(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】タイヤインナーライナー用熱可塑性エラストマー組成物、積層体、タイヤインナーライナーおよび空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20220405BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20220405BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20220405BHJP
B32B 25/02 20060101ALI20220405BHJP
B32B 25/08 20060101ALI20220405BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220405BHJP
B60C 5/14 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L23/26
C08L21/00
B32B25/02
B32B25/08
B32B27/18 Z
B60C5/14
(21)【出願番号】P 2017203383
(22)【出願日】2017-10-20
【審査請求日】2020-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】友井 修作
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-021146(JP,A)
【文献】特開2015-025043(JP,A)
【文献】国際公開第2007/100157(WO,A1)
【文献】特開2012-072306(JP,A)
【文献】国際公開第2016/195749(WO,A1)
【文献】特表2018-515677(JP,A)
【文献】特開2015-116803(JP,A)
【文献】特開2007-098764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
B32B 25/02
B32B 25/08
B32B 27/18
B60C 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂中にゴム粒子が分散した熱可塑性エラストマー組成物であって、示差走査熱量測定による140~250℃の範囲での熱可塑性樹脂の結晶融解ピークの200℃未満のピーク面積Aと200℃以上のピーク面積Bが式(1)
3.5≦B/A≦15.0 ・・・ (1)
を満たし、
前記熱可塑性樹脂
がナイロン6
およびナイロン6/66共重合体
を含み、
前記ゴム粒子
が臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体および無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合
体を含み、
熱可塑性エラストマー組成物の熱可塑性樹脂/ゴム粒子混合量比が0.62~1.08である、タイヤインナーライナー用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂
さらにナイロン6/12共重合体
および/またはエチレンビニルアルコール共重合体
を含む、請求項1に記載のタイヤインナーライナー用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
3.5≦B/A≦11.6である、請求項1または2に記載のタイヤインナーライナー用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物のフィルムと、前記フィルムの両面に積層されたゴム組成物の層とからなるタイヤインナーライナー用積層体。
【請求項5】
前記フィルムが10~200μmの厚さを有する、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
請求項4または5に記載の積層体からなるタイヤインナーライナー。
【請求項7】
請求項6に記載のタイヤインナーライナーを含む空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤインナーライナー用熱可塑性エラストマー組成物、熱可塑性エラストマー組成物のフィルムを含む積層体、前記積層体からなるタイヤインナーライナーおよび前記タイヤインナーライナーを含む空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムをタイヤインナーライナーとして用いる場合に、フィルムの保護もしくは部材取り扱い性の観点から、前記フィルムをゴム層と積層させた技術が提案されている(特許文献1,特許文献2)。
しかし、ゴム層でフィルム両面を挟んだサンドイッチ構造の場合、加硫中に発生する水蒸気などの揮発分により加硫終了時に前記フィルム内に発泡が生じやすいという問題があった。
一方で、そのような加硫故障を抑制するために、加硫温度を調整する技術も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-6499号公報
【文献】特開2013-129167号公報
【文献】特開2009-214330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ゴム層が積層されてフィルム表面がゴム層で覆われた構造の場合でも、加硫時にフィルム発泡などの加硫故障を生ずることのないタイヤインナーライナーを作製することができる熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、熱可塑性樹脂中にゴム粒子が分散したタイヤインナーライナー用熱可塑性エラストマー組成物において、熱可塑性エラストマー組成物の示差走査熱量測定(DSC測定)による140℃から250℃の範囲での熱可塑性樹脂の結晶融解ピークの200℃未満のピーク面積Aと200℃以上のピーク面積Bの関係をB/A≧3.5とすることで耐熱性が向上した組成物を得ることができ、加硫時のフィルム発泡を抑制することができることを見いだし、本発明を完成した。
【0006】
