(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】成型方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/20 20060101AFI20220404BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20220404BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B21D22/20 H
B21D22/20 E
C21D9/00 A
C21D1/18 C
(21)【出願番号】P 2021056979
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2021-03-30
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591214527
【氏名又は名称】株式会社ジーテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 舜
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 匠
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2012-0110962(KR,A)
【文献】特開2019-013936(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137308(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/20 - 22/40
C21D 9/00
C21D 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を加熱してオーステナイト状態とする加熱工程と、
加熱工程を実施した加熱炉外で、オーステナイト状態とした前記鋼板の設定した第1領域のみをマルテンサイト変態しない範囲の温度範囲で
フェライト・パーライト相が生成する温度に強制的に
急冷し、前記第1領域以外の第2領域は自然冷却される状態としてオーステナイトへ変態が開始する温度より低い温度とする冷却工程と、
オーステナイト状態となっていない前記第1領域と、オーステナイト状態とされた、前
記第2領域とを有する前記鋼板を熱間プレス成形する成形工程と
を備え、
前記冷却工程の
直後
に、前記鋼板を加熱して、前記第2領域をオーステナイト状態とす
るとともに、前記第1領域の急冷した状態を一定時間維持して、フェライト・パーライト相を成長させる再加熱工程をさらに備え、
前記再加熱工程の後で、前記成形工程を実施することを特徴とする成型方法。
【請求項2】
請求項
1記載の成型方法において、
前記加熱工程は、前記鋼板の全域を均一に加熱することを特徴とする成型方法。
【請求項3】
請求項1
または2記載の成型方法において、
前記冷却工程は、前記第2領域は、自然冷却により冷却して前記第1領域より高い温度の状態を維持し、
前記再加熱工程は、前記第1領域がオーステナイト状態とならない範囲の条件で前記鋼板を加熱し、
前記成形工程は、前記第2領域のみをマルテンサイト変態させる
ことを特徴とする成型方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車輌を構成する部品(車体部品)には、高い強度が要求される。このため、部品を形成する材料には、例えば、高張力鋼板などの高強度な鋼板が用いられている。しかしながら、鋼板をプレス加工して車体部品としているため、高強度な鋼板を用いると、プレス加工において寸法精度不良が発生しやすいなどの問題が発生する。これは、用いる鋼板の強度が高いほど顕著となる。
【0003】
上述した問題に対し、熱間プレスと呼ばれる技術が開発されている(特許文献1)。熱間プレスでは、加熱して鋼板を軟質化させた状態でプレス加工し、同時に型との接触による冷却で焼き入れをすることにより、高い強度および高い寸法精度の車体部品が形成可能となる。
【0004】
