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特許7052126工作機械のクーラント予熱装置及び工作機械のクーラント予熱方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】工作機械のクーラント予熱装置及び工作機械のクーラント予熱方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/10 20060101AFI20220404BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20220404BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20220404BHJP
   B23Q 11/14 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B23Q11/10 E
B23Q11/00 U
B23Q17/00 A
B23Q11/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021108079
(22)【出願日】2021-06-29
【審査請求日】2021-06-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸佑
【審査官】中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/058004(WO,A1)
【文献】特開2010-038438(JP,A)
【文献】特開2009-103436(JP,A)
【文献】特開2000-301427(JP,A)
【文献】特開2010-188466(JP,A)
【文献】特開2019-076999(JP,A)
【文献】特開2000-271866(JP,A)
【文献】米国特許第05380446(US,A)
【文献】特開2010-223444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00
B23Q 11/10
B23Q 11/14
B23Q 17/00
F24H 1/00
F24H 1/18 - 1/20
F24H 4/00 - 4/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械のクーラント予熱装置であって、
前記工作機械から回収されたクーラントを収容するクーラントタンクと、
前記クーラントタンクからクーラントを給液するポンプと、
前記ポンプから吐出されたクーラントを前記工作機械に給液することなく前記クーラントタンクに戻す戻り管と、
前記ポンプから吐出されたクーラントを前記工作機械に給液する給液管と、
を備え、
前記クーラントタンクから給液し前記ポンプで生じる損失熱により予熱したクーラントを、前記戻り管を介して前記クーラントタンクに循環させるように構成されるとともに、前記戻り管は前記給液管に開閉弁を介して分岐接続され、前記工作機械に給液するか前記クーラントタンクに循環させるかを前記開閉弁により切替可能に構成され、
前記給液管を介した前記工作機械への給液時と前記戻り管への給液時とで前記ポンプの流量を異なる値に設定している、
工作機械のクーラント予熱装置。
【請求項2】
工作機械のクーラント予熱装置であって、
前記工作機械から回収されたクーラントを収容するクーラントタンクと、
前記クーラントタンクからクーラントを給液するポンプと、
前記ポンプから吐出されたクーラントを前記工作機械に給液することなく前記クーラントタンクに戻す戻り管と、
前記ポンプから吐出されたクーラントを前記工作機械に給液する給液管と、
前記クーラントタンクに収容されたクーラントの温度を検出する温度センサと、
を備え、
前記クーラントタンクから給液し前記ポンプで生じる損失熱により予熱したクーラントを、前記戻り管を介して前記クーラントタンクに循環させるように構成されるとともに、前記戻り管は前記給液管に開閉弁を介して分岐接続され、前記工作機械に給液するか前記クーラントタンクに循環させるかを前記開閉弁により切替可能に構成され、
前記温度センサにより検出された温度が所定温度より低いときに、前記開閉弁および前記ポンプを制御してクーラントを目標温度に予熱する制御回路、
備えている工作機械のクーラント予熱装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記温度センサにより検出した温度が前記目標温度に達すると、その旨を報知するように構成されている請求項記載の工作機械のクーラント予熱装置。