本件第一発明は、熱可塑性樹脂中にゴム粒子が分散した熱可塑性エラストマー組成物であって、示差走査熱量測定による140~250℃の範囲での熱可塑性樹脂の結晶融解ピークの200℃未満のピーク面積Aと200℃以上のピーク面積Bが式(1)
B/A≧3.5 ・・・ (1)
を満たす、タイヤインナーライナー用熱可塑性エラストマー組成物である。
本件第二発明は、本件第一発明の熱可塑性エラストマー組成物のフィルムと、前記フィルムの両面に積層されたゴム組成物の層とからなるタイヤインナーライナー用積層体である。
本件第三発明は、本件第二発明の積層体からなるタイヤインナーライナーである。
本件第四発明は、本件第三発明のタイヤインナーライナーを含む空気入りタイヤである。
【0007】
本発明は、次の実施態様を含む。
[1]熱可塑性樹脂中にゴム粒子が分散した熱可塑性エラストマー組成物であって、示差走査熱量測定による140~250℃の範囲での熱可塑性樹脂の結晶融解ピークの200℃未満のピーク面積Aと200℃以上のピーク面積Bが式(1)
B/A≧3.5 ・・・ (1)
を満たす、タイヤインナーライナー用熱可塑性エラストマー組成物。
[2]前記熱可塑性樹脂が、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン69、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン6/66/12、ナイロン6/66/610、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T、ナイロン9Tおよびエチレンビニルアルコール共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載のタイヤインナーライナー用熱可塑性エラストマー組成物。
[3]前記ゴム粒子が、臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体および無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]または[2]に記載のタイヤインナーライナー用熱可塑性エラストマー組成物。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物のフィルムと、前記フィルムの両面に積層されたゴム組成物の層とからなるタイヤインナーライナー用積層体。
[5]前記フィルムが10~200μmの厚さを有する、[4]に記載の積層体。
[6][4]または[5]に記載の積層体からなるタイヤインナーライナー。
[7][6]に記載のタイヤインナーライナーを含む空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を使用して作製したタイヤインナーライナーは、タイヤ加硫時のフィルム発泡がない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本件第一発明は、タイヤインナーライナー用熱可塑性エラストマー組成物に関する。本件第一発明の熱可塑性エラストマー組成物はタイヤインナーライナーを作製するために用いられる。
本件第一発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂中にゴム粒子が分散したものである。換言すれば、本件第一発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂からなるマトリックスとゴム粒子からなる分散相とからなる。本件第一発明の熱可塑性エラストマー組成物は、いわゆる海島構造を有し、熱可塑性樹脂が海を形成し、ゴム粒子が島を形成する。
【0010】
本件第一発明の熱可塑性エラストマー組成物は、示差走査熱量測定(DSC測定)による140~250℃の範囲での熱可塑性樹脂の結晶融解ピークの200℃未満のピーク面積Aと200℃以上のピーク面積Bが式(1)
B/A≧3.5 ・・・ (1)
を満たすことが必要である。
示差走査熱量測定(DSC測定)による140~250℃の範囲での熱可塑性樹脂の結晶融解ピークの200℃未満のピーク面積Aと200℃以上のピーク面積Bの比B/Aを、以下単に「面積比B/A」ともいう。
B/Aは好ましくは3.5~15.0であり、より好ましくは4.0~12.0である。B/Aが小さすぎると、熱可塑性エラストマー組成物の耐熱性が低下するため、タイヤ加硫時に発泡が生じる懸念があり、B/Aが大きすぎると、剛性の高い高融点樹脂が増えることになるため、熱可塑性エラストマー組成物の疲労耐久性が低下する懸念がある。
【0011】
熱可塑性樹脂は、上記の式(1)を満足する限り、限定するものではないが、好ましくは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン69、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン6/66/12、ナイロン6/66/610、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T、ナイロン9Tおよびエチレンビニルアルコール共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0012】
ゴム粒子を構成するゴムとしては、ジエン系ゴムおよびその水添物およびエポキシ化物、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴム、シリコーンゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。
ジエン系ゴムおよびその水添物およびエポキシ化物としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR、水素化SBS(SEBS)、水素化SIS(SEPS)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、エポキシ化スチレンブタジエンゴム、エポキシ化スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(ESBS)等が挙げられる。
オレフィン系ゴムとしては、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-エチルアクリレート共重合体(変性EEA)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、アイオノマー等が挙げられる。