ところで、自動車部品においては、衝撃を受けたときに受けた衝撃が吸収される塑性変形する部分を設ける場合がある。このような部品の成形のために、例えば、塑性変形させたい領域に対応する型の部分は、温度を高く維持し、冷却による焼き入れがなされないようにする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した技術では、成型体を型から離型するときに、焼き入れがなされていない領域は高い温度が維持されているため、冷却の温度差による収縮差でねじれが発生するなどの問題が発生する。このように、従来の技術では、熱間プレスにより一部に焼き入れがなされない領域を形成しようとすると、正常な成形ができないという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、一部に焼き入れがなされない領域を備える成形が、熱間プレスにより正常に実施できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る成型方法は、鋼板を加熱してオーステナイト状態とする加熱工程と、オーステナイト状態とした鋼板の設定した第1領域のみをマルテンサイト変態しない範囲の温度範囲で強制的に冷却する冷却工程と、オーステナイト状態となっていない第1領域とオーステナイト状態とされた第2領域とを有する鋼板を熱間プレス成形する成形工程とを備える。
【0009】
上記成型方法の一構成例において、冷却工程は、第1領域を、フェライト・パーライト相が生成する温度に冷却する。
【0010】
上記成型方法の一構成例において、加熱工程は、鋼板の全域を均一に加熱する。
【0011】
上記成型方法の一構成例において、冷却工程の後で、鋼板を加熱して、第1領域以外の第2領域をオーステナイト状態とする、または第2領域のオーステナイト状態を維持する再加熱工程をさらに備え、再加熱工程の後で、成形工程を実施する。
【0012】
上記成型方法の一構成例において、冷却工程は、第2領域は、自然冷却により冷却して第1領域より高い温度の状態を維持し、再加熱工程は、第1領域がオーステナイト状態とならない範囲の条件で鋼板を加熱し、成形工程は、第2領域のみをマルテンサイト変態させる。
【0013】
上記成型方法の一構成例において、鋼板は、表面にめっき層が形成され、加熱工程は、鋼板とめっき層とが合金化する温度に加熱する。
【0014】
上記成型方法の一構成例において、めっき層は、アルミニウムから構成されている。
【0015】
成形品は、めっきが形成され、形成されているめっきの層との間に拡散層が形成されている鋼板を成形した成形品であって、焼き入れ処理がされていない硬度が780MPa以下の第1領域と、焼き入れ処理がされた硬度が1300MPa以上の第2領域とを備え、拡散層は、第1領域および第2領域を含めた全域に、厚さ10μm以下で均一に形成されている。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、加熱工程により鋼板をオーステナイト状態とした後、第1領域のみを強制的に冷却するので、一部に焼き入れがなされない領域を備える成形が、熱間プレスにより正常に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る成型方法を説明するフローチャートである。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態1に係る成型方法における温度変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係る成型方法について
図1、
図2を参照して説明する。
【0019】
まず、加熱工程S101で、鋼板を加熱してオーステナイト状態とする。加熱工程S101では、鋼板の全域を均一に加熱して、鋼板の全域をオーステナイト状態とする。オーステナイトへ変態が開始する温度Ac3以上に加熱することで、鋼板をオーステナイト状態とすることができる。例えば、オーブンなどの加熱装置を用い、鋼板の全域を約900℃に加熱することで、鋼板の全域をオーステナイト状態とすることができる。例えば、鋼材は、マンガンボロン鋼から構成され、823℃以上に加熱することで、オーステナイト状態とすることができる。
【0020】
次に、冷却工程S102で、オーステナイト状態とした鋼板の設定した第1領域のみをマルテンサイト変態しない範囲の温度範囲で強制的に冷却(急冷)する[
図2の(a)]。マルテンサイトが生成し始める温度Msより高い温度の範囲で、強制的な冷却を実施する。この工程では、第1領域を、フェライト・パーライト相が生成する温度に急冷することが重要である。
【0021】
例えば、水冷により冷却されている冷却ブロックを当接することで、第1領域のみを急冷することができる。また、第1領域のみに、空気などの気体、水、ミストなどを吹き付けることで、第1領域のみを急冷することができる。冷却工程S102においては、第1領域以外の第2領域は、自然冷却により冷却して第1領域より高い温度の状態を維持する[
