(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】ワイヤグリッド偏光板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2018001939
(22)【出願日】2018-01-10
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阿部 創平
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕一郎
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-276657(JP,A)
【文献】特開2006-276601(JP,A)
【文献】特開2010-009029(JP,A)
【文献】特表2005-513547(JP,A)
【文献】特開2003-215344(JP,A)
【文献】特開2008-134495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
H01L 51/50-51/56
H05B 33/00-33/28
H01L 27/32
G02F 1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも380~780nmの可視光波長に対して透明な透明性基材と、前記透明性基材上に前記波長よりも小さい周期で配列された金属性の凸部を有する格子状パターンを備えるワイヤグリッド偏光板であって、
平面視で前記格子状パターンを囲む領域に、前記格子状パターン以上の高さを有するスペーサを備え、
平面視で前記格子状パターンを含む領域に、前記スペーサの頂上部と固定された、前記波長に対して透明な透明性保護材を備え、
前記透明性基材と前記透明性保護材とは前記スペーサを介した積層体の封止構造を成し、
前記スペーサは、中間樹脂層と、中間樹脂層を挟持する硬化性接着剤層からなり、前述した各硬化性接着剤層はそれぞれ、中間樹脂層に面していないもう一方の面で、前記透明性基材と、前記透明性保護材と接続されており、
前記透明性基材の最外周と
、前記スペーサを成す中間樹脂層と各硬化性接着剤層の最外周との位置の差、及び前記透明性保護材の最外周と、
前記スペーサを成す中間樹脂層と各硬化性接着剤層の最外周との位置の差が、いずれも10μmより小さいことを特徴とするワイヤグリッド偏光板。
【請求項2】
前記透明性基材と前記スペーサとの接している幅、及び前記スペーサと前記透明性保護材との接している幅が、いずれも100μm以上であることを特徴とする請求項1に記載のワイヤグリッド偏光板。
【請求項3】
次の1)~
7)の工程を含むことを特徴とするワイヤグリッド偏光板の製造方法。
1)少なくとも380~780nmの可視光波長に対して透明な透明性基材上に、金属製の凸部を有する格子状パターンを、平面視で該格子状パターンの非形成領域で囲むように、複数個配列して形成する工程。
2)平面視で前記格子状パターンを囲むように、前記非形成領域の中に
幅320μm以上の硬化性接着剤を塗布する工程。
3)塗布した前記硬化性接着剤上に、前記硬化性接着剤の形成幅と略同一の中間樹脂層を形成する工程。
4)前記中間樹脂層上に、前記硬化接着剤とは別に、前記中間樹脂層の形成幅と略同一の硬化性接着剤を塗布する工程。
5)4)にて塗布された硬化性接着剤上に、少なくとも380~780nmの可視光波長に対して透明な透明性保護材を載置する工程。
6)前述した各硬化性接着剤及び中間樹脂層を硬化して、前記格子状パターン以上の高さを有するスペーサを形成し、該スペーサと、前記透明性基材及び前記透明性保護材とを固定した積層体を形成する工程。
