(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】アダプタ
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20220404BHJP
B01L 3/02 20060101ALI20220404BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20220404BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220404BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20220404BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B01J19/00 321
B01L3/02 Z
G01N1/00 101G
G01N37/00 101
G01N35/08 A
B81B1/00
(21)【出願番号】P 2021013679
(22)【出願日】2021-01-29
(62)【分割の表示】P 2018088023の分割
【原出願日】2018-05-01
【審査請求日】2021-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018078844
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595067707
【氏名又は名称】フコク物産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095636
【氏名又は名称】早崎 修
(72)【発明者】
【氏名】小沢 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 高史
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/051641(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/094254(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/199852(WO,A1)
【文献】実開昭59-035791(JP,U)
【文献】実開昭59-103987(JP,U)
【文献】特開2015-021906(JP,A)
【文献】特開2011-232287(JP,A)
【文献】国際公開第2009/090763(WO,A1)
【文献】特表2017-523412(JP,A)
【文献】実開平04-073690(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00-12/02、
14/00-19/32
G01N 1/00- 1/44、
35/00-37/00
B81B 1/00- 7/04
B81C 1/00-99/00
B01L 1/00-99/00
F16L 41/00-49/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペット若しくはチューブの先端を支持する連結孔が貫通する筒状本体を備え、前記筒状本体の前記連結孔と、マイクロ流路チップのマイクロ流路に連通する貫通孔を介して、前記ピペット若しくはチューブから前記マイクロ流路に試料を注入するアダプタであって、
前記筒状本体は、PDMS(ポリジメチルシロキサン)を成形材料として、金型の成形面により少なくとも3mm以上の長さの連結孔が貫通する筒状に成形され、
前記連結孔内に前記ピペット若しくは前記チューブの先端が当接する段部が形成され、
前記連結孔の内壁面に、前記ピペット若しくは前記チューブの外周面に密着するリング状のリブが前記筒状本体と一体に形成されていることを特徴とするアダプタ。
【請求項2】
前記ピペット若しくは前記チューブを挿入する前記連結孔の表面側の開口の内径は、前記ピペット若しくは前記チューブの先端の外径より長く、前記リング状のリブの内径は、前記ピペット若しくは前記チューブの外周面に弾性接触する長さとなっていることを特徴とする請求項1に記載のアダプタ。
【請求項3】
前記筒状本体の底面に沿った外側にフランジ板が一体に成形され、
前記フランジ板の底面は、前記連結孔の底面側の開口に向かって前記筒状本体の一側に緩やかに湾曲する吸盤状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のアダプタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路とマイクロ流路に連通する貫通孔が形成されたマイクロ流路チップとマイクロ流路へ試料を注入するピペット若しくはチューブとを連結するアダプタに関し、更に詳しくは、筒状のアダプタを貫通する連結孔でピペット若しくはチューブを支持し、ピペット若しくはチューブから試料を貫通孔からマイクロ流路へ注入するアダプタに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路チップは、2枚の積層する基板に幅500nm乃至1mm程度の微細なマイクロ流路とマイクロ流路を外部に開口させる貫通孔が形成されたチップであり、貫通孔から有機化合物、生体試料などの微量の試料をマイクロ流路に注入し、試料を混合、反応、合成、抽出、分析する等の用途で用いられている。
【0003】