【請求項4】
前記制御回路は、前記クーラントタンクに収容したクーラントの液量と、前記温度センサにより検出した温度と前記目標温度との温度差と、に基づいて予熱を開始する時刻を決定するように構成されている請求項または記載の工作機械のクーラント予熱装置。
【請求項5】
前記制御回路は、前記温度センサにより検出した温度が前記目標温度に達すると、前記開閉弁を切り替えて前記給液管を介して前記クーラントを供給して前記工作機械を予熱するように構成されている請求項からの何れか1項に記載の工作機械のクーラント予熱装置。
【請求項6】
前記ポンプの吸込み口側を前記クーラントタンクの下方に接続するとともに前記戻り管を前記クーラントタンクの上方に接続して、前記ポンプの吐出し口側に切屑を捕捉するフィルタを設けて、前記フィルタより下流側で前記給液管に前記戻り管が分岐接続されている請求項からの何れか1項に記載の工作機械のクーラント予熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械のクーラント予熱装置及び工作機械のクーラント予熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械では、加工時にワークに付着した切屑を除去するとともにワークの温度上昇を抑制するために、工具によるワークの加工領域にクーラントを噴射している。
【0003】
このようなクーラントには適正温度域(例えば20~25℃)が有り、適正温度域より温度が低下すると加工効率が低下することがある。そのため、クーラントタンクに収容されるクーラントの液温を調節する必要があり、特に冬場の朝一で温度低下が著しい場合に備えてクーラントを予熱する熱源が必要になる。
【0004】
特許文献1には、ワークが載置されるテーブルを往復動可能に支持したベッドと、テーブルの移動方向と直交する方向においてベッドを跨ぐように配置され、ワークを加工するための工具を有する橋脚部とを備えた工作機械本体と、ワークの加工に用いられる加工液を貯留するタンク装置とを備えた工作機械において、タンク装置を、ベッドの下側に位置する第1部分と、その第1部分からベッドの長さ方向に沿って突出するとともに、橋脚部の突出幅の領域内に位置する第2部分とによって構成した工作機械が開示されている。
【0005】
当該工作機械は、タンク装置を、クーラントを貯留するクーラントタンク装置によって構成し、第1部分を使用済みクーラントが貯留される第1タンクとするとともに、第2部分を濾過済みクーラントが貯留される第2タンクとし、第2タンクの上面であって、工作機械本体の外部に位置する部分に、工作機械本体の加工部に送られるクーラントを温度調節するための温度調節ユニットを設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-032489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来技術では、タンク内のクーラントを温度調節するために専用の加熱ユニットを設ける必要があり、そのために部品コストが嵩み、さらに加熱ユニットや温度調節ユニットの設置スペースが必要になり装置が大型化するという不都合がある。
【0008】
本発明の目的は、専用の加熱ユニットを設けることなくクーラントタンクに収容されたクーラントの温度を調節することができる工作機械のクーラント予熱装置及び工作機械のクーラント予熱方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による工作機械のクーラント予熱装置は、工作機械のクーラント予熱装置であって、前記工作機械から回収されたクーラントを収容するクーラントタンクと、前記クーラントタンクからクーラントを給液するポンプと、前記ポンプから吐出されたクーラントを前記工作機械に給液することなく前記クーラントタンクに戻す戻り管と、前記ポンプから吐出されたクーラントを前記工作機械に給液する給液管と、を備え、前記クーラントタンクから給液し前記ポンプで生じる損失熱により予熱したクーラントを、前記戻り管を介して前記クーラントタンクに循環させるように構成されるとともに、前記戻り管は前記給液管に開閉弁を介して分岐接続され、前記工作機械に給液するか前記クーラントタンクに循環させるかを前記開閉弁により切替可能に構成され、前記給液管を介した前記工作機械への給液時と前記戻り管への給液時とで前記ポンプの流量を異なる値に設定している、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、専用の加熱ユニットを設けることなくクーラントタンクに収容されたクーラントの温度を調節することができる工作機械のクーラント予熱装置及び工作機械のクーラント予熱方法を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】カバー体で覆われた加工空間に設置された工作機械の正面視の説明図である。
