IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】歯車加工装置及び歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 5/16 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
B23F5/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2016216680
(22)【出願日】2016-11-04
(65)【公開番号】P2018069435
(43)【公開日】2018-05-10
【審査請求日】2019-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】張 琳
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚
(72)【発明者】
【氏名】中野 浩之
【審査官】中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第00522453(EP,A1)
【文献】特開昭62-114816(JP,A)
【文献】西独国特許出願公告第02603826(DE,B)
【文献】特開昭59-024915(JP,A)
【文献】特開平09-155635(JP,A)
【文献】特開平03-149115(JP,A)
【文献】特開2012-127434(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0174589(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 5/16
B23F 21/10
F16D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工物としての歯車を回転可能に支持する加工物支持装置と、
加工用工具と、
前記加工用工具を回転可能に支持する工具支持装置と、
前記加工物に前記歯車の歯を加工するために、前記加工用工具の回転軸線を前記加工物の回転軸線に対し傾斜させた状態で、前記加工用工具を前記加工物と同期回転させながら前記加工物の回転軸線方向に相対的に移動操作する制御を行う制御装置と、
を備える歯車加工装置であって、
前記歯車の歯の側面において予め主となる歯面が加工された面に対して、前記主となる歯面に対しねじれ角が異なりかつ互いにねじれ角が異なる一対の従となる歯面を、前記加工物の回転軸線方向の一方側及び他方側にそれぞれ加工するように構成され
前記加工用工具は、
すくい面が前記加工用工具の回転軸線方向の一方側を向く第一工具刃と、
すくい面が前記加工用工具の回転軸線方向の他方側を向く第二工具刃と
を有し、
前記制御装置は、
所定の交差角に設定し、前記加工用工具を前記加工物の回転軸線方向の一方側に相対的に移動操作させて、前記第一工具刃を用いて、前記加工物の回転軸線方向の他方側に設けられる前記一対の従となる歯面の一方を加工するように制御し、
前記第一工具刃で前記加工物の回転軸線方向の他方側に設けられる前記一対の従となる歯面の一方を加工するときの交差角とは異なる交差角に設定し、前記加工用工具を前記加工物の回転軸線方向の他方側に相対的に移動操作させて、前記第二工具刃を用いて、前記加工物の回転軸線方向の一方側に設けられる前記一対の従となる歯面の他方を加工するように制御する、歯車加工装置。
【請求項2】
前記歯車加工装置は、前記歯車の歯の側面において予め前記主となる歯面である第一歯面が加工された面に対して、前記第一歯面における前記加工物の回転軸線方向の他方側に設けられる前記一対の従となる歯面の一方である第二歯面、及び前記第一歯面における前記加工物の回転軸線方向の一方側に設けられる前記一対の従となる歯面の他方である第三歯面を加工するように構成され
前記第一工具刃の刃すじは、予め加工された前記第一歯面に対し前記第二歯面を加工可能なように、前記第二歯面のねじれ角及び前記加工物の回転軸線と前記加工用工具の回転軸線との交差角に基づいて設定されたねじれ角を有し、
前記第二工具刃の刃すじは、予め加工された前記第一歯面に対し前記第三歯面を加工可能なように、前記第三歯面のねじれ角及び前記加工物の回転軸線と前記加工用工具の回転軸線との交差角に基づいて設定されたねじれ角を有し、
前記制御装置は、
前記第一工具刃を用いて、前記第二歯面を加工するように制御し、
前記第二工具刃を用いて、前記第三歯面を加工するように制御する、
請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記歯車加工装置は、
前記歯車の歯の一方側面において予め前記主となる歯面である第一歯面が加工された面に対して、前記第一歯面における前記加工物の回転軸線方向の他方側に設けられる前記一対の従となる歯面の一方である第二歯面、及び前記第一歯面における前記加工物の回転軸線方向の一方側に設けられる前記一対の従となる歯面の他方である第三歯面を加工するように構成され
前記歯車の歯の他方側面において予め前記主となる歯面である第四歯面が加工された面に対して、前記第四歯面における前記加工物の回転軸線方向の一方側に設けられる前記一対の従となる歯面の他方である第五歯面、及び前記第四歯面における前記加工物の回転軸線方向の他方側に設けられる前記一対の従となる歯面の一方である第六歯面を加工するように構成され
前記第一工具刃の一方側面の刃すじは、予め加工された前記第一歯面に対し前記第二歯面を加工可能なように、前記第二歯面のねじれ角及び前記加工物の回転軸線と前記加工用工具の回転軸線との前記第二歯面用の交差角に基づいて設定されたねじれ角を有し、
前記第一工具刃の他方側面の刃すじは、前記第一工具刃の一方側面の刃すじのねじれ角と同一角度のねじれ角を有し、
前記第二工具刃の一方側面の刃すじは、予め加工された前記第一歯面に対し前記第三歯面を加工可能なように、前記第三歯面のねじれ角及び前記加工物の回転軸線と前記加工用工具の回転軸線との前記第三歯面用の交差角に基づいて設定されたねじれ角を有し、
前記第二工具刃の他方側面の刃すじは、前記第二工具刃の一方側面の刃すじのねじれ角と同一角度のねじれ角を有し、
前記制御装置は、
前記第二歯面用の交差角に設定し、前記第一工具刃を用いて、予め加工された前記第一歯面に対して前記第二歯面を加工するように制御し、
前記第六歯面のねじれ角及び前記第一工具刃の他方側面の刃すじのねじれ角とに基づいて求まる前記第六歯面用の交差角に設定し、前記第一工具刃を用いて、予め加工された前記第四歯面に対して前記第六歯面を加工するように制御し、
前記第一工具刃で前記第二歯面を加工するときの交差角とは異なる前記第三歯面用の交差角に設定し、前記第二工具刃を用いて、予め加工された前記第一歯面に対して前記第三歯面を加工するように制御し、
前記第一工具刃で前記第六歯面を加工するときの交差角とは異なる交差角であって前記第五歯面のねじれ角及び前記第二工具刃の他方側面の刃すじのねじれ角とに基づいて求まる前記第五歯面用の交差角に設定し、前記第二工具刃を用いて、予め加工された前記第四歯面に対して前記第五歯面を加工するように制御する、請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記歯車は、シンクロメッシュ機構のスリーブであり、
前記歯車加工装置は、前記従となる歯面として、前記スリーブの内周歯に設けられるギヤ抜け防止部の歯面を加工するように構成されている、請求項1-3の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
前記第一工具刃の刃すじと前記第二工具刃の刃すじは、同一角度のねじれ角を有する、請求項1-4の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項6】
加工用工具の回転軸線を加工物の回転軸線に対し傾斜させた状態で、前記加工用工具を前記加工物と同期回転させながら前記加工物の回転軸線方向に相対的に移動操作することにより、前記加工物に歯車の歯を切削加工する歯車加工方法であって、
前記歯車の歯の側面において予め主となる歯面が加工された面に対して、前記主となる歯面に対しねじれ角が異なりかつ互いにねじれ角が異なる一対の従となる歯面を、前記加工物の回転軸線方向の一方側及び他方側にそれぞれ加工し
前記加工用工具は、
すくい面が前記加工用工具の回転軸線方向の一方側を向く第一工具刃と、
すくい面が前記加工用工具の回転軸線方向の他方側を向く第二工具刃と
を有し、
前記歯車加工方法は、
所定の交差角に設定し、前記加工用工具を前記加工物と同期回転させながら前記加工物の回転軸線方向の一方側に相対的に移動操作させて前記第一工具刃を用いて、前記加工物の回転軸線方向の他方側に設けられる前記一対の従となる歯面の一方を加工する第一加工工程と、
前記第一加工工程において前記第一工具刃で前記加工物の回転軸線方向の他方側に設けられる前記一対の従となる歯面の一方を加工するときの交差角とは異なる交差角に設定し、前記加工用工具を前記加工物と同期回転させながら前記加工物の回転軸線方向の他方側に相対的に移動操作させて前記第二工具刃を用いて、前記加工物の回転軸線方向の一方側に設けられる前記一対の従となる歯面の他方を加工する第二加工工程と、