7)前記積層体を、前記透明性保護材の面側あるいは前記透明性基材の面側の一方から、前記スペーサ形成位置の中央から幅方向における位置精度±20μmを通過するようにダイシングして個片化し、ワイヤグリッド偏光板を作製する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置、プロジェクター、測定装置、カメラ等の各種光学機器の部材として用いられるワイヤグリッド偏光板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像表示装置では、偏光板を使用する構成が種々提案されている。例えば、液晶表示装置では、透明電極を配置したガラス板により液晶材料を挟み込んだ液晶セルの両面側に直線偏光板が配置されて液晶表示パネルが形成される。また、液晶表示パネルのバックライト側に特定の偏光成分の反射率が高い直線偏光板を配置して、バックライトの利用効率を向上する工夫が図られている。さらに、有機EL表示装置などでは、直線偏光板と1/4波長板とを積層した円偏光板を画像表示パネルの視認面側に配置することにより、外光の反射防止の機能を付与している。
【0003】
前記のような偏光板には、通常ポリビニルアルコール(PVA)にヨウ素等を含浸させた後、延伸させて一方向に引き延ばして形成される吸着配向型偏光板が用いられているが、耐熱性や厚み、及び光の利用効率の観点から、吸着配向型偏光板に代わる偏光板が検討されている。その代表的な例として、アルミニウムなどの金属膜をエッチング等で格子状にパターニングして形成されたワイヤグリッド偏光板を用いる表示装置が提案されている(例えば特許文献1、2)。
【0004】
ワイヤグリッド(WG)偏光板は、使用波長域に対して透明なガラスやフィルムなどの透明性基材上にアルミニウムなどの金属膜のグリッド(格子)状パターンを形成した構造からなり、グリッド周期を波長よりも十分小さくすることで、電場の振動方向がグリッドの長手方向(延在方向)に垂直なTM波成分(TM偏光)を透過し、平行なTE波成分(TE偏光)を反射する偏光板となる。従って、TM光透過率が高く、
消光比=TM光透過率/TE光透過率
が大きいことがワイヤグリッド偏光板に第一に必要な光学特性である。
【0005】
図9に、ワイヤグリッド偏光板37、47を備える液晶表示装置300の例を示す。液晶表示装置300は、カラーフィルタ基板30と、透明性基板41の片面にTFTアレイと画素電極を少なくとも含むTFTアレイ部42を具備したTFTアレイ基板40とが、液晶組成物を封入した液晶層50を介して貼り合わせられている。さらにワイヤグリッド偏光板37、47がカラーフィルタ基板30の視認面側、及びTFTアレイ基板40のバックライト側に、それぞれ接着層36、及び46を介して貼り合わせられている(尚、ワイヤグリッド偏光板37、47の透明性基材は図示を略している)。ワイヤグリッド偏光板47はワイヤグリッド偏光板37をZ方向に反転し、さらにX-Y平面で90度回転したものである。
【0006】
近年、スマートフォンやタブレットなどの携帯機器で、表示装置の視認面側にタッチパネル機能を付加した構成が一般的になりつつある。タッチパネルは、指などのポインターの接触による入力手段として用いられ、タッチパネルのポインターの検出は、そのタッチ部分での静電容量変化により行われる方式が主流となっている。
【0007】
前記のような携帯型の表示装置は、薄型化、軽量化することが求められており、各部材の一体化が進められている。例えば、タッチセンシング機能を液晶セル内に備えるインセル方式は近年積極的に採用されている。
【0008】
さらなる薄型化、軽量化のために、カラーフィルタ基板及び/又はTFTアレイ基板と偏光板を一体化する表示装置の提案がなされている(例えば特許文献3)。このように偏光板を一体化する表示装置においては、耐熱性が高く、液晶表示装置の成膜プロセスにも耐えることからワイヤグリッド偏光板が用いられようとしている。
【0009】
上記のように、ワイヤグリッド偏光板は、光の波長よりも短い周期で、金属膜の格子状のパターンが形成されるが、格子状パターンの厚みは、偏光板として十分な特性を持たせるために、パターンの周期よりも高く形成される必要がある。そのため手で触れたり、空気や水の外力が掛かった場合、非常に脆く、変形・倒壊しやすいことが課題となっている。
【0010】
また、ワイヤグリッド偏光板は、格子状パターンの開口部(スペース部)の幅が光の波長以下と非常に狭いため、パターン端部に液状汚れが付着すると、パターンの凹凸による毛細管現象により開口部内を拡散し、ワイヤグリッド偏光板の光学特性を低下させることが知られている。
【0011】
