(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】樹脂組成物および流動性改善方法
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20220404BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20220404BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20220404BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20220404BHJP
C07C 233/01 20060101ALI20220404BHJP
C07D 295/192 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K7/04
C08K5/20
C09K3/00 103P
C07C233/01 CSP
C07D295/192
(21)【出願番号】P 2022503114
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2020047700
(87)【国際公開番号】W WO2021171756
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2020034017
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】大内 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】亀井 慎一
(72)【発明者】
【氏名】立川 友晴
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智也
(72)【発明者】
【氏名】片倉 陽加
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/026250(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/139826(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/168108(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C07C233/01
C09D295/192
C09K3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
[式中、R
1は
炭化水素基を示し、kは0~8の整数を示し、
R
2a、R
2b、R
2cおよびR
2dはそれぞれ独立して水素原子または
炭化水素基を示し、
R
3aおよびR
3bはそれぞれ独立して水素原子または
炭化水素基を示し、
X
1aおよびX
1bはそれぞれ独立して下記式(X1)
【化2】
(式中、R
4およびR
5は、それぞれ独立して水素原子もしくは炭化水素基を示すか、R
4とR
5とが互いに結合して隣接する窒素原子とともに形成する複素環を示す。)
で表される基を示す。]
で表される化合物と、ポリアミド系樹脂とを含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記式(1)において、R
4およびR
5が水素原子である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド系樹脂が、脂肪族ポリアミド樹脂である請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物と前記ポリアミド系樹脂との割合が、前者/後者(質量比)=1/99~10/90である請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、繊維状補強材を含む請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項6】
繊維状補強材が無機繊維である請求項5記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記式(1)で表される化合物の割合が、繊維状補強材100質量部に対して、0.5~100質量部である請求項5記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1記載の式(1)で表される化合物をポリアミド系樹脂に添加して、ポリアミド系樹脂の流動性を向上する方法。
【請求項9】
ポリアミド系樹脂の流動性を改善するための流動性改善剤であって、請求項1記載の式(1)で表される化合物からなる流動性改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリアミド系樹脂組成物と、その流動性の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレン誘導体は、その独特な化学構造に基づく優れた特徴を活かし、有機半導体や光学部材などを形成するための材料などとして様々な分野に展開されており、通常、フルオレン誘導体をモノマー成分とした樹脂として利用されることが多い。米国特許第2299948号明細書(特許文献1)には、合成樹脂を調製するための中間体として、下記式で表される9,9-ジ-(β-カルバモイル-エチル)フルオレンが有用であることが記載されている。
【0003】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の実施例では、9,9-ジ-(β-シアノエチル)フルオレンと硫酸とを所定の条件下で反応させて、上記9,9-ジ-(β-カルバモイル-エチル)フルオレンが調製されている。
【0006】
しかし、9,9-ジ-(β-カルバモイル-エチル)フルオレンをポリアミド系樹脂の性質、とりわけ溶融流動性を改善するための添加剤として利用することについては知られておらず、特許文献1においても何らの記載も示唆もない。
【0007】
従って、本開示の目的は、流動性に優れたポリアミド系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の化学構造を有するフルオレン誘導体をポリアミド系樹脂に添加すると、流動性を大きく向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本開示の樹脂組成物は、下記式(1)で表される化合物(フルオレン誘導体)と、ポリアミド系樹脂とを含んでいる。
【0010】
【0011】
[式中、R1は置換基を示し、kは0~8の整数を示し、
R2a、R2b、R2cおよびR2dはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
R3aおよびR3bはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
X1aおよびX1bはそれぞれ独立して下記式(X1)で表される基を示す
【0012】
【0013】
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子もしくは炭化水素基を示すか、R4とR5とが互いに結合して隣接する窒素原子とともに形成する複素環を示す)]。
【0014】
前記式(1)において、R2aおよびR2bが水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、R2cおよびR2dが水素原子であり、
R3aおよびR3bが水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、
R4およびR5が、水素原子もしくはアルキル基であるか、または、R4とR5とが互いに結合して形成する複素環が、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子をさらに含んでいてもよい5~7員複素環であってもよい。
【0015】
前記式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子であり、
R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基であり、
R4およびR5が、水素原子もしくはC1-6アルキル基であるか、または、R4とR5とが互いに結合して形成する複素環が、ピロリジン環、ピペリジン環、ホモピペリジン環またはモルホリン環であってもよい。
【0016】
前記式(1)において、R4およびR5は水素原子であってもよい。
【0017】
前記ポリアミド系樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂であってもよい。また、前記ポリアミド系樹脂を形成するモノマーは、炭素数が4~12のアルキレン基を有する脂肪族モノマーを含んでいてもよい。前記樹脂組成物において、前記式(1)で表される化合物と前記ポリアミド系樹脂との割合は、前者/後者(質量比)=1/99~10/90程度であってもよい。
【0018】
前記樹脂組成物は、さらに、繊維状補強材を含んでいてもよい。前記繊維状補強材は無機繊維であってもよい。前記式(1)で表される化合物の割合は、繊維状補強材100質量部に対して、0.5~100質量部程度であってもよい。
【0019】
また、本開示は、前記式(1)で表される化合物をポリアミド系樹脂に添加して、ポリアミド系樹脂の流動性を向上する方法、および前記式(1)で表される化合物からなる流動性改善剤を包含する。
【0020】
なお、本明細書および請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC1、C6、C10などで示すことがある。例えば、炭素数が1のアルキル基は「C1アルキル」で示し、炭素数が6~10のアリール基は「C6-10アリール」で示す。
【発明の効果】
【0021】
本開示の樹脂組成物は、特定の化学構造を有するフルオレン誘導体と、ポリアミド系樹脂とを含むため、流動性(とりわけ、溶融流動性)に優れている。しかも、曲げ強さ、曲げ弾性率、引張強さ、引張弾性率などの機械的強度と流動性とを高いレベルでバランスよく両立した樹脂組成物を調製できる。また、本開示によれば、前記フルオレン誘導体を用いたポリアミド系樹脂の溶融流動性などの流動性を改善する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、合成例1で得られたDEAA-FLの
1H-NMRスペクトルである。
【
図2】
図2は、合成例2で得られたDMAA-FLの
1H-NMRスペクトルである。
【
図3】
図3は、合成例3で得られたNIPAM-FLの
1H-NMRスペクトルである。
【
図4】
図4は、合成例4で得られたAAD-FLの
1H-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[フルオレン誘導体]
本開示において、流動性改善剤(溶融流動性改善剤)として機能するフルオレン誘導体は、下記式(1)で表される化合物である。
【0024】
【0025】
[式中、R1は置換基を示し、kは0~8の整数を示し、
R2a、R2b、R2cおよびR2dはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
R3aおよびR3bはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
X1aおよびX1bはそれぞれ独立して下記式(X1)で表される基を示す
【0026】
【0027】
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子もしくは炭化水素基を示すか、または、R4とR5とが互いに結合して隣接する窒素原子とともに形成する複素環を示す)]。
