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特許7052371非水電解質蓄電素子の製造方法、プレドープ材と触媒との複合粉末の製造方法、及びプレドープ材と触媒との複合粉末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子の製造方法、プレドープ材と触媒との複合粉末の製造方法、及びプレドープ材と触媒との複合粉末
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20220405BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220405BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20220405BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20220405BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20220405BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01G11/50
H01G11/86
H01G11/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018008377
(22)【出願日】2018-01-22
(65)【公開番号】P2019129012
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】水野 祐介
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-130557(JP,A)
【文献】特開2017-033839(JP,A)
【文献】特開2016-192385(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157743(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/011883(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/62
H01G 11/50
H01G 11/86
H01G 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレドープ材と上記プレドープ材の反応触媒とをメカノケミカル処理して得られた生成物、及び正極活物質を含む正極を得ること
を備え
上記プレドープ材が、Li O、Li 、Li CO 又はLiOHであり、
上記反応触媒が、MeO 又はLiMe (Meは、Ni、Co、Mn又はこれらの組み合わせである。x、y及びzは、それぞれの組成式において化学量論比を満たす係数である。)であり、
上記生成物が、上記反応触媒のアモルファスを含む非水電解質蓄電素子の製造方法。
【請求項2】
上記メカノケミカル処理をタングステンカーバイド製ボールミルを用いて行う請求項1の非水電解質蓄電素子の製造方法。
【請求項3】
プレドープ材と上記プレドープ材の反応触媒とをメカノケミカル処理すること
を備えるプレドープ材と触媒との複合粉末の製造方法であり、
上記プレドープ材が、Li O、Li 、Li CO 又はLiOHであり、
上記反応触媒が、MeO 又はLiMe (Meは、Ni、Co、Mn又はこれらの組み合わせである。x、y及びzは、それぞれの組成式において化学量論比を満たす係数である)であり、
上記複合粉末が、上記反応触媒のアモルファスを含む、プレドープ材と触媒との複合粉末の製造方法
【請求項4】
上記メカノケミカル処理をタングステンカーバイド製ボールミルを用いて行う請求項のプレドープ材と触媒との複合粉末の製造方法。
【請求項5】
プレドープ材と上記プレドープ材の反応触媒とを含み、
上記反応触媒がアモルファスであり、
上記プレドープ材が、Li O、Li 、Li CO 又はLiOHであり、
上記反応触媒が、MeO 又はLiMe (Meは、Ni、Co、Mn又はこれらの組み合わせである。x、y及びzは、それぞれの組成式において化学量論比を満たす係数である)である、プレドープ材と触媒との複合粉末。
【請求項6】
リチウム(Li)及び遷移金属元素(Me)を含む酸化物、過酸化物、炭酸化物又は水酸化物であり、
上記遷移金属元素が、ニッケル、コバルト、マンガン又はこれらの組み合わせを含み、
上記リチウム及び遷移金属元素に対する上記遷移金属元素のモル比(Me/(Li+Me))が、0.01以上0.15以下である、請求項のプレドープ材と触媒との複合粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子の製造方法、プレドープ材と触媒との複合粉末の製造方法、及びプレドープ材と触媒との複合粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
