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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20220404BHJP
   C04B 38/06 20060101ALI20220404BHJP
   B01D 46/00 20220101ALI20220404BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20220404BHJP
   C04B 37/00 20060101ALI20220404BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B01J35/04 301J
B01J35/04 301E
B01J35/04 301P
C04B38/06 E
B01D46/00 302
F01N3/022 C
C04B37/00 Z
B01D39/20 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020571740
(86)(22)【出願日】2020-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2020034764
(87)【国際公開番号】W WO2021166297
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2020027419
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】昆野 由規
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-117322(JP,A)
【文献】特開2003-155908(JP,A)
【文献】国際公開第2007/119407(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C04B 37/00,38/06
B01D 39/00-41/04,46/00-46/54
F01N 3/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端面から第2端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁と、所定の前記セルの前記第1端面側の開口端部及び残余の前記セルの前記第2端面側の開口端部を目封止する目封止部とを有する複数の柱状ハニカムセグメント、並びに
前記柱状ハニカムセグメントの側面同士を接合するように配置された接合層
を備えるハニカム構造体であって、
前記隔壁は、珪素及び炭化珪素を含有し且つ平均厚みが0.152~0.254mmであり、
前記隔壁の熱伝導率が0.8~34W/m・Kであり、
前記接合層の熱伝導率が0.1~1.0W/m・Kであり、
前記接合層の平均厚みが0.5~3.0mmであり、
前記隔壁の気孔率が30~70%であり、
前記ハニカム構造体は以下の式(1)~(3)を満たす、ハニカム構造体。
(1)y≦1000
(2)y≦717.92x-0.095
(3)y≧462.4x-0.153
式中、yはハニカム構造体の使用が許容される最高温度(℃)であり、xは以下の式で表される熱伝導因子である。
熱伝導因子=(隔壁の熱伝導率×接合層の熱伝導率)/(接合層の平均厚み×隔壁の気孔率)
【請求項2】
前記ハニカム構造体は以下の式(4)を満たす、請求項1に記載のハニカム構造体。
(4)x≦2.3
【請求項3】
前記セルが延びる方向に垂直な前記セルの断面形状が四角形である、請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記セルは、所定の開口面積を有する第1セルと、前記第1セルと開口面積が異なる第2セルとが交互に配設されている、請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記ハニカム構造体のセル密度が31~52個/cm2である、請求項1~のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなどの内燃機関や、各種の燃焼装置などから排出される排ガスには、煤などの粒子状物質(「PM」とも称される)が多量に含まれている。このPMがそのまま大気中に放出されると、環境汚染を引き起こすため、排ガスの排気系には、PMを捕集するための集塵用フィルタ(「パティキュレートフィルタ」とも称される)が搭載されている。集塵用フィルタとしては、例えば、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンから排出される排ガスの浄化に用いられるディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)、ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)などが挙げられる。このようなDPF及びGPFには、第1端面から第2端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるハニカム構造体が用いられている。
