(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】密封装置及び密封構造
(51)【国際特許分類】
F16J 15/10 20060101AFI20220404BHJP
【FI】
F16J15/10 J
F16J15/10 N
(21)【出願番号】P 2020567428
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2019049610
(87)【国際公開番号】W WO2020153056
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019009634
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】萩原 直樹
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/137491(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3192593(JP,U)
【文献】特開2000-046186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材が形成する環状の空間の密封を図るための密封装置であって、
軸線
の周りに環状の補強環と、
前記補強環に取り付けられている弾性体から形成されている前記軸線
の周りに環状の弾性体部とを備え、
前記弾性体部は、前記軸線
の方向における一方の側に向かって突出する環状の部分であるシールリップと、前記軸線
の方向における他方の側に向かって突出する環状の部分である副シール部と、前記補強環を外周側から覆う部分である外周側部とを有しており、
前記シールリップは前記軸線
の方向において前記補強環よりも前記一方の側に突出しており、
前記副シール部は前記軸線
の方向において前記補強環よりも前記他方の側に突出しており、
前記外周側部には、前記軸線
の方向における中央よりも前記一方の側又は他方の側に目印となる識別部が少なくとも1つ形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記識別部は凹部であることを特徴とする請求項1記載の密封装置。
【請求項3】
前記識別部は、前記外周側部の前記一方の側の端部に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の密封装置。
【請求項4】
前記シールリップの突出方向における長さは、前記副シール部の突出方向における長さよりも長いことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の密封装置。
【請求項5】
複数の部材が形成する軸線
の周りに環状の空間である装着空間と、該装着空間の密封を図るための密封装置とを備える密封構造であって、
前記装着空間と前記密封装置との間に係合部が設けられており、
前記係合部は、前記装着空間に形成された外周側に凹む部分である係合凹部と、前記密封装置に形成された前記係合凹部に収容可能に形成された外周側に突出する部分である係合凸部とを有
し、
前記密封装置は、前記軸線
の周りに環状の補強環と、前記補強環に取り付けられている弾性体から形成されている前記軸線
の周りに環状の弾性体部とを備えており、
前記弾性体部は、前記軸線
の方向における一方の側に向かって突出する環状の部分であ
り所望の締め代又はつぶし代で前記装着空間の外側シール面に接触するシールリップと、前記軸線
の方向における他方の側に向かって突出する環状の部分であ
り所望の締め代又はつぶし代で前記装着空間の内側シール面に接触する副シール部とを有しており、
前記シールリップは前記軸線
の方向において前記補強環よりも前記一方の側に突出しており、
前記副シール部は前記軸線
の方向において前記補強環よりも前記他方の側に突出しており、
前記係合凸部は、前記軸線
の方向において、
圧縮前の状態における前記シールリップと前記副
シール部との間に形成されていることを特徴とす
る密封構造。
【請求項6】
前記補強環は、前記一方の側の端部に、外周側に環状に突出するフランジ部を有しており、
前記密封装置は、前記フランジ部において外周側に突出しており前記係合凸部が形成されていることを特徴とする請求項
5記載の密封構造。
【請求項7】
前記装着空間は、前記軸線
の方向において対向する一対の環状の面であるシール面と、該一対のシール面の一方から前記軸線に沿って延びる筒状の面である外周壁面とを有しており、