非水電解質蓄電素子は、初回の充電で得られる充電電気量よりも、2回目以降に充放電できる電気量が小さくなるという不都合を有する。この主な原因は、初回の充電時において、負極活物質表面に、例えば正極活物質中のリチウムに由来するリチウム含有層が形成されることにある。このリチウム含有層の形成反応は不可逆的であることから、リチウム含有層の形成により、両電極間を行き来するリチウムイオンが減少してしまう。このように、初回の充電時において正極活物質中のリチウムイオンの一部が消費されるため、両電極間を行き来するリチウムイオンが減少し、結果として充放電電気量が小さくなる。
【0004】
このような不都合の対策として、負極でのリチウム含有層の形成に消費されるリチウム分を、予め正極中に添加する技術が知られている。このような用途で正極に添加される添加剤は、プレドープ材、ドープ材などと称される。リチウムプレドープ材としては、LiO、Li等が公知である(特許文献1参照)。また、初回の充電の際にリチウムプレドープ材からリチウムを効果的に放出させるための反応触媒として、二酸化マンガン、酸化鉄、白金等のリチウム生成助剤をリチウムプレドープ材と共に正極中に含有させる技術も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-225291号公報
【文献】特開2011-210609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなリチウム生成助剤(反応触媒)を用いた技術においても、初回の充電の際にリチウムプレドープ材からリチウムの全てを放出させることはできない。すなわち、リチウムプレドープ材の利用率は十分ではない。これに対し、リチウムプレドープ材の添加量を増やすことが考えられるが、2回目以降の充放電には実質的に関与しないリチウムプレドープ材の添加量の増加は、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を低下させることなどから好ましくない。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、プレドープ材の利用率が高い非水電解質蓄電素子の製造方法、プレドープ材の利用率が高いプレドープ材と触媒との複合粉末、及び上記複合粉末の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、プレドープ材と上記プレドープ材の反応触媒とをメカノケミカル処理して得られた生成物、及び正極活物質を含む正極を得ることを備える非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【0009】
本発明の他の一態様は、プレドープ材と上記プレドープ材の反応触媒とをメカノケミカル処理することを備えるプレドープ材と触媒との複合粉末の製造方法である。
【0010】
本発明の他の一態様は、プレドープ材と上記プレドープ材の反応触媒とを含み、上記反応触媒がアモルファスである、プレドープ材と触媒との複合粉末である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プレドープ材の利用率が高い非水電解質蓄電素子の製造方法、プレドープ材の利用率が高いプレドープ材と触媒との複合粉末、及び上記複合粉末の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1~3及び比較例3~4の複合粉末等のX線回折図である。
図2図2は、実施例8の処理後の粉末のX線回折図である。
図3図3は、比較例6の処理後の粉末のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、プレドープ材と上記プレドープ材の反応触媒とをメカノケミカル処理して得られた生成物、及び正極活物質を含む正極を得ることを備える非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【0014】
当該製造方法は、初回の充電の際のプレドープ材の利用率が高い。また、当該製造方法によれば、このようにプレドープ材の利用率が高いため、プレドープ材の使用量を減らすことができ、その結果、エネルギー密度の高い非水電解質蓄電素子を製造することができる。当該製造方法においてプレドープ材の利用率が高くなる理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。プレドープ材と反応触媒とをメカノケミカル処理することにより、(1)得られる生成物中において反応触媒の準安定相又はアモルファスが形成されること、(2)得られる生成物中において反応触媒がプレドープ材に近接した状態となること、などにより反応触媒の触媒機能が高まり、充電の際のプレドープ材の反応性が高まることが推測される。
【0015】
上記プレドープ材が、LiO、Li、LiCO又はLiOHであり、上記反応触媒が、MeO又はLiMe(Meは、Ni、Co、Mn又はこれらの組み合わせである。x、y及びzは、それぞれの組成式において化学量論比を満たす係数である。)であることが好ましい。このようなプレドープ材と反応触媒との組み合わせにより、プレドープ材の利用率をより高めることができる。
【0016】