を備える歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工用工具及び加工物を同期回転させて切削加工により歯車を加工する歯車加工装置及び歯車加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に用いられるトランスミッションには、円滑な変速操作を行うためにシンクロメッシュ機構が設けられる。図17に示すように、キー式のシンクロメッシュ機構110は、メーンシャフト111、メーンドライブシャフト112、クラッチハブ113、キー114、スリーブ115、メーンドライブギヤ116、クラッチギヤ117、シンクロナイザーリング118等を備える。なお、メーンドライブギヤ116、クラッチギヤ117、シンクロナイザーリング118は、スリーブ115を挟んで両側に配置される。
【0003】
メーンシャフト111とメーンドライブシャフト112は、同軸配置される。メーンシャフト111には、クラッチハブ113がスプライン嵌合され、メーンシャフト111とクラッチハブ113は共に回転する。クラッチハブ113の外周の3か所には、キー114が図略のスプリングで支持される。スリーブ115の内周には、内歯(スプライン)115aが形成され、スリーブ115はキー114とともにクラッチハブ113の外周に形成される図略のスプラインに沿って回転軸線LL方向に摺動する。
【0004】
メーンドライブシャフト112には、メーンドライブギヤ116が嵌合され、メーンドライブギヤ116のスリーブ115側には、テーパコーン117bが突設されたクラッチギヤ117が一体形成される。スリーブ115とクラッチギヤ117の間には、シンクロナイザーリング118が配置される。クラッチギヤ117の外歯117a及びシンクロナイザーリング118の外歯118aは、スリーブ115の内歯115aと噛み合わせ可能に形成される。シンクロナイザーリング118の内周は、テーパコーン117bの外周と摩擦係合可能なテーパ状に形成される。
【0005】
次に、シンクロメッシュ機構110の図17の左方に動作する場合を説明するが、図17の右方に動作する場合も同様である。図18Aに示すように、図略のシフトレバーの操作により、スリーブ115及びキー114が図示矢印の回転軸線LL方向に移動する。キー114は、シンクロナイザーリング118を回転軸線LL方向に押して、シンクロナイザーリング118の内周をテーパコーン117bの外周に押し付ける。これにより、クラッチギヤ117、シンクロナイザーリング118及びスリーブ115は、同期回転を開始する。
【0006】
そして、図18Bに示すように、キー114は、スリーブ115に押し下げられてシンクロナイザーリング118を回転軸線LL方向にさらに押し付けるので、シンクロナイザーリング118の内周とテーパコーン117bの外周との密着度は増し、強い摩擦力が発生してクラッチギヤ117、シンクロナイザーリング118及びスリーブ115は同期回転する。クラッチギヤ117の回転数とスリーブ115の回転数が完全に同期すると、シンクロナイザーリング118の内周とテーパコーン117bの外周との摩擦力が消滅する。
【0007】
そして、スリーブ115及びキー114が図示矢印の回転軸線LL方向にさらに移動すると、キー114はシンクロナイザーリング118の溝118bに嵌って止まるが、スリーブ115はキー114の凸部114aを越えて移動し、スリーブ115の内歯115aがシンクロナイザーリング118の外歯118aと噛み合う。そして、図18Cに示すように、スリーブ115は図示矢印の回転軸線LL方向にさらに移動し、スリーブ115の内歯115aがクラッチギヤ117の外歯117aと噛み合う。以上により変速が完了する。
【0008】
以上のようなシンクロメッシュ機構110においては、走行中におけるクラッチギヤ117の外歯117aとスリーブ115の内歯115aとのギヤ抜け防止のため、図19及び図20に示すように、スリーブ115の内歯115aにおけるスリーブ115の回転軸線LL方向の一方側(以下、単に、回転軸線一方側Dbという)及び他方側(以下、単に、回転軸線他方側Dfという)には、テーパ状のギヤ抜け防止部120B,120Fが設けられ、各クラッチギヤ117の外歯117a,117aには、ギヤ抜け防止部120B,120Fとテーパ嵌合するテーパ状のギヤ抜け防止部117c,117cが設けられる。
【0009】
なお、図20では、クラッチギヤ117の外歯117aは、ギヤ抜け防止部120F側のみを示す。本例のギヤ抜け防止部120B,120Fは、内歯115aの頂面におけるスリーブ115の回転軸線LL方向の中央の仮想点に対し点対称形状で形成される。以下の説明では、スリーブ115の内歯115aの図示左側の側面115Aを左側面115Aといい、スリーブ115の内歯115aの図示右側の側面115Bを右側面115Bという。
【0010】
そして、スリーブ115の内歯115aの左側面115Aは、左歯面115b(本発明の「第一歯面」に相当)及び左歯面115bとねじれ角が異なるように左側面115Aの回転軸線他方側Dfに設けられる歯面121f(以下、他方側左テーパ歯面121fという、本発明の「第二歯面」に相当)、及び左歯面115bとねじれ角が異なるように左側面115Aの回転軸線一方側Dbに設けられる歯面122b(以下、一方側左テーパ歯面122bという、本発明の「第三歯面」に相当)を有する。
【0011】
また、スリーブ115の内歯115aの右側面115Bは、右歯面115c(本発明の「第四歯面」に相当)及び右歯面115cとねじれ角が異なるように右側面115Bの回転軸線一方側Dbに設けられる歯面121b(以下、一方側右テーパ歯面121bという、本発明の「第五歯面」に相当)、及び右歯面115cとねじれ角が異なるように右側面115Bの回転軸線他方側Dfに設けられる歯面122f(以下、他方側右テーパ歯面122fという、本発明の「第六歯面」に相当)を有する。
【0012】
本例では、左歯面115bのねじれ角は0度、他方側左テーパ歯面121f及び一方側右テーパ歯面121bのねじれ角はθf度である。また、右歯面115cのねじれ角は0度、一方側左テーパ歯面122b及び他方側右テーパ歯面122fのねじれ角はθb度である。そして、他方側左テーパ歯面121f及びこの他方側左テーパ歯面121fと左歯面115bを繋ぐ歯面121af(以下、他方側左サブ歯面121afという)、並びに他方側右テーパ歯面122f及びこの他方側右テーパ歯面122fと右歯面115cを繋ぐ歯面122af(以下、他方側右サブ歯面122afという)が、ギヤ抜け防止部120Fを構成する。
【0013】
そして、一方側左テーパ歯面122b及びこの一方側左テーパ歯面122bと左歯面115bを繋ぐ歯面122ab(以下、一方側左サブ歯面122abという)、並びに一方側右テーパ歯面121b及びこの一方側右テーパ歯面121bと右歯面115cを繋ぐ歯面121ab(以下、一方側右サブ歯面121abという)が、ギヤ抜け防止部120Bを構成する。なお、ギヤ抜け防止は、他方側左テーパ歯面121fとギヤ抜け防止部117cとがテーパ嵌合することにより、また、一方側右テーパ歯面121bとギヤ抜け防止部117cとがテーパ嵌合することにより達成される。
【0014】
このように、スリーブ115の内歯115aの構造は複雑であり、また、スリーブ115は大量生産が必要な部品であるため、一般的に、スリーブ115の内歯115aは、ブローチ加工やギヤシェーパ加工等により形成され、ギヤ抜け防止部120F,120Bは、ローリング加工(特許文献1,2参照)により形成される。しかし、ローリング加工は塑性加工であるため、ギヤ抜け防止部120F,120Bの加工精度は低くなる傾向にある。
【0015】
加工精度を高めるには、切削加工が望ましい。しかし、上述のように、ギヤ抜け防止部120B,120Fは、スリーブ115の内歯115aの回転軸線一方側Db及び回転軸線他方側Dfに設けられる。このため、歯車加工装置においては、回転軸線一方側Dbのギヤ抜け防止部120Bを加工するための加工用工具と、回転軸線他方側Dfのギヤ抜け防止部120Fを加工するための加工用工具とを工具交換し、さらに工具毎に位置合わせを行う必要がある。よって、加工時間が長く、また加工精度が低くなる傾向にある。
【0016】
特許文献3,4には、2つの刃を備える加工用工具が記載されているが、一方の刃は荒加工用であり、他方の刃は仕上げ加工用であるため、1つの当該加工用工具で上述の構成のギヤ抜け防止部120B,120Fを加工することはできない。また、特許文献5には、加工用工具を前進及び後退させてそれぞれ加工を行うことが記載されているが、同一の歯に対して加工を行うものであり、1つの当該加工用工具で上述の構成の2つのギヤ抜け防止部120B,120Fを加工することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】実開平6-61340号公報
【文献】特開2005-152940号公報
【文献】特開2015-217485号公報
【文献】特開2004-160645号公報
【文献】特開2014-172112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述のように、歯車加工装置においては、回転軸線一方側Dbのギヤ抜け防止部120Bを加工するための加工用工具と、回転軸線他方側Dfのギヤ抜け防止部120Fを加工するための加工用工具とを工具交換し、さらに工具毎に位置合わせを行う必要がある。よって、加工時間が長く、また加工精度が低くなる傾向にある。
