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特許7052202水系コーティング剤およびこれを用いたガスバリア性フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】水系コーティング剤およびこれを用いたガスバリア性フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20220405BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
B32B27/30 102
B32B27/20 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017049498
(22)【出願日】2017-03-15
(65)【公開番号】P2018149779
(43)【公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾村 悠希
(72)【発明者】
【氏名】神永 純一
(72)【発明者】
【氏名】星 沙耶佳
【審査官】小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-502163(JP,A)
【文献】特開2015-208924(JP,A)
【文献】特開2014-214232(JP,A)
【文献】特開平10-166516(JP,A)
【文献】特開2015-145111(JP,A)
【文献】特開2004-322601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも片面に積層されたガスバリア膜とを備えるガスバリア性フィルムであって、
前記ガスバリア膜は、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)とを含み、
前記ガスバリア膜に含まれる前記無機層状鉱物(B)の含有量が5質量%以上であり、
前記ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)の質量を前記無機層状鉱物(B)の質量で除した値が2/3以上であり、
前記無機層状鉱物(B)が水膨潤性合成雲母を含むことを特徴とする、ガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記ガスバリア膜に含まれる前記無機層状鉱物(B)の含有量が8質量%以上30質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記ガスバリア膜は、さらにポリビニルアルコール(C)を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)とを含む水系コーティング剤であって、
全固形分中に占める前記無機層状鉱物(B)の含有量が5質量%以上であり、
前記ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)の質量を前記無機層状鉱物(B)の質量で除した値が2/3以上であり、
前記無機層状鉱物(B)が水膨潤性合成雲母を含むことを特徴とする、水系コーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系コーティング剤およびこれを用いたガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等の包装に用いられる包装材料には、内容物の変質や腐敗などを抑制し、それらの機能や性質を保持するために、水蒸気、酸素、その他の内容物を変質させる気体の進入を遮断する性質(ガスバリア性)が要求される。そのため、従来、これら包装材料には、ガスバリア層を有するものが用いられている。
【0003】
これまで、ガスバリア層は、フィルムや紙などの基材上に、スパッタリング法や蒸着法、ウェットコーティング法や印刷法などにより設けられていた。また、ガスバリア層としては、アルミニウムなどの金属からなる金属箔や金属蒸着膜、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の水溶性高分子、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂からなる樹脂膜、上記水溶性高分子と無機層状鉱物との複合膜等が用いられている(例えば、特許文献1~5参照)。
【0004】
しかし、金属箔や金属蒸着膜は、ガスバリア性に優れるものの、不透明であるため、内容物を確認することができない点や、伸縮性に劣るため、数%の伸びでクラックが生じて、ガスバリア性が低下する点や、使用後の廃棄時に、不燃物として処理する必要がある点等、種々の問題があった。また、ポリ塩化ビニリデンからなる樹脂膜は、湿度依存性のない良好なガスバリア性を示すものの、塩素を含むため、廃棄処理などの際に、ダイオキシンなどの有害物質の発生源となりうる可能性があり、包装材料として用いることが嫌われる傾向にある。また、非塩素系のポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の水溶性高分子からなる樹脂膜は、低湿度雰囲気では高いガスバリア性を示すものの、ガスバリア性に湿度依存性があり、湿度の上昇とともにガスバリア性が大きく低下する欠点があった。また、ポリ塩化ビニリデンおよび水溶性高分子以外の他の樹脂からなる樹脂膜は、ポリ塩化ビニリデンの樹脂膜や、低湿度雰囲気におけるポリビニルアルコールの樹脂膜と比較すると、ガスバリア性が劣っていた。また、水溶性高分子と無機層状鉱物との複合膜は、水溶性高分子からなる樹脂膜に比べて湿度依存性を改善することは可能である。しかしながら、湿度依存性を改善するために無機層状鉱物の配合比を上げるにつれて膜強度が減少する問題があった。また、一般的な水溶性高分子と無機層状鉱物との複合膜は、プラスチック基材との密着性が低く、実用的な密着強度を得るためにはプラスチック基材と複合膜との間に密着層を形成しなければいけない問題があった。