従来、この種のマイクロ流路チップは、液状の成形材料を微細なマイクロ流路や貫通孔を形成する型に流し込み、常圧で硬化させた一組の基板を張り合わせるキャスティング法で製造していたので、製造行程に手間がかかり量産することができなかった。
【0004】
そこで、現在は、シリコンウェハーやガラス基板上にフォトレジストを形成し、マイクロ流路を除く部分をフォトマスクを通して露光し、露光部分をエッチングで除去して微細なマイクロ流路が凸状に残された型板を形成し、この型板をコアとする金型成形で底面側にマイクロ流路が凹設された基板を成形し、更に、表面側からマイクロ流路に連通する貫通孔を穿設して上層基板とし、下層基板上にマイクロ流路を対向させた状態で上層基板を積層し、マイクロ流路チップを量産可能に製造している。
【0005】
しかしながら、トムソン刃等で貫通孔を穿設する上層基板は、プラスチック樹脂であれば0.5mm以下、エラストマーであっても3mm未満の厚さでなければ、マイクロ流路に達する貫通孔を穿設することが困難であった。また、リング状のトムソン刃の内径は少なくとも1mm以上であり、内径が1mm以下の貫通孔を穿設することができないので、先細りのピペットを貫通孔へ挿入させると、その先端がマイクロ流路に達し、先端がマイクロ流路の底面で覆われて試料を注入できない場合や、ピペットの先端でマイクロ流路の形成面が破損する恐れがあった。そのため、上層基板の貫通孔で、ピペットやチューブの先端部を位置決めして保持することができず、ピペットやチューブから試料をマイクロ流路へ流入させるには、貫通孔が開口する上方から試料を落下させるかピペットやチューブの先端を貫通孔内に挿入して、試料をマイクロ流路内に注入することとなり、試料が貫通孔の開口周囲に漏れたり、所定の注入圧で試料をマイクロ流路へ注入できないという問題があった。
【0006】
そこで、ピペットやチューブの先端に弾性材料からなるガスケットを備えたアダプタ100を取り付け、マイクロ流路チップの表面の貫通孔の周囲との間でガスケットを圧縮させて、貫通孔の開口周囲からの試料の漏れを防止したアダプタが知られている(特許文献1、特許文献2)。このうち、特許文献2に開示されたアダプタ100は、
図12に示すように、内径が下方に向かって小径となる注入孔102が貫通する筒状に形成され、円錐形状で先端に向かって先細りのピペット110を収容するもので、ピペット110の先端より注入孔102の上端の内径を大径と、下端の内径を小径とすることにより、ピペット110を、注入孔102内のいずれかの高さの位置に位置決めしている。アダプタ100の下端に取り付けられるガスケット101は、リング状のゴム状弾性体であり、注入孔102の下端の開口周りでマイクロ流路チップ120の貫通孔121の開口より大径のリング状に形成されている。
【0007】
注入孔102内にピペット110の先端を位置決め保持したアダプタ100を、マイクロ流路チップ120の上方から貫通孔121の開口に向けて押し付けると、マイクロ流路チップ120の表面とアダプタ100の間でガスケット101が圧縮され、注入孔102と貫通孔121の周囲がシールされた状態で連通するので、ピペット110の先端から試料を所定の注入圧でマイクロ流路チップ120のマイクロ流路122へ注入できる。
【0008】
また、チューブの先端部を板状のアダプタに貫通させた状態で位置決め支持し、アダプタを貫通するチューブの先端がマイクロ流路チップの貫通孔の開口に連通する位置でアダプタとマイクロ流路チップ間を固定し、貫通孔の開口周囲からの試料の漏れを防止したアダプタ200も知られている(特許文献3、特許文献4)。このうち、特許文献4に開示されたアダプタ200は、シリコーンゴムからなる板状のパッキンであり、このアダプタ200にシリコーンゴムからなる一対のチューブ201、201の各先端部が貫通する状態で、両者が一体に成形されている。
【0009】
図13に示すように、マイクロ流路チップ210は、マイクロ流路211が凹設された下層基板212とマイクロ流路211に交差する位置に一対の貫通孔213、213が穿設された上層基板214からなり、直方体の升型に形成された筐体202内に下層基板212上に上層基板214を積層させたマイクロ流路チップ210が、一対の貫通孔213、213を上方に開口させた状態で位置決め収容される。
【0010】
一対の貫通孔213、213は、それぞれチューブ201の先端を挿通させる開口側の大径部213aと、その内方でチューブ201の先端より小径の小径部213bが連続することにより、その間に段部213cが形成され、上方に開口する一対の貫通孔213、213にそれぞれアダプタ100に一体のチューブ201、201の各先端が段部213cに当接するまで挿入し、筐体202内でマイクロ流路チップ210の上方にアダプタ200を積層する。
【0011】
続いて、アダプタ200の上方に押さえ板215を重ね、シリコーゴムからなるアダプタ200を圧縮させながら、押さえ板215を筐体202の上面にねじ止めして、一対のチューブ201、201がそれぞれ対応する貫通孔213、213を介してマイクロ流路211に連通するマイクロ流路チップ210が組み立てられる。一対のチューブ201、201の一方は、試料をマイク流路211へ注入する注入口と、他方がマイクロ流路211に注入された試料を排出する排出口となり、それぞれその周囲は、シリコーゴムが圧縮するアダプタ200で囲われ、シールされる。
【0012】
