(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】電子線硬化型インクジェットインクおよび画像形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20220405BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220405BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C09D11/30
B41J2/01 129
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 100
(21)【出願番号】P 2017238746
(22)【出願日】2017-12-13
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155620
【氏名又は名称】木曽 孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】宮野 雅士
(72)【発明者】
【氏名】池田 征史
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-126509(JP,A)
【文献】特開2016-180072(JP,A)
【文献】特開2004-018656(JP,A)
【文献】特開2002-012801(JP,A)
【文献】特表2015-533861(JP,A)
【文献】特開2017-179130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三官能以上の多官能化合物を含む光重合性化合物と、
炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドと
を含有する電子線硬化型インクジェットインクであって、
前記多官能化合物の量は、前記光重合性化合物の全質量に対して5質量%を超え、40質量%以下であり、
前記直鎖アルキルアルデヒドの含有量は、電子線硬化型インクジェットインクの全質量に対して、トルエン換算値として、0.0
5mg/kg以上10mg/kg以下であることを特徴とする
電子線硬化型インクジェットインク。
【請求項2】
単官能の光重合性化合物の量は、前記光重合性化合物の全質量に対して10.4質量%以下である、請求項1に記載の電子線硬化型インクジェットインク。
【請求項3】
前記電子線硬化型インクジェットインクの全質量に対する前記直鎖アルキルアルデヒドの含有量は、トルエン換算値として、0.0
5mg/kg以上1.0mg/kg以下である、請求項1
または2に記載の電子線硬化型インクジェットインク。
【請求項4】
ゲル化剤をさらに含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の電子線硬化型インクジェットインク。
【請求項5】
前記ゲル化剤の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して0.5質量%以上10.0質量%未満である、請求項4に記載の電子線硬化型インクジェットインク。
【請求項6】
前記ゲル化剤は、主鎖に12個以上の炭素原子を含む直鎖アルキル基を有する脂肪族エステルまたは脂肪族ケトンを含む、請求項4または5に記載の電子線硬化型インクジェットインク。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の電子線硬化型インクジェットインクの液滴を、吐出ヘッドのノズルから吐出して記録媒体の表面に着弾させる工程と、
前記着弾したインクジェットインクの液滴に、電子線を照射する工程と、
を含む、画像形成方法。
【請求項8】
前記電子線は、加速電圧が150kV未満の電子線である、請求項7に記載の画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線硬化型インクジェットインク、およびそれを用いた画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット画像形成方法は、簡易かつ安価に画像を形成できることから、各種印刷分野で用いられている。インクジェットインク(以下、単に「インク」ともいう。)の一種として、活性光線を照射されることで硬化するインクが知られている。活性光線硬化型のインクジェットインクの液滴を記録媒体の表面に着弾させ、着弾した液滴に活性光線を照射すると、インクの液滴が硬化してなる硬化膜が記録媒体の表面に形成される。この硬化膜を形成していくことで、所望の画像を形成することができる。活性光線硬化型インクによる画像形成方法は、高速シングルパス印刷においても色混じりを抑制することが可能であり、さらには記録媒体の吸水性にかかわらず、高い密着性を有する画像を形成できることから、注目されている。
【0003】
活性光線としては、紫外線が広く使用されている。しかしながら、紫外線硬化型のインクの場合、短時間の紫外線照射によってインクを完全に硬化させるのは難しい。そのため、インク中に含まれる光重合開始剤やその分解物、未反応の光重合性化合物などのマイグレーションが発生する恐れがあった。一方、活性光線として電子線を使用すると、電子線の高エネルギーによってインクの液滴がより短時間で硬化することから、光重合開始剤を使用することなく、強固な硬化膜の形成が可能となる。また、光重合開始剤を使用しないことによって、光重合開始剤由来のマイグレーションの防止にもつながる。
【0004】
しかし、特許文献1によると、電子線を用いて形成した硬化膜は柔軟性に乏しく、折れ割れなどが発生しやすいといった問題がある。このような問題を解決する手段としては、電子線硬化型インクに含まれる光重合性化合物として単官能モノマーおよび/または二官能モノマーを使用し、三官能以上の多官能モノマーは含有しないか、含有しても5重量%以下に抑制することが特許文献1には開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の電子線硬化型インクの硬化膜は、柔軟性は高いが、耐擦性が満足できるものではないことが判明した。これは、電子線硬化型インク中の多官能化合物の量が少なすぎて、インクの架橋度が不十分なためと考えられる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、柔軟性が高いため折れ割れの発生が少なく、且つ耐擦性が高い画像を形成可能な、電子線硬化型インクジェットインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の手段により解決される。
[1] 三官能以上の多官能化合物を含む光重合性化合物と、
炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドと
を含有し、前記直鎖アルキルアルデヒドの含有量は、電子線硬化型インクジェットインクの全質量に対して、トルエン換算値として、0.001mg/kg以上10mg/kg以下である、電子線硬化型インクジェットインク。
[2] 前記電子線硬化型インクジェットインクの全質量に対する前記直鎖アルキルアルデヒドの含有量は、トルエン換算値として、0.01mg/kg以上1.0mg/kg以下である、[1]に記載の電子線硬化型インクジェットインク。
[3] 前記多官能化合物の量は、光重合性化合物の全質量に対して5質量%を超え、40質量%以下である、[1]または[2]に記載の電子線硬化型インクジェットインク。
[4] ゲル化剤をさらに含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の電子線硬化型インクジェットインク。