【0005】
一方で、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体からなる皮膜はプラスチック基材との密着力及びガスバリア性を兼ね備えることが可能である(特許文献6~8参照)。しかしながら、単純にビニルアルコール-ビニルアミン共重合体のみからなる皮膜ではガスバリア性の湿度依存性が激しく、湿度の上昇とともにガスバリア性が大きく低下してしまう。これに対し、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体と特定の架橋剤とを反応させる技術も考案されているが、架橋に伴う粘度の上昇や、化学構造の変化があるため、塗工適性が低下する、可使時間が短くなる等の問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-287294号公報
【文献】特開平11-165369号公報
【文献】特開平6-93133号公報
【文献】特開平9-150484号公報
【文献】特許第3764109号公報
【文献】特許第3260384号公報
【文献】特許第4889735号公報
【文献】特許第5669738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高湿度雰囲気下においてもガスバリア性に優れるとともに、可使時間が長く、かつ、包装用材料として十分な密着強度や膜凝集強度を有するガスバリア膜を形成することができる水系コーティング剤およびこれを用いたガスバリア性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基材と、基材の少なくとも片面に積層されたガスバリア膜とを備えるガスバリア性フィルムであって、ガスバリア膜は、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)とを含み、ガスバリア膜に含まれる無機層状鉱物(B)の含有量が5質量%以上であり、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)の質量を無機層状鉱物(B)の質量で除した値が2/3以上であり、無機層状鉱物(B)が水膨潤性合成雲母を含むことを特徴とする。
【0009】
また、ガスバリア膜に含まれる無機層状鉱物(B)の含有量が8質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0010】
また、ガスバリア膜は、さらにポリビニルアルコール(C)を含んでもよい。
【0011】
また、本発明は、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)とを含む水系コーティング剤であって、全固形分中に占める無機層状鉱物の含有量が5質量%以上であり、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)の質量を無機層状鉱物(B)の質量で除した値が2/3以上であり、無機層状鉱物(B)が水膨潤性合成雲母を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高湿度雰囲気下においてもガスバリア性に優れるとともに、可使時間が長く、かつ、包装用材料として十分な密着強度や膜凝集強度を有するガスバリア膜を形成することができる水系コーティング剤およびこれを用いたガスバリア性フィルムを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の水系コーティング剤及びこれを用いたガスバリア性フィルムについて、実施形態を示して説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであって、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0014】
<水系コーティング剤>
本実施形態に係る水系コーティング剤は、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)とを含む。
【0015】
「ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)」
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)は、典型的には以下の構造を有する。
【0016】
【化1】

ここで、mは0モル%以上15モル%以下であり、nは50%以上99モル%以下であり、xは0モル%以上30モル%以下であり、yは1モル%以上50モル%以下である。ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)がアミノ基を含んでいることで、プラスチック基材への良好な密着性が発現する。
【0017】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)の製造方法は特に限定されず、例えば特許第4385633号、特許第5669738号、特許第4640886号等にその製造方法が公開されている。