上記生成物が、上記反応触媒のアモルファスを含むことが好ましい。これにより、触媒機能がより高まることなどにより、プレドープ材の利用率をより高めることができる。なお、「反応触媒のアモルファスを含むこと」は、後述する粉末X線回折(XRD)測定により得られるXRDスペクトルにおいて、その反応触媒の結晶構造に起因するパターンが検出されないことにより確認することができる。
【0017】
上記メカノケミカル処理をタングステンカーバイド製ボールミルを用いて行うことが好ましい。これにより、メカノケミカル反応が効果的に生じ、プレドープ材の利用率をより高めることができる。
【0018】
本発明の一実施形態に係るプレドープ材と触媒との複合粉末の製造方法は、プレドープ材と上記プレドープ材の反応触媒とをメカノケミカル処理することを備えるプレドープ材と触媒との複合粉末の製造方法である。
【0019】
当該製造方法により得られる複合粉末は、非水電解質蓄電素子の製造の際に正極に添加される添加剤である。当該製造方法によれば、非水電解質蓄電素子の初回の充電の際のプレドープ材の利用率が高い複合粉末を得ることができる。
【0020】
上記プレドープ材が、LiO、Li、LiCO又はLiOHであり、上記反応触媒が、MeO又はLiMe(Meは、Ni、Co、Mn又はこれらの組み合わせである。x、y及びzは、それぞれの組成式において化学量論比を満たす係数である)であることが好ましい。これにより、得られる複合粉末におけるプレドープ材の利用率をより高めることができる。
【0021】
上記複合粉末が、上記反応触媒のアモルファスを含むことが好ましい。これにより、複合粉末におけるプレドープ材の利用率をより高めることができる。
【0022】
上記メカノケミカル処理をタングステンカーバイド製ボールミルを用いて行うことが好ましい。これにより、得られる複合粉末におけるプレドープ材の利用率をより高めることができる。
【0023】
本発明の一実施形態に係るプレドープ材と触媒との複合粉末は、プレドープ材と上記プレドープ材の反応触媒とを含み、上記反応触媒がアモルファスである、プレドープ材と触媒との複合粉末である。
【0024】
当該複合粉末は、非水電解質蓄電素子の製造の際に正極に添加される添加剤である。当該複合粉末は、非水電解質蓄電素子の初回の充電の際、プレドープ材の利用率が高い。このため、当該複合粉末を用いることにより、プレドープ材の使用量を削減することができ、エネルギー密度の高い非水電解質蓄電素子を製造することができる。
【0025】
当該複合粉末は、リチウム(Li)及び遷移金属元素(Me)を含む酸化物、過酸化物、炭酸化物又は水酸化物であり、上記遷移金属元素が、ニッケル、コバルト、マンガン又はこれらの組み合わせを含み、上記リチウム及び遷移金属元素に対する上記遷移金属元素のモル比(Me/(Li+Me))が、0.01以上0.15以下であることが好ましい。当該複合粉末がこのような組成等を有することにより、プレドープ材の利用率をより高めることができる。
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係るプレドープ材と触媒との複合粉末の製造方法、プレドープ材と触媒との複合粉末、及び非水電解質蓄電素子の製造方法について、順に説明する。
【0027】
<プレドープ材と触媒との複合粉末の製造方法>
本発明の一実施形態に係るプレドープ材と触媒との複合粉末の製造方法は、プレドープ材と上記プレドープ材の反応触媒とをメカノケミカル処理することを備える。
【0028】
プレドープ材としては、リチウムプレドープ材、ナトリウムプレドープ材、カリウムドープ材などが挙げられ、製造する非水電解質蓄電素子の正極活物質にあわせて適宜選択される。すなわち、例えばリチウムイオンを吸蔵及び放出する正極活物質には、リチウムプレドープ材が用いられる。なお、メカノケミカル処理に供されるこのプレドープ材は、通常、粉末状の結晶体である。
【0029】
プレドープ材としては、LiO、Li、LiCO、LiOH、LiH等のリチウムプレドープ材が好ましく、LiO、Li、LiCO及びLiOHがより好ましく、LiOがさらに好ましい。プレドープ材は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
反応触媒は、放電の際に、正極においてプレドープ材からのリチウム等の脱離反応(酸化反応)を促進させる触媒である。なお、メカノケミカル処理に供されるこの反応触媒は、通常、粉末状の結晶体である。
【0031】
反応触媒としては、3d軌道に電子が存在する酸化物の他、Pt、Au等を挙げることができる。酸化物としては、MeO、LiMe(Meは、Ni、Co、Mn又はこれらの組み合わせである。x、y及びzは、それぞれの組成式において化学量論比を満たす係数である。)等の遷移金属を含む酸化物を挙げることができる。反応触媒としては、これらの中でも、遷移金属を含む酸化物が好ましく、MeO及びLiMeがより好ましく、LiMeがさらに好ましい。
【0032】