図2】クーラント予熱装置が組み込まれたクーラント供給装置の配管説明図である。
図3】クーラント予熱装置の制御回路の説明図である。
図4】クーラント予熱方法を説明するフローチャートである。
図5】各分岐管に選択的にクーラントを供給する場合のポンプの動作点の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、工作機械のクーラント予熱装置及びクーラント予熱方法の基本的態様及び具体的な態様を説明する。
[工作機械のクーラント予熱装置及びクーラント予熱方法の基本的態様]
先ず本発明の基本概念を説明する。
工作機械のクーラント予熱装置は、工作機械から回収されたクーラントを収容するクーラントタンクと、クーラントタンクからクーラントを給液するポンプと、ポンプから吐出されたクーラントを工作機械に給液することなくクーラントタンクに戻す戻り管と、を備え、クーラントタンクから給液しポンプで生じる損失熱により予熱したクーラントを、戻り管を介してクーラントタンクに循環させるように構成されている。
【0014】
これにより、クーラントタンクからポンプを用いて給液したクーラントを、工作機械へ給液する給液管に分岐接続された戻り管を介してクーラントタンクに循環させ、ポンプで生じる損失熱によりクーラントを予熱するという作機械のクーラント予熱方法が実行できる。
【0015】
そして、ポンプから吐出されたクーラントを工作機械に給液する給液管を備え、戻り管は給液管に開閉弁を介して分岐接続され、工作機械に給液するかクーラントタンクに循環させるかを開閉弁により切替可能に構成されている。
【0016】
そのため、ポンプから吐出されたクーラントを、戻り管を介してクーラントタンクに循環させることでクーラントを予熱するモードと、ポンプから吐出されたクーラントを、給液管を介して工作機械に給液するモードとを、開閉弁の切替により容易く行えるようになる。
【0017】
給液管を介した工作機械への給液時と戻り管への給液時とでポンプの流量を異なる値に設定していることが好ましく、例えば、給液管を介した工作機械への給液時より戻り管への給液時にポンプの出力を上げることにより、ポンプで生じる損失熱からのクーラントの受熱量を上昇させることができる。戻り管への給液時にポンプの出力を最大出力に設定することがより好ましい。
【0018】
クーラントタンクに収容されたクーラントの温度を検出する温度センサと、温度センサにより検出された温度が所定温度より低いときに、開閉弁およびポンプを制御してクーラントを目標温度に予熱する制御回路と、を備えている。
【0019】
当該制御回路は、温度センサにより検出されるクーラントの温度に基づいて、予熱する必要があると判断すれば、開閉弁およびポンプを制御して適切にクーラントを予熱するように制御する。
【0020】
制御回路は、温度センサにより検出した温度が目標温度に達すると、その旨を報知するように構成されている。そのため、報知に基づいてクーラントが適切に予熱されたことを作業者が認識でき、適切に工作機械を作動させることができるようになる。
【0021】
また、制御回路は、クーラントタンクに収容したクーラントの液量と、温度センサにより検出した温度と目標温度との温度差と、に基づいて予熱を開始する時刻を決定するように構成されている。
【0022】
クーラントタンクに収容したクーラントの液量と、目標温度との温度差に基づいてクーラントに必要な予熱熱量を求めることができ、予熱熱量に基づいて適切な温度に予熱するのに要する時間を算出することができる。その結果、例えば工場の始業時等の目標時刻にクーラントの温度が適切な温度に予熱されるように予熱開始時刻を調節することができる。
【0023】
さらに、制御回路は、温度センサにより検出した温度が目標温度に達すると、開閉弁を切り替えて給液管を介してクーラントを供給して工作機械を予熱するように構成されている。
【0024】
クーラントタンクに収容したクーラントの予熱が完了すると、開閉弁を切り替えてクーラントを工作機械に給液することで、工作機械を予熱することができる。コラムや主軸頭などがワークの加工時に急激に温度変化すると加工精度に影響を与える虞がある。そのような場合に備えて、予め予熱されたクーラントを工作機械に供給して、コラムや主軸頭などを予熱しておくことにより、加工時に生じる急激な温度変化を抑制できるようになる。