【0003】
集塵用フィルタに用いられるハニカム構造体は、その使用に伴って粒子状物質が内部に堆積する。その結果、ハニカム構造体の圧力損失が大きくなり、集塵用フィルタとしての機能が十分に得られなくなる。そこで、集塵用フィルタとしての捕集能力を再生させることを目的として、ハニカム構造体の内部に堆積した粒子状物質を定期的に燃焼させて除去する再生処理が行われている。再生処理においては、粒子状物質の燃焼熱によってハニカム構造体に熱応力が発生するため、ハニカム構造体が破損することがある。
そこで、ハニカム構造体の破損を抑制するための対策として、特許文献1には、複数の柱状ハニカムセグメントの側面同士を接合した接合層を有するハニカム構造体が提案されている。
【0004】
また近年、圧力損失の上昇を抑えるために、隔壁の厚さが小さいハニカム構造体が集塵用フィルタに用いられることが多くなっている。特許文献2には、圧力損失の上昇を抑えつつ排ガス中の粒子状物質の捕集効率を高めるために、隔壁の厚さを小さくするとともに、隔壁の平均細孔径を制御したハニカム構造体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-253916号公報
【文献】特開2013-000680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数の柱状ハニカムセグメントの側面同士を接合した接合層を有するハニカム構造体においても、柱状ハニカムセグメントの隔壁の厚みを小さくすることが検討されている。
しかしながら、柱状ハニカムセグメントの隔壁の厚みを小さくすると、再生処理時にクラックが発生し易くなる。特に、ハニカム構造体の内部に堆積した粒子状物質は急激に燃焼することがあるが、柱状ハニカムセグメントの隔壁の厚みが小さいほど、急激な温度変化によってハニカム構造体にクラックが発生し易くなる。例えば、この粒子状物質の異常燃焼を評価するDTI(Drop To Idle)試験において、ハニカム構造体の内部に堆積した粒子状物質は、アイドリング状態で急激に燃焼してハニカム構造体の温度を著しく上昇させるため、その温度変化によってハニカム構造体にクラックが発生し易くなる。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、柱状ハニカムセグメントの隔壁の厚みを小さくしても、再生処理時にクラックの発生を抑制することが可能なハニカム構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、厚みが小さい隔壁を有する複数の柱状ハニカムセグメントの側面同士を接合した接合層を有するハニカム構造体について鋭意研究を行った結果、ハニカム構造体の使用が許容される最高温度と、柱状ハニカムセグメントを構成する隔壁の熱伝導率及び気孔率、並びに柱状ハニカムセグメントの側面同士を接合する接合層の熱伝導率及び平均厚みによって表される熱伝導因子との関係を制御することにより、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、第1端面から第2端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁と、所定の前記セルの前記第1端面側の開口端部及び残余の前記セルの前記第2端面側の開口端部を目封止する目封止部とを有する複数の柱状ハニカムセグメント、並びに
前記柱状ハニカムセグメントの側面同士を接合するように配置された接合層
を備えるハニカム構造体であって、
前記隔壁は、珪素及び炭化珪素を含有し且つ平均厚みが0.152~0.254mmであり、
前記隔壁の熱伝導率が0.8~34W/m・Kであり、
前記接合層の熱伝導率が0.1~1.0W/m・Kであり、
前記接合層の平均厚みが0.5~3.0mmであり、
前記隔壁の気孔率が30~70%であり、
前記ハニカム構造体は以下の式(1)~(3)を満たす、ハニカム構造体である。
(1)y≦1000
(2)y≦717.92x-0.095
(3)y≧462.4x-0.153
式中、yはハニカム構造体の使用が許容される最高温度(℃)であり、xは以下の式で表される熱伝導因子である。