MeOで表される反応触媒としては、CuO、NiO、NiO、CoO、Co、FeO、Fe、Fe、MnO、MnO、Mn、Mn、Cr等を挙げることができ、MnOが好ましい。LiMeで表される反応触媒としては、LiCuO、LiCu、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMnO、LiMn、LiCrO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、等を挙げることができ、LiCoO及びLiNi1/3Co1/3Mn1/3が好ましく、LiCoOがより好ましい。
【0033】
メカノケミカル処理に供されるプレドープ材と反応触媒との混合比としては、特に限定されないが、プレドープ材と反応触媒の合計量に対する反応触媒の量の下限としては、20質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。反応触媒の量を上記下限以上とすることで、プレドープ材の利用率をより高めることができる。一方、この反応触媒の量の上限としては、60質量%が好ましく、50質量%がより好ましく、45質量%がさらに好ましい。反応触媒の混合量を上記上限以下とすることで、2回目以降の充放電反応に実質的に寄与しない反応触媒の量を抑え、得られた複合粉末を用いて製造された非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を高めることなどができる。
【0034】
当該製造方法においては、通常、プレドープ材の粉末と反応触媒の粉末との混合粉末をメカノケミカル処理する。メカノケミカル処理とは、メカノケミカル反応を生じさせる処理をいう。メカノケミカル反応とは、固体物質の破砕過程での摩擦、圧縮等の機械エネルギーにより局部的に生じる高いエネルギーを利用する固溶反応、相転移反応等の化学反応をいう。当該製造方法においては、反応触媒が、結晶体からアモルファスへ相転移していると考えられる。
【0035】
メカノケミカル処理を行う装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミルなどの粉砕・分散機が挙げられる。これらの中でもボールミルが好ましい。ボールミルとしては、タングステンカーバイド製のボールミル、ジルコニア製のボールミルなどがあるが、タングステンカーバイド製のボールミルを用いることが好ましい。なお、例えばタングステンカーバイド製のボールミルを用いた場合、得られる複合粉末中に、タングステンカーバイドの破片(粉末)が混入することがある。
【0036】
上記メカノケミカル処理により、プレドープ材と反応触媒とが複合化され、複合粉末が得られる。この複合粉末は、反応触媒のアモルファスを含むことが好ましい。すなわち、メカノケミカル処理によって、結晶体である反応触媒が、アモルファス化されることが好ましい。これにより、複合粉末におけるプレドープ材の利用率をいっそう高めることができる。
【0037】
<プレドープ材と触媒との複合粉末>
本発明の一実施形態に係るプレドープ材と触媒との複合粉末は、プレドープ材と上記プレドープ材の反応触媒とを含む。当該複合粉末は、プレドープ材と反応触媒とを含有する粒子を含むことが好ましい。
【0038】
当該複合粉末は、結晶体部分とアモルファス部分との複合体であることが好ましい。当該複合粉末は、空間群Fm-3mに帰属可能な結晶構造を含むことが好ましい。空間群Fm-3mに帰属可能な結晶構造とは、X線回折図において、空間群Fm-3mに帰属可能なピークを有することをいう。当該複合酸化物は、空間群Fm-3mに帰属する結晶構造を有するものであってよい。なお、空間群「Fm-3m」における「-3」は3回回反軸の対象要素を表し、本来「3」の上にバー「-」を付して表記すべきものである。
【0039】
X線回折測定は、X線回折装置(Rigaku社の「MiniFlex II」)を用いた粉末X線回折測定によって、線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとして行う。このとき、回折X線は、厚み30μmのKβフィルターを通り、高速一次元検出器(D/teX Ultra 2)にて検出される。また、サンプリング幅は0.02°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとする。
【0040】
当該複合粉末に含まれるプレドープ材の詳細は、「複合粉末の製造方法」の実施の形態において説明した通りである。当該複合粉末中のプレドープ材は、通常、結晶体である。
【0041】
当該複合粉末に含まれる反応触媒はアモルファスである。このように、複合粉末中の反応触媒がアモルファスであることにより、プレドープ材の利用率を高めることができる。当該複合粉末に含まれる反応触媒の詳細は、アモルファスであること以外は、「複合粉末の製造方法」の実施の形態において説明した通りである。
【0042】
当該複合粉末は、Li及びMe(遷移金属元素)を含む酸化物、過酸化物、炭酸化物又は水酸化物であることが好ましい。上記遷移金属元素としては、ニッケル、コバルト、マンガン又はこれらの組み合わせであることが好ましい。当該複合粉末は、酸化物であることが好ましい。
【0043】