【0025】
そして、ポンプの吸込み口側をクーラントタンクの下方に接続するとともに戻り管をクーラントタンクの上方に接続して、ポンプの吐出し口側に切屑を捕捉するフィルタを設けて、フィルタより下流側で給液管に戻り管が分岐接続されている。
【0026】
クーラントの流れがない静止状態でクーラントタンクの底部に沈降した微小な切屑が、クーラントタンクの下方に接続されたポンプの吸込み口側からクーラントとともに吸い込まれた場合でも、ポンプの吐出し口側に備えたフィルタによって効率的に切屑が除去される。
【0027】
そして、フィルタによって切屑が除去されたクーラントが戻り管を介してクーラントタンクの上方に循環供給され、或いは給液管を介して工作機械に供給される。クーラントタンクの内部では上方から下方に向かってクーラントが対流するため、ポンプで生じる損失熱により予熱されたクーラントからの放熱によりクーラントタンク内のクーラント全体が速やかに均一に予熱されるようになる。
【0028】
[工作機械のクーラント予熱装置及びクーラント予熱方法の詳細な態様]
以下に本発明の具体的な態様を説明する。
図1には、本発明が適用される工作機械が例示されている。
カバー部材300で仕切られワークWを加工する加工空間に設置された工作機械200が示されている。工作機械200は、ベッド201と、ベッド201上の案内面に沿ってZ軸方向に移動するテーブル202と、テーブル202上で垂直姿勢のB軸周りに回転するパレット203と、ベッド201に垂設されたコラム204と、コラム204の案内面に沿ってX軸及びY軸方向に移動する主軸頭205とを備えた横形のマシニングセンタで構成されている。破線で示されているように、工作機械200の周囲がカバー部材300で被覆され、カバー部材300には開閉可能な扉(図示せず)が設けられている。
【0029】
サーボモータMZが駆動されるとベッド201上でテーブル202がZ軸方向の直動駆動軸に沿って移動し、サーボモータMBが駆動されるとテーブル202上でパレット203がB軸周りに回転し、サーボモータMXが駆動されるとコラム204上で主軸頭205がX軸方向の直動駆動軸に沿って移動し、サーボモータMYが駆動されるとコラム204上で主軸頭205がY軸方向の直動駆動軸に沿って移動する。
【0030】
主軸頭205に設けられた工具ホルダ206によって工具207が保持され、サーボモータMS1が駆動されると工具207が水平軸心周りに回転する。パレット203に設けたイケール等の治具により被加工物であるワークWが保持され、サーボモータMBが駆動されるとイケール等の治具によって保持されたワークWがパレット203とともにB軸に沿う垂直軸心周りに回転する。
【0031】
予め設定されたNCプログラムに基づいてNC装置が上述した各サーボモータを駆動することにより、ワークWと工具207が相対移動されてワークWが所望の形状に機械加工される。
【0032】
主軸頭205には、ワークWの加工部位に向けてクーラントを吐出するクーラントノズル220が設けられている。工具207によってワークWが機械加工される際の切削負荷を低減させるとともに、加工部位に生じる切削熱による温度上昇を抑制し、さらには加工部位に付着した切屑を除去することで高い加工精度を確保するべく、冷却及び洗浄用の流体であるクーラントが加工部位に向けて噴射される。
【0033】
図1には示していないが、加工により飛散した切屑を回収するために、カバー部材300の内壁やテーブル202に向けてクーラントを吹き付ける複数のクーラント供給ノズルが設けられている。
【0034】
テーブル202の下方にはクーラントを回収するクーラント回収部208が設置され、機械加工に伴って発生する切屑がクーラントとともにクーラント回収部208に回収されるように構成されている。クーラント回収部208の底部にはチップコンベア209が配設され、クーラント回収部208に回収された切屑はチップコンベア209により機外に搬出されて回収容器212に回収される。
【0035】
クーラント回収部208に回収されたクーラントは、ドラムフィルタ208Fを介して切屑などの異物がある程度除去された後に大容量のクーラントタンク1に循環供給される。クーラントタンク1には、収容されたクーラントを工作機械200に供給する給液管2と、給液管2にクーラントを給液する第1給液ポンプP1と、給液管2に給液されたクーラントを工作機械200に供給することなくクーラントタンク1に戻す戻り管3を備えている。
【0036】
図2には、上述した工作機械200に組み込まれたクーラント供給装置100の配管経路図が示されている。