また、合成樹脂を成形材料とする射出成形によって2枚の基板を成形し、その成形過程でいずれかの基板内にマイクロ流路とマイクロ流路に連通する貫通孔を形成し、2枚の基板を積層させる組み立て工程だけでマイクロ流路チップを製造し、量産可能とした製造方法も知られている(特許文献5、特許文献6)。この製造方法によれば、貫通孔を形成する側の基板を厚肉として貫通孔の長さを長くしたり、貫通孔に連通するガイド筒部を基板に一体成形することが可能となり、貫通孔やガイド筒部にピペットやチューブの先端部を挿入して位置決め保持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2015-199028号公報
【文献】国際公開WO2015/156331号公報
【文献】特許第583418号公報
【文献】特許第4488704公報
【文献】特開2017-166989号公報
【文献】国際公開WO2010-16372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ピペットやチューブの先端に取り付けたガスケットを圧縮させて貫通孔の開口周囲からの試料の漏れを防止した従来のアダプタ100は、ピペットやチューブの先端をマイクロ流路チップの表面に押しつけて試料をマイクロ流路へ注入するので、多数のピペットやチューブから同時に対応する多数の貫通孔へ試料を注入したり、貫通孔から試料を排出することができず、マイクロ流路内で複数の試料を混合させることができない。
【0015】
更に、ピペットやチューブの先端をマイクロ流路チップの表面に押しつけながら試料を注入するので、注入圧力をかけながらマイクロ流路内に試料を注入することのが困難となっていた。
【0016】
更に、試料を吸引して採取したピペットやチューブを用いて、そのまま試料をマイクロ流路へ注入することができず、注入作業前にピペットやチューブの先端にガスケットなどのアダプタ100を取り付ける煩わしさがあり、アダプタ100を取り付ける際に、試料が漏れ出たり、アダプタ100が注入孔102内の試料に触れる恐れがあった。
【0017】
また、従来のアダプタ200によれば、複数のチューブやピペットを同時に位置決め保持し、所定の注入圧をかけてマイクロ流路内に試料を注入できるが、構造が複雑で、異なる外形のマイクロ流路や接続する本数が異なるチューブ、ピペットチップ毎に、筐体202、押さえ板215等を用意する必要があり、汎用の接続装置として利用できない。
【0018】
更に、筐体202内でのアダプタ200に固定するチューブの先端とマイクロ流路チップ210の貫通孔213の開口との位置決めが困難で、高精度でマイクロ流路チップ210やアダプタ200の輪郭に一致する内径の筐体202を製造する必要がある。
【0019】
また、貫通孔が形成された上層基板と、マイクロ流路が凹設された下層基板をそれぞれ合成樹脂を成形材料として射出成形し、2枚の基板を積層させてマイクロ流路チップを製造する特許文献5の製造方法では、マイクロ流路に多数の貫通孔が連通するマイクロ流路チップを製造する場合には、積層する上層基板と下層基板間に厳しい位置決め精度が求められるとともに、積層面で対向する上層基板との下層基板を高精度に平坦面とするすることができず、その間にマイクロ流路や貫通孔につながる隙間が生じるという問題があった。
【0020】
更に、上層基板の底面側にマイクロ流路を、表面側からマイクロ流路に連通する貫通孔を合成樹脂を成形材料として上層基板を射出成形する特許文献6に記載のマイクロ流路チップの製造方法では、マイクロ流路を形成するコアのリブと、貫通孔を形成するキャビティから突出させるピンの先端を当接させて、マイクロ流路に貫通孔が連通する上層基板を射出成形するので、貫通孔を形成するピンの先端位置にバリが残り、実用性に欠けるものであった。
【0021】
更に、1mm以下の幅と深さのマイクロ流路を形成するコアのリブは、微細かつ複雑な形状を形成するのに適した電鋳型で形成するのが適しているが、電鋳型は強度が弱いので、貫通孔を形成するためのピンを当接させると、リブの形状が崩れる恐れがあるという問題がある。
【0022】
更に、基板に一体のガイド筒部でチューブやピペットの先端部を位置決め保持する場合には、ガイド筒部が基板と一体に成形される硬質の合成樹脂で成形されるので、挿入するチューブやピペットから挿入方向以外の方向の外力(いわゆる「こじり」)を受けると変形や破損しやすく、そのため特許文献6に記載の発明では、ガイド筒部の強度を維持するためのガイド筒部の肉厚Wに対する高さTが制約されている。そのため、ピペットやチューブの先端部を位置決め保持するのに十分な高さTとすることができず、位置決め保持する十分な高さTとした場合には、肉厚Wも相応に厚くなり、射出成形の際に溶融する成形材料の多くがガイド筒部に流れ、マイクロ流路の成形精度が更に悪化するという問題があった。
【0023】
本発明は、このような従来の問題点を考慮してなされたものであり、マイクロ流路チップのマイクロ流路へ試料を注入可能な状態でピペットやチューブ支持するアダプタを、量産可能とするアダプタを提供することを目的とする。
【0024】
また、ピペットやチューブから所定の注入圧をかけて試料をマイクロ流路へ注入しても、開口部の周囲に試料が漏れ出ないアダプタを提供することを目的とする。
【0025】
また、位置決め保持するチューブやピペットから予期しない方向の外力を受けても、変形や破損しにくく、更に、マイクロ流路へ注入する試料を目視確認することができるアダプタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上述の目的を達成するため、請求項1に記載のアダプタは、ピペット若しくはチューブの先端を支持する連結孔が貫通する筒状本体を備え、筒状本体の連結孔と、マイクロ流路チップのマイクロ流路に連通する貫通孔を介して、ピペット若しくはチューブからマイクロ流路に試料を注入するアダプタであって、
