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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】固液分離装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/08 20060101AFI20220405BHJP
   B01D 21/02 20060101ALI20220405BHJP
   B01D 21/06 20060101ALI20220405BHJP
   B01D 21/24 20060101ALI20220405BHJP
   B01D 21/30 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
B01D21/08 C
B01D21/02 N
B01D21/06 A
B01D21/24 D
B01D21/24 G
B01D21/24 R
B01D21/24 S
B01D21/30 A
B01D21/30 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018046078
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019155282
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197022
【弁理士】
【氏名又は名称】谷水 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(72)【発明者】
【氏名】三井 昌文
(72)【発明者】
【氏名】出納 正彬
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-095389(JP,A)
【文献】特開2002-035503(JP,A)
【文献】特開平09-248404(JP,A)
【文献】特開2000-176206(JP,A)
【文献】特開2012-035221(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141375(WO,A1)
【文献】特開2010-023009(JP,A)
【文献】特開平09-141006(JP,A)
【文献】特開2010-184179(JP,A)
【文献】国際公開第2014/171421(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/52- 1/56
B01D 21/00-21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水中の固形物を固液分離する固液分離装置であって、
導入された前記被処理水中の固形物を捕捉し、フロックとして成長させるフロック成長ゾーンを有するスラッジブランケット部と、
前記スラッジブランケット部から流出したフロックを前記スラッジブランケット部と分離した所で濃縮する濃縮部を備え、
前記スラッジブランケット部の状態に応じて前記濃縮部で濃縮したフロックを前記スラッジブランケット部に返送する返送手段を有し、
前記スラッジブランケット部の状態は、前記スラッジブランケット部のフロックの界面高さであり、
前記返送手段を制御する制御部を設け、
前記制御部は、前記スラッジブランケット部のフロックの界面高さに応じて返送量を制御することを特徴とする、固液分離装置。
【請求項2】
前記スラッジブランケット部の前段に凝集剤添加手段を有する反応槽を設け、
前記返送手段は、前記反応槽にフロックを返送することを特徴とする、請求項1に記載の固液分離装置。
【請求項3】
前記濃縮部は、前記スラッジブランケット部内の前記フロック成長ゾーンで成長したフロックを、前記フロック成長ゾーンから一方向に下降させる下降流ゾーンと、前記下降流ゾーンから下降してきたフロックを前記フロック成長ゾーン通過後の前記被処理水から分離する分離ゾーンからなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の固液分離装置。
【請求項4】