【0019】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、歯車の回転軸線方向の一方側及び他方側にそれぞれ設けられるねじれ角が異なる歯面を高効率且つ高精度に加工できる歯車加工装置及び歯車加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様は、
加工物としての歯車を回転可能に支持する加工物支持装置と、
加工用工具と、
前記加工用工具を回転可能に支持する工具支持装置と、
前記加工物に前記歯車の歯を加工するために、前記加工用工具の回転軸線を前記加工物の回転軸線に対し傾斜させた状態で、前記加工用工具を前記加工物と同期回転させながら前記加工物の回転軸線方向に相対的に移動操作する制御を行う制御装置と、
を備える歯車加工装置であって、
前記歯車の歯の側面において予め主となる歯面が加工された面に対して、前記主となる歯面に対しねじれ角が異なりかつ互いにねじれ角が異なる一対の従となる歯面を、前記加工物の回転軸線方向の一方側及び他方側にそれぞれ加工するように構成され
前記加工用工具は、
すくい面が前記加工用工具の回転軸線方向の一方側を向く第一工具刃と、
すくい面が前記加工用工具の回転軸線方向の他方側を向く第二工具刃と
を有し、
前記制御装置は、
所定の交差角に設定し、前記加工用工具を前記加工物の回転軸線方向の一方側に相対的に移動操作させて、前記第一工具刃を用いて、前記加工物の回転軸線方向の他方側に設けられる前記一対の従となる歯面の一方を加工するように制御し、
前記第一工具刃で前記加工物の回転軸線方向の他方側に設けられる前記一対の従となる歯面の一方を加工するときの交差角とは異なる交差角に設定し、前記加工用工具を前記加工物の回転軸線方向の他方側に相対的に移動操作させて、前記第二工具刃を用いて、前記加工物の回転軸線方向の一方側に設けられる前記一対の従となる歯面の他方を加工するように制御する、歯車加工装置にある
【0021】
これにより、歯車加工装置は、1つの加工用工具で加工物の両端面側にそれぞれねじれ角が異なる複数の歯面を形成できるので、従来必要であった2つの加工用工具の工具交換や位置合わせを行う必要はなく、加工効率を向上でき、加工精度を高めることができる。
【0022】
本発明の他の態様は、
加工用工具の回転軸線を加工物の回転軸線に対し傾斜させた状態で、前記加工用工具を前記加工物と同期回転させながら前記加工物の回転軸線方向に相対的に移動操作することにより、前記加工物に歯車の歯を切削加工する歯車加工方法であって、
前記歯車の歯の側面において予め主となる歯面が加工された面に対して、前記主となる歯面に対しねじれ角が異なりかつ互いにねじれ角が異なる一対の従となる歯面を、前記加工物の回転軸線方向の一方側及び他方側にそれぞれ加工し
前記加工用工具は、
すくい面が前記加工用工具の回転軸線方向の一方側を向く第一工具刃と、
すくい面が前記加工用工具の回転軸線方向の他方側を向く第二工具刃と
を有し、
前記歯車加工方法は、
所定の交差角に設定し、前記加工用工具を前記加工物と同期回転させながら前記加工物の回転軸線方向の一方側に相対的に移動操作させて前記第一工具刃を用いて、前記加工物の回転軸線方向の他方側に設けられる前記一対の従となる歯面の一方を加工する第一加工工程と、
前記第一加工工程において前記第一工具刃で前記加工物の回転軸線方向の他方側に設けられる前記一対の従となる歯面の一方を加工するときの交差角とは異なる交差角に設定し、前記加工用工具を前記加工物と同期回転させながら前記加工物の回転軸線方向の他方側に相対的に移動操作させて前記第二工具刃を用いて、前記加工物の回転軸線方向の一方側に設けられる前記一対の従となる歯面の他方を加工する第二加工工程と、
を備える、歯車加工方法にある。
当該歯車加工方法によれば、上述した歯車加工装置における効果と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態に係る歯車加工装置の全体構成を示す図である。
図2図1の制御装置による工具設計処理を説明するためのフローチャートである。
図3図1の制御装置による工具状態設定処理を説明するためのフローチャートである。
図4A図1の制御装置による加工制御処理を説明するためのフローチャートである。
図4B図1の制御装置による加工制御処理を説明するための図4Aのフローの続きを示すフローチャートである。
図5A】加工用工具の概略構成を工具端面側から回転軸線方向に見た図である。
図5B図5Aの加工用工具の概略構成を径方向に見た一部断面図である。
図5C図5Bの加工用工具の工具刃の拡大図である。
図6】加工用工具を構成するカラーを示す斜視図である。
図7】加工用工具を工具ホルダ及び回転主軸に組み付けた状態を示す図である。
図8A】加工用工具の第一工具を設計する際の加工用工具と加工物との寸法関係を示す第一の図である。
図8B】加工用工具の第一工具を設計する際の加工用工具と加工物との位置関係を示す第一の図である。
図8C】加工用工具の第一工具を設計する際の加工用工具と加工物との寸法関係を示す第二の図である。
図8D】加工用工具の第一工具を設計する際の加工用工具と加工物との位置関係を示す第二の図である。
図9】加工用工具の刃先幅及び刃厚を求める際に使用する加工用工具の各部位を示す図である。
図10】加工用工具の第一工具(第二工具)の概略構成を径方向に見た図である。
図11A】加工用工具の回転軸線の方向の工具位置を変更するときの加工用工具と加工物との位置関係を示す図である。
図11B】軸線方向位置を変更したときの加工状態を示す第一の図である。
図11C】軸線方向位置を変更したときの加工状態を示す第二の図である。
図11D】軸線方向位置を変更したときの加工状態を示す第三の図である。
図12A】加工物の回転軸線に対する加工用工具の回転軸線の傾斜を表す交差角を変更するときの加工用工具と加工物との位置関係を示す図である。
図12B】交差角を変更したときの加工状態を示す第一の図である。
図12C】交差角を変更したときの加工状態を示す第二の図である。
図12D】交差角を変更したときの加工状態を示す第三の図である。
図13A】加工用工具の回転軸線方向位置及び交差角を変更するときの加工用工具と加工物との位置関係を示す図である。
図13B】軸線方向位置及び交差角を変更したときの加工状態を示す第一の図である。
図13C】軸線方向位置及び交差角を変更したときの加工状態を示す第二の図である。
図14A】他方側左テーパ歯面を加工する前の加工用工具の位置を径方向に見た図である。
図14B】他方側左テーパ歯面を加工するときの加工用工具の位置を径方向に見た図である。
図14C】他方側左テーパ歯面を加工した後の加工用工具の位置を径方向に見た図である。
図15A】加工用工具の第二工具を設計する際の加工用工具と加工物との寸法関係を示す第二の図である。
図15B】加工用工具の第二工具を設計する際の加工用工具と加工物との位置関係を示す第二の図である。
図16A】一方側左テーパ歯面を加工する前の加工用工具の位置を径方向に見た図である。
図16B】一方側左テーパ歯面を加工するときの加工用工具の位置を径方向に見た図である。
図16C】一方側左テーパ歯面を加工した後の加工用工具の位置を径方向に見た図である。
図17】加工物であるスリーブを有するシンクロメッシュ機構を示す断面図である。
図18A図17のシンクロメッシュ機構の作動開始前の状態を示す断面図である。
図18B図17のシンクロメッシュ機構の作動中の状態を示す断面図である。
図18C図16のシンクロメッシュ機構の作動完了後の状態を示す断面図である。
図19】加工物であるスリーブのギヤ抜け防止部を示す斜視図である。
図20図18のスリーブのギヤ抜け防止部を径方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(1.歯車加工装置の機械構成)
本実施形態では、歯車加工装置の一例として、5軸マシニングセンタを例に挙げ、図1を参照して説明する。つまり、当該歯車加工装置1は、駆動軸として、相互に直交する3つの直進軸(X,Y,Z軸)及び2つの回転軸(X軸線に平行なA軸、A軸線に直角なC軸)を有する装置である。
【0025】
ここで、背景技術で述べたように、ギヤ抜け防止部120B,120Fは、ブローチ加工やギヤシェーパ加工等により形成されたスリーブ115の内歯115aに対し、2つの加工用工具で切削加工を行うことで形成されるため、工具交換及び工具毎の位置合わせが必要となり、加工時間が長く、また加工精度が低くなる傾向にある。そこで、上述の歯車加工装置1では、先ず、ブローチ加工やギヤシェーパ加工等によりスリーブ115の内歯115aを形成し、次に、後述する2つの工具刃(第一工具刃42af,第二工具刃42ab(図5B参照))を有する1つの加工用工具42による切削加工でスリーブ115の内歯115aに対しギヤ抜け防止部120F,120Bをそれぞれ形成する。
【0026】