筒状本体は、PDMS(ポリジメチルシロキサン)を成形材料として、金型の成形面により少なくとも3mm以上の長さの連結孔が貫通する筒状に成形され、連結孔内にピペット若しくはチューブの先端が当接する段部が形成され、連結孔の内壁面に、ピペット若しくはチューブの外周面に密着するリング状のリブが筒状本体と一体に形成されていることを特徴とする。
【0027】
ピペット若しくはチューブを支持する少なくとも3mm以上の長さの連結孔が貫通する筒状本体を金型で成形するので、マイクロ流路に試料を注入するピペット若しくはチューブを支持するアダプタを量産できる。
【0028】
弾性材料の熱硬化性樹脂であるPDMS(ポリジメチルシロキサン)で成形する筒状本体は、減菌のために、筒状本体ごと試料を加熱、加圧する際に耐性を有する。
【0029】
また、PDMS(ポリジメチルシロキサン)からなる筒状本体は、弾性限度が高く、挿入するピペット若しくはチューブから外力を受けても、成形後の原形状に復帰して破損しにくく、更に、ピペットやチューブの外周面に連結孔の内壁面に形成されたリング状のリブが密着するので、注入圧をかけて試料を注入する際に、その間から試料が漏れ出ない。
【0030】
筒状本体は、半透明材料であるPDMS(ポリジメチルシロキサン)から成形するので、筒状本体の連結孔へ挿入するピペットやチューブの挿入状態やピペットやチューブからマイクロ流路へ送液する試料の色や量を目視確認できる。
【0031】
連結孔の内壁面は、弾性材料のPDMS(ポリジメチルシロキサン)で成形されるので、リング状のリブを金型の成形面から容易に離型できる。
【0032】
連結孔に挿入するピペットやチューブの挿入位置を、その先端を段部に当接させて位置決めできる。
【0033】
請求項2に記載のアダプタは、ピペット若しくはチューブを挿入する連結孔の表面側の開口の内径は、ピペット若しくはチューブの先端の外径より長く、リング状のリブの内径は、ピペット若しくはチューブの外周面に弾性接触する長さとなっていることを特徴とする。
【0034】
連結孔の開口から挿入するピペット若しくはチューブの外周面に、弾性材料のPDMSからなるリング状のリブが弾性接触して密着する。
【0035】
請求項3に記載のアダプタは、筒状本体の底面に沿った外側にフランジ板が一体に成形され、フランジ板の底面は、連結孔の底面側の開口に向かって筒状本体の一側に緩やかに湾曲する吸盤状に形成されていることを特徴とする。
【0036】
PDMSの弾性で、フランジ板は、貫通孔の開口周囲の表面にアダプタを密着して取り付ける吸着板として作用する。
【0037】
マイクロ流路チップの表面に吸着するフランジ板と筒状本体とは、弾性材料からなるPDMSで一体に連結されるので、ピペット若しくはチューブの挿入方向と筒状本体の連結孔の中心軸方向が一致しない場合であっても、筒状本体がピペット若しくはチューブの挿入方向に追従して傾斜し、筒状本体を破損させることなく、ピペット若しくはチューブを容易に連結孔へ挿入できる。
【0038】
また、マイクロ流路チップの表面に吸着するフランジ板に対して筒状本体が傾斜しても、筒状本体への外力が解かれるとマイクロ流路チップの表面に起立する姿勢に復帰し、連結孔に挿入されたピペット若しくはチューブは、マイクロ流路チップの表面に対して起立する状態で支持される。
【発明の効果】
【0039】
請求項1の発明によれば、アダプタの筒状本体がPDMSを成形材料として成形されるので、連結孔の内壁面のリング状のリブは、スライド金型などの複雑な金型構造を採用せずに、リング状のリブを金型の成形面から容易に離型でき、ピペットやチューブから所定の注入圧をかけて試料を注入しても、連結孔の内壁面との隙間から試料が漏れ出ない。
【0040】
筒状本体がPDMSを成形材料として成形されるので、筒状本体の連結孔に収容される試料を減菌のために、筒状本体ごと試料を加熱、加圧しても、筒状本体が変形したり、変色しない。
【0041】
また、筒状本体がPDMSを成形材料として成形されるので、ピペットやチューブからマイクロ流路へ試料を送液する送液の状態を半透明なアダプタを通して観察できる。
【0042】
また、ピペットやチューブの先端が連結孔から突出しないのでピペット若しくはチューブの先端がマイクロ流路の底面に当接してマイクロ流路を破損したり、マイクロ流路の底面でピペット若しくはチューブの先端が覆われ、試料がマイクロ流路に注入されないという問題がない。
【0043】
請求項2の発明によれば、連結孔の内壁面とピペット若しくはチューブとの隙間から試料が漏れ出ることがなく、手に持ったピペットの先端部にアダプタを仮保持できる。
【0044】
請求項3の発明によれば、貫通孔の開口周囲の表面にフランジ板を押し付けるだけで、アダプタを、連結孔が貫通孔に連通させた状態でマイクロ流路チップの表面に取り付けることでき、特に、手に持ったピペットの先端部にアダプタを仮保持できるので、アダプタが仮保持されたピペットの先端をマイクロ流路チップのマイクロ流路に連通する貫通孔に向けて押し込むだけで、ピペットの先端がマイクロ流路に連通する状態で、アダプタをマイクロ流路チップの表面に取り付けることができる。
【0045】
フランジ板が吸着板として作用し、貫通孔の開口周囲に密着するので、開口の周囲から試料が漏れ出ない。
【0046】