また、当該複合粉末において、リチウム及び遷移金属元素に対する遷移金属元素のモル比(Me/(Li+Me))の下限としては、0.01が好ましく、0.05がより好ましい。一方、このモル比(Me/(Li+Me))の上限としては、0.15が好ましく、0.12がより好ましい。
【0044】
当該複合粉末は、上述した「複合粉末の製造方法」によって好適に製造することができる。より具体的には、当該複合粉末は、原料となるプレドープ材とこのプレドープ材の反応触媒とをメカノケミカル処理することにより好適に得られる。なお、原料となるプレドープ材及び反応触媒に含まれるリチウム及び遷移金属元素に対する遷移金属元素のモル比(Me/(Li+Me))が、0.01以上0.15以下となるように、プレドープ材と反応触媒との混合比等を調整することが好ましい。また、原料となるプレドープ材及び反応触媒は、酸化物、過酸化物、炭酸化物又は水酸化物であることが好ましい。
【0045】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、プレドープ材と上記プレドープ材の反応触媒とをメカノケミカル処理して得られた生成物、及び正極活物質を含む正極を得ることを備える。
【0046】
当該製造方法は、より具体的には、
プレドープ材と反応触媒とをメカノケミカル処理すること(工程A)、及び
上記メカノケミカル処理により得られた生成物(複合粉末)、及び正極活物質を用いて正極を作製すること(工程B)
を備えることができる。
【0047】
(工程A)
上記工程Aは、「複合粉末の製造方法」として上述したものと同様であるので、詳細な説明を省略する。すなわち、上記工程(A)により得られた生成物は、上記「複合粉末の製造方法」により得られた「プレドープ材と触媒との複合粉末」である。
【0048】
(工程B)
工程Bは、工程Aで得られた複合粉末(複合粉末)と正極活物質を用いて正極を作製する工程である。具体的には、例えば正極基材に、上記複合粉末及び正極活物質を含む正極合材ペーストを塗工し、乾燥させることにより、正極を得ることができる。なお、当該製造方法においては、正極活物質とは別に、上記複合粉末を用いることが必要である。
【0049】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0050】
上記正極合材ペーストは、正極活物質、上記複合粉末及び分散媒を含む。正極合材ペーストは、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含むことができる。
【0051】
上記正極活物質としては、例えばLiMO(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα-NaFeO型結晶構造を有するLiCoO,LiNiO,LiMnO,LiNiαCo(1-α),LiNiαMnβCo(1-α-β)等、スピネル型結晶構造を有するLiMn,LiNiαMn(2-α)等)、LiMe(XO(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO,LiMnPO,LiNiPO,LiCoPO,Li(PO,LiMnSiO,LiCoPOF等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。
【0052】
上記正極活物質と上記複合粉末との混合比としては特に限定されないが、正極活物質100質量部に対する上記複合粉末の使用量の下限としては、0.1質量部が好ましく、1質量部がより好ましく、2質量部がより好ましいこともある。一方、上記複合粉末の使用量の上限としては、10質量部が好ましく、5質量部がより好ましく、3質量部がさらに好ましいこともあり、1.5質量部がさらに好ましいこともある。上記複合粉末の使用量を上記範囲とすることで、初回の充電の際に、正極活物質中のリチウムがリチウム含有層の形成に使用されることを十分に抑制することができる。また、上記複合粉末の使用量を上記下限以上とすることで、初回の充電電気量を十分に大きくすることができる。一方、上記複合粉末の使用量を上記上限以下とすることで、複合粉末、すなわちプレドープ材中のリチウム等の利用率がより高まる傾向にある。
【0053】
上記分散媒としては、通常、有機溶媒が用いられる。この有機溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトン、エタノール等の極性溶媒や、キシレン、トルエン、シクロヘキサン等の無極性溶媒を挙げることができ、極性溶媒が好ましく、NMPがより好ましい。
【0054】
上記導電剤としては、蓄電素子性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0055】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。
【0056】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0057】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラスなどが挙げられる。
【0058】