そこで、例えば特許文献4、及び5には、変形・倒壊の防止や液状汚れからワイヤグリッド偏光板を保護するために、密封包囲部材としてのスペーサ、及びスペーサに相当する保護壁を備えるワイヤグリッド偏光板の構造が開示されている。
【0012】
ところで、ワイヤグリッド偏光板は、大面積のガラス基板上に複数個配列して形成された後、ガラス基板にキズを入れるスクライビング工程や、キズをきっかけにガラス基板を機械的に割るブレーキング工程などを経ることにより個片化される(例えば特許文献6)。しかるに、スクライビング工程やブレーキング工程ではカレット(ガラスのカス)が発生し、カレットが格子状パターンの表面に飛散すると光学特性の低下に繋がる。
【0013】
従来の、特許文献4、5のようにスペーサを備えるワイヤグリッド偏光板においては、前記の個片化時の問題を含めた、変形・倒壊の防止、液状汚れ、及びカレットなどの異物に対する対策を考慮したワイヤグリッド偏光板の構造、及びその製造方法は検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第4985059号公報
【文献】特開2007-102174号公報
【文献】特開2009-42319号公報
【文献】特表2005-513547号号公報
【文献】特許第5109520公報
【文献】特許第6163180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、個片化時を含めて、外力に対して変形・倒壊が防止されるとともに、液状汚れ、カレットなどの異物から保護され、良好な光学特性を維持するワイヤグリッド偏光板、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、少なくとも380~780nmの可視光波長に対して透明な透明性基材と、前記透明性基材上に前記波長よりも小さい周期で配列された金属性の凸部を有する格子状パターンを備えるワイヤグリッド偏光板であって、平面視で前記格子状パターンを囲む領域に、前記格子状パターン以上の高さを有するスペーサを備え、平面視で前記格子状パターンを含む領域に、前記スペーサの頂上部と固定された、前記波長に対して透明な透明性保護材を備え、前記透明性基材と前記透明性保護材とは前記スペーサを介した積層体の封止構造を成し、前記スペーサは、中間樹脂層と、中間樹脂層を挟持する硬化性接着剤層からなり、前述した各硬化性接着剤層はそれぞれ、中間樹脂層に面していないもう一方の面で、前記透明性基材と、前記透明性保護材と接続されており、前記透明性基材の最外周と、前記スペーサを成す中間樹脂層と各硬化性接着剤層の最外周との位置の差、及び前記透明性保護材の最外周と、前記スペーサを成す中間樹脂層と各硬化性接着剤層の最外周との位置の差が、いずれも10μmより小さいことを特徴とするワイヤグリッド偏光板としたものである。
【0017】
請求項2に記載の発明は、前記透明性基材と前記スペーサとの接している幅、及び前記スペーサと前記透明性保護材との接している幅が、いずれも100μm以上であることを特徴とする請求項1に記載のワイヤグリッド偏光板としたものである。
【0019】
請求項3に記載の発明は、次の1)~7)の工程を含むことを特徴とするワイヤグリッド偏光板の製造方法としたものである。
1)少なくとも380~780nmの可視光波長に対して透明な透明性基材上に、金属製の凸部を有する格子状パターンを、平面視で該格子状パターンの非形成領域で囲むように、複数個配列して形成する工程。
2)平面視で前記格子状パターンを囲むように、前記非形成領域の中に幅320μm以上の硬化性接着剤を塗布する工程。
3)塗布した前記硬化性接着剤上に、前記硬化性接着剤の形成幅と略同一の中間樹脂層を形成する工程。
4)前記中間樹脂層上に、前記硬化接着剤とは別に、前記中間樹脂層の形成幅と略同一の硬化性接着剤を塗布する工程。
5)4)にて塗布された硬化性接着剤上に、少なくとも380~780nmの可視光波長に対して透明な透明性保護材を載置する工程。
6)前述した各硬化性接着剤及び中間樹脂層を硬化して、前記格子状パターン以上の高さを有するスペーサを形成し、該スペーサと、前記透明性基材及び前記透明性保護材とを固定した積層体を形成する工程。