また、接着剤を用いずに、筒状本体とマイクロ流路チップ間を接合するので、接着剤に含まれる溶剤、接着成分などによる試料への影響がない。
【0047】
また、マイクロ流路チップの貫通孔が開口する表面の開口周囲にフランジ板を吸着して取り付けたアダプタに、試料を吸引したピペットやチューブをそのまま挿入し、マイクロ流路へ試料を注入できるので、注入具の交換が不要となる。
【0048】
また、マイクロ流路チップの貫通孔が開口する表面の開口周囲に、フランジ板を吸着してアダプタを密着して取り付けることができるので、外形やマイクロ流路の位置、数や、貫通孔の位置、数が異なる種々のマイクロ流路チップに対して、金型で成形して量産可能なアダプタを汎用のアダプタとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】マイクロ流路チップ10に取り付けた本発明の第1実施の形態に係るアダプタ1を示す縦断面図である。
【
図2】アダプタ1を平面側の斜め上方からみた斜視図である。
【
図3】アダプタ1を底面側の斜め下方からみた斜視図である。
【
図4】マイクロ流路チップ10の注入口11aと排出口11bの周囲にそれぞれ注入用アダプタ1Aと排出用アダプタ1Bを取り付けた状態を示す縦断面図である。
【
図5】マイクロ流路チップ10の表面10aに注入用アダプタ1Aと排出用アダプタ1Bを取り付けた状態を示す
図4の斜視図である。
【
図6】本発明の第2実施の形態に係るアダプタ20を示す斜視図である。
【
図7】マイクロ流路チップ10に取り付けたアダプタ20の縦断面図である。
【
図8】
図7に示すアダプタ20にピペット50の先端部を挿入した状態を示す縦断面図である。
【
図9】本発明の第2実施の形態に係るアダプタ30を示す斜視図である。
【
図10】アダプタ30にピペット50の先端部を挿入した状態を示す縦断面図である。
【
図11】ピペット50の先端部を挿入したアダプタ30を、マイクロ流路チップ10の表面10aに取り付けた状態を示す縦断面図である。
【
図12】ピペット110の先端に取り付けられる従来のアダプタ100の縦断面図である。
【
図13】筐体202と押さえ板215で一体のチューブ201、201を位置決め保持する従来のアダプタ200の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の第1実施の形態に係るアダプタ1を、
図1乃至
図5を用いて説明する。以下の本明細書中の説明では、
図1に図示する各方向を上下左右方向として説明する。このアダプタ1は、有機化合物、生体試料などの微量試料を先端から吐出若しくは吸引するチューブ51と、幅及び深さが500nm乃至1mmのマイクロ流路14内に注入される試料を混合、反応、合成、抽出、分離、若しくは分析するマイクロ流路チップ10とを連結するもので、本実施の形態では、
図4、
図5に示すように、同一形状のアダプタ1である一組の注入用アダプタ1Aと排出用アダプタ1Bが、マイクロ流路14の両側で連通する一組の貫通孔11、11の注入口11aと排出口11b周囲にそれぞれ取り付けられている。これにより、注入用アダプタ1Aに保持されるチューブ51からマイクロ流路14へ試料を注入し、排出用アダプタ1Bに保持されるチューブ51でマイクロ流路14に注入された試料を排出する。
【0051】
図1乃至
図5の各図に示すように、アダプタ1は、金型を用いたPDMS(ポリジメチルシロキサン)を成形材料とするインジェクション成形で円筒状に形成される筒状本体2から構成されている。ここではインジェクション成形で筒状本体2を成形しているが、金型を用いて量産可能に成形できれば、流動数、PDMSの種類、筒状本体2の形状に合わせて、適宜トランスファー成形、コンプレッション成形等の種々の成形法で成形することができる。
【0052】
筒状本体2の底面2aを成形する金型の成形面は、算術平均荒さRaが、500nm以下で好ましくは300nm以下の鏡面としている。筒状本体2の底面2aを形成する成形材料は、金型内で流動性の高いPDMS(ポリジメチルシロキサン)であるので、鏡面加工された前記金型の成形面への転写性にすぐれ、筒状本体2の底面2aも成形面の算術平均荒さRaにほぼ等しい鏡面とすることができる。
【0053】
筒状本体2が円筒状に成形されることにより、上下方向の中心軸に沿って上下に貫通する円筒状の連結孔3が形成される。
図1に示すように、連結孔3は、上方に開口し、挿入するチューブ51の外径よりわずかに長い内径の大径部3aと、下方に開口し、チューブ51の先端の外径より短い内径の小径部3bが上下で連続することにより、その間に円板状の段部4が形成されている。また、連結孔3の表面側の開口縁は、外方に向かって拡径するテーパー面3cとなっている。従って、チューブ51を上方から連結孔3へ挿入すると、チューブ51の先端がテーパー面3cに沿って連結孔3内に案内された後、段部4に当接して、チューブ51の下方への挿入位置が位置決めされる。
【0054】
大径部3aの鉛直方向の長さ(高さ)は、3mm以上の長さとなっていて、これにより、連結孔3に挿入するチューブ51の先端部は、大径部3aによって起立する状態で位置決め保持される。
【0055】
また、大径部3aの2カ所の異なる高さの内壁面の位置からリング状のリブ5、5が一体に突設されている。リング状のリブ5、5は、それぞれ大径部3aに挿入されるチューブ51の外周面に弾性変形して密着し、大径部3aの内壁面とチューブ51との隙間から試料が漏れ出ることを防止している。リング状のリブ5、5は、筒状本体2を成形する際に一体に成形されるが、弾性材料であるPDMS(ポリジメチルシロキサン)を成形材料とするので、スライド金型などの複雑な金型構造を採用せずに、リング状のリブ5、5の成形後に金型を離型できる。