すなわち、内歯115aが形成されたスリーブ115と加工用工具42とを同期回転させ、加工用工具42の第一工具刃42afを回転軸線他方側Dfから回転軸線一方側Dbに加工物Wの回転軸線Lw方向に送って切削加工することによりギヤ抜け防止部120Fを形成し、加工用工具42の第二工具刃42abを回転軸線一方側Dbから回転軸線他方側Dfに加工物Wの回転軸線Lw方向に送って切削加工することによりギヤ抜け防止部120Bを形成する。これにより、工具交換及び工具毎の位置合わせが不要となり、ギヤ抜け防止部120F,120Bの加工時間を従来より短縮でき、ギヤ抜け防止部120F,120Bの加工精度を従来より向上できる(図19及び図20参照)。
【0027】
図1に示すように、歯車加工装置1は、ベッド10と、コラム20と、サドル30と、回転主軸40と、テーブル50と、チルトテーブル60と、ターンテーブル70と、加工物保持具80と、制御装置100等とから構成される。なお、図示省略するが、ベッド10と並んで既知の自動工具交換装置が設けられる。
【0028】
ベッド10は、ほぼ矩形状からなり、床上に配置される。このベッド10の上面には、コラム20をX軸線に平行な方向に駆動するための、図略のX軸ボールねじが配置される。そして、ベッド10には、X軸ボールねじを回転駆動するX軸モータ11cが配置される。
【0029】
コラム20のY軸線に平行な側面(摺動面)20aには、サドル30をY軸線に平行な方向に駆動するための、図略のY軸ボールねじが配置される。そして、コラム20には、Y軸ボールねじを回転駆動するY軸モータ23cが配置される。
【0030】
回転主軸40は、加工用工具42を支持し、サドル30内に回転可能に支持され、サドル30内に収容された主軸モータ41により回転される。加工用工具42は、図略の工具ホルダに保持されて回転主軸40の先端に固定され、回転主軸40の回転に伴って回転する。また、加工用工具42は、コラム20及びサドル30の移動に伴ってベッド10に対してX軸線に平行な方向及びY軸線に平行な方向に移動する。なお、加工用工具42の詳細は後述する。
【0031】
さらに、ベッド10の上面には、テーブル50をZ軸線に平行な方向に駆動するための、図略のZ軸ボールねじが配置される。そして、ベッド10には、Z軸ボールねじを回転駆動するZ軸モータ12cが配置される。
【0032】
テーブル50の上面には、チルトテーブル60を支持するチルトテーブル支持部63が設けられる。そして、チルトテーブル支持部63には、チルトテーブル60がA軸線に平行な軸線回りで回転(揺動)可能に設けられる。チルトテーブル60は、テーブル50内に収容されたA軸モータ61により回転(揺動)される。
【0033】
チルトテーブル60には、ターンテーブル70がC軸線に平行な軸線回りで回転可能に設けられる。ターンテーブル70には、加工物としてスリーブ115を保持する加工物保持具80が装着される。ターンテーブル70は、スリーブ115及び加工物保持具80とともにC軸モータ62により回転される。
【0034】
制御装置100は、加工制御部101と、工具設計部102と、工具状態演算部103と、記憶部104等とを備える。ここで、加工制御部101、工具設計部102、工具状態演算部103及び記憶部104は、それぞれ個別のハードウエアにより構成することもできるし、ソフトウエアによりそれぞれ実現する構成とすることもできる。
【0035】
加工制御部101は、主軸モータ41を制御して、加工用工具42を回転させ、X軸モータ11c、Z軸モータ12c、Y軸モータ23c、A軸モータ61及びC軸モータ62を制御して、スリーブ115と加工用工具42とをX軸線に平行な方向、Z軸線に平行な方向、Y軸線に平行な方向、A軸線に平行な軸線回り及びC軸線に平行な軸線回りに相対移動することにより、スリーブ115の切削加工を行う。
【0036】
工具設計部102は、詳細は後述するが、加工用工具42の第一工具刃42af及び第二工具刃42abのねじれ角β、本例では第一工具刃42af及び第二工具刃42abは同一形状であり同一ねじれ角β(図5C参照)等を求めて加工用工具42を設計する。詳細は後述するが、加工用工具42は、第一工具刃42afを有する第一工具42F及び第一工具42Fと同一形状の第二工具刃42abを有する第二工具42Bを一体化して構成される。
工具状態演算部103は、詳細は後述するが、スリーブ115に対する加工用工具42の相対的な位置及び姿勢である工具状態を演算する。
【0037】
記憶部104には、第一工具42F及び第二工具42Bに関する工具データ、すなわち刃先円直径da、基準円直径d、刃末のたけha、モジュールm、転位係数λ、圧力角α、正面圧力角αt及び刃先圧力角αa、及びスリーブ115の切削加工を行うための加工データは予め記憶される。また、記憶部104は、第一工具42F及び第二工具42Bを設計する際に入力される第一工具刃42af及び第二工具刃42abの刃数Z等を記憶し、また、工具設計部102で設計された第一工具42F及び第二工具42Bの形状データや工具状態演算部103で演算された工具状態を記憶する。
【0038】
(2.加工用工具)
図5A及び図5Bに示すように、加工用工具42は、第一工具42F、第二工具42B及び第一工具42Fと第二工具42Bに挟持されるカラー44を備え、本例では第一工具42F及び第二工具42Bは同一形状の工具である。加工用工具42は、第一工具42Fの第一工具刃42afのすくい面42cfが加工用工具42の工具軸線(回転軸線)L方向の一方側を向くように第一工具42Fを配置するとともに、第二工具42Bの第二工具刃42abのすくい面42cbが加工用工具42の工具軸線L方向の他方側を向くように第二工具42Bを配置し、第一工具42Fと第二工具42Bの間にカラー44を配置した構成となっている。
【0039】
図5Aに示すように、加工用工具42を第一工具42Fの工具端面42M側から工具軸線L方向に見たときの第一工具刃42af(第二工具刃42ab)の形状は、本例ではインボリュート曲線形状と同一形状に形成される。そして、図5Bに示すように、第一工具42Fの第一工具刃42af及び第二工具42Bの第二工具刃42abには、工具端面42M側に工具軸線Lと直角な平面に対し、角度γ傾斜したすくい角が設けられ、工具周面42N側に工具軸線Lと平行な直線に対し、角度δ傾斜した前逃げ角が設けられる。そして、図5Cに示すように、第一工具刃42af(第二工具刃42ab)の刃すじ42bf(42bb)は、工具軸線Lと平行な直線に対し、角度β傾斜したねじれ角を有する。
【0040】
図6に示すように、カラー44は、円筒状に形成され、カラー44の両端面には、180度間隔で径方向に延びる直方体状の回り止め用の2つのキー44aがそれぞれ設けられる。図7に示すように、加工用工具42を工具ホルダ45に組み付けるときは、先ず、工具ホルダ45の先端側の工具取付軸45aに、第二工具42Bを第二工具刃42abが工具ホルダ45の本体45b側を向くように挿入し、次にカラー44を挿入する。
【0041】
次に、第一工具42Fを第一工具刃42afが工具取付軸45aの先端側(外側)を向くように挿入し、最後に工具取付軸45aの先端に設けられるねじ穴45cにワッシャ付きボルト45dを締結する。このとき、カラー44の各キー44aは、第一工具42Fの軸部42dfに設けられるキー溝42ef及び第二工具42Bの軸部42dbに設けられるキー溝42ebに嵌め込まれる。これにより、第一工具42Fの第一工具刃42af及び第二工具42Bの第二工具刃42abは、同位相で回転可能となる。
【0042】
加工用工具42が取り付けられた工具ホルダ45は、自動工具交換装置の工具ストッカに格納され、加工開始前に自動工具交換装置の工具交換アームで工具ストッカから取り出されて回転主軸40に取り付けられる。このとき、工具ホルダ45に設けられるキー45eは、回転主軸40に設けられるキー溝40aに嵌め込まれる。工具ホルダ45のキー45eと回転主軸40のキー溝40aとの間にはガタがあるが、工具交換アームで加工用工具42が取り付けられた工具ホルダ45を保持したまま回転主軸40を回転させることで、上記ガタが詰まって加工用工具42の回転主軸40に対する回転位相が設定される。その後、回転主軸40において工具ホルダ45をクランプし、工具交換アームによる工具ホルダ45の保持を解除する。
【0043】
ここで、第一工具42F(第二工具42B)でねじれ角が異なる他方側左テーパ歯面121f(一方側右テーパ歯面121b)及び他方側右テーパ歯面122f(一方側左テーパ歯面122b)を切削加工する場合、第一工具刃42af(第二工具刃42ab)の左刃面と右刃面のねじれ角が異なる加工用工具42を用いる方法と、第一工具刃42af(第二工具刃42ab)の左刃面と右刃面のねじれ角が同一の加工用工具42を用いる方法が考えられる。
【0044】
本例では、第一工具刃42af(第二工具刃42ab)の左刃面と右刃面のねじれ角が同一の加工用工具42を用いて切削加工する場合を説明する。この場合、他方側左テーパ歯面121f(一方側右テーパ歯面121b)を切削加工するときの第一工具42F(第二工具42B)の交差角φfと、他方側右テーパ歯面122f(一方側左テーパ歯面122b)を切削加工するときの第一工具42F(第二工具42B)の交差角φbを異ならせる必要がある。以下では、第一工具42Fを設計する場合について説明するが、第二工具42Bを設計する場合も同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0045】