7)前記積層体を、前記透明性保護材の面側あるいは前記透明性基材の面側の一方から、前記スペーサ形成位置の中央から幅方向における位置精度±20μmを通過するようにダイシングして個片化し、ワイヤグリッド偏光板を作製する工程。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、個片化時においても外力に対して変形・倒壊が防止されるとともに、液状汚れ、カレットなどの異物から保護され、良好な光学特性を維持するワイヤグリッド偏光板、及びその製造方法が得られる。ハンドリングや搬送も容易となり、製造プロセスの進行もスムーズとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のワイヤグリッド偏光板に係る、(a)第1実施形態の模式断面図、(b)(a)の破線枠A内の部分拡大図である。
【
図2】本発明のワイヤグリッド偏光板に係る、第2実施形態の模式断面図である。
【
図3】本発明のワイヤグリッド偏光板の製造工程例のうち、スペーサ用硬化性接着剤の塗布工程を説明するための模式鳥瞰図である。
【
図4】
図3に続く本発明のワイヤグリッド偏光板の製造工程例のうち、スペーサの形成と、該スペーサと透明性基材及び透明性保護材との固定を説明するための模式鳥瞰図である。
【
図5】本発明のワイヤグリッド偏光板の製造工程例のうち、複数個の格子状パターンの配列形成から、スペーサと透明性基材及び透明性保護材との固定までを説明するための(左列)模式平面図、(右列)模式断面図である。
【
図6】
図5に続く本発明のワイヤグリッド偏光板の製造工程例のうち、個片化を説明するための(左列)模式平面図、(右列)模式断面図である。
【
図7】表示装置の視認側のワイヤグリッド偏光板について、格子状パターンを形成する工程例を示す模式断面図である。
【
図8】表示装置のバックライト側のワイヤグリッド偏光板について、格子状パターンを形成する工程の例を示す模式断面図である。
【
図9】従来のワイヤグリッド偏光板を備える液晶表示装置の例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係るワイヤグリッド偏光板及びその製造方法について図面を用いて説明する。同一の構成要素については便宜上の理由がない限り同一の符号を付ける。各図面において、見易さのため構成要素の厚さや比率は誇張されていることがあり、構成要素の数も減らして図示していることがある。また、本発明はその主旨を逸脱しない範囲で、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
[第1実施形態のワイヤグリッド偏光板]
図1(a)は、本発明のワイヤグリッド偏光板に係る、第1実施形態の模式断面図である。第1実施形態のワイヤグリッド偏光板100は、少なくとも380~780nmの可視光波長に対して透明な透明性基材1と、透明性基材1上に前記波長よりも小さい周期で配列された金属性の凸部を有する格子状パターン2を備えるワイヤグリッド偏光板であって、平面視で格子状パターン2を囲む領域に、格子状パターン2以上の高さを有するスペーサ3を備えている。また、平面視で格子状パターン2を含む領域に、スペーサ3の頂上部と固定された、前記波長に対して透明な透明性保護材4を備えており、透明性基材1と透明性保護材4とはスペーサ3を介した積層体の封止構造を成している。
【0024】
図1(b)は、
図1(a)の破線枠A内の部分拡大図である。
図1(b)に示すように、ワイヤグリッド偏光板100は、透明性基材1とスペーサ3との最外周の位置の差d1、スペーサ3と透明性保護材4との最外周の位置の差d2がいずれも10μmより小さい。尚、図では外周は外側から順にスペーサ3、透明性保護材4、透明性基材1としているがこれに限らない。いずれの順であってもd1、d2は10μmより小さい。
【0025】
透明性基材1とスペーサ3と透明性保護材4との最外周の位置が一致しないのは、後述のように、ワイヤグリッド偏光板100はダイシングブレードにより、スペーサの一部を通るようにダイシングされ個片化されて製造されるが、ダイシング加工の位置精度に加えて、ダイシングの対象物である透明性基材1、スペーサ3、透明性保護材4の硬度、弾性率が異なることによる。