【0028】
前記式(1)において、基R1としては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;アルキル基、アリール基などの炭化水素基などが挙げられる。前記アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。好ましい基R1としては、シアノ基、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、特にアルキル基である。
【0029】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などのC1-12アルキル基、好ましくはC1-8アルキル基、特にメチル基などのC1-4アルキル基が挙げられる。
【0030】
なお、基R1の置換数kが複数(2以上)である場合、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環のうち、同一のベンゼン環に置換する2以上の基R1の種類は、同一または異なっていてもよく、異なるベンゼン環に置換する2以上の基R1の種類は同一または異なっていてもよい。また、基R1の結合位置(置換位置)は、フルオレン環の1~8位である限り特に制限されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2,7位などが挙げられる。
【0031】
置換数kは、例えば0~6程度の整数であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~4、0~3、0~2の整数であり、さらに好ましくは0または1、特に0である。なお、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環において、基R1のそれぞれの置換数は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0032】
R2a、R2b、R2cおよびR2dで表される置換基としては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基などが挙げられる。
【0033】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基である。
【0034】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が挙げられる。
【0035】
アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。
【0036】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基が挙げられる。
【0037】
R2a、R2b、R2cおよびR2dで表される好ましい置換基としてはアルキル基が挙げられ、好ましいアルキル基としては、以下段階的に、C1-6アルキル基、C1-5アルキル基、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基であり、さらに好ましくはC1-2アルキル基であり、特にメチル基である。
【0038】
好ましいR2a、R2b、R2c、R2dとしては水素原子または炭化水素基であり、より好ましくは水素原子またはアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子である。なお、少なくともR2cおよびR2dが水素原子であるのが好ましく、このような態様における好ましいR2aおよびR2bは水素原子または炭化水素基であり、さらに好ましくは水素原子またはアルキル基であり、特に水素原子(すなわち、R2a、R2b、R2cおよびR2dがいずれも水素原子)であるのが好ましい。
【0039】
また、R2a、R2b、R2c、R2dの種類は、互いに異なっていてもよいが、R2aおよびR2bが同一であり、R2cおよびR2dが同一であるのが好ましい。
【0040】
R3aおよびR3bで表される置換基としては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基などが挙げられる。これらの炭化水素基としては、例えば、前記R2aおよびR2bで表される置換基として例示した炭化水素基と同様の基が挙げられる。
【0041】
R3aおよびR3bで表される置換基のうち、好ましい置換基はアルキル基であり、好ましいアルキル基としては、以下段階的に、C1-6アルキル基、C1-5アルキル基、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基であり、さらに好ましくはC1-2アルキル基であり、特にメチル基である。
【0042】
また、好ましいR3aおよびR3bとしては、水素原子またはアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子またはメチル基であり、特に水素原子が好ましい。
【0043】
X1aおよびX1b(または式(X1))において、R4およびR5で表される炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、これらを複数組み合わせた基などが挙げられる。
【0044】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-12アルキル基などが挙げられる。
【0045】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基などが挙げられる。
【0046】
アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。
【0047】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基が挙げられる。
【0048】
R4およびR5で表される炭化水素基のうち、好ましくは直鎖状または分岐鎖状アルキル基であり、さらに好ましくは、以下段階的に、直鎖状または分岐鎖状C1-8アルキル基、直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基であり、なかでも、メチル基、エチル基、イソプロピル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基が好ましく、樹脂に対する分散性(または相溶性)がより優れる点からは、直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキル基が好ましく、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキル基である。R4およびR5の双方が炭化水素基である場合、R4およびR5の種類は互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0049】
また、R4とR5とが互いに結合して隣接する窒素原子とともに形成してもよい複素環(N含有複素環)は、ヘテロ原子として前記窒素原子(すなわち、R4、R5およびカルボニル基と結合してアミド基(アミド結合またはカルボン酸アミド)を形成する窒素原子)を含んでいればよく、必要に応じて、前記窒素原子に加えて、さらに1以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。さらに含んでいてもよいヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などが挙げられ、これらから選択された少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよく、少なくとも酸素原子を含むのが好ましい。前記複素環を構成するヘテロ原子の数は、例えば1~3個程度であってもよく、好ましくは1~2個であり、さらに好ましくは2個である。前記複素環は、例えば5~7員環(5~7員複素環)であることが多く、好ましくは5または6員環であり、さらに好ましくは6員環である。また、前記複素環は、芳香族性であってもよいが、非芳香族性であるのが好ましい。
【0050】
代表的な複素環としては、例えば、ピロリジン環、ピペリジン環、ホモピペリジン環(アゼパン環、ヘキサヒドロアゼピン環またはヘキサメチレンイミン環)などの1または複数の窒素原子を含む複素環、モルホリン環などの窒素原子と異種のヘテロ原子とを含む複素環などが挙げられ、好ましくはモルホリン環などの窒素原子と異種のヘテロ原子、特に酸素原子とを含む非芳香族性の5~7員複素環である。
【0051】
式(X1)において、窒素原子に隣接するR4およびR5は、双方が水素原子であってもよく;一方が水素原子で他方が脂肪族炭化水素基であってもよく;R4およびR5の双方が脂肪族炭化水素基であるか、または互いに結合して複素環を形成してもよい。すなわち、基[-C(=O)-X1a]および/または[-C(=O)-X1b]が、無置換アミド基(またはカルバモイル基[-C(=O)-NH2])であってもよく;一置換アミド基(またはN-置換アミド基)であってもよく;二置換アミド基(またはN,N-二置換アミド基)であってもよい。溶融流動性などの流動性(以下、特に断りがない場合を除き、単に「流動性」という。)を向上しつつ、曲げ強さ、曲げ弾性率、引張強さ、引張弾性率などの機械的特性もバランスよく向上し易い点からは、基[-C(=O)-X1a]および/または[-C(=O)-X1b]が一置換アミド基であるのが好ましく、溶剤溶解性が特に優れ、流動性をより一層向上し易い点からは、基[-C(=O)-X1a]および/または[-C(=O)-X1b]が二置換アミド基であるのが好ましいが、前記機械的特性と流動性とを特に高いレベルで両立できる観点から、基[-C(=O)-X1a]および/または[-C(=O)-X1b]が無置換アミド基であるのが好ましく、特に基[-C(=O)-X1a]および[-C(=O)-X1b]の双方が無置換アミド基であるのが最も好ましい。なお、二置換アミド基である場合、R4およびR5の双方が脂肪族炭化水素基であるのが好ましい。また、X1aおよびX1bの種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0052】