【0056】
幅及び深さが500nm乃至1mmのマイクロ流路14と一組の貫通孔11、11が形成されたマイクロ流路チップ10は、以下の方法で製造される。初めに、シリコンウェハーやガラス基板等、フォトレジストに強く接合し、鏡面性の高い材質上にフォトレジストを形成し、マイクロ流路を除く部分をフォトマスクを通して露光し、露光部分をエッチングで除去して微細なマイクロ流路が凸状に残された型板を形成し、この型板をコアとする金型成形で底面側にマイクロ流路14が凹設された基板を成形し、他面からマイクロ流路14の位置をマーキングし、マイクロ流路14の両側の位置で連通する貫通孔11、11を他面から穿設し、マイクロ流路14の両側の位置で連通する貫通孔11、11を他面から穿設し、マイクロ流路14と貫通孔11、11が形成されたPDMS(ポリジメチルシロキサン)からなる上層基板12を製造する。
【0057】
続いて、上層基板12と同一の輪郭の下層基板13となるカバーシートを、マイクロ流路14が露出する上層基板12の一面側に貼り付け、上層基板12と下層基板13が積層され、マイクロ流路14に連通する一組の貫通孔11、11が表面10aに開口するマイクロ流路チップ10が製造される。
【0058】
一組の貫通孔11、11のうち、試料をマイクロ流路14へ注入する一方の貫通孔11とマイクロ流路14から試料を排出する他方の貫通孔11は、それぞれ注入口11aと排出口11bでマイクロ流路チップ10の表面10aに開口する。注入口11aと排出口11bの開口径は、その上に起立して取り付けられる注入用アダプタ1Aと排出用アダプタ1Bの各筒状本体2の底面2aの外径より十分に短く、従って、各筒状本体2の底面2aをそれぞれ注入口11aと排出口11bの周囲の表面10aに接合することによって、各筒状本体2、2の連結孔3、3が貫通孔11、11に連通する状態で、マイクロ流路チップ10の表面10aに注入用アダプタ1Aと排出用アダプタ1Bが取り付けられる。
【0059】
アダプタ1を構成する筒状本体2の底面2aと注入口11aと排出口11bの周囲の表面10aとの接合は、注入口11a若しくは排出口11bの中心を筒状本体2の連結孔3の中心軸が通過するマイクロ流路チップ10の表面10a上の位置に筒状本体2を起立させて配置し、相互に接する筒状本体2の底面2aとマイクロ流路チップ10の表面10aにプラズマを照射するプラズマ処理を行い、表面改質する。
【0060】
本実施の形態では、接合面となる筒状本体2の底面2aは、上述の通り、算術平均荒さRaが300nm以下に鏡面加工され、また、対向して接合面となるマイクロ流路チップ10の表面10aも、同様に同程度の荒さの鏡面とすることができるので、プラズマ処理を行う工程で、対向して接する全ての接合面が隙間なく密着して表面改質される。その結果、筒状本体2の底面2aと、注入口11a若しくは排出口11bの周囲のマイクロ流路チップ10の表面10aは、むらなく一体化され強固に接合される。
【0061】
筒状本体2の底面2aとマイクロ流路チップ10の表面10a間にプラズマを照射するプラズマ処理は、真空プラズマ処理と大気圧プラズマ処理のいずれであってもよく、また、接合面を表面改質する処理としては、プラズマ処理の他に、エキシマランプから接合面に真空紫外線(VUV)を照射する真空紫外線(VUV)処理、コロナー放電処理等であってもよい。
【0062】
筒状本体2の底面2aとマイクロ流路チップ10の表面10aが表面改質されることによって、
図1に示すように、筒状本体2は、連結孔3の小径部3bがマイクロ流路チップ10の貫通孔11に連通し、マイクロ流路チップ10の表面10a上に起立する姿勢で強固に固定して取り付けられる。
【0063】
筒状本体2がマイクロ流路チップ10に取り付けられた状態で、連結孔3と貫通孔11が連通する注入口11a若しくは排出口11bの周囲は、表面改質されることによって、筒状本体2の底面2aとマイクロ流路チップ10の表面10aが密着して一体化されるので、連結孔3へ挿入するチューブ51から所定の注入圧をかけて、試料をマイクロ流路14へ注入しても、アダプタ1とマイクロ流路チップ10との連結部分の隙間から試料が漏れ出ることがない。
【0064】
また、筒状本体2は、弾性限度が高いPDMS(ポリジメチルシロキサン)から形成されているので、中心軸が鉛直方向となっている連結孔3に対して、傾斜する方向からチューブ51を挿入しても、連結孔3が挿入方向に一致するように筒状本体2が弾性変形し、筒状本体2が破損することがない。
【0065】
一方、連結孔3に挿入したチューブ51を保持する外力を解くと、筒状本体2は、連結孔3の中心軸が鉛直方向となる起立する姿勢に復帰するので、チューブ51の先端部も連結孔3内で起立する姿勢で保持される。従って、
図5に示すように、複数のチューブ51、51を対応する複数のアダプタ1A、1Bの連結孔3、3を介してマイクロ流路14へ連通させた状態で支持することができる。
【0066】
次に、本発明の第2実施の形態に係るアダプタ20を、
図6乃至
図9を用いて説明する。第2実施の形態の説明において、第1実施の形態にかかる構成と同一若しくは同様に作用する構成については、同一番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0067】