熱伝導因子=(隔壁の熱伝導率×接合層の熱伝導率)/(接合層の平均厚み×隔壁の気孔率)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、柱状ハニカムセグメントの隔壁の厚みを小さくしても、再生処理時にクラックの発生を抑制することが可能なハニカム構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るハニカム構造体の端面図である。
図2図1のハニカム構造体を構成する柱状ハニカムセグメントのセルが延びる方向に平行な断面図である。
図3】熱伝導因子とハニカム構造体の最高温度との関係を表すグラフである。
図4】サンプルNo.B-5のハニカム構造体のアイドリング状態における温度分布図である。
図5】サンプルNo.B-2のハニカム構造体のアイドリング状態における温度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るハニカム構造体の端面図である。また、図2は、図1のハニカム構造体を構成する柱状ハニカムセグメントのセルが延びる方向に平行な断面図である。
図1に示されるように、ハニカム構造体100は、複数の柱状ハニカムセグメント10と、柱状ハニカムセグメント10の側面同士を接合するように配置された接合層20とを備える。また、ハニカム構造体100は、必要に応じて、外周部を研削加工するなどして、円柱状などの所定形状に加工することができる。この場合、加工によって柱状ハニカムセグメント10の内部の隔壁13及びセル12が露出した状態となるため、露出面をコーティング材で被覆するなどして外周コート層30を設けることができる。
ハニカム構造体100の形状は、特に限定されないが、円柱状の他、端面が楕円形の柱状、端面が正方形、長方形、三角形、五角形、六角形などの多角形の柱状などとすることができる。
【0014】
図2に示されるように、柱状ハニカムセグメント10は、第1端面11aから第2端面11bまで延びる流体の流路となる複数のセル12を区画形成する隔壁13と、所定のセル12の第1端面11a側の開口端部及び残余のセル12の第2端面11b側の開口端部を目封止する目封止部14とを有する。
【0015】
隔壁13は、珪素及び炭化珪素を含有する。このような成分を含有する隔壁13を用いることにより、耐熱性及び熱伝導性を高めることができるため、熱応力によるクラックの発生を抑制することができる。
隔壁13は、上記の成分以外に、コージェライト、ムライト、アルミナ、チタニア、スピネル、炭化珪素-コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、鉄-クロム-アルミニウム系合金などの公知の成分を含有することができる。
【0016】
隔壁13は、平均厚みが0.152~0.254mmである。平均厚みを0.152mm以上とすることにより、集塵用フィルタとしての強度を確保することができる。また、平均厚みを0.254mm以下とすることにより、圧力損失の上昇を抑えることができる。
【0017】
ハニカム構造体100は、以下の式(1)~(3)を満たす。
(1)y≦1000
(2)y≦717.92x-0.095
(3)y≧462.4x-0.153
式中、yはハニカム構造体100の使用が許容される最高温度(℃)であり、xは以下の式で表される熱伝導因子である。
熱伝導因子=(隔壁13の熱伝導率×接合層20の熱伝導率)/(接合層20の平均厚み×隔壁13の気孔率)
上記の式(1)~(3)は、ハニカム構造体100の各種サンプルを作製して再生処理時のクラックの発生(具体的には、リングクラック又は端面クラックの発生)の有無、及びアイドリング状態の直前における煤の燃焼率を調査し、その調査結果から実験的に導出された関係式である。なお、リングクラックとは、ハニカム構造体100の外周において、外周方向に延びるように形成されるリング状のクラックである。また、端面クラックとは、ハニカム構造体100の端面の隔壁13に形成されるクラックである。
【0018】
ここで、上記の調査結果について説明する。
まず、ハニカム構造体100の各種サンプルは、次のようにして作製した。
(柱状ハニカムセグメント10の作製)