[5] 前記ゲル化剤の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して0.5質量%以上10.0質量%未満である、[4]に記載の電子線硬化型インクジェットインク。
[6] 前記ゲル化剤は、主鎖に12個以上の炭素原子を含む直鎖アルキル基を有する脂肪族エステルまたは脂肪族ケトンを含む、[4]または[5]に記載の電子線硬化型インクジェットインク。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の電子線硬化型インクジェットインクの液滴を、吐出ヘッドのノズルから吐出して記録媒体の表面に着弾させる工程と、
前記着弾したインクジェットインクの液滴に、電子線を照射する工程と、
を含む、画像形成方法。
[8] 前記電子線は、加速電圧が150kV未満の電子線である、[7]に記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、柔軟性が高いため折れ割れの発生が少なく、且つ耐擦性が高い画像を形成可能な、電子線硬化型インクジェットインクが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、光重合性化合物として三官能以上の多官能化合物を含有し、炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドを、トルエン換算値として、0.001mg/kg以上10mg/kg以下の量でさらに含有する電子線硬化型インクジェットインク(以下、単に「電子線硬化型インク」や「インク」ともいう。)を用い、電子線硬化による画像形成を行うと、形成された画像は、高い柔軟性と高い耐擦性とを同時に満たし、さらにマイグレーションが生じ難いことが明らかとなった。その理由は、次のように考えられる。
【0011】
電子線硬化型インクに電子線を照射すると、インク中の光重合性化合物が重合または架橋して硬化膜が形成される。このとき、本発明のインクのように、光重合性化合物として三官能以上の多官能化合物を含み、炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドをさらに含むと、直鎖アルキルアルデヒドが光重合性化合物の架橋の一部を阻害することによって、光重合性化合物の架橋度が適度に低下すると考えられる。その結果、電子線でインクを硬化させても、硬化膜の柔軟性が低くなり過ぎることはなく、折れ割れの発生が抑制され得る。さらに本発明のインクは光重合性化合物として三官能以上の多官能化合物を含むことから、インクの架橋度が低くなり過ぎて、硬化膜の耐擦性が不十分になることもないと考えられる。
【0012】
さらにインク中の直鎖アルキルアルデヒドは、光重合性化合物の分子間相互作用を低減させることができるため、直鎖アルキルアルデヒドの存在によってインクの粘度が低下し、インクジェットヘッドからのインクの吐出安定性が高まると考えられる。
【0013】
以下に、例示的な実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
1.電子線硬化型インクジェットインク
本発明の第一の実施形態は、三官能以上の多官能化合物を含む光重合性化合物と、炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドとを含有する、電子線硬化型インクジェットインクに係る。
【0015】
1-1.光重合性化合物
光重合性化合物は、電子線の照射によって重合または架橋反応を生じて重合または架橋し、インクを硬化させる作用を有する化合物であればよい。光重合性化合物の例には、ラジカル重合性化合物およびカチオン重合性化合物が含まれる。光重合性化合物は、モノマー、重合性オリゴマー、プレポリマーあるいはこれらの混合物のいずれであってもよい。本発明において使用する光重合性化合物は、三官能以上の多官能化合物を含む限り、1種のみからなるものでも、2種類以上を含むものでもよい。
【0016】
光重合性化合物の含有量は、たとえば、インクの全質量に対して1質量%以上100質量%以下とすることができる。
【0017】
ラジカル重合性化合物は、不飽和カルボン酸エステル化合物であることが好ましく、(メタ)アクリレートであることがより好ましい。ラジカル重合性化合物は、インク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタアクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基またはメタアクリロイル基を意味し、「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0018】
(メタ)アクリレートの例には、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、およびt-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどを含む単官能の(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、およびトリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどを含む2官能のアクリレート、ならびに、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、およびペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレートなどを含む三官能以上のアクリレートなどが含まれる。
【0019】
(メタ)アクリレートは、変性物であってもよい。変性物である(メタ)アクリレートの例には、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどを含むエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、トリプロピレンエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどを含むエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどを含むカプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ならびにカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどを含むカプロラクタム変性(メタ)アクリレートなどが含まれる。
【0020】
(メタ)アクリレートは、重合性オリゴマーであってもよい。重合性オリゴマーである(メタ)アクリレートの例には、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、および直鎖(メタ)アクリルオリゴマーなどが含まれる。
【0021】
カチオン重合性化合物は、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、およびオキセタン化合物などでありうる。カチオン重合性化合物は、ゲルインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0022】