記制御部は、前記スラッジブランケット部のフロックの界面が低下した場合にフロックの返送を開始し、前記スラッジブランケット部のフロックの界面が所定高さに戻った場合にはフロックの返送を停止することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の固液分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固液分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、排水処理の手段の一つとして、排水中の固形物などの不純物を除去する固液分離処理が行われている。
このような固液分離処理としては、排水に対して凝集剤を添加することで不純物である有機物や懸濁物質等を凝集沈殿させて分離する凝集沈殿を行う固液分離装置を用いた処理が挙げられる。例えば、被処理水を受け入れる内筒が沈殿槽内に配設されているフロックゾーン型(「スラッジブランケット型」や「フロックブランケット型」と呼ばれることもある)の凝集沈殿槽を備える固液分離装置が知られている。
【0003】
このようなスラッジブランケット型凝集沈殿槽を備える固液分離装置において、ディストリビュータによりスラッジブランケット内に原水を均一に分散供給し、スラッジブランケット内でフロックの生成及び成長を促進させ、フロック成長ゾーンを形成することが知られている。一方、フロック成長ゾーンによる濾過作用により、処理水側に微細フロックをリークすることなく処理を行うためには、フロック成長ゾーンの界面をディストリビュータの上方に形成する必要がある。
特許文献1には、ディストリビュータ(原水供給部材)と集泥部材を一体的に回転可能に設けたスラッジブランケット型の凝集沈殿処理装置が記載されている。また、特許文献1には、ディストリビュータと集泥部材を一体化して凝集沈殿槽の底部側に設けることで、ディストリビュータの設置位置を低くし、原水の濾過作用に必要なフロック成長ゾーン(汚泥ゾーン)を低く形成することができることが記載されている。また、その結果、凝集沈殿槽自体の高さを低くすることができ、装置の小型化を図ることができることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-202009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された凝集沈殿処理装置では、ディストリビュータを集泥部材と一体化にすることで、そもそものディストリビュータの設置位置を低く設定することにより、フロック成長ゾーンの界面減少に対応するものとなっている。一方、特許文献1に記載された凝集沈殿装置では、装置の運転のON、OFFが繰り返されると、ディストリビュータ及びディストリビュータに接続されたセンターカラム内にフロックが沈積した状態となり、ディストリビュータの閉塞が起こるという問題がある。したがって、ディストリビュータの設置位置によらず、処理中のフロック成長ゾーンの界面をディストリビュータの上方に維持可能とすることが求められる。
【0006】
本発明の課題は、排水中の固形物を捕捉する固液分離装置において、スラッジブランケット内のフロック成長ゾーン界面を適正な位置に維持し、処理水の水質を良好に保つことのできる固液分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、スラッジブランケット部を備える固液分離装置において、スラッジブランケット部から流出したフロックをスラッジブランケット部と分離した場所で濃縮する濃縮部を設け、スラッジブランケット部の状態に応じて濃縮部からフロックを返送することで、スラッジブランケット部内のフロック成長ゾーン界面の高さを適切に維持することが可能になることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の固液分離装置である。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の固液分離装置は、被処理水中の固形物を固液分離する固液分離装置であって、導入された被処理水中の固形物を捕捉し、フロックとして成長させるフロック成長ゾーンを有するスラッジブランケット部と、スラッジブランケット部から流出したフロックをスラッジブランケット部と分離した所で濃縮する濃縮部を備え、スラッジブランケット部の状態に応じて濃縮部で濃縮したフロックをスラッジブランケット部に返送する返送手段を有するという特徴を有する。
【0009】
