(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】新型構造の抗VEGF-抗PD1二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20220404BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220404BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220404BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220404BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K39/395 E
A61K39/395 T
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2021526420
(86)(22)【出願日】2019-08-09
(86)【国際出願番号】 CN2019099989
(87)【国際公開番号】W WO2021026685
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2021-05-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521204585
【氏名又は名称】安徽瀚海博▲シィン▼生物技▲シゥー▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】汪 国▲シィン▼
(72)【発明者】
【氏名】程 ▲リィェン▼▲シァン▼
(72)【発明者】
【氏名】胡 思怡
(72)【発明者】
【氏名】袁 ▲ホァン▼
(72)【発明者】
【氏名】武 ▲ティン▼
(72)【発明者】
【氏名】樊 ▲リィー▼
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105111314(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105175545(CN,A)
【文献】特表2019-506863(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109575140(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00 - 19/00
A61P 35/00
A61P 43/00
A61K 39/395
C12N 15/13
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq、SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
新型構造の抗VEGF-抗PD1二重特異性抗体であって、前記抗体の重鎖可変領域のCDR-H1が、SEQ ID NO:1で表されるアミノ酸配列であり、CDR-H2が、SEQ ID NO:2で表されるアミノ酸配列であり、CDR-H3が、SEQ ID NO:3で表されるアミノ酸配列であり、前記抗体の軽鎖可変領域のCDR-Lが、SEQ ID NO:4で表されるアミノ酸配列であり、前記抗体の重鎖が、SEQ ID NO:9で表されるアミノ酸配列であり、前記抗体の軽鎖が、SEQ ID NO:10で表されるアミノ酸配列であり、
前記CDR-H1、前記CDR-H2、および前記CDR-H3は、N末端からCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3の順で構築されている、新型構造の抗VEGF-抗PD1二重特異性抗体。
【請求項2】
前記抗体の重鎖可変領域のCDR-H1が、SEQ ID NO:5で表されるヌクレオチド配列
でコードされており、CDR-H2が、SEQ ID NO:6で表されるヌクレオチド配列
でコードされており、CDR-H3が、SEQ ID NO:7で表されるヌクレオチド配列
でコードされており、前記抗体の軽鎖可変領域のCDR-Lが、SEQ ID NO:8で表されるヌクレオチド配列
でコードされている請求項1に記載の新型構造の抗VEGF-抗PD1二重特異性抗体。
【請求項3】
前記抗体の重鎖定常領域の配列が、ヒトIgG1の重鎖定常領域配列であり、軽鎖定常領域の配列が、ヒトk抗体の軽鎖定常領域配列である請求項1に記載の新型構造の抗VEGF-抗PD1二重特異性抗体。
【請求項4】
前記抗体の重鎖
をコードするヌクレオチド配列が、SEQ ID NO:11で表される請求項2に記載の新型構造の抗VEGF-抗PD1二重特異性抗体。
【請求項5】
前記抗体の軽鎖
をコードするヌクレオチド配列が、SEQ ID NO:12で表される請求項2に記載の新型構造の抗VEGF-抗PD1二重特異性抗体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体および薬剤的に許容可能なキャリアを含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子免疫学の技術分野に属する新型構造の抗VEGF-抗PD1二重特異性抗体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor, VEGF)、いわゆる血管透過性因子(vascular permeability factor, VPF)は、高度に特異的な血管内皮細胞増殖因子であり、血管透過性増加、細胞外基質変性、血管内皮細胞単層の遊走、増殖、および血管形成等を促進する作用を有する。血管内皮増殖因子は、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、および胎盤増殖因子(placental growth factor, PGF)を含む1つのファミリーである。