(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】セラミックス/アルミニウム接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20220405BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20220405BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20220405BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C04B37/02 A
H01L23/12 C
H01L23/12 J
H01L23/36 C
(21)【出願番号】P 2018009821
(22)【出願日】2018-01-24
【審査請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2017019737
(32)【優先日】2017-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-153567(JP,A)
【文献】特開2010-010563(JP,A)
【文献】特開平11-154719(JP,A)
【文献】国際公開第2011/004798(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00 - 37/04
B23K 1/00
H01L 23/12
H01L 23/13
H01L 23/15
H01L 23/36
H01L 33/62
H01L 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス部材と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材とが接合されてなるセラミックス/アルミニウム接合体の製造方法であって、
窒化ケイ素からなるセラミックス本体の表面に、厚さ20μm以下のアルミニウム層を形成するアルミニウム層形成工程と、
前記アルミニウム層が形成されたセラミックス本体を、前記アルミニウム層の固相線温度以上の温度まで加熱し、窒化アルミニウム層を形成する窒化アルミニウム層形成工程と、
前記窒化アルミニウム層を介してアルミニウム部材を接合するアルミニウム部材接合工程と、
を備えて
おり、
前記セラミックス/アルミニウム接合体においては、前記セラミックス部材は、前記セラミックス本体と、このセラミックス本体のうち前記アルミニウム部材との接合面に形成された窒化アルミニウム層と、を有し、前記窒化アルミニウム層を介して前記アルミニウム部材が接合されており、前記セラミックス本体が、窒化ケイ素相と、この窒化ケイ素相の粒界に形成されたガラス相と、を備え、前記窒化アルミニウム層にも前記ガラス相が存在しており、前記セラミックス本体の前記ガラス相のうち前記窒化アルミニウム層との界面側部分にAlが存在することを特徴とするセラミックス/アルミニウム接合体の製造方法。
【請求項2】
前記窒化アルミニウム層を酸化させて酸化アルミニウム層を形成する酸化処理工程と、前記酸化アルミニウム層を介してアルミニウム部材を接合するアルミニウム部材接合工程と、を備えて
おり、
前記セラミックス/アルミニウム接合体においては、前記セラミックス部材は、前記セラミックス本体と、このセラミックス本体のうち前記アルミニウム部材との接合面に形成された酸化アルミニウム層と、を有し、前記酸化アルミニウム層を介して前記アルミニウム部材が接合されており、前記セラミックス本体が、窒化ケイ素相と、この窒化ケイ素相の粒界に形成されたガラス相と、を備え、前記酸化アルミニウム層にも前記ガラス相が存在しており、前記セラミックス本体の前記ガラス相のうち前記酸化アルミニウム層との界面側部分にAlが存在することを特徴とする
請求項1に記載のセラミックス/アルミニウム接合体の製造方法。
【請求項3】
セラミックス基板と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板とが接合されてなる絶縁回路基板の製造方法であって、
窒化ケイ素からなるセラミックス本体の表面に、厚さ20μm以下のアルミニウム層を形成するアルミニウム層形成工程と、
前記アルミニウム層が形成されたセラミックス本体を、前記アルミニウム層の固相線温度以上の温度まで加熱し、窒化アルミニウム層を形成する窒化アルミニウム層形成工程と、
前記窒化アルミニウム層を介してアルミニウム板を接合するアルミニウム板接合工程と、
を備えて
おり、
前記絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板は、前記セラミックス本体と、このセラミックス本体のうち前記アルミニウム板との接合面に形成された窒化アルミニウム層と、を有し、前記窒化アルミニウム層を介して前記アルミニウム板が接合されており、前記セラミックス本体が、窒化ケイ素相と、この窒化ケイ素相の粒界に形成されたガラス相と、を備え、前記窒化アルミニウム層にも前記ガラス相が存在しており、前記セラミックス本体の前記ガラス相のうち前記窒化アルミニウム層との界面側部分にAlが存在することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記窒化アルミニウム層を酸化させて酸化アルミニウム層を形成する酸化処理工程と、前記酸化アルミニウム層を介してアルミニウム板を接合するアルミニウム板接合工程と、を備えて
おり、
前記絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板は、前記セラミックス本体と、このセラミックス本体のうち前記アルミニウム板との接合面に形成された酸化アルミニウム層と、を有し、前記酸化アルミニウム層を介して前記アルミニウム板が接合されており、前記セラミックス本体が、窒化ケイ素相と、この窒化ケイ素相の粒界に形成されたガラス相と、を備え、前記酸化アルミニウム層にも前記ガラス相が存在しており、前記セラミックス本体の前記ガラス相のうち前記酸化アルミニウム層との界面側部分にAlが存在することを特徴とする
請求項3に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セラミックス部材と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材とが接合されてなるセラミックス/アルミニウム接合体の製造方法、セラミックス基板と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板とが接合されてなる絶縁回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子及び熱電素子が接合された構造とされている。
また、上述の絶縁回路基板においては、セラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して回路層とし、また、他方の面に放熱性に優れた金属板を接合して金属層を形成した構造のものも提供されている。