【0018】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)の製造は通常、N-ビニルアミド単位および酢酸ビニル単位から成る共重合体を、塩基性条件下で水に分散させながら加水分解することで行われる。N-ビニルアミド単位は、例えば、N-ビニルホルムアミド又はN-ビニルアセトアミドから得られる。製造工程中に、酢酸ビニル及びN-ビニルアミドは、少なくとも約70%以上、好ましくは約90%以上、より好ましく約95%以上の割合で加水分解される。得られる共重合体の重量平均分子量は種々の要因によって変化する。例えば、重量平均分子量は約80000より大きく、好ましくは約90000より大きい。
【0019】
上記製造方法において、共重合体中のN-ビニルアミド単位および酢酸ビニル単位のモル比は、好ましくは3:97~40:60、さらに好ましくは5:95~25:75の範囲である。共重合体中のN-ビニルアミド単位のモル比の割合が3未満である場合、プラスチック基材との密着性に悪影響が生ずる。また、共重合体中のN-ビニルアミド単位のモル比の割合が40を超える場合、水液コーティング剤からなるガスバリア膜のガスバリア性が低下する。出発共重合体としては、得られる共重合体の所望の特性に悪影響がない限り、更に他の任意のモノマー単位を含有してもよい。他のモノマーの含有量は、全モノマー単位に対し30モル%以下である。
【0020】
加水分解は塩基性条件下で行われる。塩基性条件は苛性アルカリ等の強アルカリを添加することにより生起し得る。苛性アルカリとしては、例えば、苛性ソーダ及び苛性カリが挙げられる。アルカリの添加量は、全モノマー当量当たり、通常0.1当量以上10当量以下であり、好ましくは0.5当量以上5当量以下である。
【0021】
加水分解の終了時に、反応混合物は、通常、スラリー状である。このスラリーを冷却し、固形分を適当な手段によって反応液から分離する。次いで、回収されたポリマーを洗浄して不純物を除去する。洗浄は、1)アルコール、2)20℃以下冷却水、および3)塩水から選択された少なくとも1種を含有する洗浄液を用いて行い、ポリマー中の不純物を除去する。
【0022】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)は種々の市販品を使用することもできる。例えば、三菱化学社から市販されるDIAFIXや、セキスイ・スペシャリティ・ケミカルズ社から市販されるUltiloc(登録商標)を使用することができる。
【0023】
「無機層状鉱物(B)」
「無機層状鉱物」とは、極薄の単位結晶層が重なって1つの層状粒子を形成している無機化合物を指す。無機層状鉱物(B)は、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体にさらなるガスバリア性を付与する目的で用いられる。無機層状鉱物(B)としては、水中で膨潤および/またはへき開する化合物が好ましく、水への膨潤性を有する粘土化合物が特に好ましい。より具体的には、無機層状鉱物(B)は、極薄の単位結晶層間に水を配位し、吸収および/または膨潤する性質を有する粘土化合物であることが好ましい。かかる粘土化合物は、一般には、Si4+がO2-に対して配位して四面体構造を構成する層と、Al3+、Mg2+、Fe2+、Fe3+等がO2-およびOHに対して配位して八面体構造を構成する層とが、1対1あるいは2対1で結合し、積み重なって層状構造を形成する化合物である。この粘土化合物は、天然の化合物であっても、合成された化合物であってもよい。
【0024】
無機層状鉱物(B)の代表的なものとしては、フィロケイ酸塩鉱物等の含水ケイ酸塩が挙げられ、例えば、ハロイサイト、カオリナイト、エンデライト、ディッカイト、ナクライト等のカオリナイト族粘土鉱物;アンチゴライト、クリソタイル等のアンチゴライト族粘土鉱物;モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等のスメクタイト族粘土鉱物;バーミキュライト等のバーミキュライト族粘土鉱物;白雲母、金雲母、マーガライト、テトラシリリックマイカ、テニオライト等の雲母またはマイカ族粘土鉱物等が挙げられる。これらの無機層状鉱物(B)は、1種単独で、または2種以上が組み合わせられて用いられる。これらの無機層状鉱物(B)の中でも、モンモリロナイト等のスメクタイト族粘土鉱物、水膨潤性雲母等のマイカ族粘土鉱物が好ましい。
【0025】
無機層状鉱物(B)の大きさは、平均粒径が10μm以下で、厚さが500nm以下であることが好ましい。平均粒径、厚さがそれぞれ上記の上限値以下であれば、皮膜中で無機層状鉱物(B)が均一に整列しやすくなり、ガスバリア性及び膜凝集強度が高いものとなる。尚、無機層状鉱物(B)の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計により測定される。また、無機層状鉱物(B)の厚さは、原子間力顕微鏡(AFM)により測定される。
【0026】
無機層状鉱物(B)は、少なくとも、水膨潤性合成雲母を含むことがより好ましく、平均粒径が1μm以上10μm以下で、厚さが10nm以上100nm以下である水膨潤性合成雲母を含むことが特に好ましい。水膨潤性合成雲母は、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合(A)との親和性が高く、天然系の雲母に比べて不純物が少ない。そのため、無機層状鉱物(B)として水膨潤性合成雲母を用いると、不純物に由来するガスバリア性の低下や膜凝集力の低下を招きにくい。また、水膨潤性合成雲母は、結晶構造内にフッ素原子を有することから、水系コーティング剤から形成されるガスバリア膜のガスバリア性の湿度依存性を低く抑えることにも寄与する。加えて、水膨潤性合成雲母は、他の水膨潤性の無機層状鉱物に比べて、高いアスペクト比を有することから、迷路効果がより効果的に働き、水系コーティング剤から形成されるガスバリア膜のガスバリア性が特に高く発現するのに寄与する。