本発明の固液分離装置は、スラッジブランケット部を有する固液分離装置において、スラッジブランケット部から流出したフロックをスラッジブランケット部と分離した所で濃縮する濃縮部を備え、スラッジブランケット部の状態に応じて濃縮部で濃縮したフロックをスラッジブランケット部に返送する返送手段を設ける。これにより、スラッジブランケット部のフロック成長ゾーンの界面を適切な高さに維持することができ、処理水の水質を良好に維持することが可能となる。また、濃縮部をスラッジブランケット部と切り離すことで、濃縮部の濃縮フロックを返送手段によって抜き出す際に、フロック成長ゾーンに影響を与えることがない。これにより、スラッジブランケット部におけるフロック成長ゾーンにおける処理条件に悪影響を及ぼすことなく、処理を行うことが可能となる。
【0010】
また、本発明の固液分離装置の一実施態様としては、スラッジブランケット部の前段に凝集剤添加手段を有する反応槽を設け、返送手段は、反応槽にフロックを返送するという特徴を有する。
この特徴によれば、濃縮部において濃縮したフロックに再度凝集剤を添加した状態でスラッジブランケット部に返送することが可能となる。濃縮部の濃縮フロックの凝集効果を高めた状態でスラッジブランケット部に返送することで、スラッジブランケット部における処理効果を向上させることが可能となる。
【0011】
また、本発明の固液分離装置の一実施態様としては、スラッジブランケット部の状態は、スラッジブランケット部のフロックの界面高さに係る情報であるという特徴を有する。
この特徴によれば、安定した処理のために必要なスラッジブランケット部のフロックの界面高さを基準とすることが可能となり、処理水の水質を良好に維持できる。
【0012】
また、本発明の固液分離装置の一実施態様としては、濃縮部は、スラッジブランケット部内のフロック成長ゾーンで成長したフロックを、フロック成長ゾーンから一方向に下降させる下降流ゾーンと、下降流ゾーンから下降してきたフロックをフロック成長ゾーン通過後の被処理水から分離する分離ゾーンからなるという特徴を有する。
この特徴によれば、スラッジブランケット部から越流したフロックをスムーズに下降させることができ、フロックと被処理水の分離を効率よく行うことが可能となる。
【0013】
また、本発明の固液分離装置の一実施態様としては、返送手段を制御する制御部を設け、制御部は、スラッジブランケット部のフロックの界面が低下した場合にフロックの返送を開始し、スラッジブランケット部のフロックの界面が所定高さに戻った場合にはフロックの返送を停止することという特徴を有する。
この特徴によれば、スラッジブランケット部のフロックの界面高さを適切な高さに維持することができ、安定した処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、排水中の固形物を捕捉する固液分離装置において、スラッジブランケット内のフロック成長ゾーン界面を適正な位置に維持し、処理水の水質を良好に保つことのできる固液分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施態様に係る固液分離装置の概略説明図である。
図2】本発明の第1の実施態様に係る固液分離装置における凝集沈殿槽の詳細説明図である。
図3】本発明の第2の実施態様に係る固液分離装置の概略説明図である。
図4】本発明の第3の実施態様に係る固液分離装置の概略説明図である。
図5】本発明の第3の実施態様に係る固液分離装置における凝集沈殿槽の詳細説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の固液分離装置は、固形物を含む被処理水の処理に利用されるものである。特に、被処理水に凝集剤を添加して、有機物などを凝集沈殿させて分離する凝集沈殿処理に好適に利用されるものである。
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る固液分離装置の実施態様を詳細に説明する。
なお、以下の実施態様に記載する固液分離装置については、凝集沈殿装置を例として説明する。ただし、以下の実施態様は、本発明に係る固液分離装置を説明するために例示したものにすぎず、本発明に係る固液分離装置は、凝集沈殿装置に限定されるものではない。
【0018】
[第1の実施態様]
図1は、本発明の第1の実施態様の固液分離装置100の概略説明図である。なお、図1における凝集沈殿槽1については、後述する図2において詳細に説明するものとする。
本実施態様に係る固液分離装置100は、いわゆるスラッジブランケット型と呼ばれる凝集沈殿槽を有している。一般に、スラッジブランケット型凝集沈殿槽は、槽内に上昇水流による凝集フロックの流動層を形成し、その流動槽内に新たに生成したフロックを通過させるものである。このとき、小さなフロックは流動層における大きなフロックに捕捉されて大きくなり、沈降速度が速まる。これにより、スラッジブランケット型凝集沈殿槽へ導入された被処理水は、処理水と汚泥に分離され、それぞれ槽外に排出される。以下、フロックは、凝集フロック、汚泥、固形物と称されることがある。
