/EV
例えば適切なカウンタを用いて時間単位でカウントされ得る、従来のブレーキシステムBSの摩擦体を洗浄することの妥当性を最後に評価してから経過した時間、
キーオン状態からキーオフ状態への移行と、その後のキーオフ状態からキーオン状態への移行との間の経過時間として規定される、車両HV/EVの停止持続時間、
記載された動作が行なわれる現在の暦日の前の暦日など、自動車メーカーにより適切に規定される、キーオフ状態からキーオン状態への移行が検出される前の基準期間内で、車両HV/EVにより走行される距離、
例えばカウンタを用いて計数可能な、現在の暦日の前の暦日など、自動車メーカーにより適切に規定される基準期間内での、車両HV/EVのドア、好都合には運転席ドアの開きの数、及び、
ステアリングホイール角度
を受信するようにプログラムされる。
【0043】
車両HV/EVにより走行される距離、及び基準期間内の車両HV/EVの運転席ドアの開きの数を知ることにより、運転席ドアの開き間で「平均走行距離」を決定でき、それにより、ドライバーによる車両HV/EVの使用タイプを決定できる。
【0044】
電子制御ユニットECUは、他の自動車両メーカーの性能から際立った性能を達成するために、受信される自動車の量が、車両メーカーごとに異なり得る所定の動作条件を満たすかどうかをチェックするようにプログラムされる(ブロック40)。
【0045】
一例として、電子制御ユニットECUは、
電気バッテリパックEPの充電状態が所定の範囲内、例えば30%~80%の範囲内であるかどうか、
特別なセレクタによって選択される運転モードが、従来のブレーキシステムBSの摩擦体の洗浄が独自の基準に基づいて実行可能であると見なされる運転モードのグループに属するかどうか、
車両HV/EVの停止持続時間が閾値、例えば3時間を超えているかどうか、
従来のブレーキシステムBSの摩擦体を洗浄することの妥当性の最後の評価から経過した時間が、閾値、例えば3時間を超えているかどうか、
前の暦日中に車両HV/EVが走行した距離が閾値、例えば40kmを下回っているかどうか、
前の暦日中の車両HV/EVの運転席ドアの開きの数が閾値、例えば8回を超えているかどうか、
をチェックするようにプログラムされ得る。
【0046】
動作条件のうちの1つでも満たされていないと決定されれば、電子制御ユニットECUは、可逆的機械EMを介した回生制動を可能にするようにプログラムされる(ブロック50)。
【0047】
一方、全ての動作条件が満たされていると決定されれば、電子制御ユニットECUは、
ブレーキペダルBP又は任意の同等の制御部材を介して車両HV/EVを制動するというドライバーによる要求の発生を検出する(ブロック60)、
車両HV/EVを制動するという要求の発生が検出されると、ブレーキカウンタを1単位増大させる(ブロック70)、及び
以下の動作条件が満たされるかどうかをチェックする(ブロック80)、
特別なセレクタによって選択される運転モードが、従来のブレーキシステムBSの摩擦体の洗浄が所定の独自の基準に基づいて実行可能と見なされる運転モードのグループに属し続ける、
キーオフ状態からキーオン状態への移行の検出に基づいて認識される車両HV/EVの始動から開始してカウントされる、従来のブレーキシステムBSによって実行される制動を示すブレーキカウンタの計数が、閾値以上、例えば10以上であり、これは、低速で実行される妥当な確率を伴う車両HV/EVのキーオン後の最初の制動中に、例えば、車両HV/EVの速度が低く、結果として、従来のブレーキシステムBSの摩擦体の任意の洗浄が役に立たず、効果がない、駐車場又はガレージからの出口操作中に、従来のブレーキシステムBSの摩擦体の洗浄を回避するように較正可能である、
ステアリングホイール角度が、閾値、例えば120°以下であり、これは、ステアリングホイール角度が大きくなると、車両HV/EVの速度が通常低く、従来のブレーキシステムBSの摩擦体の任意の洗浄が役に立たず、効果がないからである、
動作条件のうちの1つでも満たされていないと決定されれば、ブロック60に戻って、ブレーキペダルBP又は任意の同等の制御部材を介して車両HV/EVを制動するというドライバーによる要求の発生を検出する、及び、
代わりに全ての動作条件が満たされていると決定されれば、以下の動作を実行する(ブロック90)、
可逆的機械EMによる回生制動を無効化する、
従来のブレーキシステムBSのみを使用して車両HV/EVを制動する、及び
従来のブレーキシステムBSの摩擦体を洗浄することの妥当性を最後に評価してから経過した時間をリセットする、
ようにプログラムされる。
【0048】
従来のブレーキシステムBSのみを使用することによる車両HV/EVの制動が完了したと決定されると、可逆的機械EMを介した回生制動を再び可能にする(ブロック50)。
【0049】
本発明が達成することを可能にする利点は、前述したものに基づいて認識され得る。
【0050】
特に、本発明は、従来の自動車両ブレーキシステムの摩擦体を、導入部に記載された従来技術の解決策と比較してはるかに計算的に簡単な方法で洗浄できるようにし、したがって、従来技術の解決策と比較して、自動車両の車載コンピュータ又は電子制御ユニットの計算リソースの活用への影響が少ない。
【0051】
これは、前述の従来技術の解決策で発生するような、従来のブレーキシステムの摩擦体を洗浄するための修正方策ではなく、予防方策によって達成されるが、この方策は、本質的に、従来のブレーキシステムの摩擦体を洗浄するための方策の以前の実施からカウントされる従来のブレーキシステムによって実行される制動の数に基づく。
【0052】
更に、従来のブレーキシステムの摩擦体を洗浄するための予防方策は、ブレーキディスクの温度又は外部湿度など、測定又は推定される自動車又は環境の量に基づいた複雑な推定モデルに基づかないが、このモデルは、かなりの制限を示すとともに、多くの場合、外部温度若しくは局所湿度又は塩水への近さなどの外部環境に関する実際のデータを考慮に入れない。
【0053】
更に、従来の予防ブレーキシステムの摩擦体を洗浄するための方策は、ブレーキディスク酸化の複雑な推定モデルに基づかないが、これらのモデルはかなりの制限を有し、その使用は、予防方策ではなく修正方策につながる可能性が高い。この場合、実際には、ドライバーは、エネルギー節約に関する利点又は操作の頻度及び強度に関する煩わしさの制限を何ら伴うことなく、最適化されない回生制動システムを使用して運転する。
図1
図2