ビニルエーテル化合物の例には、ブチルビニルエーテル、ブチルプロペニルエーテル、ブチルブテニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、エチルエトキシビニルエーテル、アセチルエトキシエトキシビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルおよびアダマンチルビニルエーテルなどを含む単官能のビニルエーテル化合物、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールビニルエーテル、ブチレンジビニルエーテル、ジブチレングリコールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ノルボルニルジメタノールジビニルエーテル、イソバイニルジビニルエーテル、ジビニルレゾルシンおよびジビニルハイドロキノンなどを含む2官能のビニルエーテル化合物、ならびに、グリセリントリビニルエーテル、グリセリンエチレンオキシド付加物トリビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数6)、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、トリビニルエーテルエチレンオキシド付加物トリビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数3)、ペンタエリスリトールトリビニルエーテルおよびジトリメチロールプロパンヘキサビニルエーテルなどならびにこれらのオキシエチレン付加物などを含む三官能以上のビニルエーテル化合物などが含まれる。
【0023】
エポキシ化合物の例には、アリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェノール(ポリエチレンオキシ)5-グリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ラウリルグリシジルエーテル、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,4-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサンおよびノルボルネンオキシドなどを含む単官能のエポキシ化合物、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルおよび1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどを含む2官能のエポキシ化合物、ならびに、ポリグリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルおよびペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどを含む三官能以上のエポキシ化合物などが含まれる。
【0024】
オキセタン化合物の例には、2-(3-オキセタニル)-1-ブタノール、3-(2-(2-エチルヘキシルオキシエチル))-3-エチルオキセタンおよび3-(2-フェノキシエチル)-3-エチルオキセタンなどを含む単官能のオキセタン化合物、ならびに、キシリレンビスオキセタンおよび3,3’-(オキシビスメチレン)ビス(3-エチルオキセタン)などを含む多官能のオキセタン化合物などが含まれる。
【0025】
光重合性化合物には三官能以上の多官能化合物が含まれるが、その他の光重合性化合物、即ち、単官能化合物や二官能化合物が含まれてもよい。インクによって形成される画像の柔軟性と耐擦性とのバランスを保つためには、光重合性化合物の全質量に対する三官能以上の多官能化合物の量は、5質量%超40質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。三官能以上の多官能化合物の量は5質量%を超えることによって、画像形成物の耐擦性が向上し、40質量%以下であることによって、インクの吐出安定性が保たれる。
【0026】
1-2.直鎖アルキルアルデヒド
本発明のインクは、炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドを含む。炭素数が6以上9以下である直鎖アルキルアルデヒドは、光重合性化合物の架橋を適度に阻害して、インクの電子線硬化によって得られる硬化膜の柔軟性と耐擦性の両立を可能にする。炭素数6以上であれば、柔軟性を向上させるのに十分な阻害が可能となり、炭素数が9以下であれば、架橋の阻害によって耐擦性が不十分になることもない。
【0027】
炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドの具体例としては、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール等が挙げられる。尚、本発明において使用するアルキルアルデヒドは直鎖状である。分岐アルキルアルデヒドでは、立体障害が大きく、架橋の阻害が大きくなりすぎてしまい、柔軟性と耐擦性の両立が難しいと考えられる。
【0028】
直鎖アルキルアルデヒドの含有量は、電子線硬化型インクの全質量に対して、トルエン換算値として、0.001mg/kg以上10mg/kg以下であり、好ましくは0.01mg/kg以上1.0mg/kg以下であり、より好ましくは0.05mg/kg以上0.5mg/kg以下である。
【0029】
直鎖アルキルアルデヒドの含有量が0.001mg/kg以上であると、光重合性化合物の架橋が直鎖アルキルアルデヒドによって部分的に阻害されるため、硬化膜の柔軟性の向上につながる。一方、直鎖アルキルアルデヒドの含有量が10mg/kg以下であれば、光重合性化合物の架橋度の低下によって耐擦性が不十分になることもない。
【0030】
尚、直鎖アルキルアルデヒドの含有量は、以下の方法によって求めることができる。
インクをメタノールで10倍に希釈し、それを0.5g精秤し、さらに5mlとなるようにメタノールで希釈することで、測定試料溶液を調製する。調製した測定試料溶液1μLをガスクロマトグラフ質量分析に付して、炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドに相当する分子量の成分の含有量を求め、得られた値に基づき、トルエン換算の定量値(mg/kg)を算出する。
【0031】
炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドは、インクの原料となる各種成分に別途添加してもよいが、光重合性化合物や、後述するゲル化剤などに微量成分(不純物)として含まれている場合もある。よって、原料に当該直鎖アルキルアルデヒドが含まれる場合には、その量も考慮して添加量を決定する。光重合性化合物やゲル化剤などに含まれる直鎖アルキルアルデヒドの量は、上述したインク中の直鎖アルキルアルデヒドの量と同様の方法により特定することができる。また、原料に含まれる直鎖アルキルアルデヒドの量が過剰である場合は、直鎖アルキルアルデヒドの量が上記範囲となるように、光重合性化合物やゲル化剤などとして、市販のものを精製してから使用してもよい。精製の方法に特に限定はなく、例えば光重合性化合物やゲル化剤を加熱する方法や、真空引きする方法等が挙げられる。
【0032】
1-3.ゲル化剤
本発明のインクは、ゲル化剤をさらに含有してもよい。ゲル化剤は、常温ではインクをゲル化させるが、加熱するとインクをゾル化させる有機物である。ゾル化したインクの吐出性および記録媒体に着弾したインクのゲル化によるピニング性を制御しやすくする観点から、ゲル化剤の融点は、30℃以上150℃未満であることが好ましい。
【0033】
ゲル化剤を含むインクは、酸素阻害の低下によって耐擦性が向上することが知られているが、その一方で、柔軟性の低下が問題となる場合がある。しかし、ゲル化剤と共に直鎖アルキルアルデヒドがインク中に存在することで、重合性化合物の架橋のみならず、ゲル化剤の結晶形成をも適度に阻害することができるため、高いレベルで耐擦性と柔軟性とを両立させることが可能となる。