VEGFは、通常、VEGF-Aである。VEGF-Aは、新生血管の形成を促進して、血管透過性を増加させることができ、VEGF-Bは、非新生血管で形成される腫瘍内で作用し、VEGF-CおよびVEGF-Dは、癌組織の新生血管および新生リンパ管の形成で作用し、VEGF-Eも、潜在的な新生血管形成因子であり、PGFは、新生血管の形成を促進して血管透過性を増加させ、実験的脈絡膜新生血管中のPGFの発現を大幅に増加させる。血管内皮増殖因子と特異的に結合する高親和性受容体を血管内皮増殖因子受容体(vascular endothelial growth factor receptor, VEGFR)と称し、主に、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3の3種類に分けることができる。VEGFR-1およびVEGFR-2は、主に、腫瘍血管内皮表面に分布して、腫瘍血管の生成を調整し、VEGFR-3は、主に、リンパ内皮表面に分布して、腫瘍リンパ管の生成を調整する。VEGFは、高度に保存されたホモ二量体糖タンパク質である。分子量がそれぞれ24kDaの2本の単鎖は、ジスルフィド結合により二量体を形成する。VEGF分解されたモノマーは、不活性であり、N2グリコシル基の除去は、生物効果に対して影響はないが、細胞分泌において作用する可能性がある。mRNAの異なるスプライシング方法により、VEGF121、VEGF145、VEGF165、VEGF185、VEGF206等の少なくとも5種類のタンパク質形式が生成されるが、そのうちVEGF121、VEGF145、VEGF165は、分泌型可溶性タンパク質であり、血管内皮細胞に直接作用して血管内皮細胞の増殖を促進し、血管透過性を増加させることができる。1990年に、米国ハーバード大学のフォークマン(Folkman)博士は、著名なフォークマン理論、すなわち、腫瘍組織の成長は、新生血管生成に依存して十分な酸素と栄養物を提供することにより維持する必要があるという理論を提出し、VEGF臨床応用の基礎とみなされている。VEGFとVEGFRの結合を防ぐモノクローナル抗体は、血管内皮成長因子を抑制することができるため、各種転移性癌の治療に用いる。
【0003】
プログラム死受容体(programmed death 1, PD-1)は、免疫グロブリンスーパーファミリーとして重要な免疫抑制分子であり、268アミノ酸残基の膜タンパク質である。最初は、アポトーシスのマウスT細胞ハイブリドーマ2B4.11からクローニングされた。PD-1をターゲットとする免疫調節は、抗腫瘍、抗感染、抗自己免疫疾患、および臓器移植生存等に対していずれも重要な意義を持つ。そのリガンドPD-L1をターゲットとしてもよく、対応する抗体は、同じ作用をもたらすこともできる。PD-1とPD-L1を結合することによってT細胞のプログラム死が始まるため、腫瘍細胞が免疫逃避を獲得する。PD-1は、少なくとも2つのリガンドを有し、1つはPD-L1であり、1つはPD-L2である;PD-L1は、少なくとも2つのリガンドを有し、1つはPD-1であり、1つはCD80である;PD-L2は、少なくとも2つのリガンドを有し、1つはPD-1であり、1つはRGMBである。PD-L1/L2は、抗原提示細胞においてどちらも発現し、PD-L1は、様々な組織においても発現する。PD-1とPD-L1を結合することによってT細胞活性化の共抑制信号を媒介するため、T細胞活性化および増殖を調整し、CTLA-4に類似する負の調整作用をもたらす。中国系アメリカ人科学者陳列平実験室は、まず、PD-L1が腫瘍組織において高発現し、CD8T細胞の腫瘍浸潤性を調整する機能を発見した。そのため、PD-1/PD-L1をターゲットとする免疫調節は、抗腫瘍に対して重要な意義を持つ。近年、様々な抗PD-1/PD-L1抗体が腫瘍免疫治療の臨床研究において迅速に発展している。現在、ペンブロリズマブ(Pembrolizumab)およびニボルマブ(Nivolumab)が既にFDAによって末期黒色腫への使用に認可されている。ニボルマブは、最近、米国のFDAによって末期扁平上皮非小細胞肺癌の治療にも使用できることが認可された。また、MPDL3280A(抗PD-L1モノクローナル抗体)、アベルマブ(Avelumab)(抗PD-L1モノクローナル抗体)等も既に多くの末期臨床研究に入り、非小細胞癌、黒色腫、膀胱癌等の多くの腫瘍種を含んでいる。PD-1抗体の広い抗腫瘍の展望と驚くべき薬効により、業界は、一般的に、PD-1経路に対する抗体が様々な腫瘍の治療のブレークスルーになり、非小細胞性肺癌、腎細胞癌、卵巣癌、黒色腫、白血病および貧血病等に使用することができると考えている。2012年および2013年の米国癌学会(AACR)総会および米国臨床腫瘍学会(ASCO)総会においてPD-1抗体医薬の臨床薬効データが発表された後、PD-1抗体は、世界の製薬業界において最も勢いのある研究中抗体医薬となっている。
【0004】
二重機能性抗体は、二重特異性抗体であり、抗原に結合した2つのアームが異なる特異性を有する非天然抗体である。二重機能性抗体の構築は、通常、生物学方法および化学クロスリンキング法を採用する。抗体工学および分子生物学技術の発展に伴い、ここ数年で、新しいタイプの二重機能性抗体の構築方法、遺伝子工学法が発展した。遺伝子工学法を採用することにより、様々な機能、様々な用途の二重機能性抗体を構築できるだけでなく、ヒト化二重機能性抗体の構築も実現することができる。新しい二次ターゲティングシステムとして、二重機能性抗体は、臨床治療において潜在的な応用価値を有する。2014年12月3日、米国FDAは、アムジェン(Amgen)社が研究開発した二重特異性抗体ブリンサイト(Blincyto)(ブリナツモマブ(Blinatumomab))の発売を認可し、急性リンパ細胞白血病の治療に使用できるようになった。ブリナツモマブは、CD19、CD3二重特異性抗体であり、ブリンサイト(ブリナツモマブ)は、米国FDAが認可した最初の二重特異性抗体である。現在、開発された二重機能性抗体の形式は、既に40種類以上あることが証明されているが、生産効率が低く、薬物動態学的性能が低い等の問題により、二重特異性抗体の研究は、未だに極めて困難である。