【0019】
図1に示すように、本実施態様に係る固液分離装置100は、凝集沈殿槽1内に、被処理水Wを導入する被処理水導入部2と、被処理水W中の固形物を捕捉し、固形物と処理水W1に分離するスラッジブランケット部3と、スラッジブランケット部3の上端を越流したフロックを濃縮する濃縮部4と、濃縮部4に濃縮したフロックをスラッジブランケット部3に返送するための返送手段5を備える。なお、スラッジブランケット部3上方には、処理水W1からなる清澄層Cが形成されている。
また、凝集沈殿槽1は、処理水W1を排出する処理水排出ラインL1と濃縮部4で濃縮したフロックを系外に排出する汚泥排出ラインL2及びポンプPを設ける。なお、汚泥排出ラインL2には、汚泥を処理するための汚泥処理設備を設けるものとしてもよい。
【0020】
図2は、本発明の第1の実施態様の固液分離装置100における凝集沈殿槽1の詳細説明図である
凝集沈殿槽1は、有底円筒状の外筒水槽11と、この外筒水槽11より小径でかつ高さも小さい有底円筒状の内筒水槽12とを備える。図2に示すように、内筒水槽12は、外筒水槽11の内側に、外筒水槽11と同心になるように立設されている。また、内筒水槽12の底部が外筒水槽11の底部から上方に所定長離隔しており、二重水槽構造を呈している。また、外筒水槽11及び内筒水槽12の軸線L上には、モーターMにより回転駆動するセンターシャフト13が配置されている。センターシャフト13は、ロータリージョイント14により内筒水槽12底部と接続されている。なお、外筒水槽11、内筒水槽12は円筒状に限定されず、角筒状であってもよい。
【0021】
被処理水導入部2は、被処理水Wを凝集沈殿槽1内に導入するための導入管21と、導入管21から導入された被処理水Wを内筒水槽12内に供給するフィードパイプ22を備えている。図2に示すように、導入管21は、外筒水槽11の側壁を挿通して、槽外部に突き出しており、被処理水Wの供給源と接続されている。また、フィードパイプ22は、導入管21と通水可能に連結しており、センターシャフト13の外側にセンターシャフト13を囲むように設けられている。本実施態様における固液分離装置は、外筒水槽11、内筒水槽12、センターシャフト13、フィードパイプ22の軸線は全て共通の軸線Lになっている。
【0022】
フィードパイプ22は、上下方向で上部22aと下部22bとに分けられており、上部と下部との間はラビリンス構造等のロータリージョイント23により接続されている。フィードパイプ22の上部22a側面に導入管21が接続されており、フィードパイプ22の下部22bにはディストリビュータ24が設けられている。ディストリビュータ24は内筒水槽12の下部に配置されるとともに、複数の被処理水吐出口24aが形成されている。センターシャフト13の回転とともにフィードパイプ22の下部が回転し、このとき、ディストリビュータ24は被処理水吐出口24aを内筒水槽12の底部側に向けた状態で回転する。なお、フィードパイプ22の上端部は閉じられていてもよく、上方に向かって開放されていてもよい。
【0023】
被処理水導入部2から導入される被処理水Wは、固形物を含む排水であって、例えば有機性排水に凝集剤を混合したものである。本実施態様においては、有機性排水と凝集剤を混合するために、導入管21に対して凝集剤を供給する凝集剤供給ラインL3を接続するものを図1に例示しているが、これに限定されるものではない。例えば、後述するように、凝集沈殿槽1の上流側であらかじめ原水W0に凝集剤を混合することで得られた被処理水Wを導入管21に供給するものとしてもよい。
【0024】
混合される凝集剤としては、無機凝集剤及び有機高分子凝集剤が挙げられる。凝集剤は、無機凝集剤あるいは有機高分子凝集剤のみを用いるものであってもよく、無機凝集剤と有機高分子凝集剤を併用するものであってもよい。なお、無機凝集剤及び有機高分子凝集剤を併用する場合、無機凝集剤、有機高分子凝集体の順に被処理水Wに添加することが好ましい。これにより、安定したフロック形成が可能となる。