上述のように、スリーブ115の他方側左テーパ歯面121fは、既に形成されたスリーブ115の内歯115aに対し、第一工具42Fで切削加工を行うことで形成される。このため、第一工具42Fの第一工具刃42afは、内歯115aを切削加工中に隣り合う内歯115aに干渉せずに、他方側左サブ歯面121afを含む他方側左テーパ歯面121fを確実に切削加工できる形状にすることが必要となる。
【0046】
具体的には、図8Aに示すように、第一工具刃42afが、他方側左テーパ歯面121fの歯すじ長ff分だけ切削したとき、第一工具刃42afの刃先幅Saが、他方側左サブ歯面121afの歯すじ長gfより大きく、且つ第一工具刃42afの基準円Cb上の刃厚Ta(図9参照)が、他方側左テーパ歯面121fとこの他方側左テーパ歯面121fに対向する他方側右テーパ歯面122fの開放端部との距離Hf(以下、歯面間隔Hfという)より小さくなるように第一工具刃42afを設計することが必要となる。このとき、第一工具刃42afの耐久性、例えば欠損等も考慮して第一工具刃42afの刃先幅Sa及び第一工具刃42afの基準円Cb上の刃厚Taを設定する。
【0047】
この第一工具刃42afの設計には、図8Bに示すように、先ず、他方側左テーパ歯面121fのねじれ角θfと第一工具刃42afのねじれ角βとの差で表される交差角φf(以下、加工用工具42の交差角φfという)を設定する必要がある。他方側左テーパ歯面121fのねじれ角θfは、既知の値であり、加工用工具42の交差角φfは、歯車加工装置1によって設定可能範囲が設定されているので、作業者は任意の交差角φfを暫定的に設定する。
【0048】
次に、既知の他方側左テーパ歯面121fのねじれ角θf及び設定した加工用工具42の交差角φfから第一工具刃42afのねじれ角βを求め、第一工具刃42afの刃先幅Sa及び第一工具刃42afの基準円Cb上の刃厚Taを求める。以上の処理を繰り返すことで、他方側左テーパ歯面121fを切削加工するための最適の第一工具刃42afを有する第一工具42Fを設計する。以下に、第一工具刃42afの刃先幅Sa及び第一工具刃42afの基準円Cb上の刃厚Taを求めるための演算例を説明する。
【0049】
図9に示すように、第一工具刃42afの刃先幅Saは、刃先円直径da及び刃先円刃厚の半角Ψaで表される(式(1)参照)。
【0050】
【数1】
【0051】
刃先円直径daは、基準円直径d及び刃末のたけhaで表され(式(2)参照)、さらに、基準円直径dは、第一工具刃42afの刃数Z、第一工具刃42afの刃すじ42bfのねじれ角β及びモジュールmで表され(式(3)参照)、刃末のたけhaは、転位係数λ及びモジュールmで表される(式(4)参照)。
【0052】
【数2】
【0053】
【数3】
【0054】
【数4】
【0055】
刃先円刃厚の半角Ψaは、第一工具刃42afの刃数Z、転位係数λ、圧力角α、正面圧力角αt及び刃先圧力角αaで表される(式(5)参照)。なお、正面圧力角αtは、圧力角α及び第一工具刃42afの刃すじ42bfのねじれ角βで表すことができ(式(6)参照)、刃先圧力角αaは、正面圧力角αt、刃先円直径da及び基準円直径dで表すことができる(式(7)参照)。
【0056】
【数5】
【0057】
【数6】
【0058】
【数7】
【0059】
また、第一工具刃42afの刃厚Taは、基準円直径d及び刃厚Taの半角Ψで表される(式(8)参照)。
【0060】
【数8】
【0061】
基準円直径dは、第一工具刃42afの刃数Z、第一工具刃42afの刃すじ42bfのねじれ角β及びモジュールmで表される(式(9)参照)。
【0062】
【数9】
【0063】
刃厚Taの半角Ψは、第一工具刃42afの刃数Z、転位係数λ及び圧力角αで表される(式(10)参照)。
【0064】
【数10】
【0065】
以上により、図10に示すように、第一工具42Fは、工具端面42Mを図示下方に向けて工具軸線Lに直角な方向から見たとき、第一工具刃42afの刃すじ42bfは、左下方から右上方に傾斜するねじれ角βを有するように設計される。以上の第一工具42F及び第二工具42Bの設計は、制御装置100の工具設計部102において行われるものであり、その処理の詳細は後述する。
【0066】
(3.歯車加工装置における加工用工具の工具状態)
次に、設計した加工用工具42を歯車加工装置1に適用し、加工用工具42の工具状態として加工用工具42の工具軸線Lの方向の工具位置(以下、加工用工具42の軸線方向位置という)や加工用工具42の交差角φfを変化させて、他方側左テーパ歯面121fを切削加工したときの加工精度について検討する。なお、他方側右テーパ歯面122fを切削加工したときの加工精度も同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0067】
例えば、図11Aに示すように、加工用工具42の軸線方向位置、すなわち加工用工具42の工具端面42Mと工具軸線Lとの交点Pが、スリーブ115の回転軸線Lw上に位置する場合(オフセット量0)、加工用工具42の工具軸線L方向に距離+dだけオフセットした場合(オフセット量+d)、及び加工用工具42の工具軸線L方向に距離-dだけオフセットした場合(オフセット量-d)で他方側左テーパ歯面121fを加工した。なお、加工用工具42の交差角φfは全て一定とした。
【0068】
その結果、他方側左テーパ歯面121fの加工状態は、図11B図11C図11Dに示すようになった。なお、図中、太い実線Eは、設計上の他方側左テーパ歯面121fのインボリュート曲線を直線に変換して表したもので、ドット部分Dは、切削除去部分を表す。
【0069】
図11Bに示すように、オフセット量0では、加工された他方側左テーパ歯面121fは、設計上のインボリュート曲線に近い形状で加工される。一方、図11Cに示すように、オフセット量+dでは、加工された他方側左テーパ歯面121fは、設計上のインボリュート曲線に対し、図示右方向(点線矢印方向)、すなわち時計回りのピッチ円方向にずれた形状で加工され、図11Dに示すように、オフセット量-dでは、加工された他方側左テーパ歯面121fは、設計上のインボリュート曲線に対し、図示左方向(点線矢印方向)、すなわち反時計回りのピッチ円方向にずれた形状で加工される。よって、他方側左テーパ歯面121fの形状は、加工用工具42の工具軸線L方向位置を変更することにより、ピッチ円方向にずらすことができる。
【0070】
また、例えば、図12Aに示すように、加工用工具42の交差角が、角度φf、φb、φcの各場合で他方側左テーパ歯面121fを加工した。なお、各角度の大小関係は、φf>φb>φcである。その結果、他方側左テーパ歯面121fの加工状態は、図12B図12C図12Dに示すようになった。
【0071】
図12Bに示すように、交差角φfでは、加工された他方側左テーパ歯面121fは、設計上のインボリュート曲線に近い形状で加工される。一方、図12Cに示すように、交差角φbでは、加工された他方側左テーパ歯面121fは、設計上のインボリュート曲線に対し、歯先の幅がピッチ円方向(実線矢印方向)に狭まり、歯元の幅がピッチ円方向(実線矢印方向)に拡がった形状で加工され、図12Dに示すように、交差角φcでは、加工された他方側左テーパ歯面121fは、設計上のインボリュート曲線に対し、歯先の幅がピッチ円方向(実線矢印方向)にさらに狭まり、歯元の幅がピッチ円方向(実線矢印方向)にさらに拡がった形状で加工される。よって、他方側左テーパ歯面121fの形状は、加工用工具42の交差角を変更することにより、歯先のピッチ円方向の幅及び歯元のピッチ円方向の幅を変更できる。
【0072】
また、例えば、図13Aに示すように、加工用工具42の軸線方向位置、すなわち加工用工具42の工具端面42Mと工具軸線Lとの交点Pが、スリーブ115の回転軸線Lw上に位置し(オフセット量0)、且つ加工用工具42の交差角が、φfの場合、及び加工用工具42の工具軸線L方向に距離+dだけオフセットし(オフセット量+d)、且つ交差角φbの場合で他方側左テーパ歯面121fを加工した。その結果、他方側左テーパ歯面121fの加工状態は、図13B図13Cに示すようになった。
【0073】
図13Bに示すように、オフセット量0且つ交差角φfでは、加工された他方側左テーパ歯面121fは、設計上のインボリュート曲線に近い形状で加工される。一方、図13Cに示すように、オフセット量+d且つ交差角φbでは、加工された他方側左テーパ歯面121fは、設計上のインボリュート曲線に対し、図示右方向(点線矢印方向)、すなわち時計回りのピッチ円方向にずれ、且つ歯先の幅がピッチ円方向(実線矢印方向)に狭まり、歯元の幅がピッチ円方向(実線矢印方向)に拡がった形状で加工される。よって、他方側左テーパ歯面121fの形状は、加工用工具42の軸線方向位置、及び加工用工具42の交差角を変更することにより、ピッチ円方向にずらし、歯先の周方向の幅及び歯元のピッチ円方向の幅を変更できる。
【0074】
以上により、加工用工具42は、歯車加工装置1においてオフセット量0且つ交差角φfでセットされることで、他方側左テーパ歯面121fを高精度に切削加工できる。加工用工具42の工具状態の設定は、制御装置100の工具状態演算部103において行われるものであり、その処理の詳細は後述する。
【0075】
(4.制御装置の工具設計部による処理)