【0005】
中国発明専利出願番号2015106924845.5、専利名称“抗VEGF-抗PD-1二重機能性抗体およびその応用”は、二重機能性抗体がPD1抗体を骨格とし、抗VEGFが単鎖結合して形成された抗VEGF-抗PD-1の二重機能性抗体を提供している。本発明は、この二重機能性抗体を基礎として、構造および配列の最適化を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、安定し、且つ全く新しい抗VEGF-抗PD1二重特異性抗体Ps3Vmを提供することであり、この抗体は、高親和性および高特異性を有し、VEGFとPD1の2種類のターゲットを特異的に識別することができるため、抗体の効果が単一で、複雑な病床に適応させることができない等の既存の欠陥を解決することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の技術方案により実現される。
【0008】
新型構造の抗VEGF-抗PD1二重特異性抗体Ps3Vmであって、前記抗体の重鎖可変領域のCDR-H1が、SEQ ID NO:1で表されるアミノ酸配列であり、CDR-H2が、SEQ ID NO:2で表されるアミノ酸配列であり、CDR-H3が、SEQ ID NO:3で表されるアミノ酸配列であり、前記抗体の軽鎖可変領域のCDR-Lが、SEQ ID NO:4で表されるアミノ酸配列である新型構造の抗VEGF-抗PD1二重特異性抗体Ps3Vm。
【0009】
好ましくは、前記抗体の重鎖可変領域のCDR-H1は、SEQ ID NO:5で表されるヌクレオチド配列であり、CDR-H2は、SEQ ID NO:6で表されるヌクレオチド配列であり、CDR-H3は、SEQ ID NO:7で表されるヌクレオチド配列であり、前記抗体の軽鎖可変領域のCDR-Lは、SEQ ID NO:8で表されるヌクレオチド配列である。
【0010】
好ましくは、前記抗体の重鎖定常領域の配列は、ヒトIgG1の重鎖定常領域配列であり、軽鎖定常領域の配列は、ヒトk抗体の軽鎖定常領域配列である。
【0011】
好ましくは、前記抗体の重鎖アミノ酸配列は、例えば、SEQ ID NO:9で表される。
【0012】
好ましくは、前記抗体の軽鎖アミノ酸配列は、例えば、SEQ ID NO:10で表される。
【0013】
好ましくは、前記抗体の重鎖ヌクレオチド配列は、例えば、SEQ ID NO:11で表される。
【0014】
好ましくは、前記抗体の軽鎖ヌクレオチド配列は、例えば、SEQ ID NO:12で表される。
【0015】
前記抗体および薬剤的に許容可能なキャリアを含む医薬組成物。
【0016】
前記抗体のVEGFとPD1の活性を抑制または中和する医薬の作製における用途。
【0017】
好ましくは、前記VEGFとPD1の活性を抑制または中和する医薬は、癌の治療に使用される。
【発明の効果】
【0018】
二重特異性抗体Ps3Vmは、PD-1およびVEGFタンパク質と有効に結合することができ、且つPDL-1と有効に競合してPD-1タンパク質と結合し、VEGF-Aと有効に競合してVEGFタンパク質と結合することができると同時に、T細胞機能を有効に刺激して、サイトカインIL-2およびIFN-γを分泌させることができるが、アイソタイプコントロール抗体は、T細胞の増殖とIL-2、IFN-γの分泌を促進することができない。また、二重特異性抗体Ps3Vmは、さらに、マウスの腫瘍成長を明らかに抑制することもできるため、最も優れた試験効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】PD-1およびVEGF抗原のSDS-PAGE電気泳動結果図である(そのうち、AはVEGF抗原であり、BはPD-1抗原である)。
【0020】
【
図2】抗PD-1ヒト化抗体PDABの電気泳動検出結果図である。
【0021】
【
図3】抗VEGFヒト化抗体アバスチン(Avastin)の電気泳動検出結果図である。
【0022】
【
図4】二重特異性抗体A3P4の電気泳動検出結果図である。
【0023】
【
図5】二重特異性抗体A3P4のSEC検出結果図である。
【0024】
【
図6】二重特異性抗体Vs3P4のタンパク質構造概略図である。
【0025】
【
図7】二重特異性抗体Vs3P4の電気泳動検出結果図である。
【0026】
【
図8】二重特異性抗体Vs3P4のSEC検出結果図である。
【0027】
【
図9】二重特異性抗体Ps3Vmのタンパク質構造概略図である。
【0028】
【
図10】二重特異性抗体Ps3Vmの電気泳動検出結果図である。
【0029】
【
図11】二重特異性抗体Ps3VmのSEC検出結果図である。
【0030】
【
図12】ELISAで PDAB、A3P4、Vs3P4、Ps3VmとPD1-Hisを比較した時の相対結合活性図である。
【0031】
【
図13】ELISAでアバスチン、A3P4、Vs3P4とrHuVEGFを比較した時の相対結合活性図である。
【0032】
【
図14】競合ELISAでPDAB、A3P4、Vs3P4、Ps3Vm、アバスチンとPD1の結合エピトープの特異性を識別したものである。
【0033】
【
図15】競合ELISAでPDAB、A3P4、Vs3P4、Ps3Vm、アバスチンとVEGFの結合エピトープの特異性を識別したものである。
【0034】
【
図16】ニボルマブ、PDAB、Vs3P4、Ps3Vm、およびIgG1により体外でT細胞を誘導して分泌されたIL-2の量の抗体濃度に伴う変化図である。
【0035】
【