【0027】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)とを主たる構成成分として含む水系コーティング剤は、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)の無機層状鉱物(B)に対する質量割合が40/60以上であり、かつ、全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量が5質量%以上でなければならない。ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)の無機層状鉱物(B)に対する質量割合が40/60を下回ると、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)との相互作用が過剰に発現し、水系コーティング剤が急激に増粘し、塗工適性が失われる。また、プラスチック基材への密着性も失われる。また、全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量が5質量%を下回ると、無機層状鉱物(B)による迷路効果が弱まり、ガスバリア性が低下する。
【0028】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)とを主たる構成成分として含む水系コーティング剤は、全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量が8質量%以上30質量%以下であることが好ましい。全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量が8質量%以上であることで、水系コーティング剤から形成されるガスバリア膜のガスバリア性がより向上する。また、全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量が30%以下であることで、水系コーティング剤から形成されるガスバリア膜の凝集強度が向上し、他のフィルムと貼り合わせた際の剥離強度が向上する。また、全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量は、10質量%以上27質量%以下であることがより好ましく、12質量%以上24質量%以下であることが特に好ましい。全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量が12質量%以上24質量%以下であることで、水系コーティング剤の塗工適性がより良好であって、かつ、ガスバリア性及び凝集強度がより良好なガスバリア膜を得ることができる。
【0029】
「ポリビニルアルコール(C)」
よりガスバリア性が良いガスバリア膜を形成するために、水系コーティング剤にはポリビニルアルコール系重合体およびその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリビニルアルコール(C)を含むことが好ましい。ポリビニルアルコール系重合体の誘導体としては、例えばポリビニルアルコールの側鎖に単量体がグラフト重合したグラフト重合体等が挙げられる。鹸化度が95%以上かつ重合度が300以上のポリビニルアルコール(C)を含むことが特に好ましい。ポリビニルアルコール(C)の重合度は、300以上2400以下が好ましく、450以上2000以下が特に好ましい。ポリビニルアルコール(C)は、鹸化度や重合度が高い程、吸湿膨潤性が低くなり高いガスバリア性を発揮する。ポリビニルアルコール(C)の鹸化度が95%未満では、十分なガスバリア性が得られないおそれがある。ポリビニルアルコール(C)の重合度が300未満では、ガスバリア性や皮膜凝集強度の低下を招くおそれがある。一方、ポリビニルアルコール(C)の重合度が2400を超えると、コーティング剤の粘度が上がり、他の成分と均一に混合することが難しくなるため、ガスバリア性や密着強度の低下といった不具合を招くおそれがある。
【0030】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)とポリビニルアルコール(C)とを主たる構成成分として含む水系コーティング剤は、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)の無機層状鉱物(B)に対する質量割合が40/60以上であり、かつ、全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量が5質量%以上でなければならない。ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)の無機層状鉱物(B)に対する質量割合が40/60を下回ると、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)との相互作用が過剰に発現し、水系コーティング剤が急激に増粘し、塗工適性が失われる。また、プラスチック基材への密着性も失われる。また、全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量が5質量%を下回ると、無機層状鉱物(B)による迷路効果が弱まり、ガスバリア性が低下する。