クーラント供給装置100は、クーラントタンク1と、給液管2と、クーラントタンク1に充填されたクーラントを給液管2に吐出する第1給液ポンプP1と、給液管2を介して給液されるクーラントを複数のクーラント供給先に分岐して供給する分岐管6~14と、制御回路30(図3参照。)などを備えている。
【0037】
給液管2には、開閉弁として機能する三方弁Vを介して戻り管3が分岐接続されている。第1給液ポンプP1から吐出されたクーラントは、工作機械200に給液されることなく戻り管3を介してクーラントタンク1に循環するか、給液管2を介して工作機械200に給液されるかが三方弁Vにより切り替えられる。開閉弁として三方弁V以外の弁を用いることも可能である。例えば給液管2と戻り管3のそれぞれにゲート弁を備えてもよい。
【0038】
第1給液ポンプP1の吸込み口側がクーラントタンク1の側壁下方に接続され、戻り管3がクーラントタンク1の側壁上方に接続されている。クーラントタンク1に収容されたクーラントが戻り管3を介してクーラントタンク1に循環される際に、第1給液ポンプP1で生じる損失熱によりクーラントが予熱される。予熱されたクーラントは、クーラントタンク1の上方からクーラントタンク1に流入して、クーラントタンク1内で上方から下方に向かう対流が生じるため、第1給液ポンプP1で予熱されたクーラントからの放熱によりクーラントタンク1内のクーラント全体が速やかに均一に予熱される。
【0039】
図2では、第1給液ポンプP1の吸込み口側が接続された壁面と同一の壁面に戻り管3が接続されているが、第1給液ポンプP1の吸込み口側が接続された壁面と対向する壁面に接続することで、クーラントタンク1内で生じる対流がより広範囲となり、予熱効率を上げることができる。
【0040】
つまり、クーラントタンク1と、第1給液ポンプP1と、戻り管3と、三方弁Vと、第1給液ポンプP1及び三方弁Vを制御する制御回路30等により工作機械のクーラント予熱装置40が構成されている。
【0041】
三方弁Vが給液管2側に切替えられると、クーラントはヘッダー管4を介して分岐管6~14に給液される。分岐管6は機内の側壁などに向けてシャワーリングする第1の給液経路であり、分岐管7はワークの加工部に配されたクーラントノズル220を供給先とする給液経路であり、分岐管8は治具洗浄などのために段取ステーションへ給液する給液経路である。
【0042】
分岐管9は機内の側壁などに向けてシャワーリングする第2の給液経路であり、分岐管10はプロテクタービルトインクーラントへの給液経路であり、分岐管11は段取ステーションのオイルパンへの給液経路であり、分岐管12はテーブル横XYプロテクターへの給液経路であり、分岐管13は予備の給液経路であり、分岐管14はクーラントガンへの給液経路である。なお、分岐管10,11,12はヘッダー管4から分岐した1本の分岐管が3本に分岐されている。
【0043】
分岐管6~14には、ヘッダー管4側に電磁バルブでなるバルブ機構V6~V12が介装されている。バルブ機構V6~V12は後述の制御回路30により開閉制御されることで、各分岐管6~12へのクーラントの給液が許容され、または停止される。
【0044】
各分岐管6~14から給液されたクーラントは、最終的にクーラント回収部208に回収され、ドラムフィルタ208Fを介して切屑などの異物が除去された後に、第3給液ポンプP3によってクーラントタンク1に給液される。
【0045】
クーラントタンク1の底部にはドラムフィルタ208Fで除去しきれなかった異物が沈降するが、側壁に接続された第1給液ポンプP1の吸込み口側が底部より僅かに上方位置に設定されているため、異物が大量に給液管2に流出することはなく、また、給液管2に備えたフィルタFにより除去されるため、ヘッダー管4側に流出することはない。
【0046】
そして、クーラントタンク1の底部に沈降した異物は定期的または不定期に駆動される第2給液ポンプP2によってクーラントと共に循環路15を介して湿式サイクロンフィルタ22に供給され、異物が除去された後にクーラントタンク1に循環される。なお、湿式サイクロンフィルタ22で異物が除去されたクーラントは、クーラントタンク1とは異なる他のクーラントタンクに戻すように構成してもよい。
【0047】
給液管2には第1給液ポンプP1の下流側に第1圧力センサSE1が配置され、分岐管7にはバルブ機構V7の下流側に第2圧力センサSE2が配置されている。
【0048】
図3には、制御回路30の回路図が示されている。制御回路30はCPU、CPUで実行されるクーラント予熱制御プログラム及び給液制御プログラムが記憶されたメモリ、入出力回路、通信回路などが搭載された制御基板で構成されている。
【0049】