図17】ニボルマブ、PDAB、Vs3P4、Ps3Vm、およびIgG1により体外でT細胞を誘導して分泌されたIFN-γの量の抗体濃度に伴う変化図である。
【0036】
【
図18】予め構築されたマウスモデルの体重の変化図である。
【0037】
【
図19】予め構築されたマウスモデルの腫瘍体積の変化図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明をよりよく理解するために、以下、実施形態と図面を組み合わせて、本発明をさらに詳しく説明するが、以下の実施形態は、単に本発明を説明するためのものであって、限定するためのものではない。以下の実施形態に用いられる材料、試剤、器具、および方法は、特に説明しない場合、いずれも本分野における通常材料、試剤、器具、および方法であって、いずれも商業の経路で得られるものである。
【0039】
実施例1 PD1およびVEGF抗原、抗体の作製
【0040】
1、PD-1抗原の発現ベクターの構築
【0041】
南京キングスレイ(Kingsray)社が合成したヒトのPD-1のcDNAは、遺伝子IDが5133であり、cDNAIDがNM_005018.2である。細胞外領域のPD-1遺伝子を合成した後、精製用のFcタグを追加してPD-1-mFcを取得し、両端にXba IとBam HIの2つの制限酵素スプライス部位を導入して、pTT5発現プラスミドに接続し、シークエンシングにより正確性を検証した。シークエンシング済みのプラスミドをトランス(Trans)10(北京トランスジェンバイオテック(Beijing TransGen Biotech)社より購入)にトランスフェクトして、モノクローンを選び取り、1リットルのLB液体培地を接種した。OD600が1の時に、遠心分離で菌体を収集し、プラスミドマキシプレップキット(キアゲン(Qiagen)社より購入)を用いてプラスミドを抽出した。
【0042】
2、VEGF抗原の発現ベクターの構築
【0043】
遺伝子VEGF(NCBI遺伝子ID:7422)に対応するアミノ酸とマウスIgGのFcタンパク質断片mFc(Ig gamma-2A chain C region)を融合して、VEGF-mFcを取得した。293F細胞発現システムにおけるターゲット遺伝子の発現効率を向上させるため、配列を最適化して、両端にXba IとBam HIの2つの制限酵素スプライス部位を導入し、pTT5発現プラスミドに接続して、シークエンシングにより正確性を検証した。シークエンシング済みのプラスミドをトランス10(北京トランスジェンバイオテック社より購入)にトランスフェクトして、モノクローンを選び取り、1リットルのLB液体培地を接種した。OD600が1の時に、遠心分離で菌体を収集し、プラスミドマキシプレップキット(キアゲン社より購入)を用いてプラスミドを抽出した。
【0044】
3、PD-1およびVEGF抗原の発現および精製
【0045】
シークエンシングにより検証した正確な発現ベクターを293F細胞(インビトロジェン(Invitrogen)社から購入)にトランスフェクトして、37度、5%のCO
2、130rpm/分で7日間培養した後、遠心分離で上清を収集した。上清を4000rpmで10分遠心分離してから、0.45μmの濾過膜でフィルタリングし、濾液に400mMのNaClを追加して、pHを8.0に調整した。サンプルを0.2μmの濾過膜で再度フィルタリングした後、サンプルをPBS(137mMのNaCl、2.7mMのKCl、10mMのNa
2HPO
4、2mMのKH
2PO
4、pH7.4)で平衡化した5mLのハイトラップ(HiTrap)プロテインAカラムに負荷した。サンプルを負荷した後、PBSを用いて流速5mL/分で洗浄した。紫外線モニタは、標準レベルであった。バッファー(Buffer)B(1Mグリシン(Glycine)、pH3.5)を流速1mL/分で溶出し、ピークの流出液を収集してトリス(Tris)でpH7.5まで中和し、SDS-PAGE検出を行った。SDS-PAGE電気泳動結果は、
図1に示した通りである。限外濾過濃縮管でピークの溶出液を濃縮してPBS中に液体交換することにより、抗原を得た。
【0046】
4、抗PD1ヒト化抗体の構築
【0047】
(1)抗原免疫したマウスおよびハイブリドーマスクリーニング
【0048】
本実験において、8週齢の雌のBALB/cマウスを3匹選択し、腹腔内注射法により、PD-1細胞外領域抗原とフロインドのコンプリートアジュバントの混合を用いてマウスを毎週1回、計3回免疫した。最後の免疫後、1週間マウスの血清力価を測定し、条件を満たして力価が8Kよりも大きくなった後、免疫を1回補強した。結果に示されているように、3匹のマウス全てが力価を満たしている(ネガティブコントロールの2倍よりも大きく、且つ0.25よりも大きいOD450値に対応する希釈価が抗体の力価であり、力価が8K以上であれば要件を満たす)。3日後、マウスを安楽死処分して、マウスの脾臓を取り出し、粉砕後、脾臓細胞集団を得た。マウスの血清力価のELISA検出結果は、表1に示した通りである。
【0049】
【0050】
フローサイトメトリー(fluorescence-activated cell sorting, FACS)を利用して抗ヒトPD-1抗体のB細胞をスクリーニングし、RPMI1640培地に置いて、骨髄腫細胞(SP2/0)を加えて均一に混合し、50%PEG溶液を用いて細胞融合を行った。融合した後の細胞を適切に希釈して、複数の96ウェル細胞培養プレートに分けて培養し、HAT選択培地を加えて、融合されていないB細胞と骨髄腫細胞を死なせ、ハイブリドーマ細胞を得た。2週間培養した後、96ウェルプレート細胞培養の上清を収集して、PD-1抗原を被覆した96ウェルマイクロプレートと1時間結合させ、抗マウス/HRP二次抗体を加えて1時間インキュベーションした。最後に、TMB発色試薬を加えて10分間反応させ、マイクロプレートリーダーで450nmの光吸収値を測定し、PD-1と結合活性を有するハイブリドーマ細胞を選別した(一次スクリーニング:12枚の96ウェルプレート、OD値≧0.5のウェル数42個を得た)。