含ハロゲンゴムとしては、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)や塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)等のハロゲン化ブチルゴム、ハロゲン化イソモノオレフィン-p-アルキルスチレン共重合体(たとえば臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体(BIMS))、ハロゲン化イソブチレン-イソプレン共重合ゴム、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M-CM)等が挙げられる。
シリコーンゴムとしては、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム等が挙げられる。含イオウゴムとしては、ポリスルフィドゴム等が挙げられる。フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等が挙げられる。
なかでも、臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体が、空気遮断性の観点およびマトリックスの熱可塑性樹脂との混合性の観点から、好ましい。
【0013】
ハロゲン化イソモノオレフィン-p-アルキルスチレン共重合体は、イソモノオレフィンとp-アルキルスチレンの共重合体をハロゲン化することにより製造することができ、ハロゲン化イソモノオレフィンとp-アルキルスチレンの混合比、重合率、平均分子量、重合形態(ブロック共重合体、ランダム共重合体等)、粘度、ハロゲン原子等は、特に限定されず、熱可塑性エラストマー組成物に要求される物性等に応じて任意に選択することができる。ハロゲン化イソモノオレフィン-p-アルキルスチレン共重合体を構成するイソモノオレフィンとしては、イソブチレン、イソペンテン、イソヘキセン等が例示できるが、好ましくはイソブチレンである。ハロゲン化イソモノオレフィン-p-アルキルスチレン共重合体を構成するp-アルキルスチレンはp-メチルスチレン、p-エチルスチレン、p-プロピルスチレン、p-ブチルスチレン等が例示できるが、好ましくはp-メチルスチレンである。ハロゲン化イソモノオレフィン-p-アルキルスチレン共重合体を構成するハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が例示できるが、好ましくは臭素である。特に好ましいハロゲン化イソモノオレフィン-p-アルキルスチレン共重合体は臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体である。
臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体は、式(1)
【0014】
【0015】
で表される繰り返し単位を有するイソブチレン-p-メチルスチレン共重合体を臭素化したものであり、典型的には式(2)
【0016】
【0017】
で表される繰り返し単位を有するものである。臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体は、エクソンモービル・ケミカル社(ExxonMobil Chemical Company)から、EXXPRO(登録商標)の商品名で入手することができる。
【0018】
無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体としては、無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-ヘキセン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-オクテン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-4-メチルペンテン共重合体などを挙げることができる。無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体は、たとえば、三井化学株式会社からタフマー(登録商標)MH7010の商品名で入手することができる。無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体は、たとえば、三井化学株式会社からタフマー(登録商標)MP6010の商品名で入手することができる。無水マレイン酸変性エチレン-オクテン共重合体は、エクソンモービル・ケミカル社(ExxonMobil Chemical Company)から、Exxelor(登録商標)VA1840の商品名で入手することができる。
【0019】
ゴム粒子は、前記ゴムの他に、必要に応じて各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては、たとえば、加硫または架橋剤、加硫または架橋促進剤、老化防止剤、カーボンブラックやシリカなどの補強剤(フィラー)、可塑剤、各種オイルなどを挙げることができる。
【0020】
ゴム粒子の形状および寸法は、本発明の効果を奏する限り限定されないが、ゴム粒子の形状は好ましくは球または楕円体であり、ゴム粒子の体積球相当径は、好ましくは0.1~10μmであり、より好ましくは0.1~5μmであり、さらに好ましくは0.2~2μmである。体積球相当径が小さすぎると、熱可塑性エラストマー組成物の粘度が増加し加工性が低下する懸念があり、体積球相当径が大きすぎると、熱可塑性エラストマー組成物の疲労耐久性が低下する懸念がある。
【0021】
本件第一発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂、ゴム、必要に応じて各種添加剤を、溶融混練することにより、製造することができる。好ましくは、ゴムをあらかじめゴムペレタイザーによりペレット状に加工し、得られたゴムペレットと、熱可塑性樹脂と、架橋剤と、必要に応じてその他の添加剤を、二軸混練押出機などに投入して、溶融混練することにより、熱可塑性樹脂中にゴムを分散させるとともに、ゴムを動的架橋することにより、熱可塑性エラストマー組成物を製造する。
【0022】