さらに、回路層に搭載した素子等から発生した熱を効率的に放散させるために、絶縁回路基板の金属層側にヒートシンクを接合したヒートシンク付き絶縁回路基板も提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1に示すパワーモジュールにおいては、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム板からなる回路層が形成されるとともに他方の面にアルミニウム板からなる金属層が形成された絶縁回路基板と、この回路層上にはんだ材を介して接合された半導体素子と、を備えた構造とされている。
また、特許文献2、3に示すLEDモジュールにおいては、セラミックスからなる基材の一方の面に導電性の回路層が形成され、絶縁基板の他方の面に放熱体が接合され、回路層上に発光素子が搭載された構造とされている。
ここで、セラミックス基板と回路層及び金属層となるアルミニウム板を接合する際には、通常、Al-Si系ろう材が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3171234号公報
【文献】特開2013-153157号公報
【文献】特開2015-070199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のLEDモジュール等においては、発光素子が搭載される回路層の厚さをさらに薄くすることが求められており、例えば厚さ100μm以下のアルミニウム板をセラミックス基板に接合する場合がある。
このように厚さの薄いアルミニウム板をAl-Si系ろう材を用いて接合した場合には、回路層となるアルミニウム板にろう材のSiが拡散して融点が低下し、回路層の一部が溶融してしまうおそれがあった。
【0006】
回路層の溶融を抑制するために、接合温度を低下させたり、ろう材のSi量を少なくしたりした場合には、接合が不十分となり、接合信頼性が低下してしまう。このため、発熱密度が高い用途には適用することができなかった。
以上のように、従来の絶縁回路基板においては、回路層を薄く形成した場合には、回路層の溶融を抑制し、かつ、回路層とセラミックス基板との接合信頼性を向上させることは困難であった。
【0007】
また、LEDモジュールにおいて強度を確保するために、窒化ケイ素(Si3N4)からなるセラミックス基板が用いられることがある。しかしながら、窒化ケイ素(Si3N4)からなるセラミックス基板は、窒化ケイ素相と、この窒化ケイ素相の間に形成されたガラス相と、を備えており、このガラス相とアルミニウム板との接合が不十分となるため、接合強度を十分に保つことができなかった。なお、このガラス相は、窒化ケイ素の原料を焼結する際に添加される焼結助剤によって形成されるものである。
以上のことから、窒化ケイ素(Si3N4)からなるセラミックス基板においては、窒化アルミニウム(AlN)や酸化アルミニウム(Al2O3)からなるセラミックス基板と比べて、金属板(特にアルミニウム板)との接合信頼性が劣っていた。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、アルミニウム部材が溶融することなく窒化ケイ素(Si3N4)からなるセラミックス部材と信頼性高く接合されたセラミックス/アルミニウム接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のセラミックス/アルミニウム接合体の製造方法は、セラミックス部材と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材とが接合されてなるセラミックス/アルミニウム接合体の製造方法であって、窒化ケイ素からなるセラミックス本体の表面に、厚さ20μm以下のアルミニウム層を形成するアルミニウム層形成工程と、前記アルミニウム層が形成されたセラミックス本体を、前記アルミニウム層の固相線温度以上の温度まで加熱し、窒化アルミニウム層を形成する窒化アルミニウム層形成工程と、前記窒化アルミニウム層を介してアルミニウム部材を接合するアルミニウム部材接合工程と、を備えており、前記セラミックス/アルミニウム接合体においては、前記セラミックス部材は、前記セラミックス本体と、このセラミックス本体のうち前記アルミニウム部材との接合面に形成された窒化アルミニウム層と、を有し、前記窒化アルミニウム層を介して前記アルミニウム部材が接合されており、前記セラミックス本体が、窒化ケイ素相と、この窒化ケイ素相の粒界に形成されたガラス相と、を備え、前記窒化アルミニウム層にも前記ガラス相が存在しており、前記セラミックス本体の前記ガラス相のうち前記窒化アルミニウム層との界面側部分にAlが存在することを特徴としている。
【0021】
この構成のセラミックス/アルミニウム接合体の製造方法によれば、窒化ケイ素からなるセラミックス本体の表面に、厚さ20μm以下のアルミニウム層を形成するアルミニウム層形成工程と、前記アルミニウム層が形成されたセラミックス本体を、前記アルミニウム層の固相線温度以上の温度まで加熱し、窒化アルミニウム層を形成する窒化アルミニウム層形成工程と、を備えているので、この窒化アルミニウム層形成工程において、セラミックス本体のガラス相にAlが侵入するとともに、窒化ケイ素相のSi3N4が分解して生じた窒素とアルミニウム層とが反応することで、窒化アルミニウム層が形成される。なお、アルミニウム層の一部が残存することで、窒化アルミニウム層のうち前記セラミックス本体とは反対側の面に、金属アルミニウム部が形成されることもある。
そして、前記窒化アルミニウム層を介してアルミニウム部材を接合するアルミニウム部材接合工程を備えているので、セラミックス部材とアルミニウム部材とを容易に接合することができる。
よって、接合信頼性に優れたセラミックス/アルミニウム接合体を製造することが可能となる。
【0022】
ここで、本発明のセラミックス/アルミニウム接合体の製造方法においては、前記窒化アルミニウム層を酸化させて酸化アルミニウム層を形成する酸化処理工程と、前記酸化アルミニウム層を介してアルミニウム部材を接合するアルミニウム部材接合工程と、を備えており、前記セラミックス/アルミニウム接合体においては、前記セラミックス部材は、前記セラミックス本体と、このセラミックス本体のうち前記アルミニウム部材との接合面に形成された酸化アルミニウム層と、を有し、前記酸化アルミニウム層を介して前記アルミニウム部材が接合されており、前記セラミックス本体が、窒化ケイ素相と、この窒化ケイ素相の粒界に形成されたガラス相と、を備え、前記酸化アルミニウム層にも前記ガラス相が存在しており、前記セラミックス本体の前記ガラス相のうち前記酸化アルミニウム層との界面側部分にAlが存在する構成としてもよい。
この場合、窒化アルミニウム層を酸化させることにより、酸化アルミニウム層を形成することができる。なお、窒化アルミニウム層のうち前記セラミックス本体とは反対側の面に金属アルミニウム部が形成されていた場合には、酸化処理工程によってこの金属アルミニウム部も酸化アルミニウム層となる。
