(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 35/30 20060101AFI20220405BHJP
H01L 35/32 20060101ALI20220405BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
H01L35/30
H01L35/32 A
H02N11/00 A
(21)【出願番号】P 2017033837
(22)【出願日】2017-02-24
【審査請求日】2019-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2016060866
(32)【優先日】2016-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】中田 嘉信
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-099686(JP,A)
【文献】特開平11-087786(JP,A)
【文献】特開2006-310506(JP,A)
【文献】特開2014-071936(JP,A)
【文献】特開2000-286459(JP,A)
【文献】特開2008-182092(JP,A)
【文献】特開平01-295684(JP,A)
【文献】特開平05-029667(JP,A)
【文献】特開平08-222770(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0287901(US,A1)
【文献】特開平10-093148(JP,A)
【文献】特開2007-073889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0107986(US,A1)
【文献】特開2006-156993(JP,A)
【文献】特開昭59-167077(JP,A)
【文献】特開平07-335945(JP,A)
【文献】特開2013-239570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/30
H01L 35/32
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型熱電変換素子と、p型熱電変換素子とが、電極板を介して交互に直列接続してなる熱電変換モジュールであって、
前記n型熱電変換素子と前記p型熱電変換素子とは、互いに熱膨張率が異なる材料からなり、
前記n型熱電変換素子の一面側と、前記p型熱電変換素子の一面側とが、互いに共通の絶縁性基板の一面側に並べて接合され、
前記n型熱電変換素子の他面側と、前記p型熱電変換素子の他面側には、それぞれ熱伝導性部材が独立して個々に形成されており、
互いに隣接する前記n型熱電変換素子と前記p型熱電変換素子との間に、更に遮熱部材を配されており、
前記遮熱部材は、前記n型熱電変換素子および前記p型熱電変換素子がそれぞれ貫通可能な開口が形成された遮熱板からなり、前記n型熱電変換素子および前記p型熱電変換素子の他面側において、前記n型熱電変換素子および前記p型熱電変換素子との隙間を覆うように形成されて
おり、
前記遮熱部材は、金属の板又は箔で構成されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記n型熱電変換素子の他面側と前記熱伝導性部材との間、および前記p型熱電変換素子の他面側と前記熱伝導性部材との間には、それぞれ熱伝導性絶縁層が配されていることを特徴とする
請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記絶縁性基板の他面側、および前記n型熱電変換素子および前記p型熱電変換素子が配列された領域の周囲を取り囲むように、保護カバーが形成されていることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記n型熱電変換素子の他面側と、前記p型熱電変換素子の他面側に形成された前記熱伝導性部材の先端部が、冷却液中に浸漬されていることを特徴とする
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
前記絶縁性基板の前記n型熱電変換素子及び前記p型熱電変換素子が接合された面とは反対側の面に、金属層が形成されていることを特徴とする
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の熱電変換素子を電気的に接続してなる熱電変換モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱電変換素子は ゼーベック効果、ペルティエ効果といった、熱と電気とを相互に変換可能な電子素子である。ゼーベック効果は熱エネルギーを電気エネルギーに変換する効果であり、熱電変換材料の両端に温度差を生じさせると起電力が発生する現象である。こうした起電力は熱電変換材料の特性によって決まる。近年ではこの効果を利用した熱電発電の開発が盛んである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、ペルティエ効果は電気エネルギーを熱エネルギーに変換する効果であり、熱電変換材料の両端に電極等を形成して電極間で電位差を生じさせると、熱電変換材料の両端に温度差が生じる現象である。こうした効果をもつ素子は特にペルティエ素子と呼ばれ、精密機器や小型冷蔵庫などの冷却や温度制御に利用されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