制御回路30に備えた入出力回路には複数の出力ドライバ回路が含まれ、上述した三方弁V、バルブ機構V6からV12及び各給液ポンプP1,P2,P3が接続されている。また、入出力回路にはA/Dコンバータでなる入力回路が含まれ、クーラントタンク1に備えた液位センサSL、温度センサST、第1圧力センサSE1、第2圧力センサSE2等のアナログの信号値が入力され、A/D変換された値がCPUに入力される。さらに、制御回路30は工作機械200の操作盤50及びNC装置70に通信線を介して接続され、操作盤50はNC装置70に通信線を介して接続されている。
【0050】
液位センサSLとして圧力式の液位センサが好適に用いられ、温度センサSTとしてサーミスタや熱電対が好適に用いられる。なお、液位センサSLや温度センサSTはこれら以外のセンサを用いることが可能であることはいうまでもない。
【0051】
オペレータによる操作盤50の操作を介してNC装置70及び制御回路30が起動される。予めプログラムされた手順に従ってNC装置70を介して工作機械がシーケンシャルに制御されるとともに、NC装置70からの指令に基づいて制御回路30を介して必要部位にクーラントが給液制御される。
【0052】
制御回路30に備えたメモリには、クーラントの給液に対する複数の動作モードを規定するデータが記憶されている。制御回路30は、オペレータが操作する操作盤50から指示される各動作モードに応じてクーラントタンク1のクーラントを予熱する予熱制御や、工作機械200にクーラントを供給する給液制御等の所定の制御を行なう。また、給液制御状態で測定した第1圧力センサSE1または第2圧力センサSE2の値に基づいて異常が生じているか否かの診断も行なう。
【0053】
図4には、制御回路30が予熱モードに設定されている場合の動作手順が示されている。操作盤50から予熱制御指令を受けている場合に、以下の予熱制御を実行する。先ず、クーラントタンク1に設置された温度センサSTにより液温を検知し(S1)、液温が所定の許容温度域より低い場合に(S2,Y)、以下の具体的な予熱動作を実行し、液温が所定の許容温度域以上であれば、待機する(S2,N)。
【0054】
予熱動作では、先ず液位センサSLによりクーラントタンク1の液位を検出して(S3)、クーラントタンク1の断面積と液位の積によりクーラントタンク1に収容されているクーラントの量を求める。ステップS1で検知した液温と目標温度との温度差と、クーラントの量と、クーラントの比熱から目標温度に予熱するために必要な熱量を算出する(S4)。
【0055】
第1給液ポンプP1から得られる時間当たりの熱量に基づいてステップS4で算出した熱量を得ることができる時間を算出し、目標時刻にクーラントの温度が目標温度に達するのに要する時間を算出し、予熱開始時刻を算出する(S5)。なお、第1給液ポンプP1の損失熱量はポンプ動力、つまり印加電流値に基づいて得られる値であり、損失熱量に伝熱効率を乗ずることによりポンプから得られる時間当たりの熱量が求まる。
【0056】
予熱開始時刻になると(S6,Y)、三方弁Vを戻り管3側に切替えて(S7)、第1給液ポンプP1を起動して予熱中となる(S8)。クーラントタンク1に収容されたクーラントは第1給液ポンプP1から戻り管3を経由してクーラントタンク1に循環される間に第1給液ポンプP1からの発熱を受熱することにより予熱される。
【0057】
ステップS6で予熱開始時刻の前後である場合に(S6,N)、予熱中であるか否かを判断して予熱中であれば(S9,Y)、クーラントの液温を検知して(S10)、クーラントの液温が目標温度域(適正値)になっていれば(S11)、三方弁Vを給液管2側に切替えて(S12)、予備給液時間を設定する(S13)。予備給液時間とは予熱されたクーラントを工作機械200に供給して工作機械200それ自体を予熱するのに要する時間である。つまり、クーラントの液温が目標温度域(適正値)に達すると、予め設定された予備給液時間だけ工作機械200を予熱する予備給液制御中となる。
【0058】
ステップS9で予熱中でないと判断した場合に(S9,N)、予備給液制御中であれば(S14,Y)、予備給液時間が経過すると、予熱モードを終了した旨を、操作盤50を介してオペレータに報知し(S15)、第1給液ポンプP1を停止する(S16)。
【0059】
予熱制御時には、給液管を介した工作機械200への給液時の流量、特にクーラントノズル220に給液する場合の給液管2への流量より戻り管3への給液時の流量を上げるように、第1給液ポンプP1の出力を大きな値、好ましくは最大値に設定される。この時の第1給液ポンプP1の出力は操作盤50を介してオペレータにより設定される。これによりクーラントの予熱効率を高めることができる。