前記係合凹部は、前記外周壁面の前記一方のシール面側とは反対側の端部に形成されていることを特徴とする請求項
5又は6記載の密封構造。
【請求項8】
前記係合凹部は、面取り部又は座繰り部であることを特徴とする請求項
7記載の密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置及び密封構造に関し、特に、静的な密封を行う密封装置、及び静的な密封を行う密封装置を用いた密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ハウジングとカバー等の相対移動不能に互いに対向する複数の部材間に形成される環状の溝等の環状の空間に取り付けられ、この部材間の隙間の密封を図る密封装置としてのガスケットが知られている。ガスケットは、その取り付けられる環状の空間を形成する適用対象部材と共に密封構造を形成している。このような従来のガスケットには、軸線周りに環状の軸線方向に延びる筒状の補強環と、補強環に取り付けられた弾性体から成る弾性体部とを有し、この弾性体部が補強環の軸線方向における両端部から夫々軸線に沿って延びる一対のリップ部を有しているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年ガスケットの適用対象部材の小型化又は軽量化が図られており、これによりガスケット自体の小型化のための小断面化や、適用対象部材における薄肉化や樹脂化が図られている。ガスケットの小断面化や適用対象部材における薄肉化や樹脂化は、ガスケットが取り付けられる環状の空間を小さくし、この空間の製造による寸法の相対的なバラツキを大きくする。このため、ガスケットが取り付けられる環状の空間の寸法のバラツキからガスケットの意図したシール性能が得られなくなる場合が考えられ、種々の工夫がなされている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平6-32834号公報
【文献】国際公開第2015/137491号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような取付対象の環状の空間の寸法のバラツキがあったとしてもシール性能の低下を防止することができるガスケットであっても、取付対象の環状の空間に対する軸方向におけるガスケットの取付方向が意図した方向ではない場合、リップが取付対象の環状の空間から外れ、意図したシール性能が発揮されなくなる場合がある。このため、取り付けたガスケットが意図した方向となっているように確認する必要があり、意図した方向となっていない場合は取り付け直す必要があり、生産効率の低下をもたらす場合があった。
【0006】
このように、従来のガスケット等の静的な密封装置及び密封構造に対しては、取付対象の環状の空間の寸法にバラツキがあったとしてもシール性能の低下を防止することができるように適切に取り付けができるようにする密封装置及び密封構造が求められている。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、意図した取り付けがなされるようにすることができる密封装置及び密封構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る密封装置は、複数の部材が形成する環状の空間の密封を図るための密封装置であって、軸線周りに環状の補強環と、前記補強環に取り付けられている弾性体から形成されている前記軸線周りに環状の弾性体部とを備え、前記弾性体部は、前記軸線方向における一方の側に向かって突出する環状の部分であるシールリップと、前記軸線方向における他方の側に向かって突出する環状の部分である副シール部と、前記補強環を外周側から覆う部分である外周側部とを有しており、前記シールリップは前記軸線方向において前記補強環よりも前記一方の側に突出しており、前記副シール部は前記軸線方向において前記補強環よりも前記他方の側に突出しており、前記外周側部には、前記軸線方向における中央よりも前記一方の側又は他方の側に目印となる識別部が少なくとも1つ形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記識別部は凹部である。
【0010】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記識別部は、前記外周側部の前記一方の側の端部に形成されている。