こうした熱電変換素子を複数、電気的に接続して構成される熱電変換モジュールは、一般的に、互いに半導体型が同一の熱電変換素子どうしを接続したユニレグ型熱電変換モジュールと、互いに異なる半導体型、即ちn型熱電変換素子とp型熱電変換素子とを交互に接続したπ(パイ)型熱電変換モジュールとが知られている。
【0005】
このうち、π(パイ)型熱電変換モジュールは、ユニレグ型熱電変換モジュールと比較して電気的な接続構成を単純にすることができ、かつ、p-n接続によって効率よく熱電変換を行うことができる。
従来、こうしたπ型熱電変換モジュールは、電極板などで互いに接続された多数のn型熱電変換素子とp型熱電変換素子の一面側および他面側を、それぞれ1枚の絶縁板に接合した構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2012-533972号公報
【文献】特開2011-249742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したπ(パイ)型熱電変換モジュールにおいて、互いに異なる組成の熱電変換材料を用いる場合には、n型熱電変換素子とp型熱電変換素子の熱膨張率も互いに異なっている。このため、従来のように、n型熱電変換素子とp型熱電変換素子の一面側および他面側を、それぞれ1枚の絶縁板に接合させた構成では、n型熱電変換素子とp型熱電変換素子との熱膨張率の違いによって、どちらか一方の熱電変換素子が絶縁板から剥離したり、素子が割れたりする不具合が生じる懸念があった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、互いに異なる熱膨張率の熱電変換材料をそれぞれ用いて形成したn型熱電変換素子およびp型熱電変換素子を組み合わせてなる熱電変換モジュールにおいて、基板から熱電変換素子が剥離すること、あるいは熱電変換素子が割れることを防止できる熱電変換モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の熱電変換モジュールは、n型熱電変換素子と、p型熱電変換素子とが、電極板を介して交互に直列接続してなる熱電変換モジュールであって、前記n型熱電変換素子と前記p型熱電変換素子とは、互いに熱膨張率が異なる材料からなり、前記n型熱電変換素子の一面側と、前記p型熱電変換素子の一面側とが、互いに共通の絶縁性基板の一面側に並べて接合され、前記n型熱電変換素子の他面側と、前記p型熱電変換素子の他面側には、それぞれ熱伝導性部材が独立して個々に形成されており、互いに隣接する前記n型熱電変換素子と前記p型熱電変換素子との間に、更に遮熱部材を配されており、前記遮熱部材は、前記n型熱電変換素子および前記p型熱電変換素子がそれぞれ貫通可能な開口が形成された遮熱板からなり、前記n型熱電変換素子および前記p型熱電変換素子の他面側において、前記n型熱電変換素子および前記p型熱電変換素子との隙間を覆うように形成されており、前記遮熱部材は、金属の板又は箔で構成されていることを特徴とする。
【0010】
熱電変換モジュールの動作時(熱電変換時)においては、互いに異なる熱膨張率をもつ材料で形成されたn型熱電変換材料とp型熱電変換材料とは、高熱側の熱によって、互いに異なる大きさとなるように熱膨張する。例えば、n型熱電変換材料がp型熱電変換材料よりも熱膨張率が大きい場合、n型熱電変換材料がp型熱電変換材料よりも大きく膨張する。
【0011】
しかし、n型熱電変換素子とp型熱電変換素子は、一面側だけが共通の絶縁性基板に接合され、他面側に形成された熱伝導性部材は、個々のn型熱電変換素子およびp型熱電変換素子ごとにそれぞれ独立して形成され、相互に干渉しないため、n型熱電変換素子やp型熱電変換素子から熱伝導性部材が剥離したり、あるいは素子が割れたりする懸念が無い。n型熱電変換素子はp型熱電変換素子よりも大きく膨張することが許容され、n型熱電変換素子に形成された熱伝導性部材の端部が、p型熱電変換素子に形成された熱伝導性部材の先端よりも突出することができる。
また、本発明の熱電変換モジュールにおいては、互いに隣接する前記n型熱電変換素子と前記p型熱電変換素子との間に、更に遮熱部材を配されており、前記遮熱部材は、前記n型熱電変換素子および前記p型熱電変換素子がそれぞれ貫通可能な開口が形成された遮熱板からなり、前記n型熱電変換素子および前記p型熱電変換素子の他面側において、前記n型熱電変換素子および前記p型熱電変換素子との隙間を覆うように形成されているので、遮熱部材によって一面側の輻射熱が他面側へと伝達されることが抑制され、前記n型熱電変換素子及び前記p型熱電変換素子の一面側と他面側とで温度差を維持することができ、発電効率が向上することになる。