【0031】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)とポリビニルアルコール(C)とを主たる構成成分として含む水系コーティング剤は、全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量が8質量%以上30質量%以下であることが好ましい。全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量が8質量%以上であることで、水系コーティング剤から形成されるガスバリア膜のガスバリア性がより向上する。また、全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量が30%以下であることで、水系コーティング剤から形成されるガスバリア膜の凝集強度が向上し、他のフィルムと貼り合わせた際の剥離強度が向上する。また、全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量は、10質量%以上27質量%以下であることがより好ましく、12質量%以上24質量%以下であることが特に好ましい。全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量が12質量%以上24質量%以下であることで、可使時間が長く、ガスバリア性及び凝集強度が良好なガスバリア膜を得ることができる。
【0032】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)とポリビニルアルコール(C)とを主たる構成成分として含む水系コーティング剤は、全固形分中に占めるポリビニルアルコール(C)の含有量が10質量%以上であることが好ましい。全固形分中に占めるポリビニルアルコール(C)の含有量が10質量%以上であることで、水系コーティング剤から形成されるガスバリア膜のガスバリア性はより良好になる。全固形分中に占めるポリビニルアルコール(C)の含有量は15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。
【0033】
ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)とポリビニルアルコール(C)とを主たる構成成分として含む水系コーティング剤は、以下の条件を満たすものが特に好ましい。
・ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)の無機層状鉱物(B)に対する質量割合が40/60以上である。
・全固形分中に占める無機層状鉱物(B)の含有量が12質量%以上24質量%以下である。
・全固形分中に占めるポリビニルアルコール(C)の含有量が20質量%以上である。
【0034】
全固形分中に占めるビニルアルコール/ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)とポリビニルアルコール(C)との含有量の割合が上記の所定の範囲内であることで、可使時間が長く、ガスバリア性及び凝集強度が特に良好なガスバリア膜を得ることができる。
【0035】
上記した主成分に加えて、本実施形態に係る水系コーティング剤では必要に応じて種々の成分を加えることができる。例えば、酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、フィラー、消泡剤、シランカップリング剤、界面活性剤等の添加剤が挙げられる。
【0036】
<ガスバリア性フィルム>
本実施形態に係るガスバリア性フィルムは、プラスチック材料からなる基材フィルムと、基材フィルムの少なくとも片面に積層され、上述した水系コーティング剤から形成されたガスバリア膜と、を備えることを特徴とする。
【0037】
基材フィルムを構成するプラスチック材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン-エチレン共重合体などのポリC2-10オレフィンなどのオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66の脂肪族系ポリアミド、ポリメタキシリレンアジパミドなどの芳香族ポリアミドなどのポリアミド系樹脂;ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体などのビニル系樹脂;ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどの(メタ)アクリル系単量体の単独または共重合体などのアクリル系樹脂;セロファン等が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で、または2種以上が組み合わせられて用いられる。
【0038】
基材フィルムとしては、単一の樹脂で構成された単層フィルム、複数の樹脂を用いた単層または積層フィルム等が挙げられる。また、上記の樹脂を他の基材(金属、木材、紙、セラミックスなど)に積層した積層基材を用いてもよい。基材フィルムとしては、ポリオレフィン系樹脂フィルム(特に、ポリプロピレンフィルム等)、ポリエステル系樹脂フィルム(特に、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム)、ポリアミド系樹脂フィルム(特に、ナイロンフィルム)等が好ましい。
【0039】
基材フィルムは、未延伸フィルムであってもよく、一軸または二軸延伸配向フィルムであってもよい。また、基材フィルムは、水系コーティング剤から形成されたガスバリア膜を積層する面(水系コーティング剤が塗布される面)に、水系コーティング剤に対する濡れ性と、ガスバリア膜に対する接着強度とを向上させるために、コロナ処理、低温プラズマ処理等の表面処理が施されてもよい。また、基材フィルムは、水系コーティング剤から形成されたガスバリア膜を積層する面に、アンカーコート処理またはアンダーコート処理が施されてもよい。
