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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20220405BHJP
   B62D 21/15 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
B62D25/08 D
B62D21/15 B
B62D25/08 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017240601
(22)【出願日】2017-12-15
(65)【公開番号】P2019107929
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸一
(72)【発明者】
【氏名】大橋 克成
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-287428(JP,A)
【文献】特開2000-177645(JP,A)
【文献】特開平09-267771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B62D 21/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員室の前側に設けられているダッシュパネルと、
前記ダッシュパネルから車両前方に突出し、前記車両の外表面を成す所定のパネル部材を支えるブラケットと、
前記ブラケットよりも下方にて車幅方向に延びているバンパメンバと、
前記ブラケットと前記バンパメンバとに差し渡されているブレースとを備えることを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記ブラケットの車幅方向から見た下側の輪郭は、前記ダッシュパネルから車両前側の斜め上方に向かって延びた形状になっていることを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記ブラケットは、
前記ダッシュパネルに接合され車両前方に延びている1つ以上の脚部と、
前記1つ以上の脚部に支持されている前部とを有し、
前記パネル部材および前記ブレースは、前記前部に接続されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記1つ以上の脚部は、少なくとも2つ設けられていて、
当該車両前部構造はさらに、前記2つの脚部それぞれの車両前後方向の途中箇所に差し渡されるリンフォースを備えることを特徴とする請求項3に記載の車両前部構造。
【請求項5】
前記2つの脚部は、前記前部の下端を支持する下脚部と前記前部の上端を支持する上脚部とを含み、あるいは、前記前部の左端を支持する左脚部と前記前部の右端を支持する右脚部とを含むことを特徴とする請求項に記載の車両前部構造。
【請求項6】
前記パネル部材は、前記ブレースと重なり合って前記ブラケットの前部に接続されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項7】
当該車両前部構造はさらに、車両のサイドフレームの車両前側に該サイドフレームよりも脆弱なクラッシュボックスを備え、
前記バンパメンバは、前記クラッシュボックスの車両前側に設けられていて、
前記ブラケットおよび前記クラッシュボックスは、車幅方向において互いの一部が重なる位置に設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項8】
前記ブレースは、前記ブラケットの前部と重なる範囲の近傍に所定のヘッドランプが接続されるランプ接続部を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両は、前面を構成するフロントバンパやフロントエンドパネル等のパネル部材に、前突時の衝撃を吸収する工夫が施されている場合がある。例えば、特許文献1の技術は、エンジンが乗員室の下方に設けられたキャブオーバー型車両に関するものである。特許文献1の技術では、段落0027および図7等に示すように、フロントバンパが、アッパメンバ2に架け渡されたフロントクロスメンバ6aと、フロントサイドメンバ1に架け渡されたクロスメンバ6とによって支えられている。そして、アッパメンバ2は衝撃吸収部2bが設けられ、フロントサイドメンバ1には衝撃吸収部10が設けられ、これらによって衝突時の衝撃を吸収することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3960293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構成では、アッパメンバ2は、ダッシュパネル4から車両前方に延びた構造になっているため、フロントバンパ等からの荷重が根本部分に集まりやすいと予想される。仮にアッパメンバ2が変形し垂れ下がってしまうと、フロントバンパとその周囲の部材との境目(見切り線)の均一さも失われてしまう。車両の前面は人目に付きやすい場所であるため、フロントバンパのようなパネル部材の見切り線が精度よく形成できるか否かは車両の外観品質に大きく影響する。