図2の(b)]。例えば、処理対象の鋼板の、第1領域以外の全域が、第2領域である。
【0022】
なお、冷却工程S102では、第1領域がマルテンサイト変態しない範囲で、最も低い温度となる状態に急冷することもできる。ただし、冷却工程S102では、第1領域がベイナイト変態する温度より高い状態となっていることが重要となる。鋼板を構成する鋼の種類によっても異なるが、例えば、冷却工程S102では、第1領域のみを550~650℃の範囲のいずれかの温度にまで急冷する。
【0023】
急速冷却を行うことで、フェライト相が生成する750℃以下まで瞬間的に温度が下がり、第1領域にオーステナイト→フェライト変態のきっかけが作られる。急速冷却しただけではフェライト変態しない。第1領域の急冷した状態を一定時間(数秒)維持することでオーステナイト→フェライト・パーライトへと組織が成長する。この、第1領域のみの急冷は、加熱工程を実施した加熱炉外で実施するため、第2領域が自然冷却される。この自然冷却により、第2領域が750℃より低い温度になると、フェライトが生成される。
【0024】
次に、再加熱工程S103で、鋼板を加熱して、第1領域以外の第2領域を再度オーステナイト状態とする、または第2領域のオーステナイト状態を維持する。再加熱工程S103では、鋼板の全域を均一に加熱することで、第2領域をオーステナイト状態とする。再加熱工程S103は、第1領域がオーステナイト状態とならない範囲の条件で鋼板を加熱する。例えば、第1領域を断熱材で覆うことで、上述した処理を実施することができる。断熱材の大きさを変えることで遷移領域の幅を調整することができる。冷却工程S102の処理で、第1領域の温度と第2領域の温度との間に差が形成されているので、鋼板の全域を均一に加熱しても、第2領域はオーステナイトとし、第1領域はオーステナイト状態とならないようにすることができる。
【0025】
また、冷却工程S102の処理を実施した後、再加熱工程S103を実施する段階で、第2領域のオーステナイト状態が維持されている場合、再加熱工程S103の加熱処理は、第2領域におけるオーステナイト状態を、後工程の熱間プレス成形でマルテンサイト変態をさせるために、維持するための処理となる。
【0026】
また、冷却工程S102の処理を実施した後、再加熱工程S103を実施する段階で、第2領域のオーステナイト状態が十分に維持され、直後に後工程の熱間プレス成形が実施できる場合、再加熱工程S103を実施せず、次の成形工程S104が実施できる。
【0027】
次に、成形工程S104で、オーステナイト状態となっていない第1領域とオーステナイト状態とされた第2領域とを有する鋼板を熱間プレス成形する。この熱間プレス成形においては、第2領域のみをマルテンサイト変態させる。
【0028】
上述した実施の形態によれば、熱間プレス成形の結果、第2領域は、焼き入れされた状態となってマルテンサイトとなる。一方、第1領域は、焼きなましされた状態となり、組成変改しやすい部分となる。また、実施の形態によれば、成型体を型から離型する段階で、全域が低い温度となっているため、いわゆるスプリングバックなどの問題が発生しない。このように、実施の形態によれば、一部に焼き入れがなされない領域を備える成形が、熱間プレスにより正常に実施できるようになる。なお、冷却工程から再加熱工程にかけての低温側温度を、マルテンサイト変態が起きる近辺の温度の範囲で制御することで、ベイナイト相を含む組織変態をすることもできる。
【0029】
例えば、実施の形態によれば、熱間プレス成形により、第1領域は、引張強度780MPa以下、硬度220HV以下とし、第2領域は、引張強度1300MPa以上、硬度400HV以上とすることができる。また、第1領域と第2領域との間には、硬度が徐々に遷移する幅~50mm程度の境界領域を形成することができる。
【0030】
前述したように、例えば、自動車部品においては、衝撃を受けたときに受けた衝撃が吸収される塑性変形する部分を設けるようにしている。第1領域は、この部分とするための領域である。第1領域を、フェライト・パーライト相が生成している状態とすることで、ベイナイトより柔らかく延性を持った状態とすることができる。このような状態となっている第1領域は、より変形しやすくなるので、予め変形部位を限定することができる。また、フェライト・パーライト相が生成している状態とすることで、延性が高い状態とすることができ、変形時に割れにくく伸びて粘るものとなる。
【0031】
ところで、上述したような、プレス前において各々温度の異なる2つの領域を形成するために、部分的に加熱することも考えられる。しかしながらこの場合、部分的に加熱するための設備が必要となり、設備が大がかりとなる懸念がある。これに対し、部分的に冷却する設備は、加熱の場合と異なり、大がかりな設備を必要とせず、コストの点で有利なものと考えられる。