【0011】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記シールリップの突出方向における長さは、前記副シール部の突出方向における長さよりも長い。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る密封構造は、複数の部材が形成する軸線周りに環状の空間である装着空間と、該装着空間の密封を図るための密封装置とを備える密封構造であって、前記装着空間と前記密封装置との間に係合部が設けられており、前記係合部は、前記装着空間に形成された外周側に凹む部分である係合凹部と、前記密封装置に形成された前記係合凹部に収容可能に形成された外周側に突出する部分である係合凸部とを有する。
【0013】
本発明の一態様に係る密封構造において、前記密封装置は、前記軸線周りに環状の補強環と、前記補強環に取り付けられている弾性体から形成されている前記軸線周りに環状の弾性体部とを備えており、前記弾性体部は、前記軸線方向における一方の側に向かって突出する環状の部分であるシールリップと、前記軸線方向における他方の側に向かって突出する環状の部分である副シール部とを有しており、前記シールリップは前記軸線方向において前記補強環よりも前記一方の側に突出しており、前記副シール部は前記軸線方向において前記補強環よりも前記他方の側に突出しており、前記係合凸部は、前記軸線方向において、前記シールリップと前記副リップ部との間に形成されている。
【0014】
本発明の一態様に係る密封構造において、前記補強環は、前記一方の側の端部に、外周側に環状に突出するフランジ部を有しており、前記密封装置は、前記フランジ部において外周側に突出しており前記係合凸部が形成されている。
【0015】
本発明の一態様に係る密封構造において、前記装着空間は、前記軸線方向において対向する一対の環状の面であるシール面と、該一対のシール面の一方から前記軸線に沿って延びる筒状の面である外周壁面とを有しており、前記係合凹部は、前記外周壁面の前記一方のシール面側とは反対側の端部に形成されている。
【0016】
本発明の一態様に係る密封構造において、前記係合凹部は、面取り部又は座繰り部である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る密封装置及び密封構造によれば、意図した取り付けがなされるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係る密封装置の斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る密封装置の上面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る密封装置の軸線に沿う断面における断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る密封装置の使用状態を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る密封構造の有する密封装置の軸線に沿う断面における断面図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る密封構造の有する装着空間の軸線に沿う断面における断面図である。
【
図7】
図5に示す密封装置が
図6に示す装着空間に取り付けられた使用状態における本発明の実施の形態に係る密封構造の軸線に沿う断面における断面図である。
【
図8】
図5に示す密封装置の変形例に係る密封装置を示す軸線に沿う断面における断面図である。
【
図9】
図6に示す装着空間の変形例に係る装着空間を備える密封構造の軸線に沿う断面における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係る密封装置1の斜視図であり、
図2は、本発明の実施の形態に係る密封装置1の上面図であり、
図3は、本発明の実施の形態に係る密封装置1の軸線xに沿う断面における断面図である。
図1~3に示すように、本発明の実施の形態に係る密封装置1は、軸線x周りに環状の補強環10と、補強環10に取り付けられている弾性体から形成されている軸線x周りに環状の弾性体部20とを備えている。弾性体部20は、軸線x方向における一方の側に向かって突出する環状の部分であるシールリップ21と、軸線x方向における他方の側に向かって突出する環状の部分である副シール部22と、補強環10を外周側から覆う部分である外周側部23とを有している。シールリップ21は軸線x方向において補強環10よりも一方の側に突出しており、副シール部22は軸線x方向において補強環10よりも他方の側に突出している。外周側部23には、軸線x方向における中央よりも一方の側又は他方の側に目印となる識別部30が少なくとも1つ形成されている。密封装置1は、ガスケットであり、複数の部材が形成する環状の空間の密封を図るために用いられる。この環状の空間は、例えば、ハウジングとカバー等の相対移動不能に互いに対向する部材間に形成される。以下、密封装置1について具体的に説明する。
