(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】カルボジイミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 267/00 20060101AFI20220404BHJP
【FI】
C07C267/00
(21)【出願番号】P 2020550917
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2018085127
(87)【国際公開番号】W WO2019121462
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-06-10
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505422707
【氏名又は名称】ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルヘルム・ラウファー
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-304721(JP,A)
【文献】特表2017-522279(JP,A)
【文献】特表2015-520267(JP,A)
【文献】特表2015-531814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 267/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体芳香族カルボジイミドの調製方法であって、これが、以下の工程
a)触媒の存在下で単量体芳香族イソシアネートをカルボジイミド化する工程、
b)薄膜蒸発器においてa)からの反応生成物から低沸騰物及び触媒を分離する工程、
c)更なる薄膜蒸発器においてb)からの残留物を蒸留する工程
において実施されることを特徴とする
、方法。
【請求項2】
前記単量体芳香族カルボジイミドが、式(I)
R-N=C=N-R
1 (I)
(式中、R及びR
1は、
【化1】
であり、
R
2=イソプロペニル、t-ブチル又はC
1~C
6アルコキシであり、
R
3=H、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル及び/又はtert-ブチル、好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル及び/又はtert-ブチルであり、並びに
A
*は、式(I)におけるカルボジイミド官能基の窒素への結合を表す)
のカルボジイミドであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記式(I)の前記カルボジイミドが、
【化2】
に相当することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記蒸留工程b)及びc)が、連続プロセスとして操作されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程b)における前記蒸留が、150℃~220
℃の温度で、及び0.1~5ミリバー
ルの圧力で実施されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
C
1~C
12アルキル置換ベンゼン及び/若しくはジベンゼン並びに/又はピロリドンが、低沸騰物の除去において共留剤として使用されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程c)における温度が、工程b)におけるよりも5℃高
いことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程c)における工程における前記蒸留が、160℃~220
℃の温度で、及び0.05~5ミリバー
ルの圧力で実施されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
使用される前記イソシアネートが、3-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート(TMI)及び/又は2,4,6-トリイソプロピルフェニルイソシアネート(TRIPI)であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程c)において用いられる前記薄膜蒸発器が、ショートパス蒸発器であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
それによって調製される前記式(I)の前記カルボジイミドが、加水分解安定性ポリウレタンベースの(PUベースの)システ
ムの製造に使用されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボジイミド、好ましくは単量体の、立体障害のある芳香族カルボジイミドの新規調製方法に関する。カルボジイミドは、多くの用途において、例えば熱可塑性樹脂、ポリオール、ポリウレタン、トリグリセリド及び潤滑油等用の加水分解防止剤として有用であると分かっている。
【背景技術】
【0002】
カルボジイミドの先行技術合成はイソシアネートから出発し、イソシアネートは、CO2の脱離ありで塩基性又は複素環触媒作用下にカルボジイミド化される。これは、一官能性又は多官能性イソシアネートが単量体又は重合体カルボジイミドへ変換されることを可能にする。
【0003】
典型的に使用される触媒は、リンを含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属化合物及びまた複素環化合物であり、(非特許文献1)及び(非特許文献2)を参照されたい。
【0004】