【0034】
ゲル化剤の含有量は、インクの全質量に対して0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。ゲル化剤の含有量を0.5質量%以上とすることで、硬化膜の柔軟性をより高めて、画像の折り割れ耐性をより高めることもできる。一方で、ゲル化剤の含有量を10.0質量%以下とすることで、インクジェットヘッドからの吐出性をより高めることができる。ゲル化剤の含有量は、インクの全質量に対して0.5質量%以上5.0質量%未満であることがより好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
また、以下の観点から、ゲル化剤は、インクのゲル化温度以下の温度で、板状に結晶化したゲル化剤によって形成された三次元空間に光重合性化合物が内包される構造(このような構造を、以下「カードハウス構造」という。)を形成しうるものであることが好ましい。
【0036】
記録媒体に着弾した後のインクの液滴内で、ゲル化剤によるカードハウス構造が形成されると、電子線の照射によって光重合性化合物が重合および架橋するときに、カードハウス構造が立体的な障害となり、密な架橋構造が形成されにくい。そのため、カードハウス構造を形成するゲル化剤は、電子線硬化型インクが硬化してなる硬化膜をより柔軟にし、上記硬化膜を含む画像の折れ割れの発生をより抑制することができる。
【0037】
また、記録媒体に着弾した直後のインクの液滴内で、ゲル化剤によるカードハウス構造が形成されると、液体である光重合性化合物が前記空間内に保持されるため、インクの液滴がより濡れ広がりにくくなり、インクのピニング性がより高まる。インクのピニング性が高まると、記録媒体に着弾したインクの液滴同士が合一しにくくなり、より高精細な画像を形成することができる。
【0038】
カードハウス構造を形成するには、インク中で光重合性化合物とゲル化剤とが相溶していることが好ましい。また、光重合性化合物とゲル化剤とが相溶していると、ゲル化剤が硬化膜のより内部で結晶化するため、ゲル化剤が硬化膜の表面近傍で結晶化することによるブルーミングが生じにくくなる。
【0039】
結晶化によるカードハウス構造の形成に好適なゲル化剤の例には、ケトンワックス、エステルワックス、石油系ワックス、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、硬化ヒマシ油、変性ワックス、高級脂肪酸、脂肪族アルコール、ヒドロキシステアリン酸、N-置換脂肪酸アミドおよび特殊脂肪酸アミドを含む脂肪酸アミド、高級アミン、ショ糖脂肪酸のエステル、合成ワックス、ジベンジリデンソルビトール、ダイマー酸ならびにダイマージオールが含まれる。
【0040】
上記ケトンワックスの例には、ジリグノセリルケトン、ジベヘニルケトン、ジステアリルケトン、ジエイコシルケトン、ジパルミチルケトン、ジラウリルケトン、ジミリスチルケトン、ミリスチルパルミチルケトンおよびパルミチルステアリルケトンが含まれる。
【0041】
上記エステルワックスの例には、ベヘニン酸ベヘニル、イコサン酸イコシル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸パルミチル、パルミチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、セロチン酸ミリシル、ステアリン酸ステアリル、パルミチン酸オレイル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルが含まれる。
【0042】
上記エステルワックスの市販品の例には、日本エマルジョン社製、EMALEXシリーズ(「EMALEX」は同社の登録商標)、ならびに理研ビタミン社製、リケマールシリーズおよびポエムシリーズ(「リケマール」および「ポエム」はいずれも同社の登録商標)が含まれる。
【0043】
上記石油系ワックスの例には、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスおよびペトロラクタムを含む石油系ワックスが含まれる。
【0044】
上記植物系ワックスの例には、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、ホホバ固体ロウおよびホホバエステルが含まれる。
【0045】
上記動物系ワックスの例には、ミツロウ、ラノリンおよび鯨ロウが含まれる。
【0046】
上記鉱物系ワックスの例には、モンタンワックスおよび水素化ワックスが含まれる。
【0047】
上記変性ワックスの例には、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体、12-ヒドロキシステアリン酸誘導体およびポリエチレンワックス誘導体が含まれる。
【0048】
上記高級脂肪酸の例には、ベヘン酸、アラキジン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸,ラウリン酸、オレイン酸、およびエルカ酸が含まれる。
【0049】
上記脂肪族アルコールの例には、ステアリルアルコールおよびベヘニルアルコールが含まれる。
【0050】
上記ヒドロキシステアリン酸の例には、12-ヒドロキシステアリン酸が含まれる。
【0051】
上記脂肪酸アミドの例には、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミドおよび12-ヒドロキシステアリン酸アミドが含まれる。
【0052】
上記脂肪酸アミドの市販品の例には、日本化成社製、ニッカアマイドシリーズ(「ニッカアマイド」は同社の登録商標)、伊藤製油社製、ITOWAXシリーズ、および花王株式会社製、FATTYAMIDシリーズが含まれる。
【0053】
上記N-置換脂肪酸アミドの例には、N-ステアリルステアリン酸アミドおよびN-オレイルパルミチン酸アミドが含まれる。
【0054】
上記特殊脂肪酸アミドの例には、N,N’-エチレンビスステアリルアミド、N,N’-エチレンビス-12-ヒドロキシステアリルアミドおよびN,N’-キシリレンビスステアリルアミドが含まれる。
【0055】
上記高級アミンの例には、ドデシルアミン、テトラデシルアミンおよびオクタデシルアミンが含まれる。
【0056】
上記ショ糖脂肪酸のエステルの例には、ショ糖ステアリン酸およびショ糖パルミチン酸が含まれる。
【0057】
上記ショ糖脂肪酸のエステルの市販品の例には、三菱化学フーズ社製、リョートーシュガーエステルシリーズ(「リョートー」は同社の登録商標)が含まれる。
【0058】
上記合成ワックスの例には、ポリエチレンワックスおよびα-オレフィン無水マレイン酸共重合体ワックスが含まれる。
【0059】
上記合成ワックスの市販品の例には、Baker-Petrolite社製、UNILINシリーズ(「UNILIN」は同社の登録商標)が含まれる。
【0060】
上記ジベンジリデンソルビトールの例には、1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトールが含まれる。
【0061】
上記ジベンジリデンソルビトールの市販品の例には、新日本理化株式会社製、ゲルオールD(「ゲルオール」は同社の登録商標)が含まれる。
【0062】
上記ダイマージオールの市販品の例には、CRODA社製、PRIPORシリーズ(「PRIPOR」は同社の登録商標)が含まれる。
【0063】