【0012】
本発明の熱電変換モジュールにおいては、前記n型熱電変換素子の他面側と前記熱伝導性部材との間、および前記p型熱電変換素子の他面側と前記熱伝導性部材との間には、それぞれ熱伝導性絶縁層が配されていることが好ましい。
この場合、前記n型熱電変換素子及び前記p型熱電変換素子の他面側と熱伝導性部材との間の絶縁性が確保されるので、熱伝導性部材が他の金属製部材と接触した際に生じる電流リークを防止することができ、安全性の高い熱電変換モジュールを実現できる。
【0015】
本発明の熱電変換モジュールにおいては、前記絶縁性基板の他面側、および前記n型熱電変換素子および前記p型熱電変換素子が配列された領域の周囲を取り囲むように、保護カバーが形成されていることが好ましい。
この場合、保護カバーによって、熱電変換モジュールの腐蝕や汚損を防止し、熱電変換モジュールの熱電変換効率の低下を防止することができる。
【0017】
本発明の熱電変換モジュールにおいては、前記n型熱電変換素子の他面側と、前記p型熱電変換素子の他面側に形成された前記熱伝導性部材の先端部が、冷却液中に浸漬されていることが好ましい。
この構成の熱電変換モジュールによれば、前記n型熱電変換素子の他面側と、前記p型熱電変換素子の他面側に形成された前記熱伝導性部材の先端部を冷却液中に浸漬させることで、前記n型熱電変換素子及び前記p型熱電変換素子の一面側と他面側とで温度差を維持することができ、発電効率が向上することになる。
【0018】
本発明の熱電変換モジュールにおいては、前記絶縁性基板の前記n型熱電変換素子及び前記p型熱電変換素子が接合された面とは反対側の面に、金属層が形成されていることが好ましい。
この構成の熱電変換モジュールによれば、前記絶縁性基板の前記n型熱電変換素子及び前記p型熱電変換素子が接合された面とは反対側の面に、金属層が形成されているので、この金属層を介して熱源を配置することができ、前記絶縁性基板に対する熱衝撃を抑え、絶縁性基板の寿命延長を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱電変換モジュールによれば、互いに異なる熱膨張率の熱電変換材料をそれぞれ用いて形成したn型熱電変換素子およびp型熱電変換素子を組み合わせてなる熱電変換モジュールにおいて、基板から熱電変換素子が剥離することや熱電変換素子が割れることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第一実施形態の熱電変換モジュールを側面から見た時の断面図である。
【
図2】第一実施形態の熱電変換モジュールの動作時の様子を示した要部拡大断面図である。
【
図3】第二実施形態の熱電変換モジュールの要部拡大断面図である。
【
図4】第三実施形態の熱電変換モジュールの要部拡大断面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態の熱電変換モジュールを側面から見た時の断面図である。
【
図6】本発明の他の実施形態の熱電変換モジュールを側面から見た時の断面図である。
【
図7】本発明の実施形態における熱伝導性部材の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の熱電変換モジュールについて説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0022】
(熱電変換モジュール:第一実施形態)
図1は、第一実施形態の熱電変換モジュールを側面から見た時の断面図である。
第一実施形態の熱電変換モジュール20は、異なる半導体型、例えばp型およびn型の熱電変換材料を直列に接続してなるπ(パイ)型の熱電変換モジュールである。
熱電変換モジュール20は、絶縁性基板21と、この絶縁性基板21の一面側21aに交互に配列されたn型熱電変換素子10Aおよびp型熱電変換素子10Bと、を備えている。
【0023】
絶縁性基板21は、全てのn型熱電変換素子10Aおよびp型熱電変換素子10Bが接合される共通の1枚の基板である。絶縁性基板21は、絶縁性で、かつ熱伝導性に優れた材料、例えば、炭化ケイ素、窒素ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、サイアロンなどの板材を用いることができる。
なお、絶縁性基板21は、基材として導電性の金属材料を用い、周囲に樹脂膜やセラミックス薄膜などの絶縁層を形成した複合基板を用いることもできる。
【0024】
こうした絶縁性基板21は、後述する熱電変換材料11A,11Bの一方の面11aに熱を加えたり、熱を吸収させたりする媒体である。絶縁性基板21の熱伝導率は、例えば、20W/(mK)以上であることが好ましい。
【0025】
熱電変換素子10Aは、その一面側10aで絶縁性基板21に接合され、n型熱電変換材料11Aの一方の面11aおよび他方の面11bにメタライズ層12a,12bをそれぞれ形成したものからなる。
【0026】