原料として、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末を20:35の質量割合で混合し、これに造孔材(炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量に対して10質量%以下)、バインダ(炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量に対して2~10質量%)、界面活性剤及び水を加えて混合及び混練して坏土とした。次に、得られた坏土を押出成形して切断し、マイクロ波及び熱風で乾燥することによって柱状ハニカム成形体を得た。次に、この柱状ハニカム成形体に対し、一方の端面(第1端面11a)と他方の端面(第2端面11b)とが相補的な市松模様を呈するように、1つのセル12の2つの端面のうちのいずれか一方の端面の開口端部を目封止した。目封止用スラリーには、柱状ハニカム成形体の原料と同様の材料を用いた。目封止用スラリーを開口端部に充填して乾燥させた後、目封止した柱状ハニカム成形体を大気雰囲気中にて200~600℃で脱脂した後、Ar不活性雰囲気中にて1420~1480℃で焼成することによって柱状ハニカムセグメント10を得た。柱状ハニカムセグメント10の隔壁13の平均厚みは、押出成形時に口金のスリット幅を調整することによって制御した。また、隔壁13の気孔率は、造孔材の量を調整することによって制御した。隔壁13の気孔率は、水銀ポロシメータ(Micromeritics社製、商品名:Autopore 9500)を用いて測定した。隔壁13の熱伝導率は、気孔率の調整や、焼成後の柱状ハニカムセグメント10に酸化処理を行うことによって制御した。酸化処理は、従来公知の方法により行うことができる。具体的には、焼成された柱状ハニカムセグメント10を、酸素雰囲気下(例えば、酸素濃度15~20質量%)で900~1400℃に加熱することにより、酸化処理を行うことができる。
【0019】
(接合材の調製)
接合材は、接合層20を形成するための材料であり、硬化させることで接合層20となる。柱状ハニカムセグメント10と同じ原料を配合して混合することによってペースト状の接合材を調製した。接合層20の熱伝導率は、気孔率の調整によって制御した。気孔率は、上記柱状ハニカムセグメント10と同様に、造孔材の量を調整することによって制御した。
【0020】
(ハニカム構造体100の作製)
柱状ハニカムセグメント10の側面に所定の平均厚みとなるように接合材を塗布し、別の柱状ハニカムセグメント10の側面と接合した。この工程を繰り返して、縦3個×横3個の柱状ハニカムセグメント10を接合した合計9個の柱状ハニカムセグメント10の積層体を作製した。その後、外部から圧力を加えることで柱状ハニカムセグメント10同士を圧着させ、120℃で2時間乾燥させることにより、柱状ハニカムセグメント10の接合体を得た。次に、得られた接合体の中心軸に垂直な方向の断面が円形となるように、接合体の外周を切削加工した。次に、その加工面に接合材と同じ組成の外周コーティング材を塗布した後、600℃で0.5時間以上加熱することで乾燥及び硬化させて外周コート層30を形成し、サンプルNo.A-1~A-9、B-1~B-9及びC-1~C-9のハニカム構造体100を得た。
【0021】
次に、クラックの発生の有無の調査は、次のようにして行った。
上記で作製したハニカム構造体100の外周部にセラミックス製の無膨張マットを巻き、ステンレス鋼(SUS409)製の缶体にキャニングしてキャニング構造体とした。その後、ディーゼル燃料(軽油)の燃焼によって発生させた煤(粒子状物質)を含む燃焼ガスを、ハニカム構造体100の一方の端面より流入させ、他方の端面より流出させた。これにより、ハニカム構造体100内に煤を堆積させた。次に、キャニング構造体を排気系に接続し、DTI(Drop To Idle)試験を行った。具体的には、フルスロットル状態(2300rpm)でハニカム構造体100を排ガスの熱で昇温させた後、温度が650℃に達したところで速やかにアイドリング状態(600rpm)に移行させて煤を燃焼させることにより、ハニカム構造体100を再生処理した。フルスロットル状態における排ガスの酸素濃度は6%、アイドリング状態における酸素濃度は15%とした。
【0022】
上記のDTI試験において、アイドリング状態のハニカム構造体100の温度を測定し、この測定された温度の最大値を最高温度とした。これは、ハニカム構造体100内に堆積した煤がアイドリング状態で急激に燃焼してハニカム構造体100の温度を著しく上昇させるためである。
また、DTI試験の後、ハニカム構造体100のクラックの有無をX線CTによって調査した。
さらに、アイドリング状態の直前(フルスロットル状態)における煤の燃焼評価を行った。具体的には、アイドリング状態の直前における煤の燃焼率を、実測温度データに基づく煤燃焼モデルから算出した。
上記の結果を表1に示す。また、隔壁13の熱伝導率及び気孔率、並びに接合層20の熱伝導率及び平均厚みから算出される熱伝導因子xと、ハニカム構造体100の最高温度との関係を表すグラフを図3に示す。なお、表1では、クラックが発見されなかったものを〇、クラックが発見されたものを×と表す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1及び図3に示されるように、上記の式(1)~(3)で表される範囲内のハニカム構造体100(本発明例)は、再生処理でクラックが発生しなかったのに対し、上記の式(1)~(3)で表される範囲外のハニカム構造体100(比較例)は、再生処理でクラックが発生した。