前記式(1)で表される代表的な化合物としては、例えば、式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5の双方が水素原子である化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス(2-カルバモイルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルバモイルプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス[(2-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンなど;式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5のうちの一方が水素原子で他方がアルキル基である化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス[2-(N-メチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-メチルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-エチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-イソプロピルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-イソプロピルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-ブチルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N-C1-6アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンなど;式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5がアルキル基である化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス[2-(N,N-ジメチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジメチルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジエチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジエチルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジイソプロピルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジブチルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N,N-ジC1-6アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンなど;式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4とR5とが互いに結合して、アミド基を構成する窒素原子に加えて、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子をさらに含んでいてもよい5~7員複素環を形成する化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス[2-(モルホリン-4-イル-カルボニル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(モルホリン-4-イル-カルボニル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(ピロリジン-1-イル-カルボニル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(ピペリジン-1-イル-カルボニル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(ホモピペリジン-1-イル-カルボニル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N含有複素環-N-イル-カルボニル)C2-3アルキル]フルオレンなどが挙げられる。
【0053】
これらのフルオレン誘導体は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのフルオレン誘導体のうち、式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、X1aおよびX1b中のR4およびR5の双方が水素原子である化合物(無置換アミド化合物);式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、X1aおよびX1b中のR4およびR5のうち、一方が水素原子で他方がアルキル基である化合物(N-アルキル置換化合物);式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、X1aおよびX1b中のR4およびR5の双方がアルキル基である化合物(N,N-ジアルキル置換化合物)が好ましい。このようなフルオレン誘導体のうち、流動性を向上しつつ、曲げ強さ、曲げ弾性率、引張強さ、引張弾性率などの機械的特性もバランスよく向上し易い点からは、9,9-ビス[2-(N-C1-4アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンなどのN-アルキル置換化合物が好ましく、なかでも、9,9-ビス[2-(N-イソプロピルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N-C2-4アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンが好ましい。また、より幅広い溶剤に対して優れた溶解性を示すとともに、流動性をより一層向上し易い観点からは、9,9-ビス[2-(N,N-ジC1-4アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンなどのN,N-ジアルキル置換化合物が好ましく、なかでも、9,9-ビス[2-(N,N-ジメチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジエチルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N,N-ジC1-3アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンが好ましく、特に9,9-ビス[2-(N,N-ジエチルカルバモイル)エチル]フルオレンが好ましい。N-アルキル置換化合物およびN,N-ジアルキル置換化合物よりも、前記機械的特性と流動性とをさらに高いレベルで両立できる観点から無置換アミド化合物が最も好ましく、なかでも、9,9-ビス(2-カルバモイルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルバモイルプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(2-カルバモイル)C2-3アルキル」フルオレンが好ましい。
【0054】
[フルオレン誘導体の製造方法]
前記式(1)で表される化合物の製造方法は特に制限されないが、例えば、下記式(2)で表される化合物と、下記式(3a)および(3b)で表される化合物とを反応(マイケル付加反応)させることによって調製してもよい。
【0055】
【0056】
(式中、R1およびkは、それぞれ好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0057】
【0058】
(式中、R2a、R2b、R2cおよびR2d、R3aおよびR3b、X1aおよびX1bは、それぞれ好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0059】
前記式(2)で表される代表的な化合物としては、9H-フルオレンなどが挙げられる。
【0060】
また、前記式(3a)および(3b)で表される化合物は、R2a、R2b、R2cおよびR2d、R3aおよびR3b、ならびにX1aおよびX1bの種類に応じて、それぞれE体またはZ体のいずれであってもよい。
【0061】
前記式(3a)および(3b)で表される代表的な化合物としては、例えば、前記式(1)で表される化合物として具体的に例示した化合物に対応して、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5の双方が水素原子である化合物、具体的には、例えば、(メタ)アクリルアミドなど;R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5のうち一方が水素原子で他方がアルキル基である化合物、具体的には、例えば、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのN-C1-6アルキル-(メタ)アクリルアミドなど;R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5の双方がアルキル基である化合物、具体的には、例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジC1-6アルキル-(メタ)アクリルアミドなど;R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5が互いに結合し、アミド基を構成する窒素原子に加えて、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子をさらに含んでいてもよい5~7員複素環を形成する化合物、具体的には、例えば、N-(メタ)アクリロイルモルホリンなどのN-(メタ)アクリロイルN含有複素環などが挙げられる。なお、前記式(3a)および(3b)で表される化合物は、同一の化合物であるのが好ましい。
【0062】
前記式(2)で表される化合物の量と、前記式(3a)および(3b)で表される化合物の合計量との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/2~1/10程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1/2~1/5、1/2.01~1/3、1/2.03~1/2.1である。
【0063】
反応は、通常、塩基の存在下で行ってもよい。塩基としては、例えば、金属水酸化物、金属炭酸塩または炭酸水素塩、金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0064】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられる。
【0065】
金属炭酸塩または炭酸水素塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩または炭酸水素塩などが挙げられる。
【0066】
金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0067】
これらの塩基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの塩基のうち、金属水酸化物が好ましく、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が更に好ましい。塩基の割合は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001~0.1モル程度であってもよく、好ましくは0.01~0.05モルである。
【0068】
反応は、相間移動触媒の存在下または非存在下で行ってもよい。相間移動触媒としては、例えば、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリドなどのテトラアルキルアンモニウムハライドなどが挙げられる。これらの相間移動触媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの相間移動触媒のうち、TBABが好ましい。相間移動触媒の割合は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001~0.1モル程度であってもよく、好ましくは0.01~0.05モルである。
【0069】
反応は、反応に不活性な溶媒の非存在下または存在下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノールなどのアルコール類;環状エーテル、鎖状エーテルなどのエーテル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド類;脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類などの炭化水素類などが挙げられる。