n型熱電変換材料11Aの具体例としては、マグネシウムシリサイド(Mg2Si)にドーパントとしてアンチモン(Sb)を添加して焼結して得られた熱電変換材料を切断し、所望の形状に加工してなる。なお、焼結時にSiO2等のシリコン酸化物を0.5mol%~13.0mol%添加することができる。シリコン酸化物を添加することで、熱電変換材料の硬度や、発電効率が上昇する。
【0027】
本実施形態のn型熱電変換材料11Aは、Mg2Siにアンチモンを0.5at%含むものからなるマグネシウム系焼結体を用いている。なお、本実施形態では、5価ドナーであるアンチモンの添加によって、キャリア密度の高いn型熱電変換材料となっている。なお、本実施形態のn型熱電変換材料11Aの熱膨張率は500℃で例えば12.5×10-6/K~17.5×10-6/K程度である。
【0028】
なお、n型熱電変換材料11Aを構成するマグネシウム系化合物としては、Mg2Si以外にも、Mg2SiXGe1-X、Mg2SiXSn1-xなど、Mg2Siに他の元素を付加した化合物も同様に用いることができる。
【0029】
また、n型熱電変換材料11Aのドナーとしては、アンチモン以外にも、ビスマス、アルミニウム、リン、ヒ素などを用いることができる。
【0030】
熱電変換素子10Bは、その一面側10aで絶縁性基板21に接合され、p型熱電変換材料11Bの一方の面11aおよび他方の面11bに、メタライズ層12a,12bをそれぞれ形成したものからなる。
【0031】
p型熱電変換材料11Bの具体例としては、MnSi1.73、Mn34.6W1.8Si63.6、Mn30.4Re6Si63.6などを焼結して得られた熱電変換材料を切断し、所望の形状に加工してなる。本実施形態では、p型熱電変換材料11Bとして、MnSi1.73からなるマンガン系焼結体を用い、熱膨張率は、例えば500℃で10.0×10-6/K~11.5×10-6/K程度である。
【0032】
メタライズ層12a、12bは、n型熱電変換材料11Aやp型熱電変換材料11Bに電極板13a,13bを接合する中間層であり、例えば、ニッケル、銀、コバルト、タングステン、モリブデン等や、あるいはそれらの金属繊維でできた不織布等が用いられる。
本実施形態では、メタライズ層12a、12bとしてニッケルを用いている。メタライズ層12a、12bは、焼結、メッキ、電着等によって形成することができる。
【0033】
互いに隣接して配されたn型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bとは、電極板13a,13bを介して電気的に直列に接続されている。具体的には、n型熱電変換材料11Aのメタライズ層12aと、隣に配されたp型熱電変換材料11Bのメタライズ層12aとが、電極板13aによって接続される。そして、このp型熱電変換材料11Bのメタライズ層12bと、更に隣に配されたn型熱電変換材料11Aのメタライズ層12bとが、電極板13bによって接続される。
【0034】
電極板13a,13bは、導電性に優れた金属材料、例えば、銅やアルミニウムなどの板材から形成されている。本実施形態では、アルミニウムの圧延板を用いている。また、メタライズ層12a、12bと電極板13a,13bとは、AgろうやAgペースト等によって接合することができる。
【0035】
このように配列された多数のn型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bは、電気的に一繋がりとなるように直列に接続されている。即ち、π(パイ)型の熱電変換モジュール20は、n型熱電変換素子10Aと、p型熱電変換素子10Bとが交互に繰り返し直列に接続されてなる。
【0036】
なお、
図1では手前側の1列分のn型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bだけを示しているが、実際には、図面奥行方向にも同様にn型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bとが交互に数列分配置されている。
【0037】
こうした構成によって、n型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bの一面側10aと他面側10bとの間に温度差を生じさせることによって、電極板13aと電極板13bとの間に電位差を生じさせるゼーベック素子として用いることができる。
【0038】
また、例えば、電極板13a側と電極板13bとの間に電圧を印加することによって、n型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bの一面側10aと他面側10bとの間に温度差を生じさせるペルティエ素子として用いることができる。例えば、電極板13a側と電極板13bとの間に電流を流すことによって、n型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bの一面側10aまたは他面側10bを冷却、または加熱することができる。
【0039】