凝集剤の具体例としては、例えば、無機凝集剤としては、硫酸バンドやPAC等のAl系無機凝集剤や、ポリ硫酸鉄等のFe系無機凝集剤が挙げられる。あるいは、NaOH、Ca(OH)等のアルカリ又はHSO、HCl等の酸によるpH調整剤や、Ca、Al、Fe系化合物の添加や、酸化剤・還元剤の添加等により結晶を析出させるものとしてもよい。また、有機高分子凝集剤としては、ポリアミノアルキルメタクリレート、ポリエチレンイミン、ハロゲン化ポリジアリルアンモニウム、キトサン、尿素-ホルマリン樹脂等のカチオン性高分子凝集剤、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド部分加水分解物、部分スルホメチル化ポリアクリルアミド、ポリ(2-アクリルアミド)-2-メチルプロパン硫酸塩等のアニオン性高分子凝集剤、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等のノニオン性高分子凝集剤、アクリルアミドとアミノアルキルメタクリレートとアクリル酸ナトリウムの共重合体等の両性高分子凝集剤が挙げられる。
【0025】
スラッジブランケット部3は、被処理水導入部から凝集剤を含む被処理水Wを導入し、凝集フロックを成長させた後、凝集フロック(固形物)と処理水W1を分離するものである。
なお、分離された処理水W1は凝集沈殿槽1上部に設けられた処理水排出ラインL1から系外に排出される。また、スラッジブランケット部3の上端から越流した凝集フロックは、後述する濃縮部4に沈降し、凝集沈殿槽1の底部に設けられた汚泥排出ラインL2を介して、系外に排出される。
【0026】
本実施態様におけるスラッジブランケット部3は、図2に示すように、凝集沈殿槽1内の有底円筒状の内筒水槽12の内側領域を指すものである。スラッジブランケット部3は、フロック成長ゾーンZ1を有している。フロック成長ゾーンZ1は、被処理水導入部2により内筒水槽12内に流入する被処理水Wの上昇水流によって凝集フロックの流動層を形成している。
【0027】
凝集剤を含む被処理水Wは内筒水槽12内の被処理水導入部2のディストリビュータ24から内筒水槽12内の下部に一様に噴出され、この噴出する水流の撹拌力、剪断力等により混合されてフロックを形成していく。内筒水槽12内に形成されたフロックは内筒水槽12底部に堆積していくが、さらに供給される被処理水Wによりフロック成長ゾーンZ1内に流動層が形成されていく。被処理水Wに含まれる小さなフロックは、流動層を上昇する過程で先に生成されたフロックに接触して捕捉されることで、フロックの粒子径が大きく成長する。このように、被処理水Wはフロック成長ゾーンZ1を上昇しながらフロックを成長させる。
【0028】
ここで、フロックはその比重が水より大きいため、フロック成長ゾーンZ1の底部に堆積しようとするが、被処理水Wの連続供給により上昇する。被処理水Wがフロック成長ゾーンZ1を上昇する過程において、被処理水W中のフロックは成長してより大きく、かつ重くなるため、一定程度まで成長すると、上昇しなくなる。よって、図2に示すように、内筒水槽12の上部には、より大きく、かつ重くなったフロックが集まり、被処理水Wの上昇流による上昇力とフロックの沈降性(自重)が平衡状態となることで、フロック濃度が不連続に変化する仮想境界層Kが形成される。仮想境界層Kに集まったフロックの一部は、被処理水Wによる流動層により内筒水槽12の上端縁部から外筒水槽11側に越流する。
【0029】
また、図2に示すように、スラッジブランケット部3を通過した処理水は、被処理水Wの上昇流によって上昇し、スラッジブランケット部3の上方に、処理水W1からなる清澄層Cが形成される。つまり、清澄層Cとスラッジブランケット部3との境界に仮想境界層Kが形成されている。清澄層Cの処理水W1は、外筒水槽11上部に設けられた処理水排出ラインL1を介して槽外に排出される。
【0030】
濃縮部4は、スラッジブランケット部3から流出したフロックを濃縮するためのものである。また、濃縮部4は、スラッジブランケット部3から流出したフロックを下降させる下降流ゾーンZ2と、下降流ゾーンZ2から下降してきたフロックをスラッジブランケット部3内のフロック成長ゾーンZ1を通過した被処理水Wから分離する分離ゾーンZ3からなる。
【0031】
図2に示すように、下降流ゾーンZ2は、スラッジブランケット部3から流出したフロックが通過する外筒水槽11と内筒水槽12の間の領域を指す。また、分離ゾーンZ3は、内筒水槽12底部と外筒水槽11底部の間の領域を指す。ここで、下降流ゾーンZ2に流入した凝集フロックは、比重が水よりも大きいため、自然に分離ゾーンZ3に向けて沈降する。分離ゾーンZ3に沈降して堆積した凝集フロックは濃縮されて濃縮汚泥になり、外筒水槽11の底部に設けられた汚泥排出ラインL2から排出される。
【0032】