【0021】
以下、説明の便宜上、軸線x方向において矢印a(
図1,3参照)方向(軸線方向において一方の側)を外側とし、軸線x方向において矢印b(
図1,3参照)方向(軸線方向において他方の側)を内側とする。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(
図3の矢印c方向)を外周側とし、軸線xに近づく方向(
図3の矢印d方向)を内周側とする。
【0022】
図3に示すように、補強環10は、軸線xに沿って延びる筒状の部材であり、例えば、軸線xを中心軸又は略中心軸とする円筒状の又は略円筒状の部材であり、内側の端部である内側端11と、外側の端部である外側端12とを有している。補強環10は、弾性体部20を補強する部分である。補強環10は、例えば金属材から形成されており、この金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。補強環10が樹脂材から形成されている場合、樹脂材としては例えば、ナイロン66(PA66)やポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂がある。
【0023】
弾性体部20は、補強環10を覆うように形成されており、上述のように、シールリップ21と、副リップ部22と、外周側部23とを有している。また、弾性体部20は、内周側の部分である基部24を有している。基部24は、
図3に示すように、補強環10を内周側から覆う部分であり、基部24からシールリップ21及び副リップ部22が夫々延びている。具体的には、基部24の外側の端部(外側端24a)からシールリップ21が延びており、基部24の内側の端部(内側端24b)から副リップ部22が延びている。
【0024】
シールリップ21は、
図3に示すように、基部24の外側端24aから外側(矢印a方向)及び内周側(矢印d方向)に向かって斜めに突出している。シールリップ21は、例えば、軸線x方向において外側に向かうに連れて縮径する部分であり、軸線xを中心軸又は略中心軸とする円錐筒状又は略円錐筒状の部分である。シールリップ21は、補強環10の外側端12よりも外側に突出しており、シールリップ21の外側の端部である先端21aは、軸線x方向において、補強環10の外側端12よりも外側に位置している。シールリプ21は、先端21aが基部24に接続する部分である根本21bよりも薄くなっており、例えば、根本21bから先端21aに向かうに連れて薄くなっている。シールリップ21は、後述する使用状態において、外側のシール面に所定の締め代で接触するような長さとなっている。なお、シールリップ21の長さとは、シールリップ21の延び方向(突出方向)における幅である。
【0025】
副リップ部22は、例えば、
図3に示すように基部24の内側端24bから内側(矢印b方向)及び内周側(矢印d方向)に向かって斜めに突出している。具体的には、副リップ部22は、軸線x方向において内側に向かうに連れて縮径する部分であり、軸線xを中心軸又は略中心軸とする円錐筒状又は略円錐筒状の部分である。副リップ部22は、補強環10の内側端11よりも内側に突出しており、副リップ部22の内側の端部である先端22aは、軸線x方向において、補強環10の内側端11よりも内側に位置している。副リップ部22は、先端21aが基部24に接続する部分である根本22bよりも薄くなっており、例えば、根本22bから先端22aに向かうに連れて薄くなっている。副リップ部22は、後述する使用状態において、内側のシール面に所定の締め代で接触するような長さとなっている。
【0026】
また、副リップ部22は、基部24の内側端24aから内側に突出する環状の凸部であってもよい。具体的には、副リップ部22は、軸線xを中心又は略中心とする円環状又は略円環状の凸部である。この場合も副リップ部22は、補強環10の内側端11よりも内側に突出しており、副リップ部22の内側の端部である先端22aは、軸線x方向において、補強環10の内側端11よりも内側に位置している。副リップ部22は、後述する使用状態において、内側のシール面に所定のつぶし代で接触するように形成されている。
【0027】
外周側部23は、
図3に示すように、補強環10を外周側から覆う部分であり、外側の端部である外側端23aにおいてシールリップ21に接続している。また、外周側部23は、外側端23aにおいて外周側に角部(隅部)を形成する肩部23bを有している。肩部23は、外側に面する環状の面と、外周側に面する筒状の面とによって画成された部分である。