次に、制御装置100の工具設計部102による第一工具42Fの設計処理について、図2図8A図8B図8C及び図8Dを参照して説明する。なお、ギヤ抜け防止部120Fに関するデータ、すなわち他方側左テーパ歯面121fのねじれ角θf及び歯すじ長ff、他方側左サブ歯面121afの歯すじ長gf及び歯面間隔Hfと、他方側右テーパ歯面122fのねじれ角θb及び歯すじ長fr、他方側右サブ歯面122afの歯すじ長gr及び歯面間隔Hrは、記憶部104に予め記憶されているものとする。さらに、第一工具42Fに関するデータ、すなわち刃数Z、刃先円直径da、基準円直径d、刃末のたけha、モジュールm、転位係数λ、圧力角α、正面圧力角αt及び刃先圧力角αaは記憶部104に予め記憶されているものとする。
【0076】
制御装置100の工具設計部102は、記憶部104から他方側左テーパ歯面121fのねじれ角θfを読み込む(図2のステップS1)。そして、工具設計部102は、作業者により入力される他方側左テーパ歯面121fを切削加工するときの加工用工具42の交差角φfと、読み込んだ他方側左テーパ歯面121fのねじれ角θfとの差を、第一工具42Fの第一工具刃42afの刃すじ42bfのねじれ角βとして求める(図2のステップS2)。
【0077】
工具設計部102は、記憶部104から第一工具42Fの刃数Z等を読み込み、読み込んだ第一工具42Fの刃数Z等及び求めた第一工具刃42afの刃すじ42bfのねじれ角βに基づいて、第一工具刃42afの刃先幅Sa及び刃厚Taを求める(図2のステップS3)。そして、工具設計部102は、記憶部104から他方側左サブ歯面121afの歯すじ長gfを読み出し、求めた第一工具刃42afの刃先幅Saが他方側左サブ歯面121afの歯すじ長gfより大きいか否かを判断する(図2のステップS4)。
【0078】
工具設計部102は、求めた第一工具刃42afの刃先幅Saが他方側左サブ歯面121afの歯すじ長gf以下のときは、ステップS2に戻って上述の処理を繰り返す。一方、求めた第一工具刃42afの刃先幅Saが他方側左サブ歯面121afの歯すじ長gfより大きくなったら、記憶部104から歯面間隔Hfを読み出し、求めた第一工具刃42afの刃厚Taが他方側左テーパ歯面121f側の歯面間隔Hfより小さいか否かを判断する(図2のステップS5)。
【0079】
工具設計部102は、求めた第一工具刃42afの刃厚Taが他方側左テーパ歯面121f側の歯面間隔Hf以上のときは、ステップS2に戻って上述の処理を繰り返す。一方、工具設計部102は、求めた第一工具刃42afの刃厚Taが他方側左テーパ歯面121f側の歯面間隔Hfより小さくなったら、記憶部104から他方側右テーパ歯面122fのねじれ角θbを読み込む(図2のステップS6)。そして、工具設計部102は、ステップS2で求めた第一工具42Fの第一工具刃42afの刃すじ42bfのねじれ角βと、読み込んだ他方側右テーパ歯面122fのねじれ角θbとの差を、他方側右テーパ歯面122fを切削加工するときの加工用工具42の交差角φbとして求める(図2のステップS7)。
【0080】
工具設計部102は、記憶部104から他方側右サブ歯面122afの歯すじ長grを読み出し、ステップS33で求めた第一工具刃42afの刃先幅Saが他方側右サブ歯面122afの歯すじ長grより大きいか否かを判断する(図2のステップS8)。工具設計部102は、刃先幅Saが他方側右サブ歯面122afの歯すじ長gr以下のときは、ステップS2に戻って上述の処理を繰り返す。一方、刃先幅Saが他方側右サブ歯面122afの歯すじ長grより大きくなったら、記憶部104から歯面間隔Hrを読み出し、刃厚Taが他方側右テーパ歯面122f側の歯面間隔Hrより小さいか否かを判断する(図2のステップS9)。
【0081】
工具設計部102は、刃厚Taが他方側右テーパ歯面122f側の歯面間隔Hr以上のときは、ステップS2に戻って上述の処理を繰り返す。一方、刃厚Taが他方側右テーパ歯面122f側の歯面間隔Hrより小さくなったら、求めた第一工具刃42afの刃すじ42bfのねじれ角β等に基づいて、第一工具42Fの形状を決定し(図2のステップS10)、決定した第一工具42Fの形状データを記憶部104に記憶し(図2のステップS11)、全ての処理を終了する。以上により、最良の第一工具刃42afを有する第一工具42F(第二工具刃42abを有する第二工具42B)が設計される。
【0082】
(5.制御装置の工具状態演算部による処理)
次に、制御装置100の工具状態演算部103による処理について、図3を参照して説明する。この処理は、公知の歯車の創成理論に基づいて、第一工具42Fの第一工具刃42afの軌跡を演算するシミュレーション処理であるため、実加工は不要であり、低コスト化を図ることができる。
【0083】
制御装置100の工具状態演算部103は、記憶部104から他方側左テーパ歯面121fの切削加工を行うときの加工用工具42の軸線方向位置等の工具状態を読み込み(図3のステップS11)、シミュレーション回数nとして1回目であることを記憶部104に記憶し(図3のステップS12)、加工用工具42を読み込んだ工具状態に設定する(図3のステップS13)。
【0084】
そして、工具状態演算部103は、記憶部104から読み込んだ第一工具42Fの形状データに基づいて、他方側左テーパ歯面121fを加工するときの工具軌跡を求め(図3のステップS14)、加工後の他方側左テーパ歯面121fの形状を求める(図3のステップS15)。そして、工具状態演算部103は、求めた加工後の他方側左テーパ歯面121fの形状と、設計上の他方側左テーパ歯面121fの形状とを比較し、形状誤差を求めて記憶部104に記憶し(図3のステップS16)、シミュレーション回数nに1を加算する(図3のステップS17)。
【0085】
そして、工具状態演算部103は、シミュレーション回数nが予め設定した回数nnに達したか否かを判断し(図3のステップS18)、シミュレーション回数nが設定回数nnに達していないときは、加工用工具42の工具状態のうち例えば加工用工具42の軸線方向位置を変更し(図3のステップS19)、ステップS14に戻って上述の処理を繰り返す。一方、シミュレーション回数nが設定回数nnに達したときは、工具状態演算部103は、記憶した形状誤差のうち最小の誤差となる加工用工具42の軸線方向位置を選択して記憶部104に記憶し(図3のステップS20)、全ての処理を終了する。
【0086】
なお、上述の処理では、複数回のシミュレーションを行って最小の誤差となる加工用工具42の軸線方向位置を選択するようにしたが、予め許容形状誤差を設定しておき、ステップS16において算出した形状誤差が許容形状誤差以下となったときの加工用工具42の軸線方向位置を選択してもよい。また、ステップS19においては、加工用工具42の軸線方向位置を変更する代わりに、加工用工具42の交差角を変更し、もしくは加工用工具42の軸線回り方向位置を変更し、又は、交差角、軸線方向位置、軸線回り方向位置の任意の組み合わせを変更するようにしてもよい。
【0087】
(6.制御装置の加工制御部による処理)
次に、制御装置100の加工制御部101による処理について、図4A及び図4Bを参照して説明する。ここで、作業者は、工具設計部102で設計した第一工具42F及び第二工具42Bの各形状データに基づいて、第一工具42F及び第二工具42Bを製作し、工具ホルダ45に組み付けて歯車加工装置1の自動工具交換装置の工具ストッカに格納しているものとする。また、スリーブ115は、歯車加工装置1の加工物保持具80に装着され、旋削加工もしくはブローチ加工などにより内歯115aが形成されているものとする。
【0088】
制御装置100の加工制御部101は、自動工具交換装置で前の加工工程(旋削加工もしくはブローチ加工など)の加工用工具を加工用工具42に交換する(図4AのステップS21)。そして、加工制御部101は、工具状態演算部103で求めたスリーブ115の他方側左テーパ歯面121fを加工する際の加工用工具42の工具状態となるように加工用工具42及びスリーブ115を配置する(図4AのステップS22)。具体的には、図8Bに示すように、回転主軸40に保持された加工用工具42の第一工具42Fが、加工物保持具80に保持されたスリーブ115と対向し、且つ加工用工具42が、工具状態演算部103で求めた他方側左テーパ歯面121fを形成するときの加工用工具42の軸線方向位置(例えばオフセット量0)及び交差角φfとなるように配置する。
【0089】
加工制御部101は、加工用工具42をスリーブ115と同期回転させながら第一工具42F側をスリーブ115に向かってスリーブ115の回転軸線Lw方向に送り操作し、内歯115aを切削加工して内歯115aに他方側左サブ歯面121afを含む他方側左テーパ歯面121fを形成する(図4AのステップS23)。
【0090】
すなわち、図14A図14Cに示すように、第一工具42Fは、スリーブ115の回転軸線Lw方向への1回もしくは複数回の切削動作で、内歯115aに他方側左サブ歯面121afを含む他方側左テーパ歯面121fを形成する。このときの第一工具42Fは、送り動作及び送り動作と反対方向の戻し動作を行う必要があるが、図14Cに示すように、この反転動作は慣性力が働く。このため、第一工具42Fの送り動作は、他方側左サブ歯面121afを含む他方側左テーパ歯面121fを形成できる他方側左テーパ歯面121fの歯すじ長ffより所定長短い点Qにおいて終了し、戻し動作に移行する。この送り終了点Qは、センサなどによって計測して求めることができるが、必要な加工精度に対して、送り量の精度が十分な場合には、計測しなくても送り量で調整することができる。つまり、点Qまで加工できるように送り量などを調整して、切削加工をすることで、精度良く加工できる。