分離ゾーンZ3に堆積した濃縮汚泥は、センターシャフト13の下端に設けられた濃縮汚泥掻き寄せ機41によって、汚泥排出ラインL2が設けられた外筒水槽11の底面中央に掻き寄せられる。なお、濃縮汚泥掻き寄せ機41は、センターシャフト13の回転に伴って回転し、外筒水槽11の底面中央部に濃縮汚泥を掻き寄せることができる構造であれば、特に限定されない。例えば、図2に示すように、センターシャフト13に対して垂直に掻き取り部材を設けるもの以外に、センターシャフト13に対して垂直に交差した支持体に複数の掻き取り部材を設けるものとしてもよく、曲面を有する掻き取り部材を槽上方から見た際にS字を形成するようにセンターシャフト13に設けるものとしてもよい。
【0033】
返送手段5は、濃縮部4に濃縮されたフロックの一部をスラッジブランケット部3に返送するためのものである。図1に示すように、返送手段5は、汚泥排出ラインL2上に設けた分岐ラインL4を介して凝集沈殿槽1にフロックを返送するものである。なお、汚泥排出ラインL2とは別に独立したラインを設け、返送手段5としてもよいが、装置の部品点数の削減などの観点から、汚泥排出ラインL2から分岐させた分岐ラインL4を返送手段5とすることが好ましい。
【0034】
また、返送手段5には、スラッジブランケット部3の状態に応じて返送量を制御するための制御部6を備える。なお、返送量の制御の具体例としては、返送手段5の分岐ラインL4上に設けたバルブB1の開閉や、汚泥排出ラインL2と分岐ラインL4のライン切り替えなどが挙げられる。処理に係る全体の処理効率及び全体の処理時間等を考慮すると、一定程度の返送量を確保するために、汚泥排出ラインL2からの濃縮汚泥の排出を停止し、返送手段5(分岐ラインL4)を介してフロックを返送する制御とすることが特に好ましい。このため、汚泥排出ラインL2と分岐ラインL4のライン切り替え以外にも、汚泥排出ラインL2にもバルブB2を設け、分岐ラインL4上のバルブB1と連動させ、一方が開のとき、他方が閉となるように制御するものとしてもよい。
【0035】
ここで、スラッジブランケット部3の状態としては、スラッジブランケット部3のフロックの界面高さ、すなわち仮想境界層Kの高さに係る情報を用いることが好ましい。これにより、スラッジブランケット部3において安定した処理を可能とする適切なフロック成長ゾーンZ1の高さに維持するための指標となる。仮想境界層Kの高さに係る情報は、内筒水槽12の容積及び被処理水Wの流量から推算するものとしてもよいが、精度の高い情報を得るために、仮想境界層Kの高さを計測する界面計61を設けることが好ましい。
【0036】
界面計61による測定結果が所定の値を下回った場合、制御部6により濃縮部4のフロックを分岐ラインL4を介して凝集沈殿槽1に返送する。また、界面計61による測定結果が所定の値を上回った場合、制御部6によりフロックの返送を停止する。
ここで、所定の値としては、仮想境界層Kの高さが内筒水槽12内にあるディストリビュータ24の上方となる値を閾値として設定することが挙げられる。これにより、スラッジブランケット部3におけるフロック成長ゾーンZ1の容量が小さくなることがなく、処理水質の悪化を抑制することができる。
また、界面計61による測定値を経時変化として求め、求めた値が減少傾向にあると認められる場合に制御部6による制御を行うものとしてもよい。これにより、処理の悪化傾向を把握し、仮想境界層Kの高さの減少に迅速に対応することが可能となる。
【0037】
以上のように、本実施態様における固液分離装置100において、スラッジブランケット部の状態に応じて濃縮部のフロックをスラッジブランケット部に返送する返送手段を設けることにより、スラッジブランケット部での仮想境界層の高さを適切な高さに維持することができる。これにより、処理水の水質を良好に維持することが可能となる。また、本実施態様における固液分離装置100は、スラッジブランケット部と濃縮部を分離して設置しているため、濃縮部からフロックを引き抜く際にスラッジブランケット部におけるフロック成長ゾーンの流動層へ影響を与えることがない。これにより、スラッジブランケット部における安定した処理を維持することが可能となる。
【0038】
[第2の実施態様]
図3は、本発明の第2の実施態様の固液分離装置101の概略説明図である。
本実施態様に係る固液分離装置101は、図3に示すように、第1の実施態様における凝集沈殿槽1の上流側に反応槽7を設け、反応槽7には凝集剤を添加する凝集剤添加手段8を備える。また、本実施態様に係る固液分離装置101は、返送手段5′を設ける。返送手段5′は、第1の実施態様における返送手段5によるフロックの返送場所を反応槽7とするものである。