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み、衝撃吸収性能と外観品質の向上とを両立可能な車両前部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両前部構造の代表的な構成は、車両の乗員室の前側に設けられているダッシュパネルと、ダッシュパネルから車両前方に突出し、車両の外表面を成す所定のパネル部材を支えるブラケットと、ブラケットよりも下方にて車幅方向に延びているバンパメンバと、ブラケットとバンパメンバとに差し渡されているブレースとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、衝撃吸収性能と外観品質の向上とを両立可能な車両前部構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例にかかる車両前部構造の概要を示す図である。
図2図1(b)のブラケットの使用状態を示した図である。
図3図1(b)のブラケット付近の拡大図である。
図4図1(b)ブレースの下部を示した図である。
図5図1(a)の車両前部構造のA-A断面図である。
図6図3(a)のブラケットの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る車両前部構造は、車両の乗員室の前側に設けられているダッシュパネルと、ダッシュパネルから車両前方に突出し、車両の外表面を成す所定のパネル部材を支えるブラケットと、ブラケットよりも下方にて車幅方向に延びているバンパメンバと、ブラケットとバンパメンバとに差し渡されているブレースとを備えることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、まず、ダッシュパネルから突出するブラケットによってパネル部材を支えているため、ダッシュパネルの前方にて、前突時にパネル部材の変形が乗員室に伝わるのを防ぐ、いわゆる衝撃吸収用のストロークエリアを確保することが可能になっている。そして、ブレースがブラケットとその下方のバンパメンバとに差し渡されることで、ブラケットの垂れ下がりが防止されている。この構成によれば、ブラケットのパネル部材(フロントバンパやフロントエンドパネル等)に対する支持剛性が向上し、パネル部材の見切り線を精度よく形成および維持して車両の外観品質を向上させることが可能になる。
【0011】
上記構成は、単にブラケットの全体の剛性を高めるのではなく、ブレースでブラケットを下から支えることで、ブラケットにあえて車両後方への変形の余地を残していることも特徴である。これによりブラケットは、通常時にはパネル部材を十全に支持する一方、前突時には車両後方へ変形して衝撃吸収性能を発揮することが可能になっている。これらによって、上記構成であれば、衝撃吸収性能と外観品質の向上とを両立することが可能になっている。
【0012】
上記ブラケットの車幅方向から見た下側の輪郭は、ダッシュパネルから車両前側の斜め上方に向かって延びた形状になっているとよい。
【0013】
上記形状のブラケットであれば、パネル部材に対する支持剛性がより向上し、パネル部材の見切り線を精度よく形成することが可能になる。
【0014】
上記のブラケットは、ダッシュパネルに接合され車両前方に延びている1つ以上の脚部と、1つ以上の脚部に支持されている前部とを有し、パネル部材およびブレースは、前部に接続されていてもよい。
【0015】
上記構成によって、ブラケットの前部にパネル部材を接続し、またこの前部をブレースで支えることで、ブラケットのパネル部材に対する支持剛性が向上し、パネル部材の見切り線を精度よく形成および維持して車両の外観品質の向上を図ることが可能になる。加えて、ブラケットの前部をブレースが支えているので、ブラケットは、通常時にはパネル部材の重量をより十全に支持しつつも、前突時において車両後方へ変形して衝撃吸収性能を発揮することができる。
【0016】
上記の1つ以上の脚部は、前部の下端を支持する下脚部と前部の上端を支持する上脚部とを含み、あるいは、前部の左端を支持する左脚部と前部の右端を支持する右脚部とを含んでいてもよい。
【0017】
上記いずれの構成のブラケットも、前述したブレースによって補強され、パネル部材を好適に支持することが可能である。
【0018】
当該車両前部構造はさらに、下脚部および上脚部の車両前後方向の途中箇所に差し渡され、あるいは、左脚部および右脚部の車両前後方向の途中箇所に差し渡されるリンフォースを備えてもよい。
【0019】
上記のリンフォースによって、ブラケットを補強してパネル部材の支持剛性を向上させ、通常時における車両の外観品質のさらなる向上を図ることが可能になる。特に、リンフォースは、ブラケットの全体を補強するのではなく、各脚部の車両前後方向の途中箇所のみを補強することで、前突時にブラケットの前側および後側に変形の余地を残している。
【0020】
上記のパネル部材は、ブレースと重なり合ってブラケットの前部に接続されていてもよい。
【0021】
上記構成によれば、パネル部材をブレースに重ねてブラケットに取り付けることで、ブラケットのパネル部材に対する支持剛性を効率よく向上させ、車両の外観品質をより向上させることが可能になる。
【0022】