これらのゲル化剤のうち、電子線の透過性をより高めて電子線の透過をより阻害させにくくし、光重合性化合物の架橋を促進させることで画像の耐擦性を高める観点からは、ゲル化剤は12個以上の炭素原子を含む直鎖アルキル基を有する脂肪族エステルまたは脂肪族ケトンであることが好ましい。なお、上記脂肪族エステルまたは脂肪族ケトンは、ケトン基またはエステル基を挟む2本の炭素鎖の一方のみが12個以上の炭素原子を含む直鎖アルキル基であればよいが、上記効果をより奏しやすくする観点からは、2本の炭素鎖の両方が上記炭素数の要件を満たす直鎖アルキル基であることが好ましい。上記炭素原子の数が12個以上である脂肪族エステルまたは脂肪族ケトンは、結晶性が高く、かつ、上記カードハウス構造においてより十分な空間を形成する。これにより、上記ゲル化剤は、結晶化したときに電子線を透過しやすいため、画像の耐擦性を高めると考えられる。上記脂肪族エステルまたは脂肪族ケトンは、インク中に1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。また、上記脂肪族エステルまたは脂肪族ケトンは、インク中にいずれか一方のみが含まれていてもよいし、双方が含まれていてもよい。
【0064】
一方で、光重合性化合物とゲル化剤とを相溶しやすくして、上記カードハウス構造をより形成されやすくする観点からは、上記炭素原子の数が25個以下であることが好ましい。
【0065】
上記12個以上25個以下の炭素原子を含む直鎖アルキル基を有する脂肪族エステルの例には、ベヘニン酸ベヘニル(炭素数:21-22)、イコサン酸イコシル(炭素数:19-20)、ステアリン酸ベヘニル(炭素数:17-21)、ステアリン酸ステアリル(炭素数:17-18)、ステアリン酸パルミチル(炭素数:17-16)、ステアリン酸ラウリル(炭素数:17-12)、パルミチン酸セチル(炭素数:15-16)、パルミチン酸ステアリル(炭素数:15-18)、ミリスチン酸ミリスチル(炭素数:13-14)、ミリスチン酸セチル(炭素数:13-16)、ミリスチン酸オクチルドデシル(炭素数:13-20)、オレイン酸ステアリル(炭素数:17-18)、エルカ酸ステアリル(炭素数:21-18)、リノール酸ステアリル(炭素数:17-18)、オレイン酸ベヘニル(炭素数:18-22)およびリノール酸アラキジル(炭素数:17-20)が含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、エステル基で分断される2つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
【0066】
上記12個以上25個以下の炭素原子を含む直鎖アルキル基を有する脂肪族エステルの市販品の例には、日油株式会社製、ユニスターM-2222SLおよびスパームアセチ(「ユニスター」は同社の登録商標)、花王株式会社製、エキセパールSSおよびエキセパールMY-M(「エキセパール」は同社の登録商標)、日本エマルジョン株式会社製、EMALEX CC-18およびEMALEX CC-10(「EMALEX」は同社の登録商標)ならびに高級アルコール工業株式会社製、アムレプスPC(「アムレプス」は同社の登録商標)が含まれる。これらの市販品は、二種類以上の混合物であることが多いため、必要に応じて分離・精製して電子線硬化型インクに含有させてもよい。
【0067】
上記12個以上25個以下の炭素原子を含む直鎖アルキル基を有する脂肪族ケトンの例には、ジリグノセリルケトン(炭素数:23-23)、ジベヘニルケトン(炭素数:21-21)、ジステアリルケトン(炭素数:17-17)、ジエイコシルケトン(炭素数:19-19)、ジパルミチルケトン(炭素数:15-15)、ジミリスチルケトン(炭素数:13-13)、ラウリルミリスチルケトン(炭素数:11-14)、ラウリルパルミチルケトン(11-16)、ミリスチルパルミチルケトン(13-16)、ミリスチルステアリルケトン(13-18)、ミリスチルベヘニルケトン(13-22)、パルミチルステアリルケトン(15-18)、バルミチルベヘニルケトン(15-22)およびステアリルベヘニルケトン(17-22)が含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、カルボニル基で分断される2つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
【0068】
上記12個以上25個以下の炭素原子を含む直鎖アルキル基を有する脂肪族ケトンの市販品の例には、Alfa Aeser社製、18-PentatriacontanonおよびHentriacontan-16-on、ならびに花王株式会社製、カオーワックスT1が含まれる。これらの市販品は、二種類以上の混合物であることが多いため、必要に応じて分離・精製して電子線硬化型インクに含有させてもよい。
【0069】
なお、光重合性の官能基を有するゲル化剤は、自身も架橋構造の形成に寄与するため、上述した硬化膜に柔軟性を付与する効果を十分に奏しない。そのため、この光重合性の官能基を有するゲル化剤を含有する電子線硬化型インクによって形成した硬化膜は、硬度が高くなりすぎて、折り割れが生じやすくなる。上記折り割れの発生を抑制する観点から、電子線硬化型インクが含有するゲル化剤は、光重合性の官能基を含まないことが好ましい。
【0070】
1-4.その他の成分
本発明のインクは、上述した成分以外にも、画像の柔軟性や耐擦性を顕著に低下させない限りにおいて、光重合開始剤、色材、分散剤、光増感剤、重合禁止剤および界面活性剤などを含むその他の成分をさらに含んでいてもよい。これらの成分は、電子線硬化型インク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0071】
光重合開始剤は、上記光重合性化合物がラジカル重合性の官能基を有する化合物であるときは、光ラジカル開始剤を含み、上記光重合性化合物がカチオン重合性の官能基を有する化合物であるときは、光酸発生剤を含む。光重合開始剤は、本発明のインク中に、一種のみが含まれていてもよく、二種類以上が含まれていてもよい。光重合開始剤は、光ラジカル開始剤と光酸発生剤の両方の組み合わせであってもよい。
【0072】
尚、電子線はエネルギー量が高いため、紫外線を照射する場合とは異なり、インクが光重合開始剤を実質的に含有しなくとも、重合および架橋を開始させることができる。インクが光重合開始剤を実質的に含有しないことで、未反応または反応後の光重合開始剤の残渣のマイグレーションを抑制することできる。よってマイグレーションを抑制する観点から、インクは光重合開始剤を実質的に含有しないことが好ましい。尚、「実質的に含有しない」とは、インクの全質量に対する含有量が0.1質量%未満である。
【0073】
色材には、染料および顔料が含まれる。
耐候性の良好な画像を得る観点からは、色材は顔料であることが好ましい。顔料は、形成すべき画像の色彩などに応じて、たとえば、黄(イエロー)顔料、赤またはマゼンタ顔料、青またはシアン顔料および黒顔料から選択することができる。
【0074】
黄顔料の例には、C.I.Pigment Yellow(以下、単に「PY」ともいう。) 1、PY3、PY12、PY13、PY14、PY17、PY34、PY35、PY37、PY55、PY74、PY81、PY83、PY93、PY94,PY95、PY97、PY108、PY109、PY110、PY137、PY138、PY139、PY153、PY154、PY155、PY157、PY166、PY167、PY168、PY180、PY185、およびPY193などが含まれる。
【0075】