【0032】
ところで、腐食を防止する観点から、一般に、鋼板の表面にめっき層を形成して用いている。例えば、アルミニウムから構成されためっき層を鋼板の表面に形成している。また、この種のめっき層は、加熱により鋼板との間に合金化した層を形成して用いられている。このように、めっき鋼板に対しても、上述した実施の形態に係る成型方法が適用可能である。成形された成型体は、例えば、自動車のドアのセンターピラーなどの部品として用いることができる。
【0033】
この場合、加熱工程において、めっき層が形成された鋼板を、鋼板とめっき層とが合金化する温度に加熱する。鋼板が、オーステナイト状態となる温度は、鋼板とめっき層とが合金化する温度であり、鋼板をオーステナイト状態となる温度に加熱することで、上述した合金化がなされるものとなる。例えば、アルミニウムによるめっき層が、厚さ30μm程度形成されているマンガンボロン鋼による鋼板(Alメッキ鋼板)の場合、660℃から合金化が始まり、660℃となった時点からおおよそ150秒後に、合金となっていない部分(未合金)がない状態とすることができる。従って、前述したように、オーステナイト状態とすることができる823℃以上に加熱することで、未合金のない状態に合金層を形成することもできる。
【0034】
なお、Alメッキ鋼板では、加熱により合金化し、さらに鋼板が750℃以上であると、厚さ方向に拡散層が形成される。マンガンボロン鋼によるAlメッキ鋼板では、加熱を開始することで合金化が始まる。例えば、加熱炉の条件が920℃である場合、250秒加熱すると拡散層が形成され始める。拡散層の形成時間は、鋼板の種類や板厚や形状、加熱の温度、用いる加熱炉などの条件によって変化するが、拡散層の厚さは、10μm以下とすることが好ましい。
【0035】
Alメッキ鋼板を使用した熱間プレスでは、熱間プレスを実施する前に、合金化により形成される拡散層の厚さを制御する必要がある。一般的に、拡散層は、一度形成された後、加熱を続けることで厚さが増加する。加熱後の冷却工程でも拡散層は成長を続け厚さが増加する。拡散層は、厚すぎると溶接の接合強度が低下し、形成されないと材料に耐食性の問題が生じる。このため、Alメッキ鋼板を熱間プレスする場合、熱間プレスをする前に実施する加熱処理は、拡散層がの厚さが、目的の品質が満たされる設定した状態となる必要がある。したがって冷却工程および再加熱工程において短時間で処理をすると、拡散層の品質が満たせる。
【0036】
このように、めっき層を備える鋼板が処理対象の場合、合金化のための、鋼板全域を加熱する処理は、必須の工程となる。この場合、部分的な加熱により部分的に焼き入れしない領域を設けるためには、全域を加熱した後、再度、部分的な加熱を実施することになる。この場合、加熱のための設備が、複数必要となり、コストの上昇を招くなどの問題がある。これに対し、上述した実施の形態に係る成型方法によれば、同一の加熱設備により、加熱工程および再加熱工程が実施できるため、コストの上昇を招くことがない。
【0037】
上述した実施の形態における成型方法により成型された成形品は、めっきが形成され、形成されているめっきの層との間に拡散層が形成されている鋼板を成形した成形品であり、焼き入れ処理がされていない硬度が780MPa以下の第1領域と、焼き入れ処理がされた硬度が1300MPa以上の第2領域とを備え、拡散層は、第1領域および第2領域を含めた全域に、厚さ10μm以下で未合金無く均一に形成されている。
【0038】
以上に説明したように、本発明によれば、加熱工程により鋼板をオーステナイト状態とした後、第1領域のみを強制的に冷却するので、一部に焼き入れがなされない領域を備える成形が、熱間プレスにより正常に実施できるようになる。
【0039】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【要約】
【課題】一部に焼き入れがなされない領域を備える成形が、熱間プレスにより正常に実施できるようにする。
【解決手段】加熱工程S101で、鋼板を加熱してオーステナイト状態とする。加熱工程S101では、鋼板の全域を均一に加熱して、鋼板の全域をオーステナイト状態とする。冷却工程S102で、オーステナイト状態とした鋼板の設定した第1領域のみをマルテンサイト変態しない範囲の温度範囲で強制的に冷却(急冷)する。冷却工程S102においては、第1領域以外の第2領域は、自然冷却により冷却して第1領域より高い温度の状態を維持する。
【選択図】
図1