通常使用されるリン含有触媒の完全な除去は困難である。カルボジイミドは、ポリウレタンの製造に好ましくは使用されるので、痕跡量のリンの存在でさえ、深刻な問題を引き起こし、それ故回避されなければならない。更に、調製された単量体カルボジイミドは、収率の損失を伴う蒸留若しくは多段結晶化によって、又はCO2の存在下での労力を要する反応によってのみ通常工業的に達成できる、可能な限り低い色指数及び低いイソシアネート含有率を有するべきであり、(特許文献1)及び(特許文献2)を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】欧州特許出願公開第A 0 602 477号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A 2 855 573号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Angew.Chem.1962,74,801-806
【文献】Angew.Chem.1981,93,855-866
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それ故、低い色指数でそれらが調製されることを可能にする、ある種の単量体カルボジイミドの改善された調製方法を提供することが本発明の目的であった;これらの単量体カルボジイミドは、それらが次に、PUシステムの製造及び/又は安定化に使用され得るように、有機リン化合物及び未反応の出発原料、好ましくはイソシアネートを理想的には含まないものであるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
意外にも、この方法が以下の工程:
- 触媒の存在下で単量体芳香族イソシアネートをカルボジイミド化する工程と、
- 薄膜蒸発器において反応生成物から低沸騰物及び触媒を分離する工程と、
- 更なる薄膜蒸発器において残留物を蒸留する工程
において実施される場合に、これらの上述の目的が達成されることが今分かった。
【0009】
本発明は、したがって、単量体芳香族カルボジイミドの調製方法であって、以下の工程:
- 触媒の存在下で単量体芳香族イソシアネートをカルボジイミド化する工程と、
- 薄膜蒸発器において反応生成物から低沸騰物及び触媒を分離する工程と、
- 更なる薄膜蒸発器において残留物を蒸留する工程
において実施される方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明との関連での単量体芳香族カルボジイミドは、フェニル基の炭素原子を介して又はフェニル基上のアルキル基を介してカルボジイミド基の窒素に直接結合しているC1~C6アルキル-及び/又はC1~C6アルコキシ-置換フェニル基を有するカルボジイミドである。
【0011】
式(I)
R-N=C=N-R
1 (I)
(式中、R及びまたR
1は、
【化1】
であり、
R
2=イソプロペニル、t-ブチル又はC
1~C
6アルコキシであり、
R
3=H、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル及び/又はtert-ブチル、好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル及び/又はtert-ブチルであり、
並びにA
*は、式(I)におけるカルボジイミド官能基の窒素への結合を表す)
の単量体カルボジイミドがここでは特に好ましい。
【0012】
式(I)の好ましいカルボジイミドについて、本発明の方法は、
a)触媒の存在下で、群R-N=C=O及び/又はR1-N=C=O(式中、R及びR1は、上で定義された通りである)から選択されるイソシアネートを反応させる(カルボジイミド化する)工程と、
b)薄膜蒸発器においてa)からの反応生成物から低沸点物及び触媒を分離する工程と、
c)更なる薄膜蒸発器においてb)からの残留物を蒸留する工程と
によって達成される。
【0013】
本方法の好ましい実施形態において、カルボジイミドは、式(II)
【化2】
の化合物に相当する。
【0014】
本発明の方法の更に好ましい実施形態において、カルボジイミドは、式(I)R-N=C=N-R
1
(式中、R及びR
1は、
【化3】
であり、
R
3はイソプロピル基であり、及びA
*は、式(I)におけるカルボジイミド官能基の窒素への結合を表す)
の化合物に相当する。
【0015】
本発明の方法との関連での工程a)における触媒の存在下でのイソシアネートのカルボジイミド化は、例えば、Angew.Chem.93,pp.855-866(1981)又は独国特許出願公開第A-11 30 594号明細書又はTetrahedron Letters 48(2007),pp.6002-6004に記載されているように、CO2の脱離ありの縮合反応において達成される。
【0016】
カルボジイミド化は、溶媒あり又は溶媒なしで実施することができる。溶媒なしでカルボジイミド化を始め、次に、これが溶媒の添加後に完成されることも同様に可能である。溶媒としてベンジン、ベンゼン及び/又はアルキルベンゼンを使用することが好ましい。
【0017】
使用されるイソシアネートは、好ましくは、3-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート(TMI)及び/又は2,4,6-トリイソプロピルフェニルイソシアネート(TRIPI)である。
【0018】
本発明の一実施形態において、式(I)の化合物を調製するための触媒は、好ましくはリン化合物である。ホスホレンオキシド、ホスホリジン又はホスホリンオキシド及びまた相当するスルフィドを使用することが好ましい。触媒は、特に好ましくは、アルキル=C1~C6アルキルであるアルキルホスホレンオキシド、好ましくはメチルホスホレンオキシドである。
【0019】
反応は、40℃~200℃の温度範囲内で好ましくは実施される。
【0020】
本発明の方法の更に好ましい実施形態において、カルボジイミド化に、a)からの反応生成物の濾過が続く。濾過が実施される場合、これは、任意選択的に、好ましくは珪藻土又は活性炭などの濾過助剤を添加して、フィルターカートリッジ又はバッグフィルターを使用して好ましくは行われる。
【0021】
濾過は、30~100℃の温度で好ましくは実施される。
【0022】
カルボジイミド化a)及び任意選択の濾過後に、低沸騰物及び触媒は、薄膜蒸発器においてa)からの反応生成物から分離される。
【0023】
本発明との関連での薄膜蒸発器は、薄膜で液体を蒸発させる蒸発器である。それは、減圧下で好ましくは操作され、それ故、穏和な条件下での物質混合物の分離に好適である。本発明との関連での薄膜蒸発器の中で、例えばVTA GmbH & Co.KGから入手可能であるような、回転ワイパーを有する流下薄膜型蒸発器が好ましい。
【0024】