なお、本実施態様における固液分離装置101の構成のうち、第1の実施態様の固液分離装置100の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0039】
反応槽7は、原水W0を導入するとともに、凝集剤添加手段8により凝集剤を添加するものである。これにより、反応槽7からの処理水を、固形物を含む被処理水Wとして、導入管21を介して凝集沈殿槽1へ供給する。
反応槽7は、1つ又は複数の槽からなるものとし、例えば、図3に示すように、第1反応槽71、第2反応槽72の2つの槽を設け、それぞれに凝集剤添加手段81、82を設けるものとする。このとき、第1反応槽71には、凝集剤添加手段81により無機凝集剤を添加する。一方、第2反応槽72には、凝集剤添加手段82により有機高分子凝集剤を添加する。これにより、凝集沈殿槽1に導入する被処理水W中に安定な凝集フロックを形成することが可能となる。
なお、反応槽7には、撹拌機などの撹拌機構を設けることとしてもよい。これにより、原水と凝集剤の混合効率を高め、凝集効果を向上させることが可能となる。
【0040】
返送手段5′は、図3に示すように、濃縮部4からのフロックを反応槽71に返送するものである。その他の構成は、第1の実施態様の返送手段5と同一である。
濃縮部4に濃縮されたフロックは凝集効果が低下している可能性が高いため、返送手段5′によって反応槽71に返送することにより、再度凝集剤が添加された状態でスラッジブランケット部3に導入することが可能となる。これにより、スラッジブランケット部3に導入される被処理水W中の凝集剤濃度を下げることなく、処理を継続することが可能となる。
【0041】
また、返送手段5′を制御する制御部6′を設けるものとしてもよい。なお、制御部6′は、第1の実施態様の制御部6と同一のものを用いてもよく、さらに凝集剤添加手段8による凝集剤の添加量の制御を併せて行うものとしてもよい。例えば、界面計61による測定結果から、仮想境界層Kの高さが減少し、スラッジブランケット部3内のフロックの凝集状態が悪化傾向にあることが認められた場合、フロックの返送と同時に、凝集剤の添加量を増加させるように制御するものとすることができる。なお、凝集剤の添加量を制御する手段は特に限定されない。例えば、凝集剤添加手段8に設けたバルブの開閉を制御するものなどが挙げられる。
【0042】
[第3の実施態様]
図4は、本発明の第3の実施態様の固液分離装置102の概略説明図である。
本実施態様に係る固液分離装置102は、図4に示すように、凝集沈殿槽1a内に外筒水槽11a及び内筒水槽12aを有するものである。なお、内筒水槽12aは、第1の実施態様における内筒水槽12の上端縁部の一部高さを低くしたものである。また、内筒水槽12aの外周壁に仕切り板9を設け、下降流ゾーンZ2を形成するものである。
なお、本実施態様における固液分離装置102の構成のうち、第1の実施態様の固液分離装置100又は第2の実施態様の固液分離装置101の構成と同じものについては、説明及び図示を省略する。
【0043】
図5は、第3の実施態様の固液分離装置102における凝集沈殿槽1aの詳細説明図である。
図5に示すように、本実施態様における固液分離装置102は、内筒水槽12aの上端縁部の高さを一部低くし、内筒水槽12aの外周壁に仕切り板9を設け、下降流ゾーンZ2を形成する。なお、下降流ゾーンZ2を形成する内筒水槽12aの上端縁部U1は、仕切り板9で仕切られた隣の内筒水槽12aの上端縁部U2より低く設定され、例えば、1~100cmほど低くされている。
【0044】
仕切り板9は、その外側の端部が外筒水槽11aの内周面に連結されるとともに、内側の端部が内筒水槽12aの外周面に連結されることで、内筒水槽12aを外筒水槽11aに連結している。また、仕切り板9は、内筒水槽12aの上端から下端まで設けられている。
【0045】
図4及び図5に示すように、スラッジブランケット部3から流出したフロックは、下降流ゾーンZ2をスムーズに下降し、分離ゾーンZ3に運ばれて被処理水Wと分離される。また、分離ゾーンZ3でフロックが分離された被処理水Wは、下降流ゾーンZ2以外の外筒水槽11と内筒水槽12の間の領域を上昇し、上昇流ゾーンZ4を形成する。したがって、本実施態様においては、下降流ゾーンZ2、分離ゾーンZ3、上昇流ゾーンZ4の順に被処理水Wの流れが形成される。これにより、下降流ゾーンZ2ではフロックの沈降がよりスムーズに行われ、かつ上昇流ゾーンZ4ではフロックが上昇流に乗って上昇することが抑制できるため、処理水W1をより一層清澄にすることができる。