【0025】
また、煤の燃焼評価について、クラックが発生したハニカム構造体100(比較例)は、アイドリング状態の直前(フルスロットル状態)における煤の燃焼率が高かった。DTI試験では、アイドリング状態の直前のフルスロットル状態においても煤が燃焼するが、フルスロットル状態で煤が多く燃焼すると、その燃焼熱によってハニカム構造体100が加熱される。そして、加熱されたハニカム構造体100は、アイドリング状態で煤の燃焼熱によって更に加熱されることになるため、ハニカム構造体100の最高温度が高くなった結果、クラックが発生し易くなったものと考えられる。アイドリング状態の直前における煤の燃焼率は、ハニカム構造体100の直径及び長さ並びに柱状ハニカムセグメント10の隔壁13の平均厚みの条件によって評価基準が異なる。これらの条件が共通するサンプルNo.A-1~A-9では煤の燃焼率が15.7%以下、サンプルNo.B-1~B-9では煤の燃焼率が0.83%以下、サンプルNo.C-1~C-9では煤の燃焼率が0.54%以下であれば、アイドリング状態の直前における煤の燃焼率が低い(評価結果を「〇」と表す)ということができる。アイドリング状態の直前において煤の燃焼率を低くすることにより、ハニカム構造体100の加熱温度が低くなるため、アイドリング状態におけるハニカム構造体100の加熱温度(最高温度)を低減することができる。例えば、アイドリング状態の直前における煤の燃焼率が低い(煤の燃焼評価の結果が「〇」の)サンプルNo.A-1、A-2、A-6及びA-8と、アイドリング状態の直前における煤の燃焼率が高い(煤の燃焼評価の結果が「×」の)サンプルNo.A-4及びA-9との対比から、式(2)y≦717.92x-0.095を満たすことにより、アイドリング状態の直前における煤の燃焼率を低くして、クラックの発生を抑制することができる。
【0026】
サンプルNo.A-7、B-2、B-7、C-2、C-7及びC-9は、アイドリング状態の直前における煤の燃焼率が低いにも関わらず、クラックが発生している。この理由について説明する。
サンプルNo.A-7は、アイドリング状態の温度(最高温度)が高い(1000℃超)。ここで、サンプルNo.A-7と同様にアイドリング状態のハニカム構造体100の温度が高いサンプルNo.B-5におけるハニカム構造体100の温度分布図を参考として図4に示す。サンプルNo.B-5は、サンプルNo.A-7と同様に、隔壁13の熱伝導率が低いため、ハニカム構造体100内に熱がこもりながら徐々に熱が全体に広がっていく。そして、図4に示されるように、アイドリング状態ではハニカム構造体100の長さ方向の中央部付近が最高温度に到達する。その結果、ハニカム構造体100の長さ方向の中央部付近において、排ガスの流れ方向と直交するように熱膨張による引張応力が発生し易くなるため、リングクラックが発生すると考えられる。したがって、式(1)y≦1000を満たすことにより、リングクラックの発生を抑制することができる。
【0027】
一方、サンプルNo.B-2、B-7、C-2、C-7及びC-9は、アイドリング状態のハニカム構造体100の温度が低い。ここで、サンプルNo.B-2におけるハニカム構造体100の温度分布図を一例として図5に示す。サンプルNo.B-2、C-2及びC-9は、隔壁13の熱伝導率が高いため、ハニカム構造体100の排ガス入口の端面付近で熱が瞬間的に広がっていく。そして、図5に示されるように、アイドリング状態ではハニカム構造体100の排ガス入口の端面付近が最高温度に到達する。その結果、ハニカム構造体100の排ガス入口の端面付近において、ハニカム構造体100の長さ方向に熱膨張による引張応力が発生し易くなるため、端面クラックが発生すると考えられる。また、B-7及びC-7は、隔壁13の熱伝導率が低い一方で接合層20の熱伝導率が高く、柱状ハニカムセグメント10の中心部と外周部の隔壁13との温度差が発生し易い状態となっている。その結果、柱状ハニカムセグメント10の中心部と外周部の隔壁13との熱膨張差による引張応力が発生し、端面付近において端面クラックが発生すると考えられる。
なお、サンプルNo.B-1、B-4、B-6及びB-8は、サンプルNo.B-2と比べて、ハニカム構造体100の軸方向(長さ方向)における温度分布が緩やかとなっていた。そのため、排ガス入口の端面付近において、ハニカム構造体100の軸方向の熱膨張による引張応力が低減されているため、端面クラックの発生がなかったと考えられる。したがって、式(3)y≧462.4x-0.153を満たすことにより、端面クラックの発生を低減することができる。