【0070】
環状エーテルとしては、例えば、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。鎖状エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル、グリコールエーテル類などが挙げられる。前記グリコールエーテル類としては、例えば、メチルセロソルブ、メチルカルビトールなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジメトキシエタンなどの(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0071】
脂肪族炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、ドデカンなどが挙げられる。脂環族炭化水素類としては、シクロヘキサンなどが挙げられる。芳香族炭化水素類としては、例えば、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0072】
これらの溶媒は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの溶媒のうち、水と、DMSOなどのスルホキシド類と、トルエンなどの芳香族炭化水素類との混合溶媒が好ましい。なお、水は前述の塩基の水溶液の形態で添加してもよい。溶媒の使用量は反応の進行を妨げない限り特に制限されず、前記式(2)、(3a)および(3b)で表される化合物の総量100gに対して、例えば10~500mL程度であってもよく、好ましくは50~200mLである。
【0073】
反応は、不活性ガス雰囲気下、例えば、窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気下で行ってもよい。反応温度は、例えば50~200℃、好ましくは80~100℃である。反応時間は特に制限されず、例えば0.5~10時間程度であってもよい。
【0074】
反応終了後、必要に応じて、反応混合物を、慣用の分離精製方法、例えば、中和、洗浄、抽出、ろ過、デカンテーション、濃縮、脱水、乾燥、晶析、クロマトグラフィー、これらを組み合わせた方法などにより分離精製してもよい。
【0075】
(特性)
上述のようにして得られるフルオレン誘導体は、結晶または非晶の形態であってもよく、結晶の形態である場合、融点は、基[-C(=O)-X1a]および[-C(=O)-X1b]が無置換アミド基である場合、例えば200~300℃程度であってもよく、好ましくは230~280℃、さらに好ましくは240~270℃であり、基[-C(=O)-X1a]および[-C(=O)-X1b]が一置換アミド基である場合、例えば150~300℃程度であってもよく、好ましくは200~270℃、さらに好ましくは220~250℃であり、基[-C(=O)-X1a]および[-C(=O)-X1b]が二置換アミド基である場合、例えば50~200℃程度であってもよく、好ましくは70~180℃、さらに好ましくは80~160℃である。
【0076】
また、フルオレン誘導体の5%質量減少温度は、例えば200~400℃程度であってもよく、好ましくは、以下段階的に、230~380℃、250~360℃、280~350℃、300~340℃、310~330℃である。このように、フルオレン誘導体は高い耐熱性を備えている。そのため、高温環境下であっても、流動性改善剤または強度向上剤として有効に利用できる。
【0077】
また、フルオレン誘導体は、溶剤に対する溶解性に優れており、特に、前記式(1)において、基[-C(=O)-X1a]および/または[-C(=O)-X1b]が二置換アミド基である化合物であると、より多種の溶剤に対して溶解し易いようである。
【0078】
なお、本明細書および請求の範囲において、融点、5%質量減少温度および溶剤溶解性は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0079】
[ポリアミド系樹脂]
樹脂組成物が含むポリアミド系樹脂(PA)としては、慣用のポリアミド系樹脂が使用でき、例えば、脂肪族モノマー成分、脂環族モノマー成分および/または芳香族モノマー成分などで形成してもよい。
【0080】
なお、本明細書および請求の範囲において、後述するジカルボン酸などのカルボキシル基を有するモノマー成分は、アミド形成性誘導体、例えば、酸クロリドなどの酸ハライド、酸無水物などであってもよい。
【0081】
脂肪族モノマー成分としては、例えば、脂肪族ジアミン成分、脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族アミノカルボン酸成分、ラクタム成分などが挙げられる。
【0082】
脂肪族ジアミン成分としては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンなどの直鎖状または分岐鎖状C2-20アルキレンジアミンなどが挙げられ、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C4-16アルキレンジアミン、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C6-12アルキレンジアミンである。
【0083】
脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、飽和脂肪族ジカルボン酸(直鎖状または分岐鎖状アルカンジカルボン酸)、不飽和脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0084】
直鎖状または分岐鎖状アルカンジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸などの直鎖状または分岐鎖状C1-20アルカン-ジカルボン酸などが挙げられ、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C2-16アルカン-ジカルボン酸、さらに好ましくはアジピン酸、セバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸などの直鎖状または分岐鎖状C4-12アルカン-ジカルボン酸である。
【0085】
不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのC2-10アルケン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0086】
脂肪族アミノカルボン酸成分としては、例えば、6-アミノヘキサン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などのアミノC2-20アルキル-カルボン酸などが挙げられ、好ましくはアミノC3-16アルキル-カルボン酸、さらに好ましくはアミノC5-11アルキル-カルボン酸である。
【0087】
ラクタム成分としては、前記脂肪族アミノカルボン酸に対応するラクタムであってもよく、例えば、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどの4~13員環のラクタムなどが挙げられ、好ましくは7~13員環のラクタムが挙げられる。
【0088】
脂環族モノマー成分は、脂環骨格(または脂肪族炭化水素環骨格)を有していればよく、例えば、脂環族ジアミン成分、脂環族ジカルボン酸成分、脂環族アミノカルボン酸成分などが挙げられる。
【0089】
脂環族ジアミン成分としては、例えば、ジアミノシクロアルカン、ビス(アミノアルキル)シクロアルカン、ビス(アミノシクロヘキシル)アルカンなどが挙げられる。
【0090】
ジアミノシクロアルカンとしては、例えば、ジアミノシクロヘキサンなどのジアミノC5-10シクロアルカンなどが挙げられる。
【0091】
ビス(アミノアルキル)シクロアルカンとしては、例えば、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどのビス(アミノC1-4アルキル)C5-10シクロアルカンなどが挙げられる。
【0092】
ビス(アミノシクロヘキシル)アルカンとしては、例えば、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパンなどのビス(アミノシクロヘキシル)C1-6アルカン;ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)プロパンなどのビス(アミノ-モノないしトリC1-6アルキル-C5-10シクロアルキル)C1-6アルカンなどが挙げられる。
【0093】
脂環族ジカルボン酸成分としては、例えば、シクロアルカンジカルボン酸、架橋環式シクロアルカンジカルボン酸、シクロアルケンジカルボン酸、架橋環式シクロアルケンジカルボン酸などが挙げられる。
【0094】
シクロアルカンジカルボン酸としては、例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などのC5-10シクロアルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0095】
架橋環式シクロアルカンジカルボン酸としては、例えば、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸などのビまたはトリシクロアルカンジカルボン酸などが挙げられる。
【0096】
シクロアルケンジカルボン酸としては、例えば、シクロヘキセンジカルボン酸などのC5-10シクロアルケン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0097】
架橋環式シクロアルケンジカルボン酸としては、例えば、ノルボルネンジカルボン酸などのビまたはトリシクロアルケンジカルボン酸などが挙げられる。
【0098】
脂環族アミノカルボン酸成分としては、例えば、アミノシクロアルカンカルボン酸などが挙げられ、具体的には、アミノシクロヘキサンカルボン酸などのアミノC5-10シクロアルカン-カルボン酸などが挙げられる。
【0099】
芳香族モノマー成分は、芳香環骨格を有していればよく、例えば、芳香族(または芳香脂肪族)ジアミン成分、芳香族(または芳香脂肪族)ジカルボン酸成分、芳香族(または芳香脂肪族)アミノカルボン酸成分などが例示できる。
【0100】
芳香族(または芳香脂肪族)ジアミン成分としては、例えば、ジアミノアレーン、ビス(アミノアルキル)アレーンなどが挙げられる。ジアミノアレーンとしては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミンなどの、m-キシリレンジアミンなどのジアミノC6-14アレーンなどが挙げられ、ビス(アミノアルキル)アレーンとしては、例えば、m-キシリレンジアミンなどのビス(アミノC1-4アルキル)アレーンなどが挙げられる。
【0101】
芳香族(または芳香脂肪族)ジカルボン酸成分としては、例えば、ベンゼンジカルボン酸、アルキルベンゼンジカルボン酸、多環式アレーンジカルボン酸、ジアリールアルカンジカルボン酸、ジアリールケトンジカルボン酸、ジアリールエーテルジカルボン酸、ジアリールスルフィドジカルボン酸、ジアリールスルホンジカルボン酸などが挙げられる。
【0102】
ベンゼンジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。アルキルベンゼンジカルボン酸としては、例えば、4-メチルイソフタル酸、5-メチルイソフタル酸などのC1-4アルキル-ベンゼンジカルボン酸などが挙げられる。
【0103】