本件第二発明は、タイヤインナーライナー用積層体に関する。本件第二発明の積層体は、タイヤインナーライナーとして用いられる。本件第二発明の積層体は、本件第一発明の熱可塑性エラストマー組成物のフィルムと、前記フィルムの両面に積層されたゴム組成物の層とからなる。
【0023】
熱可塑性エラストマー組成物のフィルムの厚さは、特に限定するものではないが、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは15~150μmであり、さらに好ましくは20~100μmである。厚さが薄すぎると、空気透過量が増加し、所望のバリア性が確保できない懸念があり、厚さが厚すぎると、フィルムの剛性が増加し、タイヤインナーライナーとして用いた場合にタイヤ内面から剥がれる懸念がある。
【0024】
熱可塑性エラストマー組成物のフィルムは、特に限定するものではないが、インフレーション成形、Tダイ押出成形などによって製造することができる。
【0025】
積層体の作製に用いられるゴム組成物としては、タイヤのカーカス層、ベルト層などに用いられるゴム組成物を用いることができる。ゴム組成物は、ゴム成分に、必要に応じて各種添加剤を配合したものである。ゴム組成物の組成は、本発明の効果を阻害しない限り、限定されない。
【0026】
ゴム組成物に含まれるゴム成分としては、ジエン系ゴムおよびその水添物およびエポキシ化物、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴム、シリコーンゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。
ジエン系ゴムおよびその水添物およびエポキシ化物としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR、水素化SBS(SEBS)、水素化SIS(SEPS)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、エポキシ化スチレンブタジエンゴム、エポキシ化スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(ESBS)等が挙げられる。
オレフィン系ゴムとしては、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-エチルアクリレート共重合体(変性EEA)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、アイオノマー等が挙げられる。
含ハロゲンゴムとしては、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)や塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)等のハロゲン化ブチルゴム、ハロゲン化イソブチレン-イソプレン共重合ゴム、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M-CM)等が挙げられる。
シリコーンゴムとしては、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム等が挙げられる。含イオウゴムとしては、ポリスルフィドゴム等が挙げられる。
フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等が挙げられる。
なかでも、隣接ゴム材料との共架橋性の観点から、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴムが好ましく、より好ましくは、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、エポキシ化スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、それらの混合物であり、さらに好ましくは、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムの組み合わせ、天然ゴムとブタジエンゴムの組み合わせ、天然ゴムとブチルゴムの組み合わせ、天然ゴムとハロゲン化ブチルゴムの組み合わせなどである。
【0027】
ゴム組成物に配合される添加剤としては、カーボンブラックやシリカなどの補強剤(フィラー)、加硫または架橋剤、加硫または架橋促進剤、可塑剤、各種オイル、老化防止剤などを挙げることができる。各種添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、タイヤ用に従来より用いられている一般的な配合量とすることができる。
【0028】
本件第二発明の積層体は、本件第一発明の熱可塑性エラストマー組成物のフィルムにゴム組成物を積層することによって製造することができる。限定するものではないが、より具体的には、次のようにして製造することができる。まず、本件第一発明の熱可塑性エラストマー組成物を、インフレーション成形装置、Tダイ押出機等の成形装置でフィルム状に成形して、熱可塑性エラストマー組成物のフィルムを作製する。次に、ゴム組成物を、カレンダー等で圧延しながら、前記フィルムの上に積層する工程を、フィルムの両面に行うことにより、熱可塑性エラストマー組成物のフィルムの両面にゴム組成物の層が積層された積層体を製造する。または、ゴム組成物を、カレンダー等で圧延し、シート状に成形し、得られたゴム組成物シートを、ゴム組成物の層として、必要に応じて接着剤を用いて、熱可塑性エラストマー組成物のフィルムの両面に貼り合せて、積層体を製造してもよい。
【0029】
ゴム組成物の層の厚さは、特に限定するものではないが、好ましくは0.1~2mmであり、より好ましくは0.1~1mmであり、さらに好ましくは0.2~0.5mmである。厚さが薄すぎると、成形中や製品使用時に表面のゴム組成物層が破損してしまう懸念があり、厚さが厚すぎると、ゴム組成物層の剛性が増加し、熱可塑性エラストマー組成物のフィルムの表面から剥がれてしまう懸念がある。
【0030】
本件第三発明は、タイヤインナーライナーに関する。本件第三発明のタイヤインナーライナーは、本件第二発明の積層体からなるものである。
【0031】
本件第四発明は、空気入りタイヤに関する。本件第四発明の空気入りタイヤは、本件第三発明のタイヤインナーライナーを含むものである。