続いて、フローサイトメトリー(FACS)を行ってスクリーニングし、PD-1/PD-L1遮断活性を有するハイブリドーマ細胞を選別した。そして、限界希釈法によりサブクローニングして、限界希釈した細胞を96ウェルプレートで培養し、クローンが全ウェルの1/6まで成長した時に、モノクローンおよびポリクローンを標識して、モノクローンに対してELISA検出を行った。検出した後、OD値が最も高いモノクローンを限界希釈して96ウェルプレートに入れ、上述したように、再度サブクローニングを行った。このプロセスを陽性ウェル率が100%になるまで数回繰り返して、株の構築が成功したら、最後に、抗PD-1マウスモノクローナル抗体細胞株を得た。限界希釈法によるサブクローニング結果は、表2に示した通りであり、親和性の識別結果は、表3に示した通りである。
【0051】
【0052】
【0053】
(2)抗PD-1マウス抗体可変領域遺伝子の検索
【0054】
抗PD-1ハイブリドーマクローンを選択して、トリゾール(Trizol)法により全RNAを抽出し、抗体サブタイプ(アイソタイプ(Isotype))特異的プライマーまたはユニバーサルプライマーを用いて逆転写PCRを行って、それぞれ抗体軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)の遺伝子を増幅した。続いて、クローニングベクターに接続して、DNA配列解析を行った。最後に、完全なVLおよびVHのDNA配列を取得して、対応するアミノ酸配列に翻訳した。抗PD-1マウス抗体の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:13-14であり、そのうち、重鎖可変領域のCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3アミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:15-17であり、軽鎖可変領域のCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3 アミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:18-20である。
【0055】
(3)抗PD-1マウスモノクローナル抗体の可変領域遺伝子のヒト化改造
【0056】
(a)重鎖のヒト化
【0057】
まず、IgBlast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast)を使用して、マウスPD-1抗体のVH遺伝子と相同性の高いヒト生殖系列遺伝子(germline gene)を分析した。その結果、重鎖IGHV3-23がアミノ酸レベルで83%の相同性を有することを示したため、重鎖可変領域候補遺伝子のテンプレートとして選択した。マウスPD-1抗体のCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3をカバット(Kabat)番号付け規則に基づいて番号付し、対応するCDR領域のアミノ酸配列をIGHV3-23のフレームワーク領域に導入した。フレームワーク領域のアミノ酸No.49(S->T)およびNo.78(T->N)をマウスPD-1抗体の最初の配列に変異させた。その後、重鎖CDR H1 No.33(G->D)およびH2 No.56(S->R)を追加で変異させることにより、重鎖可変領域のヒト化を完了した。抗PD-1ヒト化抗体の重鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:21であり、そのうち、重鎖可変領域のCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3アミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:22-24である。
【0058】
(b)軽鎖のヒト化
【0059】
まず、IgBlast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast)を使用して、マウスPD-1抗体のVL遺伝子と相同性の高いヒト生殖系列遺伝子を分析した。その結果、軽鎖IGKV1-16がアミノ酸レベルで86%の相同性を有することを示したため、軽鎖可変領域候補遺伝子のテンプレートとして選択した。マウスPD-1抗体のCDL-H1、CDL-H2、およびCDL-H3をカバット番号付け規則に基づいて番号付し、対応するCDR領域のアミノ酸配列をIGKV1-16のフレームワーク領域に導入した。フレームワーク領域のアミノ酸No.83(F->M)をマウスPD-1抗体の最初の配列に変異させた。その後、軽鎖CDR L1 No.31(S->T)およびNo.34(S->A)、L2 No.56(D->L)を追加で変異させることにより、軽鎖可変領域のヒト化を完了した。抗PD-1ヒト化抗体の軽鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:25であり、そのうち、軽鎖可変領域のCDR-L1、CDL-H2、およびCDR-L3アミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:26-28である。
【0060】
(4)抗PD-1ヒト化抗体の親和性成熟
【0061】