多環式アレーンジカルボン酸としては、例えば、縮合多環式アレーンジカルボン酸、環集合アレーンジカルボン酸などが挙げられる。
【0104】
縮合多環式アレーンジカルボン酸としては、例えば、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸;アントラセンジカルボン酸;フェナントレンジカルボン酸などの縮合多環式C10-24アレーン-ジカルボン酸が挙げられ、好ましくは縮合多環式C10-14アレーン-ジカルボン酸が挙げられる。
【0105】
環集合アレーンジカルボン酸としては、例えば、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸などのビC6-10アレーン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0106】
ジアリールアルカンジカルボン酸としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸などのジC6-10アリールC1-6アルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0107】
ジアリールケトンジカルボン酸としては、例えば、4.4’-ジフェニルケトンジカルボン酸などのジ(C6-10アリール)ケトン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0108】
ジアリールエーテルジカルボン酸としては、例えば、4.4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸などのジ(C6-10アリール)エーテル-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0109】
ジアリールスルフィドジカルボン酸としては、例えば、4.4’-ジフェニルスルフィドジカルボン酸などのジ(C6-10アリール)スルフィド-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0110】
ジアリールスルホンジカルボン酸としては、例えば、4.4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸などのジ(C6-10アリール)スルホン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0111】
芳香族アミノカルボン酸成分としては、例えば、アミノアレーンカルボン酸などが挙げられる。アミノアレーンカルボン酸としては、例えば、アミノ安息香酸などのアミノC6-12アレーンカルボン酸などが挙げられる。
【0112】
ポリアミド系樹脂は、これらのモノマー成分を単独でまたは2種以上組み合わせて形成でき、例えば、ジアミン成分およびジカルボン酸成分の重合、アミノカルボン酸成分および/またはラクタム成分の重合、ジアミン成分およびジカルボン酸成分とアミノカルボン酸成分および/またはラクタム成分との重合などにより形成してもよい。また、ポリアミド系樹脂は、単一のモノマー(単一のジアミンおよびジカルボン酸、単一のアミノカルボン酸、または単一のラクタム)で形成されたホモポリアミドであってもよく、複数のモノマーが共重合したコポリアミドであってもよい。代表的なポリアミド系樹脂としては、例えば、脂肪族ポリアミド樹脂、脂環族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0113】
脂肪族ポリアミド樹脂は、脂肪族モノマー成分に由来する脂肪族モノマー単位で形成されていればよく、例えば、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612などの脂肪族ジアミン成分と脂肪族ジカルボン酸成分とのホモポリアミド;ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12などの脂肪族アミノカルボン酸成分および/または対応するラクタム成分のホモポリアミド;コポリアミド6/66、コポリアミド6/11、コポリアミド66/12などの複数の脂肪族モノマー成分の共重合体(コポリアミド)などが挙げられる。
【0114】
脂環族ポリアミド樹脂は、脂環族モノマー成分に由来する脂環族モノマー単位を有していればよく、脂肪族モノマー成分と脂環族モノマー成分とを組み合わせて形成されていてもよい。代表的な脂環族ポリアミド樹脂は、例えば、ジアミノメチルシクロヘキサンとアジピン酸との重合体などの脂環族ジアミン成分と脂肪族ジカルボン酸成分とのホモポリアミドなどが挙げられる。
【0115】
芳香族ポリアミド樹脂は、少なくとも芳香族モノマー成分に由来する芳香族モノマー単位を有していればよく、例えば、芳香族モノマー成分と、脂肪族または脂環族モノマー成分とから形成される半芳香族ポリアミド樹脂;芳香族モノマーで形成され、脂肪族または脂環族モノマー成分を含まない全芳香族ポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0116】
半芳香族ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミドMXD6(m-キシリレンジアミンとアジピン酸との重合体)など芳香族(または芳香脂肪族)ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とのホモポリアミド;ポリアミド6T(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体)、ポリアミド9T(ノナメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体)、ポリアミド10T(デカメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体)、ポリアミド12T(ドデカメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体)、ポリアミドM5T(2-メチルペンタメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体)、ポリアミドM8T(2-メチルオクタメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体)、ポリアミド6I(ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸との重合体)、トリメチルヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体などの脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とのホモポリアミド;コポリアミド6T/66、コポリアミド6T/M5T、コポリアミド6T/6I、コポリアミド6T/6I/6、コポリアミド6T/6I/66などの脂肪族ジアミン成分および芳香族ジカルボン酸成分を少なくとも含む共重合体などが挙げられる。
【0117】
全芳香族ポリアミド樹脂としては、例えば、m-フェニレンジアミンとイソフタル酸との重合体、p-フェニレンジアミンとテレフタル酸との重合体などの芳香族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分とのホモポリアミドなどが挙げられる。
【0118】
なお、本明細書および請求の範囲において、コポリアミドにおける「/」は、前後に記載されたモノマー(単位)を共重合成分(共重合単位)としてコポリアミドが形成されることを意味する。すなわち、コポリアミド6/66は、ポリアミド6を形成する単位と、ポリアミド66を形成する単位とを有する共重合体であることを意味する。
【0119】
ポリアミド樹脂は、N-アルコキシメチル基を有するポリアミド、不飽和高級脂肪酸の二量体であるダイマー酸を重合成分とする重合脂肪酸系ポリアミド樹脂などであってもよい。また、ポリアミド樹脂は、結晶性または非晶性であってもよく、透明性ポリアミド樹脂(非晶性透明ポリアミド樹脂)であってもよく、成形品の機械的特性の観点から、結晶性樹脂が好ましい。
【0120】
これらのポリアミド系樹脂は単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらのポリアミド系樹脂のうち、脂肪族ポリアミド樹脂が好ましい。また、ポリアミド系樹脂は、炭素数が4~12程度、好ましくは6~11、さらに好ましくは6~9、特に少なくとも6のアルキレン基を有する脂肪族モノマー成分を含むモノマーで形成されるのが好ましく、特に、前記炭素数のアルキレン基を有する脂肪族モノマー成分で形成された脂肪族ポリアミド樹脂が好ましい。代表的な好ましい脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612などの脂肪族ジアミン成分と脂肪族ジカルボン酸成分とのホモポリアミドである。
【0121】
ポリアミド系樹脂の数平均分子量Mnは、例えば7000~1000000、好ましい範囲としては、以下段階的に、10000~750000、20000~500000、30000~500000、50000~500000である。分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)などの慣用の方法を利用して測定でき、ポリスチレン換算の分子量として評価してもよい。
【0122】
[樹脂組成物]
樹脂組成物は、前記式(1)で表されるフルオレン誘導体および前記ポリアミド系樹脂を少なくとも含んでいればよい。ポリアミド系樹脂に対して、添加剤として前記式(1)で表されるフルオレン誘導体を添加して樹脂組成物(熱可塑性樹脂組成物)を形成することにより、樹脂組成物の流動性、特に溶融流動性をより有効に向上できる。また、樹脂組成物の流動性が向上することにより、その成形性(加工性)をも向上させることができる。すなわち、流動性向上には成形温度(加工温度)を高くすることが考えられるが、ポリアミド系樹脂は分解温度が比較的低い傾向にあり、例えば、結晶性ポリアミド系樹脂では融点に近いことも多いため、成形温度を上げて流動性を向上することには限界がある。また、ポリアミド系樹脂は、分解温度が低い傾向のみならず、粘度の温度依存性が大きい傾向にあるため、熱分解抑制および流動性安定化などのために厳密な温度管理が必要になるが、成形温度が高温になるほど温度管理は困難になる。そのため、成形温度を高めなくても流動性を向上できる本開示の樹脂組成物は特に有用性が高い。
【0123】
さらに、前記式(1)で表されるフルオレン誘導体は低分子化合物であるにもかかわらず、意外にも樹脂組成物の機械的特性の低下を抑制し、保持または向上できる場合がある。
【0124】
(繊維状補強材)
樹脂組成物は、機械的特性、例えば、曲げ強さ、曲げ弾性率、引張強さ、衝撃強さなどの観点から、必要に応じて繊維状補強材(繊維状強化材または繊維状充填材)を含んでいてもよい。一般的に繊維状補強材は、樹脂組成物の前記機械的特性などを大きく向上できるものの、粘度を著しく増加させてしまうため、前記機械的特性と流動性(成形性または加工性)との両立は困難である。特に、前記機械的特性が重要な用途では、繊維状補強材を高い割合で添加する必要があり、繊維状補強材の増加に伴う顕著な高粘度化のため、流動性(成形性または加工性)を犠牲にせざるを得ない場合がある。しかし、特定のフルオレン誘導体と、ポリアミド系樹脂と、繊維状補強材とを組み合わせる本開示では、繊維状補強材を含んでいても流動性を有効に向上できる。しかも、低分子化合物(フルオレン誘導体)を含むにもかかわらず、繊維状補強材に由来する高い機械的特性の低下を意外にも抑制し易く、保持または向上できる場合もあるため、高い機械的特性と高い流動性とを高いレベルで両立し易い。特に、前記フルオレン誘導体を繊維状補強材と組み合わせると、繊維状補強材を含まない場合(すなわち、繊維状補強材を含まず、かつ前記フルオレン誘導体とポリアミド系樹脂との質量割合が同じ樹脂組成物)に比べて衝撃強さを保持し易く、耐衝撃性と流動性とを両立し易いようである。