【0040】
基材フィルムの厚さは、特に限定されるものではなく、包装材料としての適性や他の積層膜の積層適性を考慮しつつ、価格や用途によって適宜選択されるが、実用的には3μm以上200μm以下であり、好ましくは5μm以上120μm以下であり、より好ましくは10μm以上100μm以下である。
【0041】
本実施形態に係るガスバリア性フィルムにおけるガスバリア膜は、基材フィルムの片面(一方の面)あるいは両面上に、本実施形態に係る水系コーティング剤を塗布して水系コーティング剤からなる塗膜を形成し、その塗膜を乾燥することにより形成することができる。
【0042】
水系コーティング剤の塗布方法としては、公知の湿式コーティング方法を用いることができる。湿式コーティング方法としては、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、ダイコート、スクリーン印刷、スプレーコートなどが挙げられる。また、水系コーティング剤からなる塗膜を乾燥する方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等の公知の乾燥方法を用いることができる。
【0043】
本実施形態に係るガスバリア性フィルムにおけるガスバリア膜の厚さ、すなわち、水系コーティング剤からなる塗膜の乾燥後の厚さは、要求されるガスバリア性に応じて設定されるが、0.1μm以上5μm以下であることが好ましく、0.2μm以上2μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上1μm以下であることがさらに好ましい。水系コーティング剤からなるガスバリア膜の厚さが0.1μm以上であれば、十分なガスバリア性が得られやすい。水系コーティング剤から形成されたガスバリア膜の厚さが5μm以下であれば、均一な塗膜面を形成することが容易であり、かつ、乾燥負荷や製造コストを抑制できる。
【0044】
本実施形態に係るガスバリア性フィルムは、必要に応じて、印刷層、アンカーコート層、オーバーコート層、遮光層、接着剤層、ヒートシール可能な熱融着層、その他の機能層等をさらに有していてもよい。
【0045】
本実施形態に係るガスバリア性フィルムがヒートシール可能な熱融着層を有する場合、この熱融着層は、ガスバリア性フィルムの少なくとも一方面の最表層に配置される。ガスバリア性フィルムが熱融着層を有することにより、ガスバリア性フィルムを熱シールすることで内容物を密封することが可能となる。熱融着層は、例えば、本実施形態に係るガスバリア性フィルムの最表面に、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系等の公知の接着剤を用いて、公知のドライラミネート法、エクストルージョンラミネート法等により積層することができる。
【実施例
【0046】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の各例で用いた材料を以下に示す。
【0047】
<基材フィルム>
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム:市販品(商品名:P-60、東レ社製、厚さ:12μm)。以下PETと記載する。
二軸延伸ポリプロピレンフィルム:市販品(商品名:PJ201、AJプラスト社製、厚さ:20μm)。以下OPPと記載する。
【0048】
<水系コーティング剤>
「ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)」
(A):セキスイ・スペシャリティ・ケミカルズ社製のビニルアルコール-ビニルアミン共重合樹脂(商品名:Ultiloc(登録商標)5003)。
【0049】
「無機層状鉱物(B)」
(B1):水膨潤性合成雲母(商品名:ソマシフ(登録商標)MEB-3、コープケミカル社製)。
(B2):モンモリロナイト(商品名:クニピア(登録商標)F、クニミネ工業社製)。
(B3):ナトリウムヘクトライト(商品名:NHTゾルB2、トピー工業社製)。
【0050】
「ポリビニルアルコール(C)」
(C):鹸化度98~99%、重合度500のポリビニルアルコール(商品名:ポバールPVA-105、クラレ社製)。
【0051】
<実施例1~13>
表1に示す種類及び配合比率(質量%)で、最終的な固形分濃度が6.0質量%となるように水系コーティング剤を作製した。まずビニルアルコール-ビニルアミン共重合樹脂(A)とポリビニルアルコール(C)とを所定量配合し、90℃にて1時間攪拌することで溶解した。その後液温を室温まで下げてから無機層状鉱物(B)を添加し、その後、全水性媒体中の10質量%がイソプロパノールとなるように、イソプロパノールで希釈した。これによって実施例1~13の水系コーティング剤をそれぞれ調製した。ここで、配合比率は、全固形分に対する各成分の固形分の比率であり、以下においても同様である。
【0052】
【表1】
【0053】
次に、実施例1~13の水系コーティング剤を用い、ガスバリア性フィルムを作製した。まず、グラビア印刷機を用いて、表1に示す基材フィルムのコロナ処理面に、作製した実施例1~13に係る水系コーティング剤を塗工し、塗膜を形成した。次に、この塗膜を乾燥させてガスバリア膜を形成し、実施例1~13に係るガスバリア性フィルムを得た。形成されたガスバリア膜の厚さは、電子顕微鏡によって確認測定したところ、いずれの例においても0.4μmであった。
【0054】
<比較例1~6>