【0026】
前記のように、透明性基材1の最外周とスペーサ3の最外周との位置の差、及び透明性保護材4の最外周とスペーサ3の最外周との位置の差が、いずれも10μmより小さいことにより、スペーサ3が透明性基材1と透明性保護材4の外周の十分近くまで形成されているため、外周付近に加わる外力に対する透明性基材1及び透明性保護材4の強度が確保され、変形・倒壊が防止される。
【0027】
本発明のワイヤグリッド偏光板100は、透明性基材1とスペーサ3との接している幅w1(
図1(b)参照)、及びスペーサ3と透明性保護材4との接している幅w2が、いずれも100μm以上であることが好ましい。100μm以上とすることで、ワイヤグリ
ッド偏光板の表面に水平な方向から加わる外力に対しても封止構造が維持できる。逆に、w1、w2が100μmより小さいと、透明性基材1あるいは透明性保護材4が剥れるリスクが生じる。
【0028】
ワイヤグリッド偏光板100におけるスペーサ3の材料としては、紫外線(UV)または熱により硬化する硬化性接着剤を用いることが好ましい。硬化により封止構造の機械的強度を確保する。接着剤としては、一般的に半導体パッケージ等に使用される接着剤、例えばエポキシ系の接着剤を採用することができる。
【0029】
[第2実施形態のワイヤグリッド偏光板]
図2は、本発明の第2実施形態のワイヤグリッド偏光板200の模式断面図である。スペーサの構成は、
図1の第1実施形態では単層構成であったが、第2実施形態では中間樹脂層13aを硬化性接着剤13b、13cで挟持する多層構造となっている。硬化性接着剤13b、13cを使用することで、第2実施形態においても透明性基材1及び透明性保護材4と良好な接着と封止性が得られる。
【0030】
第2実施形態のワイヤグリッド偏光板200は、多層構造であってもスペーサ13と、透明性基材1及び透明性保護材4との最外周の位置の差は、
図1の第1実施形態と同様に、いずれも10μmよりも小さい。さらに、透明性基材1と硬化性接着剤13bとの接している幅、及び硬化性接着剤13cと透明性保護材4との接している幅は、いずれも100μm以上であることが好ましい。尚、中間樹脂層13の幅は硬化性接着剤13b、13cの幅と略等しく、中間樹脂層13の材料としては外力に対して十分な強度が得られるよう、弾性率の大きい樹脂であることが望ましい。
【0031】
[本発明のワイヤグリッド偏光板の製造方法]
以下、本発明のワイヤグリッド偏光板の製造方法について、主として、
図1の単層構造の硬化性接着剤からなるスペーサ3を備える第1実施形態のワイヤグリッド偏光板100について説明する。
【0032】
(硬化性接着剤の塗布から積層体の作成まで)
図3は、本発明のワイヤグリッド偏光板の製造工程例のうち、スペーサ用硬化性接着剤の塗布工程を説明するための模式鳥瞰図である。
図3(a)は、少なくとも380~780nmの可視光波長に対して透明な透明性基材1上に、金属製の凸部を有する格子状パターン2(簡単のためここでは単数とする。複数の格子状パターンの個片化については
図5、
図6で後述する)を形成した形態を示している。尚、透明性基材1上に格子状パターン2を形成する工程については、
図7、
図8で後述する。
【0033】
図3(b)は、格子状パターン2を囲む領域にスペーサを形成するための、硬化性接着剤3pの塗布途中の様態を示している。硬化性接着剤の塗布は、格子状パターン2の形成領域への影響を極力抑えるために、このようにインクジェット法によって特定部位のみへのパターニングにより行うことが好ましい。インクジェット法は、マスクレス、非接触で、必要な箇所に液滴を着弾させ、材料を除去することなくダイレクトにパターニングすることができる技術である(例えば文献:電子情報通信学会誌、Vol.90、No.7、2007、pp.544参照)。
図3(c)は硬化性接着剤3pのパターニングが終了した形態を示している。尚、硬化性接着剤3pのパターニングは、硬化後のスペーサが格子状パターン2以上の高さとなるような膜厚で行う。
図2の第2実施形態のワイヤグリッド偏光板においては、透明性基材1上、及びフォトリソ法等で形成した中間樹脂層13上に、同様にインクジェット法により硬化性接着剤13b、及びcのパターニングを行う。