n型熱電変換素子10Aおよびp型熱電変換素子10Bのそれぞれの他面側10bには、熱伝導性部材22が形成されている。即ち、個々のn型熱電変換素子10Aおよびp型熱電変換素子10Bごとに、それぞれ独立した熱伝導性部材22,22…が形成されている。
【0040】
こうした熱伝導性部材22,22…は、絶縁性で、かつ熱伝導性に優れた材料、例えば、炭化ケイ素、窒素ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなどの棒材や板材などや、あるいは表面積を大きくとるために表面に凹凸を設けた構造の棒材や板材などを用いることができる。熱伝導性部材22は、熱電変換材料11A,11Bの他方の面11bに熱を加えたり、熱を吸収させたりする媒体である。即ち、放熱あるいは吸熱のための部材である。
熱伝導性部材22,22…の熱伝導率は、例えば、10W/(mK)以上であることが好ましい。また、これらの熱伝導性部材22、22…は、熱伝導性に優れた材料、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金、マグネシウムやマグネシウム合金、銅や銅合金などの棒材や板材、あるいは表面積を大きくとるために表面に凹凸を設けた構造の棒材や板材などを用いることもできる。
【0041】
更に、互いに隣接するn型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bとの間に、遮熱部材24が配されている。具体的には、遮熱部材24は、n型熱電変換素子10Aおよびp型熱電変換素子10Bが貫通可能な、多数の開口が形成された遮熱板からなり、n型熱電変換素子10Aおよびp型熱電変換素子10Bの他面側10bにおいて、n型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bとの隙間を覆うように形成されている。
【0042】
こうした遮熱部材24は、n型熱電変換素子10Aおよびp型熱電変換素子10Bの一面側10aから輻射熱が他面側10bに伝搬して、一面側10aと他面側10bとの間の温度差が減少し、熱電変換効率が低下することを防止する。
あるいは遮熱部材24は、n型熱電変換素子10Aおよびp型熱電変換素子10Bの他面側10bから、輻射熱が一面側10aに伝搬することを防止する部材とすることもできる。
【0043】
遮熱部材24は、熱伝導性が低く、かつ絶縁性の部材、例えば、アルミナ、サイアロン板、ロックウール製断熱材、アルミナ、シリカなどの繊維からできた断熱材から構成されている。
又、遮熱部材24として、赤外線を反射するステンレス、アルミニウム、銅、鋼などの金属の板や箔などを用いることもできるが、この場合、これらの金属の板や箔が熱電変換素子10Aや10Bと接触しない程度の開口部を設ける必要がある。
【0044】
これら遮熱部材24と絶縁性基板21とは、その周縁部分で、例えばネジ及びビスなどからなる締結部材23によって、n型熱電変換素子10Aおよびp型熱電変換素子10Bを挟み込むように一体化されている。
【0045】
また、絶縁性基板の他面側21b、およびn型熱電変換素子10Aおよびp型熱電変換素子10Bが配列された領域の周囲を取り囲むように、保護カバー25が形成されている。こうした保護カバー25は、熱電変換モジュール20の腐蝕や汚損を防止し、熱電変換モジュール20の熱電変換効率の低下を防止する。
保護カバー25は、例えば、ステンレス、鋼やアルミニウムからなる板材などから構成されている。
【0046】
以上の様な構成の本実施形態の熱電変換モジュール20の作用を説明する。
熱電変換モジュール20を、例えばゼーベック素子として用いる際には、絶縁性基板21と、個々のn型熱電変換素子10Aおよびp型熱電変換素子10Bにそれぞれ形成された熱伝導性部材22,22…とをそれぞれ介して、n型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bの一面側10aと他面側10bとの間に温度差を生じさせることによって、電極板13aと電極板13bとの間に電位差を生じさせることができる。
【0047】
図2は、本実施形態の熱電変換モジュールの動作時の様子を示した要部拡大断面図である。
熱電変換モジュール20の動作時(熱電変換時)においては、互いに異なる熱膨張率をもつ材料で形成されたn型熱電変換材料11Aとp型熱電変換材料11Bとは、高熱側、例えば一面側10aの熱によって、互いに異なる大きさとなるように熱膨張する。
【0048】
本実施形態では、n型熱電変換材料11Aは、p型熱電変換材料11Bよりも熱膨張率が大きいため、例えば、厚み方向に沿ってn型熱電変換材料11Aがp型熱電変換材料11Bよりも大きく膨張する。
【0049】
しかし、n型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bは、一面側10aだけが共通の基板である絶縁性基板21に電極板13aを介して接合され、他面側10bに形成された熱伝導性部材22,22…は、個々のn型熱電変換素子10Aおよびp型熱電変換素子10Bごとにそれぞれ独立して形成されているため、n型熱電変換素子10Aやp型熱電変換素子10Bからメタライズ層12a、12b、あるいは電極板13a、13bが剥離する懸念が無い。また、熱電変換素子10A、10Bに割れが生じる懸念が無い。n型熱電変換素子10Aはp型熱電変換素子10Bよりも大きく膨張することが許容され、n型熱電変換素子10Aに形成された熱伝導性部材22の先端が、p型熱電変換素子10Bに形成された熱伝導性部材22の先端よりも突出することができる。