また、前記酸化アルミニウム層を介してアルミニウム部材を接合するアルミニウム部材接合工程を備えているので、セラミックス部材とアルミニウム部材とを容易に接合することができる。
よって、接合信頼性に優れたセラミックス/アルミニウム接合体を製造することが可能となる。
【0023】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、セラミックス基板と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板とが接合されてなる絶縁回路基板の製造方法であって、 窒化ケイ素からなるセラミックス本体の表面に、厚さ20μm以下のアルミニウム層を形成するアルミニウム層形成工程と、前記アルミニウム層が形成されたセラミックス本体を、前記アルミニウム層の固相線温度以上の温度まで加熱し、窒化アルミニウム層を形成する窒化アルミニウム層形成工程と、前記窒化アルミニウム層を介してアルミニウム板を接合するアルミニウム板接合工程と、を備えており、前記絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板は、前記セラミックス本体と、このセラミックス本体のうち前記アルミニウム板との接合面に形成された窒化アルミニウム層と、を有し、前記窒化アルミニウム層を介して前記アルミニウム板が接合されており、前記セラミックス本体が、窒化ケイ素相と、この窒化ケイ素相の粒界に形成されたガラス相と、を備え、前記窒化アルミニウム層にも前記ガラス相が存在しており、前記セラミックス本体の前記ガラス相のうち前記窒化アルミニウム層との界面側部分にAlが存在することを特徴としている。
【0024】
この構成の絶縁回路基板の製造方法によれば、窒化ケイ素からなるセラミックス本体の表面に、厚さ20μm以下のアルミニウム層を形成するアルミニウム層形成工程と、前記アルミニウム層が形成されたセラミックス本体を、前記アルミニウム層の固相線温度以上の温度まで加熱し、窒化アルミニウム層を形成する窒化アルミニウム層形成工程と、を備えているので、この窒化アルミニウム層形成工程において、セラミックス本体のガラス相にAlが侵入するとともに、窒化ケイ素相のSi3N4が分解して生じた窒素とアルミニウム層とが反応することで、窒化アルミニウム層が形成される。なお、アルミニウム層の一部が残存することで、窒化アルミニウム層のうち前記セラミックス本体とは反対側の面に、金属アルミニウム部が形成されることもある。
そして、前記窒化アルミニウム層を介してアルミニウム板を接合するアルミニウム板接合工程を備えているので、セラミックス基板とアルミニウム板とを容易に接合することができる。
よって、接合信頼性に優れた絶縁回路基板を製造することが可能となる。
【0025】
ここで、本発明の絶縁回路基板の製造方法においては、前記窒化アルミニウム層を酸化させて酸化アルミニウム層を形成する酸化処理工程と、前記酸化アルミニウム層を介してアルミニウム板を接合するアルミニウム板接合工程と、を備えており、前記絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板は、前記セラミックス本体と、このセラミックス本体のうち前記アルミニウム板との接合面に形成された酸化アルミニウム層と、を有し、前記酸化アルミニウム層を介して前記アルミニウム板が接合されており、前記セラミックス本体が、窒化ケイ素相と、この窒化ケイ素相の粒界に形成されたガラス相と、を備え、前記酸化アルミニウム層にも前記ガラス相が存在しており、前記セラミックス本体の前記ガラス相のうち前記酸化アルミニウム層との界面側部分にAlが存在する構成としてもよい。
この場合、窒化アルミニウム層を酸化させることにより、酸化アルミニウム層を形成することができる。なお、窒化アルミニウム層のうち前記セラミックス本体とは反対側の面に金属アルミニウム部が形成されていた場合には、酸化処理工程によってこの金属アルミニウム部も酸化アルミニウム層となる。
また、前記酸化アルミニウム層を介してアルミニウム板を接合するアルミニウム板接合工程を備えているので、セラミックス基板とアルミニウム板とを容易に接合することができる。
よって、接合信頼性に優れた絶縁回路基板を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、アルミニウム部材が溶融することなく窒化ケイ素(Si3N4)からなるセラミックス部材と信頼性高く接合されたセラミックス/アルミニウム接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1の実施形態であるセラミックス/アルミニウム接合体(絶縁回路基板)を用いたLEDモジュールを示す断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態であるセラミックス/アルミニウム接合体(絶縁回路基板)のセラミックス部材(セラミックス基板)とアルミニウム部材(アルミニウム板)との接合界面の模式図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態であるセラミックス/アルミニウム接合体(絶縁回路基板)における窒化アルミニウム層の拡大説明図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態であるセラミックス/アルミニウム接合体(絶縁回路基板)における接合前のセラミックス部材(セラミックス基板)の拡大説明図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態であるセラミックス/アルミニウム接合体(絶縁回路基板)の製造方法を示すフロー図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態であるセラミックス/アルミニウム接合体(絶縁回路基板)の製造方法を示す説明図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態であるセラミックス/アルミニウム接合体(絶縁回路基板)を用いたLEDモジュールを示す断面図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態であるセラミックス/アルミニウム接合体(絶縁回路基板)のセラミックス部材(セラミックス基板)とアルミニウム部材(アルミニウム板)との接合界面の模式図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態であるセラミックス/アルミニウム接合体(絶縁回路基板)の製造方法を示すフロー図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態であるセラミックス部材(セラミックス基板)の製造方法を示す説明図である。
【
図11】本発明例1のセラミックス/アルミニウム接合体(絶縁回路基板)におけるセラミックス部材(セラミックス基板)とアルミニウム部材(アルミニウム板)との接合界面の元素マッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
【0029】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について、