【0091】
そして、加工制御部101は、他方側左テーパ歯面121fの切削加工が完了したら(図4AのステップS24)、工具状態演算部103で求めたスリーブ115の他方側右テーパ歯面122fを加工する際の加工用工具42の工具状態となるように加工用工具42及びスリーブ115を配置する(図4AのステップS25)。具体的には、図8Dに示すように、回転主軸40に保持された加工用工具42の第一工具42Fが、加工物保持具80に保持されたスリーブ115と対向し、且つ加工用工具42が、工具状態演算部103で求めた他方側右テーパ歯面122fを形成するときの加工用工具42の軸線方向位置(例えばオフセット量0)及び交差角φbとなるように配置する。
【0092】
加工制御部101は、加工用工具42をスリーブ115と同期回転させながら第一工具42F側をスリーブ115に向かってスリーブ115の回転軸線Lw方向に送り操作し、内歯115aを切削加工して内歯115aに他方側右サブ歯面122afを含む他方側右テーパ歯面122fを切削形成する(図4AのステップS26)。
【0093】
そして、加工制御部101は、他方側右テーパ歯面122fの切削加工が完了したら(図4AのステップS27)、スリーブ115の一方側のギヤ抜け防止部120Bの加工が完了したか否かを判断する(図4AのステップS28)。そして、加工制御部101は、スリーブ115の一方側のギヤ抜け防止部120Bの加工が完了したと判断したら全ての処理を終了する。一方、加工制御部101は、スリーブ115の一方側のギヤ抜け防止部120Bの加工が完了していないと判断したら、加工用工具42をスリーブ115の回転軸線Lw方向に送り操作し、スリーブ115の内周を通過させ(図4AのステップS29)、図4BのステップS30に進む。
【0094】
そして、加工制御部101は、工具状態演算部103で求めたスリーブ115の一方側右テーパ歯面121bを加工する際の加工用工具42の工具状態となるように加工用工具42及びスリーブ115を配置する(図4BのステップS30)。具体的には、図15Aに示すように、回転主軸40に保持された加工用工具42の第二工具42Bが、加工物保持具80に保持されたスリーブ115と対向し、且つ加工用工具42が、工具状態演算部103で求めた一方側右テーパ歯面121bを形成するときの加工用工具42の軸線方向位置(例えばオフセット量0)及び交差角φfとなるように配置する。
【0095】
加工制御部101は、加工用工具42をスリーブ115と同期回転させながら第二工具42B側をスリーブ115に向かってスリーブ115の回転軸線Lw方向に戻し操作し、内歯115aを切削加工して内歯115aに一方側右サブ歯面121abを含む一方側右テーパ歯面121bを形成する(図4BのステップS31)。
【0096】
すなわち、図16A図16Cに示すように、第二工具42Bは、スリーブ115の回転軸線Lw方向への1回もしくは複数回の切削動作で、内歯115aに一方側右サブ歯面121abを含む一方側右テーパ歯面121bを形成する。このときの第二工具42Bは、戻し動作及び送り動作を行う必要があるが、図16Cに示すように、この反転動作は慣性力が働く。このため、第二工具42Bの戻し動作は、一方側右サブ歯面121abを含む一方側右テーパ歯面121bを形成できる一方側右テーパ歯面121bの歯すじ長ffより所定長短い点Rにおいて終了し、送り動作に移行する。この戻し終了点Rは、センサなどによって計測して求めることができるが、必要な加工精度に対して、送り量の精度が十分な場合には、計測しなくても送り量で調整することができる。つまり、点Rまで加工できるように送り量などを調整して、切削加工をすることで、精度良く加工できる。
【0097】
そして、加工制御部101は、一方側右テーパ歯面121bの切削加工が完了したら(図4BのステップS32)、工具状態演算部103で求めたスリーブ115の一方側左テーパ歯面122bを加工する際の加工用工具42の工具状態となるように加工用工具42及びスリーブ115を配置する(図4BのステップS33)。具体的には、図15Bに示すように、回転主軸40に保持された加工用工具42の第二工具42Bが、加工物保持具80に保持されたスリーブ115と対向し、且つ加工用工具42が、工具状態演算部103で求めた一方側左テーパ歯面122bを形成するときの加工用工具42の軸線方向位置(例えばオフセット量0)及び交差角φbとなるように配置する。
【0098】
加工制御部101は、加工用工具42をスリーブ115と同期回転させながら第二工具42B側をスリーブ115に向かってスリーブ115の回転軸線Lw方向に戻し操作し、内歯115aを切削加工して内歯115aに一方側左サブ歯面122abを含む一方側左テーパ歯面122bを切削形成する(図4BのステップS34)。そして、加工制御部101は、一方側左テーパ歯面122bの切削加工が完了したら(図4BのステップS35)、スリーブ115の他方側のギヤ抜け防止部120Fの加工が完了したか否かを判断する(図4BのステップS36)。そして、加工制御部101は、スリーブ115の他方側のギヤ抜け防止部120Fの加工が完了していないと判断したら、加工用工具42をスリーブ115の回転軸線Lw方向に送り操作し、スリーブ115の内周を通過させ(図4BのステップS37)、図4AのステップS22に進む。一方、加工制御部101は、スリーブ115の他方側のギヤ抜け防止部120Fの加工が完了したと判断したら、全ての処理を終了する。
【0099】
(7.その他)
上述の例では、第一工具42F及び第二工具42Bを別々に形成し、第一工具42Fと第二工具42Bの間にカラー44を挟持して加工用工具42としたが、第一工具刃42af及び第二工具刃42abを有する同一材の加工用工具42としてもよい。これにより、当該加工用工具42の工具ホルダ45への組み付けが容易となる。
【0100】
また、上述の例では、ギヤ抜け防止部120F,120Bは、加工用工具42による切削加工でスリーブ115の既加工済みの内歯115aに対し形成する場合を説明した。しかし、ギヤ抜け防止部120F,120Bは、ローリング加工でスリーブ115の既加工済みの内歯115aに対し仕上げ代を残して荒加工した後、加工用工具42で仕上げ代を切削加工して仕上げ加工することで形成するようにしてもよい。よって、加工用工具42は、ギヤ抜け防止部120F,120Bを高精度に切削加工できる。
【0101】
また、上述の例では、スリーブ115の内歯115aをブローチ加工やギヤシェーパ加工等により形成する場合を説明したが、内歯115aの形成が可能な加工用工具及び加工用工具42による切削加工でスリーブ115の内歯115a及びギヤ抜け防止部120F,120Bを全て形成するようにしてもよい。また、内歯に対し加工する場合を説明したが、外歯に対しても同様に加工可能である。また、加工物としてシンクロメッシュ機構110のスリーブ115としたが、円筒形状、円盤形状の加工物でよく、内周(内歯)、外周(外歯)のいずれか一方又は両方に複数の歯面(異なる複数の歯すじ、歯形(歯先、歯元))を同様に加工可能である。また、クラウニング、レリービングなどの連続変化する歯すじ、歯形(歯先、歯元)も同様に加工可能である。
【0102】
また、上述の例では、5軸マシニングセンタである歯車加工装置1は、スリーブ115をA軸旋回可能とするものとした。これに対して、5軸マシニングセンタは、縦形マシニングセンタとして、加工用工具42をA軸旋回可能とする構成としてもよい。また、本発明をマシニングセンタに適用する場合を説明したが、歯車加工の専用機に対しても同様に適用可能である。
【0103】
(実施形態の効果)
本実施形態の歯車加工装置1は、加工物(スリーブ115)の回転軸線Lwに対し傾斜した回転軸線Lを有する加工用工具42を用い、加工用工具42を加工物115と同期回転させながら加工物115の回転軸線L方向に相対的に移動操作して歯車を加工する歯車加工装置1であって、歯車の歯115aの左側面115A、右側面115B(側面)は、左歯面115b、右歯面115c(主となる歯面)に対しねじれ角が異なる複数の他方側左テーパ歯面121f,一方側左テーパ歯面122b、他方側右テーパ歯面122f,一方側右テーパ歯面121b(従となる歯面)を、左側面115A、右側面115B(側面)における加工物115の回転軸線Lw方向の一方側及び他方側にそれぞれ有し、加工用工具42は、すくい面42cfが加工用工具42の回転軸線L方向の一方側を向く第一工具刃42afと、すくい面42cbが加工用工具42の回転軸線L方向の他方側を向く第二工具刃42abとを有する。
【0104】
そして、第一工具刃42afは、加工用工具42を加工物115の回転軸線Lw方向の他方側に相対的に移動操作させて、加工物115の回転軸線Lw方向の他方側に設けられる他方側左テーパ歯面121f、他方側右テーパ歯面122f(従となる歯面)を加工する場合に用いられ、第二工具刃42abは、加工用工具42を加工物115の回転軸線Lw方向の一方側に相対的に移動操作させて、加工物115の回転軸線Lw方向の一方側に設けられる一方側左テーパ歯面122b、一方側右テーパ歯面121b(従となる歯面)を加工する場合に用いられる。
【0105】