抗PD-1ヒト化抗体の5つのCDR領域(L1、L3、H1、H2、およびH3)に対して、それぞれ変異体ライブラリーを設計し、変異点は、全てのCDR領域の非保存部位を含んだ。SOE-PCR反応により単鎖抗体(scFv)遺伝子を取得し、DNAゲル回収および酵素消化を行った後、酵素消化したpCANTAB-5Eファージディスプレイベクターと接続させて、TG1コンピテント細菌を電気形質転換し、5つのCDR変異を含む単鎖抗体ライブラリーを得た。M13KO7ヘルパーファージを感染させることにより、組換えファージを作製して、水簸を計3回行い、結合能力の強い抗体変異体を保留して濃縮した。水簸を行う度に、それぞれ組換えファージとビオチン標識組換えヒトPD-1抗原を2時間結合させてから、ストレプトアビジン磁気ビーズを追加して30分結合させた。続けて、2%のTPBS、1%のTPBS、およびPBSを用いて毎回5分、5回洗浄して、水簸を行った後すぐにTG1細胞を感染させ、次の組換えファージの作製に使用した。3回水簸を行った後に濃縮したTG1モノクローンを選び取り、組換えファージの上清を作製して、1μg/mLのPD-1抗原を被覆した96ウェルマイクロプレートと1時間結合させ、M13/HRP二次抗体を加えて1時間インキュベーションした。最後に、OPDを加えて10分間発色反応を行い、マイクロプレートリーダーで490nmの光吸収値を測定した。データを分析した後、抗体含有変異体の相対的親和性を計算し、それぞれL3、H1、H3変異体ライブラリーから、親和性が大幅に向上した3個、6個、5個のクローンをフィルタリングした。最後に、H3変異体ライブラリーから親和性の最も高い1つのクローンPDABを選択して、次の研究を進めた。電気泳動結果は、
図2に示した通りである。
【0062】
5、抗VEGFヒト化抗体の構築
【0063】
本実験で使用した抗VEGFヒト化抗体は、ロシュ(Roche)(ジェネンテック(Genentech)) 社が2004年に発売したベバシズマブ(Bevacizumab)(アバスチン(Avastin))であり、専利ウェブサイト等に公開されているタンパク質配列ウェブサイトから抗体配列(CN101210051A)を得た。VEGF抗体の軽鎖および重鎖cDNAを人為的に合成し、合成したcDNAをそれぞれpTT5プラスミドにクローニングして、シークエンシングによりプラスミド構築の正確性を確定した。シークエンシング済みのプラスミドをトランス10(北京トランスジェンバイオテック社より購入)にトランスフェクトして、モノクローンを選び取り、1リットルのLB液体培地を接種した。OD
600が1の時に、遠心分離で菌体を収集し、プラスミドマキシプレップキット(キアゲン社より購入)を用いてプラスミドを抽出した。シークエンシングにより識別した正確なVEGF重鎖発現ベクターおよび軽鎖発現ベクター(1:1)を293F細胞に共トランスフェクトして、37度、5%のCO
2、130rpm/分で7日間培養した後、遠心分離で上清を収集した。上清を4000rpmで10分遠心分離し、0.45μmの濾過膜でフィルタリングして、濾液に400mMのNaClを加え、pHを8.0に調整した。サンプルを0.2μmの濾過膜で再度フィルタリングした後、サンプルをPBS(137mMのNaCl、2.7mMのKCl、10mMのNa
2HPO
4、2mMのKH
2PO
4、pH7.4)で平衡化した5mLのハイトラップ・マブセレクト(HiTrap MabSelect)カラム(GE社より購入)に負荷した。サンプルを負荷した後、PBSを用いて流速5mL/分で洗浄した。紫外線モニタは、標準レベルであった。バッファーB(1Mグリシン、pH3.5)を流速1mL/分で溶出して、流出ピークを収集してトリスでpH7.5まで中和し、SDS-PAGE検出を行った。SDS-PAGE非還元電気泳動結果は、
図3に示した通りである。限外濾過濃縮管で溶出ピークを濃縮して、PBSの中に液体交換することにより、抗体VEGFタンパク質を得た。
【0064】
実施例2 候補二重特異性抗体の作製
【0065】
1、scFv-VEGF-リンカー-PD1-H鎖構造の二重特異性抗体(A3P4)の作製
【0066】
抗VEGFヒト化抗体が既にあることを基礎として、重鎖および軽鎖可変領域遺伝子を抽出し、ペプチドで接続して一本鎖抗体scFv-VEGFを形成した。scFv-VEGFを抗PD1抗体重鎖のN端にクローニングし、scFv-VEGF-リンカー-PD1-H鎖構造の二重特異性抗体を構築した。この重鎖発現ベクターと抗PD1抗体の軽鎖発現ベクターを293F細胞に共トランスフェクトして、上清を収集し、浄化した。SDS-PAGEで分子量と純度を識別し(
図4)、SECでこの配列の抗体二量体が比較的多いことを検出した(
図5)。
【0067】
2、dsFv-VEGF-リンカー-PD1-H鎖構造の二重特異性抗体(Vs3P4)の作製
【0068】
最初の実験を基礎として、新たな構造を再設計する。抗VEGFヒト化抗体の重鎖および軽鎖可変領域遺伝子を抽出し、VH44cysおよびVL100cys変異を行い(鎖間ジスルフィド結合を増やして凝集を改善した)、ペプチド鎖で接続して一本鎖抗体dsFv-VEGFを形成した。dsFv-VEGFを抗PD1抗体重鎖のN端にクローニングし、dsFv-VEGF-リンカー-PD1-H鎖構造の二重特異性抗体を構築した(
図6)。この重鎖発現ベクターと抗PD1抗体の軽鎖発現ベクターを293F細胞に共トランスフェクトして、上清を収集し、浄化した。SDS-PAGEで分子量と純度を識別し(
図7)、SEC検出を行った(
図8)。
【0069】
3、dsFv-PD1-リンカー-VEGF-H鎖構造の二重特異性抗体(Ps3Vm)の作製
【0070】
3回目の構造最適化設計は、抗PD1ヒト化抗体が既にあることを基礎として、重鎖および軽鎖可変領域遺伝子を抽出し、VH44cysおよびVL100cys変異を行い(鎖間ジスルフィド結合を増やして凝集を改善した)、ペプチド鎖で接続して一本鎖抗体dsFv-PD1を形成した。dsFv-PD1を抗VEGF抗体重鎖のN端にクローニングし、dsFv-PD1-リンカー-VEGF-H鎖構造の二重特異性抗体を構築した(
図9)。この重鎖発現ベクターと抗VEGF抗体の軽鎖発現ベクターを293F細胞に共トランスフェクトして、上清を収集し、浄化した。SDS-PAGEで分子量と純度を識別し(