【0028】
図3に示すように、弾性体部20は補強環10の内側端11を覆っていない。弾性体部20は、補強環10の内側端11と径方向において面一となっていてもよく、面一になっていなくてもよい。また弾性体部20は、補強環10の内側端11を覆っていてもよい。この場合、この弾性体部20の補強環10の内側端11を覆う部分よりも、副リップ部22の先端22aは軸線x方向において内側に位置するように形成されている。
【0029】
識別部30は、密封装置1の向きを識別可能にするための部分であり、密封装置1を後述する使用状態にするために装着空間に取り付ける際に、作業者が密封装置1の向きを適切に把握し、装着空間に対する密封装置1の取り付け方向が意図された適切な向きとなるようにするための部分である。具体的には、識別部30は、密封装置1においてシールリップ21が軸線x方向においていずれの側にあるかを識別可能にする部分である。識別部30は、例えば、弾性体部20の外周側部23に形成されており、外周側部23の軸線x方向における中央よりもシールリップ21側の部分に形成されている。例えば、識別部30は外周側部23の外側(一方の側)の端部(外側端23a)に形成されており、具体的には
図3に示すように、識別部30は、外周側部23の肩部23bに形成されている。識別部30は、肩部23の表面から内部に凹む凹部である。この識別部30により、作業者は識別部30の近傍にシールリップ21が有ることを識別することができ、密封装置1を適切に装着空間に取り付けることができる。
図3に示すように、本実施の形態においては、複数の識別部30が設けられており、識別部30は軸線x周りに等角度間隔で設けられている。
【0030】
識別部30は、外周側部23の軸線x方向における中央よりも副リップ部22側の部分に形成されていてもよい。この場合も、この識別部30により、作業者は識別部30の近傍に副リップ部22が有ることを識別することができ、密封装置1を適切に装着空間に取り付けることができる。また、
図1,2に示すように、本実施の形態においては、8つの識別部30が設けられているが、識別部30の数はこれに限られない。また、密封装置1には識別部30が1つのみ設けられていてもよい。また、識別部30は軸線x周りに等角度間隔で設けられていなくてもよい。また、識別部30は外周側部23の表面から凹む凹部でなくてもよく、例えば外周側部23の表面から突出する凸部等、他の認識可能な形状であってもよい。但し、識別部30は、密封装置1のシール性能に影響を及ぼす形状ではない。
【0031】
弾性体部20の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。各種ゴム材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。
【0032】
補強環10は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、弾性体部20は成形型を用いて架橋(加硫)成型によって成形される。この架橋成型の際に、補強環10は成形型の中に配置されており、弾性体部20が架橋接着により補強環10に接着され、弾性体部20と補強環10とが一体的に成形される。
【0033】
次いで、上述の密封装置1の使用状態について説明する。
図4は、密封装置1の使用状態を示す断面図である。
図4に示すように、密封装置1は、環状の空間である装着空間Sに取り付けられて使用状態となる。装着空間Sは、例えば、貫通孔101が形成されたカバー100と、カバー100が固定される貫通孔111が形成されたハウジング110とによって形成されている軸線x1周りに円環状又は略円環状の空間である。ハウジング110の表面112には、貫通孔111の周りに環状の溝を形成する溝部113が形成されており、溝部113は、軸線x1方向に円筒状又は略円筒状に延びる外周壁面113aと、外周壁面113aの内側の端部から内周側に向かって貫通孔111まで延びる環状の平面である内側シール面113bとによって画成されている。カバー100はカバー100の表面102がハウジング110の表面112に対向するようにハウジング110に固定されている。また、カバー100は、その貫通孔101がハウジング110の貫通孔111と同軸又は略同軸となるようにハウジング110に固定されており、貫通孔101と貫通孔111とは連通して1つの貫通管120を形成している。カバー100の表面102において、軸線x1方向においてハウジング110の内側シール面113bに対向する環状の平面は外側シール面102aとなっている。装着空間Sは、上述の外側シール面102aと、外周壁面113aと、内側シール面113bとから画成された環状の空間である。密封装置1は、この装着空間Sに取り付けられて、装着空間Sを密封し、貫通孔101と貫通孔111とが形成する貫通管120を密封している。