当該車両前部構造はさらに、車両のサイドフレームの車両前側にサイドフレームよりも脆弱なクラッシュボックスを備え、バンパメンバは、クラッシュボックスの車両前側に設けられていて、ブラケットおよびクラッシュボックスは、車幅方向において互いの一部が重なる位置に設けられていてもよい。
【0023】
上記構成によれば、前突時においてブラケットとクラッシュボックスとが協調して衝撃を吸収可能になり、車両後方の乗員室の変形を好適に防ぐことが可能になる。
【0024】
上記ブレースは、ブラケットの前部と重なる範囲の近傍に所定のヘッドランプが接続されるランプ接続部を有してもよい。
【0025】
上記構成によれば、ヘッドランプの支持剛性も向上させ、ヘッドランプの周囲に見切り線を精度よく形成し、車両の外観品質のさらなる向上を図ることが可能になる。
【実施例
【0026】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0027】
図1は、本発明の実施例にかかる車両前部構造100の概要を示す図である。図1(a)は、車両前部構造100が実施された車両102を左側前方のやや上方から示した斜視図である。以下、図1その他の本願のすべての図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Backward)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Leftward)、R(Rightward)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(Upward)、D(Downward)で例示する。
【0028】
当該車両前部構造100には、車両102の外表面を成す複数のパネル部材が含まれている。パネル部材の具体例としては、フロントバンパ104や、その上側のフロントエンドパネル106、およびフロントエンドパネル106の両脇のフェンダパネル108(図2参照)などが挙げられる。なお、車両102は、本実施例ではキャブオーバー型車両を想定したものであるが、当該車両前部構造100の技術的思想はボンネット型車両にも適用可能である。
【0029】
図1(b)は、図1(a)の各パネル部材やヘッドランプ110a、110b等を取り外した図である。図1(b)に示すダッシュパネル112は、乗員室の前側に設けられている仕切りである。ダッシュパネル112の車両前側には、各パネル部材を支えるための、複数のブラケット113、114、115、116、117が設けられている。各ブラケットは、ダッシュパネル112から車両前方に突出していて、寸法は様々であるが、おおよそ車幅方向から見てハット型の形状になっている。
【0030】
本実施例では、計5つのブラケット113、114、115、116、117が設けられている。このうち、中央側のブラケット114、115、116は、フロントバンパ104およびフロントエンドパネル106の取付けに利用されている。車幅方向の両端のブラケット113、117は、フェンダパネル108(図2参照)の取付けに利用されている。
【0031】
図2は、図1(b)のブラケット117の使用状態を示した図である。図2では、車両左側のフェンダパネル108を透過して示している。フェンダパネル108は、フロントエンドパネル106の両脇であって、前輪の上方側に設けられるパネル部材である。ブラケット117は、脚部117a、117bの前端に設けられた前部117cにて、フェンダパネル108がボルトの締結等によって取り付けられる。
【0032】
再び図1(b)を参照する。本実施例では、ブラケット114、116の各パネル部材に対する支持剛性を高めるために、ブレース118、120を設けている。ブレース118、120は、ブラケット114、116と下方のバンパメンバ122とに差し渡されていて、ブラケット114、116の主に前端側を下から支える構成となっている。
【0033】
ブレース118、120の下端側が接続されているバンパメンバ122は、各ブラケットよりも下方であって、フロントバンパ104(図1(a)参照)の裏側にて車幅方向に延びるように設けられている。バンパメンバ122は、車両下部にて車両前後方向に延びている一対のサイドフレーム124a、124bの前側に、クラッシュボックス126a、126bを介して設置されている。クラッシュボックス126a、126bは、サイドフレーム124a、124bの車両前側に設けられている部材であり、サイドフレーム124a、124bよりも脆弱な構造で、前突時に変形して衝撃を吸収し、衝撃が乗員室に伝わることを防ぐ。
【0034】
図3は、図1(b)のブラケット116付近の拡大図である。図3(a)は、ブラケット116の全体を示している。本実施例のブラケット116は、上下の上脚部128と下脚部130がダッシュパネル112から車両前方に延び、これら上脚部128と下脚部130の前端に所定面積を有する前部132が形成された構成になっている。
【0035】
上脚部128と下脚部130は、それぞれ裾部128a、130aでダッシュパネル112に接合され、そこから車両前方に向かって互いに近づくように傾斜しながら延び、前部132の上端と下端とをそれぞれ支持している。また、上脚部128と下脚部130には、それぞれ長手方向に沿ってビード128b、130bが設けられている。ビード128b、130bは、それぞれ上側または下側に膨出していて、各脚部の断面二次モーメントを大きくして曲げ剛性を高めている。
【0036】