図1から
図6を参照して説明する。
本実施形態に係るセラミックス/アルミニウム接合体は、セラミックス部材であるセラミックス基板11と、アルミニウム部材であるアルミニウム板22、23(回路層12、金属層13)とが接合されることにより構成された絶縁回路基板10とされている。
【0030】
図1に、本発明の第1の実施形態である絶縁回路基板10(セラミックス/アルミニウム接合体)及びこの絶縁回路基板10を用いたLEDモジュール1を示す。
このLEDモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方側(
図1において上側)の面に接合層2を介して接合されたLED素子3と、絶縁回路基板10の他方側(
図1において下側)に配置されたヒートシンク51と、を備えている。
【0031】
LED素子3は、半導体材料で構成されており、電気エネルギーを光に変換する光電変換素子である。なお、LED素子3の光変換効率は20~30%程度であり、残りの70~80%のエネルギーは熱となるため、LEDモジュール1においては効率的に熱を放散させることが求められる。
ここで、このLED素子3と絶縁回路基板10とを接合する接合層2は、例えばAu-Sn合金はんだ材等とされている。
【0032】
そして、本実施形態に係る絶縁回路基板10は、
図1に示すように、セラミックス基板30と、このセラミックス基板30の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板30の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13と、を備えている。
【0033】
セラミックス基板30は、絶縁性の高いSi
3N
4(窒化珪素)で構成されている。ここで、セラミックス基板30の厚さは、0.2~1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
ここで、本実施形態におけるセラミックス基板30は、
図4に示すように、窒化ケイ素からなるセラミックス本体31と、このセラミックス本体31のうち回路層12及び金属層13との接合面に形成された窒化アルミニウム層36と、を有している。
【0034】
回路層12は、
図6に示すように、セラミックス基板30の一方の面(
図6において上面)にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板22(アルミニウム部材)が接合されることで形成されている。回路層12を構成するアルミニウム板22(アルミニウム部材)としては、例えば、純度が99質量%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)や純度99.9質量%以上のアルミニウムや純度が99.99質量%以上のアルミニウム等の圧延板が用いることが好ましく、本実施形態では、純度が99質量%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)を用いている。なお、回路層12の厚さは、例えば0.05mm以上0.8mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.2mmに設定されている。
【0035】
金属層13は、
図6に示すように、セラミックス基板30の他方の面(
図6において下面)にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板23(アルミニウム部材)が接合されることで形成されている。金属層13を構成するアルミニウム板23(アルミニウム部材)としては、例えば、純度が99質量%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)や純度99.9質量%以上のアルミニウムや純度が99.99質量%以上のアルミニウム等の圧延板が用いることが好ましく、本実施形態では、純度が99質量%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)を用いている。なお、金属層13の厚さは、例えば0.05mm以上1.6mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0036】
ヒートシンク51は、前述の絶縁回路基板10を冷却するためのものであり、本実施形態においては、熱伝導性が良好な材質で構成された放熱板とされている。本実施形態においては、ヒートシンク51は、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
このヒートシンク51は、本実施形態においては、絶縁回路基板10の金属層13にろう材を用いて直接接合されている。
【0037】
ここで、セラミックス基板30と回路層12及び金属層13との接合界面の拡大説明図を
図2に示す。
セラミックス基板30は、上述のように、窒化ケイ素からなるセラミックス本体31と、このセラミックス本体31のうち回路層12及び金属層13との接合面に形成された窒化アルミニウム層36と、を有しており、この窒化アルミニウム層36と回路層12及び金属層13とが接合された構造とされている。
ここで、窒化アルミニウム層36の厚さは4nm以上100nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0038】
また、本実施形態においては、
図3に示すように、窒化アルミニウム層36は、セラミックス本体31側から順に、窒素濃度が50原子%以上80原子%以下とされ、厚さ方向に窒素の濃度傾斜を有する第1窒化アルミニウム層36Aと、窒素濃度が30原子%以上50原子%未満とされ、窒素濃度が厚さ方向でほぼ一定である第2窒化アルミニウム層36Bと、を有している。
【0039】
そして、セラミックス本体31は、
図2に示すように、窒化ケイ素相32とガラス相33とを備えており、このガラス相33の内部にAlが存在している。ガラス相33は、窒化ケイ素の原料を焼結する際に用いられる焼結助剤によって形成されるものであり、
図2に示すように、窒化ケイ素相32同士の粒界部分に存在する。
【0040】
ここで、本実施形態においては、接合界面を分析した際に、Al,Si,O,Nの合計値を100原子%とした際に、Siが15原子%未満、且つ、Oが3原子%以上25原子%以下の範囲内の領域をガラス相33とした。
このガラス相33中に存在するAl量は、Al,Si,O,Nの合計値を100原子%とした際に、35原子%以上65原子%以下の範囲内であることが好ましい。
【0041】
次に、上述した本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法について、
図5及び
図6を参照して説明する。
【0042】
(アルミニウム層形成工程S01)
窒化ケイ素からなる板材(セラミックス本体31)を準備し、このセラミックス本体31の表面に厚さ20μm以下のアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層41を形成する。本実施形態では、アルミニウム層41は、純度99質量%以上の純アルミニウムで構成されたものとした。