【0034】
図4は、
図3に続く本発明のワイヤグリッド偏光板の製造工程例のうち、スペーサ3の
形成と、スペーサ3と透明性基材1及び透明性保護材4との固定を説明するための模式鳥瞰図である。
図4(a)では、塗布した硬化性接着剤3p上に、少なくとも380~780nmの可視光波長に対して透明な透明性保護材4を載置している。透明性保護材4としては、少なくとも格子状パターン2の形成領域を覆いつくす大きさのものを使用し、透明性基板1と同等の大きさを持つものを使用することが好ましい。
【0035】
然る後に、硬化性接着剤3pを紫外線(UV)照射(
図4(b))、または加熱(
図4(b’))により硬化して格子状パターン2以上の高さを有するスペーサ3を形成し、スペーサ3と、透明性基材1及び透明性保護材4とを固定した積層体5を作成する。
図3、
図4の工程により、格子状パターン2に触れることなく、透明性基材1及び透明性保護材4がスペーサ3に固定されるとともに封止がなされる。尚、UV硬化と熱硬化は、接着剤の性状によりどちらか一方を使用してもよく、あるいは両方を使用して一方を仮硬化とし他方を本硬化としてもよい。
【0036】
(複数個の格子状パターンの配列形成からワイヤグリッド偏光板の個片化まで)
図5は、本発明のワイヤグリッド偏光板の製造工程例のうち、複数個の格子状パターンの配列形成から、スペーサと透明性基材及び透明性保護材との固定までを説明するための(左列)模式平面図、(右列)平面図の破線部の模式断面図である。
図5(a)~(c)の工程は、基本的に
図3~
図4の工程と同じであるが、格子状パターン2が複数個形成されている点が異なっている。
【0037】
図5(a)は、少なくとも380~780nmの可視光波長に対して透明な透明性基材1上に、金属製の凸部を有する格子状パターン2を、平面視で格子状パターンの非形成領域2sで囲むように、複数個(図では4×4)配列して形成した形態を示している。
【0038】
図5(b)では、
図3(b)、(c)と同様の方法で、平面視で格子状パターン2を囲むように、格子状パターンの非形成領域2sの中に硬化性接着剤3pを塗布し、
図5(c)では、塗布した硬化性接着剤3p上に、少なくとも380~780nmの可視光波長に対して透明な透明性保護材4を載置した後、硬化性接着剤3pを硬化して格子状パターン2以上の高さを有するスペーサ3を形成するとともに、スペーサ3と、透明性基材及び透明性保護材とを固定し封止した積層体5mの形態を示している。この工程は、大面積の透明性基材1上で行われるので、大面積基材上に平面視で複数面の封止構造が形成される。
【0039】
図6は、
図5に続く本発明のワイヤグリッド偏光板の製造工程例のうち、個片化を説明するための(左列)模式平面図、(右列)平面図の破線部の模式断面図である。前記のように作成した積層体5mを、透明性保護材4の面側からダイシングラインDLに沿って、スペーサ3の一部を通るように、ブレード7によりダイシングして個片化し、
図1の第1実施形態と同じ形状のワイヤグリッド偏光板101、102を作製する。尚、図ではブレード7は透明性保護材4の面側から挿入しているが、透明性基材1の面側からであってもよい。
【0040】
より具体的には、透明性保護材4あるいは透明性基材1の一方の面をダイサーに固定し、もう一方の面からスペーサ3の中央部を通過するようにブレード7でダイシングを行う。ダイシングの位置精度は少なくとも±40μmの精度で加工できることが望ましく、±20μmの精度で加工できることがさらに望ましい。例えば、ダイシング工程で除去されるスペーサ3の幅を100μmとすると、ダイシングの位置精度が±20μmの場合、
図5(c)で積層体5mを作成したときのスペーサ3の幅を320μm以上とすることで、個片化後の各ワイヤグリッド偏光板のスペーサの幅W(μm)は、
(320-100-20)/2≦W≦(320-100+20)/2
すなわち100≦W≦120となり、Wを100μm以上とすることができる。これによ