空気入りタイヤは、慣用の方法により製造することができる。たとえば、本件第一発明の熱可塑性樹脂組成物を所定の幅と厚さのフィルム状に押し出し、それをインナーライナーとしてタイヤ成形用ドラム上に円筒に貼りつけ、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムから抜き取ってグリーンタイヤとし、次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
[原材料]
以下の実施例および比較例において使用した原料は次のとおりである。
【0034】
熱可塑性樹脂として次のものを使用した。
UBEナイロン(商標)5023B: 宇部興産株式会社製ナイロン6/66共重合体
UBEナイロン(商標)1013B: 宇部興産株式会社製ナイロン6
UBEナイロン(商標)1011FB: 宇部興産株式会社製ナイロン6
UBEナイロン(商標)7024B: 宇部興産株式会社製ナイロン6/12共重合体
EVOH: 日本合成化学工業株式会社製「ソアノール」(登録商標)E3808
【0035】
ゴムとして次のものを使用した。
臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体(Br-IPMS): エクソンモービルケミカル社(ExxonMobil Chemical Company)製「EXXPRO」(登録商標)MDX89-4
酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体: 三井化学株式会社製無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体「タフマー」(登録商標)MH7010
【0036】
架橋剤として次のものを使用した。
酸化亜鉛: 正同化学工業株式会社製 亜鉛華3号
ステアリン酸: 日油株式会社製 ビーズステアリン酸
【0037】
老化防止剤として次のものを使用した。
6PPD: フレキシス(Flexsys)社製N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-1,4-フェニレンジアミン「サントフレックス(SANTOFLEX)」(登録商標)6PPD
【0038】
加工助剤として次のものを使用した。
加工助剤: エスアンドエスジャパン株式会社製高級脂肪酸エステル「ストラクトール」(登録商標)WB222
【0039】
[熱可塑性エラストマー組成物の調製]
表1に示す原料のうちBr-IPMSはあらかじめゴムペレタイザー(株式会社森山製作所製)によりペレット状に加工した。得られたゴムペレット、熱可塑性樹脂、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、架橋剤および老化防止剤を、表1に示す配合比率で、二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)に投入し、250℃で3分間混練した。混練物を押出機から連続的にストランド状に押出し、水冷後、カッターで切断することにより、ペレット状の予備配合物a、予備配合物bおよび予備配合物cを得た。
さらに、予備配合物aに、追加の樹脂として、表2に示す量のナイロン6(宇部興産株式会社製「UBEナイロン」(商標)1013B)またはナイロンコンパウンド(デュポン社製「ZYTEL」(登録商標)ST811HS NC010)を添加し、熱可塑性エラストマー組成物a1~a5を調製した。予備配合物cに、追加の樹脂として、表2に示す量のナイロン6(宇部興産株式会社製「UBEナイロン」(商標)1013B)を添加し、熱可塑性エラストマー組成物cを調製した。追加の樹脂を添加しない予備配合物aを熱可塑性エラストマー組成物a0とした。予備配合物bは、追加の樹脂を添加せずに、そのまま、熱可塑性エラストマー組成物bとして用いた。
【0040】
[熱可塑性エラストマー組成物のフィルム成形]
熱可塑性エラストマー組成物a0~a5、bおよびcを、Tダイシート成形装置(トミー機械工業株式会社製)を使用して240℃で押出し、金属の冷却ロール上に引き落とし、ピンチロールで引取り、フィルム両端を切り落とし、巻取機で巻き取ることにより、熱可塑性エラストマー組成物フィルムを作製した。いずれのフィルムも得られたフィルムの厚みは70μm、フィルム幅は350mmであった。
【0041】
[示差走査熱量測定による面積比B/Aの算出]
作製した熱可塑性エラストマー組成物フィルムについて、示差走査熱量計(メトラー・トレド製)を用いて、温度範囲:-120℃から250℃まで、昇温速度:10℃/minで、2回測定を実施した。2回目の測定データ(セカンド・ラン)の140℃から250℃までの熱可塑性樹脂の結晶融解ピークの200℃未満のピーク面積Aと200℃以上のピーク面積Bを、コンピュータにて算出し、面積比B/Aを求めた。結果を表2に示す。
【0042】
[ゴム組成物の調製]
表3に示す原料のうち硫黄と加硫促進剤を除く各原料を神戸製鋼株式会社製B型バンバリーミキサー(1.8L)を用いて5分間混合した後、この混合物に硫黄と加硫促進剤を8インチの試験用練りロール機で4分間混練してゴム組成物を得た。
【0043】
[積層体の作製]
成形したフィルムと調製したゴム組成物をカレンダーを用いて積層し、積層体を作製した。積層体はゴム組成物でフィルム上下を挟んだサンドイッチ構造の積層体とし、ゴム組成物層の厚みは各0.3mm、積層体の総幅は420mmとした。
【0044】
[空気入りタイヤの製造]
作製した積層体を成形ドラム上に配置し、その後、カーカスなどのタイヤ部材を常法により積層し、グリーンタイヤを作製した。このグリーンタイヤを通常の加硫成形方法により加硫し、それぞれの仕様の195/65R15サイズの空気入りタイヤを製造した。
【0045】
[タイヤ加硫におけるインナーライナー加硫耐性の評価]
空気入りタイヤの製造時における、加硫後のタイヤ内面を観察し、加硫によるインナーライナー発泡の有無を評価した。結果を表2に示す。
DSCにおける面積比B/Aが3.5よりも低い比較例1~3はインナーライナーに顕著な発泡が見られたのに対し、面積比B/Aが3.5以上である実施例1~4では発泡が無く、良好な加硫耐性を有することが分かる。
【0046】
【0047】
【0048】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、空気入りタイヤの製造に好適に利用することができる。