赤あるいはマゼンタ顔料の例には、C.I.Pigment Red(以下、単に「PR」ともいう。) 3、PR5、PR19、PR22、PR31、PR38、PR43、PR48:1、PR48:2、PR48:3、PR48:4、PR48:5、PR49:1、PR53:1、PR57:1、PR57:2、PR58:4、PR63:1、PR81、PR81:1、PR81:2、PR81:3、PR81:4、PR88、PR104、PR108、PR112、PR122、PR123、PR144、PR146、PR149、PR166、PR168、PR169、PR170、PR177、PR178、PR179、PR184、PR185、PR208、PR216、PR226、およびPR257、C.I.Pigment Violet(以下、単に「PV」ともいう。) 3、PV19、PV23、PV29、PV30、PV37、PV50、およびPV88、ならびに、C.I.Pigment Orange(以下、単に「PO」ともいう。) 13、PO16、PO20、およびPO36などが含まれる。
【0076】
青またはシアン顔料の例には、C.I.Pigment Blue(以下、単に「PB」ともいう。) 1、PB15、PB15:1、PB15:2、PB15:3、PB15:4、PB15:6、PB16、PB17-1、PB22、PB27、PB28、PB29、PB36、およびPB60などが含まれる。
緑顔料の例には、C.I.Pigment Green(以下、単に「PG」ともいう。) 7、PG26、PG36、およびPG50などが含まれる。
【0077】
黒顔料の例には、C.I.Pigment Black(以下、単に「PBk」ともいう。) 7、PBk26、およびPBk28などが含まれる。
【0078】
色材の含有量は特に限定されず、たとえば、インクの全質量に対して1質量%以上10質量%以下とすることができる。なお、本実施形態で用いる電子線はエネルギー量が紫外線よりも高いため、色材の含有量が紫外線硬化型インクよりも多い場合でも、液滴の内部まで十分に硬化させることができる。たとえば、インクが黒顔料を含有し、黒顔料の含有量がインクの全質量に対して3質量%以上10質量%以下であるような場合、紫外線の照射ではインクの液滴を十分に硬化させることはできない。しかし、電子線を照射すれば、このような量の黒顔料を含有するインクの液滴も十分に硬化させることができる。
【0079】
分散剤の例には、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、およびステアリルアミンアセテートが含まれる。
【0080】
分散剤の含有量は、たとえば、顔料の全質量に対して20質量%以上70質量%以下とすることができる。
【0081】
重合禁止剤の例には、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p-ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5-ジ-t-ブチル-p-ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、トリ-p-ニトロフェニルメチル、N-(3-オキシアニリノ-1,3-ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o-イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシムおよびシクロヘキサノンオキシムが含まれる。
【0082】
界面活性剤の例には、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類および脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類およびポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類および第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤、ならびにシリコーン系やフッ素系の界面活性剤が含まれる。
【0083】
シリコーン系の界面活性剤の市販品の例には、KF-351A、KF-352A、KF-642およびX-22-4272、信越化学工業製、BYK307、BYK345、BYK347およびBYK348、ビッグケミー製(「BYK」は同社の登録商標)、ならびにTSF4452、東芝シリコーン社製が含まれる。
【0084】
界面活性剤の含有量は、インクの全質量に対して、0.001質量%以上1.0質量%未満であることが好ましい。
【0085】
1-5.物性
インクジェットヘッドからのインクの吐出性をより高める観点からは、インクの80℃における粘度は3mPa・s以上20mPa・s以下であることが好ましい。また、インクがゲル化剤を含むゲルインクの場合、着弾して常温に降温した際にインクを十分にゲル化させる観点からは、インクの25℃における粘度は1000mPa・s以上であることが好ましい。
【0086】
ゲルインクのゲル化温度は、40℃以上100℃未満であることが好ましい。インクのゲル化温度が40℃以上であると、記録媒体に着弾後、インクが速やかにゲル化するため、ピニング性がより高くなる。インクのゲル化温度が100℃未満であると、加熱によりゲル化したインクをインクジェットヘッドから吐出できるため、より安定してインクを吐出することができる。より低温でインクを吐出可能にし、画像形成装置への負荷を低減させる観点からは、インクのゲル化温度は、40℃以上70℃未満であることがより好ましい。
【0087】
インクの80℃における粘度、25℃における粘度およびゲル化温度は、レオメータにより、インクの動的粘弾性の温度変化を測定することにより求めることができる。本発明において、これらの粘度およびゲル化温度は、以下の方法によって得られた値である。インクを100℃に加熱し、ストレス制御型レオメータPhysica MCR301(コーンプレートの直径:75mm、コーン角:1.0°)、Anton Paar社製によって粘度を測定しながら、剪断速度11.7(1/s)、降温速度0.1℃/sの条件で20℃までインクを冷却して、粘度の温度変化曲線を得る。80℃における粘度および25℃における粘度は、粘度の温度変化曲線において80℃、25℃における粘度をそれぞれ読み取ることにより求めることができる。ゲル化温度は、粘度の温度変化曲線において、粘度が200mPa・sとなる温度として求めることができる。
【0088】
インクジェットヘッドからの吐出性をより高める観点からは、インクが顔料を含有するときの顔料粒子の平均粒子径は0.08μm以上0.5μm以下であり、最大粒子径は0.3μm以上10μm以下であることが好ましい。本発明における顔料粒子の平均粒子径とは、データサイザーナノZSP、Malvern社製を使用して動的光散乱法によって求めた値を意味する。なお、色材を含むインクは濃度が高く、この測定機器では光が透過しないので、インクを200倍で希釈してから測定する。測定温度は常温(25℃)とする。
【0089】
2.画像形成方法
本発明の第二の実施形態は、本発明のインクの液滴を、吐出ヘッドのノズルから吐出して記録媒体の表面に着弾させる第1の工程と、前記着弾したインクの液滴に、電子線を照射する第2の工程とを含む、画像形成方法に係る。
【0090】
2-1.第1の工程
本工程では、インクジェットヘッドのノズルからインクの液滴を吐出し、記録媒体に着弾させる。インクは、上述した本発明の電子線硬化型インクである。
【0091】
インクは、その基材への付量が1g/m2以上10g/m2以下となる量が吐出されることが好ましい。なお、付量が20g/m2以上40g/m2以下となるような場合、紫外線の照射ではすべてのインクの液滴を十分に硬化させることは難しい。しかし、電子線を照射すれば、このような付量のインクの液滴も十分に硬化させることができる。そのため、インクの付量を多くして形成される硬化膜の膜厚を従来の画像形成方法よりも厚くし、画像の色調をより鮮やかにすることが可能である。一方で、インクの付量(形成される硬化膜の膜厚)を従来の画像形成方法と同程度として、画像の色調を従来の画像形成方法による画像と同程度にしつつ、画像の柔軟性をより高めることも可能である。つまり、インクは、基材への付量が1g/m2以上40g/m2以下となる量の範囲で、吐出量を任意に調整することができる。