このような成分を含む正極合材ペーストを正極基材に塗工する。塗工方法としては特に限定されず、ローラーコーティング、スクリーンコーティング、スピンコーティング等の公知の方法により行うことができる。このように塗工された正極合材ペーストを乾燥させることにより、正極基材上に正極合材層が形成される。これにより、正極を得ることができる。
【0059】
(他の工程)
当該非水電解質蓄電素子の製造方法は、他の工程を有することができる。他の工程は、従来公知の非水電解質蓄電素子の製造工程と同様である。例えば、非水電解質蓄電素子の一例である非水電解質二次電池の製造方法においては、負極を作製する工程、非水電解質を調製する工程、正極及び負極をセパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極及び負極(電極体)を電池容器に収容する工程、並びに上記電池容器に上記非水電解質を注入する工程を備えることができる。注入後、注入口を封止することにより非水電解質蓄電素子を得ることができる。また、当該製造方法においては、非水電解質蓄電素子の組み立て後、初回の充放電工程を備えていてもよい。当該製造方法においては、この初回の充放電工程により、プレドープ材が高い利用率で消費され、正極活物質中の、電極間を行き来可能なリチウムの減少を抑制することができる。
【0060】
負極は、例えば負極基材に、負極合材ペーストを塗工し、乾燥させることにより得ることができる。
【0061】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0062】
上記負極合材ペーストは、負極活物質及び分散媒を含む。負極合材ペーストは、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含むことができる。負極活物質以外の各成分は、正極合材ペースト中の各成分として例示した物を用いることができる。
【0063】
上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。
【0064】
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0065】
上記非水電解質としては、一般的な非水電解質二次電池に通常用いられる公知の非水電解質が使用できる。上記非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩を含む。
【0066】
上記非水溶媒としては、一般的な二次電池用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。
【0067】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができる。
【0068】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができる。
【0069】
電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiPF(C、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。
【0070】
上記非水電解質には、その他の添加剤が添加されていてもよい。また、上記非水電解質として、常温溶融塩、イオン液体、ポリマー固体電解質などを用いることもできる。
【0071】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、当該非水電解質蓄電素子の製造方法においては、非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子の製造においても、本発明を適用することができる。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【実施例
【0072】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
(複合粉末の合成)
原料粉末として、プレドープ材であるLiOと反応触媒であるLiCoO(LCO112)とを質量比58.2:41.8で混合した粉末を用意した。この原料粉末2.0gとタングステンカーバイド(WC)製ボール(φ5mm、250g)とをWC製容器(80mL)に導入し、アルゴン雰囲気下で密封した。このWC容器をボールミル装置に設置し、400rpmの回転速度で8h(時間)、ボールミル処理(メカノケミカル処理)した。これにより、プレドープ材と触媒との複合粉末を得た。得られた複合粉末におけるリチウム及び遷移金属元素に対する遷移金属元素のモル比は、9.0モル%であった。
【0074】
(正極合材ペーストの調製)
実施例1の複合粉末、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3(NCM111)、導電剤としてアセチレンブラック(AB)、及び結着剤としてPVDFを、複合粉末:NCM111:AB:PVDF=1.8:90:5:5の質量比(固形分換算)で含有し、NMPを分散媒とする正極合材ペーストを作製した。正極合材ペーストの調製は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で実施した。