【0125】
繊維状補強材としては、有機繊維、無機繊維などが挙げられる。有機繊維としては、例えば、セルロース繊維、セルロースアセテート繊維などの修飾または未修飾セルロース繊維(セルロースまたはその誘導体の繊維)、ポリアルキレンアリレート繊維などのポリエステル繊維などが挙げられる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、ワラストナイトなどであってもよく、ウィスカーなどの金属繊維であってもよい。前記炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維、メソフェーズピッチ系炭素繊維などのピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維などが挙げられる。
【0126】
これらの繊維状補強材は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。好ましい繊維状補強材は、修飾または未修飾セルロース繊維、無機繊維であり、無機繊維がより好ましく、ガラス繊維、炭素繊維がさらに好ましく、特にガラス繊維が好ましい。
【0127】
ガラス繊維を形成するガラス成分としては、例えば、Eガラス(無アルカリ電気絶縁用ガラス)、Sガラス(高強度ガラス)、Cガラス(化学用ガラス)、Aガラス(一般用含アルカリガラス)、YM-31-Aガラス(高弾性ガラス)などが挙げられる。なかでも、機械的特性などの点から、Eガラス、Cガラス、Sガラスが好ましく、特にEガラスが好ましい。これらのガラス成分で形成されるガラス繊維は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0128】
繊維状補強材の形態は、用途などに応じて、短繊維または長繊維であってもよく、織布、編布、不織布などの布帛であってもよい。これらの繊維状補強材は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。流動性を向上し易い点から短繊維であるのが好ましい。
【0129】
繊維状補強材の平均繊維長(布帛の形態である場合は、布帛を構成する繊維の平均繊維長)は、例えば0.1~10mm程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、0.2~8mm、0.5~6mm、1~4mmである。また、組成物または成形体中の繊維状補強材の平均繊維長は、樹脂組成物を調製する際の混合(混練)や成形加工におけるせん断力などの影響によって混合前より短くなっていてもよく、例えば0.05~5mm、好ましくは0.1~3mm、さらに好ましくは0.2~1mmである。
【0130】
繊維状補強材の平均繊維径(フィラメント径)は、ナノメータオーダーであってもよく、このような繊維状補強材としては、例えば、修飾または未修飾セルロースナノ繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンナノファイバーなどが挙げられる。機械的強度などの点から、平均繊維径(フィラメント径)はミクロンオーダー、例えば1~200μm程度の範囲から選択してもよく、好ましくは3~100μm、さらに好ましくは4~30μm、特に5~15μmである。
【0131】
繊維状補強材の断面形状は、例えば、円形状、楕円形状、多角形状などが挙げられる。また、繊維状補強材には慣用の表面処理が施されていてもよく、例えば、集束剤、シランカップリング剤などの表面処理剤により処理されていてもよい。
【0132】
樹脂組成物において、前記式(1)で表される化合物(フルオレン誘導体)とポリアミド系樹脂との割合は、例えば、前者/後者(質量比)=0.01/99.99~50/50程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0.1/99.9~30/70、0.5/99.5~20/80、1/99~15/85、1/99~10/90、2/98~8/92、3/97~7/93、4/96~6/94である。また、樹脂組成物が繊維状補強材を含む場合における好ましい前記割合は、以下段階的に1/99~10/90、2/98~8/92、2.5/97.5~6/94、3/97~5/95である。前記式(1)で表されるフルオレン誘導体の割合が多すぎると、耐衝撃性などの機械的特性が大きく低下したり、フルオレン誘導体がブリードアウトするおそれがあり、少なすぎると、流動性や曲げ特性や引張特性などの機械的特性を改善できないおそれがある。しかし、本開示では、前記式(1)で表されるフルオレン誘導体の割合が比較的少なくても、流動性を有効に改善でき、特に、フルオレン誘導体が前記無置換アミド化合物であると、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、引張弾性率などの機械的特性を大きく低下させることなく、むしろ向上しつつ、流動性をより一層有効に向上できる。
【0133】
また、前記割合(フルオレン誘導体とポリアミド系樹脂との割合)は、用途などに応じて選択してもよい。例えば、流動性が特に重要な用途では、前記割合は以下段階的に、前者/後者(質量比)=4/96~15/85、4/96~10/90、4.5/95.5~6/94が好ましく、流動性と耐衝撃性とのバランスが重要な用途では、以下段階的に、0.5/99.5~4/96、1/99~3.5/96.5、2/98~3.5/96.5が好ましい。フルオレン誘導体の割合が、少なすぎると、流動性を向上し難く、さらには曲げ特性や引張特性などの機械的特性を向上し難い場合があり、多すぎると耐衝撃性を有効に保持または向上しつつ流動性を向上するのが困難となるおそれがあるとともに、ブリードアウトなども抑制し難くなるおそれがある。
【0134】
樹脂組成物が繊維状補強材を含む場合、前記式(1)で表されるフルオレン誘導体およびポリアミド系樹脂の総量と、繊維状補強材との割合は、例えば、前者/後者(質量比)=99/1~20/80程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、90/10~30/70、80/20~35/65、70/30~40/60、60/40~45/55、55/45~45/55である。繊維状補強材の割合が、少なすぎると機械的特性を向上し難くなるおそれがあり、多すぎると流動性を有効に向上し難くなるおそれがある。
【0135】
樹脂組成物が繊維状補強材を含む場合、前記式(1)で表されるフルオレン誘導体の割合は、繊維状補強材100質量部に対して、例えば0.01~10000質量部程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、0.1~1000質量部、0.5~100質量部、1~50質量部であり、機械的特性を保持または向上しつつ流動性を向上し易く、ブリードアウトも抑制し易い点でさらに好ましくは以下段階的に、1~25質量部、1~20質量部、1.5~15質量部、2~10質量部、2.5~8質量部、3~5質量部である。前記式(1)で表されるフルオレン誘導体の割合が、少なすぎると流動性を有効に向上し難くなるおそれがあり、多すぎると流動性と機械的特性との両立、特に流動性と耐衝撃性との両立が困難になるおそれがあり、ブリードアウトも抑制し難くなるおそれもある。
【0136】
(他の成分)
なお、樹脂組成物は、必要に応じて、ポリアミド系樹脂(または第1の熱可塑性樹脂)とは異なる他の熱可塑性樹脂(または第2の熱可塑性樹脂)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0137】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂(PC)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリエーテルケトン系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリスルホン系樹脂、セルロース誘導体、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)などが挙げられる。
【0138】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などの鎖状オレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂などが挙げられる。
【0139】
スチレン系樹脂としては、例えば、一般用ポリスチレン(GPPS)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)などのポリスチレン(PS)、スチレン系共重合体などが挙げられる。スチレン系共重合体としては、例えば、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ゴム成分含有スチレン系樹脂またはゴムグラフトスチレン系共重合体などが挙げられる。ゴム成分含有スチレン系樹脂またはゴムグラフトスチレン系共重合体としては、例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、AXS樹脂、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)などが挙げられる。AXS樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS樹脂)、アクリロニトリル-(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)-スチレン共重合体(AES樹脂)などが挙げられる。
【0140】
(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの(メタ)アクリル系単量体の単独または共重合体などが挙げられる。
【0141】
酢酸ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタールなどが挙げられる。ポリビニルアセタールとしては、例えば、ポリビニルホルマール(PVF)、ポリビニルブチラール(PVB)などが挙げられる。
【0142】
塩化ビニル系樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂などが挙げられる。塩化ビニル樹脂としては、例えば、塩化ビニル単独重合体(PVC);塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などの塩化ビニル共重合体などが挙げられる。塩化ビニリデン樹脂としては、例えば、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体などの塩化ビニリデン共重合体などが挙げられる。
【0143】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられる。
【0144】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステル(LCP)などが挙げられる。ポリアルキレンアリレート系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ1,4-シクロヘキシルジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。
【0145】