【0092】
インクジェットヘッドは、オンデマンド方式およびコンティニュアス方式のいずれのインクジェットヘッドでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドの例には、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型およびシェアードウォール型を含む電気-機械変換方式、ならびにサーマルインクジェット型およびバブルジェット(バブルジェットはキヤノン社の登録商標)型を含む電気-熱変換方式等が含まれる。
【0093】
また、インクジェットヘッドは、スキャン式およびライン式のいずれのインクジェットヘッドでもよい。
【0094】
インクがゲル化剤を含むゲルインクの場合、ゲル化温度より高い温度に加熱されて吐出される。このとき、インクタンク、インクジェットヘッド、およびインクタンクとインクジェットヘッドとを繋ぐインク流路などを加熱して、電子線硬化型インクをインクタンクからインクジェットヘッドまで流動させ、インクジェットヘッドのノズルから吐出させることができる。
【0095】
複数種のインクを使用する場合、インクは色毎に予め定められた順番で吐出されるが、液滴の合一などによる画像の崩れが顕著にならない限り、2種類以上のインクが同時に吐出されてもよい。
【0096】
記録媒体は、インクジェット法で画像を形成できる媒体であればよく、たとえば、アート紙、コート紙、軽量コート紙、微塗工紙およびキャスト紙を含む塗工紙ならびに非塗工紙を含む吸収性の媒体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブタジエンテレフタレートを含むプラスチックで構成される非吸収性の記録媒体(プラスチック基材)、ならびに金属類およびガラス等の非吸収性の無機記録媒体とすることができる。これらのうち、電子線によって劣化が生じにくい、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、およびアクリル樹脂が好ましい。
【0097】
インクがゲルインクの場合、記録媒体は、インクがゲル化温度以下に冷却され得る温度である限りにおいて、加温されていてもよい。記録媒体の温度を上記範囲で調整して、着弾したインクの液滴がゲル化するまでの時間を調整し、ゲル化したインクの液滴の広がりを調整することで、画像を構成するインク由来のドットの大きさを調整することができる。ドットの大きさは、たとえば、ドットの合一または液よりが生じない程度に大きくすればよい。
【0098】
2-2.第2の工程
本工程では、第1の工程で基材に着弾させたインクの液滴に、電子線を照射して、液滴を硬化させる。
【0099】
電子線のエネルギー(電子などの運動エネルギー)は、インクの内部にまで十分なエネルギーを到達させて光重合性化合物の重合および架橋を励起させてインクを十分に硬化させ得る程度であり、かつ、記録媒体に顕著な劣化を生じさせない程度であればよい。たとえば、画像に光沢ムラを生じにくくする観点からは、電子線の加速電圧は40kV以上であることが好ましく、記録媒体の劣化を抑制する観点からは、電子線の加速電圧は150kV未満であることが好ましい。
【0100】
電子線が酸素を分解して有害なオゾンを発生させないよう、第2の工程は低酸素雰囲気で行うことが好ましい。具体的には、第2の工程を行う際の酸素濃度は、0.1体積%以上10.0体積%以下であることが好ましく、0.5体積%以上8.0体積%以下であることがより好ましく、0.5体積%以上6.0体積%以下であることがさらに好ましい。
【0101】
電子線は、インク着弾後0.001秒以上2.0秒以下の間に照射されることが好ましく、より高精細な画像を形成する観点から、0.001秒以上1.0秒以下の間に照射されることがより好ましい。
【0102】
なお、硬化後の総インク膜厚は、2~25μmであることが好ましい。「総インク膜厚」とは、記録媒体に描画されたインク膜厚の最大値である。
【0103】
3.電子線硬化型インクジェットインクの用途
本発明のインクは、前述のように、折れ割れの発生が少なく、同時に耐擦性が高く、マイグレーションが生じ難い画像を形成可能である。従って、各種パッケージ等の印刷や、その他の種々の印刷に適用することができる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0105】
1.インクの調製
1-1.顔料分散液の調製
9質量部の分散剤、および71質量部の二官能の光重合性化合物をステンレスビーカーに入れ、65℃のホットプレート上で加熱しながら1時間加熱攪拌溶解した。室温まで冷却した上記溶解液に20質量部の顔料を加えて、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gと共にガラス瓶に入れ密栓して、ペイントシェーカーで4時間分散処理した。分散処理後、ジルコニアビーズを除去して、シアン顔料分散体をそれぞれ調製した。
【0106】
シアン顔料分散液の調製には、以下の材料を用いた。
(分散剤)
BASF社製、efka 7701(「efka」は同社の登録商標)
(二官能の光重合性化合物)
トリプロピレングリコールジアクリレート(0.2%の重合禁止剤を含有)
(シアン顔料)
C.I.Pigment Blue 15:4(大日精化工業株式会社製、クロモファインブルー 6332JC(「クロモファイン」は同社の登録商標))
【0107】
1-2.インクの調製
下記の表1および表2に記載されたインクの組成にしたがって以下の各成分およびシアン分散液を混合して、80℃に加熱して攪拌した。得られた溶液を加熱しながら、ADVANTEC社製テフロン(登録商標)3μmメンブランフィルターで濾過して、インクを調製した。
【0108】
次に、調製したインクに含まれる直鎖アルキルアルデヒドの量を測定し、必要な場合には、下記の表1および表2に記載された種類の直鎖アルデヒド化合物を添加・混合して、インクの直鎖アルキルアルデヒド量が表1および表2に記載の量となるように調整した。
【0109】
尚、インクに含まれる直鎖アルキルアルデヒドの量は以下の方法で定量した。
【0110】
(直鎖アルキルアルデヒドの定量方法)
インクをメタノールで10倍に希釈した。希釈したインク0.5gを精秤し、それを5mlになるようにメタノールでさらに希釈し、測定試料溶液とした。
得られた測定試料溶液1μLを、以下の条件下でガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)に付して、インクに含まれる直鎖アルキルアルデヒド量を測定した。尚、直鎖アルキルアルデヒドの定量値(mg/kg)は、トルエン換算で算出した。
【0111】
(GC/MSの測定装置および条件の詳細)
ガスクロマトグラフ:7890GC(Agilent社製)
質量分析装置:JSMQ1500GC(日本電子社製)
カラム:DB-624(内径:0.25mm×長さ:30mL、膜厚1.4μm)
キャリアガス:He 1.0ml/min
注入モード:Split(1:20)
注入口温度:230℃
GCオーブン条件:40℃(3分保持)、10℃/minで昇温、230℃(10分保持)
MS:Scan m/z30-400
SIM m/z41,56(アルデヒド)、
m/z43,57,71(アルカン)、
m/z41,57(アルコール)
【0112】
(インクの材料)
[光重合性化合物]
単官能化合物1: フェノキシエチルアクリレート
二官能化合物1: EO変性ネオペンチルグリオールジアクリレート
二官能化合物2: ポリエチレングリコール#600ジアクリレート