り、優れた接着強度が得られるとともに、水平な方向から加わる外力に対しても封止構造が維持できる。尚、格子状パターン2は封止構造により保護されているので、一般的にブレードダイシングに使用される冷却水や冷媒は問題なく使用することができる。
【0041】
[ワイヤグリッド偏光板の格子状パターンの形成]
以下、透明性基材上に格子状パターンを形成する工程について説明する。
図7は、表示装置の視認側のワイヤグリッド偏光板における格子状パターンを形成する工程の例を示す模式断面図である。ここでは、
図9のワイヤグリッド偏光板37のように、格子状パターン側を視認側とする場合について説明する。
【0042】
図1~
図6では、簡単のため、格子状パターンを金属膜の単層パターンとしたが、実用上、格子状パターンは
図7のような多層膜パターンであることが好ましい。格子状パターン22(
図7(4)参照)の原パターンとなる樹脂層パターンの形成は電子線リソグラフィ法、または二光束干渉法等によっても可能であるが、生産性の観点からはインプリント法(例えば文献:「光技術コンタクト」、2010年11月号、日本オプトメカトロニクス協会、参照)によることが好ましい。以下、インプリント法を用いる場合について説明する。
【0043】
(多層膜形成:
図7(1))
金属膜22-aとしてAlを使用する場合、透明性基材との密着性を考慮し、例えばモリブデン・ニオブ合金といった密着補助層22-bを形成した後にAlを積層することが好ましい。Al層の膜厚は200nm程度、密着補助層であるモリブデン・ニオブ層の膜厚は20nm程度であることが好ましい。また、Agを使用する場合は、耐熱性などの信頼性を考慮して、フルヤ金属株式会社製のAPC(アルミニウム・パラジウム・銅合金)などを用いることが望ましい。
【0044】
格子状パターン22の視認側は、外光に対する反射率を極力抑えることが求められる。このため、金属膜表面には低反射加工が必要となる。代表的な低反射加工の例として、めっき液への浸食による酸化黒化処理や、黒化層の積層が挙げられる。黒化層は、黒色の色材を分散させた着色樹脂で構成され、黒色の色材としては、カーボン、カーボンナノチューブあるいは、複数の有機顔料の混合物が適用できる。あるいは無機系の薄膜を積層し、光干渉や光吸収を利用して低反射化する方法もある。以下では黒化層を利用する場合について説明する。
【0045】
図7のように格子状パターン22側を視認側とする場合は、
図7(1)のように、金属膜22-aの上に、黒化層22-cを積層することが好ましい。黒化層22-cの膜厚は20nm程度であることが好ましい。黒化層22-cの上にはさらに、ドライエッチング時のハードマスク用として、SiO
2などの膜を積層する場合もある。逆に、透明性基材21側を視認側とする場合は、金属膜22-aと黒化層22-cの積層順は逆となる。
【0046】
(樹脂層塗布:
図7(2))
インプリントによる賦形を行うための樹脂層を塗布する。樹脂層の塗布はスピンコーディング法などが採用できる。樹脂としては、例えば東洋合成株式会社製の汎用的なインプリント樹脂PAC-01(商品名)が利用でき、膜厚は溶剤乾燥後の状態で120nm程度が好ましい。
【0047】
(インプリントによる樹脂層のパターニング:
図7(3))
インプリント法により、例えば周期100nm、線幅50nmの格子状の樹脂層パターンを形成する。インプリント後の樹脂の架橋は、熱もしくはUVによる方法があるが、熱的な影響を避けるには、UV架橋型の樹脂に対して透明なインプリントモールドを用いる
UVインプリント法が好ましい。
【0048】
(多層膜のエッチングと樹脂層の剥離:
図7(4))
黒化層22-cのパターニングは、樹脂層パターンをマスクとしてウェットエッチングまたはドライエッチングで行うことができる。金属膜22-bのエッチングは黒化層に比べ厚いことや微細加工性を考慮すればドライエッチングによることが好ましい。ドライエッチングは指向性に優れているため、垂直で直線性の良い金属膜パターン22-a’を形成することができる。エッチングガスは、金属膜によって最適なガスは異なるが、フッ素系、塩素系、酸素系ガスなどから適宜選択する。密着補助層22-bのエッチングも同様にウェットエッチングまたはドライエッチングで行うことができる。エッチングマスクである樹脂層パターンは、エッチングレートの調整によりドライエッチング終了と同期して剥離することが可能である。ドライエッチング終了後に残留している場合は、アルカリ系溶液、有機溶剤、酸素プラズマ等により剥離する。