【0075】
(正極の作製)
正極基材としてAlメッシュを用意した。上記の正極合材ペーストをAlメッシュに塗布したのち、120℃で一晩真空乾燥した。乾燥後、プレス機にてプレスして正極を得た。この正極の作製は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で実施した。
【0076】
(非水電解質蓄電素子(評価セル)の作製)
評価セルとして三極式ビーカーセルを使用した。正極には上記の正極を使用した。負極及び参照極にはリチウム金属を使用した。非水電解質には、ECとEMCとDMCとを30:35:35の体積比で混合した非水溶媒に、1mol/Lの濃度でLiPFを溶解させた電解液を使用した。評価セルの作製は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で実施した。
【0077】
[実施例2]
原料粉末として、プレドープ材であるLiOと反応触媒であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3(NCM111)とを質量比58.5:41.5で混合した粉末を用意したこと以外は、実施例1と同様にして、複合粉末及び評価セルを得た。得られた複合粉末におけるリチウム及び遷移金属元素に対する遷移金属元素のモル比は、9.0モル%であった。
【0078】
[実施例3]
原料粉末として、プレドープ材であるLiOと反応触媒であるMnOとを質量比65.5:34.5で混合した粉末を用意したこと以外は、実施例1と同様にして、複合粉末及び評価セルを得た。得られた複合粉末におけるリチウム及び遷移金属元素に対する遷移金属元素のモル比は、10.0モル%であった。
【0079】
[比較例1]
複合粉末を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、評価セルを得た。
【0080】
[比較例2]
複合粉末に代えて、プレドープ材であるLiOの粉末をボールミル処理することなくそのまま用いたこと以外は実施例1と同様にして、評価セルを得た。
【0081】
[比較例3]
複合粉末に代えて、プレドープ材であるLiOを実施例1と同様の方法でボールミル処理した粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、評価セルを得た。
【0082】
[比較例4]
複合粉末に代えて、プレドープ材であるLiOと反応触媒であるLiCoO(LCO112)とを質量比58.2:41.8で混合した粉末をボールミル処理することなくそのまま用いたこと以外は実施例1と同様にして、評価セルを得た。
【0083】
[比較例5]
複合粉末に代えて、プレドープ材であるLiOと反応触媒であるMnOとを質量比65.5:34.5で混合した粉末をボールミル処理することなくそのまま用いたこと以外は実施例1と同様にして、評価セルを得た。
【0084】
[複合粉末の解析]
実施例1~3及び比較例3~4で得られた複合粉末等について、以下の方法にて解析を行った。X線回折装置(Rigaku社の「MiniFlex II」)を用いて粉末X線回折測定を行った。線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとし、回折X線は厚み30μmのKβフィルターを通し高速一次元検出器(型番:D/teX Ultra 2)にて検出した。サンプリング幅は0.02°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとした。実施例1~3及び比較例3~4の複合粉末等のX線回折図を図1に示す。
【0085】
図1に示されるように、ボールミル処理を行っていないLiOとLCO112との混合粉末である比較例4においては、LiO及びLCO112のそれぞれに起因する回折パターンが確認できる。ボールミル処理を行ったLiOの粉末である比較例3においても、LiOに起因する回折パターンが確認できる。一方、ボールミル処理を行って得られた複合粉末である実施例1~3においては、LiOに起因する回折パターンは残っているものの、LCO112等の反応触媒に起因する回折パターンが確認できない。実施例1~3においては、反応触媒は、ボールミル処理によりアモルファス化されたものと推測される。また、実施例1~3の複合粉末は、空間群Fm-3mに帰属可能な結晶構造を有することが確認できた。
【0086】
[充放電試験]
得られた各評価セルについて、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、25℃の環境下、充放電試験を行った。充電は、定電流充電にて4.50V(vs.Li/Li)に達した後、同電位で10時間保持する定電流定電圧(CCCV)充電とした。放電は、定電流(CC)放電とし、放電終止電位は2.75V(vs.Li/Li)とした。充電及び放電の定電流値は、正極が含有する正極活物質の質量に対して20mA/gとした。
【0087】
初回充電電気量から、以下の式にて、「正極活物質質量あたりの初回充電電気量(mAh/g)」、「プレドープ材質量あたりの初回充電電気量(mAh/g)」及び「プレドープ材が含有するLiの利用率(%)」を求めた。結果を表1に示す。