ここで、厚さ1μm未満のアルミニウム層41を形成する場合には、スパッタ等の成膜技術を適用することが好ましい。また、厚さ1μm以上20μm以下のアルミニウム層41を形成する場合には、圧延箔等をセラミックス本体31の表面に積層することが好ましい。
なお、アルミニウム層41の厚さの下限は5μm以上とすることが好ましく、アルミニウム層41の厚さの下限は10μm以下とすることが好ましい。
【0043】
(窒化アルミニウム層形成工程S02)
次に、アルミニウム層41が形成されたセラミックス本体31を、アルミニウム層41を構成するアルミニウム又はアルミニウム合金の固相線温度以上の温度で熱処理を行い、窒化アルミニウム層36を形成する。窒化アルミニウム層36はセラミックス本体31の表面から内部に浸食する方向に形成される。
ここで、熱処理を行う際には、溶融したアルミニウムが球状になることを抑制するために、アルミニウム層41の表面をカーボン板等で押さえておくことが好ましい。また、熱処理温度の上限は、蒸発等を抑制するために、750℃以下とすることが好ましい。
【0044】
なお、本実施形態においては、
図4に示すように、アルミニウム層41の全てが窒化アルミニウム層36にならず、一部が金属アルミニウム部38として存在している。そして、金属アルミニウム部38とセラミックス本体31の間には窒化アルミニウム層36が存在している。
ここで、セラミックス本体31を上面視した場合における、窒化アルミニウム層36の面積率はアルミニウム層41を形成した面積に対して80%以上とされている。本実施形態では、金属アルミニウム部38とセラミックス本体31の間には窒化アルミニウム層36が存在していることから、金属アルミニウム部38の面積と窒化アルミニウム層36の面積は同じであるとみなす。
【0045】
(アルミニウム板接合工程S03)
次に、セラミックス基板30の窒化アルミニウム層36を介して、回路層12及び金属層13となるアルミニウム板22,23を接合する。ここで、接合手段としては、ろう材を用いた接合、固相拡散接合、過渡液相接合(TLP)等の既存の手段を適宜選択することができる。本実施形態では、
図6に示すように、Al-Si系ろう材26,27を用いて接合している。
【0046】
具体的には、セラミックス基板30とアルミニウム板22,23とを、Al-Si系のろう材26、27を介在させて積層し、積層方向に1kgf/cm2以上10kgf/cm2以下(0.098MPa以上0.980MPa以下)の範囲で加圧した状態で真空加熱炉に装入し、セラミックス基板30とアルミニウム板22,23とを接合し、回路層12及び金属層13を形成する。
このときの接合条件として、接合雰囲気は、アルゴンや窒素等の不活性雰囲気や、真空雰囲気等で行う。真空雰囲気の場合は、10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内とするとよい。加熱温度は580℃以上630℃以下の範囲内、上記加熱温度での保持時間は10分以上45分以下の範囲内に設定する。
【0047】
ここで、積層方向の加圧荷重の下限は3kgf/cm2以上とすることが好ましく、5kgf/cm2以上とすることがさらに好ましい。一方、積層方向の加圧荷重の上限は8kgf/cm2以下とすることが好ましく、7kgf/cm2以下とすることがさらに好ましい。
また、加熱温度の下限は、585℃以上とすることが好ましく、590℃以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度の上限は、625℃以下とすることが好ましく、620℃以下とすることがさらに好ましい。
さらに、加熱温度での保持時間の下限は、15分以上とすることが好ましく、20分以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は、40分以下とすることが好ましく、30分以下とすることがさらに好ましい。
【0048】
また、本実施形態では、上述のように、アルミニウム板22,23との接合面の80%以上に金属アルミニウム部38(窒化アルミニウム層36)が形成されているので、この金属アルミニウム部38とアルミニウム板22,23とを接合することになる。このため、比較的低温条件であっても、セラミックス基板30とアルミニウム板22,23とを強固に接合することができる。
【0049】
以上のような工程により、本実施形態である絶縁回路基板10が製造されることになる。
【0050】
(ヒートシンク接合工程S04)
次に、絶縁回路基板10の金属層13の他方の面側に、ヒートシンク51を接合する。
絶縁回路基板10とヒートシンク51とを、ろう材を介して積層し、積層方向に加圧するとともに真空炉内に装入してろう付けを行う。これにより、絶縁回路基板10の金属層13とヒートシンク51を接合する。このとき、ろう材としては、例えば、厚さ20~110μmのAl-Si系ろう材箔を用いることができ、ろう付け温度は、アルミニウム板接合工程S03におけるろう付け温度よりも低温に設定することが好ましい。
【0051】
(LED素子接合工程S05)
次に、絶縁回路基板10の回路層12の一方の面に、LED素子3をはんだ付けにより接合する。
以上の工程により、
図1に示すLEDモジュール1が製出される。
【0052】
以上のような構成の絶縁回路基板10によれば、セラミックス基板30が、窒化ケイ素からなるセラミックス本体31と窒化アルミニウム層36とを有しており、セラミックス本体31のガラス相33のうち窒化アルミニウム層36との界面側部分にAlが存在していることから、窒化ケイ素からなるセラミックス本体31と窒化アルミニウム層36とが強固に結合している。また、セラミックス基板30の窒化アルミニウム層36と回路層12(アルミニウム板22)及び金属層13(アルミニウム板23)とが接合されているので、セラミックス基板30と回路層12及び金属層13との接合信頼性が高い。よって、接合信頼性に優れた絶縁回路基板10を提供することが可能となる。
【0053】
さらに、本実施形態においては、
図3に示すように、窒化アルミニウム層36が、セラミックス本体31側から順に、窒素濃度が50原子%以上80原子%以下とされ、厚さ方向に窒素の濃度傾斜を有する第1窒化アルミニウム層36aと、窒素濃度が30原子%以上50原子%未満とされ、窒素濃度が厚さ方向でほぼ一定である第2窒化アルミニウム層36bと、を有しているので、セラミックス本体31の窒化ケイ素が反応することで窒化アルミニウム層36が形成されていることになり、窒化ケイ素からなるセラミックス本体31と窒化アルミニウム層36とがさらに強固に結合していることになる。これにより、絶縁回路基板10に対して冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス基板30と回路層12及び金属層13との接合率が低下することを抑制できる。
【0054】