ポリカーボネート系樹脂(PC)としては、例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂などのビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。
【0146】
ポリエーテルケトン系樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)などが挙げられる。
【0147】
ポリケトン樹脂としては、例えば、脂肪族ポリケトン樹脂などが挙げられる。
【0148】
ポリスルホン系樹脂としては、例えば、ポリスルホン樹脂(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)などが挙げられる。
【0149】
セルロース誘導体としては、例えば、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースエステル、エチルセルロースなどのセルロースエーテルなどが挙げられる。
【0150】
熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミドなどが挙げられる。
【0151】
熱可塑性エラストマー(TPE)としては、例えば、ポリスチレン系TPE、ポリオレフィン系TPE(TPO)、ポリジエン系TPE、塩素系TPE、フッ素系TPE、ポリウレタン系TPE(TPU)、ポリエステル系TPE(TPEE)、ポリアミド系TPE(TPA)などが挙げられる。
【0152】
これらの第2の熱可塑性樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて含んでいてもよい。樹脂組成物におけるポリアミド系樹脂(第1の熱可塑性樹脂)の割合は、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂全体(またはポリアミド系樹脂(第1の熱可塑性樹脂)および第2の熱可塑性樹脂の合計)に対して、例えば10質量%程度以上であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、30質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、100質量%である。ポリアミド系樹脂の割合が少なすぎると、流動性および/または機械的特性を向上できないおそれがある。
【0153】
また、樹脂組成物は、必要に応じて、各種添加剤、例えば、充填剤または補強剤(ただし、前記繊維状補強材を除く)、染顔料などの着色剤、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤、炭素材(ただし、前記繊維状補強材を除く)などを含んでいてもよい。前記安定剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。これらの添加剤は単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。
【0154】
樹脂組成物は、フルオレン誘導体(流動性改善剤)とポリアミド系樹脂と、必要に応じて、繊維状補強材、添加剤などの他の成分とを、乾式混合、溶融混練などの慣用の方法で混合することにより調製でき、樹脂組成物はペレットなどの形態であってもよい。
【0155】
(樹脂組成物の特性)
樹脂組成物は流動性に優れているため、樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、前記式(1)で表されるフルオレン誘導体を添加しない樹脂単独(以下、単にブランクともいう)のMFRを100としたとき、例えば110~500程度であってもよく、好ましくは130~450、さらに好ましくは160~400であり、特に、フルオレン誘導体として前記無置換アミド化合物を含むとより一層流動性を向上でき、樹脂組成物のMFRは、ブランクを100としたとき、180~480程度であってもよく、好ましくは、以下段階的に、200~460、250~450、300~430、330~410、350~400、370~390である。なお、ブランクのMFRは、例えば10~100g/分、好ましくは、以下段階的に、20~60g/分、25~50g/分、30~40g/分である。
【0156】
また、樹脂組成物は、流動性を向上しても機械的特性を過度に低下させることなく、向上できる場合もある。樹脂組成物の曲げ強さは、ブランクの曲げ強さを100としたとき、例えば90~150程度であってもよく、好ましくは95~145、さらに好ましくは100~135である。特に、フルオレン誘導体として前記無置換アミド化合物を含む樹脂組成物の曲げ強さは、ブランクを100としたとき、110~140程度であってもよく、好ましくは120~130である。なお、ブランクの曲げ強さは、例えば10~300MPa、好ましくは、以下段階的に、50~200MPa、80~180MPa、100~150MPa、110~130MPaである。
【0157】
樹脂組成物のたわみは、ブランクのたわみを100としたとき、例えば80~120程度であってもよく、好ましくは85~115、さらに好ましくは90~110、特に95~105である。なお、ブランクのたわみは、例えば3~30mm、好ましくは、以下段階的に、5~20mm、8~15mm、9~13mm、10~12mmである。
【0158】
樹脂組成物の曲げ弾性率は、ブランクの曲げ弾性率を100としたとき、例えば90~150程度であってもよく、好ましくは100~145である。特に、フルオレン誘導体として前記無置換アミド化合物を含む樹脂組成物の曲げ弾性率は、ブランクを100としたとき、110~150程度であってもよく、好ましくは120~140、さらに好ましくは125~135である。なお、ブランクの曲げ弾性率は、例えば1000~5000MPa、好ましくは、以下段階的に、2000~4000MPa、2500~3500MPa、2700~3200MPa、2800~3000MPaである。
【0159】
樹脂組成物の引張強さ(最大引張強さ)は、ブランクの引張強さを100としたとき、例えば80~150程度であってもよく、好ましくは90~140、さらに好ましくは100~130である。特に、フルオレン誘導体として前記無置換アミド化合物を含む樹脂組成物の引張強さは、ブランクを100としたとき、105~135程度であってもよく、好ましくは110~130、さらに好ましくは115~125である。なお、ブランクの引張強さは、例えば10~200MPa、好ましくは、以下段階的に、50~150MPa、60~120MPa、70~100MPa、80~90MPaである。
【0160】
樹脂組成物の引張弾性率は、ブランクの引張弾性率を100としたとき、例えば100~200程度であってもよい。特に、フルオレン誘導体として前記無置換アミド化合物を含む樹脂組成物の引張弾性率は、ブランクを100としたとき、110~170程度であってもよく、好ましくは120~160、さらに好ましくは130~150である。なお、ブランクの引張弾性率は、例えば1000~5000MPa、好ましくは、以下段階的に、2000~4000MPa、2500~3500MPa、2800~3200MPa、2900~3100MPaである。
【0161】
なお、本明細書および請求の範囲において、MFR、曲げ強さ、たわみ、曲げ弾性率、引張強さ(最大引張強さ)、および引張弾性率は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0162】
(成形体)
樹脂組成物は流動性や機械的特性に優れるため、高い成形性(または生産性)で機械的特性に優れた成形体を形成できる。成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて選択でき、例えば、線状、糸状などの一次元的構造、フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造、ブロック状、棒状、管状またはチューブ状などの中空状などの三次元的構造などであってもよい。
【0163】
成形体は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などの慣用の成形法を利用して製造することができる。
【実施例】
【0164】
以下に、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、評価方法、用いた試薬の詳細などについて示す。
【0165】
[評価方法]
(HPLC)
HPLC(高性能または高速液体クロマトグラフ)装置として(株)島津製作所製「LCMS―2020」を用い、カラムとして(株)島津製作所製「KINTEX XB-C18」を用いて、移動相:アセトニトリル/水(体積比)=50/50から95/5まで10分間かけて変化させ、その後95/5で5分保持の条件で測定した。
【0166】
(1H-NMR)
試料を、内部標準物質としてテトラメチルシランを含む重溶媒(CDCl3)に溶解し、核磁気共鳴装置(BRUKER社製「AVANCE III HD」)を用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
【0167】
(融点)
BUCHI社製「Melting point M-565」を使用して、温度50℃から昇温速度0.5℃/分の条件で測定した。
【0168】
(5%質量減少温度)
熱重量測定-示差熱分析装置(TG-DTA)(パーキンエルマー社製「TGA-4000」)を使用して、窒素雰囲気下、測定温度範囲50~400℃、昇温速度10℃/分の条件下で、試料の質量が5質量%減少した温度を測定した。
【0169】
(溶剤溶解性試験)
試料と後述する表1に記載の溶剤とを、各溶剤ごとに濃度が3質量%となるようそれぞれ混合し手で10分程度振とうし、その後、室温下(温度15~25℃)で一晩静置した。試料の溶解性を確認して、以下の基準で評価した。
【0170】
○:溶けた
△:溶けるが、溶け残りが目視で確認できた
×:溶けなかった。
【0171】
(曲げ試験)
JIS K 7171に準じて、曲げ強さ、たわみおよび曲げ弾性率を測定した。なお、曲げ弾性率は接線法により算出した。
【0172】
(引張試験)
JIS K 7161-1,-2に準じて、試験速度5mm/分の条件で、引張強さ(最大引張強さ)および引張弾性率測定した。なお、引張弾性率は接線法により算出した。
【0173】
(MFR)
比較例1および実施例1~6では、JIS K 7210-1 B法に準じて、保持時間5分、温度280℃、試験荷重1.2kgの条件で測定した。比較例2および実施例7~9では、JIS K 7210-1 A法に準じて、保持時間5分、温度280℃、試験荷重2.16kgの条件で測定した。
【0174】
(シャルピー衝撃強さ)
JIS K 7111に準じて測定した。
【0175】
[試薬など]
(原料)
N,N-ジエチルアクリルアミド:KJケミカルズ(株)製「DEAA(登録商標)」
N,N-ジメチルアクリルアミド:KJケミカルズ(株)製「DMAA(登録商標)」
N-イソプロピルアクリルアミド:KJケミカルズ(株)製「NIPAM(登録商標)」
N-アクリロイルモルホリン:KJケミカルズ(株)製「ACMO(登録商標)」
アクリルアミド:富士フイルム和光純薬(株)製
(その他)
DMSO:ジメチルスルホキシド、関東化学(株)製
トルエン:関東化学(株)製
TBAB:テトラブチルアンモニウムブロミド、東京化成工業(株)製
KOH:水酸化カリウム、関東化学(株)製
イソプロパノール:関東化学(株)製。
【0176】