第2実施の形態に係るアダプタ20は、先端に向かって先細りの形状のピペット50と、マイクロ流路チップ15とを連結するもので、PDMS(ポリジメチルシロキサン)を成形材料として、金型を用いたインジェクション成形で、連結孔22が貫通する円筒状に形成された筒状本体21で構成される。筒状本体21についても、金型を用いて量産可能に成形できれば、トランスファー成形、コンプレッション成形等の種々の他の成形法で成形することができる。
【0068】
アダプタ20により連結されるマイクロ流路チップ15は、上層ガラス基板16と下層ガラス基板17の2枚のガラス基板を積層して構成され、2枚のガラス基板16、17の積層面に沿って微細なマイクロ流路14が形成され、マイクロ流路14に連通し、マイクロ流路チップ15の表面15aの注入口11aで開口する貫通孔11が上層ガラス基板16に穿設されている。
【0069】
円筒状の筒状本体21は、マイクロ流路チップ15の表面15aの注入口11aの周囲に、連結孔22が鉛直方向に沿った起立する姿勢で取り付けられ、連結孔22が貫通孔11に連通することによって、連結孔22に挿入するピペット50の先端から吐出する試料を貫通孔11を介してマイクロ流路14へ注入する。
【0070】
図7に示すように、連結孔22は、連結孔22に挿入する先細りのピペット50の先端の外径よりわずかに長い内径の大径部22aと、下方に開口し、ピペット50の先端の外径より短い内径の小径部22bが上下で連続することにより、その間に円板状の段部23が形成され、
図8に示すように、連結孔22に挿入するピペット50の先端を段部23に当接させて、ピペット50の挿入位置を位置決めしている。
【0071】
大径部22aの中間位置には、大径部22aの内径より小径の括れ部24が一体に形成されていて、
図8に示すように、連結孔22にピペット50を挿入すると、括れ部24が拡径するように弾性変形してピペット50の外周面に密着し、連結孔22とピペット50との隙間から試料が漏れ出ることを防止している。
【0072】
また、大径部22aの鉛直方向の長さ(高さ)を3mm以上の長さとするので、連結孔22に挿入するピペット50の先端部は、大径部22aと括れ部24の内壁面によって起立する状態でアダプタ20に位置決め支持される。
【0073】
アダプタ20の筒状本体21の底面21aの外径は、マイクロ流路チップ15の表面15aに開口する注入口11aの開口径より十分に長く、筒状本体21の底面21aを注入口11aの周囲の表面15aに接合することによって、筒状本体21の連結孔22が貫通孔11に連通する状態で、マイクロ流路チップ15の表面15aにアダプタ20が取り付けられる。
【0074】
本実施の形態においては、注入口11aの中心を連結孔22の中心軸が通過する位置でマイクロ流路チップ15の表面15a上に起立する状態に置かれた筒状本体21の底面21aと、マイクロ流路チップ15の表面15aとを表面改質し、相互を密着する状態で接合する。尚、マイクロ流路チップ15の上層基板16がCOP(シクロオレフィンポリマー)等のプラスチック樹脂で形成されている場合には、予めCOP(シクロオレフィンポリマー)等のプラスチック樹脂が露出する上層基板16の表面にシラン剤を蒸着するシランカップリング処理を施しておく。その後、筒状本体21の底面21aとマイクロ流路チップ15の表面15aの接合面にエキシマランプから真空紫外線(VUV)を照射する真空紫外線(VUV)処理を行い、底面21aと表面15aを表面改質し、両者を一体化して接合する。
【0075】
筒状本体21の底面21aとマイクロ流路チップ15の表面15aが表面改質されることによって、
図7に示すように、筒状本体21は、連結孔22の小径部22bがマイクロ流路チップ15の貫通孔11に連通する状態で、マイクロ流路チップ15の表面15a上に起立する姿勢で固定して取り付けられる。
【0076】
この表面改質工程においても、筒状本体21の底面21aを成形する金型の成形面を、算術平均荒さRaが、500nm以下で好ましくは300nm以下の鏡面とすることにより、筒状本体21の底面21aも成形面の算術平均荒さRaにほぼ等しい鏡面とし、シランカップリング処理を施した上層ガラス基板16からなるマイクロ流路チップ15の表面15aも同程度の荒さの鏡面とするので、真空紫外線(VUV)処理を行う工程で、対向して接する全ての接合面が隙間なく密着して表面改質され、筒状本体21の底面21aは、注入口11aの周囲のマイクロ流路チップ15の表面15aにむらなく一体化し、強固に接合する。
【0077】
本実施の形態においても、表面改質工程では、真空紫外線(VUV)処理以外に、プラズマ処理、コロナー放電処理等の他の方法で表面改質を行ってもよい。
【0078】
このアダプタ20によれば、試料を吸引して採取したピペット50を、そのままガスケットなどを装着せずに、マイクロ流路チップ15の注入口11a上に取り付けられたアダプタ20の連結孔22へ挿入し、連結孔22に連通する貫通孔11を介して採取した試料をマイクロ流路14へ注入することができる。ピペット50を連結孔22へ挿入する際に、挿入方向が連結孔22の中心軸方向に一致しない場合であっても、筒状本体21は、弾性限度が高いPDMS(ポリジメチルシロキサン)から形成されているので、連結孔22が挿入方向に一致するように筒状本体21が弾性変形し、筒状本体21が破損することがない。
【0079】
連結孔22に挿入したピペット50を保持する外力を解くと、筒状本体21は、連結孔22の中心軸が鉛直方向となる起立する姿勢に復帰するので、ピペット50の先端部も連結孔22内で起立する姿勢で保持される。従って、