また、本実施形態においては、接合前のセラミックス基板30において、窒化アルミニウム層36のうちアルミニウム板22,23のとの接合面に金属アルミニウム部38が形成されており、この金属アルミニウム部38の前記接合面における面積率が80%以上とされているので、アルミニウム板22,23と金属アルミニウム部38とがアルミニウム同士の接合となり、接合温度を比較的低く設定しても、アルミニウム板22,23とセラミックス基板30とを強固に接合することができる。
【0055】
さらに、本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法によれば、窒化ケイ素からなるセラミックス本体31の表面に、厚さ20μm以下のアルミニウム層41を形成するアルミニウム層形成工程S01と、アルミニウム層41が形成されたセラミックス本体31を、アルミニウム層41を構成するアルミニウム又はアルミニウム合金の固相線温度以上の温度まで加熱し、窒化アルミニウム層36を形成する窒化アルミニウム層形成工程S02と、を備えているので、この窒化アルミニウム層形成工程S02において、セラミックス本体31のガラス相33にAlが侵入するとともに、窒化ケイ素相32のSi3N4が分解して生じた窒素(N)とアルミニウム層41のアルミニウム(Al)とが反応することで、窒化アルミニウム層36を形成することができる。
そして、窒化アルミニウム層36(金属アルミニウム部38)を介してアルミニウム板22,23を接合するアルミニウム板接合工程S03を備えているので、セラミックス基板30とアルミニウム板22,23とを容易に接合することができる。
【0056】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、
図7から
図10を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同一の部材には、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
本実施形態に係るセラミックス/アルミニウム接合体は、セラミックス部材であるセラミックス基板130と、アルミニウム部材であるアルミニウム板122(回路層112)とが接合されることにより構成された絶縁回路基板110とされている。
【0057】
図7に、本発明の第2の実施形態である絶縁回路基板110及びこの絶縁回路基板110を用いたLEDモジュール101を示す。
このLEDモジュール101は、絶縁回路基板110と、この絶縁回路基板110の一方側(
図7において上側)の面に接合層2を介して接合されたLED素子3と、を備えている。
【0058】
本実施形態に係る絶縁回路基板110は、
図7に示すように、セラミックス基板130と、このセラミックス基板130の一方の面(
図7において上面)に配設された回路層112と、を備えている。
【0059】
セラミックス基板130は、絶縁性の高いSi
3N
4(窒化珪素)で構成されており、その厚さが0.2~1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
ここで、本実施形態におけるセラミックス基板130は、
図8に示すように、窒化ケイ素からなるセラミックス本体131と、このセラミックス本体131のうち回路層112との接合面に形成された酸化アルミニウム層136と、を有している。
【0060】
回路層112は、
図10に示すように、セラミックス基板130の一方の面(
図10において上面)にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板122(アルミニウム部材)が接合されることで形成されている。回路層112を構成するアルミニウム板122(アルミニウム部材)としては、例えば、純度が99質量%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)や純度99.9質量%以上のアルミニウムや純度が99.99質量%以上のアルミニウム等の圧延板が用いることが好ましく、本実施形態では、純度が99質量%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)を用いている。なお、回路層112の厚さは、例えば0.05mm以上0.8mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.1mmに設定されている。
【0061】
ここで、セラミックス基板130と回路層112との接合界面の拡大説明図を
図8に示す。
セラミックス基板130は、上述のように、窒化ケイ素からなるセラミックス本体131と、このセラミックス本体131のうち回路層112との接合面に形成された酸化アルミニウム層136と、を有しており、この酸化アルミニウム層136と回路層112とが接合された構造とされている。
ここで、酸化アルミニウム層136の厚さは4nm以上100nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0062】
そして、セラミックス本体131は、
図8に示すように、窒化ケイ素相132とガラス相133とを備えており、このガラス相133の内部にAlが存在している。ガラス相133は、窒化ケイ素の原料を焼結する際に用いられる焼結助剤によって形成されるものであり、
図8に示すように、窒化ケイ素相132同士の粒界部分に存在する。
【0063】
ここで、本実施形態においては、接合界面を分析した際に、Al,Si,O,Nの合計値を100原子%とした際に、Siが15原子%未満、且つ、Oが3原子%以上25原子%以下の範囲内の領域をガラス相133とした。
このガラス相133中に存在するAl量は、Al,Si,O,Nの合計値を100原子%とした際に、35原子%以上65原子%以下の範囲内であることが好ましい。
【0064】
次に、上述した本実施形態である絶縁回路基板110の製造方法について、
図9及び
図10を参照して説明する。
【0065】
(アルミニウム層形成工程S101)
窒化ケイ素からなる板材(セラミックス本体131)を準備し、このセラミックス本体131の表面に厚さ20μm以下のアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層141を形成する。本実施形態では、アルミニウム層141は、純度99質量%以上の純アルミニウムで構成されたものとした。
【0066】
(窒化アルミニウム層形成工程S102)
次に、アルミニウム層141が形成されたセラミックス本体131を、アルミニウム層141を構成するアルミニウム又はアルミニウム合金の固相線温度以上の温度で熱処理を行い、窒化アルミニウム層136aを形成する。
ここで、熱処理を行う際には、溶融したアルミニウムが球状になることを抑制するために、アルミニウム層141の表面をカーボン板等で押さえておくことが好ましい。また、熱処理温度の上限は、蒸発等を抑制するために、750℃以下とすることが好ましい。
なお、アルミニウム層141の全てが窒化アルミニウム層136aになる必要はなく、一部のアルミニウム層141が金属アルミニウム部として存在していてもよい。
【0067】
(酸化処理工程S103)