これにより、歯車加工装置1は、1つの加工用工具42で加工物115の両端面側にそれぞれねじれ角が異なる他方側左テーパ歯面121f,他方側右テーパ歯面122f、一方側右テーパ歯面121b,一方側左テーパ歯面122b(複数の歯面)を形成できるので、従来必要であった2つの加工用工具の工具交換や位置合わせを行う必要はなく、加工効率を向上でき、加工精度を高めることができる。
【0106】
また、歯車の歯115aの左側面115A、右側面115B(側面)は、主となる左歯面115b(第一歯面)、左歯面115b(第一歯面)における加工物115の回転軸線Lw方向の他方側に設けられる従となる他方側左テーパ歯面121f(第二歯面)、及び左歯面115b(第一歯面)における加工物115の回転軸線Lw方向の一方側に設けられる従となる一方側左テーパ歯面122b(第三歯面)を有し、第一工具刃42afの刃すじ42bfは、予め加工された左歯面115b(第一歯面)に対し他方側左テーパ歯面121f(第二歯面)を加工可能なように、他方側左テーパ歯面121f(第二歯面)のねじれ角θf及び加工物115の回転軸線Lwと加工用工具42の回転軸線Lとの交差角φfに基づいて設定されたねじれ角βを有し、第二工具刃42abの刃すじ42bbは、予め加工された左歯面115b(第一歯面)に対し一方側左テーパ歯面122b(第三歯面)を加工可能なように、一方側左テーパ歯面122b(第三歯面)のねじれ角θb及び加工物115の回転軸線Lwと加工用工具42の回転軸線Lとの交差角φbに基づいて設定されたねじれ角βを有する。
【0107】
これにより、第一工具刃42afは、他方側左テーパ歯面121f(第二歯面)の加工の際に、加工対象の左歯面115b(第一歯面)に隣接する歯115aと干渉しない形状に設計でき、第二工具刃42abは、一方側左テーパ歯面122b(第三歯面)の加工の際に、加工対象の左歯面115b(第一歯面)に隣接する歯115aと干渉しない形状に設計できる。
【0108】
また、歯車の歯115aの左側面115A(一方側の側面)は、主となる左歯面115b(第一歯面)、左歯面115b(第一歯面)における加工物115の回転軸線Lw方向の一方側に設けられる従となる他方側左テーパ歯面121f(第二歯面)、及び左歯面115b(第一歯面)における加工物115の回転軸線Lw方向の他方側に設けられる従となる一方側左テーパ歯面122b(第三歯面)を有し、歯車の歯の右側面115B(他方側の側面)は、主となる右歯面115c(第四歯面)、右歯面115c(第四歯面)における加工物115の回転軸線Lw方向の一方側に設けられる従となる一方側右テーパ歯面121b(第五歯面)、及び右歯面115c(第四歯面)における加工物115の回転軸線Lw方向の他方側に設けられる従となる他方側右テーパ歯面122f(第六歯面)を有する。
【0109】
そして、第一工具刃42afの一方側の刃すじ42bfは、予め加工された左歯面115b(第一歯面)に対し他方側左テーパ歯面121f(第二歯面)を加工可能なように、他方側左テーパ歯面121f(第二歯面)のねじれ角θf及び加工物115の回転軸線Lwと加工用工具42の回転軸線Lとの第二歯面121f用の交差角φfに基づいて設定されたねじれ角βを有し、第一工具刃42afの他方側の刃すじ42bfは、第一工具刃42afの一方側の刃すじ42bfのねじれ角βと同一角度のねじれ角βを有し、第二工具刃42abの一方側の刃すじ42bbは、予め加工された左歯面115b(第一歯面)に対し一方側左テーパ歯面122b(第三歯面)を加工可能なように、一方側左テーパ歯面122b(第三歯面)のねじれ角θb及び加工物115の回転軸線Lwと加工用工具42の回転軸線Lとの一方側左テーパ歯面122b(第三歯面)用の交差角φbに基づいて設定されたねじれ角βを有し、第二工具刃42abの他方側の刃すじ42bbは、第二工具刃42abの一方側の刃すじ42bbのねじれ角βと同一角度のねじれ角βを有する。
【0110】
そして、加工用工具42は、予め加工された左歯面115b(第一歯面)に対し第一工具刃42afで他方側左テーパ歯面121f(第二歯面)を加工する際、他方側左テーパ歯面121f(第二歯面)用の交差角φfに設定され、予め加工された右歯面115c(第四歯面)に対し第一工具刃42afで他方側右テーパ歯面122f(第六歯面)を加工する際、他方側右テーパ歯面122f(第六歯面)のねじれ角θb及び第一工具刃42afの他方側の刃すじ42bfのねじれ角βとに基づいて求まる他方側右テーパ歯面122f(第六歯面)用の交差角φbに設定され、加工用工具42は、予め加工された左歯面115b(第一歯面)に対し第二工具刃42abで一方側左テーパ歯面122b(第三歯面)を加工する際、一方側左テーパ歯面122b(第三歯面)用の交差角φbに設定され、予め加工された右歯面115c(第四歯面)に対し第二工具刃42abで一方側右テーパ歯面121b(第五歯面)を加工する際、一方側右テーパ歯面121b(第五歯面)のねじれ角θf及び第二工具刃42abの他方側の刃すじ42bbのねじれ角βとに基づいて求まる一方側右テーパ歯面121b(第五歯面)用の交差角φfに設定される。
【0111】
これにより、第一工具刃42afは、他方側左テーパ歯面121f(第二歯面)の加工の際に、加工対象の左歯面115b(第一歯面)に隣接する歯115aと干渉しない形状に設計できるとともに、他方側右テーパ歯面122f(第六歯面)の加工の際に、加工対象の右歯面115c(第四歯面)に隣接する歯115aと干渉しない形状に設計できる。第二工具刃42abは、一方側左テーパ歯面122b(第三歯面)の加工の際に、加工対象の左歯面115b(第一歯面)に隣接する歯115aと干渉しない形状に設計できるとともに、一方側右テーパ歯面121b(第五歯面)の加工の際に、加工対象の右歯面115c(第四歯面)に隣接する歯115aと干渉しない形状に設計できる。
【0112】
また、歯車は、シンクロメッシュ機構110のスリーブ115であり、従となる歯面は、スリーブ115の内周歯に設けられるギヤ抜け防止部120F,120Bの他方側左テーパ歯面121f,一方側左テーパ歯面122b、他方側右テーパ歯面122f,一方側右テーパ歯面121b(歯面)である。これにより、ギヤ抜け防止部120F,120Bを構成する他方側左テーパ歯面121f,一方側左テーパ歯面122b、他方側右テーパ歯面122f,一方側右テーパ歯面121b(歯面)は、切削加工により加工精度が高くなるので、ギヤ抜けを確実に防止できる。
【0113】
また、第一工具刃42afの刃すじ42bfと第二工具刃42abの刃すじ42bbは、同一角度のねじれ角βを有するので、工具コストを低減できる。また、加工用工具42の交差角を変更するのみで、ねじれ角が異なる歯面を形成できる。
【0114】
また、加工物115の回転軸線Lwに対し傾斜した回転軸線Lを有する加工用工具42で歯車を切削加工する歯車加工方法であって、歯車の歯の左側面115A、右側面115B(側面)は、左歯面115b、右歯面115c(主となる歯面)に対しねじれ角が異なる複数の他方側左テーパ歯面121f,一方側左テーパ歯面122b、他方側右テーパ歯面122f,一方側右テーパ歯面121b(従となる歯面)を、左側面115A、右側面115B(側面)における歯車の回転軸線Lw方向の一方側及び他方側にそれぞれ有し、加工用工具42は、すくい面42cfが加工用工具42の回転軸線L方向の一方側を向く第一工具刃42afと、すくい面42cbが加工用工具42の回転軸線L方向の他方側を向く第二工具刃42abとを有する。
【0115】
そして、歯車加工方法は、加工用工具42を加工物115と同期回転させながら加工物115の回転軸線Lw方向の他方側にて当該回転軸線Lw方向に相対的に移動操作して、加工物115の回転軸線Lw方向の他方側に設けられる他方側左テーパ歯面121f、他方側右テーパ歯面122f(従となる歯面)を第一工具刃42afで加工する第一工程と、加工用工具42を加工物115と同期回転させながら加工物115の回転軸線Lw方向の一方側にて当該回転軸線Lw方向に相対的に移動操作して、加工物115の回転軸線Lw方向の一方側に設けられる一方側左テーパ歯面122b、一方側右テーパ歯面121b(従となる歯面)を第二工具刃42abで加工する第二工程と、を備える。これにより、上述の歯車加工装置1と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0116】
1:歯車加工装置、 42:加工用工具、 42F:第一工具、 42B:第二工具、 42af:第一工具刃、 42ab:第二工具刃、 42bf,42bb:刃すじ、 100:制御装置、 101:加工制御部、 102:工具設計部、 103:工具状態演算部、 104:記憶部、 115:スリーブ(加工物)、 115a:歯、 115A:左側面、 115B:右側面、 115b:左歯面(主となる歯面、第一歯面)、 115c:右歯面(主となる歯面、第四歯面)、 121f:他方側左テーパ歯面(従となる歯面、第二歯面)、 122f:他方側右テーパ歯面(従となる歯面、第六歯面)、 121b:一方側右テーパ歯面(従となる歯面、第五歯面)、 122b:一方側左テーパ歯面(従となる歯面、第三歯面)、 β:刃すじのねじれ角、 θf,θb:歯面のねじれ角、 φf,φb:交差角
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図16A
図16B
図16C
図17
図18A
図18B
図18C
図19
図20