図10)、SEC検出を行った(
図11)。Ps3Vm抗体の重鎖アミノ酸およびヌクレオチド配列は、それぞれSEQ ID NO:9およびSEQ ID NO:11であり、重鎖可変領域のCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3のアミノ酸およびヌクレオチド配列は、それぞれSEQ ID NO:1-3およびSEQ ID NO:5-7であり、Ps3Vm抗体の軽鎖アミノ酸およびヌクレオチド配列は、それぞれSEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:12であり、軽鎖可変領域のCDR-Lのアミノ酸およびヌクレオチド配列は、それぞれSEQ ID NO:4およびSEQ ID NO:8である。
【0071】
実施例3 二重特異性抗体の親和性の測定
【0072】
1、二重特異性抗体とPD-1の親和性
【0073】
PD-1-mFcでマイクロプレートをコーティングして、1%のBSAでブロッキングし、異なる濃度の抗体PDAB、A3P4、Vs3P4、Ps3Vmをマイクロプレートに追加して、37℃でインキュベーションした後、酵素標識二次抗体を追加して、37℃で30分インキュベーションした。マイクロプレートリーダーで450nmの光吸収値を測定した。抗体PDAB、A3P4、Vs3P4、Ps3Vmと抗原PD-1の結合結果が明示しているように、抗体PDAB、A3P4、Vs3P4、Ps3Vmは、いずれもPD-1タンパク質と有効に結合し、その結合効率は、用量反応関係を表した。結果は、
図12および表4に示した通りである。
【0074】
【0075】
2、二重特異性抗体とVEGFの親和性
【0076】
VEGF-mFcでマイクロプレートをコーティングして、1%のBSAでブロッキングし、異なる濃度の抗体アバスチン、A3P4、Vs3P4、Ps3Vmをマイクロプレートに追加して、37℃でインキュベーションした後、酵素標識二次抗体を追加して、37℃で30分インキュベーションした。マイクロプレートリーダーで450nmの光吸収値を測定した。抗体アバスチン、A3P4、Vs3P4、Ps3VmとVEGFの結合結果が明示しているように、抗体アバスチン、A3P4、Vs3P4、Ps3Vmは、いずれもVEGFタンパク質と有効に結合し、その結合効率は、用量反応関係を表した。結果は、
図13および表5に示した通りである。
【0077】
【0078】
実施例4 二重特異性抗体の特異性の測定
【0079】
1、二重特異性抗体のPD-1に対する特異性
【0080】
PD-1-mFcでマイクロプレートをコーティングして、1%のBSAでブロッキングし、異なる濃度の抗体PDAB、A3P4、Vs3P4、Ps3Vm、アバスチンとPDL-1-hFcを混合して、37℃でインキュベーションした後、酵素標識二次抗体を追加して、37℃で30分インキュベーションした。マイクロプレートリーダーで450nmの光吸収値を測定した。抗体PDAB、A3P4、Vs3P4、Ps3Vm、アバスチンと抗原PD-1の結合結果が明示しているように、抗体PDAB、A3P4、Vs3P4、Ps3Vm、アバスチンは、いずれもPD-1と有効に競合してPD-1タンパク質と結合し、その結合効率は、用量反応関係を表した。結果は、
図14に示した通りである。
【0081】
2、二重特異性抗体のVEGFに対する特異性
【0082】
VEGF-mFcでマイクロプレートをコーティングして、1%のBSAでブロッキングし、異なる濃度の抗体アバスチン、A3P4、Vs3P4、Ps3Vm、PDABとVEGF-A-hFcを混合して、37℃でインキュベーションした後、酵素標識二次抗体を追加して、37℃で30分インキュベーションした。マイクロプレートリーダーで450nmの光吸収値を測定した。抗体アバスチン、A3P4、Vs3P4、Ps3Vm、PDABとVEGFの結合結果が明示しているように、抗体アバスチン、A3P4、Vs3P4、Ps3Vm、PDABは、いずれもVEGF-Aタンパク質と有効に競合してVEGFタンパク質と結合し、その結合効率は、用量反応関係を表した。結果は、
図15に示した通りである。
【0083】
実施例5 候補二重特異性抗体がT細胞を体外誘導してIL-2を分泌する
【0084】
フィコール(Ficoll)遠心分離法(GE社より購入)およびCD4+T細胞濃縮カラム(R&Dシステムズ(R&D Systems)社より購入)により、新鮮なPBMCを作製し、ヒトT細胞を精製した。細胞を96ウェル平底プレートに載せて、一晩培養した後、0.0096、0.048、0.24、1.2、6、および30μg/mLの6種類の異なる濃度の抗体NIVO、PDAB、Vs3P4、Ps3Vmを加えて、同じ6種類の濃度のアイソタイプコントロール抗体IgG1をネガティブコントロールとして追加し、3日間培養した後、上清液を収集して、ルミネックス(Luminex)装置(ライフテクノロジー(LifeTechnology)社より購入)およびサイトカインIL-2検出キット(BDバイオサイエンス(BD Biosciences)社より購入)で上清IL-2の分泌レベルを測定した。その結果、
図16に示した通り、二重特異性抗体Vs3P4およびPs3Vmは、いずれもT細胞の機能を有効に刺激してサイトカインIL-2を分泌することができ、且つ抗体濃度と関連していたが、アイソタイプコントロール抗体は、T細胞の増大およびIL-2の分泌を促進することができなかった。
【0085】
実施例6 候補二重特異性抗体がT細胞を体外誘導してIFN-γを分泌する
【0086】