ブレース120は、ブラケット116の前部132にボルト134等を使用して接合され、そこから下方に延びてバンパメンバ122(図1(b)参照)に接合される。ブレース120の上部のうち、ブラケット116の前部132と重なる領域には、複数の貫通孔が設けられている。これら貫通孔は、ボルト134やクリップ136(図3(b)参照)などが使用され、ブラケット116およびフロントバンパ104等のパネル部材と接続される。
【0037】
図3(b)は、図3(b)のブレース120をやや下方まで示した図である。図3(b)ではフロントバンパ104を透過して2点鎖線で示している。フロントバンパ104は、例えばクリップ136を利用して、ブレース120に重なったうえで、ブラケット116の前部132に接続される。
【0038】
上記構成によって、フロントバンパ104の重量がブラケット116だけでなくブレース120にも支持されるため、フロントバンパ104の支持剛性を効率よく向上させ、車両の外観品質をより向上させることが可能になっている。なお、フロントバンパ104は、ブレース120とブラケット116とが重なっている領域だけでなく、ブレース120の他の各所にもクリップ138等によって接続することが可能になっている。
【0039】
再び3(a)を参照する。ブラケット116には、内側に補強用のリンフォース140が設けられる。リンフォース140は、下脚部130と上脚部128の車両前後方向の途中箇所にて、上下方向に差し渡される。リンフォース140によってブラケット116を補強することで、フロントバンパ104(図3(b)参照)等のパネル部材の支持剛性を向上させ、車両の外観品質のさらなる向上を図ることが可能になる。
【0040】
本実施例では、リンフォース140は、ブラケット116の全体を補強するのではなく、上脚部128と下脚部130の車両前後方向の途中箇所のみを繋いで補強する。これによって、ブラケット116には、リンフォース140よりも前側と後側とに変形の余地が残っていて、前突時等に変形を起こして衝撃を吸収することが可能になっている。
【0041】
なお、リンフォース140は、上脚部128の下面と下脚部130の上面とに面接触するように差し渡されているが、変形例として、上脚部128の上面と下脚部130の下面とにそれぞれ面接触するようにかけ渡すことも可能である。
【0042】
再び図3(b)を参照する。ブレース120は、ブラケット116の前部132と重なる範囲の近傍に、ヘッドランプ110b(図1(a)参照)が接続されるランプ接続部142を有している。ランプ接続部142もまた、貫通孔として形成されていて、ヘッドランプ110aがクリップやボルト等の締結具を介して接続される。ランプ接続部142は、例えば所定方向に長軸を有する長孔になっていると、ある程度の位置決めの誤差を許容できるようになるため好適である。
【0043】
上述したように、ブラケット116の前部132は支持剛性が高いため、その近傍にてブレース120にヘッドランプ110bを接続することで、ヘッドランプ110bの支持剛性も向上させ、ヘッドランプ110bの周囲の見切り線を精度よく形成し、さらなる車両の外観品質の向上を図ることが可能になる。また、各部品の接続部分がブラケット116の前端132付近に集まっていることで、接続作業を効率よく行うことが可能になる。
【0044】
図4は、図1(b)ブレース118の下部を示した図である。ブレース118の下部は、ブレースブラケット144を介して、バンパメンバ122の前面に接合されている。このとき、例えばブレース118の下部はブレースブラケット144とボルト146によって締結され、ブレースブラケット144はバンパメンバ122に面接触して溶接等によって接合される。このようにしてブレース118とバンパメンバ122とを接合することで、フロントバンパ104とフロントエンドパネル106からかかるせん断荷重に対して剛性の高い構造が実現できる。
【0045】
ブレース118は、車両のホーン148の設置場所としても利用される。ホーン148は、ブレース118から延びたホーン用ブラケット150に取り付けられる。ブレース118はフロントバンパ104(図1(a)参照)の近傍に存在するため、警告音等を発するホーン148の設置場所としても好適である。なお、フロントバンパ104の裏面には、車両後方へ膨出した膨出部152(図5(a)参照)などを設けると、ホーン148への雨水等を回避することができ、好適である。
【0046】
図5は、図1(a)の車両前部構造100のA-A断面図である。図5(a)は、A-A断面の全体を示している。当該車両前部構造100では、ダッシュパネル112から突出するブラケット116によってフロントバンパ104やフロントエンドパネル106等の各パネル部材を支えている。そのため、ダッシュパネル112の前方にて、前突時に各パネル部材から伝わる衝撃が乗員室に伝わるのを防ぐ、いわゆる衝撃吸収用のストロークエリアを広く確保することが可能になっている。また、ストロークエリアを広く確保することで、その分、クラッシュボックス(図1(b)参照)も車両前方に延ばすことができ、衝撃吸収性能をより高めることが可能になっている。
【0047】
なお、ブラケット116およびクラッシュボックス126bは、車幅方向において互いの一部が重なる位置に設けられている。この構成によって、前突時においてブラケット116とクラッシュボックス126aとが協調して衝撃を吸収可能になり、車両後側の乗員室に衝撃が伝わるのを好適に防ぐことが可能になっている。