次に、窒化アルミニウム層136aが形成されたセラミックス本体131を雰囲気炉に装入して酸化処理を行い、酸化アルミニウム層136を形成する。このとき、上述の金属アルミニウム部も酸化され、酸化アルミニウム層136の一部となる。
酸化処理工程S103においては、露点-20℃以下の乾燥空気雰囲気中で、処理温度:1100℃以上1300℃以下の範囲内、上述の処理温度での保持時間:1分以上30分以下の範囲内の条件で、窒化アルミニウム層136aの酸化処理を実施している。
【0068】
ここで、雰囲気の露点は、-30℃以下とすることが好ましく、-40℃以下とすることがさらに好ましい。
また、酸化処理工程S103における処理温度の下限は、1130℃以上とすることが好ましく、1180℃以上とすることがさらに好ましい。一方、酸化処理工程S103における処理温度の上限は、1250℃以下とすることが好ましく、1200℃以下とすることがさらに好ましい。
さらに、酸化処理工程S103における処理温度での保持時間の下限は、3分以上とすることが好ましく、5分以上とすることがさらに好ましい。一方、処理温度での保持時間の上限は、20分以下とすることが好ましく、10分以下とすることがさらに好ましい。
なお、この酸化処理工程S103において、窒化アルミニウム層136aは、ほぼ全て酸化アルミニウム層136になる。
【0069】
(アルミニウム板接合工程S104)
次に、セラミックス基板130の酸化アルミニウム層136を介して、回路層112となるアルミニウム板122を接合する。ここで、接合手段としては、ろう材を用いた接合、固相拡散接合、過渡液相接合(TLP)等の既存の手段を適宜選択することができる。本実施形態では、
図10に示すように、Al-Si系ろう材126を用いて接合している。
【0070】
具体的には、セラミックス基板130とアルミニウム板122とを、Al-Si系のろう材126を介在させて積層し、積層方向に1kgf/cm2以上10kgf/cm2以下(0.098MPa以上0.980MPa以下)の範囲で加圧した状態で真空加熱炉に装入し、セラミックス基板130とアルミニウム板122とを接合し、回路層112を形成する。
このときの接合条件は、真空条件は10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内、加熱温度は580℃以上630℃以下の範囲内、上記加熱温度での保持時間は10分以上45分以下の範囲内に設定する。
【0071】
以上のような工程により、本実施形態である絶縁回路基板110が製造されることになる。
【0072】
(LED素子接合工程S105)
次に、絶縁回路基板110の回路層112の一方の面に、LED素子3をはんだ付けにより接合する。
以上の工程により、
図7に示すLEDモジュール101が製出される。
【0073】
以上のような構成の絶縁回路基板110、およびLEDモジュール101によれば、セラミックス基板130が、窒化ケイ素からなるセラミックス本体131と酸化アルミニウム層136とを有しており、セラミックス本体131と酸化アルミニウム層136との界面において、セラミックス本体131のガラス相133にAlが存在していることから、窒化ケイ素からなるセラミックス本体131と酸化アルミニウム層136とが強固に結合している。また、セラミックス基板130の酸化アルミニウム層136と回路層112(アルミニウム板122)とが接合されているので、セラミックス基板130と回路層112との接合信頼性が高い。よって、接合信頼性に優れた絶縁回路基板110を提供することが可能となる。
【0074】
さらに、本実施形態である絶縁回路基板110の製造方法によれば、窒化ケイ素からなるセラミックス本体131の表面に、厚さ20μm以下のアルミニウム層141を形成するアルミニウム層形成工程S101と、アルミニウム層141が形成されたセラミックス本体131を、アルミニウム層141を構成するアルミニウム又はアルミニウム合金の固相線温度以上の温度まで加熱し、窒化アルミニウム層136aを形成する窒化アルミニウム層形成工程S102と、窒化アルミニウム層136aが形成されたセラミックス本体131に対して酸化処理を行い、酸化アルミニウム層136を形成する酸化処理工程S103と、を備えているので、窒化アルミニウム層形成工程S102において、セラミックス本体131のガラス相133にAlが侵入するとともに、窒化ケイ素相132の窒素(N)とアルミニウム層141のアルミニウム(Al)とが反応することで、窒化アルミニウム層136aが形成され、酸化処理工程S103によって酸化アルミニウム層136を形成することができる。
そして、酸化アルミニウム層136を介してアルミニウム板122を接合するアルミニウム板接合工程S104を備えているので、セラミックス基板130とアルミニウム板122とを容易に接合することができる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0076】
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0077】
また、本実施形態では、セラミックス基板とアルミニウム板とをろう材を用いて接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、固相拡散接合によって接合してもよい。さらに、接合面にCu、Si等の添加元素を固着させ、これらの添加元素を拡散させることで溶融・凝固させる過渡液相接合法(TLP)によって接合してもよい。また、接合界面を半溶融状態として接合してもよい。
【0078】
さらに、セラミックス本体に形成するアルミニウム層として純度99質量%以上のアルミニウムで構成されたものを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、他のアルミニウム又はアルミニウム合金であってもよい。ここで、アルミニウム層としてMgを含むアルミニウム合金を用いた場合には、窒化アルミニウム層及び酸化アルミニウム層にMgが存在することになる。なお、Mgは活性元素であるため、窒化ケイ素とアルミニウム層との反応が促進され、窒化アルミニウム層(及びこれを酸化処理されて得られた酸化アルミニウム層)が十分な厚さで形成され、セラミックス本体と窒化アルミニウム層(酸化アルミニウム層)とがさらに強固に接合されることになる。
【実施例】
【0079】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0080】
(実施例1)
窒化ケイ素から成るセラミックス板(40mm×40mm×0.32mmt)を準備し、上述した実施形態に記載された方法で、表1に示す条件で窒化アルミニウム層を、表2に示す条件で酸化アルミニウム層を形成した。なお、従来例では、窒化アルミニウム層及び酸化アルミニウム層を形成しなかった。
そして、得られたセラミックス基板に対して、アルミニウム板を表3,4に示す方法で接合し、アルミニウム/セラミックス接合体(絶縁回路基板)を製造した。
【0081】
なお、表3,4において「ろう付け」は、Al-Si系ろう材(Si:5mass%、厚さ7μm)を用いて接合した。
表3,4において「固相拡散」は、アルミニウム板とセラミックス基板を固相拡散接合によって接合した。