【0034】
使用状態において、密封装置1は、装着空間Sと同軸又は略同軸に装着空間Sに取り付けられる。つまり、使用状態において、軸線xと軸線x1は重なるか僅かにずれている。
図4に示すように、使用状態において密封装置1は、カバー100とハウジング110との間に挟まれて圧縮されている。具体的には、シールリップ21が、外側シール面102aによって内側に向かって押圧され、先端21aから所定の範囲の締め代でシールリップ21が外側シール面102aに接触している。一方、補強環10の内側端11は内側シール面113bに接触し、副リップ部22は内側シール面113bに押し付けられて所定の締め代又はつぶし代で内側シール面113bに接触している。
【0035】
シールリップ21は、副リップ部22よりも長く、使用状態において
図4に示すように比較的大きい締め代で外側シール面102aに接触可能となっている。このため、装着空間Sの寸法にバラツキがあっても、例えば軸線x1方向の幅の寸法(内側シール面113bと外側シール面102aとの間の間隔)にバラツキがあっても、シールリップ21はこのバラツキを吸収して、外側シール面102aとの接触状態を維持することができる。また、これにより、副リップ部22も内側シール面113bに押された状態に維持され、副リップ部22は内側シール面113bとの接触状態を維持することができる。
【0036】
このように、密封装置1が意図したような向きで装着空間Sに取り付けられることにより、密封装置1は、装着空間Sを密封し、装着空間Sの寸法にバラツキがあったとしても、密封装置1は装着空間Sを適切に密封することができる。
【0037】
一方、密封装置1が意図したように装着空間Sに取り付けられなかった場合、例えば、密封装置1が軸線x1方向において反対向きに装着空間Sに取り付けられた場合、シールリップ21は内側シール面113bに押し付けられ、副リップ部22は外側シール面102aに押し付けられることになる。
図4に示すように、内側シール面113bは外側シール面102aよりも内径が大きく、内周方向への延び幅が小さい場合がある。このような場合に、密封装置1が軸線x1方向において意図した方向とは反対に装着空間Sに取り付けられると、シールリップ21の先端21a側の部分が内側シール面113bからはみ出し、シール性能の低下、又はシールリップ21の破損をもたらす。
【0038】
これに対し、密封装置1は、上述のように識別部30を有しており、軸線x方向においてシールリップ21の有る密封装置1の側を作業者が識別することができる。このため、密封装置1が意図しない方向で装着空間Sに取り付けられることを防止することができる。
【0039】
このように、本発明の実施の形態に係る密封装置1によれば、意図した取り付けがなされるようにすることができる。
【0040】
次いで、本発明の実施の形態に係る密封構造2について説明する。
図5は、本発明の実施の形態に係る密封構造2の有する密封装置3の軸線xに沿う断面における断面図であり、
図6は、本発明の実施の形態に係る密封構造2の有する装着空間4の軸線xに沿う断面における断面図であり、
図7は、密封装置3が装着空間4に取り付けられた使用状態における本発明の実施の形態に係る密封構造2の軸線xに沿う断面における断面図である。
【0041】
図5~7に示すように、密封構造2は、複数の部材が形成する軸線x周りに環状の空間である装着空間4と、装着空間4の密封を図るための密封装置4とを備えている。また、密封構造2において、装着空間4と密封装置3との間に係合部5が設けられており、係合部5は、装着空間4に形成された外周側に凹む部分である係合凹部5bと、密封装置4に形成された係合凹部5bに収容可能に形成された外周側に突出する部分である係合凸部5aとを有する。以下、密封構造2について具体的に説明する。
【0042】
密封構造2の有する密封装置3は、上述の密封装置1に対して補強環及び弾性体部の外周側部の形態が異なり、密封装置1の補強環10とは異なる補強環13を有しており、また、密封装置1の弾性体部20とは異なる弾性体部25を有している。以下、密封装置1と同じ又は類似する機能を有する構成については同一の符号を用いてその説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0043】