【0050】
なお、こうしたn型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bの熱膨張率の違いによって、電極板13bは多少屈曲するが、電極板13bは展性や延性に優れた銅やアルミニウムなどの板材や箔、箔を多層に重ねた電極から形成されているので、屈曲してもn型熱電変換素子10Aやp型熱電変換素子10Bから剥離することはない。
【0051】
以上のように、本実施形態の熱電変換モジュール20によれば、互いに異なる熱膨張率のn型熱電変換材料11Aとp型熱電変換材料11Bとをそれぞれ用いて形成したn型熱電変換素子10Aおよびp型熱電変換素子10Bを組み合わせてなる熱電変換モジュール20であっても、絶縁性基板21や熱伝導性部材22,22…から熱電変換素子10A,10Bが剥離することを防止できる。
【0052】
(熱電変換モジュール:第二実施形態)
図3は、第二実施形態の熱電変換モジュールを示す要部拡大断面図である。
第二実施形態の熱電変換モジュール30では、n型熱電変換素子10Aの他面側10bと熱伝導性部材32との間、およびp型熱電変換素子10Bの他面側10bと熱伝導性部材32との間に、それぞれ熱伝導性絶縁層33を形成したものである。
【0053】
このような熱伝導性絶縁層33は、例えば、炭化ケイ素、窒素ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなどから構成することができる。それぞれの熱伝導性部材32に接して熱伝導性絶縁層33を形成することによって、熱伝導性部材32と電極板13bとの間の絶縁性が確保される。これによって、熱伝導性に優れた金属を用いて、熱伝導性部材32,32…を形成した場合、熱伝導性部材32が他の金属製部材と接触した際に生じる電流リークを防止することができ、安全性の高い熱電変換モジュールを実現できる。
【0054】
(熱電変換モジュール:第三実施形態)
図4は、第三実施形態の熱電変換モジュールを示す要部拡大断面図である。
第三実施形態の熱電変換モジュール40では、n型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bの他面側10bにそれぞれ電極板41a,41bを形成し、この電極板41aと電極板41bとの間を柔軟なリード線42で接続したものである。
これによって、n型熱電変換材料11Aとp型熱電変換材料11Bとの熱膨張率差による、n型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bの他面側10bにおける位置ズレが大きくなっても、n型熱電変換素子10Aの他面側10bとp型熱電変換素子10Bの他面側10bとの間で導電性を確実に確保することができる。
【0055】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0056】
例えば、
図5に示す熱電変換モジュール50のように、n型熱電変換素子10Aとp型熱電変換素子10Bの他面側10bに形成された熱伝導性部材22の先端を、貯留槽51に貯留した冷却液52中に浸漬する構成としてもよい。このような構成とすることにより、n型熱電変換素子10A及びp型熱電変換素子10Bの一面側10aと他面側10bとで温度差を維持することができ、発電効率が向上することになる。
【0057】
また、
図6に示す熱電変換モジュール60のように、絶縁性基板21のn型熱電変換素子10A及びp型熱電変換素子10Bが接合された面とは反対側の面に、金属層61が形成されていてもよい。このような構成とすることにより、金属層61を介して熱源を配置することができ、絶縁性基板21に対する熱衝撃を抑え、絶縁性基板21の寿命延長を図ることができる。
【0058】
さらに、熱伝導性部材の形状については、本実施形態の形状に限定されることはなく、様々な形態を採用することができる。例えば、
図7(a)に示す熱伝導性部材121のように断面星形形状としたり、
図7(b)に示す熱伝導性部材221のように断面多角形状としたり、
図7(c)に示す熱伝導性部材321のように多段形状としたり、
図7(d)に示す熱伝導性部材421のようにフィン421Aを突出させたりして、表面積を大きくしてもよい。
あるいは、
図7(e)に示す熱伝導性部材521のように、貫通孔521Aを設けて、この貫通孔521Aに冷却媒体が流通するように構成してもよい。また、熱伝導性部材を金属の多孔質体で構成してもよい。
【符号の説明】
【0059】
10A n型熱電変換素子
10B p型熱電変換素子
11A n型熱電変換材料
11B p型熱電変換材料
12a、12b メタライズ層
13a、13b 電極板
22、121、221、321、421、521 熱伝導性部材