以上の結果から、上記の式(1)~(3)を満たすことにより、ハニカム構造体100の再生処理時にクラックの発生を抑制することができる。
【0028】
ハニカム構造体100は、以下の式(4)を更に満たすことが好ましい。
(4)x≦2.3
式(4)も式(1)~(3)と同様に、実験的に導出された関係式である。式(4)を満たすことにより、ハニカム構造体100の再生処理時にクラックの発生を安定的に抑制することができる。熱伝導因子xは、より好ましくは1.5以下であり、更に好ましくは1.0以下であり、特に好ましくは0.3以下である。
【0029】
隔壁13の熱伝導率は、特に限定されないが、好ましくは0.8~34W/m・Kである。このような範囲に隔壁13の熱伝導率を制御することにより、ハニカム構造体100の再生処理時にクラックの発生を安定的に抑制することができる。隔壁13の熱伝導率を上記範囲に制御する方法としては、例えば、気孔率の制御、ハニカム構造体100を製造する際の酸化処理の有無や処理時間の制御などが挙げられる。気孔率を高くしたり、酸化処理を行ったりすると、熱伝導率が低下する傾向にある。
ここで、本明細書において「熱伝導率」とは、レーザーフラッシュ法を用いて室温(25℃)で測定される熱伝導率のことを意味する。
【0030】
隔壁13の気孔率は、特に限定されないが、好ましくは30~70%である。このような範囲に隔壁13の気孔率を制御することにより、ハニカム構造体100の再生処理時にクラックの発生を安定的に抑制することができる。
ここで、本明細書において「気孔率」とは、水銀ポロシメータを用いて測定される気孔率を意味する。水銀ポロシメータとしては、Micromeritics社製、商品名:Autopore 9500を挙げることができる。
【0031】
セル12が延びる方向に垂直な柱状ハニカムセグメント10の断面形状としては、特に限定されず、三角形、四角形、六角形、八角形などの各種形状とすることができる。その中でも柱状ハニカムセグメント10の断面形状は、四角形(正方形又は長方形)であることが好ましい。このような形状の柱状ハニカムセグメント10とすることにより、ハニカム構造体100の製造が容易になる。
【0032】
セル12が延びる方向に垂直なセル12の断面形状としては、特に限定されず、三角形、四角形、六角形、八角形、円形などの各種形状であることができる。その中でもセル12の断面形状は、四角形(正方形又は長方形)であることが好ましい。
また、セル12は、所定の開口面積を有する第1セルと、第1セルと開口面積が異なる第2セルとが交互に配設されていてもよい。
【0033】
柱状ハニカムセグメント10のセル密度は、特に限定されないが、好ましくは23~62個/cm2、より好ましくは31~52個/cm2である。セル密度を23個/cm2以上とすることにより、集塵用フィルタとしての強度を確保することができる。また、セル密度を62個/cm2以下とすることにより、圧力損失の上昇を抑えることができる。
【0034】
柱状ハニカムセグメント10は、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。具体的には、次のようにして製造される。まず、珪素及び炭化珪素を含有するセラミックス原料にバインダ、分散剤(界面活性剤)、造孔材、水などを添加し、混合及び混練して坏土とする。次に、この坏土を所定のハニカム形状となるように押出成形して所望の長さに切断した後、マイクロ波、熱風などによって乾燥させる。このようにして得られた柱状ハニカム成形体に対し、1つのセル12の2つの端面のうちのいずれか一方の端面の開口端部を目封止する。通常は、一方の端面(第1端面11a)と他方の端面(第2端面11b)とが、相補的な市松模様を呈するように、隣接するセル12を互い違いに目封止する。目封止の方法としては、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。具体的には、柱状ハニカム成形体の端面にシートを貼り付けた後、当該シートの目封止しようとするセル12に対応した位置に穴を開ける。そして、このシートを貼り付けたままの状態で、目封止の材料をスラリー化した目封止用スラリーに、柱状ハニカム成形体の端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセル12の開口端部内に目封止用スラリーを充填し、それを乾燥及び/又は焼成して硬化させればよい。目封止の材料は、隔壁13と目封止部14との熱膨張差を小さくするために、柱状ハニカム成形体に用いられた材料と同じ成分のものが用いられる。その後、目封止された柱状ハニカム成形体を焼成することによって柱状ハニカムセグメント10を得ることができる。なお、柱状ハニカム成形体の焼成は、セル12に目封止を行う前に行ってもよい。また、焼成後には、必要に応じて、所定形状とするために研削などを行ってもよい。