図5に示すように、密封装置3は、補強環13と、補強環13を覆うように形成される弾性体から成る弾性体部25とを有している。また、密封装置3は、外周側に突出する係合凸部5aを有している。
【0044】
補強環13は、
図5に示すように、筒部14と、補強環13の外側(一方の側)の端部にフランジ部15とを有している。筒部14は、軸線xに沿って延びる筒状の部材であり、例えば、軸線xを中心軸又は略中心軸とする円筒状の又は略円筒状の部材であり、内側の端部である内側端14aと、外側の端部である外側端14bとを有している。フランジ部15は、筒部14の外端部14bから外周側に環状に突出する部分である。補強環13は、弾性体部25を補強する部分であり、補強環10と同様に例えば金属材や樹脂材から形成されている。
【0045】
弾性体部25は、
図5に示すように、基部24から突出するシールリップ21及び副リップ部22と、補強環13を外周側から覆う外周側部26とを有している。外周側部26は、補強環13のフランジ部15を覆う部分が外周側に突出しており、環状の突出部26aを有している。弾性体部25は、弾性体部20と同様に弾性体から形成されている。
【0046】
密封装置3において、補強環13は外周側に突出するフランジ部15を有しており、弾性体部25の外周側部26はフランジ部15を覆う部分が外周側に突出しており突出部26aを有している。このように、密封装置3は、フランジ部15において外周側部26が外周側に突出しており(突出部26a)、このフランジ部15及び突出部26aによって係合凸部5aが形成されている。
【0047】
なお、フランジ部15は、上述のように無端の環状ではなく、間欠的に環状であり、互いに間隔を空けて設けられた複数の円弧によって形成されるものであってもよい。また、フランジ部15は軸線x周りの円周上に延びる1つの円弧であってもよい。この場合、突出部26aもフランジ部15に対応した形状となり、係合凸部5aもフランジ部15に対応した形状となる。
【0048】
装着空間4は、
図6に示すように、密封装置3の取付対象に形成された環状の空間であり、例えば、貫通孔52が形成されたカバー51と、カバー51が固定される貫通孔56が形成されたハウジング55とによって形成されている軸線x周りに円環状又は略円環状の空間である。ハウジング55の表面57には、貫通孔56の周りに環状の溝を形成する溝部41が形成されており、溝部41は、軸線x方向に円筒状又は略円筒状に延びる外周壁面42と、外周壁面42の内側の端部(内側端42a)から内周側に向かって貫通孔56まで延びる環状の平面である内側シール面43とによって画成されている。カバー51はカバー51の表面53がハウジング55の表面57に対向するようにハウジング55に固定されている。また、カバー51は、その貫通孔52がハウジング55の貫通孔56と同軸又は略同軸となるようにハウジング55に固定されており、貫通孔52と貫通孔56とは連通して1つの貫通管58を形成している。カバー51の表面53において、軸線x方向においてハウジング55の内側シール面43に対向する環状の平面は外側シール面44となっている。
【0049】
装着空間4は、上述の外側シール面44と、外周壁面42と、内側シール面43とから画成された環状の空間である。また、
図6に示すように、装着空間4の外周壁面42には、外周側に向かって座繰り状に凹む座繰り部45を有している。座繰り部45は、外周壁面42の内側シール面43の側の端部(内側端42a)とは反対側の外側の端部(外側端42b)に形成されている。座繰り部45は、具体的には、軸線xに沿って延びる筒状の面である筒面45aと、筒面45aの内側の端部から内周に向かって延びる環状の面である環状面45bとから画成されている。この座繰り部45には、後述するように使用状態の密封構造2において、密封装置3の係合凸部5aが収容可能となるように形成されている。このように、装着空間4において、座繰り部45が係合凹部5bを形成している。
【0050】
密封構造2の使用状態において、密封装置3は、装着空間4に取り付けられて、上述の密封装置1と同様に装着空間4を密封する。つまり、密封装置3のシールリップ21及び副リップ部22は、外側シール面44及び内側シール面43に夫々接触する。また、密封装置3の係合凸部5aは、装着空間4の係合凹部5bに収容される。このように、密封構造2においては、密封装置3が意図された適切な方向で装着空間4に取り付けられると、係合凸部5aが係合凹部5b内に収容され、この状態で、シールリップ21が所望の締め代で外側シール面44に接触し、また、副リップ部22が所望の締め代又はつぶし代で内側シール面43に接触する。一方、密封構造2において、密封装置3が意図されない適切ではない方向で、つまり、密封装置3がシールリップ21側から装着空間4の溝部41内に取り付けられようとすると、係合凸部5aが係合凹部5b内に収容され、係合凸部5aが係合凹部5bに引っ掛かり、密封装置3をこれ以上装着空間4内に進入させることができない。このため、密封装置3が意図しない方向で装着空間4に取り付けられることを防止することができる。