[合成例1]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N,N-ジエチルアクリルアミド(30.5g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。そこに、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加えて攪拌して中和処理した後、トルエン(18.1g)、および飽和食塩水(36.1g×3回)を加えて抽出操作を行った。得られた抽出液を0℃まで冷却しながら一晩静置したところ、白色の結晶物が析出したため、結晶物を濾別し、イオン交換水(37.3mL)、およびイソプロパノール(10mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-1)で表される目的物(DEAA-FL、30.2g;収率61.4%)が得られた。
【0177】
得られたDEAA-FLの融点は87~89℃であり、5%質量減少温度は294℃であった。また、得られたDEAA-FLの
1H-NMRの結果を以下および
図1に示す。
【0178】
【0179】
1H-NMR(CDCl3、300MHz):δ(ppm)=7.69-7.72(2H、m)、7.27-7.43(6H、m)、3.18(4H、q)、2.79(4H、q)、2.42-2.48(4H、m)、1.47-1.53(4H、m)、0.96(6H、t)、0.76(6H、t)。
【0180】
[合成例2]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N,N-ジメチルアクリルアミド(23.8g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。そこに、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、攪拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-2)で表される目的物(DMAA-FL、30.0g;収率82.4%)が得られた。
【0181】
得られたDMAA-FLの融点は158~159℃であり、5%質量減少温度は318℃であった。また、得られたDMAA-FLの
1H-NMRの結果を以下および
図2に示す。
【0182】
【0183】
1H-NMR(CDCl3、300MHz):δ(ppm)=7.70-7.71(2H、m)、7.27-7.41(6H、m)、2.74(6H、s)、2.51(6H、s)、2.42-2.47(4H、m)、1.48-1.54(4H、m)。
【0184】
[合成例3]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N-イソプロピルアクリルアミド(27.2g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。そこに、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、攪拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-3)で表される目的物(NIPAM-FL、32.8g;収率71.4%)が得られた。
【0185】
得られたNIPAM-FLの融点は235~237℃であり、5%質量減少温度は257℃であった。また、得られたNIPAM-FLの
1H-NMRの結果を以下および
図3に示す。
【0186】
【0187】
1H-NMR(CDCl3、300MHz):δ(ppm)=7.68-7.71(2H、m)、7.32-7.42(6H、m)、4.73(2H、m)3.84(2H、m)、2.42(4H、m)、1.33(4H、m)、0.97(12H、d)。
【0188】
[合成例4]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、アクリルアミド(17.0g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。そこに、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、攪拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-4)で表される目的物(AAD-FL、31.8g;収率88.4%)が得られた。
【0189】
得られたAAD-FLの融点は254~259℃であり、5%質量減少温度は320℃であった。また、得られたAAD-FLの
1H-NMRの結果を以下および
図4に示す。
【0190】
【0191】
1H-NMR(DMSO-d6、300MHz):δ(ppm)=7.82-7.84(2H、m)、7.47-7.49(2H、m)、7.35-7.40(4H、m)、6.97(2H、s)、6.52(2H、s)、2.24(4H、m)、1.26(4H、m)。
【0192】
[合成例5]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N-アクリロイルモルホリン(33.8g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。そこに、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、攪拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-5)で表される目的物(ACMO-FL)が得られた。
【0193】
【0194】
[溶解性の評価]
合成例1~4で得られたフルオレン誘導体の溶解性試験の結果を表1に示す。なお、表1中、IPAはイソプロパノール、MEKはメチルエチルケトン、MIBKはメチルイソブチルケトン、ジオキサンは1,4-ジオキサン、THFはテトラヒドロフランをそれぞれ示す。
【0195】
【0196】
[実施例1~3、比較例1]樹脂組成物の調製および評価
表2に記載の割合で、樹脂と添加剤とを(比較例1では添加剤を用いることなく)2軸押出機(サーモフィッシャー製「Process11 Twin Screw Extruder」、L/D=40)を用いて280℃で溶融混練し、樹脂組成物を調製した。
【0197】
また、樹脂組成物を糸状に押し出したサンプルを目視で確認したところ、いずれの例においても白濁しておらず、樹脂と添加剤とが相溶していた。実施例3で用いたAAD-FLは溶剤溶解性がそれほど高くなく、樹脂に対して分散困難なことが予想されたが、意外にも樹脂と相溶可能であった。
【0198】
得られた樹脂組成物の曲げ試験、引張試験及びMFRを測定した。得られた結果を表2に示す。また、樹脂組成物の調製に用いた樹脂を以下に示す。
【0199】
PA66:ポリアミド66、東レ(株)製「アミラン(登録商標) CM3001」。
【0200】
【0201】
表2から明らかなように、実施例の樹脂組成物では、比較例1に比べて、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、引張弾性率などの機械的強度を大きく低下させることなくMFRを向上できた。特に、実施例3では、比較例1に比べて、曲げ強さが約26%、曲げ弾性率が約29%、引張強さが約18%、引張弾性率が約38%、MFRが約278%(約3.8倍)も向上した。すなわち、実施例3では、固形フィラーなどの補強剤(または充填剤)を添加した場合に見られるほど大きく機械的強度が向上しており、通常、このようなフィラーを添加した場合には流動性が低下し易くなるにもかかわらず、意外にもMFRが約3.8倍に向上することができ、機械的強度と溶融流動性とを高いレベルで両立できた。
【0202】
[実施例4~6]樹脂組成物の調製および評価
樹脂としてのPA66と、添加剤としてのAAD-FLとの割合を表3に記載の割合で混練して樹脂組成物を調製した。なお、混練は二軸押出機(パーカーコーポレーション社製「HK25D」、L/D=41、スクリュー径:25mm)を用いて、温度270℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量6kg/時の条件で行った。また、樹脂組成物を糸状に押し出したサンプルを目視で確認したところ、実施例4~6のいずれにおいても白濁しておらず、実施例3と同様に樹脂と添加剤とが相溶していた。
【0203】
得られた樹脂組成物の曲げ試験、引張試験およびMFRを測定した。得られた結果を比較例1および実施例3の結果とともに表3に示す。
【0204】
【0205】
表3から明らかなように、実施例3よりも添加剤量が少ない実施例4~6においても、比較例1に比べて、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、引張弾性率などの機械的強度を保持または向上しつつMFRを向上できた。そのため、用途などに応じて流動性(MFR)と物性とのバランスを容易にまたは効率よく調整できる。
【0206】
[実施例7~9、比較例2]繊維状補強材を含む樹脂組成物の調製および評価
樹脂としてのPA66と、添加剤としてのAAD-FLと、繊維状補強材としてのガラス繊維とを表4に記載の割合で混練して樹脂組成物を調製した。なお、混練は二軸押出機(東芝機械社製「TEM-26SX」)を用いて、ガラス繊維をサイドフィーダーより投入し、温度260℃の条件で行った。
【0207】
得られた樹脂組成物の曲げ試験、引張試験、シャルピー衝撃強さおよびMFRを測定した。得られた結果を表4に示す。なお、表4中、添加剤の欄における( )内の数値は、PA66およびAAD-FLの総量に対するAAD-FLの質量%を意味する。また、樹脂組成物の調製に用いた繊維状補強材を以下に示す。
【0208】
GF:ガラス繊維、日本電気硝子(株)製「ECS03 T-275H」、E-ガラスファイバ-チョップドストランド、フィラメント径10.5±1.0μm、ストランド長3.0±1.0mm。
【0209】
【0210】
表4から明らかなように、繊維状補強材を含む実施例7~9は、比較例2に比べて、繊維状補強材に由来する機械的特性を大きく低下することなく(またはやや向上しつつ)、MFRを大きく向上できた。繊維状補強材は、一般的にポリアミド系樹脂の機械的特性を大きく向上できる反面、樹脂組成物が高粘度化するため加工性(成形性または流動性)を大きく低下させる。しかし、実施例7~9では、繊維状補強材を全体の50質量%と高い割合で含むにもかかわらず、少量の添加剤により流動性(MFR)を大きく向上できた。このことは、実施例7,8のMFRと、対応する実施例6,3(PA66に対して同じ割合でAAD-FLを含み、GFを含まない例)のMFRとの比較からも確認できる。すなわち、実施例7,8のMFRは、比較例2(添加剤なし)に対してそれぞれ約2.4倍、4.0倍向上したのに比べ、実施例6,3のMFRは、比較例1(添加剤なし)に対してそれぞれ約2.4倍、3.8倍であり、実施例7,8はGFを高い割合で含んでいても、実施例6,3と同等以上にMFRを向上できた。
【0211】
また、実施例7~9では、衝撃強さを大きく低下することなくMFRを大きく向上でき、高い耐衝撃性と高い流動性とをバランスよく両立できた。
【産業上の利用可能性】
【0212】
本開示の樹脂組成物は、ポリアミド系樹脂の機械的強度を過度に低下させることなく、または向上させつつ、溶融流動性などの流動性(または成形性)を大きく向上できるため、成形性を有効に改善できる。そのため、ポリアミド系樹脂が、耐摩耗性、潤滑性、耐熱性、耐薬品性などの特性に優れていることを利用して、繊維、フィルム、日用品、自動車関連部品、電気・電子関連部品、機械関連部品、建築関連部品、スポーツ・レジャー関連部品などの幅広い用途に利用できる。具体的には、ロープ、タイヤコード、漁網、濾過布、衣料用芯材、包装用フィルム、ラジエータタンク、マニホールド、配管用チューブおよびパイプ、ホース、エアクリーナ、クラッチ部品、コネクタ(電気回路コネクタなどを含む)、スイッチ、ギヤ、プーリ、カム、ブッシュ、ローラ、軸受け、ハウジング、ケーシング、電線被覆、戸車、レール部品、キャスタ、シューズ、シャトルコック、リールなどに利用できる。