図5に示すように、複数のピペット50を対応する複数のアダプタ1の連結孔22を介してマイクロ流路14へ連通させた状態で保持することができる。
【0080】
次に、本発明の第3実施の形態に係るアダプタ30を、
図9乃至
図11を用いて説明する。第3実施の形態の説明においも、既述の実施の形態にかかる構成と同一若しくは同様に作用する構成については、同一番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0081】
第3実施の形態に係るアダプタ30は、先端に向かって先細りの形状のピペット50と、マイクロ流路チップ10とを連結するもので、第2実施の形態に係る筒状本体と同一形状の筒状本体21と、筒状本体21の底面21aに沿った外側に形成され、円形の輪郭のフランジ板31とが、PDMS(ポリジメチルシロキサン)を成形材料として、金型を用いたインジェクション成形で一体に成形されている。この筒状本体21とフランジ板31も、金型を用いて量産可能に成形できれば、トランスファー成形、コンプレッション成形等の種々の他の成形法で成形してもよい。
【0082】
フランジ板31は、筒状本体21の連結孔22の中心軸周りの円環状に形成され、その底面31aは、連結孔22の中心軸に向かって上方に緩やかに湾曲する吸盤状に形成されている。フランジ板31の底面31aを吸盤状とすることにより、筒状本体21の連結孔22がマイクロ流路チップ10の貫通孔11に連通する位置で起立させた筒状本体21を下方へ押し付けると、フランジ板31の底面31aがマイクロ流路チップ10の注入口11a若しくは排出口11bの周囲の表面10aに密着し、フランジ板31が吸着板として作用し、アダプタ30が注入口11a若しくは排出口11bの周囲の表面10aに密着して取り付けられる。
【0083】
従って、マイクロ流路チップ10の表面10aの任意の位置に開口する注入口11a若しくは排出口11b上に、アダプタ30を表面改質工程を行わずに取り付けることが可能で、マイクロ流路チップ10に取り付けたアダプタ30の連結孔22に、ピペット50の先端部を挿入し、マイクロ流路14に連通する状態でピペット50を連結孔22内に支持できる。
【0084】
また、試料を採取したピペット50とマイクロ流路チップ10を連結する場合には、
図10に示すように、予めピペット50の先端部をアダプタ30の連結孔22内に挿入しておく。ピペット50を挿入した状態では、連結孔22の中間位置にある括れ部24がピペット50の外周に弾性接触してピペット50を挟持するので、手に持ったピペット50の先端部にアダプタ30が仮保持される。
【0085】
その後、
図11に示すように、アダプタ30が仮保持されたピペット50を、マイクロ流路チップ10の注入口11a若しくは排出口11b(採取した試料をマイクロ流路14へ注入する場合には、注入口11a、マイクロ流路14内の試料をピペット50へ吸引する場合には、排出口11b)に向けて、ピペット50の先端で筒状本体21の段部23に当接させながら下方へ押し込むと、フランジ板31の底面31aが、注入口11a若しくは排出口11bの周囲の表面10aに吸着し、ピペット50の先端がマイクロ流路14に連通する状態で、アダプタ30がマイクロ流路チップ10の表面10aに取り付けられる。
【0086】
このアダプタ30によれば、表面改質工程を行わずに、ピペット50の先端をマイクロ流路チップ10の注入口11a若しくは排出口11bに向けて押し付けるだけで、ピペット50をマイクロ流路14に連通させた状態でマイクロ流路チップ10の表面10aに密着して取り付けることができる。
【0087】
また、フランジ板31を吸着板として作用させ、貫通孔11の数や貫通孔11の開口位置が異なる種々のマイクロ流路チップ10にアダプタ30を着脱自在に取り付けることができるので、量産可能なアダプタ30を、ピペット50と種々のマイクロ流路チップ10を連結する汎用のアダプタとすることができる。
【0088】
上述の第1、第2実施の形態では、マイクロ流路14に連通する連結孔3、22が上方に開口する状態で、アダプタ1、20がマイクロ流路チップ10の表面10a上に起立して取り付けられるので、チューブ51やピペット50を連結孔3、22へ挿入せずに、ピペット50等を用いてアダプタ1、20の上方から連結孔3、22内に液状試料を貯留し、自由落下させてマイクロ流路14へ送液することもできる。
【0089】
また、上述の各実施の形態では、アダプタ1、20、30を、表面改質工程若しくはアダプタ30のフランジ板31を吸着させて、マイクロ流路チップ10、15の表面10a、15aに密着する状態で取り付けているが、両面に粘着層を有する両面テープを用いて取り付けてもよい。
【0090】
また、接合面を表面改質してアダプタ1、20と接合させるマイクロ流路チップ10、15は、上述の実施の形態で説明したPDMS、ガラスの他、金属、COP(シクロオレフィンポリマー)等のプラスチック樹脂を材質として形成されるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
マイクロ流路が形成されたマイクロ流路チップとマイクロ流路へ試料を注入するピペット若しくはチューブとを連結するアダプタに適している。
【符号の説明】
【0092】
1、20、30 アダプタ
2、21 筒状本体
2a、21a 筒状本体の底面
3、22 連結孔
5 リブ
10、15 マイクロ流路チップ
10a、15a マイクロ流路チップの表面
11 貫通孔
14 マイクロ流路