【0060】
この例では、制御回路30は、温度センサSTにより検出した温度が目標温度に達すると、三方弁Vを切り替えて給液管2を介してクーラントを供給して工作機械200を予熱する予備給液制御を実行する態様を説明したが、予備給液制御は必須ではなく、操作盤50で設定可能な選択的なモードである。
【0061】
予備給液制御を実行しない場合には、クーラントの液温が目標温度域(適正値)に達すると、第1給液ポンプP1を停止して、直ちに予熱モードを終了した旨を操作盤50を介してオペレータに報知することになる。報知の態様として音声メッセージの出力、報知音の発報、操作盤50のディスプレイへのメッセージ表示等、適宜採用することができる。
【0062】
制御回路30は診断した異常状態を操作盤50に送信し、操作盤50は受信した異常状態に応じて工作機械200を直ちに停止する必要がある場合にはNC装置70に停止信号を出力し、直ちに停止する必要がない場合にはアラートを鳴動させ、或いは操作盤50の操作画面にアラートを表示する。
【0063】
図5には、流量を横軸、必要揚程を縦軸に表わした第1給液ポンプP1の動作点が示されている。図5には示されていないが軸動力は右肩上がりの特性となる。動作点1はチップコンベアを稼働させるモードで、流量150L/min、揚程31mに設定されている。動作点2は加工部にクーラントを供給して主軸を動作させるモードで、流量400L/min、揚程27mに設定されている。
【0064】
動作点3は動作点2の経済性を向上させるモードで、流量400L/min、揚程26mに設定されている。また、動作点4は流量150L/min、揚程13mに設定され、動作点5は流量200L/min、揚程30mに設定され、動作点6は予熱制御時のモードで、流量440L/min、揚程6mに設定されている。動作点6では、第1給液ポンプP1が最大出力で各動作点に対して軸動力が最大となる位置に設定されている。
【0065】
つまり、制御回路30のメモリには、各分岐管に備えた各バルブ機構の開閉の組合せに応じて予め設定したクーラントの吐出圧力および給液量を規定するとともに、各組み合わせに応じて検出される圧力センサSE1,SE2の許容圧力範囲を規定したテーブルデータが記憶され、制御回路30は、当該テーブルデータに基づいて第1給液ポンプP1の吐出圧力および給液量を制御するとともに各バルブ機構を開閉制御するように構成されている。なお、上述した各動作モード、流量、必要揚程は例示であり、これらの値に限るものではない。
【0066】
以上説明したように、本発明による工作機械のクーラント予熱方法は、クーラントタンクからポンプを用いて給液したクーラントを、工作機械へ給液する給液管に分岐接続された戻り管を介してクーラントタンクに循環させ、ポンプで生じる損失熱によりクーラントを予熱するように構成されている。
【0067】
また、目標温度に予熱したクーラントを、給液管を介して工作機械に給液して工作機械を予熱するように構成されている。
【0068】
以上、本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上に説明したように、本発明により、専用の加熱ユニットを設けることなくクーラントタンクに収容されたクーラントの温度を調節することができるクーラント予熱装置を備えた工作機械が実現できる。
【符号の説明】
【0070】
1:クーラントタンク
2:給液管
3:戻り管
4:ヘッダー管
6~14:分岐管
30:制御回路
40:クーラント予熱装置
100:クーラント供給装置
P1:第1給液ポンプ
P2:第2給液ポンプ
P3:第3給液ポンプ
SE1:第1圧力センサ
SE2:第2圧力センサ
SL:液位センサ
ST:温度センサ
V:開閉弁(三方弁)
V6~V12:バルブ機構
【要約】      (修正有)
【課題】専用の加熱ユニットを設けることなくクーラントタンクに収容されたクーラントの温度を調節することができる工作機械のクーラント予熱装置を提供する。
【解決手段】工作機械のクーラント予熱装置であって、前記工作機械から回収されたクーラントを収容するクーラントタンク(1)と、前記クーラントタンク(1)からクーラントを給液するポンプ(P1)と、前記ポンプ(P1)から吐出されたクーラントを前記工作機械に給液することなく前記クーラントタンク(1)に戻す戻り管(3)と、を備え、前記クーラントタンク(1)から給液し前記ポンプ(P1)で生じる損失熱により予熱したクーラントを、前記戻り管(3)を介して前記クーラントタンク(1)に循環させるように構成されている。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5