三官能以上の多官能化合物1: 3PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート
三官能以上の多官能化合物2: 3EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート
【0113】
[直鎖アルキルアルデヒド]
C6未満: プロピオンアルデヒド(炭素数:3)
C6~C9(1): ヘキサナール(炭素数:6)
C6~C9(2): ノナナール(炭素数:9)
C10以上: ドデカナール(炭素数:12)
【0114】
[ゲル化剤]
ゲル化剤1: ジステアリルケトン(花王社製、カオーワックスT1)
【0115】
2.画像形成および評価
2-1.画像形成方法
KM1800i、コニカミノルタ社製(ノズル数:1776個)を備えたインクジェット用の画像形成装置を用い、記録媒体としてコート紙(厚み:0.46mm、坪量:420g/m2、日本製紙株式会社製アイベストW)を用い、23℃、55%RHの環境下で、インク1~19により、付量が9g/m2である画像を形成し、評価した。なお、1枚の画像を形成するために用いたインクの液滴は、すべての液滴の着弾後に、酸素濃度0.5%の雰囲気で、下記の照射源から活性光線を照射して、全体を一括で硬化させた。搬送速度は、すべて200mm/sだった。記録媒体は、すべて35℃とした。
【0116】
(照射源)
EB:以下の条件で電子線を照射した。
吸収線量 60kGy
管電圧 70kV
管電流 1.64mA
照射距離 10mm
【0117】
2-2.評価方法
(柔軟性)
インク1~17のいずれかを用いて、5cm×5cmのベタ画像を形成した。
形成した画像を25℃、60%RHの環境下に24時間放置した後、ベタ画像を形成した面が山となり、かつ、ベタ画像に折り目が形成されるように、画像を長手方向に2つ折りにした。その後、折り曲げ部にセロハンテープ(3M社製)を貼り、ゆっくりと剥した。剥した後の折り曲げ部をもとに、以下の基準でインクの柔軟性を評価した。
◎:記録媒体を180°折り曲げ、10分保持しても画像が全く割れない
○:記録媒体を180°折り曲げると画像がわずかに割れるが、実用上許容範囲にある
△:記録媒体を90°折り曲げると画像がわずかに割れる
×:記録媒体を90°折り曲げると画像が大きく割れる
【0118】
(耐擦性)
インク1~17のいずれかを用いて、上述した画像形成方法でベタ画像を形成した。「JIS規格 K5701-1 6.2.3 耐摩擦性試験」に記載の方法に則り、適切な大きさに切り取った印刷用コート紙Aを画像上に設置し、荷重をかけて擦り合わせた。その後、画像濃度の低下の程度を目視観察し、下記の基準に従って耐擦過性を評価した。
◎:50回以上擦っても、画像の変化はまったく認められなかった
○:50回擦った段階で画像濃度の低下がほぼ認められなかった
△:50回擦った段階で画像濃度の低下が認められた
×:50回未満の擦りで、明らかな画像濃度低下が認められた
【0119】
(吐出安定性)
インクジェットヘッドからインク出射を行い、ノズル欠および出射曲がりの有無について目視観察を行い、下記の基準に則り、吐出安定性の評価を行った。
◎:ノズル欠の発生が全く認められなかった
〇:全ノズル512中、1個のノズルでノズル欠が認められた
△:全ノズル512中、2~4個のノズルでノズル欠が認められた
×:全ノズル512中、5個以上のノズルでノズル欠が認められた
【0120】
インク1~17の評価結果を表1および表2に示す。
【0121】
【0122】
【0123】
三官能以上の多官能化合物を含む光重合性化合物を含み、炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドを、インクの全質量に対して、トルエン換算値として、0.001mg/kg以上10mg/kg以下の量でさらに含むインク1~8は吐出安定性が高かった。また、当該インクを電子線硬化させることで得られた画像は、いずれも柔軟性と耐擦性に優れていた。中でも、直鎖アルキルアルデヒドの含有量が0.5mg/kg以下であるインク1および2は、直鎖アルキルアルデヒドの含有量が5.0mg/kgであるインク3よりも吐出安定性が高かった。さらに三官能以上の多官能化合物の含有量が30質量%であるインク4と5で形成した画像は、多官能化合物の含有量が10質量%であるインク2で形成した画像よりも耐擦性が高かった。
【0124】
上述した三官能以上の多官能化合物および炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドに加え、ゲル化剤も含有するインク6~8は、ゲル化剤を含まないこと以外は同じ組成であるインク1~3と比べて、柔軟性および耐擦性が高かった。これは、ゲル化剤によって酸素による重合阻害が抑制されたためと考えられる。また、上記インク1および2と同様に、直鎖アルキルアルデヒドの含有量が0.5mg/kg以下であるインク6および7は、直鎖アルキルアルデヒドの含有量が5.0mg/kgであるインク8よりも吐出安定性が高かった。
【0125】
また、炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドを含有しないこと以外はインク2と同じ組成であるインク9は、インク2と比べて吐出安定性が大幅に低下した。さらにインク9で形成した画像は、記録媒体を90°に折り曲げただけで画像が大きく割れるほど、柔軟性が低かった。また、インク9の組成における三官能以上の多官能化合物の含有量を減らし、代わりに単官能化合物を加えたインク10の場合、形成した画像は優れた柔軟性を示したものの、耐擦性は非常に低かった。
【0126】
炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドの含有量が10mg/kgを超えること以外はインク2と同じ組成であるインク11は、インク2と比べて吐出安定性が低下した。さらにインク11で形成した画像は耐擦性が低下した。また、インク11の組成における三官能以上の多官能化合物の含有量を減らし、代わりに単官能化合物を加えたインク12の場合、インクの吐出安定性および画像の耐擦性はさらに低下した。
【0127】
直鎖アルキルアルデヒドの炭素数が6未満であること以外はインク2と同じ組成であるインク13は、インク2と比べて吐出安定性が低下した。さらにインク13で形成した画像の柔軟性が低下した。同様の結果が、直鎖アルキルアルデヒドの炭素数が10以上であること以外はインク2と同じ組成であるインク14についても認められた。
【0128】
炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドを含有しないこと以外は、ゲル化剤を含むインク7と同じ組成であるインク15は、インク7と比べて吐出安定性が低下した。さらにインク15で形成した画像は、耐擦性は良好であったものの、記録媒体を90°に折り曲げただけで画像が大きく割れるほど、柔軟性が大幅に低下した。また、インク15の組成における三官能以上の多官能化合物の含有量を減らし、代わりに単官能化合物を加えたインク16の場合、形成した画像の柔軟性は少し低下し、耐擦性は少し回復した。炭素数6以上9以下の直鎖アルキルアルデヒドの含有量が10mg/kgを超えること以外はインク7と同じ組成であるインク17は、インク7と比べて吐出安定性が大幅に低下した。また、インク17で形成した画像の柔軟性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の電子線硬化型インクジェットインクは、柔軟性が高いため折れ割れの発生が少なく、且つ耐擦性が高い画像を形成することができる。そのため、本発明は、インクジェット法による画像形成の適用の幅を広げ、同分野の技術の進展および普及に貢献することが期待される。