【0088】
「正極活物質質量あたりの初回充電電気量(mAh/g)」
=正極の初回充電電気量(mAh)/正極中の正極活物質の質量(g)
「プレドープ材質量あたりの初回充電電気量(mAh/g)」
={「正極活物質あたりの初回充電電気量(mAh/g)」-「比較例1の正極活物質あたりの初回充電電気量(mAh/g)}
×正極中の正極活物質の質量(g)/正極中のプレドープ材の質量(g)
「プレドープ材が含有するLiの利用率(%)」
={「プレドープ材質量あたりの初回充電電気量(mAh/g)」/「プレドープ材質量あたりの理論電気量(mAh/g)」}×100
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示されるように、実施例1~3においては、プレドープ材が含有するLiの利用率が70%以上であり、プレドープ材の利用率が高いことがわかる。なお、実施例においてプレドープ材の利用率が100%を超えるものがあるが、これは、複合粉末により、正極活物質も活性化され、正極活物質からのリチウムの放出量自体が増加したことなどが推測される。
【0091】
一方、反応触媒を用いず、プレドープ材のみを用いた比較例2、3は、ボールミル処理の有無に拘わらず、利用率が低い。ボールミル処理を行わず、プレドープ材と反応触媒とを混合しただけの比較例4、5も、利用率が60%にも満たなかった。プレドープ材と反応触媒とをボールミル処理し、メカノケミカル反応が生じた複合粉末を用いることで、利用率が高まることがわかる。また、実施例1~3の中で比較すると、用いる反応触媒としては、LiCoO>LiNi1/3Co1/3Mn1/3>MnOの順で、利用率が高いことがわかる。
【0092】
[実施例4~6]
NCM111に対する複合粉末の添加量を表2に示す通りとしたこと以外は実施例3と同様にして、評価セルを得た。これらの評価セルについて、上記方法にて充放電試験を行った。実施例3の結果と共に、結果を表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
表2に示されるように、複合粉末の添加量を増やすことで正極活物質質量あたりの初回充電電気量は大きくなる。一方、複合粉末の添加量が少ない方が、プレドープ材の利用率は高い傾向にある。
【0095】
[実施例7]
WC製ボール及びWC製容器に代えてジルコニア製ボール及びジルコニア製容器を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ボールミル処理を行った。なお、ボールの形状及び個数は同一であるが比重が異なるためボールの質量は90gである。
【0096】
[実施例8]
原料粉末として、プレドープ材であるLiOと反応触媒であるCoとを質量比65.0:35.0で混合した粉末を用意したこと、並びに処理時間を2h及び4hとしたこと以外は、実施例1と同様にして、ボールミル処理を行った。得られた複合粉末におけるリチウム及び遷移金属元素に対する遷移金属元素のモル比は、9.0モル%であった。
【0097】
[比較例6]
WC製ボール及びWC製容器に代えてジルコニア製ボール及びジルコニア製容器を用いたこと以外は実施例8と同様にして、ボールミル処理を行った。なお、ボールの質量は、実施例7と同様、90gである。
【0098】
実施例7、8及び比較例6で得られた複合粉末等について、上記と同様にして粉末X線回折測定を行った。その結果、実施例7においては、LiOに起因する回折パターンは残っているものの、反応触媒(LiCoO)に起因する回折パターンが確認できなかった。従って、反応触媒は、ボールミル処理によりアモルファス化されたものと推測される。
【0099】
実施例8及び比較例6の処理後の粉末のX線回折図を図2、3にそれぞれ示す。WC製ボールミルを用いた実施例8においては、2h処理では残っていたCoに起因する31°及び37°近傍に現れる回折パターンが、4h処理では大きく減少した。なお、34°近傍に現れる回折パターンは、LiOに由来するものである。一方、ジルコニア製ボールミルを用いた比較例6においては、4h処理においても、LiO及びCoのそれぞれに起因する回折パターンは、ほとんど変化しなかった。反応触媒としてCoを用いた場合、WC製ボールミル及びWC製容器を用いたときは4hでの処理でアモルファス化、すなわちメカノケミカル反応が生じたのに対し、ジルコニア製ボール及びジルコニア製容器を用いたときは、4hでの処理でもアモルファス化、すなわちメカノケミカル反応が生じていなかったことがわかる。
【0100】
なお、同じボールミル処理の条件(400rpm、8h)を採用した実施例1(WC製ボールミル)及び実施例7(ジルコニア製ボールミル)においては、いずれもアモルファスが得られた。従って、ジルコニアに比べて極めて大きい重力加速度が得られるWC製ボールミルを用いた場合は、アモルファスを得るための処理時間は、実施例1よりもさらに短縮できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質蓄電素子を製造する方法等に適用できる。
図1
図2
図3