【0049】
図8は、表示装置のバックライト側のワイヤグリッド偏光板における格子状パターン22’(
図8(4)参照)を形成する工程の例を示す模式断面図である。ここでは、格子状パターン22’側をバックライト側とする場合を示している。例えば
図9のワイヤグリッド偏光板47はワイヤグリッド偏光板37を上下反転し、さらにX-Y平面で90度回転したものであるため、格子状パターン22’側がバックライト側となる。
【0050】
バックライト側に形成するワイヤグリッド偏光板は、再帰反射による光取出し効率の向上効果が求められるため、金属膜表面はTE偏光の反射率が高いことが望ましい。尚、再帰反射とは、入射光が再び光源へ向かって反射する現象である。従って、多層膜の構成は
図8(1)のようになり、低反射化のための黒化層は不要であり、金属膜22-aと密着補助層22-bのみとなる。逆に、透明性基材21側をバックライト側とする表示装置の場合も、多層膜の層構成は
図8(1)と同じである。
【0051】
以上のように、バックライト側に設置されるワイヤグリッド偏光板では黒化層を必要とせず、従って、
図8の格子状パターン22’の形成工程は、黒化層の形成とエッチングを必要としない点が
図7と異なるのみであり、その他は
図7と同じであるので、説明を省略する。
【0052】
以上説明したような方法により、複数個の格子状パターンを配列形成し、透明性基材とスペーサと透明性保護材からなる積層体の封止構造を作製し、ワイヤグリッド偏光板の個片化を経て、本発明のワイヤグリッド偏光板は製造される。本発明のワイヤグリッド偏光板は以下のような長所を有する。
1)透明性保護材を有するため、手で触れたり、空気や水で圧力をかけることによる格子状パターンの変形、倒壊は起きにくい。
2)格子状パターンの上部を透明性保護材で覆い、スペーサを介して封止構造をとることにより、格子状パターンの微細な凹部への液状汚れの侵入や、凸部上への個片化時のカレットなどの異物の付着を防ぐことができる。
3)スペーサが透明性基材と透明性保護材の外周の十分近くまで形成されるため、個片化時を含め、外周付近に加わる外力に対する透明性基材及び透明性保護材の強度が確保され、変形・倒壊が防止される。
4)1)~3)の長所によりハンドリングや搬送も容易となり、全工程をクリーンルーム内で実施することができるとともに、後工程や使用時に汚れや異物が付着するリスクが解消されるので、良好な光学特性を維持するワイヤグリッド偏光板が得られる。
【符号の説明】
【0053】
100・・・・・ワイヤグリッド偏光板(本発明の第1実施形態)
101、102・・・個片化後のワイヤグリッド偏光板(本発明の第1実施形態)
200・・・・・ワイヤグリッド偏光板(本発明の第2実施形態)
1・・・・・・・透明性基材
2・・・・・・・格子状パターン
2s・・・・・・格子状パターンの非形成領域
3、13・・・・スペーサ
3p・・・・・・・硬化性接着剤(硬化前)
13a・・・・・・・中間樹脂層
13b、13c・・・硬化性接着剤
4・・・・・・・透明性保護材
5、5m・・・・積層体
6・・・・・・・インクジェットヘッド
7・・・・・・・ブレード
DL・・・・・・ダイシングライン
21・・・・・・透明性基材
22、22’・・・・・・格子状パターン
22-a・・・・金属膜、 22-a’・・・・金属膜パターン
22-b・・・・密着補助層、 22-b’・・・・密着補助層パターン
22-c・・・・黒化層、 22-c’・・・・黒化層パターン
300・・・・・液晶表示装置
30・・・・・・カラーフィルタ基板
31・・・・・・透明性基板
32・・・・・・ブラックマトリクス
33(R)・・・カラーフィルタ層(赤)
33(G)・・・カラーフィルタ層(緑)
33(B)・・・カラーフィルタ層(青)
34・・・・・・平坦化層
35、45・・・配向膜
36、46・・・接着層
37、47・・・ワイヤグリッド偏光板
40・・・・・・TFTアレイ基板
41・・・・・・第2の透明性基板
42・・・・・・TFTアレイ部
50・・・・・・液晶層