【0046】
特に、スラッジブランケット部3内のフロックの沈降性が一時的に急速に悪化して、多量のフロックの越流が起きる場合においても、下降流ゾーンZ2、分離ゾーンZ3、上昇流ゾーンZ4はそれぞれ独立して機能するため、清澄層Cへの影響を少なくすることが可能となり、処理水質の悪化を抑制することができる。
【0047】
なお、内筒水槽12aに設ける仕切り板9の数は特に限定されない。例えば、図5に示すように、内筒水槽12aに2枚の仕切り板9を設け、内筒水槽12aの外周壁の右側半分を下降流ゾーンZ2とし、左側半分を上昇流ゾーンZ4とするものに限らず、仕切り板9を3枚以上設け、下降流ゾーンZ2と上昇流ゾーンZ4を交互に設けるものとしてもよい。この際、下降流と上昇流に係る被処理水Wの流量のバランスをとるため、仕切り板9は偶数枚とし、下降流ゾーンZ2と上昇流ゾーンZ4の区画数を同じとすることが好ましい。
【0048】
また、本実施態様の固液分離装置102において、第2の実施態様の固液分離装置101における反応槽7及び返送手段5′の構成を用いるものとしてもよい。
【0049】
なお、上述した実施態様は固液分離装置の一例を示すものである。本発明に係る固液分離装置は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る固液分離装置を変形してもよい。
【0050】
例えば、本実施態様の固液分離装置は、外筒水槽及び内筒水槽による二重構造式の凝集沈殿槽を用いているが、スラッジブランケット部と濃縮部を独立した構成として備えるものであれば特に限定されない。例えば、凝集沈殿槽内に水平に配置された底板と、底板の外周の端部の一部から上方に向かって突出して延び、凝集沈殿槽周壁に連結された側壁とによって、底板の上方及び側壁の内周側に画成された区画内にフロックの流動層(スラッジブランケット部)を形成させ、一方で、底板の下方及び側壁の外周側に画成された区画を濃縮部とするものとしてもよい。
【0051】
また、本実施態様の固液分離装置は、被処理水導入部としてフィードパイプを用いているが、被処理水を槽内に導入できるものであれば特に限定されない。本実施態様に示したフィードパイプを設けることなく、導入管が外筒水槽の槽周壁及び内筒水槽の槽周壁を挿通して内筒水槽の内に被処理水を直接導入するものであってもよい。これにより、装置の部品点数を削減することが可能となる。
【0052】
また、本実施態様の固液分離装置は、スラッジブランケット部の仮想境界層近傍における処理水の水質を測定する水質検知部を設けるものとしてもよい。例えば、水質検知部の測定結果をスラッジブランケット部の状態を判断する指標として用い、スラッジブランケット部内のフロックの凝集状態が悪化傾向にあると判断された場合、返送手段により濃縮部のフロックを凝集沈殿槽に返送して循環させる。これにより、スラッジブランケット部における仮想境界層の高さを調節することに加え、フロックが成長する核としての種晶を供給することができる。種晶を核としてフロックを大きな粒子として成長させることで、凝集沈殿槽における固形物と処理水との固液分離性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の固液分離装置は、固形物を含む被処理水の処理に利用されるものである。特に、本発明の固液分離装置は、被処理水に凝集剤を添加して凝集沈殿処理を行う凝集沈殿装置として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0054】
100,101,102 固液分離装置、1,1a 凝集沈殿槽、11,11a 外筒水槽、12,12a 内筒水槽、13 センターシャフト、14 ロータリージョイント、2 被処理水導入部、21 導入管、22 フィードパイプ、22a 上部、22b 下部、23 ロータリージョイント、24 ディストリビュータ、24a 被処理水吐出口、3 スラッジブランケット部、4 濃縮部、41 濃縮汚泥掻き寄せ機、5,5′ 返送手段、6,6′ 制御部、61 界面計、7,71,72 反応槽、8,81,82 凝集剤添加手段、9 仕切り板、L1 処理水排出ライン、L2 汚泥排出ライン、L3 凝集剤供給ライン、L4 分岐ライン、C 清澄層、K 仮想境界層、L 軸、M モーター、U1,U2 上端縁部、W 被処理水、W0 原水、W1 処理水、Z1 フロック成長ゾーン、Z2 下降流ゾーン、Z3 分離ゾーン、Z4 上昇流ゾーン
図1
図2
図3
図4
図5