表3,4において「TLP」は、アルミニウム板の接合面にCuを0.2mg/cm2となるように固着し、過渡液相接合法(TLP)によって接合した。
なお、表3,4のアルミニウム板接合工程の雰囲気は2.0×10-4Paの真空雰囲気とした。
【0082】
上述のようにして得られたアルミニウム/セラミックス接合体(絶縁回路基板)について、以下のように評価した。
【0083】
(窒化アルミニウム層、酸化アルミニウム層、ガラス相中のAlの有無の確認)
本発明例1~9においては窒化アルミニウム層形成工程S02後に、本発明例11~18においては酸化処理工程S103後に、セラミックス基板の断面を透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM、加速電圧200kV)を用いて観察し、窒化アルミニウム層の有無、酸化アルミニウム層の有無、ガラス相中のAlの有無を確認した。なお、従来例においては、アルミニウム板を接合する前のセラミックス基板を観察した。
なお、ガラス相は、Al,Si,O,Nの合計値を100原子%とした際に、Siが15原子%未満、且つ、Oが3原子%以上25原子%以下の範囲内の領域とした。評価結果を表1及び表2に示す。また、本発明例1の観察結果を
図11に示す。
【0084】
(窒化アルミニウム層の面積率)
窒化アルミニウム層の面積率は、窒化アルミニウム層を形成後(窒化アルミニウム層形成工程S02)に、セラミックス本体を上面からEPMA(日本電子株式会社製JXA-8539F)を用いて観察する。ここで、金属アルミニウム部とセラミックス本体の間には窒化アルミニウム層が存在していることから、金属アルミニウム部の面積と窒化アルミニウム層の面積は同じであると見做し、(金属アルミニウム部の面積/アルミニウム層の面積×100)を窒化アルミニウム層の面積率(%)とした。
【0085】
(冷熱サイクル試験)
冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製TSA-72ES)を使用し、絶縁回路基板に対して、気相で、-40℃×5分←→175℃×5分の800サイクルを実施した。
この後、セラミックス基板とアルミニウム板との接合率を以下のようにして評価した。
なお、接合率の評価は、冷熱サイクル試験前(初期接合率)と冷熱サイクル試験後(サイクル後接合率)に行った。
【0086】
接合率の評価は、絶縁回路基板に対し、セラミックス基板とアルミニウム板(回路層及び金属層)との界面の接合率について超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて評価し、以下の式から接合率を算出した。
ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち本実施例では回路層及び金属層の面積(37mm×37mm)とした。
(接合率)={(初期接合面積)-(剥離面積)}/(初期接合面積)
超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。これらの結果を表3,4に記載した。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
窒化ケイ素から成るセラミックス板のアルミニウム板との接合面に窒化アルミニウム層又は酸化アルミニウム層を形成しなかった従来例においては、冷熱サイクル後に接合率が大きく低下した。
これに対して、アルミニウム板との接合面に窒化アルミニウム層を形成し、セラミックス板のガラス相にAlが存在する本発明例1-9、及び、アルミニウム板との接合面に酸化アルミニウム層を形成し、セラミックス板のガラス相にAlが存在する本発明例11-19においては、冷熱サイクル前後での接合率の変化が小さかった。
【0092】
また、本発明例1~9、11~19に示すように、アルミニウム板の接合方式によらず、ろう付け、固相拡散接合、TLPのいずれの接合方式においても、接合体の冷熱サイクル後の接合信頼性が向上することが確認された。
さらに、本発明例1~9、11~19に示すように、アルミニウム層及びアルミニウム板の組成によらず、純アルミニウム及び各種アルミニウム合金であっても、接合体の冷熱サイクル後の接合信頼性が向上することが確認された。
また、表1及び表3に示すように、窒化アルミニウム層の面積率が高くなるに従い、冷熱サイクル負荷時の接合信頼性が向上することが確認された。
【0093】
(実施例2)
次に、窒化ケイ素から成るセラミックス板(40mm×40mm×0.32mmt)を準備し、上述した実施形態に記載された方法で、表5に示す条件で窒化アルミニウム層を形成した。
なお、比較例では、セラミックス板の表面に、スパッタによって窒化アルミニウム層を成膜した。
そして、得られたセラミックス基板に対して、純度99.99質量%以上(4N)のアルミニウム板(厚さ20μm)を、Al-Si系ろう材(Si:5mass%、厚さ7μm)を用いて、接合温度620℃、保持時間30min、加圧圧力0.098MPaの条件で接合し、アルミニウム/セラミックス接合体(絶縁回路基板)を製造した。
【0094】
上述のようにして得られたアルミニウム/セラミックス接合体(絶縁回路基板)について、実施例1と同様に、窒化アルミニウム層、ガラス相中のAlの有無、窒化アルミニウム層の面積率、冷熱サイクル負荷前後の接合率を評価した。評価結果を表5に示す。
【0095】
【0096】
窒化ケイ素から成るセラミックス板の表面にスパッタリングによって窒化アルミニウム層を成膜した比較例においては、窒素濃度が50原子%以上80原子%以下とされ、厚さ方向に窒素の濃度傾斜を有する第1窒化アルミニウム層が形成されていなかった。また、セラミックス本体のガラス相にはAlが確認されなかった。そして、冷熱サイクル負荷後の接合率が大きく低下した。
【0097】
これに対して、窒化アルミニウム層が、窒素濃度が50原子%以上80原子%以下とされ、厚さ方向に窒素の濃度傾斜を有する第1窒化アルミニウム層と、窒素濃度が30原子%以上50原子%未満とされた第2窒化アルミニウム層と、を有している本発明例21-24においては、冷熱サイクル前後での接合率の変化が小さかった。
【0098】
以上のことから、本発明例によれば、窒化ケイ素(Si3N4)からなるセラミックス部材の接合面に、窒化アルミニウム層又は酸化アルミニウム層を形成することにより、アルミニウム部材が溶融することなく、セラミックス部材とアルミニウム部材とを信頼性高く接合されたセラミックス/アルミニウム接合体を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0099】
1、101 LEDモジュール
10、110 絶縁回路基板(セラミックス/アルミニウム接合体)
12、112 回路層(アルミニウム板,アルミニウム部材)
13 金属層(アルミニウム板,アルミニウム部材)
30、130 セラミックス基板(セラミックス部材)
31、131 セラミックス本体
32、132 窒化ケイ素相
33、133 ガラス相
36 窒化アルミニウム層
36A 第1窒化アルミニウム層
36B 第2窒化アルミニウム層
38 金属アルミニウム部
136 酸化アルミニウム層