【0035】
バインダとしては、特に限定されないが、コロイダルシリカ(シリカゾル)、アルミナゾル、ベントナイトやモンモリロナイトのような粘土などの無機バインダ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、その他の各種吸水性樹脂などの有機バインダが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
分散剤(界面活性剤)としては、特に限定されないが、オレイン酸PEG、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコールなどが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されないが、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル、炭素などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
柱状ハニカムセグメント10の側面同士を接合する接合層20としては、特に限定されず、無機粉末、無機繊維、造孔材、バインダ及び分散剤などの成分を含有することができる。その中でも接合層20に用いられる成分は、柱状ハニカムセグメント10に用いられる成分と同じであることが好ましい。このような構成とすることにより、柱状ハニカムセグメント10と接合層20との熱膨張差を小さくすることができるため、ハニカム構造体100の再生処理時にクラックの発生を安定的に抑制することができる。
なお、接合層20は、上記の成分を含有するペースト状の接合材を用いて形成される。
【0038】
接合層20の平均厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.5~3.0mmである。このような範囲に接合層20の平均厚みを制御することにより、ハニカム構造体100の再生処理時にクラックの発生を安定的に抑制することができる。
【0039】
接合層20の熱伝導率は、特に限定されないが、好ましくは0.1~1.0W/m・Kである。このような範囲に接合層20の熱伝導率を制御することにより、ハニカム構造体100の再生処理時にクラックの発生を安定的に抑制することができる。接合層20の熱伝導率を上記範囲に制御する方法としては、例えば、気孔率の制御などが挙げられる。気孔率を高くすると、熱伝導率が低下する傾向にある。
【0040】
ハニカム構造体100は、上記の柱状ハニカムセグメント10及び接合材を用いて製造される。その製造方法は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法によって行うことができる。具体的には、柱状ハニカムセグメント10の側面に接合材を塗布して柱状ハニカムセグメント10の側面間を接合した後、乾燥させることにより、接合材を硬化させて接合層20を形成することができる。乾燥条件としては、特に限定されず、接合材の組成に応じて適宜調整すればよい。また、乾燥は、外部から圧力を加えることにより、柱状ハニカムセグメント10同士を圧着させながら行ってもよい。
【0041】
ハニカム構造体100は、DPF、GPFなどの集塵用フィルタとして用いることができる。この場合、ハニカム構造体100は、粒子状物質を含む排ガスが、一方の端面の目封止部14が設けられていないセル12から内部に流入し、隔壁13を通過して他のセル12に入る。このとき、排ガス中の粒子状物質が隔壁13に捕捉される。そして、粒子状物質が捕捉された排ガスは、他方の端面の目封止部14が設けられていないセル12から排出される。
【0042】
ハニカム構造体100は、隔壁13の表面や細孔内に触媒を担持させてもよい。触媒としては、特に限定されず、ハニカム構造体100の用途に応じて選択することができる。例えば、ハニカム構造体100をDPFとして用いる場合には、排ガス中の煤などを酸化除去するための酸化触媒、排ガス中に含まれるNOxなどの有害物質を分解除去するためのNOx選択還元触媒(SCR)やNOx吸蔵還元触媒などを用いることができる。触媒の担持方法は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。
【0043】
上記の特徴を有する本発明の実施形態に係るハニカム構造体100は、柱状ハニカムセグメント10の隔壁13の厚みを小さくしても、再生処理時にクラックの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 柱状ハニカムセグメント
11a 第1端面
11b 第2端面
12 セル
13 隔壁
14 目封止部
20 接合層
30 外周コート層
100 ハニカム構造体
図1
図2
図3
図4
図5