【0051】
このように、本発明の実施の形態に係る密封構造2によれば、意図した取り付けがなされるようにすることができる。
【0052】
次いで、上述の密封構造2における密封装置3の変形例について説明する。
図8は、密封装置3の変形例に係る密封装置6を示す軸線xに沿う断面における断面図である。本変形例に係る密封装置6は、上述の密封装置3に対して、弾性体部の外周側部26の形態が異なる。変形例に係る密封装置6においては、弾性体部25の外周側部26が補強環13のフランジ部15を覆っておらず、フランジ部15が外周側部26を貫通して外周側部26の表面26bから飛び出している。このように、密封装置6は、弾性体部25の外周側部26に突出部26aを有しておらず、密封装置6においては、外周側部26から突出する補強環13のフランジ部15によって係合凸部5aが形成されている。この係合凸部5aは上述の係合凸部5aと同様に、密封構造2の使用状態において装着空間4の係合凹部5bに収容可能となっており、密封構造2において、密封装置6が装着空間4に意図しない取り付けがなされることを防止することができる。
【0053】
次いで、上述の密封構造2における装着空間4の変形例について説明する。
図9は、装着空間4の変形例に係る装着空間7を備える密封構造2の軸線xに沿う断面における断面図である。
図9において、変形例に係る装着空間7は上述の密封装置6が取り付けられて、使用状態で示されている。
図9に示すように、変形例に係る装着空間7は、係合凹部5bとして座繰り部45に変えて、外周側に凹む面取り部46を有している。面取り部46には、密封装置6のフランジ部15が収容可能になっている。具体的には、
図9に示すように、面取り部46は、外周壁面42の外側端42bに、面取り面46aを有している。面取り面46aは、軸線x方向において外側(矢印a方向)に向かうに連れて拡径する環状の面であり、例えば、軸線xを中心軸又は略中心軸とする円錐面又は略円錐面である。面取り部46は、面取り面46aによって画成される環状の空間を形成する凹部であり、軸線x方向において外側に向かうに連れて外周側に広がる空間となっている。なお、面取り部46は、他の形態であってもよく、例えば、軸線x方向において外側に向かうに連れて絶えず外周側に広がっていない部分があってもよい。
【0054】
本変形例に係る装着空間7においては、上述のように、密封構造2の使用状態において係合凹部5bに係合凸部5aが収容可能となっており、密封構造2において、密封装置6が装着空間7に意図しない取り付けがなされることを防止することができる。なお、装着空間7は密封装置3に対しても同様に作用し、密封構造2において、密封装置3が装着空間7に意図しない取り付けがなされることを防止することができる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記本発明の実施の形態に係る密封装置又は密封構造に限定されるものではなく、本発明の概念及び請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における、各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0056】
1,3,6…密封装置、2…密封構造、4,7…装着空間、5…係合部、5a…係合凸部、5b…係合凹部、10,13…補強環、11…内側端、12…外側端、14…筒部、14a…内側端、14b…外側端、15…フランジ部、20,25…弾性体部、21…シールリップ、21a…先端、21b…根本、22…副リップ部、22a…先端、22b…根本、23,26…外周側部、23a…外側端、23b…肩部、24…基部、24a…外側端、24b…内側端、26a…突出部、26b…表面、30…識別部、41,13…溝部、42,113a…外周壁部、42a…内側端、42b…外側端、43,113b…内側シール面、44,102a…外側シール面、45…座繰り部、45a…筒面、45b…環状面、46…面取り部、46a…面取り面、51,100…カバー、52,101…貫通孔、53,102…表面、55,110…ハウジング、56,111…貫通孔、57,112…表面、58,120…貫通管、S…装着空間、x,x1…軸線