フィコール遠心分離法(GE社より購入)およびCD4+T細胞濃縮カラム(R&Dシステムズ社より購入)により、新鮮なPBMCを作製し、ヒトT細胞を精製した。ミルテニー(Miltenyi)CD14単球精製キットを使用して単球を精製し、単球とGM-CSFおよびIL-4(ペプロテク(PeproTech)社より購入)を7日間一緒に培養して、DC細胞を生成した。細胞を96ウェル平底プレートに載せて、一晩培養した後、各培養物は、総体積200μL中、10e5個の生成されたT細胞および10e4個の樹状細胞を含んでいた。0.0096、0.048、0.24、1.2、6、および30μg/mLの6種類の異なる濃度の抗体NIVO、PDAB、Vs3P4、Ps3Vmを加えて、6種類の濃度のアイソタイプコントロール抗体IgG1をネガティブコントロールとして追加した。細胞を37℃で5日間培養した後、各培養物から100μLの培地を取り出して、サイトカインIFN-γの測定に使用した。OptEIA ELISAキット(BDバイオサイエンス社より購入)を用いてIFN-γのレベルを測定した。その結果、
図17に示した通り、二重特異性抗体Vs3P4およびPs3Vmは、いずれもT細胞の機能を有効に刺激してサイトカインIFN-γを分泌することができ、且つ濃度と関連していたが、アイソタイプコントロール抗体は、T細胞の増大およびIFN-γの分泌を促進することができなかった。
【0087】
実施例7 候補二重特異性抗体がマウスの腫瘍成長を抑制する
【0088】
1、マウスモデルを予め構築し、実験に適合するPBMC細胞を選択する
【0089】
本実験が採用するPBMC細胞、ヒト結腸癌Colo-205細胞、B-NDGマウスは、いずれも市場で一般的に入手できる種類である。
【0090】
中国科学院から購入したヒト結腸癌Colo-205細胞を6.0*107以上になるまで培養し、バイオサイトジェン(Biocytogen)社から購入したB-NDGマウス(それぞれ2.0*106個の細胞、計30匹のマウス)を皮下接種した。マウスは正常に給餌され、腫瘍が100mm3の大きさになった時に、購入先の異なるヒトPBMC細胞をバイオサイトジェン社から購入したB-NDG重度免疫不全マウスの体内にそれぞれ1*107腹腔内注射し、腫瘍が順調に形成されるまで、腫瘍の成長状況を観察した(10グループのPBMC細胞を選択し、各グループを3匹のマウスに注射して、平行実験を行った)。
【0091】
実験結果は、表6および
図18、19に示した通りである(図表中は、いずれも平均数である)。
【0092】
【0093】
2、選択したPBMC細胞を用いて動物モデルを構築する
【0094】
マッチングに成功したPBMC細胞(G1、G2、G8、G10)を選択して、バイオサイトジェン社から購入したB-NDG-b2mのMHCをノックアウトした重度免疫不全マウスの体内に注射し(それぞれ1*107個の細胞)、同時に、ヒト結腸癌Colo-205細胞を皮下接種して、腫瘍が順調に形成されるかどうかを観察した。これは、予備実験であり、8匹のマウスのみに接種および注射し(2組の平行実験を行い)、腫瘍性を観察した。順調に腫瘍を形成したPBMC細胞を選択して、次の段階の実験を行った。
【0095】
腫瘍体積の変化は、表7に示した通りである(表中は、いずれも平均数である):Tumor Volume (mm3)
【0096】
【0097】
3、実験用動物モデルの構築
【0098】
上述したPBMC細胞(G10)を選択して、バイオサイトジェン社から購入したB-NDG-b2mのMHCをノックアウトした重度免疫不全マウスの体内に注射し(それぞれ1*107個の細胞、計4グループ、各グループに6匹のマウス)、同時に、ヒト結腸癌Colo-205細胞を皮下接種して、腫瘍が順調に形成されるかどうかを観察した。腫瘍の成長状況に基づいて、マウスを4つのグループ、ネガティブコントロールグループ(生理食塩水を腹腔内注射)、Vs3P4グループ(Vs3P4抗体3mg/kgを尾静脈注射)、Ps3Vmグループ(Ps3Vm抗体3mg/kgを尾静脈注射)、ポジティブコントロールグループベバシズマブ(3mg/kgを尾静脈注射)に無作為に分けた。3日に1回、計21日投薬を行った。腫瘍体積の変化は、表8に示した通りである:Tumor Volume (mm3)
【0099】
【0100】
本発明は、3種類の異なる構造の抗VEGF-抗PD1二重特異性抗体の試験を行い、分子、細胞、動物レベルから、それぞれ抗体効果を検証した。結果に示されているように、二重特異性抗体Ps3Vm(VEGFを骨格とし、dsFv-PD1モノマーを挿入した)が最も優れた試験効果を有し、PD-1およびVEGFタンパク質と有効に結合することができ、且つPDL-1と有効に競合してPD-1タンパク質と結合し、VEGF-Aと競合してVEGFタンパク質と結合することができると同時に、T細胞機能を有効に刺激して、サイトカインIL-2およびIFN-γを分泌させることができたが、アイソタイプコントロール抗体は、T細胞の増殖とIL-2、IFN-γの分泌を促進することができなかった。また、二重特異性抗体Ps3Vmは、さらに、マウスの腫瘍成長を明らかに抑制することができた。
【0101】
以上のごとく、この発明を実施形態により開示したが、この発明を限定する意図はない。当業者であれば容易に理解できるように、この発明の精神および範囲から逸脱しなければ、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲を基準として定めなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明が設計する二重特異性抗体Ps3Vmは、PD-1およびVEGFタンパク質と有効に結合することができ、且つPDL-1と有効に競合してPD-1タンパク質と結合し、VEGF-Aと有効に競合してVEGFタンパク質と結合することができると同時に、T細胞機能を有効に刺激して、サイトカインIL-2およびIFN-γを分泌させることができるが、アイソタイプコントロール抗体は、T細胞の増殖とIL-2、IFN-γの分泌を促進することができない。また、二重特異性抗体Ps3Vmは、さらに、マウスの腫瘍成長を明らかに抑制することもできるため、最も優れた試験効果を有し、産業上の利用性を有する。
【配列表】