本発明との関連での低沸騰物は、好ましくは、調製された単量体カルボジイミドの又は相当するカルボジイミド混合物の沸点よりも少なくとも50℃、好ましくは少なくとも60℃、より好ましくは少なくとも70℃下の沸点を有する、カルボジイミド化の実施から生じた副生成物又は未反応反応剤/イソシアネートである。
【0025】
工程b)における分離は、150℃~200℃、好ましくは160℃~190℃、より好ましくは170℃~180℃の温度で、及び0.1~5ミリバール、好ましくは0.2~1ミリバール、より好ましくは0.3~0.6ミリバールの圧力で好ましくは実施される。
【0026】
本発明の更に好ましい実施形態において、工程b)と工程c)との間の温度差は、5℃、好ましくは10℃である。
【0027】
本発明の更に好ましい実施形態において、工程c)における温度は、工程b)におけるよりも、5℃高い、好ましくは10℃高い。
【0028】
更なる実施形態において、いわゆる共留剤を低沸騰物の除去に使用することができる。C1~C12アルキル置換ベンゼン及び/若しくはジベンゼン並びに/又はピロリドンがここでは好ましい。N-メチル-及びN-エチルピロリドン並びに/又はキシレンがこのために好ましい。
【0029】
工程c)において、b)からの残留物が、更なる薄膜蒸発器において蒸留される。c)からの残留物の蒸留は、更なる薄膜蒸発器において好ましくは実施される。用いられる薄膜蒸発器は、好ましくは、ショートパス蒸発器である。
【0030】
本発明との関連でのショートパス蒸発器は、凝縮器が蒸発器シリンダー内部に統合されている改良型薄膜蒸発器である。これは、蒸気が生成物膜から凝縮器まで移動しなければならないパスが非常に短いことを意味する。
【0031】
本発明との関連でのb)からの残留物は、調製された単量体カルボジイミドと、結果として生じた副生成物とを主に含む。
【0032】
工程c)において、b)からの残留物の蒸留は、160℃~220℃、好ましくは165℃~210℃、より好ましくは190℃~205℃の温度で、及び0.05~5ミリバール、好ましくは0.1~1ミリバール、より好ましくは0.2~0.6ミリバールの圧力で好ましくは実施される。
【0033】
本発明の更に好ましい実施形態において、工程b)及びc)は、b)からの残留物を単離することなく連続的に実施される。
【0034】
本発明の方法によって調製された単量体カルボジイミドは、0.1%未満の少量の単量体イソシアネート及び1ppm未満のリン含有量と組み合わせて、ISO 11664-4に従ってCIE L*a*b*により測定される、b値における10未満の色指数を好ましくは有する。
【0035】
本発明は、加水分解安定性ポリウレタンベースの(PUベースの)システム、好ましくは熱可塑性ポリウレタン(TPU)、軟質及び硬質PUフォーム、並びに高温注型PUエラストマーの製造での本発明の方法によって調製された単量体カルボジイミドの使用を更に提供する。
【0036】
本発明の範囲は、一般的な用語で又は互いに一緒に、すなわち、それぞれの範囲及び任意の組み合わせでの好ましい範囲を含めて、好ましい範囲内で、上に述べられた及び本明細書で以下に詳述される全ての基本的な定義、指数、パラメータ及び解明を包含する。
【0037】
以下の実施例は、限定的であることなく、本発明を明らかにするのに役立つ。
【実施例】
【0038】
CDI 1:2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド
CDI 2:式(II)
【化4】
のカルボジイミド
CDI 3:式(I)R-N=C=N-R
1(式中、R及びR
1は、
【化5】
を表し、
R
3はイソプロピル基であり、及び式中、A
*は、式(I)におけるカルボジイミド官能基の窒素への結合を表す)のカルボジイミド
【0039】
カルボジイミド化
カルボジイミドCDI 1~3は、対応するイソシアネートの反応によってステンレス鋼タンクにおいて調製した、すなわち、CO2の脱離ありの160~170℃の温度で触媒としての200~500ppmのメチルホスホレンオキシドの存在下で2,6-ジイソプロピルフェニルイソシアネート(DIPPI)をCDI 1のために、3-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート(TMI)をCDI 2のために、及び2,4,6-トリイソプロピルフェニルイソシアネート(TRIPI)をCDI 3のために使用した。1%未満の残存イソシアネート含有量に達するまで、カルボジイミド化反応を続行した。
【0040】
このようにして調製されたカルボジイミドCDI 1~CDI 3を、次に、下記の蒸留へ供給した。
【0041】
a)欧州特許出願公開第A-0 602 477号明細書による薄膜蒸発器における蒸留及び蒸留(比較):
カルボジイミドCDI 1~3を、先ず、ビグリュー(Vigreux)カラムを用いて、およそ200~220℃及び0.3~0.4ミリバールの圧力で回分式プロセスにおいて低沸騰物から分離し、次に、190~200℃の温度及び0.4ミリバールの圧力でのVTA薄膜蒸発器において連続的に蒸留した。
【0042】
b)2つの薄膜蒸発器を用いる蒸留(発明):
カルボジイミドCDI 1~3を、先ず、160~170℃の温度及び1.0ミリバールの圧力でのVTA薄膜蒸発器において低沸騰物を除き、残留物を、200~205℃の温度及び0.4ミリバールの圧力での第1と同一の第2薄膜蒸発器において蒸留した。
【0043】
色を、ISO 11664-4に従ってCIE L*a*b*法によって測定した。b*値を評価した。
【0044】
単量体イソシアネートの残存含有量は、HPLCによって測定し、リン含有量は、X線蛍光分析(XRF)によって測定した。
【0045】
結果を下の表1に示す。
【0046】
【0047】
本発明の方法によって調製されたカルボジイミドCDI 1~CDI 3は、先行技術法によって調製されたものと比べて改善された特性を有する。
【0048】
表1から理解できるように、好ましいカルボジイミドCDI 2及びCDI 3は、特に高い品質で、すなわち、低い色指数、毒性単量体イソシアネートの低い含有量で及び、更に、有機リン化合物の検出可能な含有量を全く持たずに、特に調製することができる。
【0049】
これらは、PUシステムの製造及び/又は安定化での使用に理想的に好適である。