【0048】
ブラケット116は、ダッシュパネル112から車両前方に延びた形状になっているだけでなく、車幅方向から見た下側の輪郭を形成する下脚部130が、ダッシュパネル112から車両前側の斜め上方に向かって延びた形状になっている。この形状のブラケット116であれば、各パネル部材に対する支持剛性がより向上し、各パネル部材の見切り線を精度よく形成することが可能になる。
【0049】
前述しているように、ブレース120は、ブラケット116の前部132とその下方のバンパメンバ122とに差し渡されている。ブレース120がブラケット116の前部132を支えることで、ブラケットは根本から下方へ回転するように垂れ下がることが防止できる。
【0050】
図5(b)は、図5(a)のブラケット116の前部132付近の拡大図である。図5(b)に示すように、ブラケット116の前部132には、ブレース120が重なってボルト134によって接合されていて、その上からフロントエンドパネル106およびフロントバンパ104がクリップ136によって接合されている。この構成によって、フロントエンドパネル106およびフロントバンパ104は、ブラケット116だけでなくブレース120にも支えられることになり、支持剛性が向上し、周囲の部材との見切り線を精度よく形成および維持して外観品質を向上することが可能になっている。
【0051】
特に、本実施例では、単にブラケットの全体の剛性を高めるのではなく、ブレース120でブラケット116を下から支えることで、ブラケット116にあえて車両後方への変形の余地を残し、ブラケット116に前突時等にて衝撃吸収性能を発揮させ、これらによって外観品質の向上と衝撃吸収性能との両立を図ることが可能になっている。
【0052】
(変形例)
図6は、図3(a)のブラケット116の変形例(ブラケット200)を示す図である。以下、既に説明した構成要素と同じものについては、同じ符号を付することによって説明を省略する。また、既に説明した構成要素と同じ名称のものについても、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有するものとする。
【0053】
図6(a)は、ブラケット200を車幅方向の左上方から示した斜視図である。ブラケット200は、上方から観てU字状にダッシュパネル112から突出している点で、図3(a)等のブラケット116と構成が異なっている。ブラケット200は、車幅方向に左脚部202と右脚部204とを有し、左脚部202が前部206の左端を支持し、右脚部204が前部206の右端を支持する構成となっている。
【0054】
図6(b)は、図6(a)のブラケット200を車幅方向の左側方から見た図である。ブラケット200もまた、幅方向から見た下側の輪郭208が、ダッシュパネル112から車両前側の斜め上方に向かって延びた形状になっている。この形状のブラケット200であれば、前述したフロントバンパ104等の各パネル部材に対する支持剛性がより向上し、各パネル部材の見切り線を精度よく形成することが可能になる。
【0055】
ブラケット200においても、左脚部202および右脚部204(図6(a)参照)の車両前後方向の途中箇所に所定のリンフォース(図示省略)を備えることが可能である。リンフォースによって、ブラケット200を補強して、フロントバンパ104等の各パネル部材の支持剛性を向上させ、車両の外観品質のさらなる向上を図ることが可能になる。また、リンフォースは、ブラケット200の全体を補強するのではなく、左脚部202および右脚部204の車両前後方向の途中箇所のみを補強することで、前突時等にブラケット200の前側および後側に変形の余地を残すことが可能になる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、車両前部構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
100…車両前部構造、102…車両、104…フロントバンパ、106…フロントエンドパネル、108…フェンダパネル、110a…車両右側のヘッドランプ、110b…車両左側のヘッドランプ、112…ダッシュパネル、113、114、115、116、117…ブラケット、117a、117b…ブラケットの脚部、117c…ブラケットの前部、118…車両右側のブレース、120…車両左側のブレース、122…バンパメンバ、124a…車両右側のサイドフレーム、124b…車両左側のサイドフレーム、126a…車両右側のクラッシュボックス、126b…車両左側のクラッシュボックス、128…ブラケットの上脚部、128a…上脚部の裾部、128b…上脚部のビード、130…ブラケットの下脚部、130a…下脚部の裾部、130b…下脚部のビード、132…ブラケットの前部、134…ボルト、136…上側のクリップ、138…下側のクリップ、140…リンフォース、142…ランプ接続部、144…ブレースブラケット、148…ホーン、150…ホーン用ブラケット、152…フロントバンパの膨出部、200…変形例のブラケット、202…ブラケットの左脚部、204…ブラケットの右脚部、206…ブラケットの前部、208…ブラケットの下側の輪郭
図1
図2
図3
図4
図5
図6