表2に示す種類及び配合比率(質量%)で、最終的な固形分濃度が6.0質量%となるように水系コーティング剤を作製した。まずビニルアルコール-ビニルアミン共重合樹脂(A)とポリビニルアルコール(C)とを所定量配合し、90℃にて1時間攪拌することで溶解した。その後液温を室温まで下げてから無機層状鉱物(B)を添加し、その後、全水性媒体中の10質量%がイソプロパノールとなるように、イソプロパノールで希釈した。これによって比較例1~6の水系コーティング剤をそれぞれ調製した。
【0055】
【表2】
【0056】
次に、比較例1~6の水系コーティング剤を用い、ガスバリア性フィルムを作製した。まず、グラビア印刷機を用いて、表2に示す基材フィルムのコロナ処理面に、作製した比較例1~6に係る水系コーティング剤を塗工し、塗膜を形成した。次に、この塗膜を乾燥させてガスバリア膜を形成し、比較例1~6に係るガスバリア性フィルムを得た。形成されたガスバリア膜の厚さは、電子顕微鏡によって確認測定したところ、いずれの例においても0.4μmであった。
【0057】
<比較例7>
架橋剤としてエピクロロヒドリンの付加物であるPolycup172(Ashland社製)を用意した。表2に示す配合比率(質量%)で、最終的な固形分濃度が6.0質量%となるように水系コーティング剤を作製した。まずビニルアルコール-ビニルアミン共重合樹脂(A)を所定量配合し、90℃にて1時間攪拌することで溶解した。その後液温を室温まで下げてから、全水性媒体中の10質量%がイソプロパノールとなるように、イソプロパノールで希釈した。その後Polycup172を所定量添加した。これによって比較例7の水系コーティング剤を調製した。次に、比較例7の水系コーティング剤を用い、比較例1~6と同様の手順で比較例7のガスバリア性フィルムを作製した。
【0058】
<評価>
(1)塗液粘度
実施例1~13および比較例1~7で得た水系コーティング剤について、振動式粘度計(商品名:VM-1A-MH、山一電機工業社製)を用いて塗液粘度を測定した。材料を全て配合してから1時間後、及び1ヶ月後に測定した。評価結果を表1~2に示す。
【0059】
(2)酸素ガスバリア性
実施例1~13および比較例1~7で得たガスバリア性フィルムについて、酸素透過度測定装置(商品名:OXTRAN-2/20、MOCON社製)を用いて、30℃、70%RHの雰囲気下、酸素透過度(cm/(m・day・MPa):OTR)を測定した。評価結果を表1~2に示す。
【0060】
(3)ラミネート強度(剥離強度)
実施例1~13および比較例1~7で得たガスバリア性フィルムのコーティング面側(ガスバリア膜側)に、ドライラミネーション加工により、ポリエステルウレタン系接着剤(商品名:タケラックA-969、タケネートA-5、三井化学社製)を介して、厚さ30μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(商品名:CPP GLC、三井化学東セロ社製)をラミネートした後に、50℃にて48時間養生し、積層フィルムを得た。この積層フィルムを15mm幅の短冊状にカットし、引張試験機テンシロンにより、ガスバリア性フィルムを、未延伸ポリプロピレンフィルムから、300mm/分の速度で90°剥離させて、ラミネート強度(N/15mm)を測定した。評価結果を表1~2に示す。
【0061】
表1~2に示すように、実施例1~13のガスバリア性フィルムは、30℃70%RHにおいて70cm/(m・day・MPa)以下の良好な酸素バリア性を示した。また、実施例1~13のガスバリア性フィルムは、1.0N/15mm以上の高い剥離強度を示した。また、実施例1~13の水系コーティング剤は、1ヶ月経過後も粘度が70mPa・s以下であって塗工性は問題なかった。
【0062】
また、実施例10~13のガスバリア性フィルムは、水系コーティング剤が、ビニルアルコール/ビニルアミン共重合体(A)と無機層状鉱物(B)とポリビニルアルコール(C)とを主たる構成成分として含み、かつ、所定の配合比内であるため、30℃70%RHにおいて30cm/(m・day・MPa)以下の酸素バリア性であり、かつ、1.5N/15mm以上の剥離強度であった。そのため、実施例10~13のガスバリア性フィルムは、特に酸素バリア性と剥離強度のバランスが優れていることがわかった。
【0063】
一方、比較例1~6のガスバリア性フィルムは、水系コーティング剤が、ビニルアルコール-ビニルアミン共重合体(A)及び無機層状鉱物(B)のいずれかの材料が含まれていないか、配合比が所定の範囲外であった。そのため、比較例2、5の水系コーティング剤は粘度が高く塗工が不可能であり、比較例1、3、6のガスバリア性フィルムは30℃70%RHにおける酸素バリア性が劣り、比較例4のガスバリア性フィルムは剥離強度が低いという問題があった。比較例7のガスバリア性フィルムは、水系コーティング剤が架橋剤を含んでいたため、1ヶ月後の粘度上昇が激しく、可使時間が短かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の水系コーティング剤およびこれを用いたガスバリア性フィルムは、水系コーティング剤の可使時間が長く、高湿度雰囲気下においてもガスバリア性に優れ、さらに、包装用材料として十分な密着強度や膜凝集強度を有する。したがって、本発明の水系コーティング剤およびこれを用いたガスバリア性フィルムは、包装材料として有用である。
【0065】
また、本発明のガスバリア性フィルムは、例えば、乾燥食品・菓子・パン・珍味などの湿気や酸素を嫌う食品、および、使い捨てカイロ、錠剤・粉末薬または湿布・貼付剤などの医薬品の包装材料として有用である。また、本発明のガスバリア性フィルムは、高いガスバリア性と内容物の認識が可能な透明性を必要とされる包装分野に用いることができる。